(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166780
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】情報出力装置、製造システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
G01N25/18 H
G01N25/18 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072208
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128886
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】長野 方星
(72)【発明者】
【氏名】宮地 耕平
(72)【発明者】
【氏名】野中 眞一
(72)【発明者】
【氏名】柴本 直紀
(72)【発明者】
【氏名】村中 泰之
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA03
2G040AB08
2G040BA02
2G040BA25
2G040CA02
2G040DA06
2G040DA13
2G040EA06
2G040EA11
2G040EC01
2G040EC06
2G040FA06
2G040GA07
2G040HA08
2G040ZA08
(57)【要約】
【課題】対象物の状態に関わる状態情報を効率的に取得する。
【解決手段】情報出力装置は、対象物を予め定められた移動方向に移動させる移動部と、移動中の対象物の表面の温度を変化させる温度変化部と、移動中であり且つ温度が変化した対象物の裏面の温度を測定する測定部と、測定部から取得する温度に基づいて対象物の状態に関する状態情報を出力する出力部とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を予め定められた移動方向に移動させる移動部と、
移動中の前記対象物の表面の温度を変化させる温度変化部と、
移動中であり且つ温度が変化した前記対象物の裏面の温度を測定する測定部と、
前記測定部から取得する温度に基づいて前記対象物の状態に関する状態情報を出力する出力部と、
を備える情報出力装置。
【請求項2】
前記温度変化部は、前記対象物の移動経路上に、当該対象物の表面の温度を変化させる変化領域を形成し、
前記測定部は、前記変化領域の上流側の端部よりも下流に設けられる測定位置での前記対象物の裏面の温度を測定する、請求項1に記載の情報出力装置。
【請求項3】
前記測定部は、前記測定位置よりも上流側に設けられる基準位置での前記対象物の裏面の温度を測定し、
前記出力部は、前記対象物の測定箇所が前記基準位置に位置するときの温度と、当該測定箇所が前記測定位置に位置するときの温度とを用いて前記状態情報を出力する、請求項2に記載の情報出力装置。
【請求項4】
前記温度変化部は、前記対象物の前記移動方向と交差する交差方向の全域にわたって前記変化領域を形成し、
前記測定部は、前記交差方向の全域にわたって前記対象物の裏面の温度を測定する、請求項2に記載の情報出力装置。
【請求項5】
前記温度変化部は、前記対象物の表面に向けて光を照射することで前記変化領域を形成する、請求項2に記載の情報出力装置。
【請求項6】
前記温度変化部から前記対象物に照射される光のムラを抑制する抑制部を備える、請求項5に記載の情報出力装置。
【請求項7】
前記抑制部は、前記温度変化部と前記対象物との間に、当該温度変化部が照射する光を拡散させる拡散部を有する、請求項6に記載の情報出力装置。
【請求項8】
前記抑制部は、前記温度変化部と前記対象物との距離を変更する変更部を有する、請求項6に記載の情報出力装置。
【請求項9】
前記対象物の前記表面側であって前記温度変化部に対向する領域を囲う囲い部を備える、請求項1に記載の情報出力装置。
【請求項10】
前記変化領域の上流側は、前記移動方向と交差する方向に沿った直線状に形成されている、請求項2に記載の情報出力装置。
【請求項11】
対象物を移動させながら加工する加工部と、
移動中の前記対象物の表面の温度を変化させる温度変化部と、
移動中であり且つ温度が変化した前記対象物の裏面の温度を測定する測定部と、
前記測定部から取得する温度に基づいて前記対象物の状態に関する状態情報を出力する出力部と、
を備える製造システム。
【請求項12】
対象物の表面全体の温度を変化させる温度変化部と、
前記対象物の裏面の温度を測定する測定部と、
前記測定部から取得する温度に基づいて前記対象物の状態に関する状態情報を出力する出力部と、
を備える情報出力装置。
【請求項13】
対象物を予め定められた移動方向に移動させる移動部と、
前記対象物の移動経路上に、当該対象物の表面を加熱する加熱領域を形成する加熱部と、
前記加熱領域における上流側であって前記対象物の裏面の温度を測定する第1測定部と、
前記加熱領域における下流側であって前記対象物の裏面の温度を測定する第2測定部と、
前記対象物の測定箇所の前記第1測定部により測定される温度を基準とした当該測定箇所の前記第2測定部により測定される温度の差分に応じて特定される当該対象物の内部状態に関する状態情報を出力する出力部と、
を備える情報出力装置。
【請求項14】
移動中に表面の温度が変化させられる対象物の評価に用いられるコンピュータに、
移動中であり且つ温度が変化した前記対象物の裏面の温度を測定する機能と、
取得する温度に基づいて前記対象物の状態に関する状態情報を出力する機能と、
を実行させるプログラム。
【請求項15】
コンピュータに、
全域にわたって表面の温度が変化させられた対象物の裏面の温度を測定する機能と、
取得した温度に基づいて前記対象物の状態に関する状態情報を出力する機能と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報出力装置、製造システムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、繊維を含む複合材料に対して光を照射し複合材料を加熱する加熱部と、複合材料において加熱部によって加熱された領域の温度分布を検知する検知部と、検知部によって検知された温度分布に基づいて、複合材料における繊維の含有率に関する情報を取得する取得部とを備える含有率情報取得装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば複合材料などの対象物を製造する製造工程において、品質管理のため対象物の状態に関わる状態情報を効率的に取得できると好ましい。
本明細書に開示される技術は、上記課題を解決するためになされたものであり、対象物の状態に関わる状態情報を効率的に取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、対象物を予め定められた移動方向に移動させる移動部と、移動中の前記対象物の表面の温度を変化させる温度変化部と、移動中であり且つ温度が変化した前記対象物の裏面の温度を測定する測定部と、前記測定部から取得する温度に基づいて前記対象物の状態に関する状態情報を出力する出力部と、を備える情報出力装置である。
ここで、前記温度変化部は、前記対象物の移動経路上に、当該対象物の表面の温度を変化させる変化領域を形成し、前記測定部は、前記変化領域の上流側の端部よりも下流に設けられる測定位置での前記対象物の裏面の温度を測定するとよい。
また、前記測定部は、前記測定位置よりも上流側に設けられる基準位置での前記対象物の裏面の温度を測定し、前記出力部は、前記対象物の測定箇所が前記基準位置に位置するときの温度と、当該測定箇所が前記測定位置に位置するときの温度とを用いて前記状態情報を出力するとよい。
また、前記温度変化部は、前記対象物の前記移動方向と交差する交差方向の全域にわたって前記変化領域を形成し、前記測定部は、前記交差方向の全域にわたって前記対象物の裏面の温度を測定するとよい。
また、前記温度変化部は、前記対象物の表面に向けて光を照射することで前記変化領域を形成するとよい。
また、前記温度変化部から前記対象物に照射される光のムラを抑制する抑制部を備えるとよい。
また、前記抑制部は、前記温度変化部と前記対象物との間に、当該温度変化部が照射する光を拡散させる拡散部を有するとよい。
また、前記抑制部は、前記温度変化部と前記対象物との距離を変更する変更部を有するとよい。
また、前記対象物の前記表面側であって前記温度変化部に対向する領域を囲う囲い部を備えるとよい。
また、前記変化領域の上流側は、前記移動方向と交差する方向に沿った直線状に形成されているとよい。
【0006】
他の観点から捉えると、本明細書に開示される技術は、対象物を移動させながら加工する加工部と、移動中の前記対象物の表面の温度を変化させる温度変化部と、移動中であり且つ温度が変化した前記対象物の裏面の温度を測定する測定部と、前記測定部から取得する温度に基づいて前記対象物の状態に関する状態情報を出力する出力部と、を備える製造システムである。
【0007】
他の観点から捉えると、本明細書に開示される技術は、対象物の表面全体の温度を変化させる温度変化部と、前記対象物の裏面の温度を測定する測定部と、前記測定部から取得する温度に基づいて前記対象物の状態に関する状態情報を出力する出力部と、を備える情報出力装置である。
【0008】
他の観点から捉えると、本明細書に開示される技術は、対象物を予め定められた移動方向に移動させる移動部と、前記対象物の移動経路上に、当該対象物の表面を加熱する加熱領域を形成する加熱部と、前記加熱領域における上流側であって前記対象物の裏面の温度を測定する第1測定部と、前記加熱領域における下流側であって前記対象物の裏面の温度を測定する第2測定部と、前記対象物の測定箇所の前記第1測定部により測定される温度を基準とした当該測定箇所の前記第2測定部により測定される温度の差分に応じて特定される当該対象物の内部状態に関する状態情報を出力する出力部と、を備える情報出力装置である。
【0009】
他の観点から捉えると、本明細書に開示される技術は、移動中に表面の温度が変化させられる対象物の評価に用いられるコンピュータに、移動中であり且つ温度が変化した前記対象物の裏面の温度を測定する機能と、取得する温度に基づいて前記対象物の状態に関する状態情報を出力する機能と、を実行させるプログラムである。
【0010】
他の観点から捉えると、本明細書に開示される技術は、コンピュータに、全域にわたって表面の温度が変化させられた対象物の裏面の温度を測定する機能と、取得した温度に基づいて前記対象物の状態に関する状態情報を出力する機能と、を実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本明細書に開示される技術によれば、対象物の状態に関わる状態情報を効率的に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の製造システムの概略説明図である。
【
図2】本実施形態の繊維状態評価装置の全体斜視図である。
【
図3】本実施形態のコンピュータの機能構成図である。
【
図4】対象物の評価について説明するための図である。
【
図6】本実施形態の繊維状態評価装置による内部状態の評価の説明図である。
【
図7】繊維状態評価装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図10】コンピュータハードウェア構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本実施形態について詳細に説明する。
<製造システム1の構成>
図1は、本実施形態の製造システム1の概略説明図である。
【0014】
本実施形態の製造システム1は、製造の対象物100を加工する加工装置3と、加工装置3が加工した対象物100を評価する繊維状態評価装置5と、加工装置3が加工した対象物100に後処理を施す後処理装置7と、製造システム1を構成する各装置を統括的に制御する制御装置9と、を備える。
【0015】
ここで、本実施形態の製造システム1によって製造する対象物100は、例えば合成樹脂に繊維を複合して強度を向上させた複合材料を例示することができる。
本実施形態の製造システム1では、強化材に炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックである炭素繊維強化樹脂(Carbon Fiber Reinforced Plastics(CFRP)、炭素繊維強化プラスチック)を製造する。炭素繊維強化樹脂の母材には、例えば不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。また、熱硬化性樹脂は、単数の種類で構成してもよく、複数の種類を混合して用いてもよい。さらに、複合材料の製造方法によっては、熱可塑性樹脂を用いてもよい。
さらに、製造システム1による複合材料の製造方法についても特に限定されない。本実施形態の製造システム1では、例えばSMC(Sheet Molding Compound)成形法を用いている。
【0016】
〔加工装置3〕
加工装置3は、薄い樹脂である表側フィルム100aを供給する表側フィルム供給部31と、表側フィルム100aに樹脂を供給する表側樹脂供給部32と、薄い樹脂である裏側フィルム100bを供給する裏側フィルム供給部33と、裏側フィルム100bに樹脂を供給する裏側樹脂供給部34と、を有する。また、加工装置3は、炭素繊維を供給する炭素繊維供給部35と、炭素繊維を刻むチョッパ36と、炭素繊維に樹脂を含浸させ対象物100を作成しながら搬送する含浸装置37と、を有する。
【0017】
表側フィルム供給部31は、薄い樹脂であるフィルムが巻かれたロールを有する。そして、表側フィルム供給部31は、含浸装置37に対して表側フィルム100aを繰り出す。表側フィルム供給部31から供給される表側フィルム100aは、対象物100の表(おもて)面101を形成する。
表側樹脂供給部32は、表側フィルム100aに液状の樹脂を塗布する。表側樹脂供給部32は、表側フィルム100aにおいて裏側フィルム100bと対向する側に樹脂を塗布する。
【0018】
裏側フィルム供給部33は、薄い樹脂であるフィルムが巻かれたロールを有する。そして、裏側フィルム供給部33は、含浸装置37に対して裏側フィルム100bを繰り出す。裏側フィルム供給部33から供給される裏側フィルム100bは、対象物100の裏面103を形成する。
裏側樹脂供給部34は、裏側フィルム100bに液状の樹脂を塗布する。裏側樹脂供給部34は、裏側フィルム100bにおいて表側フィルム100aと対向する側に樹脂を塗布する。
【0019】
炭素繊維供給部35は、ロープ状の炭素繊維が巻き付けられたロールを有する。
チョッパ36は、炭素繊維供給部35から繰り出された炭素繊維を切断する。チョッパ36によって切断された炭素繊維は、裏側フィルム100bに塗布された樹脂上に散布される。
【0020】
含浸装置37は、一対の無端状の回転ベルトを有し、回転ベルトが互いに対向して設けられる。そして、含浸装置37には、樹脂が塗布された表側フィルム100aと、樹脂が塗布されるとともに炭素繊維が散布された裏側フィルム100bとが導入される。含浸装置37は、炭素繊維および樹脂を間に挟んだ状態の表側フィルム100aと裏側フィルム100bとに圧力を加えながら張り合わせる。そして、含浸装置37は、シート状の対象物100を作成する。
なお、本実施形態の含浸装置37は、例えば金属メッシュで構成された回転ベルトを用いるタイプを例示できる。含浸装置37は、炭素繊維に対する樹脂の含浸を促進できれば、例えば表面に溝が形成された溝ロールを用いるものなどの各種のタイプを用いることができる。
なお、本実施形態の説明において、対象物100のうち、表側フィルム100aが設けられる側を表面101と呼び、裏側フィルム100bが設けられる側を裏面103と呼ぶ。
【0021】
また、含浸装置37が表側フィルム100aおよび裏側フィルム100bを搬送する方向は、シート状の対象物100の移動方向Dとなる。本実施形態において、含浸装置37は、一定の速度で表側フィルム100aおよび裏側フィルム100bを搬送する。したがって、対象物100は、移動方向Dにおいて一定の速度で移動する。
さらに、対象物100の移動方向Dにおいて、含浸装置37が設けられる側を上流側と呼び、後処理装置7が設けられる側を下流側と呼ぶ。また、対象物100の移動方向Dと交差する交差方向を幅方向W(後述する
図2参照)と呼ぶ。
【0022】
〔繊維状態評価装置5〕
図2は、本実施形態の繊維状態評価装置5の全体斜視図である。
なお、本実施形態の説明において、
図2における対象物100の移動方向Dに沿う方向をx方向ということがある。
図2における対象物100の幅方向Wに沿う方向をy方向ということがある。また、
図2における図中上下方向をz方向ということがある。そして、繊維状態評価装置5が実際に設置される場合の水平面がxy平面に対応し、鉛直方向がz方向に対応する。
【0023】
図2に示すように、繊維状態評価装置5は、対象物100に対向して設けられて対象物100を加熱する加熱部40と、対象物100に対向して設けられて対象物100の温度を測定する赤外線サーモグラフィ(ロックインサーモグラフィ)50と、赤外線サーモグラフィ50からの信号を受けるコンピュータ60と、を備える。
繊維状態評価装置5は、加工装置3の下流側であって、後処理装置7の上流側に設けられる(
図1参照)。そして、繊維状態評価装置5は、対象物100の内部状態を評価する。
【0024】
本実施形態の繊維状態評価装置5において、加熱部40は、移動中の対象物100の表面101の温度を変化させる。赤外線サーモグラフィ50は、移動中であり且つ温度が変化した対象物100の裏面103の温度を測定する。そして、コンピュータ60は、赤外線サーモグラフィ50から取得する温度に基づいて対象物100の内部状態に関する状態情報を出力する。
以下、繊維状態評価装置5を構成する加熱部40、赤外線サーモグラフィ50およびコンピュータ60について詳細に説明する。
【0025】
本実施形態の加熱部40には、赤外線を放射するハロゲンランプや面発光レーザなどを用いることができる。そして、加熱部40は、対象物100の表面101を加熱し、対象物100の温度を変化させる加熱領域400を形成する。本実施形態において、対象物100は、移動方向Dに移動している。そのため、加熱部40は、対象物100の移動経路上に加熱領域400を形成する。
本実施形態の加熱領域400は、対象物100の移動方向Dにおける一定の範囲に形成される。さらに、本実施形態の加熱領域400は、対象物100の幅方向Wの全域にわたって形成される。このように、本実施形態の加熱部40は、対象物100を面的に加熱する面加熱を行う。
【0026】
また、加熱部40は、z方向における位置を変更可能な変更部45を有している。すなわち、加熱部40は、変更部45によって、対象物100に対して近づく方向および遠ざかる方向に移動可能になっている。
例えば、加熱部40としてハロゲンランプを用いた場合、レンズなどの光学部材の特性によって加熱領域400における光の強度にばらつきが生じることがある。これに対して、変更部45は、例えば加熱部40を対象物100から遠ざけることにより、加熱領域400における光の強度を一様にすることを可能にする。このように、変更部45は、対象物100との距離を変更することで、加熱領域400における光のムラを抑制する。
【0027】
赤外線サーモグラフィ50は、裏面103側から対象物100の温度を測定する。赤外線サーモグラフィ50は、対象物100に対して、対象物100の温度を取得するための測定領域500を形成する。本実施形態の測定領域500は、表面101側に形成される加熱領域400に対応する位置にて、対象物100の裏面103側に形成される。そして、赤外線サーモグラフィ50は、対象物100の裏面103から放射される赤外線を面的に取得する。
【0028】
なお、赤外線サーモグラフィ50は、加熱部40と同様に、z方向における位置を変更可能に構成されていてもよい。すなわち、赤外線サーモグラフィ50は、対象物100に対して近づく方向および遠ざかる方向に移動可能に構成してもよい。この場合、赤外線サーモグラフィ50は、対象物100に対する測定領域500のサイズを任意に調整することが可能になる。
【0029】
コンピュータ60は、赤外線サーモグラフィ50とあわせて、所定間隔のフレームレートに基づいて、赤外線画像の取り込みと演算とを連続的に実行し、時間の経過とともに変化する温度変化量から平均化した画像を作成する(ロックイン方式)。さらに説明をすると、コンピュータ60は、赤外線サーモグラフィ50で得られたデータを演算処理し、対象物100の繊維状態の評価を行う。
【0030】
図3は、本実施形態のコンピュータ60の機能構成図である。
次に、
図3を参照して、本実施形態が適用されるコンピュータ60の機能構成を説明する。
【0031】
図3に示すように、本実施形態が適用されるコンピュータ60は、赤外線サーモグラフィ50から温度情報を取得する温度取得部61と、取得した温度情報を用いて対象物100の温度上昇を算出する温度上昇算出部62と、を備える。また、コンピュータ60は、算出された温度上昇に基づいて対象物100の内部状態を評価する評価部63と、算出された評価結果を出力する評価結果出力部64と、を備える。
【0032】
本実施形態のコンピュータ60は、赤外線サーモグラフィ50により検出された対象物100の温度情報に基づいて、対象物100の評価、さらに説明をすると対象物100における繊維状態の評価を行う。ここで、繊維状態とは、対象物100に含まれる繊維の状態を例示できる。付言すると、コンピュータ60は、対象物100の評価(繊維状態の評価)として含浸度(後述)を特定する。
【0033】
<評価>
次に、対象物100の評価について説明をする。
以下ではまず対象物100の構成について説明をした後、対象物100の評価について詳細に説明をする。
まず、対象物100の構成について説明をする。対象物100は、上記のように炭素繊維強化樹脂により構成される。この対象物100は、炭素繊維(強化材)にエポキシ樹脂等の樹脂(母材)を含侵させて構成される。さらに説明をすると、本実施形態の対象物100は、従来のCFRPのように繊維長が相対的に長い連続繊維ではなく、相対的に繊維長の短い不連続繊維を用いた不連続繊維CFRPにより構成されている。
【0034】
この不連続繊維CFRPは、短時間で複雑な形状を成形可能であるため、量産化に適している。一方で、不連続繊維CFRPの製造工程においては、例えば加圧(プレス)前の中間基材の段階で、炭素繊維に樹脂が充分に含浸していない未含浸部が現れることがある。ここで、製造工程におけるプレス成形時には、繊維は樹脂とともに流動する。そのため未含浸部があると、繊維の流動が十分でない箇所が現れ、結果として成形品に空隙を形成したり、プレス機器に負荷を与えたりすることとなる。
【0035】
そこで、本実施の形態の対象物100の評価においては、対象物100を面加熱した際の温度上昇から未含浸部を特定する。
【0036】
ここで、含浸度は、対象物100に含まれる一の材質(母材、樹脂)の含浸の程度を示す。以下の説明においては、含浸度を良/不良で表す場合がある。例えば、含浸度が良好であることは、対象物100における対象とする材質(樹脂)が相対的に多く含まれることを示す。さらに説明をすると、含浸度が良好であることは、対象物100における樹脂の体積分率が高く、空隙が小さいことを示す。一方、含浸度が不良であるとは、対象物100における対象とする材質が相対的に少なく含まれることを示す。さらに説明をすると、含浸度が不良であることは、対象物100における樹脂の体積分率が低く、空隙が大きいことを示す。なお、含浸度は、定量的に数値で算出されてもよい。また、含浸度は、対象物100の密度に関する情報として捉えることもできる。
【0037】
また、炭素繊維分布量は、対象物100に含まれる一の材質(強化材、炭素繊維)の量を示す。以下の説明においては、炭素繊維分布量を多い/少ないで表す。すなわち、炭素繊維分布量が多いことは、対象物100における対象とする材質(炭素繊維)が相対的に多く含まれる(密に分布する)ことを示す。さらに説明をすると、炭素繊維分布量が多いことは、対象物100における炭素繊維の体積分率が高いことを示す。また、炭素繊維分布量が少ないことは、対象物100における対象とする材質が相対的に少なく含まれる(疎らに分布する)ことを示す。さらに説明をすると、炭素繊維分布量が少ないことは、対象物100における炭素繊維の体積分率が低いことを示す。なお、炭素繊維分布量は、定量的に数値で算出されてもよい。
【0038】
図4は、対象物100の評価について説明するための図である。
以下では、含浸度が良好な対象物100である含浸CFRP110と、含浸度が不良な対象物100である未含浸CFRP130とについて説明する。そして、
図4(A)は、含浸CFRP110の断面の概念図であり、
図4(B)は未含浸CFRP130の断面の概念図である。
【0039】
図4(A)に示すように、含浸CFRP110は、炭素繊維111の周囲を樹脂113が満たした材料構造となる。一方、
図4(B)に示すように、未含浸CFRP130は、炭素繊維111の周囲の樹脂113が少なく、空隙115が存在する材料構造となる。
【0040】
なお、炭素繊維111は、含浸CFRP110および未含浸CFRP130の各々の内でランダムに分布している。そのため、炭素繊維111の重なりや厚み方向での分布量は、含浸CFRP110および未含浸CFRP130における位置によって変化する。付言すると、空隙115の体積分率は、1から炭素繊維の体積分率および樹脂の体積分率を減算した数値として表すことができる。また、空隙115は、空気層として捉えることができる。
【0041】
上記のような含浸CFRP110および未含浸CFRP130において、加熱部40によって表面101を加熱したときの熱伝導について検討する。
まず、
図4(A)に示す含浸CFRP110においては、表面101が加熱されることにともなう熱伝導は、主に炭素繊維111および樹脂113で行われる。一方で、
図4(B)に示す未含浸CFRP130においては、空隙115で熱伝導が阻害される。そのため、裏面103側から温度を測定した場合、表面101側が加熱されることによる温度上昇は、含浸CFRP110の方が未含浸CFRP130よりも高くなる。
本実施形態の繊維状態評価装置5は、上記のような熱伝導の特性を利用し、成形前CFRPである対象物100における未含浸部の存在の有無を含む内部状態の評価を行う。
【0042】
続いて、本実施形態の評価方法による測定試料の試験結果について説明する。
図5は、測定試料200を用いた試験の説明図である。
なお、
図5(A)は、測定試料200の全体図であり、
図5(B)は、測定試料200から得られた温度上昇分布図である。
【0043】
図5(A)に示す測定試料200は、中央に未含浸部200Dを意図的に設けた矩形状のCFRPである。そして、この測定試料200を設置するともに、加熱部40(
図2参照)は、測定試料200の一方の面側から測定試料200全体に光を照射する。さらに、赤外線サーモグラフィ50およびコンピュータ60(
図2参照)は、測定試料200の他方の面側から温度測定および上昇温度の算出を行う。
なお、測定試料200における温度の測定範囲は、
図5(A)に示す矩形状の範囲である。また、赤外線サーモグラフィ50およびコンピュータ60は、測定試料200に対して面加熱を行い、測定試料200の10秒間の上昇温度を算出した。
【0044】
図5(B)に示す温度上昇分布が示すように、未含浸部200Dが設けられる測定試料200の中央部の温度上昇は、他の部分と比較して小さくなっている。このように、測定試料200において未含浸部200Dがある場合には、未含浸部200Dにおける温度上昇が他の領域と比較して小さくなることが確認された。
【0045】
図6は、本実施形態の繊維状態評価装置5による内部状態の評価の説明図である。
なお、
図6を構成する各図は、対象物100の移動に伴う測定箇所P(後述)の位置の変化を示している。
図6(A-1)~
図6(C-1)には、y方向から見た繊維状態評価装置5を表示している。対象物100のz方向における上側には、加熱部40が配置される。また、対象物100の下側には、赤外線サーモグラフィ50が配置される。対象物100は、z方向において加熱部40および赤外線サーモグラフィ50の間に設けられ、xy平面に沿って移動方向Dに移動する。
また、
図6(A-2)~
図6(C-2)は、対象物100をz方向から見た図である。
【0046】
図6(A-1)~
図6(C-1)に示すように、加熱部40は、対象物100の表面101側から、対象物100に向けて光(赤外線)を照射する。そして、加熱部40は、対象物100の表面101側に加熱領域400を形成する。また、赤外線サーモグラフィ50は、対象物100の裏面103側から、対象物100の表面温度を測定する。そして、赤外線サーモグラフィ50は、対象物100の裏面103側に測定領域500を形成する。
【0047】
コンピュータ60の温度取得部61(
図3参照)は、赤外線サーモグラフィ50から測定領域500の温度情報を取得する。本実施形態のコンピュータ60の温度上昇算出部62(
図3参照)は、温度取得部61にて取得した測定領域500に対して、第1測定ラインS1および第2測定ラインS2を設定する。また、温度上昇算出部62は、制御装置9(
図1参照)から対象物100の搬送速度に関する情報を取得する。そして、温度上昇算出部62は、第1測定ラインS1と第2測定ラインS2との各々の温度情報、および対象物100の搬送速度の情報を用いて、対象物100の温度上昇を特定する。さらに、コンピュータ60の評価部63は、対象物100の温度上昇の情報に基づいて、対象物100の評価を行う。以下、
図6を参照しながら具体的に説明する。
【0048】
図6(A-2)~
図6(C-2)に示すように、第1測定ラインS1は、対象物100の幅方向Wに沿って形成される。特に、本実施形態の第1測定ラインS1は、対象物100の幅方向Wの全域にわたって設定される。また、第2測定ラインS2は、対象物100の移動方向Dにおいて第1測定ラインS1よりも下流側に設けられる。そして、第2測定ラインS2は、対象物100の幅方向Wに沿って形成される。特に、本実施形態の第2測定ラインS2は、対象物100の幅方向Wの全域にわたって設定される。
【0049】
そして、本実施形態の第1測定ラインS1は、加熱領域400における上流側に設けられる。なお、第1測定ラインS1は、対象物100の加熱の開始地点に設けられていると捉えることができる。また、本実施形態の第2測定ラインS2は、加熱領域400における下流側の端部である後端部に設けられる。なお、第2測定ラインS2は、対象物100の加熱の終了地点に設けられていると捉えることができる。
【0050】
また、
図6(A-1)~
図6(C-1)に示すように、対象物100のうち特定の箇所を測定箇所Pと呼ぶ。この測定箇所Pは、対象物100の幅方向Wに沿って形成され、移動方向Dにおいて一定の幅を有する短冊状の領域である。
【0051】
そして、
図6(A-1)および
図6(A-2)に示すように、コンピュータ60の温度上昇算出部62は、移動する対象物100の測定箇所Pが第1測定ラインS1と重なるタイミングで、第1測定ラインS1の温度を取得する。
【0052】
その後、対象物100が移動方向Dに沿って移動する。
図6(B-1)および
図6(B-2)に示すように、測定箇所Pは、加熱領域400内を移動している。したがって、測定箇所Pは、移動しながら加熱が継続して行われている状態になっている。測定箇所Pの加熱時間は、対象物100の搬送速度にも依るが、本実施形態においては例えば5秒~15秒とすることができる。
【0053】
さらに、
図6(C-1)および
図6(C-2)に示すように、コンピュータ60の温度上昇算出部62は、移動する対象物100の測定箇所Pが第2測定ラインS2と重なるタイミングで、第2測定ラインS2の温度を取得する。なお、このタイミングは、制御装置9から取得する対象物100の搬送速度と、第1測定ラインS1および第2測定ラインS2との間隔に基づいて定めることができる。
【0054】
そして、コンピュータ60の温度上昇算出部62は、測定箇所Pが第1測定ラインS1に位置するときの温度と、その測定箇所Pが第2測定ラインS2に位置するときの温度との差分から、測定箇所Pが加熱領域400を移動することに伴う温度上昇を特定する。
【0055】
同様に、温度上昇算出部62は、対象物100の測定箇所Pの移動方向Dの下流側に位置する測定箇所Pとは異なる他の測定箇所についても第1測定ラインS1と第2測定ラインS2との温度の差分の情報を得ることができる。このように、温度上昇算出部62は、移動する対象物100を走査するようにして、対象物100の幅方向Wおよび移動方向Dの全域にわたって、加熱領域400を通る対象物100の温度上昇を特定する。
【0056】
コンピュータ60の評価部63は、温度上昇算出部62によって特定された温度上昇の情報に基づいて、対象物100における未含浸部の有無を評価する。具体的には、評価部63は、対象物100において温度上昇が小さい箇所があると判定した場合、その箇所が未含浸部であると評価する。
そして、評価結果出力部64は、評価部63によって未含浸部であると判定された場合、その判定結果を対象物100の内部状態に関する状態情報として出力する。
【0057】
ここで、本実施形態の評価部63は、対象物100の幅方向Wにおける他の箇所と比較して上昇温度が低い箇所があった場合に、その箇所を未含浸部であると評価することができる。同様に、評価部63は、対象物100の移動方向Dにおける他の箇所と比較して上昇温度が低い箇所があった場合に、その箇所を未含浸部であると評価することができる。さらに、評価部63は、他の箇所との比較ではなく、予め定めた閾値と比較して上昇温度が低い箇所があった場合に、その箇所を未含浸部であると評価することができる。
【0058】
なお、評価部63は、対象物100の温度上昇の情報に基づいて、対象物100の密度を評価してもよい。さらに、評価部63は、対象物100の温度上昇の情報に基づいて、対象物100における炭素繊維の体積分率を評価してもよい。そして、評価結果出力部64は、評価部63が評価した密度の情報や炭素繊維の体積分率の情報を状態情報として出力してもよい。
【0059】
また、移動方向Dの上流側に設定される第1測定ラインS1の位置は、加熱領域400と重なる位置に設けられることに限定されない。例えば、第1測定ラインS1は、加熱領域400の上流側の端部である上流端よりも更に上流に設けられていてもよい。
同様に、移動方向Dの下流側に設定される第2測定ラインS2の位置は、加熱領域400と重なる位置に設けられることに限定されない。第2測定ラインS2では、対象物100が加熱部40によって加熱されることで変化する温度を測定できればよい。したがって、第2測定ラインS2は、加熱領域400の上流側の端部である上流端よりも下流に設けられていればよい。ただし、第1測定ラインS1にて測定される温度との差分を特定するという場合、第2測定ラインS2は、第1測定ラインS1よりも下流に設けられることが条件となる。
【0060】
また、本実施形態の繊維状態評価装置5では、単一の赤外線サーモグラフィ50が測定する測定領域500の第1測定ラインS1と第2測定ラインS2との温度情報に基づいて評価を行っているが、この態様に限定されない。繊維状態評価装置5は、例えば第1測定ラインS1を測定するための赤外線サーモグラフィと、第2測定ラインS2を測定するための他の赤外線サーモグラフィとを別々に備えていてもよい。
【0061】
さらに、上述したように、例えば第1測定ラインS1と第2測定ラインS2とによって測定される対象物100の測定箇所Pは、移動方向Dにおいて一定の幅を有する短冊状に形成される。これは、測定箇所Pとは異なる他の測定箇所についても同様である。したがって、温度上昇算出部62は、上述した測定箇所Pを含む複数の測定箇所についてそれぞれ特定した温度上昇の情報を移動方向Dにおいて並べることで、対象物100の温度上昇分布を作成することができる。そして、評価結果出力部64は、温度上昇算出部62が作成した温度上昇分布を評価結果として出力するようにしてもよい。
【0062】
<動作>
続いて、以上のように構成される繊維状態評価装置5の動作について説明する。
図7は、繊維状態評価装置5の動作を説明するフローチャートである。
【0063】
図7に示すように、まず、繊維状態評価装置5における加熱部40は、出射する光(赤外線)によって対象物100の表面101を面加熱する(ステップ701)。このとき、対象物100は、移動方向Dに沿って移動している。したがって、対象物100は、移動方向Dにおいて連続的に加熱される。
そして、赤外線サーモグラフィ50により測定される温度情報に基づいて、第1測定ラインS1における測定箇所Pの温度を取得する(ステップ702)。
また、赤外線サーモグラフィ50により測定される温度情報に基づいて、第1測定ラインS1にて温度が取得された測定箇所Pの第2測定ラインS2における温度を取得する(ステップ703)。
【0064】
そして、評価部63は、測定箇所Pについて取得した第1測定ラインS1の温度と第2測定ラインS2の温度の差分となる上昇温度に基づいて、対象物100の評価を行う(ステップ704)。例えば、評価部63は、第1測定ラインS1で測定された温度と第2測定ラインS2で測定される温度との温度差が小さい箇所がある場合に、その箇所について未含浸部が存在するという評価を行う。
【0065】
そして、評価結果出力部64は、対象物100の評価結果を液晶ディスプレイなどの表示手段(不図示)に表示する(ステップ705)。
なお、対象物100において未含浸部があると判定された場合、対象物100における該当箇所にマークを付すなどの操作を行うことができる。また、評価結果出力部64は、未含浸部があると判定された場合、対象物100における該当箇所を特定可能な情報を出力することができる。対象物100における該当箇所は、制御装置9から取得する対象物100の搬送速度等の製造条件に関する情報に基づいて特定することができる。
【0066】
以上のように、本実施形態の製造システム1では、シート状の対象物100を搬送させながら、対象物100の評価を実行する。これによって、本実施形態の製造システム1では、繊維状態評価装置5によってシート状の対象物100の広範囲にわたって連続的に対象物100の内部状態に関する状態情報を取得できる。そして、本実施形態の繊維状態評価装置5は、対象物100の状態情報を効率的に取得することができる。
また、本実施形態の製造システム1では、対象物100の評価のために対象物100の製造を停止させることなく、対象物100を評価しながら対象物100の製造を行うことが可能である。
【0067】
また、製造システム1では、評価を行うために加熱部40によって対象物100の加熱を行っている。ただし、加熱部40による対象物100の加熱時間は、対象物100が加熱領域400を通過するまで間の比較的短い時間である。
ここで、対象物100は、例えば成形前CFRPという中間基材であり、その後プレス機などによって加熱および加圧が行われることで所望とする形状に成形される。そのため、対象物100の評価のために、対象物100を長時間加熱することは好ましくない。
これに対して、本実施形態の製造システム1では、比較的短時間の加熱により対象物100の評価を行うため、対象物100に対する加熱の影響を抑制することができる。
【0068】
〔後処理装置7〕
図1に示すように、後処理装置7は、繊維状態評価装置5の下流側に設けられる。後処理装置7は、加工された対象物100を巻き取るロール装置を有する。そして、後処理装置7は、加工装置3から出力され、繊維状態評価装置5を通ったシート状の対象物100を巻き取る。
なお、後処理装置7は、シート状の対象物100を連続で折りたたむ折り畳み装置であったり、シート状の対象物100を幅方向Wに沿って切断する切断装置であったり、対象物100を加熱および加圧して予め定められた形状に成形するプレス機であったりしてもよい。
【0069】
ところで、例えば後処理装置7においてシート状の対象物100がロール装置に巻き取られる場合には、対象物100を構成する樹脂が巻き取りに伴って滲み出るおそれがある。これに対して、本実施形態の製造システム1では、後処理装置7の上流側に設置される加熱部40によって対象物100に対する若干の加熱を行う。そこで、製造システム1では、対象物100の樹脂が滲み出ることが抑制される程度の加熱条件で、加熱部40による対象物100の加熱を行うようにしてもよい。
【0070】
〔制御装置9〕
図1に示すように、制御装置9は、対象物100の製造に係る加工装置3および後処理装置7を制御する。具体的には、制御装置9は、例えば表側フィルム供給部31による表側フィルム100aの供給速度、裏側フィルム供給部33による裏側フィルム100bの供給速度、含浸装置37における回転ベルトの回転速度などを制御する。すなわち、制御装置9は、対象物100の搬送速度に関する条件を制御する。また、制御装置9は、表側樹脂供給部32や裏側樹脂供給部34による樹脂の供給量や、炭素繊維供給部35による炭素繊維の供給量を制御する。つまり、制御装置9は、対象物100の内部状態に係る条件を制御する。
【0071】
本実施形態の制御装置9は、コンピュータ60と互いに通信可能に構成されている。そして、制御装置9は、対象物100の内部状態の評価を行うために必要となる対象物100の製造条件に係る情報をコンピュータ60に送信可能になっている。具体的には、制御装置9は、対象物100の搬送速度に関する情報をコンピュータ60に送信する。
さらに、制御装置9は、対象物100の内部状態の評価結果をコンピュータ60から取得可能である。例えば、制御装置9は、コンピュータ60から得られた対象物100の評価結果に応じて、対象物100の製造条件を変更するなどしてもよい。このように、本実施形態の製造システム1では、対象物100の評価に応じた対象物100の製造条件の変更を行うフィードバック制御を行うことが可能である。
【0072】
<変形例>
図8は、変形例の繊維状態評価装置5の概略図である。
【0073】
図8(A)に示すように、変形例の繊維状態評価装置5は、加熱部40と対象物100との間に、光(赤外線)を拡散する拡散板70を有している。
図8(B)に示すように、変形例の拡散板70は、矩形状に形成される。そして、拡散板70は、移動方向Dにおいて一定の幅を有している。また、拡散板70は、幅方向Wにおいて対象物100よりも若干大きく形成されている。
そして、変形例の繊維状態評価装置5において、加熱部40から照射される光の照射領域の外郭は、拡散板70のサイズ内に収まるようになっている。すなわち、変形例の繊維状態評価装置5では、加熱部40から照射される光を拡散板70が受けて、対象物100に直接向かわないように構成している。
【0074】
ここで、加熱部40は、例えばハロゲンランプを用いた場合、レンズなどの光学部材に影響によって加熱領域400における光の強度のムラが発生するおそれがある。
これに対して、変形例の繊維状態評価装置5では、加熱部40から照射された光が拡散板70によって一様になり、一様になった光が対象物100に照らされる。このように、拡散板70は、対象物100に照射される光のムラを例えば拡散板70を用いない場合と比較して抑制する。
【0075】
また、
図8(B)に示すように、拡散板70は、移動方向Dにおける上流側の端部70Lが直線状になっている。そして、拡散板70は、端部70Lが幅方向Wに沿うように設けられる。
上述したように、本実施形態の繊維状態評価装置5では、移動する対象物100に対して加熱部40による加熱を行う。そして、繊維状態評価装置5は、加熱に伴う温度変化に基づいて、対象物100の評価を行う。したがって、移動方向Dと交差する方向において、加熱部40による加熱条件が揃っていることが好ましい。
【0076】
ここで、比較例について説明する。例えば、加熱部40が形成する加熱領域が円形状であるとする。この場合、対象物100は、円形状に加熱が行われることになる。そうすると、例えば対象物100の幅方向Wにおける中央部は、移動方向Dにおいて他の領域と比較して上流側に向けて長くなる。そのため、対象物100の中央部は、幅方向Wの側端部と比較して加熱される時間が長くなることになる。
【0077】
これに対して、変形例の繊維状態評価装置5では、拡散板70の端部70Lが直線状に形成される。そのため、拡散板70を介して加熱部40が対象物100に形成する加熱領域400の上流端400Uは、幅方向Wに沿った直線状になる。このように、変形例の繊維状態評価装置5では、加熱部40による対象物100の加熱条件を揃えることが可能になっている。
【0078】
<変形例>
図9は、変形例の繊維状態評価装置5の概略図である。
【0079】
図9(A)に示すように、変形例の繊維状態評価装置5は、加熱部40と対象物100との間にカバー部80を有している。変形例のカバー部80は、4枚の板材により周囲が囲まれ、z方向における上側と下側がそれぞれ開口する箱状に形成される。そして、カバー部80は、加熱部40の対象物100に対向する側の周囲を囲う。また、カバー部80は、対象物100の表面101側であって加熱部40と対向する領域を囲う。
【0080】
変形例の繊維状態評価装置5において、加熱部40から照射された光は、カバー部80内に照らされ、さらに対象物100に照射される。そして、変形例の繊維状態評価装置5では、カバー部80が設けられることによって、加熱部40が形成する加熱領域400に対する外部の光や熱による干渉が抑制される。
【0081】
また、
図9(B)に示すように、カバー部80は、移動方向Dにおける上流側の端部80Lが直線状になっている。カバー部80は、端部80Lが移動方向Dと交差する方向に沿うように設けられる。
そして、変形例の繊維状態評価装置5では、カバー部80の端部80Lが直線状に形成されている。そのため、加熱部40が対象物100に形成する加熱領域400の上流端400Uは、幅方向Wに沿った直線状になる。このように、変形例の繊維状態評価装置5では、加熱部40による対象物100の移動方向Dにおいて加熱条件を揃えることが可能になっている。
【0082】
<コンピュータ60のハードウェア構成>
図10は、コンピュータ60ハードウェア構成例を示した図である。
【0083】
図10に示すように、コンピュータ60は、演算手段であるCPU(Central Processing Unit)601と、記憶手段であるメインメモリ603およびHDD(Hard Disk Drive)605とを備える。ここで、CPU601は、OS(Operating System)やアプリケーションソフトウェア等の各種プログラムを実行する。また、メインメモリ603は、各種プログラムやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域である。HDD605は、各種プログラムに対する入力データや各種プログラムからの出力データ等を記憶する記憶領域である。そして、コンピュータ60が備えるこれらの構成により、上記
図3などで説明した各機能構成が実行される。
【0084】
なお、コンピュータ60は、赤外線サーモグラフィ50など外部との通信を行うための通信インターフェイス(通信I/F)607を備えている。また、CPU601が実行するプログラム(例えば、上記評価を実行するプログラム)は、予めメインメモリ603に記憶させておく形態の他、例えばCD-ROM等の記憶媒体に格納してCPU601に提供したり、あるいは、ネットワーク(不図示)を介してCPU601に提供したりすることも可能である。
【0085】
<変形例>
本実施形態では、第1測定ラインS1および第2測定ラインS2の2つの位置で測定される温度に基づいて対象物100の温度上昇を特定し、対象物100の評価を行っているが、この態様に限定されない。例えば、赤外線サーモグラフィ50による対象物100の温度の測定位置は、例えば加熱領域400の上流側の端部である上流端よりも下流側であれば単一の測定ラインでもよい。この場合、コンピュータ60は、単一の測定ラインにて測定した温度に基づいて、対象物100の内部状態の評価を行う。具体的には、単一の測定ラインにて測定される対象物100に関して、予め定められた閾値以下の温度の箇所がある場合、その箇所を未含浸部であると評価するようにしてもよい。
【0086】
<変形例>
上述した実施形態においては、対象物100を移動させながら対象物100の状態の評価を行う例を用いて説明したが、この態様に限定されない。例えば、繊維状態評価装置5は、対象物100を移動させずに対象物100を静止させた状態で、対象物100の状態の評価を行ってもよい。この場合、加熱部40は、対象物100の表面101の全体を面加熱する。例えば、対象物100がx方向において一定の幅を有し、y方向において一定の幅を有している場合、加熱部40が対象物100に形成する加熱領域400は、x方向における全幅およびy方向における全幅とすることができる。
【0087】
そして、赤外線サーモグラフィ50およびコンピュータ60は、対象物100の裏面103側から対象物100の温度上昇を測定する。この場合、赤外線サーモグラフィ50による温度の測定領域500は、例えば加熱領域400と同様に、対象物100の全域にわたって形成する。また、評価部63は、例えば加熱部40により加熱を開始するときに測定された温度と、加熱部40が加熱を開始してから予め定められた時間(例えば5秒~15秒)の経過した後に測定された温度との差分である上昇温度を特定する。そして、評価部63は、上昇温度に基づいて対象物100における未含浸部の有無などの内部状態を評価する。さらに、評価結果出力部64は、評価部63の評価を状態情報として出力する。
この変形例においても、繊維状態評価装置5によって対象物100の広範囲にわたって対象物100の内部状態に関する状態情報を取得できる。そして、変形例の繊維状態評価装置5によっても、対象物100の状態情報を効率的に取得することが可能になる。
【0088】
<変形例>
本実施形態の繊維状態評価装置5では、ハロゲンランプなどの光(赤外線)を用いることで対象物100に対する非接触の加熱を行っているが、対象物100を加熱する際に非接触であることに限定されない。例えば、含浸装置37における一の回転ロールの内部に熱源を設けることで、含浸装置37によって対象物100の表面101を加熱するようにしてもよい。
【0089】
さらに、本実施形態の繊維状態評価装置5では、例えば対象物100の移動経路上に、加熱部40による加熱領域400を形成することで対象物100の表面101を加熱しているが、この態様に限定されない。繊維状態評価装置5では、対象物100の表面101の加熱を行うことができればよく、必ずしも加熱領域400を定める必要はない。例えば、繊維状態評価装置5は、例えば対象物100に対して温風を吹き付けるなど、対象物100の表面101において加熱される箇所が一定ではなく変化するものであってもよい。
【0090】
<変形例>
さらに、本実施形態において、対象物100の温度変化に基づく評価を行うに際して、加熱部40によって対象物100を加熱するようにしているが、この態様に限定されない。例えば、対象物100の冷却する冷却部を用いて対象物100の表面101の温度を低下させ、対象物100の裏面103における温度の降下温度を特定する。上述した加熱部40による加熱と同様に、対象物100に未含浸部が存在する場合には、他の箇所と比較して、未含浸部における温度降下が小さくなる。そこで、評価部63は、温度降下が少ない箇所を未含浸部と評価することができる。このように、繊維状態評価装置5は、対象物100に対して冷却を行うことで対象物100の温度を変化させ、対象物100の内部状態の評価を行ってもよい。
【0091】
なお、上述した実施形態において、対象物100として、炭素繊維強化樹脂を用いることを説明したが、これに限定されない。すなわち、互いに熱伝導率が異なる複数の種類の材料から構成されるものであればよい。また、対象物100を、複合材料以外に用いてもよい。さらに、例えば、対象物100としてガラス、半導体、高分子フィルム、液晶などを用いてもよい。
【0092】
なお、含浸装置37は、移動部の一例である。加熱部40は、温度変化部または加熱部の一例である。赤外線サーモグラフィ50は、測定部、第1測定部または第2測定部の一例である。コンピュータ60は、出力部の一例である。加熱領域400は、変化領域および加熱領域の一例である。繊維状態評価装置5は、情報出力装置の一例である。第1測定ラインS1は、基準位置の一例である。第2測定ラインS2は、測定位置の一例である。拡散板70または変更部45は、抑制部の一例である。拡散板70は、拡散部の一例である。カバー部80は、囲い部の一例である。加工装置3は、加工部の一例である。
【0093】
さて、上記では種々の実施形態および変形例を説明したが、これらの実施形態や変形例同士を組み合わせて構成してももちろんよい。
また、本開示は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0094】
1…製造システム、3…加工装置、5…繊維状態評価装置、7…後処理装置、40…加熱部、45…変更部、50…赤外線サーモグラフィ、60…コンピュータ、61…温度取得部、62…温度上昇算出部、63…評価部、64…評価結果出力部、70…拡散板、70L、80L…端部、80…カバー部、400…加熱領域