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  • 特開-廃棄物処理装置の運転方法 図1
  • 特開-廃棄物処理装置の運転方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163960
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】廃棄物処理装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20221020BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069124
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】梅本 麻由
(72)【発明者】
【氏名】徳富 孝明
(72)【発明者】
【氏名】鏡 つばさ
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】バイオガス発電事業の全体利益が大きくなるように原料の収集・投入の計画・実行を行う廃棄物処理装置の運転方法を提供する。
【解決手段】廃棄物処理装置の運転方法において、廃棄物処理装置は、計算する日付を指定し(S1)、1週間単位で原料組合せ計算を行うS2。計算の結果、制約条件を満たす原料組合せの解ありを判定しS3、解ありの場合、投入予定リストを作成しS4、この投入予定リストに従い、メタン発酵装置に原料投入を行いS8、メタン発酵させる。そして、投入原料成分、メタン生成量、メタン発酵槽内のpH、有機酸濃度、Mアルカリ濃度などの実績記述を行うS9。また、投入原料成分組成を組成分析器で測定しS10、異常ありの場合S11、原料成分条件を満たすように、翌日投入する原料決定を行うS12。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収集した有機性廃棄物をメタン発酵槽に投入してメタン発酵させることによりバイオガスを発生させる廃棄物処理装置の運転方法において、
前記廃棄物処理装置の有機性廃棄物の受入れ条件を満たし、かつ算出された利益または事業者が目指すその他の運転指標(例えば、収益、CO削減量、廃棄物削減量など)を大きくまたは最適値となるように、収集する有機性廃棄物の種類及び量を決定し、この決定結果に従って収集を行うことを特徴とする廃棄物処理装置の運転方法。
【請求項2】
請求項1に記載の廃棄物処理装置の運転方法において、前記有機性廃棄物に含まれる成分を特定すると共に、各成分の分解性を評価し、前記有機性廃棄物または有機性廃棄物に含まれる各種原料の受け入れ料金と、前記メタン発酵後の残渣の処分費用と、前記バイオガスを用いた発電による売電益とに基づいて廃棄物処理装置の運転収支をあらかじめ算出する廃棄物処理装置の運転方法。
【請求項3】
請求項1に記載の廃棄物処理装置の運転方法において、前記メタン発酵槽に投入する有機性廃棄物の種類及び量をメタン発酵槽に原料を投入する前に原料成分を測定し、種々変更して運転収支を試算し、算出された利益またはその他運転指標(例えば、収益、CO削減量、廃棄物削減量など)が最大または最適値となる有機性廃棄物の種類及び量を選択し、メタン発酵槽に有機性廃棄物を投入することを特徴とする廃棄物処理装置の運転方法。さらに原料の受け入れ条件を満たさない場合は、一部の原料をメタン発酵槽に投入せず、保管又は廃棄することを含む廃棄物処理装置の運転方法。
【請求項4】
請求項1に記載の廃棄物処理装置の運転方法において、
前記選択された種類及び量にて、前記有機性廃棄物を前記メタン発酵槽に投入した場合の前記メタン発酵槽内の状態を予測し、該有機性廃棄物を投入後の該メタン発酵槽内の状態を測定し、
予測された状態と測定された状態のずれが所定範囲を超えた場合は、該メタン発酵槽に投入する有機性廃棄物の種類及び/又は量を変更することを特徴とする廃棄物処理装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物処理装置の運転方法に関する。本発明の一態様は、バイオガス発電事業において、メタン発酵槽を安定運転し、且つ利益または事業者が目指すその他運転指標(例えば、収益、CO削減量、廃棄物削減量など)を大きくまたは最適化するように、メタン発酵原料の収集および投入を計画する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオガス発電事業において、メタン発酵槽を破綻させることなく安定運転させる技術は、安定した事業収益を得るためには重要な技術である。その従来技術として特許文献1および2が挙げられる。
【0003】
特許文献1(特開2019-130486号公報)には、複数種類の有機性廃棄物を受け入れてメタン発酵処理するメタン発酵処理施設の運転方法において、生成するバイオガスの量及び組成が所定範囲となるように各有機性廃棄物の供給量、混合比、又は希釈率を制御することを特徴とするメタン発酵処理施設の運転方法が記載されている。また、メタン発酵槽の指標値(pH、アルカリ度及び有機酸濃度)が所定範囲となるように各有機性廃棄物の供給量又は混合比を制御することを特徴とするメタン発酵処理施設の運転方法が記載されている。
【0004】
特許文献2(特開2005-111338号公報)には、嫌気性消化モデルに基づいてガス発生速度を予測し、予測値と実測値とを比較して消化槽内の状況を監視することが記載されている。
【0005】
特許文献1,2によると、バイオガス発生量やその他監視項目の挙動により、メタン発酵槽に負荷がかかりすぎることを防ぐことができる。即ち、メタン発酵槽が破綻せず一定量のバイオガスが得られるよう負荷調整および投入原料の混合比を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-130486号公報
【特許文献2】特開2005-111338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バイオガス発電事業を運営する上で、運転管理者が苦労する点は原料の受け入れ及び投入計画を立てることである。バイオガス発電事業では、原料の受け入れ料とメタン生成による売電料が主な収入である。一方、消化液の処理費に莫大な処理費用が掛かる。そのため、バイオガス発電事業で安定した利益を得るためには、収入と支出のバランスを考慮して原料の受け入れ計画やメタン発酵槽の運転管理をする必要がある。しかしながら、メタン発酵の原料は多種多様であるため、利益が最大になるような原料選定を行うことは困難である。
【0008】
なお、上記特許文献1,2は、投入原料の選定方法については言及していない。
【0009】
本発明は、各種原料の受け入れ料、分解特性(メタンガス発生量及び速度)、成分組成、消化液処理にかかるコスト、メタン発酵槽の運転状況等をあらかじめ解析することで、バイオガス発電事業の全体利益または事業者が目指すその他運転指標(例えば、収益、CO削減量、廃棄物削減量など)を大きくまたは最適になるように原料の収集及び投入を計画及び実行する廃棄物処理装置の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の廃棄物処理装置の運転方法は、収集した有機性廃棄物をメタン発酵槽に投入してメタン発酵させることによりバイオガスを発生させる廃棄物処理装置の運転方法において、前記有機性廃棄物または有機性廃棄物に含まれる各種原料の受け入れ料金と、前記メタン発酵後の残渣の処分費用と、前記バイオガスを用いた発電による売電益とに基づいて廃棄物処理装置の運転収支を算出し、前記有機性廃棄物に含まれる成分を特定すると共に、各成分の分解性を評価し、前記廃棄物処理装置の有機性廃棄物の受入れ条件を満たし、かつ算出された運転収支が黒字となるように、収集する有機性廃棄物の種類及び量を決定し、この決定結果に従って収集を行うことを特徴とする廃棄物処理装置の運転方法。
【0011】
本発明の一態様では、前記メタン発酵槽に投入する有機性廃棄物の種類及び量を種々変更して運転収支を試算し、算出された運転収支の黒字が最大となる有機性廃棄物の種類及び量を選択し、メタン発酵槽に有機性廃棄物を投入する。
【0012】
本発明の一態様では、前記選択された種類及び量にて、前記有機性廃棄物を前記メタン発酵槽に投入した場合の前記メタン発酵槽内の状態を予測し、該有機性廃棄物を投入後の該メタン発酵槽内の状態を測定し、予測された状態と測定された状態のずれが所定範囲を超えた場合は、該メタン発酵槽に投入する有機性廃棄物の種類及び/又は量を変更する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によると、以下の効果が得られる。
(1)原料の収集計画および投入計画を計算ソフトで自動的に算出し、提案するため、バイオガス発電事業の運転管理者の技術不足、人手不足を補うことができる。
(2)原料受け入れ料、メタンガス量からの売電料、消化液処理にかかる費用(消化液脱水処理費、汚泥処分費、窒素等の排水処理費)のバランスを考慮し、利益が最大になるように原料選定することで、バイオガス発電事業の利益が改善される。
(3)原料成分、メタン発酵槽への投入負荷、原料の分解速度がある範囲内に収まるように原料収集および投入計画を立てることで、メタン発酵槽を破綻させることなく安定的に運転できるだけでなく、メタンガス発生速度を一定範囲内で保つことができ、メタンガスを無駄なく電気に変えることができるため、安定した売電収入を得ることができる。
(4)定期的に(例えば1日1回)、メタン発酵槽前段の原料成分を測定し、計画とのずれが生じた場合は、その差分を埋め合わせる投入計画を立て直すことができるため、メタン発酵槽に負荷をかけすぎてメタン菌の活性低下を招くことや、逆に計画していた原料負荷を下回り予定していた売電収入が得られないといった事態を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る廃棄物処理装置を示すブロック図である。
図2】実施の形態に係る廃棄物処理装置の運転方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。図1の通り、複数種類の有機性廃棄物1a,1b,1c…がそれぞれのピット(受入槽)2a,2b,2c…に投入される。ビット内の有機性廃棄物は、フィーダー3a,3b,3c…によって破砕機4に供給されて破砕された後、又は破砕機4を経ることなく直接に混合機5に供給されて混合される。必要に応じ、混合機5に希釈水供給手段6から希釈水が供給されて適正COD量および適正水分量ないし適正全窒素濃度又はケルダール窒素濃度のスラリーとされた後、メタン発酵槽7に供給され、メタン発酵処理される。また、前記希釈水に加えてメタン発酵槽7からの消化液(メタン発酵槽7内の循環又は余剰消化液)を混ぜることがある。なお、メタン発酵槽7の前段に酸生成槽(図示略)が設置されることもある。
【0016】
メタン発酵槽7で生成したメタン含有バイオガスは取出ライン8から取り出される。この取出ライン8には、流量計9とメタン濃度センサ10とが設けられている。これらの計測データは制御器15に入力される。
【0017】
メタン発酵槽7には、栄養無機塩(例えばNi、Co、Feなどの微量金属塩)やpH調整剤を添加する薬注装置12のほか、槽内のpH、アルカリ度、温度、CODCr,TOC,ORP(酸化還元電位)、有機酸濃度等の指標値を計測する計測装置13が設けられている。この計測装置13の計測データは制御器15に入力される。制御器15には各有機性廃棄物1a,1b,1c…の性状データ(含水率、TS(全固形分)濃度、VS(揮発性固形分)濃度、BVS(生分解性揮発性固形分)濃度、CODCr、C/N(炭素/窒素)比など)及び受入量が入力される。制御器15は、入力されたデータと、予め設定された投入条件とに基づいて、フィーダー3a,3b,3c…による各有機性廃棄物供給量、希釈水供給装置6による希釈水注入量、薬注装置による無機塩類及びpH調整剤供給量を制御する。
【0018】
メタン発酵槽7の残渣は取出ライン11によって排水(又は汚泥)処理設備へ送られる。
【0019】
メタン発酵槽7の残渣の処理設備としては、該残渣に有機高分子(ポリマー)凝集剤を添加して脱水し、脱水ケーキをコンポスト化し、脱水濾液を硝化脱窒処理する処理系、または残渣を貯留して液体肥料として使用する系などが採用されるが、これに限定されない。
【0020】
[原料のデータベース作成]
この廃棄物処理装置を運転するに際しては、収集可能なデータベースを作成する。原料としては、生物処理汚泥、食品廃棄物、家畜糞尿、農業系廃棄物などが例示されるがこれに限定されない。
【0021】
収集可能な原料それぞれに対して、受け入れ料金、成分組成、分解速度および分解率、消化液処理にかかるコストの情報を紐づけてデータベース化する。
【0022】
[収集原料計画]
1日あたりの原料投入制約条件(成分組成が所定範囲になること、CODCr負荷が所定範囲になること、分解速度が所定範囲になることなど)を満たし、且つ下記式(1)で算出される利益が最大となるように、原料の組み合わせを、計算ソフトにより算出する。計算により1日ごとの原料収集計画を翌日分~数か月分立てる。各種原料の成分は、例えば公知の分析手法、近赤外線分析法などで求める。各種原料の分解速度は、回分試験により、原料固有の分解速度定数を求める。
【0023】
上記原料成分組成の条件としては、TS、VS、たんぱく質、炭水化物、脂質、Ca、Mg、繊維分、CODCr濃度などが例示される。
【0024】
<利益算出式>
利益=収入-支出=(原料受け入れ料+売電料)-(希釈水費+微量金属費+高分子凝集剤費+汚泥処分費+窒素処理費+電気代) ……(1)
売電料 = 発電量×売電単価
発電量=メタンガス熱量×発電効率
ガス発生量 = COD量×分解率×0.35×CH濃度
汚泥処分費(円)=汚泥発生量(t)×汚泥処分費(円/t汚泥)
汚泥発生量(t)=TS排出量(t)×100(%)/(100―含水率)(%)
(汚泥発生量は原料の分解率から算出)
窒素処理費(円)=窒素排水処理費(円/kg-窒素)×窒素排出量(kg-窒素)
(窒素排出量は原料のたんぱく質濃度から算出)
【0025】
[原料投入計画の立て直し]
定期的に(例えば毎日)メタン発酵槽前段の原料混合槽(原料調整槽)または酸生成槽の成分(カロリー、CODCr、たんぱく質、炭水化物、脂質、灰分、水分など)を測定し、計画とずれが生じた場合は、翌日収集する原料の中から、生じたずれを埋め合わせるような投入計画を立て直す。例えば、メタン発酵槽前段のたんぱく質成分が計画よりも高かった場合は、翌日収集した原料のうち、たんぱく質が多いものは投入を控え、翌々日または翌週に投入を回すこととし、一旦保管する。
【0026】
[原料収集計画の立て直し]
翌週の原料収集計画は、保管している原料を含んだ状態で、成分制約条件を満たし且つ利益が最大となるように計画を立て直す。
【0027】
図2は、上記の計画の立案、立て直しを行うためのフローチャートの一例を示している。計画の立案等を行うためのサーバ(図示略)の記憶装置には、原料成分データ、制約条件緩和条件データ、収集可能原料リストデータ、投入実績残量リストデータの各データが記憶されている。
【0028】
計算する日付を指定し(ステップS1)、当該日付での各データに基づいて制約条件を満たす所定期間(例えば1週間)の原料組合せを計算する(ステップS2)。制約条件を満たす原料組合せ(「解」)がある場合には、それらの中で利益が最大となるものを選定し、投入予定リストを作成する(ステップS3,S4)。解がない場合には、所定期間の原料の組合せを、解が得られるまで調整する(ステップS5,S6)。どのように組合せを調整しても解が得られない場合は、制約条件を見直し(各制約条件を少しずつ緩めて)(ステップS7)、ステップS2に戻る。制約条件を見直しても解が求まらず、制約条件の限度を超える場合は、一部の原料を保管または廃棄することとする。
【0029】
投入予定リスト(投入条件)データに従って、メタン発酵装置に各原料を投入し(ステップS8)、メタン発酵させる。そして、投入原料成分、メタン生成量、メタン発酵槽内のpH、有機酸濃度、Mアルカリ濃度などの実績を各種分析機器によって測定し、投入実績リストに記憶させる(ステップS9)。また、投入原料成分組成を組成分析器で測定し(ステップS10)、異常があるときには原料成分条件を満たすように以降に投入する原料の組み合わせを算出し投入原料を設定し(ステップS11,S12)、ステップS5に戻る。異常がないときにはステップS4に戻る。
【実施例0030】
[比較例1]
毎日メタン発酵原料を100t受け入れているバイオガス発電所Aにおいて、原料の投入量および組み合わせは、現場運転管理者の経験からの感覚に基づいて決めていた。
【0031】
収集可能原料の中から、毎日小麦廃棄物を10t、鶏肉廃棄物3t、飲料廃棄物20t、汚泥廃棄物50t、チョコレート廃棄物7t、廃油2t、インスタント麺類8tになるように原料を収集し、メタン発酵装置へ供給した。この場合の1か月の総利益は1500万円であった。
【0032】
[実施例1]
比較例1と同じバイオガス発電所Aにおいて、メタン発酵原料の収集および投入計画は運転管理者の感覚に頼らずに、本発明の計算方法により制約条件を満たし且つ利益が最大になる原料収集計画及び投入計画を立てた。
【0033】
本発明により、1か月分の日々の原料収集計画が提案されたように原料をメタン発酵に投入した。その結果、1か月の総利益は2300万円であった。
【符号の説明】
【0034】
1a~1c 有機性廃棄物
2a~2c ピット
3a~3c フィーダー
7 メタン発酵槽
9 流量計
10 メタン濃度センサ
図1
図2