(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164506
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法及び装置
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20221020BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
H02J3/38 180
H02J3/00 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070046
(22)【出願日】2021-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】小林 広武
(72)【発明者】
【氏名】上村 敏
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA09
5G066AE09
5G066HA06
5G066HA11
5G066HB02
5G066HB03
(57)【要約】
【課題】単独運転検出機能を維持しつつ周波数ランプ変動耐量の向上を可能とする分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法及び装置を提供する
【解決手段】能動的単独運転検出機能部1の単独運転検出処理と並行して、単独運転検出機能部1の検出しきい値と検出時間上限値から求められる単独運転時の平均周波数変化速度の最小値を判定しきい値として、1サイクル単位で周波数変化速度が判定しきい値を越えるか否かにより単独運転の可能性を判定する単独運転可能性判定機能部2の判定処理を行い、能動的単独運転検出機能部1からの単独運転検出の結果即ち検出結果信号と単独運転可能性判定機能2からの単独運転可能性ありの判定結果即ち判定結果信号との双方が出力されたときに、換言すればANDゲート3に入力されたときに、分散形電源を解列する信号を出力するようにしている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
能動的単独運転検出機能の単独運転検出処理と並行して、前記単独運転検出機能の検出しきい値と検出時間上限値から求められる単独運転時の平均周波数変化速度の最小値を判定しきい値として、1サイクル単位で周波数変化速度が前記判定しきい値を越えるか否かにより単独運転の可能性を判定する単独運転可能性判定機能の判定処理を行い、前記能動的単独運転検出機能からの単独運転検出の結果と前記単独運転可能性判定機能からの単独運転可能性ありの判定結果との双方が出力されたときに分散形電源を解列する信号を出力することを特徴とする分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法。
【請求項2】
前記能動的単独運転検出機能からの検出の結果と前記単独運転可能性判定機能からの判定結果とをANDゲートにそれぞれ入力し、前記ANDゲートにより前記単独運転検出機能の検出信号をブロック状態におき、前記単独運転可能性判定機能の判定結果が単独運転の可能性があるものと判定しない限り前記ブロック状態は維持され、単独運転の可能性があるものと判定したときには前記ブロックを解除して分散形電源を解列する信号を出力することを特徴とする請求項1記載の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法。
【請求項3】
前記能動的単独運転検出機能からの検出信号を一時的に保持する検出結果ホールド機能と、前記単独運転可能性判定機能からの判定信号を一時的に保持する判定結果ホールド機能とを備え、前記能動的単独運転検出機能及び前記単独運転可能性判定機能からの信号送出のタイミングのずれを吸収することを特徴とする請求項1または2記載の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法。
【請求項4】
前記単独運転可能性判定機能の判定結果が単独運転の可能性ありとの判定の場合に、前記周波数変化速度が前記判定しきい値を越えた時点のサイクルを基準サイクルとし、前記基準サイクルを含め3サイクル目の周波数の前記周波数変化速度の前記基準サイクルの直前のサイクルの周波数変化速度に対する差分を周波数ランプ変動分を除去した上で求め、これが誤判定しきい値を越えている場合は、電圧位相ステップ変化と異なるものとみなして単独運転の可能性ありと判定し、さらに4サイクル目の周波数の前記周波数変化速度の前記基準サイクルの直前のサイクルの周波数変化速度に対する前記差分が前記誤判定しきい値以下となった場合は、周波数ステップ変動とみなして単独運転の可能性なしの判定に戻す一方、前記誤判定しきい値を越えている場合は単独運転の可能性ありの判定を維持することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つの記載の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法。
【請求項5】
周波数シフト方式系単独運転検出方式の単独運転検出機能部と、前記単独運転検出機能部の検出しきい値と検出時間上限値から単独運転時の平均周波数変化速度の最小値を判定しきい値として、1サイクル単位で周波数変化速度が前記判定しきい値を越えるか否かにより単独運転の可能性を判定する単独運転可能性判定機能部とを並列に組み、
前記能動的単独運転検出機能部からの信号と前記単独運転可能性判定機能部からの信号とが入力され、単独運転検出信号と単独運転可能性ありの判定信号との双方が入力されたときに分散形電源を解列する信号を出力するANDゲートとを備え、
前記ANDゲートにより前記単独運転検出機能部の検出信号をブロック状態におき、その状態で周波数変化速度を1サイクル単位で連続監視し、ブロックしている間は前記単独運転検出機能部が検出信号を送出しても分散形電源の解列には至らず、周波数変化速度が判定しきい値を超えた場合には、単独運転の可能性があるものと判定し、前記ブロックを解除し、その解除時に単独運転検出機能が検出信号を送出したならば、最終的に単独運転発生と判断し分散形電源を解列する
ことを特徴とする分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上装置。
【請求項6】
前記単独運転検出機能部からの検出結果を一時的に保持する検出結果ホールド機能部と、前記単独運転可能性判定機能部からの判定結果を一時的に保持する判定結果ホールド機能部とを備え、前記能動的単独運転検出機能部及び前記単独運転可能性判定機能部からの信号送出のタイミングのずれを吸収することを特徴とする請求項5記載の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上装置。
【請求項7】
前記単独運転可能性判定機能部は、前記周波数変化速度が前記判定しきい値を越えることにより単独運転の可能性ありと判定したときに、さらに前記周波数変化速度が前記判定しきい値を越えた時点のサイクルを基準サイクルとし、前記基準サイクルを含め3サイクル目の周波数の前記周波数変化速度の前記基準サイクルの直前のサイクルの周波数変化速度に対する差分を周波数ランプ変動分を除去した上で求め、これが誤判定しきい値を越えている場合は、電圧位相ステップ変化と異なるものとみなして単独運転の可能性ありと判定し、さらに4サイクル目の周波数の前記周波数変化速度の前記基準サイクルの直前のサイクルの周波数変化速度に対する前記差分が前記誤判定しきい値以下となった場合は、周波数ステップ変動とみなして単独運転の可能性なしの判定に戻す一方、前記誤判定しきい値を越えている場合は単独運転の可能性ありの判定を維持することを特徴とする請求項5または6記載の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散形電源における単独運転検出機能の不要動作防止技術に関する。さらに詳述すると、本発明は、単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量を向上させる方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電設備などの分散形電源が大量に連系された場合において、瞬時電圧低下などによってこの発電設備などが一斉に解列されると供給力不足となり周波数や電圧が不安定となって系統安定度が低下するなど電力品質に悪影響を与える恐れがある。そこで、分散形電源は、系統連系規程(非特許文献1)の事故時運転継続(FRT)要件に従い、周波数変化速度-2~2Hz/秒の周波数ランプ変動に対して運転継続するように設計されている。
【0003】
事故時運転継続(FRT)要件は、送電系統事故による広範囲の瞬時電圧低下、電圧位相跳躍、ならびに大規模電源脱落や系統分離による瞬時周波数上昇、周波数ランプ変動の各種系統過渡動揺時に、系統全体の電圧・周波数維持に大きな影響を与えないように、分散形電源の一斉脱落や継続的な出力低下の回避を要求するものである。各分散形電源は、これらの要件を満足させるFRT性能を持つように設計されている。
【0004】
低圧配電線に連系される分散形電源は、高低圧混触事故において要求される事故除去時間を満たすために、単独運転が発生した場合、それを瞬時で検出し、解列することが要求される。検出・解列時間は、電気安全環境研究所(JET)の「系統連系保護装置認証試験法」において、0.2秒以内が要求されている。このため、系統連系規程に規定されている単独運転検出方式は種々あるが、現状では、単独運転時に強制的に無効電力を注入し、その時発生する周波数の変化を検出する周波数シフト方式系の単独運転検出方式、なかでも連系台数によらずにこれを確実に実現するステップ注入付き周波数フィードバック方式と呼ばれる新型能動的方式が低圧連系分散形電源の標準的な単独運転検出方式として広く普及している(例えば非特許文献2-4)。
【0005】
一方、太陽光発電を中心としたインバータ形分散形電源の連系量増大に伴い、周波数の維持を担う同期発電機を用いた既存電源の全発電出力に対する比率が減少する結果、系統慣性の低下を招き、系統動揺時にRoCoF(Rate of Change of Frequency)と呼ばれている電力系統の周波数変化速度が増大するケースが想定される。
【0006】
このため、分散形電源の不要解列の主要因となり得る単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量の向上、特に、低圧連系の標準方式である新型能動的単独運転検出機能における周波数ランプ変動耐量の耐量向上が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】系統連系規程(JEAC9701-2019).(一社)日本電気協会
【非特許文献2】平成20~21年度NEDO委託事業成果報告書. 新エネルギー技術研究開発(単独運転検出装置の複数台連系試験技術開発研究)
【非特許文献3】平成15~19年度NEDO委託事業成果報告書. 集中連系型太陽光発電システム実証研究
【非特許文献4】日本電機工業会規格(JEM1498).(一社)日本電機工業会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、無効電力の制御により単独運転時に発生する周波数変化を捉えて検出する周波数シフト方式と無効電力変動方式の能動的単独運転検出装置において、周波数ランプ変動耐量向上と単独運転検出性能とは、相反関係にあり、両立化することが難しい。特に周波数シフト方式系単独運転検出方式、中でもステップ注入付周波数フィードバック方式の単独運転検出装置において、周波数ランプ変動耐量向上と単独運転検出性能との両立は難しい。
【0009】
本発明は、かかる要望に応えるもので、単独運転検出機能を維持しつつ周波数ランプ変動耐量の向上を可能とする分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、本発明者等が種々実験・研究した結果、単独運転検出機能の検出部に用いられている代表的な周波数変化率検出方式を対象に、新型能動的単独運転検出機能の周波数ランプ変動に対する検出動作特性について計算機シミュレーションを行った結果、例えば周波数ランプ変動耐量が小さくなる50Hz系においては、周波数変化速度が-2Hz/秒(周波数低下時)~2.4Hz/秒(同上昇時)の範囲内では検出しきい値に到達せず、この範囲が、現状の周波数ランプ変動に対する耐量であることを確認した。一方、要求される単独運転検出時間の上限0.2秒で検出に至る周波数変化速度に着目すると、単独運転時では、同速度が-4.2Hz/秒以下(周波数低下時)、4.4Hz/秒以上(同上昇時)となる時間が必ず存在し(この場合、周波数変化速度-4.2Hz/秒、4.4Hz/秒は、上限0.2秒で検出しきい値に達する任意の周波数変化パターン各々の平均変化速度に相当する。これにより、0.2秒以内で検出しきい値に達する限り、単独運転時の全ての周波数変化パターンにおいて、周波数変化速度が上記の値に達するか、または越える時間が必ず存在することになる。)、これらの条件を検出要素に加えることで、周波数ランプ変動耐量を顕著に向上できる可能性のあることを知見するに至った。
【0011】
本発明は、かかる知見に基づくものであり、請求項1記載の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法は、能動的単独運転検出機能の単独運転検出処理と並行して、前記単独運転検出機能の検出しきい値と検出時間上限値から求められる単独運転時の平均周波数変化速度の最小値を判定しきい値として、1サイクル単位で周波数変化速度が前記判定しきい値を越えるか否かにより単独運転の可能性を判定する単独運転可能性判定機能の判定処理を行い、前記能動的単独運転検出機能からの単独運転検出の結果と前記単独運転可能性判定機能からの単独運転可能性ありの判定結果との双方が出力されたときに分散形電源を解列する信号を出力するようにしている。
【0012】
ここで、本発明の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法は、能動的単独運転検出機能からの検出の結果と単独運転可能性判定機能からの判定結果とをANDゲートにそれぞれ入力し、ANDゲートにより単独運転検出機能の検出信号をブロック状態におき、単独運転可能性判定機能の判定結果が単独運転の可能性があるものと判定しない限りブロック状態は維持され、単独運転の可能性があるものと判定したときにはブロックを解除して分散形電源を解列する信号を出力することが好ましい。
【0013】
また、本発明の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法は、能動的単独運転検出機能からの検出信号を一時的に保持する検出結果ホールド機能と、単独運転可能性判定機能からの判定信号を一時的に保持する判定結果ホールド機能とを備え、能動的単独運転検出機能及び単独運転可能性判定機能からの信号送出のタイミングのずれを吸収することが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法は、単独運転可能性判定機能の判定結果が単独運転の可能性ありとの判定の場合に、周波数変化速度が前記判定しきい値を越えた時点のサイクルを基準サイクルとし、基準サイクルを含め3サイクル目の周波数の周波数変化速度の基準サイクルの直前のサイクルの周波数変化速度に対する差分を周波数ランプ変動分を除去した上で求め、これが誤判定しきい値を越えている場合は、電圧位相ステップ変化と異なるものとみなして単独運転の可能性ありと判定し、さらに4サイクル目の周波数の周波数変化速度の基準サイクルの直前のサイクルの周波数変化速度に対する差分が誤判定しきい値以下となった場合は、周波数ステップ変動とみなして単独運転の可能性なしの判定に戻す一方、誤判定しきい値を越えている場合は単独運転の可能性ありの判定を維持することが好ましい。
【0015】
また、本発明の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上装置は、周波数シフト方式系単独運転検出方式の単独運転検出機能部と、単独運転検出機能部の検出しきい値と検出時間上限値から単独運転時の平均周波数変化速度の最小値を判定しきい値として、1サイクル単位で周波数変化速度が前記判定しきい値を越えるか否かにより単独運転の可能性を判定する単独運転可能性判定機能部とを並列に組み、能動的単独運転検出機能部からの信号と単独運転可能性判定機能部からの信号とが入力され、単独運転検出信号と単独運転可能性ありの判定信号との双方が入力されたときに分散形電源を解列する信号を出力するANDゲートとを備え、ANDゲートにより単独運転検出機能部の検出信号をブロック状態におき、その状態で周波数変化速度を1サイクル単位で連続監視し、ブロックしている間は単独運転検出機能部が検出信号を送出しても分散形電源の解列には至らず、周波数変化速度が判定しきい値を超えた場合には、単独運転の可能性があるものと判定し、ブロックを解除し、その解除時に単独運転検出機能が検出信号を送出したならば、最終的に単独運転発生と判断し分散形電源を解列するようにしている。
【0016】
ここで、本発明の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上装置は、単独運転検出機能部からの検出結果を一時的に保持する検出結果ホールド機能部と、単独運転可能性判定機能部からの判定結果を一時的に保持する判定結果ホールド機能部とを備え、能動的単独運転検出機能部及び単独運転可能性判定機能部からの信号送出のタイミングのずれを吸収することが好ましい。
【0017】
また、本発明の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上装置において、単独運転可能性判定機能部は、周波数変化速度が判定しきい値を越えることにより単独運転の可能性ありと判定したときに、さらに周波数変化速度が判定しきい値を越えた時点のサイクルを基準サイクルとし、基準サイクルを含め3サイクル目の周波数の周波数変化速度の基準サイクルの直前のサイクルの周波数変化速度に対する差分を周波数ランプ変動分を除去した上で求め、これが誤判定しきい値を越えている場合は、電圧位相ステップ変化と異なるものとみなして単独運転の可能性ありと判定し、さらに4サイクル目の周波数の周波数変化速度の基準サイクルの直前のサイクルの周波数変化速度に対する差分が誤判定しきい値以下となった場合は、周波数ステップ変動とみなして単独運転の可能性なしの判定に戻す一方、誤判定しきい値を越えている場合は単独運転の可能性ありの判定を維持することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法および装置では、単独運転検出機能の誤判定をブロックすることにより、周波数ランプ変動耐量の向上を可能とすることができる。本発明者等の種々の計算機シミュレーションの結果、例えば周波数ランプ変動耐量が小さくなる50Hz系において約2倍の周波数ランプ変動耐量の向上が可能であることを確認した。即ち、単独運転検出機能の検出信号をブロックすることにより不要解列の抑制強化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法を実施する装置の一実施形態を示す機能ブロック図である。
【
図2】周波数偏差検出のための各周波数取得時間の関係を示す説明図である。
【
図3】電圧位相ステップ変化の様相を説明する波形図である。
【
図4】新型能動的方式における単独運転検出部の検出方式例を示すもので、(a)は検出フロー図、(b)は検出しきい値と周期変化のイメージ図である。
【
図5】50Hz系統に連系された場合の周波数低下方向及び上昇方向の各シミュレーション計算結果をまとめて示すグラフであり、縦軸は周期偏差、横軸は時間、パラメータは周波数の変化速度である。
【
図6】新型能動的方式の現在サイクルで検知される単独運転時の周波数偏差変化パターンを示すイメージ図である。
【
図7】新型能動的方式における周期偏差と注入無効電力との関係を示すグラフである。
【
図8】単独運転可能性判定機能の監視・判定処理の一実施形態を示すフロー図である。
【
図9】周波数ランプ変動時の諸特性を示すグラフで、(a)は周波数、(b)は単独運転可能性判定フラグ、(c)は単独運転検出フラグを示す。
【
図10】周波数ランプ変動時に電圧位相ステップ変化が生じた場合の諸特性を示すグラフで、(a)は周波数、(b)は単独運転可能性判定フラグ、(c)は単独運転検出フラグを示す。
【
図11】シミュレーション検証に用いた単独運転特性解析用の配電系統モデル概略図である。
【
図12】同検証に用いたパワーコンディショナの制御系モデル概略図である。
【
図13】同シミュレーションで有効電力の不平効率0%、無効電力の不平効率0%の条件で得られた単独運転時の諸特性を示すグラフで、(a)は周波数、(b)は単独運転可能性判定フラグ、(c)は単独運転検出フラグを示す。
【
図14】同シミュレーションで有効電力の不平効率5%、無効電力の不平効率0%の条件で得られた単独運転時の諸特性を示すグラフで、(a)は周波数、(b)は単独運転可能性判定フラグ、(c)は単独運転検出フラグを示す。
【
図15】同シミュレーションで有効電力の不平効率0%、無効電力の不平効率5%の条件で得られた単独運転時の諸特性を示すグラフで、(a)は周波数、(b)は単独運転可能性判定フラグ、(c)は単独運転検出フラグを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
[単独運転検出機能]
本発明が対象とする能動的単独運転検出装置は、特定の方式に限定されるものではないが、あくまで一例として挙げればステップ注入付き周波数フィードバック方式と呼ばれる能動的単独運転検出機能(一般には、新型能動的単独運転検出機能と呼ばれている)の使用が好ましい。この新型能動的単独運転検出機能は、現在、日本電機工業会(JEM)規格により標準化されるもので「標準形能動的単独運転検出方式」と呼ばれ、低圧連系分散形電源の標準的な単独運転検出方式として広く普及している。そこで、本実施形態では、新型能動的単独運転検出機能を例に挙げて説明する。
【0022】
新型能動的単独運転検出機能は、いわゆる周波数シフト方式系に属するものであり、周波数偏差をフィードバックして単独運転時に無効電力を注入して周波数を発散させる無効電力注入機能と、これによって単独運転時に発生する周波数の急変(つまり、周波数発散)を検出する単独運転検出機能で構成される。
【0023】
新型能動的単独運転検出機能は、単独運転時に、周波数発散機能により発生する周波数や周期の変化率を捉えて検出する方式が用いられるが、具体的な仕様は規格化されておらず、単独運転検出要件とFRT要件の両立を条件に設計されることが求められる。ここで、単独運転検出要件面、および周波数変動面、位相跳躍面のFRT要件関係で、同単独運転検出機能に要求される条件をまとめると、
(1)連系台数や、負荷との間での有効電力、無効電力それぞれのバランスの程度に
よらず、単独運転を0.2秒以内で検出すること、
(2)ステップ状(50Hz系統に連系する場合:最大0.8Hz)に、3サイクル
間継続する周波数変動に対して不要検出しないこと、
(3)ランプ状の-2~2Hz/秒の周波数変動{周波数上限:周波数上昇リレー(
OFR)整定値、周波数下限:周波数低下リレー(UFR)整定値}に対して
不要検出しないこと、
(4)送電系統の二相短絡事故時に発生する電圧位相のステップ変化(最大41度)
に対して不要検出しないこと、
の4つとなる。なお、(2)~(4)のFRT要件は、他の単独運転検出方式を採用しているものも含め、インバータ連系による全ての分散形電源を対象とした要件である。また、周波数発散機能の仕様は、JEM規格により詳細に規定化されているので、詳細な説明は省略する。
【0024】
ここで、上記(1)の単独運転を0.2秒以内で検出するという条件に関して、周波数変化は、一般的に、
図2に示すように、過去の周波数からベースとなる基準周波数値を定め、その値と現在の周波数との差分値(偏差)でもって算定しており、その偏差が設定したしきい値(検出しきい値と呼ぶ)を越えた場合に単独運転と判定している。また、基準周波数値は、一般的に、複数サイクルの移動平均で求められている。さらに、基準周波数が単独運転時に大きく変化するのを避けるために、基準周波数は、一般的に要求、または目標とされる単独運転検出時間幅(新型能動的方式の場合0.2秒以内)以上前の周波数でもって求められる。単独運転検出時間は、検出しきい値を下げるほど短く出来るが、反面、上記(2)、(3)の条件を満たさなくなる可能性が生じる。このため、検出しきい値は、一般的に、(2)、(3)を満足させるしきい値の中で、最も低い、あるいはそれに近い値に設定される。これにより、要求時間内での単独運転検出が出来ない場合は、能動的方式の無効電力注入ゲインを高める等の対応が行われる。
【0025】
上記(2)の周波数ステップ変動に対しては、検出しきい値の調整、または検出しきい値逸脱の連続性の監視でもって対応される。前者は、50Hz系の場合、検出しきい値を0.8Hz(周期偏差:315μ秒)より大きな値に設定すると不要検出を回避できる。後者は、この場合、4サイクル以上の連続逸脱を検出条件に加えると、検出しきい値によらず不要検出を回避できる。ただし、いずれも(1)の単独運転検出時間とトレードオフとなるため、これらの両立性を勘案しながら決定される。
【0026】
上記(3)の周波数ランプ変動に対しては、検出しきい値、および
図2の現在周波数取得サイクルと基準周波数取得サイクルの時間差の調整により対応される。検出しきい値が大きいほど、また時間差が小さいほど、不要検出し難くなるが、これらも単独運転検出時間検出とトレードオフの関係になるため、両立性を勘案しながら決定される。
【0027】
上記(4)については、電圧位相にステップ変化が発生した場合、一般的な0クロス点間の時間幅により周波数を算出するものとすると、周波数に変化が現れるサイクル数は、
図3に示すように、位相ステップ変化による電圧値の変化が0点を跨がないか否かで、1サイクルまたは2サイクルとなり、その後は元の周波数に戻る。これにより、検出しきい値逸脱の3サイクル以上の連続性を監視し、これら全てのサイクルで検出しきい値を越えた場合に単独運転と判定する方式が一般的に用いられる。
【0028】
前述の単独運転検出機能に要求される4つの条件を全て満足させた、新型単独運転検出方式における検出機能部として代表的な検出方式の一例を
図4に示す。なお、
図4(b)の各検出しきい値は、50Hz系連系の値で、60Hz系連系ではそれぞれ5/6倍に設定される。
【0029】
本方式は周波数の評価を周期により行っている。このうち、基準周期は、現在から14~23サイクル前の10サイクル中の最大、最小を除いた8サイクルにおける周期移動平均値で設定している。これにより、単独運転検出に至るまでの0.2秒以内の単独運転期間において、基準周期が大きく変化することを抑えている。
【0030】
周波数変化率の検出は、現在サイクルと現在から3サイクル前までの計4サイクルにおいて行っている。なお、3サイクル前のしきい値の符号が逆となっており、実質的には、連続性の監視は3サイクルで行われている。各々において上記基準周期からの偏差を計算し、いずれも設定したしきい値を越えた場合に単独運転と判定する。この複数サイクルの連続監視により、電圧位相のステップ変化に対する不要検出を回避し、同FRT要件を満足させている。
【0031】
また、各しきい値は一定ではなく、3サイクル前から順次増加させている。特に最後の現在サイクルの検出しきい値(340μ秒)は、周波数変化値換算では0.84Hz(周波数低下時)、0.86Hz(周波数低下時)となり、これにより周波数ステップ変動のFRT要件(0.8Hz、3サイクル)を満足させている。
【0032】
周波数ランプ変動に対しては、基準周期算定サイクルと現在サイクル~3サイクル前までの周期偏差を監視するサイクルとの間の時間間隔、および現在サイクルの検出しきい値(50Hz系で0.84Hz)により、FRT要件である、周波数変化速度-2Hz/秒~2Hz/秒の範囲における不要検出防止を図っている。
【0033】
以上のようにして、規定時間内での単独運転検出と、周波数ステップ変動、周波数ランプ変動、および電圧位相ステップ変化に対するFRT要件の両立化が図られている。
【0034】
[新型能動的方式の周波数ランプ変動に対する検出動作特性]
この新型能動的単独運転検出機能の周波数ランプ変動に対する検出動作について、周波数がランプ変化している場合の、同検出機能の現在サイクルで検知される周期偏差の時間変化と検出時間との関係を検討したところ、以下のことが確認された。
【0035】
50Hz系統に連系された場合の周波数低下方向及び上昇方向の各シミュレーション計算結果を
図5にまとめて示す。パラメータは周波数の変化速度である。なお、周波数は、系統連系規程に従い、低下方向が周波数低下リレー(UFR)の検出レベル47.5Hzまで、上昇方向が周波数上昇リレー(OFR)の検出レベル51.5Hzまでそれぞれ変化させている。また、現在サイクルの検出しきい値(±340μ秒)のラインを併記し、周期偏差のこれら検出しきい値への到達時間を検出時間として各括弧内に示す。
【0036】
周期偏差変化の特徴として、ランプ変化開始から0.28秒までは、基準周期を決定している14~23サイクル前の周期がランプ変化開始前の一定値(50Hz)の領域にあるため、基準周期は一定となり、周期偏差は直線状に増加または減少する。すなわち、この時間領域では、周期偏差は標準周波数(50Hzまたは60Hz)からの変化値となる。それ以降では、基準周期を決定している14~23サイクル前の周期が、ランプ変化している時間領域に入り、それに伴い基準周期も増加または減少するため、周期偏差の時間変化率は大きく減少する。なお、
図5に示すとおり、各サイクルで認識する周期偏差の時間変化特性は、上に凸の曲線であること、および、
図4(b)に示すとおり、各サイクルの検出しきい値は指数関数状に増加させていることにより、周期偏差が現在サイクルの検出しきい値を越えた場合、1サイクル前、および2サイクル前の各検出しきい値も必ず越えていることになる。
【0037】
各周波数変化速度における検出状況についてみると、周波数変化速度が-2Hz/秒~2.4Hz/秒の範囲において、周期偏差は、周波数低下方向、上昇方向ともに周波数変化の範囲内では検出しきい値に到達せず、この範囲が、現状の周波数ランプ変動に対する耐量であることを確認した。次いで、周波数変化速度が上記の値を越えると、周波数低下の場合では、変化速度-3Hz/秒で0.28秒時、-5Hz/秒で0.18秒時にそれぞれしきい値を越え、検出に至る結果となった。また、周波数上昇の場合では、周波数変化速度3Hz/秒で0.3秒時、5Hz/秒で0.18秒時にそれぞれしきい値を越えて検出に至る結果となった。
【0038】
一方、要求されている単独運転検出時間の上限0.2秒で検出に至る周波数変化速度に着目すると、周波数低下時で-4.2Hz/秒、同上昇時で4.4Hz/秒であり、それぞれ絶対値で上述の周波数ランプ変動耐量の約2倍の値となっている。これらは周波数をランプ状に変化させた場合の値であるため、周期偏差が0.2秒で検出しきい値に至る任意の周波数変化パターン各々の平均周波数変化速度に相当する。換言すると、新型能動的方式では、要求検出時間を満足させるため、単独運転時の平均周波数変化速度が、上記の各値以上となるように無効電力が制御されていると言える。
【0039】
このことから、周波数ランプ変動に対する有効なFRT性能向上方策の一つとして、このような単独運転時に必ず発生する周波数変化速度を検出要素の一つに加える手法が有効であることを知見した。
【0040】
尚、図示していないが、60Hz系統に連系された場合の計算機シミュレーション結果においても、周波数がランプ変動した場合の単独運転検出機能の現在サイクルで認識される周期偏差の時間変化と検出時間については、周波数変化速度が-2.9Hz/秒~3.4Hz/秒の範囲において、周期偏差は検出しきい値に到達せず、この範囲が60Hz系での周波数ランプ変動に対する耐量であることが確認された。また、0.2秒で周期偏差が検出しきい値に至る周波数変化速度は、周波数低下時で-5.0Hz/秒、同上昇時で5.3Hz/秒となった。
【0041】
「単独運転可能性判定」
【0042】
さらに、周波数シフト方式系能動的単独運転検出機能の一例として挙げられる新型能動的単独運転検出機能の検出動作特性について検討した結果、単独運転可能性を判定することが可能であることを明らかにした。
【0043】
つまり、新型能動的方式における実際の単独運転期間の周波数偏差(
図4で得られる周期偏差を周波数偏差に換算したもの)の変化パターンは、単独運転直前における負荷との間の有効、無効電力の各バランスの程度、慣性を持つモーター負荷の割合、力率改善コンデンサと負荷のインダクタンス分により形成される共振回路の容量、等の諸条件により種々異なるものとなるが、周波数上昇時の例で、概略、
図6に示すラインA、B、Cのように大別される。なお、これらの単独運転開始時点の周波数偏差はいずれも0で、また、周波数偏差の現在サイクルの検出しきい値に到達する時間(=td)と、その時の周波数偏差は同一とする。
【0044】
例えば、単独運転移行直前において、負荷との間で有効、無効電力ともにバランスしている場合は、単独運転移行直後では周波数変化速度(各ラインの傾きに相当)は小さく、その後、新型能動的方式の周波数フィードバック機能による無効電力注入量の増加により同変化速度は増大し、ラインCのようなパターンとなる。また、単独運転移行直前において、負荷との間で無効電力の不平衡の程度が大きいと、インバータの力率一定制御機能の作用により、単独運転移行直後の周波数変化速度が大きくなるとともに、注入無効電力が上限(
図7参照)に速やかに達し、結果としてラインAのようなパターンとなる場合が想定される。さらに、無効電力が不平衡状態でも、モーター等の慣性をもつ負荷が存在していると、単独運転移行直後の周波数変化速度が抑えられ、ラインBのように、ランプ状に変化する場合が想定される。
【0045】
ラインBが理想的なランプ変化であるものとすると、ラインBの傾きは、ラインA、Cを含めた、時間tdに検出しきい値に到達する周波数変化パターンの単独運転期間の平均周波数変化速度を示し、同時間で検出しきい値に到達するためには、単独運転期間において、瞬時的なものを含め、周波数変化速度が本平均値に達する期間、または本平均値を越える期間が必ず存在することになる。これにより、新型能動的方式が0.2秒以内で単独運転を必ず検出するものとすると、単独運転時では、周波数変化速度が、
図6のラインB’(周波数がランプ状に変化し、検出上限の0.2秒に検出しきい値に到達)の値以上となる期間が必ず存在することになる。この値は単独運転時の平均周波数変化速度の最小値となる。換言すれば、単独運転時の平均周波数変化速度の最小値を判定しきい値として周波数変化速度を1サイクル単位で連続監視する場合、単独運転可能性の判定結果が単独運転検出結果より遅れて出力されるケースがないことを知見するに至った。
【0046】
本実施形態で対象としている単独運転検出機能の場合、例えば、検出時間上限値を0.2秒とする場合の判定しきい値は、周波数ランプ変動耐量が相対的に小さくなる50Hz系統を対象とすれば、周波数低下時で-4.2Hz/秒、周波数上昇時で4.4Hz/秒となり、絶対値でこれ以下の周波数変化速度の場合は、単独運転検出機能の出力をブロックするようにすれば、周波数ランプ変動耐量の大幅な向上が期待できる。
【0047】
[他の系統過渡動揺に対する誤判定回避法]
また、上述のように、単独運転可能性判定機能の判定を1サイクルの判定しきい値逸脱のみで行うものとすると、FRT要件で運転継続が要求されている「電圧位相のステップ変化」、ならびに「3サイクル継続する周波数ステップ変動」において誤判定する可能性が生じることが考えられる。
【0048】
例えば、電圧位相ステップ変化については、同ステップ変化前後の周波数が一定である場合は、FRT要件に従い、新型能動的方式自体は不要検出しない。しかしながら、系統異常により周波数がランプ変動している時に、その変動を抑えるための緊急負荷遮断や系統切り替え等が行われ、併せて電圧位相ステップ変化も発生する場合が想定される。これに対して単独運転可能性判定機能が誤判定すると、周波数ランプ変動の周波数変化速度が新型能動的方式の耐量を越えている場合では、分散形電源の解列を招いてしまう。このため、単独運転可能性判定機能においては、周波数ランプ変動時を含め、電圧位相ステップ変化に対する誤判定の回避が必要となる。
【0049】
また、3サイクルの周波数ステップ変動は、送電線事故発生時の現象を想定したもので、これについてもFRT要件に従い、新型能動的方式自体は不要検出しないが、その後、事故の高速除去等により周波数はランプ変動に移行する場合がある。これによって、周波数ステップ変動に対して単独運転可能性判定機能が誤判定した場合、その後の周波数ランプ変動時に分散形電源の解列を招く可能性が生じる。このため、同周波数ステップ変動に対しても誤判定を回避する必要がある。
【0050】
[1.電圧位相ステップ変化に対する誤判定回避法]
電圧位相ステップ変化に対しては、電圧位相ステップ変化時で影響が及ぶサイクル数は1~2サイクルであることから、何らかの3サイクルの連続性を判定要素に取り入れることで誤判定を回避できる。例えば、周波数変化速度が、正負方向の連続性を含めて、3回連続してしきい値を逸脱したならば単独運転可能性ありと判定する方式を用いると、電圧位相ステップ変化に対する誤判定を回避できる。しかしながら、単独運転時の周波数は、特に、単独運転移行直後の新型能動的方式からの注入無効電力が小さい期間において、モーター負荷の慣性や他の分散形電源の制御系との相互作用等により、ある程度の増減を繰り返しながら変化する場合のあることが想定される。このようなケースでは、1サイクル単位で周波数変化速度の正負が変化する場合が想定され、単独運転検出信号ブロックの解除遅れや不解除につながる可能性が生じる。そこで、事象発生直前の周波数を基準とした周波数変化値は、単独運転時では基本的に発散する一方、電圧位相ステップ変化時では3サイクル以内に0に戻ることに着目し、この周波数変化値の発散と、0への戻りの違いでもって識別化することを判定要素に取り入れることの着想に至った。
【0051】
[電圧位相ステップ変化前後の周波数が一定(定常値)である場合]
例えば、電圧位相ステップ変化前後の周波数が一定である場合は、
(イ)周波数変化速度がしきい値を越えたならば、このしきい値を越えたサイクルを含め、3サイクル連続して周波数変化速度を求める。
(ロ)次いで、同3サイクルの区間の周波数変化速度の積分値(3サイクル目における周波数変化値)を求め、これが0または0に近い値であるならば、「単独運転可能性なし」と見なす。
の手順により誤判定を回避できる。
【0052】
[周波数がランプ変動している時に電圧位相ステップ変化が発生した場合]
次に、電圧位相ステップ変化前後の周波数が一定の速度でランプ変動している場合は、次の手順により誤判定を回避できることになる。
(ハ)周波数変化速度がしきい値を越えたならば、このしきい値を越えたサイクルを含
め、3サイクル連続して周波数の時間に対する二階時間微分値を求める。
(ニ)次いで、各サイクルにおいて、しきい値を越えたサイクルから当該サイクルまで
の区間の周波数二階微分値の積分値を求めるとともに、さらに、これら各サイク
ルで得られた周波数二階微分値の積分値を同3サイクルの区間で積分して3サイ
クル目の周波数変化値を導出する。この値が0または0に近い値であるならば、
「単独運転可能性なし」と見なす。
【0053】
以上、電圧位相ステップ変化前後の周波数が一定であるか、ランプ変動しているかに分け、それぞれの誤判定回避方式について提案したが、周波数二階微分値を積分する方式で以て両ケースに対応できるため、単独運転可能性判定機能には、この周波数二階微分値を積分する方式を取り入れることが好ましい。
【0054】
[2.周波数ステップ変動に対する誤判定回避法]
他方、3サイクル継続する周波数ステップ変動に対しては、同変動発生から4サイクル目で0となるので、上記の3サイクル目の周波数変化値で判断する方式では、誤判定に至る。この対策として、判定に要するサイクル数を4に増やす方式が考えられるが、本実施形態で対象としている新型能動的方式の単独運転検出機能の実質的な検出サイクル数の3より多くなり、単独運転検出時間に影響を与えることとなる。
【0055】
そこで、新型能動的方式自体は周波数ステップ変動に対して不要検出しないことを勘案し、単独運転検出時間への影響と誤判定によるその後の周波数ランプ変動等に対する分散形電源の解列を共に回避する方法として、次のように敢えて2段階(a)(b)で単独運転可能性判定を実施するようにした。
(a)周波数微分値がしきい値を越えてから3サイクル目の周波数変化値が0(また
は、0に近いしきい値以下)でなければ、単独運転検出機能の検出ブロックを
一旦解除する。なお、ブロックを解除しても、単独運転検出機能自体はFRT
要件を満足していることにより、この時点で周波数ランプ変動に対して不要検
出はしない。
(b)引き続き、同4サイクル目の周波数変化値も確認し、これが0または0に近い
しきい値(本明細書では、誤判定しきい値と呼ぶ)以下でなければ、そのまま
、ブロック解除を継続する。これにより、単独運転時の不検出を防止する。一
方、0または0に近い誤判定しきい値以下であるならば、単独運転では無いも
のと見なし、再度ブロック状態に戻し、以降の不要検出を回避する。
【0056】
かかる知見に基づき、現状の単独運転検出性能を極力維持しながら、周波数ランプ変動耐量を向上させる方式として、単独運転時に必ず発生する周波数変化速度をしきい値として、1サイクル単位で周波数変化速度を監視・評価することにより、単独運転の可能性を判定する「単独運転可能性判定機能」を単独運転検出機能と併用し、状況に応じて単独運転検出機能の検出信号をブロックすることにより不要解列の抑制強化を図るという着想に至った。
即ち、本発明の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法及び装置は、単独運転検出機能に並列に単独運転可能性判定機能を組み込む構成とし、その基本的な単独運転可能性判定方式、および最終的な分散形電源解列方式として、
(i)新型能動的方式の単独運転検出機能の検出しきい値と検出時間上限値(例えば
現在の規格では0.2秒)から、単独運転時の平均周波数変化速度の最小値を
求め、これを判定しきい値とする。
(ii)初期条件として、単独運転検出機能の検出信号をブロック状態におき、その
状態で、周波数変化速度を1サイクル単位で連続監視する。
つまり、ブロックしている間は単独運転検出機能が検出信号を送出しても分散
形電源の解列には至らない状態にする。
(iii)周波数変化速度が(i)で設定した判定しきい値を越えた場合、更に、電
圧位相ステップ変化等の他の系統過渡動揺に因るものか否かを判定し、否の場
合は、単独運転の可能性があるものと判定し、ブロックを解除するようにして
も良い。
(iv)ブロック解除時に単独運転検出機能が検出信号を送出したならば、最終的に
単独運転発生と判断し、分散形電源を解列する。
のうち、少なくとも(i)(ii)及び(iv)の条件、好ましくはさらに(iii)の条件を備えるようにしている。
【0057】
図1に、本発明の分散形電源における単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法を実施する装置の一実施形態を示す。
【0058】
この実施形態にかかる単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上装置は、能動的方式の単独運転検出機能部1と単独運転可能性判定機能部2とを並列に組み、能動的方式の単独運転検出機能部1の検出の結果と単独運転可能性判定機能部2の判定結果とが揃ったときにのみ分散形電源解列信号を出力するように構成されている。なお、図中の符号6は周期算出部である。
【0059】
本実施形態では、単独運転検出機能部1の検出信号と単独運転可能性判定機能部2の判定信号とをANDゲート3に入力して単独運転検出信号と単独運転可能性判定信号とが揃って入力されたときにのみ分散形電源解列信号を出力するように構成されている。ANDゲート3のAND機能により、初期条件として、単独運転検出機能の検出信号をブロック状態におき、その状態で、周波数変化速度を1サイクル単位で連続監視するように設けられている。つまり、並列接続された能動的単独運転検出機能1からの検出信号と単独運転可能性判定機能2からの判定結果信号とをANDゲート3にそれぞれ入力することにより、ANDゲート3により単独運転検出機能1の検出信号をブロック状態におき、単独運転可能性判定機能2の判定結果が単独運転の可能性があるものと判定しない限りブロック状態は維持され、単独運転の可能性があるものと判定したときにはブロックを解除して分散形電源を解列する信号を出力するようにしている。
【0060】
また、能動的方式の単独運転検出機能部1と単独運転可能性判定機能部2との各々の後段には、各機能部1,2の信号送出のタイミングのずれに対応するため、各々に出力値を一定期間ホールドする検出結果ホールド機能部4と判定結果ホールド機能部5とがそれぞれ設けられ、能動的単独運転検出機能部1及び単独運転可能性判定機能部2からの信号送出のタイミングのずれを吸収するように設けられている。
【0061】
ここで、能動的単独運転検出装置は、特定の方式に限定されるものではないが、あくまで一例として挙げればステップ注入付き周波数フィードバック方式と呼ばれる能動的単独運転検出機能の使用が好ましいことは上述したとおりである。
【0062】
他方、単独運転可能性判定機能部2は、単独運転検出機能の検出しきい値と検出時間上限値から求められる単独運転時の平均周波数変化速度の最小値を判定しきい値として、1サイクル単位で周波数変化速度が判定しきい値を越えるか否かにより単独運転の可能性を判定する。
【0063】
ここで、例えば、検出時間上限値を0.2秒とする場合の判定しきい値は、例えば周波数ランプ変動耐量が小さくなる50Hz系においては、単独運転時では、周波数速度が-4.2Hz/秒以下(周波数低下時)、4.4Hz/秒以上(同上昇時)となる。この場合、周波数変化速度-4.2Hz/秒、4.4Hz/秒は、上限0.2秒で検出しきい値に達する任意の周波数変化パターン各々の平均変化速度に相当する。
【0064】
単独運転可能性判定機能部2における単独運転可能性判定の処理においては、1サイクル単位で周波数変化速度が判定しきい値を越えるか否かにより単独運転の可能性を判定するが、判定しきい値Aを越えた場合には、さらに他の系統過渡動揺に対する誤判定であるか否かを判定して誤判定を回避することが好ましい。
【0065】
上述の単独運転可能性判定機能部2における監視・判定処理の一例を
図8に示す。なお、フローにおける各出力は
図1の判定結果ホールド機能5への出力を示す。最終的な判定結果ホールド機能5の出力制御法を含め、全体の手順は以下となる。
【0066】
単独運転可能性判定機能2において、監視開始からiサイクル目の周波数変化速度が判定しきい値Aを越えた場合、前述の通り、周波数ランプ変動分を除去した上で、i+2サイクル目のi-1サイクル目に対する周波数変化値を求め、これが誤判定しきい値Bを越えている場合は、電圧位相ステップ変化と異なるものとみなして「可能性あり」信号を一旦出力し、単独運転検出の遅延を回避する。
【0067】
ただし、周波数ステップ変動の場合は誤判定となるため、更に同様の手法でi+3サイクル目のi-1サイクル目に対する周波数変化値を求め、これらが誤判定しきい値B以下となった場合は、周波数ステップ変動とみなして「可能性なし」の信号を出力する。引き続き、誤判定しきい値Bを越えている場合は「可能性あり」信号の出力を継続する。
【0068】
ここで、判定しきい値Aは、要求される単独運転検出時間上限値と、単独運転検出機能の検出しきい値で求まる、単独運転時の平均周波数変化速度(絶対値)の最小値とする。本実施形態で対象としている単独運転検出機能の場合、周波数上昇時:4.4Hz/秒、周波数低下時:4.2Hz/秒とする。他方、誤判定しきい値Bは、理想的には0となるが、実際には、系統過渡動揺時において基準周波数自体が変動する等により、ある程度の幅を持たせることが適当と考えられる。具体的な値は、単独運転との区別化を勘案しながら決定する必要があるが、ここでは、暫定案として、該当する周波数3サイクルまたは4サイクルの中の周波数変化値(絶対値)の最大値の1/5の値をしきい値とする。この値を越える場合は「可能性あり」信号を出力もしくは同信号の出力を継続する。また、周波数変化値が誤判定しきい値B以下である場合は、「可能性なし」信号を出力もしくは同信号の出力を継続する。
【0069】
判定結果ホールド機能部5は、同機能が単独運転の「可能性なし」信号を出力している状態で、「可能性あり」信号が入力した場合は、直ちにその出力を「可能性あり」信号に切り替える。ただし、その次の周期で「可能性なし」信号が入力した場合は、直ちに出力を元の「可能性なし」信号に切り替え、次の「可能性あり」信号の入力まで、その出力を維持する。一方、次の周期においても「可能性あり」信号が入力した場合は、一定期間(例えば0.5秒)、「可能性あり」信号の出力を継続させる。この継続期間において、別途、単独運転検出結果ホールド機能部4から「検出」信号の出力が有った場合は、同「検出」信号の出力が無くなるまで、「可能性あり」信号の出力を継続する。一方、維持期間において、単独運転検出結果ホールド機能部4から「検出」信号の出力が無かった場合は、出力を「可能性なし」信号に切り替え、次の「可能性あり」信号の入力まで、その出力を維持する。
【0070】
以上のようにして、ANDゲート3に単独運転検出信号と単独運転可能性判定信号とが揃って入力されたときにのみ分散形電源解列信号が出力される。
【0071】
また、本実施形態にかかる単独運転検出機能の周波数ランプ変動耐量向上方法及び装置は、実質的にPCSの単独運転検出機能のソフト改良のみで対応できるとみなせ、コスト面での負担は殆ど無いものと考えられる。また、分散形電源のFRT性能向上化のみならず、配電線事故停止時の単独運転検出と、上位系統事故停止時の配電線自立運転の両立化といった、系統レジリエンス向上面にも資する技術と判断される。
【0072】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では主に新型能動的方式の単独運転検出部を例に挙げて説明しているが、これに特に限られるものではなく、周波数シフト方式系単独運転検出方式であればどのような方式の単独運転検出機能であっても適用可能である。
【0073】
また、上述の実施形態にかかる単独運転可能性判定機能部2には、電圧位相ステップ変化に対する誤判定回避法として、周波数二階微分値を積分する方式を取り入れることで、同ステップ変化前後の周波数が一定である場合とランプ変動している場合とに分けずに、対応するようにしているが、同ステップ変化前後の周波数が一定である場合とランプ変動している場合とに分けて、それぞれの誤判定回避を行っても良い。
【0074】
また、対象とする単独運転検出機能の検出に要するサイクル数が4以上である等、場合によっては周波数ステップ変動に対する誤判定回避法として、判定に要するサイクル数を4に増やすようにしても良い。
【実施例0075】
本発明にかかる単独運転可能性判定機能の妥当性について、計算機シミュレーションにより確認した。
【0076】
[周波数ランプ変動と位相急変に対する不要解列回避特性]
はじめに、周波数ランプ変動時における分散形電源の不要解列回避特性を確認する。ここでは、代表として周波数低下時を対象とし、
図8のフロー図の判定しきい値Aは-4.2Hz/秒に設定した。また、誤判定しきい値Bは、周波数変化速度が判定しきい値Aを越えた場合、それ以降の3サイクルまたは4サイクルの中の周波数変化値(絶対値)の最大値の1/5に設定した。
【0077】
以上の判定しきい値Aのもと、周波数ランプ変動の周波数変化速度を判定しきい値Aの近傍の-4.0Hz/秒に設定し、単独運転可能性判定機能の判定結果ホールド機能の出力(フラグ値で1:可能性あり、0:可能性なし)、ならびに、新型能動的方式の単独運転検出機能の検出結果ホールド機能の出力(フラグ値で1:検出、0:不検出)の時間推移を計算により確認した。
【0078】
結果を
図9に示す。単独運転検出機能は、約0.22秒で単独運転と判断して検出信号を出力するが、単独運転可能性判定機能は、最後まで単独運転可能性なしの判定を継続し、設計通りに不要解列を回避できる結果となった。
【0079】
次に、周波数変化速度-4.0Hz/秒での周波数ランプ変動期間の6サイクル目で電圧位相ステップ変化が発生し、これにより、6サイクル目と7サイクル目(約0.12~0.14秒後)の周波数が過渡的に変化した場合の結果を
図10に示す。
【0080】
電圧位相ステップ変化により、単独運転検出機能は6サイクル目で検出信号を出力するが、単独運転可能性判定機能は、
図9と同様に、最後まで単独運転可能性なしの判定を継続し、同じく設計通りに不要解列が回避できることを確認した。
【0081】
[単独運転検出時間の維持特性]
単独運転可能性判定機能は、単独運転時には、単独運転検出時間に影響を与えないように、単独運転検出機能の検出前もしくは、遅くとも同検出と同時に単独運転の可能性が有るものと判定し、検出のブロックを解除することが要求される。これを確認するため、低圧連系用パワーコンディショナ(PCS)の瞬時値解析モデルを用いた、EMTPによる単独運転時の動特性シミュレーション評価を行った。
【0082】
[シミュレーションモデル]
以下に、各シミュレーションモデルを示す。
【0083】
a.配電系統
図11に示す通り、基本的な三相の6.6kV高圧配電線の各線間に、柱上変圧器を介して単相200V低圧配電線を接続したモデルを用いた。各低圧配電線には、それぞれ同じ仕様の5kW級PCSとR、L、Cの静止形負荷を接続した。PCSは、
図12の制御系モデルにより瞬時出力電流が制御される電流源で与えた。また、単独運転の模擬のため、各高圧配電線の送り出し地点に遮断器を設けた。
【0084】
b.PCS制御系モデル
図12に示す一般的な電流制御型の制御を与え,定電力制御(AVR制御)ならびに力率1制御運転させる。太陽光発電の場合では、その時点の日射強度で定まる最大電力追従制御(MPPT制御)が採用されるが、ここで対象とする1秒以下の事象の場合は、日射強度は一定で、定電力制御で模擬しても問題ないと見なせる。具体的には、先ず、連系点電圧(Vsys)の瞬時値をモニタリングし,PLL回路にて位相がVsysに一致した正弦波を作り出す。次いで、これにAVR制御により決定される係数を乗じてその時点の電流源値を決定する。単独運転検出能動的機能には
図7に示した新型能動的方式の無効電力制御モデルを与え,周期偏差に応じてPLL回路の出力Vinの位相を変化させることにより実現する。制御定数は、AVRにおける積分回路の時定数T1:0.06秒、PLLにおける積分回路の時定数T2:0.01秒とした。また、新型能動的方式における周波数フィードバックゲインは、標準的な0.45pu/Hzとした。
【0085】
図1に示した、単独運転可能性判定機能を含んだ単独運転検出機能部のモデルは、連系保護装置部に組み込んだ。判定しきい値Aは、周波数上昇時で4.4Hz/秒、周波数低下時で-4.2Hz/秒にそれぞれ設定した。誤判定しきい値Bは周波数変化速度が判定しきい値Aを越えた以降の3サイクルまたは4サイクルの中の周波数変化値(絶対値)の最大値の1/5に設定した。
【0086】
c.負荷モデル
負荷は、R、L、Cの静止形負荷で模擬した。
また、IEC規格における単独運転検出試験法にもとづき、供試PCSの定格容量と同じkVA容量(1低圧配電線につき5kVA)の共振回路を負荷に並列接続した。
【0087】
[変化パラメータ]
単独運転検出時間は、単独となる配電線区間における、単独運転移行前の発電電力と負荷量のバランスの程度に大きく依存する。このため、単独運転移行前に
図11の遮断器を通過する有効電力P,無効電力Qをパラメータとして変化させ、それぞれのケースについてシミュレーションを行った。具体的には、P、Qの各PCS総出力(15kVA)に対する割合をP不平衡率、Q不平衡率とし、それぞれ-10%~10%の範囲で、5%刻みで変化させた。なお、それぞれの符号の定義については、P不平衡率は、負荷消費電力が発電電力より大きく、遮断器地点において系統側から配電線側に流れている場合を正としている。Q不平衡率は、系統側からみて配電線全体が誘導性になっている場合を正としている。
【0088】
[シミュレーション結果]
図13~
図15に、単独運転移行前後における周波数、ならびに単独運転可能性判定機能、単独運転検出機能各出力フラグの時間推移の代表例を示す。なお、各フラグの「1」は可能性判定機能は、判定結果ホールド機能における「可能性あり」信号の出力、単独運転検出機能は検出結果ホールド機能における「検出」信号の出力をそれぞれ示す。また、周波数は1サイクル単位で求めたもので、さらに、周波数の変化と、判定、検出各機能の動作との関係を詳細に確認するため、ここでは、判定、検出各機能の出力が共に1となった場合でも、PCSの運転を継続させている。
【0089】
図13は、P不平衡率、Q不平衡率ともに0%のケースで、単独運転移行直前においてP、Qともにバランスしている場合の結果で、単独運転移行後の最初の1サイクルでは周波数は殆ど変化していないが、2サイクル目以降は、周波数フィードバック制御の効果により、低下していることが分かる。7サイクル目以降は、周波数低下が飽和しているが、これは、注入無効電力に限度値を設けていることによる。単独運転可能性判定機能は、単独運転移行後の4サイクル目で「可能性あり」の判定信号を、また、単独運転検出機能は、5サイクル目で検出信号をそれぞれ出力しており、このケースでは、単独運転転可能性判定機能は、単独運転検出時間に影響を与えないことが分かる。
【0090】
図14は、今回の設定ケースで最も単独運転検出時間が長かったP不平衡率5%、Q不平衡率0%の結果である。周波数は、単独運転移行後、4サイクル目まで微小に増減を繰り返し、その後低下に至っている。この増減は、PLL等の他の制御系との干渉によるものと考えられる。この場合でも単独運転可能性判定機能は、単独運転検出機能より前の4サイクル目で「可能性あり」の判定信号を出力しており、同じく単独運転検出時間に影響を与えないことが分かる。
【0091】
図15は、P不平衡率0%、Q不平衡率5%の結果である。Qが誘導性の不平衡状態にあったため、単独運転移行後、周波数は直ちに上昇を開始している。その結果、単独運転検出信号は早期の3サイクル目で出力されているが、「可能性あり」の判定信号も同じサイクルで出力されており、この場合も単独運転検出時間に影響を与えないことが分かる。
各ケースにおける、「可能性あり」の判定信号の出力時間、および単独運転検出信号の出力時間をまとめて表1に示す。ハッチング部分は、単独運転検出信号の出力時間が0.1秒を越えたケースを示す。
【0092】
【0093】
同表より、「可能性あり」の判定に至らなかったケース、および「可能性あり」の判定を、単独運転検出信号出力時間より遅れて出力されたケースはいずれも無いことを確認した。また、特に単独運転検出信号の出力時間が長くなるケースでは、それ以前に「可能性あり」の判定が行われる傾向になることを確認した。
【0094】
以上により、単独運転検出時間に影響を与えないことが確認できた。つまり、単独運転検出機能を維持しつつ周波数ランプ変動耐量の向上を可能とすることが確認された。