(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165863
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ハウジングユニット
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
G01D5/245 110X
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071421
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 泰之
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA11
2F077NN02
2F077NN14
2F077NN19
2F077NN27
2F077PP01
2F077PP05
2F077PP19
2F077VV03
2F077VV11
2F077VV31
2F077VV33
(57)【要約】
【課題】防水を必要とする電子機器のハウジングとして、浸水検知機能を有するハウジングユニットを提供する。
【解決手段】ハウジングユニットは、内部に液密な収容空間を画成するとともに収容空間に内部機器を収容する筐体部と、筐体部の収容空間内に液体が浸水したことを検知する浸水検知部と、を備える。筐体部は、継ぎ目、出入口または開閉口を防水するシーリング手段を有する。浸水検知部は、電解質塩と、液体が電解質塩に接したときの導電率の変化を検知する導通検知部と、を備える。電解質塩は、筐体部の内部で、シーリング手段よりも筐体部の内側に配設されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液密な収容空間を画成するとともに、前記収容空間に内部機器を収容する筐体部と、
前記筐体部の前記収容空間内に液体が浸水したことを検知する浸水検知部と、を備えたハウジングユニットであって、
前記筐体部は、継ぎ目、出入口または開閉口を防水するシーリング手段を有し、
前記浸水検知部は、
電解質塩と、
液体が前記電解質塩に接したときの導電率の変化を検知する導通検知部と、を備え、
前記電解質塩は、前記筐体部の内部で、前記シーリング手段よりも前記筐体部の内側に配設されている
ことを特徴とするハウジングユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のハウジングユニットにおいて、
前記筐体部の内部で、前記シーリング手段よりも前記筐体部の内側に凹部又は多孔質体が設けられており、
前記電解質塩は、前記凹部又は多孔質体に設けられている
ことを特徴とするハウジングユニット。
【請求項3】
請求項2に記載のハウジングユニットにおいて、
前記凹部又は多孔質体は、互いに分離した複数のサブ区画部からなり、
前記サブ区画部ごとに前記電解質塩が設けられているとともに、前記導通検知部は、前記サブ区画部ごとの導電率を検出する
ことを特徴とするハウジングユニット。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のハウジングユニットにおいて、
前記凹部又は多孔質体は、前記シーリング手段に近い側から前記筐体部の内部に向かう方向に複数列配置されている
ことを特徴とするハウジングユニット。
【請求項5】
請求項3に記載のハウジングユニットにおいて、
前記凹部又は多孔質体は、前記シーリング手段に近い側から前記筐体部の内部に向かう方向に複数列配置されていて、
前記シーリング手段に近い側の列と、前記シーリング手段から遠い側の列と、では隣接する前記サブ区画部の間の隙間が直線的に並ばない
ことを特徴とするハウジングユニット。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のハウジングユニットにおいて、
前記導通検知部は、一定時間ごと、あるいは、前記内部機器の作動の前に、導通検知動作を実行する
ことを特徴とするハウジングユニット。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のハウジングユニットと、
前記ハウジングユニットの内部に収容された内部機器と、を備える電子機器。
【請求項8】
請求項7に記載の電子機器において、
前記内部機器はセンサモジュールであって、
当該電子機器は、測定対象物の物理的な変位を検出するセンサ装置であり、
当該電子機器は、工作機械の駆動部に内蔵され、
前記導通検知部は、切削液の吐出のタイミングに合わせて導通検知動作を実行する
ことを特徴とする電子機器。
【請求項9】
請求項7に記載の電子機器の制御方法であって、
前記内部機器はセンサモジュールであって、当該電子機器は、測定対象物の物理的な変位を検出するセンサ装置であり、当該電子機器は、工作機械の駆動部に内蔵されており、
前記導通検知部は、切削液の吐出のタイミングに合わせて導通検知動作を実行する
ことを特徴とする電子機器の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の駆動制御に用いられるセンサ装置(例えばロータリーエンコーダ)は、加工用の切削液が掛かりやすい苛酷な環境下で使用されることが多い。このようなセンサ装置(例えばロータリーエンコーダ)は防水構造になっているが、シールの不良や経年劣化などにより内部に浸水することはある。筐体の内部の浸水は見た目ではわからないので、ユーザはセンサ装置の仕様や経験的な勘にたよってメンテナンス計画を立てる他ない。すると、メンテナンス過剰による過剰コストを生じるか、メンテナンス不足でセンサの故障や誤作動に至るかのいずれかが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば特許文献1では、光透過性の樹脂でロータリーエンコーダのカバーを構成することを提案している。これにより、カバーの内部に水が浸水しているかどうかは目視により確認できるようになる。
しかしながら、例えばロータリーエンコーダのようなセンサ装置やその他の制御系電子機器は、機械装置(工作機械)の内部に組み込まれるなど、簡単には目視できない箇所に設置されるものである。すると、センサ装置の状態を確認するには機械装置(工作機械)を分解するような大掛りなメンテナンス作業が必要になる。
【0005】
また、小型のセンサ装置内に液滴があるかないかを確認するのは目視では難しく、かなり注意深く観察したとしても見落とす恐れもあるだろう。
【0006】
本発明は、防水を必要とする電子機器のハウジングとして好適な、浸水検知機能を有するハウジングユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のハウジングユニットは、
内部に液密な収容空間を画成するとともに、前記収容空間に内部機器を収容する筐体部と、
前記筐体部の前記収容空間内に液体が浸水したことを検知する浸水検知部と、を備えたハウジングユニットであって、
前記筐体部は、継ぎ目、出入口または開閉口を防水するシーリング手段を有し、
前記浸水検知部は、
電解質塩と、
液体が前記電解質塩に接したときの導電率の変化を検知する導通検知部と、を備え、
前記電解質塩は、前記筐体部の内部で、前記シーリング手段よりも前記筐体部の内側に配設されている
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の一実施形態では、
前記筐体部の内部で、前記シーリング手段よりも前記筐体部の内側に凹部又は多孔質体が設けられており、
前記電解質塩は、前記凹部又は多孔質体に設けられている
ことが好ましい。
【0009】
本発明の一実施形態では、
前記凹部又は多孔質体は、互いに分離した複数のサブ区画部からなり、
前記サブ区画部ごとに前記電解質塩が設けられているとともに、前記導通検知部は、前記サブ区画部ごとの導電率を検出する
ことが好ましい。
【0010】
本発明の一実施形態では、
前記凹部又は多孔質体は、前記シーリング手段に近い側から前記筐体部の内部に向かう方向に複数列配置されている
ことが好ましい。
【0011】
本発明の一実施形態では、
前記凹部又は多孔質体は、前記シーリング手段に近い側から前記筐体部の内部に向かう方向に複数列配置されていて、
前記シーリング手段に近い側の列と、前記シーリング手段から遠い側の列と、では隣接する前記サブ区画部の間の隙間が直線的に並ばない
ことが好ましい。
【0012】
本発明の一実施形態では、
前記導通検知部は、一定時間ごと、あるいは、前記内部機器の作動の前に、導通検知動作を実行する
ことが好ましい。
【0013】
本発明の電子機器は、
前記ハウジングユニットと、
前記ハウジングユニットの内部に収容された内部機器と、を備える
ことを特徴とする。
【0014】
本発明の一実施形態では、
前記内部機器はセンサモジュールであって、当該電子機器は、測定対象物の物理的な変位を検出するセンサ装置であり、当該電子機器は、工作機械の駆動部に内蔵され、
前記導通検知部は、切削液の吐出のタイミングに合わせて導通検知動作を実行する
ことが好ましい。
【0015】
本発明の電子機器の制御方法は、
前記電子機器の制御方法であって、
前記内部機器はセンサモジュールであって、当該電子機器は、測定対象物の物理的な変位を検出するセンサ装置であり、当該電子機器は、工作機械の駆動部に内蔵されており、
前記導通検知部は、切削液の吐出のタイミングに合わせて導通検知動作を実行する
ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】第1浸水検知用溝の所定箇所に浸水検出電極を設置した状態を例示した図である。
【
図5】ベース部の上面における浸水検知用溝の配置を例示する図である。
【
図6】ベース部の上面における浸水検知用溝の配置を例示する図である。
【
図8】電解質塩を担持した多孔質体を筐体部の内側に配した状態を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
本発明のハウジングユニットに係る第1実施形態について説明する。
本発明は、防水を必要とする電子機器のハウジングユニットに係るものである。
電子機器としては、例えば、センサ装置であるロータリーエンコーダが例として挙げられる。
ロータリーエンコーダを例として第1実施形態を説明する。
【0018】
図1は、ロータリーエンコーダ100の外観斜視図である。
図2は、ロータリーエンコーダ100の断面模式図である。
ロータリーエンコーダ100は、回転入力軸110(可動体)と、内部機器としてのセンサモジュール120と、センサモジュール120を収容するハウジングユニット200と、を備える。
【0019】
ここではロータリーエンコーダ100を例とするので、対象物とともに変位する可動体は回転入力軸110である。回転入力軸110の先端は検出対象(測定対象)に接続される。
【0020】
ロータリーエンコーダ100のセンサモジュール120自体は既知のものである。
ロータリーエンコーダ100のセンサモジュール120は、ハウジングユニット200内に収容され、回転入力軸110の回転角を検出する回転検出部130を有する。
回転検出部130は、回転入力軸110と一体回転するように設けられたロータ131と、このロータ131の回転を検出するステータ132と、を有する。
例えば、ロータ131に周期パターンからなるスケールを設け、回転に伴うスケールのパターン変化をステータ132側の検出器で読み取る。
検出方式としては、光電式、静電容量式、磁気式(電磁誘導式)などが知られている。
ステータ132側の検出器からエンコーダ信号(例えば正弦波である)が出力され、エンコーダ信号に基づく演算によって回転が求められる。このような演算を行う演算回路133はセンサモジュール120に組み込まれていてもよいし、ロータリーエンコーダ100の外部(ハウジングユニット200の外部)にあってもよい。
【0021】
ここでは、センサモジュール120内の電装部に回路基板が搭載され、この回路基板に演算回路133も組み込まれているとする。
【0022】
ハウジングユニット200は、センサモジュール120を液密に収容するものである。
ハウジングユニット200は、筐体部210と、浸水検知部300と、を備える。
【0023】
筐体部210の構造としては、シーリング手段によって液密に内部空間を画成するものであればよく、具体的な構造は限定されないものである。
ここでは、一例として、ベース部220と、キャップ部270と、を有する筐体部210を例とする。
図3は、ベース部220の斜視図である。
ベース部220は、円盤状の平板体である。
キャップ部270は、上端面側が閉じ、下端面側が開口した筒状(有天筒状)であり、筒部の下端側において径外方向に延在するフランジ部271を有する。
【0024】
なお、構造説明の便宜のため、「上」、「下」の用語を用いるが、実際にロータリーエンコーダ100が使用されるときの設置姿勢(向き)を限定するものではない。
【0025】
ベース部220の上面側にキャップ部270が被せられて、ベース部220とキャップ部270との間に収容空間が画成される。このとき、フランジ部271がベース部220の外縁部に所定の面積広さで合わさり、ベース部220とキャップ部270との間の継ぎ目が閉塞される。
また、ベース部220の上面において、ベース部220の外縁寄りには、内側をぐるりと取り囲む(環囲する)ように円形のシーリング用溝230が設けられている。この溝には、シーリング材としてOリング231が嵌め込まれる。
【0026】
ここでは、フランジ部271およびOリング231により、ベース部220とキャップ部270との間を液密にシーリングするシーリング手段が構成されているが、シーリング手段としては、この他、フランジ部271とベース部220とを外側からシールする防水テープでもよい。Oリング231に代えて、あるいは、Oリング231に加えて、フランジ部271とベース部220との間に介装される樹脂(例えば接着剤)をシーリング手段としてもよい。
【0027】
また、ベース部270のほぼ中央には、回転入力軸110を挿通させる挿通孔260が設けられている。
この挿通孔260を収容空間の内部から外部に向かう方向で見たとき、挿通孔260は段差をもって拡径している。
いま、挿通孔260のうちで外側寄りの径大部を径大孔部261とし、挿通孔260のうちで内側寄りの径小部を径小孔部262とする。そして、径大孔部261と径小孔部262との間の平面を段差ステップ面263とする。
【0028】
径大孔部261の内壁と回転入力軸110との間にはオイルシール264(シーリング手段)が介装されている。
【0029】
浸水検知部300は、浸水検知用溝(凹部)301-304と、電解質塩310と、導通検知部320と、を備える。
【0030】
浸水検知用溝301-304の配置を説明する。
ベース部220の上面側において、シーリング用溝230よりも筐体部210の内側寄りに、内側をぐるりと取り囲む(環囲する)ように円形の溝が設けられている。この溝を第1浸水検知用溝301とする。
キャップ部270のフランジ部271の下面側において、Oリング231の対向位置よりも内側寄りに、内側をぐるりと取り囲む(環囲する)ように円形の溝が設けられている。この溝を第2浸水検知用溝302とする。
【0031】
また、挿通孔260に、第3浸水検知用溝303と第4浸水検知用溝304とが設けられている。
挿通孔260の段差ステップ面263において、挿通孔260をぐるりと取り囲む(環囲する)ように円形の溝が設けられている。この溝を第3浸水検知用溝303とする。
挿通孔260の径大孔部261において、その内壁に周方向に沿った円形の溝が設けられている。この溝を第4浸水検知用溝304とする。
【0032】
電解質塩310は、第1浸水検知用溝301、第2浸水検知用溝302、第3浸水検知用溝303および第4浸水検知用溝304の内面に塗布されている。
電解質塩310は、溝の側面および底面(側壁および底面)の全体に塗布されていてもよいし、溝の側面だけに塗布されていてもよいし、溝の底面にだけ塗布されていてもよい。電解質塩310としては、例えば、KCl(塩化カリウム)、NaCl(塩化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)などが例として挙げられる。
【0033】
電解質塩310を溝301-304の内面に塗布するにあたっては、溝301-304の内面に粘着性のある樹脂を塗布しておき、その上に電解質塩310を塗布(付着)してもよい。あるいは、電解質塩310を粘着性のある樹脂に混ぜておき、この樹脂を溝の内面に塗布してもよい。電解質塩310を塗布したのち、乾燥させて水分を完全に飛ばしておく。
【0034】
導通検知部320は、一対二本の導線330と、電流検出回路350と、を備える。
一対二本の導線330を複数対用意し、一対の導線330の先端同士を離した状態で溝の内面に固定(貼付)する。
離間した導線330の先端部を浸水検出電極340と称することにする。
浸水を検知したい箇所に浸水検出電極340を設置しておく。
図4は、第1浸水検知用溝301の所定箇所に浸水検出電極340を設置した状態を例示した図である。
【0035】
なお、ベース部220やキャップ部270自体が導電体の場合は、浸水検出電極340とベース部220との間、浸水検出電極340とキャップ部270との間に絶縁体(絶縁シート)を介在させるなどして両者を絶縁しておく。
【0036】
導線330の基端側は、電流検出回路350に接続されている。
なお、ここでは電流検出回路350としたが、一対の導線330の導通を検知できればよく、電圧検出回路としてもよい。
電流検出回路350は、小さな電池と簡単なICとで構成できる既知の構成を用いればよい。電流検出回路350は、筐体部210の内部の所定の箇所に設置される。ここでは、センサモジュール120の内部の回路基板に電流検出回路350も組み込んでいる。
【0037】
溝の内面において浸水検出電極340を固定(貼付)する位置は任意である。溝の底面に水が溜まる場合には、溝の底面に浸水検出電極340を固定しておくのがよいだろう。あるいは、水が下に流れることを考えると、ロータリーエンコーダ100の設置姿勢を考慮して、溝のなかでより下方にくる面に浸水検出電極340を設置しておくとよいだろう。
【0038】
(浸水検知動作)
電流検出回路350は、例えば、一定時間ごとに順番に浸水検出電極340に電圧をかけて浸水検出電極340間の導通の有無を確認する。
筐体部210の外からシーリング手段を超えて水が侵入すると、シーリング手段のすぐ内側にある浸水検知用溝301、302、303、304に水が入る。電解質塩310と水とが接触すると、電解質の水が溝301、302、303、304に徐々に溜まっていく。電解質の水が浸水検出電極340に接触すると、浸水検出電極340間が導通することになる。浸水がないときは電解質塩のイオンが移動しないので導電率がほぼゼロで導通しないが、浸水によって液体が電解質塩に接触すると電解質塩から溶出したイオンが移動するので導電率が急に大きくなる。すなわち、液体の有無による電解質塩の導電率変化を検出することで浸水の有無を検知する浸水検知動作となる。
【0039】
ロータリーエンコーダ100は、例えば工作機械の駆動部に組み込まれたセンサ装置である。
工作機械には適宜のタイミングで切削液を吐出する機能がある。そこで、切削液の吐出のタイミングを電気的制御で管理しているような場合には、切削液の吐出のタイミングに合わせて(例えば切削液の吐出のあと所定時間(例えば数秒)後に)、浸水検出電極340の導通検知動作(導通検査、浸水検査)を行うようにしてもよい。
所定の閾値を超えて導通している浸水検出電極340がある場合には、浸水が許容値を超えていると判断して、導通検知部320からアラーム信号を外部に発信してもよい。アラーム信号は、音やメッセージでユーザに伝えられるとともに、アラームの発生が所定のメモリー(外部PCの記録装置など)にログとして記録される。
【0040】
このような構成を備える第1実施形態によれば、浸水検知動作として、筐体部210内に浸水があるか否かを、所定のタイミング(所定時間後)に浸水検出電極340の導通検知動作(導通検査、浸水検査)を行うことで自動的に検出できる。そして、筐体部210内のセンサモジュール(内部機器)120が故障したり誤作動したりする前にロータリーエンコーダ(電子機器)100のメンテナンスを行うことができる。これにより、メンテナンスの工数およびコストを抑制できるとともに、ロータリーエンコーダ(電子機器)100の安定した長寿命化も実現できる。
【0041】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、浸水検知用溝301、302、303、304は、1つの繋がった円形であるとした。
第2実施形態として、浸水検知用溝は、互いに分離した複数のサブ区画部に分離していてもよい。さらに、浸水検知用溝は、シーリングに近い側から筐体部210の内側に向かう方向に複数列設けられていてもよい。
【0042】
いま、
図5および
図6は、ベース部220の上面における浸水検知用溝の配置の例示である。
図5において、浸水検知用溝は、シーリング用溝230の内側に2列設けられている。2列の浸水検知用溝のうちの外側寄りの列を第1列の浸水検知用溝列401とし、内側寄りの列を第2列の浸水検知用溝列402とする。
【0043】
第1列の浸水検知用溝列401および第2列の浸水検知用溝列402は、それぞれ、複数のサブ区画部430に分離している。各サブ区画部430ごとに電解質塩310が塗布され、浸水検出電極340が配設されている。なお、
図5、
図6では導線330(浸水検出電極340)を省略している。
【0044】
図5において、個々のサブ区画部430の大きさに注目すると、第1列の浸水検知用溝列401を構成するサブ区画部430の方が第2列の浸水検知用溝列402を構成するサブ区画部430よりもやや大きめである。導通が検知されるのに必要な水の量がサブ区画部430の大きさにある程度関係するとすれば、第1列の浸水検知はやや鈍く、第2列の浸水検知は鋭敏に設定できる。
【0045】
図5では、第1列において隣接するサブ区画部430同士の隙間と、第2列において隣接するサブ区画部430同士の隙間と、は直線的になっている。これに対し、例えば、
図6に例示するように、第1列において隣接するサブ区画部430同士の隙間と、第2列において隣接するサブ区画部430同士の隙間と、は直線的に並ばないようにしてもよい。すなわち、第1列において隣接するサブ区画部430同士の隙間を通る仮想直線を引いたとすると、この仮想直線は、第2列のサブ区画部430に交差する。
【0046】
図7は、
図6の拡大図である。
いま、第1列において隣接するサブ区画部430同士の隙間を通る二等分線L1を引くと、この二等分線L1は第2列のサブ区画部430に交差する。さらに、二等分線L1と平行に第1列のサブ区画部430同士の隙間を通る仮想直線L2、L3を引いたとしても、仮想直線L2、L3は第2列のサブ区画部430に交差する。
【0047】
あるいは、第1列のサブ区画部430同士の隙間と第2列のサブ区画部430同士の隙間とを結ぶ仮想直線L4を引くと、この仮想直線L4はサブ区画部430に交差する。
【0048】
これにより、仮に、第1列のサブ区画部430同士の隙間を通り抜けてくる液滴があったとしても、この液滴は第2列のサブ区画部430に入って電解質塩310に接触するだろうと期待できる。
【0049】
第2実施形態においては、複数列の浸水検知用溝列401、402に複数のサブ区画部430がある。浸水検知動作としては、第1実施形態と同様に一定時間ごとあるいは所定のタイミングで浸水検出電極340の導通検知動作(導通検査、浸水検査)を行うものであるが、浸水が検出された箇所や浸水のレベルを組み合わせてより細かい判断ができるようになる。
【0050】
例えば、第1列のサブ区画部430において浸水が検知されたときには第1レベルのアラームを出し、第2列のサブ区画部430において浸水が検知されたときには第2レベルのアラームを出すとする。さらに、第2列のサブ区画部430において浸水が検知されたときでも、電流レベルの閾値を複数段階設定しておいて、軽度、中度、重度などの段階的アラーム情報を出せればよいだろう。
ユーザとしては、第1レベルのアラームがあることを認識して注意はするが、ロータリーエンコーダ100の交換や分解修理はまだ必要ないと判断してもよい。
ユーザとしては、第1、第2レベルのアラームの回数やその種別などアラームのログをみて、ロータリーエンコーダ100の交換をいつ頃するべきか計画をたてるようにするとよい。
【0051】
ロータリーエンコーダ100などの苛酷な環境で使用されることが想定されるセンサ装置にはある程度浸水に備えた対策(保護材や撥水剤、ロバスト性のある検出アルゴリズムなど)が組み込まれているので、規定の浸水があるまでは分解修理やメンテナンスをするよりも使用を継続した方がよいとも言える。しかし、これまでは、ロータリーエンコーダ100などセンサ系の電子機器には浸水を自動検知したり、浸水レベルをログに残したりする機能がなく、ユーザはセンサ装置の仕様や経験的な勘にたよってメンテナンス計画を立てる他なかった。すると、メンテナンスが過剰による過剰コストになるか、メンテナンス不足でセンサ装置が故障に至るかのいずれかであるが、浸水のログが細かく残っていない状況ではメンテナンス計画を適切に修正することは難しい。
この点、本実施形態によれば、浸水を自動的に電気的に検知できるうえ、交換に至らないような浸水レベルも含めてログに記録することもできる。したがって、個々のセンサ装置(ロータリーエンコーダ100)の使用状況に応じて、適切なメンテナンスを実行することができるようになる。
【0052】
(第3実施形態)
上記第1実施形態、第2実施形態においては、浸水検知用溝301-304に電解質塩310を配置(塗布)するとしたが、溝(凹部)301-304に電解質塩310を配置することに代えて、多孔質体510を用いてもよい。
多孔質体510としては例えば発泡性樹脂(例えばポリウレタン樹脂など)が例として挙げられる。多孔質体510に電解質塩310を配置し、この多孔質体510をシーリング手段よりも内側に配置しておく。そして、多孔質体510に浸水検出電極340を取り付けておく。
【0053】
多孔質体510に電解質塩310を担持させるにあたっては、多孔質体510に電解質塩310をしみこませた後に乾燥させる。または、多孔質体510に粘着性のある樹脂を塗布またはしみこませ、その上に電解質塩310を塗布(付着)させてもよい。あるいは、電解質塩310を粘着性のある樹脂に混ぜておき、この樹脂を多孔質体510にしみこませてもよい。電解質塩310は、乾燥させて水分を完全に飛ばしておく。
【0054】
例えば、
図8は、電解質塩310を担持した多孔質体510を筐体部210の内側に配した状態の例示である。Oリング231やオイルシール264よりも内側に多孔質体510を適宜配置し、浸水検出電極340を取り付けておく。第2実施形態で説明した趣旨に沿って、多孔質体を複数列配置してもよいし、多孔質体をサブ区画部に分離してもよいし、多孔質体(サブ区画部)の大きさを変えるようにしてもよい。
【0055】
電解質塩310を溝(凹部)に配置するとなると、ロータリーエンコーダ100の筐体部210に溝を加工することが必要になるが、多孔質体510であれば既存のロータリーエンコーダ100に簡単に追加することもできる。また、ロータリーエンコーダ100が使用される状態(設置姿勢)に応じて必要な箇所に多孔質体510を取り付けるようにして、ユーザのニーズに応じて浸水検知箇所を適宜変更することもできる。
【0056】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
上記実施形態では、ロータリーエンコーダ100を例としたが、センサ装置(電子機器)としてはロータリーエンコーダ100に限らず、リニアエンコーダでもよい。
また、上記実施形態では、回転入力軸110はベース部220を突き抜けるように設けられていたが、回転入力軸110はキャップ部270から突き出るように設けられていてもよい。
また、上記実施形態では測定対象物の物理的な変位を検出するセンサ装置を例にしているが、駆動対象物に物理的な変位を生じさせるようなモータ(アクチュエータ)であってもよい。
エンコーダやアクチュエータに限らず、防水を必要とするあらゆる電子機器のハウジングとして本発明のハウジングユニットを利用できる。
【0057】
上記実施形態では、導通検知動作(導通検査、浸水検査)にあたっては浸水検出電極に電圧をかけて浸水検出電極間の導通の有無を確認するとしたが、異種電極(例えば亜鉛と銅)にしておけば、浸水検出電極が自ら電池となるので、一定時間ごとあるいは所定のタイミングで導通検知動作(導通検査、浸水検査)に別途電圧を掛けるような必要はなく、追加の消費エネルギーはほぼゼロで、浸水のタイミングに合わせた浸水検査をできるようになる。(電極の面積はある程度大きくしておくとよいだろう。)
【符号の説明】
【0058】
100 ロータリーエンコーダ(電子機器、センサ装置)
110 回転入力軸
120 センサモジュール(内部機器)
130 回転検出部
131 ロータ
132 ステータ
133 演算回路
200 ハウジングユニット
210 筐体部
220 ベース部
230 シーリング用溝
231 Oリング
260 挿通孔
261 径大孔部
262 径小孔部
263 段差ステップ面
264 オイルシール
270 キャップ部
271 フランジ部
300 浸水検知部
301 第1浸水検知用溝
302 第2浸水検知用溝
303 第3浸水検知用溝
304 第4浸水検知用溝
310 電解質塩
320 導通検知部
330 導線
340 浸水検出電極
350 電流検出回路
401 第1列の浸水検知用溝列
402 第2列の浸水検知用溝列
430 サブ区画部
510 多孔質体