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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165945
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】筒型圧電素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/113 20060101AFI20221025BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20221025BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20221025BHJP
   H01L 41/047 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01L41/08 E
H01L41/08 L
H01L41/09
H01L41/18 101D
H01L41/187
H01L41/047
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069547
(22)【出願日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2021071387
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】592129486
【氏名又は名称】株式会社長峰製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏司
(72)【発明者】
【氏名】原田 祥久
(72)【発明者】
【氏名】菊島 義弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 拓
(72)【発明者】
【氏名】下條 善朗
(72)【発明者】
【氏名】草薙 敬二
(57)【要約】
【課題】本発明は、分極処理においてより均一な電界によってより均一な残留分極を得ることが可能であり、かつ、駆動機構として用いた場合にもより均一な電界による圧電効果により発生する力も均一とすることが可能な筒型圧電素子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る筒型圧電素子は、筒形の圧電体と、圧電体の外周面において周方向に配された複数の電極と、を備え、当該圧電体の内周面には前記電極が配されていない。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形の圧電体と、
前記圧電体の外周面において長手方向に延びた複数の電極と、を備え、
前記圧電体の内周面には前記電極が配されていない、筒型圧電素子。
【請求項2】
前記圧電体の内寸d2に対する外寸d1の比である寸法比d1/d2が、1.5以上である、請求項1に記載の筒型圧電素子。
【請求項3】
前記電極の数が3つ以上である、請求項1又は2に記載の筒型圧電素子。
【請求項4】
前記電極の数が2つである、請求項1又は2に記載の筒型圧電素子。
【請求項5】
前記圧電体の長手方向に沿った中心軸に垂直な断面における、前記圧電体の外周の形状が多角形であり、
前記複数の電極が前記外周面を構成する複数の平面に配された、請求項1又は2に記載の筒型圧電素子。
【請求項6】
前記圧電体の外周面が、前記圧電体の長手方向に延びた複数の凹部を備え、
前記複数の電極が前記複数の凹部の少なくともいずれかに配された、請求項1又は2に記載の筒型圧電素子。
【請求項7】
前記複数の電極が、周方向に略等間隔に配された、請求項1又は2に記載の筒型圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒型の圧電素子は、中空であることから、その中空部に光ファイバを通してスキャナとして利用することや、シャフトを通して超音波モータとして利用することが期待されている。
【0003】
円筒型の圧電素子として、例えば、特許文献1には、円筒型の圧電素子であって、当該円筒型圧電素子の外周面において周方向に略等間隔で設けられた複数の駆動電極と、当該円筒型圧電素子の内周面に設けられた基準電極と、前記外周面のうち当該円筒型圧電素子の軸方向における一方端近傍部位に設けられ、前記内周面の前記基準電極と電気的に導通している折り返し電極と、前記駆動電極と前記基準電極との間の分極された領域である複数の圧電活性化領域と、を具備することを特徴とする円筒型圧電素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-80774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内周面に電極を備えた円筒型の圧電素子は、内周面の電極と外周面の電極との間に電圧を印加して分極処理が行われる。また、分極処理後の圧電素子は外周面及び内周面の電極に電圧が印加されてアクチュエータ(駆動機構)として駆動する。しかしながら、本発明者らは、円筒型の圧電素子の小型化が進むにつれ、内周面に電極を備える従来の圧電素子では、分極処理時に圧電体に生じる電界の強度にむらが生じることを知見した。特に、内周側の電界強度が大きく、外周側の電界強度が小さくなることが分かった。この場合、外周側の電界強度を大きくするために、分極処理時に印加する電圧を高くすると、圧電素子内で絶縁破壊が生じる可能性がある。
【0006】
また、内周面に電極を備える従来の円筒型の微小な圧電素子をアクチュエータとして用いた場合、アクチュエータの内周側で電界強度が大きくなるため、残留分極が反転することがある。このように、内周面に電極を備える微小な圧電素子では、内周側が再分極しない程度の駆動電圧にする制限がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、分極処理においてより均一な電界によってより均一な残留分極を得ることが可能であり、かつ、駆動機構として用いた場合にもより均一な電界による圧電効果により発生する力も均一とすることが可能な筒型圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、内周面に電極を備える圧電素子では、その微小化に伴って分極処理後の電界強度にむらが生じる理由について検討したところ、圧電素子の微小化に伴い、その中心軸から外周面までの距離に対する圧電素子の肉厚が大きくなるため、径方向で電界強度のむらの影響が大きくなることが分かった。本発明者らが、径方向の電界強度のむらを抑制するために検討を進めたところ、圧電体の内周面には電極を設けずに圧電体の外周面に複数の電極を設け、外周面に設けられた複数の電極を用いて分極処理を行うことで、分極することができ、更に、このような分極処理により分極方向のばらつきを抑制することができるという知見を得た。
【0009】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1] 本発明の一態様に係る筒型圧電素子は、筒形の圧電体と、上記圧電体の外周面において長手方向に延びた複数の電極と、を備え、上記圧電体の内周面には上記電極が配されていない。
[2] 上記[1]に記載の筒型圧電素子では、上記圧電体の内寸d2に対する外寸d1の比である寸法比d1/d2が、1.5以上であることが好ましい。
[3] 上記[1]又は[2]に記載の筒型圧電素子では、上記電極の数が3つ以上であることが好ましい。
[4] 上記[1]又は[2]に記載の筒型圧電素子では、上記電極の数が2つであることが好ましい。
[5] 上記[1]~[4]のいずれかに記載の筒型圧電素子では、上記圧電体の長手方向に沿った中心軸に垂直な断面における、上記圧電体の外周の形状が多角形であり、上記複数の電極が上記外周面を構成する複数の平面に配されていることが好ましい。
[6] 上記[1]~[5]のいずれかに記載の筒型圧電素子では、上記圧電体の外周面が、上記圧電体の長手方向に延びた複数の凹部を備え、上記複数の電極が上記複数の凹部の少なくともいずれかに配されていることが好ましい。
[7] 上記[1]~[6]のいずれかに記載の筒型圧電素子では、上記複数の電極が、周方向に略等間隔に配されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上記態様に係る筒型圧電素子によれば、分極処理においてより均一な電界によってより均一な残留分極を得ることが可能であり、かつ、駆動機構として用いた場合にもより均一な電界による圧電効果により発生する力も均一とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】円筒形の圧電体の外周面及び内周面に電極が配された従来の圧電素子の模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る筒型圧電素子の斜視図である。
図3】同実施形態に係る筒型圧電素子の平面図である。
図4】同実施形態に係る筒型圧電素子の別の態様を説明するための平面図であり、(A)は外周の形状が正八角形である筒型圧電素子の平面図であり、(B)は外周に凹部を有する筒型圧電素子の平面図である。
図5】同実施形態に係る凹部の形状を説明するための部分平面図である。
図6】(A)は同実施形態に係る筒型圧電素子の分極処理の方法を説明するための模式図であり、(B)は分極処理時に生じる電界のベクトル図である。
図7】(A)は同実施形態に係る筒型圧電素子の動作の一例を説明するための、当該筒型圧電素子の平面図であり、(B)は斜視図である。
図8】(A)は本発明例1に係る筒型圧電素子の構造を説明するための平面図であり、(B)は本発明例1に係る筒型圧電素子の斜視図である。
図9】(A)は比較例1に係る筒型圧電素子の構造を説明するための平面図であり、(B)は比較例1に係る筒型圧電素子の斜視図である。
図10】(A)は、分極処理時に本発明例1に係る筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界のベクトル図であり、(B)は、分極処理時に比較例1に係る筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界のベクトル図である。
図11】(A)は、本発明例1に係る筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面における電界強度の分布を示すコンター図であり、(B)は、比較例1に係る筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面における電界強度の分布を示すコンター図であり、(C)は、本発明例1の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面における電界強度の区分ごとの面積割合を示すグラフであり、(D)は、比較例1の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面における電界強度の区分ごとの面積割合を示すグラフである。
図12】(A)は、本発明例2に係る筒型圧電素子の構造を説明するための平面図であり、(B)は、本発明例2に係る筒型圧電素子の斜視図である。
図13】(A)は、本発明例3に係る筒型圧電素子の構造を説明するための平面図であり、(B)は、本発明例3に係る筒型圧電素子の斜視図である。
図14】(A)は、本発明例4に係る筒型圧電素子の構造を説明するための平面図であり、(B)は、本発明例4に係る筒型圧電素子の斜視図である。
図15】(A)は、分極処理時に本発明例2に係る筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界のベクトル図であり、(B)は、分極処理時に本発明例3に係る筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界のベクトル図であり、(C)は、分極処理時に本発明例4に係る筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界のベクトル図である。
図16】(A)は、本発明例2の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界強度の区分ごとの面積割合を示すグラフであり、(B)は、本発明例3の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界強度の区分ごとの面積割合を示すグラフであり、(C)は、本発明例4の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界強度の区分ごとの面積割合を示すグラフである。
図17】本発明例8に係る筒型圧電素子の構造を説明するための平面図である。
図18】XY断面における筒型圧電素子の外周の中心と内周の中心のずれの大きさと、電界強度の均一性との関係を示すグラフである。
図19】本発明の一実施形態に係る筒型圧電素子の別の態様を説明するための平面図である。
図20】本発明の一実施形態に係る筒型圧電素子の別の態様を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の一実施形態に係る筒型圧電素子の説明に先立ち、図1を参照して、内周面及び外周面に電極を有する従来の筒形の圧電素子が微小化すると、これらの電極を用いた分極処理時に、圧電素子の長手方向の中心軸に垂直断面において電界強度のむらが大きくなる理由を説明する。図1は、円筒形の圧電体の外周面及び内周面に電極が配された従来の圧電素子の模式図である。
【0013】
円筒型の圧電体の外周面及び内周面のそれぞれに電極が配された圧電素子を考える。ここで、図1に示すように圧電体の内径をa、外径をbとする。内周面の電極に、単位長さあたり+Q[C]の電荷が与えられ、外周面の電極に、単位長さ当たり-Q[C]の電荷が与えられると、圧電体における中心軸から径方向にt(a<t<b)だけ離れた位置に発生する電界の大きさEtは、ガウスの定理より、下記(1)式で表される。なお、εは、圧電体の誘電率である。
【0014】
【数1】
【0015】
このときの内周面の電極と外周面の電極との間に生じる電位差Vは、電界の大きさEtを圧電体の内周面から外周面までの積分値となるため、下記(2)式で表される。
【0016】
【数2】
【0017】
圧電体の単位長さあたりの電気容量Cは、上記(2)式から下記(3)式で表される。
【0018】
【数3】
【0019】
上記(1)式及び上記(3)式から、圧電体における中心軸から径方向にtだけ離れた位置に発生する電界の大きさEtは、下記(4)式で表される。
【0020】
【数4】
【0021】
微小化した圧電体を想定し、a=200μm、b=400μmを上記(4)式に代入し、内周面(t=200μm)の電界の大きさと、外周面(t=400μm)の電界の大きさと算出してこれらを比較すると、内周面に発生する電界の大きさEは、外周面に発生する電界の大きさEの約2倍となる。
【0022】
一方で、比較的大きい円筒形の圧電体は、外寸に対して肉厚が小さい。例えば、内寸a=9mm、外寸b=10mmの円筒形の圧電体では、内周面の電界の大きさEは、外周面の電界の大きさEの約1.1倍となる。このように、外寸に対して外寸と内寸との差が小さい、言い換えると外寸に対して肉厚が小さいと、圧電体の内周面と外周面との間の電界の大きさの差は小さい。しかし、上記のとおり、圧電体が微小化するにつれ、外寸に対する肉厚が大きくなるため、圧電体の内周面と外周面との間の電界の大きさの差が大きくなる。その結果、内側は高い電界により分極処理が行われるが、外側には分極処理時に必要な電界が加わらず分極処理が不十分になる。
ここまで、内周面に電極を有する従来の筒形の圧電素子が微小化すると電界強度のむらが大きくなる理由を説明した。
【0023】
上記のとおり、外周面の電極及び内周面の電極に電圧を印加すると、圧電体に強度のばらつきが大きい電界が生じる。本発明者らによる検討の結果、外周面の電極のみに電圧を印加することで、圧電体に電界強度の均一性に優れる電界を生じさせることができ、従来の微小な圧電素子と比較してより均一な残留分極が得られることが分かった。
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る圧電素子について、図2図5を参照して説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る筒型圧電素子1の斜視図である。図3は、本実施形態に係る筒型圧電素子1の平面図である。図4は、本実施形態に係る筒型圧電素子1の別の態様を説明するための平面図であり、(A)は外周の形状が正八角形である圧電素子の平面図であり、(B)は外周に凹部を有する筒型圧電素子の平面図である。図5は、本実施形態に係る凹部13の形状を説明するための部分平面図である。
なお、図中の各構成要素の寸法、比率は、実際の各構成要素の寸法、比率を必ずしも表すものではない。
【0025】
以下では、圧電素子の長手方向に沿った中心軸が延びる方向を軸方向と呼称し、当該中心軸に垂直な面における圧電素子の外周に沿う方向を周方向と呼称することがある。また、圧電素子の中心軸に垂直な面において、互いに直交する2つの方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向と呼称し、圧電素子の中心軸が延びる方向をZ軸方向と呼称することがある。また、圧電素子の中心軸に垂直な平面で圧電素子切断した面をXY断面と呼称することがある。
【0026】
[筒型圧電素子1]
本実施形態に係る筒型圧電素子1は、図2及び図3に示すように、筒型の圧電体11と、圧電体11の外周面において軸方向に延びた複数の電極12と、を備える。
【0027】
圧電体11は、圧電性を有する材料で構成される。圧電性を有する材料には、例えば、ペロブスカイト構造を有するセラミックスがある。ペロブスカイト構造のセラミックスは、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、及び、ニッケル、ビスマス、ランタン、ネオジム又はニオブ等がドープされたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等である。圧電体11の材料には、より均一な電界を形成するために、比誘電率が高い材料が好ましい。また外部電極同士で分極処理を行うが、従来の電極配置に比べ距離が離れるため、分極しやすい材料、例えばPZT等が用いられることが好ましい。
【0028】
圧電体11は、外周面111及び内周面112を有する筒形である。
XY断面における圧電体11の外周111の形状(以下では、XY断面における圧電体11の外周の形状を、単に、圧電体11の外周形状と呼称する。)は、例えば、回転対称の形状とすることができる。具体的には圧電体11の外周形状は、例えば、図3に示すような円形、又は図4(A)に示すような外周111Bの形状が正八角形等とすることができる。外周形状は、図3及び図4(A)に限られず、例えば、楕円形、又は多角形等とすることができる。多角形には、全ての辺の長さが等しくかつ全ての内角の大きさが等しい多角形である正多角形、並びに、多角形を形成する複数の辺のうち少なくとも一つの辺の長さが異なる多角形及び複数の内角のうち少なくとも一つの内角の大きさが異なる多角形を含む。
XY断面における外周111の形状が多角形である場合、電極12は外周面111を形成する平面に配されるが、電極12の数と外周面111を形成する平面の数は一致していなくてもよく、電極12の数が外周面111を形成する平面の数よりも少なくてもよい。電極12の数が外周面111を形成する平面の数よりも少ない場合は、電極12は、周方向に略等間隔に配されるように複数の平面に設けられれば良い。
【0029】
圧電体11の外寸d1は、例えば、200μm超800μm以下である。圧電体11の外寸d1は、用途に応じて決定することができる。圧電体11の外寸d1の下限は、特段制限されないが、製造性の観点から、400μm以上であることが好ましい。なお、ここで言う外寸d1は、XY断面における圧電体11の外周上の2点を結んだときに最長となる長さを言う。
【0030】
XY断面における圧電体11の内周の形状は、特段制限されず、例えば、回転対称の形状とすることができ、円形、楕円形、又は多角形等とすることができる。電界をより均一にするために、圧電体の内周の形状は円形であることが好ましい。
【0031】
圧電体11の内寸d2は、例えば、125μm以上である。圧電体11の内寸d2が125μm以上であれば、光ファイバのコアとクラッドを圧電体11の内部に設けることができ、筒型圧電素子1を光ファイバに適用することができる。圧電体11の内寸d2の上限は、特段制限されず、筒型圧電素子1の用途に応じて圧電体11の内部に挿入する部材の大きさに応じて決定することができる。圧電体11の内寸d2は、例えば、200μm以下である。なお、ここで言う内寸d2は、XY断面における圧電体11の内周上の2点を結んだときに最短となる長さを言う。
【0032】
圧電体11の肉厚tは、特段制限されず、外寸d1及び内寸d2に応じて定められれば良いが、押出成形時の内圧の観点から、圧電体11の肉厚tは、好ましくは、125μm以上である。なお、ここでいう肉厚tは、(d1-d2)/2で算出される値である。
【0033】
圧電体11では、内寸d2に対する外寸d1の比である寸法比d1/d2は、特段制限されないが、例えば、1.5以上である。寸法比d1/d2が1.5以上であれば、寸法比d1/d2が同じであって内周面に電極を有する従来の筒形の圧電素子と比較して、より均一な分極状態を得ることができる。寸法比d1/d2は、好ましくは、1.6以上であり、より好ましくは2.0以上である。一方、寸法比d1/d2の上限は、特段制限されないが、例えば、6.4以下とすることができる。
【0034】
XY断面において、圧電体11の内周112の中心は、圧電体11の外周111の中心と一致していなくてもよい。詳細は後述する実施例4にて説明するが、本実施形態に係る筒型圧電素子1では、圧電体11の内周112の中心と圧電体11の外周111の中心とが互いにずれていても、均一性の高い分極処理が可能である。一方で、圧電体11の内周112の中心と圧電体11の外周111の中心とが著しくずれていると、アクチュエータとして筒型圧電素子1が駆動したとき、圧電体11にかかる力が圧電体11内で不均一になるため、それぞれの中心が互いに一致している場合から、筒型圧電素子1の駆動方向が変化することがある。アクチュエータとして駆動させたときの筒型圧電素子1の挙動の変化を抑制するため、XY断面における、圧電体11の内周112の中心と、圧電体11の外周111の中心との間の距離は、20μm以下であることが好ましい。
【0035】
圧電体11は、例えば、図4(B)に示すように軸方向に延びた複数の凹部13を外周面111に備えていてもよい。圧電体11が軸方向に延びた複数の凹部13を備える場合、当該複数の凹部13は、周方向に略等間隔に配されていることが好ましい。凹部13には、電極12が形成される。複数の電極12は、複数の凹部13の少なくともいずれかに配されていることが好ましい。電極12が凹部13に形成されることで、電極12の製造時に電極ペーストの濡れ広がりを防止することができ、電極12の細線化が可能となる。また、凹部13を外周面111に備えていない圧電体11では、電極12の形成位置を特定しづらい場合があり、所望の位置から電極12の形成位置がずれる場合がある。しかしながら、圧電体11が凹部13を外周面111に備えていることで、電極12の形成位置を特定しやすく、所望の位置に電極12を形成させることが容易になる。更に、電極12が凹部13に配されることで、電極12の周方向端部の近傍で集中しやすい電界を緩和することができる。
電極12は凹部13に配されるが、電極12の数と凹部13の数は一致していなくてもよく、凹部13が電極12よりも多く設けられていてもよい。凹部13が電極12よりも多く設けられている場合は、電極12は、周方向に略等間隔に配されるように複数の凹部13に設けられれば良い。
【0036】
凹部13の断面形状は特段制限されず、例えば、図5(A)に示すように、曲率円の中心を圧電体11の外側に有し、所定の曲率半径を有する円弧状であってもよいし、図5(B)に示すように、中心を圧電体11の外側に有する矩形状であってもよい。凹部13の幅(凹部13と外周面111との2つの稜線部間の距離)は、例えば、50μm以上とすることができる。電極12の成形性の観点から、凹部13の幅は、100μm以上であることが好ましい。
また、図5(C)に示すように、凹部13と外周面111との稜線部に面取りがされていることが好ましい。押出成形により圧電体11が製造される場合、凹部13と外周面111との稜線部が丸くなり、面取りがされた状態となる。このように、製造性の観点から、凹部13と外周面111との稜線部が面取りされた状態であることが好ましい。当該稜線部に面取りが施されていることで、例えば、インクジェット法で幅が狭い凹部13へ電極ペーストを塗布して電極12を形成させる場合、電極ペーストを射出するノズルの先端を凹部13に容易に挿入することが可能になり、電極12の形成が容易になる。また、当該稜線部に面取りが施されていることで、電界の集中を抑制することができ、また、当該稜線部でのひびや割れの発生が抑制される。凹部13と外周面111との稜線部の面取りは、R面取りであってもよいしC面取りであってもよい。
また、凹部13は、図5(D)に示すように、凹部13の底面が曲率円の中心を圧電体11の内側に有し、所定の曲率半径を有する円弧状であってもよい。凹部13の底面は、中心軸Cを曲率円の中心とする円弧状であることが好ましい。凹部13の底面が中心軸Cを曲率円の中心とする円弧状であれば、電極作製時のねじれ誤差を許容することができる。
【0037】
電極12は、導電性の材料で構成される。導電性を有する材料としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、又は銀-パラジウム合金等が挙げられる。
【0038】
電極12は、圧電体11の軸方向の一端から他端に亘って形成されている。しかしながら、電極12の軸方向に沿った長さは、適宜変更可能であり、例えば、圧電体11の軸方向の長さに対して90%以下であってもよいし、75%以下であってもよいし、50%以下であってもよい。
【0039】
電極12の幅(周方向の長さ)は、圧電体11の外寸d1や外周形状に応じて定められるが、圧電体11の外周面111に設けられた電極12間で電圧を印加する場合は、電極12の幅は小さい方が好ましい。電極12の幅は、例えば、150μm以下である。一方、電極12の幅は、例えば、50μm以上とすることができるが、製造性の観点から、電極12の幅は、70μm以上であることが好ましい。
電極12の厚さ(圧電体11の外周面111から電極12の表面までの距離の最大値)は、1μm以上であることが好ましい。電極12の厚さが1μmであれば、電極12の抵抗を十分に小さくすることができる。電極12の厚さは、2μm以上であることがより好ましい。
【0040】
筒型圧電素子1では、複数の電極12が圧電体11の外周面111において長手方向に延びて配されている。例えば、図3では、長手方向に延びた4つの電極が外周面111において周方向に等間隔に配されている。電極12は、4つに限られず、2つ以上が配されればよい。例えば、図19では、2つの電極12が、圧電体11の外周面111において、圧電体11の中心軸Cを通りX軸に平行な線Lについて対称に配されている。電極12が2つ以上配されれば、これらの電極12により分極された圧電体11の分極のばらつきを小さくすることができる。
【0041】
2つの電極12が外周面111に配される場合、2つの電極12が対称に配されることで、分極処理後の筒型圧電素子1をアクチュエータとして用いた場合に、2つの電極12が配された方向に変形させることができる。また、2つの電極12の配置を対称ではなく、適宜ずらして配置することにより、圧電素子の変形を制御することができる。
【0042】
また、3つ以上の電極12が外周面111に配される場合は、各電極12が略等間隔に配されることが好ましい。3つ以上の電極12が周方向に略等間隔に配されることで、筒型圧電素子1をアクチュエータとして用いた場合に、各電極12に印加する電圧の大きさや位相を制御することで筒型圧電素子1を任意に変形させることができる。例えば、筒型圧電素子1の一端を固定して、筒型圧電素子1を駆動させた場合、その固定された一端と反対側の一端をXY平面上で任意に変位させることができる。
【0043】
上述したとおり、本実施形態に係る筒型圧電素子1では、電極12が圧電体11の外周面111のみに配されており、内周面112には配されていない。外周面111に配された複数の電極12を用いて圧電体11に分極処理を施すことで、圧電体11の分極状態をより均一にすることができる。更に、分極処理後の筒型圧電素子1に電圧を印加して駆動させる場合、圧電体11の残留分極がより均一であるため、駆動機構として用いた場合に高い電圧を印加することができる。また、内周面112に電極を設ける必要がないため、内周面に電極が設けられた従来の圧電素子と比較して、製造が容易になり、製造コストを低減することができる。
ここまで、本実施形態に係る筒型圧電素子1を説明した。
【0044】
以上、本発明の一実施形態に基づき、本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。上記はあくまでも例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
上述した筒型圧電素子における圧電体は、平面視で点対称の形状を有しているが、圧電体の形状は点対称に限られず、線対称の形状であってもよい。圧電体は、例えば、図20に示すように、平面視で楕円状の外周面111A及び内周面112Aを有する圧電体11Aであってもよい。図20では、長軸がX軸方向に一致し、短軸がY軸方向に一致しており、2つの電極12が、圧電体11Aの外周面111Aにおいて、圧電体11Aの中心軸Cを通りX軸に平行な線Lについて対称に配されている。図20に示す筒型圧電素子1Aは、X軸方向とY軸方向とで形状が異なるため、アクチュエータとして動作させる場合に、X軸方向に曲げ変形する共振周波数と、Y軸方向に曲げ変形する共振周波数を有することがある。筒型圧電素子1Aをアクチュエータとして動作させるために、分極処理を行い、電極12,12に交流電圧を印加し、電極12,12間に電位差を与えて当該電位差により電界を生じさせるときに、当該交流電圧の周波数を各共振周波数のいずれかにすることで、筒型圧電素子1Aの先端を共振周波数に応じた方向に変位させることができる。また、交流電圧の周波数を制御することで、筒型圧電素子1Aの任意の方向に変位させることができる。
【0046】
圧電体の形状は上述した形状に限られず、アクチュエータとして動作させる場合には、圧電体の形状に応じた周波数の交流電圧を印加すればよい。
【0047】
また、圧電体が線対称の形状である場合にも、当該圧電体は、複数の凹部を備えていてもよく、複数の電極が当該複数の凹部の何れかに配されていてもよい。また、複数の電極が、周方向に略等間隔に配されていてもよい。
【0048】
[筒型圧電素子1及びアクチュエータの製造方法]
続いて、筒型圧電素子1の製造方法の一例を説明する。まず、粉末状の圧電材料をプレス機等で筒形に成型する。当該成型では、例えば、押出成型や射出成型が行われる。その後、筒型の成形体を1000℃程度の温度に加熱して成形体を焼結して圧電体11を製造する。次いで、圧電体11の外周面111に複数の電極12を形成させる。電極12の形成は、例えば、めっき処理や、インクジェット法で電極ペーストの塗布を行った後に必要であれば当該電極ペーストを焼き付けて行われる。
ここまで、筒型圧電素子1の製造方法の一例を説明した。
【0049】
筒型圧電素子1は、複数の電極12間に電圧が加えられて分極する。図6(A)は、本実施形態に係る筒型圧電素子1の分極処理の方法を説明するための模式図であり、(B)は分極処理時に生じる電界のベクトル図である。図6(A)では、外周面111に4つの電極12が周方向に等間隔に配された筒型圧電素子1を模式的に示している。例えば、電極12B及び電極12Dを0V(グランド電圧)にして、電極12A、及び、中心軸Cを対称点として電極12Aと点対称である電極12Cに電圧Vを印加する。印加する電圧Vは、例えば、電圧Vによって生じる電界の強度が50V/mm~3kV/mm程度となる程度の電圧であり、その印加時間は30分から2時間程度である。必要であれば100℃から300℃程度の熱を加えて分極処理を行う。これにより、図6(B)に示すように、電極12Aと電極12Bの間及び電極12Aと電極12Dの間では、それぞれ、電極12Aから電極12Bに向かう電界及び電極12Aから電極12Dに向かう電界が生じる。また、電極12Cと電極12Bの間及び電極12Cと電極12Dの間では、それぞれ、電極12Cから電極12Bに向かう電界及び電極12Cから電極12Dに向かう電界が生じる。この生じた電界により、矢印で示された向きに分極方向が揃い、電極12A及び電極12Cに印加した電圧Vを除去した後の圧電体11には、残留分極が残る。
【0050】
[アクチュエータの動作]
続いて、図7を参照してアクチュエータとしての筒型圧電素子1の動作を説明する。図7(A)は、本実施形態に係る筒型圧電素子1の動作の一例を説明するための、当該圧電素子の平面図であり、(B)は斜視図である。図7に示した筒型圧電素子1では、外周面111に4つの電極12が周方向に等間隔に配され、破線矢印の方向に分極した筒型圧電素子1を模式的に示している。
【0051】
電極12A及び電極12Bに電圧を印加して電極12A及び電極12Bの電位を正の電位Vとし、電極12C及び電極12Dは、接地して電位を0Vとする。このとき、電極12Aと電極12Bとの間及び電極12C及び電極12Dの間には電位差がないため、電極12Aと電極12Bとの間及び電極12C及び電極12Dの間には、電界が生じず、圧電体11の上記領域に歪は発生しない。
電極12Bと電極12Cとの間では、電極12Bと電極12Cとの間の電位差Vにより、図7(A)に示すように、電極12Bから電極12Cに向かう電界EB-Cが発生する。電極12Bと電極12Cとの間の電位差Vにより発生する電界EB-Cは、破線矢印で示す分極方向(電極12Cから電極12Bの方向)とは逆の方向である。そのため、XY断面において、電極12Bと電極12Cとの間で縮み変形が生じる。その結果、電極12Bと電極12Cとの間では、軸方向で伸び変形が生じる。
電極12Dと電極12Aとの間では、電極12Dと電極12Aとの間の電位差Vにより、図7(A)に示すように、電極12Aから電極12Dの方向に電界EA-Dが発生する。電極12Aと電極12Dとの間の電位差Vにより発生する電界EA-Dは、破線矢印で示す分極方向(電極12Aから電極12Dの方向)とは同じ方向である。そのため、XY断面において、電極12Dと電極12Aとの間で伸び変形が生じる。その結果、電極12Dと電極12Aとの間では、軸方向で縮み変形が生じる。
筒型圧電素子1の一端が固定されている場合、電極12Bと電極12Cとの間では、中心軸Cに沿った方向で伸び変形が生じ、電極12Dと電極12Aとの間では、中心軸Cに沿った方向で縮み変形が生じるため、筒型圧電素子1の先端は、図7(B)に示すように、電極12Dと電極12Aの間に向かって(X軸負方向に)変位することになる。
【0052】
なお、筒型圧電素子1をアクチュエータとして駆動させるときの電極に印加する電圧は、適宜調整されればよい。
【0053】
本実施形態に係る圧電素子は、スキャナや超音波モータへの適用が可能である。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
本発明に係る筒型圧電素子(本発明例1)及び圧電体の内周面及び外周面に電極を備える従来の筒型圧電素子(比較例1)について分極処理を想定した電界の解析を有限要素法により行った。図8(A)は、本発明例1に係る筒型圧電素子の構造を説明するための平面図であり、(B)は本発明例1に係る筒型圧電素子の斜視図である。図9(A)は比較例1に係る筒型圧電素子の構造を説明するための平面図であり、(B)は比較例1に係る筒型圧電素子の斜視図である。
【0056】
(本発明例1)
本発明例1では、外寸400μm、内寸200μm、長さ5mmの円筒形の圧電体とし、図8(A)に示すように、圧電体の外周面に4つの電極A~Dをこの順で周方向に略等間隔に配置されるものとした。各電極の幅は80μmとし、図8(B)に示すように、軸方向には圧電体の一端から他端に亘って配されているものとした。電極A及び電極Cに電圧を印加し、これらの電極の電位を300Vとした。電極B及び電極Dは接地されたものとし、これらの電極の電位を0Vとした。図10(A)に本発明例1の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面における電界ベクトルを示し、図11(A)に本発明例1の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面における電界強度の分布を示すコンター図を示す。また、表1に、本発明例1の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面における電界強度の最小値から最大値までを均等に30等分したときの電界の強さの分布を示す。また、図11(C)に本発明例1の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面における電界強度の区分ごとの面積割合を示すグラフを示す。
【0057】
【表1】
【0058】
(比較例1)
比較例1では、外寸400μm、内寸200μm、長さ5mmの円筒形の圧電体とし、図9(A)に示すように、圧電体の外周面に4つの電極A~Dをこの順で周方向に略等間隔に配置され、内周面に周方向全体に電極Eが配置されるものとした。外周面の各電極A~Dの幅は200μmとした。外周面の電極A~D及び内周面の電極Eは、図9(B)に示すように、軸方向に圧電体の一端から他端に亘って配されているものとした。電極A~Dに電圧を印加し、これらの電極の電位を300Vとした。内周面の電極Eは接地されたものとし、これらの電極の電位を0Vとした。図10(B)に比較例1の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面における電界ベクトルを示し、図11(B)に比較例1の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面における電界の強さの分布を示すコンター図を示す。また、表2に、比較例1の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界強度の最小値から最大値までを均等に30等分したときの電界の強さの分布を示す。また、図11(D)に比較例1の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面における電界強度の区分ごとの面積割合を示すグラフを示す。
【0059】
【表2】
【0060】
(結果)
本発明例1では、図10(A)に示すように、矢印の方向に電界の向きが揃っていることが分かった。また、各電極間の外周面側にも電界が生じていることが分かった。また、図11(A)と図11(B)、及び図11(C)及び図11(D)を比較すると、本発明例1の圧電素子の電界強度のばらつきが比較例1の圧電素子の電界強度よりも小さいことが分かった。表1及び図11(C)に示すように、ランク10の電界強度を有する領域の面積の割合が28.6%で最も大きく、最も面積割合が大きい電界強度(ランク10)を基準として、電界強度が全体の10%以内の範囲(ランク9~11)までの領域の面積の割合が、XY断面の面積全体に対して57.5%であった。このように、本発明例1の圧電素子では、電界の向きが揃っており、さらに電界強度のばらつきが小さいため、矢印の方向に均一に分極することが可能であることが分かった。
一方、比較例1では、図10(B)に示すように、外周面の電極A~Dから内周面の電極Eに向かう方向に電界の向きが向いていることが分かった。また、比較例1では、図10(B)に示すように、外周面に配された各電極の端部には大きな電界が生じているが、各電極間の外周面側には電界が生じていない部分が存在することが分かった。また、表2及び図11(D)に示すように、ランク19の電界強度を有する領域の面積の割合が13.1%で最も大きく、最も面積割合が大きい電界強度(ランク19)を基準として、電界強度が全体の10%以内の範囲(ランク18~20)までの領域の面積の割合が、XY断面の面積全体に対して34.6%であった。比較例1では、外周面と内周面では、電界強度の差が大きく、内周面付近に強い電界が掛かっている一方で、外周面付近の多くの部分で電界は弱くなっている。その結果、図11の(D)に示されるように、比較例1の圧電素子では、生じる電界が不均一であるため、分極が不均一になることが分かった。
このように、本発明例1は、比較例1と比べて、電界強度がより均一であることが分かった。したがって、本発明例1は比較例1よりも均一に分極することができることが分かった。
【0061】
[実施例2]
本実施例では、外周の形状を変更した圧電素子について、分極処理を想定した電界の解析を有限要素法により行った。図12(A)は、本発明例2に係る筒型圧電素子の構造を説明するための平面図であり、(B)は、本発明例2に係る筒型圧電素子の斜視図である。図13(A)は、本発明例3に係る筒型圧電素子の構造を説明するための平面図であり、(B)は、本発明例3に係る筒型圧電素子の斜視図である。図14(A)は、本発明例4に係る筒型圧電素子の構造を説明するための平面図であり、(B)は、本発明例4に係る筒型圧電素子の斜視図である。
【0062】
(本発明例2)
本発明例2では、外寸400μm、内寸200μm、長さ5mmであり、図12(A)に示すように、外周の形状が正八角形、内周の形状が円形の圧電体とし、圧電体の外周面に4つの電極A~Dをこの順で周方向に略等間隔に配置されるものとした。各電極の幅は100μmとし、図12(B)に示すように軸方向には圧電体の一端から他端に亘って配されているものとした。電極A及び電極Cに電圧を印加し、これらの電極の電位を300Vとした。電極B及び電極Dは接地されたものとし、これらの電極の電位を0Vとした。図15(A)に本発明例2の圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界ベクトルを示す。また、表3に、本発明例2の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界強度の最小値から最大値までを均等に30等分したときの電界の強さの分布を示し、図16(A)に電界強度の区分ごとの面積割合を示すグラフを示す。
【0063】
【表3】
【0064】
(本発明例3)
本発明例3では、外寸400μm、内寸200μm、長さ5mmであり、図13(A)に示すように、円形の外周面に4つの凹部が周方向に等間隔で配置され、内周の形状が円形の圧電体とした。各凹部の深さは25μmとし、幅は50μmとした。圧電体の外周面に4つの凹部に電極A~Dをこの順で配置されるものとした。各電極の幅は50μmとし、図13(B)に示すように軸長手方向には圧電体の一端から他端に亘って配されているものとした。電極A及び電極Cに電圧を印加し、これらの電極の電位を410Vとした。電極B及び電極Dは接地されたものとし、これらの電極の電位を0Vとした。図15(B)に本発明例3の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界ベクトルを示す。また、表4に、本発明例3の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界強度の最小値から最大値までを均等に30等分したときの電界の強さの分布を示し、図16(B)に電界強度の区分ごとの面積割合を示すグラフを示す。
【0065】
【表4】
【0066】
(本発明例4)
本発明例4では、外寸400μm、内寸200μm、長さ5mmであり、図14(A)に示すように、円形の外周面に4つの凹部が周方向に等間隔で配置され、内周の形状が円形の圧電体とした。各凹部の深さは10μmとし、幅は150μmとした。圧電体の外周面に4つの凹部に電極A~Dをこの順で配置されるものとした。各電極の幅は150μmとし、図14(B)に示すように軸方向には圧電体の一端から他端に亘って配されているものとした。電極A及び電極Cに電圧を印加し、これらの電極の電位を300Vとした。電極B及び電極Dは接地されたものとし、これらの電極の電位を0Vとした。図15(C)に本発明例4の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界ベクトルを示す。また、表5に、本発明例4の筒型圧電素子の長さ方向中央位置のXY断面に生じた電界強度の最小値から最大値までを均等に30等分したときの電界の強さの分布を示す。また、図16(C)に電界強度の区分ごとの面積割合を示すグラフを示す。
【0067】
【表5】
【0068】
(結果)
本発明例2~4では、図15に示すように、矢印の方向に電界の向きが揃っていることが分かった。したがって、本発明例2~4の圧電素子は、矢印の方向に分極することが可能であることが分かった。
【0069】
本発明例2では、表3及び図16(A)に示すように、ランク11の電界強度を有する領域の面積の割合が最も大きく、その割合は33.5%であった。本発明例3では、表4及び図16(B)に示すように、ランク13の電界強度を有する領域の面積の割合が最も大きく、その割合は23.4%であった。本発明例4では、表5及び図16(C)に示すように、ランク14の電界強度を有する領域の面積の割合が最も大きく、その割合は19.3%であった。このように、圧電素子の外周の形状を変更した場合にも、電界強度がより均一であり、均一に分極することができることが分かった。
【0070】
[実施例3]
本実施例では、本発明に係る圧電素子の駆動をシミュレーションした。図17は、本発明例8に係る圧電素子の構造を説明するための平面図である。
【0071】
(本発明例5)
本発明例5では、本発明例1の圧電素子の一端を固定し、図8(A)に示す電極A及び電極Cに電圧を印加して電極Aの電位を10Vとし、電極Cの電位を-10Vとした。電極B及び電極Dは接地されたものとし、これらの電極の電位を0Vとした。その結果、圧電素子の他端が電極Aと電極Dとの間(X軸負方向)に向かって462nm変位した。
【0072】
(本発明例6)
本発明例6では、本発明例2の圧電素子の一端を固定し、図12(A)に示す電極A及び電極Cに電圧を印加して電極Aの電位を-10Vとし、電極Cの電位を10Vとした。電極B及び電極Dは接地されたものとし、これらの電極の電位を0Vとした。その結果、圧電素子の他端が電極Aと電極Dとの間(X軸負方向)に向かって592nm変位した。
【0073】
(本発明例7)
本発明例7では、本発明例3の圧電素子の一端を固定し、図13(A)に示す電極A及び電極Cに電圧を印加して電極Aの電位及び電極Cの電位を10Vとした。電極B及び電極Dは接地されたものとし、これらの電極の電位を0Vとした。その結果、圧電素子の他端が電極Aと電極Dとの間(X軸負方向)に向かって516nm変位した。
【0074】
(本発明例8)
本発明例8では、圧電素子は、外寸400μm、内寸200μm、長さ5mmであり、図17に示すように、正八角形の外周面を構成する8つの面において1つの面おきに凹部が配置され、合計4つの凹部が配置されたものとした。内周の形状は円形とした。各凹部の形状は半円形であり、凹部の深さは35μmとし、幅は70μmとした。この4つの凹部に電極A~Dがこの順で配置されるものとした。各電極A~Dは、凹部を埋めるように配置され、長手方向には圧電体の一端から他端に亘って配されているものとした。電極A及び電極Cの電位をそれぞれ300Vとし、電極B及び電極Dは接地されたものとし、これらの電極の電位を0Vとし、分極処理が行われたものとした。
この圧電素子の一端を固定し、電極A及び電極Cに電圧を印加して電極Aの電位を-10Vとし、電極Cの電位を10Vとした。電極B及び電極Dは接地されたものとし、これらの電極の電位を0Vとした。その結果、圧電素子の他端が電極Aと電極Dとの間(X軸負方向)に向かって650nm変位した。
【0075】
上記のとおり、本発明に係る圧電素子は、アクチュエータとして使用することが可能であることが分かった。
【0076】
[実施例4]
本実施例では、XY断面における圧電素子の外周の中心と内周の中心とが互いにずれた筒型圧電素子の電極に電圧を印加したときに生じる電界を調査した。具体的には、本発明例1の筒型圧電素子及び比較例1の筒型圧電素子において、XY断面の内周の中心が外周の中心に対し、X軸正方向に、5μm、7.5μm、10μm、及び20μmずれた場合、並びに、X軸正方向に対してY軸正方向に45度の方向に、5μm、7.5μm、10μm、及び20μmずれた場合の電界の変化を有限要素法により解析した。
本発明例1の筒型圧電素子において、XY断面の内周の中心が外周の中心に対し、X軸正方向にずれた例を本発明例9とし、X軸正方向に対してY軸正方向に45度の方向にずれた例を本発明例10とした。
比較例1の筒型圧電素子において、XY断面の内周の中心が外周の中心に対し、X軸正方向にずれた例を比較例2とし、X軸正方向に対してY軸正方向に45度の方向にずれた例を比較例3とした。
電圧の印加は、本発明例1及び比較例1と同様に行った。すなわち、本発明例9、10では、電極A及び電極Cに電圧を印加し、これらの電極の電位を300Vとした。電極B及び電極Dは接地されたものとし、これらの電極の電位を0Vとした。比較例2、3では、電極A~Dに電圧を印加し、これらの電極の電位を300Vとした。内周面の電極Eは接地されたものとし、これらの電極の電位を0Vとした。
【0077】
筒型圧電素子の長手方向の中心のXY平面に生じた電界において、電界強度の最小値から最大値までを均等に30等分してランク1~30と呼称し、最も大きな割合を示したランクを中心に10%の電界強度を有する領域の面積の割合を算出した。結果を図18に示す。図18は、XY断面における筒型圧電素子の外周の中心と内周の中心のずれの大きさと、電界強度の均一性との関係を示すグラフであり、縦軸は、最も面積割合が大きい電界強度のランクを基準として、電界強度が全体の10%以内の範囲の領域の面積の割合(%)を示し、横軸は、XY断面の外周の中心に対する内周の中心のずれ(μm)を示す。
【0078】
内周面の中心が横方向にずれた場合について、本発明例9は、比較例2と比べて、内周面の中心のずれによる電界強度の均一性の低下は小さく、電界強度の均一性は高い状態に維持されていた。また、内周面の中心が斜め方向にずれた場合についても同様に、本発明例10は、比較例3と比べて、内周面の中心のずれによる電界強度の均一性の低下は小さく、電界強度の均一性は高い状態に維持されていた。
したがって、本発明に係る筒型圧電素子は、作製時のエラーにより外周面の中心と内周面の中心がずれた場合であっても、分極処理への影響が小さく、アクチュエータとして利用する場合も安定して駆動させることができる。よって、本発明に係る筒型圧電素子を量産した場合にも、従来の筒型圧電素子と比較して、筒型圧電素子ごとの性能ばらつきが抑制される。
【符号の説明】
【0079】
1、1A 筒型圧電素子
11、11A 圧電体
12、12A、12B、12C、12D 電極
13 凹部
111、111A 外周面(外周)
112、112A 内周面(内周)
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