(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164179
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】シングルコム分光装置
(51)【国際特許分類】
G01J 3/10 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
G01J3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069506
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】石澤 淳
(72)【発明者】
【氏名】小栗 克弥
(72)【発明者】
【氏名】日達 研一
(72)【発明者】
【氏名】西川 正
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020CA12
2G020CB23
2G020CB56
2G020CC22
2G020CC49
2G020CC63
2G020CD24
(57)【要約】
【課題】1台のレーザー光源でデュアルコム分光と同程度の高い周波数分解能で分光を行う。
【解決手段】シングルコム分光装置は、CWレーザー光源5と、CWレーザー光源5からのレーザー光を所定の繰り返し周波数で位相変調して電気光学変調コムを発生させる光変調部6と、電気光学変調コムから広帯域光を発生させる広帯域光生成部2と、広帯域光のCEO周波数を示すCEO信号を検出するCEO信号検出部4aと、CEO周波数に基づいてCWレーザー光源5の光周波数を変調する帰還回路部4bと、試料を透過した広帯域光の観測結果から分光データを得る分光計測部3とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続波レーザー光源と、
前記連続波レーザー光源からのレーザー光を所定の繰り返し周波数で位相変調して電気光学変調コムを発生させるように構成された第1の変調器と、
前記電気光学変調コムのキャリアエンベロープオフセット周波数を検出するように構成された検出部と、
前記キャリアエンベロープオフセット周波数に基づいて前記連続波レーザー光源の光周波数を変調するように構成された帰還回路部と、
試料を透過した前記電気光学変調コムの観測結果から分光データを得るように構成された分光計測部と、
前記分光データを前記キャリアエンベロープオフセット周波数を示すキャリアエンベロープオフセット信号と同期して取得するように構成されたデジタイザーと、
前記キャリアエンベロープオフセット周波数のデータを出力するように構成されたデータ集積装置とを備え、
前記デジタイザーは、前記分光データに前記キャリアエンベロープオフセット周波数のデータを付加するラベリングを行うことを特徴とするシングルコム分光装置。
【請求項2】
請求項1記載のシングルコム分光装置において、
前記帰還回路部は、前記連続波レーザー光源の注入電流値を変化させることにより前記連続波レーザー光源の光周波数を変調することを特徴とするシングルコム分光装置。
【請求項3】
請求項1記載のシングルコム分光装置において、
前記連続波レーザー光源の後段に設けられた、シングルサイドバンド電気光学変調器または音響光学素子からなる第2の変調器をさらに備え、
前記帰還回路部は、前記第2の変調器を制御することにより前記連続波レーザー光源の光周波数を変調することを特徴とするシングルコム分光装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシングルコム分光装置において、
前記帰還回路部は、前記キャリアエンベロープオフセット周波数が前記繰り返し周波数の分だけ連続的に変化するように前記連続波レーザー光源の光周波数を変調することを特徴とするシングルコム分光装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシングルコム分光装置において、
前記帰還回路部は、
周波数変調用信号を出力するように構成された周波数変調用信号発生器と、
前記キャリアエンベロープオフセット信号を分周するように構成された分周器と、
前記周波数変調用信号と前記分周器の出力信号とを比較した結果に基づいて前記連続波レーザー光源の光周波数の変調用の周波数制御信号を出力するように構成された周波数変調用帰還回路とから構成されることを特徴とするシングルコム分光装置。
【請求項6】
光周波数が連続的に変化するように構成された連続波レーザー光源と、
前記連続波レーザー光源からのレーザー光を所定の繰り返し周波数で位相変調して電気光学変調コムを発生させるように構成された変調器と、
前記電気光学変調コムのキャリアエンベロープオフセット周波数を検出するように構成された検出部と、
試料を透過した前記電気光学変調コムの観測結果から分光データを得るように構成された分光計測部と、
前記分光データを前記キャリアエンベロープオフセット周波数を示すキャリアエンベロープオフセット信号と同期して取得するように構成されたデジタイザーと、
前記キャリアエンベロープオフセット周波数のデータを出力するように構成されたデータ集積装置とを備え、
前記デジタイザーは、前記分光データに前記キャリアエンベロープオフセット周波数のデータを付加するラベリングを行うことを特徴とするシングルコム分光装置。
【請求項7】
請求項6記載のシングルコム分光装置において、
前記連続波レーザー光源は、光周波数が前記繰り返し周波数の分だけ連続的に変化することを特徴とするシングルコム分光装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のシングルコム分光装置において、
前記電気光学変調コムに波長分散を与えることにより光パルス列に変換するように構成された分散媒質と、
前記光パルス列のパルス幅を圧縮することにより短パルス化するように構成された分散補償器と、
前記分散補償器を出射した光パルス列の帯域を拡大させるように構成された非線形媒質とをさらに備え、
前記分光計測部は、前記非線形媒質によって帯域が拡大された広帯域光を前記試料に入射させることを特徴とするシングルコム分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学変調コムを用いて精密分光するシングルコム分光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の分光器は、分散型とフーリエ分光型の2つに大きく分けられる。分散型の分光器は、プリズムや回折格子等の分散型素子を利用して光スペクトルを空間上で分離して各波長の強度を順次計って行くというものである。分散型の分光器には、分散素子の制限により高い波長分解能が得られず、波長毎に強度を計っていくので広いスペクトル帯域の計測には時間を要するという問題があった。
【0003】
フーリエ分光型の分光器は、分散型の分光器に比べて単一検出器で多波長を同時分光できるという利点があり、赤外線波長域の分子分光等で多く用いられている。しかしながら、フーリエ分光型の分光器の周波数分解能とデータ取得スピードは、遅延ステージの移動距離と移動スピードで決定され、機械的なステージ移動が限界に達しているため、性能の向上に限界があった。
【0004】
近年注目されるデュアルコム分光は、繰り返し周波数がわずかに異なる2台のモード同期(ML:Mode-Locked)レーザー光源を用いる。繰返し周波数がわずかに異なるため、遅延ステージを動かすことなく、2つの光の相対位相に可変できる。これにより、フーリエ分光に比べてデータ取得時間は桁オーダーで短縮される。更に相対位相変化量も大きくできるため周波数分解能も高くできる(非特許文献1参照)。
【0005】
このようにデュアルコム分光は、高速かつ高分解能な分光法であるが、2台のMLレーザーの繰り返し周波数と位相を複雑な制御機構を用いて高精度に同期させる必要があり、高度な技術を必要とする。このため、デュアルコム分光は、一部のMLレーザーの先端研究機関でのみで実施され、光コムを用いた高速な精密分光を世の中に広く普及させるための壁となっていた。また、測定時間をさらに短くするためには、MLレーザーの繰り返し周波数をさらに上げることが必要となるが、光共振器ベースのMLレーザーでは繰り返し周波数が数GHz程度で限界であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】IAN CODDINGTON,NATHAN NEWBURY,AND WILLIAM SWANN,“Dual-comb spectroscopy”,Vol.3,No.4,April 2016,Optica
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、1台のレーザー光源で従来のデュアルコム分光と同程度の高い周波数分解能で簡便に精密分光を行うことが可能なシングルコム分光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシングルコム分光装置は、連続波レーザー光源と、前記連続波レーザー光源からのレーザー光を所定の繰り返し周波数で位相変調して電気光学変調コムを発生させるように構成された第1の変調器と、前記電気光学変調コムのキャリアエンベロープオフセット周波数を検出するように構成された検出部と、前記キャリアエンベロープオフセット周波数に基づいて前記連続波レーザー光源の光周波数を変調するように構成された帰還回路部と、試料を透過した前記電気光学変調コムの観測結果から分光データを得るように構成された分光計測部と、前記分光データを前記キャリアエンベロープオフセット周波数を示すキャリアエンベロープオフセット信号と同期して取得するように構成されたデジタイザーと、前記キャリアエンベロープオフセット周波数のデータを出力するように構成されたデータ集積装置とを備え、前記デジタイザーは、前記分光データに前記キャリアエンベロープオフセット周波数のデータを付加するラベリングを行うことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のシングルコム分光装置の1構成例において、前記帰還回路部は、前記連続波レーザー光源の注入電流値を変化させることにより前記連続波レーザー光源の光周波数を変調することを特徴とするものである。
また、本発明のシングルコム分光装置の1構成例は、前記連続波レーザー光源の後段に設けられた、シングルサイドバンド電気光学変調器または音響光学素子からなる第2の変調器をさらに備え、前記帰還回路部は、前記第2の変調器を制御することにより前記連続波レーザー光源の光周波数を変調することを特徴とするものである。
また、本発明のシングルコム分光装置の1構成例において、前記帰還回路部は、前記キャリアエンベロープオフセット周波数が前記繰り返し周波数の分だけ連続的に変化するように前記連続波レーザー光源の光周波数を変調することを特徴とするものである。
また、本発明のシングルコム分光装置の1構成例において、前記帰還回路部は、周波数変調用信号を出力するように構成された周波数変調用信号発生器と、前記キャリアエンベロープオフセット信号を分周するように構成された分周器と、前記周波数変調用信号と前記分周器の出力信号とを比較した結果に基づいて前記連続波レーザー光源の光周波数の変調用の周波数制御信号を出力するように構成された周波数変調用帰還回路とから構成されることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のシングルコム分光装置は、光周波数が連続的に変化するように構成された連続波レーザー光源と、前記連続波レーザー光源からのレーザー光を所定の繰り返し周波数で位相変調して電気光学変調コムを発生させるように構成された変調器と、前記電気光学変調コムのキャリアエンベロープオフセット周波数を検出するように構成された検出部と、試料を透過した前記電気光学変調コムの観測結果から分光データを得るように構成された分光計測部と、前記分光データを前記キャリアエンベロープオフセット周波数を示すキャリアエンベロープオフセット信号と同期して取得するように構成されたデジタイザーと、前記キャリアエンベロープオフセット周波数のデータを出力するように構成されたデータ集積装置とを備え、前記デジタイザーは、前記分光データに前記キャリアエンベロープオフセット周波数のデータを付加するラベリングを行うことを特徴とするものである。
また、本発明のシングルコム分光装置の1構成例において、前記連続波レーザー光源は、光周波数が前記繰り返し周波数の分だけ連続的に変化することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のシングルコム分光装置の1構成例は、前記電気光学変調コムに波長分散を与えることにより光パルス列に変換するように構成された分散媒質と、前記光パルス列のパルス幅を圧縮することにより短パルス化するように構成された分散補償器と、前記分散補償器を出射した光パルス列の帯域を拡大させるように構成された非線形媒質とをさらに備え、前記分光計測部は、前記非線形媒質によって帯域が拡大された広帯域光を前記試料に入射させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
電気光学変調コムベースのシングルコム分光は電気光学変調コムの種光源の光周波数を高精度に制御できることから、本発明では、1台の連続波レーザー光源で従来のデュアルコム分光と同程度の高い周波数分解能で簡便に精密分光を行うことが可能となる。さらに、本発明の分光データ取得時間は分光計測部のラインセンサの掃引速度で決定されるため、従来のデュアルコム分光よりも1桁以上短時間での分光計測が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、電気光学変調コムを示す説明図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施例に係るシングルコム分光装置の基本構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2の実施例に係るシングルコム分光装置の構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の第3の実施例に係るシングルコム分光装置の構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の第4の実施例に係るシングルコム分光装置の構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の第4の実施例に係るシングルコム分光装置の別の構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の第5の実施例に係るシングルコム分光装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[発明の原理]
本発明は、上記デュアルコム分光法の問題点を克服するため、MLレーザーの代わりに、CW(Continuous Wave)半導体レーザーを種光源とする電気光学変調(EO:Electro-Optic)コムのキャリアエンベロープオフセット(CEO:Carrier Envelope Offset)周波数を利用して半導体レーザーを高速変調するシングルコム分光装置を提案する。
【0015】
図1は、EOコムを示す説明図である。EOコムは、
図1に示すように、周波数軸上では等しい間隔の繰り返し周波数f
repで櫛状に並ぶ多数のモードの集合体となる。このように周波数軸上に櫛状に並ぶレーザー光の集合体が、EOコムと呼ばれている。EOコムの各モードのスペクトル周波数f
nは、CEO周波数をf
CEOとすると、f
n=f
ceo+n×f
rep(nは整数)と表すことができる。
【0016】
本発明は、広帯域性、高分解能、高速性、簡便性を兼ね備え、かつ従来法のようにレーザーの高度な位相同期を必要としないので、レーザーの専門家以外でも手軽に扱え、フィールド環境での利用も可能な分光装置を実現し、高分解能・高速リアルタイム計測を実現する。
【0017】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について、詳細に説明する。
図2は、本発明の第1の実施例に係るシングルコム分光装置の基本構成を示す概略図である。シングルコム分光装置は、EOコム生成部1と、広帯域光生成部2と、分光計測部3と、CEO信号検出部4aと、帰還回路部4bとを備えている。
【0018】
EOコム生成部1は、EOコムを発生し、EOコムに分散を付与して光パルス化する。EOコム生成部1から出力された光パルスは、広帯域光生成部2に入射され、非線形効果(自己位相変調効果、相互位相変調効果等)を引き起こして広帯域光が生成される。この広帯域光を用いて分光計測部3で分光データを取得する。
【0019】
EOコムは、モード間隔を信号発生器で任意に設定でき、モード間隔を広げることで帯域を広げることが可能であるが、一方で分子分光等の精密分光を行うには分解能が足りなくなる。そこで、EOコムモード間隔を補間する必要がある。
【0020】
本実施例では、広帯域光生成部2から出力される広帯域光をCEO信号検出部4aに入力してCEO信号を検出する。EOコムのCEO周波数と繰り返し周波数をRF周波数カウンターで計測できれば、EOコム生成部1内部の連続波(CW)レーザー光源の光周波数をRF周波数カウンター精度で計測可能であるため、1台のEOコムだけで精密分光が可能となる。CEO周波数と帰還回路部4bを用いてCWレーザー光源を高速周波数変調することにより、EOコムモード間隔を補間し、広帯域かつ高速にシングルコム分光が実現可能となる。
【0021】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。
図3は、本発明の第2の実施例に係るシングルコム分光装置の構成例を示す図である。本実施例は、第1の実施例の具体例を示すものである。
【0022】
EOコム生成部1は、半導体レーザーからなるCWレーザー光源5と、光変調部6(第1の変調器)と、信号発生器7と、分散媒質8とから構成される。
広帯域光生成部2は、光増幅器9と、分散補償器10と、高非線形媒質11とから構成される。
【0023】
分光計測部3は、光分波器12と、回折格子13-1,13-2と、ラインセンサ14-1,14-2と、デジタイザー16とから構成される。
CEO信号検出部4aは、自己参照干渉計17と、RF周波数カウンター21とから構成される。
帰還回路部4bは、分周器18と、周波数変調用信号発生器19と、周波数変調用帰還回路20とから構成される。
【0024】
EOコム生成部1では、EOコムの種光源として、CWレーザー光源5を使用する。CWレーザー光源5は、分光試料15の光吸収スペクトルが存在する波長のCW光を生成する。CWレーザー光源5から出力されたCW光は、光変調部6に入射する。
【0025】
光変調部6は、内部に強度変調器と位相変調器とを備えている。強度変調器と位相変調器とは、信号発生器7からの例えば周波数frep=25GHzの正弦波状のマイクロ波信号S1によって駆動される。これにより、光変調部6は、CWレーザー光源5からのCW光を繰り返し周波数frepで位相変調し、繰り返し周波数frepの周波数モード間隔を持つEOコムを発生する。
【0026】
シングルモードファイバー等の分散媒質8は、光変調部6を出射したEOコムに波長分散を与えることにより、EOコムを繰り返し周波数frepの光パルス列に変換する。分散媒質8を透過した光パルス列は、広帯域光生成部2に入射する。
【0027】
広帯域光生成部2の光増幅器9は、光パルス列を増幅する。分散補償器10は、光増幅器9によって増幅された光パルス列のパルス幅を分散媒質を用いて圧縮することにより、短パルス化する。分散補償器10を出射した高出力短光パルス列は、高非線形ファイバー、フォトニック結晶ファイバー、シリコン細線導波路、シリコン細線導波路等の高非線形媒質11に入射する。
【0028】
高非線形媒質11は、高出力短光パルス列の帯域を拡大する。高非線形媒質11によって帯域が拡大された広帯域光は分光計測部3とCEO信号検出部4aとに入射する。
【0029】
分光計測部3の光分波器12は、広帯域光を2分岐する。回折格子13-1は、光分波器12によって分岐された一方の光である参照光を波長ごとに異なる方向へ分光する。ラインセンサ14-1は、回折格子13-1によって分光された光を受光して電気信号(参照信号)Srefに変換する。
【0030】
光分波器12によって分岐された他方の光は分光試料15に入射する。回折格子13-2は、分光試料15を透過した光を波長ごとに異なる方向へ分光する。ラインセンサ14-2は、回折格子13-2によって分光された光を受光して電気信号(分光信号)Sspに変換する。
【0031】
デジタイザー16は、ラインセンサ14-2で得られた受光信号Sspをラインセンサ14-1で得られた参照信号Srefの強度で規格化することにより、高い信号対雑音比で分光試料15の吸収光スペクトルを取得することができる。
【0032】
一方、CEO信号検出部4aの自己参照干渉計17は、広帯域光生成部2の高非線形媒質11からの広帯域光を入力とし、CEO周波数fCEOを示すCEO信号SCEOを検出する。自己参照干渉計17は、広帯域光に含まれている、高周波成分と低周波成分との光干渉信号を生成し、生成した光干渉信号を光電変換して、得られた電気信号からCEO信号SCEOを出力する機能を有している。
【0033】
本実施例では、CEO周波数fCEOをEOコムの繰り返し周波数frep分だけ変化させる。例えば、信号発生器7の周波数を25GHz(=frep)に設定した場合、EOコムのモード間隔は25GHzとなる。したがって、CEO周波数fCEOを25GHz周波数変調することでEOコムの各周波数モード間隔を補間して精密分光できる。しかし、25GHzのような広帯域幅を高速変調できる信号発生器は存在しないため、CEO信号SCEOを分周器18でN分周(Nは2以上の整数)して周波数を下方変換する。
【0034】
帰還回路部4bの周波数変調用信号発生器19は、fCEOの基準値を基準周波数としてfrep/Nの変調幅で連続的に周波数変化することを繰り返す周波数変調用信号SMOD1を出力する。なお、後述のように周波数変調用信号SMOD1の周波数は、デジタイザー16からの制御に従って変化する。
【0035】
帰還回路部4bの周波数変調用帰還回路20は、周波数変調用信号SMOD1と分周器18の出力信号とを位相比較し、この比較結果に基づいて周波数制御信号SCTL1を出力する。本実施例の周波数制御信号SCTL1は、CWレーザー光源5の光周波数をfrepの変調幅で変調するための信号であり、具体的にはCWレーザー光源5の注入電流値を変化させるための信号である。
【0036】
CWレーザー光源5の光周波数は、周波数制御信号SCTL1に応じて変化する。こうして、CEO周波数fCEOの周波数変調幅の分だけCWレーザー光源5の光周波数を連続的に変化させることができる。
【0037】
一方、CEO信号検出部4aのRF周波数カウンター21は、CEO信号SCEOの周波数fCEOを取得する。分光計測部3のデジタイザー16は、RF周波数カウンター21の出力を基に、ラインセンサ14-2で得られた受光信号Sspとラインセンサ14-1で得られた参照信号SrefとをCEO信号SCEOと同期して取り込み、デジタル化する。
【0038】
デジタイザー16は、分光データ(受光信号Sspのデータ、または受光信号Sspを参照信号Srefの強度で規格化したデータ)の取り込みが終了すると、周波数変調用信号発生器19から出力される周波数変調用信号SMOD1の周波数を変化させる。こうして、分光データの取り込みが終了する度に、周波数変調用信号発生器19の出力周波数を変化させることにより、fn=fceo+n×frepのモード毎に分光データを取得することができる。デジタイザー16による周波数変調用信号発生器19の制御は、以降の実施例についても同じである。
【0039】
本実施例での計測時間は、周波数変調用信号発生器19の変調速度、もしくはラインセンサ14-1,14-2とデジタイザー16とによるデータ取得時間となり、マイクロ秒オーダーの高速な分光が可能となる。一般的には、データ取得時間が周波数変調速度よりも数桁高速であるため、データ取得時間が計測時間となる。
【0040】
仮に周波数変調用信号発生器19の変調速度と、ラインセンサ14-1,14-2とデジタイザー16とによるデータ取得時間とが同程度であった場合には、
図3の信号線100で示すように周波数変調用信号発生器19とデジタイザー16とを同期させる必要がある。
【0041】
こうして、本実施例では、1台のレーザー光源で従来のデュアルコム分光と同程度の高い周波数分解能で簡便に精密分光を行うことができる。
【0042】
なお、本実施例では、CEO信号SCEOを計測してCWレーザー光源5の光周波数を制御しているが、CEO周波数fCEOがゼロ周波数近傍や信号発生器7の設定周波数の半分の周波数での制御が困難である。EOコムのモードの間隔を完全に補間する場合には2つの自己参照干渉計を用意する必要がある。どちらか一つの自己参照干渉計をマッハツェンダー干渉計で構成し、この干渉計の光路にシングルサイドバンド変調器や音響光学素子を挿入してCEO信号SCEOを疑似的に周波数シフトさせるようにすれば、周波数変調用帰還回路20でEOコムモード間隔を完全補間することができる。
【0043】
[第3の実施例]
次に、本発明の第3の実施例について説明する。
図4は、本発明の第3の実施例に係るシングルコム分光装置の構成例を示す図である。本実施例のシングルコム分光装置は、EOコム生成部1aと、広帯域光生成部2と、分光計測部3と、CEO信号検出部4aと、帰還回路部4cとを備えている。帰還回路部4cは、分周器18と、周波数変調用信号発生器19と、周波数変調用帰還回路20cとから構成される。
【0044】
第2の実施例では、CWレーザー光源5の光周波数を変化させるために、周波数変調用帰還回路20からの周波数制御信号SCTL1によってCWレーザー光源5の注入電流値を制御していた。
【0045】
これに対して、本実施例では、EOコム生成部1の代わりに、EOコム生成部1aを設け、CWレーザー光源5から出力されたCW光を周波数変調する。EOコム生成部1aは、CWレーザー光源5と、光変調部6と、信号発生器7と、分散媒質8と、変調器22(第2の変調器)と、周波数可変用信号発生器23と、周波数逓倍器24と、RF増幅器25とから構成される。
【0046】
変調器22は、音響光学素子もしくはシングルサイドバンド電気光学変調器である。周波数可変用信号発生器23は、周波数可変用信号SMOD2を出力する。
周波数逓倍器24は、周波数可変用信号SMOD2の周波数をN倍する。RF増幅器25は、周波数逓倍器24の出力信号を増幅する。
【0047】
音響光学素子からなる変調器22は、CWレーザー光源5から出力されたCW光の周波数を、RF増幅器25の出力信号の周波数分だけシフトさせる。本実施例では、帰還回路部4cの周波数変調用帰還回路20cから出力される周波数制御信号SCTL2は、周波数可変用信号SMOD2の周波数を0~frep/Nの範囲で連続的に変化させることを繰り返すための信号である。これにより、本実施例では、CWレーザー光源5から出力されたCW光の周波数を、0~frepの範囲で連続的に周波数シフトさせることを繰り返すことができる。
【0048】
変調器22としてシングルサイドバンド電気光学変調器22を用いる場合、帰還回路部4cの周波数変調用帰還回路20cから出力される周波数制御信号SCTL2は、CWレーザー光源5から出力されたCW光の周波数を、0~frepの範囲で連続的に周波数シフトさせることを繰り返すための電圧信号となる。
他の構成は第2の実施例と同じである。
【0049】
なお、第2、第3の実施例では、分周器18を使用しているが、25GHzのような広帯域幅を高速変調できる周波数変調用信号発生器19を使用できる場合には、分周器18は不要である。
【0050】
[第4の実施例]
次に、本発明の第4の実施例について説明する。
図5は、本発明の第4の実施例に係るシングルコム分光装置の構成例を示す図である。本実施例のシングルコム分光装置は、EOコム生成部1と、広帯域光生成部2と、分光計測部3と、CEO信号検出部4aと、帰還回路部4dとを備えている。第2、第3の実施例では、CEO信号S
CEOを分周器18でN分周して周波数を下方変換しているが、本実施例では、周波数変調用信号発生器19の変調帯域幅を拡大するために逓倍器を用いて周波数変調用信号発生器19の出力周波数をN倍する。
【0051】
帰還回路部4dは、周波数変調用信号発生器19と、周波数変調用帰還回路20dと、周波数逓倍器27とから構成される。
周波数逓倍器27は、周波数変調用信号発生器19から出力された周波数変調用信号SMOD1の周波数をN倍する。
【0052】
周波数変調用帰還回路20dは、周波数逓倍器27の出力信号とCEO信号SCEOとを位相比較し、この比較結果に基づいてCWレーザー光源5の光周波数を変調するための周波数制御信号SCTL1を出力する。他の構成は第2の実施例と同じである。
こうして、本実施例では、第2の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0053】
本実施例では、周波数逓倍器27を第2の実施例に適用した例で説明したが、第3の実施例に適用してもよい。この場合の構成を
図6に示す。
帰還回路部4eは、周波数変調用信号発生器19と、周波数変調用帰還回路20eと、周波数逓倍器27とから構成される。
【0054】
周波数変調用帰還回路20dは、周波数逓倍器27の出力信号とCEO信号SCEOとに基づいて、周波数可変用信号SMOD2の周波数を0~frep/Nの範囲で連続的に変化させるための周波数制御信号SCTL2を出力する。第3の実施例で説明したとおり、変調器22としてシングルサイドバンド電気光学変調器22を用いる場合、周波数制御信号SCTL2は、CWレーザー光源5から出力されたCW光の周波数を、0~frepの範囲で連続的に周波数シフトさせるための電圧信号となる。
【0055】
[第5の実施例]
次に、本発明の第5の実施例について説明する。
図7は、本発明の第5の実施例に係るシングルコム分光装置の構成例を示す図である。本実施例のシングルコム分光装置は、EOコム生成部1と、広帯域光生成部2と、分光計測部3と、CEO信号検出部4fとを備えている。
CEO信号検出部4fは、自己参照干渉計17と、RF周波数カウンター21と、データ集積装置26と、設定部28とから構成される。
【0056】
第2の実施例では、CEO信号SCEOを基に周波数変調用帰還回路20を用いてCWレーザー光源5の光周波数を変化させていた。これに対して、本実施例では、CWレーザー光源5を、CEO周波数fCEOが定まらないフリーラングで動作させる。
【0057】
本実施例では、シングルコム分光装置の運用前に、CEO周波数fCEOとCWレーザー光源5の注入電流値との関係を測定する。このとき、CWレーザー光源5の周波数は、CEO周波数fCEOを計測するRF周波数カウンター21の結果を集積するデータ集積装置26によって算出できる。
【0058】
CEO信号検出部4fの設定部28は、データ集積装置26に記憶されたCEO周波数fCEOとCWレーザー光源5の注入電流値との関係を基に、CWレーザー光源5の光周波数がfrepの変調幅で連続的に変化することを繰り返すようにCWレーザー光源5に対して注入電流値の設定を行う。
このような設定により、CWレーザー光源5のドライバ(不図示)は自動的に注入電流値を繰り返し変化させるので、CWレーザー光源5はフリーラングで動作する。
【0059】
第2の実施例と同様に、分光計測部3のデジタイザー16は、ラインセンサ14-2で得られた受光信号Sspとラインセンサ14-1で得られた参照信号SrefとをCEO信号SCEOと同期して取り込み、デジタル化する。
【0060】
また、データ集積装置26は、CEO周波数fCEOの計測結果を基にCEO周波数fCEOのデータを出力する。
デジタイザー16は、分光データ(受光信号Sspのデータ、または受光信号Sspを参照信号Srefの強度で規格化したデータ)にCEO周波数fCEOのデータと繰り返し周波数frepのデータとを付加するラベリングを行う。
【0061】
以上のように、本実施例では、分光データにCEO周波数fCEOのデータを付加するラベリングを行うことにより、分光データの計測条件が識別可能になる。
なお、本実施例のようにラベリングを行う構成を第1~第4の実施例に適用してもよい。
【0062】
以上、前記実施例に基づいて本発明を具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、信号対雑音比が高いことを必要としない場合は光分波器12で光分岐せず一つの光路で分光計測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、精密な分光データを得る技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1,1a…EOコム生成部、2…広帯域光生成部、3…分光計測部、4a,4f…CEO信号検出部、4b,4c,4d,4e…帰還回路部、5…CWレーザー光源、6…光変調部、7…信号発生器、8…分散媒質、9…光増幅器、10…分散補償器、11…高非線形媒質、12…光分波器、13-1,13-2…回折格子、14-1,14-2…ラインセンサ、15…分光試料、16…デジタイザー、17…自己参照干渉計、18…分周器、19…周波数変調用信号発生器、20,20c,20d,20e…周波数変調用帰還回路、21…RF周波数カウンター、22…変調器、23…周波数可変用信号発生器、24,27…周波数逓倍器、25…RF増幅器、26…データ集積装置、28…設定部。