(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022016389
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】土壌改良剤とその使用
(51)【国際特許分類】
C05G 3/90 20200101AFI20220114BHJP
C07C 50/12 20060101ALI20220114BHJP
C07C 50/10 20060101ALI20220114BHJP
C07C 50/24 20060101ALI20220114BHJP
C07C 50/32 20060101ALI20220114BHJP
C07C 225/30 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
C05G3/90
C07C50/12
C07C50/10
C07C50/24
C07C50/32
C07C225/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113692
(22)【出願日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2020117949
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501174550
【氏名又は名称】国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】吉橋 忠
(72)【発明者】
【氏名】グントゥール・ヴァンカタ・スバラオ
(72)【発明者】
【氏名】中原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕嗣
【テーマコード(参考)】
4H006
4H061
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB99
4H006BJ30
4H006BM20
4H006BM72
4H006BR80
4H006BU32
4H061AA01
4H061AA02
4H061DD16
4H061EE21
4H061GG21
4H061GG45
4H061HH03
(57)【要約】
【課題】熱帯から温帯にかけての広い地域で利用でき、かつ、天然由来の材料から容易に得られる化合物又はその誘導体を利用した土壌の土壌改良剤、硝化抑制剤、肥料及び硝化抑制方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする土壌改良剤を採用する。一般式(1)中、R
1~R
6は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又は水素原子を表す。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする土壌改良剤。
【化1】
[式(1)中、R
1~R
6は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又は水素原子を表す。]
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、1,4-ナフトキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン、2-メトキシ-1,4-ナフトキノン、2-アミノ-3-クロロ-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、6-メチル-1,4-ナフトキノン、2-クロロ-1,4-ナフトキノン及び2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の土壌改良剤。
【請求項3】
硝化抑制効果を有する、請求項1又は2に記載の土壌改良剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の土壌改良剤を含有する肥料。
【請求項5】
トウモロコシの根表面部を有機溶媒に浸して根浸出液を得ることと、
前記根浸出液をクロマトグラフィーにより精製することと、を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の土壌改良剤の有効成分の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の土壌改良剤の有効成分を生成する植物を栽培することを含む、土壌の硝化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌改良剤とその使用に関する。より具体的には、土壌改良剤、肥料、土壌改良剤の有効成分の製造方法、硝化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学肥料に含まれるアンモニア、アンモニウム塩、尿素等のアンモニア態窒素や、有機質肥料が分解することによって生成したアンモニア態窒素は、土壌中、特に畑や水田の表層などの酸化的条件で硝酸態窒素に変化しやすい。
【0003】
硝化と呼ばれるこの作用は、亜硝酸菌および硝酸菌等の硝化細菌並びに古細菌の働きによって起こり、生成した亜硝酸及び硝酸イオンは土壌コロイドに吸着されることなく、硝酸性窒素として地下水に、または、土壌における脱窒作用により、強力な温室効果ガスとして問題となっている亜酸化窒素として大気中に流亡・放出される。このため硝化作用の強い酸化的な土壌条件において、施肥した窒素肥料の作物による利用率は非常に低く、また、硝化により生じた硝酸性窒素及び亜酸化窒素の環境中への拡散が自然環境汚染の原因ともなっている。
【0004】
しかしながら、空気中の窒素を化学的に固定した化学肥料の施肥は、作物生産を飛躍的に増加させる最も確実な手法であるため、著量の窒素肥料が農地に投入されている。このため、限られた環境条件ではあるが、ニトラピリン(2-クロロ-6-トリクロロメチルピリジン)や、例えば特許文献1に記載のジシアンジアミド等の合成薬剤など、硝化抑制活性を持つ化合物あるいはこれらを含む肥料が従来使用されてきた。
【0005】
熱帯地域において、熱帯イネ科牧草であるクリーピングシグナルグラス(Brachiaria humidicola)が生育する土壌において硝化が抑制される現象が知られおり(非特許文献1)、この現象を利用した特許文献2に挙げる発明が知られている。また、一般的な穀物では、ソルガムの根から分泌されるソルゴレオンが硝化抑制活性を持つことが知られている(非特許文献2)。また、脂肪酸及び脂肪酸の誘導体の硝化抑制活性を活用した特許文献3に挙げる発明も知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】G.V. Subbarao, T. Ishikawa, O. Ito, K. Nakahara, H.Y. Wang, W.L. Berry, A bioluminescence assay to detect nitrification inhibitors released from plant roots: a case study with Brachiaria humidicola. Plant and Soil 288(1-2), 101-112, 2006.
【非特許文献2】T. Tesfamariam, H. Yoshinaga, S.P. Deshpande, P.S. Rao, K.L. Sahrawat, Y. Ando, K, Nakahara, C.T. Hash, G.V. Subbarao, Biological nitrification inhibition in sorghum; the role of sorgoleone production. Plant and Soil 379 (1-2), 325-335, 2014.
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-278973号公報
【特許文献2】特許第5408478号公報
【特許文献3】特許第5067520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ニトラピリンは揮発性が高く、地温が20℃以上の条件ではほとんど効果がないことが知られており、主にジシアンジアミドが使用されてきた。
ジシアンジアミドは、ニトラピリンに比較して高い温度でも使用可能である。しかし、高い濃度での使用を必要とし、かつ、高価であるため農業生産コストに大きく影響する。したがって、ジシアンジアミドも利用される地域は限られている。
また、2013年に発生したニュージーランド産乳製品からのジシアンジアミドの検出事例に伴い、ニュージーランドでは、牧草地へのジシアンジアミド含有肥料の使用を規制するに至った。従来の硝化抑制物質は、合成薬剤であり、天然から見出されたものではなかったため、環境負荷が比較的低いと想定しうる天然物からの代替硝化抑制物質への期待が高まっている。
【0009】
土壌が酸化状態にある畑地で生産される重要な穀物であるトウモロコシでの硝化抑制については報告されていない。また、様々な植物から単離され、様々の生理活性がある1,4-ナフトキノン類について、硝化抑制活性に関する報告はない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、熱帯から温帯にかけての広い地域で利用でき、かつ、天然由来の材料から容易に得られる化合物又はその誘導体を利用した土壌の土壌改良剤、硝化抑制剤、肥料及び硝化抑制方法を提供することを目的としている。また、本物質の含有量がトウモロコシ系統間で大きな差異があることを見い出したことから、適切なトウモロコシの系統の活用による土壌の硝化抑制を行うことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]下記式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする土壌改良剤。
【0012】
【化1】
[式(1)中、R
1~R
6は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又は水素原子を表す。]
【0013】
[2]前記式(1)で表される化合物が、1,4-ナフトキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン、2-メトキシ-1,4-ナフトキノン、2-アミノ-3-クロロ-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、6-メチル-1,4-ナフトキノン、2-クロロ-1,4-ナフトキノン及び2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンからなる群より選択される1種以上である、
[1]に記載の土壌改良剤。
[3]硝化抑制効果を有する、[1]又は[2]に記載の土壌改良剤。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の土壌改良剤を含有する肥料。
[5]トウモロコシの根表面部を有機溶媒に浸して根浸出液を得ることと、前記根浸出液をクロマトグラフィーにより精製することと、を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の土壌改良剤の有効成分の製造方法。
[6][1]~[3]のいずれかに記載の土壌改良剤の有効成分を生成する植物を栽培することを含む、土壌の硝化抑制方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱帯から温帯にかけての広い地域で利用でき、かつ、天然由来の材料から容易に得られる化合物又はその誘導体を利用した土壌の土壌改良剤、硝化抑制剤、肥料及び硝化抑制方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】トウモロコシの根表面の抽出液から生成された化合物の紫外可視吸収スペクトルである。
【
図2】トウモロコシの根表面の抽出液から生成された化合物のエレクトロスプレーイオン化質量スペクトルである。
【
図3】トウモロコシの根表面の抽出液から生成された化合物の
1H-NMRスペクトルである。
【
図4】トウモロコシの根表面の抽出液から生成された化合物の
13C-NMRスペクトルである。
【
図5】2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンによる硝化抑制の用量反応曲線である。
【
図6】トウモロコシ11系統の根から得られた、2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンの含量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、トウモロコシの根表面部の疎水性抽出物に、強い硝化を抑制する作用を認めたことから、トウモロコシの根から何らかの硝化抑制物質が放出されることを予想し、鋭意研究を行ってきた。
その結果、硝化抑制物質を単離取得し、その化学構造をつきとめ、さらに単離した化合物が硝化抑制効果を有することを確認して、発明を完成するに至った。すなわち、単離した本発明の化合物は、下記式(2)で示される、1,4-ナフトキノン誘導体である、すなわち、2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(以下、「ゼアノン」という場合がある。)である。
【0017】
【0018】
また、実施例において後述するように、2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(ゼアノン)に構造が類似する誘導体の硝化抑制活性を精査した。その結果、表1に示す誘導体に硝化抑制活性が認められた。これら1,4-ナフトキノン誘導体もゼアノンと同様に硝化抑制に使用することが出来る。
表1中、R1~R6は、それぞれ、上記一般式(1)におけるR1~R6である。
【0019】
【0020】
2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(ゼアノン)は、広く施肥条件で作付けされ、土壌が酸化状態にあり硝化が起きやすい畑地で生産されるトウモロコシから単離された物質である。ゼアノンは揮発性が低いため、環境温度による硝化抑制への影響を受けにくいと考えられ、既に用いられているニトラピリン等に比べ、汎用性が高い。同化合物の誘導体も、多くは植物成分として報告されており、実施例において後述するように、硝化抑制作用を有することが確認された。これらの物質が含まれる適切な植物を選ぶことにより土壌の硝化を抑制し窒素利用効率を高め、土壌からの亜酸化窒素の発生や硝酸性窒素の地下水への流出等の硝化による悪影響を防止することが可能となる。
【0021】
[土壌改良剤]
1実施形態において、本発明は、下記式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする土壌改良剤を提供する。
本実施形態の土壌改良剤は、この有効成分を含有することで、実用上、有用な硝化抑制効果が得られる。
本明細書において、下記式(1)で表される化合物を1,4-ナフトキノン誘導体と呼ぶ場合がある。
【0022】
【化3】
[式(1)中、R
1~R
6は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又は水素原子を表す。]
【0023】
上記一般式(1)中、R1~R6における、置換基を有してもよい炭素数1~5の前記炭化水素基は、飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基であり、飽和炭化水素基であることが好ましい。
置換基を有してもよい炭素数1~5の前記炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。前記炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
炭素数1~5の前記炭化水素基としては、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
前記炭化水素基の炭素数は、1~3であることが好ましい。
前記炭化水素基は、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。
前記炭化水素基が置換基を有する場合、前記置換基としては、ハロゲン原子が挙げられる。
【0024】
上記一般式(1)中、R1~R6における、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基(-OR)としては、-ORのRの部分が、上述の、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基と同様のものが挙げられる。
前記アルコキシ基(-OR)は、メトキシ基又はエトキシ基であることがより好ましく、メトキシ基であることが更に好ましい。
【0025】
上記一般式(1)中、R1~R6における前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であってもよく、塩素原子であることが好ましい。
【0026】
上記一般式(1)中、R1は、ヒドロキシ基以外の基であることが好ましい。
【0027】
上記一般式(1)で表される化合物としては、1種を単独で又は2種以上を用いてもよい。
【0028】
上記一般式(1)で表される化合物としては、硝化抑制活性の観点から、例えば、下記の化合物(1-1)、化合物(1-2)、化合物(1-3)が好適に挙げられる。
化合物(1-1):R3~R6の少なくともひとつがヒドロキシ基であるもの
化合物(1-2):R1又はR2がハロゲン原子であるもの
化合物(1-3):R3~R6の少なくともひとつが、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキル基であるもの
これらについて、詳細に説明する。
【0029】
<化合物(1-1)>
化合物(1-1)は、上記一般式(1)で表される化合物において、R3~R6の少なくともひとつが、ヒドロキシ基であるものである。
化合物(1-1)において、R3は、ヒドロキシ基であることが好ましい。
【0030】
R3がヒドロキシ基である場合、さらに、R1及びR2は、それぞれ、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基であってもよいし、水素原子であってもよい。
R1及びR2が、いずれも水素原子である場合、R6は、ヒドロキシ基又は水素原子であることが好ましい。
さらに、R4及びR5は、それぞれ、水素原子であることが好ましく、R4及びR5は、いずれも、水素原子であることがより好ましい。
【0031】
あるいは、R3がヒドロキシ基である場合、化合物(1-1)は次のようなものであってもよい。
R1及びR2は、それぞれ、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基であることが好ましく、R1及びR2のいずれか一方は、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基であり、かつ、他方は、水素原子であることがより好ましく、R1は、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基であり、かつ、R2は、水素原子であることが更に好ましい。さらに、R6は、水素原子であることが好ましい。
R1及びR2における、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基は、飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基であり、飽和炭化水素基であることが好ましい。
置換基を有してもよい炭素数1~5の前記炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。前記炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
炭素数1~5の前記炭化水素基としては、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
前記炭化水素基の炭素数は、1~3であることが好ましい。
前記炭化水素基は、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。
前記炭化水素基が置換基を有する場合、前記置換基としては、ハロゲン原子が挙げられる。
さらに、R4及びR5は、それぞれ、水素原子であることが好ましく、R4及びR5は、いずれも、水素原子であることがより好ましい。
【0032】
あるいは、R3がヒドロキシ基である場合、化合物(1-1)は次のようなものであってもよい。
R1~R2は、それぞれ、ハロゲン原子であってもよいし、水素原子であってもよい。
R1~R2は、それぞれ、ハロゲン原子であることが好ましく、R1及びR2がいずれもハロゲン原子であることが好ましい。
R1及びR2がいずれもハロゲン原子であり、さらにR6は、ヒドロキシ基であることが好ましい。
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であってもよく、塩素原子であることが好ましい。
さらに、R4及びR5は、それぞれ、水素原子であることが好ましく、R4及びR5は、いずれも、水素原子であることがより好ましい。
【0033】
化合物(1-1)としては、5-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノンが挙げられる。
これらの中でも、5-ヒドロキシ-2-メチル-1,4-ナフトキノン及び2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノンが好ましい。
【0034】
<化合物(1-2)>
化合物(1-2)は、上記一般式(1)で表される化合物において、R1又はR2が、ハロゲン原子であるものである。
R1~R2は、R1及びR2のうち少なくともひとつがハロゲン原子であることが好ましく、R1及びR2がいずれもハロゲン原子であることがより好ましい。
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であってもよく、塩素原子であることが好ましい。
【0035】
さらに、R3は、ヒドロキシ基又は水素原子であることが好ましく、ヒドロキシ基であることがより好ましい。
さらに、R4及びR5は、それぞれ、水素原子であることが好ましく、R4及びR5がいずれも水素原子であることがより好ましい。
さらに、R6は、ヒドロキシ基又は水素原子であることが好ましく、ヒドロキシ基であることがより好ましい。
【0036】
化合物(1-2)としては、2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン、2-アミノ-3-クロロ-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、2-クロロ-1,4-ナフトキノンが挙げられる。
これらの中でも、2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、2-クロロ-1,4-ナフトキノンが好ましい。
これらの中でも、2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノンがより好ましい。
【0037】
<化合物(1-3)>
化合物(1-3)は、上記一般式(1)で表される化合物において、R3~R6の少なくともひとつが、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基であるものである。
化合物(1-3)において、R4及びR5は、それぞれ、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基であることが好ましく、R4及びR5のいずれか一方が、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基であり、かつ、他方が、水素原子であることがより好ましい。
【0038】
置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基は、飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基であり、飽和炭化水素基であることが好ましい。
置換基を有してもよい炭素数1~5の前記炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。前記炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
炭素数1~5の前記炭化水素基としては、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
前記炭化水素基の炭素数は、1~3であることが好ましい。
前記炭化水素基は、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。
前記炭化水素基が置換基を有する場合、前記置換基としては、ハロゲン原子が挙げられる。
【0039】
さらに、R3及びR6は、それぞれ、水素原子であることが好ましく、R3及びR6がいずれも水素原子であることがより好ましい。
さらに、R1及びR2は、それぞれ、水素原子であることが好ましく、R1及びR2がいずれも水素原子であることがより好ましい。
【0040】
化合物(1-3)としては、6-メチル-1,4-ナフトキノンが挙げられる。
【0041】
上述の化合物(1-1)、化合物(1-2)、及び化合物(1-3)の中でも、化合物の硝化抑制活性をより高められる観点から、上記一般式(1)で表される化合物は、化合物(1-1)又は化合物(1-2)であることが好ましく、化合物(1-1)であることがより好ましい。
【0042】
上記一般式(1)で表される化合物は、表1に示す、1,4-ナフトキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン、2-メトキシ-1,4-ナフトキノン、2-アミノ-3-クロロ-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、6-メチル-1,4-ナフトキノン、2-クロロ-1,4-ナフトキノン及び2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(ゼアノン)からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0043】
実施例において後述するように、発明者らは、上述の化合物について、硝化抑制活性を測定した。
上記一般式(1)で表される化合物としては、硝化抑制活性が高い化合物が好ましいとの観点から、1,4-ナフトキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、6-メチル-1,4-ナフトキノン、及び2-クロロ-1,4-ナフトキノンからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、5-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、及び6-メチル-1,4-ナフトキノンからなる群より選択される1種以上であることがより好ましく、5-ヒドロキシ-2-メチル-1,4-ナフトキノン、及び2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノンからなる群より選択される1種以上であることが更に好ましい。
【0044】
農作物の栽培においては、土壌の硝化を抑制し窒素利用効率を高めることが重要である。硝化抑制剤としては、天然由来であり、利用が容易であることが好ましい。
上述したように、2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(ゼアノン)は、トウモロコシの根から分泌されるため、トウモロコシを栽培することにより、土壌の硝化を抑制することが可能である。また、ゼアノンは、揮発性が低く、環境温度による影響を受けにくい。
このような観点から、上記一般式(1)で表される化合物としては、2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(ゼアノン)であることが好ましい。
【0045】
塩としては、農業上許容されるものであれば、特に制限されない。このような塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、メタンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;ジメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0046】
下記式(2)によって表されるゼアノンは、天然由来としては新たに確認された化合物である。実施例において後述するように、発明者らは、ゼアノンが優れた硝化抑制作用を有することを見出した。ゼアノンは、特に熱帯から温帯における土壌改良剤、硝化抑制剤、肥料として使用可能である。
ゼアノンは、トウモロコシの根から分泌されるため、トウモロコシを栽培することにより、土壌の硝化を抑制することが可能である。また、ゼアノンは、揮発性が低く、環境温度による影響を受けにくい。
【0047】
【0048】
1,4-ナフトキノン誘導体は、従来から植物、微生物にも含まれることが知られる一群の化合物であり、様々な生理活性を持つことが知られている。しかしながら、2位、7位にメトキシ基を持つゼアノンは、天然由来の化合物として単離された報告がない。また、従来、ゼアノンが硝化作用を有するという報告もない。
【0049】
2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(ゼアノン)又は表1に示す1,4-ナフトキノン誘導体は、石灰のような無機素材や、黒ボク土のような肥沃土などに添加して土壌改良剤とすることができる。
添加量は、必要に応じて適宜選択して決定すればよい。ゼアノンの添加量は、例えば、土壌1g当たり15~50μgの範囲である。
実施例において後述するように、表1に示す1,4-ナフトキノン誘導体の硝化抑制活性は、ゼアノンと同等か、それ以上である。これら誘導体の添加量は、それぞれの誘導体の硝化抑制活性を参照して決定してもよい。誘導体の添加量は、例えば、土壌1g当たり、0.5μg以上、2μg以上、5μg以上、10μg以上、20μg以上であってもよく、50μg以下、20μg以下、10μg以下、5μg以下、2μg以下であってもよい。誘導体の添加量の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0050】
2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(ゼアノン)又は表1に示す1,4-ナフトキノン誘導体を含有する土壌改良剤は、硝化抑制作用を有するので、窒素成分の硝化を抑制し、土壌環境の劣化を防止することができる。本実施形態の土壌改良剤の使用により得られる効果は、植物体の生育を促進させる効果であれば、硝化作用以外の効果を含んでいてもよい。
【0051】
[肥料]
1実施形態において、本発明は、上記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を土壌改良剤として含有する肥料を提供する。
【0052】
肥料は、上述の土壌改良剤を含むため、硝化抑制作用を有する。これにより、窒素成分の硝化を抑制し、土壌環境の劣化を防止することができる。
【0053】
上述の土壌改良剤を含有させる肥料としては、無機肥料や有機肥料が挙げられ、これらの混合肥料でもよい。無機肥料としては、尿素、硫安、塩安などの窒素質肥料、過リン酸石灰などのリン酸肥料、硫酸カリウム、塩化カリウムなどのカリ肥料を用いることができる。また、有機肥料としては、骨粉、たい肥などを用いることができる。
【0054】
[製造方法]
1実施形態において、本発明は、トウモロコシの根表面部を有機溶媒に浸して根浸出液を得ることと、前記根浸出液に含まれる土壌改良剤の有効成分をクロマトグラフィーにより精製することと、を含む、土壌改良剤の有効成分の製造方法を提供する。
【0055】
実施例において後述するように、発明者らは、トウモロコシの根から、硝化抑制作用を有するゼアノンを分離した。ゼアノンは疎水性の化合物であるため、トウモロコシの根を有機溶媒に浸すことにより、ゼアノンを有機溶媒に抽出することができる。
【0056】
抽出に用いる有機溶媒としては、例えば、アルコール、アセトニトリル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル等が挙げられる。抽出化合物の純度と回収率の関係から、酢酸含有ジクロロメタンを用いた場合が最も効率がよい。
【0057】
トウモロコシの根から滲出した有機溶媒から、土壌改良剤を精製する方法としては、例えば、分配クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等が挙げられるが、これに限定されず、疎水性物質であるゼアノンを精製することができれば、公知のクロマトグラフィーであってもよい。得られた有機溶媒抽出液を分配吸着カラムクロマトグラフィーで分画して2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(ゼアノン)を得ることができる。
【0058】
2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(ゼアノン)及び表1に示す1,4-ナフトキノン誘導体は、卓越した硝化抑制作用を示し、硝化抑制剤として土壌改良剤・肥料等に添加して使用できる。また、硝化抑制剤に用いる2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(ゼアノン)は、トウモロコシから生産させることができる。このため、硝化抑制剤を含有する土壌改良剤を低コストで製造することができるとともに、土壌中の硝化が起きている場所でその活性を発揮することが期待できる。
【0059】
[硝化抑制方法]
1実施形態において、本発明は、土壌改良剤の有効成分を生成する植物を栽培することを含む、土壌の硝化抑制方法を提供する。
【0060】
トウモロコシを栽培した土壌においては、ゼアノンが土壌中に滲出することにより、自然に土壌の硝化を抑制することができる。これによって、土壌環境の劣化を防止することができる。
【0061】
実施例において後述するように、ゼアノンの含有量は、トウモロコシの系統によって、大きな差異がある。ゼアノンを多く含むトウモロコシを栽培することによって、土壌の窒素成分の硝化を抑制し、土壌環境の劣化を防止しつつ、農業生産を行うことができる。
【0062】
トウモロコシは、栽培面積の大きい植物であるため、土壌改良剤の有効成分を多く含むトウモロコシを栽培することによって、広大な耕作地において硝化を抑制することができると期待される。
【0063】
また、土壌改良剤の有効成分を生成する植物としては、トウモロコシに限定されず、土壌改良剤の有効成分を多く含む植物であれば、どのような植物であってもよい。
【実施例0064】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[実験例1]
(ゼアノンの分離と精製)
栽培したトウモロコシの根の表面から得られた抽出液から、硝化抑制活性を有する化合物を分離、精製し、その構造を決定した。
【0066】
トウモロコシ植物体を、20日間、温室で生育させ、それら200株分の根を10%酢酸含有ジクロロメタン200mLに浸漬し、根の表面から疎水性抽出液を得た。
【0067】
次に、本抽出液をロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮物を少量のメタノールに溶解させ、これを逆相固相抽出カートリッジ(Waters社製、Sep-Pak C18 plus)により分画した。活性は50%メタノール画分に検出された。活性は、実験例2において後述する方法により測定した。
【0068】
この活性画分を、カラム(東ソー社製、TSKgel Super ODS)を接続した高速液体クロマトグラフィーによりさらに分画し、最終的に1つの活性物質を精製した。
【0069】
得られた化合物について、紫外分光分析、エレクトロスプレーイオン化質量分析、
1H-NMR分析、
13C-NMR分析によりスペクトルを分析した。これらの結果を
図1~
図4に示す。
図1は紫外可視吸収スペクトルであり、
図2はエレクトロスプレーイオン化質量スペクトルであり、
図3は
1H-NMRスペクトルであり、
図4は
13C-NMRスペクトルである。
【0070】
また、2,7-ジメトキシナフタレンをクロム酸酸化して、2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンを合成した(例えば、R.D. Wilson, Naphthaquinones - I: The molecular structures of some halogeno-2:7-dihydroxynaphthalenes. (1958) Tetrahedron, 3(3), 236-242.)。
【0071】
トウモロコシ根表面抽出液から得られた活性物質の紫外可視吸収スペクトル、エレクトロスプレーイオン化質量スペクトル、1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルは、化学合成した2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンのスペクトルと一致した。この結果から、トウモロコシ根表面抽出液から得られた活性物質は、2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンであることが明らかになった。
【0072】
これは、2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンが天然界で単離された初めての例である。
【0073】
[実験例2]
(ゼアノンの硝化抑制作用)
2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンの硝化抑制作用を、試験管内の硝化細菌を用いて解析した(T. Iizumi, M. Mizumoto, K. Nakamura, A Bioluminescence assay using Nitrosomonas europaea for rapid and sensitive detection of nitrification inhibitors (1998) Appl. Environment. Microbiol., 64, 3656-3662.)。
【0074】
細菌由来のルシフェラーゼ遺伝子(luxAB)を導入した硝化細菌(Nitrosomonas europaea IFO14298)を、カナマイシン(25mg/1L)を含むP培地中で、30℃において好気的に7~9日間培養した。得られた硝化細菌を洗浄後、新鮮なP培地に懸濁して、硝化細菌懸濁液を調製した。この硝化細菌懸濁液は、実験前に30分以上暗所に静置した。
【0075】
ここで、P培地の組成は、(NH4)2SO4 2.5g、KH2PO4 0.7g、Na2HPO4 13.5g、NaHCO3 0.5g、MgSO4/7H2O 100mg、CaCl2/2H2O 5mg、Fe-EDTA 1mg、水 1Lからなり、そのpHは8.0であった。
【0076】
硝化作用は、上記の硝化細菌懸濁液0.25mLと水0.2mLからなる硝化細菌懸濁液の水溶液と、各種濃度の2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンの試料溶液0.01mLとを試験管内で混合した後で、15℃で30分間培養する間における硝化反応に伴う生物発光量を、ルミノメータ(ターナー・デザインズ社製、型名TD20/20)を用いて測定することにより評価した。
【0077】
硝化反応に伴う生物発光量は、試料溶液に硝化抑制作用物質が存在すれば減少する。このため、硝化細菌懸濁液の水溶液に各種濃度の2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンの試料溶液を添加した場合の発光量を、試料溶液を加えず菌体懸濁液の水溶液だけの場合の発光量で割った値を硝化抑制率とした。各種濃度の本化合物による硝化抑制活性を測定した結果を
図5に示す。この結果から、ED
50は4.2μM、ED
80は16.1μMであることが明らかになった。
【0078】
また、1,4-ナフトキノン誘導体の硝化抑制活性について、同様の測定を行った。結果を表2に示す。表2中、R1~R6は、それぞれ、下記式(1)におけるR1~R6である。
【0079】
【0080】
【化5】
[式(1)中、R
1~R
6は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1~5の炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又は水素原子を表す。]
【0081】
この結果から、1,4-ナフトキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン、2-メトキシ-1,4-ナフトキノン、2-アミノ-3-クロロ-1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、6-メチル-1,4-ナフトキノン、2-クロロ-1,4-ナフトキノン及び2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(ゼアノン)は、硝化抑制活性を有することが明らかになった。
また、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノンは、硝化抑制活性を有しないことが明らかになった。
【0082】
[実験例3]
(トウモロコシのゼアノン含有量)
任意に選択した11系統のトウモロコシ(国際トウモロコシ小麦改良センター)を育成し、根から得られた疎水性抽出液に含まれる2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンの含有量を解析した。
【0083】
国際トウモロコシ小麦改良センターより、系統番号が、17528,17529,17531,17540,17542,17544,17546,17548,17549,17550,17556であるトウモロコシの種子を取り寄せた。種子を20日間、温室で生育させ、得られたトウモロコシ植物体の根を10%酢酸含有ジクロロメタン20mLで浸漬し、根の表面から疎水性抽出液を得た。
【0084】
抽出液を0.45μmフィルターでろ過後、濃縮乾固し、アセトニトリル1mLに溶解し、試料とした。試料10μLを、カラム(東ソー社製、TSKgel Super ODS)を接続した高速液体クロマトグラフィー-質量分析計で分析した。
【0085】
それぞれの試料について、2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンの分子イオンピークであるm/z=219のピーク面積を算出し、それぞれの系統に含まれる2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン含量を推定した。結果を
図6に示す。
【0086】
図6は、11系統のトウモロコシの根から得られた疎水性抽出液に含まれる2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンの含量を示す。
図6において、横軸は、2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノン(本化合物)の含量を示し、縦軸は、各含量の範囲内のトウモロコシ系統の数を示す。
その結果、トウモロコシの系統によって、2,7-ジメトキシ-1,4-ナフトキノンの含量は大きく異なることが明らかになった。
本発明によれば、熱帯から温帯にかけての広い地域で利用でき、かつ、天然由来の材料から容易に得られる化合物又はその誘導体により、土壌の硝化を抑制し、これらを利用した土壌の土壌改良剤、硝化抑制剤、肥料及び硝化抑制方法を提供することができる。
また、本発明によれば、従来の窒素肥料に比べて、利用効率が高く、かつ、環境負荷の低い、硝化抑制剤を提供することができる。