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特開2022-166681多孔質セラミックス焼結体の製造方法および多孔質セラミックス焼結体
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  • 特開-多孔質セラミックス焼結体の製造方法および多孔質セラミックス焼結体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166681
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】多孔質セラミックス焼結体の製造方法および多孔質セラミックス焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/64 20060101AFI20221026BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20221026BHJP
   C04B 35/10 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
C04B35/64
C04B38/00 303Z
C04B38/00 304Z
C04B35/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072062
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【弁理士】
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】木村 禎一
(72)【発明者】
【氏名】末廣 智
(72)【発明者】
【氏名】奈須 義総
(72)【発明者】
【氏名】貞岡 和男
【テーマコード(参考)】
4G019
【Fターム(参考)】
4G019FA15
(57)【要約】
【課題】造孔材を使用せずに、高い気孔率と高強度の両立が可能な多孔質セラミックス焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】重装嵩密度が1.0g/cm以下のセラミックス粉末を成形して、セラミックス物品を得る工程と、前記セラミックス物品の表面に炭素粉末含有層を形成して積層物を得る工程と、前記積層物の前記炭素粉末含有層の表面にレーザを照射して、多孔質のセラミックス焼結部を形成する工程と、を含む多孔質セラミックス焼結体の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重装嵩密度が1.0g/cm以下のセラミックス粉末を成形して、セラミックス物品を得る工程と、
前記セラミックス物品の表面に炭素粉末含有層を形成して積層物を得る工程と、
前記積層物の前記炭素粉末含有層の表面にレーザを照射して、多孔質のセラミックス焼結部を形成する工程と、を含む多孔質セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス粉末は、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、および窒化アルミニウムからなる群から選択された1種からなる粉末である、請求項1に記載の多孔質セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項3】
照射する前記レーザの平均レーザ密度が150W/cm以上、600W/cm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の多孔質セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項4】
平均細孔径が0.01μm以上1.00μm以下であり、下記の式(1)~(3)を満たす多孔質セラミックス焼結体。

35%≦D≦75% ・・・(1)
1<P/(331/(1+exp(-0.55×(D-57)))+75) ・・・(2)
P<450MPa ・・・(3)

ここで、
Dは、多孔質セラミックス焼結体の相対密度(%)であり、
Pは、多孔質セラミックス焼結体の曲げ強度(MPa)である。
【請求項5】
開気孔率が35%以上60%未満である、請求項4に記載の多孔質セラミックス焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔質セラミックス焼結体の製造方法および当該方法で製造された多孔質セラミックス焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス焼結体は、その用途に合わせて、多孔体または緻密体が利用されている。また、セラミックス焼結体の製造方法としては、焼成炉で焼成する方法と、レーザで焼結する方法が知られている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1は、多孔質セラミックス焼結体を電気炉で焼成する方法を開示している。多孔質セラミックス焼結体としては、例えば長さ30μm以上3000μm以下、幅(細孔径)5μm以上50μm以下の第1の気孔と、幅の最大値が5μm以上400μm以下の第2の気孔とを含むものを製造できるとされている。
特許文献1では、セラミックスの粉末と、第1の気孔を形成するための第1の造孔材と、第2の気孔を形成するための第2の造孔材とを混合し、さらにバインダーを添加して混練し、得られた成形材料から成形した成形体を電気炉で焼成することにより、多孔質セラミックス焼結体を製造している。
【0004】
特許文献2は、緻密なセラミックス焼結体を製造する方法を開示しており、未焼結のセラミックス物品の表面に、炭素粉末を含む層を形成し、次いで、炭素粉末含有層の表面にレーザを照射して焼結している。未焼結のセラミックス物品は、焼結用セラミックス粒子の集合体から形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-227324号
【特許文献2】国際公開第2017/135387号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多孔質セラミックス焼結体は、熱伝導体、触媒担体、分離膜等に使用することができる。特に、触媒担体および分離膜の用途では、より小寸法(特に、細孔径が1μm以下)の細孔を、より多く含む多孔質セラミックス焼結体に対するニーズがある。
また、気孔率が高い(つまり、相対密度が低い)多孔質セラミックス焼結体は強度が低下しやすいため、相対密度が低く、強度が比較的高い多孔質セラミックス焼結体に対するニーズもある。
【0007】
特許文献1に記載の多孔質セラミックス焼結体は、造孔材を使用して製造するため細孔径が5μm以上と大きい。そこで、本発明者らは、特許文献1の焼成条件を踏襲しつつ、造孔材を使用せずに、相対密度が低く強度が高い多孔質セラミックス焼結体を製造する方法について検討した。しかしながら、以下の理由から、造孔材を使わないと、高い気孔率と高い強度とを共に達成する多孔質セラミックス焼結体を製造することは困難であることが分かった。
【0008】
特許文献1で使用している電気炉で多孔質セラミックス焼結体を焼成する場合、焼結温度を低くすると、セラミックス粒子間の気孔が焼結により塞がることを抑制できるため、気孔率の高い多孔質セラミックス焼結体が得られる。しかしながら、焼結温度が低いため、セラミックス粒子間の結合が弱いため、多孔質セラミックス焼結体の強度が低くなる。
一方、焼結温度を高くすると、セラミックス粒子間の結合が強くなり、強度の高い多孔質セラミックス焼結体が得られる。しかしながら、セラミックス粒子間の焼結が過度に促進されてセラミックス粒子間の気孔が塞がるため、多孔質セラミックス焼結体の気孔率が低くなる。
【0009】
特許文献2は、緻密なセラミックス焼結体をレーザ焼結する方法について開示しているが、多孔質セラミックス焼結体をレーザ焼結する方法について検討されていない。
【0010】
そこで、本発明の一実施形態では、造孔材を使用せずに、高い気孔率(つまり、低い相対密度)と高強度の両立が可能な多孔質セラミックス焼結体の製造方法を提供することを目的とする。また本発明の別の実施形態では、その製造方法で得られた多孔質セラミックス焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様1は、
重装嵩密度が1.0g/cm以下のセラミックス粉末を成形して、セラミックス物品を得る工程と、
前記セラミックス物品の表面に炭素粉末含有層を形成して積層物を得る工程と、
前記積層物の前記炭素粉末含有層の表面にレーザを照射して、多孔質のセラミックス焼結部を形成する工程と、を含む多孔質セラミックス焼結体の製造方法である。
【0012】
本発明の態様2は、
前記セラミックス粉末は、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、および窒化アルミニウムからなる群から選択された1種からなる粉末である、態様1に記載の多孔質セラミックス焼結体の製造方法である。
【0013】
本発明の態様3は、
照射する前記レーザの平均レーザ密度が150W/cm以上、600W/cm以下であることを特徴とする、態様1または2に記載の多孔質セラミックス焼結体の製造方法である。
【0014】
本発明の態様4は、
平均細孔径が0.01μm以上1.00μm以下であり、下記の式(1)~(3)を満たす多孔質セラミックス焼結体である。

35%≦D≦75% ・・・(1)
1<P/(331/(1+exp(-0.55×(D-57)))+75) ・・・(2)
P<450MPa ・・・(3)

ここで、
Dは、多孔質セラミックス焼結体の相対密度(%)であり、
Pは、多孔質セラミックス焼結体の曲げ強度(MPa)である。
【0015】
本発明の態様5は、
開気孔率が35%以上60%未満である、態様4に記載の多孔質セラミックス焼結体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態によれば、造孔材を使用せずに、低い相対密度と高強度の両立が可能な多孔質セラミックス焼結体の製造方法、およびその製造方法で得られた多孔質セラミックス焼結体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1A図1Dは、実施形態1に係る多孔質セラミックス焼結体の製造方法を示す概略断面図である。
図2図2A図2Cは、実施形態2に係る多孔質セラミックス焼結体の製造方法を示す概略断面図である。
図3図3は、実施形態3に係る多孔質セラミックス焼結体の相対密度と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、造孔材を用いずに、多孔質セラミックス焼結体を製造する方法を鋭意検討した。その結果、相対的に低い重装嵩密度を有するセラミックス粉末を用いること、および、当該セラミックス粉末から形成したセラミックス物品をレーザ焼結することにより、造孔材を使用することなしに、平均細孔径が小さく、相対密度が低く、かつ強度が高い多孔質セラミックス焼結体を製造することができることを初めて見出した。その理由は定かではないが、重装嵩密度が低いセラミックス粉末からセラミックス物品を形成したときに、(1)セラミックス物品の密度(green density: GD)の比較的低いものを形成しやすい、および、(2)当該セラミックス物品の内部において、セラミックス粉末に含まれるセラミックス粒子間で適切な数の接点が形成される、と推測される。そして、セラミックス物品をレーザ焼結することにより、セラミックス物品の内部に含まれていた細孔の数を十分に保持したまま、セラミックス粒子間の上記接点においてセラミックス粒子同士を結合することができる。これにより、相対密度が低く、強度が高い多孔質セラミックス焼結体を得ることができる。また、この製造方法では、造孔材を使用しないので、多孔質セラミックス焼結体の平均細孔径を小さくすることができる。
【0019】
<実施形態1:多孔質セラミックス焼結体の製造方法>
実施形態1に係る多孔質セラミックス焼結体の製造方法は、以下の工程1~3を含む。
[工程1]重装嵩密度が1.0g/cm以下のセラミックス粉末を成形して、セラミックス物品を得る工程
[工程2]前記セラミックス物品の表面に炭素粉末含有層を形成して積層物を得る工程
[工程3]前記積層物の前記炭素粉末含有層の表面にレーザを照射して、多孔質のセラミックス焼結部を形成する工程
以下、図1A図1Dを参照しながら、実施形態1に係る多孔質セラミックス焼結体の製造方法を説明する。
【0020】
[工程1:セラミックス物品21を得る工程]
工程1では、重装嵩密度が1.0g/cm以下のセラミックス粉末を成形して、成形体(セラミックス物品21)を作製する。
重装嵩密度は、JIS R 9301-2-3(1999)「アルミナ粉末-第2部:物性測定方法-3:軽装かさ密度及び重装かさ密度」に準拠して測定する。まず、振動を防ぎ、静置した容積既知の容器(シリンダー)中に、試料(セラミックス粉末)を自由に落下させて集める。その後、試料の入ったシリンダーを3cmの高さから100回落下させてタッピング(圧縮)を行い、圧縮後の試料の体積を読みとり、質量を体積で除して重装嵩密度を算出する。なお、100回のタッピングの途中で粉末の圧縮後の体積が飽和していることを確認の上で測定を行う。
【0021】
重装嵩密度が1.0g/cm以下と低いセラミックス粉末を用いることで、相対密度の小さい(つまり、細孔が多い)、多孔質のセラミックス物品を成形することができる。また、セラミックス物品内において、セラミックス粉末に含まれるセラミックス粒子の間に、十分な数の接点を生じることができる。そのような多孔質のセラミックス物品を、レーザ焼結により短時間で一気に焼結することにより、多孔質のセラミックス物品に含まれていた細孔を多く残した状態で、セラミックス粒子間の接点においてセラミックス粒子同士を結合することができる。その結果、従来に比べて強度が高く、かつ十分な数の細孔を含む多孔質セラミックス焼結体を得ることができる。また、細孔の形成のために造孔材を使用していないので、造孔材の寸法形状に依存せずに、小さい細孔径を有する多孔質セラミックス焼結体を形成することができる。
【0022】
重装嵩密度は、好ましくは0.2g/cm以上0.9g/cm以下であり、さらに好ましくは0.3g/cm以上0.8g/cm以下である
【0023】
セラミックス粉末は、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、および窒化アルミニウムからなる群から選択された1種からなる粉末とすることができる。これらの粉末からは、多孔質酸化アルミニウム(アルミナ)焼結体、多孔質酸窒化アルミニウム焼結体、または多孔質窒化アルミニウム焼結体を形成することができる。
【0024】
セラミックス粉末は、粒径(メディアン径)が0.05μm以上5.00μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.10μm以上1.00μm以下である。これにより、平均細孔径が0.01μm以上1.00μm以下の多孔質セラミックス焼結体を形成することが容易になる。
本明細書において「メディアン径」は、50質量%相当粒子径(D50)のことを指す。メディアン径は、レーザ回折分散法で測定して求めることができる。
【0025】
このようなセラミックス粉末10を成形して、セラミックス物品21を得る。例えば、図1Aのように、成形用の金型60にセラミックス粉末10を投入し、加圧治具61を矢印F方向に加圧して、加圧成形する。これにより、図1Bに示すように、所定の形状のセラミックス物品21が得られる。
【0026】
なお、セラミックス物品21の密度(GD)は、少なくとも、工程2においてセラミックス物品21の表面に炭素粉末含有層22(図1C)を形成したときに崩壊せず、かつ工程3においてレーザ焼結を行ったときに崩壊しない程度の強度が得られるように、GDの値を設定する。GDは、好ましくは0.5g/cm以上2.0g/cm以下であり、より好ましくは0.9g/cm以上1.9g/cm以下である。この範囲であると、工程2および工程3においてセラミックス物品のハンドリングがしやすく、また、焼結後に得られる多孔質セラミックス焼結体の相対密度をより小さく、かつ強度をより高くすることができる。
【0027】
セラミックス物品21のGDは、使用するセラミックス粉末の重装嵩密度に影響を受ける。また、GDは、セラミックス物品21の成形時の成形圧力によって制御することができる。
GDは、セラミックス物品21の重量(g)をセラミックス物品21の体積(cm)で除することにより算出する。
【0028】
[工程2:積層物20を得る工程]
工程2では、セラミックス物品21の表面21aに炭素粉末含有層22を形成する。これにより、セラミックス物品21および炭素粉末含有層22が積層された積層物20が得られる。炭素粉末含有層22に含まれる炭素粉末はレーザ吸収材として機能する。次の[工程3]において、照射するレーザを炭素粉末が吸収して発熱することにより、炭素粉末含有層22の下側にあるセラミックス物品21が焼結される。
【0029】
炭素粉末含有層22の形成方法としては、例えば、炭素粉末のみ、又は、炭素粉末とバインダーとを含有する組成物、又は、炭素粉末と有機溶剤とを含有する組成物を用いて、スプレー等による散布法、スクリーン印刷等の印刷法、ドクターブレード法、スピンコート法、カーテンコーター法等の塗布法等で形成する方法が挙げられる。炭素粉末含有層22は、図1Cに示すように、セラミックス物品21の表面21aの全面に形成してもよく、または表面21aの所定位置にのみ部分的に形成してもよい。炭素粉末は、レーザ照射時の発熱により消失して、焼成後の多孔質セラミックス焼結体40には実質的に残存しない。
【0030】
炭素粉末含有層22に含まれる炭素粉末の含有割合は、レーザの吸収能を高める観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。炭素粉末含有層22の厚さは、レーザの吸収能を高める観点から、好ましくは5nm~30μm、より好ましくは100nm~10μmである。
なお、多孔質セラミックス焼結体40の物性に影響しない範囲であれば、炭素粉末含有層22は、炭素粉末以外のレーザ吸収材を含んでいてもよい。例えば、炭素粉末含有層22は、炭素粉末含有層22に含まれるレーザ吸収材の全量に対して25%以下であれば、炭素粉末以外のレーザ吸収材(例えば黒色イットリア)を含有してもよい。
【0031】
[工程3:多孔質のセラミックス焼結部41を形成する工程]
工程3は、セラミックス物品21を焼結する工程である。工程3では、セラミックス物品21と炭素粉末含有層22とを含む積層物20に対し、炭素粉末含有層22の表面22aにレーザを照射して、多孔質セラミックス焼結部41を含む多孔質セラミックス焼結体40を作製する。本明細書においては、「多孔質セラミックス焼結体40」とは、多孔質セラミックス焼結部41を少なくとも一部に含むものを意味する。よって、多孔質セラミックス焼結体40は、一部に非焼結部42を含んでもよい。多孔質セラミックス焼結体40は、多孔質セラミックス焼結部41のみからなることが好ましい。
【0032】
図1Cに示すように、レーザ装置30からのレーザ31を、積層物20の炭素粉末含有層22の表面22aの所定の位置に照射すると、レーザが照射された照射位置31Eでは、炭素粉末含有層22中の炭素粉末がレーザのエネルギーを吸収して発熱する。照射位置31Eに存在する炭素粉末含有層22は、発熱すると同時に瞬時に消失する。そして、炭素粉末含有層22の下側にあるセラミックス物品21のうち、照射位置31Eの直下の領域(これを「直下領域31R」と称する)内に存在する部分31Pは、800℃以上(推定温度)に予熱される。セラミックス物品21の部分21P(部分21Pの表面上にあった炭素粉末含有層22は既に消失しているので、部分21Pの表面は露出している)に、更にレーザ31が照射されることで、部分21Pの温度上昇が進行する。その結果、部分21P内にあるセラミックス粉末が焼結され、多孔質セラミックス焼結部41が形成される(図1D)。これにより、セラミックス物品21の所望の位置(部分21P)にのみ、局所的に多孔質セラミックス焼結部41を形成できる。
【0033】
なお、セラミックス物品21は、照射位置31Eの直下領域31Rの範囲外にある部分では焼結されないため、焼結されなかった部分は非焼結部42となる。非焼結部42は、必要に応じて除去してもよく、さらに追加のレーザ照射を行って非焼結部42を焼結して、多孔質セラミックス焼結部41を拡大してもよい。
【0034】
レーザ31は、図1Cに示すように、炭素粉末含有層22の表面22aの一部(所定位置)にのみ照射してもよいが、炭素粉末含有層22の表面22aの全面に照射してもよい。炭素粉末含有層14の全面にレーザ照射を行うことにより、セラミックス物品21全体を焼結部16とすることができる。レーザ31を表面22aの全面に照射する方法としては、スポット径の大きいレーザ31を使用して同時に全面照射する方法(一斉照射)と、スポット径の小さいレーザ31の照射位置31Eを相対的に移動させることにより表面22aの全面に照射する方法(走査照射)がある。走査照射としては、例えば、積層物20を固定した状態でレーザをスキャンさせる方法、光拡散レンズを介してレーザの光路を変化させながら照射する方法、又は、レーザの光路を固定して、積層物20を移動させながらレーザを照射する方法が挙げられる。
【0035】
使用するレーザの種類は特に限定されないが、レーザの吸収能を高める観点から、炭素粉末による吸収率の高い波長域(500nm~11μm)のレーザを用いることが好ましい。例えば、Nd:YAGレーザ、Nd:YVOレーザ、Nd:YLFレーザ、チタンサファイアレーザ、炭酸ガスレーザ等を用いることができる。
【0036】
レーザの照射条件は、焼結面積、焼結深さ等により、適宜選択される。平均レーザ密度は、焼結を適切に進行させる観点から、好ましくは150W/cm以上、600W/cm以下であり、より好ましくは200W/cm以上550W/cm以下である。
平均レーザ密度は、レーザ出力(W)をレーザのスポット面積(cm)で割って求める。
【0037】
一斉照射の場合、レーザの照射時間は、セラミックス物品21が十分に焼結される時間で設定すればよい。レーザの照射時間は、主にレーザ密度に基づいて設定され、例えば1秒間以上60分間以下で設定できる。
走査照射の場合、セラミックス物品21に対するレーザスポットの相対移動速度(これを「スキャンスピード」と呼ぶ)は、セラミックス物品21が十分に焼結される速度に設定すればよい。レーザのスキャンスピードは、主にレーザ密度に基づいて設定され、例えば10mm/s以上1000mm/s以下で設定できる。
【0038】
炭素粉末含有層22にレーザを照射する際の雰囲気は、特に限定されないが、例えば、大気、窒素、アルゴン、ヘリウム、真空等とすることができる。また、レーザを照射する前に、セラミックス物品21および/または炭素粉末含有層22を予熱してもよい。予熱温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは400℃以上であり、予熱温度の上限は、通常、焼結用セラミックスの融点より200℃以上低い温度である。予熱は、例えば、赤外線ランプ、ハロゲンランプ、抵抗加熱、高周波誘導加熱、マイクロ波加熱等で行うことができる。
【0039】
<実施形態2:多孔質セラミックス焼結体の製造方法>
図2A図2Cは、実施形態2に係る多孔質セラミックス焼結体40の製造方法を説明するための概略断面図である。実施形態2では、セラミックス物品21を、基材23の上に形成している点で実施形態1と異なるが、その他の点については、実施形態1と同様である。以下、実施形態1と異なる点を中心に説明する。
【0040】
[工程1:セラミックス物品21を得る工程]
図2Aに示すように、基材23上で、セラミックス粉末10を成形して、基材23上に成形体(セラミックス物品21)を作製する。
基材23は、金属、合金及びセラミックスから選ばれた少なくとも1種からなることが好ましい。基材23上にセラミックス物品21を形成する方法としては、溶射法、電子ビーム物理蒸着法、レーザ化学蒸着法、コールドスプレー法の他に、スラリー(焼結用セラミックス粉末、分散媒及び必要に応じて用いられる高分子バインダーを含む)を塗布、乾燥、および脱脂して形成する方法等の、従来公知の方法で形成することができる。基材23とセラミックス物品21とは、接合されていてよいし、接合されずにセラミックス物品21が基材23の上に載置されていてもよい。
【0041】
[工程2:積層物200を得る工程]
図2Bに示すように、セラミックス物品21の表面21aに炭素粉末含有層22を形成する。これにより、基材23、セラミックス物品21および炭素粉末含有層22が積層された積層物200が得られる。
【0042】
[工程3:多孔質のセラミックス焼結部41を形成する工程]
図2Bおよび図2Cに示すように、積層物200の炭素粉末含有層22の表面22aにレーザ31を照射して、セラミックス物品21中に多孔質セラミックス焼結部41を形成する。これにより、基材23上に、多孔質セラミックス焼結部41と非焼結部42とを含む多孔質セラミックス焼結体40が形成される。
【0043】
<実施形態3:多孔質セラミックス焼結体>
実施形態3は、実施形態1および2に記載した方法により、セラミックス物品をレーザ照射で焼結させて得られた多孔質セラミックス焼結体に関する。実施形態3では、非焼結部を含まない(つまり、多孔質セラミックス焼結部のみからなる)多孔質セラミックス焼結体を対象とする。
【0044】
実施形態3に係る多孔質セラミックス焼結体は、平均細孔径が0.01μm以上1.00μm以下であり、下記の式(1)~(3)を満たしている。

35%≦D≦75% ・・・(1)
1<P/(331/(1+exp(-0.55×(D-57)))+75) ・・・(2)
P<450MPa ・・・(3)

ここで、
Dは、多孔質セラミックス焼結体の相対密度(%)であり、
Pは、多孔質セラミックス焼結体の曲げ強度(MPa)である。

以下に、上記の特徴について順次説明する。
【0045】
・平均細孔径について
実施形態3の多孔質セラミックス焼結体は、造孔材を使用せずに焼結したことにより、細孔径が小さく、平均細孔径が0.01μm以上1.00μmであった。これにより、比表面積が大きく、相対密度が小さい多孔質セラミックス焼結体が得られる。
平均細孔径は、水銀圧入法(JIS R 1655:2003に準拠)で測定する。
【0046】
・式(1)について
多孔質セラミックス焼結体は、多孔質であるため、相対密度D(%)はある程度低いことが必要であり、実施形態3では、相対密度は35%以上75%以下のものを指す。これを式(1)に示す。

35%≦D≦75% ・・・(1)

相対密度は、好ましくは40%以上70%以下であり、より好ましくは42%以上60%以下であり、さらに好ましくは45%以上55%以下である。
【0047】
相対密度は、多孔質セラミックス焼結体のかさ密度と、当該焼結体を構成するセラミックスの理論密度から算出する。まず、JIS R 1634:1998に準拠してかさ密度を算出する。次いで、かさ密度を、多孔質セラミックス焼結体を構成するセラミックスの理論密度(例えば、アルミナであれば理論密度は3.95g/cm)で割ることで、相対密度を算出する。
【0048】
・式(2)について
本発明者らは、特許文献1のように、従来の電気炉で焼成した多孔質セラミックス焼結体と、実施形態1のように、レーザ照射で焼結した多孔質セラミックス焼結体とを作製して検討した。実施例で作成した多孔質セラミックス焼結体(多孔質アルミナ焼結体)について、相対密度に対する曲げ強度をプロットしたところ、図3に示すような結果となった。電気炉で焼成した多孔質アルミナ焼結体(▲印)に比べて、レーザ焼結した多孔質アルミナ焼結体(●印)は、同じ相対密度であっても曲げ強度が高い傾向にあることが分かった。本発明者らは、相対密度と曲げ強度との関係を表現することのできる関係式を鋭意検討したところ、以下の前提条件i)~iii)を満たすと仮定した場合、シグモイド型の関数を用いて表現できることを見出した。
【0049】
(前提条件)
i)焼結前のセラミックス物品(アルミナ物品)
前提条件i)は、図3のグラフにおいて、相対密度35%での曲げ強度とほぼ等しい曲げ強度を有する範囲に関する。
セラミックス粉末(アルミナ粉末)を成形(例えばプレス成型)して得られたセラミックス物品(アルミナ物品)である。セラミックス物品の強度は、相対密度が35%以上の領域では、低い強度でほぼ一定になると仮定する。また、焼結前であるため、電気炉焼成用のセラミックス物品とレーザ焼結用のセラミックス物品は強度が同じ値となり、かつそれらの強度が一定になる。
【0050】
ii)相対密度が低い多孔質セラミックス焼結体(多孔質アルミナ焼結体)
前提条件ii)は、図3のグラフにおいて、相対密度の増加に伴って曲げ強度が増加する範囲に関する。
セラミックス物品の焼結を開始した後から、十分に焼結される前までの間に形成され得る多孔質セラミックス焼結体を想定している。焼結が十分に進んでいないため、相対密度は低い。焼結が進むにつれて、セラミックス焼結体の相対密度と曲げ強度とが共に上昇する。なお、相対密度がある程度大きくなると、曲げ強度が急激に上昇する。
【0051】
iii)相対密度が高い多孔質セラミックス焼結体(多孔質アルミナ焼結体)
前提条件iii)は、図3のグラフにおいて、相対密度75%における曲げ強度とほぼ等しい曲げ強度を有する範囲に関する。
十分に焼結された多孔質セラミックス焼結体であり、高い曲げ強度を有している。曲げ強度は、比較的緻密なアルミナ焼結体の曲げ強度(400~500MPa程度)に近い値でほぼ一定になると想定される。図3のグラフでは、曲げ強度は約400MPaになるものとする。
【0052】
電気炉で焼成した多孔質アルミナ焼結体の相対密度と曲げ強度のプロットをシグモイド型の関数でフィッティングしたグラフ(一点鎖線)と、レーザ焼結した多孔質アルミナ焼結体の相対密度と曲げ強度のプロットをフィッティングしたグラフ(二点鎖線)とをそれぞれ描く。そして、それらのグラフの間を通るグラフ(実線)を描く。この実線のグラフが、実施形態3の多孔質セラミックス焼結体の相対密度-曲げ強度の閾値を示すグラフであるとする。
【0053】
実線のグラフから、相対密度が約65%以上になると、曲げ強度はほぼ一定になると推測できる。なお、レーザ照射の実測値のグラフ(二点鎖線)では、相対密度が約61%以上になると曲げ強度はほぼ一定になり、電気炉焼成の実測値のグラフ(一点鎖線)では、相対密度が約67%以上になると、曲げ強度はほぼ一定になると推測できる。
【0054】
実施形態3の多孔質セラミックス焼結体は、図3の実線のグラフより左側にあるため、多孔質セラミックス焼結体の曲げ強度を、実線のグラフ(シグモイド関数)から求めた曲げ強度で割った値は、1より大きくなる。これを式で表すと、式(2)のようになる。

1<P/(331/(1+exp(-0.55×(D-57)))+75) ・・・(2)

ここで、
Dは、多孔質セラミックス焼結体の相対密度(%)であり、
Pは、多孔質セラミックス焼結体の曲げ強度(MPa)である。
【0055】
なお、本発明者らは、上記ii)「相対密度が低い多孔質セラミックス焼結体」の範囲を適切に表現することを主眼において、シグモイド型の関数を選択した。
【0056】
・式(3)について
比較的緻密なセラミックス焼結体(例えばアルミナ焼結体)の曲げ強度は、一般的に400~500MPa程度である。実施形態3は、多孔質セラミックス焼結体(例えば多孔質アルミナ焼結体)であるため、曲げ強度は500MPaより小さくなる。また、図3に示すように本実施の形態の多孔質セラミックス焼結体の曲げ強度は400MPa前後の値を取ると仮定する。そこで、実施形態3では、多孔質セラミックス焼結体の曲げ強度P(MPa)の上限を、それらの中間の値である450MPaとした。これを式(3)に示す。

P<450MPa ・・・(3)
【0057】
実施形態3の多孔質セラミックス焼結体は、細孔径が小さく、相対密度が低く、かつ曲げ強度が高いため、多孔質セラミックス焼結体の高比表面積と軽量化を達成することができる。また、曲げ強度が高いことから、セラミックス粒子間の結合力が高い、つまり、セラミックス粒子間のネックがある程度成長していると推測される。そのため、従来の多孔質セラミックス焼結体において、同程度の相対密度を有するものに比べて、相対的に高い熱伝導度を有すると期待される。そのため、軽量化された放熱性フィラーとしての用途に適し得る。
【0058】
多孔質セラミックス焼結体は、開気孔率が35%以上60%未満であることが好ましく、40%以上60%未満であることがより好ましく、さらに好ましくは、45%以上58%以下であり、特に好ましくは50%以上55%以下である。
開気孔率が上記範囲にあると、触媒用の担体としての用途、分離膜としての用途に適した多孔質セラミックス焼結体が得られる。
【0059】
例えば、多孔質セラミックス焼結体を触媒用の担体として使用する場合、開気孔率が上記範囲にあると、開気孔の内部においても触媒を担持することができ、さらには、担持した触媒を用いて触媒反応を起こす際に、反応物質を含む流体が開気孔の内部に出入りして、そこで触媒反応が起こるため、反応効率を上げることができる。また、触媒用の担体として使用できる強度を維持することもできる。
また、多孔質セラミックス焼結体を分離膜として使用する場合、開気孔率が上記範囲にあると、液体の透過性能が向上すると考えられる。また、分離膜として使用できる強度を維持することもできる。
【0060】
開気孔率は、物体の表面に接続している気孔であり、JIS R 1634:1998(アルキメデス法)に準拠して測定する。
【実施例0061】
(実施例1~2、比較例1~5)
(1)多孔質セラミックス焼結体の製造
実施例1~2および比較例1~5で使用したセラミックス粉末原料の種類および物性(重装嵩密度、メディアン径)、セラミックス粉末原料を加圧成形して作製したセラミックス物品の成形条件、セラミックス物品の焼結方法および焼結条件を、表1~2に記載した。なお、表2において、「-」は、その処理を行わなかったことを意味する。
また、表中で下線を引いたものは、本発明の実施形態の要件を満たしていないことを示す。
【0062】
原料粉末には、市販されているα-アルミナ粉末(AKP-3000、AKP-20:住友化学株式会社製)のものを使用した。
【0063】
重装嵩密度は、JIS R 9301-2-3(1999)「アルミナ粉末-第2部:物性測定方法-3:軽装かさ密度及び重装かさ密度」に準拠して測定した。まず、振動を防ぎ、静置した容積既知の容器(シリンダー)中に、原料粉末を自由に落下させて集めた。その後、試料の入ったシリンダーを3cmの高さから100回落下させてタッピング(圧縮)を行い、圧縮後の試料の体積を読みとり、質量を体積で除して重装嵩密度を算出した。なお、100回のタッピングの途中で粉末の圧縮後の体積が飽和していることを確認の上で測定を行った。
【0064】
原料粉末の粒径(メディアン径)は、粒度分布を測定して、D50の値を求めた。粒度分布測定は、レーザ粒度分布測定装置〔マイクロトラック・ベル(株)製「マイクロトラックMT3300EXII」〕を用いて行った。測定するセラミックス粉末を0.2質量%のヘキサメタ燐酸ソーダ水溶液(以下「分散液」とも称する)に少量添加し、装置内蔵の超音波に40Wで5分間かけて、原料粉末を分散させた。なお、アルミナの屈折率は1.76とした。
【0065】
原料粉末を300mg取り分け、ペレット成型用の金型(内径がペレット径と等しい円筒形)に装填し、1軸プレス機にて表1に記載の成形圧力にて30秒加圧し、焼結用のアルミナペレット(アルミナ物品試料)を得た。
【0066】
レーザ焼結を行った実施例および比較例では、まず、カーボン塗布を行った。アルミナ物品試料の表面に、日本船舶工具有限会社製エアゾール乾性黒鉛皮膜形成潤滑剤「DGFスプレー」(商品名)の吹き付けを約1秒間行った。その後、これを、30秒間放置して、厚さが約5μmの炭素粉末含有層を備える積層物試料を得た。
次に、積層物試料の炭素粉末含有層の表面に、波長1070nmのレーザを照射した。レーザ出力、スポットサイズ、スキャンスピードは、表2に記載した。
【0067】
電気炉焼成を行った比較例では、高温焼成電気炉(スーパーバーン:株式会社モトヤマ製)を用いて、2℃/minで焼成温度まで昇温し、焼成温度で2時間加熱した。
【0068】
得られた多孔質アルミナ焼結体試料(以下「焼結体試料」と称する)について、以下の物性を測定した。
【0069】
(相対密度)
相対密度の測定では、まず、JIS R 1634:1998に準拠して、アルキメデス法によりかさ密度を算出した。かさ密度は下記の式(4)により求めた。次いで、かさ密度をアルミナの理論密度(3.95g/cm)で割ることで、相対密度を算出した。

かさ密度(g/cm)=W1÷(W3-W2)×ρ ・・・(4)

ここで、W1は焼結体試料の乾燥質量(g)、W2は焼結体試料の液中質量(g)、W3は焼結体試料の含液質量(g)、ρは試験時の液体(媒液)の密度(g/cm)である。
なお、試験時の液体(媒液)としては、水(比重ρ=1.00g/cm)を用いた。以下に説明するアルキメデス法を用いた各種測定においても、液体として水を用いた。
【0070】
(開気孔率)
開気孔率は、JIS R 1634:1998に準拠して、アルキメデス法により求めた。開気孔率は、下記の式(5)により算出した。

開気孔率(%)=(W3-W1)÷(W3-W2)×100 ・・・(5)

ここで、W1は焼結体試料の乾燥質量(g)、W2は焼結体試料の液中質量(g)、W3は焼結体試料の含液質量(g)である。
【0071】
(平均細孔径)
平均細孔径は、JIS R 1655:2003に準拠して、水銀圧入式ポロシメーターを用いて圧力と液量の関係式から細孔分布を評価した。
【0072】
(3点曲げ)
3点曲げは、JIS R 1601:2008に準拠して測定した。まず、φ15mmの焼結体試料を切削加工して、標準試験片I(長さ12mm、幅4mm、厚さ1.1mm)の形状を有する多孔質セラミックス焼結体の試験片を作成した。得られた試験片を、一定距離(8mm)をあけて配置された2つの支点の上に置く。支点間の中央位置で、試験片に対して上から荷重を加えて、試験片が破壊したときの最大荷重を測定した。測定結果を用いて、以下の式(6)から曲げ強度を算出した。

σb3=3PL÷2wt ・・・(6)

ここで、σb3は3点曲げ強さ(MPa)であり、Pは試験片が破壊したときの最大荷重(N)であり、Lは支点間距離(8mm)であり、wは試験片の幅(4mm)であり、tは試験片の厚さ(1.1mm)である。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
実施例1および2の焼結体試料は、実施形態の要件を満たすアルミナ粒子を用い、実施形態の製造工程を満たす製造方法で作製したため、低い相対密度と高い熱伝導率を共に達成していた。
【0077】
比較例1~4は、焼結工程において電気炉を用いたため、得られた焼結体試料は、式(2)を満たさず、相対密度に対する曲げ強度が十分に向上できていなかった。
【0078】
比較例5は、原料のセラミックス粉末(アルミナ粉末)の重装嵩密度が大きかったため、得られたセラミックス焼結体(アルミナ焼結体)は相対密度が高かった。また、レーザ照射して焼結したときの収縮率が高かった。そのため、焼結後、アルミナ焼結体は割れてしまった。
【0079】
(実施例3~4、比較例6)
(1)多孔質セラミックス焼結体の製造
実施例3~4および比較例6で使用したセラミックス粉末原料の種類および物性(重装嵩密度、メディアン径)、セラミックス粉末原料を加圧成形して作製したセラミックス物品の成形条件、セラミックス物品の焼結方法および焼結条件を、表4~5に記載した。なお、表5において、「-」は、その処理を行わなかったことを意味する。
また、表中で下線を引いたものは、本発明の実施形態の要件を満たしていないことを示す。
【0080】
各種の測定方法、セラミックス物品の成形条件、セラミックス物品の焼結方法および焼結条件については、「実施例1~2、比較例1~5」に記載した焼結方法および焼結条件と同様とした。熱伝導率の測定は以下の通りとした。
【0081】
(熱伝導率)
熱伝導率(λ)は、熱拡散率、比熱容量およびかさ密度をそれぞれ測定し、それらの測定値の積から算出した。
かさ密度は、「実施例1~2、比較例1~5」に記載した測定方法を用いた。熱拡散率および比熱容量の測定方法は以下の通りであった。
熱拡散率はJIS R 1611:2010に準拠して、フラッシュ法により求めた。
比熱容量は、JIS R 1672:2006に準拠して、DSC法で測定した。
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
実施例3および4の焼結体試料は、実施形態の要件を満たすアルミナ粒子を用い、実施形態の製造工程を満たす製造方法で作製したため、低い相対密度と高い熱伝導率を共に達成していた。このことから、得られた多孔質セラミックス焼結体は、相対密度が低いにもかかわらず、セラミックス粒子間の結合力が高いと推測される。
【0086】
比較例6は、焼結工程において電気炉を用いたため、得られた焼結体試料は、相対密度は低かったものの、熱伝導率も低かった。このことから、得られた多孔質セラミックス焼結体は、セラミックス粒子間の結合力が低いと推測される。
【符号の説明】
【0087】
10 セラミックス粉末
20、200 積層物
21 セラミックス物品
22 炭素粉末含有層、
23 基材
30 レーザ照射手段
31 レーザ
31E 照射位置
31R 照射位置の直下領域
40 多孔質セラミックス焼結体
41 多孔質セラミックス焼結部
42 非焼結部
60 金型
61 加圧治具
図1
図2
図3