(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163244
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】解析装置、解析方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20221019BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20221019BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
A61B10/00 Q
G01N21/27 B
A61B5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019174768
(22)【出願日】2019-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広介
(72)【発明者】
【氏名】宗田 孝之
(72)【発明者】
【氏名】中村 厚
(72)【発明者】
【氏名】清原 祥夫
【テーマコード(参考)】
2G059
4C117
【Fターム(参考)】
2G059AA06
2G059BB08
2G059BB12
2G059EE02
2G059EE11
2G059EE12
2G059FF01
2G059GG02
2G059GG03
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2G059JJ05
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM02
2G059MM05
2G059MM09
2G059MM10
4C117XA01
4C117XB01
4C117XB09
4C117XC19
4C117XE03
4C117XE43
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4C117XJ01
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4C117XJ34
4C117XJ48
4C117XK03
4C117XK13
(57)【要約】
【課題】多くの被検物を、簡便に短時間で解析する解析装置を実現する。
【解決手段】解析装置は、波長がそれぞれ異なるm個(mは自然数)の波長域の光でそれぞれ被検物を検出して取得した第1データを受信する第1受信部と、波長がそれぞれ異なる前記m個より少ないn個(nは自然数)の波長域の光でそれぞれ被検物を検出して取得した第2データを受信する第2受信部と、第1データに含まれる第1検出部位と第2データに含まれる第2検出部位とが、一致するか否かを判定する判定部と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長がそれぞれ異なるm個(mは自然数)の波長域の光でそれぞれ被検物を検出して取得した第1データを受信する第1受信部と、
波長がそれぞれ異なる前記m個より少ないn個(nは自然数)の波長域の光でそれぞれ前記被検物を検出して取得した第2データを受信する第2受信部と、
前記第1データに含まれる前記被検物の第1検出部位と、前記第2データに含まれる第2検出部位とが、一致するか否かを判定する判定部と、
を備える、解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の解析装置において、
前記第1データから、前記被検物を前記n個の波長域の光でそれぞれ検出した場合に得られる第3データを算出する画像算出部をさらに有し、
前記判定部は、前記第3データと前記第2データとを比較することにより、前記第1検出部位と前記第2検出部位とが一致するか否かを判定する、解析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の解析装置において、
前記画像算出部は、前記第1データにおける前記m個の波長域の光に対する測定スペクトルに関する情報、および前記第2データにおける前記n個の波長域の光に対する分光感度に関する情報を用いて第3データを算出する、解析装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の解析装置において、
前記第2データにおける前記n個の波長域の光に対する分光感度に関する情報を受信する波長情報入力部を有する、解析装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の解析装置において、
前記第1データを取得し、取得した第1データを前記第1受信部に送信する第1取得部をさらに有する、解析装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の解析装置において、
前記第2データを取得し、取得した第2データを前記第2受信部に送信する第2取得部をさらに有する、解析装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の解析装置において、
前記mは、100以上である、解析装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の解析装置において、
前記nは、2以上かつ10以下である、解析装置。
【請求項9】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の解析装置において、
前記nは3であり、
前記第2データの取得に用いられる3個の波長域は、それぞれ500nmから680nmまでの波長であって相互に20nm以上異なる3つの波長を中心とする波長域である、解析装置。
【請求項10】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の解析装置において、
前記第1データに基づいて、前記被検物がメラノーマであるか否かの判定、またはメラノーマの悪性度の導出の少なくとも一方を行うための指標を算出する指標算出部を有する、解析装置。
【請求項11】
波長がそれぞれ異なるm個(mは自然数)の波長域の光でそれぞれ被検物を検出して取得した第1データを受信すること、
波長がそれぞれ異なる前記m個より少ないn個(nは自然数)の波長域の光でそれぞれ前記被検物を検出して取得した第2データを受信すること、
前記第1データに含まれる前記被検物の第1検出部位と、前記第2データに含まれる第2検出部位とが、一致するか否かを判定すること、
を備える、解析方法。
【請求項12】
請求項11に記載の解析方法において、
前記第1データから、前記被検物を前記n個の波長域の光でそれぞれ検出した場合に得られる第3データを算出すること、をさらに備え、
前記第3データと前記第2データとを比較することにより、前記第1検出部位と前記第2検出部位とが一致するか否かにより前記判定をする、解析方法。
【請求項13】
請求項12に記載の解析方法において、
前記第3データを、前記第1データにおける前記m個の波長域の光に対する測定スペクトルに関する情報、および前記第2データにおける前記n個の波長域の光に対する分光感度に関する情報を用いて算出する、解析方法。
【請求項14】
請求項11から請求項13までのいずれか一項に記載の解析方法において、
前記nは3であり、
前記第2データの取得に用いられる3個の波長域は、それぞれ500nmから680nmまでの波長であって相互に20nm以上異なる3つの波長を中心とする波長域である、解析方法。
【請求項15】
請求項11から請求項14までのいずれか一項に記載の解析方法において、
前記第1データに基づいて、前記被検物がメラノーマであるか否かの判定、またはメラノーマの悪性度の導出の少なくとも一方を行うための指標を算出する、解析方法。
【請求項16】
波長がそれぞれ異なるm個(mは自然数)の波長域の光でそれぞれ被検物を検出して取得した第1データを受信する処理と、
波長がそれぞれ異なる前記m個より少ないn個(nは自然数)の波長域の光でそれぞれ前記被検物を検出して取得した第2データを受信する処理と、
前記第1データに含まれる第1検出部位と、前記第2データに含まれる第2検出部位とが、一致するか否かの判定処理とを、処理装置に行わせるためのプログラム。
【請求項17】
請求項16に記載のプログラムにおいて、
前記第1データから、前記被検物を前記n個の波長域の光でそれぞれ検出した場合に得られる第3データを算出する処理を、前記処理装置に行わせるとともに、
前記判定処理において、前記第3データと前記第2データとを比較することにより、前記第1検出部位と前記第2検出部位とが一致するか否かの判定を前記処理装置に行わせるプログラム。
【請求項18】
請求項17に記載のプログラムにおいて、
前記第3データを算出する処理を、前記第1データにおける前記m個の波長域の光に対する測定スペクトルに関する情報、および前記第2データにおける前記n個の波長域の光に対する分光感度に関する情報を用いて、前記処理装置に行わせる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置、解析方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体物表面からの光を多数の波長に分割して受光し、皮膚の疾患に関する情報を取得し、分析を行うことが提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、多数の波長に分割して受光し、多数の波長毎の情報を取得するには、比較的長時間の取得時間を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
第1の態様によると、解析装置は、相互に波長が異なるm個の波長域の光(mは自然数)でそれぞれ被検物を検出して取得した第1データを受信する第1受信部と、相互に波長が異なる前記m個より少ないn個の波長域の光(nは自然数)でそれぞれ前記被検物を検出して取得した第2データを受信する第2受信部と、前記第1データに含まれる前記被検物の第1検出部位と、前記第2データに含まれる第2検出部位とが、一致するか否かを判定する判定部と、を備える。
第2の態様によると、解析方法は、相互に波長が異なるm個の波長域の光(mは自然数)でそれぞれ被検物を検出して取得した第1データを受信すること、相互に波長が異なる前記m個より少ないn個の波長域の光(nは自然数)でそれぞれ前記被検物を検出して取得した第2データを受信すること、前記第1データに含まれる前記被検物の第1検出部位と、前記第2データに含まれる第2検出部位とが、一致するか否かを判定すること、を備える。
第3の態様によると、プログラムは、相互に波長が異なるm個の波長域の光(mは自然数)でそれぞれ被検物を検出して取得した第1データを受信する処理と、相互に波長が異なる前記m個より少ないn個の波長域の光(nは自然数)でそれぞれ前記被検物を検出して取得した第2データを受信する処理と、前記第1データに含まれる第1検出部位と、前記第2データに含まれる第2検出部位とが、一致するか否かの判定処理とを、処理装置に行わせる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、第1実施形態の解析装置の構成を示す概念図。
【
図2】
図2(A)は、第1取得部の構成を示す概念図であり、
図2(B)は、第1取得部の撮像面を示す概念図である。
【
図3】
図3(A)は、第2取得部の構成を示す概念図であり、
図3(B)は、第2取得部の照射部9bの拡大断面図である。
【
図4】
図4は、第3データを算出する方法を説明する概念図である。
【
図5】
図5は、いずれも被検部SAの像を模式的に示す画像を示す図。
図5(A)は第1データに基づく第1画像I1を示す図、
図5(B)は第2データに基づく第2画像I2を示す図、
図5(C)は第3データに基づく第3画像I3を示す図。
【
図6】
図6は、測定波長を500nm、610nm、および645nmとして算出した第3データに基づく判定指標DIの度数分布を示すグラフ。
【
図7】
図7は、測定波長を500nm、650nm、および680nmとして算出した第3データに基づく判定指標DIの度数分布を示すグラフ。
【
図8】
図8は、測定波長を515nm、600nm、および640nmとして算出した第3データに基づく判定指標DIの度数分布を示すグラフ。
【
図9】
図9は、測定波長を470nm、570nm、および605nmとして算出した第3データに基づく判定指標DIの度数分布を示すグラフ。
【
図10】
図10は、測定波長を445nm、590nm、および695nmとして算出した第3データに基づく判定指標DIの度数分布を示すグラフ。
【
図11】
図11は、一実施形態の解析方法の概要を説明するフローチャートを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(一実施形態の解析装置)
以下では、適宜図面を参照しながら、一実施形態の解析装置等について説明する。本実施形態の解析装置は、生体からの光を受光して得られた測定データに基づいて、生体の複数の位置のそれぞれにおいて、病変か否かの判定や、症状の重さの度合の導出等を行うための指標(以下、判定指標DIと呼ぶ)を算出するものである。以下の例では、皮膚からの光を受光して得られた測定データに基づいて、メラノーマか否かの判定や、メラノーマの悪性度の導出を行うための判定指標DIを算出する例を説明する。
【0007】
図1は、本実施形態の解析装置1の構成を示す概念図である。解析装置1は、第1取得部40と、第2取得部50と、制御部60とを備える。
第1取得部40および第2取得部50は、それぞれ生体からの光を受光して得られた測定データを取得するものであり、詳細については後述する。
【0008】
制御部60は、装置制御部61と、第1受信部62と、第2受信部63と、入力部64と、表示部65と、通信部66と、読取部67と、波長情報入力部68と、記憶部69と、解析部70とを備える。
解析部70は、画像算出部71と、判定部72と、指標算出部73と、病変判定部74とを備える。
【0009】
制御部60は、電子計算機等のコンピュータシステムを備え、第1取得部40および第2取得部50により取得された測定データ等を解析する。制御部60は、適宜ユーザとのインターフェースとなる他、様々なデータに関する通信、記憶、演算等の処理を行う。また、制御部60は、第1取得部40および第2取得部50の制御を行う。
第1取得部40は取得した測定データである第1データを送信し、第1受信部62が第1データを受信する。第2取得部50は取得した測定データである第2データを送信し、第2受信部63が第2データを受信する。
【0010】
入力部64は、マウス、キーボード、各種ボタンおよび/またはタッチパネル等の入力装置を含んで構成される。入力部64は、第1取得部40および第2取得部50による測定や解析部70による解析に必要なデータ等の入力データを、解析装置1のユーザ(以下、単にユーザと呼ぶ)から受け付ける。
【0011】
表示部65は、液晶モニタ等の表示装置により構成され、第1取得部40および第2取得部50による測定の測定条件や、第1データおよび第2データに基づく画像、解析部70が解析して得られたデータに基づく画像等を表示する。表示部65は、第1取得部40および第2取得部50の少なくとも一方に一体的に設けられていてもよく、第1取得部40および第2取得部50とは別体で設けられていてもよい。
【0012】
通信部66は、インターネット等のネットワークNWを介して無線や有線の接続により通信可能な通信装置を含んで構成される。通信部66は、第1取得部40および第2取得部50の測定や解析部70の解析に必要なデータを受信したり、適宜必要なデータを送受信する。また、通信部66は、制御部60に処理を行わせるプログラムを受信しても良い。
【0013】
読取部67は、CD等の光ディスク、磁気ディスク、半導体メモリ等の記録媒体MDから、第1取得部40および第2取得部50の測定や解析部70の解析に必要なデータを読み込み、または制御部60に処理を行わせるプログラムを読み込む。
記憶部69は、不揮発性の記憶媒体を備える。記憶部69は、制御部60に処理を行わせるプログラム、第1データ、第2データ、および解析部70の解析で得られたデータ等を記憶する。
【0014】
波長情報入力部68は、第1データを取得した際の各測定波長に対する第1取得部40の分光感度に関する情報、または、第2データを取得した際の各測定波長に対する第2取得部50の分光感度に関する情報を、解析装置1のユーザ(以下、単にユーザと呼ぶ)から受け付ける。
【0015】
上記の分光感度に関する情報は、例えば、記録媒体MDに記憶された情報であっても良く、波長情報入力部68は、それらの記録媒体MDに記録された情報を読取部67を介して読み取っても良い。
あるいは、波長情報入力部68は、ネットワークNWを介して無線や有線の接続により通信される上述の分光感度に関する情報が、上述の通信部66を経由して入力されるものであっても良い。
【0016】
制御部60は、CPU等のプロセッサを含むコンピュータシステムを備え、第1取得部40および第2取得部50を制御する動作の主体として機能し、記憶部69に記憶されているプログラムを実行することにより、測定や解析等の各種処理を行う。本明細書においてコンピュータシステムとは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。
【0017】
(第1取得部)
以下、
図2(A)および
図2(B)を参照して、第1取得部40について説明する。第1取得部40は、照射部9と、スリット部10と、分光部20と、撮像部30とを備える。スリット部10は、集光レンズ11と、スリット12とを備える。分光部20は、レンズ21と、回折格子22と、レンズ23とを備える。撮像部30は、撮像面31を備える。スリット部10と、分光部20と、撮像部30とは適宜一体的な撮像装置として構成される。
【0018】
以下の実施形態では、特に言及の無い限り、z軸を分光部20の光軸に平行にとり、x軸をスリット12に平行にとり、x軸およびz軸に垂直にy軸をとるものとする。スリット部10、分光部20および撮像部30の光軸は略一致しているものとする(座標軸8参照)。
本実施形態では、被検部SAがメラノーマの病変か否か等についての分析を行うため、被検部SAは、生体、特に人間の表面であり、皮膚および爪の少なくとも一方が好ましい。
【0019】
照射部9は、ハロゲンランプ等の光源を備え、被検物としての生体SOの表面の被検部SAを含む領域に照射光Loを照射する。照射光Loは、可視光または近赤外光が好ましいが、特に限定されない。照射部9は、例えば、数十nm~数百nm以上の幅を持つブロードバンド光であり、例えば400nm~800nmの波長を有する光とすることができる。
【0020】
第1取得部40は、被検部SAの表面での乱反射による悪影響を抑えるため、不図示のクロスニコル配置された一組の偏光板を備える。一方の偏光板(第1偏光板と呼ぶ)は、照射部9と被検部SAとの間に配置され、入射した照射光Loを任意の方向についての直線偏光を有する光として被検部SAに照射する。第1偏光板からの照射光Loが照射された被検部SAからの光(以下、測定光Lと呼ぶ)は、被検部SAとスリット部10との間に配置された、不図示の第2偏光板に入射する。第2偏光板は、測定光Lのうち、第1偏光板から出射した照射光Loと直交する偏光成分を有する光を通過させてスリット部10に出射する。
【0021】
スリット部10は、集光レンズ11を介して被検部SAの像がスリット12の位置で結像する光学系となっている。スリット12には被検部SA上の一部のライン状の部分(以下、測定部位SLと呼ぶ)からの光だけを通過するように、光軸Ax1上にスリット状開口が設けられている。即ち、スリット部10を通過した光は測定部位SLの情報に限定されて分光部20に入射することになる。
図2(A)では、わかりやすくするため被検部SA上の測定部位SLを斜めに記載したが、実際にはz軸方向から見てx軸に略平行なライン状に観察される部分となる。
【0022】
分光部20は、分光器を備え、入射した測定光Lを、測定光Lに含まれる光の波長に基づいて撮像部30の撮像面31の異なる位置に照射する。レンズ21を通過した光は略平行光線となって分光器としての回折格子22に入射する。回折格子22は、透過型回折格子であり、入射した測定光Lを波長に基づいて分離し、異なる方向へと出射する。
図2(A)では、回折格子22から出射される測定光Lのうち、異なる2つの波長の光をそれぞれ分離測定光L1および分離測定光L2として模式的に示した。回折格子22により分離されて出射された分離測定光は、レンズ23へと入射する。レンズ23は、回折格子22から入射した各分離測定光を屈折させて撮像部30の撮像面31に結像させる。
【0023】
撮像部30は、CCDやCMOS等の撮像素子を備える。この撮像素子は、撮像面31上に二次元に広がって配置された不図示の光電変換素子を備える。撮像部30は、撮像面31上に入射した光を光電変換素子により光電変換し、得られた検出信号をA/D変換して、撮像制御部32へと出力する。
【0024】
図2(B)は、撮像面31における、分離測定光L1およびL2の入射位置を示す概念図である。撮像面31は、z軸に垂直なxy平面に沿って配置されている(座標軸8参照)。x軸方向に伸びたスリット12を通過した、x軸方向に延びたライン状の測定光Lは、回折格子22により、x軸方向に延びた複数のライン状の分離測定光となり、波長に基づいて撮像面31上のy軸方向に異なる位置に入射する。
図2(B)では、実際には分離測定光L1およびL2以外の波長の光も入射しているが、解りやすくするため図示を省略している。
【0025】
撮像面31に並んだ光電変換素子は、撮像面31上の任意の位置を基準にすると、x軸方向に沿って異なる位置には、被検部SAの測定部位SLにおける異なる位置からの分離測定光が入射する。一方、y軸方向に沿って異なる位置には、測定部位SLの同一の位置からの異なる波長の分離測定光が入射する。従って、撮像面31でy方向に並んだ複数の光電変換素子により、測定部位SLのx軸方向の任意の一点からの光のスペクトル分布を、高分解能で分離して検出できる。以下では、被検部SA上の任意の一点からの光の、波長に対する強度分布のデータを、測定スペクトルとも呼ぶ。
【0026】
上述のとおり、第1取得部40は、撮像面31でy方向に並んだ複数の光電変換素子を備えるため、測定部位SLのx軸方向の座標(x,y)の任意の一点について、測定スペクトルを高分解能で得ることができる。そして、第1取得部40の一部または全部の移動等により、測定部位SLを、被検部SA上でy方向に走査し、この走査と同期して撮像部30が撮像を行うことで、被検部SAの全域についての高波長分解能の測定スペクトルを含んだ、第1データを得ることができる。第1データは、被検部SAの任意の一点についての高波長分解能の測定スペクトルを含んでいる。
【0027】
制御部60の装置制御部61は、入力部64からの入力等に基づいて、第1取得部40の各部を制御し、撮像部30に撮像を行わせる。装置制御部61は、測定部位SLの移動に関する情報を第1取得部40の撮像制御部32に送信する。例えば、装置制御部61は、測定部位SLがy軸方向に移動するように第1取得部40を一定の移動速度で移動させ、移動速度と、撮像した時刻とに関する情報を撮像制御部32に送信する。
【0028】
撮像制御部32は、撮像部30から出力される撮像データを受信する。撮像制御部32は、撮像部30からの撮像データと、装置制御部61から送信された測定部位SLの移動に関する情報とに基づいて、測定部位SLの複数の位置と、測定スペクトルとが対応した第1データを生成する。撮像制御部32は、第1データを制御部60内の第1受信部62に送信する。第1受信部62は、受信した第1データを記憶部69に記憶させても良い。
【0029】
撮像制御部32または第1受信部62は、第1データのうち、分析に必要な部分を残し、他の部分を削除することができる。撮像制御部32または第1受信部62は、第1データのうち、可視~近赤外の波長範囲に対応する領域を残すことが好ましく、450nm~800nmの波長範囲を残すことがより好ましい。また、撮像制御部32または第1受信部62は、第1データのうち、被検部SAの中の解析不要な部分に対応するデータ等は適宜削除することができる。
【0030】
また、撮像制御部32または第1受信部62は、取得された測定スペクトルに対し、照射部9および撮像部30の分光感度特性の補正を行っても良い。すなわち、取得された測定スペクトルに対し、照射部9からの照射光Loのスペクトル分布(照射光Loの各波長に対する強度分布)で除算する処理、および撮像部30の分光感度(撮像部30の各波長に対する感度)で除算する処理を、行っても良い。撮像制御部32または第1受信部62は、適宜このような処理を行った後に、第1データを記憶部69に記憶させても良い。
【0031】
照射部9および撮像部30の分光感度特性の補正は、一例として、撮像部30が感度を有する波長域での反射率が波長によらずほぼ等しい標準反射板を、被検部SAに相当する位置に配置することで行っても良い。すなわち、撮像部30が感度を有する波長域での反射率が波長によらずほぼ等しい標準反射板を、被検部SAに相当する位置に配置して照射部9からの照明光を照射する。そして、その反射光を撮像部30で受光し、そのスペクトル分布を基準スペクトルとして記憶する。そして、被検部SAの測定に際しては、撮像部30で受光した測定スペクトルを、この基準スペクトルで除算することにより、照射部9および撮像部30の分光感度特性の補正を行うことができる。
【0032】
第1データは、配列要素として被検部SA上の2次元的な位置(x,y)に検出する光の波長の値であるスペクトル座標λを加えた3次元の配列データD(x,y,λ)と解釈することもできる。そして、スペクトル座標λの配列要素のサイズ(取り得る値の数)は、例えば、撮像面31でy方向に並んだ複数の光電変換素子であり、その数を百以上とすることもできる。第1取得部40の照射部9による照射光Loは上述のとおりブロードバンド光であり、測定光Lの波長(測定波長)もブロードバンドとなるため、第1データは広範な測定波長域を有し、かつ高波長分解能の測定スペクトルを含んだデータである。
【0033】
なお、第1取得部40の構成は上記の構成に限られるものではなく、第1データとして上記の3次元の配列データD(x,y,λ)を取得することができれば良い。
また、3次元の配列データD(x,y,λ)における、x,y,λの配列要素の順序も、上記に限らず、(λ,x,y)等、任意であって良い。
【0034】
第1取得部40の構成は、例えば、上述の構成からスリット12および分光部20を省き、代わりに時間と共に波長が変化する狭帯スペクトルの照射光を照射する照射部9を採用する構成であっても良い。この場合には、時間の経過ともに撮像部30が出力する複数の画像データを集めた3次元の配列データD(x,y,t)における時間座標tが、上述のスペクトル座標λに相当する。
【0035】
(第2取得部)
図3(A)および
図3(B)を参照して、第2取得部50について説明する。
図3(A)に示すとおり、第2取得部50は、照射部9bと、レンズ11bと、撮像部30bと、照射制御部28とを備える。撮像部30bは、上述の第1取得部40の撮像部30と同様に、光電変換素子が二次元に配置されたCCDやCMOS等の撮像素子を備える。
【0036】
照射部9bから射出される照射光Roは、生体SOの表面の被検部SAを含む領域に照射される。被検部SAからの光は、測定光Rとしてレンズ11bにより集光され、撮像部30bの撮像素子上に、被検部SAの像を形成する。
第2取得部50は、被検部SAの表面での乱反射による悪影響を抑えるため、上述の第1取得部40と同様に不図示のクロスニコル配置された一組の偏光板を備える。
【0037】
図3(B)は、第2取得部50の照射部9bの拡大断面図を示す。照射部9bは、一例として、それぞれ発光波長の異なる3つの発光ダイオード(LED)91a~91cを備えている。それらのLED91a~91cから照射光は、ダイクロイックプリズムDP1、DP2により合成され、レンズ92、93により略平行化されて、照射部9bから射出される。射出光を直線偏光化するために、照射部9bに射出端に偏光板94が配置されている。
【0038】
3つのLED91a~91cの発光のタイミングは、第2取得部50に設けられている照射制御部28により制御される。照射制御部28は、例えば、3つのLED91a~91cを1つずつ順々に発光させる。そして、照射制御部28は、3つのLED91a~91cのそれぞれの発光に同期して、撮像部30bに撮像を行わせる。これにより、撮像部30bは、3つのLED91a~91cが発光するそれぞれ異なる波長の照射光に照射された被検部SAの像を、順次取得することができる。
【0039】
3つのLED91a~91cが発する3つの光は、例えば、それぞれ500~700nm程度の可視光であって、相互に30nm以上の波長差を有する波長を中心とする光である。
測定光Rの波長(測定波長)は、3つのLED91a~91cが発する3つの光の波長と一致する。
なお、LED91a~91cの数は上記の3に限られるわけではなく、2であって良く、4以上であっても良い。また、照射部9bの構成が複雑化することを避けるために、10以下としても良い。
【0040】
第2取得部50により、複数の異なる波長の照射光で照明された被検部SAの像を撮像部30bが検出した信号は、第2データとして制御部60内の第2受信部63に出力される。
第2データも、上述の第1データと同様に、被検部SAの各位置(x,y)のそれぞれについての、スペクトル座標λに対する測定スペクトルを含んだ配列データD(x,y,λ)である。ただし、スペクトル座標λ(測定光の波長)に関する配列要素のサイズは、被検部SAに照射される照射光Roに含まれる離散的な波長の数であり、従って上述のように2~10である。従って、スペクトル座標λに関する配列要素のサイズが例えば100以上である上述の第1データに比べて、データサイズが小さい。
【0041】
なお、第2取得部50の構成は上記の構成に限られるものではなく、離散的な3波長程度(2~10波長)のスペクトル分解能を有する第2データが取得できるものであれば、任意の構成であって良い。例えば、照射部9bが連続スペクトルのブローバンドの波長域を有する光を照射し、撮像部30bの光電変換素子のそれぞれが、複数の測定波長のいずれかに対応する波長域の光を選択的に透過する波長選択フィルタ(カラーフィルタ)を備える構成であっても良い。
【0042】
(特性パラメータの算出)
本実施形態の解析装置は、上述の第1データおよび第2データのどちらか一方に基づいて、被検部SAがメラノーマの病変を含むか否か等についての評価を行うための特性パラメータを算出する。この特性パラメータは、第1データまたは第2データに含まれる各点(x,y)(以下、「データ点」とも呼ぶ)のそれぞれにおける測定スペクトルに基づいて算出される。
【0043】
特性パラメータは、一例として、測定スペクトルに対応する測定ベクトルと、基準スペクトルに対応する基準ベクトルとの間のなす角度(以下、スペクトル角度と呼ぶ)である。メラノーマの特徴は、病変の色調を含む形態の多様性にある。
上述のように、測定スペクトルとは、被検部SA上の任意の一点からの光の、波長に対する強度分布のデータであり、波長を配列要素とする1次元の配列データ(ベクトル)と考えられる。そこで、被検部SAの各位置に対応する測定スペクトルをベクトルとして考え、当該ベクトルの方向のばらつきによりこの多様性を定量化することができる。
なお、測定スペクトルをベクトルとして考え、その方向のばらつきによりこの多様性を定量化する方法は、特許文献1に説明されているので、ここでは詳細の説明は省略する。
【0044】
第1データまたは第2データに対応する被検部SAの範囲に正常皮膚が十分に含まれる場合は、指標算出部73は、この正常皮膚の測定スペクトルに対応するベクトルを平均したものを基準ベクトルとして算出する。正常皮膚に対応する部分は、適宜ユーザ等の入力により指定される。第1データまたは第2データの中に正常皮膚が十分に含まれていない場合は、被検部SAを有する被検者等の正常皮膚を撮像し、得られた測定スペクトルに対応するベクトルを適宜平均等したものを基準ベクトルとすることもできる。あるいは、複数の個体の正常皮膚を撮像して得た測定スペクトルを取得し、この測定スペクトルに対応するベクトルを平均等したものを基準ベクトルとすることもできる。ここで、顔、足の裏、体幹など身体の各部位ごとに分けて、上述したいずれかの方法で作成した基準ベクトルを用いることができる。
【0045】
特性パラメータの一例であるi番目のデータ点のスペクトル角度θiは、測定ベクトルpi、基準ベクトルpr、測定ベクトルpiと基準ベクトルprの内積(pi・pr)を用いて、以下の式(1)により算出される。
【数1】
…(1)
【0046】
(判定指標の算出)
指標算出部73は、被検部SAがメラノーマを含むか否かの判定およびメラノーマの悪性度の導出の少なくとも一方を行うための判定指標DI(Discrimination Index)を算出する。指標算出部73は、一例として、1つのデータ点(以下、「基準点」とも呼ぶ)を中心とするN個のデータ点の各スペクトル角度θiについての、角度θ(横軸)に対する度数分布(縦軸)を算出する。分割されたq個の各ビン(区間)内での、j番目のビンにおける分布の度数をn(θj)とする。そして、n(θj)を、評価を行うべき領域内のデータ点の総数Nで除して規格化した、以下の式(2)に示す、規格化度数分布n^(θj)を算出する。これは、角度θjを持つデータ点の出現確率とみなせる。
【数2】
…(2)
【0047】
指標算出部73は、この規格化度数分布n^(θj)を用いて、判定指標DIとして、一例として以下の式(3)で示されるエントロピー指標DIentを算出する。
【数3】
…(3)
エントロピー指標DIentは、基準点の周囲の各データ点のスペクトル角度のばらつきを示し、メラノーマの色調を含む形態の態様性を要約した指標となっている。被検部SAの基準点に対応する位置がメラノーマの病変か否かの判定や、メラノーマの悪性度の導出を行うことができる。
【0048】
解析部70の病変判定部74は、所定の閾値に基づいて、被検部SAの検出部位である基準点に対応する位置がメラノーマ病変か否かを判定し、その悪性度を導出する。判定指標DIと、メラノーマ病変か否かとの対応付け、およびメラノーマの悪性度との対応付けは、予め記憶部69に記憶された所定の閾値により定められている。このような所定の閾値は、過去にメラノーマの患者の病変と、メラノーマではない良性の色素性病変との比較によって導出された判定指標DIの値に基づいて設定されたものである。例えば、メラノーマ病変か否かを定める閾値が3の場合、病変判定部74は、基準点に対応する判定指標DIが3以上の場合、被検部SAの基準点に対応する位置がメラノーマであると判定し、この基準点およびその周囲を精密検査が必要な要精検部と判定する。同様に、判定指標DIが3未満の場合、当該基準点に対応する被検部SAの検出部位をメラノーマでないと判定する。悪性度についても同様に、悪性度の各段階に対して所定の閾値が設定される。
【0049】
解析部70は、基準点として被検部SAに対応する各データ点を順次選定して指標算出部73に上述の演算を行わせるとともに、病変判定部74に上述の判定を行わせる。
解析部70は、被検部SAにおける各位置が、メラノーマの病変か否かおよびその悪性度についての情報(以下、病変領域情報と呼ぶ)を示す画像を作成しても良い。
なお、解析部70は、病変表示画像に悪性度の情報を加えても良い。
さらに、解析部70は、判定指標DIの値に基づいて、色相、明度、彩度および模様等を変化させた判定指標表示画像を作成しても良い。加えて、解析部70は、メラノーマの悪性度に基づいて、色相、明度、彩度および模様等を変化させた悪性度表示画像を作成しても良い。
【0050】
解析部70は、表示部65を制御し、解析部70が作成した画像や、測定条件を示す画像等を表示部65に表示させる。また、それらの画像に重畳して、解析部70が算出した評価指標DIの値を、例えばリアルタイムに表示しても良い。この場合、評価指標DIの値が所定値を超えた場合には、所定値以下の場合に対して評価指標DI値を表示する文字の色を変更する、スピーカー等からアラーム音を発生させる、等を行っても良い。
【0051】
表示部65が第2取得部50に設けられている場合、表示部65に、(A)単波長画像、(B)疑似カラー画像、(C)スペクトル角度画像、(D)DIマップ法によるDI値、および、(A)~(D)の少なくとも二つの重畳画像、の少なくとも一つを表示させてもよい。疑似カラー画像は、3波長を長波長側から順にRGBに割り当てて表示してもよい。重畳画像は、(A)単波長画像または(B)疑似カラー画像に、(C)スペクトル角度画像または(D)DIマップ法によるDI値を重畳させることが好ましい。また、第2取得部50に、上記(A)~(D)および重畳画像を切り替えて表示するための操作部を設け、ユーザが操作部を操作することにより表示内容を切り替えてもよい。
【0052】
表示部65に表示された病変領域情報に関する画像は、医師や医療従事者に提示され、患者におけるメラノーマ病変の位置や、病変の悪性度を診断したり、病態を把握するために用いられる。さらに、病変領域情報に関する画像を見て、皮膚科医や病理医等の医師が、生検や手術の前にどの位置に対して処置をするかを決定することができる。判定指標DIは、病理診断の際に用いてもよい。
【0053】
なお、判定指標DIは、上述のエントロピー指標DIentに限られるわけではなく、特許文献1に記載されるエネルギー指標や、擬フラクタル次元等の、他の指標を用いも良い。
【0054】
(第1データおよび第2データの取得順)
以上で説明したように、本実施形態の解析装置は、上述の第1データおよび第2データのどちらか一方に基づいて、被検部SAがメラノーマを含む否かの判定およびメラノーマの悪性度の導出の少なくとも一方を行うための判定指標DIを算出する。
より高い波長分解能の測定スペクトルを含んだ、第1取得部40による第1データによる判定指標DIを用いることにより、より正確な判定指標DIを算出することができ、すなわち、メラノーマか否かの判定をより正確に行うことができる。
【0055】
一方で、第2取得部50による第2データの取得は、被検部SAの走査を伴わずに行うことができ、かつ、取得されるデータのサイズも小さいため、第1取得部40による第1データの取得に比べて短時間で行うことができるという利点がある。
第2取得部50の構成は、第1取得部40の構成に比べて簡素にできるため、第2取得部50のコストは、第1取得部40のコストよりも低額にできるという利点がある。
【0056】
そこで、始めに第2取得部50を用いて被検部SAに対する第2データを取得し、第2データに基づく判定指標DI(以下、「第2指標DI2」と呼ぶ)の値が、所定の閾値以上である場合に第1取得部40を用いて被検部SAに対する第1データを取得しても良い。この解析方法を、以下では「2段階解析方法」と呼ぶ。
【0057】
2段階解析方法を行う場合、判定漏れを防ぐために、第2指標DI2に対する閾値(以下、「第2閾値」と呼ぶ)を小さめの値に設定することが好ましい。これにより、メラノーマであることが疑われる被検部SAについては、より信頼性の高い第1取得部40による第1データを用いて正確な判定を行うことができ、メラノーマを見落とす恐れを軽減できる。
2段階解析方法においては、メラノーマである可能性の極めて低い被検部SAについては、第2取得部50により短時間で取得される第2データのみで解析を行うため、生体上の複数の被検部SAの解析を短時間で行うことができる。
【0058】
2段階解析方法においては、第2データに基づいてメラノーマの可能性があると判定された被検部SAの中の検出部位(以下、「第2検出部位」とも呼ぶ)を、第1取得部40が取得した第1データの中から特定して、特定された部分(以下、「第1検出部位」とも呼ぶ)について、第1データに基づく正確な判定を行う。
ただし、第1取得部40と第2取得部50とでは、データを取得する際の照射光の波長が異なるため、単に、第1データと第2データを比較しただけでは、両者に含まれるそれぞれ被検部SAが一致しているか否かを判別することは難しい。
【0059】
(第1検出部位と第2検出部位とが合致するか否かの判定)
本実施形態においては、画像算出部71は、第1取得部40により取得した高波長分解能の測定スペクトルを含んだ被検部SAの第1データから、第2取得部50の照射部9bが照射する離散的な複数の波長域の光で取得した場合に相当する被検部SAの第3データを算出する。従って、第3データは、測定波長の観点からは第2取得部50により取得した被検部SAの第2データに近いものとなる。
【0060】
図4は、第3データを算出する方法を説明する概念図である。上述のように、第1取得部40は、ブロードバンドな測定波長の測定光Lにより被検部SAの第1データを取得する。
図4(A)は、第1取得部40により取得された第1データに含まれる1つのデータ点における測定スペクトルSS0の一例を示す図である。すなわち、第1データを上述のように3次元の配列データD(x、y、λ)とするとき、
図4(A)の測定スペクトルSS0は、(x,y)座標が(x0,y0)で表される1つのデータ点における配列データD(x0,y0,λ)を表している。
図4(A)の横軸は、測定光Lに含まれる光の波長であり、横軸の波長の区分は、撮像部30の光電変換素子のy方向の配列ピッチに相当する波長分解能として一例として10nmとしている。
なお、測定スペクトルSS0としては、上述したように、照射部9および撮像部30の分光感度特性の補正を行なったものであっても良い。
【0061】
図4(B)は、3つの測定波長に対する第2取得部50の分光感度LS1~LS3を示す。一例として、第2取得部50の3つのLED91a~91cが発する3つの光の中心波長は、それぞれ500nm、650nm、680nmであり、各波長の半値全幅はいずれも25nmである。
第2取得部50の分光感度LS1~LS3は、例えば、3つのLED91a~91cのスペクトル分布と、第2取得部50の撮像部30bの分光感度分布を掛け合わせることにより算出できる。
【0062】
画像算出部71は、各データ点において、
図4(B)に示した分光感度LS1~LS3のそれぞれについて個別に、
図4(A)に示した第1データ中の各データ点の測定スペクトルSS0との積和を算出することにより、上述の第3データを算出する。
図4(C)は、第1の測定波長である波長500nmを中心とする検出光に対する積和演算の例を示す図であり、波長450nmから550nmまでの間での、第1データの測定スペクトルSS0と分光感度LS1との積和の算出を示している。斜線を付して示した領域SS1は、各波長域における第1データの測定スペクトルSS0と分光感度LS1との積である。領域SS1の面積の総和が、第3データの配列データD(x,y,λ)の、(x0,y0)のデータ点での第1の測定波長(λ=1)における配列データD(x0,y0,1)となる。
【0063】
図4(D)は、第2の測定波長である波長650nmを中心とする検出光に対する積和演算の例を示す図であり、波長600nmから700nmまでの間での、第1データの測定スペクトルSS0と分光感度LS2との積和の算出を示している。斜線を付して示した領域SS2の面積の総和が、第3データの第2の測定波長(λ=2)における配列データD(x0,y0,2)となる。
【0064】
図4(E)は、第3の測定波長である波長680nmを中心とする検出光に対する積和演算の例を示す図であり、波長630nmから730nmまでの間での、第1データの測定スペクトルSS0と分光感度LS3との積和の算出を示している。斜線を付して示した領域SS3の面積の総和が、第3データの第3の測定波長(λ=3)における配列データD(x0,y0,3)となる。
【0065】
この結果、上述のとおり第3データは、測定波長の観点からは第2取得部50により取得した被検部SAの第2データに近いものとなる。
従って、第1データに基づいて作成された第3データを第2データと比較することにより、第1データに含まれる第1検出部位と第2データに含まれる第2検出部位とが一致するか否かを容易に判定することができる。
【0066】
判定部72は、一例としてパターンマッチングを用いて、第1データに基づいて作成された第3データに含まれる第1検出部位と第2データに含まれる第2検出部位とが一致するか否かを判定する。
判定部72は、共にスペクトル座標λを配列要素に含む配列変数であるカラー画像(または疑似カラー画像)である第2データと第3データとを、一例としてカラー画像として扱い、両画像のパターンマッチングにより、上述の一致判定を行う。パターンマッチングの具体的な方法としては、各種の公知の方法を用いることができる。
【0067】
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)は、いずれも被検部SAの像を模式的に示す画像を示す。
図5(A)は第1データに基づく第1画像I1を示し、
図5(B)は第2データに基づく第2画像I2を示し、
図5(C)は第3データに基づく第3画像I3を示す。
なお、第1データは、一例として400~700nmの測定波長により取得された高波長分解の測定スペクトルを有するデータであるので、そのままでは通常の例えばRGBの3色カラー画像として扱うことはできない。そこで、
図5(A)の第1画像I1は、第1データのうち、それぞれのデータ点に含まれる測定スペクトルのうち、400~500nmの測定波長によるデータを積算してB(青)の画像データを算出し、500~600nmの測定波長によるデータを積算してG(緑)の画像データを算出し、600~700nmの測定波長によるデータを積算してR(赤)の画像データを算出している。
【0068】
図5(B)の第2画像I2は、第2データ中の、第1の測定波長で取得された配列データD(x,y,1)をB(青)の画像とし、第2の測定波長で取得された配列データD(x,y,2)をG(緑)の画像とし、第3の測定波長で取得された配列データD(x,y,3)をR(赤)の画像としている。ここで、上述のとおり、第1の測定波長は500nm、第2の測定波長は650nm、第3の測定波長は680nmである。
【0069】
従って、
図5(A)の第1画像I1と
図5(B)の第2画像I2とでは、取得に際して使用された測定波長が一致していない。その結果、第2画像I2中の第2検出部位IL2に含まれる変位部位(斜線付加部)と、第1画像I1中の第1検出部位IL1に含まれる変位部位(斜線付加部)との形状も異なり、パターンマッチングにより2つの変位部位が一致するか否かを判定することは難しい。
【0070】
一方、
図5(C)の第3画像I3は、上述のとおり第1データに基づいて算出した第3データに基づく画像であり、取得に際して使用された測定波長が、
図5(B)の第2画像I2と一致している画像である。このため、第2画像I2中の第2検出部位IL2に含まれる変位部位(斜線付加部)と、第3画像I3中の第1検出部位IL1に含まれる変位部位(斜線付加部)との形状は概ね一致し、パターンマッチングにより2つの変位部位が一致するか否かを判定することが容易になる。
【0071】
なお、第3データ中の第1検出部位IL1と、第2データ中の第2検出部位IL2とが一致するか否かを判定するためには、予め第1データまたは第3データに対して、上述の評価指標DIの算出およびメラノーマか否か判定を、予備的に実施しておく必要がある。ただし、上述のとおり、第1データは配列要素λの数が例えば100以上と大きい3次元の配列データD(x,y,λ)であり、従って評価指標DIの算出に時間を要する。そこで、評価指標DIの予備的な算出およびメラノーマか否か予備的な判定は、第1データよりもデータサイズの小さな第3データに基づいて行うこともできる。
なお、上記の第1データまたは第3データに基づくメラノーマか否か予備的な判定に際しては、判定漏れを防ぐために、閾値を小さめの値に設定することが好ましい。
【0072】
なお、
図5(A)の第1画像I1および
図5(C)の第3画像I3と、
図5(B)の第2画像I2とは、それぞれ第1取得部40と第2取得部50により別々に取得されたデータに基づく画像である。従って、第1検出部位IL1と第2検出部位IL2とのx方向y方向の位置、およびxy平面内での回転角度は、一般的に相互にずれている。従って、2つの変位部位が一致するか否かを判定する際には、これらの併進ずれ、および回転ずれを考慮して、パターンマッチング処理を行う。
【0073】
判定部72による、第3データに含まれる第1検出部位と第2データに含まれる第2検出部位とが一致するか否かの判定は、上述の第2データと第3データとをカラー画像として扱うパターンマッチングによるものに限られるものではない。
判定部72は、指標算出部73に、第2データと第3データとに基づいて、各データ点毎に上述のスペクトル角度θiを算出させ、第2データ内のスペクトル角度θiの分布と、第3データ内のスペクトル角度θiの分布とのパターンマッチングにより、上述の一致判定を行っても良い。
【0074】
あるいは、判定部72は、指標算出部73に、さらにスペクトル角度θiに基づいて上述の判定指標DIを算出させ、第2データ内の判定指標DIの分布と、第3データ内の判定指標DIの分布とのパターンマッチングにより、上述の一致判定を行っても良い。
【0075】
なお、第2取得部50により取得される第2データは、一例として上述の分光感度LS1~LS3の感度を有する上記の測定波長により検出されるものである。従って、上述の分光感度LS1~LS3は、第2データにおける複数の波長域の光に対する分光感度に関する情報と解釈することができる。
【0076】
なお、以上の実施形態においては、第2取得部50は、それぞれ第1から第3の測定波長の光を発する3つのLED91a~91cを順次発光させ、1つの被検部SAの像を取得するものとした。しかし、これに限らず、例えば、第1から第3の測定波長の光を循環して発光させ、各測定波長の光の発光に同期して、被検部SAの第1の測定波長による像、第2の測定波長による像、および第2の測定波長による像を循環的に取得しても良い。そして、連続して取得された3つの測定波長の光による像を加算することにより、最終的な被検部SAの像を取得しても良い。
この場合、より高速に、すなわち、より高いフレームレートで、被検部SAの像を取得することができる。
【0077】
(変形例)
以上の一実施形態においては、解析装置1は、第1取得部40および第2取得部50を有するものとした。しかし、解析装置1は、第1取得部40または第2取得部50の少なくとも一方を有しなくても良い。解析装置1が第1取得部40を有しない場合には、解析装置1とは別に設けられている第1取得部40が取得した第1データを、第1受信部が直接あるいは通信部66を介して受信する構成であればよい。同様に、解析装置1が第2取得部50を有しない場合には、解析装置1とは別に設けられている第2取得部50が取得した第2データを、第2受信部が直接あるいは通信部66を介して受信する構成であればよい。
【0078】
分光感度LS1~LS3は、第2取得部50に固有の情報であり、記憶部69に記憶しておくことができる。あるいは、記録媒体MDに記録されている分光感度LS1~LS3を、読取部67を介して波長情報入力部68に受信(読み取り)してもよい。または、ネットワークNW経由で提供される分光感度LS1~LS3を、通信部66を介して受信しても良い。
特に、解析装置1が第2取得部50を有しない場合には、波長情報入力部68を備え、波長情報入力部68から、解析装置1以外に装備されている第2取得部50の分光感度LS1~LS3を受信できることが好ましい。
【0079】
なお、以上においては、第2取得部50の分光感度LS1~LS3に基づいて、第1データから第3データを算出するものとしている。しかし、取得波長が例えば10nm程度変動しても、第3データの画像等は大きく変動するものではないので、第2取得部50の分光感度LS1~LS3を近似的に表す関数やデータを使用して、第3データを算出しても良い。
【0080】
第1取得部40による第1データの取得に際し、第1取得部40または制御部60は、第1取得部40が対象とした第1データに対応する被検部SAの位置情報も、併せて取得しても良い。同様に、第2取得部50による第2データの取得に際し、第2取得部50または制御部60は、第2取得部50が対象とした第2データに対応する被検部SAの位置情報も、併せて取得しても良い。これらの位置情報は、例えば人体における被検部SAの位置を示す情報である。
第1取得部40または第2取得部50は、第2データまたは第2データと併せて、上述の位置情報を出力しても良い。
【0081】
上述の位置情報の一例として、被検部SAが含まれる被検物である人体の一部または全部を画像データとして取得(撮像)し、取得した画像データ上における被検部SAの位置を、位置情報とすることができる。この場合、解析部70は、例えば表示部65に表示する人体を示す画像上の被検部SAの位置に、所定のマークを重畳して表示して、その部分が被検部SAであることを表示する。このような位置情報の作成手順として以下の手順を用いてもよい。
【0082】
まず、被検部SAを含む被検物の画像を撮る。次に、被検物を全体的に第2取得部50で撮像し、被検部SAの病変が良性であるか悪性であるかを判断する。例えば表示部65に判断結果を表示させることにより、作業者に対して、判断結果を表示または告知する。作業者はその告知を見ることにより、もしくは、聞くことにより、第2取得部50に設けられた決定ボタンを押す。被検物の画像上において、決定ボタンが押されたときに検査していた部位にマークが表示部65に表示される。これを繰り返し行うことにより、被検物の画像上に複数の被検部SAを示すマークが表示されたマップを作成することができる。マークを表示部65の画面上でクリックすると、そのマークに対応する被検部SAの撮影画像、判定結果等を表示部65に表示させてもよい。
被検部SAが含まれる人体の一部または全部を示すデータは、上述の画像データに限らず、3Dモデルによるデータであっても良い。
【0083】
第1取得部40から第1受信部への第1データの送信、および第2取得部50から第2受信部への第2データの送信は、リアルタイムな送信に限るものではなく、記録媒体MDやサーバを経由した、時間的な遅れを伴う送信であっても良い。
第1取得部40または第2取得部50は、解析装置1に対する遠隔地に配置され、第1取得部40から第1受信部への第1データの送信および第2取得部50から第2受信部への第2データの送信は、ネットワークNWを経由した送信であっても良い。
【0084】
第1取得部40または第2取得部50は、解析装置1の近傍に配置され、第1取得部40から第1受信部への第1データの送信および第2取得部50から第2受信部への第2データの送信は、ローカルな無線通信を経由した送信であっても良い。
また、解析装置1が用いるデータの一部は、遠隔地にあるサーバ等に保存してもよく、解析装置1が行う演算処理の一部を、遠隔地にあるサーバ等で行ってもよい。
【0085】
例えば、第1取得部40を有する解析装置1が大学病院等の大病院に設置され、第2取得部50は小規模な病院や診療所に設置されても良い。この場合、第2取得部50で取得された第2データは、例えばネットワークNW等を経由して大病院に設置された解析装置1に送信される。
【0086】
(第2取得部50の測定波長の選定)
なお、上記の一実施形態においては、第2取得部50の測定波長(3つのLED91a~91cから照射光の波長)は、離散的な3波長であって、その中心波長は、それぞれ500nm、650nm、680nmであるとした。しかし、これら3波長は、上記の値に限られるわけではなく、例えば、それぞれ500nmから680nmまでの波長であって相互に20nm以上異なる3つの波長であっても良い。
【0087】
一方、波長が上記の範囲から外れると、メラノーマを正しく認識できる確率(Sensitivity。以下、「SE」と呼ぶ。)が低下する、または、ほくろなどの良性の色素性病変を良性の色素性病変であると正しく誤認する確率SP(Speciality。以下、「SP」と呼ぶ。)が低下する、などの不利益が生じる恐れがある。
以下、
図6から
図10を参照して、第2取得部50の第1から第3の測定波長と、上記のSEおよびSPとの関連性について説明する。
【0088】
図6から
図10の各図が含むグラフは、いずれも第1取得部40が取得した多数の第1データから上述の手法で算出したそれぞれの第3データを用いて判定指標DIを算出し、判定指標DIの値を横軸とし、縦軸にその判定指標DIの度数分布を示したグラフである。判定指標DIとしては、上述のエントロピー指標DIentを使用している。
図6から
図10に示した例において、判定指標DIの算出に使用した、各データ点に対するスペクトル角度θの分布における各ビン(区間)の角度θの幅(θ(j+1)-θj)は、0.1度である。
なお、
図6から
図10のそれぞれに示す結果においては、後述するように第1データから第3データを算出する際の第1から第3の測定波長のいずれかが、それぞれ異なっている。
【0089】
図6(A)~
図6(D)は、第1の測定波長を500nm、第2の測定波長を610nm、第3の測定波長を645nmとして算出した第3データから算出した判定指標DIの度数分布を示している。
図7(A)~
図7(D)は、第1の測定波長を500nm、第2の測定波長を650nm、第3の測定波長を680nmとして算出した第3データから算出した判定指標DIの度数分布を示している。
【0090】
図8(A)~
図8(D)は、第1の測定波長を515nm、第2の測定波長を600nm、第3の測定波長を640nmとして算出した第3データから算出した判定指標DIの度数分布を示している。
図9(A)~
図9(D)は、第1の測定波長を470nm、第2の測定波長を570nm、第3の測定波長を605nmとして算出した第3データから算出した判定指標DIの度数分布を示している。
【0091】
図10(A)~
図10(D)は、第1の測定波長を445nm、第2の測定波長を590nm、第3の測定波長を695nmとして算出した第3データから算出した判定指標DIの度数分布を示している。
なお、
図6~
図10に示した例においては、第1~第3の測定波長のスペクトル分布の波長の半値全幅は、概ね9nmから40nmである。ただし、
図8の第2の測定波長(600nm)における半値全幅は110nmであり、
図10の第3の測定波長(695nm)における半値全幅は100nmである。
【0092】
図6から
図10に含まれる各グラフにおいて、黒塗の棒グラフで示す度数分布MMはメラノーマを含む多数の被検部SAの度数分布を示し、斜線を付加した棒グラフで示す度数分布NMSCはメラノーマ以外の皮膚癌を含む多数の被検部SAの度数分布を示している。また、白塗の棒グラフで示す度数分布benignは癌ではない良性の色素性病変を含む多数の被検部SAの度数分布を示している。
【0093】
図6(A)、
図7(A)、
図8(A)、
図9(A)、
図10(A)は、被検部SAが、白人の皮膚のうち掌蹠部を除く部分の場合の各度数分布のグラフと、良性の色素性病変を良性の色素性病変であると正しく誤認する確率SPとを示している。
図6(B)、
図7(B)、
図8(B)、
図9(B)、
図10(B)は、被検部SAが、日本人の皮膚のうち掌蹠部を除く部分の場合の各度数分布のグラフと、良性の色素性病変を良性の色素性病変であると正しく誤認する確率SPとを示している。
【0094】
図6(C)、
図7(C)、
図8(C)、
図9(C)、
図10(C)は、被検部SAが、日本人の皮膚のうち掌蹠部である場合の結果の各度数分布のグラフと、良性の色素性病変を良性の色素性病変であると正しく誤認する確率SPとを示している。
以上において、良性の色素性病変をメラノーマと誤認する確率SPは、良性の色素性病変benignの度数分布benignのうちの閾値より大きな判定指標DIを持つ度数分布の和を、度数分布benignの総和で除した値である。
【0095】
ここで、閾値は、度数分布MMにおいて、判定指標DIの最小値の次に大きな判定指標DIの値としている。一例として、
図6(A)に示すグラフの場合、度数分布MMにおける判定指標DIの最小値は4.73であり、最小値の次に大きな判定指標DIの値は5.22であるので、閾値を5.22としている。
【0096】
図6(D)、
図7(D)、
図8(D)、
図9(D)、
図10(D)は、被検部SAが、上記の、白人の皮膚のうち掌蹠部を除く部分、日本人の皮膚のうち掌蹠部を除く部分、および日本人の皮膚のうち掌蹠部のすべてを含む場合の各度数分布のグラフを示している。
【0097】
上述のように、病変判定部74は、判定指標DIが所定の閾値より大きいか否かにより被検部SAにメラノーマを否むか否かの判定を行う。
図6から
図8に示された各グラフでは、度数分布MMは、度数分布benignに比べて、グラフの右側すなわち判定指標DIが大きな側に偏って分布していることが判る。
【0098】
従って、
図6から
図8の各条件下においては、判定指標DIの閾値(判定基準値)を度数分布MMの左端(最小値)の近傍に設定することにより、メラノーマを正しく認識できる確率SEを増大できる。そして、良性の色素性病変を良性の色素性病変であると正しく誤認する確率SPを増大することができる。
【0099】
一方、
図9および
図10に示された各グラフでは、度数分布MMと度数分布benignとのグラフの中の左右方向の位置に大きな違いがない。
従って、
図9および
図10の各条件下においては、判定指標DIの閾値(判定基準値)を度数分布MMの左端の近傍に設定しても、良性の色素性病変を良性の色素性病変であると正しく誤認する確率SPを増大させることは難しい。
確率SPの値は、
図6から
図8の各条件下においては0.35以上であるのに対し、
図9および
図10の各条件下においては0.05以下であり、確率SPの値に大きな違いが生じている。
【0100】
図6から
図10までに示した結果と、
図9および
図10に示した結果の違いは、第1データから第3データを作成する際に使用した第1から第3の測定波長の違いである。従って、第1~第3の測定波長がいずれも500nmから680nmまでの波長であって相互に20nm以上異なっている場合には、500nm未満の第1~第3の測定波長を含む場合に比べて、良性の色素性病変を良性の色素性病変であると正しく誤認する確率SPを増大できることが判る。
【0101】
なお、上記の測定波長に関する考察は、第1取得部40が取得した第1データから第3データを作成する場合に限って成り立つものではなく、第2取得部50が第2データを取得する際にも適用できるものである。従って、第2取得部50の測定波長(3つのLED91a~91cの発光波長)も、500nmから680nmまでの波長であって相互に20nm以上異なる波長としても良い。
【0102】
(一実施形態、および各変形例の解析装置の効果)
以上の一実施形態、および各変形例の解析装置は、以下の効果を有している。
(1)解析装置1は、相互に波長が異なるm個の波長域の光(mは自然数)Lでそれぞれ被検物SAを検出して取得した第1データを受信する第1受信部62と、相互に波長が異なるm個より少ないn個の波長域の光(nは自然数)Rでそれぞれ被検物SAを検出して取得した第2データを受信する第2受信部63と、第1データに含まれる被検物SAの第1検出部位と、第2データに含まれる第2検出部位とが、一致するか否かを判定する判定部72と、を備えている。
この構成により、生体上の複数の被検部SAの解析を短時間で行うことができる。
【0103】
(2)解析装置1は、第1データから、被検部SAをn個の波長域の光でそれぞれ検出した場合に得られる第3データを算出する画像算出部71をさらに有し、判定部72は、第3データと第2データとを比較することにより、第1検出部位と第2検出部位とが一致するか否かを判定しても良い。
この構成により、第1データに含まれる第1検出部位と、第2データに含まれる第2検出部位とが一致するか否かの判定を、より高精度で行うことができる。
【0104】
(3)解析装置1の画像算出部71は、第1データにおけるm個の波長域の光(測定光L)に対する測定スペクトルSS0に関する情報、および第2データにおける前記n個の波長域の光に対する分光感度に関する情報(LS1~LS3)を用いて、第3データを算出する構成としても良い。この構成により、第1データに含まれる第1検出部位と、第2データに含まれる第2検出部位とが一致するか否かの判定を、さらに高精度で行うことができる。
【0105】
(4)解析装置1が、第2データにおけるn個の波長域の光に対する分光感度に関する情報(LS1~LS3)を受信する波長情報入力部68を有することで、任意の第2取得部50の分光感度に関する情報(LS1~LS3)を受信することができる。
(5)第2データにおけるn個の波長域のnは3であり、第2データの取得に用いられる3個の波長域は、それぞれ500nmから680nmまでの波長であって相互に20nm以上異なる3つの波長を中心とする波長域であってもよい。この構成により、第2データからメラノーマを正しく認識できる確率SEを増大させ、かつ良性の色素性病変を良性の色素性病変であると正しく誤認する確率SPを増大させることができる。すなわち、第2データからより高精度にメラノーマを検出することができる。
【0106】
(解析方法、およびプログラムの一実施形態)
以下、解析方法、およびプログラムの一実施形態について説明する。なお、以下の解析方法、およびプログラムは、上述の一実施形態の解析装置を用いて行うものであり、上述の一実施形態および各変形例の解析装置の説明で説明した事項についての説明は適宜省略する。
【0107】
図11は、一実施形態の解析方法の概要を説明するフローチャートを示したものである。また、一実施形態のプログラムは、一実施形態の解析装置1の記憶部69に記憶され、制御部60に設けられたCPUにより実行されて、
図11に示したフローチャートに従った処理を制御部60等に実行させるものである。
【0108】
ステップS101において、制御部60は第2受信部63に第2データを受信させる。この処理は、装置制御部61が第2取得部50を制御して第2取得部50に第2データを取得させ、第2取得部50に対し第2データを第2受信部63に送信させるものであっても良い。あるいは、解析装置1とは別に設けられた第2取得部50が取得した第2データを、制御部60が第2受信部63に受信させる処理であっても良い。
【0109】
ステップS102において、制御部60は第1受信部62に第1データを受信させる。この処理は、装置制御部61が第1取得部40を制御して第1取得部40に第1データを取得させ、第1取得部40に対し第1データを第1受信部62に送信させるものであっても良い。あるいは、解析装置1とは別に設けられた第1取得部40が取得した第1データを、制御部60が第1受信部62に受信させる処理であっても良い。
ステップS101とステップS102の実行順は、上記とは逆であってもかまわない。
【0110】
ステップS103において、制御部60は、画像算出部71に第1データに基づいて第3データを算出させる。第3データの算出方法は、上述の一実施形態または変形例の解析装置1の説明において説明したとおりである。
ステップS104において、制御部60は、N回のループを開始する。ここで、Nとは、第1データに含まれる第1検出部位の数、または第2データに含まれる第2検出部位の数である。
【0111】
ステップS105において、制御部60は、判定部に、第1データに含まれるj番目(1≦j≦N)の第1検出部位と、第2データに含まれるj番目の第2検出部位とが、一致するか否かを判定させる。この判定の方法についても、上述の一実施形態または変形例の解析装置1の説明において説明したとおりである。
【0112】
j番目の第1検出部位とj番目の第2検出部位とが一致した場合には、制御部60は、ステップS106に進み、指標算出部73にj番目の第1検出部位の判定指標DIを算出させる。判定指標DIの算出方位法についても、上述の一実施形態または変形例の解析装置1の説明において説明したとおりである。
【0113】
そして、ステップS107において、制御部60は、病変判定部74に、第1検出部位がメラノーマか否かを判定させる。この判定の方法も、上述の一実施形態または変形例の解析装置1の説明において説明したとおりである。
ステップS107の終了後、ステップS108に進む。
【0114】
一方、ステップS105において、第1検出部位と第2検出部位とが一致しなかった場合には、ステップS108に進む。
ステップS108は、上記のN回のループの終端であり、ループの回数(j)はN未満であれば、ステップS104に戻って、上記の処理を繰り返す。
一方、ループの回数(j)がNに達していれば、処理を終了する。
【0115】
なお、
図11に示したフローチャートの各ステップは、必ずしもその全ての実行が必要とされるものではない。
また、上述の一実施形態または変形例の解析装置1の説明において説明した各種の事項は、上記の一実施形態の解析方法およびプログラムにも適用される。
【0116】
(一実施形態の解析方法の効果)
以上の一実施形態の解析装置は、以下の効果を有している。
(6)解析方法は、相互に波長が異なるm個の波長域の光(mは自然数)Lでそれぞれ被検物SAを検出して取得した第1データを受信すること、相互に波長が異なるm個より少ないn個の波長域の光(nは自然数)Rでそれぞれ被検物SAを検出して取得した第2データを受信すること、第1データに含まれる第1検出部位と第2データに含まれる第2検出部位とが一致するか否かを判定すること、とを備える。
この構成により、生体上の複数の被検部SAの解析を短時間で行うことができる。
【0117】
(7)解析方法は、第1データから、被検部SAを前記n個の波長域の光(測定光R)でそれぞれ検出した場合に得られる第3データを算出すること、をさらに備え、第3データと第2データとを比較することにより、第1検出部位と第2検出部位とが一致するか否かにより前記判定をしても良い。
この構成により、第1データに含まれる第1検出部位と、第2データに含まれる第2検出部位とが一致するか否かの判定を、より高精度で行うことができる。
【0118】
(8)解析方法は、第1データにおけるm個の波長域の光(測定光L)に対する測定スペクトルSS0に関する情報、および第2データにおけるn個の波長域の光(測定光R)に対する分光感度に関する情報(LS1~LS3)を用いて、第3データを算出しても良い。この構成により、第1データに含まれる第1検出部位と、第2データに含まれる第2検出部位とが一致するか否かの判定を、より高精度で行うことができる。
【0119】
(9)第2データにおけるn個の波長域のnは3であり、第2データの取得に用いられる3個の波長域は、それぞれ500nmから680nmまでの波長であって相互に20nm以上異なる3つの波長を中心とする波長域であっても良い。この構成により、第2データからメラノーマを正しく認識できる確率SEを増大させ、かつ良性の色素性病変を良性の色素性病変であると正しく誤認する確率SPを増大させることができる。すなわち、第2データからより高精度にメラノーマを検出することができる。
【0120】
(プログラムの実施形態の補足)
上述したとおり、一実施形態のプログラムは、一実施形態の解析装置1の記憶部69に記憶され、制御部60に設けられたCPUにより実行されて、
図11に示したフローチャートに従った処理を制御部60等に実行させるものである。従って、一実施形態のプログラムは、上述の一実施形態の解析方法と同様な効果を有している。
【0121】
制御部60内のコンピュータシステムが実行するプログラムは、記録媒体MDに記録されたものを、読取部67により読み込み、記憶部69に記憶させても良い。
また、プログラムは、インターネット等のネットワークNWを経由して通信部66を介して受信し、記憶部69に記憶させても良い。
また、プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
このように、プログラムは、記録媒体や搬送波などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給できる。
【0122】
本発明は以上の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。本実施形態は、上記した態様の全て又は一部を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0123】
1:解析装置、40:第1取得部、50:第2取得部、60:制御部、61:装置制御部、62:第1受信部、63:第2受信部、64:入力部、65:表示部、66:通信部、67:読取部、68:波長情報入力部、69:記憶部、70:解析部、71:画像算出部、72:判定部、73:指標算出部、74:病変判定部、NW:ネットワーク、30:撮像部、SO:生体(被検物)