(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166719
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】内挿物を備える槽
(51)【国際特許分類】
B01J 8/24 20060101AFI20221026BHJP
C10G 45/02 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
B01J8/24
C10G45/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072122
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 安延
【テーマコード(参考)】
4G070
4H129
【Fターム(参考)】
4G070AA03
4G070AB06
4G070BB32
4G070CA06
4G070CA09
4G070CA19
4G070CB07
4G070CB08
4G070CB17
4G070DA22
4H129AA02
4H129CA08
4H129DA16
4H129KA07
4H129KB03
4H129KC03Y
4H129NA02
4H129NA45
(57)【要約】 (修正有)
【課題】槽内の流体及び固形物の滞留を低減させて、均一な流動を確保し、固形物を円滑に排出し得る槽を提供する。
【解決手段】固形物の供給口2及び排出口3、少なくとも液体を含む流体の供給口4及び排出口5、並びに上部に向かって凸形状を有する内挿物6を備え、前記固形物の供給口が前記固形物の排出口より上部に設けられ、前記流体の供給口が前記流体の排出口より下部に設けられ、前記内挿物が前記流体の一部を通過させる開口部を有する、槽1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形物の供給口及び排出口、
少なくとも液体を含む流体の供給口及び排出口を備える槽であって、
前記固形物の供給口が前記固形物の排出口より上部に設けられ、
前記流体の供給口が前記流体の排出口より下部に設けられ、
前記槽の上部に向かって凸形状を有する内挿物を備える、
槽。
【請求項2】
前記内挿物が、正角錘及び直円錐から選択される錐体並びに三角柱及び四角柱から選択される柱体から選ばれる少なくとも一種の立体含む形状を有するものである請求項1に記載の槽。
【請求項3】
前記内挿物が錐体を含む形状であり、前記錐体の一の頂点及び底面が各々前記槽の上部側及び下部側となり、かつ前記底面と前記槽の水平方向の断面とが平行となるように備えられる請求項2に記載の槽。
【請求項4】
前記錐体が、直円錐である請求項2又は3に記載の槽。
【請求項5】
前記錐体の頂点を含む鉛直方向の面による前記錐体の断面形状の底角が、45°以上85°以下である請求項2~4のいずれか1項に記載の槽。
【請求項6】
前記錐体の頂点を含む鉛直方向の面による前記錐体の断面形状の底辺の最大長さが、前記面による前記槽の断面形状の幅の18%以上40%以下である請求項2~5のいずれか1項に記載の槽。
【請求項7】
前記内挿物の底面の形状と、前記槽の水平方向の断面形状とが、相似形である請求項1~6のいずれか1項に記載の槽。
【請求項8】
前記内挿物が柱体を含む形状であり、前記柱体の側面の一の辺が前記槽の上部側となり、前記柱体の底面と前記槽の鉛直方向の断面とが平行となるように備えられる請求項2に記載の槽。
【請求項9】
前記柱体の側面の一の辺の中点と、前記槽の水平方向の断面形状の中心点とが一致し、かつ前記柱体の水平方向の断面形状の中心点と、前記槽の水平方向の断面形状の中心点とが一致するように、前記内挿物が備えられる、請求項8に記載の槽。
【請求項10】
前記内挿物が、開口部を有する請求項1~9のいずれか1項に記載の槽。
【請求項11】
重油直接脱硫の前処理装置に用いられる請求項1~10のいずれか1項に記載の槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内挿物を備える槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内挿物等の各種構造物を備えることで、槽内中の流体の挙動を調節する手法がとられている。内挿物としては、例えば槽への供給物を槽内に分散させるインレットディストリビュータ、ディストリビュータトレイ等の各種ディストリビュータが典型的に挙げられる。このようなディストリビュータが内装される槽としては、石油精製、石油化学製品の製造装置等においては、典型的には触媒反応を行う反応塔が挙げられる。触媒と反応を生じさせる石油留分等との接触状態を向上させるため、当該反応塔内を通過する石油留分等の分散性を高める必要があるからである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、特定の反応流体(軽油留分)を水素化精製触媒と接触させて硫黄分を低減させる水素化精製方法であって、クエンチガスを触媒層の所定箇所に供給することにより、水素化精製反応にて発生する反応熱により下流部分の過剰な温度上昇を抑制する、水素化精製方法が開示されている。そして、クエンチガスと反応流体との接触効率を上げて、下流における反応流体の流れを反応塔水平方向に均一に分散させるため、クエンチガスを供給する箇所にトレイ、ディストリビュータ等の構造物を備えてもよいことが開示されている。
【0004】
原油を常圧蒸留、減圧蒸留等をすることにより得られる常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油等の残渣油(重質油)は、重油直接脱硫装置(「RH装置」とも称される。)、さらにはRH装置の触媒の劣化を抑制するために、必要に応じて当該RH装置の上流に設けられる脱金属前処理装置(「OCR装置」とも称される。)等において前処理した後、水素化分解等の精製工程を経て、灯油、自動車燃料、潤滑油基油等の各種用途に利用される(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
脱金属前処理装置(OCR装置)で処理される反応流体は、既述のように上記特許文献1で反応流体として用いられる軽油留分よりも重い残渣油(重質油)であり、触媒の失活が早い。そのため、脱金属前処理装置(OCR装置)では、反応流体を供給しながら触媒を交換することで、長期間の連続運転を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-195755号公報
【特許文献2】特開2014-145009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脱金属前処理装置(OCR装置)にも、特許文献1に開示される水素化精製に用いられる装置と同様にディストリビュータが備えられており、反応流体となる残渣油(重質油)及び水素の混合流体の槽内における均一な分散を図り、反応流体と触媒との良好な接触状態を形成しようとしている。しかし、脱金属前処理装置(OCR装置)に限らず、特許文献1の水素化精製に用いられる軽油留分よりも重い留分を反応流体とする装置では、良好な触媒活性が得られないという事象が発生している。また、脱金属前処理装置(OCR装置)のように反応流体を供給しながら触媒等の充填物を連続的又は断続的に交換するような運転が想定されるような装置においては、良好な触媒活性が得られないという傾向は顕著となっている。
【0008】
本発明は、槽内の流体及び固形物の滞留を低減させて、均一な流動を確保し、固形物を円滑に排出し得る槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち本発明は、
固形物の供給口及び排出口、
少なくとも液体を含む流体の供給口及び排出口を備える槽であって、
前記固形物の供給口が前記固形物の排出口より上部に設けられ、
前記流体の供給口が前記流体の排出口より下部に設けられ、
前記槽の上部に向かって凸形状を有する内挿物を備える、
槽、
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、槽内の流体及び固形物の滞留を低減させて、均一な流動を確保し、固形物を円滑に排出し得る槽を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の槽の好ましい一例を説明する模式図である。
【
図2】本実施形態で用いられる内挿物を説明するための模式図である。
【
図3】本実施形態で用いられる内挿物を説明するための模式図である。
【
図4】本実施形態で用いられる内挿物を説明するための模式図である。
【
図5】本実施形態で用いられる内挿物を説明するための模式図である。
【
図6】本実施形態で用いられる内挿物を説明するための模式図である。
【
図7】本実施形態で用いられる内挿物を説明するための模式図である。
【
図8】本実施形態で用いられる内挿物を説明するための模式図である。
【
図9】実施例1~4及び比較例1の試験後の槽内の状態の画像である。
【
図10】実施例5~9の試験後の槽内の状態の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)に係る内挿物を備える槽について具体的に説明する。なお、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以下」、「以上」及び「~」に係る数値は任意に組み合わせできる数値であり、また実施例の数値は上限値又は下限値として用いられ得る数値である。例えば、とある数値範囲について「A~B」及び「C~D」と記載されている場合、「A~D」、「C~B」といった数値範囲も含まれる。「以上」、「以下」と記載されている場合も同様である。
【0013】
[内挿物を備える槽]
本実施形態の内挿物を備える槽は、固形物の供給口及び排出口、少なくとも液体を含む流体の供給口及び排出口を備える槽であって、前記固形物の供給口が前記固形物の排出口より上部に設けられ、前記流体の供給口が前記流体の排出口より下部に設けられ、前記槽の上部に向かって凸形状を有する内挿物を備える、というものである。
【0014】
既述のように、重い留分を反応流体とする装置では、良好な触媒活性が得られない、また脱金属前処理装置(OCR装置)のように反応流体を供給しながら触媒等の充填物を連続的又は断続的に交換するような運転が想定されるような装置においては、良好な触媒活性が得られないという傾向は顕著となる、といった問題が発生している。
そこで、本発明者らは、当該問題の発生の要因について詳細に検討したところ、反応流体等の槽内を通過する流体がより重いものになると、槽内における分散性が低下することから、流体と触媒等の固形物との良好な接触状態が得られず、槽内における流体(反応流体)及び固形物(触媒)の滞留が生じ、均一な流動を確保できず、良好な触媒活性が得られにくくなることが分かった。
【0015】
また、上記の脱金属前処理装置(OCR装置)のように、流体を供給しながら固形物(触媒)を連続的又は断続的に交換するような運転が想定されるような装置においては、槽内を固形物が固形物排出口のある方向に向けて移動することから、槽内の流動の安定性に影響する要因が増えることは明らかである。そして、これが、上記の流体(反応流体)及び固形物(触媒)が滞留しやすくなることの一因となっていることが分かった。
さらに、固形物(触媒)を槽の下部から抜き出しながら交換する場合、固形物排出口のある方向(下方)に向けて固形物(触媒)が槽内を移動する際に、槽の水平方向の断面における中央近傍の固形物(触媒)の移動がより早くなる流れ(ファンネルフロー)が生じるため、槽の当該断面における周辺近傍、すなわち槽の内壁近傍の固形物(触媒)が槽内に滞留してしまうことが分かった。当該周辺近傍の固形物(触媒)の槽内における滞留は、流体(反応流体)の滞留につながり、槽内における流体(反応流体)及び固形物(触媒)の滞留を一層加速させていると考えられる。発明者らは、以上の状況から、槽内における流体(反応流体)及び固形物(触媒)の滞留が促進し、流動がより不均一になりやすく、良好な触媒活性が得られないという傾向は顕著になるだけでなく、固形物を円滑に排出することができない、という事象が発生すると考えるに至った。
【0016】
既述のように、槽内の均一な流動を確保するには従来からディストリビュータ等の構造物を設けることが一般的であり、軽油留分のように分散性の高いものであればそれで十分であるが、分散性に乏しい残渣油(重質油)等を通過させる場合は、十分とはいえず、槽内における流体の分散が悪化する。そして、槽内における流体の分散性の悪化は、槽内の流体と固形物との接触状態の低下につながるため、槽内における流体及び固形物の状態が不均一となり、流体及び固形物の滞留が生じて均一な流動が確保できなくなる。さらに、流体を通過させつつ固形物を継続的に又は断続的に交換するような場合は、槽内において固形物が排出口に向かって一定の方向に流れるという、槽内の流動の安定性に影響する新たな要因が加わり、槽内の流動が不安定となるため、槽内の均一な流動の確保は更に困難となる。また、固形物の交換にあたり、固形物を槽の下部から抜き出すような場合には、固形物がファンネルフローを形成しながら槽内を移動するため、槽の内壁近傍の固形物が槽内に滞留する。
そして、例えば槽が固形物として触媒が充填された反応槽である場合は、当該触媒により反応し得る反応流体と、触媒と、の良好な接触状態が得られないため、結果として良好な触媒活性が得られないという問題も生じることとなる。
【0017】
本実施形態の槽は、固形物の供給口が排出口よりも上部に設けられており、固形分は槽の上部から供給され、下部から排出されるため、固形分は槽の上部から下部に向かって流動(移動)する。他方、流体の供給口が排出口よりも下部に設けられており、流体は槽の下部から供給され、上部から排出されるため、流体は槽の下部から上部に向かって流動(移動)する。すなわち、流体と固形物とは、槽内を対向するように流動(移動)しあうため、基本的には互いに効率的に接触しやすくなるが、これを実質的に実現しようとすると、槽内における流体の分散を向上させ、また固形物の均一な流動を高める必要がある。しかし、
近年の原料の多様化に伴い、分散性が悪い流体が用いられることが増えており、そのような流体を用いると、従来採用されてきたディストリビュータ等の構造物では対応できない場合が増加していた。また、ディストリビュータ等の構造物では、例えば固形物を槽の下部から抜き出して交換する場合に、固形物のファンネルフローにより生じる槽の内壁近傍における固形物の滞留を抑制することはできない。
【0018】
本実施形態の槽は、流体の一部を通過させる開口部を有する内挿物を備えるものである。槽が流体の一部を通過させる開口部を有する内挿物を備えることにより、上部から下部に流動(移動)する固形物及び下部から上部に流動(移動)する流体の流れを同時に整えることができるので、流体の分散性を向上させることができ、また固形物の排出を円滑に行うことが可能になる。さらに、内挿物を備えることにより、固形物を槽の下部から抜き出して交換する場合に、固形物のファンネルフローを抑制し、プラグフロー(槽の水平方向の断面の全面における、固形物の移動する速度がほぼ同じである流れ)とすることができ、槽の内壁近傍における触媒の滞留を抑制することが可能になる。このように、槽内の流体及び固形物の滞留を低減させて、均一な流動を確保し、固形物を円滑に排出するには、槽内においてプラグフローを確立させることが肝要である。
本実施形態の槽は、槽の上部に向かって凸形状を有する内挿物を採用することにより、流体の種類によらず様々な流体について良好な分散性を確保することができ、また固形物の排出にあたり固形物の槽内における流動を安定させること、すなわち槽内においてプラグフローを確立させることにより、槽内の流体及び固形物の滞留の低減による均一な流動の確保と、固形物の円滑な排出と、を両立することを可能とした。
【0019】
(供給口及び排出口)
本実施形態の槽について、
図1を用いて説明する。
図1には、本実施形態の内挿物を備える槽の好ましい一態様の鉛直方向の断面の模式図が示されている。
図1に示される槽1は、直胴部と鏡板部とを組み合わせた形状を有しており、固形物の供給口2及び排出口3、並びに流体の供給口4及び排出口5を有しており、前記固形物の供給口2が排出口3よりも上部に設けられ、前記流体の供給口4が排出口5よりも下部に設けられている。固形物は槽1内で固形物層7を形成するように存在しており、固形物層7中に、槽の上部に向かって凸形状を有する内挿物6が備えられている。また槽1は、内挿物6以外に、槽の内部に、流体を槽内に均一に分散させるためのディストリビュータ81、トレイ82、また槽内で固形物を保持するためにメッシュスクリーン83の構造物8を有している。
【0020】
固形物の供給口2が槽1の上部に設けられ、固形物の排出口3が槽の下部に設けられており、固形分は槽の上部から供給され、下部から排出されるため、固形分は槽1の上部から下部に向かって流動(移動)する。他方、流体の供給口4が槽1の下部に設けられ、流体の排出口5が槽1の上部に設けられており、流体は槽の下部から供給され、上部から排出されるため、流体は槽1の下部から上部に向かって流動(移動)する。ここで、本明細書において、「上部」及び「下部」は、槽1の垂直方向にみた際の上か下かの高さを基準とする、相対的な高さを意味する。
【0021】
流体の供給口4の設置箇所は、槽1の下部に設けられていれば特に制限はなく、また流体の排出口5の設置箇所は、槽の上部に設けられていればその設置箇所には特に制限はない。流体は、槽1内の固形物層7の全てと接触できるように供給され、排出されることが好ましい。このような観点から、流体の供給口4は固形物層7よりも下部に設けられることが好ましく、また槽内で固形物を保持するためにメッシュスクリーン83が設けられる場合は、当該メッシュスクリーン83よりも下部に設けられることが好ましく、
図1に示されるように塔底部に設けられていることがより好ましい。
また、流体の供給口4の設置箇所は、槽1の形状、供給口4の大きさに応じて変わり得るため一概にはいえないが、槽1の高さを100とした場合、好ましくは0~20の範囲、より好ましくは0~15、更に好ましくは0~10の範囲に設けられることが好ましい。また、塔底部に設けられない場合は、側面部に設けられる最も低い箇所に設けることが好ましい。
【0022】
流体の供給口4の出口、すなわち槽内側には、
図1に示されるようにディストリビュータ81、トレイ82等の流体を槽内に均一に分散させるための構造物8が設けられていることが好ましい。流体の槽内における分散性を向上させることができるため、流体と固形物との接触状態が向上する。
【0023】
流体の排出口5の設置箇所は、槽1の上部に設けられていれば特に制限はないが、槽1内の固形物層7の全てと接触できるように供給され、排出されることが好ましい。よって、
図1に示されるように塔頂部に設けられていることが好ましい。
また、流体の排出口5の設置箇所は、槽1の形状、排出口5の大きさに応じて変わり得るため一概にはいえないが、槽1の高さを100とした場合、好ましくは80~100の範囲、より好ましくは85~100、更に好ましくは90~100の範囲に設けられることが好ましい。また、塔頂部に設けられない場合は、側面部に設けられる最も高い箇所に設けることが好ましい。
【0024】
固形物の供給口2の設置箇所は、槽1の上部に設けられていれば特に制限はないが、固形物層7の容量をなるべく多く確保できるようにする観点から、なるべく上部であることが好ましい。例えば、
図1に示されるような槽の鏡板のTL(タンジェントライン)よりも上部であることが好ましい。
固形物の供給口2の設置箇所は、槽1の形状、供給口2の大きさに応じて変わり得るため一概にはいえないが、槽1の高さを100とした場合、好ましくは70~100の範囲、より好ましくは80~100、更に好ましくは85~95の範囲に設けられることが好ましい。また、流体と固形物との接触をより有効に図り、かつ固形物の流動の安定を図る観点から、供給口2は流体の排出口5よりも下部に設置されていることが好ましい。
【0025】
固形物の排出口3の設置箇所は、槽1の下部に設けられていれば特に制限はないが、固形物層7の容量をなるべく多く確保できるようにする観点から、なるべく下部であることが好ましい。例えば、
図1に示されるように、トレイ82等の構造物8を有する場合は、構造物8(トレイ82)よりも上部に設けられていることが好ましい。また、
図1に示されるように、固形物層7の下部にはメッシュスクリーン83が設けられており、下に凸のコーン型の形状となっている。排出口3は、当該コーン型の途中から固形物を抜き出すようになっていてもよいし、コーン型の部分ではなく、直胴型の下部に設けられていてもよい。またメッシュスクリーンがコーン型を呈さず平面型であり、槽1の直胴部の水平方向の断面と平行に設けられている場合は、メッシュスクリーンより上部に設けられることはいうまでもない。
【0026】
固形物の排出口3の設置箇所は、槽1の形状、排出口3の大きさに応じて変わり得るため一概にはいえないが、槽1の高さを100とした場合、好ましくは0~40の範囲、より好ましくは10~30、更に好ましくは15~20の範囲に設けられることが好ましい。また、流体と固形物との接触をより有効に図り、かつ固形物の流動の安定を図る観点から、排出口3は流体の供給口4よりも上部に設置されていることが好ましい。
【0027】
(内挿物)
本実施形態の槽1は、内挿物6を備えるものであり、
図1に示されるように、内挿物6は、槽の上部に向かって凸形状を有するように備えられるものである。
槽1が、槽の上部に向かって凸形状を有する内挿物6を備えることにより、上部から下部に流動(移動)する固形物の流れを円滑にすることで、槽内の全体にわたり固形物の均一な流動を確保することができ、また下部から上部に流動(移動)する流体の流れを同時に整えることができるため、槽内の流体及び固形物の滞留を低減することができる。また、内挿物を備えることにより、固形物を槽の下部から抜き出して交換する場合に、固形物のファンネルフローを抑制し、プラグフロー(槽の水平方向の断面の全面における、固形物の移動する速度がほぼ同じである流れ)とすることができ、特に槽の内壁近傍における触媒の滞留を抑制することができる。その結果、均一な流動を確保し、固形物を円滑に排出することが可能になる。
【0028】
内挿物6は、層の上部に向かって凸形状を有するものであれば、形状については特に制限はない。
図1及び2に示されるように、内挿物は、槽の鉛直方向の断面形状が三角形を有するもの、例えば三角錐、四角錐等の多角錐、直円錐等の錐体、また三角柱等の柱体が好ましく挙げられる。柱体としては、三角柱に限られず、四角柱、円柱等を採用することもできる。よって、内挿物6としては、これらの錐体、柱体を含む形状を有するものであることが好ましい。これらの錐体、柱体を含む形状を有することにより、槽内の流体及び固形物の流れが整い、これらの均一な流動を確保しやすくなる。これと同様の観点から、内挿物6は、錐体を含む形状であることが好ましく、中でも直円錐を含む形状であることがより好ましい。
内挿物6は、上記の各種立体形状を有するものであれば、中空であってもよい。また、中空である場合、その一部(面)が欠けた形状であってもよく、例えば内挿物5が中空の三角錐である場合、側面のみを有するもの(すなわち、底面を有しないもの)であってもよい。
【0029】
(錐体の場合)
内挿物6が錐体を含む形状を有するものである場合、
図1に示されるように、錐体の一の頂点及び底面が各々前記槽の上部側及び下部側となり、かつ前記底面と前記槽の水平方向の断面とが平行となるように備えられることが好ましい。内挿物6が、一の頂点が上部側に向くように備えられると、固形物が上部から下部に流動(移動)しやすくなり、槽内の流体及び固形物の流れがより整いやすくなり、これらの均一な流動をより確保しやすくなる。
【0030】
内挿物6が錐体を含む形状を有するものである場合、
図1に示されるように、錐体の一の頂点と、槽の水平方向の断面形状の中心点とが一致し、かつ前記錐体の底面の中心点と槽の水平方向の断面形状の中心点とが一致するように、内挿物6が備えられていることが好ましい。すなわち、内挿物6は、槽の水平方向の断面に対して中央に備えられることが好ましい。内挿物6がこのように備えられることにより、槽内の流体及び固形物が槽の水平方向に均等に流れやすくなるため、これらの流れがより整いやすくなり、これらの均一な流動をより確保しやすくなる。
【0031】
内挿物6が槽の上部に向かって凸形状を有するように備えられていることについて、最も好ましい態様は、既述のように槽の水平方向の断面に対して中央に備えられている態様であるが、本実施形態においてはこれに限られるものではない。すなわち、既述のように槽の水平方向の断面に対して中央に備えられている態様は、内挿物6が、その頂点から底面への垂線が槽の垂直方向の断面の中心線と一致するように備えられているといえるが、当該垂線と当該中心線とは一致していなくてもよい。
本実施形態においては、上記中心線と上記垂線との角度として、好ましくは30°以下、より好ましくは20°以下、更に好ましくは10°以下、より更に好ましくは5°以下であり、特に好ましくは0°(既述の槽の水平方向の断面に対して中央に備えられている態様)である。また、これと同時に、上記中心線と内挿物6の頂点を含む辺との角度として、好ましくは45°以下、より好ましくは35°以下、更に好ましくは30°以下、より更に好ましくは30°以下であり、下限として好ましくは2.5°以上である。
【0032】
内挿物6が錐体を含む形状を有するものである場合、錐体の頂点を含む鉛直方向の面による前記錐体の断面形状の底角が、45°以上85°以下であることが好ましい。図(2-1)は、
図1の内挿物6の周辺を抜粋した模式図である。図(2-1)に示されるように、内挿物6の鉛直方向の断面形状は内挿物6が錐体であれば二等辺三角形を呈するものとなり、底角は本図面に示される箇所の角度となる。このように、内挿物6は、鉛直方向の断面形状が二等辺三角形のように、槽の中心線に対して左右対称であることが好ましい。
底角が上記範囲内にあると、槽内の流体及び固形物の流れが整い、これらの均一な流動を確保しやすくなる。また、これと同様の観点から、底角は、より好ましくは55°以上、更に好ましくは60°以上、より更に好ましくは62°以上であり、上限としてより好ましくは82°以下、更に好ましくは80°以下、より更に好ましくは77°以下である。
【0033】
内挿物6が錐体を含む形状を有するものである場合、錐体の頂点を含む鉛直方向の面による前記錐体の断面形状の底辺の最大長さが、前記面による前記槽の断面形状の幅の18%以上40%以下であることが好ましい。図(2-2)は、図(2-1)と同様に、
図1の内挿物6の周辺を抜粋したものである。図(2-2)に示されるように、内挿物6の断面形状は内挿物6が錐体であれば二等辺三角形を呈するものとなり、底辺の最大長さは本図面に示される箇所の長さとなる。
錐体の底辺の最大長さが上記範囲内であると、槽内の流体及び固形物の流れが整い、これらの均一な流動を確保しやすくなる。また、これと同様の観点から、底辺の最大長さは、好ましくは20%以上、より好ましくは22%以上であり、上限として好ましくは38%以下、より好ましくは35%以下である。
【0034】
内挿物6の底面の形状は、槽1の水平方向の断面形状と相似形であることが好ましい。相似形であると、槽内の流体及び固形物の流路を同じ幅で確保することができるため、これらの流れが整いやすくなり、これらの均一な流動を確保しやすくなる。
図1に示される槽1は、垂直方向の断面形状が示されているが、直胴部が円筒であり、当該円筒に鏡板部が設けられた形状が想定されている。この場合、すなわち槽1の水平方向の断面形状が円である場合は、内挿物6の底面形状は円である、すなわち内挿物6は円錐であることが好ましい。槽1の形状としては、
図1等には直胴部が円筒である形状が示されているが、円筒に限られず、立方体、直方体等の四角柱の形状であってもよく、特に制限はない。
【0035】
内挿物6が錐体を含む形状である場合、内挿物6は、開口部を有するものであることが好ましい。開口部を有するものとすることで、流体及び固形物の流れが整いやすくなり、均一な流動をより確保しやすくなる。
内挿物6が有する開口部は、特に制限はなく、流体を通過させ得るものであることが好ましく、流体を通過させ得るものであり、かつ固形物を通過させにくいものであることがより好ましい。開口部が流体を通過させ得るものであると、槽内の流体が槽の水平方向により均等に流れやすくなるため、槽内の流体及び固形物の流れがより整い、均一な流動をより確保しやすくなる。また、流体を通過させ得るものであり、かつ固形物を通過させにくいものであると、槽内の流体が槽の水平方向により均等に流れやすくするという開口部の効果が向上し、均一な流動をより確保しやすくなる。
【0036】
開口部の大きさとしては、既述のように流体を通過させる一方、固形物が通過しにくい大きさであることが好ましく、槽内の固形物の大きさに応じて選定するとよい。
例えば、開口部の形状が円であり、固形物が球形である場合は、開口部の円の直径として当該球形の直径未満とすればよく、また固形物が楕円球である場合は短径未満とすればよい。開口部の大きさは固形物の大きさに応じてかわり得るため一概にはいえないが、絶対値としては通常0.2mm以上、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上、更に好ましくは2mm以上であり、上限として好ましくは10mm以下、より好ましくは8mm以下、更に好ましくは5mm以下である。
【0037】
内挿物6の形状等について、
図3を用いて更に詳細に説明する。
図3には、内挿物6の好ましい形状の一態様が示されており、図(3-1)は内挿物6の断面形状、図(3-2)は当該断面形状に対応した、内挿物6を下からみた場合の図面である。
【0038】
図3に示される内挿物6は、主にコーン61により構成されており、多孔式コーンと称することもできるものである。
図3に示される内挿物6は、外形は三角錐を呈しており、中空となっており、底面を有するものとして記載されているが、底面を有しないものであってもよい。
図3に示されるコーン61は多孔式であり、その少なくとも側面に孔(開口部62)を複数有する構造となっており、流体の一部は当該コーン61の底面側から内挿物の内部(流路63)を通過(図(3-1)内の矢印方向に通過)し、孔から固形物層7内に流動(移動)することとなる。すなわち、多孔式コーン61の少なくとも側面に有する孔は内挿物の開口部として機能するものであるため、多孔式コーン61は、その開口部となる孔が流体の一部が底面側から内挿物の内部を通過するように、少なくとも側面に設けられるものである。よって、本実施形態で用いられる内挿物6としては、多孔式のコーン61からなるものを採用し得る。
【0039】
図3に示される内挿物6は、流体が通過する流路63を複数有している。
図3に示される内挿物6は、3つの円筒形の壁面64で仕切られており、その断面形状がドーナツ形状である3つの流路63a及び円筒形状の1つの流路63bの合計4つの流路63を有している。そして、流路63a及び流路63bは、多孔式のコーン61が有する孔を少なくとも一の開口部62として有している。
内挿物6が、流体が通過する複数の流路63を有し、かつ流路63が少なくとも一の開口部62を有するという構成をとることにより、特に流体の流れが整い、その分散性が向上するため、均一な流動を確保しやすくなる。
【0040】
多孔式のコーン61が有する孔は、既述のように開口部62として機能するものであり、一つの流路63に対して少なくとも一つ有していればよく、一つの流路63に対して複数有するように設けられていることが好ましい。また、一つ一つの孔の大きさは、上記の開口部が有し得る大きさを有していればよい。
孔は、パターン状に規則的に有していてもよいし、不規則的に有していてもよい。
【0041】
孔の大きさ、数については、各流路から流体が通過する際の差圧が同じとなるように決定することが好ましい。このように決定することで、流体がより均一に内挿物6内を通過するため、より均一な流動を確保しやすくなる。
【0042】
また、
図3に示される内挿物6は円錐であるため、壁面64は円筒形が採用されており、壁面64を形成する円筒形の底面は内挿物6の底面と同心円となっている。このように、壁面を形成する、角筒形、円筒形等の筒形の底面と錐体の底面とは同心であることが好ましい。このような構成とすることで、特に流体の流れが整い、その分散性が向上するため、均一な流動を確保しやすくなる。
【0043】
本実施形態の槽1に採用される内挿物6としては、例えば
図4に示される内挿物を採用することもできる。
図4に示される内挿物6は、
図3に示されるものとは異なり、多孔式コーン61のかわりに筒状部材66を用いて開口部62が設けられたコーン61を採用するものである。
図4に示される内挿物6は、コーン61、複数の壁面64、壁面64により形成される複数の流路63、筒状部材66により形成される開口部62を各流路に有している。
【0044】
図3に示される内挿物6は、コーン61自体が有する孔を開口部としているが、より確実に流体を通過させて、より均一な流動を確保する観点から、
図4に示されるように、開口部62は筒状部材66により構成されていることが好ましい。筒状部材66は、その一方の端部が開口部62を構成しており、他方の端部は流路62の中に留まるように構成されている。
【0045】
筒状部材66の大きさ(断面の直径)は、開口部62と同じとすればよい。また、筒状部材66の長さ及び設置する数は、大きさ(断面の直径)とともに、各流路62各流路から流体が通過する際の差圧が同じとなるように決定することが好ましい。このように決定することで、流体がより均一に内挿物6内を通過するため、より均一な流動を確保しやすくなる。
【0046】
筒状部材66を採用する場合、筒状部材66は側面に流体通過口68を有することが好ましい。図(5-1)は、
図4の内挿物6における開口部62を含む一部を抜粋したものである。
図4に示される筒状部材66を有する内挿物6には、コーン61と筒状部材66と壁面64とによりデッドスペースになりやすいスペース67が必然的に生じてしまう。また壁面64を有さない場合も同様にスペース67は生じ得る。
流体としては、後述するように液体である場合、又は液体と気体とを含む混合物である場合があり、いずれの場合も、スペース67に流体が滞留することがある。このような滞留を抑制する観点から、図(5-2)に示されるように、筒状部材66の側面には、流体通過口68があることが好ましい。
【0047】
筒状部材66の側面に設ける流体通過口68の大きさは、スペース67における流体の滞留を抑制し得る大きさであれば特に制限はなく、例えば流体通過口68を流体が通過する際の差圧と、流体が筒状部材66の下から入り通過する際の差圧とが同じとなるような大きさにするとよい。安定した流体の流動(移動)が確保できるため、均一な流動を確保しやすくなる。
【0048】
内挿物6がとり得る形状としては、既述のように好ましくは錐体を含む形状が挙げられる。錐体を含む形状としては、
図3に示されるような錐体のみからなる形状が好ましく挙げられ、また以下のような形状も好ましく挙げられる。
例えば、底面が同じ形状である二つの錐体、好ましくは四角錐、円錐から選択される二つの錐体を、当該底面で貼り合わせた形状が挙げられる。図(6-1)に示される内挿物6の形状は、同じ形状の2つの円錐を、底面同士で貼り合わせた形状、図(6-2)に示される内挿物6は、異なる形状の2つの円錐を、底面同士で貼り合わせた形状であり、二つの円錐を底面同士で貼り合わせた形状は、双円錐とも称される。
【0049】
また例えば、底面が同じ形状である、錐体、好ましくは正角錘及び直円錐から選択される錐体と、柱体、好ましくは角柱及び円柱から選択される柱体と、を前記底面で貼り合わせた形状も挙げられる。図(6-3)に示される内挿物6の形状は、円錐と円柱とを底面で貼り合わせた形状である。底面が同じ形状であることから、錐体が正角錘であれば柱体は角柱となり、錐体が円錐であれば柱体は円柱となる。
図(6-3)に示される形状である場合は、
図1等に示される内挿物6と同様に、錐体の方が槽の上部側となるように内挿されていることが好ましい。
【0050】
内挿物6が、
図6に示される形状を有する場合、槽の上部側となる錐体については、
図3及び
図4等で説明した、内挿物6と同様とすればよい。また、内挿物6が
図6に示される形状を有する場合、図(2-1)及び(2-2)を用いて説明した底角、底辺の最大長さは、槽の上部側となる錐体に適用される。
【0051】
槽の下部側となる錐体又は柱体については、上部側となる錐体と同様の構造を有するものを採用してもよいし、また異なる構造を有するものを採用してもよい。例えば、上部側となる錐体が筒状部材66を有する構造である場合、下部側となる錐体、柱体は筒状部材66を有する必要性は低いため、筒状部材66を有さなくてもよい。また例えば、上部側となる錐体がワイヤースクリーン65を有する構造である場合、下部側となる錐体、柱体はワイヤースクリーン65を有さなくてもよい。ワイヤースクリーン65は後述するように固形物の開口部からの侵入による閉塞を抑制するために設けられるが、下部側の錐体、柱体においては固形物が開口部から侵入することは想定する必要はないからである。
【0052】
内挿物6が図(6-1)の形状を有する場合の、典型的な好ましい態様を
図7に示す。
図7に示される内挿物6は、上部側が
図5で示される内挿物6と同じであり、下部側に円錐のコーンを有するものである。
図7に示される内挿物6の下部側の円錐のコーンは、多孔式のコーンである態様が示されているが、これに限られるものではない。
【0053】
図7においては、壁面64が、下部側のコーンを突き抜けるようにして設けられている。このような壁面とすることで、上記筒状部材66を有する場合に生じ得るものとして説明したスペースと同様のスペースが下部側のコーンと壁面と間で生じることとなる。下部側のコーンについては、逆にこのようなスペースを生じさせることにより、流体に気体が含まれる場合に気体を滞留させることができ、徐々に内挿物6内に気体を供給することができるようになるため、均一な流動が確保しやすくなる。なお、
図7において、壁面64は、下部側のコーンを突き抜けるように設けられる態様が示されているが、
図5と同様に上部側のコーンの内部に留まるものであってもよい。
【0054】
また、
図3及び4に示されるように、内挿物6は、最も外側にウェッジワイヤースクリーン等のワイヤースクリーン65を有していることが好ましい。固形分の開口部からの侵入による閉塞を抑制し、また内挿物6の破損を防止することができる。
【0055】
内挿物6の設置箇所については、少なくとも流体及び固形物と同時に接し得る箇所であれば特に制限はないが、
図1に示されるように、槽の高さ方向について、固形物の供給口2と排出口3との間にあり、かつ流体の供給口4と排出口5との間に備えられていることが好ましい。そうすることにより、流体及び固形物は内挿物により槽内における流れが整えられやすくなり、流体の分散性が向上し、固形分の排出がより円滑となるため、槽内の流体及び固形物の滞留の低減による均一な流動の確保と、固形物の円滑な排出が可能となる。
【0056】
(柱体の場合)
内挿物6が柱体を含む形状を有するものである場合、内挿物6は、図(2-3)及び(2-4)に示されるように備えられることが好ましい。図(2-3)は、図(2-1)と同様に、
図1の内挿物6の周辺を抜粋した図であり、図(2-4)は、図(2-3)における槽の水平方向の上部側からみた断面の模式図である。これらの図面に示される場合、内挿物6は三角柱である。
【0057】
図(2-3)に示される態様では、内挿物6が三角柱の場合も、槽の鉛直方向の断面は、内挿物6が三角錐の場合の図(2-1)と同じものとなっている。この場合、三角柱の内挿物6は、三角柱の側面の一の辺が槽の上部側となり、槽の上部に向かって凸形状を有するように備えられ、また柱体の底面(図面において三角形で示されている面)と槽の鉛直方向の断面とが平行となるように備えられている。この場合の、槽1の水平方向の断面を上部側からみた模式図を図(2-4)に示す。図(2-4)にも示されるように、内挿物6の三角柱が、その側面の辺が上部側となり、槽の上部に向かって凸形状を有するように備えられ、また柱体の底面(図面において三角形で示されている面)と槽の鉛直方向の断面とが平行となるように備えられていることが分かる。このように備えられることにより、内挿物6が錐体である場合と同様に、槽内の流体及び固形物の流れがより整いやすくなり、これらの均一な流動をより確保しやすくなる。
【0058】
図(2-3)及び(2-4)は、内挿物6が三角柱である場合を示す模式図であるが、図(2-6)は、内挿物6が四角柱である場合の槽の鉛直方向の断面の模式図である。図(2-6)において、内挿物6は、四角柱(柱体)の側面の一の辺が上部側となり、四角柱(柱体)の底面(図面において四角形で示されている面)と槽の鉛直方向の断面とが平行となるように設けられている。この場合、槽1の水平方向の断面を上部側からみると、上記図(2-4)と同様に示されることとなる。
【0059】
図(2-7)は、内挿物6が円柱である場合の内挿物6を示すものである。内挿物6が円柱である場合、円柱(柱体)の側面の一の辺が上部側となり、円柱(柱体)の底面(図面において円形で示されている面)と槽の鉛直方向の断面とが平行になるように備えられている。円柱の場合、厳密には「側面の一の辺」と称せる辺は存在しないが、本明細書では、円柱が底面と槽の鉛直方向の断面とが平行になるように備えられた場合の、槽の水平方向の断面と、円柱の側面との最も上部における接線を「側面の一の辺」ととらえることとする。このように、内挿物6が柱体の場合は、柱体としては、三角柱、四角柱等の角柱だけでなく、円柱も採用し得る。
【0060】
内挿物6が錐体を含む形状である場合の、槽の水平方向の断面に対して中央に備えられることが好ましいこと、錐体の頂点から底面への垂線と槽の垂直方向の断面の中心線との角度、当該中心線と内挿物6の頂点を含む辺との角度、に関する内容は、内挿物6が柱体を含む形状である場合にも適用し得る。
これら以外についても、内挿物6が、柱体を含む形状である場合、上記錐体を含む形状について説明した内容であって、柱体を含む形状に適用できる内容は、全て適用し得る。例えば、内挿物6が柱体を含む形状である場合、上記錐体の底角に該当する柱体の底角は、上記錐体の底角と同様である。また、内挿物6が柱体を含む形状である場合、錐体を含む形状と同様に中空であってもよい。
【0061】
図(2-5)は、図(2-3)における槽1の鉛直方向の断面から90°回転させた方向からみた、槽1の鉛直方向の断面形状の模式図である。内挿物6については、その側面が視認される。
図(2-3)~(2-5)に示されるように、槽1の直胴部が円筒であり、内挿物6が柱体である場合、上記錐体における錐体の頂点を含む鉛直方向の面による前記錐体の断面形状の底辺の最大長さに該当する柱体の最大長さは、上記錐体の最大長さと同様である。この場合の柱体の最大長さは、図(2-3)に示される、柱体の底面における最大長さである。柱体の底面における最大長さが、上記錐体の好ましい最大長さにあれば、図(2-5)に示される柱体の側面の水平方向の幅等の大きさによらず、上記錐体の場合と同様に、流体及び固形物の均一な流動はより確保しやすくなる。
【0062】
これに関連し、例えば槽1の直胴部が直方体、立方体等の四角柱である場合、図(2-5)に示される内挿物6の側面の水平方向の幅は、特に制限はなく、例えば槽1の直胴部と同じ幅を有していてもよい。内挿物6を設ける効果を効率的に獲得する観点から、槽1の直胴部の幅に対する内挿物6の側面の水平方向の幅の割合は、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上、より更に好ましくは90%以上である。また既述のように槽1の直胴部と同じ幅、すなわち100%であってもよい。
【0063】
内挿物6の柱体を含む形状としては、図(2-3)~(2-7)に示されるように、柱体のみからなる形状であってもよいし、また複数の柱体を組み合わせた形状、柱体と錐体とを組み合わせた形状であってもよい。この点、上記錐体を含む形状の場合と同様である。
例えば、錐体を含む形状の説明に用いた図(6-1)~(6-3)は、柱体を含む形状の説明にも流用し得る。図(6-1)及び(6-2)は二つの三角柱を組み合わせた形状ととらえることができ、柱体を含む形状として採用し得る。図(6-3)は三角柱と四角柱とを組み合わせた形状ととらえることができ、これも柱体を含む形状として採用し得るし、また四角錐と四角柱とを組み合わせた形状ともとらえることができ、これも柱体を含む形状として採用し得る。
【0064】
内挿物6が柱体を含む形状である場合も、既述の錐体を含む形状である場合と同様に、開口部を有することが好ましい。よって、内挿物6は、錐体を含む形状であっても、柱体を含む形状であっても、その他形状によらず、開口部を有することが好ましい。開口部を有するものとすることで、流体及び固形物の流れが整いやすくなり、均一な流動をより確保しやすくなる。
【0065】
内挿物6が柱体を含む形状である場合、開口部を有するものとして、例えば図(8-1)に示されるものが挙げられる。図(8-1)に示される内挿物6は、中空の三角柱において2つの底面を除いた形状を有するものであり、底面と垂直をなす4つの仕切りにより仕切られた、5つの開口部62を有するものであり、側面の辺69が槽の上部側となり、槽の上部に向かって凸形状を有するように備えて用いることができる。このように備えることにより、固形分は側面の辺69を挟む二つの側面により、槽内において流動が安定し、均一な流動を確保することができる。また、開口部62を有することで、流体及び固形物の流れが整いやすくなり、均一な流動をより確保しやすくなる。
【0066】
内挿物6が柱体を含む形状としては、図(8-1)において仕切り及び底面を有しない、すなわち中空の三角柱において2つの底面と1つの側面を除いた形状である図(8-4)に示されるものも挙げられる。この場合、側面の辺69が層の上部側となり、槽の上部に向かって凸形状を有するように備えて用いることができる。図(8-4)に示される内挿物6も、上記図(8-1)に示される内挿物6と同様に、固形分は側面の辺69を挟む二つの側面により、槽内において流動が安定し、均一な流動を確保することができる。
【0067】
内挿物6が柱体を含む形状である場合、開口部62は上記錐体を含む形状である場合と同様に、図(8-2)の内挿物6の断面形状に示されるように、その側面に有することが好ましい。また図(8-3)は、当該断面形状に対応した、内挿物6を下からみた場合の図面である。図(8-3)に示される内挿物6において、流路63は4つの長方形の仕切りにより形成されている。
開口部62の大きさ、流路の形状等については、図(8-2)、(8-3)等に限定されることなく、内挿物6が錐体を含む形状である場合について説明した内容も適用し得る。また、
図4、(5-1)、(5-2)等に示されるような、筒状部材等を有し得ることも、内挿物6が錐体を含む形状である場合について説明した内容と同様である。
【0068】
(用途)
本実施形態の内挿物を備える槽は、上部から固形物を供給して下部から排出し、下部から流体を供給して上部から排出し、槽内で固形物と流体とを接触させることを要する用途において制限なく使用することが可能である。
本実施形態の内挿物を備える槽は、槽内の流体及び固形物の滞留を低減させて、均一な流動を確保し、固形物を円滑に排出し得るものであることから、固形物を触媒とし、流体を当該触媒により反応し得る反応流体とする用途、すなわち反応槽に用いられることが好適である。槽内の反応流体及び触媒の滞留が低減され、均一な流動を確保するものであることから、反応流体と触媒との良好な接触状態を保つことができるので、優れた触媒活性を享受することができる。
【0069】
触媒を円滑に排出し得るものであることから、排出分を新しい触媒で補完することにより、優れた触媒活性を長期にわたり得ることが可能となる。使用済みの触媒の排出及び新しい触媒の補完、すなわち触媒の交換は、連続的に行ってもよいし、また例えば週に1~3回、1回につき5~30分のように断続的に行ってもよい。また、例えば触媒の排出を行いながら、新しい触媒を補完(供給)することもできるし、触媒の排出を行ってから、新しい触媒を補完(供給)することもできる。触媒の交換は、所望に応じていかようにも対応することができる。以上、触媒の交換については、固形物を触媒として説明しているが、固形物が触媒以外のものであっても同様である。
【0070】
本実施形態の内挿物を備える槽が、反応槽として用いられる場合、より具体的には重油直接脱硫装置(RH装置)の触媒の劣化を抑制するために、必要に応じて当該RH装置の上流に設けられる脱金属前処理装置(OCR装置)等の重油直接脱硫装置の前処理装置が好ましく挙げられる。
【0071】
上記重油直接脱硫装置の前処理に用いられる場合、流体として供給される原料油としては、脱金属脱硫処理したいものであれば特に制限なく、好ましくは常圧蒸留残油(AR)、減圧蒸留残油(VR)、重質サイクル油(HCO)、接触分解残油(CLO)、及び重質軽油留分(HGO)等が挙げられる。本実施形態の内挿物を備える槽であれば、均一な流動を確保できるため、このような原料油(重質油)を流体としても、優れた触媒活性が得られる。
【0072】
この場合、槽には、原料油に水素を供給した流体が供給されることとなる。水素を供給する場合、その供給量は、水素/原料油比として通常300Nm3/kL以上2000Nm3/kL以下であり、好ましくは500Nm3/kL以上1800Nm3/kL以下、より好ましくは750Nm3/kL以上1500Nm3/kL以下である。本実施形態の内挿物を備える槽であれば、流体として液体と気体とを含む混合物でも、均一な流動を確保できるため、優れた触媒活性が得られる。
【0073】
また、上記重油直接脱硫装置の前処理装置に用いられる場合、槽内における反応温度は、通常310℃以上450℃以下、好ましくは330℃以上420℃以下、より好ましくは350℃以上400℃以下である。本実施形態においては、槽を構成する材料、内挿物を構成する材料、その他の材料について、このような反応温度の使用に耐え得る材料を採用することで、対応することが可能である。
【実施例0074】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0075】
(実験装置)
直胴部とコーン部とを有する槽(直胴部:420mm×60mm)を用意した。槽には、底部に流体として液体及びガスの混合物を供給できる供給口、頂部に流体を排出できる排出口、また直胴部の上部に固形物を供給できる供給口、コーン部の下部に固形物を排出できる排出口が設けられている。槽を構成する直胴部とコーン部には、透明の素材(アクリル樹脂)が用いられており、内部を視認できるようになっている。
【0076】
(評価方法)
各実施例及び比較例の試験後の槽内の状態を目視し、流動性に関して以下の基準で評価した。
A:固形物の滞留が生じることがなく、均一な流動が確保されていた。
B:固形物の滞留が若干生じたものの、概ね均一な流動が確保されていた。
C:固形物の滞留が生じ、均一な流動が確保されなかった。
【0077】
(実施例1)
上記実験装置において、固形物として触媒担体(材質:アルミナ、大きさ:平均粒径3.5mm)を用い、コーン部に充填した。その上に、図(8-4)に示される内挿物(形状:図(8-1)において仕切り板と底面がない三角柱の傾斜面だけからなる、底角:60°、底面:140mm×60mm、高さ:121mmの構造物)を静置し、さらに固形物を直胴部の上部まで充填した。次いで、下部から流体(液体:水)を供給し槽内を満水とした。次いで、固形物を排出して、流動試験を行った。流動試験後の槽内の状態を目視した。
上記方法により評価した結果を第1表に示す。また、槽内の状態の撮影画像を、
図9に示す。
【0078】
(実施例2~4)
実施例1において、内挿物を図(8-4)に示される形状で底辺、高さ及び底角を第1表に示されるものにかえた以外は実施例1と同様にして流動試験を行い、槽内の状態を目視した。上記方法により評価した結果を第1表に示す。また、槽内の状態の画像を、
図9に示す。
図9は、撮影動画から、粒子の動きを追跡したものを赤線で示したものである。
【0079】
(比較例1)
実施例1において内挿物を設けなかった以外は、実施例1と同様にして流動試験を行い、槽内の状態を目視した。上記方法により評価した結果を第1表に示す。また、槽内の状態の撮影画像を、
図9に示す。
【0080】
比較例1より、内挿物を設けないと、槽内の流体及び固形物の流動は均一にはならず、実施例1~4により内挿物を設けることで、
図9に示されるように槽の水平方向にみて均一に粒子が流動していることからプラグフローが生じており、槽内の固形物の均一な流動を確保できることが分かった。また、上記実施例及び比較例では、槽の下部から流体を供給しないで固形物を排出しているが、固形物の流動としては、流体を供給する場合に比べて厳しい条件である。そのような中でも、実施例1~4では固形物の均一な流動が確保できていることから、流体を供給しても固形物の均一な流動は確保できており、それに伴い流体の均一な流動が確保できており、槽内の流体及び固形物の均一な流動を確保できることが確認されたといえる。
また、内挿物の底辺の最大長さが槽の断面形状の幅(槽の内径)の16.7%となる実施例4は、他の実施例に比べて、流動の均一性に若干劣るものの実用上の問題は生じないことが確認された。
【0081】
【0082】
(実施例5~9)
実施例1において、内挿物を第2表に示されるものにかえた以外は、実施例1と同様にして流動試験を行い、槽内の状態を目視した。上記方法により評価した結果を第2表に示す。また、槽内の状態の撮影画像を、
図10に示す。
【0083】
【0084】
実施例7~9の流動性の評価の「A
+」は「A」の中でも比較すると他の「A」評価の場合よりも優れている評価であることを示す。
図10に示されるように、実施例5~9についても、上記実施例1~4と同様にプラグフローが生じており、槽内の固形物の均一な流動が確保されていることが確認された。より具体的には、実施例5の場合(底角が55°である場合)、他の実施例に比べて流動性の評価は若干劣るものの、実用上の問題は生じない程度であった。また、実施例6~9については、優れた流動性の評価が確認され、中でも実施例7~9については実施例6の場合に比べてより優れていることも確認された。実施例5~9についても、流体を供給しないで流動試験を行っているが、上記実施例1~4と同様に、槽内の流体及び固形物の均一な流動を確保できることが確認されたといえる。