(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165481
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20221025BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20221025BHJP
C08G 75/0222 20160101ALI20221025BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20221025BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20221025BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20221025BHJP
B29B 7/48 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L23/08
C08G75/0222
C08J3/20 CES
C08J3/12 A CEZ
C08J5/00
B29B7/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070823
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】春成 武
【テーマコード(参考)】
4F070
4F071
4F201
4J002
4J030
【Fターム(参考)】
4F070AA13
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4J030BD21
4J030BF01
4J030BG10
4J030BG34
(57)【要約】
【課題】 耐熱性、耐薬品性、流動性などを損なうこともなく、耐衝撃性等の靭性に優れるポリアリーレンンスルフィド樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100重量部に対して、反応性官能基を有する熱可塑性エラストマー(B)1~50重量部を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、下記(a)及び(b)を満足するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
(a);ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物をメジアン径(D50)100μm以下の微粒子とし、微粒子を重量に対して100倍の溶剤に添加し、該溶剤の沸点よりも5~15℃低い温度範囲で3時間撹拌し、次いで0.45μmのフィルターろ過による固液分離後の溶液を乾固し、その際の残留物量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に配合した反応型熱可塑性エラストマー(B)の40重量%以下に相当する量である。
(b)ISO 1133に準拠して測定したMFRが10~200g/10分である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100重量部に対して、反応性官能基を有する熱可塑性エラストマー(B)1~50重量部を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、下記(a)及び(b)を満足することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
(a);ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物をメジアン径(D50)100μm以下の微粒子とし、微粒子を重量に対して100倍の溶剤に添加し、該溶剤の沸点よりも5~15℃低い温度範囲で3時間撹拌し、次いで0.45μmのフィルターろ過による固液分離後の溶液を乾固し、その際の残留物量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に配合した反応型熱可塑性エラストマー(B)の40重量%以下に相当する量である。
(b);ISO 1133に準拠して測定したMFRが10~200g/10分である。
【請求項2】
反応性官能基を有する熱可塑性エラストマー(B)が、エポキシ基、無水マレイン酸基、カルボン酸基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種以上の反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
反応性官能基を有する熱可塑性エラストマー(B)が、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種以上の変性エチレン系共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、グリシドキシ基を有するトリアルコキシシランカップリング剤及び/又はアミノ基を有するトリアルコキシシランカップリング剤からなるシランカップリング剤(C)を含んでなることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸アマイド系ワックスからなる群より選択される少なくとも1種以上の離型剤(D)を含んでなることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、繊維状充填材(E)を含むものであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
スクリュ長さLとスクリュ直径Dの比(L/D)が30以上であり、ニーディングゾーンを2か所以上有する二軸押出機を用い、該二軸押出機のニーディングゾーンのシリンダー温度265~320℃、スクリュ周速度50~400mm/秒、滞留時間30~100秒の条件で、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂及び反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーを溶融混練し、押し出すことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のブロー成形体であることを特徴とする中空成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の本来有する耐熱性、耐薬品性、流動性などを損なうこともなく、耐衝撃性等の靭性に優れるポリアリーレンンスルフィド樹脂組成物に関するものであり、ブロー成形や押出成形により製造される配管・継手などの中空成形品などの用途に特に有用なポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、耐薬品性、流動性などに優れた特性を示す樹脂であり、その優れた特性を生かし、電気・電子機器部材、自動車機器部材およびOA機器部材等に幅広く使用されている。しかしながらポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐衝撃性等の靭性に劣り、中空成形品とした場合の耐水圧性に乏しいという欠点を有しているため、一部の用途で使用が制限されていた。
【0003】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の靭性を改良する試みについては、例えば(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーを配合してなる樹脂組成物であって、その樹脂組成物の融点が225℃以上265℃以下であり、その樹脂組成物からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を、(B)アミノ基含有化合物および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成し、樹脂組成物の引張弾性率(シリンダー温度300℃、金型温度150℃にて射出成形して得たASTM1号ダンベル試験片を、チャック間距離114mm、試験間距離100mm、引張速度10mm/minの条件で引張試験した弾性率)が1.0MPa以上1000MPa以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(例えば、特許文献1参照。)、末端にカルボキシ基を樹脂中25~45〔μmol/g〕なる割合で有し、非ニュートン指数が0.90~1.15であり、かつ300℃で測定した溶融粘度が1000ポイズ~3000ポイズの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、エポキシ基を有するポリオレフィン(B)とを、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して前記エポキシ基を有するポリオレフィン(B)5~30質量部となる割合で溶融混合することを特徴とするブロー中空成形品用樹脂組成物の製造方法(例えば、特許文献2参照。)、等について提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-108537号公報
【特許文献2】特許第4936034号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2の提案は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の靭性を改良するため、ポリアリーレンスルフィド樹脂と反応しうる官能基を有する熱可塑性エラストマーを配合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物又はその製造方法に関するものであるが、ポリアリーレンスルフィド樹脂と熱可塑性エラストマーとが実際に反応しているかどうかの検証に関してはなんら言及されておらず、反応の根拠について示されていないため、反応による靭性改良への効果が不明確・安定性に欠くという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の本来有する耐熱性、耐薬品性、流動性などを損なうこともなく、耐衝撃性等の靭性に優れるポリアリーレンンスルフィド樹脂組成物を提供することを目的とし、さらに詳しくは、ブロー成形や押出成形により製造される配管・継手などの中空成形品などの用途に特に有用なポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、耐衝撃性等の靭性、流動性に優れるものとなりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100重量部に対して、反応性官能基を有する熱可塑性エラストマー(B)1~50重量部を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、下記(a)及び(b)を満足することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。
(a);ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物をメジアン径(D50)100μm以下の微粒子とし、微粒子を重量に対して100倍の溶剤に添加し、該溶剤の沸点よりも5~15℃低い温度範囲で3時間撹拌し、次いで0.45μmのフィルターろ過による固液分離後の溶液を乾固し、その際の残留物量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に配合した反応型熱可塑性エラストマー(B)の40重量%以下に相当する量である。
(b);ISO 1133に準拠して測定したMFRが10~200g/10分である。
【0009】
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0010】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100重量部に対して、反応性官能基を有する熱可塑性エラストマー(B)1~50重量部を含むものである。そして、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、(a);ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物をメジアン径(以下、D50と記す場合がある。)100μm以下の微粒子とし、微粒子を重量に対して100倍の溶剤に添加し、該溶剤の沸点よりも5~15℃低い温度範囲で3時間撹拌し、次いで0.45μmのフィルターろ過による固液分離後の溶液を乾固し、その際の残留物量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に配合した反応性官能基を有する熱可塑性エラストマー(B)の40重量%以下に相当する量である、及び(b);ISO 1133に準拠して測定したMFRが10~200g/10分である、との要件を満足するものである。
【0011】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成するポリアリーレンスルフィド樹脂としては、一般にポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであればよく、該ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルフォン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ビフェニレンスルフィド単位からなる単独重合体又は共重合体を挙げることができ、該ポリアリーレンスルフィドの具体的例示としては、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル等が挙げられ、その中でも、特に耐熱性、強度特性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂部材となることから、ポリ(p-フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【0012】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐衝撃性等の靭性と流動性のバランスに優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100~2500ポイズのポリアリーレンスルフィド樹脂であることが好ましく、特に150~2000ポイズのものであることが好ましい。
【0013】
該ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法として知られている方法により製造することが可能であり、例えば極性溶媒中で硫化アルカリ金属塩、ポリハロ芳香族化合物を重合することにより得る事が可能である。その際の極性有機溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を挙げる事ができ、硫化アルカリ金属塩としては、例えば硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化リチウムの無水物又は水和物を挙げる事ができる。また、硫化アルカリ金属塩としては、水硫化アルカリ金属塩とアルカリ金属水酸化物を反応させたものであってもよい。ポリハロ芳香族化合物としては、例えばp-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼン、p-ジヨードベンゼン、m-ジクロロベンゼン、m-ジブロモベンゼン、m-ジヨードベンゼン、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、4,4’-ジクロロジフェニルエーテル、4,4’-ジクロロジビフェニル等を挙げる事ができる。
【0014】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、直鎖状のもの、酸素中で加熱処理を施して架橋又は分岐構造を導入したもの、重合時にトリハロ以上のポリハロゲン化合物を少量添加して若干の架橋又は分岐構造を導入したもの、ポリアリーレンスルフィド樹脂の分子鎖の一部及び/又は末端を例えばカルボキシル基、カルボキシ金属塩、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基等の官能基により変性したもの、窒素などの非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものなどが挙げられ、さらにこれらポリアリーレンスルフィド樹脂の混合物であってもかまわない。その中でも、特に熱可塑性エラストマーの反応性官能基との反応性に優れ、耐衝撃性等の靭性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂がより容易に得られることから、ポリアリーレンスルフィド樹脂の分子鎖の一部をアミノ基により変性したものであることが好ましい。また、該ポリアリーレンスルフィド樹脂は、酸洗浄、熱水洗浄あるいはアセトン、メチルアルコールなどの有機溶媒による洗浄処理を行うことによってナトリウム原子、ポリアリーレンスルフィドのオリゴマー、食塩、4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエートのナトリウム塩などの不純物を低減させたものであってもよい。
【0015】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成する反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーの反応性官能基としては、例えばエポキシ基、無水マレイン酸基、カルボン酸基、アミノ基、イソシアネート基等が挙げられ、該反応性基を有する熱可塑性エラストマーをしては、例えばエチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-α-オレフィン共重合体等の変性エチレン系共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸またはその誘導体で変性したもの、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸またはその誘導体で変性したもの、スチレン-イソプレンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸またはその誘導体で変性したもの、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸またはその誘導体で変性したもの等のビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物等が挙げられ、また、ポリアリーレンスルフィド樹脂と反応しうる官能基を有するものであれば、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、アクリロニトリル-ブタジエンゴム系熱可塑性エラストマー、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体等をも用いることができる。この中でも、特に靭性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、変性エチレン系共重合体が好ましい。
【0016】
該反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーの配合量としては、耐衝撃性等の靭性と流動性とのバランスに優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物とすることが可能となることから、該ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対して、1重量部以上50重量部以下であり、特に5重量部以上40重量部以下であることが好ましい。該反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーの配合量が1重量部未満の場合、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は靭性に乏しいものとなり、また50重量部を超える場合、流動性に乏しいものとなる。
【0017】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、(a)として、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物をD50が100μm以下の微粒子とし、微粒子を重量に対して100倍の溶剤に添加し、該溶剤の沸点よりも5~15℃低い温度範囲で3時間撹拌し、次いで0.45μmのフィルターろ過による固液分離後の溶液を乾固し、その際の残留物量が、配合した反応性官能基を有する熱可塑性エラストマー(B)の40重量%以下に相当する量であることを満足するものである。
【0018】
ここで、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物微粒子のD50が100μmを超えるものである場合、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物微粒子中の熱可塑性エラストマー分の溶剤抽出が不安定なものとなる。なお、D50の測定方法としては、特に限定されるものではなく、例えば顕微鏡法、ふるい分け法、沈降法、光散乱法、慣性法、拡散法等の公知公用の方法を用いることができ、特にポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のD50を正確かつ容易に測定できることから、光散乱法が好ましい。また、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が樹脂ペレットや成形体である場合、該ペレットや成形体をD50が100μm以下の微粒子とする方法については特に限定されるものではなく、乾式粉砕、湿式粉砕、低温粉砕など、公知公用の方法を用いることができ、粉砕機としては、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、アトライター、ビーズミル等を用いることができる。
【0019】
また、この際の溶剤としては、反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーを溶解し、ポリアリーレンスルフィド樹脂を溶解しない溶剤であれば特に限定されるものではなく、例えばトルエン、キシレン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロナフタレン等を用いることができる。
【0020】
そして、該残留物量が、配合した反応性官能基を有する熱可塑性エラストマー(B)の40重量%以下に相当する量、すなわち該残留物量の重量をポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の微粒子の重量で除し、残留物の割合を求め、そして該残留物の割合をポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中の熱可塑性エラストマーの構成割合で除し、ポリアリーレンスルフィド組成物に配合した熱可塑性エラストマーの割合に対する残留物の割合が40重量%以下であることにより、耐衝撃性等の靭性に優れたものとなる。ここで、40重量%を超えるものである場合、ポリアリーレンスルフィド樹脂と反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーとの反応が不十分であり、ポリアリーレンスルフィド樹脂と反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーの親和性や相溶性が劣るものとなることから、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は耐衝撃性等の靭性に乏しいものとなる。
【0021】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、(b)として、ISO 1133に準拠して測定したMFRが10~200g/10分である、との要件を満足するものである。ここで、MFRが10g/10分未満の場合、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は流動性に乏しいものとなり、また200g/10分を超える場合、靭性に乏しいものとなる。
【0022】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、非繊維状充填材を配合していてもよく、非繊維状充填材としては、例えばワラストナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、パイロフィライト、タルク、アルミナシリケート等の珪酸塩;酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;窒化珪素、窒化硼素、窒化アルミニウム等の窒化物;ガラスフレーク、ガラスビーズ等を例示でき、その中でも、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、ガラスフレーク、ガラスビーズが好ましい。また、該非繊維状充填材は、イソシアネート系化合物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、エポキシ化合物等で表面処理したものであってもよい。
【0023】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、靭性等に優れるものとなることからグリシジル基を有するトリアルコキシシランカップリング剤及び/又はアミノ基を有するトリアルコキシシランカップリング剤からなるシランカップリング剤(C)を含むものであることが好ましい。その際のシランカプリリング剤(C)としては、グリシジル基あるいはアミノ基を有するトリアルコキシシランカップリングであれば特に制限されるものではなく、この範疇に属するものの具体的な例として、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等があげられる。また、該シランカップリング剤(C)の配合量としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対して0.1~3重量部であることが好ましい。
【0024】
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、成形品とする際の金型離型性や外観を改良するために離型剤(D)を含有するものであることが好ましい。該離型剤(D)としては、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸アマイド系ワックスが好適に用いられる。該ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスとしては、一般的な市販品を用いることができる。また、該脂肪酸アマイド系ワックスとは、高級脂肪族モノカルボン酸、多塩基酸及びジアミンからなる重縮合物でありこの範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えばステアリン酸、セバシン酸、エチレンジアミンからなる重縮合物である、(商品名)ライトアマイドWH-255(共栄社化学(株)製)等を挙げることができる。
【0025】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種添加剤を混合して使用することができ、例えば従来公知のポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線防止剤;発泡剤などの通常の添加剤を1種以上添加するものであってもよい。さらに、各種熱硬化性樹脂;反応性官能基を有しない熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリアルキレンオキサイド等の熱可塑性樹脂の1種以上を混合して使用してなるものであってもよい。
【0026】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、繊維状充填材(E)を混合して使用することができ、該繊維状充填材としては、例えばガラス繊維;PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;グラファイト化繊維;窒化珪素ウイスカー、塩基性硫酸マグネシウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、炭化珪素ウイスカー、ボロンウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等のウイスカー;ステンレス繊維等の金属繊維;ロックウール、ジルコニア、アルミナシリカ、チタン酸バリウム、炭化珪素、アルミナ、シリカ、高炉スラグ等の無機系繊維;全芳香族ポリアミド繊維、フェノール樹脂繊維、全芳香族ポリエステル繊維等の有機系繊維;ワラステナイト、マグネシウムオキシサルフェート等の鉱物系繊維等が挙げられ、特に機械強度、耐衝撃性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、ガラス繊維であることが好ましい。該ガラス繊維としては、一般にガラス繊維と称すものであれば如何なるものを用いてもよい。該ガラス繊維の具体的例示としては、平均繊維径が6~14μmのチョップドストランド、繊維断面のアスペクト比が2~4の扁平ガラス繊維からなるチョップドストランド、ミルドファイバー、ロービング等のガラス繊維;シラン繊維;アルミノ珪酸塩ガラス繊維;中空ガラス繊維;ノンホーローガラス繊維等が挙げられ、その中でもとりわけ機械強度、耐衝撃性、流動性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、平均繊維径が6~14μmのチョップドストランド、ないしは、繊維断面のアスペクト比が2~4である扁平ガラス繊維からなるチョップドストランドであることが好ましい。これらの繊維状充填材は2種以上を併用することも可能であり、必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものを用いてもよい。該繊維状充填材(E)の配合量としては、靭性と機械強度、流動性とのバランスに優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対して10~150重量部が好ましく、特に20~140重量部であることが好ましい。
【0027】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法としては、従来使用されている加熱溶融混練方法を用いることができる。例えば単軸または二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダー等による加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、二軸押出機に使用されるスクリュは、ニーディングゾーンを2か所以上有することが好ましい。さらに、ポリアリーレンスルフィド樹脂と反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーとの反応時間を十分なものとし、その結果、耐衝撃性等の靭性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を効率的に製造することが可能となることから、スクリュ長さLとスクリュ直径Dの比(L/D)としては、30以上が望ましく、特に40以上が好ましい。また、ポリアリーレンスルフィド樹脂と反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーとの反応を十分なものとし、且つ熱可塑性エラストマーの熱分解を抑制し易くなることから、二軸押出機のニーディングゾーンのシリンダー温度を265℃~320℃に設定することが好ましく、特に270~310℃に設定することが好ましい。さらに、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のポリアリーレンスルフィド樹脂相中における反応性官能基を有する熱可塑性エラストマー相の分散性及び分配性を良好なものとし、その結果、耐衝撃性等の靭性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、スクリュの周速度は50~400mm/秒であることが好ましく、特に150~300mm/秒が好ましい。また、押出機内の溶融樹脂の滞留時間としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂と反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーとの反応時間を十分なものとし、且つ熱可塑性エラストマーの熱分解を抑制し易くなることから、30~100秒が好ましく、特に30~80秒であることが好ましい。
【0028】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形機、押出成形機、トランスファー成形機、圧縮成形機等を用いて任意の形状に成形することができる。
【0029】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂が本来有する耐熱性、耐薬品性、流動性などを損なうことなく、耐冷熱衝撃性等の靭性に優れる特性を併せ持つものであり、これら特性を必要とする電気・電子部品又は自動車部品などの用途、特にブロー成形や押出成形により製造される配管・継手などの中空成形品などの用途に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、耐冷熱衝撃性等の靭性、さらには、流動性、機械強度に優れ、特に電気・電子部品又は自動車部品などの用途に有用なポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供することができ、その産業的価値は極めて高いものである。
【実施例0031】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0032】
実施例及び比較例において用いた、ポリアリーレンスルフィド(A)、熱可塑性エラストマー(B)、シランカップリング剤(C)、離型剤(D)、繊維状充填材(E)を以下に示す。
【0033】
<ポリアリーレンスルフィド(A)>
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-1)と記す。):溶融粘度470ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-2)と記す。):溶融粘度820ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-3)と記す。):溶融粘度1580ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-4)と記す。):溶融粘度2520ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-5)と記す。):溶融粘度80ポイズ。
【0034】
<熱可塑性エラストマー(B)>
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体(B-1)(以下、単に熱可塑性エラストマー(B-1)と記す。);SK global chemical社製、(商品名)ボンダインAX8390、反応性基:無水マレイン酸、エチレン残基単位:α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位:無水マレイン酸残基単位(重量比)=69.7:29:1.3。
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸メチルエステル共重合体(B-2)(以下、単に熱可塑性エラストマー(B-2)と記す。):住友化学株式会社製、(商品名)ボンドファースト7M、反応性基:エポキシ基、エチレン残基単位:α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:α、β-不飽和カルボン酸メチルエステル残基単位(重量比)=67:6:27。
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(B’-3)(以下、単に熱可塑性エラストマー(B’-3)と記す。);SK global chemical社製、(商品名)LOTRYL 35BA40T、反応性基:なし、エチレン残基単位:α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位(重量比)=65:35。
【0035】
<シランカップリング剤(C)>
アミノ基を有するトリアルコキシシランカップリング剤(C-1);信越化学工業株式会社製、(商品名)KBM-903;3-アミノプロピルトリメトキシシラン。
グリシジル基を有するトリアルコキシシランカップリング剤(C-2);信越化学工業株式会社製、(商品名)KBM-403;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。
【0036】
<離型剤(D)>
離型剤(D-1);共栄社化学株式会社製、(商品名)ライトアマイドWH-255。
【0037】
<繊維状充填材(E)>
ガラス繊維(E-1);日本電気硝子株式会社製、(商品名)T-760H;繊維径10μm、繊維長3mm。
ガラス繊維(E-2);日東紡株式会社製チョップドストランド、(商品名)CSG-3PA 830、繊維断面のアスペクト比4。
【0038】
合成例1
攪拌機を装備する50リットルオートクレーブに、Na2S・2.9H2O、6214g及びN-メチル-2-ピロリドン、17000gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、1355gの水を留去した。この系を140℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン7168g、3,5-ジクロロアニリン12g、N-メチル-2-ピロリドン5000gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて2時間重合させた後、30分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、遠心分離器により固形分を単離した。該固形分を180℃の熱水で洗浄し100℃で一昼夜乾燥することにより、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。
【0039】
得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、真空乾燥機による減圧条件下、240℃で4時間の乾燥を行い、リニア型アミノ基含有ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-1)と記す。)を得た。PPS(A-1)の溶融粘度は470ポイズであった。
【0040】
合成例2
攪拌機を装備する50リットルオートクレーブに、Na2S・2.9H2O、6214g及びN-メチル-2-ピロリドン、17000gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、1355gの水を留去した。この系を140℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン7180g、3,5-ジクロロアニリン6g、N-メチル-2-ピロリドン5000gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて2時間重合させた後、30分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、遠心分離器により固形分を単離した。該固形分を180℃の熱水で洗浄し100℃で一昼夜乾燥することにより、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。
【0041】
得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、真空乾燥機による減圧条件下、240℃で6時間の乾燥を行い、リニア型アミノ基含有ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-2)と記す。)を得た。PPS(A-2)の溶融粘度は820ポイズであった。
【0042】
合成例3
3,5-ジクロロアニリンを用いなかった以外は、合成例1と同様の重合方法により、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。
【0043】
得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、空気雰囲気下250℃で3時間硬化を行い、分岐型ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-3)と記す。)を得た。PPS(A-3)の溶融粘度は1580ポイズであった。
【0044】
合成例4
3,5-ジクロロアニリンを用いなかった以外は、合成例2と同様の重合方法により、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。
【0045】
得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、空気雰囲気下250℃で5時間硬化を行い、分岐型ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-4)と記す。)を得た。PPS(A-4)の溶融粘度は2520ポイズであった。
【0046】
合成例5
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、Na2S・2.9H2O、1814g、粒状の苛性ソーダ(100%NaOH:和光純薬特級)8.7g及びN-メチル-2-ピロリドン、3232gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、339gの水を留去した。この系を190℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン2085g、N-メチル-2-ピロリドン1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて2時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、遠心分離器により固形分を単離した。該固形分を180℃の熱水で洗浄し105℃で一昼夜乾燥することにより、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。
【0047】
得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、真空乾燥機による減圧条件下、240℃で6時間の乾燥を行い、リニア型ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-5)と記す。)を得た。PPS(A-5)の溶融粘度は80ポイズであった。
【0048】
得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の評価・測定方法を以下に示す。
【0049】
~ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度測定~
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスター((株)島津製作所製、(商品名)CFT-500)にて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で溶融粘度の測定を行った。
【0050】
~D50の測定~
実施例および比較例で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のペレットを液体窒素を用いて冷却し、機械粉砕して得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の微粒子を用いて、レーザ散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、(商品名)LA-500)によりD50の測定を行った。
【0051】
~ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に配合した熱可塑性エラストマーの割合に対する残留物の割合~
実施例および比較例で得られたポリアリーレンスルフィド組成物のペレットを液体窒素を用いて冷却し、機械粉砕して得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の微粒子3gをトルエン(沸点110℃)300gを入れたガラス容器内に浸漬させ、100℃の温度で3時間撹拌し、次いで0.45μmのフィルターでろ過した後、ろ過液を蒸発乾固して残留物を回収し、重量を測定した。そして該重量を得られたポリアリーレンスルフィド組成物の微粒子の重量(3g)で除し、残留物の割合を求めた。そして、該残留物の割合をポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中の熱可塑性エラストマーの構成割合で除し、ポリアリーレンスルフィド組成物に配合した熱可塑性エラストマーの割合に対する残留物の割合を求めた。
【0052】
~ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の流動性の評価~
得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を用い、ISO 1133に準拠してMFRを測定した。MFRが10g/10分以上のものを流動性に優れるとした。
【0053】
~ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のシャルピー衝撃強度(ノッチ付き)の測定~
射出成形機(住友重機械工業株式会社製、(商品名)SE-75S)によって試験片を作製し、ISO 179-1に準拠し測定を行った。シャルピー衝撃強度5kJ/m2以上のものを、耐衝撃性に優れているとした。
【0054】
~耐水圧性の評価~
サクションブロー成形機によって肉厚2mm、外径30mm、長さ200mmの中空成形体を作製し、水を充填した手動テストポンプ(キョーワ製)のホースと接続した後、試験用部品内の空気を抜き、試験用部品に栓をした後、手動ハンドルで試験用部品内に水を圧入し、試験用部品の破壊による水圧の低下が起こるまでの最大水圧を測定した。最大水圧が5MPa以上のものを耐水圧性に優れるとした。
【0055】
実施例1
合成例2で得られたPPS(A-2)100重量部に対し、熱可塑性エラストマー(B-1)10重量部を予め均一に混合し、ニーディングゾーンを4か所有する二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、(商品名)TEX-25αIII、L/D=55)のホッパーに投入し、ニーディングゾーンのシリンダー温度を285℃に加熱した条件で原料供給速度25kg/hr、スクリュ回転数200rpm(周速度:258mm/秒)にて溶融混練し、滞留時間50秒にてダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断してペレット状のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を作製した。その際のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の構成割合は,PPS(A-2)91重量%、熱可塑性エラストマー(B-1)9重量%であり、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のMFRは150g/10分であった。
【0056】
また、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物ペレットを上記した条件にて機械粉砕してD50=30μmのポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の微粒子を得た。次いで、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の微粒子を用い、ろ過液を蒸発乾固して回収した残留物の測定を行ったところ、0.075g(熱可塑性エラストマー(B-1)の28wt%に相当)であった。
【0057】
さらに、シリンダー温度300℃、金型温度140℃に加熱した射出成形機(住友重機械工業株式会社製、(商品名)SE75)を用いて該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を射出成形し、引張破壊伸び、シャルピー衝撃強度を評価するためのテストピースを作製した。それぞれの評価を行った結果を表1に示した。
【0058】
得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、引張破壊伸び、耐衝撃性、流動性、耐水圧性に優れるものであった。
【0059】
実施例2~8
ポリアリーレンスルフィド(A)、熱可塑性エラストマー(B)、シランカップリング剤(C)、離型剤(D)の配合割合及び溶融混練条件を表1に示す条件として、実施例1と同様の方法によりペレット状のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を作製した。これらポリアリーレンスルフィド樹脂組成物ペレットを機械粉砕して得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の微粒子のD50は全て100μm以下であった。そして、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表1に示した。
【0060】
得られた全てのポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の残留物の割合は40重量%以下であり、耐衝撃性、流動性、耐水圧性に優れるものであった。
【0061】
実施例9~11
ポリアリーレンスルフィド(A)、熱可塑性エラストマー(B)の配合割合を表1に示す条件として二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、(商品名)TEX-25αIII、L/D=55)のホッパーに投入した。一方、無機充填材(E)を該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、溶融混練条件を表1に示す条件として、実施例1と同様の方法によりペレット状のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を作製した。これらポリアリーレンスルフィド樹脂組成物ペレットを機械粉砕して得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の微粒子のD50は全て100μm以下であった。そして、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表1に示した。
【0062】
得られた全てのポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の残留物の割合は40重量%であり、耐衝撃性、流動性、耐水圧性に優れるものであった。
【0063】
【0064】
比較例1~8
ポリアリーレンスルフィド(A)、熱可塑性エラストマー(B)の配合割合及び溶融混練条件を表2に示す条件として、実施例1と同様の方法によりペレット状のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を作製した。該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物ペレットを機械粉砕して得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の微粒子のD50は全て100μm以下であった。そして、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表2に示した。
【0065】
比較例1、2、3、6より得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の残留物の割合は40重量%を超え、耐衝撃性、耐水圧性が劣るものであった。比較例4より得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、耐衝撃性、流動性、耐水圧性が劣るものであり、比較例5、8より得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、耐衝撃性、耐水圧性が劣るものであり、比較例7より得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、流動性、耐水圧性が劣るものであった。
【0066】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の本来有する耐熱性、耐薬品性、流動性などを損なうこともなく、耐衝撃性等の靭性に優れるポリアリーレンンスルフィド樹脂組成物に関するものであり、ブロー成形や押出成形により製造される配管・継手などの中空成形品などの用途に特に有用なものである。