(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165770
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】成形装置
(51)【国際特許分類】
B30B 11/04 20060101AFI20221025BHJP
B29C 43/32 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
B30B11/04
B29C43/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071258
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】502391079
【氏名又は名称】久慈琥珀株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】新田 久男
(72)【発明者】
【氏名】清水 友治
【テーマコード(参考)】
4F204
【Fターム(参考)】
4F204AC04
4F204AJ08
4F204FA01
4F204FB01
4F204FN11
4F204FQ01
(57)【要約】
【課題】 各ダイに対する粉粒体の供給量に多少なりともばらつきがあっても、装置を複雑にすることなく、粉粒体の成形密度の均一化の向上を図る。
【解決手段】 粉粒体Fが供給される複数のダイ1を備え、各ダイ1をダイホルダ2に保持し、各ダイ1内の粉粒体Fの下端面を夫々加圧可能な複数の下パンチ10を備え、各下パンチ10を下ベース11に設け、各ダイ1内の粉粒体Fの上端面を夫々加圧可能な複数の上パンチ20を備え、各上パンチ20を上ベース23に設け、ガススプリング30を複数のダイ1に対応して複数用い、各ガススプリング30を上ベース23に設け、各ガススプリング30のピストン32の先端に断熱材40を介して上パンチ20を設け、ガススプリング30を介してダイ1内の粉粒体Fを加圧して成形体Wを成形する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉粒体が供給される複数のダイを備え、各ダイをこれらの軸線が所定方向に沿うように間隔を隔ててダイホルダに保持し、各ダイ内の粉粒体を夫々加圧可能な複数のパンチを備え、各パンチをこれらの軸線が所定方向に沿うように上記各ダイに対応してベースに設け、上記ダイホルダに対して上記ベースを所定方向に相対的に移動させ上記複数のパンチによって各ダイ内の粉粒体を加圧して同時に複数の成形体を成形する成形装置において、
ガスが封入されるシリンダと該シリンダに対して進退動可能に設けられ進出端から上記ガスの付勢力に抗して後退可能なピストンを備えたガススプリングを上記複数のダイに対応して複数用い、
各ガススプリングのシリンダをこれらのピストンの軸線が対応するダイの軸線と同軸になるように上記ベースに設け、該各ガススプリングのピストンの先端に、夫々、対応するパンチを当該ピストンと同軸で取付け、該ガススプリングのピストンを介して上記ダイ内の粉粒体を加圧可能にしたことを特徴とする成形装置。
【請求項2】
上記ダイホルダ内の粉粒体を加熱する加熱手段を備え、
上記ガススプリングのピストンの先端と当該先端に取付けられるパンチとの間に断熱材を介装したことを特徴とする請求項1記載の成形装置。
【請求項3】
上記ベースをブロック状に形成し、該ベースに、上記各ダイと同軸で上記ダイ側に開口を有し該ダイとは反対側に底面を有するとともに上記ガススプリングのシリンダが挿通されて該ガススプリングが収容され且つ上記断熱材が収容される複数の収容孔を形成し、該各収容孔に上記ガススプリングをそのシリンダの基端が上記底面に衝止されピストンが上記開口側に位置するように挿通し、上記断熱材を上記収容孔に摺動可能に形成して該収容孔に挿通したことを特徴とする請求項2記載の成形装置。
【請求項4】
上記パンチを、上記ダイに挿入可能な該ダイ側のパンチ本体と、該パンチ本体の基端を保持する保持板とを備えて構成し、上記ベースの収容孔を上記保持板を収納可能に形成し、上記保持板を上記収容孔に摺動可能に形成して該収容孔に挿通したことを特徴とする請求項3記載の成形装置。
【請求項5】
上記パンチとして、上記各ダイ内の粉粒体の下端面を加圧可能な複数の下パンチと、上記各ダイ内の粉粒体の上端面を加圧可能な複数の上パンチとを備えて構成し、上記ベースとして、上記複数の下パンチが設けられる下ベースと、上記複数の上パンチが設けられ上記下ベースに対して相対的に所定方向に沿って進退動させられる上ベースとを備えて構成し、
各ガススプリングのシリンダをこれらのピストンの軸線が対応するダイの軸線と同軸になるように上記下ベースまたは上ベースに設け、該各ガススプリングのピストンの先端に、夫々、対応する上記下パンチまたは上パンチを当該ピストンと同軸で取付けたことを特徴とする請求項1乃至4何れかに記載の成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂や金属の粉粒体を加圧して成形体を成形する成形装置に係り、特に、大量生産に対応できるように、同時に複数の成形体を成形できるようにした成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の成形装置としては、例えば、特許第5594471号公報(特許文献1)に掲載されたものが知られている。これは、粉末冶金のための粉粒体を成形するもので、粉粒体が供給される複数のダイを備え、各ダイをこれらの軸線が所定方向に沿うように間隔を隔ててダイホルダに保持し、各ダイ内の粉粒体の下端面を夫々加圧可能な複数の下パンチを備え、各下パンチをこれらの軸線が所定方向に沿うように各ダイに対応して下ベースに設け、上記各ダイ内の粉粒体の上端面を夫々加圧可能な複数の上パンチを備え、各上パンチをこれらの軸線が所定方向に沿うように各ダイに対応して上ベースに設けて構成されている。そして、ダイホルダに対して下ベースまたは上ベースを所定方向に相対的に移動させ、複数の下パンチ及び上パンチによって各ダイ内の粉粒体を加圧して同時に複数の成形体を成形するようにしている。
【0003】
ところで、上ベースを移動させる際、上ベースのストロークが一定であることから、複数の各上パンチのストロークも同じになり、そのため、ダイに対する粉粒体の供給量にばらつきがあると、各粉粒体を同一荷重で押すことが難しく、加圧力に差が出て、各成形体の密度が不均一になってしまう。そのため、この従来の成形装置においては、ダイホルダの上パンチ側の上面にダイの開口に対して進退自在に設けられ、進出時に自身の内部に供給されている粉粒体をダイ内に落下させて充填するフィーダボックスを設け、このフィーダボックス内に、内部に貯留される粉粒体の貯留高さを調整する貯留高さ調整手段を設け、フィーダボックス内に貯留される粉粒体をその貯留高さを調節してからダイ内に充填している。これにより、各ダイにおいて、粉粒体の供給量を揃えて、均一な成形密度の成形体を成形するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この従来の成形装置にあっては、ある程度均一な成形密度の成形体を成形することはできても、粉粒体の貯留高さを調整する貯留高さ調整手段を設けたフィーダボックスを備えているので、それだけ、装置が複雑になってしまうという問題があった。また、粉粒体の貯留高さの調整なので、その供給量には少なからずばらつきが生じ、その分、成形密度が不均一になり、精度に劣る。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて為されたもので、各ダイに対する粉粒体の供給量に多少なりともばらつきがあっても、装置を複雑にすることなく、粉粒体の成形密度の均一化の向上を図った成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するための本発明の成形装置は、粉粒体が供給される複数のダイを備え、各ダイをこれらの軸線が所定方向に沿うように間隔を隔ててダイホルダに保持し、各ダイ内の粉粒体を夫々加圧可能な複数のパンチを備え、各パンチをこれらの軸線が所定方向に沿うように上記各ダイに対応してベースに設け、上記ダイホルダに対して上記ベースを所定方向に相対的に移動させ上記複数のパンチによって各ダイ内の粉粒体を加圧して同時に複数の成形体を成形する成形装置において、
ガスが封入されるシリンダと該シリンダに対して進退動可能に設けられ進出端から上記ガスの付勢力に抗して後退可能なピストンを備えたガススプリングを上記複数のダイに対応して複数用い、
各ガススプリングのシリンダをこれらのピストンの軸線が対応するダイの軸線と同軸になるように上記ベースに設け、該各ガススプリングのピストンの先端に、夫々、対応するパンチを当該ピストンと同軸で取付け、該ガススプリングのピストンを介して上記ダイ内の粉粒体を加圧可能にした構成としている。
【0008】
これにより、成形体を成形するときは、各ダイに粉粒体を供給する。この場合、例えば、粉粒体をダイの開口まで入れるようにする等、できる限り粉粒体の量が同じになるようにすることが望ましい。それから、ベースをダイホルダに対して相対的に移動させ各パンチを対応する各ダイに挿入し加圧する。この場合、各ダイにおいて、粉粒体の供給量に多少なりともばらつきがあっても、ガススプリングのピストンが粉粒体の量に応じてシリンダ内に後退するので、各粉粒体を同一荷重で押すことができるようになる。そのため、各粉粒体に作用する加圧力が均等になり、粉粒体の成形密度が均一化し、成形密度の精度が向上し、成形密度のばらつきのない成形体を製造できるようになる。尚、各ダイにおいて、ガススプリングのピストンの後退量に差が出ることから、成形体の全長にばらつきが生じるが、二次加工により揃えることができる。即ち、成形体の全長の誤差を犠牲にしても、成形密度を均一化することができるので、製品精度を向上させることができる。
【0009】
また、ガススプリングは、従来の粉粒体の貯留高さを調整する貯留高さ調整手段のように粉粒体の供給量を調整する機構に比較して簡易であり、その装着も容易に行うことができるとともに、成形荷重を変える必要がある場合、ガス圧を調整することで対応することができることから、装置の構造を複雑にすることなく簡易にすることができる。更に、ガススプリングを用いるので、ダイホルダに対してベースを相対的に移動させる駆動手段として、下死点で静止させることができるサーボプレス機を用いることができるようになる。
【0010】
そして、必要に応じ、上記ダイホルダ内の粉粒体を加熱する加熱手段を備え、上記ガススプリングのピストンの先端と当該先端に取付けられるパンチとの間に断熱材を介装した構成としている。加熱手段としては、例えば、ダイに複数の穴を開け、これらの穴に埋設した複数のカートリッジヒータで構成し、あるいは、ダイの周囲に巻回して配置したコイル状のヒータで構成する等、適宜に構成してよい。
【0011】
加熱手段を設ける場合には、本装置は、主に、樹脂用の成形に用いることができる。この場合、粉粒体を加熱加圧すると上記と同様に成形体が成形されるが、この場合、ダイホルダが加熱手段で加熱されることから、その熱がパンチを伝わってガススプリングに伝達すると、ガス圧に悪影響を与え、ひいては、粉粒体の加圧力に影響するが、断熱材があるので、ガススプリングに熱が伝わって悪影響を与える事態が防止され、それだけ、粉粒体の成形密度の精度を向上させることができる。
【0012】
尚、ここで、樹脂とは、天然樹脂の化石である琥珀を含む広義の意味であり、また、加熱及び加圧成形により一体化される熱可塑性の材質のものをいう。例えば、粉粒体として、天然樹脂の化石である琥珀を選択することができる。一般に、琥珀は、松柏科植物等の植物の樹脂の化石であり、その性質は、非晶質であり、約150~200℃で軟化し、300℃以上で、ガスを発生して変色して融解し、やがて燃焼する。そしてこの琥珀は、大きさや透明度、色等により、アクセサリー,置物,その他の装飾品等に夫々加工されている。ところで、一般に、琥珀の加工において、加工に供しない小さい琥珀、あるいは、加工の際に生じる切削屑や製品から分離した小片は、そのままでは製品化することがほとんどできないことから、これを、大きな塊にし、再生琥珀として再利用することを行っている。本発明においては、粉粒体として、この加工の際に生じる切削屑や製品から分離した小片を用い、また、これを粉砕したものを用いることができる。粉粒体は小片も含む概念である。特に、粉粒体の成形密度が均一化し、成形密度の精度の高い付加価値のある再生琥珀として、利用の用に供することができる。
【0013】
また、必要に応じ、上記ベースをブロック状に形成し、該ベースに、上記各ダイと同軸で上記ダイ側に開口を有し該ダイとは反対側に底面を有するとともに上記ガススプリングのシリンダが挿通されて該ガススプリングが収容され且つ上記断熱材が収容される複数の収容孔を形成し、該各収容孔に上記ガススプリングをそのシリンダの基端が上記底面に衝止されピストンが上記開口側に位置するように挿通し、上記断熱材を上記収容孔に摺動可能に形成して該収容孔に挿通した構成としている。収容孔内を断熱材が摺動するので、断熱材の保持が安定し、作動を円滑に行うことができる。
【0014】
更に、必要に応じ、上記パンチを、上記ダイに挿入可能な該ダイ側のパンチ本体と、該パンチ本体の基端を保持する保持板とを備えて構成し、上記ベースの収容孔を上記保持板を収納可能に形成し、上記保持板を上記収容孔に摺動可能に形成して該収容孔に挿通した構成としている。これにより、保持板も収容孔内を摺動するので、パンチの保持が安定し、作動を円滑に行うことができる。
【0015】
そしてまた、本成形装置は、上記パンチとして、上記各ダイ内の粉粒体の下端面を加圧可能な複数の下パンチと、上記各ダイ内の粉粒体の上端面を加圧可能な複数の上パンチとを備えて構成し、上記ベースとして、上記複数の下パンチが設けられる下ベースと、上記複数の上パンチが設けられ上記下ベースに対して相対的に所定方向に沿って進退動させられる上ベースとを備えて構成し、
各ガススプリングのシリンダをこれらのピストンの軸線が対応するダイの軸線と同軸になるように上記下ベースまたは上ベースに設け、該各ガススプリングのピストンの先端に、夫々、対応する上記下パンチまたは上パンチを当該ピストンと同軸で取付けた構成とすることができる。
【0016】
この下パンチまたは上パンチを備えた成形装置の場合、具体的には、粉粒体が供給される複数のダイを備え、各ダイをこれらの軸線が所定方向に沿うように間隔を隔ててダイホルダに保持し、各ダイ内の粉粒体の下端面を夫々加圧可能な複数の下パンチを備え、各下パンチをこれらの軸線が所定方向に沿うように上記各ダイに対応して下ベースに設け、上記各ダイ内の粉粒体の上端面を夫々加圧可能な複数の上パンチを備え、各上パンチをこれらの軸線が所定方向に沿うように上記各ダイに対応して上ベースに設け、上記ダイホルダに対して上記下ベースまたは上ベースを所定方向に相対的に移動させ上記複数の下パンチ及び上パンチによって各ダイ内の粉粒体を加圧して同時に複数の成形体を成形する成形装置において、
ガスが封入されるシリンダと該シリンダに対して進退動可能に設けられ進出端から上記ガスの付勢力に抗して後退可能なピストンを備えたガススプリングを上記複数のダイに対応して複数用い、
各ガススプリングのシリンダをこれらのピストンの軸線が対応するダイの軸線と同軸になるように上記下ベースまたは上ベースに設け、該各ガススプリングのピストンの先端に、夫々、対応する下パンチまたは上パンチを当該ピストンと同軸で取付け、該ガススプリングのピストンを介して上記ダイ内の粉粒体を加圧可能にした構成としている。作用,効果は上記と同様である。
【0017】
そして、必要に応じ、上記ダイホルダ内の粉粒体を加熱する加熱手段を備え、
上記ガススプリングのピストンの先端と当該先端に取付けられる下パンチまたは上パンチとの間に断熱材を介装した構成としている。作用,効果は上記と同様である。
【0018】
この場合、上記ガススプリングが設けられる下ベースまたは上ベースをブロック状に形成し、該下ベースまたは上ベースに、上記各ダイと同軸で上記ダイ側に開口を有し該ダイとは反対側に底面を有するとともに上記ガススプリングのシリンダが挿通されて該ガススプリングが収容され且つ上記断熱材が収容される複数の収容孔を形成し、該各収容孔に上記ガススプリングをそのシリンダの基端が上記底面に衝止されピストンが上記開口側に位置するように挿通し、上記断熱材を上記収容孔に摺動可能に形成して該収容孔に挿通したことが有効である。作用,効果は上記と同様である。
【0019】
また、この場合、上記ガススプリングに取付けられる下パンチまたは上パンチを、上記ダイに挿入可能な該ダイ側のパンチ本体と、該パンチ本体の基端を保持する保持板とを備えて構成し、上記下ベースまたは上ベースの収容孔を上記保持板を収納可能に形成し、上記保持板を上記収容孔に摺動可能に形成して該収容孔に挿通したことが有効である。作用,効果は上記と同様である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、各ダイにおいて、粉粒体の供給量に多少なりともばらつきがあっても、ガススプリングのピストンが粉粒体の量に応じてシリンダ内に後退するので、各粉粒体を同一荷重で押すことができるようになる。そのため、各粉粒体に作用する加圧力が均等になり、粉粒体の成形密度が均一化し、成形密度の精度が向上し、成形密度のばらつきのない成形体を製造できるようになる。また、ガススプリングは、従来の粉粒体の供給量を調整する機構に比較して簡易であり、その装着も容易に行うことができるとともに、成形荷重を変える必要がある場合、ガス圧を調整することで対応することができることから、装置の構造を複雑にすることなく簡易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施の形態に係る成形装置を示す斜視透視図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る成形装置に用いるガススプリングの構造を模式的に示す半断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る成形装置を粉粒体を供給するときの状態で示す断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る成形装置を粉粒体の成形時の状態で示す断面図である。
【
図5】本発明の別の実施の形態に係る成形装置を粉粒体の成形時の状態で示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る成形装置について詳細に説明する。
図1乃至
図4に示すように、本発明の実施の形態に係る成形装置Sは、樹脂の粉粒体Fを加圧して同時に複数の成形体Wを成形するものである。実施の形態で用いる粉粒体Fは天然樹脂の化石である琥珀である。琥珀の性質は、非晶質であり、約150~200℃で軟化し、300℃以上で、ガスを発生して変色して融解し、やがて燃焼する。この琥珀からなる粉粒体Fとしては、琥珀加工において、加工に供しない小さい琥珀、あるいは、加工の際に生じる切削屑や製品から分離した小片をそのまま用い、あるいは、周知の粉砕機等を使用して粉砕したものを用いることができる。実施の形態に用いる琥珀の粉粒体Fとしては、その平均粒径が5mm以下のものを用いる。2mm以下,1mm以下,500μm以下,300μm以下,200μm以下,100μm以下等、適宜設定してよい。実施の形態では、80μmのものを用いた。そして、この成形装置Sは、円筒状の成形体Wを成形するもので、この成形体Wは、例えば、万年筆やシャープペンシルなどの外殻として用いられる。
【0023】
詳しくは、本発明の実施の形態に係る成形装置Sは、粉粒体Fが供給され成形体Wの外周面を成形する円筒状の複数(実施の形態では4つ)のダイ1を備えている。各ダイ1は、これらの軸線が所定方向R(上下方向)に沿うように所定間隔を隔ててダイホルダ2に列設保持されている。ダイホルダ2内には、粉粒体Fを加熱する加熱手段3が備えられている。加熱手段3としては、例えば、ダイ1に複数の穴を開け、これらの穴に埋設した複数のカートリッジヒータで構成し、あるいは、ダイ1の周囲に巻回して配置したコイル状のヒータで構成する等、適宜に構成してよい。加熱手段3により、例えば、成形体Wの成形温度Tを、琥珀の粉粒体Fの場合、180℃≦T≦270℃、より望ましくは、210℃≦T≦250℃である。実施の形態では、T=230℃に設定している。
【0024】
また、本装置Sは、各ダイ1内の粉粒体Fの下端面を夫々加圧可能な複数の下パンチ10を備えている。各下パンチ10は、これらの軸線が所定方向Rに沿うように各ダイ1に対応して下ベース11に設けられている。下パンチ10は、円筒状に形成されて下ベース11に立設されている。また、下ベース11には、各下パンチ10及び各ダイ1内を貫通し成形体Wの内周面を成形する円柱細長状の複数の芯金12が立設されている。ダイホルダ2は、下ベース11に支持されており、成形体Wの脱型時に下ベース11側に移動可能になっており、ダイホルダ2の移動により、下パンチ10が相対的に移動してダイ1内の成形品をダイ1の上側に押し出して取出し可能にしている。
【0025】
更に、本装置Sは、各ダイ1内の粉粒体Fの上端面を夫々加圧可能な複数の上パンチ20を備えている。上パンチ20は、上記の芯金12に挿通可能な円筒状に形成されたダイ1側のパンチ本体21と、パンチ本体21の基端を保持する円盤状の保持板22とを備えて構成されている。
【0026】
各上パンチ20は、これらの軸線が所定方向Rに沿うように各ダイ1に対応して上ベース23に設けてある。上ベース23は、後述もする矩形ブロック状のダイ1側の保持体24及びダイ1とは反対側の基板25とから構成されている。
【0027】
そして、ダイホルダ2に対して下ベース11または上ベース23(実施の形態では上ベース23)を所定方向Rに相対的に移動させ、複数の下パンチ10及び上パンチ20によって各ダイ1内の粉粒体Fを加圧して同時に複数の成形体Wを成形する。成形体Wの外周面はダイ1によって成形され、内周面は芯金12によって成形され、下端面は下パンチ10の端面で成形され、上端面は上パンチ20の端面で成形されて、成形体Wは、円筒状に成形される。
【0028】
本成形装置Sにおいては、ガススプリング30が、複数のダイ1に対応して複数用いられる。
図2に示すように、ガススプリング30は、ガスが封入されるシリンダ31と、シリンダ31に対して進退動可能に設けられ進出端からガスの付勢力に抗して後退可能なピストン32とを備えて構成されている。ガススプリング30は、金属製のコイルに比較して、小型かつ軽量で、しかもバネ定数が小さく、広範囲のストロークで一定のバネ力が得られるという特性を有する。また、ガススプリング30は、成形荷重を変える必要がある場合、ガス圧を調整することで対応することができる。
【0029】
各ガススプリング30は上ベース23に設けられている。詳しくは、各ガススプリング30のシリンダ31は、これらのピストン32の軸線が対応するダイ1の軸線と同軸になるように、上ベース23に設けられている。また、各ガススプリング30のピストン32の先端には、夫々、対応する上パンチ20がピストン32と同軸で取付けられており、ガススプリング30のピストン32を介してダイ1内の粉粒体Fを加圧可能にしている。
【0030】
また、ガススプリング30のピストン32の先端とこの先端に取付けられる上パンチ20との間には断熱材40が介装されている。断熱材40は、例えば、セラミックスで形成され、ガススプリング30のシリンダ31と同外径の円盤状に形成されている。また、上パンチ20の保持板22も、断熱材40と同様にガススプリング30のシリンダ31と同外径の円盤状に形成されている。そして、断熱材40はガススプリング30のピストン32の先端に接着剤等の取着手段により固定されるとともに、上パンチ20の保持板22は断熱材40に接着剤等の取着手段により固定されている。
【0031】
更に、上ベース23は、ブロック状に形成されており、各ダイ1と同軸でダイ1側に開口51を有しこのダイ1とは反対側に底面52を有するとともに、ガススプリング30のシリンダ31が挿通されてガススプリング30が収容され且つ断熱材40及び上パンチ20の保持板22が収容される複数の収容孔50が形成されている。上ベース23は、矩形ブロック状の保持体24及び基板25からなり、保持体24の一側面から他側面に向けて収容孔50が形成され、収容孔50は他側面側の基板25で塞がれており、収容孔50に臨む基板25が底面52を形成している。そして、各収容孔50に、ガススプリング30が、そのシリンダ31の基端が底面52に衝止されピストン32が開口51側に位置するように挿通されている。また、断熱材40及び保持板22も収容孔50に摺動可能に形成されており、この収容孔50に挿通されている。
【0032】
本装置において、上ベース23は、例えば、油圧機構やサーボプレス機構で作動させられ、設定された所定のストロークだけ下動する。ガススプリング30のガス圧の調整を行い、実施の形態では、成形圧力を、例えば、30MPa~50MPaに設定している。また、成形の保持時間を2分以上に設定している。例えば、10分,30分,60分,90分等適宜に設定することができる。
【0033】
従って、この実施の形態に係る成形装置Sを用いて成形体Wを成形するときは、先ず、
図3に示すように、上パンチ20がダイ1から離間し、下パンチ10がダイ1内に挿入された状態で、各ダイ1にその上側から粉粒体Fを供給する。この場合、例えば、粉粒体Fをダイ1の開口まで入れるようにする等、できる限り粉粒体Fの量が同じになるようにすることが望ましい。
【0034】
次に、
図1及び
図4に示すように、ダイ1に投入された粉粒体Fを加熱しながら加圧して一体化して成形する。この際には、ダイホルダ2を加熱手段3で加熱するとともに、上ベース23を所定ストロークだけ下動させ、各上ポンチ20を対応する各ダイ1に挿入し、加熱しながら加圧する。この場合、各ダイ1において、粉粒体Fの供給量に多少なりともばらつきがあっても、ガススプリング30のピストン32が粉粒体Fの量に応じてシリンダ31内に後退するので、粉粒体Fに作用する圧力がほぼ均等になり、そのため、粉粒体Fの成形密度が均一化し、成形密度の精度の向上を図ることができる。
【0035】
また、このガススプリング30のピストン32が移動する際には、上パンチ20の保持板22及び断熱材40が収容孔50内を摺動するので、上パンチ20の保持板22及び断熱材40の保持が安定し、作動を円滑に行うことができる。更に、この場合、ダイホルダ2が加熱手段3で加熱されることから、その熱がパンチを伝わってガススプリング30に伝達すると、ガス圧に悪影響を与え、ひいては、粉粒体Fの加圧力に影響するが、断熱材40があるので、ガススプリング30に熱が伝わって悪影響を与える事態が防止され、それだけ、粉粒体Fの成形密度の精度を向上させることができる。
【0036】
その後、上ベース23を上昇させ、上パンチ20をダイ1から抜き出して上方へ位置させる。この状態で、ダイホルダ2を下ベース11側に移動させる。これにより、下パンチ10が相対的に上へ移動してダイ1内の成形品をダイ1の上側に押し出す。これにより成形体Wが取出される。この成形体Wは、粉粒体Fの成形密度が均一化し、成形密度の精度の高い付加価値のある再生琥珀として、利用の用に供することができる。尚、各ダイ1において、ガススプリング30のピストン32の後退量に差が出ることから、成形体Wの全長にばらつきが生じるが、二次加工により揃えることができる。即ち、成形体Wの全長の誤差を犠牲にしても、成形密度を均一化することができるので、製品精度を向上させることができる。
【0037】
図5には、別の実施の形態に係る成形装置Sを示している。これは上記と異なって、ガススプリング30を下ベース11に設け、下パンチ10を芯金12とともに断熱材40を介してガススプリング30のピストン32の先端に固定したものである。この成形装置Sによっても、上記と同様の作用,効果を奏する。
【0038】
尚、上記実施の形態においては、ダイ1を4つ一列に配置した場合を示したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、等間隔で8つ一列に直線上に配置した集合を2列設ける等、行列状に設けて良く適宜変更して差支えない。また、行列状に限らず、例えば、円周上に配置する等して良く、要するに、2以上であればどのように配置しても良いことは勿論である。また、上記実施の形態においては、成形体Wとして円筒状(管状)のものを成形する場合で説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、柱状の中実のものを成形するようにしても良く適宜変更して差支えない。この場合には、芯金12は不要になり、下パンチ10及び上パンチ20は柱状の中実体に形成される。
【0039】
また、上記実施の形態においては、粉粒体Fとして琥珀の場合で説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、別の樹脂であっても差支えない。樹脂以外の例えば金属等の粉粒体であっても良い。この際、加熱の必要のない粉粒体の場合は、ダイホルダ2に加熱手段3を設けなくても良いとともに、断熱材40を設けなくても良く、適宜変更して差支えない。更にまた、上記実施の形態においては、本発明を、パンチとして下パンチ10と上パンチ20とを備えた装置に適用したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、一種のパンチ(上パンチ)のみを備えた装置に適用しても良く、適宜変更して差支えない。本発明は、上述した本発明の実施の形態に限定されず、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態に多くの変更を加えることが容易であり、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
S 成形装置
F 粉粒体
W 成形体
1 ダイ
2 ダイホルダ
3 加熱手段
R 所定方向(上下方向)
10 下パンチ
11 下ベース
12 芯金
20 上パンチ
21 パンチ本体
22 保持板
23 上ベース
24 保持体
25 基板
30 ガススプリング
31 シリンダ
32 ピストン
40 断熱材
50 収容孔
51 開口
52 底面