(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165696
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】自動車窓用合わせガラス、及び自動車
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20221025BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
C03C27/12 M
B60J1/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071146
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山川 宏
(72)【発明者】
【氏名】深見 正生
(72)【発明者】
【氏名】南屋 祐幸
【テーマコード(参考)】
4G061
【Fターム(参考)】
4G061AA03
4G061AA20
4G061BA02
4G061CB04
4G061CB16
4G061CB18
4G061CB19
4G061CB20
4G061CD03
4G061CD18
4G061DA06
4G061DA23
4G061DA29
4G061DA30
4G061DA38
4G061DA43
(57)【要約】
【課題】自動車と人との衝突時に人への衝撃を低減しつつ、自動車の乗員に自動車の外部を視認させる、技術を提供する。
【解決手段】自動車窓用合わせガラスは、車外側から車内側に向けて、第1ガラス板と、中間膜と、第2ガラス板と、をこの順番で備える。前記第1ガラス板又は前記第2ガラス板の車内側の面の、前記自動車の乗員に前記自動車の外部を視認させる透視領域に、ガラス粉末を焼成して形成された焼成層が間隔をおいて複数設けられる。前記焼成層は、円相当直径が0.02mm~0.5mmであり、層厚が0.002mm~0.3mmである。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車外側から車内側に向けて、第1ガラス板と、中間膜と、第2ガラス板と、をこの順番で備える、自動車窓用合わせガラスであって、
前記第1ガラス板又は前記第2ガラス板の車内側の面の、前記自動車の乗員に前記自動車の外部を視認させる透視領域に、ガラス粉末を焼成して形成された焼成層が間隔をおいて複数設けられ、
前記焼成層は、円相当直径が0.02mm~0.5mmであり、層厚が0.002mm~0.3mmである、自動車窓用合わせガラス。
【請求項2】
前記第1ガラス板又は前記第2ガラス板の車内側の面において、前記焼成層のピッチが10mm~200mmである、請求項1に記載の自動車窓用合わせガラス。
【請求項3】
前記第1ガラス板又は前記第2ガラス板の車内側の面の、前記透視領域を囲む遮光領域に、ガラス粉末と暗色顔料を焼成して形成される遮光層が設けられる、請求項1又は2に記載の自動車窓用合わせガラス。
【請求項4】
前記焼成層は、前記遮光領域と前記透視領域の境界線から内側に100mm離れた第1仮想線で囲まれる第1領域に設けられる、請求項3に記載の自動車窓用合わせガラス。
【請求項5】
前記焼成層の層厚は、前記遮光層の層厚よりも小さい、請求項3又は4に記載の自動車窓用合わせガラス。
【請求項6】
前記焼成層は、前記ガラス粉末と暗色顔料を焼成して形成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の自動車窓用合わせガラス。
【請求項7】
前記焼成層は、前記ガラス粉末と金属粉末を焼成して形成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の自動車窓用合わせガラス。
【請求項8】
前記焼成層は、暗色顔料及び金属粉末を含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載の自動車窓用合わせガラス。
【請求項9】
前記第1ガラス板の車内側の面に前記焼成層が設けられ、且つ、前記第2ガラス板の車内側の面に前記焼成層が設けられる、請求項1~8のいずれか1項に記載の自動車窓用合わせガラス。
【請求項10】
前記第1ガラス板の車外側の面に直交する方向から見たときに、前記第1ガラス板に設けた前記焼成層から100mm以内の範囲に、前記第2ガラス板に設けた前記焼成層が存在する、請求項9に記載の自動車窓用合わせガラス。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の自動車窓用合わせガラスと、
前記自動車窓用合わせガラスが取り付けられる開口部を含む車体と、
を備える、自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車窓用合わせガラス、及び自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車と歩行者などの人との衝突時に、人への衝撃を低減する技術が求められている。例えば、特許文献1には、カウルルーバー及びウインドシールドの周りに対して衝撃が加わった時に、モールによって繋がれたカウルルーバーの後端部とウインドシールドの前端部とが切り離され、人への衝撃が低減される技術が開示されている。
【0003】
特許文献2に記載の車両用の遮光膜付き曲げガラス板は、ガラス板と、ガラス板の一方の表面における周縁部である膜形成部の少なくとも一部に形成された遮光膜とを含む。遮光膜は、周縁部においてより外側に配置された帯状膜と、帯状膜よりも内側に配置された、複数のドットからなるドット状パターン膜と、から形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-213928号公報
【特許文献2】国際公開第2007-052600号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウインドシールド等の自動車窓用合わせガラスは、自動車と歩行者などの人との衝突時に、人への衝撃を低減すべく、適切に割れることが求められる。例えば、自動車窓用合わせガラスは、頭部損傷基準値(Head Injury Criterion:HIC)が所望の値以下になることが求められる。一方で、自動車窓用合わせガラスには、自動車の乗員に自動車の外部を視認させることも求められる。
【0006】
本開示の一態様は、自動車と人との衝突時に人への衝撃を低減しつつ、自動車の乗員に自動車の外部を視認させる、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る自動車窓用合わせガラスは、車外側から車内側に向けて、第1ガラス板と、中間膜と、第2ガラス板と、をこの順番で備える。前記第1ガラス板又は前記第2ガラス板の車内側の面の、前記自動車の乗員に前記自動車の外部を視認させる透視領域に、ガラス粉末を焼成して形成された焼成層が間隔をおいて複数設けられる。前記焼成層は、円相当直径が0.02mm~0.5mmであり、層厚が0.002mm~0.3mmである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、自動車と人との衝突時に人への衝撃を低減しつつ、自動車の乗員に自動車の外部を視認させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る合わせガラスを備える自動車の正面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る合わせガラスの一部を示す断面図である。
【
図3】
図3は、第1ガラス板の上に形成される焼成層の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、第2ガラス板の上に形成される焼成層の一例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、車内側から見た、第1ガラス板に設けた焼成層と第2ガラス板に設けた焼成層の配置パターンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
図1に示すように、自動車100は、自動車窓用合わせガラス1と、自動車窓用合わせガラス1が取り付けられる開口部を含む車体2と、を備える。自動車窓用合わせガラス1を、以下、単に合わせガラス1とも呼ぶ。合わせガラス1は、例えば、フロントガラスであるが、フロントガラス以外の窓ガラス、例えば、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラスであってもよい。
【0012】
図2に示すように、合わせガラス1は、車外側から車内側に向けて、第1ガラス板10と、中間膜30と、第2ガラス板20と、をこの順番で備える。中間膜30は、第1ガラス板10と第2ガラス板20とを接着する。第1ガラス板10は、車外側の面である第1面11と、車内側の面である第2面12とを有する。第2ガラス板20は、車外側の面である第3面21と、車内側の面である第4面22とを有する。
【0013】
第1ガラス板10と、第2ガラス板20は、同じ材質でも、異なる材質でもよい。第1ガラス板10と第2ガラス板20の材質は、無機ガラスが好ましい。無機ガラスとしては、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス等が挙げられる。無機ガラスを板状に成形する方法は、特に限定されないが、例えばフロート法などである。
【0014】
第1ガラス板10と、第2ガラス板20は、未強化ガラス(生ガラス)であってよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したガラスであり、風冷強化処理、化学強化処理等の強化処理が施されていないものである。未強化ガラスは、衝撃を受けて割れたときに、網状若しくは蜘蛛の巣状のひび割れ等を生じにくく、乗員の視界を確保できる。
【0015】
第1ガラス板10と、第2ガラス板20とは、同じ厚みでも、異なる厚みでもよい。第1ガラス板10の厚みは、例えば1.1mm以上3.5mm以下である。また、第2ガラス板20の厚みは、0.5mm以上2.3mm以下である。さらに、合わせガラス1全体の厚みは、2.3mm以上8.0mm以下である。
【0016】
中間膜30の材質は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂であると好ましい。中間膜30の材質としては、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、アイオノマー樹脂等の、従来から等用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。また、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。上記の熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0017】
中間膜30の材質は、可塑剤を含有していない樹脂、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂等であってもよい。上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(PVB)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適な材質として挙げられる。なお、上記の樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0018】
中間膜30は、単層構造、及び複数層構造のいずれでもよい。中間膜30は、接着以外の機能を有してもよい。例えば、中間膜30は、遮音層、有色透明層、紫外線カット層、及び赤外線カット層などから選ばれる1つ以上を有してもよい。
【0019】
中間膜30の厚みは、接着性の観点から、0.5mm以上である。また、中間膜30の厚みは、軽量性及び取扱い性の観点から、3mm以下である。中間膜30の厚みは、一定であってもよいし、位置に応じて変化してもよい。例えば、ヘッドアップディスプレイの画像が合わせガラス1に投影される場合、二重像の発生を抑制すべく、中間膜30の厚みは下側から上側に向うほど厚くなる。中間膜30はくさび形に形成され、そのくさび角度は例えば1.0mrad以下である。
【0020】
合わせガラス1の製造方法は、例えば、下記(A)~(C)の工程を含む。(A)中間膜30を介して第1ガラス板10と第2ガラス板20とを重ね合わせ、積層体を作製する。(B)積層体をゴム袋の内部に収容し、ゴム袋の内部を減圧しながらゴム袋を加熱し、第1ガラス板10と第2ガラス板20とを中間膜30で接着する。ゴム袋の内部の気圧は、大気圧を基準として、例えば-100kPa~-65kPaである。ゴム袋の加熱温度は、例えば70℃~110℃である。(C)ゴム袋から取り出した積層体を、100℃~150℃で加熱しながら、0.6MPa~1.3MPaの圧力で圧着する。圧着には、例えばオートクレーブが用いられる。なお、合わせガラス1の製造方法は、一般的なものであればよく、上記(C)の工程を含まなくてもよい。
【0021】
図2に示すように、合わせガラス1は、例えば、全体的に又は部分的に車外側に凸になるように湾曲している。合わせガラス1は、車両の前後方向及び上下方向に湾曲した複曲であるが、前後方向又は上下方向にのみ湾曲した単曲であってもよい。合わせガラス1の曲率半径は、例えば、200mm~300000mmである。
【0022】
第1ガラス板10と第2ガラス板20は、上記(A)の工程の前に、曲げ成形される。曲げ成形は、加熱によってガラスを軟化した状態で行われる。曲げ成形時のガラスの加熱温度は、例えば550℃~700℃である。第1ガラス板10と第2ガラス板20は、別々に曲げ成形されてもよいし、重ねて同時に曲げ成形されてもよい。曲げ成形は、重力成形、又はプレス成形などを含み、両者を含んでもよい。
【0023】
合わせガラス1は、
図2に示すように、自動車100と歩行者などの人200との衝突時に、人200への衝撃を低減すべく、適切に割れることが求められる。例えば、合わせガラス1は、頭部損傷基準値(Head Injury Criterion:HIC)が所望の値以下(例えば1000以下、好ましくは650以下)になることが求められる。一方で、合わせガラス1には、自動車100の乗員に自動車100の外部を視認させることも求められる。
【0024】
自動車100と人200との衝突時に、合わせガラス1は車外側から車内側に向けて押される。その結果、第1ガラス板10の車内側の面である第2面12に引張応力が生じ、第2面12の欠陥を起点に第2ガラス板20が割れる。また、第2ガラス板20の車内側の面である第4面22に引張応力が生じ、第4面22の欠陥を起点に第2ガラス板20が割れる。第1ガラス板10でも第2ガラス板20でも、亀裂は車内側から車外側に伸展する。
【0025】
本開示の一態様は、
図3に示すように、第1ガラス板10の第2面12の透視領域に焼成層50を形成することで、第1ガラス板10の強度を適切な値に調節する。また、本開示の別の一態様は、
図4に示すように、第2ガラス板20の第4面22の透視領域に焼成層50を形成することで、第2ガラス板20の強度を適切な値に調節する。透視領域は、自動車100の乗員に自動車100の外部を視認させる領域である。透視領域は、遮光領域で囲まれる。遮光領域は、遮光層40で覆われる領域である。
【0026】
以下、遮光層40と焼成層50が第2ガラス板20の第4面22に形成される場合について説明する。遮光層40と焼成層50が第1ガラス板10の第2面12に形成される場合については、同様であるので説明を省略する。なお、遮光層40は、第2面12と第4面22の少なくとも一方に形成されればよい。焼成層50も同様である。例えば、第2面12には焼成層50のみが設けられ、第4面22には遮光層40のみが設けられてもよい。
【0027】
遮光層40は、暗色顔料とガラス粉末を焼成して形成される。具体的には、暗色顔料とガラス粉末を含むペーストを塗布し、ペーストを焼成することで、遮光層40が形成される。暗色顔料の色は、例えば、黒色、灰色、又は茶褐色等である。ペーストの塗布法は、特に限定されないが、例えばスクリーン印刷である。
【0028】
遮光層40は、第2ガラス板20の第4面22の周縁に帯状に形成され、例えば第4面22の周縁から10mm以上300mm以下の範囲に形成される(
図5参照)。遮光層40は、紫外線を遮蔽し、合わせガラス1と車体2を接着する接着剤の劣化を抑制する。接着剤は、例えばウレタンである。
【0029】
遮光層40は、合わせガラス1の製造工程を短縮すべく、第2ガラス板20を曲げ成形する際に焼成されるが、第2ガラス板20を曲げ成形する前に焼成されてもよい。いずれにしろ、遮光層40に含まれるガラス粉末が第2ガラス板20と結合し、遮光層40と第2ガラス板20とが一体化する。
【0030】
焼成層50は、ガラス粉末を焼成して形成される。具体的には、ガラス粉末を含むペーストを塗布し、ペーストを焼成することで、焼成層50が形成される。ペーストの塗布法は、特に限定されないが、例えばスクリーン印刷である。ガラス粉末は、加熱されると、互いに結合し、多孔質な構造になる。従って、焼成層50の表面粗さは、第2ガラス板20の表面粗さよりも大きい。
【0031】
本明細書において、表面粗さは、日本工業規格JIS B0601:1994に記載の算術平均粗さであり、例えば東京精密製の接触式表面粗さ測定装置(NX001)を用いて測定する。焼成層50の表面粗さは、例えば100nm~5000nmであり、好ましくは500nm~800nmである。一方、第2ガラス板20の表面粗さは、例えば15nm以下であり、好ましくは10nm以下である。
【0032】
焼成層50は、合わせガラス1の製造工程を短縮すべく、第2ガラス板20を曲げ成形する際に焼成されるが、第2ガラス板20を曲げ成形する前に焼成されてもよい。いずれにしろ、焼成層50に含まれるガラス粉末が第2ガラス板20と結合し、焼成層50と第2ガラス板20とが一体化する。
【0033】
焼成層50の表面粗さが第2ガラス板20の表面粗さよりも大きいので、焼成層50が第2ガラス板20の第4面22に形成されることで、第4面22に大きな欠陥が形成される。欠陥が大きければ、応力が集中しやすく、亀裂が生じやすい。従って、第2ガラス板20が割れやすい。
【0034】
焼成層50は、例えば、円相当直径Dが0.02mm~0.5mmであり、層厚Tが0.002mm~0.3mmである。日本自動車技術会規格(Japanese Automotive Standards Organization:JASO)によれば、透視領域に直径0.5mm以下の黒点が存在することは、許容されている。
【0035】
透視領域は、自動車100の乗員に自動車100の外部を視認させる領域であるので、一般的には黒点などが存在しないことが望ましいとされている。これに対し、本開示の技術は、自動車100の乗員がほとんど認識できないような大きさの欠点を透視領域に付与し、透視性を確保しつつ、合わせガラス1を割れやすくする。
【0036】
第1ガラス板10の第1面11に直交する方向から見たときに、焼成層50の形状は、例えば円形、楕円形、矩形、又は多角形等である。いずれにしろ、焼成層50の円相当直径Dが0.5mm以下であれば、透視性が良い。円相当直径Dは、好ましくは0.3mm以下である。
【0037】
一方、焼成層50の円相当直径Dが0.02mm以上であれば、焼成層50の大きさが大きく、第2ガラス板20が割れやすい。円相当直径Dは、好ましくは0.1mm以上である。
【0038】
焼成層50の層厚Tが0.3mm以下であれば、可視光が透過しやすく、透視性が良い。層厚Tは、好ましくは0.1mm以下である。
【0039】
一方、焼成層50の層厚Tが0.002mm以上であれば、焼成層50の大きさが大きく、第2ガラス板20が割れやすい。層厚Tは、好ましくは0.05mm以上である。
【0040】
焼成層50の層厚Tは、
図4に示すように、遮光層40の層厚よりも小さくてもよい。焼成層50の可視光透過率を、遮光層40の可視光透過率よりも高くできる。焼成層50と遮光層40とが同じペーストで形成される場合に特に有利である。
【0041】
焼成層50は、ガラス粉末と暗色顔料を焼成して形成されてもよく、遮光層40と同じペーストを用いて形成されてもよい。この場合、ペーストの種類が少なく、ペーストの管理が容易である。また、この場合、焼成層50を形成する領域と遮光層40を形成する領域とに同時にペーストを塗布でき、ペーストの塗布回数を低減できる。
【0042】
焼成層50は、ガラス粉末と金属粉末を焼成して形成されてもよい。金属粉末は、例えば銀粉末である。金属粉末は、銀粉末には限定されず、例えば銅粉末などであってもよい。この場合、焼成層50は、導電性を有する。
【0043】
焼成層50は、不図示の導電層と同じペーストを用いて形成されてもよい。導電層は、遮光層40の上に形成され、アンテナ又はヒータなどを構成する。導電層は、遮光層40と同時に焼成される。
【0044】
焼成層50が導電層とで同じペーストを用いて形成される場合、ペーストの種類が少なく、ペーストの管理が容易である。また、この場合、焼成層50を形成する領域と導電層を形成する領域とに同時にペーストを塗布でき、ペーストの塗布回数を低減できる。
【0045】
焼成層50は、暗色顔料及び金属粉末を含まなくてもよく、遮光層40及び導電層とは異なるペーストを用いて形成されてもよい。焼成層50は、暗色顔料及び金属粉末を含まなければ、暗色顔料又は金属粉末を含む場合に比べ、透明になるので、透視性を向上できる。
【0046】
焼成層50は、透視領域に間隔をおいて複数設けられる。焼成層50は、例えば、遮光領域と透視領域の境界線L3から内側に100mm離れた第1仮想線L1で囲まれる第1領域に設けられ、第1領域の全体に分散して配置されてもよい。また、焼成層50は、遮光領域と透視領域の境界線L3から内側に25mm離れた第2仮想線L2で囲まれる第2領域に設けられ、第2領域の全体に分散して配置されてもよい。
【0047】
なお、透視領域のうち、遮光領域と透視領域の境界線L3付近に、遮光層40と同じ材料からなる、直径が0.5mm~2.5mmの円形又は半円形のドット状の模様が形成されてもよい。このドット状の模様は、帯状の遮光層40で覆われる遮光領域よりも内側に形成され、透視領域に形成される。
【0048】
焼成層50は、例えば正方形の格子の格子点に配置される。格子は、正方形の格子には限定されず、正三角形の格子、又は正六角形の格子などであってもよい。また、格子は、正多角形を上下方向又は水平方向に歪ませた格子、例えば長方形の格子などであってもよい。
【0049】
焼成層50のピッチPは、例えば10mm~200mmである。ピッチPは、各点から最も近い点までの距離である。ピッチPが200mm以下であれば、割れの起点の数が多く、人200の衝突地点の近くで割れが生じやすい。ピッチPは、好ましくは100mm以下である。
【0050】
一方、焼成層50のピッチPが10mm以上であれば、透視像が歪みにくく、透視性が良好である。ピッチPは、好ましくは50mm以上である。
【0051】
図5に示すように、第1ガラス板10の第1面11に直交する方向から見たときに、第1ガラス板10に設けた焼成層50-1から100mm以内(好ましくは50mm以内)の範囲に、第2ガラス板20に設けた焼成層50-2が存在することが好ましい。自動車100と人200の衝突時に、第1ガラス板10と第2ガラス板20とが互いに近くの地点で割れるので、衝撃が短時間で吸収される。
【0052】
第1ガラス板10の第1面11に直交する方向から見たときに、第1ガラス板10に設けた焼成層50-1と、第2ガラス板20に設けた焼成層50-2とは千鳥配置されるが、その配置は千鳥配置には限定されない。
【0053】
第1ガラス板10の第1面11に直交する方向から見たときに、第1ガラス板10に設けた焼成層50-1と、第2ガラス板20に設けた焼成層50-2とが重なることが好ましい。第1ガラス板10に設けた焼成層50-1と、第2ガラス板20に設けた焼成層50-2とは、完全に重ならなくてもよく、少なくとも一部が重なればよい。
【0054】
以上、本開示に係る自動車窓用合わせガラス、及び自動車について説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0055】
1 自動車窓用合わせガラス
10 第1ガラス板
20 第2ガラス板
30 中間膜
40 遮光層
50 焼成層