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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162791
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】軸シール構造体及び真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/447 20060101AFI20221018BHJP
   F04C 27/00 20060101ALI20221018BHJP
   F04C 25/02 20060101ALI20221018BHJP
   F04B 37/16 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
F16J15/447
F04C27/00 331
F04C25/02 M
F04B37/16 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067786
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】嶽 良太
【テーマコード(参考)】
3H076
3H129
3J042
【Fターム(参考)】
3H076AA16
3H076AA21
3H076BB10
3H076CC36
3H129AA03
3H129AA05
3H129AB06
3H129BB16
3H129CC16
3H129CC20
3J042AA04
3J042BA02
3J042CA10
3J042CA21
3J042DA09
3J042DA10
3J042DA13
(57)【要約】
【課題】信頼性の高い軸シール構造体、真空ポンプを提供することにある。
【解決手段】軸シール構造体において、ロータ軸は、第1端部と、上記第1端部とは反対側の第2端部と、上記第1端部及び上記第2端部に連なる外周面と、内部に設けられた連通路とを有し、中心軸を中心に回転可能になっている。回転軸シールは、上記第1端部と上記第2端部との間において、上記ロータ軸の上記外周面の周りに上記ロータ軸と同心状に設けられる。フィルタ部は、上記第1端部の側において上記ロータ軸に付設され、上記連通路への浸入物の浸入を抑制し、上記ロータ軸とともに上記中心軸を中心に回転可能になっている。上記フィルタ部の抑制側から浸入した上記浸入物は、上記フィルタ部が回転することによって生じる上記フィルタ部の遠心力によって上記浸入物が上記浸入物が浸入した方向とは逆方向に移動する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端部と、前記第1端部とは反対側の第2端部と、前記第1端部及び前記第2端部に連なる外周面と、内部に設けられた連通路とを有し、中心軸を中心に回転可能なロータ軸と、
前記第1端部と前記第2端部との間において、前記ロータ軸の前記外周面の周りに前記ロータ軸と同心状に設けられた回転軸シールと、
前記第1端部の側において前記ロータ軸に付設され、前記連通路への浸入物の浸入を抑制し、前記ロータ軸とともに前記中心軸を中心に回転可能なフィルタ部と、
を具備し、
前記ロータ軸には、前記第1端部から前記回転軸シールまでのいずれか箇所において、前記連通路の一端を開口し、前記フィルタ部によって塞がれる第1開口が設けられるとともに、前記第2端部から前記回転軸シールまでのいずれかの箇所において、前記連通路の他端を開口する第2開口が設けられ、
前記フィルタ部の抑制側から侵入した前記浸入物は、前記フィルタ部が回転することによって生じる前記フィルタ部の遠心力によって前記浸入物が前記浸入物が浸入した方向とは逆方向に移動する
軸シール構造体。
【請求項2】
請求項1に記載された軸シール構造体であって、
前記外周面には、前記第1端部の側からの前記回転軸シールへの前記浸入物の浸入を抑制する第1フリンガが設けられる
軸シール構造体。
【請求項3】
請求項2に記載された軸シール構造体であって、
前記外周面には、前記第2端部の側からの前記回転軸シールへの別の浸入物の浸入を抑制する第2フリンガが設けられる
軸シール構造体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載された軸シール構造体であって、
前記フィルタ部は、前記ロータ軸に接するケース本体と、前記ケース本体に収納されたフィルタ部材とを有し、
前記フィルタ部材は、前記中心軸から前記外周面に向かう方向において、前記外周面よりも遠方に位置する
軸シール構造体。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1つに記載された軸シール構造体であって、
前記フィルタ部の空気に対するコンダクタンスと前記連通路の空気に対するコンダクタンスとの合計は、前記回転軸シールの空気に対するコンダクタンスよりも大きい
軸シール構造体。
【請求項6】
請求項4または5に記載された軸シール構造体であって、
前記フィルタ部が前記ロータ軸とともに回転した場合、前記フィルタ部材の任意の箇所における周速が13(m/秒)よりも大きくなるように構成された
軸シール構造体。
【請求項7】
第1端部と、前記第1端部とは反対側の第2端部と、前記第1端部及び前記第2端部に連なる外周面と、内部に設けられた連通路とを有し、中心軸を中心に回転可能なロータ軸と、
前記第1端部と前記第2端部との間において、前記ロータ軸の前記外周面の周りに前記ロータ軸と同心状に設けられた回転軸シールと、
前記第1端部の側において前記ロータ軸に付設され、前記連通路への潤滑油の浸入を抑制し、前記ロータ軸とともに前記中心軸を中心に回転可能なフィルタ部と、
前記ロータ軸及び前記回転軸シールを収容し、前記ロータ軸の前記第1端部が突き出ることが可能とする開口部を有する第1ハウジングと、
前記第1ハウジングに取り付けられ、前記第1ハウジングとともに、前記ロータ軸の前記第1端部と、前記フィルタ部とを封止し、前記潤滑油を収容する第2ハウジングと、
を具備し、
前記ロータ軸には、前記第1端部から前記回転軸シールまでのいずれか箇所において、前記連通路の一端を開口し、前記フィルタ部によって塞がれる第1開口が設けられるとともに、前記第2端部から前記回転軸シールまでのいずれかの箇所において、前記連通路の他端を開口する第2開口が設けられ、
前記フィルタ部の抑制側から浸入した前記フィルタ部に前記潤滑油は、前記フィルタ部が回転することによって生じる前記フィルタ部の遠心力によって前記潤滑油が前記潤滑油が浸入した方向とは逆方向に移動する
真空ポンプ。
【請求項8】
請求項7に記載された真空ポンプであって、
前記外周面には、前記第1端部の側からの前記回転軸シールへの前記潤滑油の浸入を抑制する第1フリンガが設けられる
真空ポンプ。
【請求項9】
請求項8に記載された真空ポンプであって、
前記外周面には、前記第2端部の側からの前記回転軸シールへの浸入物の浸入を抑制する第2フリンガが設けられる
真空ポンプ。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1つに記載された真空ポンプであって、
前記フィルタ部は、前記ロータ軸に接するケース本体と、前記ケース本体に収納されたフィルタ部材とを有し、
前記フィルタ部材は、前記中心軸から前記外周面に向かう方向において、前記外周面よりも遠方に位置する
真空ポンプ。
【請求項11】
請求項9~10のいずれか1つに記載された真空ポンプであって、
前記フィルタ部の空気に対するコンダクタンスと前記連通路の空気に対するコンダクタンスとの合計は、前記回転軸シールの空気に対するコンダクタンスよりも大きい
真空ポンプ。
【請求項12】
請求項10または11に記載された真空ポンプであって、
前記フィルタ部が前記ロータ軸とともに回転した場合、前記フィルタ部材の任意の箇所における周速が13(m/秒)よりも大きくなるように構成された
真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸シール構造体及び真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
コンプレッサ等の圧縮機においては、ロータ軸を支持する軸受部材に対して潤滑が必要になる。このため、潤滑油を格納した軸受室から軸受部材に潤滑油が供給される。但し、潤滑油を格納した軸受室からロータ軸を格納したロータ室に潤滑油が漏れないようにロータ室の手前でロータ軸に回転軸シールが取り付けられことが一般的になっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、ロータリポンプ等に代表される真空ポンプにおいても、同様にロータ軸を支持する軸受部材に対して潤滑が必要となる。このため、軸受部材を収容する軸受室に潤滑油を貯留させ、ロータ軸の回転とともに潤滑油を掻き揚げる掻き揚げ板を軸受室に設けて、軸受部材に潤滑油を満遍なく行き渡らせる技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6677515号公報
【特許文献2】特許第6473280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
真空ポンプにおいては、動作時にロータ室に相当するポンプ室が減圧状態になる。また、掻き揚げプレートによって掻き揚げられた潤滑油は、動作時には絶えず軸受室でミスト状となって蒸気または微粒子となって飛遊する。
【0006】
このため、真空ポンプにおいては、軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩、特に飛遊する微粒子の漏洩をより確実に抑制できる信頼性の高い軸シール構造が求められている。特に、高速排気が要求される真空ポンプでは、ロータ軸の回転速度が益々増加する傾向にある。このような過酷な状況下において、軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩をより確実に抑制させた信頼性の高い真空ポンプが求められている。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、信頼性の高い軸シール構造体と、その構造体を備えた真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る軸シール構造体は、ロータ軸と、回転軸シールと、フィルタ部と、を具備する。
ロータ軸は、第1端部と、上記第1端部とは反対側の第2端部と、上記第1端部及び上記第2端部に連なる外周面と、内部に設けられた連通路とを有し、中心軸を中心に回転可能になっている。
回転軸シールは、上記第1端部と上記第2端部との間において、上記ロータ軸の上記外周面の周りに上記ロータ軸と同心状に設けられる。
フィルタ部は、上記第1端部の側において上記ロータ軸に付設され、上記連通路への浸入物の浸入を抑制し、上記ロータ軸とともに上記中心軸を中心に回転可能になっている。
上記ロータ軸には、上記第1端部から上記回転軸シールまでのいずれか箇所において、上記連通路の一端を開口し、上記フィルタ部によって塞がれる第1開口が設けられるとともに、上記第2端部から上記回転軸シールまでのいずれかの箇所において、上記連通路の他端を開口する第2開口が設けられ、
上記フィルタ部の抑制側から浸入した上記浸入物は、上記フィルタ部が回転することによって生じる上記フィルタ部の遠心力によって上記浸入物が上記浸入物が浸入した方向とは逆方向に移動する。
【0009】
このような軸シール構造体であれば、軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩がより確実に抑制される。
【0010】
上記軸シール構造体においては、上記外周面には、上記第1端部の側からの上記回転軸シールへの上記浸入物の浸入を抑制する第1フリンガが設けられてもよい。
【0011】
このような軸シール構造体であれば、第1フリンガの配置により軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩がより確実に抑制される。
【0012】
上記軸シール構造体においては、上記外周面には、上記第2端部の側からの上記回転軸シールへの別の浸入物の浸入を抑制する第2フリンガが設けられてもよい。
【0013】
このような軸シール構造体であれば、第2フリンガの配置により軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩がより確実に抑制される。
【0014】
上記軸シール構造体においては、上記フィルタ部は、上記ロータ軸に接するケース本体と、上記ケース本体に収納されたフィルタ部材とを有し、上記フィルタ部材は、上記中心軸から上記外周面に向かう方向において、上記外周面よりも遠方に位置してもよい。
【0015】
このような軸シール構造体であれば、フィルタ部材の上記配置により軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩がより確実に抑制される。
【0016】
上記軸シール構造体においては、上記フィルタ部の空気に対するコンダクタンスと上記連通路の空気に対するコンダクタンスとの合計は、上記回転軸シールの空気に対するコンダクタンスよりも大きくてもよい。
【0017】
このような軸シール構造体であれば、上記コンダクタンスの設定により軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩がより確実に抑制される。
【0018】
上記軸シール構造体においては、上記フィルタ部が上記ロータ軸とともに回転した場合、上記フィルタ部材の任意の箇所における周速が13(m/秒)よりも大きくなるように構成されてもよい。
【0019】
このような軸シール構造体であれば、フィルタ部材の上記設定により軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩がより確実に抑制される。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空ポンプは、
上記軸シール構造体と、
上記ロータ軸及び上記回転軸シールを収容し、上記ロータ軸の上記第1端部が突き出ることが可能とする開口部を有する第1ハウジングと、
上記第1ハウジングに取り付けられ、上記第1ハウジングとともに、上記ロータ軸の上記第1端部と、上記フィルタ部とを封止し、潤滑油を収容する第2ハウジングと、
を具備する。
【0021】
このような真空ポンプであれば、軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩がより確実に抑制される。
【0022】
上記真空ポンプにおいては、上記外周面には、上記第1端部の側からの上記回転軸シールへの上記潤滑油の浸入を抑制する第1フリンガが設けられてもよい。
【0023】
このような真空ポンプであれば、第1フリンガの配置により軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩がより確実に抑制される。
【0024】
上記真空ポンプにおいては、上記外周面には、上記第2端部の側からの上記回転軸シールへの浸入物の浸入を抑制する第2フリンガが設けられてもよい。
【0025】
このような真空ポンプであれば、第2フリンガの配置により軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩がより確実に抑制される。
【0026】
上記真空ポンプにおいては、上記フィルタ部は、上記ロータ軸に接するケース本体と、上記ケース本体に収納されたフィルタ部材とを有し、上記フィルタ部材は、上記中心軸から上記外周面に向かう方向において、上記外周面よりも遠方に位置してもよい。
【0027】
このような真空ポンプであれば、フィルタ部材の上記配置により軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩がより確実に抑制される。
【0028】
上記真空ポンプにおいては、上記フィルタ部の空気に対するコンダクタンスと上記連通路の空気に対するコンダクタンスとの合計は、上記回転軸シールの空気に対するコンダクタンスよりも大きくてもよい。
【0029】
このような真空ポンプであれば、上記コンダクタンスの設定により軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩がより確実に抑制される。
【0030】
上記真空ポンプにおいては、上記フィルタ部が上記ロータ軸とともに回転した場合、上記フィルタ部材の任意の箇所における周速が13(m/秒)よりも大きくなるように構成されてもよい。
【0031】
このような真空ポンプであれば、フィルタ部材の上記設定により軸受室からポンプ室への潤滑油の漏洩がより確実に抑制される。
【発明の効果】
【0032】
以上述べたように、本発明によれば、信頼性の高い軸シール構造体及び真空ポンプが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本実施形態に係る真空ポンプを示す模式的断面図である。
図2】本実施形態に係る真空ポンプに含まれる軸シール構造体の要部を示す模式的断面図である。
図3】本実施形態の真空ポンプの動作を示す模式的断面図である。
図4】軸シール構造体の変形例1を示す模式的断面図である。
図5】軸シール構造体の変形例2を示す模式的断面図である。
図6】軸シール構造体の変形例3を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。例えば、X軸方向及びY軸方向は相互に直交する水平方向を示しており、Z軸方向はこれらに直交する鉛直方向(重力方向)を示している。
【0035】
図1(a)及び図1(b)は、本実施形態に係る真空ポンプを示す模式的断面図である。図1(a)は、真空ポンプ1を上からみた断面であり、図1(b)は、図1(a)のA1-A2線に沿った断面が示されている。
【0036】
図1(a)、(b)に例示される真空ポンプ1としては、一例として、スクリューポンプ、が示されている。本実施形態に係る真空ポンプは、スクリューポンプに限らず、メカニカルブースタポンプ、ロータリポンプ等であってもよい。
【0037】
図1(a)に示すように、真空ポンプ1は、ポンプ本体10と、駆動部20と、制御ユニット30とを備える。
【0038】
(ポンプ本体)
【0039】
ポンプ本体10は、ハウジング131、132、142と、筒状体141と、ポンプロータ11、12と、ロータ軸110、120と、軸受部材151、152、161、162と、回転軸シール155、156と、フィルタ部175Aと、潤滑油180を掻き揚げる掻揚板170とを有する。なお、図1(a)では、後述するフリンガが示されていない。本実施形態において、ハウジング131は、第1ハウジング、ハウジング142は、第2ハウジングとする。
【0040】
ハウジング131は、筒状の容器であり、ハウジング132は、隔壁板である。ハウジング132は、ハウジング131に固定され、X軸方向においてハウジング131に並ぶ。筒状体141は、回転することなく、ハウジング131に固定され、その一部がハウジング131に収容される。ハウジング131、132、及び筒状体141によって、ポンプ室P1が形成され、ポンプ室P1の気密性が確保される。ポンプロータ11、12は、ポンプ室P1に収容されている。ポンプ室P1圧の圧力は、真空ポンプ1の停止時には、大気圧となり、真空ポンプ1の動作時には、10Pa程度になる。
【0041】
ポンプロータ11、12は、Y軸方向に相互に対向して配置される。ポンプロータ11は、X軸方向に延在するロータ軸110を有する。ポンプロータ12は、X軸方向に延在するロータ軸120を有する。ロータ軸110、120のそれぞれの外径は、18mm~100mmに設計される。
【0042】
ロータ軸110の端部112の側は、ハウジング132に固定された軸受部材151に回転可能に支持される。ロータ軸110の端部111の側は、筒状体141に固定された軸受部材161に回転可能に支持される。ロータ軸120の端部122の側は、ハウジング132に固定された軸受部材152に回転可能に支持される。ロータ軸120の端部121の側は、筒状体141に固定された軸受部材162に回転可能に支持される。また、ポンプロータ11とポンプロータ12との間、及び、ポンプロータ11、12と、ポンプ室P1の内壁との間には所定の隙間が形成されており、それぞれに非接触で回転するように構成される。
【0043】
軸受部材151、152は、図示しないシールリング部材を介して、ボルト締めによってカバー153により覆われる。また、軸受部材161、162は、図示しないシールリング部材を介して、ボルト締めによってカバー163により覆われる。軸受部材161、162がカバー163により覆われることで、供給口165、166のそれぞれは、軸受室(潤滑室)S1に通じる経路が確保される。
【0044】
真空ポンプ1においては、例えば、軸受部材151、152は、スラスト方向で固定され、軸受部材161、162は、スラスト方向で移動可能に配置されている。Z軸方向において、軸受部材161の上方には、軸受部材161に潤滑油を供給することが可能な供給口165が設けられている。同様に、軸受部材162の上方には、軸受部材162に潤滑油を供給することが可能な供給口166が設けられている。供給口165、166のそれぞれは、軸受室S1の底部に通じている。
【0045】
ハウジング142は、ハウジング131に取り付けられる。ハウジング142は、ハウジング131及び筒状体141とともに、潤滑油180を貯留する軸受室S1を形成する。潤滑油180は、軸受室S1の底部に貯留されている。筒状体141には、ロータ軸110の端部111と、ロータ軸120の端部121とが貫通している。これらの端部111、121は、軸受室S1にまで到達している。さらに、端部111には、掻揚板170が取り付けられる。掻揚板170は、軸受室S1に収容される。
【0046】
図1(b)に示すように、掻揚板170の下側は、潤滑油180に浸漬されている。掻揚板170には、複数の切り欠き部171が設けられている。ロータ軸110の回転によって掻揚板170が回転すると、潤滑油180が切り欠き部171によって油面180sから持ち上げられ、潤滑油180が油面180sより上方に掻き揚げられる。掻き揚げられた潤滑油180は、軸受室S1の上方に向けて飛散する。
【0047】
軸受室S1の上方に向けて飛散した潤滑油180は、ハウジング142の内壁に当たる。例えば、油面180sから上方に位置した内壁上部142wuに潤滑油180が当たる。そして、真空ポンプ1では、内壁上部142wuに、潤滑油180を供給口165、166上まで移動させることが可能な凹部190が設けられている。また、内壁上部142wuと、内壁上部142wuより下側の内壁下部142wdとは、曲面となって構成されている。
【0048】
また、掻揚板170は、ロータ軸120の端部121に取り付けられてもよい。さらに、掻揚板170は、端部111、121の双方に取り付けられてもよい。この場合、端部111、121同士に取り付けた掻揚板170が互いに接触しないように取り付けられる。例えば、2つの掻揚板170がX軸方向に相互にずらして設置される。
【0049】
(駆動部)
【0050】
駆動部20は、モータ21と、同期ギア22、23と、ハウジング24と、カバー25とを有する。
【0051】
ポンプロータ11のロータ軸110の端部112及びポンプロータ12のロータ軸120の端部122は、ハウジング132を貫通する。ロータ軸110の端部112には、モータ21が固定される。さらに、端部112には、モータ21と軸受部材151との間に同期ギア22が固定される。ロータ軸120の端部122には、同期ギア22と噛み合う同期ギア23が固定されている。
【0052】
モータ21及び同期ギア22、23は、ハウジング24、132に収容される。モータ21とハウジング24との間は、気密性が保たれている。換言すれは、真空ポンプ1は、いわゆるCanned Motor Pumpである。ギア室Gには、同期ギア22、23及び軸受部材151、161を潤滑するための潤滑油が収容されている。潤滑油の成分は、潤滑油180と同じであってもよく、異なってもよい。
【0053】
ハウジング24の先端は、カバー25で被覆されている。カバー25には外気と連通可能な通孔が設けられており、駆動部20に隣接して配置された、図示しない空冷式、または、水冷式よってモータ21を冷却することができる。
【0054】
モータ21の駆動により、ポンプロータ11、12は、同期ギア22、23を介して相互に逆方向に回転する。例えば、回転数は、500rpm以上13000rpm以下である。これにより、ポンプ本体10の上側に設けられている吸気口E1から、ポンプ本体10の下側に設けられている排気口E2へ気体が移送される。吸気口E1には、図示しない真空チャンバの内部と連絡する吸気管が接続され、排気口E2には、図示しない排気管あるいは補助ポンプの吸気口と接続される。
【0055】
また、駆動部20にも、軸受部材151、161を潤滑するための供給口や、ハウジング132の内壁上部に供給口までに潤滑油を移動させる凹部を形成してもよい。この場合、同期ギア22、23が掻き揚げプレートの機能を兼ね備える。さらに、潤滑油を掻き揚げる手段としては、端部112、122の少なくともいずれかに掻揚板を取り付けてもよい。
【0056】
(制御ユニット)
【0057】
制御ユニット30は、ハウジング24に設置された金属製のケース内に収容された回路基板、その上に搭載された各種電子部品で構成される。回路基板には、例えば、インバータ回路等が配置されている。制御ユニット30によって、例えば、ポンプロータ11、12の回転数が制御される。
【0058】
ハウジング131、132、筒状体141は、例えば、鋳鉄、ステンレス鋼等の鉄系材料で構成されている。ハウジング142、24は、例えば、アルミニウム合金等の非鉄材料で構成される。これらのハウジングは、図示しないシールリング部材を介してボルト締めによって相互に結合されている。また、ポンプロータ11、12は、鋳鉄等の鉄系材料からなるスクリュー型ロータで構成される。
【0059】
また、潤滑油としては、真空ポンプ1として要求されるポンプ室P1の到達圧力を満たすために、その蒸気圧が低いことが好ましい。例えば、80℃における潤滑油の蒸気圧は、1×10-2Pa以下であることが好ましい。具体的な潤滑油として、フッ素オイル(動粘度:97mm/s(40℃)、13mm/s(100℃))、鉱物油(動粘度:57mm/s(40℃)、3mm/s(100℃))、密度:0.88g/cm(15℃)、引火点:250℃以上、流動点:-12.5℃以下、全酸価:0.05mgKOH/g)、合成油(ISO粘度グレード:100、動粘度:94.7mm/s(40℃)、12.6mm/s(100℃))、ASTM色:L1.0、密度:0.90g/cm(15℃)、引火点:250℃以上、流動点:-10℃以下、全酸価:0.30mgKOH/g)のいずれかが適用される。なお、これら潤滑油の物性値は、一例であり、これらの値に限らない。
【0060】
(軸シール構造体)
【0061】
図2(a)、(b)は、本実施形態に係る真空ポンプに含まれる軸シール構造体の要部を示す模式的断面図である。図2(a)には、図1(a)のC1-C2線に沿った位置での断面が示されている。図2(b)には、図2(a)の回転軸シール付近の断面が示されている。図2(a)、(b)には、ロータ軸110、フィルタ部175A、回転軸シール155、フリンガ176、177を有する軸シール構造体2Aが示されている。
【0062】

ロータ軸110は、端部111(第1端部)と、端部111とは反対側の端部112(第2端部)と、端部111及び端部112に連なった外周面113とを有する。さらに、ロータ軸110は、その内部に設けられた連通路114を有する。連通路114は、例えば、L字状に曲がった流路114aと、中心軸110c方向において流路114aに連通し、流路114aより内径が大きい流路114bとを有する。ロータ軸110は、モータ21の作動によって中心軸110cを中心に回転できる。
【0063】
ロータ軸110には、端部111から回転軸シール155までのいずれか箇所において、連通路114の一端を開口し、フィルタ部175Aによって塞がれる開口110a(第1開口)が設けられる。また、ロータ軸110には、端部112から回転軸シール155までのいずれかの箇所において、連通路114の他端を開口する開口110b(第2開口)が設けられる。
【0064】
また、軸シール構造体2Aにおいては、筒状体157と筒状体141とによって回転軸シール155(符号155が示す破線で囲まれる部分)が構成される(図2(b))。回転軸シール155は、環状であって、端部111と端部112との間において、ロータ軸110の外周面113の周りにロータ軸110と同心状に設けられる。回転軸シール155は、ラビリンスシール等の非接触型シールである。回転軸シール155によって、軸受室S1と、ポンプ室P1とが雰囲気遮断される。
【0065】
回転軸シール155を構成する筒状体157は、ロータ軸110の外周面113に接し、外周面113の周りにロータ軸110と同心状に設けられる。筒状体157には、筒状体141と対向する面に複数の油溝1572が設けられている。筒状体157は、非接触型シールのロータとして機能する。
【0066】
一方、回転軸シール155を構成するもう一つの部材である筒状体141には、筒状体157に対向する領域部1411が設けられる。領域部1411には、筒状体157と対向する面に複数の凸部1412が設けられる。領域部1411は、接触型シールのステータとして機能する
【0067】
領域部1411の凸部1412が油溝1572に入り込むことで、回転軸シール155には、領域部1411と筒状体157との間に極狭の間隙158(ラビリンス隙間)が形成される。間隙158は、潤滑油180にとっての粘性摩擦抵抗となり、回転軸シール155において、軸受室S1からポンプ室P1への潤滑油180の通過が抑制される。
【0068】
フィルタ部175Aは、ロータ軸110の端部111の側でロータ軸110に付設される。フィルタ部175Aは、連通路114への浸入物(例えば、潤滑油180)の浸入を抑制する。フィルタ部175Aは、ロータ軸110とともに中心軸110cを中心に回転することができる。
【0069】
フィルタ部175Aは、ケース本体175cと、ケース本体175cに収納された環状のフィルタ部材175fとを有する。ケース本体175cは、ロータ軸110に接し、ロータ軸110の端部111に、例えば、ねじ込み式で固定される。ケース本体175cには、連通路114aに挿通される凸部175pと、連通路114に連通する流路175aと、流路175aに連通する内部空間175sと、内部空間175sに連通する流路175bと、流路175bに連通し、フィルタ部材175fを収容する環状の溝175tと、溝175tに連通する孔部175hとが設けられている。
【0070】
内部空間175sと溝175tとに連通する流路175bは、複数設けられてもよい。また、孔部175hは、ケース本体175cの外周面175dに複数設けられてもよい。溝175tに収容されたフィルタ部材175fは、ケース本体175cと、筒状体141の側から溝175tを塞ぐ掻揚板170とによって封止される。
【0071】
ケース本体175cにおいて、流路175aと、流路175bとは互いに直交する。また、孔部175hは、ケース本体175cの外周面175dにおいて、フィルタ部材175fまたは溝175tを軸受室S1に開放する。外周面175dは、中心軸110cに対して平行になっている。また、フィルタ部材175fの任意の箇所は、ロータ軸110の中心軸110cからロータ軸110の外周面113に向かう方向において、ロータ軸110の外周面113よりも遠方に位置する。
【0072】
これにより、フィルタ部材175fがロータ軸110とともに回転するときには、ロータ軸110の外周面113の周速よりも、フィルタ部材175fの任意の箇所における周速のほうが速くなる。例えば、フィルタ部175Aがロータ軸110とともに回転した場合、フィルタ部175Aに含まれるフィルタ部材175fの任意の箇所における周速は、接触式シールの許容周速を超えるように構成されている。この周速は、設計条件によって異なり、例えば、13(m/秒)以上に設定される。
【0073】
フィルタ部175Aの抑制側からフィルタ部175Aに、浸入物(例えば、ミスト状の潤滑油180)が浸入した場合、フィルタ部175Aが回転することによって生じるフィルタ部175Aの遠心力によって、この浸入物は、浸入物が浸入した方向(孔部175hから内部空間175sに向かう方向)とは逆方向(内部空間175sから孔部175hに向かう方向)に移動する。ここで、「抑制側」とは、フィルタ部175Aにおける遠心力の強弱で定義され、遠心力が強い側を抑制側とする。一例として、浸入物がフィルタ部材175fに侵入した場合、浸入物に対してフィルタ部175Aの遠心力が強く働く側、すなわち、浸入物が浸入する孔部175hの側が抑制側に相当する。これにより、浸入物の連通路114への浸入が抑制される。
【0074】
フィルタ部材175fは、例えば、撥油性フィルタ部材が用いられる。これにより、掻揚板170によって跳ね上げられた潤滑油180がフィルタ部175Aの外周部に落下しても、フィルタ部材175fに浸透しないため、フィルタ部175Aの空気の濾過速度が低下しない。例えば、フィルタ部材175fの材料としては、化繊フェルトが用いられ、その素材は、メタ型アラミド、PTFE、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等から必要な耐熱性と耐薬品性に応じて適宜選定される。そのほか、フィルタ部材175fの材料としては、焼結金属、多孔質セラミック、樹脂系(PEEK、PTFE等の多孔質フィルタ)、スポンジ(フッ素ゴムスポンジ連続気泡タイプ、ミツフクフォームなど)が用途に応じて使用される。フィルタ部材175fは、一重構造でもよく、複数のフィルタ部材が同心状に重ねられた多重構造であってもよい。
【0075】
また、ロータ軸110の外周面113には、端部111の側から回転軸シール155の間隙158への浸入物の浸入を抑制するフリンガ176(第1フリンガ)が設けられる。さらに、ロータ軸110の外周面113には、端部112の側から回転軸シール155の間隙158への別の浸入物(例えば、ポンプ室P1で発した金属粉)の浸入を抑制するフリンガ177(第2フリンガ)が設けられる。
【0076】
フィルタ部175Aの空気に対するコンダクタンス(孔部175hからフィルタ部材175fを介して、通路175b、内部空間175sを経て通路175aまでのコンダクタンス)と、連通路114の空気に対するコンダクタンスとの合計Ctは、回転軸シール155の間隙158の空気に対するコンダクタンスCgよりも大きい。例えば、Ctは、Cgの8倍~15倍になっている。Ctは、この値に限らず、Cgの15倍以上でもよい。
【0077】
ハウジング131は、ロータ軸110及び回転軸シール155を収容する。ハウジング131には、ロータ軸110の端部111が軸受室S1に向けて突き出ることを可能とする開口部131hが設けられている。筒状体141は、ハウジング131の開口部131hに嵌め込まれ、筒状体141とハウジング131との間には、Oリング等のシール部材179が設けられている。また、フィルタ部175Aと回転軸シール155との間において、筒状体141とロータ軸110との間に軸受部材161が設けられている。
【0078】
ハウジング142は、ハウジング131に取り付けられる。ハウジング142は、ハウジング131とともに、ロータ軸110の端部111と、フィルタ部175Aと、掻揚板170と、潤滑油180とを封止する。ハウジング142は、潤滑油180を収容する。例えば、潤滑油180は、軸受室S1においてハウジング142の底部に貯留される。また、ハウジング142においては、その天井部に凹部190が形成される。凹部190は、ハウジング131に近づくにつれ、その高さが徐々に下る傾斜面となっている。
【0079】
また、真空ポンプ1においては、ハウジング131とカバー163との間に、凹部190から垂れた潤滑油180を受ける供給口165が形成されている。また、筒状体141においては、供給口165の下方に、潤滑油180を軸受部材161付近にまで導入する孔部167が設けられている。さらに、筒状体141においては、軸受部材161を潤滑した潤滑油180がハウジング142の底部にまで導入される孔部141hが設けられている。
【0080】
(作用)
【0081】
図3は、本実施形態の真空ポンプの動作を示す模式的断面図である。
【0082】
真空ポンプ1の性能向上に伴い、ポンプロータ11、12の回転数が増加する傾向にある。ここで、性能向上とは、真空ポンプの高速排気化、到達圧力の低圧化等である。また、ポンプロータ11、12の回転数が増加することにより、回転中のロータ軸110、120の軸の揺れを防止するため、ロータ軸110、120の軸径もそれに応じて大きく設計する必要がある。これにより、軸受部材161、162の転動体の自転速度または公転速度も必然的に増大する。従って、軸受部材161、162の発熱を防止するために、軸受部材161、162への適切な潤滑油量を確保することが重要になる。
【0083】
図3に示されるように、真空ポンプ1の動作中には、ハウジング142の底部に貯留する潤滑油180が掻揚板170によって掻き揚げられ(矢印a)、ハウジング142上部の凹部190に当たる。凹部190は、ハウジング131に向かうにつれ徐々に降下する傾斜面となっているため、凹部190に付着した潤滑油180は、潤滑油180の自重と凹部190の傾斜とによって、凹部190を伝わりハウジング131の手前で供給口165に落下する(矢印b)。
【0084】
この後、潤滑油180は、供給口165下の孔部167を通り抜け、軸受部材161を浸す(矢印c)。軸受部材161を浸し、軸受部材161と回転軸シール155との間に流出した潤滑油180は、孔部141hを通り抜け、ハウジング142の底部に戻される(矢印d)。この潤滑油180の循環は、軸受部材162に対しても行われる。このような潤滑油180の循環プロセスによって、軸受部材161、162を潤滑する適切な潤滑油量が確保される。
【0085】
さらに、真空ポンプ1においては、真空ポンプ1の排気に伴って、潤滑油180が軸受室S1からポンプ室P1に流出させないように、軸受室S1とポンプ室P1とが回転軸シール155で雰囲気分離されている。仮に回転軸シールとして、Oリングシール等の接触型シールを用いれば、ロータ軸110、120に接触する接触部の寿命がロータ軸110、120の周速によって左右される。このため、接触型シールでは、その接触部の面圧の確保が難しくなってしまう。
【0086】
これに対して、本実施形態では、非接触型の回転軸シール155を用いるため、接触型シールを用いた場合に起き得る不具合(接触部の面圧確保の難しさ)は解消される。但し、非接触型の回転軸シール155を用いた場合、軸受室S1からポンプ室P1への間隙158を介した微量な漏れが問題になる。特に、真空ポンプ1を停止状態から作動させた直後は、軸受室S1よりも先行してポンプ室P1が大気圧から真空(減圧)となる。
【0087】
このため、真空ポンプ1を停止状態から作動させた直後においては、ポンプ室P1と軸受室S1との差圧が起因して、潤滑油180が軸受室S1から回転軸シールを介してポンプ室P1へ流出する現象が起き得る。特に、軸受室S1においては、掻揚板170によって潤滑油180が掻き揚げられることから、真空ポンプ1の動作時には、潤滑油180の蒸気及び微粒子(以下、蒸気等)が軸受室S1に存在する。
【0088】
このような潤滑油180の軸受室S1から回転軸シール155を経由してのポンプ室P1への流出を防止するために、本実施形態では、ロータ軸110の内部に連通路114を設けている。また、フィルタ部175Aの空気に対するコンダクタンスと、連通路114の空気に対するコンダクタンスとの合計Ctは、回転軸シール155の間隙158の空気に対するコンダクタンスCgよりも大きく設定されている。
【0089】
これにより、真空ポンプ1を停止状態から作動させ、ポンプ室P1が軸受室S1よりも先行して大気圧から減圧状態になったときには、軸受室S1の空気は、回転軸シール155の間隙158よりも優先して連通路114を流れる。すなわち、軸受室S1の空気は、真空ポンプ1の稼働直後から連通路114を経由してポンプ室P1に排気されていく(矢印114f)。
【0090】
また、軸受室S1の空気に含まれる潤滑油180の蒸気等も、真空ポンプ1の稼働直後においては、ポンプ室P1と軸受室S1との差圧が起因して、連通路114に吸引される。但し、ロータ軸110の端部111には、連通路114の手前にフィルタ部175Aが付設されていることから、潤滑油180の蒸気等は、連通路114に入り込む前にフィルタ部175Aによって遮蔽される。
【0091】
特に、フィルタ部材175fは、ロータ軸110の回転とともに回転している。このため、潤滑油180の蒸気等がフィルタ部175Aの孔部175hから内部空間175sに向かって吸引されたとしても、潤滑油180は、フィルタ部材175fの遠心力によって、潤滑油180が浸入する方向とは逆方向(内部空間175sから孔部175hに向かう方向)に弾き飛ばされる(矢印e)。弾き飛ばされた潤滑油180は、凹部190に当たって軸受部材161を潤滑したり、あるいは、ハウジング142の底部に戻されたりする。
【0092】
さらに、軸受室S1の側からポンプ室P1を見た場合、回転軸シール155の手前には、潤滑油180の間隙158への浸入を抑制するフリンガ176が設けられている。これにより、軸受部材161を通り抜けた潤滑油180がポンプ室P1と潤滑室S1との差圧によって間隙158に入り込もうとしても、潤滑油180は、フリンガ176の遠心力によって軸受部材161の側に跳ね返される(矢印f)。跳ね返された潤滑油180は、孔部141hを介してハウジング142の底部に戻される。
【0093】
このように、真空ポンプ1においては、ロータ軸の高速回転化に伴い、非接触型の回転軸シール155を用いたとしても、ポンプ室P1と軸受室S1との差圧を起因とする、潤滑油180の軸受室S1からポンプ室P1へ流出が確実に抑制される。
【0094】
なお、ポンプ室P1の側から軸受室S1を見た場合、ポンプ室P1には、回転軸シール155の手前にフリンガ177が設けられている。これにより、ポンプロータ11、12の回転によってポンプ室P1で切粉が発したとしても、切粉はフリンガ177の遠心力によって跳ね返され(矢印g)、切粉の間隙158への浸入が抑制される。
【0095】
(変形例1)
【0096】
図4は、軸シール構造体の変形例1を示す模式的断面図である。
【0097】
フィルタ部は、ロール軸110の外周面113に取り付けられてもよい。例えば、図4に示す例では、端部111に形成された開口110aは、固定治具191によって閉塞される。ロール軸110には、流路114bに連通し、端部111付近の外周面113において、流路114bを開放する流路114cが設けられている。流路114bと流路114cとは、例えば、直交している。
【0098】
フィルタ部175Bは、外周面113に周設されるケース本体175eと、ケース本体175eに収容されるフィルタ部材175fとを有する。ケース本体175eには、流路114cに連通する流路175bと、流路175bに連通し、フィルタ部材175fを収容する環状の溝175tと、溝175tに連通する孔部175hとが設けられている。溝175tに収容されたフィルタ部材175fは、ケース本体175cと、ポンプ室P1とは反対側から溝175tを塞ぐ掻揚板170とによって封止される。
【0099】
このようなフィルタ部175bを用いても、潤滑油180の蒸気等が孔部175hから吸引されたとしても、フィルタ部材175fの遠心力によって、潤滑油180が潤滑油180が浸入する方向とは逆方向に弾き飛ばされる。これにより、潤滑油180の蒸気等は、連通路114に入り込む前にフィルタ部175Bによって適切に遮蔽される。
【0100】
(変形例2)
【0101】
図5は、軸シール構造体の変形例2を示す模式的断面図である。
【0102】
軸シール構造体2Cにおいては、筒状体141の領域部1411がフリンガ177に囲まれる。領域部1411は、フリンガ177の一部に対向する。領域部1411には、フリンガ177と対向する面に複数の溝1413が設けられる。
【0103】
一方、フリンガ177には、領域部1411と対向する面に複数の凸部1771が設けられている。凸部1771が溝1413に入り込むことで、回転軸シール156が形成され、領域部1411とフリンガ177との間に極狭の間隙159(ラビリンス隙間)が形成される。
【0104】
このような回転軸シール156を設けることにより、ポンプ室P1で発した切粉においては、間隙158への浸入がさらに抑制される。
【0105】
(変形例3)
【0106】
図6は、軸シール構造体の変形例3を示す模式的断面図である。
【0107】
軸シール構造体2Dにおいては、連通路114の流路114aがロータ軸110を超え、筒状体157にまで延在する。連通路114の開口110bは、筒状体157の中央においては、間隙158で開口されている。このような構成も本実施形態に含まれる。
【0108】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、軸シール構造体2A、2Bは、真空ポンプに限らず、基板を支持する回転ホルダ、ロールトゥロール式の巻取装置の回転導入機構等にも適用される。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0109】
1…真空ポンプ
2A、2B…軸シール構造体
10…ポンプ本体
11、12…ポンプロータ
20…駆動部
21…モータ
22、23…同期ギア
24…ハウジング
25…カバー
30…制御ユニット
110…ロータ軸
110a…開口
110b…開口
110c…中心軸
111、112…端部
113…外周面
114…連通路
114a。114b、114c…流路
120…ロータ軸
121…端部
122…端部
131、132…ハウジング
131h…開口部
141…筒状体
141h…孔部
142…ハウジング
142wd…内壁下部
142wu…内壁上部
151、152…軸受部材
153…カバー
155、156…回転軸シール
157…筒状体
158、159…間隙
161、162…軸受部材
163…カバー
165、166…供給口
167…孔部
170…掻揚板
171…切り欠き部
175A、175B…フィルタ部
175a…流路
175b…流路
175c、175e…ケース本体
175d…外周面
175f…フィルタ部材
175s…内部空間
175h…孔部
175t…溝
175p…凸部
176、177…フリンガ
179…シール部材
180s…油面
180…潤滑油
190…凹部
1411…領域部
1412…凸部
1413…溝
1572…油溝
1771…凸部
S1…空間部
P1…ポンプ室
E1…吸気口
E2…排気口
図1
図2
図3
図4
図5
図6