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特開2022-165676ロッカーボギー車及びロッカーボギー車の駆動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165676
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ロッカーボギー車及びロッカーボギー車の駆動方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 57/032 20060101AFI20221025BHJP
   B62D 61/10 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
B62D57/032 P
B62D61/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071110
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水内 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】横山 颯太
(72)【発明者】
【氏名】山中 和之
(72)【発明者】
【氏名】日吉 健太
(72)【発明者】
【氏名】牧野 洋三
(72)【発明者】
【氏名】興津 俊幸
(57)【要約】
【課題】段差踏破性能を確保可能なロッカーボギー車を実現すること。
【解決手段】前輪(11)、中輪(12)及び後輪(13)の各々が左右に一対ずつ設けられた計6輪のロッカーボギー車(1)が、前輪(11)及び中輪(12)が各々軸支されるボギーリンク(2)と、ボギーリンク(2)が接続され、後輪(13)が軸支されるロッカーリンク(3)と、ロッカーリンク(3)に接続される本体(5)と、ボギーリンク(2)と本体(5)又はロッカーリンク(3)との間に配設される弾性体(ばね6)と、を備え、本体(5)又はボギーリンク(2)は、ロッカーリンク(3)に接続された接合点(21)を中心とした前後の振動が可能であり、ボギーリンク(2)の振動により、弾性体(ばね6)に弾性エネルギーが蓄積される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪、中輪及び後輪の各々が左右に一対ずつ設けられた計6輪のロッカーボギー車であって、
前記前輪及び前記中輪が各々軸支されるボギーリンクと、
前記ボギーリンクが接続され、前記後輪が軸支されるロッカーリンクと、
前記ロッカーリンクに接続される本体と、
前記ボギーリンクと前記本体又は前記ロッカーリンクとの間に配設される弾性体と、を備え、
前記ボギーリンクは、前記本体又は前記ロッカーリンクに接続された接合点を中心とした前後の振動が可能であり、
前記ボギーリンクの前記振動により、前記弾性体に弾性エネルギーが蓄積される、ロッカーボギー車。
【請求項2】
前記前輪、前記中輪及び前記後輪の駆動方向が所定のタイミングで反転制御されることで、前記弾性体を前記ボギーリンクの中立位置から伸長させて蓄積される弾性エネルギーの蓄積と解放とにより、前記前輪の振り上げ又は前記中輪の振り上げが可能な請求項1に記載のロッカーボギー車。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のロッカーボギー車の駆動方法であって、
前記前輪、前記中輪及び前記後輪を前進駆動として前進すること、
進行方向に段差を検出すると前記前輪及び前記中輪を後進駆動として前記中輪を振り上げること、
前記中輪が接地していない状態で、前記前輪を前進駆動とし、前記中輪を前進駆動とし、前記後輪を後進駆動とすることで、前記中輪が接地すると前記前輪が振り上がるように前記ボギーリンクを振り上げること、
前記前輪が前記段差に乗り上げると、前記後輪を前進駆動として前記ロッカーボギー車を前進させて前記段差を踏破すること、を含むロッカーボギー車の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッカーボギー車及びロッカーボギー車の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車輪により走行する移動装置では不整地の走行が困難であるため、このような移動装置に対して不整地の走行を可能とするための技術開発が進められている。
このような技術として、ロッカーボギー機構を例示することができる。
また、車輪により走行する移動装置には、不整地の走行を可能とするための技術のみならず、段差を乗り越えるための段差踏破性能も求められている。
【0003】
ロッカーボギー車の段差踏破では、前輪を段差に乗り上げるために、中輪及び後輪の推進力により前輪を段差に押し当てた状態で、前輪が段差を上向きに登る力を生み出すことで、前輪と段差の間の摩擦を十分に確保し、前輪が段差を乗り上げる。
しかしながら、前輪と段差の間の摩擦が足りない場合、又は前輪のトルクが足りない場合には、段差踏破することが困難であるという問題があった。
そこで、従来技術の一例である非特許文献1には、ロッカー機構を制御することで段差高さに合わせて前輪を持ち上げて車体を前進させ、前輪が段差のエッジにかかったところでロッカー機構を制御することで前輪と中輪とを同じ高さに合わせてさらに車体を前進させて中輪を段差上に乗せ、後輪が段差側面に接触後にロッカー機構を初期位置に戻すことにより後輪を持ち上げる、段差踏破性能を有する6輪のロッカーボギー車が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】山崎文仁、外2名、「不整地走行機構を有する移動ロボットの自律走行の実現」、第13回ロボティクスシンポジア予稿集、2008年3月、pp.277-282
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の非特許文献1に開示された技術では、ロッカーボギー車にボギーリンクを能動的に制御するための構成、例えばボギーリンクの角度を制御するためのモータ等を要する、という問題があった。
このようなボギーリンクを能動的に制御するための構成は、ロッカーボギー車の軽量化、小型化、又は簡素化を妨げるものである。
また、受動的なロッカーボギー車においては、前輪と段差の間の摩擦が足りない場合、又は前輪のトルクが足りない場合には、段差踏破性能を確保することが困難である、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、前輪と段差の間の摩擦が足りない場合若しくは前輪のトルクが足りない場合であっても、又は、ボギーリンクを能動的に制御するための構成が設けられていない場合であっても、段差踏破性能を確保可能なロッカーボギー車を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決して目的を達成する本発明の一つは、前輪、中輪及び後輪の各々が左右に一対ずつ設けられた計6輪のロッカーボギー車であって、前記前輪及び前記中輪が各々軸支されるボギーリンクと、前記ボギーリンクが接続され、前記後輪が軸支されるロッカーリンクと、前記ロッカーリンクに接続される本体と、前記ボギーリンクと前記本体又は前記ロッカーリンクとの間に配設される弾性体と、を備え、前記ボギーリンクは、前記本体又は前記ロッカーリンクに接続された接合点を中心とした前後の振動が可能であり、前記ボギーリンクの前記振動により、前記弾性体に弾性エネルギーが蓄積される、ロッカーボギー車である。
【0008】
上記構成のロッカーボギー車は、前記前輪、前記中輪及び前記後輪の駆動方向が所定のタイミングで反転制御されることで、前記弾性体を前記ボギーリンクの中立位置から伸長させて蓄積される弾性エネルギーの蓄積と解放とにより、前記前輪の振り上げ又は前記中輪の振り上げが可能となる。
【0009】
又は、本発明の一つは、上記構成のロッカーボギー車の駆動方法であって、前記前輪、前記中輪及び前記後輪を前進駆動として前進すること、進行方向に段差を検出すると前記前輪及び前記中輪を後進駆動として前記中輪を振り上げること、前記中輪が接地していない状態で、前記前輪を前進駆動とし、前記中輪を前進駆動とし、前記後輪を後進駆動とすることで、前記中輪が接地すると前記前輪が振り上がるように前記ボギーリンクを振り上げること、前記前輪が前記段差に乗り上げると、前記後輪を前進駆動として前記ロッカーボギー車を前進させて前記段差を踏破すること、を含むロッカーボギー車の駆動方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前輪と段差の間の摩擦が足りない場合若しくは前輪のトルクが足りない場合であっても、又は、ボギーリンクを能動的に制御するための構成が設けられていない場合であっても、段差踏破性能を確保可能なロッカーボギー車を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車の構成を示す左側面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車におけるボギーリンクの前後の振動を示す左側面図である。
図3a図3aは、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車における前進走行時を示す左側面図である。
図3b図3bは、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車における中輪振り上げ動作時を示す左側面図である。
図3c図3cは、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車における前輪振り上げ動作時を示す左側面図である。
図4図4は、変形例である本発明の実施形態に係るロッカーボギー車の構成を示す左側面図である。
図5図5は、本発明の実施形態において、弾性体としてねじりばねが用いられた形態を示す図である。
図6図6は、オフセット角度を示す図である。
図7a図7aは、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車の段差直前を示す左側面図である。
図7b図7bは、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車における前輪振り上げ動作時を示す左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
ただし、本発明は、以下の実施形態の記載によって限定解釈されるものではない。
【0013】
(実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車1の構成を示す左側面図である。
図1に示すロッカーボギー車1は、前輪11、中輪12及び後輪13の各々が左右に一対ずつ設けられた計6輪のロッカーボギー車であり、左右2つのボギーリンク2と、左右2つのロッカーリンク3と、1つの本体5と、左右2つのばね6と、を備える。
図1には、左側面のみが示されているが、右側面も同様の構成である。
【0014】
前輪11は、ボギーリンク2を貫通する前輪軸110により軸支されている。
中輪12は、ボギーリンク2を貫通する中輪軸120により軸支されている。
後輪13は、ロッカーリンク3を貫通する後輪軸130により軸支されている。
ボギーリンク2とロッカーリンク3とは、接合点21において接続されている。
接合点21において、ボギーリンク2とロッカーリンク3の角度は、後輪13と、前輪11及び中輪12の角度と、に対して自由に変化することが可能である。
【0015】
ロッカーリンク3と本体5とは、固定支軸により接続されていてもよいし、又は可動支軸により接続されていてもよい。
【0016】
ロッカーリンク3と本体5が、固定支軸により固定接続されている場合、ばね6は、前輪11、中輪12及び後輪13が接地していないときに前輪及び中輪と後輪との位置関係が特定の位置となる中立位置とするように、一端である第1端部61とボギーリンク2の中立位置とが接続され、他端である第2端部62と本体5とが接続されている。
中立位置において、本体5は、ばね6の弾性エネルギーが解放されたときに安定した状態になる。
本体5及びロッカーリンク3が本体5の水平状態を保持するように制御する場合には、本体5及びロッカーリンク3は変動するため、側面図におけるロッカーリンク3の形状を本体5と重なる部分が大きい形状とし、第2端部62は、本体5ではなくロッカーリンク3に配置されていてもよい。
上述のように本体5の重心を制御可能に構成されている場合には、前輪11及び中輪12が接続されたボギーリンク2と後輪13のロッカーリンク3との角度に応じて振動が生じるので、ばね6は、本体5を水平状態で保持するように制御する場合には、本体5ではなく、ボギーリンク2とロッカーリンク3との間に配置される。
【0017】
なお、ばね6は、ボギーリンク2とロッカーリンク3との間にオフセット角度を設定し、前輪11、中輪12及び後輪13が接地している状態で弾性エネルギーが蓄えられるように接続されていてもよい。
図6は、オフセット角度を示す図である。
図6に示すように、接合点21と第2端部62とを結ぶ線分を基準とし、接合点21と第1端部61とを結ぶ線分との間の角度をオフセット角度と規定する。
オフセット角度は、-90°~90°とし、例えば20°とすることができる。
ただし、オフセット角度は、この範囲に限定されるものではない。
このような構成とすると、弾性エネルギーによってボギーリンク2が前輪11を持ち上げる方向のトルクを得ることができ、前輪11が持ち上げられる。
図7aは、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車1の段差直前を示す左側面図である。
図7aに示すように、ロッカーボギー車1は、段差の直前で後輪13を後進駆動とし、前輪11及び中輪12を前進駆動とする。
図7bは、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車1における前輪振り上げ動作時を示す左側面図である。
前輪11が段差に衝突すると、前輪11は持ち上げられて段差上に乗り上げる。
そのタイミングで、後輪13は前進駆動に切り替えられる。
その後中輪12が段差に衝突すると、中輪12は持ち上げられて段差上に乗り上げ、その後後輪13が段差に衝突すると、後輪13は持ち上げられて段差上に乗り上げる。
このように、ばね6は、振動のための構成であるとともに、前輪11を持ち上げる際の補助力を生じさせるための構成としても機能し得る。
逆に、例えば、ロッカーボギー車1の重心が中輪12よりも後方に存在する場合等のように、前輪11は容易に持ち上げられるものの、中輪12の持ち上げが容易ではない場合には、釣り合いの位置を中輪上げサポートに寄った位置とし、ばね6を、中輪12を持ち上げる際の補助力を生じさせるための構成とすることが好ましい。
すなわち、上記の例とは逆方向に負のオフセット角度が設定されると、立板の無い段差に中輪12をのせる際の補助力を生じさせることが可能となる。
このように、オフセット角度の設定によって、ばね6の機能を調整することができる。
【0018】
ボギーリンク2は、ロッカーリンク3に接続された接合点21を中心として前後に振動可能である。
ばね6には、ボギーリンク2の前後の振動により弾性エネルギーが蓄積される。
【0019】
なお、上述のように、ロッカーリンクと本体とが可動支軸により接続されている場合には、走行状態によって変化する本体の重心を制御可能に構成されていてもよい。
すなわち、ロッカーリンクに対して本体を任意の角度で傾けてその状態を保持するための構成が設けられていてもよい。
【0020】
図4は、変形例である本発明の実施形態に係るロッカーボギー車1aの構成を示す左側面図である。
図4に示すロッカーボギー車1aは、前輪11、中輪12及び後輪13の各々が左右に一対ずつ設けられた計6輪のロッカーボギー車であり、左右2つのボギーリンク2と、1つの本体5と、左右2つのばね6と、を備える点は図1に示すロッカーボギー車1と同様であるが、2つのロッカーリンク3に代えて2つのロッカーリンク3aを備える点が、図1に示すロッカーボギー車1と異なる。
図4に示すばね6は、一端である第1端部61とボギーリンク2の中立位置とが接続され、他端である第2端部62とロッカーリンク3aとが接続されている。
図4に示すように、ロッカーリンク3aは、ばね6の第2端部62の位置まで拡張された形状である。
図4に示すロッカーボギー車1aは、ロッカーリンク3aに対して本体5を任意の角度で傾けて水平状態を保持可能である。
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車1におけるボギーリンク2の前後の振動を示す左側面図である。
前輪11及び中輪12はボギーリンク2により一体とされているが、ボギーリンク2に配置されたばね6の弾性エネルギーによって、前輪11は前輪11’の位置に移動し、中輪12は中輪12’の位置に移動し、ボギーリンク2はボギーリンク2’の位置に移動し、ばね6はばね6’の位置に移動することで、振り子様の振動が生じ、前輪11及び中輪12の振り上げを加速させることが可能となる。
【0022】
ここで、ロッカーボギー車1の全重量mgと、前輪11が接地面から受ける力N1、中輪12が接地面から受ける力N2、及び後輪13が接地面から受ける力N3との関係は、mg=N1+N2+N3となる。
また、前輪11、中輪12及び後輪13に加わる力が均等であるとすると、N1=N2=N3である。
【0023】
そして、接合点21と中輪軸120との接地面上における距離A2、接合点21と前輪軸110との接地面上における距離A1、ロッカーボギー車1の重心位置と後輪軸130との接地面上における距離B2、及びロッカーボギー車1の重心位置と接合点21との接地面上における距離B1を用いると、モーメントの釣り合いにより、A2×N2=A1×N1が成立し、B2×N3=B1×(N1+N2)が成立し、A1=A2、B2=2×B1である。
ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
ロッカーボギー車1の6輪の車輪の各々は、互いに独立した制御が可能なモータで駆動される。
2つの前輪11及び2つの中輪12は、接合点21を中心とした振動が可能である。
ボギーリンク2の中立位置に配置されたばね6は、各車輪の独立した駆動により伸長すると、弾性エネルギーを蓄積する。
そして、ばね6に蓄積された弾性エネルギーが解放されると、前輪11又は中輪12が振り上げられる。
【0025】
図3aは、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車1における前進走行時を示す左側面図である。
図3aに示すように、ロッカーボギー車1が前進走行しているときには、前輪11、中輪12及び後輪13のすべてが前進駆動とされている。
【0026】
図3bは、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車1における中輪振り上げ動作時を示す左側面図である。
図3bに示すように、ロッカーボギー車1は、図示しないセンサ等により走行方向に段差を検出すると、2つの中輪12の振り上げ動作を行う。
このとき、2つの前輪11及び2つの中輪12は後進駆動とし、2つの後輪13は前進駆動とすることで、2つの前輪11及び2つの中輪12と接地面との間に生じる摩擦力又は2つの前輪11と接地面との間に生じる摩擦力によって、ばね6をボギーリンク2の中立位置から伸長させて弾性エネルギーを蓄積させるとともに、中輪12を振り上げることができる。
そして、中輪12の振り上がり位置が最高点付近に達したときに、前輪11及び後輪13の駆動トルクを反転させ、ボギーリンク2の角度を変更する。
ここで、中輪12の振り上がり位置の最高点付近の検出は、例えば、図示しないジャイロセンサを用いてボギーリンク2の角速度を検出し、若しくは加速度を検出し、又は、ボギーリンク2とロッカーリンク3の相対角度をロータリーエンコーダ等の角度センサで計測する手法等により行う。
中輪12の振り上がり位置の最高点付近は、角速度の方向が反転する位置である。
また、ここでは、前輪11及び後輪13の駆動トルクの反転は、中輪12の振り上がり位置が最高点付近に達したときに行っているが、本発明は、これに限定されるものではない。
前輪11及び後輪13の駆動トルクの反転は、中輪12が振り上がりから反転して下がるように行われていればよい。
【0027】
図3cは、本発明の実施形態に係るロッカーボギー車1における前輪振り上げ動作時を示す左側面図である。
図3bの状態から図3cに示すように、2つの前輪11及び2つの中輪12を前進駆動とし、2つの後輪13を後進駆動とすることで、ばね6をボギーリンク2の中立位置から伸長させて蓄積した弾性エネルギーの解放によって振り上がった中輪12は、下降して接地する。
そして、中輪の前進駆動も加わることで、2つの前輪11が振り上がる。
このようにして、ロッカーボギー車1は2つの前輪11の振り上げ動作を行い、2つの前輪11は、段差に乗り上げる。
2つの前輪11の段差への乗り上げは、画像センサ、ジャイロセンサ、加速度センサ又は慣性計測装置等により検出すればよく、特定の手段に限定されるものではない。
2つの前輪11の段差への乗り上げ後、2つの後輪13を前進駆動とすることで、ロッカーボギー車1は、2つの前輪11、2つの中輪12及び2つの後輪13のすべてを前進駆動とすることにより前進し、段差を踏破する。
【0028】
上述のように6つの駆動輪の各々を制御することにより、接合点21において回転トルクを発生させて、ボギーリンク2の2つの前輪11及び2つの中輪12を振り上げることができる。
ボギーリンク2の2つの前輪11を振り上げることで、2つの前輪11は段差に乗り上げることが可能となり、高い段差踏破性能を実現することができる。
【0029】
上述のように、6輪のロッカーボギー車1の6つの車輪の各々の駆動トルクを独立して制御することで、ロッカーボギー車1は、ボギーリンク2の2つの前輪11を持ち上げるように動作する。
また、ボギーリンク2の接合点21の各々に接続されたばね6の引張機構により弾性エネルギーが付加されるためボギーリンク2は振動しやすくなり、ボギーリンク2の2つの前輪11を持ち上げるように動作することが可能となる。
このように、2つの前輪11を振り上げて踏破すべき段差上に2つの前輪11が置かれることで、2つの前輪11の摩擦力及び中輪12の摩擦力によって、2つの前輪11が段差を踏破するときの床面及び段上面との間の摩擦力による踏破限界を超える段差踏破性能を発揮することができる。
【0030】
また、ロッカーボギー車1の両側に一対のロッカーボギー機構が接合点21において接続され、2つの前輪11及び2つの中輪12のモータが配置されることで、ボギーリンク2は接合点21を中心として前後に振動可能となり、ばね6によって振動を更に強めることで、強められた弾性エネルギーが、ボギーリンク2に加えられる。
そのため、ロッカーボギー車1は、ボギーリンク2に振り上げ用のモータを備えず、ロッカーボギー車1が段差を踏破する際には、2つの前輪11の直径以上の段差に対して、2つの前輪11を振り上げることができる。
従って、本実施形態によれば、ボギーリンク2に振り上げ用のモータを備えずに、小型、軽量、且つ簡素な構成により、更には、前輪の振り上げ時に弾性エネルギーを振動により加え、この弾性エネルギーを乗り上げる補助力として加えることで、段差踏破性能が向上したロッカーボギー車1を実現することができる。
【0031】
なお、上記説明したオフセット角度を0にすると、前輪11、中輪12及び後輪13が接地している状態でばね6は釣り合いの位置となる。
このように設定した場合には、ばね6は、振動エネルギーを維持する。
また、オフセット角度を正に大きくし、例えば20°とすると、前輪11、中輪12及び後輪13が接地している状態でばね6に弾性エネルギーが蓄えられる。
このように設定すると、ばね6は、前輪11を持ち上げる際の補助力を生じさせる。
段差の垂直面の摩擦力が低い場合には、前輪11を高く持ち上げて、前輪11を段差にのせることができる。
逆に、オフセット角度を負の角度、例えば-20°とすると、釣り合いの位置が中輪上げサポートに寄った位置となり、ばね6に、中輪12を持ち上げる際の補助力を生じさせることができる。
本実施形態のロッカーボギー車1では、走行環境、重心位置、走行面の重力方向に対する傾き又は段差の昇降方向等に応じてオフセット角度を適切に設定することが好ましい。
【0032】
なお、本実施形態においては、ロッカーボギー車1の接地面が不整地であるとし、ロッカーボギー車1の6輪の車輪の各々に対して互いに独立した制御を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
走行先に段差を検出し、ロッカーボギー車が段差に向き合う状態になる場合には、2つの前輪11の制御は互いに独立していなくてもよいし、2つの中輪12の制御は互いに独立していなくてもよいし、2つの後輪13の制御は互いに独立していなくてもよい。
【0033】
また、本実施形態においては、弾性体としてばね6を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
弾性体として、ばね6に代えてゴムが用いられていてもよく、このゴムが引き延ばされることにより、弾性エネルギーが蓄積される構成であってもよい。
又は、弾性体として、ばね6に代えてエアシリンダーが用いられていてもよく、このエアシリンダーが延ばされ、すなわちエアシリンダーのピストンが引かれることにより、エアシリンダー内の空気が圧縮されて弾性エネルギーが蓄積される構成であってもよい。
【0034】
又は、弾性体として、ばね6に代えて接合点21に配設されたねじりばねが用いられていてもよい。
図5は、本発明の実施形態において、弾性体としてねじりばね6Aが用いられた形態を示す図である。
ねじりばね6Aは、図5に示すように、接合点21において、ボギーリンク2及びロッカーリンク3の各々に固定されている。
ねじりばね6Aが接合点21を中心としてねじられることにより、弾性エネルギーが蓄積される。
又は、弾性体として、ばね6に代えて接合点21に配設されたトーションバーが用いられていてもよく、このトーションバーが接合点21を中心としてねじられることにより、弾性エネルギーが蓄積される構成であってもよい。
【0035】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、上述の構成に対して、構成要素の付加、削除又は転換を行った様々な変形例も含むものとする。
【符号の説明】
【0036】
1,1a ロッカーボギー車
11,11’ 前輪
110 前輪軸
12,12’ 中輪
120 中輪軸
13 後輪
130 後輪軸
2,2’ ボギーリンク
21 接合点
3,3a ロッカーリンク
5 本体
6,6’ ばね
6A ねじりばね
61 第1端部
62 第2端部
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4
図5
図6
図7a
図7b