(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166720
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】流動接触分解装置の運転方法及び流動接触分解装置
(51)【国際特許分類】
C10G 11/18 20060101AFI20221026BHJP
B01J 8/24 20060101ALI20221026BHJP
B01J 29/08 20060101ALI20221026BHJP
B01J 29/90 20060101ALI20221026BHJP
B01J 38/12 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
C10G11/18
B01J8/24 301
B01J29/08 M
B01J29/90 M
B01J38/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072123
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】三浦 公平
【テーマコード(参考)】
4G070
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB06
4G070BB32
4G070CA06
4G070CA13
4G070CB07
4G070CB08
4G070CB17
4G070DA14
4G169AA02
4G169AA10
4G169BA01B
4G169BA02B
4G169BA07B
4G169BA10B
4G169CC07
4G169DA08
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4H129DA04
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4H129KC03Y
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4H129KC33Y
4H129LA10
4H129NA20
4H129NA21
4H129NA45
(57)【要約】
【課題】エアブロワーの負荷の増加を抑制しつつ、流動接触分解装置の処理能力を向上させる、流動接触分解装置の運転方法及び流動接触分解装置を提供する。
【解決手段】流動接触分解触媒を用いた反応を行う反応塔と、前記反応塔で使用された、前記流動接触分解触媒の再生を行う再生塔と、を備える流動接触分解装置の運転方法であって、前記流動接触分解触媒の再生を、前記再生塔に、酸素及び空気を供給して行う、流動接触分解装置の運転方法、並びに反応塔と、再生塔と、前記再生塔に酸素及び空気を供給する供給手段と、を備える反応装置である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動接触分解触媒を用いた反応を行う反応塔と、前記反応塔で使用された、前記流動接触分解触媒の再生を行う再生塔と、を備える流動接触分解装置の運転方法であって、
前記流動接触分解触媒の再生を、前記再生塔に、酸素及び空気を供給して行う、
流動接触分解装置の運転方法。
【請求項2】
前記流動接触分解触媒の再生を、前記再生塔に、酸素及び空気を含む酸素富化混合ガスを供給して行う、請求項1に記載の流動接触分解装置の運転方法。
【請求項3】
前記酸素の供給量が、前記空気の供給量100容量部に対して0.5容量部以上22.0容量部以下である請求項1又は2に記載の流動接触分解装置の運転方法。
【請求項4】
前記反応塔において、前記触媒により脱硫重油留分を含む原料油の反応を行う請求項1~3のいずれか1項に記載の流動接触分解装置の運転方法。
【請求項5】
流動接触分解触媒を用いた反応を行う反応塔と、前記反応塔で使用された流動接触分解触媒を再生する再生塔と、前記再生塔に酸素及び空気を供給する供給手段と、を備える流動接触分解装置。
【請求項6】
前記供給手段が、酸素を供給する酸素供給手段及び空気を供給する空気供給手段を備える請求項5に記載の流動接触分解装置。
【請求項7】
前記供給手段が、前記酸素と前記空気とを混合して酸素富化混合ガスを生成する混合手段、並びに酸素富化混合ガスを供給する酸素富化混合ガス供給手段を備える請求項5又は6に記載の流動接触分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動接触分解装置の運転方法及び流動接触分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染防止は世界的な最重要課題の一つとして挙げられており、国際海事機関(IMO)では、大気汚染防止対策の一環として、2020年から全ての船舶に対して燃料油中の硫黄分濃度を現行3.5質量%以下から0.5質量%以下と規制を強化することが決定された。そのため、船舶用の燃料油組成物については、硫黄分濃度を0.5質量%以下とすることで、環境への負荷を低減する環境性能に優れたものとすることが急務となっている。
【0003】
上記規制に対応するため、燃料油組成物に用いられる各種留分の硫黄分含有量を低減すべく、製油所内における各種留分の需給バランスを大きく修正することが求められるようになっている。例えば、減圧蒸留塔から留出される減圧蒸留残渣留分等を含む、硫黄分含有量が比較的多い高硫黄C重油留分(「HSC重油留分」とも称する。)はこれまで燃料油組成物として重宝されてきた(例えば、特許文献1参照)。しかし、減圧蒸留残渣留分は、硫黄分含有量が高いことから、硫黄分含有量を低減させるには、脱硫処理した留分を使用する必要性が生じている。
【0004】
原油は、需要に応じて各種精製処理をした後、各種用途に適した性状として供給される。燃料油組成物に汎用されてきた減圧蒸留残渣留分に着目すると、減圧蒸留残渣留分は、原油を常圧蒸留して得られる常圧蒸留残渣留分を減圧蒸留して得られる。減圧蒸留残渣留分は、単独で、又は例えば流動接触分解残渣留分等の他の重質留分等と組み合わせてHSC重油留分として、既述のように燃料油組成物の原料等として用いられてきた。他方、常圧蒸留して得られる常圧蒸留残渣留分は、重油直接脱硫装置(「RH装置」とも称する。)において水素化脱硫処理して、硫黄分含有量が少ない低硫黄C重油留分(「LSC重油留分」とも称する。)とし、必要に応じて流動接触分解装置(FCC装置、RFCC装置等)により流動接触分解処理して分解ガソリン留分等が得られている。
【0005】
減圧蒸留残渣留分の燃料油組成物への使用量を抑制しようとする場合、減圧蒸留残渣留分を精製処理した留分、具体的には、重油直接脱硫装置(RH装置)において水素化脱硫処理した脱硫重油留分(例えば、上記の低硫黄C重油留分(LSC重油留分))、脱硫重油留分を流動接触分解装置(FCC装置、RFCC装置等)により流動接触分解処理した留分等)を、燃料油として使用する必要性が生じる。このように、上記規制に対応するには、製油所全体の需給バランスを見直す必要が生じることになる。
そして、需給バランスを見直し、上記規制に対応する手段としては、重油直接脱硫装置(RH装置)における減圧残渣留分の処理量の増加、下流の流動接触分解装置(FCC装置、RFCC装置)における処理量の増加等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/61019号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、重油直接脱硫装置(RH装置)における処理量を増加させる場合、処理された重油留分に含まれるメタル濃度、硫黄濃度が上昇するだけでなく、コーク前駆体が増加し、流動接触分解装置(FCC装置、RFCC装置)において用いられる流動接触分解触媒にコーク(「炭化水素」とも称される。)が付着しやすくなる。このように、流動接触分解装置(FCC装置、RFCC装置)は、その上流にある重油直接脱硫装置(RH装置)の性能に影響される。
流動接触分解触媒へのコーク(炭化水素)の付着の増加は、流動接触分解装置(FCC装置、RFCC装置)における触媒の再生塔の負荷の増加につながる。具体的には、触媒の再生には空気が用いられるが、触媒の再生能力を上げるには再生塔内への空気の供給量を増加させる必要が生じる。そのため、空気を再生塔内に供給するための動力の増加、エアブロアーの容量不足等の種々の問題が生じることになる。
【0008】
そこで、本発明は、エアブロワーの負荷の増加を抑制しつつ、流動接触分解装置の処理能力を向上させる、流動接触分解装置の運転方法及び流動接触分解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち本発明は、下記の構成を有する流動接触分解装置の運転方法及び流動接触分解装置を提供するものである。
【0010】
1.流動接触分解触媒を用いた反応を行う反応塔と、前記反応塔で使用された、前記流動接触分解触媒の再生を行う再生塔と、を備える流動接触分解装置の運転方法であって、
前記流動接触分解触媒の再生を、前記再生塔に、酸素及び空気を供給して行う、
流動接触分解装置の運転方法。
2.前記流動接触分解触媒の再生を、前記再生塔に、酸素及び空気を含む酸素富化混合ガスを供給して行う、上記1に記載の流動接触分解装置の運転方法。
3.前記酸素の供給量が、前記空気の供給量100容量部に対して0.5容量部以上22.0容量部以下である上記1又は2に記載の流動接触分解装置の運転方法。
4.前記反応塔において、前記触媒により脱硫重油留分を含む原料油の反応を行う上記1~3のいずれか1に記載の流動接触分解装置の運転方法。
5.流動接触分解触媒を用いた反応を行う反応塔と、前記反応塔で使用された流動接触分解触媒を再生する再生塔と、前記再生塔に酸素及び空気を供給する供給手段と、を備える流動接触分解装置。
6.前記供給手段が、酸素を供給する酸素供給手段及び空気を供給する空気供給手段を備える上記5に記載の流動接触分解装置。
7.前記供給手段が、前記酸素と前記空気とを混合して酸素富化混合ガスを生成する混合手段、並びに酸素富化混合ガスを供給する酸素富化混合ガス供給手段を備える上記5又は6に記載の流動接触分解装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エアブロワーの負荷の増加を抑制しつつ、流動接触分解装置の処理能力を向上させる、流動接触分解装置の運転方法及び流動接触分解装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の運転方法で用いられる流動接触分解装置の好ましい一態様を説明するための模式図である。
【
図2】実施例1及び比較例の結果を示すグラフである。
【
図3】実施例2及び比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔流動接触分解装置の運転方法〕
本発明における実施形態(以後、単に本実施形態と称する場合がある。)に係る流動接触分解装置の運転方法は、流動接触分解触媒を用いた反応を行う反応塔と、前記反応塔で使用された、前記流動接触分解触媒の再生を行う再生塔と、を備える流動接触分解装置の運転方法であって、
前記流動接触分解触媒の再生を、前記再生塔に、酸素及び空気を供給して行う、ことを特徴とするものである。
【0014】
既述のように、重油直接脱硫装置(RH装置)における処理量の増加により、処理された重油留分に含まれるコーク前駆体が増加するため、流動接触分解装置における再生塔の負荷の増加、すなわち触媒の再生に用いられる空気を送風するためのエアブロアーの負荷が増加することが想定される。更に、触媒の再生に用いられる空気量がエアブロアーの容量を超えてしまうと、再生に供する空気の供給量が不足するため、触媒の再生を十分に行うことができなくなり、結果として流動接触分解装置自体の性能が低下することも想定される。
【0015】
本実施形態の流動接触分解装置の運転方法では、再生塔における触媒の再生において、従来から使用してきた空気に加えて酸素を同時に供給することにより、(i)再生塔の負荷が増加する場合は空気の供給量を維持して、エアブロアーの負荷の増加を抑制すること、(ii)エアブロアーの負荷の増加だけではなし得ない程度に再生塔の負荷を増加し得ること、を可能とした。ここで、本発明の効果である、「エアブロワーの負荷の増加を抑制しつつ、流動接触分解装置の処理能力を向上させる」ことは、基本的には上記(i)及び(ii)を意味するものであるが、後述する(iii)、排出ガスの量の低減によるエネルギーの消費量の低減も、本発明の副次的な効果として挙げられる。
【0016】
エアブロアーに関連し、従来から使用してきた空気に加えて酸素を同時に供給することにより、更に(iii)再生塔の負荷がかわらない場合は空気の供給量を減らしてエアブロアーの負荷を下げること、も可能となる。また、本実施形態の運転方法により、再生塔からの排出ガスの量を低減することもできるようになり、再生塔内のサイクロンによる排出ガスと再生した触媒との分離能力を超えることがなくなる。そのため、処理量の増加にあたり、サイクロンの分離能力の制約をうけることもなく、また流動接分解装置におけるエネルギーの消費量を低減させることも可能となる。
このようにして、本実施形態の流動接触分解装置の運転方法によれば、エアブロアーの負荷の増加を抑制しつつ、流動接触分解装置の処理能力を向上させることが可能となる。また、流動接触分解装置におけるエネルギーの消費量を低減することも可能となる。
【0017】
(流動接触分解装置の構成)
本実施形態の運転方法で用いられる流動接触分解装置の構成について、
図1を用いながら説明する。
図1には、本実施形態の運転方法で用いられ得る、流動接触分解装置の好ましい一態様が示されている。
図1に示される流動接触分解装置1は、流動接触分解触媒を用いた反応を行う反応塔20と、反応塔20で使用された流動接触分解触媒の再生を行う再生塔30と、酸素及び空気を供給する供給手段(エアブロアー41(空気供給手段)及び酸素富化混合ガスを生成する混合手段42)と、を備えている。
【0018】
反応塔20の下部にはライザー10が備えられている。ライザー10は、再生塔30で再生された流動接触分解触媒(以下、単に「触媒」と称することがある。)を供給する再生触媒トランスファーライン33と、原料油Bを含む原料を供給する原料供給ライン11とに接続している。
ライザー10内には、揚送用流体Aが流通している。また、ライザー10には、プレヒータ12により加熱された原料油BにスチームCが加えられた原料が、原料供給ライン11から供給される。よって、ライザー10内に供給された原料油B及びスチームCを含む原料は、再生塔30で再生され、再生触媒トランスファーライン33から供給される触媒と接触し、接触分解反応により分解される。原料が分解して得られる、分解生成物E及び触媒は、揚送用流体Aによりライザー10を通過し、反応塔20に供給される。
【0019】
反応塔20は、サイクロン21、分解生成物排出ライン22、ストリッパー23及びスペント触媒トランスファーライン24を備えている。
ライザー10内で原料油Bを含む原料が分解して得られる分解生成物Eは、反応塔20が備えるサイクロン21に供給され、サイクロン21において遠心力により分解生成物Eと触媒とに分離される。分解生成物Eは原料油の流動接触分解物であり、分解生成物排出ライン22から排出され、所望の用途に利用される。ストリッパー23にはスチームDが供給され、再生塔30における触媒表面に付着するコーク(炭化水素)の量を低減するため、触媒表面に付着するコーク(炭化水素)を除去した後、触媒は、スペント触媒トランスファーライン24を通過して反応塔20から排出され、再生塔30に移送される。
【0020】
再生塔30は、反応塔20のサイクロン21において分離された使用済みの触媒の表面に付着するコーク(炭化水素)を燃焼させて、触媒を再生するものである。再生塔30は、エアグリッド31、サイクロン32、再生触媒トランスファーライン33及び排出ガスライン34を備えている。
エアグリッド31は、空気、又は空気及び酸素を含む酸素富化混合ガスを再生塔内に供給するためのグリッドであり、
図1ではエアブロアー41から送風される空気に、酸素富化混合ガスを生成する混合手段42により酸素を混合した酸素富化混合ガスを再生塔内に供給するものとして示されている。再生塔内に供給される空気及び酸素は、反応塔20から移送された、表面にコーク(炭化水素)が付着した使用済みの触媒からコーク(炭化水素)を燃焼させる、触媒の再生に用いられる。再生された触媒と、コーク(炭化水素)の燃焼により生じた排出ガスは、サイクロン32により分離される。次いで、再生された触媒は再生触媒トランスファーライン33により再生塔30から排出され、ライザー10に供給される。また、主成分として二酸化炭素及びSO
Xを含む排出ガスは排出ガスライン34により再生塔30から排出される。
【0021】
(酸素及び空気の供給)
本実施形態の流動接触分解装置の運転方法において、触媒の再生のため、再生塔に酸素及び空気を供給する。酸素及び空気の供給の方法は特に制限なく、酸素、空気を各々単独で再生塔に供給してもよいし、また
図1に示されるように酸素と空気とを予め混合して、酸素及び空気を含む酸素富化混合ガスを、再生塔に供給してもよい。
流動接触分解装置が既設の装置として存在する場合は、
図1に示されるように酸素と空気とを予め混合して供給することが好ましい。既存の空気を供給するラインに、酸素を混合して酸素富化混合ガスを生成するための混合手段42を新設すれば足りるからである。また、酸素と空気とを予め混合して供給すると、再生塔内で局所的な温度上昇の発生を極力抑制することができるため、より安定した運転が可能となる。
【0022】
酸素の供給量は、空気の供給量100容量部に対して、好ましくは0.5容量部以上、より好ましくは1.0容量部以上、更に好ましくは1.2容量部以上、より更に好ましくは1.3容量部以上であり、上限として好ましくは22.0容量部以下、より好ましくは15.0容量部以下、更に好ましくは10.0容量部以下、より更に好ましくは5.0容量部以下である。上記の酸素の供給量は、酸素及び空気を各々単独で再生塔に供給する場合も、酸素と空気とを予め混合して酸素富化混合ガスとして供給する場合も同じである。
酸素の供給量が上記範囲内であると、エアブロワーの負荷の増加を抑制しつつ、流動接触分解装置の処理能力を効率的に向上させることができる。また、酸素富化混合ガスを用いる場合は、酸素の使用に適する特殊な材質を使用する必要性が低減するため、既存設備として例えば空気を再生塔に供給するための配管、再生塔に供給する空気を予熱するエアプレヒータ等を有する場合、これらの配管、エアプレヒータはそのまま流用することが可能となる。
【0023】
(原料油)
本実施形態の流動接触分解装置の運転方法において、流動接触分解触媒を用いた反応に供される原料油は、脱硫重油留分を含むものであることが好ましい。
脱硫重油留分は、重油直接脱硫装置(RH装置)で水素化脱硫処理して得られる低硫黄の重油留分(DSAR)である。重油直接脱硫装置(RH装置)は、通常、常圧蒸留装置、減圧蒸留装置に接続され、これらの装置から得られる残油(重油)を触媒により水素化脱硫処理する装置である。この装置では、水素化脱硫及び水素化分解が行われ、得られる反応生成物は、気液分離され、液相は蒸留等の分離操作により、ナフサ留分、軽油留分、重油留分等の所望の留分に分留され、回収される。ここで回収される重油留分が、脱硫重油留分(DSAR)である。
【0024】
RH装置で処理される重油としては特に制限なく、例えば、原油の常圧蒸留残油(AR)、減圧蒸留残油(VR)、重質サイクル油(HCO:Heavy Cycle Oil)、流動接触分解残油(CLO:Clarified Oil)、重質軽油、ビスブレーキング油、ビチューメン等の高密度の石油留分が挙げられ、これらは単独であっても、又は複数種が組み合わされていてもよい。
【0025】
RH装置における水素化脱硫及び水素化分解は、通常触媒の存在下で行われ、反応温度、反応圧力、液空間速度等の各種反応条件を調整することにより、所望の脱硫率、重油の分解率を達成することができる。水素化脱硫及び水素化分解は、特に制限されないが、通常300~450℃の反応温度で、通常10~22MPaの水素加圧下で行われ、液空間速度(LHSV)は通常0.1~10h-1とし、水素/重油比は通常200~10,000Nm3/kLである。
【0026】
流動接触分解装置の原料油には、上記脱硫重油留分以外の留分が含まれていてもよい。そのような留分としては特に制限はなく、例えば、原油の常圧蒸留、減圧蒸留により得られる重質軽油留分(HGO)、減圧軽油留分(VGO)、これらの重質軽油留分及び減圧軽油留分等を間接脱硫装置で脱硫処理して得られる脱硫減圧軽油留分(VHHGO)、間接脱硫重油留分と溶剤脱れき装置から得られる脱れき油(DAO)、減圧重油留分(VR)、コーカーガスオイル、コーカーボトム油等の各種重質油が挙げられる。
【0027】
原料油中の脱硫重油留分の含有量は、需給のバランスに応じて適宜変更し得るものであり、特に制限はなく、通常10容量%以上であればよく、また例えば20容量%以上、30容量%以上であってもよく、上限としては100容量%、すなわち全量が脱硫重油留分であってもよいし、また例えば90容量%以下、75容量%以下、50容量%以下であってもよい。原料油中の脱硫重油留分の含有量が上記範囲内であれば、需給のバランスに容易に対応することができ、また安定した流動接触分解装置の運転が可能となる。
【0028】
(流動接触分解触媒)
本実施形態の流動接触分解装置の運転方法において用いられる流動接触分解触媒としては、特に制限なく、いわゆる平衡触媒と称される触媒を用いることができ、汎用の市販品を用いることもできるし、調製したものを用いてもよい。例えば、各種ゼオライト、アルミナ、粘度鉱物、シリカ等の触媒、またはこれらを多孔性無機酸化物担体として、バナジウム、その他マンガン、マンガン、マグネシウム、カルシウム、コバルト、亜鉛、銅、チタン、アルミニウム、ニッケル、鉄、クロム、ランタン、イットリウム、スカンジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン等の金属化合物から選択される金属化合物を活性金属種として担持させた触媒等が挙げられる。
【0029】
(運転条件)
反応塔の運転条件としては、反応塔の出口温度として、好ましくは450℃以上、より好ましくは470℃以上、更に好ましくは490℃以上であり、上限として好ましくは550℃以下、より好ましくは540℃以下、更に好ましくは530℃以下である。このような反応条件とすると、分解反応の進行がより促進され、また流動接触分解触媒上のコーク(炭化水素)をより低減することができ、再生塔に持ち込まれるコーク(炭化水素)の量をより低減することができる。そのため、安定した運転が可能となり、分解生成物Eにあたる流動接触分解ガソリンの収率が向上する。
【0030】
再生塔における運転温度は好ましくは615℃以上、より好ましくは620℃以上であり、上限として好ましくは645℃以下、より好ましくは635℃以下である。再生温度が615℃以上であると、コーク(炭化水素)を十分に燃焼できるため、触媒活性が向上する。一方、再生温度が645℃以下であると、コーク(炭化水素)の燃焼によるスチームの発生をより抑制し、触媒活性の劣化(水熱熱劣化)をより抑制できるため、触媒活性が向上する。また、触媒の循環量が低下することなく、分解率が向上するため、分解生成物Eにあたる流動接触分解ガソリンの収率が向上する。
【0031】
〔流動接触分解装置〕
本実施形態の流動接触分解装置は、流動接触分解触媒を用いた反応を行う反応塔と、前記反応塔で使用された流動接触分解触媒を再生する再生塔と、前記再生塔に酸素及び空気を供給する供給手段と、を備える装置である。本実施形態の流動接触分解装置は、上記の本実施形態の流動接触分解装置の運転方法に好ましく採用される、すなわち本実施形態の流動接触分解装置の運転方法は、本実施形態の流動接触分解装置により容易に実施することが可能である。
【0032】
本実施形態の流動接触分解装置の好ましい態様としては、上記の本実施形態の流動接触分解装置の運転方法で説明した、
図1に示される流動接触分解装置が挙げられる。
上記の本実施形態の流動接触分解装置が備える反応塔、再生塔の構造は、上記の本実施形態の流動接触分解装置の運転方法で説明した通りである。
【0033】
(再生塔に酸素及び空気を供給する供給手段)
本実施形態の流動接触分解装置は、再生塔に酸素及び空気を供給する供給手段(以後、単位「供給手段」とも称する。)を備える。
例えば酸素と空気とを各々単独で再生塔に供給する場合、本実施形態の流動接触分解装置は、供給手段として、酸素を供給する酸素供給手段と、空気を供給する空気供給手段と、を備える。空気を供給する空気供給手段の具体的な構成としては、
図1に示されるエアブロアー及び再生塔への配管を有する構成が挙げられる。また、酸素を供給する酸素供給手段の具体的な構成としては、酸素を製造する酸素製造装置及び当該装置から再生塔に酸素を供給するための配管を有する構成が挙げられる。なお、例えば本実施形態の流動接触分解装置を製油所等のプラント内に設ける場合、当該プラントに酸素を供給するラインが存在し、これを利用できる場合は、酸素製造装置を別個に設ける必要はない。
【0034】
また、酸素及び空気を、酸素と空気とを混合して酸素富化混合ガスとして再生塔に供給する場合は、供給手段は、
図1に示されるような構成、すなわちエアブロアー41及び酸素富化混合ガスを生成する混合手段42を主な構成機器として有する構成をとるとよい。
図1に示される供給手段は、具体的にはエアブロアー41及び混合手段42までの配管を有する空気供給手段、混合手段42までの配管を有する酸素供給手段、混合手段42、並びに混合手段42から再生塔30までの配管を有する酸素富化混合ガス供給手段、により構成されている。
【0035】
混合手段42の具体的な構成については、酸素と空気とを混合できるような構成であれば特に制限なく、
図1に示される、エアブロアー41吐出の空気を再生塔に移送するための配管にフランジの接続により新設できるミキサーのような構成であってもよいし、単に空気の配管に酸素を供給するノズルを挿入するような構成であってもよい。
【0036】
空気供給手段は、再生塔に供給する空気の流量を測定する流量計、流量を調節する流量調節弁を有していてもよく、酸素供給手段も流量計、流量調節弁を有していてもよい。
また、酸素富化混合ガス供給手段は、酸素富化混合ガスを予熱するプレヒータを有していてもよく、再生塔への酸素富化混合ガスの流量を測定する流量計、流量調節弁を有していてもよい。
【実施例0037】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0038】
(比較例)
以下のようにして原料油の流動接触分解反応を行った。
図1に示される構成を有する流動接触分解装置を用いた。下記留分を含み、第1表に示される性状を有する原料油を、下記の流動接触分解触媒を循環させる流動接触分解装置の反応塔に供給し、原料油の通油量(7155kL/日)、流動接触分解触媒の投入量(1.6ton/日)としながら、原料油の分解反応を行った。ここで、再生塔のサイクロンにおける線速は、23.6m/sの上限値を超えないように運転した。
(原料油の性状)
脱硫重油留分 含有量:30容量%(密度:0.925g/cm
3、硫黄分:0.280質量%、残留炭素分:3.99質量%)
脱硫軽油留分 含有量:70容量%(密度:0.887g/cm
3、硫黄分:0.207質量%、残留炭素分:0.03質量%)
(流動接触分解触媒)
成分:超安定性Y型ゼオライトを25質量%、アルミナを5質量%、粘土鉱物を60質量%、シリカ5質量%、その他不純物等含め5質量%を含有する触媒を用いた。
比表面積:250m
2/g
細孔容量:0.20cm
3/g
(流動接触分解装置の運転条件)
反応塔出口温度(ROT):518℃
再生塔の運転温度:632℃
触媒循環量:51ton/min
空気供給量:144×10
3Nm
3/h
【0039】
(実施例1)
上記比較例に続き、空気供給量の144×103Nm3/hを137×103Nm3/hとし、酸素供給量を1890Nm3/hとした以外は比較例と同様にして運転した。
【0040】
(実施例2)
上記比較例に続き、空気供給量の144×103Nm3/hを123×103Nm3/hとし、酸素供給量を3460Nm3/hとした以外は比較例と同様にして運転した。
【0041】
以上実施例1及び比較例について、酸素ガスの流量、再生塔のサイクロンにおける線速(m/s)及び低硫黄の重油留分(DSAR)の処理比率(容量%)の経時変化を、
図2に示す。
図2によれば、空気のみを供給していた比較例では、低硫黄の重油留分(DSAR)処理比率30%において、再生塔サイクロンの線速は23.6m/sであったが、空気とともに酸素を供給したところ、再生塔のサイクロンにおける線速が22.0m/s程度に低下し、触媒の再生性能に余裕ができたため、低硫黄の重油留分(DSAR)の処理比率は35%まで上昇した。また、再生塔のサイクロンにおける線速は23.6m/sの基準まで余裕があるため、更なる処理比率の向上は可能であると考えられる。また、空気供給量は4.9%低減することができ、エアブロアーの負荷を低減し得ることが確認された。
【0042】
図3は、実施例2及び比較例について、酸素ガスの流量、再生塔のサイクロンにおける線速(m/s)及び低硫黄の重油留分(DSAR)の処理比率(容量%)の経時変化を示すものである。
図3によれば、空気のみを供給していた比較例1では実施例1と同様に再生塔サイクロンの線速は23.6m/sであったが、空気と共に酸素を供給したところ、再生塔のサイクロンにおける線速が20.5m/s程度に低下することが確認された。このことから、実施例2の場合も、DSARの処理比率を実施例1に比べてより多くすることができると考えられる。また、空気供給量は14.6%低減することができ、エアブロアーの負荷を低減し得ることも確認された。
【0043】
以上より、実施例及び比較例の結果から、本実施形態の流動接触分解装置の運転方法により、エアブロワーの負荷の増加を抑制しつつ、流動接触分解装置の処理能力を向上させることが可能であることが確認された。