(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162776
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】耐油性スチレン系樹脂シート、包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20221018BHJP
C08J 7/054 20200101ALI20221018BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20221018BHJP
B05D 7/04 20060101ALI20221018BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20221018BHJP
B65D 65/02 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
B32B27/30 B
C08J7/054 CET
B05D5/00 K
B05D7/04
B32B27/18 C
B65D65/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067766
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】駒場 澄香
(72)【発明者】
【氏名】山根 拓也
【テーマコード(参考)】
3E086
4D075
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086BA02
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3E086DA06
4D075AA54
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4F100AH02B
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4F100GB15
4F100JB01
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】防曇性と耐熱油性とを兼備し、更に製造工程の端材を原材料として再利用する際にゲル異物の発生し難いスチレン系樹脂シートを提供する。
【解決手段】
少なくとも一方の面に被覆層を有するスチレン系樹脂シートであって、前記被覆層は、スルホ基含有高分子(A)と防曇剤(B)とを含み、前記スルホ基含有高分子(A)および前記防曇剤(B)の固形分の合計を100質量%とする場合、前記スルホ基含有高分子(A)が50質量%以上95質量%以下、前記防曇剤(B)が5質量%以上50質量%であることを特徴とする耐油性スチレン系樹脂シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面に被覆層を有するスチレン系樹脂シートであって、
前記被覆層は、スルホ基含有高分子(A)と防曇剤(B)とを含み、
前記スルホ基含有高分子(A)および前記防曇剤(B)の固形分の合計を100質量%とする場合、前記スルホ基含有高分子(A)が50質量%以上95質量%以下、前記防曇剤(B)が5質量%以上50質量%であることを特徴とする耐油性スチレン系樹脂シート。
【請求項2】
前記スルホ基含有高分子(A)のスルホ基含有率が0.1モル%以上40モル%以下である請求項1に記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
【請求項3】
前記スルホ基含有高分子(A)が、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリルエステル、ポリ(メタ)アクリル酸(塩)の群から選ばれる1種以上である請求項1または2に記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
【請求項4】
前記被覆層の厚みが30~300nmである請求項1~3の何れか1項に記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
【請求項5】
前記防曇剤(B)が、ショ糖脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルである請求項1~4の何れか1項に記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
【請求項6】
二軸延伸シートである請求項1~5の何れか1項に記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の耐油性スチレン系樹脂シートを用いてなる包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油性スチレン系樹脂シート、および該シートを用いてなる包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系二軸延伸シートは、透明で光沢のある美観性、成形性、機械的強度等の点から包装容器用に広く利用され、弁当、寿司、総菜等に代表される、水分を含む食品容器の嵌合蓋用に用いる場合には、収容物側に向くシート面に防曇コート層を設ける技術が普及している。
また、製造コストを低減すると共に石油資源の消費を抑制するために、ポリスチレン系二軸延伸シートの製造工程で生じる、トリミングロス等の端材は粉砕し、新しいポリスチレン系樹脂ペレット(バージンペレット)と混合してポリスチレン系二軸延伸シートの原材料として再利用(リターン)する必要がある。その際には、ポリスチレン系二軸延伸シートに設けた防曇コート層等を除去する工程を有しないことが、生産効率、経済効率の向上のための要件となっている。
【0003】
また、食品加工、流通産業の発達や食文化の変遷により、近年では、弁当、グラタン、パスタ、揚げ物などの油分を含む冷蔵、冷凍食品を、包装容器ごと電子レンジで加熱する市場要求が強まり、ポリスチレン系二軸延伸シートに対し、耐熱油性の付与も求められている。特に、各種油の中でも、多くの食品に含まれ、ポリスチレン系二軸延伸シートを浸食しやすい、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)に対して加熱下での耐性が必要となっている。
【0004】
ポリスチレン系樹脂シートへの耐油性付与については、例えば、以下の文献が挙げられる。
特許文献1では、ポリスチレン系樹脂の特徴である透明性、光沢を維持しながら優れた耐油性を有し、水/油共存化においても優れた耐油性能を発揮し、成形加工後も優れた耐油性を維持可能なポリスチレン系樹脂フィルムとして、最低造膜温度(MFT)が、0~{(Vsp)-10}℃(Vspはポリスチレン系樹脂フィルムのビカット軟化点)である熱可塑性樹脂エマルジョンの塗膜を形成する技術が開示されている。また、当該熱可塑性エマルジョンの樹脂には、ポリエチレンエマルジョン、アクリル酸エステルエマルジョン 、ポリエステルエマルジョン、塩化ビニリデンラテックス、アイオノマーディスパージョン、エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン、エチレン-メタクリル酸共重合体エマルジョン、スチレン-アクリル酸エステル共重合体エマルジョン、スチレン-アクリル酸エマルジョン、アクリル酸エステル-ウレタン コア-シェル構造粒子が、実施例に例示されている。
【0005】
特許文献2では、成形性やシート強度を損なうことなく耐熱性と耐油性を併せ持ち、電子レンジで加熱する食品の包装容器として好適なポリスチレン系樹脂シートとして、シートの片方の面に、重合度1500以上、ケン化度85モル%以上のポリビニルアルコールの塗膜を形成し、該ポリスチレン系樹脂がメタクリル酸または無水マレイン酸のいずれか一成分を5~20質量%含み、重量平均分子量が15~40万であることの技術を開示している。
【0006】
特許文献3では、防曇性を損なわずに耐熱耐油性を向上させたスチレン系樹脂シートとして、スチレン系樹脂シート(A)の少なくとも片面に糖由来の脂肪酸エステル(b)を含むアクリル系親水性コート剤(B)を用いて形成された被覆層を有すること、特に、糖由来の脂肪酸エステル(b)と前記アクリル系親水性コート剤(B)のアクリル系樹脂(固形分)との合計質量に対し、前記脂肪酸エステル(b)が20~60質量%の範囲で含まれるものが好ましいという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-277428号公報
【特許文献2】特開2015-113443号公報
【特許文献3】特開2016-98253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術では、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)に対して70℃までの技術知見であり、更なる耐熱油性が課題であった。また、これらの熱可塑性樹脂エマルジョンの塗膜について検討したところ、防曇性が不十分であり、これらのエマルジョンに防曇剤を添加した塗膜では耐油性が低下することが判明した。
【0009】
また、特許文献2の技術について、ケン化度85モル%以上のポリビニルアルコールの塗膜を形成して検討したところ、ケン化度が高いほど防曇性は不十分となり、且つ、得られたポリスチレン系樹脂シートを再利用(リターン)する際にはゲルが多発し、防曇性、リターン性、耐油性とを兼備することができないことが判明した。
【0010】
また、特許文献3の技術について、アクリル系親水コート剤を検討したところ、塗布量200mg/m2では耐油性が不十分であることが判明し、また、実施例の塗布量300mg/m2以上では塗布量が多くスチレン系樹脂シートのインラインコートでは生産性に支障がある。
【0011】
上記実情を鑑み、本発明は、防曇性と耐熱油性とを兼備し、更に製造工程の端材を原材料として再利用する際にゲル異物の発生し難いスチレン系樹脂シートを提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記課題について鋭意検討し、以下の発明を完成させた。
[1]少なくとも一方の面に被覆層を有するスチレン系樹脂シートであって、前記被覆層は、スルホ基含有高分子(A)と防曇剤(B)とを含み、前記スルホ基含有高分子(A)および前記防曇剤(B)の固形分の合計を100質量%とする場合、前記スルホ基含有高分子(A)が50質量%以上95質量%以下、前記防曇剤(B)が5質量%以上50質量%であることを特徴とする耐油性スチレン系樹脂シート。
【0013】
[2]前記スルホ基含有高分子(A)のスルホ基含有率が0.1モル%以上40モル%以下である[1]に記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
【0014】
[3]前記スルホ基含有高分子(A)が、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリルエステル、ポリ(メタ)アクリル酸(塩)の群から選ばれる1種以上である[1]または[2]に記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
【0015】
[4]前記被覆層の厚みが30~300nmである[1]~[3]の何れか1項に記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
【0016】
[5]前記防曇剤(B)が、ショ糖脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルである[1]~[4]の何れか1項に記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
【0017】
[6]二軸延伸シートである[1]~[5]の何れか1項に記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
【0018】
[7][1]~[6]の何れか1項に記載の耐油性スチレン系樹脂シートを用いてなる包装体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、防曇性と耐熱油性とを兼備したスチレン系樹脂シートが得られるので、該シートは、弁当、グラタン、パスタ、揚げ物などの油分を含む冷蔵、冷凍食品を、包装容器ごと電子レンジで加熱する用途に好適に用いることができる。
また、スチレン系樹脂シートの製造工程の端材を原材料として再利用する際にゲル異物が発生し難いので、防曇、耐油性の被覆層を除去する工程を有することなく、被覆層を形成したスチレン系樹脂シートの構成のまま再利用(リターン)することができ、生産効率および経済効率が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の範囲は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
<耐油性スチレン系樹脂シート>
本発明の耐油性スチレン系樹脂シート(以下、「本発明のシート」と称することがある)は、基材シートとしてスチレン系樹脂シートを用い、当該基材シートの少なくとも片面に耐油性機能を有する被覆層を有する。
なお、断り書きを設けない限り「△~△△」の表記は、「△以上△△以下」を意味し、好ましくは「△超△未満」を意味する。
【0021】
(スチレン系樹脂シート(基材シート))
本発明のシートを構成する基材シートに用いるスチレン系樹脂は、スチレン系モノマーを用いた重合体、スチレン系モノマーとそれらと共重合可能な他のモノマーとの共重合体を挙げることができる。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-エチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン等のアルキル置換スチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-4-メチルスチレン等のα-アルキル置換スチレン、2-クロロスチレン、4-クロロスチレン等のハロゲン化スチレン等を挙げることができる。これらスチレン系モノマーは、1種を単独で用いても良いし、2種以上を共重合させて用いてもよい。耐熱性向上の観点では、スチレンとαメチルスチレンとの共重合体が好ましい。
【0022】
スチレン系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリルや、ブタジエン、イソプレン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等の共役ジエン系炭化水素、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィン等を挙げることができる。耐熱性向上の観点では、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、アクリロニトリルを用いることが好ましく、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルを用いることがより好ましく、(メタ)アクリル酸を用いることが特に好ましい。
【0023】
スチレン系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが150,000以上2,000,000以下が好ましく、150,000以上1,800,000以下がより好ましい。係る範囲であると、溶融粘度特性から押出成形性が良好となる。また、150,000以上であると、シートの機械的強度が十分となり、2,000,000以下であるとシートの弾性率が好適となり低温成形性が向上する。
スチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、1.5g/10分以上5.0g/10分以下が好ましく、2.0g/10分以上4.0g/10分以下がより好ましい。
スチレン系樹脂は、耐熱性、成形性の点から、ガラス転移温度80℃以上140℃以下が好ましく、上限は130℃以下がより好ましい。ガラス転移温度は、JIS K7121:2012に基づき、示差走査熱量測定により、10℃/分で再昇温した際の値から求める。
【0024】
・耐衝撃性ポリスチレン系樹脂
本発明のシートを構成する基材シートは、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂を含有することができる。耐衝撃性ポリスチレン系樹脂の含有により、基材シートの耐ブロッキング性と耐衝撃性が向上する。耐衝撃性ポリスチレン樹脂の含有率は、基材シートを100.0質量%とした場合、0.1質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上4.0質量%以下がより好ましい。
耐衝撃性ポリスチレン系樹脂としては、ゴム等の成分が含まれるポリスチレン系樹脂であれば良く、スチレンの単独重合体中にゴム成分が含まれているもの等を好適に用いることができる。ゴム成分としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン-イソプレン共重合体などが挙げられる。ゴム成分は、マトリックス樹脂となるポリスチレン中に、独立してゴム成分が粒子状になって分散していているもの、あるいは、ポリスチレンにグラフト重合して粒子状に分散しているものであってもよい。
【0025】
耐衝撃性ポリスチレン系樹脂のゴム成分の含有率は、耐衝撃性と延伸成形性とを両立する観点から、耐衝撃性ポリススチレン系樹脂を100.0質量%とする場合、1.0質量%以上15.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上15.0質量%以下がより好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下が更に好ましい。
ゴム成分の含有率は、一塩化ヨウ素、ヨウ化カリウムおよびチオ硫酸ナトリウム標準液を用いた電位差滴定でジエン含有量を測定し、ジエン含有量をゴム状重合体の含有量として計算される。測定方法は、例えば、日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、「新版 高分子分析ハンドブック」、紀伊國屋書店(1995年度版)、P.659(3)ゴム含量に記載されている。
耐衝撃性ポリスチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、1.5g/10分以上5.0g/10分以下が好ましく、2.0g/10分以上4.0g/10分以下がより好ましい。
【0026】
・他の成分
本発明のシートを構成する基材シートは、本発明の効果を損ねない範囲で、上記した樹脂以外の他の樹脂や添加剤等の他の成分を含有することができる。
他の樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0027】
添加剤としては、加工助剤、溶融粘度改良剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候性安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、核剤、架橋剤、滑材、アンチブロッキング剤、鉱油、スリップ剤、防曇剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤および顔料などが挙げられる。
アンチブロッキング剤としては、無機粒子、有機粒子が挙げられる。無機粒子としては、例えばシリカ、ガラスビーズ等、及びそれらの表面に化学的処理を施したもの等が挙げられる。有機粒子としては、例えばポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル等、及びそれらに熱処理、化学処理を施したもの等が挙げられる。中でも、化学的に安定であり、触媒作用によって樹脂を変性させないこと、後述のシート表面への離型剤シリコーンオイルの塗布性の点から、酸化珪素を主体成分とする球状シリカが好ましい。
アンチブロッキング剤の基材シート中の含有率は50~500ppmが好ましい。平均粒子径は1~20μmが好ましい。
【0028】
(被覆層)
本発明のシートは、基材シートであるスチレン系樹脂シートの少なくとも一方の面に被覆層を有し、被覆層は、スルホ基含有高分子(A)と防曇剤(B)剤とを含む。
・スルホ基含有高分子(A)
本発明のシートは、被覆層にスルホ基含有高分子(A)(以下、高分子(A)と称することがある)を含む。
スチレン系樹脂シート表面への被覆層は、生産環境、経済性の観点で、水性のコート剤を塗布、乾燥して形成させることが望ましいことから、スルホ基含有高分子(A)は親水性であることが好ましい。親水性とは、水溶性、水分散性の双方を含む意味であり、例えば、スルホ基(スルホン酸基)、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、リン酸基、等の親水基を有する高分子であるとよい。また、親水性高分子は、撥油性、耐油性を有することからも好ましい。
【0029】
しかしながら、従来においても、スチレン系樹脂シートへの耐油性付与の目的で、ポリビニルアルコールやアクリル等の親水性高分子の塗膜を形成する技術はあったものの(特許文献1~3)、それら技術では、耐油性と防曇性とを両立することはできず、また、塗膜を形成したシート構成のまま再利用(リターン)するとゲル異物が多発する問題があった。その点について、本発明者らは鋭意検討し、水酸基やカルボキシル基のみを有する親水性高分子では、耐油性、防曇性を兼備できないこと、再生ペレットの製造工程で水素結合や脱水縮合が起きてゲルが発生する、ということを究明し、水酸基やカルボキシル基よりも極性の高いスルホ基(スルホン酸基)を有する親水性高分子を用いることで、高温条件下においても食品等に含まれる油がスチレン系樹脂シートへ浸透することを抑制する優れた耐油性を付与でき、防曇剤を添加しても耐油性を低下させることなく耐油性と防曇性を両立し、リターン性も良好なスチレン系樹脂シートを得られることを見出した。
【0030】
スルホ基含有高分子(A)は、分子中にスルホ基を有すればよく、例えば、スルホン酸変性等により得ることができ、スルホ基含有ポリビニルアルコール、スルホ基含有ポリエステル、スルホ基含有ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スルホ基含有ポリ(メタ)アクリル酸(塩)等が挙げられ、耐油性の点でスルホ基含有ポリビニルアルコール、スルホ基含有ポリエステルが好ましい。
また、スルホ基含有高分子(A)は、スルホ基の他に、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、リン酸基等の親水基を有してよい。例えば、後述のスルホ基含有ポリビニルアルコールは水酸基を有しており、スルホ基含有ポリエステルはカルボキシル基を有する場合がある。
【0031】
スルホ基含有高分子(A)のスルホ基含有率は、0.1モル%以上40モル%以下が好ましく、1モル%以上30モル%以下がより好ましい。かかる含有率が0.1モル%以上により耐油性が良好となり、40モル%以下により高分子(A)の柔軟性および塗工性が良好となる。
スルホ基含有率は、1H-NMR(溶媒:DMSO-d6)を用いて分析できる。
【0032】
・スルホ基含有ポリビニルアルコール
スルホ基含有ポリビニルアルコールは、任意の方法で製造でき、例えば、次の(a)~(e)の方法を挙げることができ、中でも、(a)、(b)の方法が好ましい。
(a)エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩と酢酸ビニル等のビニルエステルとをアルコールあるいはアルコール/水混合溶媒中で重合し得られる重合体を更にケン化する方法。
(b)ナトリウムスルホプロピル2-エチルヘキシルマレート、ナトリウムスルホプロピルトリデシルマレート、ナトリウムスルホプロピルエイコシルマレート等のスルホアルキルマレートと酢酸ビニル等のビニルエステルとを共重合させ、得られる共重合体を更にケン化する方法。
(c)例えばN-スルホイソブチレンアクリルアミドナトリウム塩等のスルホアルキル(メタ)アクリルアミドと酢酸ビニル等のビニルエステルとを共重合させ、得られる共重合体をケン化する方法。更に、例えばナトリウム2-スルホエチルアクリレート等のスルホアルキル(メタ)アクリレート、と酢酸ビニル等のビニルエステルとを共重合させ、得られる共重合体をケン化する方法。
(d)ポリビニルアルコールを臭素、ヨウ素等で処理した後、酸性亜硫酸ソーダ水溶液中で加熱する方法。
(e)ポリビニルアルコールを濃厚な硫酸水溶液中で加熱する方法。
(f)ポリビニルアルコールに対しスルホン酸基を含有するアルデヒド化合物でアセタール化する方法。
【0033】
なお、上記の共重合やケン化は公知の方法を用いることができる。
また、該共重合体には、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニル等の共重合モノマーを併用することができる。
また、スルホ基は遊離の酸の形であっても、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等であってもよい。
【0034】
本発明におけるスルホ基含有ポリビニルアルコールのスルホ基含有率とは、ポリビニルアルコールの全繰り返し単位に対する、スルホ基を含有するポリビニルアルコールの繰り返し単位の比率である。
スルホ基含有ポリビニルアルコールにおけるスルホ基含有率は、0.1モル%以上20モル%以下が好ましく、1モル%以上10モル%以下がより好ましい。かかる含有率が0.1モル%以上により耐油性が良好となり、20モル%以下により高分子(A)の柔軟性が良好となる。
【0035】
スルホ基含有ポリビニルアルコールのポリビニルアルコール部分のケン化度は、75モル%以上98モル%以下が好ましく、80モル%以上95モル%以下がより好ましい。75モル%以上で耐油性が良好になり、98モル%以下でリターン性が良好になる。
スルホ基含有ポリビニルアルコールの重合度は、50以上1500以下が好ましく、上限は1000以下がより好ましく、700以下が更に好ましく、500以下が特に好ましい。重合度50以上により被覆層の機械的強度が十分となり、1500以下によりリターン時のゲル発生が抑制されリターン性が良好となる。
【0036】
スルホ基含有ポリビニルアルコールは、本発明の効果を損なわない範囲内で、スルホン酸基以外の変性種、例えばカルボキシル基、オキシアルキレン基、カチオン性基等を含んでもよい。
また、スルホ基含有ポリビニルアルコールとスルホ基を含まないポリビニルアルコールとを混合して用いることもでき、その場合のスルホ基含有率は、両者を合計したポリビニルアルコールに対するスルホ基含有のポリビニルアルコール繰り返し単位の比率である。
【0037】
・スルホ基含有ポリエステル
スルホ基含有ポリエステルとしては、ポリエステルの原料であるジカルボン酸とジオールの何れか又は双方がスルホ基を含有し、該ジカルボン酸と該ジオールとを縮重合させたポリエステルである。
【0038】
ジカルボン酸としては特に限定されず、例えば、o-フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、オクチルコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、デカメチレンカルボン酸、これらの無水物及び低級アルキルエステル等が挙げられる。
【0039】
ジオールとしては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール)、1,2-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール類;2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール類等が挙げられる。
【0040】
スルホ基含有ジカルボン酸としては、例えば、5-スルホイソフタル酸、2-スルホイソフタル酸、4-スルホイソフタル酸、3-スルホフタル酸、5-スルホイソフタル酸ジアルキル、2-スルホイソフタル酸ジアルキル、4-スルホイソフタル酸ジアルキル、3-スルホイソフタル酸ジアルキル及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0041】
スルホ基含有ジオールとしては、例えば、1,3-ジヒドロキシブタンスルホン酸、1,4-ジヒドロキシブタンスルホン酸等が挙げられる。
【0042】
本発明におけるスルホ基含有ポリエステルのスルホ基含有率とは、ポリエステルの原料であるジカルボン酸とジオールの何れかがスルホ基を含有する場合は、ポリエステルの全繰り返し単位に対する、スルホ基を含有するポリエステル繰り返し単位の比率であり、ジカルボン酸とジオールの双方がスルホ基を含有する場合は、ポリエステルの全繰り返し単位に対する、スルホ基含有のポリエステル繰り返し単位の2倍の比率である。
スルホ基含有ポリエステルにおけるスルホ基含有率は、5~40モル%が好ましく、10~30モル%がより好ましい。かかる含有率が5モル%以上により耐油性および被覆層の強靭性が向上し、40モル%以下により被覆層を形成する際のスチレン系樹脂シートへの塗工性が良好となる。
【0043】
スルホ基含有ポリエステルの重量平均分子量は、1,000~100,000が好ましく、3,000~50,000以上がより好ましく、10,000~30,000がさらに好ましい。1,000以上により耐油性および成膜(被覆層の形成)性が良好となり、100,000以下により被覆層を形成する際のスチレン系樹脂シートへの塗工性が良好となる。重量平均分子量は、GPC法により分析することができる。
スルホ基含有ポリエステルの軟化温度は、80~200℃が好ましく、90~180℃がさらに好ましい。80℃以上により耐熱性が良好となり、200℃以下によりリターン性が良好になる。軟化温度は、JIS K7206:2016に準じて測定することができる。
【0044】
スルホ基含有ポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲内で、スルホン酸基以外の変性種、例えばカルボキシル基、オキシアルキレン基、カチオン性基等を含んでもよい。
また、スルホ基含有ポリエステルとスルホ基を含まないポリエステルとを混合して用いることもでき、その場合のスルホ基含有率は、両者を合計したポリエステルに対するスルホ基含有のポリエステル繰り返し単位の比率である。
【0045】
本発明のシートの被覆層は、本発明の効果を損なわない範囲で、スルホ基含有高分子(A)の他に、他の親水性高分子を含有することができる。例えば、機械物性向上の観点で、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリル酸(塩)等、及びそれらの混合物が挙げられ、被覆層の固形分を100質量%とする場合に、0~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましい。
【0046】
(防曇剤(B))
本発明のシートは、被覆層に防曇剤(B)を含む。
防曇剤(B)を含むことにより、食品等の水分を含む収容物用の包装体に用いた場合に、シートが曇り難く、収容物の視認性が良好となる。
防曇剤(B)としては、公知の防曇剤を用いることができ、例えば、多価アルコール型非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0047】
多価アルコール型非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、 ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪族アルコールエーテル等が挙げられ、これらは2種以上が併用して用いられていてもよい。
中でも、良好な防曇性を発現する点から、分子を構成する脂肪酸のうち70質量%以上が炭素数12~18の飽和及び/又は不飽和脂肪酸であり、且つ、モノエステルを20質量%以上含有するモノ-、ジ-、トリ-、及びポリ-エステルの混合体であるショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及び、分子を構成する脂肪酸のうち70質量%以上が炭素数12~18の飽和及び/又は不飽和脂肪酸であり、且つ、重縮合度が2~20、更には2~12で、モノエステルを20質量%以上含有するモノ-、ジ-、トリ-、及びポリ-エステルの混合体であるポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。中でも、防曇性の点で、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。飽和及び/又は不飽和脂肪酸の炭素数が12以上により、当該界面活性剤のスチレン系樹脂シートへの浸透が起き難く、クラックや白濁の発生を抑制でき、被覆層を形成したスチレン系樹脂シートを原材料として再利用する際の悪影響を防止できる。
さらには、高分子(A)との均一な分散性の観点から、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance、親水性-親油性バランス)値の下限は5以上好ましく、HLB値5以上により塗布液の塗工均等性が良好となり、塗布面全面において良好な耐油性を発現できる。高分子(A)のHLB値の上限は、最大値である20以下が好ましい。
【0048】
また、多価アルコール型非イオン界面活性剤と共に、他の非イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤を含有することもできる。他の非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等を挙げることができる。陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩やポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩やポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩等の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩やアルキルスルホコハク酸塩等のスルホン酸塩、アルキル燐酸エステル塩やポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩等の燐酸エステル塩等を挙げることができる。陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等、両性界面活性剤としては、アルキルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルスルホベタイン等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0049】
・被覆層の組成、厚み等
本発明のシートの被覆層は、スルホ基含有高分子(A)と防曇剤(B)の固形分の合計を100質量%とすると、スルホ基含有高分子(A)と防曇剤(B)との質量組成比は、(50~95):(5~50)であり、(60~92):(8~40)が好ましく、(70~92):(8~30)がより好ましく、(80~92):(8~20)が更に好ましい。
被覆層の組成比は、スルホ基含有高分子(A)が多く防曇剤(B)が少ないと、耐油性、塗布外観が向上し、スルホ基含有高分子(A)が少なく防曇剤(B)が多いと、防曇性、リターン性が向上する傾向にあり、上記の係る範囲において耐油性、防曇性、リターン性、塗布外観の何れもが良好となる。
【0050】
被覆層は、本発明の効果を損なわない範囲で、帯電防止剤、粘度調節剤、消泡剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、抗菌剤、及び顔料、染料等の着色剤等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0051】
被覆層の層厚は、30nm以上300nm以下が好ましく、下限は50nm以上がより好ましく、80nm以上が更に好ましい。上限は200nm以下がより好ましく、150nm以下が更に好ましく、100nm以下が特に好ましい。30nm以上により防曇性、耐油性が良好になり、300nm以下により塗布乾燥の生産効率が良いと共に、シート同士のブロッキングや転写、それらに伴うシートの白化等が生じ難く好ましい。
層厚は、単位面積当たりの樹脂シートについて被覆層を洗浄して洗液を集め、質量法、ガスクロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法等で測定することができる。また、層厚既知の樹脂シートを標準サンプルとして赤外線吸収分光分析(全反射法)により検量線を作成しておき、層厚未知の樹脂シートの測定値を対比する方法で簡便に層厚を得ることができる。
【0052】
<耐油性スチレン系樹脂シートの特徴>
本発明の耐油性スチレン系樹脂シートは、以下の特徴を有する。
(耐油性)
本発明のシートは耐油性を有し、特に、包装体の内容物である食品等に含まれ、且つスチレン系樹脂が浸食されやすい、中鎖脂肪酸(MCT)に対して良好な耐油性を有し、スチレン系樹脂シートが白化し難い。また、高温条件下においても良好な耐油性を有するので、食品を包装したまま加熱することが可能である。
【0053】
(防曇性)
本発明のシートは十分な防曇性を有するので、包装体の内容物が食品等の水分を有する物であっても内容物視認性が良く、包装体及び内容物の商品価値を損なわない。
【0054】
(透明性)
本発明のシートの被覆層は、スルホ基含有高分子(A)と防曇剤(B)との相溶性が良く、また層厚300nm以下で所望する耐油性及び防曇性が得られるので、透明性が高く、ひいては本発明のシートの透明性も良好となる。
【0055】
(リターン性)
本発明のシートは、シート製造工程で発生するシート耳のトリミングロス等を用いた端材を、新たに製造するシートの原材料の一部としてリターンし再利用することができるので、経済性が良く、また石油由来原材料の使用量低減にも寄与できる。特に、スチレン系樹脂シート(基材シート)の表面に形成した被覆層を除去しなくとも、再原材料として用いることのできることは、生産効率、経済性の点で価値が高い。
端材の再利用(リターン)は、公知の方法、手順を用いることができ、例えば、被覆層を設けた基材シートの端材を粉砕機を用いてフラフにし、フラフをストランドダイを備えた押出機に投入して溶融押出し、ダイスから出たストランドを急冷、乾燥させた後、造粒機を用いて再生ペレットを作製する。押出機の設定温度は、樹脂溶融と樹脂への熱負荷の観点から、160~260℃が好ましく、180~240℃がより好ましい。設定温度が160℃より低い場合は、押出機のモーターに負荷がかかるうえ、溶融押出が困難となる。また、設定温度が260℃を超える場合は熱劣化によりペレットの黄変が促進されるため好ましくない。
再生ペレットは再度シート製造工程に使用する際は、シート製造に用いる新しいペレット(バージンペレット)と再生ペレットとの合計を100質量%とする場合、再生ペレットの使用率は、5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上40質量%以下がより好ましく、15質量%以上30質量%以下が更に好ましい。再生ペレットの使用率が50質量%以下であることにより、シートの黄変や強度低下など物性低下が起き難い。また、再生ペレットの使用率5%以上により、端材の使用効率が良く、端材・フラフ・再生ペレットの保管や廃棄費用などのコストを抑制できる。
【0056】
一般に、スチレン系樹脂シートは、高透明性、高光沢性を要求される用途に用いられるため、外観が美麗であることが求められ、ゲル等の異物混入の過多はスチレン系樹脂シートの商品価値を大きく損ねる。特に、再生ペレットはその製造工程の熱履歴等によりゲル化する可能性があるため、再生ペレットを原材料として用いて作製したシートは、ゲル等の混入に注意を要する。
例えば、本発明の検討において、従来技術のケン化度の高いポリビニルアルコールを被覆層に使用すると、再利用(リターン)時にポリビニルアルコールの水素結合や脱水縮合に起因してゲルが多発する結果が得られたが、所定の被覆層を有する本発明のシートの場合、再生ペレット作製時やリターン時にゲルの発生数量が少ない。
【0057】
(本発明のシートの製造方法)
本発明のシートは、公知の方法によって製造できる。例えば、原材料を押出機で溶融混練してダイからシート状に押出し、冷却ロールや空冷、水冷にて冷却固化して未延伸シートを作製し、次いで、縦方向及び横方向に延伸処理し、二軸延伸シートを得て、該延伸シートの少なくとも一方の面に、被覆層用の水性コート剤を塗布・乾燥して被覆層を形成して、製造することできる。二軸延伸シートの被覆層を形成する面には、コロナ処理を施してもよい。
【0058】
未延伸シートの製造方法の詳細例としては、シートを構成する原材料を混合した後、単軸押出機、異方向二軸押出機、同方向二軸押出機などの押出機を使用し、組成物の均一な分散分配を促す。原材料は、タンブラーミキサー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、リボンブレンダ―、スーパーミキサーなどの混合機で混合した後、押出機に投入してもよいし、または、他の混練機の先端にストランドダイを接続し、ストランドカット、ダイカットなどの方法により一旦ペレット化した後、得られたペレットを押出機に投入してもよい。
次いで、押出機により溶融された樹脂組成物を、押出機の先端にTダイなどの口金を接続し、シート状に成型した後、冷却ロールで冷却固化する。押出温度は、180~260℃程度が好ましく、190~250℃がより好ましい。
【0059】
未延伸シートの延伸方法の詳細例としては、シートの流れ方向(縦方向、MD)へのロール延伸や、シートの流れ方向に対して垂直方向(横方向、TD)へのテンター延伸等により、二軸延伸することが好ましい。また、縦方向に延伸後、横方向に延伸してもよいし、横方向に延伸後、縦方向に延伸してもよい。また、縦方向及び横方向に延伸処理されていれば、同じ方向に2回以上延伸してもよい。さらには、縦方向に延伸後、横方向に延伸し、さらに縦方向に延伸してもよい。また、同時二軸延伸機により縦方向、横方向に同時に延伸されてもよい。さらには、未延伸シートを裁断し、バッチ式の延伸機により二軸延伸してもよい。
【0060】
二軸延伸シートの延伸倍率は、シートの縦方向、横方向共に1.1倍以上4.0倍以下が好ましく、1.5倍以上3.0倍以下がより好ましく、2.0倍以上2.5倍以下が更に好ましい。延伸倍率1.1倍以上により、シートを成形加工した成形品が十分な衝撃強度を有し、4.0倍以下により、シートを熱成形する際の賦形性、型再現性が良好となる。
本発明における延伸倍率は、二軸延伸シートの試験片に直線を記して熱収縮させ、その直線長さの収縮前後の変化率から求められる。具体的には、[延伸倍率=Y/Z]の式によって算出される値であり、この式において、Yは、二軸延伸シートの試験片に定規および筆記用具を用いてシート縦方向および横方向に描いた直線の長さ(mm)であり、Zは、JIS K7206に準拠して測定した当該シートのビカット軟化温度より40℃高い温度のシリコンオイルバスに試験片を10分間浸漬させ収縮させた後の直線の長さ(mm)である。
【0061】
(本発明のシートの厚み)
本発明のシートの厚みは、0.05mm以上0.50mm以下が好ましい。係る範囲において、包装体等の成形品を作製する二次加工工程における取り扱いが容易となり、成形品が十分な機械的強度を有する。下限は0.10mm以上がより好ましく、0.15mm以上が更に好ましい。上限は0.40mm以下がより好ましく、0.30mm以下が更に好ましい。
【0062】
<包装体>
本発明のシートは、成形加工して包装体に利用できる。
包装体は、各種用途に応じた形状に成形して用いられる。例えば、用途は、生鮮、総菜、乾物、菓子などの食品や工業部品を収容する包装体であり、形状は、箱型底容器、コップ、皿、トレイ、蓋つき容器、蓋などが挙げられる。本発明のシートは、被覆層を有することにより、防曇性および耐油性を兼ね備えているので、弁当、グラタン、パスタ、揚げ物などの油分を含む冷蔵、冷凍食品を、包装容器ごと電子レンジで加熱する用途に用いる包装体容器に好適に利用される。なお、該包装体では、被覆層側が食品側となるように、包装体が成形される。
本発明のシートは、公知の方法で成形できる。例えば、熱板接触加熱成形法、圧空成形法、真空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト成形法、等である。中でも、成形品の厚みの均等性、成形生産効率の観点から、熱板接触加熱成形法が好ましい。シートの成形加工は、シートロールを用いて連続的に行っても良いし、カット版シートを用い1ショット毎に成形しても良い。
【0063】
熱板接触加熱成形法の場合、熱板温度条件のうち下限となる熱板温度は、成形品の型再現性や成形サイクル効率の観点からシートのビカット軟化温度+10℃以上が好ましく、+15℃以上がより好ましく、+20℃以上がさらに好ましい。また、上限となる熱板温度は、成型品のレインドロップ発生の観点から、シートのビカット軟化温度+45℃以下が好ましく、+40℃以下がより好ましく、+35℃以下がさらに好ましい。
上述の各種成形法の加熱時間条件は、0.5~10.0秒が好ましく、0.5秒~5.0秒がより好ましい。なお、加熱時間とは、シートを真空及び/又は圧空で熱板に接触させている時間と、次いでシートを金型へ延展するために所望の真空及び/又は圧空状態になるまでの遅れ時間の合計を云う。
【実施例0064】
<実施例1~3、比較例1~10>
(耐油性スチレン系樹脂シートの作製)
重量平均分子量250,000、メルトフローレート3.5g/10分、ガラス転移温度100℃のスチレン単独重合体GPPSレジンペレットを用いて製造した0.25mm厚の単層二軸延伸ポリスチレン系樹脂シートの一方の面にコロナ処理を施し、被覆層用水性塗布液をスプレーコーターで塗布し、熱風乾燥させで被覆層を形成して、耐油性スチレン系樹脂シートを得た。
被覆層の固形分組成を表1に示す。
被覆層の層厚は、赤外吸収分光分析装置(全反射法)を使用し、1720cm-1付近の吸収ピーク強度を用い、ポリスチレンの1490cm-1付近の吸収ピーク強度との比率を算出し、層厚既知のシートから作製した検量線に照らして各層の層厚を求めた。被覆層の層厚は100nmであった。
【0065】
(被覆層)
実施例、比較例の被覆層に用いた原材料の略号、成分、物性は、次の通りである。
PVA1; スルホ基含有ポリビニルアルコール、スルホ基含有率2.6モル%、ケン化度86.5~89.0モル%、重合度200
PVA2; ポリビニルアルコール、スルホ基含有率0モル%、ケン化度86.5~89.0モル%、重合度500
PVA3; ポリビニルアルコール、スルホ基含有率0モル%、ケン化度86.5~89.0モル%、重合度1,700
PVA4; ポリビニルアルコール、スルホ基含有率0モル%、ケン化度約99モル%、重合度1,100
【0066】
PEs1; ポリエステル、スルホ基含有率14モル%、酸価5mgKOH/g未満、重量平均分子量14,000
PEs2; ポリエステル、スルホ基含有率10モル%、酸価5mgKOH/g未満、重量平均分子量27,000
PEs3; ポリエステル、スルホ基含有率0モル%、酸価40~55mgKOH/g、重量平均分子量3,000
【0067】
防曇剤; ジグリセリン脂肪酸エステル、HLB8.7
【0068】
<評価>
実施例、比較例で得られた耐油性スチレン系樹脂シートについて、以下の評価を行い、表1~2に纏めた。
(耐油性)
得られたシートを10cm角にカットし、被覆層表面に中鎖脂肪酸油(日清オイリオグループ製MCTオイル)0.5gを全面に塗布し、80℃の恒温槽中に5分静置し、加熱直後に目視により外観観察し、次の基準で評価した。
○ :まったく白化がない
△ :僅かな白化がある
× :明らかな白化がある
【0069】
(防曇性)
得られたシートを10cm角にカットし、80℃の水を300g入れた500mLのプラカップに、被覆層面をプラカップ側に向けて被せ、2分間静置した。プラカップの下に敷いた印刷紙のフォントサイズ10.5の文字を目視にて識別し、次の基準で評価した。
◎ :文字が細部まで明瞭に識別できる
○ :文字が揺らがず明瞭に識別できる
△ :文字が僅かに揺らいで見える程度で、識別できる
× :文字の揺らぎが多く、見え難い
××:全面が曇った状態で、文字が見えない
【0070】
(透明性)
ヘーズメーター(日本電色工業製NDH7000II機)を用いて測定し、次の基準で評価した。
〇 :ヘーズ1.5%未満
× :ヘーズ1.5%以上
【0071】
(リターン性)
生産においてシート端材を粉砕機を用いてフラフを作製する工程を模擬して、得られたシート200gを1cm角にカットしてフラフとした。このフラフと新しいスチレン単独重合体からなるGPPSレジンペレット200gとを十分に混合し、混合質量比50:50(リターン率50%)となる押出原材料を調合した。この原材料を直径20mmのチューブラー式押出し機を用いてバレル温度200℃、押出機回転数40rpmの条件で溶融押出し、次いで、押し出された円筒状の樹脂内部に空気を吹き込んで膨張させ、平均厚み0.01mmのフィルムを採取した。当該フィルム100cm角(面積1m2)当たりについて観察し、直径0.2mm以上のゲル(未溶融物)の個数を計数し、次の基準で評価した。「〇」評価については、表中にゲル個数を表記した。
○ :35個以下
△ :35個超60個以下
× :60個超
【0072】
【0073】
【0074】
実施例1は、被覆層にスルホ基含有ポリビニルアルコールと防曇剤を用い、耐油性、防曇性、透明性、リターン性とも良好であり、特に、防曇性に秀でており、リターン性評価のゲル個数も16個と少なく良好であった。比較例3は、スルホ基含有ポリビニルアルコールを用いリターン性は良好であったが、防曇剤を含まず、防曇性が不足した。
【0075】
比較例1~2は、スルホ基非含有のポリビニルアルコールと防曇剤を用い、耐油性、防曇性、リターン性とも不十分であった。スルホ基非含有で高ケン化度のポリビニルアルコールのみを用いた比較例4~6では耐油性が得られたのに対し、同じポリビニルアルコールに防曇剤を添加した比較例1~2では耐油性が低下し、防曇性も発現不十分であった。さらに、これらポリビニルアルコールはケン化度85モル%以上であり、リターン性が顕著に悪く、ゲル個数200個以上であった。
【0076】
実施例2~3は、スルホ基含有ポリエステルと防曇剤を用い、耐油性、防曇性、透明性、リターン性の何れとも良好であった。比較例8~9は、スルホ基含有ポリエステルのみを用い、防曇性が不足し、またリターン性も不十分であった。
比較例7は、スルホ基非含有でカルボキシル基により親水性を示すポリエステルと防曇剤とを用い、耐油性および防曇性が不十分だった。比較例10は、カルボキシル基により親水性を示すポリエステルのみを用い、耐油性が悪く、また防曇性が著しく不良であった。
本発明によれば、防曇性と耐熱油性とを兼備した耐熱性スチレン系樹脂シートが得られるので、弁当、グラタン、パスタ、揚げ物などの油分を含む冷蔵、冷凍食品を、包装容器ごと電子レンジで加熱することができ、近年の食生活、食品産業、流通産業に好適である。
また、本発明の耐熱性スチレン系樹脂シートの製造工程の端材を原材料として再利用する際にゲル異物の発生し難いので、被覆層を除去する工程を有することなく、被覆層を形成したシートの構成のまま再利用(リターン)することができ、生産性、経済性が良い。