(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166382
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】ウェーハの切削方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
H01L21/78 Q
H01L21/78 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071555
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】滝田 友春
【テーマコード(参考)】
5F063
【Fターム(参考)】
5F063AA11
5F063AA23
5F063AA25
5F063BA03
5F063CA04
5F063DD02
5F063DD03
5F063DD97
5F063EE75
(57)【要約】
【課題】凹部を有するウェーハを適切に切削することが可能なウェーハの切削方法を提供する。
【解決手段】中央部に円形の凹部を備え、外周部に凹部を囲繞する環状の凸部を備えるウェーハを切削するウェーハの切削方法であって、粘着テープを凹部及び凸部に沿って貼着するテープ貼着ステップと、凹部よりも径が小さい保持面を有するチャックテーブルの保持面で凹部に貼着されている粘着テープを吸引することにより、粘着テープを介してウェーハをチャックテーブルによって保持する保持ステップと、凸部が固定されていない状態で、回転する切削ブレードを凹部に貼着されている粘着テープに達するようにウェーハに切り込ませてチャックテーブルを回転させることによって、凹部と凸部とを分離する切削ステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に円形の凹部を備え、外周部に該凹部を囲繞する環状の凸部を備えるウェーハを切削するウェーハの切削方法であって、
粘着テープを該凹部及び該凸部に沿って貼着するテープ貼着ステップと、
該凹部よりも径が小さい保持面を有するチャックテーブルの該保持面で該凹部に貼着されている該粘着テープを吸引することにより、該粘着テープを介して該ウェーハを該チャックテーブルによって保持する保持ステップと、
該凸部が固定されていない状態で、回転する切削ブレードを該凹部に貼着されている該粘着テープに達するように該ウェーハに切り込ませて該チャックテーブルを回転させることによって、該凹部と該凸部とを分離する切削ステップと、を含むことを特徴とするウェーハの切削方法。
【請求項2】
該テープ貼着ステップでは、該粘着テープを介して該ウェーハを環状のフレームで支持し、
該切削ステップでは、該凸部及び該フレームが固定されていない状態で、該切削ブレードを該ウェーハに切り込ませることを特徴とする請求項1に記載のウェーハの切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハの切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスチップの製造プロセスでは、格子状に配列された複数のストリート(分割予定ライン)によって区画された複数の領域にそれぞれデバイスが形成されたデバイス領域を表面側に備えるウェーハが用いられる。このウェーハをストリートに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが得られる。デバイスチップは、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の様々な電子機器に搭載される。
【0003】
近年では、電子機器の小型化に伴い、デバイスチップの薄型化が求められている。そこで、ウェーハの分割前にウェーハを薄化する加工が実施されることがある。ウェーハの薄化には、例えば研削装置が用いられる。研削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、被加工物に研削加工を施す研削ユニットとを備えており、研削ユニットには研削砥石を含む研削ホイールが装着される。研削装置は、チャックテーブルによって保持されたウェーハの裏面側に研削砥石を接触させることにより、ウェーハを研削、薄化する。
【0004】
ウェーハを研削して薄化すると、ウェーハの剛性が低下し、その後のウェーハの取り扱い(搬送、保持等)が難しくなる。そこで、ウェーハの裏面側のうちデバイス領域と重なる領域のみを研削して薄化する手法が提案されている。この手法を用いると、ウェーハの中央部には凹部が形成される一方で、ウェーハの外周部は薄化されずに厚い状態に維持され、環状の凸部として残存する。その結果、ウェーハの外周部(凸部)が補強部として機能し、研削後のウェーハの剛性の低下が抑えられる。
【0005】
薄化されたウェーハは、最終的に複数のデバイスチップに分割される。その際、ウェーハの外周部に残存する環状の凸部は、分割の妨げにならないように予め除去される。ウェーハの凸部の除去には、例えば環状の切削ブレードで被加工物を切削する切削装置が用いられる。切削ブレードでウェーハを環状に切削することにより、ウェーハの中央部(凹部)と外周部(凸部)とが分離される。
【0006】
凹部を有するウェーハを切削装置によって加工する際には、切削装置に搭載された専用のチャックテーブルによってウェーハが保持される。特許文献1には、ウェーハの凹部に嵌め込まれる立ち上がり部(凸部)を備えるチャックテーブルが開示されている。このチャックテーブル上にウェーハを配置すると、ウェーハの凹部が立ち上がり部によって支持されるとともに、ウェーハの外周部が立ち上がり部の周囲に設けられたスペーサによって支持される。これにより、ウェーハは平坦な状態でチャックテーブルによって保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、凹部を有するウェーハを切削装置で適切に加工するためには、ウェーハの全体をチャックテーブルによって保持することが不可欠であると考えられている。そして、代表的には前述のようなウェーハの凹部に対応する凸部(立ち上がり部)を備えたチャックテーブルが用いられる。ただし、ウェーハの凹部の深さとチャックテーブルの凸部の突出量(高さ)とに差があると、ウェーハが平坦に保持されず湾曲した状態となり、特にウェーハの凹部と外周部との境界付近において局所的な応力がかかる。この状態でウェーハを切削ブレードで切削すると、チッピング(欠け)等の加工不良が発生しやすい。
【0009】
そのため、チャックテーブルの凸部は、その突出量が可能な限りウェーハの凹部の深さと一致するように形成される。しかしながら、ウェーハの厚さ、ウェーハの凹部の深さ、ウェーハに貼着されるテープ(ダイシングテープ)の厚さ、チャックテーブルの寸法等にはばらつきがあり、チャックテーブルに凸部を形成するための加工の精度にも限界がある。このような様々な要因から、ウェーハの凹部の深さとチャックテーブルの凸部の突出量とを厳密に一致させることは難しく、現実的には両者の間に10μm以上の誤差が生じてしまうことが多い。その結果、凹部を有するウェーハが僅かに湾曲した状態でチャックテーブルに固定され、加工不良の発生が十分に抑制されないことがある。
【0010】
また、ウェーハの凹部の深さは、ウェーハの種類(径、厚さ、材質等)に応じて異なる。そのため、加工対象となるウェーハの種類が変更される度に、チャックテーブルの凸部の突出量も変更する必要がある。これにより、チャックテーブルの準備や交換に手間とコストがかかり、切削装置によるウェーハの加工効率も低下してしまう。
【0011】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、凹部を有するウェーハを適切に切削することが可能なウェーハの切削方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、中央部に円形の凹部を備え、外周部に該凹部を囲繞する環状の凸部を備えるウェーハを切削するウェーハの切削方法であって、粘着テープを該凹部及び該凸部に沿って貼着するテープ貼着ステップと、該凹部よりも径が小さい保持面を有するチャックテーブルの該保持面で該凹部に貼着されている該粘着テープを吸引することにより、該粘着テープを介して該ウェーハを該チャックテーブルによって保持する保持ステップと、該凸部が固定されていない状態で、回転する切削ブレードを該凹部に貼着されている該粘着テープに達するように該ウェーハに切り込ませて該チャックテーブルを回転させることによって、該凹部と該凸部とを分離する切削ステップと、を含むウェーハの切削方法が提供される。
【0013】
なお、好ましくは、該テープ貼着ステップでは、該粘着テープを介して該ウェーハを環状のフレームで支持し、該切削ステップでは、該凸部及び該フレームが固定されていない状態で、該切削ブレードを該ウェーハに切り込ませる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係るウェーハの切削方法においては、ウェーハの凸部(外周部)が固定されていない状態で、切削ブレードをウェーハに切り込ませて凹部(中央部)と凸部(外周部)とを分離する。これにより、切削時におけるウェーハの応力が低減され、加工不良の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1(A)はウェーハの表面側を示す斜視図であり、
図1(B)はウェーハの裏面側を示す斜視図である。
【
図2】
図2(A)は粘着テープが貼着されたウェーハを示す斜視図であり、
図2(B)は粘着テープが貼着されたウェーハを示す断面図である。
【
図4】チャックテーブルによって保持されたウェーハを示す断面図である。
【
図5】
図5(A)は切削ブレードが切り込んだ状態のウェーハを示す斜視図であり、
図5(B)は切削ブレードが切り込んだ状態のウェーハを示す断面図である。
【
図7】
図7(A)はチャックテーブルが回転する際のウェーハを示す斜視図であり、
図7(B)はチャックテーブルが回転する際のウェーハを示す断面図である。
【
図8】チッピングサイズの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一態様に係る実施形態を説明する。まず、本実施形態に係るウェーハの切削方法を用いて加工することが可能なウェーハの構成例について説明する。
図1(A)はウェーハ11の表面側を示す斜視図であり、
図1(B)はウェーハ11の裏面側を示す斜視図である。
【0017】
例えばウェーハ11は、シリコン等の半導体でなる円盤状の基板であり、互いに概ね平行な表面11a及び裏面11bを備える。ウェーハ11は、互いに交差するように格子状に配列された複数のストリート(分割予定ライン)13によって、複数の矩形状の領域に区画されている。また、ストリート13によって区画された領域の表面11a側にはそれぞれ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)、LED(Light Emitting Diode)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイス等のデバイス15が形成されている。
【0018】
ウェーハ11は、複数のデバイス15が形成された略円形のデバイス領域17Aと、デバイス領域17Aを囲む環状の外周余剰領域17Bとを、表面11a側に備える。外周余剰領域17Bは、表面11aの外周縁を含む所定の幅(例えば2mm程度)の環状の領域に相当する。
図1(A)には、デバイス領域17Aと外周余剰領域17Bとの境界を二点鎖線で示している。
【0019】
なお、ウェーハ11の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えばウェーハ11は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等でなる基板であってもよい。また、デバイス15の種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はない。
【0020】
ウェーハ11をストリート13に沿って格子状に分割することにより、デバイス15をそれぞれ備える複数のデバイスチップが製造される。また、分割前のウェーハ11に対して薄化処理を施すことにより、薄型化されたデバイスチップが得られる。
【0021】
ウェーハ11の薄化には、例えば研削装置が用いられる。研削装置は、被加工物を保持するチャックテーブル(保持テーブル)と、被加工物に研削加工を施す研削ユニットとを備えており、研削ユニットには研削砥石を含む研削ホイールが装着される。チャックテーブルによってウェーハ11を保持し、チャックテーブルと研削ホイールとをそれぞれ回転させながら研削砥石をウェーハ11の裏面11b側に接触させると、ウェーハ11の裏面11b側が研削され、ウェーハ11が薄化される。
【0022】
ただし、ウェーハ11の裏面11b側の全体が研削されると、ウェーハ11の全体が薄化されてウェーハ11の剛性が低下し、その後のウェーハ11の取り扱い(搬送、保持等)が難しくなる。そのため、薄化処理(研削加工)は、ウェーハ11の裏面11b側の一部の領域のみに施されることがある。
【0023】
例えばウェーハ11は、中央部のみが研削、薄化される。この場合、
図1(B)に示すように、ウェーハ11の裏面11bには円形の凹部(溝)19が形成される。凹部19は、デバイス領域17Aに対応する位置に設けられる。具体的には、凹部19の大きさ(径)はデバイス領域17Aの大きさ(径)と概ね同一に設定され、凹部19はデバイス領域17Aと重なる位置に形成される。
【0024】
凹部19は、ウェーハ11の表面11a及び裏面11bと概ね平行な円形の底面19aと、ウェーハ11の厚さ方向と概ね平行で裏面11b及び底面19aに接続された環状の側面(内壁)19bとを含む。また、ウェーハ11の外周部には、薄化処理(研削加工)が施されていない領域に相当する環状の凸部(補強部)21が残存している。凸部21は、外周余剰領域17Bを含み、デバイス領域17A及び凹部19を囲繞している。
【0025】
ウェーハ11の中央部のみを薄化すると、ウェーハ11の外周部(凸部21)が厚い状態に維持される。これにより、ウェーハ11の剛性の低下が抑えられ、ウェーハ11を取り扱う際におけるウェーハ11の変形、破損等が生じにくくなる。すなわち、凸部21はウェーハ11を補強する補強領域として機能する。
【0026】
次に、凹部19を有するウェーハ11を複数のデバイスチップに分割するためのウェーハの切削方法の具体例について説明する。本実施形態では、まず、ウェーハ11に粘着テープを貼着する(テープ貼着ステップ)。
図2(A)は粘着テープ23が貼着されたウェーハ11を示す斜視図であり、
図2(B)は粘着テープ23が貼着されたウェーハ11を示す断面図である。
【0027】
ウェーハ11の裏面11b側には、ウェーハ11の裏面11b側の全体を覆うことが可能な大きさの粘着テープ23が貼着される。例えば、ウェーハ11よりも径の大きい円形の粘着テープ23が、ウェーハ11の裏面11b側を覆うように貼着される。粘着テープ23としては、円形の基材と、基材上に設けられた粘着層(糊層)とを含む柔軟なフィルムを用いることができる。例えば、基材はポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂でなり、粘着層はエポキシ系、アクリル系、又はゴム系の接着剤等でなる。また、粘着層として、紫外線の照射によって硬化する紫外線硬化型の樹脂を用いることもできる。
【0028】
粘着テープ23は、ウェーハ11の裏面11b側の輪郭に沿って貼着される。すなわち、粘着テープ23は
図2(B)に示すように、凹部19の底面19a及び側面19bと、凸部21の裏面(下面)とに沿って(倣って)貼着される。なお、
図2(B)には、凹部19の外周部において底面19a及び側面19bと粘着テープ23との間に僅かな隙間(空間)が存在する場合を図示しているが、粘着テープ23は底面19a及び側面19bに密着するように貼着されてもよい。
【0029】
粘着テープ23の外周部には、SUS(ステンレス鋼)等の金属でなる環状のフレーム25が貼着される。フレーム25の中央部には、フレーム25を厚さ方向に貫通する円形の開口25aが設けられている。なお、開口25aの径は、ウェーハ11の径よりも大きい。そして、開口25aの内側に配置されたウェーハ11の裏面11b側に粘着テープ23の中央部が貼着され、フレーム25に粘着テープ23の外周部が貼着される。これにより、ウェーハ11が粘着テープ23を介してフレーム25によって支持され、ウェーハ11、粘着テープ23、及びフレーム25が一体化したフレームユニット(ワークセット)が構成される。
【0030】
粘着テープ23が貼着されたウェーハ11は、切削装置によって切削される。
図3は、切削装置2を示す斜視図である。
図3において、X軸方向(加工送り方向、第1水平方向)とY軸方向(割り出し送り方向、第2水平方向)とは、互いに垂直な方向である。また、Z軸方向(鉛直方向、上下方向、高さ方向)は、X軸方向及びY軸方向と垂直な方向である。切削装置2は、ウェーハ11を保持するチャックテーブル(保持テーブル)4と、チャックテーブル4によって保持されたウェーハ11を切削する切削ユニット10とを備える。
【0031】
チャックテーブル4の上面は、水平方向(XY平面方向)と概ね平行な平坦面であり、ウェーハ11を保持する円形の保持面4a(
図4参照)を構成している。また、チャックテーブル4には、チャックテーブル4をX軸方向に沿って移動させるボールねじ式の移動機構(不図示)と、チャックテーブル4をZ軸方向と概ね平行な回転軸の周りで回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)とが連結されている。
【0032】
チャックテーブル4の上方には、切削ユニット10が配置されている。切削ユニット10は筒状のハウジング12を備え、ハウジング12にはY軸方向に沿って配置された円柱状のスピンドル14(
図4参照)が収容されている。スピンドル14の先端部(一端部)はハウジング12の外部に露出しており、スピンドル14の基端部(他端部)にはモータ等の回転駆動源が連結されている。
【0033】
スピンドル14の先端部には、環状の切削ブレード16が装着される。切削ブレード16は、回転駆動源からスピンドル14を介して伝達される動力によって、Y軸方向と概ね平行な回転軸の周りを所定の回転速度で回転する。
【0034】
切削ブレード16としては、例えばハブタイプの切削ブレード(ハブブレード)が用いられる。ハブブレードは、金属等でなる環状の基台と、基台の外周縁に沿って形成された環状の切刃とが一体となって構成される。ハブブレードの切刃は、ダイヤモンド等でなる砥粒がニッケルめっき層等の結合材によって固定された電鋳砥石によって構成される。ただし、切削ブレード16としてワッシャータイプの切削ブレード(ワッシャーブレード)を用いることもできる。ワッシャーブレードは、砥粒が金属、セラミックス、樹脂等でなる結合材によって固定された環状の切刃のみによって構成される。
【0035】
切削ユニット10に装着された切削ブレード16は、ハウジング12に固定されたブレードカバー18に覆われる。ブレードカバー18は、純水等の液体(切削液)が供給されるチューブ(不図示)に接続される一対の接続部20と、一対の接続部20に接続され切削ブレード16の両面側(表裏面側)にそれぞれ配置される一対のノズル22とを備える。一対のノズル22にはそれぞれ、切削ブレード16に向かって開口する供給口(不図示)が形成されている。
【0036】
接続部20に切削液が供給されると、一対のノズル22に切削液が流入し、一対のノズル22の供給口から切削ブレード16の両面(表裏面)に向かって切削液が供給される。この切削液によって、ウェーハ11及び切削ブレード16が冷却されるとともに、切削加工によって生じた屑(切削屑)が洗い流される。
【0037】
切削ユニット10には、ボールねじ式の移動機構(不図示)が連結されている。移動機構は、切削ユニット10をY軸方向及びZ軸方向に沿って移動させる。移動機構によって、切削ブレード16の割り出し送り方向における位置、切削ブレード16のウェーハ11への切り込み深さ等が調節される。
【0038】
切削装置2でウェーハ11を加工する際は、まず、粘着テープ23を介してウェーハ11をチャックテーブル4によって保持する(保持ステップ)。
図4は、チャックテーブル4によって保持されたウェーハ11を示す断面図である。
【0039】
チャックテーブル4は、SUS等の金属、ガラス、セラミックス、樹脂等でなる円柱状の枠体(本体部)6を備える。枠体6の中央部の上面6a側には円柱状の凹部(溝)6bが形成されており、凹部6bには円盤状の保持部材8が嵌め込まれている。保持部材8は、ポーラスセラミックス等の多孔質材料でなる部材であり、その内部に保持部材8の上面から下面に連通する空孔(流路)を含んでいる。
【0040】
保持部材8は、枠体6の内部に形成された流路(不図示)、バルブ(不図示)等を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。また、保持部材8の上面は、ウェーハ11を吸引する円形の吸引面8aを構成している。枠体6の上面6aと保持部材8の吸引面8aとは、概ね同一平面上に配置され、チャックテーブル4の保持面4aを構成している。
【0041】
ウェーハ11は、表面11a側が上方に露出するようにチャックテーブル4上に配置される。なお、チャックテーブル4は、保持面4aでウェーハ11の凹部19の底面19aを保持可能に構成されている。具体的には、保持面4aの径は凹部19の径よりも小さい。そして、チャックテーブル4上にウェーハ11を配置すると、チャックテーブル4の保持面4a側が凹部19に嵌め込まれる。これにより、凹部19の底面19aが粘着テープ23を介して保持面4aによって支持される。
【0042】
ウェーハ11がチャックテーブル4上に配置された状態で、保持部材8に吸引源の負圧(吸引力)を作用させると、粘着テープ23のうち凹部19の底面19aに貼着されている領域が吸引面8aに吸引される。これにより、ウェーハ11が粘着テープ23を介してチャックテーブル4によって吸引保持される。
【0043】
なお、吸引面8aに吸引力が作用していない状態でウェーハ11を保持面4a上に配置すると、ウェーハ11の凸部21の自重によって、ウェーハ11が上に凸状に湾曲した状態となることがある。しかしながら、吸引面8aに吸引力を作用させると、凹部19の底面19aが保持面4aに沿って平坦に支持される。その結果、ウェーハ11の湾曲が矯正され、ウェーハ11は全体が概ね平坦な状態になる。
【0044】
ここで、チャックテーブル4の保持面4aの外周縁よりも保持面4aの半径方向外側の領域には、ウェーハ11、粘着テープ23、又はフレーム25を保持する部材(チャックテーブル4の一部、他の保持部材等)が設けられていない。そのため、チャックテーブル4によってウェーハ11を保持した際、ウェーハ11の凸部21、粘着テープ23の外周部、及びフレーム25は、固定されずに浮いた状態となる。
【0045】
ただし、切削装置2は、チャックテーブル4の周囲に設けられフレーム25を把持して固定する複数のクランプ(不図示)を備えていることがある。この場合、保持ステップ及び後述の切削ステップにおいては、フレーム25がクランプで把持されずに解放された状態とする。
【0046】
次に、切削ブレード16によってウェーハ11を切削して、ウェーハ11の凹部19と凸部21とを分離する(切削ステップ)。切削ステップでは、切削ブレード16をウェーハ11に切り込ませた状態でチャックテーブル4を回転させることにより、ウェーハ11を環状に切削する。なお、切削ステップでは、ウェーハ11の凸部21、粘着テープ23の外周部、及びフレーム25が固定されずに浮いた状態に維持される(
図4参照)。
【0047】
まず、回転する切削ブレード16をウェーハ11に切り込ませる。
図5(A)は切削ブレード16が切り込んだ状態のウェーハ11を示す斜視図であり、
図5(B)は切削ブレード16が切り込んだ状態のウェーハ11を示す断面図である。切削ブレード16をウェーハ11に切り込ませる際は、チャックテーブル4を切削ユニット10の下方に配置する。そして、切削ブレード16がウェーハ11の凹部19の外周部と重なるように、チャックテーブル4及び切削ユニット10の位置を調節する。
【0048】
次に、切削ブレード16を回転させつつ、切削ユニット10をチャックテーブル4に向かって下降させる。これにより、切削ブレード16がウェーハ11の表面11a側に切り込む。そして、切削ユニット10は、切削ブレード16の下端が凹部19の底面19aに貼着されている粘着テープ23に達するまで下降する。このときのウェーハ11の表面11aと切削ブレード16の下端との高さの差が、切削ブレード16のウェーハ11への切り込み深さに相当する。
【0049】
図6は、ウェーハ11の外周部を示す拡大断面図である。ウェーハ11の外周部には、ウェーハ11の凹部19と重なる領域A~Dが含まれる。領域Aは保持部材8の吸引面8aと重なる領域であり、領域Bは枠体6の上面6aと重なる領域であり、領域C,Dは保持面4aと重ならない領域である。また、領域Cは、凹部19の底面19aと粘着テープ23とが接触している領域と重なる領域である。領域Dは、凹部19の底面19aと粘着テープ23とが接触していない領域(底面19a及び側面19bと粘着テープ23との間の隙間)と重なる領域である。
【0050】
例えば切削ブレード16は、ウェーハ11の領域Bに切り込む。これにより、ウェーハ11の中央部に大面積のデバイス領域17Aを確保しつつ、ウェーハ11のうち枠体6によって確実に支持された領域を切削することができる。ただし、切削ブレード16は、領域A、領域C又は領域Dに切り込ませることもできる。
【0051】
次に、切削ブレード16を回転させたままチャックテーブル4を回転させる。
図7(A)はチャックテーブル4が回転する際のウェーハ11を示す斜視図であり、
図7(B)はチャックテーブル4が回転する際のウェーハ11を示す断面図である。
【0052】
切削ブレード16がウェーハ11に切り込んだ状態でチャックテーブル4を1回転させると、ウェーハ11が環状に切削される。その結果、デバイス領域17Aと外周余剰領域17Bとの境界の近傍に、ウェーハ11の表面11aから凹部19の底面19aに至る環状のカーフ(切り口)11cが形成される。その結果、ウェーハ11の中央部(凹部19)と外周部(凸部21)とが分離される。
【0053】
なお、切削ブレード16でウェーハ11を切削する際、仮にウェーハ11の凸部21が特定の位置に固定されていると、チャックテーブル4の保持面4aと凸部21の固定位置との位置関係の誤差によって、ウェーハ11が意図せず湾曲することがある。この場合、ウェーハ11に応力が作用し、切削ブレード16をウェーハ11に切り込ませた際にチッピング(欠け)等の加工不良が発生しやすくなる。
【0054】
一方、本実施形態においては、切削ステップを実施する際、ウェーハ11の凸部21、粘着テープ23の外周部、及びフレーム25が固定されずに浮いた状態に維持される。そのため、凸部21が特定の位置に固定される場合に生じ得るウェーハ11の意図しない湾曲が回避される。また、切削ブレード16がウェーハ11に接触した際、ウェーハ11にかかった負荷に応じて凸部21が僅かに変位できる。これにより、凸部21が固定されている場合と比較して、ウェーハ11の応力が低減される。その結果、切削ブレード16でウェーハ11を切削する際における加工不良の発生が抑制される。
【0055】
ウェーハ11から分離された環状の凸部21が除去されると、チャックテーブル4上には薄化されたデバイス領域17Aが残る。その後、例えば切削ブレード16でウェーハ11をストリート13に沿って切削して分割することにより、デバイス15をそれぞれ備える複数のデバイスチップが得られる。
【0056】
以上の通り、本実施形態に係るウェーハの切削方法においては、ウェーハ11の凸部21が固定されていない状態で、切削ブレード16をウェーハ11に切り込ませて凹部19と凸部21とを分離する。これにより、切削時におけるウェーハ11の応力が低減され、加工不良の発生が抑制される。
【0057】
なお、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【0058】
(実施例)
次に、本発明に係るウェーハの切削方法を用いて切削されたウェーハを評価した結果について説明する。本実施例では、従来の方法で保持された状態で切削ブレード16によって切削された比較例に係るウェーハ11と、本発明に係る方法で保持された状態で切削ブレード16によって切削された実施例に係るウェーハ11とを観察して比較した。
【0059】
ウェーハ11としては、8インチのシリコンウェーハ(厚さ0.725mm)を用いた。なお、ウェーハ11には事前に薄化処理(研削加工)を施し、凹部19を形成した(
図1(B)等参照)。凹部19は、ウェーハ11の外周部に幅2.1mmの環状の凸部(補強部)21が残存し、且つ、ウェーハ11のデバイス領域17Aにおける厚さが0.1mmになるように形成した。上記のウェーハ11を4枚準備し、2枚を比較例に係るウェーハ(ウェーハA1,A2)、残りの2枚を実施例に係るウェーハ(ウェーハB1,B2)として用いた。
【0060】
次に、ウェーハA1,A2,B1,B2にそれぞれ粘着テープ23を貼着した(
図2(A)及び
図2(B)参照)。その後、ウェーハA1,A2,B1,B2をそれぞれ、切削装置2(
図3参照)を用いて切削した。
【0061】
比較例に係るウェーハA1,A2は、従来の方法で保持して切削した。具体的には、ウェーハA1,A2の凹部19の底面19aは、チャックテーブル4の保持面4aで保持した(
図4参照)。また、チャックテーブル4の保持面4aの外側に、ウェーハA1,A2の凸部21の下面側を支持する環状の支持部材(スペーサ)を設置し、支持部材の上面(保持面)で凸部21を保持した。
【0062】
なお、支持部材の保持面はチャックテーブル4の保持面4aよりも下方に位置付け、保持面4aと支持部材の保持面との高さの差は凹部19の深さに合わせた。そして、粘着テープ23のうち凸部21の下面側に貼着されている領域を、支持部材の保持面で吸引保持した。すなわち、比較例に係るウェーハA1,A2は、凹部19の底面19aと凸部21とが保持された状態とした。
【0063】
一方、実施例に係るウェーハB1,B2は、本発明に係る方法で保持して切削した。具体的には、
図4に示すように、ウェーハB1,B2の凹部19の底面19aはチャックテーブル4の保持面4aで保持し、ウェーハB1,B2の凸部21は保持せずに浮いた状態とした。
【0064】
次に、ウェーハA1,A2,B1,B2をそれぞれ切削ブレードで切削した。具体的には、まず、ウェーハA1,A2,B1,B2に切削ブレード16を切り込ませた(
図5(A)及び
図5(B)参照)。なお、切削ブレード16は、チャックテーブル4の枠体6と重なる領域(
図6の領域B)に切り込ませた。また、切削ブレード16の回転数(スピンドル14の回転数)は30000rpmに設定した。
【0065】
その後、切削ブレード16の回転を維持したまま、チャックテーブル4を1回転させ、ウェーハA1,A2,B1,B2を環状に切削した(
図7(A)及び
図7(B)参照)。なお、比較例に係るウェーハA1と実施例に係るウェーハB1とを切削する際には、チャックテーブル4の回転速度を低速(3deg/s)に設定した。一方、比較例に係るウェーハA2と実施例に係るウェーハB2とを切削する際には、チャックテーブル4の回転速度を高速(15deg/s)に設定した。
【0066】
そして、切削後のウェーハA1,A2,B1,B2の底面19a側に残存した主要な8つのチッピング(欠け)を観察し、チッピングのサイズを測定した。具体的には、カーフ11c(
図7(A)及び
図7(B)参照)から底面19aに沿って進展したチッピングの、カーフ11cと垂直な方向(ウェーハの径方向)における長さを、チッピングサイズとして測定した。また、測定された8つのチッピングのサイズから、チッピングサイズの最大値(最大チッピングサイズ)と平均値(平均チッピングサイズ)とを算出した。
【0067】
図8は、チッピングサイズの測定結果を示すグラフである。なお、グラフ中のドット(黒丸印)、×印、白丸印はそれぞれ、チッピングサイズ、最大チッピングサイズ、平均チッピングサイズを示している。
【0068】
図8に示すように、チャックテーブル4の回転速度を低速(3deg/s)に設定して切削したウェーハA1,B1を比較すると、本発明に係る切削方法でウェーハを切削することにより、最大チッピングサイズが55μmから30μmに低減され、平均チッピングサイズが39μmから20μmに低減された。また、チャックテーブル4の回転速度を高速(15deg/s)に設定して切削したウェーハA2,B2を比較すると、最大チッピングサイズが88μmから29μmに低減され、平均チッピングサイズが65μmから17μmに低減された。
【0069】
従来、加工不良を発生させることなく凹部19を有するウェーハ11を切削するためには、ウェーハ11の凹部19及び凸部21の両方を保持した状態でウェーハ11を切削することが好ましいと考えられていた。しかしながら、上記の結果より、凸部21が固定されずに浮いた状態でウェーハ11を切削すると、ウェーハ11の応力が効果的に低減され、チッピングのサイズが大幅に低減させることが確認された。
【0070】
また、従来の方法でウェーハ11を保持した場合、チャックテーブル4の回転速度が上昇すると、加工時間は短くなるものの、チッピングのサイズが増加する傾向があった(ウェーハA1,A2参照)。一方、凸部21が固定されずに浮いた状態でウェーハ11を切削すると、チャックテーブル4の回転速度を上昇させてもチッピングのサイズの増大が見られなかった(ウェーハB1,B2参照)。これにより、本発明に係るウェーハの切削方法は、加工送り速度の高速化にも極めて有効であることが確認された。
【符号の説明】
【0071】
11 ウェーハ
11a 表面
11b 裏面
11c カーフ(切り口)
13 ストリート(分割予定ライン)
15 デバイス
17A デバイス領域
17B 外周余剰領域
19 凹部(溝)
19a 底面
19b 側面(内壁)
21 凸部(補強部)
23 粘着テープ
25 フレーム
25a 開口
2 切削装置
4 チャックテーブル(保持テーブル)
4a 保持面
6 枠体(本体部)
6a 上面
6b 凹部(溝)
8 保持部材
8a 吸引面
10 切削ユニット
12 ハウジング
14 スピンドル
16 切削ブレード
18 ブレードカバー
20 接続部
22 ノズル