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特開2022-167147フラビウイルスに対する月桃由来の抗ウイルス剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167147
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】フラビウイルスに対する月桃由来の抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/9062 20060101AFI20221027BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/351 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A61K36/9062
A61P31/14
A61K31/351
A61K31/353
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072738
(22)【出願日】2021-04-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(71)【出願人】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 美加
(72)【発明者】
【氏名】関根 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】鳴坂 義弘
(72)【発明者】
【氏名】鳴坂 真理
(72)【発明者】
【氏名】畑中 唯史
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA07
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
4C088AB81
4C088AC05
4C088BA08
4C088BA09
4C088CA02
4C088CA03
4C088CA05
4C088CA15
4C088CA17
4C088NA14
4C088ZB33
(57)【要約】
【課題】本発明は、月桃抽出物を含む、デングウイルスや日本脳炎ウイルスなどのフラビウイルスに対する抗ウイルス剤を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、月桃抽出物を含む、デングウイルスや日本脳炎ウイルスなどのフラビウイルスに対する抗ウイルス剤であり、月桃抽出物とは、月桃から得られる絞り汁、煮汁、蒸留水である。月桃抽出物は、直接ウイルスに対して作用(殺ウイルス作用)する機序と、吸着段階、吸着後の段階に作用する機序の両方で、デング1、2、3、4型ウイルス及び日本脳炎ウイルスに対して抗ウイルス効果を得られる。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
月桃抽出物を含む、フラビウイルスに対する抗ウイルス剤。
【請求項2】
月桃抽出物を含む、デングウイルスまたは日本脳炎ウイルスに対する抗ウイルス剤。
【請求項3】
月桃の絞り汁を含む、デングウイルスまたは日本脳炎ウイルスに対する抗ウイルス剤。
【請求項4】
月桃の煮汁を含む、デングウイルスまたは日本脳炎ウイルスに対する抗ウイルス剤。
【請求項5】
月桃の煮汁から得た蒸留水を含む、デングウイルスまたは日本脳炎ウイルスに対する抗ウイルス剤。
【請求項6】
分画分子量が10kDa以上である限外濾過膜により濃縮して得られる月桃の煮汁を含む、デングウイルスまたは日本脳炎ウイルスに対する抗ウイルス剤。
【請求項7】
5,6-Dehydrokawain(DK)または7,8-dihydro-5,6-dehydrokawain(DDK)を有効成分とする、デングウイルスに対する抗ウイルス剤。
【請求項8】
プロアントシアニジンを有効成分とする、デングウイルスに対する抗ウイルス剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、月桃抽出物を含むフラビウイルスに対する抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスは、デングウイルス(Dengue virus)、日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus)、西ナイルウイルス(West Nile virus)、黄熱ウイルス(Yellow fever virus)、ジカウイルス(Zika virus)、マレー渓谷脳炎ウイルス(Murray Valley encephalitis virus)、セントルイス脳炎ウイルス(St. Louis encephalitis virus)、ダニ媒介性脳炎ウイルス(Tick-borne encephalitis virus)などが知られている。
【0003】
この中でも、デングウイルスは、公衆衛生上重要な蚊媒介性感染症であるデング熱の病原体であるが、近年、デングウイルス感染症は、その範囲を急速に拡大しており、世界人口の約半数が感染リスクにあり、30年間で患者数は50倍になっている。
また、デングウイルスは、1型、2型、3型、4型が存在し、複数回感染することが起こり得るうえ、過去に感染したhetero-typeの抗体が増幅促進抗体(ADE)として働くことで、重症化のリスクを高めることが知られている。
【0004】
デングウイルスの複数の型が確認されている国は、30年前には7カ国であったが、現在では127カ国にまで増加しており、重症化デング(デング出血熱、デングショック症候群)の発生も増加している。
2014年に東京代々木公園を中心に流行したデング熱(患者数162名、重傷者0名、死亡0名)は記憶に新しいが、翌年2015年には、台湾で4万人以上の患者と約200名の死者を出している。
また、2020年8月時点で、シンガポールでは過去最悪の患者数25000人以上を記録しているなど、東南アジアを中心に大流行が報告されている。
屋内に生息する蚊(ネッタイシマカ)の吸血により感染することから、Covid-19パンデミック禍での巣篭もり行動様式との関連が示唆されている。
日本においても、デング熱は、グローバル化の影響を受けやすく、人と物の移動の促進が見込まれるCovid-19パンデミック収束後、最も警戒すべき感染症である。
【0005】
また、日本脳炎ウイルスは、かつて、その死亡率と重篤な後遺症をもたらすことから、公衆衛生上、大きな問題であった。
現在、日本では、日本脳炎の患者数は年間10人以下で推移しているが、世界では、アジアを中心に年間3~4万人の患者報告があり、依然として公衆衛生上の問題であり続けている。
【0006】
現在、デングウイルスには、承認された特異的治療薬またはワクチンがなく、その開発が求められている。
また、日本脳炎には、ワクチンがあるものの、特異的治療薬はない。
【0007】
昔から沖縄で抗菌防虫効果に優れたものとして珍重されてきた月桃(Alpinia zerumbet、ショウガ科ハナミョウガ属(アルピニア属))が、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)や植物ウイルスに対して効果があることが知られており、その抗ウイルス作用が期待されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、月桃からの特定の抽出画分が、植物ウイルス病等によって引き起こされる様々な植物病害に対して、優れた防除効果を有することが開示されている。
しかしながら、月桃抽出物が、デングウイルス、日本脳炎ウイルスなどのフラビウイルスに対する抗ウイルス効果を有することは、明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-002016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、未だ抗ウイルス作用がほとんど報告されていないデングウイルス、日本脳炎ウイルスを含むフラビウイルスに対する安全な治療薬、予防薬、消毒薬を提供するため、月桃抽出物を含むフラビウイルスに対する抗ウイルス剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、月桃抽出物を含むフラビウイルスに対する抗ウイルス剤である。
特に、デングウイルス及び日本脳炎ウイルスに対して抗ウイルス効果を有する医薬である。
月桃抽出物とは、月桃から得られる絞り汁、煮汁、蒸留水であり、本発明にかかる抗ウイルス剤は、これらの月桃抽出物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
月桃抽出物を含む、デングウイルス、日本脳炎ウイルスなどのフラビウイルスに対する抗ウイルス剤は、直接ウイルスに対して作用(殺ウイルス作用)する機序と、吸着後の段階に作用する機序の両方で、1~4型のデングウイルスと、日本脳炎ウイルスに対して、抗ウイルス効果を得られた。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】免疫染色法(immunostaining method)の原理を説明するイメージ図
図2】フォーカス法による実験手順の概要を示す図
図3】ウイルス混合液を細胞に接種したプレートを免疫染色後に撮影した顕微鏡写真(左:月桃抽出物無添加、右:月桃抽出物(絞り汁(10倍希釈))添加)
図4】デング1型ウイルスに対する月桃抽出物の抗ウイルス効果を示すグラフ
図5】デング2型ウイルスに対する月桃抽出物の抗ウイルス効果を示すグラフ
図6】デング3型ウイルスに対する月桃抽出物の抗ウイルス効果を示すグラフ
図7】デング4型ウイルスに対する月桃抽出物の抗ウイルス効果を示すグラフ
図8】日本脳炎ウイルスに対する月桃抽出物の抗ウイルス効果を示すグラフ
図9】デング2型ウイルスに対する月桃抽出物(1000倍希釈絞り汁)の抗ウイルス効果を示すグラフ
図10】デング2型ウイルスに対する月桃抽出物(100倍希釈煮汁)の抗ウイルス効果を示すグラフ
図11】デング2型ウイルスに対する月桃抽出物(100倍希釈蒸留水)の抗ウイルス効果を示すグラフ
図12】月桃抽出物(絞り汁(x10))をウイルスが細胞に感染する前に添加したときのデング2型ウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフ
図13】月桃抽出物(絞り汁(x10))をウイルスが細胞に吸着した時に添加したときのデング2型ウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフ
図14】月桃抽出物(絞り汁(x10))をウイルスが細胞に感染した後に添加したときのデング2型ウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフ
図15】月桃抽出物(煮汁))をウイルスが細胞に感染する前に添加したときのデング2型ウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフ
図16】月桃抽出物(煮汁)をウイルスが細胞に吸着した時に添加したときのデング2型ウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフ
図17】月桃抽出物(煮汁)をウイルスが細胞に感染した後に添加したときのデング2型ウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフ
図18】5,6-Dehydrokawain(DK)、7,8-dihydro-5,6-dehydrokawain(DDK)のデング2型ウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフ
図19】プロアントシアニジンのデング2型ウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフ
図20】月桃抽出物(煮汁)の限外濾過分画物(高分子画分(1倍希釈)と低分子画分(1倍希釈))のデング2型ウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフ
図21】月桃抽出物(煮汁)の限外濾過分画物(高分子画分(100倍希釈)と低分子画分(100倍希釈))のデング2型ウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフ
図22】月桃抽出物(煮汁)の限外濾過分画物(高分子画分(1倍希釈)と高分子画分(100倍希釈))のデング2型ウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフ
図23】月桃抽出物(絞り汁(10倍希釈(x10))、煮汁、蒸留水)のBHK-21細胞に対する毒性試験結果を示すグラフ
図24】月桃抽出物(絞り汁(10倍希釈(x10))、煮汁、蒸留水)のVero細胞に対する毒性試験結果を示すグラフ
図25】月桃抽出物(絞り汁(10倍希釈(x10))、煮汁、蒸留水)のHep2細胞に対する毒性試験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の効果を確認するため、次の条件で実験を行った。
【0015】
1.月桃抽出物
次の3つの方法で、月桃抽出物を得た。
(1) 絞り汁
ショウガ科ハナミョウガ属の月桃(ゲットウ)(以下、単に「月桃」という。)の茎葉部分を圧搾機(YBK-2型、ヤビク農機具製作所)に投入し、水を添加することなく、月桃から抽出される液を回収して遠心機(6000rpm、5分間)により夾雑物を除去し、上清を濾紙及び孔径0.22μmのフィルター(TPP社製)によって濾過した。得られた液を「絞り汁」とした。
(2)煮汁
7.6kgの月桃の茎と葉に10Lの水を加えて2時間煮沸したあと、植物残渣を除いた液体を濾過滅菌したものを「煮汁」とした。
(3)蒸留水
前記の煮汁を蒸留し、油層と水層に分離した蒸留液のうち最初の1時間の蒸留によって得られた水層を濾過滅菌したものを「蒸留水」とした。
【0016】
2.月桃成分
月桃に含まれる次の成分を使用した。
(1)5,6-Dehydrokawain(富士フィルム和光純薬)
(2)7,8-dihydro-5,6-dehydrokawain(富士フィルム和光純薬)
(3)プロアントシアニジン(Proanthocyanidin)
【0017】
絞り汁を、透析膜として分画分子量3,500の膜(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、SnakeSkin Pleated Dialysis Tubing)にいれ、蒸留水(4リットル×3回)に対して透析して得られた透析内液を凍結乾燥し、これによって得た乾燥物を、「プロアントシアニジン」(Proanthocyanidin)とした。
プロアントシアニジンの純度の検定は、沖らの報告(沖智之ら、Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi Vol.60, No6, 301-309(2013))に記載された4-ジメチルアミノシンナムアルデヒド(DMAC)を用いる方法におおむね従った。
すなわち、別途精製して得た検量線用プロアントシアニジン水溶液(10mg/ml)を、アッセイ溶液A(エタノール:メタノール:2-プロパノール=90:5:5)で、20倍希釈したものを、さらにアッセイ溶液B(アッセイ溶液A:水=95:5)で、2倍希釈系列を作成し、検量線用サンプルとした。絞り汁から得た凍結乾燥物を蒸留水にて5mg/mlに溶解したものを、アッセイ溶液A(エタノール:メタノール:2-プロパノール=90:5:5)で20倍希釈し、測定用サンプルXとした。また、測定用サンプルXを、アッセイ溶液Bで、2倍および4倍希釈したものを、測定用サンプルYおよびZとした。濃塩酸(3ml)を上記アッセイ溶液A(27ml)に添加し、氷上で15分間冷却した溶液にDMAC(30mg)を添加して攪拌により溶解し、使用直前まで氷上で保管した(DMAC溶液)。96穴マイクロプレートのウェルに検量線用および測定用サンプルをそれぞれ40μl分注し、8連マイクロピペッターを用いて、サンプルを添加したウェルにDMAC溶液を200μl添加した。次いで、プレート上面にプレートシールを貼付し庫内温度を30℃に設定したプレートリーダー中で攪拌して20分間放置後、各ウェルの640nmにおける吸光度を測定した。検量線用サンプルから得られた吸光度値と濃度から検量線を作成し、測定用サンプルX、Y、Zに含まれるプロアントシアニジン濃度の平均濃度と、凍結乾燥物を溶解した濃度(5mg/ml)から、絞り汁から得た凍結乾燥物のプロアントシアニジンの純度を78.8%と換算した。
【0018】
検量線用プロアントシアニジン水溶液の調整法:月桃の茎葉の搾汁液(120ml)を、逆相担体(日本ウォーターズ(株)製Sep-Pak C18(35cc))にかけ、超純水(100ml)で洗浄した後、20%アセトニトリル(100ml)で溶出した画分を得た。得られた画分に含まれるアセトニトリルを、エバポレーター(50℃、15分間)にて留去したのち、残った溶液を、分画分子量10,000の透析膜(スペクトラム社製)に入れ、蒸留水(4リットル×4回)に対して透析した。得られた透析内液を凍結乾燥(4日間)し、月桃由来プロアントシアニジン精製物(492.7mg)を得た。この精製物を検量線用プロアントシアニジン水溶液とした。
【0019】
3.使用ウイルス
抗ウイルス効果を確認するため、次のフラビウイルスを使用した。
(1)デング1型ウイルス(DENV1) Hawaiian株(プロトタイプ)
(2)デング2型ウイルス(DENV2) New Guinea B株(プロトタイプ)
(3)デング3型ウイルス(DENV3) H-87株(プロトタイプ)
(4)デング4型ウイルス(DENV4) H-241株(プロトタイプ)
(5)日本脳炎ウイルス Beijing株(ワクチン株)
【0020】
4.使用細胞その他
(1)細胞
BHK-21細胞(ハムスター腎細胞)
Vero細胞(アフリカミドリザル腎細胞)
Hep2細胞(HeLa deviation)(ヒト喉頭癌細胞)
細胞はインキュベータで培養(37度5%CO2)した。
(2)培養液 Eagle’s MEM
(3)継代培養に用いた培養液 8%FBS(ウシ胎仔血清)加MEM
(4)培養培地に用いた培養液 2%FBS(ウシ胎仔血清)加MEM
(5)免疫染色用抗体
ア.一次抗体 anti DENV1 polyclonal hyperimmune mouse antibody(作製)
anti DENV2 polyclonal hyperimmune mouse antibody(作製)
anti DENV3 polyclonal hyperimmune mouse antibody(作製)
anti DENV4 polyclonal hyperimmune mouse antibody(作製)
anti Beijing polyclonal hyperimmune rabbit antibody(作製)
イ.二次抗体 Peroxidase conjugated anti mouse antibody (American qualex, CA)
Peroxidase conjugated anti rabbit antibody (American qualex, CA)
ウ.発色試薬 diaminobenzidine (sigma, MO)
【0021】
5.試験手順と結果
(1)濾過滅菌(0.8um filter, Millipore)した月桃抽出物(絞り汁(10倍希釈(x10))、煮汁、蒸留水)の階段希釈液(希釈液2%FBS加MEM、各50μL)を、各ウェル100ffu(「ffu」は、フォーカス形成単位を示し、数字は、フォーカスを形成することのできるウイルス粒子の数を示す。)に調整したウイルス液(デング1、2、3、4型ウイルス、日本脳炎ウイルス)50μLに添加して混合液とし、37℃で1時間静置後、混合液25μL/wellをBHK-21細胞に接種した。接種後、一時間半静置後、各ウェルに希釈液を100μL添加した。
さらに、37℃で48時間静置後、免疫染色(図1)を行い、ウイルス感染価をフォーカス法(図2の方法A)により測定した。
図3は、月桃抽出物を添加していないウイルス液(デング2型ウイルス)12.5μL/wellを細胞に接種したプレートと、絞り汁(10倍希釈(x10))12.5μLを混合したウイルス液(デング2型ウイルス)12.5μL/wellを細胞に接種したプレートを、免疫染色を行った後で撮影した顕微鏡写真(倍率約7倍)である。
写真中の黒く見えるのがフォーカスを形成したウイルス感染細胞である。
そして、月桃抽出物無添加のときのフォーカス形成数を100%とし、フォーカス形成率で抗ウイルス効果を判定した。
(2)図4~8は、(1)のデング1、2、3、4型ウイルスと日本脳炎ウイルスに対する実験の結果を示したグラフである(煮汁、蒸留水の階段希釈液は、37希釈の測定値までしか実験をしていない。)。
図4~8のグラフのとおり、絞り汁、煮汁、蒸留水の全ての月桃抽出物が、デング1、2、3、4型ウイルス、日本脳炎ウイルスに対して抗ウイルス効果を有し、抗ウイルス効果との間に用量依存関係が見られた。
なお、絞り汁だけは、抗ウイルス効果が高かったため、あらかじめ10倍に希釈したものをもとに、階段希釈した(10倍未満の希釈では、フォーカスが形成されなかったため。)。
(3)次に、月桃抽出物の影響を減らすため、上記(1)の実験で使用した月桃抽出物を100倍に希釈してからウイルスに接種して、ウイルス感染価をフォーカス法(図2の方法B)により測定した。
月桃抽出物を100倍に希釈して、細胞に対する影響を少なくすることで、月桃抽出物の抗ウイルス作用が、ウイルスが細胞に吸着した後に作用したものか、ウイルスに対して直接作用したものかを確認した。
(4)濾過滅菌(0.8um filter, Millipore)した月桃抽出物(絞り汁(10倍希釈(x10))、煮汁、蒸留水)の階段希釈液(希釈液2%FBS加MEM、各50μL)を、10,000ffu/well(100倍感染価)に調整したウイルス液(デング2型ウイルス)50μLに添加して混合液とし、37℃で1時間静置後、細胞への作用を少なくするため、混合液を100倍に希釈(絞り汁(1000倍希釈(x1000))、煮汁(100倍希釈(x100))、蒸留水(100倍希釈(x100)))してから、100倍希釈混合液をBHK-21細胞に接種した。接種後、一時間半静置後、各ウェルに希釈液を100μL添加した。
そして、37℃で48時間静置後、免疫染色を行い、ウイルス感染価をフォーカス法により測定した。
月桃抽出物無添加のときのフォーカス形成数を100%とし、フォーカス形成率で抗ウイルス効果を判定した。
(5)図9~11は、(4)のデング2型ウイルスに対する実験の結果を示したグラフである。
図中の有意差は、t検定で判定し、p<0.05* , p<0.01**として、グラフ内に表した。
図9~11のグラフから、絞り汁10x33~36、煮汁33~35、蒸留水30で有意差が認められた。
特に、絞り汁と煮汁は、直接ウイルスに作用して不活化させる機序と、ウイルスが細胞に吸着した後の段階で作用して不活化させるウイルスの感染を抑制する機序の2段階で、抗ウイルス効果を示すと考えられる。
なお、絞り汁は、抗ウイルス効果が高かったため、あらかじめ10倍に希釈したものをもとに、階段希釈した(10倍未満の希釈では、フォーカスが形成されなかったため。)。
【0022】
6.接種時期別の抗ウイルス効果の違いを確認する実験
(1)月桃抽出物が、どのタイミングでウイルスに作用するかを調べるため、月桃抽出物を添加するタイミングを、ア)ウイルスが細胞に感染する前、イ)ウイルスが細胞に吸着した時、ウ)ウイルスが細胞に感染した後、の3に分けて、次の実験を行った。
ア.階段希釈した月桃抽出物(濾過滅菌(0.8um filter, Millipore)した絞り汁(10倍希釈(x10))と煮汁)各12.5μLをBHK-21細胞に添加し、37℃で1時間静置後、添加した月桃抽出物をBHK-21細胞から取り除き、100ffu/wellに調整したウイルス液(デング2型ウイルス)12.5μLをBHK-21細胞に接種した。接種後、一時間半静置後、各ウェルに希釈液を100μL添加した。
さらに、37℃で48時間静置後、免疫染色を行い、ウイルス感染価をフォーカス法により測定した。月桃抽出物無添加のときのフォーカス形成数を100%とし、フォーカス形成率で抗ウイルス効果を判定した。
イ.階段希釈した月桃抽出物(濾過滅菌(0.8um filter, Millipore)した絞り汁(10倍希釈(x10))と煮汁)各12.5μLをBHK-21細胞に添加し、37℃で1時間静置後、添加した月桃抽出物を取り除かずに、100ffu/wellに調整したウイルス液(デング2型ウイルス)12.5μLをBHK-21細胞に接種した。接種後、一時間半静置後、各ウェルに希釈液を100μL添加した。
さらに、37℃で48時間静置後、免疫染色を行い、ウイルス感染価をフォーカス法により測定した。月桃抽出物無添加のときのフォーカス形成数を100%とし、フォーカス形成率で抗ウイルス効果を判定した。
ウ.100ffu/wellに調整したウイルス液(デング2型ウイルス)12.5μLをBHK-21細胞に接種して、37℃で1時間静置後、接種したウイルス液(デング2型ウイルス)をBHK-21細胞から取り除き、BHK-21細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した後、月桃抽出物(濾過滅菌(0.8um filter, Millipore)した絞り汁(10倍希釈(x10))と煮汁)各12.5μLの階段希釈液をBHK-21細胞に添加した。接種後、一時間半静置後、各ウェルに希釈液を100μL添加した。
さらに、37℃で48時間静置後、免疫染色を行い、ウイルス感染価をフォーカス法により測定した。月桃抽出物無添加のときのフォーカス形成数を100%とし、フォーカス形成率で抗ウイルス効果を判定した。
【0023】
(2)図12~14は、(1)の絞り汁(10倍希釈(x10)についてのアからウの実験結果を示すグラフであり、図15~17は、(1)の煮汁についてのアからウの実験結果を示すグラフである。絞り汁(10倍希釈(x10)、煮汁ともに、ウイルスの感染前と吸着段階に働き、ウイルスの増殖を抑制する効果が見られたが、ウイルスの吸着後の段階でウイルスの増殖を抑制する効果は少なかったことが確認できた。
【0024】
7.5,6-Dehydrokawain(DK)と7,8-dihydro-5,6-dehydrokawain(DDK)の抗ウイルス効果を確認する実験
(1)月桃に含まれていることが知られている5,6-Dehydrokawain(DK)、7,8-dihydro-5,6-dehydrokawain(DDK)の階段希釈液(希釈液2%FBS加MEM、各50μL)を、各ウェル100ffuに調整したウイルス液(デング2型ウイルス)50μLに添加して混合液とし、37℃で1時間静置後、混合液25μL/wellをBHK-21細胞に接種した。接種後、一時間半静置後、各ウェルに希釈液を100μL添加した。
さらに、37℃で48時間静置後、免疫染色を行い、ウイルス感染価をフォーカス法により測定した。
そして、5,6-Dehydrokawain(DK)、7,8-dihydro-5,6-dehydrokawain(DDK)を添加しないときのフォーカス形成数を100%とし、フォーカス形成率で抗ウイルス効果を判定した。
(2)図18は、(1)の実験の結果を示したグラフである。
5,6-Dehydrokawain(DK)と7,8-dihydro-5,6-dehydrokawain(DDK)は、抗ウイルス効果との間に用量依存関係が見られた。
【0025】
8.プロアントシアニジンの抗ウイルス効果を確認する実験
(1)月桃に含まれていることが知られているプロアントシアニジン(月桃の絞り汁を精製して純度を78.8%まで純化したもの。)の階段希釈液(希釈液2%FBS加MEM、各50μL)を、各ウェル100ffuに調整したウイルス液(デング2型ウイルス)50μLに添加して混合液とし、37℃で1時間静置後、混合液25μL/wellをBHK-21細胞に接種した。接種後、一時間半静置後、各ウェルに希釈液を100μL添加した。
さらに、37℃で48時間静置後、免疫染色を行い、ウイルス感染価をフォーカス法により測定した。
そして、プロアントシアニジンを添加しないときのフォーカス形成数を100%とし、フォーカス形成率で抗ウイルス効果を判定した。
(2)図19は、(1)の実験の結果を示したグラフである。
プロアントシアニジンは、抗ウイルス効果との間に用量依存関係が見られた。
【0026】
9.月桃抽出物の限外濾過分画物の抗ウイルス効果を確認する実験
(1)月桃抽出物である煮汁を、Amicon(登録商標)Ultra-4 10K遠心式フィルターデバイス(Merck Millipore Ltd. アイルランド製)を用いて限外濾過した。フィルターデバイスで濾過された画分(分子量≦10kDa)を低分子画分、フィルターデバイス上に残留した画分(分子量≧10kDa)を高分子画分として得た。
この分画物(高分子画分(分子量≧10kDa)、低分子画分(分子量≦10kDa))の階段希釈液(希釈液2%FBS加MEM、各50μL)を、各ウェル100ffuに調整したウイルス液(デング2型ウイルス)50μLに添加して混合液とし、37℃で1時間静置後、混合液25μL/wellをBHK-21細胞に接種した。接種後、一時間半静置後、各ウェルに希釈液を100μL添加した。
さらに、37℃で48時間静置後、免疫染色を行い、ウイルス感染価をフォーカス法により測定した。
そして、分画物を添加しないときのフォーカス形成数を100%とし、フォーカス形成率で抗ウイルス効果を判定した。
(2)図20~22は、(1)の実験の結果を示したグラフである。
図20は、煮汁の限外濾過分画物である高分子画分(1倍希釈)と低分子画分(1倍希釈)の抗ウイルス効果を測定した結果、図21は、高分子画分(100倍希釈)と低分子画分(100倍希釈)の抗ウイルス効果を測定した結果、図22は、高分子画分(1倍希釈)と高分子画分(100倍希釈)の抗ウイルス効果を測定した結果である。
煮汁の限外濾過分画物である高分子画分と低分子画分を比較すると、高分子画分の方が、抗ウイルス効果が高いことを確認できた。また、煮汁の高分子画分は、絞り汁、煮汁と同様に、直接ウイルスに作用して不活化させる機序と、ウイルスが細胞に吸着した後の段階で作用して不活化させるウイルスの感染を抑制する機序の2段階で、抗ウイルス効果を示すと考えられる。
【0027】
10.細胞毒性試験
(1)月桃抽出物(絞り汁(10倍希釈(x10))、煮汁、蒸留水)の細胞毒性について試験をするため、BHK-21細胞、Vero細胞、Hep2細胞の各細胞を、各5000cells/wellに調整し、月桃抽出物を添加する24時間前から96ウェルプレートで培養してから、月桃抽出物(絞り汁(10倍希釈(x10))、煮汁、蒸留水)の階段希釈液(希釈液2%FBS加MEM)を、各ウェル10μLずつ添加して48時間培養後、生細胞数測定試薬SF(WST-8,nacalai tesque,京都市)を各ウェル10μLずつ添加して2時間静置後、450nmの波長で吸光度測定を行なった。
月桃抽出物無添加の吸光度を100%とし、各細胞生残率を求めた。
(2)図23~25は、月桃抽出物(絞り汁(10倍希釈(x10))、煮汁、蒸留水)ごとに、BHK-21細胞、Vero細胞、Hep-2細胞に対する細胞毒性試験の結果を示したグラフである。
絞り汁(10倍希釈(x10))、煮汁、蒸留水のいずれも、BHK-21細胞、Hep-2細胞に対しては、毒性は認められなかった。
絞り汁は、高濃度でVero細胞に対する濃度依存性の毒性が認められたが、10x32倍以上では認められなかった。
煮汁、蒸留水は、Vero細胞に対する毒性は認められなかった。
以上の結果から、BHK-21細胞を用いた月桃抽出物(絞り汁(10倍希釈(x10))、煮汁、蒸留水)の抗ウイルス効果は、BHK-21細胞に対する毒性によるものではないことを確認できた。
【0028】
11.考察
月桃抽出物は、絞り汁、煮汁、蒸留水のいずれも、デング2型ウイルスに対する抗ウイルス効果を示した。
特に、絞り汁は、細胞毒性が見られない希釈濃度(10x31~35)で、非常に高い抗ウイルス効果を示し、その作用段階は、直接ウイルスに対する作用(殺ウイルス作用)と、吸着段階、吸着後の段階に作用する機序で、抗ウイルス効果を示した。
また、月桃抽出物は、絞り汁、煮汁、蒸留水のいずれも、デング1型ウイルス、デング3型ウイルス、デング4型ウイルスに対して、抗ウイルス作用が認められた。
なお、日本脳炎ウイルスに対しては、月桃抽出物の絞り汁、煮汁で抗ウイルス効果が認められたが、蒸留水ではウイルスの増強反応が認められた。
したがって、月桃抽出物は、デング1、2、3、4型ウイルスに対して、抗ウイルス効果を発揮するから、月桃抽出物を含むデングウイルスに対する抗ウイルス剤として、安全に使用できる。

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