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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163851
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】半導体のキャリア密度評価装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 33/00 20060101AFI20221020BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20221020BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C30B33/00
C30B29/36 A
H01L21/66 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068938
(22)【出願日】2021-04-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】村田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】土田 秀一
【テーマコード(参考)】
4G077
4M106
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
4G077GA01
4G077GA02
4G077GA06
4G077GA07
4G077GA08
4M106AA02
4M106CA03
4M106CA04
4M106CA05
4M106CA31
4M106CA47
4M106CB19
4M106DH19
4M106DH31
(57)【要約】
【課題】結晶欠陥の実際の拡大、縮小状況に対してキャリア密度を対応させることで、キャリア密度の評価、及び、確認を行う。
【解決手段】
光照射手段3で光を照射した状態の試料1の欠陥の拡縮の状況を二次元検出器5で検出し、制御装置6により、試料1の拡縮の状況、及び、ホール信号発生手段7で形成されたホール電圧の情報に基づき、試料1の欠陥が変化する際の(欠陥が拡縮する際の)のキャリア密度の値を求める。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体の試料に光を照射する光照射手段と、
光照射手段で光を照射した状態の前記試料の二次元状況を検出する二次元検出手段と、
前記試料に電流を印加する電流印加手段と、
前記試料に磁場を印加する磁場生成手段と、
前記二次元検出手段で検出された前記試料の二次元状況の情報、及び、前記電流印加手段、ならびに、前記磁場生成手段で形成された電気信号の情報が入力され、これらの情報に基づいて、前記試料の二次元状況が変化する際のキャリア密度の値を導出する制御手段とを備えた
ことを特徴とする半導体のキャリア密度評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、
前記電流印加手段、及び、前記磁場生成手段は、
電極方向の電場、及び、磁場に直行する方向に電場を生じさせるホール信号発生手段であり、
前記制御手段は、
前記試料の二次元状況の情報に基づいて、前記試料のホール電圧を求め、このホール電圧の情報に基づいてキャリア密度を導出する
ことを特徴とする半導体のキャリア密度評価装置。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、
前記試料の温度を変化させる温度調整手段を備えた
ことを特徴とする半導体のキャリア密度評価装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、
前記試料に曲げ応力を印加する応力印加手段を備えた
ことを特徴とする半導体のキャリア密度評価装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、
前記二次元状況は結晶欠陥である
ことを特徴とする半導体のキャリア密度評価装置。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、
前記制御手段には、
前記結晶欠陥が拡縮する際のキャリア密度の値を決定する機能を有している
ことを特徴とする半導体のキャリア密度評価装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、
前記試料は、キャリア密度を評価するためのサンプル試料であり、
前記制御手段には、
前記サンプル試料の任意の二次元状況が得られた際のキャリア密度の値に基づいて、所望の二次元状況が得られるキャリア密度となるように、デバイス構造を設定する機能を有している
ことを特徴とする半導体のキャリア密度評価装置。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、
前記試料は、実品から切り出された実品試料であり、
前記制御手段には、
前記実品試料の所望の二次元状況が得られた際のキャリア密度の値に基づいて、前記実品試料のキャリア密度を評価して当該キャリア密度を確認する機能を有している
ことを特徴とする半導体のキャリア密度評価装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、
前記試料は、炭化珪素半導体から形成されている
ことを特徴とする半導体のキャリア密度評価装置。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、
前記二次元状況は積層欠陥である
ことを特徴とする半導体のキャリア密度評価装置。
【請求項11】
請求項10に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、
前記積層欠陥は、シングルショックレー型積層欠陥およびダブルショックレー型積層欠陥である
ことを特徴とする半導体のキャリア密度評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶欠陥の実際の拡大、縮小状況に対してキャリア密度を対応させることで、キャリア密度の評価、及び、確認を行うことができる半導体のキャリア密度評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)結晶中の積層欠陥は、注入された過剰キャリア密度や温度に応じて、拡縮することが知られている。ここで、代表的な積層欠陥は、シングルショックレー型積層欠陥、ダブルショックレー型積層欠陥である。特に、シングルショックレー型積層欠陥は、基底面転位が核となり、その周辺の過剰キャリア密度が高くなることで、拡張することが知られており、SiCを半導体材料として適用したパワーデバイスの長期信頼性を担保する上で、大きな課題となっている。
【0003】
SiC単結晶基板中に基底面転位は多く存在し、その上にSiC単結晶膜を成膜すると、基板中の基底面転位の一部が伝播する。そのような単結晶膜および単結晶基板を用いて作製したPiNダイオードにおいて、通電によって、積層欠陥が拡張することが大きな課題となっていた。この場合、アノードより正孔が注入され、カソードより電子が注入される。
【0004】
積層欠陥の拡張を抑制するための解決策として、SiC単結晶膜中の基底面転位密度を下げることが検討され、成膜条件を工夫することにより、単結晶膜の成膜時に他の転位(貫通刃状転位)への転換効率を上昇させることができる。現在において、直径150mmのウエーハ上においても、基底面転位はゼロの達成が報告されている。
【0005】
一方で、電流密度を増加させると、単結晶膜と単結晶基板界面より基板側の基底面転位より、積層欠陥が拡張することが課題となっている。SiC単結晶の作製に用いられている昇華法を利用する場合、基底面転位密度をゼロとすることは困難な状況にある。解決策として、基底面転位周辺の過剰キャリア密度、特に少数キャリア密度を低下させるために、キャリア寿命の短い層をバッファ層として挿入することが検討され、その効果が実証されている。
【0006】
ここで、キャリア寿命とは、半導体中において過剰キャリアが対消滅する時間である。キャリア寿命を短くするための方策として、SiC単結晶膜中の自由キャリア密度を増加させることや、再結合中心として働く格子欠陥を導入することが提案されている。ある値のキャリア寿命を有する層を挿入する場合、その厚さを高めるほど、積層欠陥の拡大を起こる電流密度を高めることができることが実験的に示されている。
【0007】
ここで、所望の層におけるキャリア密度は、デバイス構造と電流密度から、一般にシミュレーションにより解析的に求めることが実施されている(例えば、特許文献1参照)。シミュレーションによりキャリア密度を把握することで、積層欠陥の拡大、縮小の挙動が生じるキャリア密度を類推することができる。
【0008】
しかし、シミュレーションにより推定されるキャリア密度の正確さは、構造モデルに依存するために、定量性に乏しく、積層欠陥の拡大、縮小の挙動とキャリア密度との関係を定量的に関連付けることができる技術の出現が望まれている。
【0009】
尚、積層欠陥が拡張する過剰キャリア密度のしきい値は、SiC単結晶の不純物密度等によって異なることが報告されている。積層欠陥の拡大に関する物理的機構の解明においても、過剰キャリア密度の決定方法が要求されている。SiC単結晶膜の不純物密度および測定温度等により、積層欠陥の拡大しきい値は変動することから、SiC単結晶を用いたデバイスの信頼性を高めるためには、定量的な値を得られる評価手法が品質管理上において求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014-107277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたもので、結晶欠陥の実際の拡大、縮小に対応するキャリア密度を定量的に決定できる半導体のキャリア密度評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の半導体のキャリア密度評価装置は、半導体の試料に光を照射する光照射手段と、光照射手段で光を照射した状態の前記試料の二次元状況を検出する二次元検出手段と、前記試料に電流を印加する電流印加手段と、前記試料に磁場を印加する磁場生成手段と、前記二次元検出手段で検出された前記試料の二次元状況の情報、及び、前記電流印加手段、ならびに、前記磁場生成手段で形成された電気信号(ホール電圧)の情報が入力され、これらの情報に基づいて、前記試料の二次元状況が変化する際のキャリア密度の値を導出する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項1に係る本発明では、光照射手段で光を照射した状態の試料の二次元状況を二次元検出手段で検出し、制御手段により、二次元検出手段で検出された試料の二次元状況の情報、及び、電流印加手段で印加した電流、ならびに、磁場生成手段で形成された磁場の情報に基づき、試料の二次元状況が変化する際の(欠陥が拡縮する際の)のキャリア密度の値を導出することができる。ここで、導出されるキャリア密度は、暗黒下におけるキャリア密度と光照射により生成される過剰キャリア密度の和である。また、両者の差分から、光照射により生成された過剰キャリア密度を算出することもできる。
【0014】
これにより、検出された二次元状況{例えば、結晶欠陥(積層欠陥)の実際の拡大、縮小状況}に対して試料のキャリア密度を対応させることが可能になる。
【0015】
そして、請求項2に係る本発明の半導体のキャリア密度評価装置は、請求項1に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、前記電流印加手段、及び、前記磁場生成手段は、電極方向の電場、及び、磁場に直行する方向に電場(ホール電場)を生じさせるホール信号発生手段であり、前記制御手段は、前記試料の二次元状況の情報に基づいて、前記試料のホール電圧を求め、このホール電圧の情報に基づいてキャリア密度を導出することを特徴とする。
【0016】
請求項2に係る本発明では、ホール信号発生手段でホール電場を生じさせ、試料の二次元状況の情報に基づいてホール電圧を求め、ホール電圧の情報に基づいてキャリア密度の値を求めることができる。
【0017】
また、請求項3に係る本発明の半導体のキャリア密度評価装置は、請求項1もしくは請求項2に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、前記試料の温度を変化させる温度調整手段を備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項3に係る本発明では、温度調整手段により試料の温度を変化させることで、任意の温度条件におけるキャリア密度の値を求めることができる。
【0019】
また、請求項4に係る本発明の半導体のキャリア密度評価装置は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、前記試料に曲げ応力を印加する応力印加手段を備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項4に係る本発明では、応力印加手段により試料に所望の曲げ応力を印加することで、任意の応力条件におけるキャリア密度の値を求めることができる。
【0021】
また、請求項5に係る本発明の半導体のキャリア密度評価装置は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、前記二次元状況は結晶欠陥であることを特徴とする。
【0022】
請求項5に係る本発明では、結晶欠陥の情報(拡大、縮小の状況)、及び、ホール電場の情報に基づき、試料の結晶欠陥が拡縮する際のキャリア密度の値を導出することができる。
【0023】
また、請求項6に係る本発明の半導体のキャリア密度評価装置は、請求項5に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、前記制御手段には、前記結晶欠陥が拡縮する際のキャリア密度(しきい過剰キャリア密度)の値を決定する機能を有していることを特徴とする。
【0024】
請求項6に係る本発明では、結晶欠陥が拡縮する際のキャリア密度であるしきい過剰キャリア密度の値を決定することができる。
【0025】
また、請求項7に係る本発明のキャリア密度評価装置は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、前記試料は、キャリア密度を評価するためのサンプル試料であり、前記制御手段には、前記サンプル試料の任意の二次元状況が得られた際のキャリア密度の値に基づいて、所望の二次元状況が得られるキャリア密度となるように、デバイス構造を設定する機能を有していることを特徴とする。
【0026】
請求項7に係る本発明では、キャリア密度を評価するためのサンプル試料の二次元状況が変化する際の(欠陥が拡縮する際の)キャリア密度の値を導出し、サンプル試料のキャリア密度の値に基づいて、所望の二次元状況が得られるキャリア密度となるように、デバイス構造を設定することができる(サンプル試料に合わせてデバイス構造を設定することができる)。
【0027】
また、請求項8に係る本発明の半導体のキャリア密度評価装置は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、前記試料は、単結晶膜を切り出した実品試料であり、前記制御手段には、前記実品試料の所望の二次元状況が得られた際のキャリア密度の値に基づいて、前記実品試料のキャリア密度を評価して当該キャリア密度を確認する機能(所望のキャリア密度であるか否かを確認する機能)を有していることを特徴とする。
【0028】
請求項8に係る本発明では、単結晶膜(既存の単結晶の膜)を切り出した実品試料の二次元状況が変化する際の(欠陥が拡縮する際の)のキャリア密度の値を導出し、所望の二次元状況が得られた際のキャリア密度の値に基づいて、実品試料のキャリア密度を評価して当該キャリア密度を確認することができる(実品試料が設計通りの状態になっているかを確認することができる)。例えば、データがマップ化され、マップに基づいて実際の測定結果(ホール電場)に対してキャリア密度を確認する。また、所望の二次元状況が得られた際のキャリア密度に加えて、導電率、キャリア移動度を基に、実品試料の状態を確認(クロスチェック)する。
【0029】
また、請求項9に係る本発明の半導体のキャリア密度評価装置は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、前記試料は、炭化珪素半導体から形成されていることを特徴とする。
【0030】
請求項9に係る本発明では、試料の二次元状況が変化する際の(欠陥が拡縮する際の)のキャリア密度の値を導出することができる。
【0031】
また、請求項10に係る本発明の半導体のキャリア密度評価装置は、請求項9に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、前記二次元状況は積層欠陥であることを特徴とする。また、請求項11に係る半導体のキャリア密度評価装置は、請求項10に記載の半導体のキャリア密度評価装置において、前記積層欠陥は、シングルショックレー型積層欠陥およびダブルショックレー型積層欠陥であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明の半導体のキャリア密度評価装置は、試料の二次元状況(結晶欠陥の実際の拡大、縮小状況)に対してキャリア密度を対応させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施例に係る半導体のキャリア密度評価装置の概略構成図である。
図2】制御手段のブロック図である。
図3】ホール電圧を説明する概念図である。
図4】キャリア密度を定量化するための制御グラフである。
図5】キャリア密度を定量化するための制御グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1には本発明の一実施例に係る半導体のキャリア密度評価装置である評価装置の概略機器の構成、図2には制御手段のブロック構成、図3にはホール電圧の概念状況、図4図5にはキャリア密度を定量化するための制御グラフを示してある。
【0035】
図1に示すように、キャリア密度評価装置10には、評価対象である半導体の試料(キャリア密度を評価するためのサンプル試料)1が載置され、温度調整機能、応力印加機能、磁場の印加機能(磁場印加手段)を備えたテーブル2が備えられている。レーザー光等を照射する、光照射手段3が備えられ、試料1には、光照射手段3から任意の波長の任意の強度の光が出射される。
【0036】
例えば、光照射手段3は、レーザー光、発光ダイオード(LED)光、ランプなどであり、その波長として、一光子励起ならば、評価対象の半導体のバンドギャップエネルギー以上もしくは結晶欠陥準位のエネルギー以上、二光子励起ならば評価対象のバンドギャップエネルギーの1/2以上もしくは結晶欠陥が形成する欠陥準位から伝導帯もしくは価電子帯までのエネルギーの1/2以上を有するものを利用できる。三光子励起などの多光子励起を利用しても良い。
【0037】
テーブル2に備えられた磁場印加手段(磁場生成手段)は、例えば、永久磁石等であり、評価対象の試料1に対して磁場を印加できる。また、磁場の方向や極性、強度を任意に制御してもよい。温度調整機能(温度調整手段)は、例えば、評価対象の試料の直下へのヒータの配置や、恒温槽を利用することができる。応力印加機能(応力印加手段)は、例えば、4点曲げの構造を用いることができる。
【0038】
光が照射された試料1の状況を把握する把握装置(顕微鏡)4が備えられ、把握装置4で把握された情報は二次元検出器5で二次元の情報(欠陥の二次元情報)に調整され、制御装置6(制御手段)に送られる。尚、試料1に欠陥が存在しない場合には、試料1に圧子を押し込むことで圧痕を意図的に形成することができる。
【0039】
試料1に電流を印加する電流印加手段が備えられ、電流印加手段は、直流電源または交流電源、もしくは、それらを重畳させたものを利用できる。電流印加手段、及び、磁場印加手段により、電極方向の電場、及び、磁場に直行する方向に電場(ホール電場)を生じさせる(発生させる)ホール信号発生手段7が構成されている。
【0040】
電流印加手段、及び、磁場印加手段により構成されるホール信号発生手段7により発生させたホール電圧の情報は制御装置6に送られる。制御装置6には、把握装置4で把握された二次元の情報(欠陥の二次元情報:二次元状況把握機能)、及び、ホール信号発生手段7で発生させたホール電圧の情報(ホール信号把握機能)に基づいて、試料1の欠陥が拡縮する際のキャリア密度の値を導出するキャリア密度導出機能を有している。
【0041】
図2に示すように、制御装置6は、把握装置4で把握され二次元検出器5で調整された二次元の情報(欠陥の二次元情報)が送られる二次元状況把握機能11を有している。また、制御装置6は、ホール信号発生手段7で発生されたホール電圧の情報が送られるホール信号把握機能12を有している。そして、二次元状況把握機能11で把握された欠陥の二次元情報、及び、ホール信号把握機能12で把握されたホール電圧の情報は、キャリア密度導出機能13に送られ、キャリア密度が求められる。
【0042】
図3に示すように、半導体のサンプル21に対し、電源手段22から電極を介して電流を供給することで、電流の向き(y方向)に電場が形成され、磁場印加手段によりy方向に直行するz方向に磁場が形成される。そして、y方向、及び、z方向に直行する方向(試料の面方向:x方向)に、ホール電場が形成される。ホール電場(ホール電圧)の情報に基づいて、サンプル21のキャリアの種類(電子、正孔)、キャリア密度、キャリア移動度を把握することができる(測定することができる)。
【0043】
ホール電圧の検出には、例えば、電圧計を利用することができる。光照射手段または磁場印加手段もしくは電流印加手段において交流信号を使用する際には、ロックインアンプなどを用いて、信号対雑音比を向上させることもできる。
【0044】
二次元状況把握機能11には、図4に示すように、ホール電圧と光強度との関係のグラフ(参照マップ)が記憶されている。即ち、光照射手段3からの光強度が高くなるにしたがって、ホール電圧(V)が低くなる状態のマップが記憶されている。そして、二次元用マップには、光照射手段3から光強度が高くなるにしたがって、欠陥15(結晶欠陥)の大きさが大きくなる状態の情報が合わせて記憶されている。
【0045】
つまり、参照マップには、光強度が高くなるにしたがって、ホール電圧(V)が低くなる情報、及び、図に三角印で示すように、欠陥15の大きさが大きくなる(もしくは小さくなる)情報が記憶されている。このため、参照マップにより、光強度Ithに対するホール電圧(V)の値VHthを把握することができる。
【0046】
尚、温度調整機能、応力印加機能で、試料1に所望の温度、所望の応力が印加されることで、図4に示したホール電圧と光強度との関係は、印加された温度、応力に基づいた状態に補正される。
【0047】
ホール信号把握機能12には、ホール信号発生手段7で形成された情報(図3に示したホール電圧の情報)が入力される。そして、ホール信号把握機能12には、演算により、キャリア密度とホール電圧との関係の結果が把握されている(図5参照)。即ち、ホール電圧(V)が高くなるにしたがって、キャリア密度(n)が低くなる演算結果が得られている。
【0048】
つまり、ホール電圧(V)が高くなるにしたがって、キャリア密度(n)が低くなると共にキャリア密度(n)の低下がなだらかになる状態の演算結果が得られ、任意のホール電圧(V)の値(任意の欠陥15の状況)でのキャリア密度(n)の値nthを求めることができる。
【0049】
キャリア密度導出機能13では、任意の状態の欠陥15におけるホール電圧(V)の値VHthに基づいて、任意の状態の欠陥15(例えば、欠陥15が大きくなる時点)におけるキャリア密度(n)の値nthが求められる。求められたキャリア密度(n)の値nthは、例えば、欠陥15が拡大する際のしきい値として評価されて出力される。
【0050】
SiC結晶の基底面転位が核となり、その周辺の過剰キャリア密度が高くなり、積層欠陥(欠陥15)が拡張する。上述したキャリア密度導出機能13では、欠陥15が拡張または縮小する際におけるしきい過剰キャリア密度(キャリア密度のしきい値)を、定量的に評価することができる。
【0051】
上述したキャリア密度評価装置10の動作を説明する。
【0052】
温度調整機能、応力印加機能により、所望の温度、及び、所望の内部応力の状態に調整された試料1に対し、光照射手段3から任意の波長・強度の光を照射し、欠陥15に対して均一に光を照射する。欠陥15に強度を変えながら光を照射することで、所望の環境状態にある試料1の欠陥15の周辺のキャリア密度を変化させる。欠陥15が拡張、移動した際におけるホール電圧をホール信号発生手段7で形成し、制御装置6のホール信号把握機能により測定する。
【0053】
光強度Ithに対するホール電圧(V)の値VHthに基づいて、拡張、移動した状態の欠陥15(例えば、欠陥15が大きくなる時点)におけるキャリア密度(n)の値nthが求められる。求められたキャリア密度(n)の値nthは、例えば、欠陥15が拡大する際のしきい値として評価されて出力される。
【0054】
欠陥15の大きさが変化する際のキャリア密度を求め、その値をしきい値にする。しきい値を把握した状態で、所望のキャリア密度となる半導体を作製することで、欠陥15が拡張しない半導体とすることができ、信頼性が向上する。例えば、異なるキャリア密度の層を積層することで、欠陥の状態(キャリア密度の状態)を制御することができる。
【0055】
つまり、キャリア密度を評価するための試料1(サンプル試料)の任意の二次元状況が得られた際のキャリア密度(n)の値nthに基づいて、所望の二次元状況(欠陥15の状況)が得られるキャリア密度となるように、デバイス構造を設定する機能を有している。そして、試料1のキャリア密度(n)の値nthに基づいて、所望の欠陥15が得られる(所望の状態の欠陥15となる)キャリア密度(n)の値nthとなるように、試料1に合わせてデバイス構造を設定することができる。
【0056】
例えば、所望の物性を有する単結晶膜等を備えたデバイス構造を構築することができる。つまり、不純物密度やキャリア寿命の異なる単結晶膜において、任意のキャリア密度(n)の値nthとなるように設計することで(欠陥の拡がりが生じるしきい値に規制されたキャリア密度に設計することで)、欠陥の拡がりを抑えた積層デバイスを作製することができる。
【0057】
上述した実施例では、試料1として、キャリア密度を評価するためのサンプル試料を用い、サンプル試料のキャリア密度(n)を評価して、サンプル試料に合わせてデバイス構造を設定する例を挙げて説明したが、試料としては、実品を切り出した実品試料を用いて実品試料のキャリア密度(n)を評価することも可能である。
【0058】
実品試料を用いることで、試料1に基づいて設計したデバイス構造における単結晶膜が、設計通りに作製されているかの確認(所望のキャリア密度であるか否かを確認する機能)を行うことができる。
【0059】
また、上述した実施例では、参照マップを基に、ホール電圧(V)の値VHthが得られる光強度で光を照射した状態とし、応力印加機能により試料1に印加する応力を変化させながら、欠陥15の状態を確認することで、実試料の状態を確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、キャリア密度の評価、及び、確認を行うことができる半導体のキャリア密度評価装置の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 サンプル試料(試料)
2 テーブル
3 光照射手段
4 把握装置
5 二次元検出器
6 制御装置
7 ホール信号発生手段
10 キャリア密度評価装置
11 二次元状況把握機能
12 ホール信号把握機能
13 キャリア密度導出機能
15 欠陥
21 サンプル
22 電源手段
図1
図2
図3
図4
図5