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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164674
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】アルミニウム箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/00 20060101AFI20221020BHJP
   C25D 1/04 20060101ALI20221020BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20221020BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20221020BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20221020BHJP
【FI】
C25D1/00 311
C25D1/04
H01M4/66 A
H01M4/64 A
H01G11/68
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123598
(22)【出願日】2022-08-02
(62)【分割の表示】P 2018023730の分割
【原出願日】2018-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 篤志
(72)【発明者】
【氏名】松田 純一
(57)【要約】
【課題】アルミニウム箔のコイル状の巻き取りを可能とし、コイル状アルミニウム箔の製造を可能とする程度の集電体用途に好適な柔軟性(可撓性)を有するアルミニウム箔を提供する。
【解決手段】電解アルミニウム箔製造用めっき液に浸漬した陰極と陽極の間に電流を印加させ、前記陰極にアルミニウム被膜を形成した後、剥離することで得られるアルミニウム箔の製造方法において、前記めっき液の添加剤として塩化アンモニウムを用い、前記塩化アンモニウムは溶媒であるジアルキルスルホン10モルに対して0.2~1.5モル含み、かつ前記めっき液の温度は105℃以下であり、前記アルミニウム箔は、厚みが20μm以下で、97質量%以上がアルミニウムで構成され、昇温脱離ガス分析によって検出される水素が、質量比で30ppm以上200ppm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解アルミニウム箔製造用めっき液に浸漬した陰極と陽極の間に電流を印加させ、前記陰極にアルミニウム被膜を形成した後、剥離することで得られるアルミニウム箔の製造方法において、
前記めっき液の添加剤として塩化アンモニウムを用い、前記塩化アンモニウムは溶媒であるジアルキルスルホン10モルに対して0.2~1.5モル含み、かつ前記めっき液の温度は105℃以下であり、
前記アルミニウム箔は、厚みが20μm以下で、97質量%以上がアルミニウムで構成され、昇温脱離ガス分析によって検出される水素が、質量比で30ppm以上200ppm以下である、
ことを特徴とするアルミニウム箔の製造方法。
【請求項2】
電解アルミニウム箔製造用めっき液に浸漬した陰極と陽極の間に電流を印加させ、前記陰極にアルミニウム被膜を形成した後、剥離することで得られるアルミニウム箔の製造方法において、
前記めっき液の添加剤として塩化アンモニウムを用い、前記塩化アンモニウムは溶媒であるジアルキルスルホン10モルに対して0.2~1.5モル含み、かつ前記めっき液の温度は125℃以下であり、
前記アルミニウム被膜を前記陰極から剥離した後、洗浄し乾燥後、熱処理し、
前記アルミニウム箔は、厚みが20μm以下で、97質量%以上がアルミニウムで構成され、昇温脱離ガス分析によって検出される水素が、質量比で30ppm以上200ppm以下である、
ことを特徴とするアルミニウム箔の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム箔に関し、詳しくは、集電体用途に好適な電解析出法を用いて作製されたアルミニウム箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大きなエネルギー密度を持つ蓄電デバイスを利用する、例えば、携帯電話やノートパソコンなどの小型モバイルツール、ハイブリッド自動車および太陽光発電などの製品や技術の進展が著しい。そのため、リチウムイオン二次電池やスーパーキャパシター(電気二重層キャパシター、レドックスキャパシター、リチウムイオンキャパシターなど)などの蓄電デバイスは、高エネルギー密度化(高容量化や高出力化)に加え、一層の小型化に伴う安全性や信頼性(寿命)の向上が求められている。こうした蓄電デバイスへの要求を満たすための一策として、蓄電デバイスの電極を構成するシート状の集電体の薄肉化が考えられる。例えば正極の場合、活物質を担持する集電体(正極集電体)には、一般的にアルミニウム箔が使用されている。
【0003】
上述した集電体用アルミニウム箔の厚みは、現在のところ圧延加工によって15~20μm程度に形成されている。この厚みをより薄く形成することにより、上述した蓄電デバイスへの要求を満たすことができると考えられる。しかし、アルミニウム箔の工業的製造規模の圧延加工によって作製可能な厚みは、現在のところ、活物質の担持に好適な粗面に形成する場合は20μm以上、活物質の担持に不利な平滑面に形成する場合でも12μm以上と言われている。そこで、圧延法にかわるアルミニウム箔を製造する方法として、アルミニウム源を陽極とし、電気アルミニウムめっき液(電解液)を用いて陰極の表面にアルミニウムを電析させる電解析出法(電解法)が注目されている。こうした電解法によれば、陰極基材の表面に電析させて形成したアルミニウム被膜を剥離することによって、アルミニウム箔(電解アルミニウム箔)を製造することができる(例えば特許文献1)。また、電解アルミニウム箔の連続製造を可能とするため、円形断面を有するドラム状の陰極基材(陰極ドラム)を用いた電解アルミニウム箔製造装置が提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/001932号
【特許文献2】特開2012-246561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されるような陰極ドラムを備える電解アルミニウム箔製造装置を用いると、連続的に製造された電解アルミニウム箔を連続的に巻き取ることによって、電解アルミニウム箔をコイル状の形態に纏めることができる。しかし、巻き取り中の電解アルミニウム箔やコイル状電解アルミニウム箔には、引張り力、曲げ力および捩り力などが作用することによって微細なクラック(ヘアークラック)や亀裂が生じることや、時として破断が発生することがある。そのため、電解アルミニウム箔の巻き取りを行うに際しては、上記の引張り力、曲げ力および捩り力などに耐える程度の柔軟性(可撓性)を有する電解アルミニウム箔であることが求められる。
【0006】
本発明は、電解アルミニウム箔のコイル状の巻き取りを可能とし、コイル状電解アルミニウム箔の製造を可能とする程度の集電体用途に好適な柔軟性(可撓性)を有する電解アルミニウム箔(以下、単に「アルミニウム箔」という。)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
電気アルミニウムめっき液を用いた電解法において、種々条件を変えて製造されたアルミニウム箔の可撓性について検討し、電解法においてアルミニウム箔に不可避で含まれる水素(H)がアルミニウム箔の可撓性に影響を及ぼすことを見出し、本発明に想到することができた。
【0008】
すなわち、本発明の、電解アルミニウム箔製造用めっき液に浸漬した陰極と陽極の間に電流を印加させ、前記陰極にアルミニウム被膜を形成した後、剥離することで得られるアルミニウム箔の製造方法において、前記めっき液の添加剤として塩化アンモニウムを用い、前記塩化アンモニウムは溶媒であるジアルキルスルホン10モルに対して0.2~1.5モル含み、かつ前記めっき液の温度は105℃以下であり、前記アルミニウム箔は、厚みが20μm以下で、97質量%以上がアルミニウムで構成され、昇温脱離ガス分析によって検出される水素が、質量比で30ppm以上200ppm以下である。
【0009】
また、本発明の、電解アルミニウム箔製造用めっき液に浸漬した陰極と陽極の間に電流を印加させ、前記陰極にアルミニウム被膜を形成した後、剥離することで得られるアルミニウム箔の製造方法において、前記めっき液の添加剤として塩化アンモニウムを用い、前記塩化アンモニウムは溶媒であるジアルキルスルホン10モルに対して0.2~1.5モル含み、かつ前記めっき液の温度は125℃以下であり、前記アルミニウム被膜を前記陰極から剥離した後、洗浄し乾燥後、熱処理し、前記アルミニウム箔は、厚みが20μm以下で、97質量%以上がアルミニウムで構成され、昇温脱離ガス分析によって検出される水素が、質量比で30ppm以上200ppm以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルミニウム箔のコイル状の巻き取りを可能とし、コイル状アルミニウム箔の製造を可能とする程度の集電体用途に好適な柔軟性(可撓性)を有するアルミニウム箔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電解アルミニウム箔製造装置の一例であり、その内部構造を模式的に示す図である。
図2】アルミニウム箔に含まれる水素量とアルミニウム箔の可撓性との関係を示す図(グラフ)である。
図3】めっき液の添加剤の添加量とアルミニウム箔に含まれる水素量との関係を示す図(グラフ)である。
図4】めっき液の添加剤の添加量とアルミニウム箔の可撓性との関係を示す図(グラフ)である。
図5】めっき液の温度とアルミニウム箔に含まれる水素量との関係を示す図(グラフ)である。
図6】めっき液の温度とアルミニウム箔の可撓性との関係を示す図(グラフ)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアルミニウム箔(電解アルミニウム箔)は、厚みが20μm以下で、97質量%以上がアルミニウム(Al)で構成されるアルミニウム箔であって、アルミニウム箔から検出される水素(H)が、質量比で30ppm以上200ppm以下である。以下、本発明のアルミニウム箔(電解アルミニウム箔)の実施形態の例を説明するが、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0013】
本発明における重要な特徴は、アルミニウム箔から検出される水素量(H含量)である。
本発明のアルミニウム箔の実施形態において、アルミニウム箔から検出される水素(H)は、質量比で30ppm以上200ppm以下である。アルミニウム箔におけるH含量は、アルミニウム箔を真空雰囲気下で昇温する過程で脱離してくるガスのスペクトル強度(イオン強度)を求めて脱離ガス量を定量する昇温脱離ガス分析(TDS分析)によって得られたスペクトル強度の半値幅から求めた定量値に基づく数値(ppm)とする。上記に従ったときに、アルミニウム箔から検出されるH含量が質量比で200ppm以下であるとアルミニウム箔が好ましい可撓性を有することは、種々の試行により確認している。この点、詳しく後述する。
【0014】
アルミニウム箔から検出されるHが質量比で200ppm以下であると、アルミニウム箔が脆化しにくくなるため、好ましい可撓性を有することができる。アルミニウム箔から検出されるH含量が少ないほど、アルミニウム箔の脆化が抑制され、アルミニウム箔の可撓性がより好ましいものとなる。したがって、アルミニウム箔として、特に集電体用途に好適なアルミニウム箔として、アルミニウム箔から検出されるHは、好ましくは170ppm以下、より好ましくは160ppm以下、より一層好ましくは150ppm以下である。なお、アルミニウム箔から検出されるHが低減するのに伴って、後述する炭素(C)他の元素の合計もまた低減することを確認している。
【0015】
一方、本発明のアルミニウム箔の実施形態において、アルミニウム箔から検出されるHは質量比で30ppm以上である。アルミニウム箔に含まれるHは、アルミニウム箔の可撓性を高める観点からは、極力少ないのがよいと考えられる。しかしながら、電気アルミニウムめっき液を用いた電解法によって形成されたアルミニウム箔には、質量比で10ppm以上のHが含まれてしまう。したがって、電解法によってアルミニウム箔を形成する場合、アルミニウム箔に質量比で10ppm以上のHが不可避で含まれてしまうことは許容せざるを得ない。また、電解法を用いた実用的な量産設備によってアルミニウム箔を作製する場合、アルミニウム箔に質量比で10ppmを超えて少なくとも30ppm程度のHが不可避で含まれてしまうことは許容せざるを得ない。こうした観点から、本発明のアルミニウム箔の量産設備を用いた場合の実施形態において、アルミニウム箔から検出されるHは質量比で30ppm以上であると考えられる。
【0016】
本発明のアルミニウム箔の実施形態において、特に集電体用途に好適なアルミニウム箔として、アルミニウム箔の厚みは20μm以下とする。なお、アルミニウム箔の厚みは、アルミニウム箔の任意の端部から約5mm内側に位置する任意の領域を、マイクロメータを用いて1cmあたり任意の3箇所を測定した3つの測定値の平均値に基づく数値(μm)とする。具体的には、長手方向に延びるアルミニウム箔の幅方向の任意の縁から幅方向内側に向かって約5mmの部位における約1cmの領域内の任意の3箇所について、一般的に市販されているマイクロメータを用いてアルミニウム箔の厚みを測定し、得られた3つの測定値の平均値を求め、その平均値をアルミニウム箔の厚み(平均厚み)とすることができる。
【0017】
電解法によるアルミニウム箔の製造に際して、アルミニウム被膜の厚みが大きいと耐力が高まるため、アルミニウム被膜を陰極基材から剥離するには好都合である。例えば、電解アルミニウム箔の0.2%耐力としては、厚みが10μm程度のときに約65N/mm、厚みが20μm程度のときに約110N/mmおよび厚みが25μm程度のときに約125N/mmであるのを確認している。しかし、上述した蓄電デバイスへの要求を満たすことができる集電体用アルミニウム箔として、例えば正極集電体用として適用する場合、厚みがより小さいアルミニウム箔が求められている。集電体用アルミニウム箔の蓄電デバイスなどへの適用に際して、現時点で求められているアルミニウム箔の厚みは、15μm以上20μm以下である。今後、蓄電デバイスなどの高性能化や小型化が進むとともに集電体用アルミニウム箔への薄肉化の要求が高まるため、集電体用アルミニウム箔の厚みの上限値は、18μm、16μm、14μmのように、より小さい方が好ましい。なお、集電体用アルミニウム箔の厚みの下限値は、より薄肉であることが望まれるため、要求される機械的強さや可撓性などによっても異なるが、12μm、10μm、8μm、6μm、4μmさらには2μmのように、より小さい方が好ましい。その結果、集電体用アルミニウム箔の厚みは、適切な範囲を選定することができる。
【0018】
本発明のアルミニウム箔の実施形態において、アルミニウム箔の97質量%以上はAlで構成されている。アルミニウム箔におけるAl含量は、アルミニウム箔の厚み方向の表面に照射する方式の蛍光X線分析法によって求めた定量値に基づく数値(質量%)とする。アルミニウム箔のAl含量が97質量%以上であると、アルミニウム箔の体積抵抗率などの電気抵抗が小さくなるため、上述した蓄電デバイスへの要求を満たすことができる集電体用アルミニウム箔として、例えば正極集電体用として適用することにより、蓄電効率や放熱性を高めることができる。アルミニウム箔の97質量%以上はAlで構成されているが、Al以外の3質量%未満(Hを除く)は添加元素に起因するものであるか、もしくは不可避的な不純物である。なお、アルミニウム箔を構成するAlが多いほど、アルミニウム箔の延性が高まり、アルミニウム箔の可撓性が好ましいものとなる。したがって、アルミニウム箔として、特に集電体用途に好適なアルミニウム箔として、アルミニウム箔を構成するAlは、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、より一層好ましくは99.5質量%以上である。
【0019】
次に、陰極ドラムを用いた電解アルミニウム箔製造装置の一例を挙げて、アルミニウム箔(電解アルミニウム箔)の製造方法の一例について説明する。なお、本発明のアルミニウム箔は、ここに例示される電解アルミニウム箔製造装置およびアルミニウム箔の製造方法によって製造されることが望ましいが、これによって製造されたアルミニウム箔に限定されるものではない。
【0020】
電解アルミニウム箔製造装置の一例の内部構造を図1に示す。図1に示す電解アルミニウム箔製造装置1(製箔装置1)は、蓋部1a、電解槽1b、陰極ドラム1c、陽極部材1d、ガイドロール1e、箔引出し口1f、めっき液循環装置1j、天井部1k、撹拌流ガイド1m、撹拌羽根1n、および直流電源(図示略)を備えている。陰極ドラム1cは、アルミニウム被膜を電析させる電析領域を有する外周面を備えている。陰極ドラム1cの外周面は、チタンから構成されている。陰極ドラム1cは、電析領域に電析したアルミニウム被膜を剥離するためのリード材(図示略)を予め備えている。めっき液Lは、電解槽1bに貯留されている。陰極ドラム1cの電析領域は、めっき液L中に浸漬されている。陽極部材1dは、Alから構成されている。陽極部材1dを構成するAlは、好ましくは99.0質量%以上がAlから構成されている。陰極ドラム1cの電析領域と陽極部材1dは、めっき液L中において対向するように配置されている。陰極ドラム1cの電析領域および陽極部材1dは、直流電源に接続されている。製箔装置1は、ガス供給口1gから加熱されたガスG(例えば窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス)を噴射する手段を用いるなどして、めっき液Lに進入する直前の陰極ドラム1cの電析領域を加熱し、めっき処理可能な温度(めっき液Lの温度程度)にすることができる加熱手段を備えることができる。
【0021】
製箔装置1を用いて電解アルミニウム箔(アルミニウム箔F)を製造する場合、陰極ドラム1cの電析領域およびリード材の一部がめっき液L中に浸漬さている状態で陰極ドラム1cの電析領域および陽極部材1dに通電し、電流密度が例えば50mA/cm以上~600mA/cm以下の範囲において所定の値となるように制御する。通電により、めっき液L中に浸漬している陰極ドラム1cの電析領域およびリード材の一部に、アルミニウムが電析する。めっき液Lは、ヒータ電源1hに接続されたヒータ1iで加熱する手段を用いるなどして、めっき処理可能な温度に加温されて保持される状態にすることができる。めっき液Lは、撹拌流ガイド1mと回転する撹拌羽根1nとによって撹拌されながら陰極ドラム1cと陽極部材1dとの間を均質に流れている。めっき液Lの均質な流れは、陰極ドラム1cの電析領域に電析して成長するアルミニウム被膜を均質にすることができる。
【0022】
通電を継続していると、さらにAlが電析して成長し、めっき処理条件に見合う所定の厚みのアルミニウム被膜が陰極ドラム1cの電析領域に形成される。陰極ドラム1cがアルミニウム被膜の成膜速度と同期するように一定の速度(例えば0.02rpm以上0.3rpm以下)で回転していると、めっき液Lに侵入した新たな陰極ドラム1cの電析領域にAlが電析して成長し、めっき処理条件に見合う所定の厚みのアルミニウム被膜が連続的に形成される。一方、アルミニウム被膜が形成された陰極ドラム1cの電析領域は、陰極ドラム1cが回転していることにより、めっき液Lの液面からせり上り、電解槽1bの雰囲気中に連続的に侵入する。所定の長さのアルミニウム被膜が形成された後に、リード材を、ガイドロール1eに誘導し、箔引出し口1fから引出し、巻き取り装置(図示略)によって巻き取る。リード材を巻き取り始めると、リード材に繋がるアルミニウム被膜の端部が引かれ、アルミニウム被膜が陰極ドラム1cの電析領域から剥離し始める。その後は、陰極ドラム1cの電析領域におけるアルミニウム被膜の形成と、陰極ドラム1cの電析領域からのアルミニウム被膜の剥離と、およびアルミニウム被膜の剥離によって得られたアルミニウム箔Fの巻取りとを連続的に行うことにより、アルミニウム箔Fを連続的に作製することができる。なお、陰極ドラムを用いず、平板などの陰極基材を用いてアルミニウム箔を1枚ずつ作製する場合は、アルミニウム被膜が所定の厚みになるように電流密度や通電時間などを制御することができる。
【0023】
めっき液中にAlイオンを供給するアノードとなる陽極部材(例えば陽極部材1d)は、高純度(例えば99質量%以上)のAlで構成された部材であることが好ましい。アルミニウム被膜を電析させるカソードとなる電析領域(例えば陰極ドラム1cの電析領域)は、例えば、純チタン(Ti)、チタン合金(Ti合金)、純アルミニウム(Al)、アルミニウム合金(Al後金)、純ニッケル(Ni)、ニッケル合金(Ni合金)またはステンレス鋼(SUS)などで構成された、平面または外周面を備えている平板や円筒形状のものなどを用いて作製することができる。例えば、陰極ドラム1cの電析領域は、熱伝導率が17W/mK程度の純チタンで構成され、外径が300mm以上3000mm以下の円筒形状のものを用いることが好ましい。電析領域の表面は、アルミニウム被膜の剥離が円滑に行われるように、可能な限り平滑な面であることが好ましく、より好ましくは所定の厚みおよび表面粗さに形成された酸化層(例えば陽極酸化処理による酸化層)を有する面である。
【0024】
装置の外部(図1に示す製箔装置1においては電解槽1bの箔引出し口1fの外部)に引き出されたアルミニウム箔Fは、その表面に付着しているめっき液Lを除去するため、十分に洗浄(例えば水洗)される。少なくとも上記めっき処理および上記洗浄を行う環境は、めっき液Lの劣化を防止してめっき液Lの長寿命化を図る観点から、および、アルミニウム箔Fに付着しているめっき液の反応を抑制してアルミニウム箔の着色不良などの防止を図る観点から、例えば露点が-40℃以下の窒素ガスなどを導入して内部を大気圧よりも高圧化するなどの手段によって非酸化性の乾燥雰囲気にしておくことが望ましい。
【0025】
上記洗浄後、例えば温風や遠赤外線などを用いて、アルミニウム箔は十分に乾燥される。アルミニウム箔の表面に残っている水分が十分に除去されない乾燥不良の状態であると、アルミニウム箔の表面に形成される酸化膜(自然酸化膜を含む)にむらが発生する。こうしたアルミニウム箔は、上述した蓄電デバイスへの要求を満たすことができる集電体用アルミニウム箔として、例えば正極集電体用として用いると、電気化学的挙動の不安定化などによって蓄電デバイスの特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0026】
上記乾燥後、必要に応じて、アルミニウム箔は熱処理される。アルミニウム箔の熱処理は、バッチ炉や連続炉を用いて行われるか、もしくは上記乾燥と同時に行われる。アルミニウム箔の熱処理は、例えば、大気雰囲気、減圧雰囲気、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスを導入した非酸化性雰囲気などの環境下で行われる。アルミニウム箔の熱処理は、例えば80℃以上550℃以下および2分以上180分以下の範囲において、具体的には200℃×10分、200℃×180分、300℃×90分または460℃×10分など、アルミニウム箔の性状に適すると考えられる種々の保持条件で行われる。保持温度が80℃未満であったり、保持時間が2分未満であったりすると、熱処理効果が不十分になるおそれがある。保持温度が550℃を超えるようになると、Alの融点(約660℃)に近づき過ぎてアルミニウム箔が過度に軟化するおそれがある。保持時間が120分を超えるようになると、アルミニウム箔の生産性に悪影響を及ぼすおそれがある。こうした観点から、保持温度は、100℃以上460℃以下が好ましく、より好ましくは200℃以上350℃以下である。同様に、保持時間は、20分以上90分以下が好ましい。こうした熱処理は、アルミニウム箔の乾燥不良の問題を解決するだけではなく、アルミニウム箔の歪の除去およびH含量の低減に寄与する。したがって、アルミニウム箔は、引張強さなどの機械的特性が改善され、より好ましい可撓性を有するものとなる。
【0027】
上述した製箔装置1を用いて電解アルミニウム箔(アルミニウム箔F)を連続的に製造する場合は、陰極ドラム1cの電析領域からのアルミニウム被膜の剥離が健全かつ容易に行われるとともに、剥離によって得られたアルミニム箔Fの巻き取りが健全かつ容易に行われることが好ましい。このようなとき、めっき液が洗浄されて乾燥されたアルミニウム箔から検出される水素(H)が、さらに熱処理されたアルミニウム箔から検出される水素(H)が、質量比で200ppm以下であるとよい。このようなアルミニウム箔は好ましい可撓性を有する(アルミニウム被膜も同様の可撓性を有すると考えられる)。したがって、アルミニム被膜の健全かつ容易な剥離と、剥離したアルミニウム箔の健全かつ容易なコイル状の巻き取りが可能となり、コイル状アルミニウム箔の健全かつ容易な製造が可能となる。
【0028】
本発明のアルミニウム箔の検討に際して用いためっき液は、溶媒であるジアルキルスルホン、溶質であるアルミニウムハロゲン化物、および、添加剤である含窒素化合物を少なくとも含む電気アルミニウムめっき液である。このめっき液は、アルミニウムハロゲン化物に由来するAlイオンを所定の濃度で含む。このめっき液を用いて形成されるアルミニウム箔Fは、97質量%以上がAlで構成されている。このAlは、通電によって陽極部材1dからもたらされ、Alイオンを所定の濃度で含むめっき液を介して、陰極ドラム1cの電析領域に電析する。なお、上記のめっき液に限らず、溶液中からのAlの電析が可能である限り、溶液の種類が異なった場合であっても、上述したアルミニウム箔から検出されるH含量とアルミニウム箔の可撓性との関係については成立すると考えられる。
【0029】
本発明のアルミニウム箔の製造に用いるめっき液としては、例えば、ジアルキルスルホンを非水溶媒とし、アルミニウムハロゲン化物を所定の濃度でアルミニウムイオンを含ませるための溶質とし、さらに添加剤として含窒素化合物を少なくとも含むものが挙げられる。このようなめっき液を用いれば、大きな電流を印加して成膜速度を高めたとしても、安定な電気アルミニウムめっき処理を行うことができる。その結果、97質量%以上がAlで構成されている集電体用途に好適な高純度のアルミニウム箔を容易に作製することができる。このようなめっき液は、ベンゼンやトルエンなどの有機溶媒を含まない。その結果、陰極ドラム1cから剥離した直後のアルミニウム箔に付着しているめっき液を水洗によって容易に除去し、その廃液処理を比較的簡素な設備で行うことができる。
【0030】
上記のめっき液における溶媒であるジアルキルスルホンとしては、例えば、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジプロピルスルホン、ジヘキシルスルホンおよびメチルエチルスルホンなど、アルキル基の炭素数が1~6の直鎖状のものや分岐状のものが挙げられる。良好な電気伝導性や入手の容易性などの観点からは、ジメチルスルホンを採用するのが好ましい。上記のめっき液における溶質であるアルミニウムハロゲン化物としては、塩化アルミニウムや臭化アルミニウムなどが挙げられる。アルミニウムの電析阻害要因となるめっき液中の水分量を極力低減する観点からは、無水物のアルミニウムハロゲン化物(例えば無水塩化アルミニウム)が好ましい。上記のめっき液における添加剤である含窒素化合物としては、例えば、ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、および、同一または異なるアルキル基をR~Rで示し、第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンをXで示すときに一般式:RN・Xで表される第四アンモニウム塩などから、1つまたは1つ以上選択することができる。ジアルキルスルホン(非水溶媒)とアルミニウムハロゲン化物(溶質)からなる溶液中に適量の含窒素化合物を含むめっき液が好ましく、より好ましくは、モノメチルアミン塩酸塩、ジメチルアミン塩酸塩、トリメチルアミン(TMA)塩酸塩および塩化アンモニウム(NHCl)のうちのいずれか1種(必要に応じて1種以上)を含むめっき液である。上記のTMA塩酸塩やNHClなどの含窒素化合物は、アルミニム箔の脆化を十分に抑制し、アルミニウム箔の可撓性をより好ましく高めることができる。
【0031】
上記の含窒素化合物の選択肢であるハロゲン化アンモニウムとしては、例えば、塩化アンモニウムや臭化アンモニウムなどが挙げられる。上記の含窒素化合物の選択肢である第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩および第三アミンのハロゲン化水素塩において、第一アミン~第三アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ヘキシルアミンおよびメチルエチルアミンなどのアルキル基の炭素数が1~6の直鎖状のものや分岐状のものが挙げられる。上記のハロゲン化水素塩におけるハロゲン化水素としては、例えば、塩化水素や臭化水素などが挙げられる。上記の含窒素化合物の選択肢である一般式:RN・Xで表される第四アンモニウム塩において、R~Rで示すアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基およびヘキシル基などの炭素数が1~6の直鎖状のものや分岐状のものが挙げられる。上記のXとしては、例えば、塩素イオン、臭素イオンおよびヨウ素イオンなどのハロゲン化物イオンの他、BF4-やPF6-などが挙げられる。上記の第四アンモニウム塩の具体的な化合物としては、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウムおよび四フッ化ホウ素テトラエチルアンモニウムなどが挙げられる。
【0032】
ジアルキルスルホン(ジメチルスルホンなど)、アルミニウムハロゲン化物(無水塩化アルミニウムなど)および含窒素化合物(TMA塩酸塩やNHClなど)を少なくとも含むめっき液は、ジアルキルスルホン10モルに対して、アルミニウムハロゲン化物が1.0モル~4.8モル配合されているのが好ましく、より好ましくは1.5モル~4.2モル配合されている。ジアルキルスルホン10モルに対して、アルミニウムハロゲン化物の配合量が1.5モル未満になっていると、アルミニウム箔が黒色に変色したものとなる(焼けと呼ばれる現象)おそれや成膜効率が低下するおそれがある。ジアルキルスルホン10モルに対して、アルミニウムハロゲン化物の配合量が4.8モルを超えていると、めっき液の抵抗(液抵抗)が過度に大きくなって発熱し、熱によってめっき液が分解するおそれがある。
【0033】
上記のめっき液は、さらに、ジアルキルスルホン10モルに対して、含窒素化合物が0.05モルを超えて(例えば0.06モル以上)添加されているのが好ましく、より好ましくは0.07モル以上、より一層好ましくは0.08モル以上である。含窒素化合物の配合量が、ジアルキルスルホン10モルに対して0.05モル以下であると、含窒素化合物の添加剤としての効能(アルミニウム箔の脆化抑制による可撓性の向上効果、めっき液の電気伝導性を高めて電流密度を増大させることによる成膜速度の向上効果など)が得られないおそれがある。含窒素化合物の配合量が多くなり、ジアルキルスルホン10モルに対して2.0モルを超えるようになるとAlが健全に電析しなくなるおそれがあるため、好ましくは2.0モル以下であり、より好ましくは1.5モル以下である。
【0034】
電気アルミニウムめっき処理に際して、後述するように、電気アルミニウムめっき液の温度(液温)を下げることにより、アルミニウム箔から検出される水素量(H含量)が低減する傾向が認められる。したがって、液温を所定値以下に制御することにより、アルミニム箔が好ましい可撓性を有する可能性がある。例えば、液温を、電気アルミニウムめっき処理が可能であって、かつ、110℃~120℃程度以下に保持する製造方法により、アルミニウム箔のH含量が質量比で200ppm以下になる可能性がある。アルミニウム箔の可撓性を好ましいものにする観点で、液温に適切な範囲があるとすれば、その上限値は、十分な液量下であれば110℃~120℃程度、比較的少ない液量下であれば100℃~110℃程度と考えられる。同様の観点で、液温の下限値は、めっき処理可能な例えば60℃~80℃程度であればよく、めっき液の種類などによって異なると考えられる。
【実施例0035】
(1)アルミニウム箔の作製
電解法による電気アルミニウムめっき処理により、めっき液やめっき条件などを表1に示すように種々変えて、複数のアルミニウム箔(電解アルミニウム箔)を作製した。めっき液は、ジアルキルスルホンの1種であるジメチルスルホンを非水溶媒とし、アルミニウムハロゲン化物の1種である無水塩化アルミニウムを溶質とし、添加剤として含窒素化合物を添加したものや添加しないものを準備した。無水塩化アルミニウムは、ジメチルスルホン10モルに対する配合量が約3.8モルとなるように調合した。含窒素化合物は、トリメチルアミン塩酸塩(TMA-HCl)、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)および塩化アンモニウム(NHCl)から選択し、ジメチルスルホン10モルに対する配合量を種々変えて調合した。めっき条件としては、めっき液の量(液量)とめっき液の温度(液温)を挙げて、これらを種々変えてアルミニウム箔を作製した。なお、通電時、液温が所定の温度に保たれるように電流密度を設定した。電流密度は、カソードである陰極ドラム1cの電析領域と陽極部材1dとの間に印加している電流値を、電析領域のうちのめっき液中に浸漬している部分の表面積で除して求まる値である。加えて、作製したアルミニウム箔に熱処理を行った場合についても調べた。
【0036】
【表1】
【0037】
めっき液の量(液量)が少量のめっき条件では、電解槽となるビーカ内に液量約2Lのめっき液を貯留させた。純アルミニウム板(Al板)をアノードとし、純チタン板(Ti板)の平板表面(電析領域の表面積が約12cm)をカソードとした。アノードとカソードとの間で通電し、液温が所定の温度に保たれるように電流密度を設定した。Ti板の表面に電析したAlが所定の厚みのアルミニウム被膜に成長したところでTi板をめっき液から取り出した。Ti板の表面からアルミニウム被膜を剥離し、アルミニウム箔とした。続いて、アルミニウム箔の表面に付着しているめっき液Lを除去するため、水洗浄し、温風乾燥し、厚みが20μm以下となる複数のアルミニウム箔(電解アルミニウム箔)を作製した。
【0038】
めっき液の量(液量)が多量のめっき条件では、図1に示す製箔装置1と同様な構成を有する電解アルミニウム箔製造装置(簡便のため図1に示す製箔装置1を援用する)を用いて、厚みが20μm以下となる複数のアルミニウム箔(電解アルミニウム箔)を作製した。約500Lのめっき液Lを建浴し、電解槽1b内に液量が約200L~約250Lとなるようにめっき液Lを貯留した。アノードとなるAl製の陽極部材1dはめっき液L中に浸漬した状態とし、カソードとなる陰極ドラム1cの電析領域は一部(面積が約800cm)がめっき液L中に浸漬した状態とした。アノードとカソードとの間で通電し、液温が所定の温度に保たれるように電流密度を設定した。これと同期するように、陰極ドラム1cの電析領域に電析したAlが所定の厚みのアルミニウム被膜に成長したところでめっき液Lから出るように、陰極ドラム1cを所定の速度で回転させた。めっき液Lから出たアルミニウム被膜を陰極ドラム1cの電析領域から剥離し、アルミニウム箔Fとした。続いて、アルミニウム箔Fの表面に付着しているめっき液Lを除去するため、水洗浄し、温風乾燥し、複数のアルミニウム箔(電解アルミニウム箔)を作製した。温風乾燥後の一部のアルミニウム箔は、さらに熱処理を行った。
【0039】
作製した全てのアルミニウム箔について、上述したようにマイクロメータによって厚みを測定したところ、全てのアルミニウム箔の厚みが20μm以下であった。具体的には、全てのアルミニウム箔は、厚みが7μm以上18μm以下の範囲内であった。
作製した全てのアルミニウム箔について、上述した蛍光X線分析法によってアルミニウム箔のめっき液に接していた側の表面(接液面)を対象としてAl含量を測定したところ、全てのアルミニウム箔のAl含量が97質量%以上であった。具体的には、全てのアルミニウム箔は、Al含量が99.00質量%以上99.80質量%以下の範囲内であった。
【0040】
(2)アルミニウム箔の水素量が可撓性に及ぼす影響
表2は、種々の試作(表1に示すNo.1~33)によって作製したアルミニウム箔に含まれるH含量と、そのアルミニウム箔について行った可撓性試験の結果を示している。アルミニウム箔のH含量は、上述したTDS分析によって求めた定量値に基づく数値(ppm)である。アルミニウム箔の可撓性試験は、アルミニウム箔が2つ折りの形態になるように、アルミニウム箔を約180度に曲げることで行った。アルミニウム箔が折り曲げ部分で切断された場合を「破断」とした。アルミニウム箔が折り曲げ部分に亀裂が発生したものの2つ折り形態になった場合を「折曲げ可(亀裂あり)」とした。アルミニウム箔が折り曲げ部分に亀裂が発生することなく2つ折り形態になった場合を「折曲げ可(亀裂なし)」とした。「折曲げ可(亀裂あり)」および「折曲げ可(亀裂なし)」の場合のアルミニウム箔は、コイル状の巻き取りが可能であり、コイル状アルミニウム箔の製造が可能である。また、図2は、表2に示す数値に基づいて作成したグラフであり、アルミニウム箔のH含量とアルミニウム箔の可撓性との関係を示している。
【0041】
【表2】
【0042】
表2および図2に示す結果から、No.8のようにアルミニウム箔のH含量が質量比で200ppmを超えると、アルミニウム箔は2つ折りの形態になる程の可撓性を有することができず、折り曲げ部分で破断することが分かった。参考例として本発明例と区別したNo.15のようにアルミニウム箔のH含量が質量比で200ppmを超えていても、アルミニウム箔は2つ折りの形態になる程の可撓性を有することができて、折り曲げ部分(亀裂あり)で破断しない場合があることが分かった。こうした観点から、アルミニウム箔のH含量が少ないほどアルミニウム箔が脆化しにくくなる傾向が強まり、アルミニウム箔が好ましい可撓性を有するようになることが分かった。アルミニウム箔のH含量が質量比で200ppm以下になると、アルミニウム箔の脆化が抑制され、アルミニウム箔がより好ましい可撓性を有するようになることが分かった。したがって、アルミニウム箔として、特に集電体用途に好適なアルミニウム箔として、アルミニウム箔から検出されるHは、200ppm以下、好ましくは170ppm以下、より好ましくは160ppm以下、より一層好ましくは150ppm以下であると考えられる。
【0043】
(3)アルミニウム箔の水素量のばらつき
表3は、同じめっき液を用いて同じめっき条件で行った試作として、表2に示す8種の試行(No.22、25~27、29~31および33)を抜き出して示している。めっき液は、添加剤(含窒素化合物)をNHClとし、ジメチルスルホン10モルに対する配合量が約0.20モルである。めっき条件は、液量が約200L~約250L、液温が約98℃、および液温を保つための電流密度が約80mA/cmである。洗浄乾燥後のアルミニム箔に対する熱処理は行っていない。表3示す結果から、アルミニウム箔のH含量が最も少ないNo.27(118.11ppm)と最も多いNo.25(148.94ppm)の差分は30.83ppmであり、8つのデータ自体の標本標準偏差は約11.72ppmである。これら8つのデータから不偏分散平方根を求めると、同じめっき液を用いて同じ条件で作製されたアルミニウム箔のH含量の標準偏差は約12.53ppmであると推定される。したがって、アルミニウム箔のH含量は、20ppm程度の変動を見込み、180ppm程度であるのが好ましいと考えられる。この観点からも、アルミニウム箔から検出されるHは、好ましくは170ppm以下、より好ましくは160ppm以下、より一層好ましくは150ppm以下であると考えられる。
【0044】
【表3】
【0045】
(4)めっき液の添加剤がアルミニウム箔の可撓性に及ぼす影響
表4は、めっき液に添加する添加剤の量(添加剤含量)を変えて、ほぼ同じめっき条件で行った4種の試行(No.2~5)について、表2から抜き出すとともに添加剤含量を付加して示している。添加剤(含窒素化合物)はTMA-HClである。添加剤含量は、ジメチルスルホン10モルに対して、表4に示すように変えている。図3は、表4に示す数値に基づいて作成したグラフであり、添加剤含量とアルミニウム箔のH含量との関係を示している。図4は、表4に示す数値に基づいて作成したグラフであり、めっき液の添加剤の添加量とアルミニウム箔の可撓性との関係を示すグラフである。
【0046】
【表4】
【0047】
表4と図3および図4に示す結果から、添加剤含量が多くなると、アルミニウム箔のH含量が低減され、アルミニウム箔の可撓性が好ましいものになることが分かった。アルミニウム箔のH含量の観点からは、図3に示すように、0.04モルを超える約0.05モル程度の添加剤含量でH含量が質量比で200ppm程度になる傾向があることが分かった。アルミニウム箔の可撓性の観点からは、図4に示すように、約0.04モル程度の添加剤含量では不十分で、添加剤含量を約0.04モルを超えて、約0.05モル、約0.07モル、約0.10モルというように増やすと、アルミニウム箔の可撓性が折曲げ可能になる程度になる傾向があることが分かった。添加剤含量(X)とアルミニウム箔のH含量(Y)との関係を調べると、2次近似式:Y=7520X-3160X+350とよく合うことが分かった。上記の2次近似式に従うと、Xが0.05のときYが約210、Xが0.06のときYが約185、Xが0.07のときYが約165およびXが0.08のときYが約145となる。したがって、アルミニウム箔のH含量の観点から、めっき液の添加剤(例えばTMA-HCl)の含量は、ジアルキルスルホン(例えばジメチルスルホン)10モルに対して、0.05モルを超える(例えば0.06モル以上)のが好ましく、より好ましくは0.07モル以上、より一層好ましくは0.08モル以上であることが分かった。なお、アルミニウム被膜の成膜速度向上の観点から、添加剤含量として好ましくは2.0モル以下、より好ましくは1.5モル以下であることを確認している。なお、表1と表2に示す結果から、添加剤(含窒素化合物)がTMA-HClでなくても、アルミニウム箔のH含量が質量比で200ppm以下であると、アルミニウム箔の可撓性が好ましいものとなることが分かる。
【0048】
(5)めっき液の温度がアルミニウム箔の可撓性に及ぼす影響
表5は、めっき液の温度(液温)を変えて行った5種の試行(No.13~15、21および23)について、表2から抜き出すとともに液温を付加し、液温の昇順に示している。めっき液の温度(液温)は表5に示すように変えている。通電時、液温が所定の液温に保たれるように電流密度を設定した。添加剤(含窒素化合物)はNHClである。添加剤含量は、ジメチルスルホン10モルに対して、約0.20モルである。めっき液の量(液量)は、No.13~15が約2Lで、No.21、23が約200L~約250Lである。図5は、表5に示す数値に基づいて作成したグラフであり、液温とアルミニウム箔のH含量との関係を示している。図6は、表5に示す数値に基づいて作成したグラフであり、液温とアルミニウム箔の可撓性との関係を示すグラフである。
【0049】
【表5】
【0050】
表5と図5および図6に示す結果から、めっき液の温度(液温)が低下すると、アルミニウム箔のH含量が低減され、アルミニウム箔の可撓性が好ましいものになることが分かった。アルミニウム箔のH含量の観点からは、図5に示すように、約110℃程度の液温でH含量が質量比で200ppm程度になる傾向があることが分かった。アルミニウム箔の可撓性の観点からは、図6に示すように、130℃未満の液温でアルミニウム箔の可撓性が折曲げ可能な程度になる傾向があることが分かった。液温(X)とアルミニウム箔のH含量(Y)との関係を調べると、2次近似式:Y=0.268X-46X+2030とよく合うことが分かった。上記の2次近似式に従うと、Xが110のときYが約210、Xが109のときYが約200、Xが105のときYが約155およびXが100のときYが約110となる。したがって、アルミニウム箔のH含量の観点から、液温は110℃未満が好ましく、より好ましくは105℃以下、より一層好ましくは100℃以下であることが分かった。なお、アルミニウム被膜の成膜速度向上の観点から、液温として好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、より一層好ましくは100℃以下であることを確認している。なお、表1と表2に示す結果から、液温が110℃を超える約125℃(No.18)であっても、アルミニウム箔のH含量が質量比で200ppm以下であると、アルミニウム箔の可撓性が好ましいものとなることが分かる。
【0051】
(6)熱処理がアルミニウム箔の可撓性に及ぼす影響
表1および表2に示すNo.18およびNo.19は、洗浄して乾燥した後のアルミニウム箔に対する熱処理(460℃で180分の保持条件)の有無のみが異なっている。熱処理されていないNo.18のアルミニウム箔のH含量は、質量比で173.13ppmである。熱処理されているNo.18のアルミニウム箔のH含量は、質量比で52.65ppmである。この結果から、乾燥した後のアルミニウム箔に熱処理を施すことにより、アルミニウム箔のH含量が約70%低減された。なお、No.19のアルミニウム箔は、断面視において微細な空隙が認められることがあったが、亀裂なく折曲げることができる程の好ましい可撓性を有するものであった。したがって、アルミニウム箔の可撓性の観点では、洗浄して乾燥した後のアルミニウム箔に対して熱処理を行うことは有効であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、アルミニウム箔のコイル状の巻き取りを可能とし、コイル状アルミニウム箔の製造を可能とする程度の柔軟性(可撓性)を有するアルミニウム箔を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0053】
1.電解アルミニウム箔製造装置(製箔装置)
1a.蓋部
1b.電解槽
1c.陰極ドラム
1d.陽極部材
1e.ガイドロール
1f.箔引出し口
1g.ガス供給口
1h.ヒータ電源
1i.ヒータ
1j.めっき液循環装置
1k.天井部
1m.撹拌流ガイド
1n.撹拌羽根
F.アルミニウム箔
G.ガス
L.めっき液
図1
図2
図3
図4
図5
図6