(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164057
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】シンボル判定器及び中継装置
(51)【国際特許分類】
H04L 27/26 20060101AFI20221020BHJP
H04L 1/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
H04L27/26 111
H04L27/26 410
H04L1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069280
(22)【出願日】2021-04-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 佐藤 明彦、川島 祥吾、竹内 知明及び岡野 正寛らが、2021年3月5日付で、映像情報メディア学会学術報告Vol.45 No.10において、出願に係る発明の内容を公開。
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 明彦
(72)【発明者】
【氏名】川島 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】竹内 知明
(72)【発明者】
【氏名】岡野 正寛
【テーマコード(参考)】
5K014
【Fターム(参考)】
5K014BA05
5K014EA01
5K014FA03
5K014FA11
(57)【要約】
【課題】階層分割多重(LDM)の信号に対して再生中継を行う際に、コンスタレーションが重なる領域においても再送信シンボルの品質を維持し、受信機における受信特性の劣化を抑制することができるシンボル判定器及び中継装置を提供する。
【解決手段】階層伝送方式として階層分割多重(LDM)を適用した信号の受信シンボルに対し、シンボル判定処理により再送信シンボルを生成するシンボル判定器において、前記受信シンボルに対し、上位階層(UL)の規定信号点ごとに下位階層(LL)の軟判定レプリカを生成し、前記軟判定レプリカに上位階層のシンボル確率を乗算して合成することにより、前記再送信シンボルを生成することを特徴とする。また、中継装置は、伝送路等化部と前記シンボル判定器とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
階層伝送方式として階層分割多重(LDM)を適用した信号の受信シンボルに対し、シンボル判定により再送信シンボルを生成するシンボル判定器であって、
前記受信シンボルに対し、上位階層(UL)の規定信号点ごとに下位階層(LL)の軟判定レプリカを生成し、前記軟判定レプリカに上位階層のシンボル確率を乗算して合成することにより、前記再送信シンボルを生成することを特徴とする、シンボル判定器。
【請求項2】
請求項1に記載のシンボル判定器において、
前記受信シンボルに対して、上位階層の規定信号点それぞれの場合を想定して、下位階層の軟判定レプリカを生成する軟判定レプリカ生成部と、
上位階層の各規定信号点についてシンボル確率を算出するシンボル確率算出部と、
前記軟判定レプリカ生成部で生成された前記軟判定レプリカと、前記シンボル確率算出部で算出された前記シンボル確率を乗算する乗算部と、
前記乗算部の乗算結果を、上位階層の全規定信号点について合成する合成部と
を備えることを特徴とする、シンボル判定器。
【請求項3】
請求項2に記載のシンボル判定器において、
前記軟判定レプリカ生成部は、受信シンボルから想定する上位階層の規定信号点を除去して残留した成分から下位階層の各ビットの対数尤度比(LLR)を算出し、該対数尤度比(LLR)から下位階層の各規定信号点のシンボル確率を算出し、下位階層の各規定信号点を算出された各規定信号点のシンボル確率で重み付けして総和を取り、前記想定する上位階層の規定信号点を加算することで、前記軟判定レプリカを生成することを特徴とする、シンボル判定器。
【請求項4】
請求項2に記載のシンボル判定器において、
前記シンボル確率算出部は、上位階層と下位階層とを合成した全規定信号点に基づいて受信シンボルの各ビットの対数尤度比(LLR)を算出し、該対数尤度比(LLR)から全規定信号点のシンボル確率を算出し、算出された全規定信号点のシンボル確率のうち、上位階層の各規定信号点に対応するシンボル確率の総和を取ることで、上位階層の各規定信号点についてシンボル確率を算出することを特徴とする、シンボル判定器。
【請求項5】
階層伝送方式として階層分割多重(LDM)を適用した信号の受信シンボルに対し、シンボル判定により再送信シンボルを生成するシンボル判定器であって、
前記受信シンボルに対し、上位階層(UL)と下位階層(LL)とを合成した全規定信号点に基づく軟判定レプリカを生成し、ビット尤度に応じて、前記軟判定レプリカと前記受信シンボルのいずれかを再送信シンボルとすることを特徴とする、シンボル判定器。
【請求項6】
請求項5に記載のシンボル判定器において、
前記受信シンボルの各ビットの対数尤度比(LLR)を算出するLLR算出部と、
上位階層のビットの前記対数尤度比(LLR)の絶対値を判定するLLR判定部と、
前記受信シンボルに対し、上位階層と下位階層とを合成した全規定信号点に基づく軟判定レプリカを生成する軟判定レプリカ生成部と、
前記LLR判定部の判定結果に基づいて、前記再送信シンボルを前記軟判定レプリカ又は前記受信シンボルに切り替えるシンボル切替部と
を備えることを特徴とする、シンボル判定器。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のシンボル判定器において、
上位階層のビットの対数尤度比(LLR)の絶対値が1ビットでも所定の閾値を下回った場合、上位階層のビットが異なる下位階層のコンスタレーションが重なる領域に前記受信シンボルがあると判定し、前記受信シンボルを再送信シンボルとすることを特徴とする、シンボル判定器。
【請求項8】
階層伝送方式として階層分割多重(LDM)を適用した信号伝送の中継装置であって、
伝送路特性に基づいて、受信信号の各シンボルの等化処理を行う伝送路等化部と、
等化処理された受信シンボルに対して再送信シンボルを生成する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のシンボル判定器と
を備えることを特徴とする、中継装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンボル判定器及び中継装置に関し、特に、デジタル信号伝送において、受信信号のシンボルを判定して再送信シンボルを生成するシンボル判定器及び中継装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地上波による新たな放送サービスの実現に向けて、地上テレビジョン放送高度化方式(以下、「高度化方式」という。)の研究が進められている。高度化方式は、例えば、誤り訂正符号としてLDPC(Low Density Parity Check)符号を採用すると共に、キャリア変調多値数を大きくし、さらに信号点配置が不均一となるNUC(Non Uniform Constellation)を導入することで、現行の地上放送伝送方式(ISDB-T:Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial)よりも伝送効率を向上させている。高度化方式による放送を実現するためには、高度化方式による放送ネットワーク構築に関する検討が必要である。
【0003】
現行の日本の地上放送伝送方式において、MFN(Multi Frequency Network)放送波中継では、フェージングや周波数特性歪みによる信号品質の劣化を、周波数領域におけるチャネル等化とシンボル判定を組み合わせることで改善する再生中継の有効性が確認されており、広く用いられている(非特許文献1)。
【0004】
図7に、MFN放送波中継のモデルを示す。放送ネットワークは、親局(上位局)1、中継局(中継装置)2、及び受信機3によって構成される。親局1は、変調波信号を発生し、所定の周波数で放送波を出力する。中継局2は、親局1からの放送波を受信し、等化判定器200によって信号品質を補償し、受信信号とは異なる周波数で再送信する。受信機3は、例えば各家庭に設けられる受信装置であり、中継・再送信された放送波を受信して復調する。
【0005】
中継局(中継装置)2の等化判定器200について説明する。等化判定器200は、チャネル等化により受信信号の周波数特性歪みを補償し、シンボル判定により雑音成分を除去した再送信信号を出力する。等化判定器200は、FFT部210、伝送路推定部220、伝送路等化部230、シンボル判定部240、及びIFFT部250を備えている。
【0006】
FFT(Fast Fourier Transform)部210は、例えば、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式で伝送された受信信号を高速フーリエ変換し、各搬送波(サブキャリア)の信号(シンボル)を検出する。
【0007】
伝送路推定部220は、通信回線の伝送路特性を推定する。これは例えば、各搬送波に配置されたスキャタードパイロット(SP)信号等を用いて、各チャネル特性の推定・補間等を行い、通信回線の伝送路特性を一括して推定する。
【0008】
伝送路等化部230は、伝送路推定部220で推定された伝送路特性に基づいて、各シンボルの等化処理を行う。これにより、受信信号から得られた各シンボルを補正し、伝送路による歪みの除去された受信シンボルを生成する。等化判定器200がシンボル判定を行う場合は、伝送路等化部230は、受信シンボルをシンボル判定部240に出力し、シンボル判定をしない場合は、歪みの除去された受信シンボルをIFFT部250に出力する。
【0009】
シンボル判定部240は、伝送路等化(チャネル等化)後の受信シンボルを規定信号点配置に基づいて最適なシンボルに変換し、再送信シンボルとして出力する。従来の地上デジタル放送におけるシンボル判定は、チャネル等化後の受信シンボルを規定信号点配置の最近傍点に再マッチングする硬判定を行っている。
【0010】
IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)部250は、伝送路等化部230から出力された受信シンボル、又はシンボル判定部240で生成した再送信シンボルを逆高速フーリエ変換し、再送信信号を生成する。
【0011】
図8は、等化判定器200における各シンボルについて説明する図である。
図8(a)は、親局1から出力される送信シンボルを示すコンスタレーションである。ここでは、送信信号を、高度化方式で採用が検討されている256QAM(Quadrature Amplitude Modulation)で不均一配置のキャリア変調で送信する場合を示している。縦軸はI(In-Phase)軸であり、横軸はQ(Quadrature)軸である。
【0012】
図8(b)は、中継局2が受信した受信シンボルに対して伝送路等化処理を行った結果を示している。受信シンボルは伝送途中で雑音を受けるため、規定信号点配置の周囲に分布を持つコンスタレーションとなる。
【0013】
図8(c)は、従来の地上デジタル放送におけるシンボル判定器240で生成される再送信シンボル(硬判定シンボル)である。受信シンボルを規定信号点配置の最近傍点に再マッチングする硬判定処理を行うことから、再送信される硬判定シンボルは雑音が除去され、親局の送信シンボル(a)と同じコンスタレーションとなる。
【0014】
こうして、中継局2は、等化判定器200により、中継信号の品質を高めることができる。
【0015】
高度化方式ではより多値のキャリア変調による運用が想定されるが、高度化方式には、地上デジタル放送で用いられる再生中継技術をそのまま適用することが難しい。すなわち、高度化方式では、中継局2においてシンボル硬判定を用いると、地上デジタル放送の場合よりもシンボル誤り率が増加する傾向があり、誤った情報が再送信されることになる。このため、受信機3において誤り訂正が効果的に機能しないことがあるという問題が生じる。この問題に対し、軟判定レプリカ(軟判定処理により複製されたシンボル)を用いた再生中継を適用することで、高度化方式でも放送波中継における信号品質劣化を改善する手法が報告されている(非特許文献2)。
【0016】
図8(b)の受信シンボルに対して、シンボル判定部240においてシンボル軟判定を行い、軟判定レプリカを再送信シンボルとして出力するとき、再送信される軟判定シンボルのコンスタレーションは、
図8(d)のようになる。軟判定処理された再送信シンボルは、雑音を含む信号となるが、受信機3でLDPC復号を行ったとき、硬判定処理の場合よりも受信特性が向上する。
【0017】
一方、地上放送伝送方式において、伝送耐性の異なるサービス(以下、階層という。)を物理層で多重する方式として階層分割多重(LDM:Layered Division Multiplexing)が検討されている(非特許文献3)。LDMは、ほかの階層伝送方式と異なり、複数の階層に電力比をつけて合成する方式である。以下、本発明の前提となる、階層分割多重(LDM)について説明する。
【0018】
図9は、階層分割多重(LDM)方式の送信装置(変調処理)のブロック図の一例である。送信装置300は、誤り訂正符号化部310,320、キャリア変調部311,321、インターリーブ部312,322、電力調整部313,323、合成部330、OFDMフレーム化部340、基準信号発生部341、TMCC信号発生部342、付加情報信号発生部343、IFFT部350、直交変調部360、及びGI付加部370を備えている。誤り訂正符号化部310~電力調整部313は、移動受信階層データの処理を行い、誤り訂正符号化部320~電力調整部323は、固定受信階層データの処理を行う。
【0019】
誤り訂正符号化部310は、入力された移動受信階層データに対して、データを所定のブロック長のブロックに区切り、ブロックごとに誤り訂正符号化を行う。誤り訂正符号としては、例えば、LDPC符号を用いる。
【0020】
キャリア変調部311は、誤り訂正符号化されたデータについて、キャリアごとに所定の変調方式(例えば、QPSK:Quadrature Phase-Shift Keying)でIQ平面へのマッピングを行い、キャリア変調信号(データキャリアシンボル)を生成し、インターリーブ部312に出力する。
【0021】
インターリーブ部312は、シンボルの並び替えを行う。本来隣接しているシンボルのキャリア番号を並び替え、データを周波数的に分散するように並び替える周波数インターリーブと、各キャリアのシンボルを時間方向に並び替え、データ時間的に分散するように並び替える時間インターリーブの少なくとも一方を行う。インターリーブを行ったデータを、電力調整部313に出力する。
【0022】
電力調整部313は、移動受信階層データのシンボルに対して所定の電力となるように調整する。電力調整後のシンボルデータを合成部330に出力する。
【0023】
固定受信階層データについても、同様に、誤り訂正符号化部320で誤り訂正符号化を行い、キャリア変調部321でIQ平面へのマッピングを行い、インターリーブ部322でシンボルの並べ替えを行い、更に、電力調整部323で電力の調整を行う。なお、固定受信階層データの変調方式は、変調多値数の大きい変調方式(例えば、64QAM:Quadrature Amplitude Modulation)を用いることができる。
【0024】
合成部330は、電力調整された移動受信階層の変調信号と固定受信階層の変調信号を合成(ベクトル加算)して、合成されたシンボルを生成する。
【0025】
OFDMフレーム化部340は、合成されたシンボル(データシンボル)を配置して、OFDMセグメントフレームを生成し、IFFT部350に出力する。なお、基準信号発生部341はパイロット信号(例えば、SP信号)を生成し、TMCC信号発生部342は、TMCC(Transmission and Multiplexing Configuration and Control)信号を生成し、付加情報信号発生部343は、特定信号に付加する情報(地デジのAuxiliary Channelの付加情報に相当)を生成する。OFDMフレーム化部340は、データシンボルに加えて、これらの制御情報のシンボルを挿入してOFDMセグメントフレームを生成する。
【0026】
IFFT部350は、入力されたOFDMセグメントフレームに対して、IFFT(逆高速フーリエ変換)処理を施して、時間軸に変換されたI信号及びQ信号を生成する。
【0027】
直交変調部360は、I信号及びQ信号に対して直交変調を行い、有効シンボル信号を生成する。
【0028】
GI(Guard Interval)付加部370は、直交変調部360から入力される有効シンボル信号の先頭に、有効シンボル信号の後半部分をコピーしたガードインターバルを挿入する。ガードインターバルは、OFDM信号を受信する際にシンボル間干渉を低減させるために挿入されるものであり、マルチパス遅延波の遅延時間がガードインターバル長を超えないように設定される。GI付加部370の出力が、OFDM送信信号となる。
【0029】
図10は、階層分割多重(LDM)の階層の合成処理を説明する図である。
【0030】
図10において、Aは、
図9の誤り訂正符号化部310~インターリーブ部312により生成された移動受信階層のシンボル(コンスタレーション)であり、ここではQPSKの変調方式を一例として示している。
【0031】
また、Bは、
図9の誤り訂正符号化部320~インターリーブ部322により生成された固定受信階層のシンボル(コンスタレーション)であり、ここでは64QAMで不均一コンスタレーションの変調方式を一例として示している。
【0032】
電力調整部313,323により、移動受信階層の信号と固定受信階層の信号の電力調整を行い、両者に電力比(送信信号の平均電力の比)をつける。ここで、電力比は、固定受信階層の電力に対する移動受信階層の電力の比(移動受信階層電力/固定受信階層電力)であり、電力比≧0dBの範囲では固定受信階層の電力が移動受信階層の電力より小さい。
【0033】
図10のCは、移動受信階層の信号と固定受信階層の信号を合成部330で合成(ベクトル加算)した結果の送信信号(送信シンボル)のコンスタレーションである。送信信号のコンスタレーションは、QPSKの4つの信号点をそれぞれ中心として、4つの64QAMが配置されたようなコンスタレーションとなり、その信号点は、256(=4×64)個となる。
【0034】
図11に、電力比とLDM信号のコンスタレーションの関係を示す。ここでは、移動受信階層の変調方式をQPSKとし、固定受信階層の変調方式を64QAM-NUCとする。
図11は、両者の電力比(移動受信階層電力/固定受信階層電力)を、(a)2dB、(b)4dB、(c)6dB、(d)8dBと変化させたときの、それぞれの電力比におけるLDM信号(合成信号)のコンスタレーションを示している。
【0035】
以降、移動受信階層を上位階層(UL:Upper Layer)、固定受信階層を下位階層(LL:Lower Layer)とする(上位階層を「UL」、下位階層を「LL」と簡略化して表記することがある)。電力比が小さい方が固定受信階層(LL)の電力が大きくなるため固定受信階層の受信特性を改善できるが、
図11(a),(b)に示すように、電力比が小さく設定されたLDM信号のコンスタレーションを観測すると、ULのシンボルが異なる固定受信階層のコンスタレーションが重なる領域が生じる。この領域では、信号点と送信ビット列の関係がグレイコード(Gray code)の配置とならない。
【0036】
図12は、LDMの信号点とビット列の関係の一例を示す図である。
【0037】
図12では、移動受信階層(2ビット)の変調方式をQPSK、固定受信階層(6ビット)の変調方式を64QAM-NUCとし、電力比を2dBとしたときの信号点について、隣接信号点とのビット数のずれで区別している。各信号点は8ビット(=2ビット+6ビット)のビット列を有する。コンスタレーションが重なる領域では、隣接信号点同士で2ビット以上のずれが生じている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0038】
【非特許文献1】澁谷一彦,「中継局技術」,映像情報メディア学会誌,vol.64,no.5,2010年,pp.666-671
【非特許文献2】川島祥吾 他,「地上放送高度化方式における軟判定レプリカを用いたMFN放送波中継」,映像情報メディア学会技術報告,vol.44,no.19,BCT2020-64,2020年,pp.13-16
【非特許文献3】Liang Zhang, et al., “Layered-Division-Multiplexing: Theory and Practice”, IEEE Trans. Broadcast, vol.62, no.1, (2016), pp.216-232
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
シンボル軟判定を利用した等化判定器は、放送波中継への応用に一定の評価が得られているが、LDM信号に対して、従来提案されたシンボル軟判定を適用した場合の検討は、これまでなされていない。
【0040】
図13は、従来のシンボル軟判定器のブロック図の一例である。シンボル軟判定器50は、LLR算出部51、シンボル確率算出部52、軟判定レプリカ生成部53、及び規定信号点配置(UL+LL)54の出力部を備えている。従来手法では、LDMの受信シンボルに対して、移動受信階層を分離せず、一括した全規定信号点から軟判定レプリカを生成する。
【0041】
上位階層(UL)の多値ビット数をVUL[bit]、変調多値数をM(=2VUL)、下位階層(LL)の多値ビット数をVLL[bit]、変調多値数をN(=2VLL)と定義すると、LLR(Log Likelihood Ratio)算出部51は、ULとLLが合成されたM・Nの信号点候補(全規定信号点)に対して、受信シンボルとの距離に基づいて、受信シンボルの各ビットの対数尤度比(LLR)を算出する。
【0042】
シンボル確率算出部52は、算出された対数尤度比(LLR)に基づいて、各信号点候補で送信された確率(シンボル確率)を算出する。
【0043】
軟判定レプリカ生成部53は、規定信号点配置(UL+LL)54の出力部から供給される全規定信号点を、シンボル確率により重み付けして(乗算して)、その総和を取ることで、軟判定レプリカを生成する。
【0044】
シンボル軟判定器50は、
図7の等化判定器200のシンボル判定部240として用いることができ、出力された軟判定レプリカは再送信シンボルとなる。
【0045】
図14に、上述の従来技術に基づくLDMの電力比と受信特性の関係を示す。LDM信号による放送波中継において、再生中継された信号を受信した受信機における所要C/N(ここでは、LDPC復号後のビット誤り率(BER:Bit Error Rate)が1.0×10
-7以下となる最小のC/Nとする。)を計算機シミュレーションで評価した結果を、等化判定処理の相違により比較する。横軸は電力比、縦軸は受信機における所要C/N[dB]である。
【0046】
図14で、「等化のみ」とは、
図7の等化判定器200の伝送路等化部230の処理(チャネル等化)のみを行い、シンボル判定部240の処理を行わずに(「判定なし」として)再送信信号を送出する場合の受信機における所要C/Nを示す。
【0047】
図14で、「軟判定」とは、
図7の等化判定器200のシンボル判定部240において、
図13で説明した従来の軟判定処理を行った場合の受信機における所要C/Nを示す。
【0048】
また、「中継なし」とは、信号の中継処理を行わない場合であり、中継局の位置で親局の送信信号が送信されると仮定したときの、受信機における所要C/Nを示している。
【0049】
図14に示すように、従来手法の軟判定を用いて再生中継した場合、電力比が小さい範囲において所要C/Nが劣化し、チャネル等化のみを行う「等化のみ」と比較して所要C/Nが増大することがわかる。
【0050】
この原因は、従来手法を用いたシンボル軟判定では、LLのコンスタレーションが重なる領域において、シンボル軟判定により受信シンボルを規定信号点と異なる方向に再マッピングしてしまうため、電力比が小さい場合に受信特性が劣化したと考えられる。
【0051】
したがって、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、階層伝送方式として階層分割多重(LDM)を適用した信号に対して再生中継を行う際に、コンスタレーションが重なる領域においても再送信シンボルの品質を維持し、受信機における受信特性の劣化を抑制することができるシンボル判定器及び中継装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0052】
上記課題を解決するために本発明に係るシンボル判定器は、階層伝送方式として階層分割多重(LDM)を適用した信号の受信シンボルに対し、シンボル判定により再送信シンボルを生成するシンボル判定器であって、前記受信シンボルに対し、上位階層(UL)の規定信号点ごとに下位階層(LL)の軟判定レプリカを生成し、前記軟判定レプリカに上位階層のシンボル確率を乗算して合成することにより、前記再送信シンボルを生成することを特徴とする。
【0053】
また、前記シンボル判定器は、前記受信シンボルに対して、上位階層の規定信号点それぞれの場合を想定して、下位階層の軟判定レプリカを生成する軟判定レプリカ生成部と、上位階層の各規定信号点についてシンボル確率を算出するシンボル確率算出部と、前記軟判定レプリカ生成部で生成された前記軟判定レプリカと、前記シンボル確率算出部で算出された前記シンボル確率を乗算する乗算部と、前記乗算部の乗算結果を、上位階層の全規定信号点について合成する合成部とを備えることが望ましい。
【0054】
また、前記シンボル判定器は、前記軟判定レプリカ生成部が、受信シンボルから想定する上位階層の規定信号点を除去して残留した成分から下位階層の各ビットの対数尤度比(LLR)を算出し、該対数尤度比(LLR)から下位階層の各規定信号点のシンボル確率を算出し、下位階層の各規定信号点を算出された各規定信号点のシンボル確率で重み付けして総和を取り、前記想定する上位階層の規定信号点を加算することで、前記軟判定レプリカを生成することが望ましい。
【0055】
また、前記シンボル判定器は、前記シンボル確率算出部が、上位階層と下位階層とを合成した全規定信号点に基づいて受信シンボルの各ビットの対数尤度比(LLR)を算出し、該対数尤度比(LLR)から全規定信号点のシンボル確率を算出し、算出された全規定信号点のシンボル確率のうち、上位階層の各規定信号点に対応するシンボル確率の総和を取ることで、上位階層の各規定信号点についてシンボル確率を算出することが望ましい。
【0056】
上記課題を解決するために本発明に係るシンボル判定器は、階層伝送方式として階層分割多重(LDM)を適用した信号の受信シンボルに対し、シンボル判定により再送信シンボルを生成するシンボル判定器であって、前記受信シンボルに対し、上位階層(UL)と下位階層(LL)とを合成した全規定信号点に基づく軟判定レプリカを生成し、ビット尤度に応じて、前記軟判定レプリカと前記受信シンボルのいずれかを再送信シンボルとすることを特徴とする。
【0057】
また、前記シンボル判定器は、前記受信シンボルの各ビットの対数尤度比(LLR)を算出するLLR算出部と、上位階層のビットの前記対数尤度比(LLR)の絶対値を判定するLLR判定部と、前記受信シンボルに対し、上位階層と下位階層とを合成した全規定信号点に基づく軟判定レプリカを生成する軟判定レプリカ生成部と、前記LLR判定部の判定結果に基づいて、前記再送信シンボルを前記軟判定レプリカ又は前記受信シンボルに切り替えるシンボル切替部とを備えることが望ましい。
【0058】
また、前記シンボル判定器は、上位階層のビットの対数尤度比(LLR)の絶対値が1ビットでも所定の閾値を下回った場合、上位階層のビットが異なる下位階層のコンスタレーションが重なる領域に前記受信シンボルがあると判定し、前記受信シンボルを再送信シンボルとすることが望ましい。
【0059】
上記課題を解決するために本発明に係る中継装置は、階層伝送方式として階層分割多重(LDM)を適用した信号伝送の中継装置であって、伝送路特性に基づいて、受信信号の各シンボルの等化処理を行う伝送路等化部と、等化処理された受信シンボルに対して再送信シンボルを生成する、前記シンボル判定器とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0060】
本発明におけるシンボル判定器及び中継装置によれば、階層伝送方式として階層分割多重(LDM)を適用した信号に対して再生中継を行う際に、コンスタレーションが重なる領域においても再送信シンボルの品質を維持し、受信機における受信特性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】本発明の第1の実施形態のシンボル判定器のブロック図の一例である。
【
図2】軟判定レプリカ生成部(LL)の構成の一例を示す図である。
【
図3】シンボル確率算出部(UL)の構成の一例を示す図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態のシンボル判定器のブロック図の一例である。
【
図5】LLRの閾値と受信特性の関係を示す図である。
【
図6】本発明によるLDMの電力比と受信特性の関係を示す図である。
【
図8】等化判定器における各シンボルについて説明する図である。
【
図9】階層分割多重(LDM)方式の送信装置のブロック図の一例である。
【
図10】階層分割多重(LDM)の階層の合成処理を説明する図である。
【
図11】電力比とLDM信号のコンスタレーションの関係を示す図である。
【
図12】LDMの信号点とビット列の関係の一例を示す図である。
【
図13】従来のシンボル軟判定器のブロック図の一例である。
【
図14】従来技術によるLDMの電力比と受信特性の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、実施の形態においては、上位階層(UL)を移動受信階層、下位階層(LL)を固定受信階層として説明をするが、階層分割多重(LDM)の上位階層及び下位階層の設定はこれに限定されるものではない。上位階層と下位階層をどう使うかは、その用途や適用する伝送方式等により、任意に設定することができる。
【0063】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態のシンボル判定器のブロック図の一例である。第1の実施形態は、移動受信階層(上位階層)の信号点を考慮して軟判定レプリカを生成するものである。本実施形態のシンボル判定器100は、軟判定レプリカ生成部(LL)10、シンボル確率算出部(UL)20、乗算部30、及び合成部40を備えている。シンボル判定器100には、伝送路特性に基づいてチャネル等化処理を行った受信シンボルが入力される。なお、本実施形態において、上位階層(UL)の多値ビット数をVUL[bit]、変調多値数をM(=2
VUL)、下位階層(LL)の多値ビット数をVLL[bit]、変調多値数をN(=2
VLL)とする。
【0064】
軟判定レプリカ生成部(LL)10は、受信シンボルに対して上位階層(UL)のM個の規定信号点それぞれの場合(例えば、m番目規定信号点(0≦m<M)である場合)を想定して、下位階層(LL)のみの軟判定レプリカを生成する。
【0065】
シンボル確率算出部(UL)20は、上位階層(UL)のm番目規定信号点であるシンボル確率を算出する。
【0066】
乗算部30は、軟判定レプリカ生成部(LL)10で生成された軟判定レプリカと、シンボル確率算出部(UL)20で算出されたシンボル確率を乗算する。
【0067】
合成部40は、各乗算部30から出力されたM個の乗算結果の値を蓄積し、合成する。こうして生成された受信シンボルのレプリカを再送信シンボルとする。
【0068】
なお、
図1では、軟判定レプリカ生成部10とシンボル確率算出部20と乗算部30を有する処理ブロックがM個並列に記載されているが、1個の処理ブロックをM回使用し、ULのM個の規定信号点ごとの計算処理を行ってもよい。
【0069】
図2に、軟判定レプリカ生成部(LL)10の構成の一例を示す。軟判定レプリカ生成部(LL)10では、ULのm番目規定信号点を想定し、受信シンボルからULの規定信号点を除去して残留した成分(LL成分)に対して軟判定処理を行い、LLの軟判定レプリカを生成する。
【0070】
軟判定レプリカ生成部(LL)10は、加算部(減算部)11、規定信号点配置(UL)12の出力部、LLR算出部(LL)13、ビット確率算出部(LL)14、シンボル確率算出部(LL)15、軟判定レプリカ生成部(LL)16,規定信号点配置(LL)17の出力部、加算部18を備えている。
【0071】
加算部(減算部)11は、受信シンボルからULのm番目の規定信号点をマイナスする。この処理によりULのm番目の規定信号点配置12を基準とするLL成分が出力される。
【0072】
LLR算出部(LL)13は、LLの各ビットについて対数尤度比LLRを算出する。ULの変調多値数をM(=2VUL)、LLの変調多値数をN(=2VLL)、ULの規定信号点配置をsUL
m(0≦m<M)、LLの規定信号点配置をsLL
n(0≦n<N)とし、そのIQ値をsUL
m,I,sUL
m,Q,sLL
n,I,sLL
n,Qとする。また、受信シンボルの実部をxI、虚部をxQ、雑音分散をσ2とすると、ULの規定信号点をsUL
mとした場合のLLのk番目のビットのLLRであるλLL
m,kは、次式(1)により与えられる。
【0073】
【0074】
ここでsLL
k.0、sLL
k,1はそれぞれk番目のビットが0,1を表す信号点の集合、GはLLの電力であり、ILを電力比として、10-IL/10/(1+10-IL/10)である。
【0075】
ビット確率算出部(LL)14は、算出されたLLRからLLの各ビットのビット確率を算出する。λLL
kは、そのビットが0であるビット確率PLL
k.0と1であるビット確率PLL
k.1の対数比であることから、次式(2)のように書ける。
【0076】
【0077】
よって、確率PLL
k.0、PLL
k.1はλLL
kを用いて次式(3)により表される。
【0078】
【0079】
シンボル確率算出部(LL)15は、シンボルのビット列と各ビット確率に基づいて、LLの各規定信号点のシンボル確率を算出する。LLの各信号点のシンボル確率RLL
nは、次式(4)となる。
【0080】
【0081】
ここでbLL
n,kは、sLL
nが表すビット列のk番目のビットの0/1を示す。
【0082】
軟判定レプリカ生成部(LL)16は、LLの規定信号点配置17にLLの各信号点のシンボル確率RLL
nを掛け合わせる。
【0083】
加算部18は、LLの各規定信号点にシンボル確率を掛けたものと、基準となるULのm番目の規定信号点配置12とを加算して、ULのm番目の規定信号点に対するLLの軟判定レプリカを生成する。
【0084】
すなわち、ULの規定信号点sUL
mに対するLLの軟判定レプリカymは、次式(5)のようにLLの規定信号点sLL
nをシンボル確率RLL
nで重みづけして総和を取ることで求められる。
【0085】
【0086】
図3に、シンボル確率算出部(UL)20の構成の一例を示す。シンボル確率算出部(UL)20では、従来手法と同様に、ULとLLを合成したM・Nの全規定信号点に基づいてLLR、及びシンボル確率を算出し、ULのm番目規定信号点のシンボル確率を求める。
【0087】
シンボル確率算出部(UL)20は、LLR算出部(UL+LL)21、ビット確率算出部(UL+LL)22、シンボル確率算出部(UL+LL)23、及びシンボル確率算出部(UL)24を備えている。
【0088】
LLR算出部(UL+LL)21は、まず、受信シンボルとULとLLを合成した変調多値数M・Nの規定信号点配置sj(0≦j<M・N)から、次式(6)に基づいて、各ビットのLLRである、λl(0≦l<VUL+VLL)を算出する。
【0089】
【0090】
ここでSl,0、Sl,1はそれぞれl(エル)番目のビットが0,1を表す信号点の集合であり、ULのビットを上位ビット、LLのビットを下位ビットとしている。
【0091】
次に、ビット確率算出部(UL+LL)22は、算出されたLLRであるλlに基づき、前述の式(2),(3)を用いて、各ビットのビット確率を求める。
【0092】
次いで、シンボル確率算出部(UL+LL)23は、式(4)に基づいて、各シンボルのビット配列と算出されたビット確率から、ULとLLの合成信号点配置に対するシンボル確率Rjを算出する。
【0093】
シンボル確率算出部(UL)24は、RjのうちULのm番目規定信号点sUL
mに対応するシンボル確率の総和を取る。ULの信号点がsUL
mであるシンボル確率RUL
mは、次式(7)で求められる。
【0094】
【0095】
以上のとおり、シンボル確率算出部(UL)20は、ULのm番目の規定信号点のシンボル確率RUL
mを算出し、乗算部30に出力する。
【0096】
そして、乗算部30は、軟判定レプリカ生成部(LL)10で生成した軟判定レプリカymとシンボル確率RUL
mの積を求める。
【0097】
全てのULの規定信号点sUL
mに対して算出したLLの軟判定レプリカymとシンボル確率RUL
mの積を、合成部40において加算することで、次式(8)のように、最終的な再送信シンボルyを決定する。
【0098】
【0099】
以上が、第1の実施形態のシンボル判定器100における、再送信シンボルの求め方の概要である。本実施形態によれば、LDM信号の受信シンボルに対する再送信シンボルの生成を適切に行うことができる。
【0100】
第1の実施形態のシンボル判定器100は、
図7の等化判定器200のシンボル判定部240として用いることができる。すなわち、伝送路特性に基づいて、各シンボルの等化処理を行う伝送路等化部230と、等化処理された受信シンボルに対して再送信シンボルを生成する第1の実施形態のシンボル判定器100とを備える、中継装置を構成することができる。
【0101】
なお、第1の実施形態では、後述のとおり、いずれの電力比においても、等化処理のみの受信シンボルよりも受信性能が良好な軟判定レプリカを生成できることから、伝送路等化部230から直接IFFT部50へ出力する「判定なし」ルートを設定せずに、すべての受信シンボルに対してシンボル判定器100の出力を送信シンボルとすることができる。本実施形態の中継装置によれば、受信機3における受信特性の劣化を抑制することができる。
【0102】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態のシンボル判定器のブロック図の一例である。第2の実施形態は、軟判定レプリカに誤りが生じやすいコンスタレーションが重なる領域(ULのビットが異なるLLのコンスタレーションが重なる領域)は、軟判定レプリカを用いる再生中継を行わずに、チャネル等化結果を再送信するものである。
【0103】
これを実現するためには、受信したシンボルのIQ値を元に、コンスタレーションが重なる領域にあるかを判定する必要がある。これを判定する手段として、コンスタレーションが重なる領域は、移動受信階層分(例えば、QPSK)のビットが異なる信号点同士が近くなる点であることに着目する。すなわち、全てのOFDMサブキャリアに対して、受信シンボルと規定信号点配置(UL+LL)からの距離を元に、各ビットが0または1である確率(ビット尤度)の比であるLLRを算出する。このLLRの値が0に近いほど、ビットが0か1かの判別が難しいこととなる。この性質を利用し、対数尤度比(LLR)算出部から出力されるLLRの内、移動受信階層分のビットのLLRを観測することで、この値が0に近い値である場合には、そのサブキャリアについては軟判定レプリカを生成せず、伝搬路等化のみを行った受信シンボルを再送信する処理を実現できる。すなわち、本実施形態では、ビット尤度に応じて、軟判定レプリカと受信シンボルのいずれかを再送信シンボルとする。
【0104】
図4に示す本実施形態のシンボル判定器110は、LLR算出部51、LLR判定部60、軟判定レプリカ生成部53、規定信号点配置(UL+LL)54の出力部、及びシンボル切替部70を備えている。シンボル判定器110には、伝送路特性に基づいて、チャネル等化処理を行った受信シンボルが入力される。なお、
図4はULにQPSK(多値ビット数=2)、LLに64QAM(多値ビット数=6)を用いた場合の例である。
【0105】
LLR算出部51は、LDMの受信シンボルに対して、ULを除去せず、一括した規定信号点配置(UL+LL)54に基づいてLLRの算出を行う。すなわち、前述の式(6)により、各ビットのLLRであるλlを算出する。算出したLLRは、軟判定レプリカ生成部53に出力すると共に、ULのビットのLLRをLLR判定部60に出力する。
【0106】
LLR判定部60は、ULの各ビットのLLRの絶対値を判定し、判定結果をシンボル切替部70に出力する。例えば、全ビットのLLRの絶対値が所定の閾値以上である場合には、コンスタレーションが重なっていない領域であること(又は、軟判定レプリカを再送信シンボルとして出力する指示)を判定結果として、シンボル切替部70に出力する。また、1ビットでも所定の閾値を下回った場合には、コンスタレーションが重なる領域であること(又は、受信シンボルを再送信シンボルとして出力する指示)を判定結果として、出力する。
【0107】
軟判定レプリカ生成部53は、LLR算出部51で算出されたLLRに基づいて、式(2),(3)を利用してビット確率を求め、式(4)と同様にして各信号点配置のシンボル確率を求める。そして、入力された規定信号点配置(UL+LL)54にシンボル確率で重み付けして総和をとることにより、軟判定レプリカを生成する。生成した軟判定レプリカをシンボル切替部70に出力する。
【0108】
シンボル切替部70は、受信シンボルと、軟判定レプリカ生成部53から出力される軟判定レプリカが入力され、LLR判定部60からの判定結果に基づいて、受信シンボル又は軟判定レプリカを切り替えて出力する。具体的には、ULのLLRの絶対値が全て所定の閾値以上の場合は、軟判定レプリカを再送信シンボルとして出力し、ULのLLRの絶対値が1ビットでも所定の閾値を下回った場合には、シンボル切替部70において受信シンボルをそのまま再送信する処理を行う。
【0109】
LLR判定部60で判定する際の閾値については、次のように設定する。LLRの閾値によって受信機における受信特性が変化することが考えられる。したがって、LLRの閾値を変化させて受信機における受信特性を評価した結果を
図5に示す。
図5より、LLR=3.0付近で受信特性(ビット誤り率)が最善となることが確認できる。よって、この値を閾値とすることが望ましい。
【0110】
以上が、第2の実施形態のシンボル判定器110における、再送信シンボルの求め方の概要である。本実施形態によれば、従来手法において、コンスタレーションが重なる領域において信号品質が劣化することを防止し、再送信シンボルの品質を維持することができる。
【0111】
第2の実施形態は、演算処理が比較的少ないため、簡易なシンボル判定器の実現が可能である。また、前述したLLR判定部60による判定処理により、ULのビット尤度が曖昧である(0/1の判定が困難)と判断された場合には、残るLL分のビット尤度の計算や軟判定レプリカの生成を止めることができるため、更なる演算量削減が期待できる。
【0112】
第2の実施形態のシンボル判定器110は、
図7の等化判定器200のシンボル判定部240として用いることができる。すなわち、伝送路特性に基づいて、各シンボルの等化処理を行う伝送路等化部230と、等化処理された受信シンボルに対して再送信シンボルを生成する第2の実施形態のシンボル判定器110とを備える、中継装置を構成することができる。
【0113】
本実施形態の中継装置によれば、受信機3における受信特性の劣化を抑制することができる。
【0114】
(効果の検証)
図6は、本発明によるLDMの電力比と受信特性の関係を示す図である。第1及び第2の実施形態を適用して再送信された信号を受信した際の受信特性を、計算機シミュレーションで評価した結果を示す。
【0115】
図6で、「等化のみ」とは、
図7の等化判定器200の伝送路等化部230のみの処理を行って、再送信信号を送出する場合の受信機における所要C/Nを示す。
【0116】
「従来手法」とは、
図13で説明した従来の軟判定処理を行った場合の受信機における所要C/Nを示す。
【0117】
「第1手法」とは、第1の実施形態に基づいて再送信シンボルを生成した場合の受信機における所要C/Nを示す。また、「第2手法」とは、第2の実施形態に基づいて再送信シンボルを生成した場合の受信機における所要C/Nを示す。
【0118】
そして、「中継なし」とは、信号の中継処理を行わない場合であり、中継局の位置で親局の送信信号が送信されると仮定したときの、受信機における所要C/Nを示している。
【0119】
図6の結果より、本発明を用いることで、小さい電力比においても再送信したLDM信号の受信特性が改善していることが確認できた。また、第1及び第2の実施形態で、受信特性に大きな差は見られなかった。
【0120】
以上より、本発明を適用することで、階層伝送にLDMを用いる高度化方式についても、放送波中継による信号品質劣化を改善でき、放送波中継を利用した放送ネットワークを構築できるようになる。
【0121】
なお、本発明を高度化方式の放送波中継を例として説明してきたが、本発明は、階層分割多重を用いた任意のデジタル信号の信号伝送に適用できることは言うまでもない。
【0122】
上記の第1及び第2の実施形態では、シンボル判定器100,110の構成と動作について説明したが、本発明はこれに限らず、受信シンボルから再送信シンボルを生成する方法として構成されてもよい。すなわち、例えば、
図1のデータの流れに従って、受信シンボルから軟判定レプリカ(LL)を生成する工程と、シンボル確率(UL)を算出する工程と、これらを乗算する工程と、乗算結果を合成する工程等を備えた、再送信シンボルを生成する方法として構成されても良い。
【0123】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。例えば、実施形態に記載の各ブロック、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成ブロック、ステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0124】
1 親局
2 中継局(中継装置)
3 受信機
10 軟判定レプリカ生成部(LL)
11 加算部(減算部)
12 規定信号点配置(UL)
13 LLR算出部(LL)
14 ビット確率算出部(LL)
15 シンボル確率算出部(LL)
16 軟判定レプリカ生成部(LL)
17 規定信号点配置(LL)
18 加算部
20 シンボル確率算出部(UL)
21 LLR算出部(UL+LL)
22 ビット確率算出部(UL+LL)
23 シンボル確率算出部(UL+LL)
24 シンボル確率算出部(UL)
30 乗算部
40 合成部
50 シンボル軟判定器
51 LLR算出部
52 シンボル確率算出部
53 軟判定レプリカ生成部
54 規定信号点配置
60 LLR判定部
70 シンボル切替部
100 シンボル判定器
110 シンボル判定器
200 等化判定器
210 FFT部
220 伝送路推定部
230 伝送路等化部
240 シンボル判定部
250 IFFT部
300 送信装置
310,320 誤り訂正符号化部
311,321 キャリア変調部
312,322 インターリーブ部
313,323 電力調整部
330 合成部
340 OFDMフレーム化部
341 基準信号発生部
342 TMCC信号発生部
343 付加情報信号発生部
350 IFFT部
360 直交変調部
370 GI付加部