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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166478
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】多結晶シリコンの製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/02 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
C01B33/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071708
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】相本 恭正
(72)【発明者】
【氏名】中村 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】辻尾 賢一
(72)【発明者】
【氏名】箱守 明
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB01
4G072BB12
4G072GG01
4G072GG04
4G072HH09
4G072JJ01
4G072LL01
4G072MM01
4G072NN16
4G072NN17
4G072RR04
4G072RR11
4G072RR28
4G072TT30
4G072UU01
4G072UU02
(57)【要約】
【課題】ベルジャ内壁面への副生物の付着を低減させる。
【解決手段】本発明の多結晶シリコンの製造装置の底板(2)において、複数の電極対(4)は、n個の同心円上に配置されており、底板(2)の水平方向断面において、前記同心円の中心を内側、前記底板の周縁を外側としたときに、全ての供給ノズル(6)が、内側からn番目の同心円よりも外側に配置されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルジャと円盤状の底板とにより内部が密閉される反応炉を備え、
前記底板には、シリコン芯線を保持し、当該シリコン芯線に通電するための複数の電極対と、前記ベルジャの内部空間に原料ガスを供給するための複数の供給ノズルが設けられており、
前記複数の電極対は、n個の同心円上に配置されており、
前記底板の水平方向断面において、前記同心円の中心を内側、前記底板の周縁を外側としたときに、全ての前記供給ノズルが、内側からn番目の同心円よりも外側に配置されている、多結晶シリコンの製造装置。
【請求項2】
前記底板には、前記ベルジャの内部空間からガスを排気するための複数の排気口が設けられており、全ての前記排気口が、n-1番目の同心円よりも内側に配置されている、請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
n番目の同心円よりも外側に配置されている前記供給ノズルから噴出される原料ガスのガス噴出方向は、前記ベルジャの内壁方向に傾斜している、請求項1または2に記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多結晶シリコンの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体または太陽光発電用ウエハの原料として使用される多結晶シリコンを工業的に製造する方法として、シーメンス法(Siemens法)が知られている。シーメンス法では、鐘型(ベルジャ型)の反応器内部に立設したシリコン析出用芯線(以下、「シリコン芯線」と称することがある)を通電してシリコンの析出温度(約600℃以上)に加熱し、上記反応器内にシラン化合物のガスおよび水素を含む原料ガスを供給する。シーメンス法は、これにより、CVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて、シリコン芯線の表面上に多結晶シリコンを析出、および気相成長させる方法である。この製造方法を実施する装置として、反応炉に多数のシリコン芯線を立設した多結晶シリコン製造用反応器が用いられている。
【0003】
当該反応器内に立設されるシリコン芯線、原料ガスの供給口および反応ガスの排出口の配置については、従来、生成される多結晶シリコンの表面形状不良の低減、製造効率などを考慮して様々な態様が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の多結晶シリコン製造用反応炉は、炉内の円滑なガスの流れを達成するために、ガス排出口を炉内周側に設ける一方、炉内周に沿って環状に配列した原料ガス供給ノズルと電極ホルダの列を交互に多重に配列している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3227549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ベルジャを用いて多結晶シリコンを製造する場合、冷却されたベルジャの内壁面に副生物が付着する。ベルジャ内壁面に付着した副生物は塩化物を含み、ベルジャを開放したときに大気中の水分と加水分解反応し塩化水素を発生させるため、反応炉の内壁面が腐食する可能性がある。さらに、副生物がベルジャ内壁面に付着した状態では、ベルジャ内壁面の反射率が低下する。ベルジャ内壁面の反射率が低下すると、電力効率が悪くなるほか、多結晶シリコンの製造時にベルジャ内の温度が上がらず、多結晶シリコンを析出できない。
【0007】
上述のような従来技術は、ベルジャの内壁面への副生物の付着については考慮されていない。
【0008】
本発明の一態様は、ベルジャ内壁面への副生物の付着を低減させる、多結晶シリコンの製造装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る多結晶シリコンの製造装置は、ベルジャと円盤状の底板とにより内部が密閉される反応炉を備え、前記底板には、シリコン芯線を保持し、当該シリコン芯線に通電するための複数の電極対と、前記ベルジャの内部空間に原料ガスを供給するための複数の供給ノズルが設けられており、前記複数の電極対は、n個の同心円上に配置されており、前記底板の水平方向断面において、前記同心円の中心を内側、前記底板の周縁を外側としたときに、全ての前記供給ノズルが、内側からn番目の同心円よりも外側に配置されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、ベルジャ内壁面への副生物の付着を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態1に係る多結晶シリコンの製造装置の構成を概略的に示す断面図である。
図2】本発明の実施形態1に係る底板における電極、供給ノズルおよび排気口の配置を示す平面図である。
図3】本発明の実施形態2に係る底板における電極、供給ノズルおよび排気口の配置を示す平面図である。
図4】本発明の実施形態2に係る底板に垂直な面における部分拡大断面図である。
図5】比較例として用いた反応炉の底板における、電極、供給ノズルおよび排気口の配置を示す平面図である。
図6】表面コーン率の測定方法を説明するための概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
(多結晶シリコンの製造装置)
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本明細書において、「A~B」とは、A以上B以下であることを示している。
【0013】
まず、図1を用いて、シーメンス法において用いられる多結晶シリコンロッドの製造設備の一例について概説する。図1は、本発明の一実施形態に係る多結晶シリコンの製造装置(以下、製造装置100と称する)の構造を概略的に示す断面図である。
【0014】
図1に示されるように、製造装置100は、ベルジャ3と、円盤状の底板2とにより内部が密閉される反応炉1を備える。底板2には、シリコン芯線10を保持し、当該シリコン芯線10に通電するための複数の電極対4と、原料ガスを供給するための複数の供給ノズル6と、排ガスを排気するための複数の排気口7とが設けられている。
【0015】
なお、図1に記載していないが、製造装置100は、通電開始システムを備えていてもよい。当該通電開始システムは、例えば、反応炉1内に設置される補助ヒータを備えており、シリコン芯線10を予熱し得るシステムであってよい。シリコンは、負性抵抗という物性を有する。すなわち、シリコンの電気抵抗率は、低温域において大きく、高温域では小さくなる。そのため、単相交流または三相交流によって発熱する補助ヒータを反応炉1内に設けることにより、当該補助ヒータによってシリコン芯線10を予熱し、電気抵抗率を下げてから通電を開始することができる。あるいは、通電開始システムは、通電開始時専用の高電圧印加が可能な電源回路を備えていてもよい。通電開始時に当該電源回路にシリコン芯線10を接続して通電開始することで、電気抵抗率が高い状態のシリコン芯線10に対して高電圧を印加し、スムーズに温度を上昇させることができる。
【0016】
多結晶シリコンロッド8の製造にあたり、原料ガスは、供給ノズル6を介して反応炉1の内部空間に供給され得る。当該原料ガスは、シラン化合物のガスおよび水素を含む混合ガスである。シラン化合物としては、例えば、トリクロロシラン(SiHCl)等のクロロシラン化合物、およびモノシラン(SiH)等が挙げられる。
【0017】
シリコン芯線10は、例えば、図1に示すように、逆U字状になるように加工されており、一対の電極対4に対して設置され、電極対4と通電可能に接続される。シリコン芯線10は、電極対4を介して電力供給部5から電力が供給され通電加熱される。これにより、シリコン芯線10の表面上に、多結晶シリコンが析出する。シリコン芯線10の表面上に多結晶シリコンが析出し成長したものを多結晶シリコンロッド8と称する。より詳細には、シリコン芯線10は、2つの柱状部101および102を備えており、1つの電極対4に接続されるシリコン芯線10が成長することにより、2本の多結晶シリコンロッド8が得られる。すなわち、反応炉1内で生成される多結晶シリコンロッド8の本数は、底板2に配置される電極41の数と等しい。
【0018】
ベルジャ3は、反応炉1の一部を構成する釣鐘型のカバーである。ベルジャ3は、耐熱性および軽量性が良好であり且つ反応に悪影響を与えず、しかも容易に冷却し得る材料によって形成されていることが好ましく、例えばステンレススチールにより形成されている。ベルジャ3の外面は、冷却ジャケットで覆われていてもよい。また、ベルジャ3の内壁および反応炉1内に設置される他の部材については、部材の設置位置に応じて200~600℃の温度環境下においてシリコン・水素・塩素以外の、いわゆる不純物元素の放出量が少ない材料を用いて構成されることが好ましい。これにより、製造する多結晶シリコンの純度をより向上させることができる。
【0019】
底板2は、反応炉1の底面を構成する、円盤状の板である。底板2は、例えばステンレススチールにより形成されている。底板2には、シリコン芯線10を保持し、シリコン芯線に通電するための電極対4が複数設けられている。各電極対4は、2つの電極41から構成されている。電極41は、カーボン、SUS、またはCuなどにより形成され得る。なお、図1において、シリコン芯線10は1個のみ示されているが、このシリコン芯線10は、通常、反応炉1の容積に応じて複数設けられ得る。シリコン芯線10のそれぞれが電極対4に接続して立設され、各シリコン芯線10に通電されるように構成されている。各シリコン芯線10の配置については後述する。
【0020】
また、底板2には、複数の供給ノズル6と、複数の排気口7が設けられている。図2は、底板2における電極41(電極対4)、供給ノズル6および排気口7の配置を示す平面図である。電極41の配置は、換言するとシリコン芯線10または多結晶シリコンロッド8の配置である。図2に示すように、本実施形態において、電極41は、底板2の中心を中心とした、半径の異なる4つの同心円上に配置されている(n=4)。底板2の水平方向断面において、当該同心円の中心を内側、底板2の周縁を外側とし、内側から数えて1番目の円Aには、電極41が6個(電極対4が3個)設けられている。円Aの外側に位置する、内側から2番目の円Bには、電極41が12個(電極対4が6個)設けられている。円Bの外側に位置する、内側から3番目の円Cには、電極41が18個(電極対4が9個)設けられている。円Cの外側に位置する、内側から4番目の円Dには、電極41が24個(電極対4が12個)設けられている。
【0021】
なお、図2では、電極41が配置される同心円の数が4つの場合を示しているが、当該同心円の数は4つに限定されない。当該同心円の数は、通常2~7個、好ましくは3~5個である。また、各円に配置される電極41の数または底板2に配置される電極41の総数も図2で例示されている数に限定されない。例えば、底板2に配置される電極41の総数は、通常12~216個、好ましくは18~144個、より好ましくは36~96個である。
【0022】
シーメンス法を用いる一般的な多結晶シリコンロッドの製造設備において、反応炉の下部は、通電ケーブル、電極冷却水配管、原料ガス配管、および排ガス配管などが密集した状態となる。そのため、電極41が配置される同心円の数を増やすと、生産性の向上が図れる一方、漏れ点検または各種整備をする際に、点検または整備箇所への到達が困難となり、点検または整備作業が難化する傾向にある。以上のことから、生産性と作業性の両方を考慮した場合、同心円の数または電極の数は上記範囲内であることが好ましい。
【0023】
底板2に配置される12個の供給ノズル6は、全て内側から4番目の円Dよりも外側に配置されている。すなわち、電極41がn個の同心円上に配置されている場合、全ての供給ノズル6がn番目の同心円よりも外側に配置されている。なお、底板2に配置される供給ノズル6の数は図2に示される例に限定されず、反応炉1の大きさなどにより任意に設定され得る。また底板2に配置される供給ノズル6は、底板2の中心を中心とした円上にほぼ等間隔に配置されていることが好ましい。
【0024】
供給ノズル6が電極41よりも外側に配置されていることにより、ベルジャ3の内壁への副生物の付着または残留が低減される。これにより、反応炉1を開放したときに大気中の水分と副生物とが加水分解反応し、発生する塩化水素を低減することができ、反応炉内壁の腐食などの設備劣化が低減され得る。また、反応炉1の内壁に付着した副生物を除去するクリーニング作業が軽減され得る。さらに、全ての供給ノズル6が、電極41が配置される同心円の外側に配置されることにより、反応炉1の下部に作業スペースが確保され、作業者が立ち入りやすくなるため、漏れ点検などの作業が容易となる。また、原料ガス配管および排ガス配管を、反応炉1の下部(底板2の裏面)近傍において分岐もしくは合流させる、および/または電極冷却水配管を柔軟な樹脂チューブに置き換えて束ねる等の配管経路の整理を行なってもよい。これにより、さらなる作業性の改善が達成され得る。
【0025】
さらに、全ての供給ノズル6が電極41よりも外側に配置されていることにより、得られる多結晶シリコンロッド8は、底板2側が太く、上方に向かうほど細い、すなわち重心が低い安定した形状となる。この形状となるのは、以下の理由によるものであると考えられる。すなわち、上記供給ノズル6の配置により、ベルジャ3の上部に低温の原料ガスが到達する流れが形成される。これによりシリコン芯線10の上部は冷却され、一方、加熱された下降流が通過するシリコン芯線10下部の表面温度は、相対的に高温となる。多結晶シリコンは、充分な原料が供給されている場合、析出表面の温度が高いほど堆積スピードが増加するため、得られる多結晶シリコンロッド8は、前記安定した形状となる。
【0026】
なお、多結晶シリコンロッド8は、通電終了後、冷却過程において、物質の熱膨張係数分の収縮が起こる。一方、多結晶シリコンロッド8の両端は電極対4によって固定されているため、上方の矩形部を中心に熱応力がかかり、しばしば破断する。このような事象が生じた場合、重心の高い多結晶シリコンロッドの場合、バランスを崩して倒壊する可能性がある。本実施形態に係る反応炉1内で生産される多結晶シリコンロッドは、重心が低いため、このような倒壊の危険性が低減され得る。
【0027】
また、底板2に設けられている12個の排気口7は、全て、電極41が配置される同心円のうち内側から3番目の円Cよりも内側に配置されている。より具体的には、図2に示すように、円Aよりも外側かつ円Bよりも内側に6個、円Bよりも外側かつ円Cよりも内側に6個配置されている。すなわち、電極41が、n個の同心円上に配置されている場合、全ての排気口7は、n-1番目の同心円よりも内側に配置されている。なお、底板2に配置される排気口7の数は図2に示される例に限定されず、反応炉1の大きさなどにより任意に設定され得る。また底板2に配置される排気口7は、底板2の中心を中心とした複数の同心円上に設けられ、各同心円においてほぼ等間隔に配置されていることが好ましい。
【0028】
供給ノズル6が、最外周のみに設けられている場合、より内側に配置されるシリコン芯線10への原料供給が不足する場合がある。排気口7を上述のように配置することにより、より内側に配置されるシリコン芯線10への原料供給が促進され、シリコン芯線10間の原料供給のばらつきが低減され得る。
【0029】
反応炉1内および反応炉1と連通する配管内の圧力、シラン化合物および水素の混合比および供給量、ならびにシリコン芯線10の表面温度などの反応条件は、必要な設計要件を満たす限り、開示されている従来技術に準じたものをほぼ制限なく使用できる。
【0030】
反応炉1内の圧力は、ガス供給量に対応する配管寸法・強度・冷却効率のバランスを考慮する設計要件に基づき、大気圧~1000kPaG、好ましくは100~600kPaGの圧力が好適に採用される。原料ガスにおけるシラン化合物および水素の混合比は、原料ガス配管・ベルジャ・排ガス配管それぞれにおいて、その圧力・温度環境によりシラン化合物が液化せず、かつ限られた配管容積で反応に十分なシラン化合物原料を供給できる混合比であることが好ましい。例えば、シラン化合物対水素のモル比は、シラン化合物1に対して3以上15以下、好ましくは3以上9以下であってもよい。
【0031】
供給ノズル6から供給される原料ガスの温度は、シラン化合物の液化の可能性を低減し、かつ保温による原料配管の巨大化を抑える観点から、0~150℃であり得る。なお、前述の安定した形状のロッドが形成される効果を得るためには、原料ガスの温度は、0~60℃であることが好ましい。
【0032】
シリコン芯線10の表面温度は、工業的に成立するシリコンの堆積速度が得られ、かつシリコンが融解しない温度であることが好ましい。シリコン芯線10の表面温度は、例えば、800~1410℃であり、局所的な温度偏差の抑制、および後述するポップコーン発生の低減のためには、900~1150℃であることが好ましい。原料供給量に関する条件としては、単位時間あたりにシリコン芯線10上に堆積するシリコン原子数の5~100倍のシリコン原子を含むシラン化合物が、常に供給され得る条件が一般的である。なお、原料供給量については、前述の表面温度の変化に伴う多結晶シリコンの生産量の変動を考慮すべきであることは当業者に容易に理解され得る。
【0033】
(実施形態2)
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0034】
多結晶シリコンロッド8が成長する過程において、各シリコン芯線10表面に対して原料ガスが安定して供給されない場合、シリコンロッド表面に凹凸(ポップコーンとも称する)が発生する可能性がある。ポップコーンが生じると、通電経路が変化して電流に偏りが生じ、局所的に高温の部分が発生することで、シリコンロッド表面に部分的な溶融が生じる場合がある。また、ポップコーンの凹部の上に多結晶シリコンが析出することで閉気孔が形成される場合がある。このように、ポップコーンの発生は、多結晶シリコンロッド8の形状不良を引き起こす虞がある。そのため、ポップコーンの発生を低減し得るように原料ガスが供給されることが好ましい。
【0035】
発明者らは、鋭意検討した結果、供給ノズル6を、そのガス噴出方向が、ベルジャ3の内壁方向、すなわち底板2の径方向外向きに傾斜したものとすることにより、生成した多結晶シリコンロッド8の表面コーン率を低減し得ることを見出した。表面コーン率とは、多結晶シリコンロッド8の表面におけるポップコーン発生面積の割合の指標となる値であり、算出方法については後述する。
【0036】
図3は、実施形態2に係る反応炉1Aが備える底板2Aにおける、電極41、供給ノズル6Aおよび排気口7の配置を示す平面図である。実施形態2に係る反応炉1Aは、傾斜した供給ノズル6Aを備えている。反応炉1Aは、供給ノズル6Aが傾斜している点を除いては、実施形態1に係る反応炉1と同様の構成である。なお、図3に示されている矢印は、各供給ノズル6Aの傾斜方向を示している。
【0037】
図4は、反応炉1Aの底板2Aに垂直な面における部分拡大断面図である。図4は、供給ノズル6Aがベルジャ3の内壁方向、すなわち底板2Aの径方向外向きに傾斜し、これによりそのガス噴出方向は、同方向に傾斜したものになる例を示している。換言すると、供給ノズル6Aから噴出される原料ガスのガス噴出方向は、ベルジャ3の内壁方向に傾斜している。供給ノズル6Aのガス噴出方向の傾斜は、供給ノズル6Aの原料ガスの噴出方向を伸長した線と、ベルジャ3の内壁とがなす角度θ(図3参照)が、12°以下、好ましくは2.5~8°である。また、供給ノズル6Aの端部からベルジャ3の内壁までの、原料ガスの経路の距離L(m)は、当該端部における原料ガスの供給速度(m/s)の40分の1以下、好ましくは100分の1~50分の1である。
【0038】
なお、原料ガスの経路とは、原料ガスの代表的な経路であり、原料ガスの噴出方向を伸長した線に沿った経路である。原料ガスの経路は、図4において破線で示されている。実際の設備の形態として、供給ノズル6Aは、底板2Aの内部流路(配管)および底板2A上に突出するノズル部を含み得る。図4に図示するように、底板2Aの内部流路および供給ノズル6Aが鉛直方向に対して角度θで傾斜していても良い。あるいは、底板2Aの内部流路は鉛直方向に形成されており、当該内部経路上端に、鉛直方向に対して角度θで傾斜する経路を含む継手を取り付けてもよい。上記構成のいずれを採用しても、供給ノズル6Aから噴出される原料ガスの噴出方向は、鉛直方向に対して角度θ分傾斜し得る。
【0039】
供給ノズル6Aの長さは、ガス噴出方向の安定性を確保する目的と、ベルジャ3の内壁までの原料ガスの経路の距離Lを調節する目的とを考慮して、適宜決定され得る。底板2Aの内部流路の傾斜がベルジャ内壁に対してθの角度を成している場合、供給ノズル6Aは、底板2Aから突出していなくてもよい。底板2A上に突出するノズル部において角度θを調整する場合、当該ノズル部の長さは、概ね600mmを超えない範囲に設定され得る。ノズル部の長さが600mmを超えると、反応炉内のガス流動に対する強度が不足する場合があり、強度不足を回避するために肉厚を増やす必要が生じるなど、設計上好ましくない。
【0040】
供給ノズル6Aの設置数および内径は、前述の原料ガスの経路の距離Lと、供給速度とを考慮して、適宜決定され得る。ベルジャ3の内壁への副生物付着を低減する効果を得るために、反応炉1は、供給ノズル6Aを、6つ以上備えることが好ましい。また、底板2Aの下部における配管レイアウトの過度な複雑化を避ける観点から、供給ノズル6Aは、24個以下であることが好ましい。供給ノズル6Aの内径は、上述した種々の条件を選択することである程度限定され、例えば、6~30mmであり得る。
【0041】
角度θが12°以下、距離Lが原料ガスの初速の40分の1以下となるように供給ノズルの傾斜角度および原料ガスの供給速度を調節することにより、原料ガスは、供給ノズルが底板に鉛直方向に設けられている場合と比較して短い経路で内壁に近接するため、内壁に到達するまでに損失する運動エネルギーが少なくなる。また、12°以下の小角度で衝突するため、運動エネルギーの損失を抑えた上昇流を作ることができる。内壁に近接した上昇流は、反応炉内の乱流による妨害を受けにくいため、運動エネルギーを比較的失わずに反応炉上部に到達できる。また、上昇流をシリコン芯線10から遠ざけることで上昇流による揺動、および揺動を繰り返すことによって至る倒壊を避けることができるため初速自体を高めることができる。運動エネルギーを維持した原料ガスは、反応炉1の上部から底部に向けて下降する下降流となったときにも速度が維持され得る。これにより、多結晶シリコンロッド8においてポップコーンの発生し易い下部に対して効率よく原料ガスが供給され、表面コーン率を低減することができると考えられる。
【0042】
上記構成により、実施形態2に係る反応炉1Aを備える製造装置は、ベルジャ3の内壁への副生物の付着または残留が低減される。また、得られる多結晶シリコンロッド8は、底板2側が太く、上方に向かうほど細い安定した形状となる。さらに生成される多結晶シリコンロッド8の表面コーン率を低減することができる。
【0043】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0044】
〔実証試験〕
以下では、実施例としての上記実施形態に係る反応炉および比較例としての本願発明の範囲外の反応炉を用いた実証試験について説明する。以下の比較例および実施例では、原料ガスとして、水素およびトリクロロシランを含む混合ガスを用いた。当該混合ガスのトリクロロシラン対水素のモル比は、1:7.5とした。また、稼働時の各反応炉内の圧力は130kPaGとした。析出径の増加に伴う制御電流および原料ガス流量の増加パターンは同一とした。
【0045】
図5は、比較例として用いた反応炉1Bの底板2Bにおける、電極41、供給ノズル6および排気口7の配置を示す平面図である。底板2Bにおける電極41の配置は、実施形態1の底板2と同様であり、電極41が配置される同心円の数n=4である。底板2Bの供給ノズル6は全て、電極41が配置される最外の同心円(円D)よりも内側に配置されている。より具体的には、供給ノズル6Aは、円Aと円Bとの間、円Bと円Cとの間、または円Cと円Dとの間の、底板2Bの中心を中心とする同心円上に配置されている。また、排気口7は、供給ノズル6Aと同じ同心円上に配置されている。すなわち、比較例の反応炉1Bは、本発明の範囲外の構成を有している。比較例の反応炉1Bが備える供給ノズル6の内径は13.7mmであり、供給ノズル6の端部における原料ガスの供給速度は、88.1m/sであった。
【0046】
実施例1としては、上記実施形態1の反応炉1を用いた。反応炉1が備える供給ノズル6の内径は27mmであり、供給ノズル6の端部における原料ガスの供給速度は、88.3m/sであった。
【0047】
実施例2としては、上記実施形態2の反応炉1Aを用いた。反応炉1Aが備える供給ノズル6Aの内径は18.7mmであり、供給ノズル6Aの端部における原料ガスの供給速度は、176.5m/sであった。なお、実施例2で用いた反応炉1Aの供給ノズル6Aの傾斜角度は、底板2Bの鉛直方向から、底板2Bの径方向外向きに4°とした。すなわち、上記角度θは4°である。実証試験では、比較例、実施例1および実施例2について、各反応炉内壁に付着した副生物に起因して生じた残渣の回収量、表面コーン率およびロッド形状を測定した。表1は、比較例、実施例1および実施例2についての試験結果をまとめた表である。
【0048】
【表1】
(反応炉残渣回収量)
各反応炉を開放後、塩化物を含むベルジャ内壁に付着した副生物を、温水または水蒸気によって全て酸化物の残渣として回収した。回収後の残渣を脱水し、重量を測定した。結果を表1に示している。表1における括弧内の数値は、比較例を100%としたときの回収量(%)を示している。
【0049】
表1に示されるように、比較例と比較して、実施例1および実施例2は、残渣回収量が顕著に低減された。すなわち、本発明の範囲内の製造装置を用いることにより、ベルジャ内壁への副生物の付着が顕著に低減されることが実証された。
【0050】
(表面コーン率)
図6は、表面コーン率の測定方法を説明するための概要図である。表面コーン率の測定は以下のように実施した。まず、図6の符号601に示すように、多結晶シリコンロッド8を、縦方向に100mmの間隔で分割した。なお、U字の曲部を含む多結晶シリコンロッド8の上部は、符号601に示すように3分割した。図6の符号602は、分割後の1片を示す拡大図である。続いて、100mm間隔で分割した一片をさらに略4等分した。当該4等分した塊をナゲット81と称する。各ナゲット81について、ロッド表面に該当する表面の中心付近領域Rを視認することにより、ポップコーンが発生しているか、または平滑であるかを判定した。当該判定では、300~500ルクスの一般的な室内照明の下で段差による影が網目を成しているものを、ポップコーンが発生していると判定した。ポップコーンが発生しているナゲット81をナゲットPとした場合、表面コーン率は、ナゲットPの数を、ナゲットの総数で除することにより算出され得る。
【0051】
表1に示されるように、実施例1では、高い表面コーン率が、実施例2では顕著に低減されていることがわかる。すなわち、供給ノズルを傾斜させることにより、表面コーン率を低減することができることが実証された。
【0052】
(ロッド形状)
生成した多結晶シリコンロッド8の形状を示す値として、多結晶シリコンロッド8について、上端から400mmの位置における直径(直径Tと称する)と、下端から400mmの位置における直径(直径Bと称する)とを測定した。表1に示す結果において、分子は直径Tであり、分母は直径Bである。
【0053】
表1に示されるように、比較例では直径Tと直径Bがほぼ等しい値であり、上端から下端までがほぼ均一の太さの多結晶シリコンロッド8が得られている。一方、実施例1および実施例2では、直径Tよりも直径Bの方が大きく、多結晶シリコンロッド8の形状は、上端から下端にかけて太くなっていることがわかる。すなわち、実施例1および実施例2では、安定した形状の多結晶シリコンロッド8が得られることが実証された。
【符号の説明】
【0054】
1、1A・・・反応炉
2、2A・・・底板
3・・・ベルジャ
4・・・電極対
6、6A・・・供給ノズル
7・・・排気口
8・・・多結晶シリコンロッド
10・・・シリコン芯線
100・・・製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6