IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人大阪の特許一覧

特開2022-166642微小物の捕捉装置、微小物の捕捉方法、および微小物捕捉用チップ
<>
  • 特開-微小物の捕捉装置、微小物の捕捉方法、および微小物捕捉用チップ 図1
  • 特開-微小物の捕捉装置、微小物の捕捉方法、および微小物捕捉用チップ 図2
  • 特開-微小物の捕捉装置、微小物の捕捉方法、および微小物捕捉用チップ 図3
  • 特開-微小物の捕捉装置、微小物の捕捉方法、および微小物捕捉用チップ 図4
  • 特開-微小物の捕捉装置、微小物の捕捉方法、および微小物捕捉用チップ 図5
  • 特開-微小物の捕捉装置、微小物の捕捉方法、および微小物捕捉用チップ 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166642
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】微小物の捕捉装置、微小物の捕捉方法、および微小物捕捉用チップ
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/32 20060101AFI20221026BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20221026BHJP
   B25J 7/00 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
G02B21/32
G02B21/06
B25J7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071993
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪井 泰之
(72)【発明者】
【氏名】東海林 竜也
(72)【発明者】
【氏名】柚山 健一
(72)【発明者】
【氏名】上ノ坊 友紀
(72)【発明者】
【氏名】橋本 早耶香
【テーマコード(参考)】
2H052
3C707
【Fターム(参考)】
2H052AC34
2H052AE01
2H052AF19
3C707AS09
3C707BS30
3C707XG08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ナノメートルサイズの微小物を安定して捕捉することができ、かつ簡便な構成の微小物の捕捉装置を提供する。
【解決手段】液体中の微小物を波長400nm以下の光の照射領域内に捕捉する微小物142の捕捉装置100に関し、微小物142の捕捉装置100は、少なくとも一方の表面に、チタンおよび/またはチタンの酸化物を含有し、かつ複数の微小突起112を有するチタン含有領域111を有する基板110と、基板110のチタン含有領域111に波長400nm以下の光を照射する光源120と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中の微小物を波長400nm以下の光の照射領域内に捕捉する微小物の捕捉装置であって、
少なくとも一方の表面に、チタンおよび/またはチタンの酸化物を含有し、かつ複数の微小突起を有するチタン含有領域を有する基板と、
前記基板の前記チタン含有領域に波長400nm以下の光を照射する光源と、
を有する、
微小物の捕捉装置。
【請求項2】
前記チタン含有領域が、1μm×1μmの領域に、高さ100nm以上の微小突起を、2個以上含む、
請求項1に記載の微小物の捕捉装置。
【請求項3】
前記微小突起の高さの平均値が、100~1000nmであり、
前記微小突起の直径の平均値が50~150nmである、
請求項1または2に記載の微小物の捕捉装置。
【請求項4】
前記微小物から放出された蛍光を検出することで、前記光に捕捉された前記微小物を観察する検出部をさらに有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の微小物の捕捉装置。
【請求項5】
少なくとも一方の表面に、チタンおよび/またはチタンの酸化物を含有し、かつ複数の微小突起を有するチタン含有領域を有する基板の前記チタン含有領域と、微小物を含む液体とを接触させる工程、ならびに
前記チタン含有領域に、波長400nm以下の光を照射して、前記液体中の前記微小物を、前記光の光束内に捕捉する工程と、
を含む、微小物の捕捉方法。
【請求項6】
前記光の強度が、100W/cm以下である、
請求項5に記載の微小物の捕捉方法。
【請求項7】
少なくとも一方の表面に、チタンおよび/またはチタンの酸化物を含有し、かつ複数の微小突起を有するチタン含有領域を有する、
微小物捕捉用チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ピンセットの技術を利用して微小物を捕捉する、微小物の捕捉装置、微小物の捕捉方法、および微小物捕捉用チップに関する。
【背景技術】
【0002】
光ピンセットは、顕微鏡の対物レンズなどを用いてレーザー光を強く集光することで集光位置近傍に存在する微小物に光圧を作用させて、その微小物を捕捉する技術である。レーザー光を走査することで、捕捉した微小物を空間的に操作することもできる(例えば、特許文献1~3)。
【0003】
従来、光ピンセットの捕捉対象は、樹脂ビーズやガラスビーズ、細胞、細菌、液滴などのマイクロメートルサイズの物体であった。このような光の波長よりも大きなマイクロメートルサイズの対象物に作用する光圧は、光線光学的に説明することができる。一方、ナノテクノロジーの進展が著しい近年では、光の波長よりも小さい対象物(例えば粒径100nm以下の微粒子)を捕捉する必要に迫られる場面もある。このようなナノメートルサイズの対象物に作用する光圧は、電磁気学的に説明することができる。
【0004】
ナノメートルサイズの対象物に作用する光圧について、簡単に説明する。まず、光の波長よりも十分に小さい対象物は、1個の電気双極子とみなすことができる。この対象物(電気双極子)が光の電場Eの中に置かれたとき、対象物(電気双極子)が受ける光圧Fおよびそれにより生じる捕捉のポテンシャルUtrapは、散乱力を無視すると以下の式(1)~式(3)で表される。
【数1】
【数2】
【数3】
[上記式(1)~式(3)において、Eは対象物に作用する電場であり、αは対象物(電気双極子)の分極率であり、nは対象物の屈折率であり、nは周囲の媒質の屈折率であり、rは対象物の半径であり、εは周囲の媒質の誘電率である。]
【0005】
光圧Fの起源は、ローレンツ力から導かれる勾配力(dipole gradient force)である。n>nの条件下では、光圧Fは、対象物を集光位置に引き寄せる引力として働く。そして、以下の式(4)に示されるように、捕捉のポテンシャルUtrapが熱揺らぎのエネルギーkTを超えるとき、対象物は集光位置に捕捉される。対象物を安定に捕捉するためには、以下の式(5)が満たされることが好ましい。
【数4】
【数5】
[上記式(4)、式(5)において、kはボルツマン定数であり、Tは絶対温度である。]
【0006】
上記のとおり、光圧Fおよび捕捉のポテンシャルUtrapは分極率αに比例し、分極率αは対象物のサイズ(体積)に比例する。たとえば、対象物の半径rが1μmから100nmに小さくなると、光圧Fは1/1000にまで小さくなってしまう。したがって、マイクロメートルサイズの対象物に比べると、ナノメートルサイズの対象物の捕捉ははるかに難しくなる。理屈上は、対象物の半径rが1μmから100nmに小さくなっても、レーザー光の強度を1000倍にすれば、光圧Fは変わらない。しかしながら、レーザー光の強度を1000倍にすることは、安全面やコストなどの観点から現実的ではない。
【0007】
上記の問題を解決する手段として、局在表面プラズモンを利用して光圧を増大させる、プラズモン光ピンセット(Plasmonic Optical Tweezers)が提案されている(例えば非特許文献1参照)。
【0008】
金や銀等の貴金属中の自由電子の協同的集団振動の波を「プラズモン」と呼ぶ。貴金属微粒子に共鳴光(例えば緑色光または赤色光)を照射することで、プラズモンを生じさせることができる。特に、複数の貴金属微粒子がナノメートルサイズ(20nm以下)の間隔で配置されている場合、共鳴光の照射により振動電場は微粒子間の隙間(ナノギャップ)に著しく局在する。これをギャップモード局在表面プラズモンという。ナノギャップにおける電場強度Eは、入射共鳴光に比べて数千倍以上にまで増強される。また、振動電場が極めて小さい領域に局在するので,電場勾配∇Eは急峻で大きな値となる。したがって、上記式(1)および式(3)より、ナノギャップに対象物が近づいてくると、対象物には強い光圧が働き、対象物は捕捉される。プラズモン光ピンセットは、このような原理で微小物を捕捉する。
【0009】
以上のように、プラズモン光ピンセットは、局在表面プラズモンによる電場増強効果を利用することで、ナノメートルサイズの対象物に対してもレーザー光の強度を高めることなく十分な光圧を作用させることができる。このことから、プラズモン光ピンセットは、ナノメートルサイズの対象物をある程度捕捉することができる。
【0010】
しかしながら、プラズモン光ピンセットには、プラズモン励起による発熱により微小物の捕捉の安定性が低下してしまうという問題がある。プラズモン光ピンセットは、プラズモン励起を伴うため、吸収した光エネルギーは熱になる。したがって、複数の貴金属微粒子が所定の間隔で配置されたナノ構造体にレーザー光を照射すると、ナノ構造体の表面の温度が上昇する。典型的なプラズモン光ピンセットでは、レーザー光を照射することで数K~数十K程度の温度が上昇すると考えられる。この局所的な温度上昇は、以下の2つの理由により、微小物の捕捉の安定性を低下させる。
【0011】
1つ目の理由は、温度上昇により、熱対流(マランゴニ対流)が発生することである。この対流により、捕捉された微小物は激しく揺さぶられる。揺さぶられた微小物がナノ構造体から離れてしまうと、微小物は、そのまま対流により遠くに流されてしまい、二度と捕捉されない。
【0012】
2つ目の理由は、温度上昇により、熱泳動が発生することである。局所的な温度上昇は、周囲に温度勾配∇Tを作り出す。この温度勾配は、熱泳動と呼ばれる物質の移動を引き起こす。熱泳動の力fは、以下の式(6)により表される。
【数6】
[上記式(6)において、Sは微小物の固有の係数(Soret係数)である。]
【0013】
多くの物質において、Sは正の値となる。この場合、微小物は、熱泳動の力fにより熱い領域から冷たい領域に向かって輸送されることとなる。すなわち、熱泳動の力fは、微小物の捕捉を阻害する斥力として働く。本発明者らの計算によれば、温度勾配∇Tは、~0.5K/mmという大きな値になる。したがって、ナノメートルサイズ(サブマイクロメートルサイズ)の対象物に対する熱泳動の斥力fの大きさは、サブピコニュートンのレベルになる。一方で、プラズモンで増強された光圧(引力)の大きさも、サブピコニュートンのレベルである。結果として、プラズモン光ピンセットにおける捕捉力の実効値は、小さくなってしまう。
【0014】
また、熱泳動の斥力fは、Tおよび∇Tの積に比例している。Tおよび∇Tは、光強度と正の関係にある。したがって、プラズモンを励起するための光の強度が大きくなればなるほど、斥力fは近似的に二乗に比例して大きくなる。結果として、光強度がある値を超えたときに、微小物を捕捉できなくなってしまう。このため、プラズモン光ピンセットでは、プラズモンで増強された光圧(引力)が熱泳動の斥力よりも大きくなるように、励起光の強度を狭い範囲内に調整しなければならなかった。
【0015】
上記のような局在表面プラズモンによる電場増強効果を利用した光ピンセットの課題を解決する、すなわち微小物の捕捉の安定性を高める方法として、半導体(例えばブラックシリコン)のナノ構造に、レーザー光を照射し、当該ナノ構造上に微小物を強固に捕捉する方法が、本発明者らによって提案されている(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2017-090584号公報
【特許文献2】特開2017-083644号公報
【特許文献3】特開2017-078832号公報
【特許文献4】特開2019-056724号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】東海林竜也、坪井泰之、「プラズモン光ピンセットによるソフトマターの捕捉」、応用物理、第86巻、第1号、45~49ページ(Shoji, T. and Tsuboi, Y., "Plasmonic optical trapping of soft nanomatters", OYO BUTURI, Vol.86, No.1, pp.45-49.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献4に記載の方法では、局在プラズモンを利用しないにもかかわらず、プラズモン光ピンセットと同様にナノメートルサイズの微小物を捕捉することができる。そして、当該方法によれば、温度上昇による捕捉の不安定化が生じず、プラズモン光ピンセットよりもナノメートルサイズの微小物を安定して捕捉することができる。しかしながら、微小物を安定して捕捉可能な装置をさらに簡便な構成とすること、また、光強度が低くても微小物を捕捉可能にすること等がさらに求められている。
【0019】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ナノメートルサイズの微小物を安定して容易に捕捉することができ、かつ簡便な構成の微小物の捕捉装置、微小物の捕捉方法、および微小物捕捉用チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、以下の微小物の捕捉装置を提供する。
液体中の微小物を波長400nm以下の光の照射領域内に捕捉する微小物の捕捉装置であって、少なくとも一方の表面に、チタンおよび/またはチタンの酸化物を含有し、かつ複数の微小突起を有するチタン含有領域を有する基板と、前記基板の前記チタン含有領域に波長400nm以下の光を照射する光源と、を有する、微小物の捕捉装置。
【0021】
本発明は、以下の微小物の捕捉方法を提供する。
少なくとも一方の表面に、チタンおよび/またはチタンの酸化物を含有し、かつ複数の微小突起を有するチタン含有領域を有する基板の前記チタン含有領域と、微小物を含む液体とを接触させる工程、ならびに前記チタン含有領域に、波長400nm以下の光を照射して、前記液体中の前記微小物を、前記光の光束内に捕捉する工程、を含む、微小物の捕捉方法。
【0022】
本発明は、以下の微小物捕捉用チップを提供する。
少なくとも一方の表面に、チタンおよび/またはチタンの酸化物を含有し、かつ複数の微小突起を有するチタン含有領域を有する、微小物捕捉用チップ。
【発明の効果】
【0023】
本発明の微小物の捕捉装置は、簡便な構成であるにも関わらず、ナノメートルサイズの微小物を安定して捕捉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、複数の微小突起を有するチタンの光電場増強度のシミュレーション結果である。
図2図2は、本発明に係る捕捉装置の構成の一例を示す模式図である。
図3図3は、本発明に係る捕捉装置の構成の別の例を示す模式図である。
図4図4は、実験1で用いた基板のチタン含有領域表面を透過型電子顕微鏡で観察した写真である。
図5図5A図5Eは、ポリスチレン微粒子の捕捉状態を示す蛍光像である。
図6】実験4で用いた二酸化チタン結晶表面の原子間力顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
前述のように、簡便な構成で微小物を安定して捕捉可能な装置や、光強度が低くても微小物を捕捉可能な装置の提供が求められている。そこで、本発明者らは貴金属や半導体ではない卑金属、特に大気中で酸化しにくいレアメタルによって、ナノメートルサイズの微小物を安定して捕捉することの検討を行った。レアメタルとしては、ビスマスやリチウム、ジルコニウム等、約30種程度の金属が知られているが、金属のナノ構造を利用して、微小物を捕捉する場合、ナノ構造による光電場増強効果が重要であり、物質の屈折率が非常に重要となる。さらに、使用する金属には、調達が容易であること、安価であること、容易に高純度化できること等も求められる。また、当該金属には、毒性が無いことも求められる。このような観点から本発明者らは、チタンまたはその酸化物に着目し、チタンまたはその酸化物の表面に複数の微小突起を有する基板を用いれば、比較的弱い光でも、微小物を安定して捕捉できることを見出した。
【0027】
ここで、チタンからなる基板の表面に、複数の微小突起を形成し、当該領域に紫外線を照射したときの、光電場増強度の空間分布をシミュレーション(FDTD(Finite Difference Time Domain)計算)した。その結果、図1に示すように、チタンの微小突起表面の光電場増強度(E/E )が、他の領域と比較して3~5倍程度になることが確認された。当該シミュレーションでは、微小突起を、極めて単純な円柱形状としている。ただし、実際のチタンの微小突起では、柱状の表面にさらに小さな微小突起を有していたり、微小突起の直径や高さが一律ではなく、ある程度分布を有すると考えられる。したがって、実際の光電場増強度は、他の領域と比較して1000倍程度に及ぶ可能性がある。
【0028】
チタンの表面に微小突起を形成し、光を照射した場合に生じる、光圧と電場増強効果との関係は以下のように考えられる。まず、チタンの表面に複数の微小突起が存在すると、チタンと空気や水との界面近傍に、屈折率が徐々に変化する空間(屈折率の空間勾配)が形成される。そのため、複数の微小突起が形成された領域(ナノ構造)近傍での光の反射が少なくなり、当該領域に光が入射しやすくなる。さらに、当該ナノ構造に入射した光は、その内部で多重散乱を繰り返す。つまり、時空間的に光がナノ構造内に局在することになり、光閉じ込め効果により光電場が増強する。さらに、屈折率の大きいナノ構造は、特定の波長の光を強く散乱することがあり(当該現象は「Mie共鳴」とも称される)、散乱された光の電場はナノ構造内でより強く増強される。このような効果が複合的に寄与することで、微小物の捕捉力となる光電場が増強すると考えられる。また特に、光の波長が400nm以下であると、酸化チタンの電子励起の効果も寄与し、上記電場増強効果が得られる。
【0029】
つまり、チタンやその酸化物の表面に微小突起を形成し、光を照射することにより、局在表面プラズモンを利用することなく、プラズモン光ピンセットと同様にナノメートルサイズの微小物を捕捉することができる。また、当該方法では、局在表面プラズモンを利用していないため、温度上昇による捕捉の不安定化が生じず、プラズモン光ピンセットよりもナノメートルサイズの微小物を安定して捕捉することができる。以下、このようなチタンおよび/またはチタンの酸化物のナノ構造を利用した微小物の捕捉装置について詳しく説明する。
【0030】
図2は、本発明に係る微小物の捕捉装置の構成の一例を示す模式図である。図2に示すように、捕捉装置100は、少なくとも一方の面にチタン含有領域111を有する基板110と、当該基板110のチタン含有領域111上に光を照射するための光源120と、光源120からの光を所望の領域に集束させるためのレンズ130と、を有する。当該捕捉装置100は、基板110のチタン含有領域111と、捕捉対象の微小物142を含む液体140とが接触している状態で使用され、光源120から出射された光122の光束内に微小物142が捕捉される。なお、図2では、各構成要素を模式的に示しており、各構成要素の大きさ、形状および位置は正確ではない。
【0031】
当該捕捉装置100における基板110は、少なくとも一方の表面に、チタンおよび/またはチタンの酸化物を含有し、かつ複数の微小突起を有するチタン含有領域111を有していればよい。当該捕捉装置100では、チタン含有領域111が、電場増強場として機能する。チタン含有領域111は、基板110の一方の面のみに形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。また、基板110の一方の面全体に形成されていてもよく、基板110の一部の領域のみに形成されていてもよい
【0032】
また、基板110の形状は特に制限されず、捕捉装置100の用途等に応じて適宜選択される。図2の捕捉装置100では、基板110が平板状であるが、基板110は曲面を有していてもよく、液体140を流動させるための溝や、液体を貯留するための凹部等を一部に有していてもよい。
【0033】
基板110は、上記チタン含有領域111がチタンまたはその酸化物で構成されていればよく、チタン含有領域111以外の領域の材料は特に制限されない。例えば、基板110全体がチタンまたはチタンの酸化物を含んでいてもよい。一方で、基板110は、チタンを含まないベース基板と、当該ベース基板上に配置された、チタンまたはチタンの酸化物を含むチタン層とから構成されていてもよい。いずれの場合においても、チタン含有領域111の厚みは、後述の微小突起112の平均高さより厚く形成される。チタン含有領域111の厚みは、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。
【0034】
また、チタン含有領域111は、チタンまたはチタンの酸化物を含んでいればよく、例えばチタンの酸化物である二酸化チタンを主に含んでいてもよく、チタンを主に含んでいてもよく、これらの両方を含んでいてもよい。なお、チタン含有領域111をチタンのみで構成しようとしても、その表面には、通常、厚さ5~10nm程度の酸化膜(不動態膜)が形成される。一方、基板110がベース基板とチタン層との積層体である場合、ベース基板の材料は特に制限されず、ベース基板は、金属やセラミック等の無機物からなる基板であってもよく、樹脂フィルム等、有機物からなる基板であってもよい。
【0035】
また、チタン含有領域111が表面に有する複数の微小突起112の数および密度は、特に限定されないが、チタン含有領域111は、1μm×1μmの範囲に、高さ100nm以上の微小突起を2個以上含むことが好ましく、30個以上200個以下含むことがより好ましい。チタン含有領域111中の微小突起の密度が上記範囲であると、上述の光電場増強効果が得られやすくなり、微小物をチタン含有領域111に捕捉しやすくなる。各微小突起の高さ、および個数は、電子顕微鏡や走査型プローブ顕微鏡により特定可能である。また、チタン含有領域111内において、微小突起112の密度にばらつきがあってもよいが、安定して微小物を捕捉しやすいとの観点で、微小突起112の密度は一定であること好ましい。
【0036】
また、個々の微小突起112の大きさおよび形状は、特に限定されないが、微小突起112の高さの平均値は、50~2000nmが好ましく、100~1000nmがより好ましい。微小突起112の高さの平均値が100nm以上であると、上述の光電場増強効果が得られやすくなる。一方、微小突起112の高さの平均値が、2000nm以下であると、微小突起112を形成しやすくなる。微小突起112の平均高さは、電子顕微鏡や走査型プローブ顕微鏡による観察によって特定可能である。例えば、上記平均値は、1μm四方に存在する微小突起112の高さを個々に特定し、これらの高さから算出できる。
【0037】
一方、微小突起112の直径の平均値は、10~1000nmが好ましく、50~150nmがより好ましい。微小突起112の直径の平均値が50nm以上であると、微小突起112の強度が高まり、基板110の取扱性が高まる。一方、微小突起112の直径の平均値が150nm以下であると、上述の光電場増強効果が特に発現しやすくなる。なお、本明細書において、微小突起112の直径とは、各微小突起112の最大径をいう。例えば微小突起112が先端に向かって細くなる形状である場合には、直径は、その底部の外径となる。微小突起112の直径は、電子顕微鏡や走査型プローブ顕微鏡による観察によって特定可能である。例えば、上記平均値は、1μm四方に存在する微小突起112の直径を個々に特定し、これらの直径から算出できる。
【0038】
また、微小突起112のアスペクト比(直径に対する高さの比)の平均値は、2~20が好ましい。アスペクト比の平均値が当該範囲である微小突起112は形成しやすい。
【0039】
ここで、複数の微小突起112を形成する方法は、特に限定されない。例えば、チタンまたはチタンの酸化物を含む基板や層に対して、ドライエッチングまたはウェットエッチングを行い、形成してもよい。さらに、ナノプリント法等によって、形成してもよい。また、上述のベース基板上に所望の粒径のチタン粒子または酸化チタン粒子を塗布したり吹き付けたりすることによって、微小突起112(チタン含有領域111)を形成してもよい。
【0040】
一方、捕捉装置100における光源120は、微小物を捕捉するための波長400nm以下の光122を所望の強度で照射可能であればよく、例えば、波長400nm以下の光と共に、波長400nm超の光も出射する光源であってもよい。光源120の例には、水銀ランプ、LEDランプ、各種レーザー等が含まれ、これらの中でも、装置構成が簡便になりやすく、波長400nm以下の光を効率よく出射するとの観点で水銀ランプが好ましい。光源120から上記基板110のチタン含有領域111に対して照射する光の波長の範囲は特に制限されず、例えば350nm~1200nm等、波長400nm以下の範囲を含む、比較的広い範囲であってもよく、350nm~400nm等、主に波長400nm以下の範囲からなる、比較的狭い範囲であってもよい。
【0041】
また、当該光源120からの光の出力は特に制限されないが、本実施形態の捕捉装置100では、100W/cm以下が好ましく、例えば10W/cm以下であっても十分に微小物を捕捉できる。一方、下限値は、1W/cmが好ましい。
【0042】
レンズ130は、光源120から出射された光122を基板110のチタン含有領域111(複数の微小突起112が形成されている面)に集束させることが可能であれば特に制限されない。例えばレンズ130は、光学顕微鏡の対物レンズであってもよい。一般的な集光型の光ピンセットでは、レンズの開口数(NA)は大きいほど好ましいとされており、通常1.0以上の開口数のレンズを使用する。一方、本実施形態の捕捉装置100では、微小突起112の表面が増強作用を有するため、レンズ130の開口数は特に限定されず、例えば0.4以上の開口数のレンズを使用することができる。また、レンズ130の開口数は、1.5以下とすることができ、従来の光ピンセットとは異なり、1.0未満であってもよく、0.9以下であってもよく、0.8以下であってもよく、0.7以下であってもよく、0.6以下であってもよい。
【0043】
(捕捉方法)
次に、捕捉装置100を用いて微小物を捕捉する方法について説明する。
【0044】
まず、基板110のチタン含有領域111と、捕捉対象の微小物142を含む液体140とを接触させる。当該方法は特に制限されず、例えば基板110を設置した容器(セル)内に液体140を導入してもよい。また、基板110のチタン含有領域111上にピペット等を用いて液体140を供給してもよい。
【0045】
捕捉対象の微小物の種類は、特に限定されないが、その径は1000nm未満が好ましく、500nm以下がより好ましい。一方、下限は10nm程度である。このような微小物の例には、CdSeなどの半導体のナノ結晶(量子ドット)や、DNAやタンパク質などの生体高分子、ゲル微粒子、合成高分子等が含まれる。また、液体140は通常、上記微小物を分散させるための分散媒を含む。当該分散媒の種類は、微小物に影響を及ぼさない限り特に制限されず、例えば水や各種溶媒とすることができる。
【0046】
次に、基板110のチタン含有領域111に、光源120から光122を照射する。これにより、光122の集光位置の近傍に微小物142が移動し、光122の光束内に捕捉される。
【0047】
以上の手順により、液体140中の微小物142を光122の光束内に捕捉することができる。この後、基板110に対して光122の照射スポットを相対的に移動させることで、捕捉した微小物142を空間的に移動させることもできる。
【0048】
(捕捉装置の変形例)
なお、本発明に係る微小物の捕捉装置は、上記の構成要素に加えて他の構成要素をさらに有していてもよい。例えば、励起光を照射すると微小物が蛍光を放出する場合、本発明に係る捕捉装置は、微小物の捕捉状態を観察するために、微小物から放出された蛍光を検出することで捕捉された微小物を観察する検出部、をさらに有していてもよい。
【0049】
図3は、本発明に係る微小物の捕捉装置の構成の別の例を示す模式図である。図3に示すように、捕捉装置200は、その内部に基板212(図1の実施形態の基板110に相当)を収容した試料セル210、光源220(図1の実施形態の光源120に相当)、対物レンズ250(図1の実施形態のレンズ130に相当)、第1CCDカメラ260(上述の検出部に相当)、分光器270、第2CCDカメラ280、XYステージ290およびコンピュータ300を有する。また、捕捉装置200は、光学系を構成する光学素子として、バンドパスフィルター310、レンズ318、第1ミラー320、第2ミラー324、第3ミラー326、第1蛍光フィルター330、第2蛍光フィルター332、第3蛍光フィルター334、第4蛍光フィルター336を有する。捕捉装置200は、光学顕微鏡をベースとして構成されうる。
【0050】
基板212は、上述の基板110と同じものであり、チタン含有領域111を有していればよい。また、光源220は、微小物を捕捉するための捕捉光(波長400nm以下の光)を出射可能であればよく、本実施形態では、水銀ランプである。また本実施形態では、光源220が出射する光から、バンドパスフィルター310によって所望の波長の光を取り出し、これを捕捉光とする。そして、当該捕捉光は、第1ミラー320で反射され、対物レンズ250により基板212の表面に集光される。なお、当該捕捉光は、微小物から蛍光を放出させるための励起光として機能してもよい。
【0051】
第1CCDカメラ260は、上記光の照射によって微小物から放出された蛍光を検出して微小物の捕捉状態を観察する。蛍光は、対物レンズ250により集められ、第1ミラー320を透過し、第2ミラー324で反射され、第1CCDカメラ260の受光面上に結像される。このとき、第1蛍光フィルター330(例えばロングパスフィルター)や第2蛍光フィルター332(例えばショートパスフィルター)などにより、蛍光以外の成分の大部分が除去される。
【0052】
第2CCDカメラ280は、上記光により微小物から放出された蛍光を検出して微小物の蛍光/振動スペクトルを観察する。蛍光は、対物レンズ250により集められ、第1ミラー320および第2ミラー324を透過し、第3ミラー326で反射され、レンズ318で第2CCDカメラ280の受光面上に結像される。このとき、第3蛍光フィルター334(例えばロングパスフィルター)や第4蛍光フィルター336(例えばショートパスフィルター)、分光器270などにより、蛍光以外の成分の大部分が除去される。
【0053】
XYステージ290は、コンピュータ300の制御下において試料セル210を移動させる。コンピュータ300は、XYステージ290を制御するとともに、第1CCDカメラ260および第2CCDカメラ280の検出結果を入力し、必要に応じて処理する。
【0054】
図3に示す捕捉装置200は、微小物を捕捉するだけではなく、微小物の捕捉状態の観察および捕捉した微小物の蛍光/振動スペクトルを観察することもできる。なお、蛍光を放出しない微小物を捕捉する場合は、可視光を照射し、その散乱光をモニターすることにより、微小物の捕捉状態を観察することができる。
【0055】
なお、上記微小物の捕捉装置の基板は、上記の微小物の捕捉方法を行うための微小物の捕捉用チップとして、単独で流通されてもよい。
【0056】
(効果)
本発明では、局在表面プラズモンを利用していないにもかかわらず、プラズモン光ピンセットと同様にナノメートルサイズの微小物を捕捉することができる。また、本発明では、局在表面プラズモンを利用していないため、温度上昇による捕捉の不安定化が生じず、プラズモン光ピンセットよりも安定して、ナノメートルサイズの微小物を捕捉できる。また、本発明では、比較的弱い光によっても、微小物を捕捉することができ、例えば光源としてレーザー以外に、水銀ランプ等も使用可能である。したがって、装置構成が非常に簡便である。
【0057】
また、プラズモン光ピンセットでは、複数の貴金属微粒子が所定の間隔で配置されたナノ構造体を使用するが、このナノ構造体を作製するには高額な装置(例えば電子線リソグラフィー装置)および複雑な操作手順が必要となる。また、現在の技術では、大型のナノ構造体を作製することは困難である。これに対し、本発明では、比較的安価に入手でき、かつ安全性も高いチタンまたはその酸化物からなる基板を使用できる。したがって、本発明に係る捕捉方法および捕捉装置は、プラズモン光ピンセットと比較して、より容易に実用化できる。
【実施例0058】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0059】
[実験1]
光学研磨したチタン結晶を、塩素ガスを用いてプラズマイオンエッチングし、当該チタン結晶表面に、以下に示すナノカラム構造(微小突起)を有するチタン含有領域を形成した。当該チタン含有領域の表面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したときの写真を図4に示す。なお、ナノカラム構造の密度は、電子顕微鏡により特定した。また、ナノカラムの高さ、直径、および隣り合うナノカラムどうしの間隔は、電子顕微鏡や走査型プローブ顕微鏡で特定した。
ナノカラムの密度:71.12±5.47個/μm
ナノカラムの高さ:50~2000nm
ナノカラムの直径:97.17±3.60nm
ナノカラムの間隔:185.5±15.0nm
【0060】
微小物として、蛍光染色した平均粒径20nm、100nm、200nm、500nm、および1000nmのポリスチレン微粒子を水に分散させた液体を得た。当該平均粒径は、動的光散乱法により測定した値である。そして、上記基板をセル内に配置し、当該基板のチタン含有領域上に、上記液体を供給した。
【0061】
倒立型光学顕微鏡(ECLIPSE TI-U;ニコン社製)をベースとして、図3に示す構成の捕捉装置200を準備した。そして、光源として水銀ランプ220を用い、その出射光から光学バンドパスフィルター310を用いて波長370nm±20nmの紫外線を取り出した。そして、当該紫外線を上記倒立型光学顕微鏡に導入し、対物レンズ250を通じて試料セル中のチタン含有領域に照射した。対物レンズ250の開口数(NA)は0.6~1.5とした。この際、対物レンズ250を通じて試料に照射された光の強度は23μWであり、上記チタン含有領域における照射光強度は5.5W/cmであった。そして、光の照射領域における微小物の挙動を蛍光顕微観察した。CCDカメラ260としては、冷却型CCDカメラ(Princeton Instruments社)を使用した。第1蛍光フィルター330としては、カットオン波長が473nmのロングパスエッジフィルターを使用した。第2蛍光フィルター332としては、カットオン波長が785nmのショートパスエッジフィルターを使用した。
【0062】
その結果、微小物の平均粒径に応じて、図5A図5Eに示す結果が得られた。図5Aは、平均粒径が1000nmである微小物を含む分散液を用いた例であり、図5Bは、平均粒径が500nmである微小物を含む分散液を用いた例であり、図5Cは、平均粒径が200nmである微小物を含む分散液を用いた例であり、図5Dは、平均粒径が100nmである微小物を含む分散液を用いた例であり、図5Eは、平均粒径が20nmである微小物を含む分散液を用いた例である。また、いずれにおいても、光を照射した領域は、丸で囲んだ領域である。図5Bおよび図5Cに示すように、平均粒径が500nmおよび200nmの微小物は、光の照射領域に捕捉されたことが明らかである。捕捉された微粒子は、光の照射を止めるとただちに照射領域から散逸していった。つまり、この光捕捉は可逆的である。
【0063】
また、図5Dおよび図5Eに示すように、平均粒径が100nmおよび20nmの微小物も、光の照射領域に捕捉された。なお、各図5Dおよび図5Eでは、捕捉状態が図5Cおよび図5Dと比較して明瞭ではないが、これは各微小物の径が小さいためであり、蛍光強度を測定したところ、光を照射した領域で蛍光強度が増加していた。つまり、微小物は、当該領域に十分に捕捉されていた。
【0064】
一方、図5Aに示すように、平均粒径が1000nmである微小物については、当該方法ではわずかに捕捉の兆候が見られ、光の照射領域の蛍光強度の増加は、わずかであった。
【0065】
従来のプラズモン光ピンセットでは、ナノサイズの微小物を捕捉するためには、数MW(メガワット)/cmの光強度が必要であるが、上記実験のように、本発明のチタン含有領域を有する基板を用いた捕捉装置を用いることで、光強度を10分の1まで低減しても、微小物を捕捉できた。つまり、本発明の捕捉装置によれば、レーザーを用いずに、微弱な通常光で光ピンセットを駆動できた。
【0066】
[実験2]
光学研磨した、表面が平滑なチタン結晶と、微小物を含む液体とを準備した。そして、表面が平滑なチタン結晶と、上記液体とを接触させ、実験1と同様に光を照射した。しかしながら、いずれの平均粒径を有する微小物も捕捉できなかった。つまり、基板の微小突起が微小物の捕捉に寄与していることが明らかである。
【0067】
[実験3]
実験1と同様に、チタン含有領域を有する基板と、微小物を含む液体とを準備した。そして、これらを接触させ、波長が400nm超の光を実験1と同様に照射した。具体的には、ガラスフィルターによって、波長480nm±20nm、波長546nm±10nm、および波長580nm±10nmの光をそれぞれ取り出し、上記基板のチタン含有領域に照射した。しかしながら、いずれの波長においても、さらにいずれの平均粒径を有する微小物も捕捉できなかった。つまり、照射する光は、波長400nm以下である必要がある。
【0068】
[実験4]
図4に示すチタン領域について、XPS(X線電子分光法)やラマン分析等によって、その表面分析を行った。その結果、チタン領域の表面には、厚さ5nm~10nm程度の酸化膜(不動態膜)が形成されていることが確認された。当該事項は、技術常識と齟齬がなく、酸化膜は二酸化炭素で構成されていた。そこで、二酸化チタンの結晶によっても、実験1と同様の結果が得られるか、以下のように確認した。
【0069】
表面の1μm×1μmの領域に、高さ100nm以上の突起を2個以上有する、二酸化チタン結晶を準備した。当該二酸化チタン結晶の表面の原子間力顕微鏡写真を図6に示す。そして、当該二酸化チタンの結晶を用いて、実験1と同様に、微小物の捕捉を行ったところ、当該二酸化チタンによっても、平均粒径500nmの微小物(ポリスチレン微粒子)を捕捉できた。一方、当該二酸化チタンを研磨し、微小突起がない状態で同様の実験を行ったところ、微小物を捕捉できなかった。
【0070】
[実験5]
平均粒径500nmのポリスチレン微粒子の捕捉を、通常の集光レーザービーム型の光ピンセット(波長1064nmのレーザービームを使用)で試みたところ、10MW(メガワット)/cm以上の光強度が安定な捕捉に必要であった。一方、実験例1と同様のチタン含有領域を有する基板上で、同じ微粒子の捕捉を波長375nmのレーザービームで試みたところ、40W/cmの光強度で捕捉できた。すなわち、チタンナノ構造を用いれば10分の1にまで捕捉に必要な光強度を低減できた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る微小物の捕捉方法、微小物の捕捉装置、および微小物捕捉用チップは、ナノメートルサイズの微小物も安定して捕捉することができるため、産業分野や医療分野、学術分野などの様々な分野において有用である。
【符号の説明】
【0072】
100、200 捕捉装置
110 基板
111 チタン含有領域
112 微小突起
120 光源
122 光
130 レンズ
140 液体
142 微小物
210 試料セル
212 基板
220 光源
250 対物レンズ
260 第1CCDカメラ
270 分光器
280 第2CCDカメラ
290 XYステージ
300 コンピュータ
310 バンドパスフィルター
318 レンズ
320 第1ミラー
324 第2ミラー
326 第3ミラー
330 第1蛍光フィルター
332 第2蛍光フィルター
334 第3蛍光フィルター
336 第4蛍光フィルター
図1
図2
図3
図4
図5
図6