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特開2022-164772シートモールディングコンパウンド及び成形品の製造方法
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  • 特開-シートモールディングコンパウンド及び成形品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164772
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】シートモールディングコンパウンド及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 11/16 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
B29B11/16
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136697
(22)【出願日】2022-08-30
(62)【分割の表示】P 2021556793の分割
【原出願日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2019212312
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】人見 一迅
(72)【発明者】
【氏名】永田 幸司
(57)【要約】
【課題】炭素繊維含有率に依らず、炭素繊維の含浸性に優れるSMCの製造方法を提供することである。
【解決手段】樹脂組成物を炭素繊維に含浸して得られるシートモールディングコンパウンドの製造方法であって、前記樹脂組成物の25℃における粘度が300~20000mPa・sであり、上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で挟み込まれる際の炭素繊維温度Tcが15~115℃であり、前記シートモールディングコンパウンド中の炭素繊維の含有率が35~80質量%であることを特徴とするシートモールディングコンパウンドの製造方法を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物を炭素繊維に含浸して得られるシートモールディングコンパウンドの製造方法であって、前記樹脂組成物の25℃における粘度が300~20000mPa・sであり、上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で挟み込まれる際の炭素繊維温度Tcが15~115℃であり、前記シートモールディングコンパウンド中の炭素繊維の含有率が35~80質量%であることを特徴とするシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項2】
以下の条件式(a)及び(b)を満たす請求項1記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
(a)15<Tc×Wc/100+Tr×Wr/100<180
(b)Tr<110
(但し、Tcは上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で炭素繊維が挟み込まれる際の炭素繊維温度(℃)であり、Trは上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で炭素繊維が挟み込まれる際の樹脂組成物温度(℃)であり、Wcはシートモールディングコンパウンド中の炭素繊維の含有率(質量%)であり、Wrはシートモールディングコンパウンド中の樹脂組成物の含有率(質量%)を表す。)
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により得られたシートモールディングコンパウンドを成形して得られる成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートモールディングコンパウンド及び成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂を繊維強化材で補強したいわゆるFRPは、工業部品、住設部材、自動車部材等の多方面において使用されている。さらに、炭素繊維を繊維強化材としてエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を強化した繊維強化樹脂複合材料は、軽量でありながら耐熱性や機械強度に優れる特徴が注目され、様々な構造体用途での利用が拡大している。また、繊維強化材として、不連続繊維を使用するため、連続繊維に比べて、成形形状の適用範囲が広く、端材も再利用でき、異素材部材インサートができるなど、生産性や設計適用範囲広いことから、シートモールディングコンパウンド(以下、「SMC」と略記する場合がある。)が広く用いられている。
【0003】
このようなSMCから得られる成形品の外観や強度の向上を目的とし、SMCの成形性や含浸性の改良が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この圧着ロールを加熱して用いるSMCの製造方法は、高い粘度の樹脂と高い強化繊維含有率において製造する際には、含浸性が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-35714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、炭素繊維含有率に依らず、炭素繊維の含浸性に優れるSMCの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、特定の条件化、特定の樹脂組成物を炭素繊維に含浸して得られるシートモールディングコンパウンドの製造方法が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、樹脂組成物を炭素繊維に含浸して得られるシートモールディングコンパウンドの製造方法であって、前記樹脂組成物の25℃における粘度が300~20000mPa・sであり、上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で挟み込まれる際の炭素繊維温度Tcが15~115℃であり、前記シートモールディングコンパウンド中の炭素繊維の含有率が25~80質量%であることを特徴とするシートモールディングコンパウンドの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明から得られるシートモールディングコンパウンド及びその成形品は、炭素繊維の含浸性等に優れることから、自動車部材、鉄道車両部材、航空宇宙機部材、船舶部材、住宅設備部材、スポーツ部材、軽車両部材、建築土木部材、OA機器等の外装や構造体等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態におけるシートモールディングコンパウンドの製造工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のSMCの製造方法は、樹脂組成物を炭素繊維に含浸して得られるシートモールディングコンパウンドの製造方法であって、前記樹脂組成物の25℃における粘度が300~20000mPa・sであり、上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で挟み込まれる際の炭素繊維温度Tcが15~115℃であり、前記シートモールディングコンパウンド中の炭素繊維の含有率が25~80質量%であるものである。
【0011】
SMCの一般的な製造方法としては、樹脂組成物を上下に設置されたキャリアフィルムに均一な厚さになるように塗布し(塗布工程)、繊維強化材を一方の樹脂組成物塗布面に散布し(添加工程)、前記上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で挟み込み、次いで、全体を含浸ロールの間に通して、圧力を加えて繊維強化材に樹脂組成物を含浸させ(含浸工程)、ロール状に巻き取る又はつづら折りに畳む方法が挙げられるが、本発明のSMCの製造方法は、上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で挟み込まれる際の炭素繊維温度Tcが15~115℃であることから、炭素繊維に対する樹脂組成物の含浸性が優れる。
【0012】
なお、含浸方法としては、前記含浸ロールを用いる方法以外に、例えば、プレス方式やメッシュベルト方式等も適用することができる。
【0013】
図1により、SMCの製造工程及びSMCシート1の流れを説明する。巻出装置19aにより引き出された10~50μmの厚さの熱可塑性樹脂フィルムを下部キャリアフィルム12aとして移送ベルト20上に載置し、この下部キャリアフィルム上に、樹脂組成物22aをドクターブレード等を備えた樹脂塗布装置21aにより所定の厚さに塗工する。
【0014】
樹脂組成物22aの塗布幅は、下部キャリアフィルム12aの両側からはみ出さないようにするために、キャリアフィルムの幅より30~60mm程度内側に位置するように塗布される。なお、移送ベルト20の内側には、適宜移送ベルトのガイドロールが配置されている。
【0015】
下部キャリアフィルム12aの材質としては、通常使用されているポリエチレンやポリエチレンテレフタレートフィルム等の熱可塑性樹脂フィルムのもので差し支えなく、好適にはポリプロピレンフィルムが使用される。
【0016】
樹脂組成物22aは、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分としたものに、充填剤、熱可塑性樹脂粉末等の増粘剤、硬化用触媒、内部離型剤、低収縮化剤、着色剤等を適宜混合したペースト状物である。
【0017】
一方、樹脂組成物22aに含浸させる炭素繊維は、例えばロービング23により複数束のストランド24を切断装置25に送り込み、1/16~1.5インチ程度の炭素繊維の切断片24aとして樹脂組成物22a上に均一に分散するように散布させて堆積させる。
【0018】
さらに、巻出装置19bにより引き出された、10~50μmの厚さのポリエチレンフィルム等の熱可塑性樹脂フィルムを、上部キャリアフィルム12bとして、この上部キャリアフィルム上に、上述した樹脂組成物22aと同様の樹脂組成物22bをドクターブレード等を備えた樹脂塗布装置21bにより所定の厚さ塗工して、炭素繊維の切断片24a上に接触させるようにして配置させる。この場合にも、樹脂組成物22bの塗布幅は、上部キャリアフィルム12bの両側からはみ出さないようにするために、30~60mm程度内側に位置するように塗布される。
【0019】
こうして下部キャリアフィルム12a/樹脂組成物22a/炭素繊維の切断片24a/樹脂組成物22b/上部キャリアフィルム12bとなる層構成のSMCシート1が得られることとなる。
【0020】
両キャリアフィルム12a、12bを除いた部分の厚さとしては約5~10mm程度とし、これを図1に示すように後工程の含浸装置13に送り、種々の表面溝形状の複数の含浸ロール14ロールを通過して炭素繊維の切断片24aが十分に濡れるよう、樹脂組成物22aに含浸させつつ、脱泡させ、さらに表面をならすことにより、約2mmのSMCシート1にする。
【0021】
また、本発明のSMCの製造方法は、含浸性がより向上することから、以下の条件式(a)及び(b)を満たすことが好ましい。
(a)15<Tc×Wc+Tr×Wr<180
(b)Tr<110
(但し、Tcは上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で炭素繊維が挟み込まれる際の炭素繊維温度(℃)であり、Trは上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で炭素繊維が挟み込まれる際の樹脂組成物温度(℃)であり、Wcはシートモールディングコンパウンド中の炭素繊維の含有率(質量%)であり、Wrはシートモールディングコンパウンド中の樹脂組成物の含有率(質量%)を表す。)
【0022】
Tc、Trは、上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で挟み込まれる際の温度であり、含浸工程直前(第二加温工程の直前)の温度となる。なお、上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で挟み込まれる時点から含浸工程開始時までに間隔を生じる際は、SMCシート表面温度をTr、極細被覆熱電対などで測定の厚み方向中央部の炭素繊維温度をTcとする。
【0023】
さらに、本発明のSMCの製造方法は、含浸性がより向上し、側部よりの樹脂の流失を抑止することから、炭素繊維の含浸前に樹脂組成物及び炭素繊維を加温する工程(第一加温工程)、含浸時に樹脂組成物及び炭素繊維の混合物を加温する工程(第二加温工程)を含むことが好ましい。
【0024】
また、本発明のSMCの製造方法は、段階的な冷却となり、急激なSMCシートやキャリアフィルムの収縮によるシワの発生等を抑制することができるため、含浸工程後に冷却する工程(第一冷却工程)、及び製造終了段階に冷却する工程(第二冷却工程)を含むことが好ましい。
【0025】
前記第一加温工程では、含浸の直前の温度となり、炭素繊維の切断片24aの堆積体(約5~10mm)を含浸ロール等で圧縮し、炭素繊維の切断片24aの堆積体の厚みを潰して低減(約3~8mm)させる際に、樹脂が最も含浸されるため、第一加温工程において、炭素繊維及び樹脂組成物が十分に加温されていることが好ましく、第二加温工程より高い温度とすることが好ましい。
【0026】
加温方法としては、例えば、接触式加熱方式および非接触式加熱方式があり、いずれを採用してもよい。
【0027】
前記接触式加熱方式としては、蒸気・水・油などの各熱源を通した金属製の板やアーク加熱、誘導加熱、誘電加熱、抵抗加熱などが挙げられるが、工業化が容易であり、制御しやすい観点から、抵抗加熱であることが好ましい。
【0028】
前記抵抗加熱としては、シーズヒーター、カートリッジヒーター、角コイルヒーター、マイクロ(細管) ヒーター、マイカヒーター、(シリコン)ラバーヒーター等による加熱が挙げられるが、厚み薄いために施工が容易であり、制御しやすい観点から、ラバーヒーターや各熱源を通した金属製の板の加熱が好ましい。
【0029】
前記非接触式加熱方式としては、赤外線、マイクロ波、ハロゲン、蒸気・水・油などの各熱源を通した金属製の板等からの輻射熱、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビ-ム(EB)加熱、熱風加熱などが挙げられるが、迅速に加熱できる点及び工業化の容易さから、赤外線、及び、熱風加熱が好ましい。
【0030】
含浸工程前の炭素繊維の加熱は、加熱体に接触した際に炭素繊維が流動する恐れがなく、容易に所望の炭素繊維含有率を有するSMCが得られることから、非接触式加熱方式が好ましい。
【0031】
非接触式加熱方式としては、炭素繊維を選択的に加熱できる赤外線が好ましく、波長1~40μmの赤外線がより好ましく、波長1~25μmの赤外線が特に好ましい。
【0032】
前記炭素繊維温度Tcは、15~115℃であるが、高い炭素繊維含有率においても、樹脂の炭素繊維間での流動性がより良好となり、含浸性がより向上することから、20~110℃が好ましく、25~100℃がより好ましい。15℃未満の場合、
炭素繊維間、及び、厚み方向への樹脂の浸み込みが不十分となり、115℃を超える場合、樹脂への温度影響が大きいため、樹脂の温度を高くすることとなり、硬化反応による粘度上昇が起こり、含浸性が低くなる。
【0033】
22a、及び、22bにおける樹脂の加温の場合、予め樹脂を加温しておくことができる。予め樹脂を加温することによって後の工程において加熱量を低減することができるため効率的である。
【0034】
前記樹脂組成物温度Trは、後の工程での加熱量が少なく、効率的であることから、10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。また、硬化反応による粘度上昇が少なく、より含浸性に優れることから、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60以下がさらに好ましい。
【0035】
下部キャリアフィルム12a/樹脂組成物22a、及び、樹脂組成物22b/上部キャリアフィルム12bは、ラバーヒーター27′にて加温され、炭素繊維の切断片24aは、遠赤外線ヒーター26にて、加温させることができる。
【0036】
第二加温工程は、SMCシート1を含浸する工程中の加温であり、接触加熱、非接触加熱の何れも適用することができる。特に限定はされないが、図1のように、例えば、熱風加熱29、及び、ラバーヒーター28を適用することができる。
【0037】
第二加温工程におけるSMCシート1の温度は、10~80℃が好ましく、15~70℃がさらに好ましく、20~60℃が特に好ましい。10℃より低いと後の工程での加熱量が多大となり、効率に劣る。60℃より高温な場合、硬化反応が始まり、粘度が上昇し、含浸性が悪くなり、好ましくない。
【0038】
SMCシート1は、ラバーヒーター27(図1では2枚のラバーヒーターの間を接触させながら通過させて使用)等で加熱される。
【0039】
第一冷却工程としては、空冷、及び、冷却水を通水した冷却ロール8、11、金属による放熱による冷却ロール9、10により冷却する工程となる。
【0040】
第一冷却工程後のSMCシート1は、5~60℃とすることが好ましく、10~50℃がさらに好ましく、10~40℃が特に好ましい。5℃より低いとキャリアフィルムの裂けなどが発生し、60℃より高温な場合、強化繊維から樹脂組成物がロール状の巻取り時や折り畳み時に流出する可能性があり、好ましくない。なお、風速を0.1m/秒以上とすることで、効率的な冷却が可能となる。風速の調整としては、空調機やブロア等にて調整することができる。
【0041】
第二冷却工程としては、SMCロール7以後に実施され、低温恒温槽や空冷や空調による冷却などが挙げられる。5~40℃とすることが好ましく、5~30℃がさらに好ましく、10~25℃が特に好ましい。5℃より低いと搬送時にキャリアフィルムの裂けなどが発生する可能性があり、40℃より高温な場合、強化繊維から樹脂組成物がロール状の巻取り時や折り畳み時に流出する可能性があり、好ましくない。なお、風速が0.1m/秒以上とすることで、効率的な冷却が可能となる。風速の調整としては、空調機やブロア等にて調整するとこができる。
【0042】
前記樹脂組成物中の樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ビニルウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられるが、成形後の強度などの機械物性の点からエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂及びビニルウレタン樹脂がより好ましい。なお、これらの樹脂は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0043】
前記樹脂組成物中には、樹脂以外の成分として、例えば、希釈剤、硬化剤、硬化促進剤、重合禁止剤、充填剤、低収縮剤、熱可塑性樹脂粒子、離型剤、増粘剤、減粘剤、顔料、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、抗菌剤、紫外線安定剤、保存安定剤、補強材、光硬化剤等を含有することができる。
【0044】
前記充填剤としては、無機化合物、有機化合物があり、成形品の強度、弾性率、衝撃強度、疲労耐久性等の物性を調整するために使用できる。
【0045】
前記無機化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、マイカ、タルク、カオリン、クレー、セライト、アスベスト、バーライト、バライタ、シリカ、ケイ砂、ドロマイト石灰石、石こう、アルミニウム微粉、中空バルーン、アルミナ、ガラス粉、水酸化アルミニウム、寒水石、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、酸化チタン、二酸化モリブデン、鉄粉等が挙げられる。
【0046】
前記有機化合物としては、セルロース、キチン等の天然多糖類粉末や、合成樹脂粉末等があり、合成樹脂粉末としては、硬質樹脂、軟質ゴム、エラストマーまたは重合体(共重合体)などから構成される有機物の粉体やコアシェル型などの多層構造を有する粒子を使用できる。具体的には、ブタジエンゴムおよび/またはアクリルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム等からなる粒子、ポリイミド樹脂粉末、フッ素樹脂粉末、フェノール樹脂粉末などが挙げられる。これらの充填剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0047】
前記離型剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、フッ素系化合物などが挙げられる。好ましくは、フッ素化合物、パラフィンワックスが挙げられる。これらの離型剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0048】
前記増粘剤としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等の金属酸化物や金属水酸化物など、アクリル樹脂系微粒子などが挙げられ、本発明の繊維強化成形材料の取り扱い性によって適宜選択できる。これらの増粘剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0049】
前記樹脂組成物は、通常のミキサー、インターミキサー、プラネタリーミキサー、ロールミル、ニーダー、押し出し機などの混合機を用いて、上記した各成分を混合・分散することにより得られる。
【0050】
前記炭素繊維は、例えば、2.5~50mmの長さにカットした繊維が用いられるが、成形時の金型内流動性、成形品の外観及び機械的物性がより向上することから、5~40mmにカットした繊維がより好ましい。
【0051】
前記炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、レーヨン系等の各種のものが使用できるが、これらの中でも、容易に高強度の炭素繊維が得られることから、ポリアクリロニトリル系のものが好ましい。
【0052】
また、前記炭素繊維として使用される繊維束のフィラメント数は、樹脂含浸性及び成形品の機械的物性がより向上することから、1,000~60,000が好ましい。
【0053】
本発明のSMCの成分中の前記炭素繊維の含有率は、得られる成形品の機械的物性がより向上することから、35~80質量%の範囲が好ましく、40~70質量%の範囲がより好ましく、45~65質量%が特に好ましい。繊維強化材含有率が低すぎる場合、高強度な成形品が得られない可能性があり、繊維強化材含有率が高すぎる場合、繊維強化材への樹脂含浸性が不十分で、成形品に膨れが生じ、高強度な成形品が得られない可能性がある。
【0054】
本発明の樹脂組成物の粘度は、SMCシート端部からの樹脂の流出を抑制し、かつ、強化繊維への含浸性に優れることから、25℃において、3000~20000mPa・sであるが、1000~17000mPa・sが好ましく、2000~15000mPがより好ましい。
【0055】
また、本発明のSMC中の前記炭素繊維は、繊維方向がランダムな状態で樹脂に含浸していることが好ましい。
【0056】
本発明の成形品の製造方法は、上記した製造方法により得られるSMCを成形する方法であるが、生産性に優れる点とデザイン多様性に優れる観点からその成形方法としては、加熱圧縮成形が好ましい。
【0057】
前記加熱圧縮成形としては、例えば、前記SMCを所定量計量し、予め110~180℃に加熱した金型に投入し、圧縮成形機にて型締めを行い、成形材料を賦型させ、0.1~30MPaの成形圧力を保持することによって、成形材料を硬化させ、その後成形品を取り出し成形品を得る製造方法が用いられる。具体的な成形条件としては、金型内で金型温度120~160℃にて、成形品の厚さ1mm当たり1~5分間、1~20MPaの成形圧力を保持する成形条件が好ましく、生産性がより向上することから、金型温度140~160℃にて、成形品の厚さ1mm当たり1~3分間、1~20MPaの成形圧力を保持する成形条件がより好ましい。
【0058】
本発明のSMCは、生産性、成形性等に優れ、得られる成形品は、自動車部材、鉄道車両部材、航空宇宙機部材、船舶部材、住宅設備部材、スポーツ部材、軽車両部材、建築土木部材、OA機器等の筐体等に好適に用いることができる。
【実施例0059】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、エポキシ樹脂の粘度はE型粘度計(東機産業株式会社製 TV-22)を用いて、25℃における粘度を測定したものである。
【0060】
(実施例1)
エポキシ樹脂(1)(シグマアルドリッチ社製「テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン」、エポキシ当量110~130g/eq、4官能の芳香族エポキシ樹脂)40質量部、エポキシ樹脂(2)(DIC株式会社製「EPICLON 840LV」、ビスフェノールA型、エポキシ当量:178g/eq、官能基数:2)40質量部、エポキシ希釈剤(ANHUI XINYUAN Chemical社製「XY-622」、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、エポキシ当量131g/eq、官能基数:2)5質量部、エポキシ希釈剤(長瀬産業社製「EX-313」、グリセロールポリグリシジルエーテル、官能基数:2以上)15質量部、内部離型剤(ダイキン工業社製「FB-962」)2質量部、エポキシ樹脂用硬化剤(三菱ケミカル株式会社製「DICY7」、ジシアンジアミド)8質量部、硬化促進剤(DIC株式会社製「B-605-IM」、アルキル尿素系)5質量部を三本ロールにて混合し、熱可塑性樹脂粒子(アイカ工業株式会社製「F303」、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系有機微粒子)9質量部を混合し、樹脂組成物(1)を得た。
【0061】
[SMCの作製]
上記で得られた樹脂組成物(1)を、ポリエチレンとポリプロピレンのラミネートフィルム上に塗布量が平均860g/mとなるよう塗布し、この上に、炭素繊維ロービング(東レ株式会社製「T700SC-12000-50C」)を12.5mmにカットした炭素繊維(以下、炭素繊維(1)と略記する。)を繊維方向性が無く厚みが均一で炭素繊維含有率が57質量%になるよう空中から均一落下させ、同様に樹脂組成物(1)を塗布したフィルムで挟み込み炭素繊維(1)に樹脂を含浸させた後、80℃中に2時間静置し、SMC(1)を得た。このSMCの目付け量は、2kg/mであった。
なお、雰囲気温度、ラバーヒーター、加温板、遠赤外線ヒーターを調整し、炭素繊維温度Tc及び樹脂組成物温度Trは17℃とし、熱風装置を調整し、第二加温工程は35℃(工程中間時のSMCシート表面温度)、第一冷却工程の温度は28℃(工程中間時のSMCシート表面温度)、第二冷却工程の温度は23℃(工程中間時のSMCシート表面温度)として、上記の通りSMCシートを作製した。
【0062】
[SMCの含浸性評価]
SMCの断面方向からにおいて、表面との平行線と裏面との平行線の間の中線部において、SMCを2分割し、内部を露出させた。次に、露出させた内部の表面に存在する炭素繊維束を30cmあたり30個任意に取り出して質量測定し、平均値を算出した。これを5箇所の部分において、繰り返し、含浸後繊維質量を測定した。この含浸後繊維質量を未含浸繊維質量と比較し、以下の基準により含浸性を評価した。未含浸繊維質量は、12.5mmにカットした炭素繊維1000本の質量を測定し、その平均値とした。なお、質量の測定には、分析用電子天秤GR-202(A&D社製、秤量単位0.01mg)を使用した。
5:含浸後繊維質量が未含浸繊維質量と比較し40%以上増加
4:含浸後繊維質量が未含浸繊維質量と比較し20%以上40%未満増加
3:含浸後繊維質量が未含浸繊維質量と比較し10%以上20%未満増加
2:含浸後繊維質量が未含浸繊維質量と比較し3%以上10%未満増加
1:含浸後繊維質量が未含浸繊維質量と比較し3%未満増加量、又は、SMCシート端部における樹脂のみの流出が30mm以上
【0063】
[成形品の作製]
上記で得られたSMC(1)を、金型温度140℃、加圧時間5分、加圧力10MPaの成形条件にて30cm角金型の投影面積に対し75%チャージ率にて加圧成形し、板厚2mmの成形品(1)を得た。
[成形品の含浸性評価]
上記で得られた成形品(1)の断面をデジタルマイクロスコープVHX-5000(キーエンス社製)を用いて、拡大率50倍にて観察し、以下の基準により含侵性を評価した。なお、観察は、任意の一方向とその垂直方向の2方向の断面(300mm長さの2方向合計)を観察した。
5 未含浸領域が2個以下
4 未含浸領域が3~4個以下
3 未含浸領域が5個
2 未含浸領域が6~10個
1 未含浸領域が11個以上
【0064】
(実施例2~6)
表1の含浸条件とした以外は実施例1と同様にして、SMC(2)~(6)、及び成形品(2)~(6)を得、各評価を行った。なお、雰囲気温度、ラバーヒーター、加温板、遠赤外線ヒーターを調整し、表1の条件によりSMCシートを作製した。
【0065】
【表1】
【0066】
(実施例7及び8)
エポキシ樹脂(1)35質量部、エポキシ樹脂(2)35質量部、エポキシ希釈剤(「XY-622」)10質量部、エポキシ希釈剤(「EX-313」)20質量部とした以外は実施例1と同様に樹脂組成物を得た。さらに、炭素繊維を表2に示すWcとして、SMCシートを得た。なお、雰囲気温度、ラバーヒーター、加温板、遠赤外線ヒーターを調整し、表2の通りSMCシートを作製した。
【0067】
(比較例1~3)
表2の含浸条件とした以外は実施例1と同様にして、SMC(R1)~(R3)、及び成形品(R1)~(R3)を得、各評価を行った。なお、雰囲気温度、ラバーヒーター、加温板、遠赤外線ヒーターを調整し、表2の通りSMCシートを作製した。
【0068】
(比較例4)
エポキシ樹脂(1)35質量部、エポキシ樹脂(2)35質量部、エポキシ希釈剤(「XY-622」)10質量部、エポキシ希釈剤(「EX-313」)20質量部とした以外は実施例1と同様に樹脂組成物を得た。さらに、炭素繊維を表2に示すWcとして、SMCシートを得た。なお、雰囲気温度、ラバーヒーター、加温板、遠赤外線ヒーターを調整し、表2の通りSMCシートを作製した。
【0069】
(比較例5)
エポキシ樹脂(2)87質量部、エポキシ希釈剤(「XY-622」)10質量部、エポキシ希釈剤(「EX-313」)3質量部とした以外は実施例1と同様に樹脂組成物を得た。さらに、炭素繊維を表1に示すWcとして、SMCシートを得た。なお、雰囲気温度、ラバーヒーター、加温板、遠赤外線ヒーターを調整し、表1の通りSMCシートを作製した。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例1~8の本発明の製造方法で得られたSMC及び成形品は、含浸性に優れることが確認された。
【0072】
一方、比較例1及び3は炭素繊維温度Tcが、本発明の下限である15℃よりも低い例であるが、樹脂組成物の粘度が高い状態での含浸となり、含浸不良であることが確認された。
【0073】
比較例2は炭素繊維温度Tcが、本発明の上限である115℃よりも高い例であるが、硬化反応が進み粘度が上昇し、炭素繊維間に樹脂が流れず含浸不良であることが確認された。
【0074】
比較例4は、炭素繊維の含有率Wcが、本発明の下限である35質量%よりも小さい例であるが、SMCシート端部における樹脂のみの流出が30mm以上であることが確認された。
【0075】
比較例5は、樹脂組成物の粘度が、本発明の下限である300mPa・sよりも小さい例であるが、SMCシート端部における樹脂のみの流出が30mm以上であることが確認された。
【符号の説明】
【0076】
7 SMCシートロール
8、9、10、11 冷却ロール
1 SMCシート
12 キャリアフィルム
13 含浸装置
14 含浸ロール
19 巻出装置
20 移送ベルト
21 樹脂塗布装置
22 樹脂組成物
23 ロービング
6 加温板
24 ストランド
24a 炭素繊維の切断片
25 切断装置
26 赤外線ヒーター
27 ラバーヒーター(2枚)
27’ ラバーヒーター(1枚)
28 ラバーヒーター(2枚)
29 熱風装置
30 熱風流入口
図1