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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164156
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/08 20060101AFI20221020BHJP
   C03C 29/00 20060101ALI20221020BHJP
   C03C 8/14 20060101ALI20221020BHJP
   C03C 8/18 20060101ALI20221020BHJP
   C03C 8/16 20060101ALI20221020BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C03C8/08
C03C29/00
C03C8/14
C03C8/18
C03C8/16
C23C26/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069468
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ヤン インジャ
(72)【発明者】
【氏名】能島 雅史
(72)【発明者】
【氏名】内藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】三宅 竜也
(72)【発明者】
【氏名】平野 聡
【テーマコード(参考)】
4G061
4G062
4K044
【Fターム(参考)】
4G061AA25
4G061BA02
4G061CB13
4G061CC02
4G061CD02
4G061CD03
4G061DA29
4G061DA30
4G062AA08
4G062AA09
4G062BB12
4G062CC10
4G062DA01
4G062DB01
4G062DB02
4G062DC01
4G062DD03
4G062DD04
4G062DE01
4G062DE02
4G062DF01
4G062EA02
4G062EA03
4G062EB01
4G062EB02
4G062EC01
4G062EC02
4G062ED01
4G062ED02
4G062EE01
4G062EE02
4G062EF01
4G062EF02
4G062EG01
4G062EG02
4G062FA01
4G062FB01
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF05
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FK02
4G062FL01
4G062GA01
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD05
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH08
4G062HH09
4G062HH12
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM09
4G062NN40
4G062PP11
4G062PP12
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA12
4K044BB03
4K044BC02
4K044CA02
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】Mg合金と異種材料との接合体においてガルバニック腐食を防止し、かつ、当該接合体を作製する際の温度をMg合金の融点及び発火温度より低い温度範囲に設定可能とする。
【解決手段】接合体は、Mg合金からなるMg合金部材と、Mg合金以外の材料からなりかつMg合金部材と接触した場合に電位差を生ずる異種部材と、Mg合金部材と異種部材との間に配置されたガラス層と、を有し、Mg合金部材と異種部材とは、離れた状態に配置され、ガラス層は、軟化点が400℃以下のガラス組成物を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg合金からなるMg合金部材と、
Mg合金以外の材料からなりかつ前記Mg合金部材と接触した場合に電位差を生ずる異種部材と、
前記Mg合金部材と前記異種部材との間に配置されたガラス層と、を有し、
前記Mg合金部材と前記異種部材とは、離れた状態に配置され、
前記ガラス層は、軟化点が400℃以下のガラス組成物を含む、接合体。
【請求項2】
前記異種部材の前記材料は、前記Mg合金よりもイオン化傾向が小さい、請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記ガラス組成物は、酸化バナジウム及び酸化鉄を含む、請求項1または請求項2に記載の接合体。
【請求項4】
前記ガラス組成物は、酸化テルル、酸化リン、酸化タングステン、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、酸化亜鉛、酸化ランタン、酸化マグネシウム、およびアルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、からなる群から選択された一種類以上の成分を更に含む、請求項3に記載の接合体。
【請求項5】
前記ガラス組成物は、酸化バナジウム、酸化テルル、酸化鉄、酸化リン及び酸化リチウムを含み、
酸化物換算する際、次の酸化物形態のモル%組成において、次の2つの関係式(1)及び(2)を満たす、請求項1または請求項2に記載の接合体。
[V2O5]+[TeO2]+[Fe2O3]+[P2O5]+[Li2O]≧90 …(1)
[V2O5]≧[TeO2]>[Fe2O3]≧[P2O5]≧[Li2O] …(2)
(式中、[X]は成分Xの含有量を表し、その単位は「モル%」である。以下同じ。)
【請求項6】
前記ガラス層は、フィラーを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項7】
前記フィラーは、平均粒径が1~100μmである、請求項6に記載の接合体。
【請求項8】
前記フィラーは、Al、Ag、Zn、Mg及びSnからなる群から選択された一種類以上の元素を含む金属粒子、及び炭素粒子の少なくともいずれか一種類以上を含む、請求項6または請求項7に記載の接合体。
【請求項9】
前記フィラーは、前記ガラス層の10~50体積%を占める、請求項6~8のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項10】
前記Mg合金部材及び前記異種部材は、貫通孔を有し、
前記Mg合金部材と前記異種部材とは、前記貫通孔を貫通する締結部材により締結された構成を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項11】
前記Mg合金部材と前記締結部材との間には、ガラス層を有する、請求項10に記載の接合体。
【請求項12】
前記異種部材は、Fe、Al、Cu、Zn及びNiからなる群から選択された一種類以上の金属元素を含む合金で構成されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項13】
Mg合金で形成されたMg合金部材と、
Mg合金以外の材料で形成された異種部材と、を含み、
前記Mg合金部材と前記異種部材との間には、ガラス層が形成され、
前記Mg合金部材と前記異種部材とは、接触した場合に電位差を生ずる組み合わせであり、
前記Mg合金部材と前記異種部材とは、離れた状態に配置され、
前記ガラス層は、軟化点が400℃以下のガラス組成物を含む、接合体を製造する方法において、
前記Mg合金部材及び前記異種部材の少なくともいずれか一方に、ガラス組成物を含むペーストを塗布する塗布工程と、
前記Mg合金部材と前記異種部材とを重ね合わせる重ね合わせ工程と、
前記ペーストを前記ガラス組成物の前記軟化点を上回る温度まで加熱する加熱工程と、を含む、接合体の製造方法。
【請求項14】
前記重ね合わせ工程は、締結用治具により締結して固定する工程を含む、請求項13記載の接合体の製造方法。
【請求項15】
前記加熱工程は、誘導加熱することにより行う、請求項13記載の接合体の製造方法。
【請求項16】
前記加熱工程は、前記Mg合金の発火温度より低く、かつ、前記Mg合金の融点より低い温度で行う、請求項13記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mg合金部材と異種部材との接合体及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や航空機などのモビリティの軽量化に向けて、Mg合金など軽量合金を用いるマルチマテリアル化に関する研究が進められている。これに伴い、異種金属の接合界面における脆い金属間化合物の形成、および異種金属の接触腐食が課題となっている。
【0003】
金属間化合物の形成を低減するため、低温度で脆い金属間化合物を形成させない機械的締結が広く利用されている。また、Mg合金は、イオン化傾向が比較的大きいため、Alなどの異種金属と接触すると、湿潤な環境においてはガルバニック腐食が発生し、Mg合金が優先的に腐食される。このような異種金属の接触腐食を低減するため、接合領域に中間材を設ける技術が研究されている。
【0004】
特許文献1には、Alを含有するMg合金材と鋼材(亜鉛めっき鋼板)との接合に際して、MgとZnの共晶溶融を生じさせて、酸化皮膜や不純物などと共に接合界面から排出すると共に、Al-Mg系金属間化合物やFe-Al系金属間化合物を生成させて、両材料の新生面同士を接合する、異種金属の接合方法が開示されている。
【0005】
また、Mg合金の発火温度は、概略、500~800℃であることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-269085号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】鈴木ら:マグネシウム合金の発火温度に及ぼす合金成分の影響:軽金属 第69巻 第1号(2019),46-53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されている異種金属の接合方法は、Mgの融点よりも低い共晶点を有する合金系に着目したものであるが、特定の金属の組み合わせだけが適用対象となる点で改善の余地がある。
【0009】
本発明の目的は、Mg合金と異種材料との接合体においてガルバニック腐食を防止し、かつ、当該接合体を作製する際の温度をMg合金の融点及び発火温度より低い温度範囲に設定可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の接合体は、Mg合金からなるMg合金部材と、Mg合金以外の材料からなりかつMg合金部材と接触した場合に電位差を生ずる異種部材と、Mg合金部材と異種部材との間に配置されたガラス層と、を有し、Mg合金部材と異種部材とは、離れた状態に配置され、ガラス層は、軟化点が400℃以下のガラス組成物を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Mg合金と異種材料との接合体においてガルバニック腐食を防止することができ、かつ、当該接合体を作製する際の温度をMg合金の融点及び発火温度より低い温度範囲に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ガラス特有の代表的な示差熱分析(DTA)の結果の一例を示すグラフである。
図2】実施形態に係る最も基本的な構造を有する接合体を示す断面図である。
図3A】締結された構造を有する接合体の一例を示す断面図である。である。
図3B】締結された構造を有する接合体の他の例を示す断面図である。
図3C】締結された構造を有する接合体の他の例を示す断面図である。
図4A図3Aの接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
図4B図3Aの接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
図4C図3Aの接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
図4D図3Aの接合体の製造方法を示すフロー図である。
図5A図3Aの接合体の製造方法であって図4Dとは別の方法の各工程を示す断面図である。
図5B図3Aの接合体の製造方法であって図4Dとは別の方法の各工程を示す断面図である。
図5C図3Aの接合体の製造方法であって図4Dとは別の方法の各工程を示す断面図である。
図5D図3Aの接合体の製造方法であって図4Dとは別の方法の各工程を示す断面図である。
図5E図3Aの接合体の製造方法であって図4Dとは別の方法を示すフロー図である。
図6A図3Aの接合体の製造方法であって図4D及び図5Eとは別の方法の各工程を示す断面図である。
図6B図3Aの接合体の製造方法であって図4D及び図5Eとは別の方法の各工程を示す断面図である。
図6C図3Aの接合体の製造方法であって図4D及び図5Eとは別の方法の各工程を示す断面図である。
図6D図3Aの接合体の製造方法であって図4D及び図5Eとは別の方法を示すフロー図である。
図7】接合体の他の例を示す断面図である。
図8】接合体の他の例を示す断面図である。
図9A図7の接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
図9B図7の接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
図9C図7の接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
図9D図7の接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
図9E図7の接合体の製造方法を示すフロー図である。
図10】誘導加熱によるペーストの焼成・溶着の方法を示す断面図である。
図11A】誘導加熱を用いた接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
図11B】誘導加熱を用いた接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
図11C】誘導加熱を用いた接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
図11D】誘導加熱を用いた接合体の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示に係る接合体は、Mg合金部材とMg合金以外の材料で形成された異種部材とをガラス層を介して接合したものであり、Mg合金部材と異種部材との直接接触を防止するものである。
【0014】
はじめに、ガラスの特性温度の定義について説明する。
【0015】
図1は、ガラス特有の代表的な示差熱分析(DTA)の結果の一例を示すグラフである。
【0016】
ガラスの特性温度(転移点、屈伏点、軟化点等)は、示差熱分析(DTA)により測定した。一般に、ガラスのDTAは、粒径が数十μm程度のガラス粒子を用い、さらに標準試料として高純度のアルミナ(α‐Al)粒子を用いて、大気中5℃/分の昇温速度で測定される。
【0017】
本図に示すように、上記の昇温速度でガラス粒子を加熱すると、転移点Tから吸熱を開始し、第一吸熱ピークに対応する屈伏点Mに達する。そして、吸熱量は、一旦減少した後、再度増加する。第二吸熱ピークに対応する温度は、軟化点Tである。更に加熱していくと、結晶化温度Tcryから発熱量が急増し、発熱ピークに達する。この発熱ピークは、ガラスの結晶化によるものであり、発熱を開始する温度を結晶化温度Tcry、その発熱ピークの極大値を示す温度は、結晶化ピーク温度Tcry-pと呼ぶ。
【0018】
なお、通常では、それぞれの特性温度は、接線法によって求められる。厳密には、T、M及びTは、ガラスの粘度によって定義され、Tは1013.3poise、Mは1011.0poise、Tは107.65poiseに相当する温度である。
【0019】
ガラスの結晶化傾向は、軟化点Tと結晶化温度Tcryとの温度差(絶対値)と、結晶化による発熱ピークの高さ、すなわちその発熱量とから判定される。軟化点Tと結晶化温度Tcryとの温度差(絶対値)が大きければ、ガラスが軟化点Tを超える温度に達しても、Tcryに達しない温度範囲でガラスを軟化流動させることが容易となる。また、結晶化の際の発熱量が小さければ、一定の昇温速度で加熱してTcryに達した場合に、発熱による制御不能な温度上昇が生じてしまうことが少ないため、結晶化の進行を抑制することができる。接合や被覆の焼成温度は、昇温速度、雰囲気、圧力等の焼成条件や含有する金属粒子の種類、含有量及び粒径にも影響されるが、含有するガラス粒子の軟化点Tより30~50℃程度高く設定されることが多い。この焼成温度で、ガラス粒子を軟化流動させ、接合や被覆を実施する。
【0020】
つぎに、バナジウム系(V系)以外の低融点ガラスについて説明する。
【0021】
系以外の低融点ガラスの代表例としては、PbO‐B系、Bi‐B系及びSnO-P系の三種類が挙げられる。
【0022】
表1は、これらの三種類の低融点ガラスの特性温度等を示したものである。
【0023】
【表1】
【0024】
各系の低融点ガラスの転移点T、屈伏点M及び軟化点Tは、示差熱分析(DTA)により測定した特性点から求めた温度範囲であり、ガラス組成やその構造によって決定される。
【0025】
一般的に、PbO‐B系低融点ガラスは、PbO含有量が多いほど軟化点Tが低い傾向にある。このため、かつては様々な製品分野において、低温気密封止、接合・被覆等に幅広く適用されていた。このPbO‐B系低融点ガラス組成物は、軟化点Tが370~420℃と低く、400~450℃で高い軟化流動性を示し、しかも耐水性、耐塩水性等の化学的安定性が比較的に高い。しかし、有害な鉛を多く含むために、現在は無鉛低融点ガラスへ代替され、ほとんど採用されることがなくなった。なお、無鉛の定義は、Pb不添加であるとともに、RoHS指令に適合する1000ppm以下である。
【0026】
無鉛低融点ガラスであるBi‐B系及びSnO-P系は、PbO‐B系低融点ガラスより軟化点Tが高く、軟化流動温度範囲、すなわち接合・被覆温度が上昇してしまう。Bi‐B系低融点ガラスは、Bi含有量が多いほど軟化点Tが低くなるが、それでもPbO‐B系低融点ガラスの軟化点Tには及ばない。しかし、Bi‐B系低融点ガラスは、広く利用されていたPbO‐B系低融点ガラスと適用条件や適用方法が類似していることから、PbO‐B系低融点ガラスの代替材として幅広く適用されるようになった。
【0027】
SnO-P系低融点ガラスは、SnO含有量が多いほど軟化点Tが低くなり、PbO‐B系低融点ガラスほどではないが、Bi‐B系低融点ガラスよりは軟化点Tを低くすることができる。しかし、SnOがSnOへ酸化され易く、SnOの生成によって耐水性や耐塩水性等の化学的安定性が低下してしまう。
【0028】
したがって、V系以外の低融点ガラスは、Mg合金を用いる接合体に適用する観点からは、V系ガラスよりも難しい課題があると考えられる。
【0029】
以下、本開示の実施形態について、図面を用いて詳述する。
【0030】
図2は、本開示の最も基本的な構造を有する接合体を示す断面図である。
【0031】
本図に示す接合体は、Mg合金部材11(平板)と、Mg合金以外の材料で形成された異種部材12(平板)と、これらの間に挟み込まれたガラス層21(ガラス製中間層)と、を有する。
【0032】
異種部材12は、Fe基合金、Al合金などであり、Mg合金よりもイオン化傾向が小さい合金等で形成されている。言い換えると、Mg合金部材11と異種部材12とは、接触した場合に電位差を生ずる組み合わせである。具体的には、異種部材12としては、Fe、Al、Cu、Zn及びNiのうち一種類以上を含む合金が好適に用いられる。このため、Mg合金部材11と異種部材12とが直接接触すると、ガルバニック腐食が発生し、接合材の耐久性が低下する。
【0033】
本実施例のガラス被覆を付したMg合金(市販品AZ31合金板)とAl合金との接合体のサンプルでは、表面観察ではMg合金の被覆の欠陥やガルバニック腐食は見られなかった。また5日間の3.5wt%塩水浸漬試験でも腐食は発生しなかった。
【0034】
なお、Mg合金(AZ31)の軟化点は500℃前後、融点は575~630℃である。従って、接合体サンプルでは、接合温度を420℃とし、低融点ガラスの軟化点より30~50℃程度高温で接合した。ガラス層21を設けたことにより、ガルバニック腐食を防止することができる。
【0035】
なお、異種部材12は、合金に限らず、炭素繊維を含む樹脂であるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)等で形成された部材であってもよい。CFRPは、合金と同様に、Mg合金に対して接触電位を生じるからである。
【0036】
図3Aは、締結された構造を有する接合体の一例を示す断面図である。
【0037】
本図においては、Mg合金部材11と異種部材12とが、それぞれに設けられた貫通孔を介し、締結用治具13(締結部材)により相互に固定されている。締結用治具13は、ねじ、ボルト・ナット、リベットなどを含む。締結用治具13は、Mg合金部材11と異種部材12とを貫通している。Mg合金部材11と異種部材12との間、Mg合金部材11と締結用治具13との間、および異種部材12と締結用治具13との間には、ガラス層21が設けられている。
【0038】
貫通孔はMg合金部材11と異種部材12のそれぞれに、事前に相互に位置合わせした状態で開口されていてもよいし、Mg合金部材11と異種部材12の重ね合わせ後に穴加工により設けてもよい。Mg合金部材11と異種部材12の重ね合わせ後に穴加工により貫通孔を設ける場合には、貫通孔表面にガラス被覆を施さずとも、リベットなどの締結用治具を事前にガラス被覆し、それを用いて締結することで、貫通孔表面のガラス被覆と同様の効果を得られる。
【0039】
図3Bは、締結された構造を有する接合体の他の例を示す断面図である。
【0040】
一方、異種部材12と締結用治具13とが同種又は類似の合金等で形成されている場合、異種部材12と締結用治具13との間に生じる接触電位差は、非常に小さく、ガルバニック腐食が生じない。このため、異種部材12と締結用治具13との間には、ガラス層21を設ける必要がない。
【0041】
図3Cは、締結された構造を有する接合体の他の例を示す断面図である。
【0042】
本図において図3Aと異なる点は、異種部材12a及び異種部材12bが積層されている点である。そして、異種部材12aと異種部材12bとは、異なる種類の合金等で形成されている。このため、異種部材12aと異種部材12bとの間にも、ガラス層21が設けられている。
【0043】
ガラス層21は、軟化点が400℃以下のガラス組成物を含むペースト(ガラスを含む中間材)を軟化点以上の温度に加熱し、10秒以上保持することにより、焼成されて形成される。ペーストは、有機バインダー及び有機溶媒を含むものであってもよい。また、ペーストをガラス層に焼成する際に、Mg合金部材11と異種部材12との熱膨張差による剥離を防ぐため、熱膨張係数を調整するフィラーを混合してもよい。フィラー量は10~50体積%であることが好ましい。
【0044】
具体的には、ペーストは、ガラス組成物と、バインダーと、溶剤と、を含むものである。前記有機溶剤としてアルファテルピネオール或いはブチルカルビトールアセテート、前記樹脂バインダーとしてエチルセルロースを用いることが好ましい。バインダー及び溶剤を上記の組み合わせとすることにより、ガラス組成物の結晶化を抑制し、かつ、加熱焼成後に残留する気泡を低減することができる。また、必要に応じて粘度調整剤や湿潤剤等を添加し、無鉛ガラスペーストの安定性や塗布性を調整することができる。
【0045】
ここで、軟化点が400℃以下のガラス組成物は、酸化バナジウム及び酸化鉄を含むことが望ましい。また、当該ガラス組成物は、酸化テルル、酸化リン、酸化タングステン、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、酸化亜鉛、酸化ランタン、酸化マグネシウム、およびアルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、からなる群から選択された一種類以上を含むものであってもよく、特に、酸化バナジウム、酸化テルル、酸化鉄、酸化リン及び酸化リチウムを含むガラス組成物が望ましい。
【0046】
さらに、酸化物形態の酸化物換算のモル%組成において、次の2つの関係式(1)及び(2)を満たすことが望ましい。
【0047】
[V2O5]+[TeO2]+[Fe2O3]+[P2O5]+[Li2O]≧90 …(1)
[V2O5]≧[TeO2]>[Fe2O3]≧[P2O5]≧[Li2O] …(2)
(式中、[X]は成分Xの含有量を表し、その単位は「モル%」である。以下同じ。)
当該ガラス組成物は、次の関係式(3)を満たすことが望ましい。
【0048】
[TeO2]≧[Fe2O3]+[P2O5]+[Li2O]≧1/2[V2O5] …(3)
当該ガラス組成物は、次の2つの関係式(4)及び(5)を満たすことが望ましい。
【0049】
30≦[TeO2]≦40 …(4)
0.1≦[Li2O]≦10 …(5)
当該ガラス組成物は、次の3つの関係式(6)~(8)を満たすことが望ましい。
【0050】
33≦[V2O5]≦42 …(6)
7≦[Fe2O3]≦16 …(7)
6≦[P2O5]≦15 …(8)
当該ガラス組成物は、酸化リチウム以外のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化亜鉛、酸化モリブデン及び酸化タングステンのうちいずれか一種以上を更に含み、次の関係式(9)を満たすことが望ましい。
【0051】
[Ln2O]+[RnO]+[ZnO]+[MoO3]+[WO3]≦10 …(9)
(式中、Ln:Li以外のアルカリ金属元素、Rn:アルカリ土類金属元素)
当該ガラス組成物は、密度は、3.6g/cm以上4.0g/cm以下であることが望ましい。
【0052】
当該ガラス組成物は、示差熱分析による第二吸熱ピーク温度は、400℃以下であることが望ましい。
【0053】
表2及び表3は、上記の条件を満たすガラス組成物の成分を示したものである。
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
表4及び表5は、上記の条件を満たすガラス組成物の特性を示したものである。
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
図4A~4Cは、図3Aの接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
【0060】
図4Aは、Mg合金部材11の接合面にペースト20を塗布した状態を示したものである。ここで、ペースト20は、軟化点が400℃以下のガラス組成物を含む。
【0061】
図4Bは、Mg合金部材11に塗布したペースト20に異種部材12を貼り合わせ、締結用治具13により固定した状態を示したものである。
【0062】
図4Cは、加熱によりペースト20(図4B)を溶着して、ガラス層21を形成した状態を示したものである。
【0063】
図4Dは、図3Aの接合体の製造方法を示すフロー図であり、図4A~4Cに示す状態に至る工程をまとめたものである。
【0064】
図4Dに示すように、工程S11において、Mg合金部材の異種部材を貼り付ける面及び締結用治具が挿入される孔の内壁面に、ガラスを含む中間材(ガラス組成物を含むペースト)を塗布する。すなわち、工程S11は、塗布工程である。
【0065】
なお、この例においては、Mg合金部材にペーストを塗布する工程について説明しているが、異種部材にペーストを塗布してもよい。
【0066】
つぎに、工程S12において、Mg合金部材と異種部材とを重ね合わせ、締結用治具により締結して固定する。固定する際の締結の力は、Mg合金部材と異種部材との間及びMg合金部材と締結用治具との間にペーストが残存し、異種金属等が接触しない程度で、かつ、空隙が残らない程度とする。すなわち、工程S12は、重ね合わせ工程である。なお、図2の接合体のように、締結用治具を用いない場合は、Mg合金部材と異種部材とを重ね合わせて固定する。
【0067】
工程S13においては、加熱加圧によりペーストを焼成し溶着することにより、ガラス層とする。この際、ガラス組成物の軟化点を上回る温度まで加熱する。この場合において、その温度に達した状態で10秒以上保持することが望ましい。すなわち、工程S13は、加熱工程である。また、異種金属等が接触しない程度で、かつ、空隙が残らない程度に適切に加圧することが望ましい。さらに、加熱温度は、軟化点より20℃以上高い温度であることが望ましい。また、加熱温度は、当該Mg合金の発火温度より低く、かつ、当該Mg合金の融点より低い温度であることが望ましい。
【0068】
図5A~5Dは、図3Aの接合体の製造方法であって図4Dとは別の方法の各工程を示す断面図である。
【0069】
図5Aは、Mg合金部材11の接合面にペースト20を塗布した状態を示したものである。
【0070】
図5Bは、Mg合金部材11に塗布したペースト20に異種部材12を貼り合わせた状態を示したものである。
【0071】
図5Cは、加熱によりペースト20(図5B)を溶着して、ガラス層21を形成した状態を示したものである。
【0072】
図5Dは、締結用治具13を取り付けた状態を示したものである。
【0073】
図5Eは、図3Aの接合体の製造方法を示すフロー図であり、図5A~5Dに示す状態に至る工程をまとめたものである。
【0074】
図5Eに示すように、工程S21において、Mg合金部材の異種部材を貼り付ける面及び締結用治具が挿入される孔の内壁面に、ガラスを含む中間材を塗布する。この工程は、図4Dの工程S11と同様である。
【0075】
つぎに、工程S22において、Mg合金部材と異種部材とを重ね合わせ、貼り合わせる。
【0076】
工程S23においては、加熱加圧によりペーストを焼成し溶着することにより、ガラス層とする。この際、図4Dの工程S13と同様に、適切に加圧することが望ましい。
【0077】
工程S24においては、締結用治具により締結して固定する。
【0078】
図6A~6Cは、図3Aの接合体の製造方法であって図4D及び図5Eとは別の方法の各工程を示す断面図である。
【0079】
図6Aは、Mg合金部材11の接合面にペースト20を塗布した状態を示したものである。
【0080】
図6Bは、加熱によりペースト20(図6A)を溶着して、ガラス層21を形成した状態を示したものである。
【0081】
図6Cは、ガラス層21を形成した後、異種部材12を積層し、締結用治具13により固定した状態を示したものである。
【0082】
図6Dは、図3Aの接合体の製造方法を示すフロー図であり、図6A~6Cに示す状態に至る工程をまとめたものである。
【0083】
図6Dに示すように、工程S31において、Mg合金部材の異種部材を貼り付ける面及び締結用治具が挿入される孔の内壁面に、ガラスを含む中間材を塗布する。この工程は、図4Dの工程S11と同様である。
【0084】
つぎに、工程S32において、加熱によりペーストを焼成することにより、ガラス層とする。
【0085】
工程S33においては、ガラス層を形成した後、異種部材を積層し、締結用治具により締結して固定する。
【0086】
図7は、接合体の他の例を示す断面図である。
【0087】
本図に示す接合体は、図3Aの接合体の構成に似ているが、Mg合金部材11の表面に酸化膜14(被膜)が形成されている点が異なる。
【0088】
このような酸化膜14は、ガラス層21との親和性が高く、付着性が向上する。これにより、締結界面における耐食性が更に向上する。
【0089】
酸化膜14は、緻密であり、観察の結果、酸化膜の構成元素はMgだけでなく、Mg合金部材11の成分に由来するY、Gd、Yb、Al、Ca等の酸化物を含むこともある。
【0090】
また、ペースト20をガラス層に焼成する際に、Mg合金部材11と異種部材12との熱膨張差による剥離を防ぐため、熱膨張係数を調整するフィラーを含むことが可能である。
【0091】
図8は、接合体の他の例を示す断面図である。
【0092】
本図に示す接合体は、図3Bの接合体の構成に似ているが、ガラス層21にフィラーとして金属粒子22が混合されている点が異なる。金属粒子22は、Al、Ag、Zn、Mg及びSnのうち少なくとも一種類を含むことが望ましい。また、フィラーは、グラファイト等の粒子(炭素(C)の粒子等)であってもよい。
【0093】
これにより、Mg合金部材11と異種部材12との熱膨張差による剥離を防ぐことができる。
【0094】
なお、フィラーの平均粒径は、1~100μmであることが望ましい。ここで、平均粒径は、個数基準の平均値により算出した。繊維状のフィラーも適用可能であり、この場合の平均粒径は、繊維状粒子の長径の長さから個数基準の平均値を算出した。
【0095】
図9A~9Dは、図7の接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
【0096】
図9Aは、熱処理により、Mg合金部材11の表面に酸化膜14を形成させた状態を示したものである。
【0097】
図9Bは、Mg合金部材11の接合面にペースト20を塗布した状態を示したものである。
【0098】
本図に示すように、ペースト20は、酸化膜14の表面に塗布された状態となる。
【0099】
図9Cは、Mg合金部材11と異種部材12とを重ね合わせ、締結用治具13により締結し、固定した状態を示したものである。
【0100】
図9Dは、加熱によりペースト20(図9B)を溶着して、ガラス層21を形成した状態を示したものである。
【0101】
図9Eは、図7の接合体の製造方法を示すフロー図であり、図9A~9Dに示す状態に至る工程をまとめたものである。
【0102】
図9Eに示すように、工程S41において、Mg合金部材11に熱処理を施すことにより、その表面に緻密な酸化膜14を形成させる。熱処理は、200℃以上で1時間以上保持することにより行う。ここで、熱処理の温度は、Mg合金の融点以下でかつ発火温度以下の温度とする。すなわち、工程S41は、酸化膜形成工程である。
【0103】
工程S42においては、Mg合金部材の異種部材を貼り付ける面及び締結用治具が挿入される孔の内壁面に、ガラスを含む中間材(ガラス組成物を含むペースト)を塗布する。
【0104】
工程S43においては、Mg合金部材と異種部材とを重ね合わせ、締結用治具により締結して固定する。
【0105】
工程S44においては、加熱加圧によりペーストを焼成し溶着することにより、ガラス層とする。
【0106】
図10は、誘導加熱によるペーストの焼成・溶着の方法を示す断面図である。
【0107】
本図においては、誘導加熱コイル41を締結用治具13の端部(ヘッド)の周囲に設置し、当該端部を誘導加熱することにより、ペースト20(図4B)に熱を伝え、ガラス層21に変化させた状態を示している。
【0108】
図11A~11Cは、誘導加熱を用いた接合体の製造方法の各工程を示す断面図である。
【0109】
図11Aは、Mg合金部材11の接合面にペースト20を塗布した状態を示したものである。
【0110】
図11Bは、Mg合金部材11と異種部材12とを重ね合わせ、締結用治具13により締結し、固定した状態を示したものである。
【0111】
図11Cは、誘導加熱によりペースト20(図11B)を溶着して、ガラス層21を形成した状態を示したものである。
【0112】
図11Cにおいては、図10と異なり、誘導加熱コイル41を取り付けた誘導加熱用治具42を異種部材12の表面に接触させ、異種部材12を介してペースト20(図11B)に熱を伝えることにより、ガラス層21を形成する。なお、誘導加熱用治具42は、締結用治具13に接触させてもよい。
【0113】
図11Dは、誘導加熱を用いた接合体の製造方法を示すフロー図であり、図11A~11Cに示す状態に至る工程をまとめたものである。
【0114】
図11Dに示すように、工程S51において、Mg合金部材の異種部材を貼り付ける面及び締結用治具が挿入される孔の内壁面に、ガラスを含む中間材(ガラス組成物を含むペースト)を塗布する。
【0115】
工程S52においては、Mg合金部材と異種部材とを重ね合わせ、締結用治具により締結して固定する。
【0116】
工程S53においては、誘導加熱によりペーストを焼成し溶着することにより、ガラス層とする。すなわち、加熱工程は、誘導加熱工程であってもよい。
【符号の説明】
【0117】
11:Mg合金部材、12:異種部材、13:締結用治具、14:酸化膜、20:ペースト、21:ガラス層、22:金属粒子、41:誘導加熱コイル、42:誘導加熱用治具。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10
図11A
図11B
図11C
図11D