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特開2022-165022ポリアリーレンエーテルケトン樹脂及びその製造方法、並びに成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165022
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】ポリアリーレンエーテルケトン樹脂及びその製造方法、並びに成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 67/00 20060101AFI20221024BHJP
【FI】
C08G67/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070191
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】岩楯 展行
(72)【発明者】
【氏名】桝本 雅也
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AB00
4J005BA00
4J005BB01
4J005BB02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性に優れた高いガラス転移温度を有するとともに、成形加工性に優れた低結晶融点のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の提供。
【解決手段】下記一般式(1-1)で表される繰り返し単位を有するポリアリーレンエーテルケトン樹脂。

(式中、kは1~3のいずれかの整数である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1-1)、(2-1)及び(3-1)で表される繰り返し単位を有するポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【化1】
(式中、kは1~3のいずれかの整数である。)
【化2】
(式中、m1、m2は1~2のいずれかの整数である。)
【化3】
(式中、nは0~2のいずれかの整数である。)
【請求項2】
前記繰り返し単位(1-1)と(3-1)の合計モル量と、前記繰り返し単位(2-1)のモル量との割合が、モル比で、(1-1)+(3-1):(2-1)=95:5~60:40の範囲である、請求項1に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【請求項3】
下記一般式(1-2)で表されるモノマー(1-2)と、下記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)と、下記一般式(3-2)で表されるモノマー(3-2)とを、有機スルホン酸及び五酸化二リンの存在下で反応させる、請求項1または2に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【化4】
(式中、kは1~3のいずれかの整数である。)
【化5】
(式中、m2は1~2のいずれかの整数である。)
【化6】
(式中、nは0~2のいずれかの整数である。)
【請求項4】
前記モノマー(1-2)が下記モノマー(1-2-A)であり、前記モノマー(2-2)が下記モノマー(2-2-A)であり、前記モノマー(3-2)が下記モノマー(3-2-A)である、請求項3に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【化7】
【化8】
【化9】
【請求項5】
請求項1または2に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂を含む成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂及びその製造方法、並びに成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(以下「PAEK樹脂」と略すことがある。)は、耐熱性、耐薬品性、強靭性等に優れ、高温で連続使用可能な結晶性スーパーエンプラとして、電気電子部品、自動車部品、医療用部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。
【0003】
従来、PAEK樹脂としては、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノンの2つのモノマーを、ジフェニルスルホン中で炭酸カリウムを用いた芳香族求核置換型溶液重縮合反応(例えば、特許文献1参照)により製造される、1つの繰り返し単位中に2つのエーテル基と1つのケトン基を持つポリエーテルエーテルケトン樹脂(以下「PEEK樹脂」と略すことがある。)がよく知られている。
また、ハイドロキノンの代わりに、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンを使用することで製造される、1つの繰り返し単位中にエーテル基、ケトン基を1つずつ持つポリエーテルケトン樹脂(以下「PEK樹脂」と略すことがある。)や、1つの繰り返し単位中に1つのエーテル基、2つのケトン基を有するポリエーテルケトンケトン樹脂(以下「PEKK樹脂」と略すことがある。)もある。
【0004】
しかしながら、これらのPAEK樹脂の製造に用いられている芳香族求核置換型溶液重縮合反応は、モノマーに高価な4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを使用するため原料費が高く、かつ、反応温度が300℃以上で製造工程費も高いという欠点があり、樹脂の価格が高くなる傾向にある。また、無機塩基が副生し環境への負担が大きい。
【0005】
そこで、モノマーに4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを用いることなく、かつ、温和な重合条件で、PAEK樹脂を製造する芳香族求電子置換型溶液重縮合反応が知られている。
芳香族求電子置換型溶液重縮合反応を用いた例として、4-フェノキシ安息香酸クロリドをフッ化水素-三フッ化ホウ素の存在下で反応させる方法によるPEK樹脂(例えば、特許文献2参照)、テレフタル酸クロリドとジフェニルエーテルをルイス酸の存在下で反応させる方法によるPEKK樹脂(例えば、特許文献3参照)、4-フェノキシ安息香酸をメタンスルホン酸と五酸化二リンの混合物存在下で反応させる方法によるPEK樹脂(例えば、特許文献4参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4320224号明細書
【特許文献2】米国特許第3953400号明細書
【特許文献3】米国特許第3065205号明細書
【特許文献4】特開昭61-247731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来のPEEK樹脂、PEK樹脂、PEKK樹脂等のPAEK樹脂は、部分結晶性のポリマーであり、そのガラス転移温度は140℃以上と高く、耐熱性に優れるものの、結晶融点も340℃より高く、成形加工に高い温度や圧力を要して、成形加工性が悪いという欠点がある。
【0008】
そこで、本発明は、耐熱性に優れた高いガラス転移温度を有するとともに、成形加工性に優れた低結晶融点のポリアリーレンエーテルケトン樹脂を提供することを目的とする。また、本発明は、このポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造に好適な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
PAEK樹脂などのスーパーエンプラは、高い耐熱性を実現するため、できるだけ不純物のない均一構造のポリマーが望ましいものとされていた。したがって、従来、PAEK樹脂としては単一の繰り返し単位を有するポリマーの開発が中心であった。しかし単一の繰り返し単位構造では結晶融点などの熱物性の調整が難しく、成形加工性の改良が困難であった。
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、剛直かつ靭性成分である下記繰り返し単位(1-1)及び下記繰り返し単位(3-1)と、柔軟成分である下記繰り返し単位(2-1)とを共重合させたPAEK樹脂は、結晶融点を低下させることが可能で、良好な成形加工性を発現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1]下記一般式(1-1)、(2-1)及び(3-1)で表される繰り返し単位を有するポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【0012】
【化1】
(式中、kは1~3のいずれかの整数である。)
【0013】
【化2】
(式中、m1、m2は1~2のいずれかの整数である。)
【0014】
【化3】
(式中、nは0~2のいずれかの整数である。)
[2]前記繰り返し単位(1-1)と(3-1)の合計モル量と、前記繰り返し単位(2-1)のモル量との割合が、モル比で、(1-1)+(3-1):(2-1)=95:5~60:40の範囲である、前記[1]に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
[3]下記一般式(1-2)で表されるモノマー(1-2)と、下記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)と、下記一般式(3-2)で表されるモノマー(3-2)とを、有機スルホン酸及び五酸化二リンの存在下で反応させる、前記[1]または[2]に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【0015】
【化4】
(式中、kは1~3のいずれかの整数である。)
【0016】
【化5】
(式中、m2は1~2のいずれかの整数である。)
【0017】
【化6】
(式中、nは0~2のいずれかの整数である。)
[4]前記モノマー(1-2)が下記モノマー(1-2-A)であり、前記モノマー(2-2)が下記モノマー(2-2-A)であり、前記モノマー(3-2)が下記モノマー(3-2-A)である、前記[3]に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【0018】
【化7】
【0019】
【化8】
【0020】
【化9】
[5]前記[1]または[2]に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂を含む成形体。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、耐熱性に優れた高いガラス転移温度を有するとともに、成形加工性に優れた低結晶融点のポリアリーレンエーテルケトン樹脂を提供することができる。また、本発明は、このポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造に好適な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のPAEK樹脂、及び該PAEK樹脂の製造方法について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0023】
(ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK樹脂))
本発明のPAEK樹脂は、下記一般式(1-1)、(2-1)及び(3-1)で表される繰り返し単位を有する。
【0024】
【化10】
(式中、kは1~3のいずれかの整数である。)
【0025】
【化11】
(式中、m1、m2は1~2のいずれかの整数である。)
【0026】
【化12】
(式中、nは0~2のいずれかの整数である。)
【0027】
本発明のPAEK樹脂は、剛直かつ靭性成分である、繰り返し単位(1-1)及び(3-1)と、(1-1)と(3-1)の繰り返し単位を崩し、結晶化度を低下させる繰り返し単位(2-1)を有するので、繰り返し単位(1-1)及び(3-1)と繰り返し単位(2-1)との割合を調整することにより、結晶融点を制御することができる。本発明のPAEK樹脂は、結晶融点を低くすることができる。本発明のPAEK樹脂は、高い分子量を示し、良好な成形加工性を示す。
本発明のPAEK樹脂は、下記実施例の結果からも示されているように、ガラス転移点(Tg)が150℃以上という高いTgを示しつつ、結晶融点(Tm)が340℃以下という低いTmを示すことができる。
また、繰り返し単位(2-1)は、ビフェニル(もしくはターフェニル)構造を有しており、これが高いTgを示しつつ、良好な機械特性を示すことに有効に寄与していると考えられる。尚、繰り返し単位(2-1)は、ビフェニル(もしくはターフェニル)骨格を有しているが、当該ビフェニル骨格はエーテル結合を介して官能基と結合している。ここで、繰り返し単位(2-1)としてビフェニル骨格にジカルボキシル基が置換されたジフェン酸(2,2’-ビフェニルジカルボン酸)等を用いた場合、ビフェニル骨格と反応点であるカルボン酸が共役系を形成するためにカルボン酸の反応性が低下し、ジフェン酸の添加量を増加した場合に分子量が低下してしまうという課題があった。一方、本発明のPAEK樹脂に係る繰り返し単位(2-1)は、エーテル結合により共役系が切断されるため、ジフェン酸等と異なり反応性の低下が生じないと考えられる。このため、本発明のPAEK樹脂に係る繰り返し単位(2-1)は、PAEK樹脂の分子量を低下させることなく、分子量の大きなPAEK樹脂の形成に有効に寄与していると考えられる。
【0028】
本発明のPAEK樹脂において、繰り返し単位(1-1)と(3-1)の合計モル量と、上記繰り返し単位(2-1)のモル量との割合が、モル比〔(繰り返し単位(1-1)のモル量+繰り返し単位(3-1)のモル量):繰り返し単位(2-1)のモル量〕で、95:5~60:40の範囲であるであることが好ましく、93:7~75:25の範囲であることがより好ましく、90:10~85:15の範囲であることがさらに好ましい。
上記割合の範囲で、繰り返し単位(2-1)のモル量に対する、繰り返し単位(1-1)及び繰り返し単位(3-1)の合計モル量の比の値を大きくすることで、ガラス転移温度(Tg)を高く調整することができ、結晶化度及び結晶融点(Tm)を高くすることができて、耐熱性に優れたPAEK樹脂とすることができる。また、上記割合の範囲で、繰り返し単位(2-1)のモル量に対する、繰り返し単位(1-1)及び繰り返し単位(3-1)の合計モル量の比の値を小さくすることで、結晶融点(Tm)を比較的低くすることができ、成形加工性に優れたPAEK樹脂とすることができる。
上記割合を調整することで、本発明のPAEK樹脂のガラス転移温度(Tg)を140℃以上、より好ましくは150℃以上に調整することができる。より具体的には、140~170℃、好ましくは150~165℃に調整することができる。
また、本発明のPAEK樹脂の結晶融点(Tm)を350℃以下、より好ましくは340℃以下に調整することができる。より具体的には、250~350℃、好ましくは280~340℃に調整することができる。
繰り返し単位(1-1)及び(3-1)と繰り返し単位(2-1)との割合を最適化することで、耐熱性、及び成形加工性に優れるPAEK樹脂とすることができる。
【0029】
(ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK樹脂)の製造方法)
本発明のPAEK樹脂の製造方法の一の態様は、下記一般式(1-2)で表されるモノマー(1-2)と、下記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)と、下記一般式(3-2)で表されるモノマー(3-2)とを、有機スルホン酸及び五酸化二リンの存在下で反応させる、PAEK樹脂の製造方法である。
【0030】
【化13】
(式中、kは1~3のいずれかの整数である。)
【0031】
【化14】
(式中、m2は1~2のいずれかの整数である。)
【0032】
【化15】
(式中、nは0~2のいずれかの整数である。)
【0033】
上記モノマー(1-2)としては、4、4’-オキシビス安息香酸(k=1)、1,4-ビス(4-カルボキシフェノキシ)ベンゼン(k=2)、4,4’-ビス(p-カルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル(k=3)が挙げられる。
上記モノマー(2-2)としては、例えば4’-フェノキシビフェニル-4-カルボン酸(m2=1)、4’’-フェノキシ―[1,1’:4’,1’’-ターフェニル]-4-カルボン酸(m2=2)等が挙げられる。
上記モノマー(3-2)としては、ジフェニルエーテル(n=0)、1、4’-ジフェノキシベンゼン(n=1)、4,4’-オキシビス(フェノキシベンゼン)(n=2)が挙げられる。
【0034】
本発明のPAEK樹脂の製造方法の好ましい実施態様としては、上記モノマー(1-2)が、k=1の場合の下記モノマー(1-2-A)であり、上記モノマー(2-2)が、m2=1の場合の下記モノマー(2-2-A)であり、上記モノマー(3-2)が、n=1の場合の下記モノマー(3-2-A)である、PAEK樹脂の製造方法が挙げられる。
【0035】
【化16】
【0036】
【化17】
【0037】
【化18】
【0038】
本発明のPAEK樹脂の製造方法は、芳香族求電子置換型溶液重縮合反応であるので、温和な重合条件で反応させることができ、例えば、有機スルホン酸及び五酸化二リンを20~100℃で1~40時間で混合してから、この混合液に、上記モノマー(1-2)、上記モノマー(2-2)及び上記モノマー(3-2)を添加し、混合し、昇温させてから、例えば、40~80℃で1~100時間、一括して反応させることで、PAEK樹脂を製造することができる。
【0039】
本発明のPAEK樹脂の製造方法は、下記実施例でも示す通り、重合工程が100℃以下という温和な条件で実施可能である。また副生成物が環境への負担のない水のみである。本発明のPAEK樹脂の製造方法は、反応モノマーや溶媒にフッ素を含有しない。例えば、反応工程において、トリフルオロメタンスルホン酸を使用しなくてはいけないとすると、廃棄処理において、フッ素イオンを含むガスが発生し、環境負荷が大きい。しかし、例えば、反応工程において、メタンスルホン酸を使用する限りにおいては、かような環境負荷の問題は発生しない。
【0040】
有機スルホン酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸等が挙げられる。中でも、脂肪族スルホン酸が好ましい。より具体的には、有機スルホン酸として、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸(トシル酸)等が挙げられる。
【0041】
有機スルホン酸の添加量と、五酸化二リンの添加量との割合は、質量比で、100:35~100:1の範囲であることが好ましく、100:30~100:5の範囲であることがより好ましく、100:25~100:5の範囲であることがさらに好ましい。
【0042】
上記モノマー(1-2)、上記モノマー(2-2)及び上記モノマー(3-2)の合計の添加量と、有機スルホン酸及び五酸化二リンの合計の添加量との割合は、質量比で、1:100~40:100の範囲であることが好ましく、2:100~30:100の範囲であることがより好ましく、5:100~25:100の範囲であることがさらに好ましい。
本発明のPAEK樹脂の製造において、有機スルホン酸(例えば、特にメタンスルホン酸)及び五酸化二リンを用いることにより、良好な特性を示すPAEK樹脂を製造することができる。例えば、有機スルホン酸と五酸化二リンを用いる代わりに、無水塩化アルミニウムを用いてPAEK樹脂を製造しようとすると、重合速度が速すぎて、ポリマーシーケンスの制御が困難になる。
【0043】
上記反応工程における上記モノマー(1-2)の添加量と、上記モノマー(3-2)の添加量との割合は、モル比で、85:100~115:100の範囲であることが好ましく、90:100~110:100の範囲であることがより好ましく、92:100~108:100の範囲であることが特に好ましい。また、本発明では、上記反応工程後に、ポリマー末端のカルボキシル基を減らす目的で、末端カルボキシル基と(3-2)を反応させる末端封止工程をさらに設けることもできる。上記反応工程で添加した(3-2)とは別に末端封止工程で添加する(3-2)の添加量の割合は、上記反応工程で添加した(1-2)、(2-2)、(3-2)の合計量に対してモル比で30:100~0.1:100の範囲であることが好ましく、20:100~0.5:100の範囲であることがより好ましく、15:100~1:100であることがさらに好ましい。
【0044】
上記モノマー(1-2)及び上記モノマー(3-2)の合計の添加量と、上記モノマー(2-2)の添加量との割合は、モル比で、(1-1)+(3-1):(2-1)=95:5~60:40の範囲であることが好ましく、93:7~75:25の範囲であることがより好ましく、90:10~85:15の範囲であることがさらに好ましい。
【0045】
なお、本発明のPAEK樹脂の製造方法は、モノマーの仕込み順を分割して、上記モノマー(1-2)と、上記モノマー(2-2)とを反応させた後に、上記モノマー(3-2)とを反応させてもよい。さらに、本発明のPAEK樹脂の製造方法は、モノマーの仕込み順を分割して、上記モノマー(1-2)と、上記モノマー(3-2)とを反応させた後に、上記モノマー(2-2)とを反応させてもよい。モノマーの仕込み順を分割して製造することにより、得られるPAEK樹脂が各モノマーのセグメントに分離された不均一構造となることを抑制することができ、PAEK樹脂全体の均一性及び熱安定性が良好になる傾向があり、好ましい。
【0046】
<ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK樹脂)を含有する樹脂組成物>
本発明に係るPAEK樹脂は、他の配合物と合わせて樹脂組成物を作製することができる。
他の配合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられる。
フィラーの形状としては、特に限定はなく、例えば、粒子状、板状、繊維状等のフィラーが挙げられる。
PAEK樹脂を含有する樹脂組成物は、フィラーとしては繊維状フィラーを含有することがより好ましい。繊維状フィラーの中でも、カーボン繊維とガラス繊維は、産業上利用範囲が広いため、好ましい。
【0047】
<ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK樹脂)を含む成形体>
本発明に係るPAEK樹脂は、耐熱性に優れ高いガラス転移温度(Tg)を有するとともに、低融点化が可能で、良好な成形加工性及び優れた耐衝撃性を有する。そのため、ニートレジンとしての使用や、ガラス繊維、炭素繊維、フッ素樹脂等のコンパウンドとしての使用が可能である。そして、本発明に係るPAEK樹脂を成形することで、ロッド、ボード、フィルム、フィラメント等の一次加工品や、各種射出加工品、各種切削加工品、ギア、軸受、コンポジット、インプラント、3D成形品等の二次加工品を製造することができ、これらの本発明に係るPAEK樹脂を成形してなる成形品は、自動車、航空機、電気電子、医療用部材等の利用が可能である。
【実施例0048】
(ガラス転移点(Tg)及び結晶融点(Tm))
パーキンエルマー製DSC装置(Pyris Diamond)を用いて、50mL/minの窒素流下、20℃/minの昇温条件で40~400℃まで測定を行い、ガラス転移点(Tg)及び結晶融点(Tm)を求めた。
【0049】
(5%重量減少温度(Td5(℃)))
TG-DTA装置(株式会社リガク TG-8120)を用いて、20mL/minの窒素流下、20℃/minの昇温速度で測定を行い、5%重量減少温度を測定した。
【0050】
(還元粘度(PAEK樹脂の分子量相当)dL/g)
キャノンフェンスケ粘度計(柴田科学株式会社製)を用いて、25℃において、溶媒、及び、溶媒100mL中にポリマー0.3gを溶解したポリマー溶液の流出時間を測定し、次式で還元粘度を算出した。なお溶媒には、クロロホルムとトリフルオロ酢酸を4:1の質量比で混合した溶液を用いた。
還元粘度(dL/g)=(t-t0)/(c×t0)
ここで、t0は溶媒の流出時間、tはポリマー溶液の流出時間、cはポリマー溶液中のポリマー濃度(g/dL)を示す。
【0051】
(線熱膨張率(10-6/℃))
熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製EXSTAR TMA/SS6100)を用いて、熱機械分析により昇温速度3℃/分における試験片の伸びにより、200~250℃の範囲での平均値として、線熱膨張係数を求めた。
【0052】
(実施例1)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び撹拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸128.88gと五酸化二リン30.93gを仕込み、100℃に昇温し、4時間撹拌した。その後80℃まで冷却後、4,4’-オキシビス安息香酸8.12g、4’-フェノキシビフェニル-4-カルボン酸10.30gと1,4-ジフェノキシベンゼン8.25gとを仕込み、24時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0053】
(実施例2)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び撹拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸128.88gと五酸化二リン30.93gを仕込み、100℃に昇温し、4時間撹拌した。その後80℃まで冷却後、4,4’-オキシビス安息香酸9.68g、4’-フェノキシビフェニル-4-カルボン酸6.79gと1,4-ジフェノキシベンゼン9.83gとを仕込み、24時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0054】
(実施例3)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び撹拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸128.88gと五酸化二リン30.93gを仕込み、100℃に昇温し、4時間撹拌した。その後80℃まで冷却後、4,4’-オキシビス安息香酸9.68g、4’-フェノキシビフェニル-4-カルボン酸6.79gと1,4-ジフェノキシベンゼン9.83gとを仕込み、48時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0055】
(実施例4)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び撹拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸128.88gと五酸化二リン30.93gを仕込み、100℃に昇温し、4時間撹拌した。その後60℃まで冷却後、4,4’-オキシビス安息香酸9.68g、4’-フェノキシビフェニル-4-カルボン酸6.79gと1,4-ジフェノキシベンゼン9.83gとを仕込み、24時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0056】
(実施例5)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び撹拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸128.88gと五酸化二リン30.93gを仕込み、100℃に昇温し、4時間撹拌した。その後、4,4’-オキシビス安息香酸9.68g、4’-フェノキシビフェニル-4-カルボン酸6.79gと1,4-ジフェノキシベンゼン9.83gとを仕込み、24時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0057】
(実施例6)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び撹拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸128.88gと五酸化二リン30.93gを仕込み、100℃に昇温し、4時間撹拌した。その後80℃まで冷却後、4,4’-オキシビス安息香酸10.71g、4’-フェノキシビフェニル-4-カルボン酸4.47gと1,4-ジフェノキシベンゼン10.88gとを仕込み、24時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0058】
(実施例7)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び撹拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸128.88gと五酸化二リン30.93gを仕込み、100℃に昇温し、4時間撹拌した。その後80℃まで冷却後、4,4’-オキシビス安息香酸11.49g、4’-フェノキシビフェニル-4-カルボン酸2.72gと1,4-ジフェノキシベンゼン11.67gとを仕込み、24時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0059】
実施例1~7に係るPAEK樹脂のガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)、5%重量減少温度(Td5(℃))、還元粘度(dL/g)、及び線熱膨張率(10-6/℃)を測定し、結果を表1-1~1-2に示した。
【0060】
(比較例1)
比較例1に係るPEEK樹脂として、ビクトレックス社製:VICTREX PEEK 150Pを準備し、そのガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)、5%重量減少温度(Td5(℃))、還元粘度(dL/g)、及び線熱膨張率(10-6/℃)を測定し、結果を表2-1に示した。
【0061】
(比較例2)
比較例2に係るPEK樹脂として、ビクトレックス社製:VICTREX HTを準備し、そのガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)、5%重量減少温度(Td5(℃)、還元粘度(dL/g)、及び線熱膨張率(10-6/℃)を測定し、結果を表2-1に示した。
【0062】
【表1-1】
【0063】
【表1-2】
【0064】
【表2-1】
【0065】
表1-1及び表1-2に示されるように、実施例のPAEK樹脂は、ガラス転移温度(Tg)を150℃以上に調整することができ、市販のPEEK樹脂(比較例1)やPEK樹脂(比較例2)と同等、あるいはそれ以上の耐熱性に優れた樹脂であることがわかる。また、実施例のPAEK樹脂は、このように優れた耐熱性を保持したまま、340℃以下の結晶融点(Tm)に制御することが可能であり、この結晶融点(Tm)は市販のPEEK樹脂(比較例1)やPEK樹脂(比較例2)の結晶融点(Tm)よりも低いので、良好な成形加工性を有することがわかる。また、実施例のPAEK樹脂は、PEEK樹脂(比較例1)、PEK樹脂(比較例2)と同程度の還元粘度や線熱膨張率を示す。