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特開2022-163218細胞構造体及びその製造方法並びに被験物質の肝毒性の評価方法
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  • 特開-細胞構造体及びその製造方法並びに被験物質の肝毒性の評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163218
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】細胞構造体及びその製造方法並びに被験物質の肝毒性の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20221018BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/02
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130662
(22)【出願日】2022-08-18
(62)【分割の表示】P 2021558396の分割
【原出願日】2020-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2019208933
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】平岡 靖之
(72)【発明者】
【氏名】北野 史朗
(72)【発明者】
【氏名】入江 新司
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 典弥
(57)【要約】
【課題】肝毒性を有する物質に対する応答性に優れる細胞構造体を提供すること。
【解決手段】肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む細胞と、細胞外マトリックス成分とを含み、細胞の間に細胞外マトリックス成分が配置され、細胞の間に肝類洞網を有する、細胞構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む細胞と、細胞外マトリックス成分とを含み、
前記細胞の間に前記細胞外マトリックス成分が配置され、
前記細胞の間に肝類洞網を有する、細胞構造体。
【請求項2】
前記細胞の総数に対する、前記肝細胞の数の比率が60%以上80%以下である、請求項1に記載の細胞構造体。
【請求項3】
前記細胞の総数に対する、前記血管内皮細胞の数の比率が5%以上35%以下である、請求項1又は2に記載の細胞構造体。
【請求項4】
前記細胞外マトリックス成分が線維状である、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項5】
前記細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項6】
高分子電解質を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項7】
前記細胞外マトリックス成分が、断片化された細胞外マトリックス成分を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項8】
前記血管内皮細胞が類洞内皮細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項9】
前記細胞が、肝星細胞を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞構造体を、被験物質と接触させた状態で培養する培養工程を備え、
前記培養工程後における、前記細胞構造体の細胞生存数、アルブミン生産量、又はアデノシン三リン酸含有量を指標として、肝毒性の有無又は程度を評価する、被験物質の肝毒性の評価方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞構造体を、被験物質と接触させた状態で培養する培養工程を備え、
前記培養工程後における、前記細胞構造体の肝類洞網を指標として、肝毒性の有無又は程度を評価する、被験物質の肝毒性の評価方法。
【請求項12】
前記培養工程が、前記被験物質を含有する培地中で前記細胞構造体を培養することにより行われる、請求項10又は11に記載の被験物質の肝毒性の評価方法。
【請求項13】
肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む細胞と、細胞外マトリックス成分とを、水性媒体中で接触させる接触工程と、
前記細胞外マトリックス成分と接触させた前記細胞を培養する培養工程と、を備え、
前記接触工程が、水性媒体中での前記細胞外マトリックス成分の凝集が抑制された条件で行われ、
前記培養工程が、肝非実質細胞の培養に適した条件で行われる、細胞構造体の製造方法。
【請求項14】
前記細胞外マトリックス成分が線維状である、請求項13に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項15】
前記接触工程が、前記細胞と、前記細胞外マトリックス成分と、高分子電解質とを混合することにより行われる、請求項13又は14に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項16】
前記高分子電解質が、ヘパリンである、請求項15に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項17】
接触工程が、前記細胞と、前記細胞外マトリックス成分との接触後に、前記細胞及び前記細胞外マトリックス成分を集積させることを含む、請求項13~16のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項18】
前記細胞外マトリックス成分が、コラーゲン成分を含む、請求項13~17のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項19】
前記細胞外マトリックス成分が、断片化された細胞外マトリックス成分を含む、請求項13~18のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項20】
前記断片化された細胞外マトリックス成分が解繊された細胞外マトリックス成分である、請求項19に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項21】
前記血管内皮細胞が類洞内皮細胞である、請求項13~20のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項22】
前記細胞が、肝星細胞を更に含む、請求項13~21のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項23】
前記培養工程が、血管形成促進因子の存在下で行われる、請求項13~22のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞構造体及びその製造方法並びに被験物質の肝毒性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物性肝障害(DILI)は、医薬品の開発/販売中止の主要因である。DILIの作用機序は複雑且つ多岐に渡り、ヒト特有の生体反応によって発現する毒性も少なからず存在するため、動物試験ではその事前予測が必ずしも容易ではない。従って、そのようなヒト特有に発現する毒性の事前予測を行う代替ツールとして類肝組織が求められている。
【0003】
人工的に生体組織を模した構造体を作製する手法として、例えば、培養細胞の表面全体が接着膜で被覆された被覆細胞を培養することによって、三次元組織体を製造する方法(特許文献1)、細胞をカチオン性物質および細胞外マトリックス成分と混合して混合物を得て、得られた混合物から細胞を集めて、基材上に細胞集合体を形成することを含む、立体的細胞組織の製造方法(特許文献2)等が知られている。また、本発明者らは、細胞と内因性コラーゲンを接触させ、好ましくはさらに繊維性の外因性コラーゲンを接触させて、コラーゲン濃度が高い三次元組織体を製造する方法(特許文献3)を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-115254号公報
【特許文献2】国際公開第2017/146124号
【特許文献3】国際公開第2018/143286号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血管構造等の高次組織形態を三次元的に再現し、正確な毒性評価を可能とし得るin vitro類肝組織は未だ構築されていない。
【0006】
本発明の目的は、肝毒性を有する物質に対する応答性に優れる細胞構造体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、例えば以下の各発明に関する。
[1]
肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む細胞と、細胞外マトリックス成分とを含み、
上記細胞の間に上記細胞外マトリックス成分が配置され、
上記細胞の間に肝類洞網を有する、細胞構造体。
[2]
上記細胞の総数に対する、上記肝細胞の数の比率が60%以上80%以下である、[1]に記載の細胞構造体。
[3]
上記細胞の総数に対する、上記血管内皮細胞の数の比率が5%以上35%以下である、[1]又は[2]に記載の細胞構造体。
[4]
上記細胞外マトリックス成分が線維状である、[1]~[3]のいずれかに記載の細胞構造体。
[5]
上記細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の細胞構造体。
[6]
高分子電解質を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の細胞構造体。
[7]
上記細胞外マトリックス成分が、断片化された細胞外マトリックス成分を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の細胞構造体。
[8]
上記血管内皮細胞が類洞内皮細胞である、[1]~[7]のいずれかに記載の細胞構造体。
[9]
上記細胞が、肝星細胞を更に含む、[1]~[8]のいずれかに記載の細胞構造体。
[10]
[1]~[9]のいずれかに記載の細胞構造体を、被験物質と接触させた状態で培養する培養工程を備え、
上記培養工程後における、上記細胞構造体の細胞生存数、アルブミン生産量、アデノシン三リン酸含有量、又は肝類洞網を指標として、肝毒性の有無又は程度を評価する、被験物質の肝毒性の評価方法。
[11]
上記培養工程が、上記被験物質を含有する培地中で上記細胞構造体を培養することにより行われる、[10]に記載の被験物質の肝毒性の評価方法。
[12]
肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む細胞と、細胞外マトリックス成分とを、水性媒体中で接触させる接触工程と、
上記細胞外マトリックス成分と接触させた上記細胞を培養する培養工程と、を備え、
上記接触工程が、水性媒体中での上記細胞外マトリックス成分の凝集が抑制された条件で行われ、
上記培養工程が、肝非実質細胞の培養に適した条件で行われる、細胞構造体の製造方法。
[13]
上記細胞外マトリックス成分が線維状である、[12]に記載の細胞構造体の製造方法。
[14]
上記接触工程が、上記細胞と、上記細胞外マトリックス成分と、高分子電解質とを混合することにより行われる、[12]又は[13]に記載の細胞構造体の製造方法。
[15]
上記高分子電解質が、ヘパリンである、[14]に記載の細胞構造体の製造方法。
[16]
接触工程が、上記細胞と、上記細胞外マトリックス成分との接触後に、上記細胞及び上記細胞外マトリックス成分を集積させることを含む、[12]~[15]のいずれかに記載の細胞構造体の製造方法。
[17]
上記細胞外マトリックス成分が、コラーゲン成分を含む、[12]~[16]のいずれかに記載の細胞構造体の製造方法。
[18]
上記細胞外マトリックス成分が、断片化された細胞外マトリックス成分を含む、[12]~[17]のいずれかに記載の細胞構造体の製造方法。
[19]
上記断片化された細胞外マトリックス成分が解繊された細胞外マトリックス成分である、[18]に記載の細胞構造体の製造方法。
[20]
上記血管内皮細胞が類洞内皮細胞である、[12]~[19]のいずれかに記載の細胞構造体の製造方法。
[21]
上記細胞が、肝星細胞を更に含む、[12]~[20]のいずれかに記載の細胞構造体の製造方法。
[22]
上記培養工程が、血管形成促進因子の存在下で行われる、[12]~[21]のいずれかに記載の細胞構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、肝毒性を有する物質に対する応答性に優れる細胞構造体及びその製造方法を提供することができる。
【0009】
本発明の細胞構造体は、肝機能を比較的長期間(例えば、2週間以上)維持することが可能である。本発明の細胞構造体を用いることにより、被験物質の肝毒性を評価することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】CD31染色及びアルブミン染色による実施例1の細胞構造体の顕微鏡観察結果を示す写真である。
図2】CD31染色及びアルブミン染色による実施例2の細胞構造体の顕微鏡観察結果を示す写真である。
図3】CD31染色及びアルブミン染色による実施例3の細胞構造体の顕微鏡観察結果を示す写真である。
図4】CD31染色及びアルブミン染色による実施例4の細胞構造体の顕微鏡観察結果を示す写真である。
図5】CD31染色及びアルブミン染色による実施例5の細胞構造体の顕微鏡観察結果を示す写真である。
図6】CD31染色及びアルブミン染色による比較例1の細胞構造体の顕微鏡観察結果を示す写真である。
図7】CD31染色による実施例6の細胞構造体の顕微鏡観察結果を示す写真である。
図8】CD31染色による実施例7の細胞構造体の顕微鏡観察結果を示す写真である。
図9】CD31染色による実施例8の細胞構造体の顕微鏡観察結果を示す写真である。
図10】アルブミン分泌量の測定結果を示すグラフである。
図11】Nefadazoneに対する応答性の評価結果を示すグラフである。
図12】Troglitazoneに対する応答性の評価結果を示すグラフである。
図13】モノクロタリン投与実験の結果を示す写真である。
図14】モノクロタリン投与実験の結果を示す写真であり、図13の拡大写真である。
図15】モノクロタリン投与実験における肝類洞網の解析結果を示すグラフである。
図16】モノクロタリン投与実験におけるATPアッセイの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
[細胞構造体]
本実施形態に係る細胞構造体は、肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む細胞と、細胞外マトリックスとを含み、細胞の間に細胞外マトリックスが配置されている。本実施形態に係る細胞構造体は、肝臓の少なくとも一部の機能に類似した機能及び/又は肝臓の少なくとも一部の構造に類似した構造を有する生体組織モデルである、類肝組織(肝臓モデル)として用いることができる。
【0013】
本明細書において「細胞構造体」とは、細胞が三次元的に配置されている細胞の集合体(塊状の細胞集団)であって、細胞培養によって人工的に作られる集合体を意味する。少なくとも一部の細胞間には細胞外マトリックス成分が配置されていてよい。細胞構造体において、細胞同士が直接接している部分があってもよい。
【0014】
細胞構造体の形状は特に制限はなく、例えば、シート状、球体状、略球体状、楕円体状、略楕円体状、半球状、略半球状、半円状、略半円状、直方体状、略直方体状等が挙げられる。ここで、生体組織は、汗腺、リンパ管、脂腺等を含み、構成が細胞構造体より複雑である。そのため、細胞構造体と生体組織とは容易に区別可能である。また、細胞構造体は、支持体と接着した状態で塊状に集合したものであってもよく、支持体と接着していない状態で塊状に集合したものであってもよい。
【0015】
(細胞)
細胞は体細胞又は生殖細胞であってもよい。さらに、細胞は、幹細胞であってもよく、また、初代培養細胞、継代培養細胞及び細胞株細胞等の培養細胞であってもよい。本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能及び多分化能を有する細胞を意味する。幹細胞には、任意の細胞腫に分化する能力を持つ多能性幹細胞と、特定の細胞腫に分化する能力を持つ組織幹細胞(体性幹細胞とも呼ばれる)が含まれる。多能性幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、体細胞由来ES細胞(ntES細胞)及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)が挙げられる。組織幹細胞としては、例えば、間葉系幹細胞(例えば、骨髄由来幹細胞)、造血幹細胞及び神経幹細胞が挙げられる。
【0016】
本実施形態に係る細胞構造体を構成する細胞の総数は、特に限定されるものではなく、構築する細胞構造体の厚み、形状、構築に使用する細胞培養容器の大きさ等を考慮して適宜決定される。
【0017】
本実施形態に係る細胞構造体において細胞は、肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む。
【0018】
肝細胞は、肝実質細胞とも称され、例えば、胆汁の分泌,血漿タンパク質の分泌等の機能を有する細胞である。細胞構造体を構成する肝細胞としては、動物の肝臓から採取された初代肝細胞であってもよく、初代肝細胞を培養した細胞であってもよく、初代肝細胞を株化した培養細胞株であってもよく、幹細胞から人工的に分化させた肝芽細胞であってもよい。初代肝細胞としては、PXB Cellの様な初代ヒト肝細胞が挙げられる。培養細胞株としては、HepG2の様な不活化された肝がん細胞由来の細胞株が挙げられる。肝芽細胞へ分化させる幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞等が挙げられる。本実施形態に係る細胞構造体に含まれる肝細胞としては、初代肝細胞及び肝芽細胞のように、非がん性細胞であることが好ましく、扱いの簡便性からPXB Cellがより好ましい。
【0019】
細胞構造体に含まれる肝細胞は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。例えば、細胞構造体は、肝機能に関与するタンパク質の遺伝子型が異なる複数の肝細胞を含有していてもよい。また、逆に、細胞構造体に含まれている全ての肝細胞が、肝機能に関与するタンパク質の遺伝子型が同一であってもよい。肝機能に関与するタンパク質としては、例えば、薬物代謝酵素が挙げられる。
【0020】
細胞構造体における細胞の総数(X)に対する、肝細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、又は65%以上であってよく、95%以下、90%以下、80%以下又は75%以下であってよい。細胞構造体における細胞の総数(X)に対する、肝細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、類肝組織としてより一層好適である観点から、60%以上80%以下、又は60%以上70%以下であってよい。
【0021】
血管内皮細胞は、血管内腔の表面を構成する扁平状の細胞を意味する。血管内皮細胞は、例えば、類洞内皮細胞、ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC)であってよい。類洞内皮細胞は、肝非実質細胞(肝臓を構成する細胞のうちの肝細胞以外の細胞)であり、細胞質に多数の小孔集合(篩板構造)を有し、基底膜を欠くなど他の血管内皮細胞と異なる特徴的な形態を有する細胞である。細胞構造体を構成する血管内皮細胞としては、動物(例えばヒト)の肝臓から採取された初代細胞(初代血管内皮細胞)であってもよく、初代細胞を培養した細胞であってもよく、初代細胞を株化した培養細胞株であってもよく、幹細胞から人工的に分化させた細胞であってもよい。初代血管内皮細胞としては、例えば、Sciencell社製の製品型番5000等の初代類洞内皮細胞が挙げられる。培養細胞株としては、例えば、Applied Biological Materials社製の製品型番T0056の培養細胞株が挙げられる。分化させる幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)等が挙げられる。本実施形態に係る細胞構造体に含まれる血管内皮細胞は、非がん性細胞であってよい。
【0022】
細胞構造体における細胞の総数(X)に対する、血管内皮細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、5%以上、10%以上、12%以上、14%以上、15%以上、20%以上、又は25%以上であってよく、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、又は18%以下であってよい。細胞構造体における細胞の総数(X)に対する、血管内皮細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、類肝組織としてより一層好適である観点から、5%以上40%以下、5%以上35%以下、10%以上35%以下、10%以上25%以下、又は12%以上20%以下であってよい。細胞構造体における細胞の総数に対する、類洞内皮細胞の数が上記範囲内であってよい。
【0023】
本実施形態に係る細胞構造体において細胞は、類肝組織としてより一層好適である観点から、肝星細胞を更に含んでいてよい。肝星細胞は、肝非実質細胞(肝臓を構成する細胞のうちの肝細胞以外の細胞であり、ビタミンAを貯蔵する機能等を有し、肝臓における肝細胞と類洞の間の領域であるディッセ腔に存在する。肝星細胞としては、例えば、動物(例えばヒト)の肝臓から採取された初代細胞(初代肝星細胞)であってもよく、初代細胞を培養した細胞であってもよく、初代細胞を株化した培養細胞株であってもよく、幹細胞から人工的に分化させた細胞であってもよい。初代肝星細胞としては、例えば、Sciencell社製型番5300の初代肝星細胞が挙げられる。培養細胞株としては、例えば、LX-2のような培養細胞株が挙げられる。分化させる幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞等が挙げられる。本実施形態に係る細胞構造体に含まれる肝星細胞は、非がん性細胞であってよい。
【0024】
細胞構造体における細胞の総数(X)に対する、肝星細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、又は5%以上であってよく、20%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下又は11%以下であってよい。細胞構造体における細胞の総数(X)に対する、肝星細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、類肝組織としてより一層好適である観点から、1%以上15%以下、又は3%以上12%以下であってよい。
【0025】
本実施形態において、細胞は、肝細胞、血管内皮細胞及び肝星細胞以外の他の細胞を含んでいてもよい。他の細胞は、例えば、成熟した体細胞であってよく、幹細胞のような未分化な細胞であってもよい。体細胞の具体例としては、例えば、神経細胞、樹状細胞、免疫細胞、リンパ管内皮細胞、線維芽細胞、上皮細胞(但し、肝細胞を除く。)、心筋細胞、膵島細胞、平滑筋細胞、骨細胞、肺胞上皮細胞、脾臓細胞等が挙げられる。幹細胞としては、ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞等が挙げられる。他の細胞は、正常細胞であってもよく、がん細胞のようにいずれかの細胞機能が亢進又は抑制されている細胞であってもよい。「がん細胞」とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。
【0026】
細胞構造体における細胞は、他の細胞として、間葉系幹細胞を含んでいてよく、含んでいなくてもよい。細胞構造体における細胞の総数(X)に対する、間葉系幹細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、又は45%以上であってよく、80%以下、70%以下、60%以下、又は55%以下であってよい。
【0027】
細胞に含まれる肝細胞、血管内皮細胞、肝星細胞又は上記他の細胞の由来は、特に限定されないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の哺乳類動物に由来する細胞であってよい。
【0028】
本実施形態に係る細胞構造体における細胞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から分化誘導された細胞を含まなくてよい。本実施形態に係る細胞構造体における細胞がiPS細胞から分化誘導された細胞を含まない場合には、iPS細胞からの分化の程度、細胞全体に対する分化した細胞の割合等の把握がより容易になり、結果として、細胞構造体を構成する細胞それぞれの含有率の把握がより一層容易になる。
【0029】
本実施形態に係る細胞構造体は、少なくとも一部の細胞間に血管が形成されている。「細胞間に血管が形成されている」とは、血管内皮細胞によって形成された管状構造が細胞と細胞との間に延びた構造を有することを意味する。細胞構造体は、細胞間に血管が形成されていない間隙を有していてもよい。間隙とは、何もない空間であってもよいが、細胞外マトリックス成分等によって埋められていてもよい。
【0030】
人工的に作製した厚みのある細胞構造体は、血管が存在しない状態で維持することが難しく、外部から酸素等を供給する必要があるとされている。これに対して、本実施形態に係る細胞構造体は、生体組織のように細胞間に血管が形成されているため、長期間維持できることが期待される。また、哺乳類等に移植した際に生着しやすくなることも期待される。
【0031】
本実施形態に係る細胞構造体は、細胞間に肝類洞網を有することが好ましい。「肝類洞網を有する」とは、血管内皮細胞によって形成された管状構造が分岐して細胞を取り囲むように網目状に形成された構造を有していることを意味する。細胞間の血管構造及び肝類洞網は、免疫組織染色によって確認することができる。例えば、細胞構造体は、上面から顕微鏡観察したときに、分岐点を複数有し、網目構造になっていることが観察される程度に、肝類洞網を有していてよい。
【0032】
(細胞外マトリックス成分)
本実施形態に係る細胞構造体は、細胞外マトリックス成分を含む。細胞外マトリックス成分は、少なくとも一部の細胞の間に配置されている。
【0033】
本明細書において「細胞外マトリックス成分」とは、複数の細胞外マトリックス分子によって形成されている細胞外マトリックス分子の集合体である。細胞外マトリックスとは、生物において細胞の外に存在する物質を意味する。細胞外マトリックスとしては、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の物質を用いることができる。具体例としては、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、ラミニン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン及びカドヘリン等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックス成分は、これらの1種単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。細胞外マトリックス成分は、例えば、コラーゲン成分を含んでいてよく、コラーゲン成分であってもよい。細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分である場合、コラーゲン成分が細胞接着の足場として機能し、三次元的な細胞構造体の形成がより一層促進される。本実施形態における細胞外マトリックス成分は、動物細胞の外に存在する物質、すなわち動物の細胞外マトリックス成分であることが好ましい。なお、細胞外マトリックス分子は、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、上述の細胞外マトリックス分子の改変体及びバリアントであってもよく、化学合成ペプチド等のポリペプチドであってもよい。
【0034】
細胞外マトリックス成分は、コラーゲンに特徴的なGly-X-Yで表される配列の繰り返しを有していてよい。ここで、Glyはグリシン残基を表し、X及びYはそれぞれ独立に任意のアミノ酸残基を表す。複数のGly-X-Yは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Gly-X-Yで示される配列の繰り返しを有することによって、分子鎖の配置への束縛が少なく、足場材としての機能がより一層優れたものとなる。Gly-X-Yで示される配列の繰り返しを有する細胞外マトリックス成分において、Gly-X-Yで示される配列の割合は、全アミノ酸配列のうち、80%以上であってよく、好ましくは95%以上である。また、細胞外マトリックス成分は、RGD配列を有していてよい。RGD配列とは、Arg-Gly-Asp(アルギニン残基-グリシン残基-アスパラギン酸残基)で表される配列をいう。細胞外マトリックス成分が、RGD配列を有する場合、細胞接着がより一層促進され、足場材としてより一層好適なものとなる。Gly-X-Yで表される配列と、RGD配列とを含む細胞外マトリックス成分には、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、カドヘリン等が含まれる。
【0035】
細胞外マトリックス成分の形状としては、例えば、線維状が挙げられる。線維状とは、糸状の細胞外マトリックス成分で構成される形状、又は糸状の細胞外マトリックス成分が分子間で架橋して構成される形状を意味する。細胞外マトリックス成分の少なくとも一部は、線維状であってよい。細胞外マトリックス成分の形状は、顕微鏡観察した際に観察されるひとかたまりの細胞外マトリックス成分(細胞外マトリックス成分の集合体)の形状であり、細胞外マトリックス成分は、好適には後述する平均径及び/又は平均長の大きさを有するものである。繊維状の細胞外マトリックス成分には、複数の糸状細胞外マトリックス分子が集合して形成された細い糸状物(細線維)、細線維が更に集合して形成される糸状物、これらの糸状物を解繊したもの等が含まれる。形状が線維状である細胞外マトリックス成分を含むと、線維状の細胞外マトリックス成分ではRGD配列が破壊されることなく保存されており、細胞接着のための足場材としてより一層効果的に機能することができる。
【0036】
細胞外マトリックス成分は、断片化された細胞外マトリックス成分を含んでいてよい。「断片化」とは、細胞外マトリックス成分の集合体をより小さなサイズにすることを意味する。断片化された細胞外マトリックス成分は、解繊された細胞外マトリックス成分を含んでもよい。解繊された細胞外マトリックス成分は、上述の細胞外マトリックス成分を物理的な力の印加により解繊した成分である。例えば、解繊は、細胞外マトリックス分子内の結合を切断しない条件で行われるものである。
【0037】
断片化された細胞外マトリックス成分は、例えば、細胞外マトリックス成分を断片化する工程(断片化工程)を含む方法によって製造することができる。
【0038】
細胞外マトリックス成分を断片化する方法は、特に制限はなく、物理的な力の印加によって断片化してよい。物理的な力の印加によって断片化された細胞外マトリックス成分は、酵素処理とは異なり、通常、分子構造は断片化する前とは変化しない(分子構造は維持されている。)。細胞外マトリックス成分を断片化する方法は、例えば、塊状の細胞外マトリックス成分を細かく砕く方法であってよい。細胞外マトリックス成分は、固相で断片化されてもよく、水性媒体中で断片化されてもよい。例えば、超音波式ホモジナイザー、撹拌式ホモジナイザー、及び高圧式ホモジナイザー等の物理的な力の印加によって細胞外マトリックス成分を断片化してもよい。撹拌式ホモジナイザーを用いる場合、細胞外マトリックス成分をそのままホモジナイズしてもよいし、生理食塩水等の水性媒体中でホモジナイズしてもよい。また、ホモジナイズする時間、回数等を調整することでミリメートルサイズ、ナノメートルサイズの断片化された細胞外マトリックス成分を得ることも可能である。細胞外マトリックス成分を水性媒体中で断片化する場合、断片化された細胞外マトリックス成分は、例えば、細胞外マトリックス成分を水性媒体中で断片化する工程と、断片化された細胞外マトリックス成分及び水性媒体を含む液から水性媒体を除去する工程(除去工程)とを含む方法によって製造することができる。除去工程は、例えば、凍結乾燥法により実施してよい。「水性媒体を除去する」とは、断片化された細胞外マトリックス成分中に一切の水分が付着していないことを意味するものではなく、上述の一般的な乾燥手法により、常識的に達することができる程度に水分が付着していないことを意味する。
【0039】
断片化された細胞外マトリックス成分の直径及び長さは、電子顕微鏡によって個々の断片化された細胞外マトリックス成分を解析することによって求めることが可能である。
【0040】
断片化された細胞外マトリックス成分の平均長は、100nm以上400μm以下であってよく、100nm以上200μm以下であってよい。一実施形態において、断片化された細胞外マトリックス成分の平均長は、厚い細胞構造体が形成しやすくなる観点から、5μm以上400μm以下であってよく、10μm以上400μm以下であってよく、100μm以上400μm以下であってよい。他の実施形態において、断片化された細胞外マトリックス成分の平均長は、100μm以下であってよく、50μm以下であってよく、30μm以下であってよく、15μm以下であってよく、10μm以下であってよく、1μm以下であってよく、100nm以上であってよい。断片化された細胞外マトリックス成分全体のうち、大部分の断片化された細胞外マトリックス成分の平均長が上記数値範囲内であることが好ましい。具体的には、断片化された細胞外マトリックス成分全体のうち、50%以上の断片化された細胞外マトリックス成分の平均長が上記数値範囲内であることが好ましく、95%の断片化された細胞外マトリックス成分の平均長が上記数値範囲内であることがより好ましい。断片化された細胞外マトリックス成分は、平均長が上記範囲内である断片化されたコラーゲン成分であることが好ましい。
【0041】
断片化された細胞外マトリックス成分の平均径は、50nm~30μmであってよく、4μm~30μmであってよく、5μm~30μmであってよい。断片化された細胞外マトリックス成分は、平均径が上記範囲内である断片化されたコラーゲン成分であることが好ましい。
【0042】
断片化された細胞外マトリックス成分の平均長及び平均径は、光学顕微鏡等によって個々の断片化された細胞外マトリックス成分を測定し、画像解析することによって求めることが可能である。本明細書において、「平均長」は、測定した試料の長手方向の長さの平均値を意味し、「平均径」は、測定した試料の長手方向に直交する方向の長さの平均値を意味する。
【0043】
断片化されたコラーゲン成分は「断片化コラーゲン成分」とも称される。「断片化コラーゲン成分」とは、線維性コラーゲン成分等のコラーゲン成分を断片化したものであって、三重らせん構造を維持しているものを意味する。断片化コラーゲン成分の平均長は、100nm~200μmであることが好ましく、22μm~200μmであることがより好ましく、100μm~200μmであることがさらにより好ましい。断片化コラーゲン成分の平均径は、50nm~30μmであることが好ましく、4μm~30μmであることがより好ましく、20μm~30μmであることがさらにより好ましい。
【0044】
細胞外マトリックス成分の少なくとも一部は分子間又は分子内で架橋されていてよい。細胞外マトリックス成分は、細胞外マトリックス成分を構成する細胞外マトリックス分子の分子内又は分子間で架橋されていてよい。細胞外マトリックス成分が断片化された細胞外マトリックス成分を含む場合、断片化された細胞外マトリックス成分の少なくとも一部が分子間又は分子内で架橋されていてよい。
【0045】
少なくとも一部が分子間又は分子内で架橋された細胞外マトリックス成分は、例えば、細胞外マトリックス成分を架橋する工程(架橋工程)を含む方法によって製造することができる。細胞外マトリックス成分は、例えば、断片化及び架橋された細胞外マトリックス成分を含むことができる。断片化及び架橋された細胞外マトリックス成分は、例えば、細胞外マトリックス成分を断片化する工程と、断片化された細胞外マトリックス成分を架橋する工程とをこの順に備える方法、又は、細胞外マトリックス成分を架橋する工程と、架橋された細胞外マトリックス成分を断片化する工程とをこの順に備える方法によって製造することができる。
【0046】
架橋する方法としては、例えば、熱、紫外線、放射線等の印加による物理架橋、架橋剤、酵素反応等による化学架橋等による方法が挙げられるが、その方法は特に限定されない。細胞の生育を妨げない観点からは、物理架橋が好ましい。架橋(物理架橋及び化学架橋)は、共有結合を介した架橋であってよい。
【0047】
細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分を含む場合、架橋は、コラーゲン分子(三重らせん構造)の間で形成されていてもよく、コラーゲン分子によって形成されたコラーゲン細繊維の間で形成されていてもよい。架橋は、熱による架橋(熱架橋)であってよい。熱架橋は、例えば、真空ポンプを使って減圧下で、加熱処理を行うことにより実施することができる。コラーゲン成分の熱架橋を行う場合、細胞外マトリックス成分は、コラーゲン分子のアミノ基が、同一又は他のコラーゲン分子のカルボキシ基とペプチド結合(-NH-CO-)を形成することにより、架橋されていてよい。
【0048】
細胞外マトリックス成分は架橋剤を使用することによっても、架橋させることができる。架橋剤は、例えば、カルボキシル基とアミノ基を架橋可能なもの、又はアミノ基同士を架橋可能なものであってよい。架橋剤としては、例えば、アルデヒド系、カルボジイミド系、エポキシド系及びイミダゾール系架橋剤が経済性、安全性及び操作性の観点から好ましく、具体的には、グルタルアルデヒド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリニル-4-エチル)カルボジイミド・スルホン酸塩等の水溶性カルボジイミドを挙げることができる。
【0049】
架橋度の定量は、細胞外マトリックス成分の種類、架橋する手段等に応じて、適宜選択することができる。架橋度は、1%以上、2%以上、4%以上、8%以上、又は12%以上であってよく、30%以下、20%以下、又は15%以下であってもよい。架橋度が上記範囲にあることにより、細胞外マトリックス分子が適度に分散することができ、また、乾燥保存後の再分散性が良好である。
【0050】
細胞外マトリックス成分中のアミノ基が架橋に使用される場合、架橋度は、Acta Biomaterialia,2015,vol.25,pp.131-142等に記載されているTNBS(2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)法に基づき定量することが可能である。TNBS法による架橋度が、上述の範囲内であってもよい。TNBS法による架橋度は、細胞外マトリックスが有するアミノ基のうち架橋に使われているアミノ基の割合である。細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分を含む場合、TNBS法により測定される架橋度が上記範囲内であることが好ましい。
【0051】
架橋度は、カルボキシル基を定量することにより、算出してもよい。例えば、水に不溶性の細胞外マトリックス成分の場合、TBO(トルイジンブルーO)法により定量してもよい。TBO法による架橋度が、上述した範囲内であってもよい。
【0052】
架橋する工程において、細胞外マトリックス成分を加熱する際の温度(加熱温度)及び時間(加熱時間)は適宜定めることができる。加熱温度は、例えば100℃以上であってよく、200℃以下であってよく、220℃以下であってよい。加熱温度は、具体的には、例えば、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、200℃、又は220℃等であってよい。加熱時間(上記加熱温度で保持する時間)は、加熱温度により適宜設定することができる。加熱時間は、例えば、100℃~200℃で加熱する場合、6時間以上72時間以下であってよく、より好ましくは24時間以上48時間以下である。架橋する工程では、溶媒非存在下で加熱してよく、また、減圧条件下で加熱してもよい。
【0053】
細胞構造体における細胞外マトリックス成分の含有量は、細胞構造体の乾燥重量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、10質量%、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってよく、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってよい。細胞構造体における細胞外マトリックス成分の含有量は、細胞構造体の乾燥重量を基準として、0.01~90質量%であってよく、10~90質量%、10~80質量%、10~70質量%、10~60質量%、1~50質量%、10~50質量%、10~30質量%、又は20~30質量%であってよい。
【0054】
ここで、「細胞構造体における細胞外マトリックス成分」とは、細胞構造体を構成する細胞外マトリックス成分を意味し、内因性細胞外マトリックス成分に由来していてもよく、外因性細胞外マトリックス成分に由来していてもよい。
【0055】
「内因性の細胞外マトリックス成分」とは、細胞外マトリックス産生細胞が産生する細胞外マトリックス成分を意味する。細胞外マトリックス産生細胞としては、例えば、上述した線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞等の間葉系細胞が挙げられる。内因性細胞外マトリックス成分は、線維性であってもよいし、非線維性であってもよい。
【0056】
「外因性の細胞外マトリックス成分」とは、外部から供給される細胞外マトリックス成分を意味する。本実施形態に係る細胞構造体は、外因性の細胞外マトリックス成分である断片化された細胞外マトリックス成分を含む。外因性の細胞外マトリックス成分は、由来となる動物種が内因性の細胞外マトリックス成分と同じであっても異なっていてもよい。由来となる動物種としては、例えば、ヒト、ブタ、ウシ等が挙げられる。また、外因性の細胞外マトリックス成分は、人工の細胞外マトリックス成分であってもよい。
【0057】
細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分である場合には、外因性の細胞外マトリックス成分は「外因性コラーゲン成分」とも称され、外部から供給されるコラーゲン成分を意味する「外因性コラーゲン成分」は、複数のコラーゲン分子によって形成されている、コラーゲン分子の集合体であり、具体的には、線維性コラーゲン、非線維性コラーゲン等が挙げられる。外因性コラーゲン成分は、線維性コラーゲンであることが好ましい。上記線維性コラーゲンは、コラーゲン線維の主成分となるコラーゲン成分を意味し、例えば、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲンが挙げられる。上記線維性コラーゲンは、市販されているコラーゲンを用いてもよく、その具体例としては、日本ハム株式会社製のブタ皮膚由来I型コラーゲンが挙げられる。外因性の非線維性コラーゲンとしては、例えば、IV型コラーゲンが挙げられる。
【0058】
外因性の細胞外マトリックス成分において、由来する動物種は、細胞とは異なっていてよい。また、細胞が、細胞外マトリックス産生細胞を含む場合、外因性の細胞外マトリックス成分において、由来する動物種は、細胞外マトリックス産生細胞とは異なっていてもよい。つまり、外因性の細胞外マトリックス成分は、異種細胞外マトリックス成分であってよい。
【0059】
すなわち、細胞構造体が内因性細胞外マトリックス成分及び断片化された細胞外マトリックス成分を含む場合、上記細胞構造体を構成する細胞外マトリックス成分含有率は、内因性細胞外マトリックス成分及び断片化された細胞外マトリックス成分の合計量を意味する。上記細胞外マトリックス含有率は、得られた細胞構造体の体積、及び脱細胞化した細胞構造体の質量から算出することが可能である。
【0060】
例えば、細胞構造体に含まれる細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分である場合、細胞構造体におけるコラーゲン成分量を定量する方法としては、例えば、以下のようなヒドロキシプロリンを定量する方法が挙げられる。細胞構造体を溶解した溶解液に、塩酸(HCl)を混合し、高温で所定の時間インキュベートした後に室温に戻し、遠心分離した上澄みを所定の濃度に希釈することでサンプルを調製する。ヒドロキシプロリンスタンダード溶液をサンプルと同様に処理した後、段階的に希釈してスタンダードを調製する。サンプル及びスタンダードのそれぞれに対してヒドロキシプロリンアッセイバッファ及び検出試薬で所定の処理をし、570nmの吸光度を測定する。サンプルの吸光度をスタンダードと比較することでコラーゲン成分量を算出する。なお、細胞構造体を、高濃度の塩酸に直接懸濁して溶解した溶解液を遠心分離して上澄みを回収し、コラーゲン成分定量に用いてもよい。また、溶解させる細胞構造体は、培養液から回収したままの状態であってもよいし、回収後に乾燥処理を行い、液体成分を除去した状態で溶解させてもよい。但し、培養液から回収したままの状態の細胞構造体を溶解してコラーゲン成分定量を行う場合、細胞構造体が吸収している培地成分、及び実験手技の問題による培地の残りの影響で、細胞構造体重量の計測値がばらつくことが予想されるため、組織体の重量及び単位重量あたりに占めるコラーゲン成分量を安定して計測する観点からは、乾燥後の重量を基準とすることが好ましい。
【0061】
コラーゲン成分量を定量する方法として、より具体的には、例えば、以下のような方法が挙げられる。
(サンプルの調製)
凍結乾燥処理を行った細胞構造体の全量を6mol/L HClと混合し、ヒートブロックで95℃、20時間以上インキュベートした後、室温に戻す。13000gで10分遠心分離した後、サンプル溶液の上澄みを回収する。後述する測定において結果が検量線の範囲内に収まるように6mol/L HClで適宜希釈した後、200μLを100μLの超純水で希釈することでサンプルを調製する。サンプルは35μL用いる。
【0062】
(スタンダードの調製)
スクリューキャップチューブに125μLのスタンダード溶液(1200μg/mL in acetic acid)と、125μLの12mol/l HClを加え混合し、ヒートブロックで95℃、20時間インキュベートした後、室温に戻す。13000gで10分遠心分離した後、上澄みを超純水で希釈して300μg/mLのS1を作製し、S1を段階的に希釈してS2(200μg/mL)、S3(100μg/mL)、S4(50μg/mL)、S5(25μg/mL)、S6(12.5μg/mL)、S7(6.25μg/mL)を作製する。4mol/l HCl90μLのみのS8(0μg/mL)も準備する。
【0063】
(アッセイ)
35μLのスタンダード及びサンプルをそれぞれプレート(QuickZyme Total Collagen Assayキット付属、QuickZyme Biosciences社)に加える。75μLのアッセイバッファ(上記キット付属)をそれぞれのウェルに加える。シールでプレートを閉じ、20分シェイキングしながら室温でインキュベートする。シールをはがし、75μLのdetection reagent (reagent A:B=30μL:45μL、上記キット付属)をそれぞれのウェルに加える。シールでプレートを閉じ、シェイキングで溶液を混合し、60℃で60分インキュベートする。氷上で十分に冷まし、シールをはがして570nmの吸光度を測定する。サンプルの吸光度をスタンダードと比較することでコラーゲン成分量を算出する。
【0064】
細胞構造体中に占めるコラーゲン成分を、その面積比又は体積比によって規定してもよい。「面積比又は体積比によって規定する」とは、例えば細胞構造体中のコラーゲン成分を既知の染色手法(例えば、抗コラーゲン抗体を用いた免疫染色、又はマッソントリクローム染色)等で他の組織構成物と区別可能な状態にした上で、肉眼観察、各種顕微鏡及び画像解析ソフト等を用いて、細胞構造体全体に占めるコラーゲン成分の存在領域の比率を算出することを意味する。面積比で規定する場合、細胞構造体中の如何なる断面もしくは表面によって面積比を規定するかは限定されないが、例えば細胞構造体が球状体等である場合には、その略中心部を通る断面図によって規定してもよい。
【0065】
例えば、細胞構造体中のコラーゲン成分を面積比によって規定する場合、その面積の割合は、上記細胞構造体の全体の面積を基準として、通常0.01~99%であり、1~99%、5~90%、7~90%、20~90%、30~90%、又は50~90%であってよい。「細胞構造体におけるコラーゲン成分」については、上述したとおりである。細胞構造体を構成するコラーゲン成分の面積の割合は、内因性コラーゲン成分及び外因性コラーゲン成分を合わせた面積の割合を意味する。コラーゲン成分の面積の割合は、例えば、得られた細胞構造体をマッソントリクロームで染色し、細胞構造体の略中心部を通る断面の全体の面積に対する、青く染色したコラーゲン成分の面積の割合として算出することが可能である。
【0066】
(高分子電解質)
一実施形態に係る細胞構造体は、高分子電解質を更に含んでいてもよい。高分子電解質は、電解質の性質を有する高分子化合物である。高分子電解質としては、ヘパリン、コンドロイチン硫酸(例えば、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸)、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸等のグリコサミノグリカン;デキストラン硫酸、ラムナン硫酸、フコイダン、カラギナン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、及びポリアクリル酸、又はこれらの誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。高分子電解質は、上述したもの1種からなるものであってよく、2種以上を組み合わせて含むものであってもよい。
【0067】
高分子電解質はグリコサミノグリカンであることが好ましく、ヘパリン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、及びデルマタン硫酸からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、ヘパリンであることが更に好ましい。細胞構造体が高分子電解質を含む場合、細胞外マトリックス成分の過度な凝集をより効果的に抑制することができ、結果として、肝毒性を有する物質に対する応答性に優れる細胞構造体がより得られやすくなる。細胞構造体がヘパリンを含む場合、当該効果はより一層顕著なものとなる。
【0068】
細胞外マトリックス成分の質量Cに対する、高分子電解質の質量Cの比(C/C)は、1/100~100/1、1/10~10/1、1/5~5/1又は1/2~2/1であってよく、1/1.5~1.5/1であってよい。
【0069】
(細胞構造体)
上記細胞構造体の厚さは、10μm以上、30μm以上、50μm以上、100μm以上、300μm以上、又は1000μm以上であってよい。このような細胞構造体は、生体組織により近い構造であり、実験動物の代替品、及び移植材料として好適なものとなる。細胞構造体の厚さの上限は、特に制限されないが、例えば、10mm以下、3mm以下、2mm以下、1.5mm以下、又は1mm以下であってもよい。
【0070】
ここで、「細胞構造体の厚さ」とは、細胞構造体がシート状、又は直方体状である場合、主面に垂直な方向における両端の距離を意味する。上記主面に凹凸がある場合、厚さは上記主面の最も薄い部分における距離を意味する。
【0071】
細胞構造体が球体状又は略球体状である場合、細胞構造体の厚さは、細胞構造体の直径を意味する。細胞構造体が楕円体状又は略楕円体状である場合、細胞構造体の厚さは、細胞構造体の短径を意味する。細胞構造体が略球体状又は略楕円体状であって表面に凹凸がある場合、細胞構造体の厚さは、細胞構造体の重心を通る直線と上記表面とが交差する2点間の距離であって最短の距離を意味する。
【0072】
細胞構造体は、断片化された細胞外マトリックス成分を含む、及び/又は、高分子電解質を含むことが好ましい。この場合、細胞構造体が肝毒性を評価するための組織モデル等としてより一層好適なものとなる。
【0073】
(フィブリン)
本実施形態に係る細胞構造体は、フィブリンを含んでいてもよい。フィブリンは、フィブリノゲンにトロンビンが作用してAα鎖、Bβ鎖のN末端からA鎖、B鎖を放出して生ずる成分である。フィブリンはポリマーであり、一般的に水に不溶である。フィブリンは、フィブリノゲンと、トロンビンとを接触させることにより形成される。
【0074】
本実施形態に係る細胞構造体は、細胞培養容器中に構築される。当該細胞培養容器としては、細胞構造体の構築が可能であり、かつ構築された細胞構造体の培養が可能な容器であれば特に限定されるものではない。当該細胞培養容器としては、具体的には、ディッシュ、セルカルチャーインサート(例えば、Transwell(登録商標)インサート、Netwell(登録商標)インサート、Falcon(登録商標)セルカルチャーインサート、Millicell(登録商標)セルカルチャーインサート等)、チューブ、フラスコ、ボトル、プレート等が挙げられる。細胞構造体の構築においては、当該細胞構造体を用いた評価をより適正に行うことができる観点から、ディッシュ又は各種セルカルチャーインサートが好ましい。
【0075】
[細胞構造体の製造方法]
本実施形態に係る細胞構造体の製造方法は、肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む細胞と、細胞外マトリックス成分とを、水性媒体中で接触させる接触工程と、細胞外マトリックス成分と接触させた細胞を培養する培養工程と、を備える。細胞及び細胞外マトリックス成分については、上述したとおりのものを用いることができる。本実施形態に係る細胞構造体の製造方法において、接触工程は、水性媒体中での細胞外マトリックス成分の凝集が抑制された条件で行われてもよく、培養工程は、肝非実質細胞の培養に適した条件で行われてもよい。
【0076】
(接触工程)
接触工程では、肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む細胞と、細胞外マトリックス成分とを、水性媒体中で接触させる。細胞と、細胞外マトリックス成分とを接触させることにより、三次元的な細胞構造体を得やすくなることが期待される。
【0077】
細胞と、細胞外マトリックス成分との接触は、例えば、水性媒体中での細胞外マトリックス成分の凝集が抑制された条件で行われてよい。当該条件で、細胞と、細胞外マトリックス成分との接触が行われると、細胞構造体中に肝類洞網がより一層形成されやすくなる。細胞構造体において、細胞が肝細胞を含む場合には、肝細胞同士が接着しやすいため、細胞間の隙間が小さくなりやすく、結果として、肝類洞網のような菅状構造ができにくくなると考えられる。水性媒体中での細胞外マトリックス成分の過度な凝集が抑制された条件で細胞と細胞外マトリックス成分とを接触させると、細胞構造体における細胞外マトリックス成分及び細胞の分布がより均一になり、結果として、肝類洞網が形成されやすくなり、肝毒性を有する物質に対する応答性に優れる細胞構造体が得られやすくなると推測される。
【0078】
細胞外マトリックス成分は、例えば、該細胞外マトリックス成分とともに、該細胞外マトリックス成分の凝集を抑制する成分(例えば、上述した高分子電解質)を存在させること、及び/又は細胞外マトリックス成分の少なくとも一部として断片化された細胞外マトリックス成分を用いること等によって、水性媒体中における凝集を抑制することができる。水性媒体中での細胞外マトリックス成分の凝集が抑制された条件は、例えば、高分子電解質が存在する条件、及び/又は、細胞外マトリックス成分が断片化された細胞外マトリックスを含む条件であってよい。
【0079】
「水性媒体」とは、水を必須構成成分とする液体を意味する。水性媒体としては、例えば、カチオン性物質を含む水性媒体であってよい。カチオン性物質を含む水性媒体は、例えば、トリス-塩酸緩衝液、トリス-マレイン酸緩衝液、ビス-トリス-緩衝液、又はHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)等のカチオン性緩衝液であってよく、カチオン性物質としてエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリリシン、ポリヒスチジン、ポリアルギニン等のカチオン性化合物と水とを含む媒体であってもよい。また、上記水性媒体としては、培地を用いることもできる。培地としては、例えばDulbecco’s Modified Eagle培地(DMEM)、血管内皮細胞専用培地(EGM2)等の液体培地が挙げられる。液体培地は、二種類の培地を混合した混合培地であってもよい。
【0080】
カチオン性物質を含む水性媒体におけるカチオン性物質(例えば、トリス-塩酸緩衝液におけるトリス)の濃度及びpHは、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、カチオン性物質の濃度は、カチオン性物質を含む水性媒体の全量を基準として、10~100mM、又は40~70mMであってよく、50mMであってよい。水性媒体(例えば、カチオン性緩衝液)のpHは、6.0~8.0、6.8~7.8、又は7.2~7.6であってよい。
【0081】
接触工程としては、水性媒体中での細胞外マトリックス成分の凝集が抑制された条件の下、細胞外マトリックス成分を含有する水性媒体と、細胞を含む培養液とを混合する方法、細胞を含む培養液に細胞外マトリックス成分を含有する水性媒体を加える方法、細胞外マトリックス成分を含有する水性媒体に細胞を加える方法、予め用意した水性媒体に、細胞外マトリックス成分及び細胞をそれぞれ加える方法等の方法が挙げられる。
【0082】
上記細胞と細胞外マトリックス成分とを接触させる順番は、特に制限されず、例えば、一部の細胞と、細胞外マトリックス成分とを接触させた後、残りの細胞を細胞外マトリックス成分と接触させてもよいし、すべての細胞を同時に、又は略同時に細胞外マトリックス成分と接触させてもよい。
【0083】
細胞及び細胞外マトリックスを含有する水性媒体は、各物質の添加後に撹拌等により混合してもよく、混合しなくてもよい。接触工程は、細胞及び細胞外マトリックス成分を接触させた後に一定時間インキュベートすることを含んでいてよい。
【0084】
接触工程は、水性媒体中で細胞を集積させた後に行われるものであってもよい。つまり、接触工程は、水性媒体中で細胞を集積させた後、細胞外マトリックス成分を接触させることにより行われてもよい。集積させた細胞と、細胞外マトリックス成分とを接触させることで、下層部の細胞密度が高い細胞構造体が作製しやすくなる。細胞は、例えば、遠心操作、自然沈降等の方法により集積させることができる。
【0085】
接触工程において、細胞の総数(X)に対する肝細胞の数の比率(X/X×100)は、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、又は65%以上であってよく、95%以下、90%以下、80%以下又は75%以下であってよい。接触工程において、細胞の総数(X)に対する肝細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、類肝組織としてより一層好適になる観点から、60%以上80%以下、又は60%以上70%以下であってよい。
【0086】
接触工程において、細胞の総数(X)に対する、血管内皮細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、5%以上、10%以上、12%以上、14%以上、15%以上、20%以上、又は25%以上であってよく、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、又は18%以下であってよい。細胞構造体における細胞の総数(X)に対する、血管内皮細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、類肝組織としてより一層好適である観点から、5%以上40%以下、5%以上35%以下、10%以上35%以下、10%以上25%以下、又は12%以上20%以下であってよい。
【0087】
細胞が肝星細胞を含む場合、接触工程において、細胞の総数(X)に対する、肝星細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、又は5%以上であってよく、20%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下又は11%以下であってよい。細胞構造体における細胞の総数(X)に対する、肝星細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、類肝組織としてより一層好適である観点から、1%以上15%以下、又は3%以上12%以下であってよい。
【0088】
接触工程において、細胞の総数(X)に対する、肝細胞、血管内皮細胞及び肝星細胞以外の他の細胞の数(X)の比率(X/X×100)は、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、又は45%以上であってよく、80%以下、70%以下、60%以下、又は55%以下であってよい。接触工程における、細胞の総数に対する間葉系幹細胞の数(X)の比率が上記範囲内であってもよい。
【0089】
上記細胞は、iPS細胞由来でないことが好ましい。iPS細胞由来でない細胞を用いる場合には、細胞構造体中の細胞の種類及びその含有量がより特定しやすくなり、結果として、より肝毒性を評価するための組織モデルとしてより一層適したものとなる。
【0090】
接触工程における細胞外マトリックス成分の濃度は、目的とする細胞構造体の形状、厚さ、培養器のサイズ等に応じて適宜決定できる。例えば、接触工程における水性媒体中の細胞外マトリックス成分の濃度は、0.1~90質量%であってもよいし、1~30質量%であってもよい。
【0091】
接触工程における細胞外マトリックス成分の量は、例えば、1.0×10cellsの細胞に対して、0.1~100mg、0.5~50mg、0.8~25mg、1.0~10mg、1.0~5.0mg、1.0~2.0mg、又は1.0~1.8mgであってよく、0.7mg以上、1.1mg以上、1.2mg以上、1.3mg以上又は1.4mg以上であってよく、7.0mg以下、3.0mg以下、2.3mg以下、1.8mg以下、1.7mg以下、1.6mg以下又は1.5mg以下であってもよい。接触工程における断片化された細胞外マトリックス成分の量が、上記範囲内であってもよい。
【0092】
接触工程において、細胞外マトリックス成分と細胞との質量比(細胞外マトリックス成分/細胞)は、1/1~1000/1であることが好ましく、9/1~900/1であることがより好ましく、10/1~500/1であることがさらに好ましい。
【0093】
第一の実施形態において、上記接触工程は、例えば、上記細胞と、細胞外マトリックス成分と、高分子電解質とを水性媒体中において混合する工程(接触工程A)であってよい。
【0094】
高分子電解質としては、上述したものを使用することができる。例えば、高分子電解質の濃度は、水性媒体の総量1mLに対して、0mg超、0.001mg以上、0.005mg以上、0.01mg以上、0.025mg以上、0.05mg以上、又は0.075mg以上であってよく、1.0mg未満、0.5mg以下、又は0.1mg以下であってよい。
【0095】
第1の接触工程は、例えば、細胞外マトリックス成分及び第1の水性媒体を含む細胞外マトリックス成分含有液と、高分子電解質及び第2の水性媒体とを含む高分子電解質含有液と、細胞とを混合することにより行われてよい。細胞外マトリックス成分含有液において、細胞外マトリックス成分は、第1の水性媒体に溶解又は分散していてよい。高分子電解質含有液において、高分子電解質は、第2の水性媒体に溶解していてもよい。第1の水性媒体と、第2の水性媒体とは、同種の水性媒体であってもよく、異種の水性媒体であってもよい。
【0096】
細胞外マトリックス成分含有液、高分子電解質含有液及び細胞を混合する順序は、特に制限されず、任意の順番で、混合してよい。例えば、細胞外マトリックス成分含有液及び高分子電解質含有液を予め混合した混合液を準備し、該混合液と、細胞とを混合してもよい。また、全てを実質的に同時に混合してもよい。
【0097】
細胞外マトリックス成分含有液において、細胞外マトリックス成分の含有量は、細胞外マトリックス成分含有液の全量に対して、0.001~1.5mg/mL、0.05~1.5mg/mL又は0.1~1.0mg/mLであってよい。
【0098】
高分子電解質含有液において、高分子電解質の含有量は、高分子電解質含有液の全量に対して、0.001~10.0mg/mL、0.05~5.0mg/mL、又は0.1~1.0mg/mLであってよい。
【0099】
接触工程における高分子電解質の質量Aと、細胞外マトリックス成分の質量Aとの比(A:A)は、1:200~200:1であってよく、1:100~100:1であってよく、1:10~10:1であってよく、1:5~5:1であってよく、1:2~2:1であってよく、1:1.5~1.5:1であってよく、1:1であってよい。
【0100】
第2の実施形態において、接触工程は、断片化された細胞外マトリックス成分と、細胞とを接触させる工程(接触工程B)であってよい。断片化された細胞外マトリックス成分は、上述したものを用いることができる。第2の接触工程は、細胞外マトリックス成分の一部又は全部に断片化された細胞外マトリックス成分を用いることにより行われてよい。
【0101】
接触工程、又は接触工程後かつ培養工程前に、フィブリノゲン及び/又はトロンビンを含有させることを含んでもよい。フィブリノゲン及びトロンビンは、例えば、同時に添加してもよく、いずれか一方を先に添加し、その後他方を添加してもよい。接触工程では、例えば、細胞外マトリックス成分、水性媒体及びフィブリノゲンを含有する第1の液と、細胞、水性媒体及びトロンビンを含有する第2の液とを混合してよい。フィブリノゲン及び/又はトロンビンを添加することにより、後述する培養工程において生じ得るシュリンクがより抑制されやすくなり、細胞構造体の形状及び大きさを制御しやすくすることができる。また、細胞と細胞外マトリックス成分との懸濁液をゲル化することができるため、各細胞及び細胞外マトリックス成分が均一に混合した状態を維持し、細胞と細胞外マトリックス成分とを近接させた状態を維持しやすくなる。
【0102】
接触工程は、細胞と、細胞外マトリックス成分との接触後に、細胞及び細胞外マトリックス成分を集積させることを含んでいてよい。これらの成分を集積させることによって、細胞構造体における細胞外マトリックス成分及び細胞の分布がより均一になる。細胞及び細胞外マトリックス成分を集積させる方法としては、例えば、細胞外マトリックス成分と細胞とを含む培養液を遠心操作する方法、自然沈降させる方法が挙げられる。
【0103】
(培養工程)
培養工程では、細胞外マトリックス成分と接触させた細胞を培養する。細胞外マトリックスと接触させた細胞の培養は、肝非実質細胞の培養に適した条件で行われる。肝非実質細胞の培養に適した条件は、肝細胞と比べて、肝細胞以外の細胞(例えば、類洞内皮細胞)が生育しやすい条件を意味する。培養工程は、例えば、肝非実質細胞用培地を含む培地中で、上記細胞を培養することにより行われてよく、肝細胞用培地を含まず、かつ、肝非実質細胞用培地を含む培地中で、上記細胞を培養することにより行われてよい。
【0104】
培養工程で用いる培地は、肝臓から分泌されるタンパク質である、インスリン及びトランスフェリンを含んでいなくてよい。培養工程において用いる培地としては、例えば、血管内皮用培地(例えば、EGM2(ロンザ社製)、EGM2-MV(Lonza社製)、Endothelial Cell Growth Medium 2(Promocell社製)、Endothelial Cell Growth Medium MV 2(Promocell社製)、ECM(Sciencell社製)が挙げられる。培地は、血清を添加した培地であってもよいし、無血清培地であってもよい。培地は、二種類の培地を混合した混合培地であってもよい。例えば、血管内皮用培地と、間葉系幹細胞増殖用培地とを混合した混合培地であってもよい。
【0105】
培養工程は、血管形成促進因子の存在下で行われてよい。上記細胞を培養する培地として、血管形成促進因子を含む培地を用いてよい。血管形成促進因子としては、例えば、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)が挙げられる。
【0106】
培養工程における培養温度は、例えば、20℃~40℃であってもよく、30℃~37℃であってもよい。培地のpHは、6~8であってもよく、7.2~7.4であってもよい。培養時間は、1日~2週間であってもよく、1週間~2週間であってもよい。
【0107】
培養器(支持体)は、特に制限されず、例えば、ディッシュ、ウェルインサート、低接着プレート、U字、V字等の底面形状を有するプレートであってよい。上記細胞を支持体と接着させたまま培養してもよく、上記細胞を支持体と接着させずに培養してもよく、培養の途中で支持体から引き離して培養してもよい。上記細胞を支持体と接着させずに培養する場合、又は培養の途中で支持体から引き離して培養する場合には、細胞の支持体への接着を阻害するU字、V字等の底面形状を有するプレート、又は低吸着プレートを用いることが好ましい。
【0108】
培養工程における培地中の細胞密度は、目的とする細胞構造体の形状、厚さ、培養器のサイズ等に応じて適宜決定できる。例えば、培養工程における培地中の細胞密度は、1~10cells/mLであってよく、10~10cells/mLであってよい。また、培養工程における培地中の細胞密度は、接触工程における水性媒体中の細胞密度と同じであってもよい。
【0109】
上記培養工程(以下、「第1の培養工程」とも表す。また、最初の接触工程を「第1の接触工程」とも表す。)の後、さらに細胞を接触させる工程(第2の接触工程)、細胞を培養する工程(第2の培養工程)を含んでもよい。第2の接触工程及び第2の培養工程における上記細胞は、第1の接触工程及び第1の培養工程で用いた細胞と同種であってよく、異種であってもよい。第2の接触工程及び第2の培養工程により、二層構造の細胞構造体を作製することができる。また、さらに、接触工程及び培養工程を繰り返し含むことで複数層の細胞構造体を作製することができ、より複雑な生体に近い組織を作製することもできる。
【0110】
本実施形態に係る製造方法によれば、細胞間に血管が形成されている細胞構造体及び細胞間に肝類洞網を有する細胞構造体を好適に製造することができる。
【0111】
[細胞構造体の用途]
本実施形態に係る細胞構造体は、実験動物の代替品、移植材料等として適用することができ、具体例としては、組織再構築、病理学的なインビトロモデル、医薬品のスクリーニング(薬剤の評価)、化粧品のアッセイスクリーニング等に適用することができる。
【0112】
[被験物質の肝毒性の評価方法]
本実施形態に係る細胞構造体は、肝毒性を有する物質に対する応答性に優れるため、被験物質の肝毒性の有無又は程度を評価するツールとして好適に用いることができる。本実施形態に係る細胞構造体を用いることによって、被験物質の肝毒性についてより信頼性の高い評価が得られやすくなる。本実施形態に係る細胞構造体を用いた被験物質の肝毒性の評価方法を用いることによって、肝毒性を有する物質のスクリーニングを行うこともできる。
【0113】
本実施形態に係る被験物質の肝毒性の評価方法は、上述した細胞構造体を、被験物質と接触させた状態で培養する培養工程を備えている。肝毒性の評価方法は、特に限定されず、例えば、細胞構造体の細胞生存数、ATP含有量、アルブミン生産量、生細胞数に相関した値を得られるその他のアッセイ方法(MTTアッセイ、MTSアッセイなど)や、肝細胞による胆汁酸の取り込み量の定量、グルタチオン定量といった方法、あるいはALTやビリルビン等の臨床で肝障害の有無を評価する際に使用されるマーカーを用いるなど、着目する毒性の機序に応じて適宜選択することができる。
【0114】
本実施形態に係る被験物質の肝毒性の評価方法では、例えば、培養工程後における、細胞構造体の細胞生存数、アルブミン生産量、又はアデノシン三リン酸(ATP)含有量を指標として、肝毒性の有無又は程度を評価してよい。
【0115】
評価工程では、培養工程後における細胞構造体の肝類洞網(血管網)を指標として、肝毒性の有無又は程度を評価してもよい。肝類洞網を指標とする場合、具体的には、例えば、肝類洞網の断片化の程度、及び/又は肝類洞網の総血管長を指標としてよい。
【0116】
培養工程において、細胞構造体と、被験物質との接触は、例えば、細胞構造体の培養培地に被験物質を添加することにより行うことができる。
【0117】
被験物質は、例えば、肝毒性を有することが疑われる薬剤であってよい。
【0118】
評価される対象の被験物質は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の化合物を被験物質として評価する際には、化合物ごとに、細胞構造体と接触させて評価してもよく、複数の化合物を同時に細胞構造体と接触させて評価してもよい。
【0119】
培養工程は、細胞構造体を、被験物質を含有する培地中で培養することにより実施してよい。被験物質を含有する培地中で細胞構造体を培養する時間は、特に制限されないが、例えば、24~96時間、48~96時間、又は48~72時間であってよい。培養環境を著しく変化させない限度において、必要に応じて還流等の流体力学的な付加を与えることもできる。
【0120】
培養工程後における、細胞構造体の細胞生存数を指標として、肝毒性の有無又は程度を評価する方法は、例えば、以下の方法で行うことができる。
【0121】
被験物質の非存在下で、細胞構造体を培養した場合と比較して、細胞構造体中の肝細胞の生細胞数が少ない(生存率が低い)ときに、被験物質が、細胞構造体に含まれる肝細胞に対して毒性を有する、すなわち肝毒性があると評価する。被験物質非存在下の場合と比較して、肝細胞の生存率の低下幅が大きいほど、肝毒性が強いと評価できる。一方で、被験物質の非存在下で培養した場合と比較して、肝細胞の生細胞数が同程度又は有意に多い(生存率が同程度又は高い)場合には、被験物質は、肝毒性がないと評価する。
【0122】
肝細胞の生細胞数は、肝細胞の生細胞又はその存在量に相関のあるシグナルを用いて評価することができる。評価時点の肝細胞の生細胞数を測定できればよく、必ずしも生きている状態で測定する必要はない。例えば、肝細胞をその他の細胞と区別するように標識し、当該標識からのシグナルを指標として調べることができる。例えば、肝細胞を蛍光標識した後、細胞の生死判定を行うことにより、細胞構造体中の生きている肝細胞を直接計数することができる。この際、画像解析技術を利用することもできる。細胞の生死判定はトリパンブルー染色、PI(Propidium Iodide)染色等の公知の細胞の生死判定方法により行うことができる。なお、肝細胞の蛍光標識は、例えば、肝細胞の細胞表面に特異的に発現している物質に対する抗体を一次抗体とし、当該一次抗体と特異的に結合する蛍光標識二次抗体を用いる免疫染色法等の公知の手法で行うことができる。細胞の生死判定及び生細胞数の測定は、細胞構造体の状態で行ってもよく、細胞構造体を単細胞レベルに破壊した状態で行ってもよい。例えば、肝細胞と死細胞を標識した後の細胞構造体の立体構造を破壊した後、標識を指標としたFACS(fluorescence activated cell sorting)等により、評価時点において生きていた肝細胞のみを直接計数することもできる。
【0123】
細胞構造体中の肝細胞を生きている状態で標識し、当該標識からのシグナルを経時的に検出することによって、当該細胞構造体中の肝細胞の生細胞数を経時的に測定することもできる。細胞構造体を構築した後に当該細胞構造体中の肝細胞を標識してもよく、細胞構造体を構築する前に予め肝細胞を標識しておいてもよい。その他、蛍光色素を恒常的に発現させている肝細胞を用いた場合には、細胞構造体を溶解させて得られたライセートの蛍光強度をマイクロプレートリーダー等で測定することによっても、肝細胞の生細胞数を評価することができる。
【0124】
培養工程後における、細胞構造体のアルブミン生産量を指標として、肝毒性の有無又は程度を評価する方法は、例えば、以下の方法で行うことができる。
【0125】
被験物質の非存在下で培養した場合と比較して、細胞構造体中のアルブミン産生量が少ない(アルブミン産生能が低い)場合、又は細胞構造体中のATP含有量が低い場合に、被験物質は、当該濃度において細胞構造体に含まれる肝細胞に対して毒性を有する、すなわち肝毒性があると評価する。被験物質非存在下の場合と比較して、アルブミン産生量の減少幅又はATP含有量の減少幅が大きいほど、肝毒性が強いと評価できる。一方で、被験物質非存在下で培養した場合と比較して、アルブミン産生量が同程度又は有意に多い(アルブミン産生能が同程度若しくは高い)場合又はATP含有量が同程度又は有意に高い場合には、被験物質は、当該濃度において肝毒性がないと評価する。
【0126】
アルブミン産生量は、例えば、培養上清中のアルブミンをELISA法を用いて測定することによって、評価することができる。
【0127】
細胞構造体に含まれている肝細胞は、少なくとも1種類以上の薬物代謝酵素の遺伝子型が共通していることが好ましく、全ての薬物代謝酵素の遺伝子型が共通していることがより好ましい。肝毒性は、薬物代謝酵素に依存する傾向があるため、薬物代謝酵素の遺伝子型がホモである肝細胞を含む細胞構造体を使用することにより、肝毒性をより一層正確に評価することができる。
【0128】
培養工程後における、細胞構造体の肝類洞網を指標として、肝毒性の有無又は程度を評価する方法は、例えば、培養工程後に、細胞構造体中の肝類洞網の総血管長を定量する工程を含む方法によって行うことができる。肝類洞網の総血管長を定量する方法としては、例えば、後述する実施例に記載の方法によって行うことができる。本実施形態に係る被験物質の肝毒性の評価方法は、細胞構造体中の肝類洞網を指標として、肝毒性を評価することができるため、より一層高感度に、被験物質の肝毒性の有無及び程度を評価することが可能である。本実施形態に係る被験物質の肝毒性の評価方法は、肝類洞網が影響を受けることが推定される被験物質の評価を行う際に特に効果的である。
【実施例0129】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0130】
細胞構造体を作製するため、以下の細胞及び培地を準備した。
(細胞)
ヒト肝細胞:フェニックスバイオ社のPXB cell
ヒト間葉系幹細胞(MSC):Lonza社製の製品型番PT-2501
肝類洞内皮細胞(SEC):Sciencell社製の製品型番5000
肝星細胞(Lx2):Merck Millipor社製の製品型番SCC064
(培地)
間葉系幹細胞増殖用培地:製品名MSCGM2、製品コードC28009、Promocell社製
血管内皮用培地1:製品名ECM、製品コード1001、Sciencell社製
血管内皮用培地2:製品名EGM2-MV、製品コードCC-3202、Lonza社製
肝細胞用培地:製品名d-HCGM、製品コードPPC-M200、フェニックスバイオ社製
【0131】
<試験例1:細胞構造体の作製1>
ヘパリン(Sigma社製)を20mM トリス-塩酸緩衝液(pH7.4)に溶解して、ヘパリン溶液を得た。当該ヘパリン溶液の全質量を基準として、ヘパリンの含有量は、1.0mg/mLであった。コラーゲン(コラーゲンI型、ニッピ製)を5mM 酢酸溶液に溶解して、コラーゲン溶液を得た。当該コラーゲン溶液の全質量を基準として、コラーゲンの含有量は、0.4mg/mLであった。
【0132】
マイクロチューブ内に、ヘパリン溶液100μL、及び、コラーゲン溶液100μLを混合した混合液と、PXB cell、SEC及びLx2、並びに、必要に応じて、MSCとを入れ、懸濁した。各種細胞の細胞数は、表1に示す割合となるように調整した。1ウェルあたりの総細胞数は、約100,000cellsとした。
【0133】
得られた懸濁液を、25℃、400×gの条件で、1分間遠心した。これにより、コラーゲン及びヘパリンを細胞表面に付着させた粘稠体を形成させた。延伸後、上清を除去し、マイクロチューブ内に、血管内皮用培地1(ECM)と、間葉系幹細胞増殖用培地(MSCGM2)との混合培地(質量比1:1)を250μL添加し、得られた懸濁液を96wellセルカルチャーインサート(Roche Inc、E-PlateInsert 16)内に播種した。播種後に、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて所定期間培養して、細胞構造体を得た。
【0134】
【表1】
【0135】
図1~3は、実施例1~3の細胞構造体の観察結果を示す写真である。図1は、培養開始日から7日目で固定した後、CD31及びアルブミンにより免疫染色した実施例1のサンプルの観察結果である。図2は、培養開始日から8日目で固定した後、CD31及びアルブミンにより免疫染色した実施例2のサンプルの観察結果である。図3は、培養開始日から8日目で固定した後、CD31及びアルブミンにより免疫染色した実施例のサンプルの観察結果である。図1~3に示す細胞構造体は、肝類洞網を有していた。
【0136】
<試験例2:細胞構造体の作製2>
[解繊されたコラーゲン成分の作製]
ブタ皮膚由来コラーゲンI型スポンジ断片(日本ハム株式会社製)100mgを200℃で24時間加熱を行うことにより、少なくとも一部が架橋されているコラーゲン成分(架橋コラーゲン成分)を得た。なお、200℃の加熱前後において、コラーゲンに外見上の大きな変化は確認されなかった。架橋コラーゲン成分50mgを15mLチューブに入れ、5mLの超純粋を加え、ホモジナイザー(アズワン社 VH-10)を用いて6分間ホモジナイズした。
【0137】
ホモジナイズした架橋コラーゲン成分を含む水溶液を、21℃の条件下、10000rpmで10分間遠心した。上清を吸引し、コラーゲンペレットを5mLの新しい超純水と混合し、コラーゲン溶液を作製した。コラーゲン溶液の入ったチューブを氷上に維持したまま、ソニケーター(Sonics and Materials社 VC50)を用いて100Vで20秒間超音波処理し、ソニケーターを取り出した後コラーゲン溶液の入ったチューブを氷上で10秒間冷却することを100回繰り返した。超音波処理を100回行った後、コラーゲン溶液を孔径40μmのフィルターでろ過し、解繊されたコラーゲン成分(sCMF)を含む分散液を得た。分散液を常法によって凍結乾燥させることにより、乾燥体として、解繊コラーゲン成分(sCMF)を得た。sCMFの平均長(長さ)は、14.8±8.2μm(N=20)であった。
【0138】
[細胞構造体の作製]
10mg/mLのフィブリノゲン(Sigma社製)が溶解した血清を含む培地(DMEM)にて濃度が、30mg/mLとなるように上記解繊コラーゲン成分を分散させた分散液Aを得た。また、10U/mLのトロンビン(Sigma社製)が溶解した血清を含む培地(DMEM)にて、1ウェルあたりの総細胞数が30,000cellsとなるように細胞を分散させた分散液Bを得た。得られた分散液A(解繊コラーゲン成分)と、分散液Bとを1:1で混合した懸濁液を、48ウェルプレートに、1ウェルあたり10μL添加した。培養開始から6日間経過した時点の細胞及び解繊コラーゲン成分を含む培養物の観察結果を図4~6に示す。
【0139】
培地には、血管内皮用培地1(ECM)及び間葉系幹細胞増殖用培地(MSCGM2)の混合培地(質量比:1:1)、血管内皮用培地1(ECM)、又は血管内皮用培地1(ECM)及び肝細胞用培地(d-HCGM)を用いた。
【0140】
【表2】
【0141】
肝非実質細胞に適した培地を用いた場合には、細胞構造体に類洞網が形成することが確認された(実施例4~5)。一方、肝細胞用培地を用いた場合には、得られた細胞構造体に肝類洞網は形成されていなかった(比較例1)。
【0142】
<試験例3:細胞構造体の作製3>
マイクロチューブ内に、ヘパリン溶液100μL、及び、コラーゲン溶液100μLを混合した混合液と、PXB cell、SEC及びLx2、並びに、必要に応じて、MSCとを入れ、懸濁した。各種細胞の細胞数は、表3に示す割合となるように調整した。総細胞数は、約30,000cellsとした。
【0143】
得られた懸濁液を、25℃、400×gの条件で、1分間遠心した。これにより、コラーゲン及びヘパリンを細胞表面に付着させた粘稠体を形成させた。延伸後、上清を除去し、マイクロチューブ内に、血管内皮用培地1(ECM)と、間葉系幹細胞増殖用培地(MSCGM2)との混合培地(質量比1:1)を250μL添加し、得られた懸濁液を96wellセルカルチャーインサート(Roche Inc、E-PlateInsert 16)内に播種した。播種後に、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて所定期間培養して、細胞構造体を得た。
【0144】
【表3】
【0145】
図7~8のとおり、実施例1~5とは、細胞数の割合が異なる場合であっても、得られる細胞構造体には、肝類洞網が形成されることが確認された。
【0146】
<試験例4:細胞構造体の作製4>
培地を血管内皮用培地2(EGM2MV)に変更したこと、及び培養期間7日目で固定したこと以外は、試験例1の条件1と同様にして、実施例8の細胞構造体を作製した。結果を図9に示す。異なる培地を用いて得られた細胞構造体も、肝類洞網が形成されることが確認された。
【0147】
<試験例5:アルブミン分泌量の測定>
実施例1の方法で作製した細胞構造体において、アルブミン分泌量を、培養期間中の培養上清のアルブミン量をELISAで定量することにより測定した。上清回収日の前日に培地交換を行い、24時間分の培養上清を、ELISA測定用の試料とした。ネガティブコントロールとして、PXB Cellを含まないこと以外は、実施例1と同様にして作製した細胞構造体を用意した。
【0148】
アルブミン分泌量の測定結果を図10に示す。培養開始から、15日経過時点において、ネガティブコントロールに対して、有意なアルブミン分泌の維持が確認された。
【0149】
<試験例6:肝毒性の評価>
肝毒性の評価試験は、実施例5及び比較例1の方法で作製し、培養開始から7日間経過時点の細胞構造体を、評価用細胞構造体として用いた。肝毒性の評価には、肝毒性を有することが知られている薬剤であるNefazodone及びTroglitazoneを使用した。
【0150】
培養開始から、7日間経過時点で、培地を、薬剤(Nefazodone又はTroglitazone)を溶解させた培地に変更した。培養開始から、10日経過時に、再度、薬剤を溶解させた培地に交換し、14日経過時にATPアッセイによって、細胞活性を定量した。肝毒性の評価結果を図11~12に示す。
【0151】
肝類洞網を有する細胞構造体が、肝類洞網を有さない細胞構造体と比べて、肝毒性を有する物質に対する応答性に優れていることが確認された。
【0152】
<試験例7:モノクロタリン投与実験>
[肝臓モデル(肝毒性モデル)の準備]
(PXB cell以外の細胞の回収)
Lx2、SEC、MSCの各細胞の凍結ストックを起眠し、メーカー推奨のプロトコルに基づき継代を挟まずに培養し、通常の手法に基づきトリプシンによって培養フラスコおよびシャーレから回収した後、各細胞量を測定した。
【0153】
(PXB cellの回収)
以下の手順で回収し、細胞量を測定した。
PXBcellをPBSで洗浄した。PXBcellに0.25%トリプシン-EDTA2mLを加え、インキュベータ内でインキュベートした。その後、PXBcellにHCGMを加えピペッティングを行い、PXB cellを回収し、セルカウンターで計測した。
【0154】
下記の比率及び細胞量となるようにPXB cell、SEC及びLX2を混合し、細胞混合物を得た。
・1ウェルあたりの総細胞量:30,000 cells
・組織内細胞比率:
PXB細胞:65%、SEC:25%、LX2:10%
【0155】
1.0mg/mL ヘパリン溶液(buffer:100mM Tris-HCL)と、0.3mg/mL コラーゲン溶液(buffer:5mM acetate)とを等量混合したヘパリン・コラーゲン溶液を調製した。
【0156】
細胞混合物に対して、ヘパリン・コラーゲン溶液を100μL加え、細胞が視認できなくなるまで懸濁した後、遠心(400g×2min)し、溶液内に粘稠体を形成させた。
【0157】
粘稠体を含む溶液から、その上清を除去した後、溶液の最終容積が、「播種予定ウェル数」×2μLの溶液量となるように20U/mLトロンビン溶液(溶媒:HCM(肝細胞用培養培地))を加え、細胞懸濁液を得た。
【0158】
48プレート上に、10mg/mLフィブリノゲン溶液を入れ、液滴を形成させた。液滴の内部に細胞懸濁液を加え、その後40分間インキュベータ内で静置し、フィブリンゲルを形成させた。
【0159】
フィブリンゲルを形成した各ウェルに対し、HCM(Endothelial Cell Growth Supplement含有)を0.5mL加え、細胞構造体として肝臓モデルを得た。
【0160】
[肝臓モデルへの投薬]
肝臓モデルの培養開始から、1日後(Day1)及び4日後(Day4)に、肝臓モデルに対してモノクロタリンを2000μM、666μM、222μM、又は74μMの濃度で含む培地で培地交換することにより、投薬を実施した。尚、使用した化合物は事前にDMSOで高濃度に溶解させて保存し、投薬の際にはDMSOが培地中に1%の濃度で含まれるようにした。各投薬条件において1%のDMSOを含むことから、1%DMSOのみを含む培地による培地交換も同時に実施し、ネガティブコントロールとした。
【0161】
[肝臓モデルのATPアッセイ]
肝臓モデルの培養開始から7日後(Day7)に下記の通りCellTiter-Glo(登録商標) 3D Cell Viability Assay キットを用いたATPアッセイを実施した。
【0162】
48プレートの各ウェルから、化合物を含む培地を除去し、常温のDMEM 100μL加え、その後にキット付属のATP assay reagentを常温で100μL加えた。ATP assay reagentを加えた48プレートを恒温振盪機で5分振盪した(1000rpm,常温)。更にその後、48プレートを常温で25分静置した。
【0163】
各ウェルから、DMEMとATP assay reagentの混合液全量を発光測定用96プレートに移し替え、プレートリーダーで発光強度を測定した。
【0164】
[肝臓モデルの固定、免疫染色及び顕微鏡撮像]
投薬を行った各試料に対して、固定処理、透過処理、ブロッキング、1次抗体処理、2次抗体処理、撮像・面積算出及び評価をこの順で実施した。以下、固定処理から評価までの手順を記載する。
【0165】
(固定処理)
肝臓モデルの培養開始から6日後(day6)に48プレートをインキュベータから取り出し、培地を除去してPBSで洗浄した後、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(以下、PFA)を各ウェルに300μL加え、肝臓モデルを固定した。その後、PFAを十分に洗浄除去した。
【0166】
(透過処理・ブロッキング)
0.2 (v/v) % TRITON/ 1 (w/v) % BSA PBS溶液(以下、BSA溶液)を、 各ウェルのインサート内に100μL加え、常温で2時間静置した。
【0167】
(一次抗体処理)
マウス由来抗CD31抗体をBSA溶液で100倍希釈し、一次抗体溶液を得た。一次抗体溶液を各ウェルのインサート内に100μL加え、4℃で24時間静置した。その後、一次抗体溶液を十分に洗浄除去した。
【0168】
(二次抗体処理)
BSA溶液で二次抗体を200倍に希釈し、二次抗体溶液を得た。二次抗体溶液を各ウェルのインサート内に100μL加え、遮光して常温で1時間静置した。その後、二次抗体溶液を十分に洗浄除去し、各ウェルに100μLのPBSを加えた。
【0169】
(蛍光顕微鏡撮影)
共焦点顕微鏡により画像撮影を行った。撮影条件は以下の通りである。
・使用レンズ:4倍レンズ
・撮影モード:non-confocal
・フィルター:647(Ex)/512(Em)
・Z軸位置:0-100μm/10μm刻み
【0170】
上記の方法で撮影した画像のIntensityを合算し、各肝臓モデルの蛍光観察画像を得た。
【0171】
撮影した各画像に対して、Image Jを用いて下記(1)~(10)の手順で、画像解析を行った。これにより、元画像から抽出した骨格画像を得た。骨格画像中の肝類洞網(血管)の領域を画像外積で抽出した。
(1)Image > Type > 8-bit
(2)Process > Smooth
(3)Process > Subtract Background > Sliding Paraboloid (20 pixels)
(4)Process > Enhance contrast(Saturated pixels:10.0%, Normalize)
(5)Process > Math > Subtract (value:100)
(6)Plugins > Mexican hat filter(Radius:5.0)
(7)Plugins > Skelton > Skeletonize(2D/3D)
(8)Image > Adjust > Threshold (閾値指定:1 -255)
(9)Process > Analyze particle (Size: >250μm)
(10)Analyze > Analyze Skeleton > Analyze Skeleton(2D/3D)
【0172】
図13は、所定の濃度のモノクロタリンを投与した肝臓モデルの培養開始から7日後(Day7)のCD31免疫染色結果を示す。図14は、肝臓モデルの略中心部1mの部分を抜き出した写真である。図13~14に示すとおり、モノクロタリン濃度を増やすにしたがって、肝類洞網が断片的になっていくことが観察された。
【0173】
図15は、肝類洞網の総血管長(Total vessel length)の定量結果を示す。図16はATPアッセイの結果を示す。図15~16に示すとおり、肝類洞網を定量した場合(血管網のダメージ量を数値化した場合)には、ATPアッセイよりも高感度に薬効を評価することができた。
【0174】
<試験例8:18化合物の毒性評価実験>
CMFを用いて作製した肝類洞網を有する細胞構造体(実施例A)と、ヘパリン及びコラーゲン溶液を用いて作製した肝類洞網を有する細胞構造体(実施例B)を用いて化合物の毒性評価を実施した。毒性評価は、評価対象の化合物に対して、試験例6と同様の手順で、化合物の投与およびATPアッセイを実施することにより行った。
【0175】
実施例Aの細胞構造体は、試験例6に記載の方法により得られたものである。
【0176】
実施例Bの細胞構造体は、試験例7に記載の方法により得られたものである。
【0177】
毒性評価は、IC50及びMOSvalueにより実施した。MOSvalueは、血中最大濃度(Cmax)も考慮した値として、毒性評価に用いられる指標である。
【0178】
参考例A及び参考例Bは、Proctor WR et al., Arch Toxicol, 2017, 91, 2849-2863及び当該文献のSupplementary informationに基づく文献値である。参考例Aは上記文献中の2D PHH(Two-dimensional primary human hepatocytes)であり、参考例Bは、上記文献中の3D hLiMT(3D human liver microtissues)である。参考例A及びBのIC50も表4~5に示す。。本試験例により製造された細胞構造体の方が、毒性があると報告されているものを再現性良く評価可能であることが示された。
【0179】
下表に薬物性肝障害重篤度カテゴリ(DILI severity category,LKBT)も併せて示す。LKBTにおいて、IIIは、強いDILI懸念あり(most DILI concern)、IIは弱いDILI懸念あり(less DILI concern)、IはDILI懸念なしを表す。
【0180】
【表4】

【表5】


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2022-09-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む細胞と、フィブリンと、細胞外マトリックス成分とを含み、
前記細胞の間に前記細胞外マトリックス成分が配置され、
前記細胞の間に肝類洞網を有する、細胞構造体。
【請求項2】
前記細胞の総数に対する、前記肝細胞の数の比率が60%以上80%以下である、請求項1に記載の細胞構造体。
【請求項3】
前記細胞の総数に対する、前記血管内皮細胞の数の比率が5%以上35%以下である、請求項1又は2に記載の細胞構造体。
【請求項4】
前記細胞外マトリックス成分が線維状である、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項5】
前記細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項6】
高分子電解質を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項7】
前記細胞外マトリックス成分が、断片化された細胞外マトリックス成分を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項8】
前記血管内皮細胞が類洞内皮細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項9】
前記細胞が、肝星細胞を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞構造体を、被験物質と接触させた状態で培養する培養工程を備え、
前記培養工程後における、前記細胞構造体の細胞生存数、アルブミン生産量、又はアデノシン三リン酸含有量を指標として、肝毒性の有無又は程度を評価する、被験物質の肝毒性の評価方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞構造体を、被験物質と接触させた状態で培養する培養工程を備え、
前記培養工程後における、前記細胞構造体の肝類洞網を指標として、肝毒性の有無又は程度を評価する、被験物質の肝毒性の評価方法。
【請求項12】
前記培養工程が、前記被験物質を含有する培地中で前記細胞構造体を培養することにより行われる、請求項10又は11に記載の被験物質の肝毒性の評価方法。
【請求項13】
肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む細胞と、細胞外マトリックス成分と、フィブリノゲンと、トロンビンとを、水性媒体中で接触させる接触工程と、
前記細胞外マトリックス成分と、前記フィブリノゲンと、前記トロンビンとを接触させた前記細胞を培養する培養工程と、を備え、
前記接触工程が、水性媒体中での前記細胞外マトリックス成分の凝集が抑制された条件で行われ、
前記培養工程が、肝非実質細胞の培養に適した条件で行われる、細胞構造体の製造方法。
【請求項14】
前記細胞と、前記細胞外マトリックス成分とを前記水性媒体中で接触させた後に、前記フィブリノゲンと、前記トロンビンとを、前記細胞と、前記細胞外マトリックス成分とに接触させる、請求項13に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項15】
前記細胞外マトリックス成分が線維状である、請求項13又は14に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項16】
前記接触工程が、前記細胞と、前記細胞外マトリックス成分と、高分子電解質とを混合することにより行われる、請求項13~15のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項17】
前記高分子電解質が、ヘパリンである、請求項16に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項18】
前記接触工程が、前記細胞と、前記細胞外マトリックス成分との接触後に、前記細胞及び前記細胞外マトリックス成分を集積させることを含む、請求項13~17のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項19】
前記細胞外マトリックス成分が、コラーゲン成分を含む、請求項13~18のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項20】
前記細胞外マトリックス成分が、断片化された細胞外マトリックス成分を含む、請求項13~19のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項21】
前記断片化された細胞外マトリックス成分が解繊された細胞外マトリックス成分である、請求項20に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項22】
前記血管内皮細胞が類洞内皮細胞である、請求項13~21のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項23】
前記細胞が、肝星細胞を更に含む、請求項13~22のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項24】
前記培養工程が、血管形成促進因子の存在下で行われる、請求項13~23のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。