IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

<>
  • 特開-アルカリ電池用セパレータ 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167198
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】アルカリ電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/489 20210101AFI20221027BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20221027BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20221027BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20221027BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20221027BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20221027BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20221027BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20221027BHJP
   H01M 50/454 20210101ALI20221027BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20221027BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/417
H01M50/423
H01M50/429
H01M50/414
H01M50/44
H01M50/443 M
H01M50/451
H01M50/454
H01M50/434
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072834
(22)【出願日】2021-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 秀治
(72)【発明者】
【氏名】松本 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】川崎 修治
(72)【発明者】
【氏名】渡部 俊一郎
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021CC01
5H021CC04
5H021EE04
5H021EE05
5H021EE07
5H021EE11
5H021EE15
5H021EE21
5H021EE30
5H021HH00
(57)【要約】
【課題】本発明は、金属イオンのデンドライト生成を抑制し得る高い遮蔽性を有し、かつ、低抵抗なアルカリ電池用セパレータを提供することを目的とする。
【解決手段】セパレータ基材と、表面抵抗が1Ω/□以下である金属イオン遮断性膜とを含んでなる、アルカリ電池用セパレータ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータ基材と、表面抵抗が1Ω/□以下である金属イオン遮断性膜とを含んでなる、アルカリ電池用セパレータ。
【請求項2】
セパレータ基材は、ポリビニルアルコール系繊維、エチレン-ビニルアルコール系繊維、セルロース系繊維、ポリプロピレン繊維およびポリアミド繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項3】
金属イオン遮断性膜は、窒素吸着法によるBET比表面積が1m/g以上2500m/g以下である導電性物質を含む、請求項1または2に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項4】
導電性物質は、0.01Ω・cm以上5Ω・cm以下の粉体抵抗値を有する、請求項3に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項5】
導電性物質は、活性炭、低次酸化チタン、低次酸化ジルコニウム、カーボンブラック、黒鉛および難黒鉛化炭素からなる群より選択される、請求項3または4に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項6】
導電性物質は、中心粒子径D50が2000nm以下の活性炭である、請求項3~5のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルカリ電池では、正極活物質と負極活物質とを隔離するためのセパレータが用いられている。アルカリ電池用セパレータに求められる特性は、例えば、
-十分な起電反応を生じさせるための高い電解液保持性を有すること、
-アルカリ電池の電解液に対して収縮や変質を生じない化学安定性を有すること、
-イオン伝導を妨げないこと、
-電池内部に組み込まれた際、電池の搬送や携帯時の振動や落下等の衝撃により破損せず、内部短絡を引き起こさないこと、
など多岐にわたる。このような特性をセパレータに付与するために、様々な構成からなるセパレータが提案されており、例えば、特許文献1には、電解液補液性を高め、長期にわたるサイクル寿命特性や高温時の充放電特性を向上させることを目的として、セパレータ表面に酸化カルシウム、酸化アルミニウムなどの無機酸化物粒子を含む層が形成されたセパレータが開示されている。
【0003】
一次電池においてその材料として広く用いられる亜鉛は、鉛などに比べて、出力できる電圧が高く、電解液に水を使用できるため安全性に優れるなどの点から、近年、亜鉛を用いた二次電池、特に大容量の蓄電池の実用化に向けた開発が進んでいる。そのような亜鉛を用いた二次電池に利用するためのセパレータに求められる重要な特性の1つとして、負極の放電によって生成した亜鉛酸化物の針状結晶(デンドライト)による内部短絡を防止する特性がある。例えば、特許文献2~4では、デンドライト生成に起因する内部短絡が問題視されており、ポリビニルアルコール繊維やセルロース繊維等を主原料として、易溶解性ポリビニルアルコール繊維やポリアミンエピクロロヒドリン樹脂などの、繊維間の結着を高める作用を有する成分を加えたり、主体となる繊維の叩解度を高めたりすることにより、セパレータの緻密性や強度を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-124244号公報
【特許文献2】特開平2-119049号公報
【特許文献3】特開2012-54228号公報
【特許文献4】特開2006-4844豪公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2~4に記載されるようなセパレータは、セパレータの緻密性を高くすることによってセパレータ中への亜鉛イオンの移行を抑制し、それによりデンドライトの生成抑制効果を期待するものである。しかしながら、緻密性を高くすることによる亜鉛酸化物のデンドライト生成抑制効果は必ずしも十分に満足のいくものではなかった。また、セパレータの緻密性が高くなることにより、イオンの移動の阻害および電池内で発生した気泡によるセパレータの閉塞によりセパレータの電気抵抗が増加して電池の内部抵抗が上昇しやすくなり、デンドライト生成抑制効果をもたらす高い遮蔽性と、セパレータの低抵抗化とを同時に実現することは困難であった。
【0006】
本発明は、金属イオンのデンドライト生成を抑制し得る高い遮蔽性を有し、かつ、低抵抗なアルカリ電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]セパレータ基材と、表面抵抗が1Ω/□以下である金属イオン遮断性膜とを含んでなる、アルカリ電池用セパレータ。
[2]セパレータ基材は、ポリビニルアルコール系繊維、エチレン-ビニルアルコール系繊維、セルロース系繊維、ポリプロピレン繊維およびポリアミド繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]に記載のアルカリ電池用セパレータ。
[3]金属イオン遮断性膜は、窒素吸着法によるBET比表面積が1m/g以上2500m/g以下である導電性物質を含む、[1]または[2]に記載のアルカリ電池用セパレータ。
[4]導電性物質は、0.01Ω・cm以上5Ω・cm以下の粉体抵抗値を有する、[3]に記載のアルカリ電池用セパレータ。
[5]導電性物質は、活性炭、低次酸化チタン、低次酸化ジルコニウム、カーボンブラック、黒鉛および難黒鉛化炭素からなる群より選択される、[3]または[4]に記載のアルカリ電池用セパレータ。
[6]導電性物質は、中心粒子径D50が2000nm以下の活性炭である、[3]~[5]のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属イオンのデンドライト生成を抑制し得る高い遮蔽性を有し、かつ、低抵抗なアルカリ電池用セパレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例で用いた開放型の簡易ニッケル亜鉛二次電池の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0011】
本発明のアルカリ電池用セパレータは、セパレータ基材と、表面抵抗が1Ω/□以下である金属イオン遮断性膜とを含んでなる。絶縁性を有し、通常のアルカリ電池用セパレータとして機能するセパレータ基材に、表面抵抗が1Ω/□以下である金属イオン遮断性膜を備えることにより、本発明のアルカリ電池用セパレータは、放電により生成する金属イオンの対極への移動を抑制するとともに、金属イオンがイオン状態として安定して滞留するため、セパレータや対極における該金属の析出に対する高い抑制効果を発揮し得る。
【0012】
<セパレータ基材>
セパレータ基材としては、正極および負極の電極間の絶縁性を維持できるものであればよく、従来公知のアルカリ電池用セパレータを用いることができる。アルカリ性電解液に対する高い耐性を確保するため、本発明において、セパレータ基材は、少なくとも1種の耐アルカリ性繊維を含むことが好ましい。
【0013】
本発明において、耐アルカリ性繊維はアルカリに対する化学的な耐久性を呈する繊維を意味する。一般的に、耐アルカリ性繊維としては、例えば、耐アルカリ性合成繊維、耐アルカリ性セルロース系繊維等の耐アルカリ性有機繊維および耐アルカリ性ガラス繊維などの耐アルカリ性無機繊維等を挙げることができる。耐アルカリ性合成繊維は、ガラス繊維等の他の繊維と比較してアルカリ性電解液に対する溶出量が少ないため、アルカリ耐性が非常に高い。このため、セパレータ基材を構成する耐アルカリ性繊維として、耐アルカリ性合成繊維を含むことが好ましい。
【0014】
セパレータ基材を構成し得る耐アルカリ性合成繊維としては、例えば、ポリビニルアルコール系繊維、エチレン-ビニルアルコール系共重合体繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン-ポリエチレン複合繊維、ポリアミド-変性ポリアミド複合繊維等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
電解液との親和性に優れ、電解液中での溶解や収縮を生じ難いことから、本発明の一実施態様において、セパレータ基材は、ポリビニルアルコール系繊維、エチレン-ビニルアルコール系共重合体繊維、セルロース系繊維、ポリプロピレン繊維およびポリアミド繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含み、ポリビニルアルコール系繊維およびセルロース繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、ポリビニルアルコール系繊維を含むことがさらに好ましい。
【0016】
ポリビニルアルコール系繊維は、アルカリ性電解液に対して高い耐性を有しており、また電解液の吸液性にも優れているため、これを耐アルカリ性繊維として含むことにより、セパレータの耐アルカリ性および電解液保液性を向上させることができる。さらに、ポリビニルアルコール系繊維を用いることで、剛性が向上しやすく、電池内に配置されたセパレータの変形を抑えることができる。
【0017】
中でも、セパレータ基材が、耐アルカリ性繊維として水中溶解温度が90℃以上(例えば、90~200℃程度)、特に100℃以上(例えば100~150℃程度)のポリビニルアルコール系繊維を含むことが好ましい。より具体的には、平均重合度1000~5000、ケン化度95モル%以上のビニルアルコール系ポリマーから構成される繊維が好適である。ビニルアルコール系ポリマーは他の共重合成分により共重合されていてもよいが、この場合、耐水性等の点から共重合量は20モル%以下、特に10モル%以下であることが好ましい。
【0018】
セパレータ基材がポリビニルアルコール系繊維を含む場合、ポリビニルアルコール系繊維はビニルアルコール系ポリマーのみから構成されている必要はなく、他のポリマーを含んでいてもよい。他のポリマーとの複合紡糸繊維、混合紡糸繊維(海島繊維)等であってもよい。電解液保液性および機械的性能等の観点からは、ポリビニルアルコール系繊維の総質量に基づいて、ビニルアルコール系ポリマーを好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上含むポリビニルアルコール系繊維が好ましい。
【0019】
また、必要に応じてアセタール化等の処理が施されていてもよい。ポリビニルアルコール樹脂溶液から紡糸して得たポリビニルアルコール繊維をホルムアルデヒド等と反応させて、ポリビニルアルコール繊維の水酸基を化学的に架橋してアセタール化した繊維であるビニロン繊維は、ポリビニルアルコールの水酸基により、水溶液保液性に優れるだけでなく、アルカリ性電解液にほとんど溶解せず、電解液中で収縮や変質を生じ難く、セパレータの寸法変化を抑制することができるため、アルカリ電池用のセパレータ基材として好適である。したがって、本発明の一実施態様において、セパレータ基材はビニロン繊維を含むことが好ましい。
【0020】
本発明において、耐アルカリ性繊維の繊度は、遮蔽性、薄型化の点から3.3dtex以下が好ましく、1.1dtex以下がより好ましく、0.8dtex以下がさらに好ましい。また、抄紙性、内部圧力の増大を抑制する点から0.01dtex以上が好ましく、0.1dtex以上がより好ましい。また、繊維長は単繊維繊度に応じて適宜設定すればよいが、抄紙性等の点から繊維長1~10mmが好ましく、特に1~6mmとするのが好ましい。本発明においては、繊度および/または繊維長の異なる複数の繊維を組み合わせて用いてもよく、これにより抄紙により得られる紙の厚さを所望する厚さに制御することができ、セパレータとして必要とされる厚さを確保することができる。
なお、繊度および平均繊維長は、JIS L1015に従い、測定、算出することができる。
【0021】
本発明において、セパレータ基材を構成する少なくとも一部または全ての耐アルカリ性繊維がセルロース系繊維であっても構わない。特に叩解されたセルロース系繊維を含むことにより、例えば、耐アルカリ性合成繊維とバインダーにより形成される支持体に、叩解により細分化された極細の叩解セルロース繊維が絡合して、遮蔽性に優れるセパレータを得ることができる。
【0022】
セルロース系繊維としては、有機溶剤系セルロース繊維のフィブリル化物、マーセル化パルプ(天然木材繊維、コットンリンターパルプ、麻パルプなど)、再生セルロース繊維等が挙げられる。これらの耐アルカリ性セルロース系繊維は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本明細書において「有機溶剤系セルロース繊維」とは、後述する再生セルロース繊維とは異なり、セルロースを化学的に変化させることなく有機溶剤に溶解して得られる溶液から直接セルロースを析出させた繊維のことをいう。より具体的には、例えば、セルロースをアミンオキサイドに溶解させた紡糸原液を、水中に乾湿式紡糸してセルロースを析出させて得られた繊維をさらに延伸する方法で製造した有機溶剤紡糸セルロース繊維が挙げられる。このような繊維の代表例としてはリヨセルが挙げられ、これはオーストリアのレンチング社より「リヨセル」(登録商標)の商品名で販売されている。
【0024】
セパレータ基材が、セルロース系繊維として有機溶剤系セルロース繊維のフィブリル化物を含む場合、有機溶剤系セルロース繊維のフィブリル化物の濾水度は、特に制限されるものではないが、生産性の観点からCSF(カナダ標準濾水度:Canadian Standard Freeness)値で好ましくは0ml以上、より好ましくは5ml以上であり、また、遮蔽性付与の観点から好ましくは600ml以下、より好ましくは550ml以下である。
なお、前記濾水度は、JIS P8121「パルプの濾水度試験方法」に規定される測定方法で測定した値である。
【0025】
本発明において用い得るマーセル化パルプとしては、例えば、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、ユーカリパルプ、エスパルトパルプ、コットンリンターパルプ、パイナップルパルプ、マニラ麻パルプおよびサイザル麻パルプ等をマーセル化処理したものが挙げられる。中でも、膨潤抑制効果に優れ、かつ、比較的安価に入手し得る材料であることから、マーセル化パルプとしてはマーセル化天然木材繊維が好ましい。
【0026】
セパレータ基材が、セルロース系繊維としてマーセル化パルプを含む場合、その濾水度は、所望する物性に応じて選択することが出来るが、生産性の観点からCSF値で好ましくは50ml以上、より好ましくは100ml以上、さらに好ましくは150ml以上である。
なお、前記濾水度は、JIS P8121「パルプの濾水度試験方法」に規定される測定方法で測定した値である。
【0027】
未叩解の有機溶剤系セルロース繊維やマーセル化パルプを水に分散させ、ビーター、ディスクリファイナーまたは高速叩解機などの製紙用叩解機で所望の濾水度まで叩解することにより叩解セルロース繊維を得ることができる。中でも、リファイナーによる叩解処理は、ビーターまたは高速離解機等を用いて叩解する場合と比較して機械構造上叩解処理を施す繊維をうまく捕えることができ、目標とする濾水度(叩解度)まで短時間で効率よく叩解することができる。また、繊維が微細になり過ぎたり、逆に太い繊維が残ったりし難いので、繊維全体を均一に微細化することが可能である点でも有利である。
【0028】
本明細書において「再生セルロース繊維」とは、セルロースを化学的にセルロース誘導体に変換した後、再度セルロースに戻すことにより得られる繊維(以下、「再生セルロース繊維」という)を意味する。再生セルロース繊維としては、例えば、ビスコースレーヨン、ポリノジックレーヨン、強力レーヨン、銅アンモニアレーヨン等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。セルロース基材が耐アルカリ性繊維として再生セルロース繊維を含んで構成される場合には、抄紙後の紙の厚みを出しやすくなり、セパレータ基材の製造工程において、最終的に得られるセパレータ基材の有すべき厚みとして設定された厚さへの制御が容易になる。
【0029】
セパレータ基材における耐アルカリ性繊維の含有量は、セパレータの総質量に基づき、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。耐アルカリ性繊維の含有量が上記範囲内であると、セパレータに十分な耐衝撃性を付与しやすく、電池の搬送や携帯時の振動または落下による衝撃によってセパレータ自体が座屈して内部短絡を生じる可能性が低減されやすい。
【0030】
本発明において、セパレータ基材を構成する各繊維は、所望する物性等に応じて上記に例示したような繊維から適宜選択し、組み合わせることができる。耐アルカリ性繊維として、耐アルカリ性合成繊維とセルロース系繊維とを含んでもよい。例えば、セパレータ基材を構成する主体繊維が耐アルカリ性合成繊維、より好ましくはポリビニルアルコール系繊維と、場合によりセルロース系繊維、好ましくは叩解されたセルロース繊維とを含んでなることにより、遮蔽性に優れるセパレータ基材となる。セパレータ基材が耐アルカリ性合成繊維とセルロース系繊維とを含んでなる場合、それらの配合比率は特に限定されるものではなく、任意に組み合わせることができる。
【0031】
セパレータ基材は、バインダーを含んで構成されていてもよい。バインダーとしては、セパレータ基材を構成する主体繊維となる耐アルカリ性繊維を接着し得るものである限り特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルアルコール系バインダー、エチレン-ビニルアルコール系バインダー等が挙げられる。中でも、電解液に対する耐性、保液性等の観点からポリビニルアルコール系バインダーが好ましい。バインダーの形態としては、繊維状、粉末状、溶液状のものがあり、いずれを用いることもできるが、湿式抄造によってセパレータを抄造する場合は、繊維状バインダーが好ましい。繊維状バインダーは、乾燥前の持ち込み水分を下げる等の手段により、バインダーを完全に溶解させず、繊維形態を残したままバインダー繊維と、セパレータ基材を構成する耐アルカリ性繊維同士の交点のみを点接着させることが可能であり、これにより、電解液保液性の低下や電池内部抵抗の上昇を抑制しながら、セパレータ基材の強度を高めることができるためである。
【0032】
バインダーとしてポリビニルアルコール系バインダー繊維を用いる場合、その水中溶解温度としては、60~90℃が好ましく、さらに好ましくは70~90℃である。また、平均重合度は500~3000程度、ケン化度97~99モル%のポリビニルアルコール系ポリマーから構成された繊維が好適である。ポリビニルアルコール系バインダー繊維は、他のポリマーとの複合紡糸繊維、混合紡糸繊維(海島繊維)等であっても構わない。電解液の保液性、機械的性能等の点からはビニルアルコール系ポリマーを好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上を含むポリビニルアルコール系繊維が好ましい。繊度は、水分散性、他成分との接着性、ポアサイズ等の点から0.01~3dtex程度が好ましく、繊維長は1~5mm程度が好ましい。
【0033】
セパレータ基材におけるバインダーの含有量は、セパレータ基材の総質量に対して好ましくは5~20質量%である。バインダーの含有量が前記範囲内であると、セパレータ基材を構成する主体繊維となる耐アルカリ性繊維同士を十分に結着させやすく、セパレータ基材の機械的強度が向上しやすい。
【0034】
本発明において、セパレータ基材の通気度は、使用される電池の形態、組み合わせる電解質、電極などの構成によって適宜調整すべきものである。例えば、200cc/cm/sec以下が好ましく、100cc/cm/sec以下であってもよく、80cc/cm/sec以下であってもよい。また、50cc/cm/sec以下も好ましい一態様である。通気度は、セパレータ基材の緻密性を表し、遮蔽性の指標となる。通気度は、耐アルカリ性繊維の種類や繊度、各繊維の組み合わせおよびそれらの配合比率、用いる場合、叩解セルロース繊維の濾水度等を調整することにより制御することができる。通気度の値が低いとセパレータ基材は遮蔽性に優れ、セパレータとして電池に組み込まれた際により効果的に内部短絡を防止することができる。通気度の下限値は特に限定されないが、通常、例えば1cc/cm/sec以上である。
なお、通気度は、JIS L 1096 6.27「一般織物試験方法 通気性」に規定される測定方法に従って測定できる。
【0035】
セパレータ基材において、縦方向の引張強力は好ましくは2kg/15mm以上、より好ましくは2.5kg/15mm以上である。引張強力が上記下限以上であると、電池に組み込む際の工程張力に耐え得る機械的特性を備え、工程通過性が良好になるとともに、落下などの衝撃に対する十分な耐衝撃性を確保することができる。引張強力の上限は特に制限されるものではないが、通常、例えば7kg/15mm程度である。引張強力は、耐アルカリ性繊維の種類、各繊維の組み合わせおよびそれらの配合比率、バインダーの種類や配合量、抄紙後の湿紙の乾燥条件等を調整することにより制御することができる。
なお、「縦方向」とはセパレータ基材の製造時における長手方向(セパレータが搬送される方向に平行する方向)を意味し、引張強力は、例えば、JIS P8113に規定される方法に従って測定できる。
【0036】
セパレータ基材の目付や厚さは、組み込む電池の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば目付(設定値)は、好ましくは15~60g/mであり、より好ましくは20~50g/mである。
また、厚さは、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは25~150μmである。基材の厚みはレーザー顕微鏡や膜厚計等により測定でき、以下、金属イオン遮断性膜の厚みの測定も同様である。
【0037】
セパレータ基材は、公知の抄紙法を利用して製造することができる。例えば、耐アルカリ性繊維やバインダー等のセパレータ基材を構成する材料を混合、水中に分散させてスラリーを形成し、一般的な湿式抄紙法により湿紙を得る抄紙工程、および、得られた湿紙を乾燥させる乾燥工程を含む方法により製造することができる。
【0038】
<金属イオン遮断性膜>
本発明のアルカリ電池用セパレータは、表面抵抗が1Ω/□以下である金属イオン遮断性膜を含む。アルカリ電池用セパレータは、正極および負極の電極間の絶縁性を担保するために用いられるものであり、本来、ショートの原因となる導電性物質はセパレータに存在すべきものではない。これに対して本発明は、アルカリ電池用セパレータに導電性を有する金属イオン遮断性膜を積層することにより、負極の放電により生成する金属イオンをイオン状態として安定的に滞留させ、セパレータや対極における金属の析出(デンドライトの生成)を抑制することができる。また、導電性を有する金属イオン遮断性膜により金属イオンのデンドライト生成を抑制し得る高い遮蔽性を得られるので、遮蔽性を高めるために過度な緻密構造をとる必要がない上に、金属イオン遮断性膜が導電性を有していることによって、電池に組み込んだ際に内部抵抗値を低く維持する効果により優れる。
【0039】
本発明において「表面抵抗が1Ω/□以下である金属イオン遮断性膜」とは、表面抵抗が1Ω/□以下であり、かつ、負極の放電により生成する金属イオンを物理的な吸着、導電体による静電吸着などによりトラップして、金属イオンの対極への移動を遮断し得る膜(層)をいう(以下、単に「金属イオン遮断性膜」ともいう)。したがって、例えば、1Ω/□以下の表面抵抗を有する膜であっても、金属イオンをトラップする機能を果たさない金属箔の膜や、逆に、導電性を有しないイオントラップ性を有するポリマーから形成されるような膜などは本発明における「金属イオン遮断性膜」に含まれない。金属イオン遮断性膜により捕らえられる金属イオンは、セパレータが組み込まれる電池の電極の種類によって決まり、例えば、亜鉛イオン、ニッケル金属など負極の放電により生成し得る金属イオンを広く対象とすることができる。
【0040】
本発明の上記効果を十分に確保するために、本発明のアルカリ電池用セパレータにおいて、金属イオン遮断性膜は、通常、セパレータ基材の一方の面側に配置される。アルカリ電池用セパレータの一方の面に導電性を付与し、金属イオンを遮断する効果を発揮できる限り、セパレータ基材の一方の表面の一部に配置されても、一方の面の全面に配置されていてもよいが、局所的な電解集中を抑制するためには一方の面の全面に配置されていることが好ましい。
【0041】
金属イオン遮断性膜の表面抵抗は1Ω/□以下である。1Ω/□以下の低い電気抵抗により、放電により生成する金属イオンが局所的に還元または酸化されることなしに、金属イオンの状態として安定的に滞留することができる。このため、電解質である水酸化物イオン等の移動を妨げることなく、選択的に金属イオンの透過を抑制することができるとともに、セパレータや対極において金属酸化物がデンドライト化するのを抑制することができる。逆に、表面抵抗が1Ω/□を超えて高くなり過ぎると、アルカリ電池用セパレータに十分な導電性を付与できず、遮蔽性の向上や低抵抗化が難しくなる。遮蔽性向上や低抵抗化の観点から、金属イオン遮断性膜の表面抵抗は、好ましくは0.9Ω/□以下、より好ましくは0.8Ω/□以下である。金属イオン遮断性膜の表面抵抗の下限値は、低いほど好ましいが、電極に接触した場合の電界集中を回避する観点から、好ましくは0.01Ω/□以上、より好ましくは0.05Ω/□以上である。
なお、表面抵抗値は、表面電気抵抗測定器を用いてJIS K7194-1994 導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法に準じて測定することができる。詳細には、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0042】
金属イオン遮断性膜の表面抵抗は、金属イオン遮断性膜の組成、例えば材料として導電性物質を用い、該導電性物質の種類や配合量を調整する等により制御できる。
【0043】
本発明において金属イオン遮断性膜は、通常、導電性物質を含んで構成される。本発明のアルカリ電池用セパレータにおける金属イオン遮断性膜を構成する導電性物質としては、該膜に1Ω/□以下の表面抵抗をもたらすことができ、かつ、電池内に組み込んだ際に負極の放電により生成する金属イオンの対極への移動を抑制し得る物質であることが求められる。
【0044】
金属イオン遮断性膜に導電性を付与する観点から、金属イオン遮断性膜を構成する導電性物質は、好ましくは0.01Ω・cm以上5Ω・cm以下の粉体抵抗値を有する。前記範囲の粉体抵抗値を有する導電性物質を用いることにより、得られる膜の電気特性を制御しやすくなる。所望の電気特性を付与しやすいことから、金属イオン遮断性膜を構成する導電性物質の粉体抵抗値は、より好ましくは0.05Ω・cm以上、さらに好ましくは0.1Ω・cm以上であり、また、より好ましくは4Ω・cm以下、さらに好ましくは3Ω・cm以下である。
なお、粉体抵抗値は、JIS K 7194-1994 導電性プラスチックの4探針法により測定できる。詳細には、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0045】
金属イオン遮断性膜に金属イオンの対極への移動を抑制する機能を付与する観点から、金属イオン遮断性膜を構成する導電性物質の窒素吸着法によるBET比表面積は、1cm/g以上2500m/g以下であることが好ましい。BET比表面積が上記範囲であると、負極の放電により生成される金属イオンを物理的に吸着しやすく、金属イオンのデンドライト生成抑制効果を得やすい。金属イオンに対する吸着効果がより向上しやすいことから、金属イオン遮断性膜を構成する導電性物質のBET比表面積は、より好ましくは10cm/g以上、さらに好ましくは20cm/g以上、特に好ましくは50cm/g以上、とりわけ好ましくは100cm/g以上である。また、かさ密度が増加することにより、単位体積当たりにおいて高い吸着性能の発揮が期待できることから、より好ましくは0.8cm3/g以下、さらに好ましくは0.6cm3/g以下である。
なお、BET比表面積は窒素吸着法により算出することができ、後述する活性炭におけるBET比表面積の測定法等においても同様である。詳細には、後述の実施例に記載の方法により算出することができる。
【0046】
本発明において、金属イオン遮断性膜を構成する導電性物質は粒子状であることが好ましい。粒子状であると比表面積を大きくしやすく、金属イオンに対する高い吸着性能の発揮が期待できる。導電性物質が粒子状である場合(以下、粒子状の導電性物質を「導電性粒子」ともいう)、その中心粒子径D50は、好ましくは2000nm以下、より好ましくは1500nm以下、さらに好ましくは1000nm以下、特に好ましくは800nm以下、とりわけ好ましくは600nm以下である。中心粒子径D50が上記上限値以下であると、セパレータ基材上に導電性粒子を均一に存在させやすく、表面粗さが小さく薄膜の金属イオン遮断性膜を形成することができる。これにより、局所的な電解集中を防止でき、電解集中により生じるデンドライトの生成を回避し得る。また、導電性粒子の中心粒子径D50の下限値は、金属イオンに対する吸着性能の観点からは特に限定されるものではないが、吸着性能の確保と良好な塗布性とのバランスの観点からは、通常1nm以上であり、好ましくは10nm以上である。
【0047】
本発明において、導電性粒子の中心粒子径D50は、レーザー回折測定法または動的光散乱法にて測定可能な平均粒子径であり、体積粒度分布における中心粒子径(D50)を意味する。また、本発明での平均粒子径とは、一次粒子の平均粒子径を意味する。1~100μm程度の範囲に粒度分布を有する一般的な導電性粒子については、レーザー回折測定法によって高い精度で測定可能である一方、100~1000nm程度の範囲に粒度分布を有する導電性微粒子については、動的光散乱法によって比較的高い精度で測定が可能である。したがって、本発明においては、原則として、中心粒子径D50が1μmを超えるような導電性粒子に対してはレーザー回折測定法により測定を行い、中心粒子径D50が1μm未満となるような導電性微粒子に対しては動的光散乱法により測定を行った値を採用する。詳細には、導電性粒子の中心粒子径D50は、後述する実施例に記載の方法に従い測定できる。
【0048】
本発明において導電性物質(粒子)は、1Ω/□以下の表面抵抗をもたらすことができ、かつ、金属イオンをトラップする機能を果たし得るものであればその成分(材料)は特に限定されない。具体的には、例えば、活性炭、低次酸化チタン、低次酸化ジルコニウム、カーボンブラック、黒鉛、難黒鉛化炭素等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記導電性物質は、それぞれ、上述したような粉体抵抗値、BET比表面積および/または中心粒子径を有するものを用いることでき、それらは市販品として入手し得るものであってよい。本発明において、導電性物質は、活性炭、低次酸化チタン、低次酸化ジルコニウム、カーボンブラック、黒鉛および難黒鉛化炭素からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、活性炭、カーボンブラック、黒鉛および難黒鉛化炭素からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、活性炭およびカーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1種であることがさらに好ましく、特に好ましくは活性炭である。
【0049】
本発明の好適な一実施態様において、導電性物質は中心粒子径D50が2000nm以下の活性炭である。活性炭は導電性を有しており、中心粒子径D50が2000nm以下である活性炭であれば、金属イオンに対する高い吸着性を期待できる。金属イオン遮断性膜において局所的な電解集中を防止し、デンドライト生成に対する抑制効果が向上し得ることから、金属イオン遮断性膜に用いる活性炭の中心粒子径D50は、より好ましくは1000nm以下、さらに好ましくは800nm以下、特に好ましくは600nm以下、とりわけ好ましくは500nm以下である。また、金属イオン吸着性能の確保と良好な塗布性とのバランスの観点から、活性炭の中心粒子径D50の下限値は、好ましくは10nm以上であり、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは100nm以上である。
【0050】
本発明において導電性物質として使用する活性炭のBET比表面積は、好ましくは700m/g以上、より好ましくは800m/g以上、さらに好ましくは900m/g以上であり、また、好ましくは1700m/g以下、より好ましくは1650m/g以下、さらに好ましくは1600m/g以下である。活性炭のBET比表面積が上記下限値以上であると、金属イオンに対する高い吸着性能の発揮が期待できる。また、BET比表面積が上記上限以下であると、活性炭のかさ密度が増加することにより、単位体積当たりにおいて高い吸着性能の発揮が期待できる。
【0051】
本発明において、導電性物質として使用する中心粒子径D50が2000nm以下の活性炭は、例えば、炭素前駆体を炭化処理した炭化物を賦活処理して得られる原料活性炭(以下、粉砕前の活性炭を「原料活性炭」という)を、粉砕して微細化することにより製造でき、通常、細孔直径2nm未満のマイクロ孔、細孔直径2nm以上50nm以下のメソ孔や50nm以上のマクロ孔が存在する。該活性炭の全細孔容積は、好ましくは0.2cm/g以上、より好ましくは0.3cm/g以上、さらに好ましくは0.4cm/g以上であり、また、好ましくは1.1cm/g以下、より好ましくは1.0cm/g以下、さらに好ましくは0.8cm/g以下である。活性炭の全細孔容積が上記範囲内であると、金属イオンに対する高い吸着性を有する金属イオン遮断性膜が得られる。
【0052】
また、導電性物質として用いる活性炭が、カリウムや鉄元素、アルカリ金属(例えば、ナトリウム)、アルカリ土類金属(例えばマグネシウム、またはカルシウム)、遷移金属(例えば、銅)およびその他の元素類(以下、これらを総称して「灰分」ともいう)を含むと、該活性炭を構成成分とする金属イオン遮断性膜を有するセパレータを電池内に組み込んだ場合に、電気化学的な特性や安全性に好ましくない影響を与えることがある。したがって、活性炭に含まれる灰分は、極力低下させることが好ましい。具体的には、導電性物質として用いる活性炭の灰分は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下である。活性炭の灰分の含有量が上記上限以下であると、活性炭を構成成分とする金属イオン遮断性膜を有するセパレータを電池に用いる場合に、電解液中への不純物の溶出を低減でき、電池性能向上や信頼性向上の点で好ましい。活性炭中の灰分の含有量は、炭素前駆体から原料活性炭を得る工程において、例えば塩酸、硫酸等の鉱酸、酢酸、蟻酸等の有機酸等を含む酸性溶液を用いて金属分を抽出脱灰する方法(液相脱灰)、塩化水素などのハロゲン化合物を含有した高温の気相に暴露させて脱灰する方法(気相脱灰)などにより低減できる。
【0053】
炭素前駆体は、賦活することによって活性炭を形成するものであれば特に限定されず、植物由来の炭素前駆体、鉱物由来の炭素前駆体、天然素材由来の炭素前駆体および合成素材由来の炭素前駆体などから、塗料用組成物の用途等に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、植物由来の炭素前駆体として、木材、鋸屑、木炭、ヤシ殻、クルミ殻などの果実殻、果実種子、パルプ製造副生物、リグニン、廃糖蜜など、鉱物由来の炭素前駆体として、泥炭、草炭、亜炭、褐炭、レキ青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石炭ピッチ、石油蒸留残査、石油ピッチなど、天然素材由来の炭素前駆体として再生繊維(レーヨン)など、合成素材由来の炭素前駆体としてフェノール、サラン、アクリル樹脂などが挙げられる。中でも、入手が容易で加工性にも優れ、高い吸着性能を有する活性炭を製造し得ることから、植物由来の炭素前駆体(特に椰子殻)が好ましい。
【0054】
炭素前駆体を炭化処理および賦活処理する方法は特に限定されず、例えば、特開2006-104002等に記載されるような、原料活性炭を得るための方法として従来公知の方法を採用すればよい。また、原料活性炭として商業的に入手可能な原料活性炭を使用してもよい。そのような市販品としては、例えば、クラレコールPGW、クラレコールPW、クラレコールPKC〔全て(株)クラレ社製〕等が挙げられる。
【0055】
原料活性炭のBET法により測定されるBET比表面積は、最終的に所望する活性炭のBET比表面積に応じて適宜選択すればよく、例えば500m/g以上2500m/g以下であってよい。原料活性炭の比表面積が上記範囲内であると、細孔が十分に発達して金属イオンの吸着量が大きな活性炭が得られやすいとともに、機械的強度、製造容易性やコストの面においても有利である。
【0056】
原料活性炭の中心粒子径D50は、最終的に所望する活性炭の中心粒子径D50に応じて適宜選択すればよく、例えば0.01μm~10μmの範囲であってよく、好ましくは0.02μm~10μm、より好ましくは0.03μm~8μmである。原料活性炭の中心粒子径が上記範囲内であると、原料活性炭を粉砕する工程におけるハンドリングが良好となり、2000nm以下の比較的小さな中心粒子径を有する活性炭を効率よく得ることができる。
【0057】
原料活性炭の粉砕方法は、所望する中心粒子径を有する活性炭が得られれば特に限定されないが、例えば、原料活性炭を液状分散媒と混合して、原料活性炭と液状分散媒との混合物に湿式粉砕を施す方法を採用し得る。
【0058】
原料活性炭を分散する液状分散媒としては、室温(25℃)で液体であり、原料活性炭を分散させることができ、所望するサイズへの原料活性炭の粉砕を可能とする溶媒であれば特に限定されるものではなく、従来公知の溶媒から適宜選択すればよい。具体的には、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール溶媒、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル溶媒、アセトンなどのケトン溶媒、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素溶媒、トルエン、m-キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒等が挙げられる。
【0059】
原料活性炭と液状分散媒との混合物中に、必要に応じて分散剤として界面活性剤を加えてもよい。分散剤として適量の界面活性剤を用いることにより、原料活性炭の分散状態を向上させ、混合物中で活性炭が沈降することを効果的に抑制し得る。界面活性剤を用いる場合その量は、得られる混合物の総質量に対して、好ましくは0.1~2.0質量%であり、より好ましくは0.2~0.5質量%である。
【0060】
原料活性炭と液状分散媒との混合は、得られる混合物中の原料活性炭の濃度が、好ましくは1~30質量%、より好ましくは5~25質量%になるように行う。混合物中の原料活性炭の濃度が上記範囲内であると、原料活性炭をビーズミルなどで粉砕する条件において効率がよい。原料活性炭と液状分散媒との混合条件は、特に限定されるものではなく、原料活性炭の粒子径、濃度、液状分散媒の種類、混合に用いる機器や設備等に応じて、均一な混合物が得られるよう適宜決定すればよい。例えば、撹拌機として、ディソルバーやバタフライミキサー等を用いてもよい。
【0061】
液状分散媒と混合した原料活性炭に湿式粉砕を施すことにより、所望の中心粒子径D50を有する活性炭を得ることができる。原料活性炭の粉砕は、ロールミル、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル等の公知の微粉砕機を用いて行うことができる。中でも、短時間で効率的に中心粒子径D50の小さな活性炭を得やすい観点から、ビーズミルを用いることが好ましい。これらの機器は、必要に応じて組み合わせて用いてもよく、また、篩機や風力分級機によって分級を行ってもよい。
【0062】
粉砕機としてボールミルやビーズミルを使用する場合、そのメディア(ボールまたはビーズ)の材質は、特に限定されず、例えばガラス、アルミナ、ジルコン、シリカ、セラミックス、チタニア、ジルコニア、スチールなどを使用することができる。また、メディアのサイズは、所望する活性炭の粒子径等に応じて適宜決定すればよい。例えば、ジルコニアビーズを用いる場合、中心粒子径D50の小さな活性炭への微細化をより効率的に行う観点から、ビーズの粒子径は0.2~1mmであることが好ましく、0.2~0.5mmであることがより好ましい。粉砕機へのメディアの充填率は特に限定されないが、粉砕時の異型化を抑制しやすい観点から、好ましくは50~95%であり、より好ましくは70~90%である。粉砕時間は所望の粒子径に粉砕し得るよう、原料活性炭の粒子径や用いる粉砕機の種類等に応じて適宜決定すればよい。
【0063】
本発明において、導電性物質として用いる活性炭は、必要に応じて、金属配位性物質を添着したものであってもよい。金属配位性物質としては、例えば、エチレンアミン、ブタンアミン、エチレンジアミン、ブタンジアミン、ジエチルアミン、ブチレンジアミン、アニリン、メチルアニリン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミンなどのアミン類;ピリジン、キノリン、フェナンスロリンなどの芳香族アミン類;トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
添着量は添着する物質により異なるため、特に限定されるものではないが、通常、活性炭に対して0.1~50質量%であり、効率および溶出の観点から、より好ましくは0.3~45質量%、さらに好ましくは、0.5~40質量%を添着する。
【0065】
添着の方法は特に制限されるものではなく、公知の方法を採用し得る。例えば、添着物を水やアルコールなどの媒体に溶解し、活性炭と混合した後、乾燥する方法、添着物を直接活性炭に添加し、加熱などの方法により拡散する方法などがある。
【0066】
金属イオン遮断性膜は、例えば、上述したような導電性物質を、該導電性物質を分散可能な液状分散媒に混合、分散させた組成物(以下、「金属イオン遮断性膜形成用組成物」ともいう)をセパレータ基材上に塗布し、塗膜を形成した後、液状分散媒を乾燥除去することにより作製できる。
【0067】
導電性物質を分散するための液状分散媒としては、導電性物質を分散し得る溶媒であれば特に限定されず、原料活性炭を粉砕する際に用い得る液状分散として先に例示したものと同様のものが挙げられる。中でも、金属イオン遮断性膜形成用組成物から塗膜を形成した際に気化し得る揮発性の溶媒が好ましい。本明細書において、揮発性の溶媒とは、常温常圧下(25℃、1atm程度)において徐々に気化する溶媒を意味し、具体的には25℃における蒸気圧が1×10-7Pa以上の溶媒である。このような揮発性の溶媒(液状分散媒)としては、水、アルコール溶媒、または、水とアルコール溶媒との混合物からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、アルコール溶媒としてはエタノールが好ましい。液状分散媒として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、導電性物質として活性炭を用いる場合、原料活性炭の粉砕時に使用する液状分散媒と、金属イオン遮断性膜中で該活性炭を分散させるために用いる液状分散媒(溶媒)は、同じであっても異なっていてもよい。
【0068】
本発明において、金属イオン遮断性膜形成用組成物中の導電性物質の含有量は、用いる導電性物質の種類、粒度分布等に応じて適宜決定すればよい。本発明の一実施態様においては、金属イオン遮断性膜形成用組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、100質量%であってもよい。導電性物質の含有量が前記範囲内であると、金属イオンのデンドライト生成に対する抑制効果(遮蔽性)が向上するとともに、電池に組み込んだ際に低い内部抵抗を維持しやすい。なお、本明細書において、金属イオン遮断性膜形成用組成物の固形分とは、金属イオン遮断性膜形成用組成物から溶媒等の揮発性成分を除いた全ての成分を意味する。
【0069】
金属イオン遮断性膜形成用組成物における液状分散媒の含有量は、用いる溶媒の種類、導電性物質の種類、金属イオン遮断性膜形成用組成物の塗布方法等に応じて適宜決定すればよい。本発明の一態様においては、金属イオン遮断性膜形成用組成物の固形分濃度が10~80質量%の範囲となるよう液状分散媒の配合量を決定することが好ましい。溶媒の含有量が上記範囲内であると、金属イオン遮断性膜形成用組成物の粘度を制御しやすく、良好な塗布性が得られる。
【0070】
金属イオン遮断性膜は、導電性物質に加えて、必要に応じてバインダー成分を含んで構成されていてもよい。バインダー成分を含むことにより、セパレータ基材の表面に導電性物質を保持しやすくなり、セパレータ基材に対する導電性物質の密着性が高まる。バインダー成分としては、例えば、セルロースナノファイバー、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素系高分子化合物、カルボキシメチルセルロース、スチレン-ブタジエンゴム、石油ピッチ、フェノール樹脂、ロジン、ニトロセルロース、塩化ビニル、塩化ゴム、ポリスチレン、酢酸ビニルエマルジョン、アクリル、(メタ)アクリル酸エステル、ポリアクリルニトリル、ポリメタクリル酸メチル、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリルエマルジョン、アルキド、不飽和ポリエステル、オイルフリーポリエステル、メラニン、ポリエステル/メラニン、ポリエステル/ポリイソシアネート、アクリル/メラニン、ポリイソシアネート、ポリウレタン、アクリル/ポリイソシアネート、フェノール、エポキシ、エポキシ/ポリアミン、シリコーン樹脂、シリコーン変性アクリル、エポキシポリオール樹脂、その他合成樹脂ラテックス等が挙げられる。
【0071】
中でも、セルロースナノファイバーを含むことにより、セルロースナノファイバーのフィブリル化した繊維の微細構造が、導電性物質をしっかりと絡めとり保持するため、セパレータ基材への導電性物質の密着性が向上する。特に、導電性物質として活性炭を用いる場合、セルロースナノファイバーは活性炭の細孔閉塞を引き起こし難いため、活性炭の高い吸着性能を保持したまま、セパレータ基材に対する高い密着性を確保することができる。また、セルロースナノファイバーは、金属イオン遮断性膜形成用組成物の粘度を制御する粘度調整剤としても好適である。
【0072】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。セルロースナノファイバーの平均繊維径が上記上限以下であると、金属イオン遮断性膜形成用組成物中においてセルロースナノファイバーが沈降し難く、良好な分散性を確保しやすい。セルロースナノファイバーの平均繊維径の下限値は特に限定されるものではないが、活性炭の補足力の観点からは、通常1nm以上であり、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。セルロースナノファイバーの平均繊維径は、例えば、原子間力顕微鏡や電界放出型走査電子顕微鏡を用いて測定することができ、例えば、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより求めることができる。
【0073】
セルロースナノファイバーは、例えば、特開2010-37200号公報、特開2019-127490号公報、特開2019-99758号公報、特開2008-1728号公報に記載されるような公知の製造方法により製造することができる。また、セルロースナノファイバーとして商業的に入手可能なセルロースナノファイバーを使用してもよい。そのような市販品としては、例えば、レオクリスタ(第一工業製薬(株)製)、セレンピア(日本製紙(株)製)等が挙げられる。
【0074】
金属イオン遮断性膜がバインダー成分を含んで構成される場合、その含有量は、用いる導電性物質の種類等に応じて適宜決定し得る。本発明の一実施態様において、バインダー成分の配合量は、導電性物質との合材比(導電性物質:バインダーの質量比)として、通常、99.9:0.1から60:40の範囲、より好ましくは、99.8:0.2~65:35の範囲、より好ましくは、99.6:0.4~70:30の範囲である。導電性物質に対してバインダー成分を上記量で含むと、セパレータ基材上への活性炭の密着性を高めることができる。特に、導電性物質として活性炭を用いる場合には、活性炭の吸着性能を維持したまま前記効果が得られる。なお、本発明の一実施態様においてバインダー成分は含まれていなくてもよい。
【0075】
金属イオン遮断性膜形成用組成物は、導電性物質を液状分散媒、および必要に応じてバインダー成分等の金属イオン遮断性膜を構成する材料を混合することにより調製できる。金属イオン遮断性膜形成用組成物をセパレータ基材に塗布する方法は、使用する導電材の種類、粒径、金属イオン遮断性膜形成用組成物の粘度、所望する金属イオン遮断性膜の厚み等に応じて、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、スラリー状の金属イオン遮断性膜形成用組成物をドクターブレード法、スプレー法などによって塗布する方法、金属イオン遮断性膜形成用組成物をペースト状で塗布する方法、スクリーン印刷などの印刷法等が挙げられる。
【0076】
次いで、得られた金属イオン遮断性膜形成用組成物の塗膜を乾燥し、液状分散媒を除去することにより金属イオン遮断性膜を形成できる。これにより、セパレータ基材上に金属イオン遮断性膜が形成されたアルカリ電池用セパレータを得ることができる。液状分散媒の乾燥方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥および減圧乾燥法等が挙げられる。
【0077】
金属イオン遮断性膜の厚みは、通常、0.1~50μmの範囲であり、好ましくは0.2~40μm、より好ましくは0.5~30μmである。金属イオン遮断性膜の厚みが上記下限値以上であると、十分な金属イオン遮断性を確保しやすく、また、仮にデンドライトが生成した場合にも対極に届くほどのデンドライトの成長を回避し得る。電池内に組み込んだ場合に、内部抵抗を低く維持する効果に優れ、金属イオン遮断性膜の厚みが上記上限値以下であると、これを含むセパレータの柔軟性や電池内への設置性に優れる。
【0078】
本発明のアルカリ電池用セパレータは、電池内に組み込んだ場合に、内部抵抗を低く維持する効果に優れ、かつ、負極の放電により生成する金属イオンをイオン状態として安定的に滞留させ、セパレータや対極における金属の析出(デンドライトの生成)を抑制する効果が高く、例えば、アルカリマンガン電池、ニッケル亜鉛電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池などのアルカリ性電解液を用いる種々のアルカリ電池に好適である。特に、本発明のアルカリ電池用セパレータは、導電性を有する金属イオン遮断性膜により高い遮蔽性を確保し得るため、高い遮蔽性を確保しながら薄型化しやすく、アルカリ電池の高容量化、大電流化、長寿命化を可能にする。
【実施例0079】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に述べるが、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。実施例および比較例における各物性値は以下の方法により測定した。
【0080】
<粒子径の測定>
原料活性炭の中心粒子径(D50)の測定
測定対象である原料活性炭を界面活性剤と共にイオン交換水中に入れ、超音波振動を与え均一分散液を作製し、レーザー回折測定法による粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「Microtrac MT3300EX-II」)を用いて測定した。界面活性剤には、和光純薬工業株式会社製の「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」を用いた。
【0081】
実施例および比較例で用いた活性炭、カーボンブラック、人造黒鉛、合成ゼオライト、シリカゲル(以下、これらをまとめて「導電性/非導電性物質」ともいう)の中心粒子径(D50)および累積99%径(D99)の測定
測定対象である導電性/非導電性物質を界面活性剤と共にイオン交換水中に入れ、超音波振動を与え均一分散液を作製し、動的光散乱法による粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「ナノトラックUPA150」)を用いて、中心粒子径(D50)および累積99%径(D99)を計測した。界面活性剤には、和光純薬工業株式会社製の「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」を用いた 。
【0082】
<BET比表面積の測定>
マイクロトラック・ベル(株)製のBELSORP-MAXを使用し、測定対象である導電性/非導電性物質を減圧下(真空度:0.1kPa以下)にて300℃で5時間加熱した後、77Kにおける窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線からBET式により多点法による解析を行い、得られた曲線の相対圧P/P=0.01~0.1の領域での直線からBET比表面積を算出した。
【0083】
<粉体抵抗値>
三菱化学アナリテック社製の粉体抵抗率測定ユニットMCP-PD51を使用し、導電性/非導電性物質の粉体抵抗値を測定した。測定においては、荷重を12kNかけた際の導電性/非導電性物質ペレットの導電率を測定した。
【0084】
<厚さ>
・セパレータ基材の厚さ
「JIS C 2300-2『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 5.1 厚さ」に規定された、「5.1.1 測定器及び測定方法 a)外側マイクロメータを用いる場合」のマイクロメータを用いて、「5.1.3 紙を折り重ねて厚さを測る場合」の10枚に折り重ねる方法で、セパレータ基材の厚さを測定した。
【0085】
・金属イオン遮断性膜の厚さ
以下実施例に従って、金属イオン遮断性膜付きセパレータを作成し、上記セパレータ基材の厚さの測定方法に従って金属イオン遮断性膜付きセパレータの厚みを測定、セパレータ基材の厚さを引き、金属イオン遮断性膜の厚さとした。
【0086】
<セパレータ通気度>
JIS L 1096 6.27「一般織物試験方法 通気性」に準じ、フラジール形試験機にて測定した。
【0087】
<表面抵抗>
表面抵抗率は、JIS K 7194-1994 導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法に準じて表面抵抗率計[ロレスタGP MCP-T610型(株)三菱化学アナリテック製等]を用い、4探針法により求めた。導電体塗工側の表面に4本の針状の電極を直線上に置き、外側の2探針間に一定の電流(10mA)を流した。そして、内側の2探針間に生じる電位差を測定し、抵抗値(V/I)を算出した。この抵抗値に抵抗率補正係数を乗ずることにより、表面抵抗率(Ω/sq)を算出した。
【0088】
<金属イオン遮断性>
各電極として、一辺が20mmの正方形のニッケル板および亜鉛板を、電解液として50質量%水酸化カリウム水溶液を用いて、図1に示す開放型の簡易ニッケル亜鉛二次電池を作製した。両極間の電位差をモニターしながら電流密度0.14A/cmで10C相当の急速充電を行った。充放電開始から20サイクル後に、ニッケル極側の亜鉛濃度を測定した。
充電に伴い電荷液中に亜鉛イオンが検出され、これが亜鉛負極からデンドライトが成長する原因となる。ニッケル極側で検出される亜鉛濃度が低いほど、セパレータの亜鉛イオン遮断性が高いと評価できる。
【0089】
<セパレータの作製>
1.実施例1
(1)セパレータ基材の作製
1.2dtex×3mmのポリビニルアルコール系繊維(クラレ社製、ビニロン、VPB103×3)75重量%、および1.1dtex×3mmのポリビニルアルコール系バインダー繊維(クラレ社製、ビニロンバインダー:VPB105-1×3)25重量%を水に分散してスラリーを製造した。該スラリーを用いて、抄紙機により抄紙を行い、ヤンキー型乾燥機にて乾燥し、目付36.0g/m、厚さ127μmのセパレータ基材を得た。
【0090】
(2)金属イオン遮断性膜形成用組成物の調製
原料活性炭としてヤシ殻粉末活性炭(クラレ製PGW-BF、中心粒子径D50:8μm)を用い、これをイオン交換水に混合して、原料活性炭を10質量%の濃度で含む混合物を調製した。この混合物をビーズミル(アイメックス製NAM-1型、ジルコニアビーズ、ビーズ径:0.2mm)にて湿式粉砕することで、中心粒子径(累積平均径)D50=323nm、累積99%径D99=947nm、BET比表面積=1100m/gの活性炭の10質量%スラリーを得た。表1に記載の組成になるよう、得られたスラリーにイオン交換水を混合し、活性炭を含む金属イオン遮断性膜形成用組成物を得た。
【0091】
(3)金属イオン遮断性膜付きセパレータの作製
得られた金属イオン遮断性膜形成用組成物を、市販の充電式エアブラシ(コンプレッサーの最大圧力17.4PSI、吐出量5L/分、ノズル直径0.3mmφ)に充填し、セパレータ基材の一方の表面上に、以下の要領で塗工膜を調製した。
200mm×200mmのセパレータ基材に対して30mm離れた位置から1プッシュにつき約1秒間の噴霧を3回繰り返し、一連の噴霧でスプレー塗布1回と数えて、スプレー塗布を1回行った。塗布範囲は、セパレータ塗布対象物の中心から半径10~15mmの範囲に同心円状に塗布される範囲とした。塗工後、室温で8時間乾燥して、活性炭を含む金属イオン遮断性膜付きのセパレータを得た。
【0092】
(4)得られたセパレータについて、先に記載の各方法に従い、表面抵抗を測定し、金属イオン遮断性を評価した。結果を表1に示す。
【0093】
2.実施例2
実施例1と同様の方法で得られた活性炭の10質量%スラリーに対して、表1に記載の組成になるよう、セルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)(表1中のCNF、以下同じ)とイオン交換水を混合し、活性炭を含む金属イオン遮断性膜形成用組成物を得た。この金属イオン遮断性膜形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、活性炭を含む金属イオン遮断性膜付きのセパレータを作製した。
得られたセパレータについて、先に記載の各方法に従い、表面抵抗を測定し、金属イオン遮断性を評価した。結果を表1に示す。
【0094】
3.実施例3
実施例1と同様の方法で得られた活性炭の10質量%スラリーに対して、表1に記載の組成になるよう、セルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)、樹脂(結着剤)としてラテックス(日本ゼオン製LX812)(表1中のラテックス)とイオン交換水を混合し、活性炭を含む金属イオン遮断性膜形成用組成物を得た。この金属イオン遮断性膜形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、活性炭を含む金属イオン遮断性膜付きのセパレータを作製した。
得られたセパレータについて、先に記載の各方法に従い、表面抵抗を測定し、金属イオン遮断性を評価した。結果を表1に示す。
【0095】
4.実施例4
実施例3における10質量%スラリー中の活性炭に代えて、カーボンブラック(TIMCALGraphite&Carbon製 Super P、中心粒子径D50=27nm、BET比表面積=270m/g)を表1に記載の量で用いた以外は、実施例3と同様の方法で、カーボンブラックを含む金属イオン遮断性膜形成用組成物を得た。この金属イオン遮断性膜形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、カーボンブラックを含む金属イオン遮断性膜付きのセパレータを作製した。
得られたセパレータについて、先に記載の各方法に従い、表面抵抗を測定し、金属イオン遮断性を評価した。結果を表1に示す。
【0096】
5.実施例5
実施例3における10質量%スラリー中の活性炭に代えて、富士黒鉛製の人造黒鉛(KN 6μm、中心粒子径D50=1.1μm、BET比表面積=2m/g)を表1に記載の量で用いた以外は、実施例3と同様の方法で、黒鉛を含む金属イオン遮断性膜形成用組成物を得た。この金属イオン遮断性膜形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、黒鉛を含む金属イオン遮断性膜付きのセパレータを作製した。
得られたセパレータについて、先に記載の各方法に従い、表面抵抗を測定し、金属イオン遮断性を評価した。結果を表1に示す。
【0097】
6.比較例1
実施例1と同様の方法で作製したセパレータ基材をそのまま用いて、先に記載の各方法に従い、表面抵抗を測定し、金属イオン遮断性を評価した。結果を表1に示す。
【0098】
7.比較例2
実施例1における10質量%スラリー中の活性炭に代えて、MP Biomedicals製の合成ゼオライト(中心粒子径D50=1.6μm、BET比表面積=332m/g)を表1に記載の量で使用した以外は、実施例1と同様の方法で合成ゼオライトを含む組成物を得た。この組成物を用いて、セパレータ基材上に実施例1と同様の方法により塗膜を形成、乾燥することにより、合成ゼオライト含有層付きのセパレータを作製した。
得られたセパレータについて、先に記載の各方法に従い、表面抵抗を測定し、金属イオン遮断性を評価した。結果を表1に示す。
【0099】
8.比較例3
実施例1における10質量%スラリー中の活性炭に代え、メルク社製のシリカゲル7731(中心粒子径D50=0.8μm、BET比表面積=164m/g)を使用した以外は、実施例1と同様の方法でシリカゲルを含む組成物を得た。この組成物を用いて、セパレータ基材上に実施例1と同様の方法により塗膜を形成、乾燥することにより、シリカゲル含有層付きのセパレータを作製した。
得られたセパレータについて、先に記載の各方法に従い、表面抵抗を測定し、金属イオン遮断性を評価した。結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
本発明に従う実施例1~5のアルカリ電池用セパレータは、表面抵抗が低く、ニッケル極側で検出される亜鉛濃度が低く、亜鉛イオン遮断性効果に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0102】
1 正極:電極支え
2 正極:ニッケル板
3 金属イオン遮断性膜
4 セパレータ基材
5 負極:亜鉛板
6 負極:電極支え
7 電解液
8 直流電源、計測器
9 電解槽
図1