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特開2022-165109HLB値算出装置、HLB値算出方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165109
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】HLB値算出装置、HLB値算出方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/00 20190101AFI20221024BHJP
【FI】
G16C20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070325
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西原 泰孝
(57)【要約】      (修正有)
【課題】分子の複合体のHLB(Hydrophile Lipophile Balance)値を算出する、装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】分子の複合体のHLB値を算出するためのHLB値算出装置であって、分子の複合体を構成する各分子の立体構造に基づいて、分子の複合体を構成する各分子に含まれる原子毎の電荷量を算出する電荷量算出部と、分子の複合体を構成する分子間の相互作用部位を特定し、特定した相互作用部位の原子の電荷量を変更する相互作用部位特定部と、算出又は変更された電荷量に基づいて、特定した相互作用部位の原子を親水部か否かに振り分ける振分部と、親水部に振り分けられた原子の原子量の総和に基づいて、分子の複合体のHLB値を算出するHLB値算出部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子の複合体のHLB値を算出するためのHLB値算出装置であって、
前記複合体を構成する各分子の立体構造に基づいて、前記複合体を構成する各分子に含まれる原子ごとの電荷量を算出する電荷量算出部と、
前記複合体を構成する分子間の相互作用部位を特定し、特定された前記相互作用部位の原子の電荷量を変更する相互作用部位特定部と、
算出または変更された前記電荷量に基づいて、前記原子を親水部か否かに振り分ける振分部と、
前記親水部に振り分けられた原子の原子量の総和に基づいて、前記複合体のHLB値を算出するHLB値算出部と、を備える、
HLB値算出装置。
【請求項2】
Gasteiger法に基づいて各原子の電荷量を割り当て、割り当てられた各原子の電荷量に基づいて、分子力学法を用いた構造最適化計算によって前記立体構造を決定する立体構造決定部をさらに備える、
請求項1に記載のHLB値算出装置。
【請求項3】
前記相互作用部位特定部は、算出された前記立体構造から前記相互作用部位を特定し、特定された前記相互作用部位に基づいて前記分子の複合体の立体構造を推定する、
請求項2に記載のHLB値算出装置。
【請求項4】
前記相互作用部位特定部は、前記相互作用部位の原子の電荷量を0に変更する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のHLB値算出装置。
【請求項5】
閾値の設定を受け付ける閾値設定受付部をさらに備え、
前記振分部は、算出された前記電荷量の絶対値が前記閾値以上の原子を前記親水部に振り分ける、
請求項1から4のいずれか1項に記載のHLB値算出装置。
【請求項6】
前記HLB値を示す情報を表示する表示部をさらに備え、
前記閾値設定受付部は、設定された前記閾値の変更を受け付け、
前記振分部は、変更された前記閾値に基づいて、前記原子を前記親水部か否かに振り分ける、
請求項5に記載のHLB値算出装置。
【請求項7】
各原子が前記親水部か否かを示す情報を表示する表示部と、
前記振分部による振り分けの変更を受け付ける振分変更受付部と、をさらに備え、
前記HLB値算出部は、変更された前記振り分けの結果に基づいて、前記HLB値を算出する、
請求項1から5のいずれか1項に記載のHLB値算出装置。
【請求項8】
決定された立体構造を示す情報、各原子が前記親水部か否かを示す情報および算出された前記HLB値を示す情報を表示する表示部をさらに備える、
請求項1から5のいずれか1項に記載のHLB値算出装置。
【請求項9】
前記HLB値算出部は、グリフィンの式に基づいて、前記HLB値を算出する、
請求項1から8のいずれか1項に記載のHLB値算出装置。
【請求項10】
前記電荷量算出部は、決定された前記立体構造に基づいて、AM1-BCC法によって前記電荷量を算出する、
請求項1から9のいずれか1項に記載のHLB値算出装置。
【請求項11】
コンピュータが実行する方法であって、
分子の複合体を構成する各分子の立体構造に基づいて、前記複合体を構成する各分子に含まれる原子ごとの電荷量を算出するステップと、
前記複合体を構成する分子間の相互作用部位を特定し、特定された前記相互作用部位の原子の電荷量を変更するステップと、
算出または変更された前記電荷量に基づいて、前記原子を親水部か否かに振り分けるステップと、
振り分けられた原子の原子量の総和に基づいて、前記複合体のHLB値を算出するステップと、を備える、
HLB値算出方法。
【請求項12】
コンピュータに、
分子の複合体を構成する各分子の立体構造に基づいて、前記複合体を構成する各分子に含まれる原子ごとの電荷量を算出するステップと、
前記複合体を構成する分子間の相互作用部位を特定し、特定された前記相互作用部位の原子の電荷量を変更するステップと、
算出または変更された前記電荷量に基づいて、前記原子を親水部か否かに振り分けるステップと、
振り分けられた原子の原子量の総和に基づいて、前記複合体のHLB値を算出するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HLB値算出装置、HLB値算出方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水と油のように交じり合わない2相が接する界面に作用して性質を変化させる物質である界面活性剤は、1つの分子内に水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい部分(新油基・疎水基)を持ち、極性物質と非極性物質を均一に混合させる働きをする。
【0003】
HLB(Hydrophile Lipophile Balance)値は、界面活性剤の親水性と親油性のバランスを表す数値である。HLB値の算出方法は複数あり、特に、アトラス法やグリフィン法、デイビス法、川上法が有名である。例えば、グリフィン法は、HLB値=20×(親水部の式量の総和)/(分子量)、で定義される。また、実験的にHLB値を決定する方法もあるが、煩雑な作業が必要な場合が多い。界面活性剤は、その親水性が大きければ大きいほどHLB値が大きく、水に溶けやすい性質を持ち、逆の場合は水に溶けにくい性質を持つ。そのため、HLB値は、使用目的にあう界面活性剤を選択する場合の指標となる。
【0004】
分子の化学式から分子の立体構造が算出可能である。分子に含まれる原子の結合状態や原子の持つ電荷といった分子の特徴は、分子力学(Molecular Mechanics:MM)計算や分子動力学(Molecular Dynamics:MD)計算、量子化学(Quantum Mechanics:QM)計算を用いて算出できる。計算手法は、求められる計算精度や使用可能な計算資源に応じて選択する。
【0005】
例えば、特許文献1には、有機化合物中の全ての原子及び官能基の「無機性値」、「有機性値」を積算することによって、当該有機化合物のHLB値を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-026623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の技術では、官能基単位で規定された値に基づいてHLB値を算出する。しかし、分子の複合体の場合には、含まれる官能基が必ずしも界面活性に関係するとは限らないため、HLB値の算出が困難である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、分子の複合体のHLB値を算出することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るHLB値算出装置は、
分子の複合体のHLB値を算出するためのHLB値算出装置であって、
前記複合体を構成する各分子の立体構造に基づいて、前記複合体を構成する各分子に含まれる原子ごとの電荷量を算出する電荷量算出部と、
前記複合体を構成する分子間の相互作用部位を特定し、特定された前記相互作用部位の原子の電荷量を変更する相互作用部位特定部と、
算出または変更された前記電荷量に基づいて、前記原子を親水部か否かに振り分ける振分部と、
前記親水部に振り分けられた原子の原子量の総和に基づいて、前記複合体のHLB値を算出するHLB値算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
分子の複合体のHLB値を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】HLB値算出装置の機能構成の一例を示す図である。
図2】HLB値算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図3】HLB値算出装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図4】算出結果の表示の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態(本実施の形態)について説明する。
【0013】
(HLB値算出装置の機能構成)
図1は、HLB値算出装置の機能構成の一例を示す図である。
【0014】
本実施の形態に係るHLB値算出装置1は、異なる分子種からなる分子の複合体から構成される界面活性剤等の物質のHLB値を、計算科学を用いて算出する装置である。具体的には、HLB値算出装置1は、分子情報取得部11と、立体構造決定部12と、電荷量算出部13と、相互作用部位特定部14と、閾値設定受付部15と、振分部16と、HLB値算出部17と、表示部18と、振分変更受付部19と、を備える。
【0015】
分子情報取得部11は、HLB値の算出対象となる分子の複合体を構成する各分子の化学構造を示す分子情報を取得する。分子の化学構造は、分子を構成する原子の数と種類であって、分子式等によって表される。例えば、HLB値の算出対象がメタンスルホン酸、ヘプタン酸およびTNOAの複合体である場合、分子情報は、それぞれCHSOH、CH(CHCOOHおよび(CH(CHNという分子式を示す情報である。分子情報取得部11は、ユーザの入力操作を受けるか、または他のデータベース等の装置から受信することによって、分子情報を取得する。
【0016】
立体構造決定部12は、分子の複合体を構成する各分子に対して、分子情報に基づいて立体構造を決定する。具体的には、立体構造決定部12は、Gasteiger法に基づいて各原子の電荷量を割り当てる。Gasteiger法は、原子の種別ごとに各原子に電荷量を割り当てる手法であって、構造を考慮しないで、概算の電荷量の算出が可能な手法である。そして、立体構造決定部12は、割り当てられた各原子の電荷量に基づいて、分子力学(MM:Molecular Mechanics)法を用いた構造最適化計算によって安定な立体構造を決定する。
【0017】
電荷量算出部13は、決定された立体構造に基づいて、各原子の電荷量を算出する。具体的には、電荷量算出部13は、半経験的量子化学計算方法であるAM1-BCC法によって各原子の電荷量を割り当てる。AM1-BCC法では原子種別ではなく、原子の結合型(SP2またはSP3等)に応じて電荷量が割り当てられる。ただし、電荷量の算出方法は求められる精度に応じて変更できる。例えば、より高精度なRESP(Restricted Electro Static Potential)を用いることができる。なお、立体構造と電荷の分布には相関があるため、電荷量算出部13は、立体構造決定部12が決定した立体構造を修正しても良い。
【0018】
相互作用部位特定部14は、分子複合体を構成する分子の間の相互作用部位を特定する。分子の複合体は、立体構造または各原子の電荷量が、例えば水素結合などのような、含まれる分子間の相互作用の影響を受けるという特徴を有する。そこで、相互作用部位特定部14は、算出された立体構造から相互作用の強い部位(以下、相互作用部位という)を特定し、特定された相互作用部位に基づいて分子の複合体の立体構造を推定する。その際、相互作用部位特定部14は、必要に応じて分子動力学計算または量子化学計算を行い、分子の複合体の立体構造を決定する。
【0019】
なお、相互作用の部位が実験等によって判明している場合は、分子情報取得部11が分子情報に相互作用の部位を示す情報を含めて取得しても良い。また、すでに分子の複合体の立体構造が実験等によって判明している場合は、分子情報取得部11が分子情報に立体構造を含めて取得しても良く、相互作用部位特定部14は、分子情報に含まれる立体構造に決定しても良い。
【0020】
例えば、メタンスルホン酸、ヘプタン酸およびTNOA(Tri-n-Octylamine)の複合体の場合、メタンスルホン酸の1つのO原子とヘプタン酸のカルボキシル基のH原子とが第一の相互作用箇所であり、ヘプタン酸のカルボキシ基のO原子とTNOAのN原子に付加したH原子とが第二の相互作用箇所である。
【0021】
ここで、相互作用部位特定部14は、特定された相互作用部位の原子の電荷量を、例えば0に変更する。これは、当該原子が相互作用している原子以外の他の原子と相互作用することがないためである。なお、相互作用部位の原子の電荷量は0でなくても良い。具体的には、閾値設定受付部15が設定を受け付けた閾値よりも電荷量の絶対値が小さければ良い。ただし、相互作用部位の原子の電荷量を0に変更すれば、0以上のすべての閾値に対応し得るため、汎用性が高い。
【0022】
閾値設定受付部15は、振分部16が各原子を親水部か否かを振り分けるための閾値の設定を受け付ける。具体的には、閾値設定受付部15は、ユーザの操作等による閾値の設定を受け付ける。ユーザは、例えば、対象の物質を実際に使用する溶媒の特性、例えば水と油の割合、油の種類等、による性質の違いが反映されたHLB値が算出されるように、過去の経験等に基づいて、閾値を設定する。
【0023】
また、閾値設定受付部15は、設定された閾値の変更を受け付ける。例えば、閾値設定受付部15は、ユーザが、後述する表示部18に表示されたHLB値が妥当でないと判断した場合等に、ユーザの操作を受けて、設定された閾値の変更を受け付ける。
【0024】
振分部16は、設定された閾値と、算出された各原子の電荷量と、を比較して、各原子を親水部か否かに振り分ける。
【0025】
HLB値算出部17は、親水部に振り分けられた原子の原子量の総和に基づいて、HLB値を算出する。具体的には、HLB値算出部17は、以下の式(1)のグリフィンの式によって、HLB値を算出する。
【0026】
HLB値=20×(親水部の式量の総和)/(分子量)・・・(1)
ここで、親水部の式量の総和とは、親水部に振り分けられた原子の原子量の総和である。また、分子量とは、算出対象の物質を構成する分子の複合体に含まれる全原子の原子量の総和である。
【0027】
表示部18は、立体構造決定部12によって決定された立体構造を示す情報、振分部16によって親水部か否かに振り分けられた結果を示す情報、および算出されたHLB値を示す情報等を表示する。表示部18は、HLB値算出装置1が備えるモニタ等に表示しても良いし、他の装置、例えばユーザの操作する端末等に表示しても良い。
【0028】
振分変更受付部19は、ユーザが、表示部18に表示された振り分けの結果が妥当でないと判断した場合等に、ユーザの操作を受けて、振り分けの変更を受け付ける。
【0029】
(HLB値算出装置の動作)
次に、HLB値算出装置1の動作について、図面を参照して説明する。図2は、HLB値算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0030】
ユーザの操作を受けて、分子情報取得部11は、対象となる分子の複合体を構成する分子ごとの化学構造を示す分子情報の入力を受け付ける(ステップS1)。例えば、対象がメタンスルホン酸、ヘプタン酸およびTNOAからなる分子の複合体である場合、分子式CHSOH、CH(CHCOOHおよび(CH(CHNが分子情報の一例である。
【0031】
次に、立体構造決定部12は、分子情報に基づいて、対象となる分子の複合体を構成する分子ごとの立体構造を決定する(ステップS2)。具体的には、立体構造決定部12は、Gasteiger法に基づいて各原子の電荷量を割り当てる。そして、立体構造決定部12は、割り当てられた各原子の電荷量に基づいて、分子力学(MM)法を用いた構造最適化計算によって安定な立体構造を算出する。なお、立体構造決定部12は、割り当てられた電荷量を各原子の中心における点電荷として扱い、立体構造を決定する。
【0032】
続いて、電荷量算出部13は、決定された立体構造に基づいて、対象となる分子の複合体を構成する各分子に含まれる各原子の電荷量を算出する(ステップS3)。具体的には、電荷量算出部13は、AM1-BCC法によって各原子の電荷量を割り当てる。なお、電荷量算出部13は、割り当てられた電荷量を各原子の中心における点電荷として計算する。
【0033】
次に、相互作用部位特定部14は、決定された立体構造と各原子の電荷量に基づいて、分子の複合体を構成する分子間の相互作用部位を特定し、相互作用部位の原子の電荷量を0とする(ステップS4)。
【0034】
次に、閾値設定受付部15は、閾値の設定を受け付ける(ステップS5)。具体的には、閾値設定受付部15は、ユーザから電気素量を単位とする数値、例えば0.10[e]を閾値として入力を受け付ける。
【0035】
振分部16は、閾値に基づいて、各原子を親水部か否かに振り分ける(ステップS6)。具体的には、振分部16は、絶対値が閾値以上の電荷量が割り当てられた原子を親水部に振り分け、閾値よりも小さい電荷量が割り当てられた原子を親水部以外に振り分ける。このようにして、振分部16は、親水部とそれ以外とに各原子をグループ化する。
【0036】
HLB値算出部17は、親水部の原子量の総量に基づいて、HLB値を算出する(ステップS7)。具体的には、HLB値算出部17は、上述した式(1)によって、HLB値を算出する。
【0037】
表示部18は、決定された立体構造を示す情報、各原子が親水部か否かを示す情報および算出されたHLB値を示す情報を表示する(ステップS8)。なお、表示部18は、これらの情報のいずれか1つまたは2つのみを表示しても良い。
【0038】
振分変更受付部19は、振り分けの変更を受け付けたか否かを判定する(ステップS9)。ユーザの操作を受けて、振分変更受付部19が振り分けの変更を受け付けたと判定すると(ステップS9:Yes)、HLB値算出部17は、ステップS8の処理に戻り、変更された振り分け結果に含まれる親水部の原子量の総量に基づいて、HLB値を算出する。
【0039】
また、振分変更受付部19が振り分けの変更を受け付けていない(変更しない旨の操作を受け付けた場合としても良い)と判定すると(ステップS9:No)、閾値設定受付部15は、閾値の変更を受け付けたか否かを判定する(ステップS10)。閾値設定受付部15が、閾値の変更を受け付けたと判定すると(ステップS10:Yes)、振分部16は、ステップS6の処理に戻り、変更された閾値に基づいて、各原子を親水部か否かに振り分ける。
【0040】
閾値設定受付部15が、閾値の変更を受け付けていない(変更しない旨の操作を受け付けた場合としても良い)と判定すると(ステップS10:No)、HLB値算出処理を終了する。
【0041】
次に、HLB値算出装置1のハードウェア構成について説明する。図3は、HLB値算出装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0042】
HLB値算出装置1は、コンピュータによって構成され、例えば、CPU(Central Processing Unit)101、主記憶装置102、補助記憶装置103、入力装置104、表示装置105、通信インターフェース装置106、ドライブ装置107を備える。これらの各装置は、バスで接続されている。
【0043】
CPU101は、HLB値算出装置1の動作を制御する主制御部であり、主記憶装置102に格納されたプログラムを読みだして実行することで、後述する各種の機能を実現する。
【0044】
主記憶装置102は、HLB値算出装置1の起動時に補助記憶装置103からプログラムを読み出して格納する。補助記憶装置103は、インストールされたプログラムを格納すると共に、後述する各種機能に必要なファイル、データ等を格納する。
【0045】
入力装置104は、各種の情報の入力を行うための装置であり、例えばキーボードやポインティングデバイス等により実現される。表示装置105は、各種の情報の表示を行うためものであり、例えばディスプレイ等により実現される。通信インターフェース装置106は、LANカード等を含み、他の装置等との接続の為に用いられる。
【0046】
本実施形態に係るプログラムは、HLB値算出装置1を制御する各種プログラムの少なくとも一部である。プログラムは、例えば記憶媒体108の配布やネットワークからのダウンロード等によって提供される。プログラムを記録した記憶媒体108は、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等の様に情報を光学的、電気的或いは磁気的に記録する記憶媒体、ROM、フラッシュメモリ等の様に情報を電気的に記録する半導体メモリ等、様々なタイプの記憶媒体を用いることができる。
【0047】
また、プログラムは、プログラムを記録した記憶媒体108がドライブ装置107にセットされると、記憶媒体108からドライブ装置107を介して補助記憶装置103にインストールされる。ネットワークからダウンロードされたプログラムは、通信インターフェース装置106を介して補助記憶装置103にインストールされる。
【0048】
(実施例)
本実施の形態に係るHLB値算出装置1の実施例について、説明する。対象とする分子の複合体をメタンスルホン酸、ヘプタン酸およびTNOAとして、実施した結果を以下に示す。
【0049】
表示部18は、図2に示したHLB値算出処理のステップS8において、決定された立体構造を示す情報、各原子が親水部か否かを示す情報および算出されたHLB値を示す情報を表示する。図4は、算出結果の表示の一例を示す図である。
【0050】
表示部18による表示内容は、分子の複合体の立体構造を示す構造モデルが、親水部に割り当てられた原子(黒色)と、親水部以外に割り当てられた原子(白色)と、に塗り分けられた表示部分と、算出されたHLB値の表示部分と、を含む。
【0051】
ユーザは、図4に示される振り分けの結果が、経験的に正しくないと判断した場合には、振分変更の操作を行うことができる。例えば、振分変更受付部19は、マウス等のポインティングデバイスによって、親水部に割り当てられるべき部分を、構造モデル上において指定する操作を受け付ける。また、ユーザは、表示されたHLB値が妥当でないと判断した場合に、閾値変更の操作を行うことができる。例えば、閾値設定受付部15は、ユーザから閾値となる数値の入力を受け付ける。
【0052】
図4に示したHLB値は、閾値を0.10[e]とした算出結果である。表1に示すように、算出された各HLB値が示す分子の複合体の性質は、実験によって得られた分子の複合体の性質と一致する結果であった。
【0053】
【表1】
【0054】
本実施の形態に係るHLB値算出装置1によれば、原子の点電荷に基づいて各原子を親水部か否かに振り分ける。これによって、分子の複合体であってもHLB値も算出可能であり、また、官能基が親水基か親油基かに基づく算出方法ではないため、相互作用によって官能基が必ずしも界面活性に関係しない場合であっても、相互作用を考慮したHLB値を算出できる。また、実験が必要ないため、分子の複合体のHLB値を簡単な操作によって算出できる。
【0055】
分子の複合体の中には水のpHによって水素イオンH+の付加/脱離が起こって分子の複合体の電荷が変化し、分子の複合体の性質が若干変化するものがある。従来のHLB値の算出方法では分子の複合体全体で電荷0としているため、分子の複合体の電荷が変わった場合は想定しておらず、HLB値が分子の複合体の性質を正しく反映していない場合がある。本実施の形態に係るHLB値算出装置は、点電荷を用いてHLB値を算出しているため、分子の複合体全体の電荷が0でなくてもHLB値を算出できる。上述した実施例では、低pH(pH=1-3程度)を想定した計算を行った。
【0056】
以上、本実施の形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施の形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、分子の複合体から構成される界面活性剤の性質の特定に適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 HLB値算出装置
11 分子情報取得部
12 立体構造決定部
13 電荷量算出部
14 相互作用部位特定部
15 閾値設定受付部
16 振分部
17 HLB値算出部
18 表示部
19 振分変更受付部
図1
図2
図3
図4