(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166739
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】水素化触媒ならびにこれを用いたフロー式有機合成システム及び水素化有機化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/44 20060101AFI20221026BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20221026BHJP
C07C 209/36 20060101ALI20221026BHJP
C07C 211/52 20060101ALI20221026BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221026BHJP
【FI】
B01J23/44 A
B01J35/10 301A
C07C209/36
C07C211/52
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072144
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角 茂
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 利行
(72)【発明者】
【氏名】桐生 麻子
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BC65A
4G169BC69A
4G169BC72A
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4G169CB77
4G169DA05
4G169EB18Y
4G169EC11X
4G169EC12X
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4G169EC15X
4G169EC22X
4G169EE01
4H006AA02
4H006AC52
4H006BA22
4H006BA25
4H006BA32
4H006BA55
4H006BA56
4H006BA61
4H006BA82
4H006BA85
4H039CA71
(57)【要約】
【課題】芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を抑制しつつ、脱ハロゲン化抑制剤を必要とすることなく、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を向上させる。
【解決手段】芳香族ハロニトロ化合物の水素化に用いられる水素化触媒は、シリカ、チタニア、及びアルミナのうちの少なくとも1つを含む担体と、前記担体に担持され、周期表第10族元素から選択される少なくとも1種の金属と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ハロニトロ化合物の水素化に用いられる水素化触媒であって、
シリカ、チタニア、及びアルミナのうちの少なくとも1つを含む担体と、
前記担体に担持され、周期表第10族元素から選択される少なくとも1種の金属と、を含む水素化触媒。
【請求項2】
前記金属は、パラジウムである、請求項1に記載の水素化触媒。
【請求項3】
前記担体は、アルミナ及びチタニアからなる複合担体であり、
前記複合担体は、前記アルミナからなる基材に前記チタニアが被覆されたものを含む、請求項1または請求項2に記載の水素化触媒。
【請求項4】
前記チタニアを含む担体は、結晶構造としてアナタース型の割合が38%以上のチタニアを含む、請求項1または請求項2に記載の水素化触媒。
【請求項5】
前記チタニアを含む担体は、結晶構造としてルチル型を含まない、請求項4に記載の水素化触媒。
【請求項6】
前記チタニアを含む担体の平均細孔径が、前記芳香族ハロニトロ化合物の長手方向の分子長さの78倍以下である、請求項1または請求項2に記載の水素化触媒。
【請求項7】
前記担体の平均細孔径が、約50nm以下である、請求項1または請求項2に記載の水素化触媒。
【請求項8】
固定触媒としての請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の前記水素化触媒と、
ガス原料としての水素と、
液体原料としての芳香族ハロニトロ化合物と、を用いた気液固三相反応を行うフロー式有機合成システム。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の前記水素化触媒を用いて前記芳香族ハロニトロ化合物の水素化を行う、水素化有機化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ハロニトロ化合物の水素化反応に用いられる水素化触媒ならびにこれを用いたフロー式有機合成システム及び水素化有機化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ハロニトロ化合物の不飽和結合に水素を付加する水素化においては、脱ハロゲン化反応(ハロゲンの離脱)が容易に生じるため、目的生成物であるハロゲン化芳香族アミンの収率や品質が低下する。
【0003】
そこで、従来、芳香族ハロニトロ化合物の水素化における脱ハロゲン化反応を抑制するための技術として、例えば、酸性リン化合物の存在下において、ハロニトロ芳香族化合物の水素還元を行う方法が知られている(特許文献1参照)。また、有機窒素塩基(アルキルアミン類、脂環族アミン類、またはグアニジン)を用いて芳香族ハロニトロ化合物の水素添加を行う方法が知られている(特許文献2参照)。また、ハロゲン化ベンゼン類を共存させて、接触還元によってハロゲン化ニトロベンゼン類からハロゲン化アニリン類を製造する方法が知られている(特許文献3参照)。また、二酸化炭素の存在下において、芳香族ハロニトロ化合物を水素化触媒により水素化する方法が知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭51-122029号公報
【特許文献2】特開昭52-35652号公報
【特許文献3】特開平7-133255号公報
【特許文献4】特開2004-277409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1-4に記載の従来技術のように脱ハロゲン化反応を抑制するための添加剤やガスなど(以下、脱ハロゲン化抑制剤という。)を用いる場合、脱ハロゲン化抑制剤の回収工程が必要となるため製品(目的生成物)の製造工程が煩雑となり、また、それらが製品に混入するリスクもある。更に、上記特許文献4に記載の従来技術では、二酸化炭素を取り扱う製造工程における安全管理や、製品の品質管理の負荷が大きくなる。
【0006】
また、芳香族ハロニトロ化合物(例えば、ハロニトロベンゼン)の水素化においては、副生成物として、人体や水性生物等に有害であり、かつ爆発的に燃焼し得るニトロソ体(例えば、ニトロソベンゼン)が生成され得るため、その生成を抑制することが特に重要である。
【0007】
本発明は、このような従来技術の課題を鑑みて案出されたものであり、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を抑制しつつ、脱ハロゲン化抑制剤を必要とすることなく、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を向上させる水素化触媒ならびにこれを用いたフロー式有機合成システム及び水素化有機化合物の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面では、芳香族ハロニトロ化合物の水素化に用いられる水素化触媒であって、シリカ、チタニア、及びアルミナのうちの少なくとも1つを含む担体と、前記担体に担持され、周期表第10族元素から選択される少なくとも1種の金属と、を含む構成とする。
【0009】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を抑制しつつ、脱ハロゲン化抑制剤を必要とすることなく、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を向上させることができる。
【0010】
本発明の第2の側面では、前記金属がパラジウムである構成とする。
【0011】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を効果的に向上させることができる。
【0012】
本発明の第3の側面では、前記担体は、アルミナ及びチタニアからなる複合担体であり、前記複合担体は、前記アルミナからなる基材に前記チタニアが被覆されたものを含む構成とする。
【0013】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を効果的に向上させることができる。
【0014】
本発明の第4の側面では、前記チタニアを含む担体は、結晶構造としてアナタース型の割合が38%以上のチタニアを含む構成とする。
【0015】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、チタニアを含む担体を用いた水素化触媒を使用する場合に、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を効果的に向上させることができる。
【0016】
本発明の第5の側面では、前記チタニアを含む担体は、結晶構造としてルチル型を含まない構成とする。
【0017】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、チタニアを含む担体を用いた水素化触媒を使用する場合に、ニトロソ体の生成をより効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率をより効果的に向上させることができる。
【0018】
本発明の第6の側面では、前記チタニアを含む担体の平均細孔径が、前記芳香族ハロニトロ化合物の長手方向の分子長さの78倍以下である構成とする。
【0019】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を効果的に向上させることができる。
【0020】
本発明の第7の側面では、前記担体の平均細孔径が、約50nm以下である構成とする。
【0021】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を効果的に向上させることができる。
【0022】
本発明の第8の側面は、固定触媒としての第1の側面から第7の側面のいずれか1つの前記水素化触媒と、ガス原料としての水素と、液体原料としての芳香族ハロニトロ化合物と、を用いた気液固三相反応を行うフロー式有機合成システムである。
【0023】
これによると、バッチ法と比較してより精密な反応の温度制御が可能となるため、ニトロソ体の生成を抑制しつつ、脱ハロゲン化抑制剤を必要とすることなく、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を向上させることができる。また、バッチ法のような反応後の水素化触媒の回収工程が不要となり、また、バッチ法と比較してスケールアップが容易であるという利点もある。
【0024】
本発明の第9の側面は、第1の側面から第7の側面のいずれか1つの前記水素化触媒を用いて前記芳香族ハロニトロ化合物の水素化を行う、水素化有機化合物の製造方法である。
【0025】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を抑制しつつ、脱ハロゲン化抑制剤を必要とすることなく、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
このように本発明によれば、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を抑制しつつ、脱ハロゲン化抑制剤を必要とすることなく、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施形態に係る芳香族ハロニトロ化合物の水素化に用いられるフロー式有機合成システムの全体構成図
【
図2】水素化反応における4-ClNBの転化率とニトロソ体の選択率との関係を示すグラフ(触媒A、触媒C、触媒F、触媒G)
【
図3】水素化反応における4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係を示すグラフ(触媒A、触媒C、触媒F、触媒G)
【
図4】水素化反応における4-ClNBの転化率とニトロソ体の選択率との関係を示すグラフ(触媒D)
【
図5】水素化反応における4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係を示すグラフ(触媒D)
【
図6】X線回折法(XRD)に基づくX線回折パターンを示すグラフ(触媒D)
【
図7】チタニアを含む担体を用いた触媒の作用に対する担体の平均細孔径の影響を示すグラフ(触媒C、触媒D、触媒E)
【
図8】チタニアを含む担体を用いた触媒の作用に対する担体の平均細孔径の影響を示すグラフ(触媒C、触媒D、触媒E)
【
図9】シリカを含む担体を用いた触媒の作用に対する担体の平均細孔径の影響を示すグラフ(触媒B)
【
図10】シリカを含む担体を用いた触媒の作用に対する担体の平均細孔径の影響を示すグラフ(触媒B)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、実施形態に係る水素化触媒ならびにこれを用いたフロー式有機合成システム及び水素化有機化合物の製造方法について説明する。
【0029】
(水素化触媒)
本実施形態に係る水素化触媒は、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、及びアルミナ(Al2O3)のうちの少なくとも1つを含む担体に、周期表第10族元素から選択される少なくとも1種の金属(以下、触媒金属という。)が担持されたものである。
【0030】
この水素化触媒は、特に、芳香族ハロニトロ化合物の水素化に用いられることにより、従来の芳香族ハロニトロ化合物の水素化に用いられていた触媒にはない特異な効果を奏する。より詳細には、水素化触媒は、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、副生成物であるニトロソ体の生成を抑制しつつ、脱ハロゲン化抑制剤を必要とすることなく、目的生成物のハロゲン化芳香族アミン(水素化有機化合物)の収率を向上させることができる。
【0031】
触媒金属としては、周期表第10族元素に属するニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、及び白金(Pt)などを用いることができるが、特に、パラジウムが好ましい。例えば、パラジウムの前駆体は、特に限定されず、パラジウム化合物として硝酸塩、硫酸塩、塩化物、アセチルアセトン錯体等が用いられ得る。触媒金属は、担体の外表面や担体の細孔内表面に分散して担持される。
【0032】
担体に含まれるシリカ、チタニア、及びアルミナ等の基材の形状やサイズ(平均粒径等)は、特に限定されず、芳香族ハロニトロ化合物の水素化反応に用いられる反応器のスペックや反応条件等に応じて種々の形状やサイズが採用され得る。シリカ、チタニア、及びアルミナのうちの少なくとも1つからなる基材として、市販の触媒担体用の基材を用いることができる。市販の触媒担体用のシリカとしては、例えば、富士シリシア化学株式会社製CARiACT Qシリーズが挙げられる。また、市販の触媒担体用のチタニアとしては、例えば、堺化学工業株式会社製CS-300S-12シリーズおよびCS-950-12シリーズが挙げられる。また、市販の触媒担体用のアルミナとしては、例えば、水沢化学工業株式会社製 ネオビードGBシリーズが挙げられる。
【0033】
また、シリカ、チタニア、及びアルミナのうちの少なくとも1つからなる基材として、金属含水酸化物のヒドロゾル又はヒドロゲルをその沈殿pH領域と溶解pH領域との間で交互に複数回以上スイングさせるpHスイングにより合成したもの(多孔質無機酸化物)を用いることもできる。
【0034】
金属含水酸化物は、シリコン(Si)、チタン(Ti)、及びアルミニウム(Al)から選ばれた1種又は2種以上の金属の含水酸化物である。金属含水酸化物のヒドロゾル又はヒドロゲルを合成するために原料として用いる金属化合物としては、例えば、それらの塩化物、弗化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、燐酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、フッ酸塩、ケイ酸塩、ヨウ素酸塩等の塩類や、オキソ酸塩やアルコキシド類等が用いられ得る。それらの金属化合物は、1種のみを単独で用いられるほか、2種以上の混合物としても用いられ得る。
【0035】
シリコン化合物としては、例えば、コロイダルシリカ(SiO2・XH2O)、超微粒子無水シリカ(SiO2)、ケイ酸ソーダ〔Na2O・XSiO2・YH2O(X=1-4)〕、四塩化ケイ素(SiCl4)、ケイ酸エステル〔Si(OCH3)4, Si(OC2H5)4〕等が用いられ得る。
【0036】
チタン化合物としては、例えば、四塩化チタン(TiCl4)、硫酸チタン〔Ti2(SO4)3, Ti(SO4)2〕、オキシ硫酸チタン(TiOSO4)、三塩化チタン(TiCl3)、臭化チタン(TiBr4)、弗化チタン(TiF4, TiF3)、酸化チタン(TiO2)、オルトチタン酸(H4TiO4)、メタチタン酸(H2TiO3)、チタンメトキシド〔Ti(OCH3)4〕、チタンエトキシド〔Ti(OC2H5)4〕、チタンプロポキシド〔Ti(OC3H7)4〕、チタンイソプロポキシド{Ti〔OCH(CH3)2〕4}、チタンブトキシド〔Ti(OC4H9)4〕等が用いられ得る。
【0037】
アルミニウム化合物としては、例えば、金属アルミニウム(Al)、塩化アルミニウム(AlCl3, AlCl3・6H2O)、硝酸アルミニウム〔Al(NO3)3・9H2O〕、硫酸アルミニウム〔Al2(SO4)3, Al2(SO4)3・18H2O〕、ポリ塩化アルミニウム〔(Al2(OH)nCl6-n)m(1<n<5,m<10)〕、アンモニウムミョウバン〔NH4Al (SO4)2・12H2O〕、アルミン酸ソーダ(NaAlO2)、アルミン酸カリ(KAlO2)、アルミニウムイソプロポキシド[Al[OCH(CH3)2]3]、アルミニウムエトキシド〔Al(OC2H5)3〕、アルミニウム-t-ブトキシド[Al[OC(CH3)3]3]、水酸化アルミニウム〔Al(OH)3〕等が用いられ得る。
【0038】
このようなpHスイングにより合成した担体およびその製造方法の詳細については、例えば、日本特許第4119144号に開示された多孔質無機酸化物およびその製造方法を参照されたい。援用した文献の開示内容については、本明細書の一部を構成するものとし、詳細な説明を省略する。このようなpHスイングにより合成した担体によれば、pHスイングにより触媒の細孔径(平均値や分布)を所望の値に制御することが可能であり、また、焼成時にその焼成温度を調整することにより細孔径の値を微調整することが可能である。
【0039】
また、担体としては、アルミナ及びチタニアからなる複合担体が用いられてもよい。複合担体は、アルミナからなる基材にチタニアが被覆されたものを含む。複合担体の形状としては、例えば、複数の針状体または柱状体が三次元的に絡み合うことにより多数の細孔が形成された骨格構造を採用できる。このような構造により、水素化触媒の比表面積(細孔直径に対する細孔容積の比)を増大させることができ、また、細孔構造の制御が容易となる。
【0040】
このような複合担体の詳細については、例えば、日本特許第6456204号に開示された担体およびその製造方法を参照されたい。援用した文献の開示内容については、本明細書の一部を構成するものとし、詳細な説明を省略する。この複合担体によれば、比較的少ない触媒金属量で安定性と副反応の抑制に関して優れた触媒を実現できる。
【0041】
チタニアを含む担体では、結晶相(結晶構造)としてアナタース型の割合が38%以上のチタニアを含むことが好ましい。これにより、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を安定的に向上させることが可能となる。また、担体は、より好ましくは、結晶相としてアナタース型の割合が96%以上のチタニアを含み、更に好ましくは、アナタース型の割合が100%のチタニアを含むとよい。結晶相におけるアナタース型の割合は、担体の焼成温度の変更により変更することができる。特に、チタニアを含む担体では、結晶相としてアナタース型を38%以上含み、かつルチル型を含まないことが好ましい。また、担体の結晶相は、X線回折装置を用いたX線回折分析から確認できる。
【0042】
シリカおよびチタニアのうちの少なくとも1つを含む担体では、その平均細孔径が、約50nm以下であるとよい。これにより、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を安定的に向上させることが可能となる。また、チタニアを含む担体では、担体の平均細孔径は、より好ましくは、約18nm以下、更に好ましくは約7nm以下であるとよい。
【0043】
また、シリカを含む担体ではその平均細孔径が、芳香族ハロニトロ化合物の長手方向の分子長さの75倍以下であるとよい。これにより、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を安定的に向上させることが可能となる。また、チタニアを含む担体ではその平均細孔径が、芳香族ハロニトロ化合物の長手方向の分子長さの78倍以下であるとよい。チタニアを含む担体の平均細孔径は、より好ましくは、芳香族ハロニトロ化合物の長手方向の分子長さの28倍以下、更に好ましくは、11倍以下であるとよい。
【0044】
担体の平均細孔径は、細孔分布測定装置(例えば、水銀ポロシメータ)を用いて測定することができる。また、芳香族ハロニトロ化合物の長手方向の分子長さは、量子化学計算プログラムを用いて算出することができる。
【0045】
上述のような担体に触媒金属を担持させた水素化触媒の製造については、上述の各文献に記載された工程や、公知の触媒製造工程(例えば、含浸工程、乾燥工程、焼成工程、及び還元工程など)を適宜採用することができる。また、触媒(または担体)の形状については、使用目的に応じて球状、円柱状、円筒状などの所望の形状に成形することが可能である。また、触媒(または担体)のサイズ(粒径等)についても適宜設定され得る。
【0046】
(芳香族ハロニトロ化合物の水素化)
次に、本実施形態に係る水素化触媒を用いた芳香族ハロニトロ化合物の水素化反応について説明する。
【0047】
芳香族ハロニトロ化合物の水素化は、以下の一般式(1)で示される。
【0048】
【0049】
式(1)において、Xは、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素を示す。また、Rは、水素原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アシル基、アロイル基、アルコキシ基、又はアルコキシカルボニル基を示す。
【0050】
以下では、芳香族ハロニトロ化合物の水素化として、4-クロロニトロベンゼンの水素化を例に説明する。4-クロロニトロベンゼンの水素化では、式(2)の過程に示すように、原料としての4-クロロニトロベンゼンに水素が添加されることにより、中間体の4-クロロニトロソベンゼン及び4-クロロフェニルヒドロキシルアミンを経て、目的生成物としての4-クロロアニリンが生成される。最終的に4-クロロアニリンが還元されるとアニリンになる。一方、4-クロロニトロベンゼンの脱ハロゲン化によりニトロベンゼンが生成され得る。ニトロベンゼンに水素が添加されることにより、中間体としてのニトロソベンゼン及びヒドロキシルアミンを経て、アニリンが生成される。ただし、本実施形態における水素化反応では、中間体として4-クロロニトロソベンゼンのみが検出され、ニトロソベンゼンの検出は無視できる程度であった。
【0051】
【0052】
4-クロロニトロベンゼンの水素化は、バッチ(回分)式、セミバッチ(半回分)式、及びフロー(連続)式のいずれによっても実施可能であるが、本実施形態に係る水素化触媒は、特に、気液固三相反応を行うフロー式の反応システムに用いられるフロー反応用触媒として好適である。
【0053】
次に、
図1を参照して、フロー式有機合成システム(水素化反応システム)1の構成例について説明する。
【0054】
フロー式有機合成システム1では、ガス原料としての水素、液体原料としての4-クロロニトロベンゼン、及び固体触媒としての水素化触媒を用いた気液固三相反応を行う流通式固定床反応器2(以下、反応器2という。)を備える。液体原料には、反応に不活性な有機溶媒(アルコール、エーテル、その他の芳香族炭化水素類など)を使用することができる。ただし、芳香族ハロニトロ化合物が液体である場合には、反応は無溶媒で行うこともできる。
【0055】
反応器2は、水素化触媒を含む触媒層3を収容した公知の管型反応器である。反応器2は、入口ラインL1から連続的に供給されるガス原料及び液体原料を触媒層3に流通させることによって反応させる。また、反応器2には、2つの独立したブロックからなる管状の電気炉4が設けられており、必要に応じて熱供給することにより反応温度(ここでは、触媒層3の温度)を調整することが可能である。反応器2としては、例えば、原料を重力と同方向に流すダウンフロー反応器だけでなく、原料を重力と逆向きに流すアップフロー反応器を用いることもできる。
【0056】
ガス原料は、入口ラインL1に接続されたガス原料供給ラインL2を介して反応器2に連続的に供給される。また、入口ラインL1には、パージガスが流通するパージガス供給ラインL3が接続されている。フロー式有機合成システム1では、メンテナンス時等にパージガス供給ラインL3にパージガスを供給することにより、システム内の機器や配管等のパージ操作を行うことが可能である。
【0057】
液体原料は、液体原料タンク11に貯留される。液体原料は、液体原料用ポンプ12によって、液体原料供給ラインL4を介して入口ラインL1に流通し、ガス原料と共に反応器2に連続的に供給される。また、液体原料供給ラインL4には、予熱/予冷却器13が設けられている。反応器2に供給される液体原料の温度は、予熱/予冷却器13によって加熱もしくは冷却されることにより、予め設定された目標範囲内に調節される。
【0058】
また、反応器2では、反応生成物が出口ラインL6から連続的に排出される。出口ラインL6には、熱交換器21が設けられている。反応器2から排出された反応生成物の温度は、熱交換器21によって加熱または冷却されることにより、予め設定された目標範囲内に調節される。
【0059】
熱交換器21によって冷却された反応生成物は、出口ラインL6の下流側に接続されたメインドラム(気液分離器)25に供給される。メインドラム25において、反応生成物は、未反応のガス原料等が含まれるオフガス(残留ガス)と、反応の目的物(製品)が含まれる回収液とに気液分離される。
【0060】
メインドラム25において分離されたオフガス(気相成分)は、オフガス輸送ライン(残留ガス輸送ラインの第1ライン)L7を介して排出される。
【0061】
メインドラム25からの回収液は、回収液輸送ライン(目的物回収ライン)L9を介して製品回収ドラム41に供給される。製品回収ドラム41では、回収液中に残留していた気体が回収液から気液分離される。この分離された気体は、分離ガス排出ラインL10を介して外部に排出される。また、製品回収ドラム41で分離された回収液(目的生成物)は、製品回収ラインL11を介して回収される。
【0062】
フロー式有機合成システム1では、オペレータは、製品回収ラインL11から回収液を所定のタイミングで適宜サンプリングし、これを液体クロマトグラフやガスクロマトグラフによって分析することにより、目的生成物(製品)を同定及び定量することが可能である。
【実施例0063】
フロー式有機合成システム1(
図1参照)において、水素化触媒として以下に示す触媒A-Gをそれぞれ用いて、4-クロロニトロベンゼン(以下、4-ClNBという。)を水素化することにより、目的生成物として4-クロロアニリン(以下、4-ClANという。)を生成する実験を行った。なお、本実施形態では、市販の金属担持量5%のPd/C(パラジウム炭素)触媒(和光純薬工業株式会社製 5% Palladium on Activated Carbon, Degussa type E 106 R/W 5%Pd (wetted with ca.55% water))を、水素化触媒の比較対象となる触媒(以下、Pd/C触媒という。)として用いた。
【0064】
(触媒A)
市販の触媒担体用のシリカゲル(富士シリシア化学株式会社製 CARiACT Q-10)を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が2.0%になるように、0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒A(Pd担持シリカ触媒)を得た。
【0065】
(触媒B)
市販の触媒担体用のシリカゲル(富士シリシア化学株式会社製 CARiACT Q-50)を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が2.0%になるように、0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒B(Pd担持シリカ触媒)を得た。
【0066】
(触媒C)
pHスイングで調製したチタニア担体を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が2.0%になるように、0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒C(Pd担持チタニア触媒)を得た。なお、pHスイングで調製したチタニア担体は、特許第5599212号公報([0123]を参照)に開示されたチタニア担体の製造方法と同様の公知の方法によって製造した。
【0067】
(触媒D)
市販の触媒担体用のチタニア(堺化学工業株式会社製 CS-300S-12)を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が2.0%になるように、0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒D(Pd担持チタニア触媒)を得た。なお、触媒Dには、焼成温度500℃のみならず、他の温度(600℃、700℃、800℃、900℃、及び950℃)で焼成した担体をそれぞれ用いた触媒が含まれる。
【0068】
(触媒E)
市販の触媒担体用のチタニア(堺化学工業株式会社製 CS-950-12)を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が2.0%になるように、0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒E(Pd担持チタニア触媒)を得た。
【0069】
(触媒F)
pHスイングで調製したアルミナ担体を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が2.0%になるように、0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒F(Pd担持アルミナ触媒)を得た。なお、pHスイングで調製したアルミナ担体は、特許第5599212号公報(AS-2を参照)に開示されたアルミナ担体の製造方法と同様の公知方法によって製造した。
【0070】
(触媒G)
pHスイングで調製したチタニアコーティングアルミナ担体(HBT)を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が2.0%になるように、0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒G(Pd担持チタニアコーティングアルミナ触媒)を得た。なお、pHスイングで調製したチタニアコーティングアルミナ担体(HBT)は、特許第5599212号公報(AT-2を参照)に開示されたチタニアコーティングアルミナ担体の製造方法と同様の公知方法によって製造した。
【0071】
フロー式有機合成システム1を使用した4-クロロニトロベンゼンの水素化反応では、水素化触媒1.0gを反応器2におけるステンレス製の反応管に充填した後、触媒層3の中心が、2つの独立したブロックからなる管状の電気炉4の2段目(上方)に位置するように設置した。そこで、触媒層3の中心温度が40℃になるように加熱した。続いて、液体原料の4-ClNB/TOL-IPA(トルエン、イソプロピルアルコール溶媒)を、液体原料用ポンプ12を用いて0.2ml/min.の流量で、ガス原料の水素を20cm3/min.の流量で各々反応管に供給した。液体原料の水素化反応(還元反応)の開始とともにその発熱によって水素化触媒の温度が上昇するため、反応中は電気炉4の各ブロック温度を調節することにより、反応中の触媒層3の中心温度が40℃になるようにコントロールした。反応後の生成物は冷却回収し、ガスクロマトグラフによって分析を行なった。また冷却後の流出ガスはマスフローメーターによって流量を測定した。分析及び測定の結果から、4-ClNBの転化率、4-ClAN(目的生成物)の選択率、及び4-クロロニトロソベンゼン(ニトロソ体)の選択率を算出した。このような4-クロロニトロベンゼンの水素化反応に関する実験を、各水素化触媒(触媒A-G)およびPd/C触媒について行った。
【0072】
図2は、触媒A、触媒C、触媒F、触媒G、及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率とニトロソ体(ここでは、4-クロロニトロソベンゼン)の選択率との関係を示すグラフである。
図3は、
図2と同じ各触媒について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係を示すグラフである。
【0073】
図2では、触媒A、触媒C、触媒F、及び触媒Gによるニトロソ体の選択率は、4-ClNBの転化率が同様の値である場合には、いずれもPd/C触媒によるニトロソ体の選択率よりも低いことを確認できる。特に、チタニアを含む触媒Cを用いた場合には、ニトロソ体はほとんど生成しない。
【0074】
図3では、触媒Cによる4-ClNBの選択率は、4-ClNBの転化率が同様の値である場合には、Pd/C触媒による4-ClNBの選択率よりも高いことを確認できる。また、触媒Aによる4-ClANの選択率は、4-ClNBの一部の転化率(約80%)においてPd/C触媒による4-ClANの選択率よりもやや低い値が示されているものの、概ねPd/C触媒による4-ClANの選択率と同等かそれ以上であることを確認できる。
【0075】
図4及び
図5は、チタニアを含む担体を用いた触媒の作用(反応特性)に対する担体焼成温度(500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、950℃)の影響を示すグラフである。
図4には、各担体焼成温度の触媒Dについて、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率とニトロソ体(ここでは、4-クロロニトロソベンゼン)の選択率との関係が示されている。
図5には、
図4と同じ各担体焼成温度の触媒Dについて、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係が示されている。
【0076】
図4では、触媒Dにおける担体焼成温度が500℃、600℃、及び700℃ではニトロソ体の生成が殆ど見られない(ニトロソ体の選択率は略ゼロである)。一方、担体をより高温で焼成したもの(800℃以上)については、ニトロソ体の生成が確認される。特に、担体焼成温度が900℃及び950℃(900℃以上)の場合には、ニトロソ体の生成がより顕著となり、触媒Dによるニトロソ体の選択率は、Pd/C触媒によるニトロソ体の選択率と同等かそれ以上となる。
【0077】
図5では、いずれの担体焼成温度についても、触媒Dによる4-ClANの選択率は、Pd/C触媒による4-ClANの選択率よりも高い傾向にあることを確認できる。
【0078】
図6は、
図4及び
図5と同じ各担体焼成温度における触媒Dの担体について、X線回折法(XRD)に基づくX線回折パターンを示すグラフである。X線回折装置としては、株式会社リガク製の全自動多目的水平X線解析装置(SmartLab X-RAY DIFFRACTOMETER)を使用した。また、X線回折法における定量分析は、RIR(Reference Intensity Ratio:参照強度比)法により行った。
【0079】
図6に示すX線回折パターンでは、チタニアの存在を示すアナタース(anatase)型結晶相の{101}面に相当するピーク(X線源にCuKα線を用いた場合に回折角2θ=25.3°付近に出現)が検出された。一方、ニトロソ体が生成された担体焼成温度では(800℃、900℃、950℃)、アナタース型のピークに加え、ルチル(rutile)型結晶相の{110}面に相当するピーク(X線源にCuKα線を用いた場合に回折角2θ=27.4°付近に出現)が検出された。ニトロソ体の生成が顕著であった担体焼成温度900℃、950℃では、アナタース型のピークが小さくなる一方、ルチル型に起因するピーク強度が著しく高い。これにより、ルチル型結晶相の存在割合とニトロソ体の生成挙動には、相関関係があることが判る。換言すれば、チタニアを含む触媒では、結晶相としてアナタース型結晶相の割合を増大させることにより、ニトロソ体の生成を抑制することが可能である。
【0080】
表1には、触媒Dの各担体焼成温度(500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、950℃)に関するX線回折のデータから、RIR法に基づき算出した各結晶相(アナタース型、ルチル型)の割合が示されている。
【0081】
【0082】
触媒Dに関し、上述の
図4及び
図5にそれぞれ示した4-ClANの選択率及びニトロソ体の選択率と、表1に示したアナタース型結晶相の割合とを考慮すれば、チタニアを含む担体のアナタース型結晶相の割合が38%以上の場合には、Pd/C触媒と比べて、ニトロソ体の生成が抑制されつつ、4-ClAN(目的生成物)の収率が向上していることがわかる。チタニアを含む担体の焼成温度を900℃以下とすることにより、アナタース型の割合を38%以上とすることができる。
【0083】
図7及び
図8は、チタニアを含む担体を用いた触媒の作用に対する担体の平均細孔径の影響を示すグラフである。
図7では、触媒C、触媒D、触媒E、及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率とニトロソ体(ここでは、4-クロロニトロソベンゼン)の選択率との関係が示されている。
図8では、
図7と同じ各触媒について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係が示されている。
【0084】
表2には、触媒C、触媒D、及び触媒Eで使用される担体の平均細孔径がそれぞれ示されている。各平均細孔径は、水銀圧入法に基づき測定した。また、細孔分布測定装置として、株式会社島津製作所製のマイクロメリティックス 自動水銀ポロシメータ オートポアIV9500を用いた。
【0085】
【0086】
図7では、触媒C、触媒D、及び触媒Eによるニトロソ体の選択率は、4-ClNBの転化率が同様の値である場合には、いずれもPd/C触媒によるニトロソ体の選択率よりも低いことを確認できる。特に、平均細孔径のより小さい触媒C及び触媒Dを用いた場合には、ニトロソ体はほとんど生成しない。
【0087】
図8では、触媒C、触媒D、及び触媒Eによる4-ClANの選択率は、4-ClNBの転化率が同様の値である場合には、Pd/C触媒による4-ClANの選択率よりも高い傾向にあることを確認できる。
【0088】
チタニアを含む担体を用いた触媒C、触媒D、及び触媒Eに関し、上述の
図7及び
図8にそれぞれ示した4-ClANの選択率及びニトロソ体の選択率と、表2に示した担体の平均細孔径とを考慮すれば、チタニアを含む担体の平均細孔径が約50nm以下である場合には、Pd/C触媒と比べて、ニトロソ体の生成が抑制されつつ、4-ClAN(目的生成物)の収率が向上していることがわかる。また、触媒C及び触媒Dのように平均細孔径を約18nm以下とすることが、ニトロソ体の生成の抑制および4-ClAN(目的生成物)の収率向上の観点からより好ましいことがわかる。また、触媒Cのように平均細孔径を約7nm以下とすることが、ニトロソ体の生成の抑制および4-ClAN(目的生成物)の収率向上の観点から更に好ましいことがわかる。また、表2に示すように、チタニアを含む担体ではその平均細孔径が、4-ClNBの長手方向の分子長さ(基質長さ)に対して78倍以下であるとよい。これにより、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物の4-ClANの収率を安定的に向上させることが可能となる。また、チタニアを含む担体の平均細孔径は、より好ましくは、基質長さに対して28倍以下、更に好ましくは、11倍以下であるとよい。
【0089】
図9及び
図10は、シリカを含む担体を用いた触媒の作用に対する担体の平均細孔径の影響を示すグラフである。
図9では、触媒B及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率とニトロソ体(ここでは、4-クロロニトロソベンゼン)の選択率との関係が示されている。
図10では、
図9と同じ各触媒について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係が示されている。
【0090】
上述の表2と同様に水銀圧入法に基づき測定された触媒Bで担体の平均細孔径は、48.8nmである。また、触媒Bで担体の平均細孔径は、4-ClNBの長手方向の分子長さ(基質長さ)に対して75倍(平均細孔径/基質長さ=75)である。4-ClNBの長手方向の分子長さは、汎用の量子化学計算プログラムのGaussian(ガウシアン)で算出した。したがって、シリカを含む担体ではその平均細孔径が、4-ClNBの長手方向の分子長さ(基質長さ)に対して75倍以下であるとよい。
【0091】
図9では、触媒Bによるニトロソ体の選択率は、4-ClNBの転化率が同様の値である場合には、いずれもPd/C触媒によるニトロソ体の選択率よりも低い傾向にあることを確認できる。
【0092】
図10では、触媒Bによる4-ClANの選択率は、4-ClNBの転化率が同様の値である場合には、Pd/C触媒による4-ClANの選択率よりも高い傾向にあることを確認できる。
【0093】
シリカを含む担体を用いた触媒Bに関し、上述の
図9及び
図10にそれぞれ示した4-ClANの選択率及びニトロソ体の選択率と、その担体の平均細孔径とを考慮すれば、シリカを含む担体の平均細孔径が約50nm以下においては、上述のチタンを含む担体を用いた触媒と同様に、Pd/C触媒と比べて、ニトロソ体の生成を抑制しつつ、4-ClAN(目的生成物)の収率を向上させる可能性がある。また、4-ClNBの長手方向の分子長さ(基質長さ)に対する触媒Bで担体の平均細孔径の比が75以下であれば、Pd/C触媒と比べて、ニトロソ体の生成を抑制しつつ、4-ClAN(目的生成物)の収率を向上させる可能性がある。
【0094】
以上、本発明を特定の実施形態に基づいて説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。上述の実施形態に示した水素化触媒及びこれを用いた水素化有機化合物の製造方法の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも当業者であれば本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。