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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166862
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】離型油
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20221027BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20221027BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20221027BHJP
   A23L 13/10 20160101ALI20221027BHJP
【FI】
A23D9/00 508
A23L35/00
A23L13/00 A
A23L13/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019180681
(22)【出願日】2019-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(72)【発明者】
【氏名】廣島 理樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 千弘
(72)【発明者】
【氏名】上林 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 利佳
【テーマコード(参考)】
4B026
4B036
4B042
【Fターム(参考)】
4B026DG04
4B026DK01
4B026DK03
4B026DK04
4B026DK05
4B026DK10
4B026DP03
4B026DX01
4B036LF13
4B036LF19
4B036LH08
4B036LH13
4B036LH18
4B036LH38
4B036LH39
4B036LH50
4B036LK03
4B036LP02
4B036LP14
4B042AC10
4B042AD20
4B042AD21
4B042AD39
4B042AG02
4B042AG03
4B042AH01
4B042AK05
4B042AK06
4B042AK20
4B042AP04
4B042AP21
(57)【要約】
【課題】
本発明によれば、加熱調理食品の加熱調理時の焦げ付きを抑制できる離型油、ならびに離型油を有効成分とする焦げ付き抑制剤、さらに、離型油を加熱調理に使用する工程を含む加熱調理食品の製造方法を提供することができる。
【解決手段】
食用油脂、酵素分解レシチンと、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及び乳化剤Aから選ばれる1種または2種の乳化剤とを含有する、離型油であって、
乳化剤Aが、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド及びソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種または2種以上であり、
前記酵素分解レシチンの含有量がリン脂質として0.01質量%以上4.5質量%以下であり、
前記乳化剤の含量が、前記酵素分解レシチンのリン脂質1質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下である、前記離型油。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂、酵素分解レシチンと、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及び乳化剤Aから選ばれる1種または2種の乳化剤とを含有する、離型油であって、
乳化剤Aが、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド及びソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種または2種以上であり、
前記酵素分解レシチンの含有量がリン脂質として0.01質量%以上4.5質量%以下であり、
前記乳化剤の含量が、前記酵素分解レシチンのリン脂質1質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下である、前記離型油。
【請求項2】
前記乳化剤の含有量が0.05質量%以上3質量%以下である、請求項1に記載の離型油。
【請求項3】
前記乳化剤AのHLBが1.0以上8.0以下である、請求項1または2に記載の離型油。
【請求項4】
前記酵素分解レシチン中のリン脂質に対するホスファチジン酸含量が50質量%以上100質量%以下である、請求項1乃至3に記載の離型油。
【請求項5】
前記乳化剤Aの脂肪酸が、不飽和脂肪酸である、請求項1乃至4に記載の離型油。
【請求項6】
前記離型油が、加工米飯用及び食肉加工食品用から選ばれる1種または2種である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の離型油。
【請求項7】
前記食肉加工食品が、ひき肉を含む食品である、請求項6に記載の離型油。
【請求項8】
前記ひき肉を含む食品が、ハンバーグ、肉団子、つくね、ミートローフ、ひき肉炒めから選ばれる1種である、請求項7に記載の離型油。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の離型油を、食品の加熱調理に使用する、焦げ付き抑制方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の離型油を有効成分とする、食品の焦げ付き抑制剤。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の離型油を加熱調理に使用する工程を含む、食品の製造方法。
【請求項12】
前記食品が加工米飯及び食肉加工食品から選ばれる1種である、請求項11に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型油、加熱調理食品の調理時の焦げ付き抑制方法、食品の焦げ付き抑制剤および食品の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
従来、食品加工業界において、加熱調理の際、焼成後の食品素材と調理器具、焼型、天板などとの付着を防止する目的で、離型油が使用されている。
【0003】
前記離型油には、食品の離型性を得るために、経済性と効果の点から、レシチンが一般的に使用されてきた。しかし、レシチンを使用した離型油は、加熱による褐変が起こりやすく、調理品の風味や外観を損なうという課題があった。
【0004】
特許文献1には、酵素分解されていないクルードレシチンとポリグリセリン脂肪酸エステルとを含むパンの焼型用の離型油が記載されている(表1)。また、レシチンのアセトン不溶物含量は60~65重量%のものが好ましいと記載されている(2頁、右欄上から7~8行目)。しかしながら、パンの焼型用の離型油は、適度な焼き色を付けるため褐変を抑制する必要がなく、また、さらに、酵素分解レシチンを用いることで、離型効果に優れ、かつ褐変の少ない離型油が得られることについて開示も示唆もない。
【0005】
特許文献2には、 酵素処理レシチン、酵素処理レシチン以外のレシチンおよびグリセリン不飽和脂肪酸エステルを含有する油脂組成物であることを特徴とする離型油が記載されている。段落0035 表1の離型油7にはジグリセリン不飽和脂肪酸エステルを配合した場合、効果がないことが開示されている(段落0041 表2 比較例)。この場合、使用している酵素処理レシチンのリン脂質含量を分析したところ、38.2質量%であり、酵素分解レシチンのリン脂質1質量部に対して2.6質量部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61-111654
【特許文献2】特開2012-249621
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明においては、離型効果に優れ、かつ褐変の少ない離型油、加熱調理食品の焦げ付き抑制方法、加熱調理食品の焦げ付き抑制剤および加熱調理食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討の結果、特定のレシチンと特定の乳化剤を含有することにより、加熱調理食品の離型性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、食用油脂、酵素分解レシチンと、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及び乳化剤Aから選ばれる1種または2種の乳化剤とを含有する、離型油であって、
乳化剤Aが、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド及びソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種または2種以上であり、
前記酵素分解レシチンの含有量がリン脂質として0.01質量%以上4.5質量%以下であり、
前記乳化剤の含量が、前記酵素分解レシチンのリン脂質1質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下である。
【0010】
さらに、乳化剤の含有量が0.05質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
【0011】
さらに、前記乳化剤AのHLBが1.0以上8.0以下であることが好ましい。
【0012】
さらに、前記酵素分解レシチン中のリン脂質に対するホスファチジン酸含量が50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0013】
さらに、前記乳化剤Aの脂肪酸が、不飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0014】
さらに、前記離型油が、加工米飯用及び食肉加工食品用から選ばれる1種または2種であることが好ましい。
【0015】
さらに、前記食肉加工食品が、ひき肉を含む食品であることが好ましい。
【0016】
さらに、前記ひき肉を含む食品が、ハンバーグ、肉団子、つくね、ミートローフ、ひき肉炒めから選ばれる1種であることが好ましい。
【0017】
また、前記離型油を、食品の加熱調理に使用する、焦げ付き抑制方法である。
【0018】
また、前記離型油を有効成分とする、食品の焦げ付き抑制剤である。
【0019】
また、前記離型油を加熱調理に使用する工程を含む、食品の製造方法である。
【0020】
さらに、前記食品が加工米飯及び食肉加工食品から選ばれる1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、食品の加熱調理時の焦げ付きを抑制できる離型油、食品の加熱調理時の焦げ付き抑制方法、ならびに離型油を有効成分とする焦げ付き抑制剤、さらに、離型油を加熱調理に使用する工程を含む食品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の離型油は食用油脂を含む。前記食用油脂に用いられる原料油脂としては、特に限定されないが、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、サル脂、カカオ脂、シア脂、米油、綿実油、紅花油、ヒマワリ油、オリーブ油、亜麻仁油、落花生油などの植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂、魚油などの動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの合成油脂が挙げられる。また、前記植物油脂、動物油脂及び合成油脂を硬化、分別及びエステル交換から選ばれる1種又は2種以上の処理をした加工油脂を原料油脂として使用することができる。前記食用油脂は、これらの油脂から1種または2種以上を選択して用いることができるが、食用油脂は、大豆油、菜種油、パーム系油脂、コーン油、ヒマワリ油、オリーブ油、綿実油、米油及び紅花油から選ばれる1種を含むことが好ましく、大豆油、菜種油及びパーム系油脂から選ばれる1種を含むことがより好ましい。食用油脂中の大豆油、菜種油、パーム系油脂、コーン油、ヒマワリ油、オリーブ油、綿実油、米油及び紅花油の含有量の合計が、60質量%以上100質量%以下であることが好ましく、75質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、100質量%であることがさらにより好ましい。ここでいうパーム系油脂とは、パーム油およびパーム油の加工油脂を意味する。
【0023】
食用油脂は、融点が10℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましい。なお、本明細書で、融点は、上昇融点を意味する。上昇融点は、基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996に則って測定することができる。
【0024】
本発明において用いられる酵素分解レシチンとは、大豆レシチン等の植物レシチンや卵黄レシチンを、ホスホリパーゼ等の酵素で酵素分解して得られる、ホスファチジン酸及びリゾレシチンを主成分とするものであり、液状、ペースト状、粉末状等のいずれの形態のものであっても用いることができるが、液状の形態のものが好ましい。
【0025】
また、前記酵素分解レシチンは、ホスファチジン酸を主成分とするものが好ましい。前記酵素分解レシチン中のリン脂質に対するホスファチジン酸含量は、50質量%以上100質量%以下であり、好ましくは70質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは90質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは95質量%以上100質量%以下であり、さらにより好ましくは100質量%である。
【0026】
また、前記酵素分解レシチンのリン脂質に対するホスファチジルエタノールアミン含量は、5質量%以下であることが好ましい。
【0027】
また、前記酵素分解レシチンのアセトン不溶物含量は、58質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。なお、下限は特に限定されないが、例えば5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上である。また、レシチンのリン脂質含量はアセトン不溶物含量とほぼ同値となる。
【0028】
本発明の離型油は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及び乳化剤Aから選ばれる1種または2種以上の乳化剤を含有し、前記乳化剤Aは、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド及びソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種または2種以上であり、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種または2種が好ましく、ポリグリセリン脂肪酸エステルがより好ましい。
【0029】
また、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン平均重合度が2以上20以下であることが好ましく、2以上16以下であることがより好ましく、6以上12以下であることがさらに好ましく、8以上12以下であることがさらにより好ましい。
【0030】
また、前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、グリセリン平均重合度が、4以上10以下であることが好ましく、4以上8以下であることがより好ましく、4以上7以下であることがさらに好ましい。また、HLBは、0以上3以下であることが好ましく、0以上2以下であることがより好ましく、0以上1.5以下であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の離型油は、酵素分解レシチンをリン脂質として、0.01質量%以上4.5質量%以下含有し、0.05質量%以上3質量%以下含有することが好ましく、0.1質量%以上2質量%以下含有することがより好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下含有することがさらに好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下含有することがさらにより好ましく、0.1質量%以上0.8質量%以下含有することがことさら好ましく、0.1質量%以上0.6質量%以下であることが特に好ましい。所定の範囲とすることで、離型性に優れ、かつ着色の少ない離型油が得られる。
【0032】
本発明の離型油は、前記乳化剤の含量が、前記酵素分解レシチンのリン脂質1質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下であり、好ましくは0.1質量部以上1.8質量部以下であり、より好ましくは0.2質量部以上1.8質量部以下であり、さらに好ましくは0.2質量部以上1.5質量部以下であり、さらにより好ましくは0.2質量部以上1.3質量部以下であり、特に好ましくは0.2質量部以上1.1質量部以下である。
【0033】
また、本発明の離型油の酵素分解レシチンと、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及び乳化剤Aの含有量の合計に対する酵素分解レシチンの含有量の割合は、60質量%以上90質量%以下であることが好ましく62質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
本発明の離型油は、前記乳化剤を0.05質量%以上3質量%以下含有し、好ましくは0.1質量%以上2質量%以下含有し、より好ましくは0.1質量%以上1.5質量%以下含有し、さらに好ましくは0.1質量%以上1質量%以下含有し、さらにより好ましくは0.1質量%以上0.8質量%以下含有する。
【0035】
本発明の離型油に用いられる前記乳化剤AのHLBは1.0以上8.0以下であり、2.0以上7.5以下が好ましく、3.0以上7.0以下がより好ましく、4.1以上6.0以下がさらにより好ましい。
【0036】
また、 前記乳化剤Aの脂肪酸は、不飽和脂肪酸であり、オレイン酸、ベヘン酸及びエルカ酸から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、オレイン酸であることがより好ましい。
【0037】
本発明の離型油は、食用油脂、酵素分解レシチン、乳化剤の他に、通常、食用の油脂組成物に配合される成分を、発明の効果を損なわない範囲において含有していてもよい。例えば、トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、ローズマリー抽出物、茶抽出物、甘草抽出物等の酸化防止剤;クエン酸やリンゴ酸等の金属キレート剤;ビタミンA、ビタミンD等のビタミン類;シリコーン;香料等である。
【0038】
本発明の食品としては、特に制限はないが、例えば、食肉加工食品、加工米飯、麺類などの加熱調理を施す食品が挙げられる。
【0039】
食肉加工食品は、焼肉、焼き鳥、焼き魚、回鍋肉、ハンバーグ、肉団子、つくね、ミートローフ、ひき肉炒めなどの食肉を含む食品が挙げられ、好ましくはひき肉を含むハンバーグ、肉団子、つくね、ミートローフ、ひき肉炒めであり、より好ましくはハンバーグ、肉団子、つくねであり、さらに好ましくはハンバーグである。
【0040】
前記ひき肉炒めの例としては、麻婆豆腐、ナスとひき肉炒め、ガパオライス、ミートソース等が挙げられる。
【0041】
本発明の食肉加工食品に用いられる食肉原料としては、特に制限されず、牛、豚、羊等の家畜の肉、鶏、鴨、家鴨等の家禽類の肉、魚肉等であり、好ましくは、牛、豚、鶏から選ばれる一種または二種以上であり、より好ましくは牛、豚から選ばれる一種または二種である。特定のひき肉の原料を使うと焦げ付きやすく、本発明の効果が顕著に得られる。
【0042】
前記食肉加工食品には、食肉以外の植物タンパク質等の食材、調味料、香辛料、香料、保存料、酸味料、増粘剤、ゲル化剤、酸化防止剤等や、タマネギ、ニンジン、ピーマン、キャベツ等の野菜類が含まれてもよい。
【0043】
加工米飯は、炒飯、ピラフ、炊き込みご飯、ドライカレー、そばめし等が挙げられ、好ましくは炒め調理を施す炒飯、ドライカレーであり、より好ましくは炒飯である。
【0044】
麺類は、焼きそば、焼うどん、ビーフン、パスタ等が挙げられ、好ましくは焼きそば、焼きうどん、より好ましくは焼きそばである。
【0045】
また、本発明の食品の製造方法は、前記離型油を加熱調理時に使用する工程を含み、フライパンや鉄板等で焼成する工程を含むことが好ましい。
【実施例0046】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定するものではない。
【0047】
離型油の原料は下記の通りである。
精製菜種油 (株式会社J-オイルミルズ製、上昇融点0℃以下)
酵素分解レシチン (ベネコートBMI-40L、リン脂質含量 41.6質量%、ホスファチジン酸含量 41.6質量%、ホスファチジルエタノールアミン含量 0質量%、花王株式会社製)
クルードレシチン (レシチンCL、リン脂質含量 62質量%、ホスファチジン酸含量 9.9質量%、ホスファチジルエタノールアミン含量 18.3%、株式会社J-オイルミルズ製)
ポリグリセリン脂肪酸エステル1 (Q-175S、HLB4.5、オレイン酸、平均重合度 10、太陽化学株式会社製)
ポリグリセリン脂肪酸エステル2 (DO-100V、HLB7.4、オレイン酸、平均重合度 2、理研ビタミン株式会社製)
ソルビタン脂肪酸エステル (81S、HLB5.1、オレイン酸、太陽化学株式会社製)
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル (CRS-75、HLB1.0、平均重合度 6、阪本薬品工業株式会社製)
有機酸モノグリセリド (623M、HLB7、オレイン酸、太陽化学株式会社製)
ショ糖脂肪酸エステル (ER-290、HLB2、エルカ酸、三菱化学フーズ株式会社製)
【0048】
なお、レシチンのリン脂質組成及び含量は、以下の方法により測定した。
【0049】
各レシチンをクロロホルム:メタノール=2:1で希釈したものを下記条件で分析した。
機器:HPLC (Thermo SCIENTIFIC社製)
検出器:荷電化粒子検出器 Corona Veo
移動相:A n-ヘキサン:2-プロパノール:酢酸:トリエチルアミン
=814.2:170:15:0.8 (体積比)
B 2-プロパノール:水:酢酸:トリエチルアミン
=844.2:140:15:0.8 (体積比)
カラム:LiChrospher 100 Diol(5μm) 内径4.0 x 125mm[merck]
カラム温度:55℃
サンプル温度:20℃
グラジエント(流速=1ml/min) ※リニアグラジエント(表1参照)
【0050】
【表1】
【0051】
クルードレシチンと酵素分解レシチンを適宜混合したものを日本食品分析センターにてリン脂質類を定量し、これを真の値として標品に用いた。
【0052】
<試験例1:レシチン、乳化剤の種類検討>
精製菜種油を60℃に保温し、表2に記載した配合でレシチンと各乳化剤を添加して、充分に溶解した後、25℃になるまで放冷して、離型油を得た。
【0053】
得られた離型油について、下記評価方法1で離型性の評価を行った。また、下記評価方法2で着色の評価を行った。得られた評価結果を表2に示す。
【0054】
<評価方法1:ハンバーグの離型性評価>
A:ハンバーグの調製方法
市販の牛・豚合いびき肉250g、牛乳120mL、ハンバーグヘルパー(ハウス食品株式会社製)46gの割合でよく混合し、50gずつに分け、成形した。
B:離型性の評価方法
1. 直径22cmのステンレス製フライパンの質量を測定した
2. フライパンに離型油10gを入れ、中心の表面温度が200℃になるまでIHヒーターで加熱した
3. 成形したハンバーグ50gを、フライパン表面を満遍なく覆うように広げ、1分間加熱した
4.フライパンを上下逆にしてハンバーグを取り除き、質量を測定した
5.上記4で測定した重量と、1で測定した重量との差を、焦げ付きの質量とした
【0055】
<評価方法2:着色評価>
A:加熱方法
離型油を16×125mmのガラス試験管に3g採取し、200℃に加熱したオイルバス中で15分間加熱した。
B:吸光度の測定方法
加熱終了後、冷却して520nmの吸光度を測定した。対照として、精製菜種油を用い、必要に応じて精製菜種油で希釈して測定した。加熱前の520nmの吸光度を測定し、加熱後の測定値との差を算出した。吸光度の測定には紫外可視分光光度計(UV-2450;島津製作所社製、1cmアクリル製セル)を用いた。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示すように、酵素分解レシチンにポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、有機酸モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステルを添加した実施例1-1~1-6で焦げ付きの質量が少なく、離型効果を示した。特に実施例1-1~1-4で非常に焦げ付きの質量が少なく、高い離型効果を示した。一方クルードレシチンとポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する比較例1-1は焦げ付きの質量が多く、離型効果がみられなかった。
また、実施例1-1~1-6と比較例1-1を比べると、実施例1-1~1-6の離型油は着色が少なく、特に実施例1-1~1-5で着色が少なかった。
さらに、実施例1-1は実施例1-2と比べて着色が少なかった。
【0058】
<試験例2:レシチン、乳化剤量の検討>
上記試験例1の配合比を表3に示す配合比にした以外は、試験例1と同じ調製方法で、実施例2-1~2-4の離型油を得た。
【0059】
得られた離型油について、上記評価方法1で離型性の評価を行った。得られた評価結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3に示すように、離型油が、酵素分解レシチンをリン脂質として0.17質量%以上、1.46質量%以下、ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.2質量%以上1.0質量%以下含有することで離型効果がみられた。
【0062】
<試験例3:食材の検討>
精製菜種油を98.3質量%、酵素分解レシチンを1.2質量%、ポリグリセリン脂肪酸エステル1を0.5質量%の配合比で、試験例1と同じ調製方法で、実施例3-1の離型油を得た。
【0063】
得られた離型油について、下記評価方法3で離型性の評価を行った。
【0064】
<評価方法3:ソースご飯の離型性評価>
A:ソースご飯の調製方法
ごはん60gにウスターソース(ブルドックソース株式会社製)6gをあえた
B:離型性の評価方法
1.直径22cmのステンレス製フライパンの質量を測定した
2.フライパンに離型油1.5gを入れ、中心の表面温度が200℃になるまでIHヒーターで加熱した
3.ソースご飯を、フライパン表面を満遍なく覆うように広げ、1分30秒間加熱した
4.フライパンを上下逆にしてソースご飯を取り除き、質量を測定した
5.上記4で測定した質量と、上記1で測定した質量との差を、焦げ付きの質量とした
【0065】
実施例3-1の離型油を用いると、焦げ付きの質量は1.0gであり、フライパンへのソースご飯の付着がほとんど見られず、高い離型効果を示した。加工米飯においても、効果が確認できた。