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特開2022-166910変圧器の評価装置、変圧器の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166910
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】変圧器の評価装置、変圧器の評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/00 20060101AFI20221027BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20221027BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20221027BHJP
   G01R 31/62 20200101ALI20221027BHJP
【FI】
H01F41/00 E
H01F30/10 R
G01R31/00
G01R31/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072320
(22)【出願日】2021-04-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 一般財団法人電力中央研究所、電力中央研究所報告、研究報告:H20002、令和3年4月
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 悟
【テーマコード(参考)】
2G014
2G036
【Fターム(参考)】
2G014AA03
2G014AA15
2G014AB04
2G014AB49
2G036AA20
2G036BA03
(57)【要約】
【課題】きわめて簡単な処理で、種々の変圧器の巻線の位置ずれを把握する。
【解決手段】U相、V相、W相における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数(双極状共振)の相違を、第1パターン、第2パターンの接地状況により測定し、U相、V相、W相における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数に相違が生じている場合に、高圧巻線3と低圧巻線4との間に軸方向の位置ずれが生じていると判定する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の巻線を有する変圧器の巻線同士の軸方向のずれを評価する変圧器の評価装置において、
U相、V相、W相における前記複数の巻線の間の伝達関数を測定する測定手段と、
前記測定手段で測定されたU相、V相、W相における前記複数の巻線の間の伝達関数の状況を判断する判断手段と、
前記判断手段によりU相、V相、W相における前記複数の巻線の間の伝達関数に相違が生じていると判断された際に、前記複数の巻線の間に軸方向の位置ずれが生じていると判定する制御手段とを備え、
前記測定手段は、
U相、V相、W相における前記複数の巻線の中性点を接地して伝達関数を測定する第1パターン、及び、U相、V相、W相における前記複数の巻線の2相を接地して伝達関数を測定する第2パターンの伝達関数を測定する機能を有し、
前記判断手段は、
前記第1パターンで測定された前記複数の巻線の間の伝達関数の状況として、伝達関数と周波数との関係がU相、V相、W相共に、階段状に変化する状況を判断し、前記第2パターンで測定された前記複数の巻線の間の伝達関数の状況として、伝達関数と周波数との関係がU相、V相、W相で交差曲線状に変化する状況を判断する機能を有し、
前記制御手段は、
階段状に変化する伝達関数の相違の状況、もしくは、交差曲線状に変化する伝達関数の相違の状況に基づいて、前記複数の巻線の間に軸方向の位置ずれが生じていると判定する機能を有している
ことを特徴とする変圧器の評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変圧器の評価装置において、
前記制御手段は、
時間経過による前記変圧器の劣化状況が記憶される記憶機能と、
判定された前記位置ずれの状況に基づいて、前記記憶機能に記憶された前記劣化状況を補正する補正機能とを有し、
前記複数の巻線の間の位置ずれを判定すると共に、前記位置ずれに応じた前記劣化状況を判定する
ことを特徴とする変圧器の評価装置。
【請求項3】
請求項2に記載の変圧器の評価装置において、
前記制御手段には、
前記劣化状況として、値が高くなるにしたがって機器の故障の確率が高くなる指標であるリスク指標、及び、前記リスク指標の経時変化が設定されている
ことを特徴とする変圧器の評価装置。
【請求項4】
請求項3に記載の変圧器の評価装置において、
前記制御手段の補正機能は、
前記複数の巻線の間の位置ずれが判定された際に、前記リスク指標の値を高く補正する
ことを特徴とする変圧器の評価装置。
【請求項5】
少なくとも第1巻線、第2巻線を有する変圧器の少なくとも前記第1巻線と前記第2巻線との軸方向のずれを評価する変圧器の評価方法において、
前記第1巻線、及び、前記第2巻線の中性点を接地した伝達関数、もしくは、前記第1巻線、及び、前記第2巻線のいずれか2相を接地した伝達関数を測定し、
U相、V相、W相における少なくとも前記第1巻線と前記第2巻線の間の階段状に変化する伝達関数、もしくは、U相、V相、W相における少なくとも前記第1巻線と前記第2巻線の間の交差曲線状に変化する伝達関数に相違が生じている場合に、
少なくとも前記第1巻線と前記第2巻線との間に軸方向の位置ずれが生じていると判定する
ことを特徴とする変圧器の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器の巻線の位置ずれを判断するための変圧器の評価装置、及び、変圧器の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用変圧器(変圧器)の改修計画は、変圧器の不具合時の系統への影響を考慮して立案されている。変圧器の不具合として、例えば、外部短絡時に発生する電磁機械力による応力で、絶縁物(絶縁紙やプレスボード)が破損することが考えられる。外部短絡時に発生する電磁機械力は、変圧器の巻線位置のずれに相関していることが知られている。したがって、電磁機械力による変圧器の不具合評価には、変圧器の巻線位置のずれを評価することが重要になっている。
【0003】
変圧器の巻線位置のずれを評価する技術として、巻線の伝達関数の共振周波数を比較して巻線の位置ずれを判定する技術が従来から提案されている(特許文献1)。特許文献1の技術を適用することにより、手間をかけずに巻線の位置ずれを判定して、変圧器の健全性を診断することができる。
【0004】
しかし、特許文献1の技術は、配電用柱上変圧器を対象とした技術であり、例えば、定格電圧60KV以上、定格容量MVAクラス以上の電力用変圧器を対象とした技術ではない。そして、特許文献1の技術は、変圧器の巻線の位置ずれの有無を判定することができるが、巻線の伝達関数の共振周波数を求めて、過去のデータを参照する等の必要があり、多くのデータと複雑な処理が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-253885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、きわめて簡単な処理で、種々の変圧器の巻線の位置ずれを把握することができる変圧器の評価装置、及び、変圧器の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の変圧器の評価装置は、複数の巻線を有する変圧器の巻線同士の軸方向のずれを評価する変圧器の評価装置において、U相、V相、W相における前記複数の巻線の間の伝達関数を測定する測定手段と、前記測定手段で測定されたU相、V相、W相における前記複数の巻線の間の伝達関数の状況を判断する判断手段と、前記判断手段によりU相、V相、W相における前記複数の巻線の間の伝達関数に相違が生じていると判断された際に、前記複数の巻線の間に軸方向の位置ずれが生じていると判定する制御手段とを備え、前記測定手段は、U相、V相、W相における前記複数の巻線の中性点を接地して伝達関数を測定する第1パターン、及び、U相、V相、W相における前記複数の巻線の2相を接地して伝達関数を測定する第2パターンの伝達関数を測定する機能を有し、前記判断手段は、前記第1パターンで測定された前記複数の巻線の間の伝達関数の状況として、伝達関数と周波数との関係がU相、V相、W相共に、階段状に変化する状況を判断し、前記第2パターンで測定された前記複数の巻線の間の伝達関数の状況として、伝達関数と周波数との関係がU相、V相、W相で交差曲線状に変化する状況を判断する機能を有し、
前記制御手段は、階段状に変化する伝達関数の相違の状況、もしくは、交差曲線状に変化する伝達関数の相違の状況に基づいて、前記複数の巻線の間に軸方向の位置ずれが生じていると判定する機能を有している
ことを特徴とする。
【0008】
請求項1に係る本発明では、U相、V相、W相における複数の巻線の間、例えば、第1巻線と第2巻線の間の伝達関数(双極状共振)を測定し、U相、V相、W相における複数の巻線の間、例えば、第1巻線と第2巻線の間の伝達関数に相違が生じている際に、例えば、第1巻線と第2巻線との間に軸方向の位置ずれが生じていると判定する。
【0009】
具体的には、U相、V相、W相における第1巻線と第2巻線の中性点を接地して伝達関数を測定する第1パターン、もしくは、U相、V相、W相における第1巻線と第2巻線の2相を接地して伝達関数を測定する第2パターンの伝達関数を測定し、第1パターンで測定された第1巻線と第2巻線の間の伝達関数と周波数との関係がU相、V相、W相共に、階段状に変化する状況を判断し、もしくは、第2パターンで測定された第1巻線と第2巻線の間の伝達関数と周波数との関係がU相、V相、W相で交差曲線状に変化する状況を判断し、階段状に変化する伝達関数の相違の状況、もしくは、交差曲線状に変化する伝達関数の相違の状況に基づいて、第1巻線と第2巻線との間に軸方向の位置ずれが生じていると判定する。
【0010】
尚、第1パターン、及び、第2パターンの両方の伝達関数を測定することが可能であれば、第1パターン、及び、第2パターンの伝達関数を測定して伝達関数の相違を判断することができる。
【0011】
このため、多くの過去のデータを参照して複雑な処理を行うことなく、変圧器の複数の巻線の位置ずれを判定することができる。
【0012】
従って、きわめて簡単な処理で、種々の変圧器の巻線の位置ずれを把握することが可能になる。
【0013】
そして、請求項2に係る本発明の変圧器の評価装置は、請求項1に記載の変圧器の評価装置において、前記制御手段は、時間経過による前記変圧器の劣化状況が記憶される記憶機能と、判定された前記位置ずれの状況に基づいて、前記記憶機能に記憶された前記劣化状況を補正する補正機能とを有し、前記複数の巻線の間の位置ずれを判定すると共に、前記位置ずれに応じた劣化状況を判定することを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る本発明では、複数の巻線の間の位置ずれ、例えば、第1巻線と第2巻線の位置ずれを判定すると共に、位置ずれに応じて劣化の判定を行うことができる。
【0015】
また、請求項3に係る本発明の変圧器の評価装置は、請求項2に記載の変圧器の評価装置において、前記制御手段には、前記劣化状況として、値が高くなるにしたがって機器の故障の確率が高くなる指標であるリスク指標、及び、前記リスク指標の経時変化が設定されていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に係る本発明では、機器の故障の確率が高くなる指標であるリスク指標の経時変化に基づいて、劣化の判定を行うことができる。
【0017】
また、請求項4に係る本発明の変圧器の評価装置は、請求項3に記載の変圧器の評価装置において、前記制御手段の補正機能は、前記複数の巻線の間の位置ずれが判定された際に、前記リスク指標の値を高く補正することを特徴とする。
【0018】
請求項4に係る本発明では、リスク指標を高く補正して機器の故障確率が高くなっている状態にすることで、劣化の判定を行うことができる。
【0019】
上記目的を達成するための請求項5に係る本発明の変圧器の評価方法は、少なくとも第1巻線、第2巻線を有する変圧器の少なくとも前記第1巻線と前記第2巻線との軸方向のずれを評価する変圧器の評価方法において、前記第1巻線、及び、前記第2巻線の中性点を接地した伝達関数、もしくは、前記第1巻線、及び、前記第2巻線のいずれか2相を接地した伝達関数を測定し、U相、V相、W相における少なくとも前記第1巻線と前記第2巻線の間の階段状に変化する伝達関数、もしくは、U相、V相、W相における少なくとも前記第1巻線と前記第2巻線の間の交差曲線状に変化する伝達関数に相違が生じている場合に、少なくとも前記第1巻線と前記第2巻線との間に軸方向の位置ずれが生じていると判定することを特徴とする。
【0020】
請求項5に係る本発明では、少なくとも第1巻線と第2巻線の間の伝達関数、例えば、U相、V相、W相における高圧巻線と低圧巻線の伝達関数(双極状共振)に相違が生じている場合に、高圧巻線と低圧巻線との間に軸方向の位置ずれが生じていると判定するので、多くの過去のデータを参照して複雑な処理を行うことなく、高圧巻線、及び、低圧巻線(第1巻線と第2巻線)の位置ずれを判定することができる。
【0021】
具体的には、第1巻線と第2巻線の中性点を接地して伝達関数を測定する第1パターン、もしくは、第1巻線と第2巻線のいずれか2相(U相、V相、W相のいずれか2相)を接地して伝達関数を測定する第2パターンの伝達関数を測定し、第1パターンで測定された第1巻線と第2巻線の間の伝達関数と周波数との関係がU相、V相、W相共に、階段状に変化する状況を判断し、もしくは、第2パターンで測定された第1巻線と第2巻線の間の伝達関数と周波数との関係がU相、V相、W相で交差曲線状に変化する状況を判断し、階段状に変化する伝達関数の相違の状況、もしくは、交差曲線状に変化する伝達関数の相違の状況に基づいて、第1巻線と第2巻線との間に軸方向の位置ずれが生じていると判定する。
【0022】
このため、多くの過去のデータを参照して複雑な処理を行うことなく、巻線の接地状態が異なる変圧器における複数の巻線の位置ずれを判定することができる。
【0023】
従って、きわめて簡単な処理で、種々の変圧器の巻線の位置ずれを把握することが可能になる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の変圧器の評価装置、及び、変圧器の評価方法は、きわめて簡単な処理で種々の変圧器の巻線の位置ずれを把握することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施例に係る評価装置で評価される変圧器の概略図である。
図2】本発明の一実施例に係る変圧器の測定システムの概略図である。
図3】伝達関数測定時の巻線の接地状況を説明する概念図である。
図4】本発明の一実施例に係る変圧器の評価装置のブロック構成図である。
図5】中性点を接地した際(第1パターン)のU相、V相、W相の伝達関数強度低下指標の経時変化を表すグラフである。
図6】U相、V相、W相の2相(他巻線)を接地した際(第2パターン)の伝達関数強度低下指標の経時変化を表すグラフである。
図7】強度低下指標の経時変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の変圧器の評価装置は、例えば、定格電圧60KV以上、定格容量MVAクラス以上の電力用変圧器を評価の対象としている。そして、複数の巻線として、第1巻線である高圧巻線と、第2巻線である低圧巻線を有する変圧器の高圧巻線と低圧巻線との軸方向(上下方向)のずれの有無を評価する装置である。
【0027】
また、高圧巻線と低圧巻線との軸方向(上下方向)のずれの有無に基づいて、将来の状況(寿命等)を合わせて評価することができる装置である。高圧巻線と低圧巻線との軸方向(上下方向)のずれの有無の評価は、新品の変圧器を受け入れた時、所定の時間が経過した時等、任意の時期に実施することができる。
【0028】
以下、図面に基づいて本発明の実施例を説明する。
【0029】
図1には本発明の一実施例に係る評価装置で評価される変圧器の概略モデルの構造を表す外観状態、図2には変圧器の評価装置の測定システムの機能を概略的に表したブロック構成、図3(a)には中性点を接地した際(第1パターン)の伝達関数測定時の巻線の接地状況、図3(b)2相(他巻線)を接地した際の(第2パターン)の伝達関数測定時の巻線の接地状況、図4には本発明の一実施例に係る変圧器の評価装置の機能ブロックを示してある。
【0030】
また、図5には第1パターンの伝達関数測定時の高圧巻線、低圧巻線のU相、V相、W相の伝達関数(周波数応答解析で得られる伝達関数)を表すグラフを示してあり(a)は高圧巻線と低圧巻線にずれが生じていない状態、(b)は高圧巻線と低圧巻線にずれが生じている状態である。また、図6には第2パターンの伝達関数測定時の高圧巻線、低圧巻線のU相、V相、W相の伝達関数(周波数応答解析で得られる伝達関数)を表すグラフを示してあり(a)は高圧巻線と低圧巻線にずれが生じていない状態、(b)は高圧巻線と低圧巻線にずれが生じている状態である。
【0031】
そして、図7には制御手段の機能としてリスク指標の経時変化を表したグラフを示してある。
【0032】
図1に示すように、変圧器1の鉄心2には、U相、V相、W相の巻線が設けられ、U相、V相、W相の巻線は、それぞれ、第1巻線としての高圧巻線3と、第2巻線としての低圧巻線4が同軸状に巻かれている。変圧器1の高圧巻線3、低圧巻線4におけるU相、V相、W相の伝達関数(周波数応答解析で得られる伝達関数)が測定され(求められ)、伝達関数に相違があるかないかが判断される。
【0033】
つまり、図2に示すように、変圧器1の巻線に高周波信号を入力し、入力信号の応答状況を測定する測定手段5が備えられている。測定手段5で測定された入力信号の応答状況を用いて、U相、V相、W相における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数(周波数応答解析で得られる伝達関数:双極状共振)が求められる。
【0034】
周波数応答解析を行う場合、図3(a)に示すように、U相、V相、W相における高圧巻線3、低圧巻線4の中性点を接地して伝達関数を測定する第1パターンの場合と、図3(b)に示すように、U相、V相、W相における高圧巻線3、低圧巻線4の2相(他2巻線)を接地して伝達関数を測定する第2パターンの場合で測定するようになっている。
【0035】
具体的には後述するが、第1パターンで周波数応答解析を行った場合、U相、V相、W相の伝達関数の形状が階段状になることが確認されている(階段形双極状共振)。また、第2パターンの場合で周波数応答解析を行った場合、U相、V相、W相の伝達関数の形状が、V相では凹型から凸型になる形状、W相ではV相と略線対称な形状、U相ではV相とW相の中間状の形状となる(交差曲線状に変化する)ことが確認されている(交差曲線形双極状共振)。
【0036】
図4に示すように、測定手段5で求められたU相、V相、W相における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数(階段形双極状共振、及び、交差曲線形双極状共振)は、判断手段11に入力される。判断手段11では、U相、V相、W相における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数が、第1パターン、もしくは、第2パターンで比較され、第1パターンで測定した場合、第2パターンで測定した場合でのU相、V相、W相の伝達関数に相違が生じているか否かが判断される。
【0037】
尚、第1パターン、第2パターンでの測定を一緒に行うことができれば、第1パターン、及び、第2パターンで伝達関数を測定し、第1パターン、及び、第2パターンでの伝達関数の相違を判断することも可能である。
【0038】
図5(a)に示すように、第1パターンで周波数応答解析を行った場合、U相(太実線で示してある)、V相(白抜き一点鎖線で示してある)、W相(点線で示してある)の伝達関数の形状が階段状になっている(階段形双極状共振)。
【0039】
高圧巻線3と低圧巻線4にずれが生じていた場合、図5(b)に示すように、例えば、W相(点線で示してある)における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数が、U相(太実線で示してある)、V相(白抜き一点鎖線で示してある)における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数に対して相違している状態になる。
【0040】
図6(a)に示すように、第2パターンで周波数応答解析を行った場合、U相(太実線で示してある)、V相(白抜き一点鎖線で示してある)、W相(点線で示してある)の伝達関数の形状が、V相では凹型から凸型になる形状、W相ではV相と略線対称な形状、U相ではV相とW相の中間状の形状となっている(交差曲線形双極状共振)。
【0041】
高圧巻線3と低圧巻線4にずれが生じていた場合、図6(b)に示すように、例えば、W相(点線で示してある)における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数が、U相(太実線で示してある)、V相(白抜き一点鎖線で示してある)における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数に対して相違している状態になる。
【0042】
第1パターンの場合、もしくは、第2パターンの場合において、U相、V相、W相における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数に相違が生じていると確認された場合、図4に示すように、伝達関数が相違していることが制御手段12に送られる。制御手段12では、U相、V相、W相における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数に相違が生じていることが入力されることで、高圧巻線3と低圧巻線4との間に軸方向の位置ずれが生じていると判定する。
【0043】
即ち、U相、V相、W相における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数を第1パターン、もしくは/及び、第2パターンで測定し、U相、V相、W相における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数に相違が生じている際に、高圧巻線3と低圧巻線4との間に軸方向の位置ずれが生じていると判定される。
【0044】
例えば、雷サージの侵入により地絡が発生した変圧器に対し、U相、V相、W相における高圧巻線と低圧巻線の間の伝達関数を測定した結果、U相、V相、W相における高圧巻線と低圧巻線の間の伝達関数に相違が生じていることが測定されている。そして、U相、V相、W相における高圧巻線と低圧巻線の間の伝達関数に相違が生じていることが測定された変圧器に対し、実際に、高圧巻線と低圧巻線との間に位置ずれが生じていることが確認されている。
【0045】
このため、多くの過去のデータを参照して複雑な処理を行うことなく、高圧巻線3と低圧巻線4の位置ずれを判定することができる。従って、きわめて簡単な処理で、異なる接地による測定により、種々の変圧器の巻線の位置ずれを把握することが可能になる。
【0046】
一方、図4に示すように、制御手段12は、時間経過による変圧器の劣化状況が記憶される記憶機能15と、判定された位置ずれの状況に基づいて、記憶機能15に記憶された劣化状況を補正する補正機能16とを有している。これにより、制御手段12では、高圧巻線3と低圧巻線4との間の位置ずれが判定されると共に、位置ずれに応じた劣化状況が判定される。
【0047】
具体的には後述するが、記憶機能15には、劣化状況として、値が高くなるにしたがって変圧器(機器)の故障の確率が高くなる、即ち、絶縁物(絶縁紙やプレスボード)の熱劣化による強度低下や、寸法収縮による発生機械力の増加を考慮した指標がリスク指標として定義され、変圧器のリスク指標の経時変化が設定されている。そして、補正機能16は、高圧巻線3と低圧巻線4との間の位置ずれが判定された際に、リスク指標の値を高く補正して変圧器の故障の確率が高くなる状態に変更するようになっている。
【0048】
このため、変圧器の故障の確率が高くなる指標であるリスク指標の経時変化に基づいて、劣化の判定を行うことができ、高圧巻線3と低圧巻線4との間の位置ずれが判定された際には、リスク指標を高く補正して変圧器の故障の確率が高くなっている状態にして劣化の判定を行うことができる。
【0049】
図7に基づいてリスク指標の経時変化(経年の変化)を具体的に説明する。図7の縦軸には変圧器の故障の確率が高くなる指標であるリスク指標を示してある。リスク指標が大きくなるにしたがって故障の確率が高くなることを表し、例えば、絶縁物(絶縁紙やプレスボード)の熱劣化による強度低下や、寸法収縮による発生機械力の増加により破損が生じる虞がある限界の指標Pが設定されている。
【0050】
変圧器は、絶縁物(絶縁紙やプレスボード)の熱劣化による強度低下や、寸法収縮による発生機械力の増加等により経年で劣化が進行する。つまり、図に実線で示すように、新品の変圧器に対し、時間(時期)の経過と共に(経年と共に)リスク指標が大きくなっている。そして、新品の変圧器は、時期Y4(例えば、80年)でリスク指標の限界の指標Pに達して寿命に到達することが評価される。
【0051】
時期Y1(例えば、30年)で高圧巻線3と低圧巻線4との間の位置ずれが判定された場合、図に点線で示すように、リスク指標を高く補正して(指標がh1だけ高くなるように補正して)変圧器の故障の確率が高くなっている状態にする。これにより、時期Y1に高圧巻線3と低圧巻線4との間の位置ずれが判定された変圧器は、時期Y3(時期Y4よりも早い時期)でリスク指標の限界の指標Pに達して寿命に到達することが評価される。
【0052】
時期Y2(例えば、60年)で高圧巻線3と低圧巻線4との間の位置ずれが判定された場合、図に一点鎖線で示すように、リスク指標を高く補正して(指標がh2だけ高くなるように補正して)変圧器の故障の確率が高くなっている状態にする。これにより、時期Y2に高圧巻線3と低圧巻線4との間の位置ずれが判定された変圧器は、時期Y3でリスク指標の限界の指標Pに達して寿命に到達することが評価される。
【0053】
上述した実施例では、U相、V相、W相における高圧巻線3と低圧巻線4の間の伝達関数の相違に基づいて、高圧巻線3と低圧巻線4との間の軸方向の位置ずれが判定されると共に、高圧巻線3と低圧巻線4との位置ずれに応じて、リスク指標が高く補正される。
【0054】
このため、きわめて簡単な処理で、異なる接地による計測により、種々の変圧器の巻線の位置ずれを把握することが可能になると共に、変圧器の強度の低下が進んでいる状態で的確に劣化の判定(寿命の評価)を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は変圧器の評価装置、及び、変圧器の評価方法の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 変圧器
2 鉄心
3 高圧巻線
4 低圧巻線
5 測定手段
11 判断手段
12 制御手段
15 記憶機能
16 補正機能
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7