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特開2022-166607フライアッシュからの効率的な未燃炭素除去方法
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  • 特開-フライアッシュからの効率的な未燃炭素除去方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166607
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】フライアッシュからの効率的な未燃炭素除去方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20221026BHJP
   F23C 13/08 20060101ALI20221026BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
B09B3/00 303L
F23C13/08 ZAB
C04B18/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071929
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】出口 巧
(72)【発明者】
【氏名】大村 昂平
(72)【発明者】
【氏名】関 卓哉
【テーマコード(参考)】
3K065
4D004
【Fターム(参考)】
3K065TA13
3K065TC03
3K065TD06
3K065TK02
3K065TK05
4D004AA37
4D004AB05
4D004AC04
4D004BA02
4D004CA22
4D004CB09
4D004CC11
(57)【要約】
【課題】 フライアッシュをセメント混合材やコンクリート混合材として使用する場合に有害となる未燃炭素を効率的に除去する方法を提供する。
【解決手段】 フライアッシュを加熱して未燃炭素を酸化除去するに際して、酸化第二鉄あるいは酸化第二鉄を含有する物質をフライアッシュと接触させておく。酸化第二鉄を含有する物質としては、銅スラグを加熱酸化処理したものなどが好適に使用できる。フライアッシュの加熱処理後には用いた酸化第二鉄や酸化第二鉄含有物質は分離する。例えば、酸化第二鉄や酸化第二鉄含有物質として粒径が100~500μm程度のものを用いれば、フライアッシュとの接触面積が多くなり、かつ一般に20~40μm程度のフライアッシュとの分離が容易である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライアッシュが含有する未燃炭素を減少させる方法であって、
該フライアッシュを、酸化第二鉄もしくは酸化第二鉄含有物質と接触させた状態で、酸素含有雰囲気下に加熱する前記方法。
【請求項2】
前記酸化第二鉄含有物質が銅スラグの熱処理物である請求項1記載のフライアッシュが含有する未燃炭素を減少させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフライアッシュが含有する未燃炭素を効率的に除去する方法に係わる。より具体的には、従来からある燃焼によってフライアッシュ中の未燃炭素を除去する方法を、より効率的とした方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライアッシュをセメント少量混合成分、セメント混合材、コンクリート混合材(以下、あわせて「混合材」と記す)として使用する場合、一般にフライアッシュに含まれる未燃炭素が少ないものが好適とされる。
【0003】
しかし、一般に石炭火力発電所から発生したフライアッシュに含まれる未燃炭素含有量は様々であり、多いもので15質量%ほど存在し、混合材として好適なものは一部に限られるのが現状である。
【0004】
フライアッシュに含まれる未燃炭素を減らす方法として未燃炭素の燃焼があげられ、未燃炭素の加熱方法として、ロータリーキルンを使用する方法(特許文献1)やサイクロンを使用する方法(特許文献2)、流動層を使用した方法(特許文献3)などがある。
【0005】
一方、炭素の燃焼方法として、高温下で酸化第二鉄と接触させる方法が知られており、その応用例として、石炭の化学ループ燃焼(特許文献4)や酸化第二鉄で被膜した植物性燃焼材料の燃焼(特許文献5)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6038548号公報
【特許文献2】特許第3205770号公報
【特許文献3】特開2000-213709号公報
【特許文献4】特開2014-181342号公報
【特許文献5】特開2019-108991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1ないし3に記載されるような、フライアッシュに含まれる未燃炭素を燃焼により除去する方法では、充分に燃焼させるためには高温で長時間の加熱が必要である。
【0008】
一方で、このような加熱には高いエネルギーコストや、当該エネルギーを得る際に排出されるCOの増加が懸念されるため、未燃炭素を燃焼させる工程の効率化が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは未燃炭素の燃焼効率をより高めるための検討を鋭意行い、酸化第二鉄の触媒作用に着目するに至り、その結果、本発明を完成した。
【0010】
即ち本発明は、フライアッシュが含有する未燃炭素を減少させる方法であって、
該フライアッシュを、酸化第二鉄もしくは酸化第二鉄含有物質と接触させた状態で、酸素含有雰囲気下に加熱する前記方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸化第二鉄もしくは酸化第二鉄含有物質を用いることで、フライアッシュ中の未燃炭素をより効率的に除去し、エネルギーコストやCO排出量を削減できる。
【0012】
加えて、上記酸化第二鉄含有物質として廃棄物等を利用することにより、未燃炭素除去にかかるコストをさらに削減することができる。また、廃棄量および天然資源消費量を削減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】銅スラグを750℃×12時間で熱処理した前後のX線回折スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明において処理に供する原料フライアッシュは、石炭火力発電所などの石炭を燃焼する設備において発生する一般的なフライアッシュを指す。また、石炭と併せて、石炭以外の燃料や可燃系廃棄物が混焼され発生したフライアッシュも含む。
【0016】
フライアッシュには炭素分の燃え残りとされる未燃炭素が含有されており、含有量は多いもので15質量%ほどである。この未燃炭素が多いと、フライアッシュを混合材として使用した場合に問題を生じる。具体的には、未燃炭素含有量(以下、LOIと記す場合がある)が多いと、モルタルやコンクリートの表面に未燃炭素が浮き出し、黒色部が発生するといった問題が生じる可能性が高い。さらに、化学混和剤などの薬剤が未燃炭素に吸着し、その効果が減少すると言った問題も生じる可能性がある。
【0017】
本発明では、上記のような原料フライアッシュに含まれる未燃炭素を除去するために、酸化第二鉄もしくは酸化第二鉄含有物質存在下での未燃炭素の燃焼反応を用いる。
【0018】
当該未燃炭素を燃焼させるためには、一般の炭素の燃焼と同じく、酸素と高い温度が必要であり、さらに未燃炭素の燃焼のみでは必要な温度が維持できないのが通常であるため、外部から継続的に加熱し続ける必要性がある。
【0019】
フライアッシュを加熱する方法は、フライアッシュ中の未燃炭素を燃焼させる方法として公知の方法が制限なく採用できる。例えば特許文献1ないし3に記載されるようなロータリーキルン、サイクロン、流動床炉などが使用できる。
【0020】
フライアッシュの加熱温度は、含有される未燃炭素が燃焼する温度であればよく、一般的には700℃以上である。一方、フライアッシュの溶融を避けるため、上限は1000℃以下にすることが好ましい。
【0021】
加熱時間は、加熱温度に大きく左右され、またフライアッシュに含まれる未燃炭素の量等の他の条件にもよるため一概には言えないが、一般的には5~30分程度とすればよい。例えば、LOIが6.27質量%のフライアッシュについて、未燃炭素が完全に燃焼するまでの加熱時間は700℃で30分程度だが、900℃では5分程度である。
【0022】
また燃焼に必要な酸素は、加熱装置(炉)内の雰囲気を空気(酸素濃度約20体積%)とすれば足りるが、より高い酸素濃度の雰囲気とした方が、燃焼がより進みやすい。
【0023】
本発明の特徴は、上記のようなフライアッシュの加熱に際して、酸化第二鉄もしくは酸化第二鉄含有物質(以下、特に断りの無い限り、単に「酸化第二鉄」と記す場合でも、両物質を併せたものとする)を当該フライアッシュに接触させておく点にある。酸化第二鉄を接触させることにより、未燃炭素がより早く燃焼する。
【0024】
当該酸化第二鉄の接触方法は特に限定されず、例えば、ロータリーキルン等の加熱炉での加熱に際してフライアッシュおよび酸化第二鉄の混合物として行う、サイクロン壁面を酸化第二鉄で被膜する、流動層の媒体粒子を酸化第二鉄とするなどにより、未燃炭素を含むフライアッシュを酸化第二鉄と接触させることができる。
【0025】
本発明において、酸化第二鉄をフライアッシュとの混合物として接触させる態様を採用する際には、その形状は特に限定されない。一般的に、粒子径が小さい方がフライアッシュとの接触が多くなり好ましいが、細かくなりすぎるとフライアッシュと分離しにくくなる恐れがあるため、フライアッシュよりも粒子径が数倍~十数倍程大きな100~500μm程度のものを用いるのが好適である。(なおフライアッシュの粒子径は、一般的に20~40μm程度である)
【0026】
本発明においては、酸化第二鉄がフライアッシュと接触すればよく、従って、用いる材料としては、その表面が酸化第二鉄であればよい。例えば、表面だけが酸化第二鉄まで酸化された鉄粉をフライアッシュとの混合用に使用することができるし、前記したように加熱装置の内壁を酸化第二鉄で被覆したような形態でもよい。
【0027】
さらにまた、接触させるのは純酸化第二鉄でなくともよく、酸化第二鉄を含んだ物質(酸化第二鉄含有物質)であってもよい。酸化第二鉄を含んでいるか否かは、X線結晶回折により酸化第二鉄のピークを検出できるかどうかで判別できる。このような酸化第二鉄含有物質の種類は特に限定されないが、質量基準で酸化第二鉄が50%以上であるものが好ましい(なお本段落以降における「酸化第二鉄」は、化学物質としての本来の意味で使用され、「酸化第二鉄含有物質」を包含するものではない)。
【0028】
このような酸化第二鉄含有物質としては、一般的には、コストや環境問題等の観点から酸化第二鉄を主成分とする廃棄物を用いることが好ましい。また、未燃炭素の燃焼温度に対し安定な物質である必要があり、その主成分が700℃から1000℃程度の加熱に対し安定であること望ましい。上記を満たす廃棄物としては銅スラグ、高炉ダスト、中和滓等があげられる。
【0029】
上記銅スラグ等は、酸化鉄を主成分としているが、酸化状態が十分ではない場合がある。そのため、フライアッシュと接触させる前に酸化処理を行って酸化第二鉄の含有量を十分に高めることも好ましい。
【0030】
当該酸化処理の方法は、酸化第二鉄を生じる酸化方法であれば特に制限されるものではないが、空気等の酸素含有雰囲気下に600~900℃程度で加熱する方法が簡単である。また酸化処理を施す際には、フライアッシュと接触させる際と同等の形状としておくことが好ましい。例えば、銅スラグを粉砕し、粉末状として使用する際には、粉砕を行ってから酸化処理を施すことで、フライアッシュと接触することになる部分(粉砕後に生じた表面)の鉄が十分に酸化されて酸化第二鉄の割合がいっそう多くなる。
【0031】
上述のようにして加熱処理を行ったフライアッシュは未燃炭素の含有量が減少している。ここで、酸化第二鉄もしくは酸化第二鉄含有物質の接触を、前記したような、壁面の被覆や流動床炉の加熱媒体として行った場合には、ほぼ未燃炭素が減少しただけのフライアッシュが入手でき、これは混合材としてそのまま使用できる。しかしながら粉末状などにして、フライアッシュとの混合物として加熱に供した場合には、混合材として使用するには分離が必要となる。
【0032】
当該フライアッシュとの分離方法としては、一般的には遠心分離が有効であり、例えばサイクロンの利用があげられる。また、酸化第二鉄もしくは酸化第二鉄含有物質の大きさが充分にあるときには、ふるいによる分離も有効である。
【実施例0033】
以下、実施例をもちいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0034】
なお、実施例、比較例におけるどの操作も空気雰囲気下で実施している。
【0035】
LOIは、ASTM C 311に記載の強熱減量試験法にて測定した。また、下記の実験はそれぞれ3回ずつ行い、中央値をLOIの測定値とした。
【0036】
銅スラグ熱処理物の調製
蛍光X線分析から求めた成分が表1に示す化学組成の銅スラグを充分に粉砕後、750℃で12時間程度の加熱により金属を充分酸化させた。加熱前後の銅スラグについてX線回折のスペクトルを測定したところ、加熱を通して四酸化三鉄のピークが酸化第二鉄のピークへ変化しており、このことから銅スラグに含まれる鉄が加熱によりほぼ完全に酸化第二鉄まで酸化されていることが確認できた。加熱前後のX線回折のスペクトルを図1に示す。これを「銅スラグ熱処理物」とする。
【0037】
【表1】
【0038】

比較例1
LOIが6.27質量%のフライアッシュ2gを白金皿にいれ、750℃の電気炉で一分間加熱し、放冷したところ、そのLOIは3.65質量%であった。
【0039】
実施例1
比較例1のものと同じフライアッシュ1gと、酸化第二鉄の粉末1gを混合し、これを比較例1と同様にして750℃の電気炉で一分間加熱し、放冷したところ、回収した混合物のLOIは1.66質量%であった。回収した質量の半分は酸化第二鉄であるから、フライアッシュ基準で換算すると、LOIは3.32質量%と見なせる。
【0040】
実施例2、比較例1,2
金属酸化物粉末の種類を表2に記載するように変更した以外は、実施例1と同様にしてフライアッシュの加熱処理を行った。加熱後のLOIの値(フライアッシュ基準)を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】

上記実験結果に示されているように、二酸化珪素および酸化アルミニウムについては、フライアッシュの燃焼促進或いは燃焼阻害効果は確認されなかった。
【0043】
一方、フライアッシュと酸化第二鉄または銅スラグ熱処理物では、比較例1におけるLOI値より小さくなったことから、フライアッシュの燃焼促進効果が確認できる。
【0044】
銅スラグに最も多く含まれる成分が酸化第二鉄であり、次点で二酸化珪素、酸化アルミニウムであることから、銅スラグ熱処理物におけるフライアッシュ中の未燃炭素燃焼促進効果は、銅スラグ中に多く含まれる酸化第二鉄によるものと推察される。
図1