(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167360
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】伝搬経路探索方法、伝搬経路探索システム、及びデータ構造
(51)【国際特許分類】
G06F 17/10 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
G06F17/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073111
(22)【出願日】2021-04-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載日 :2021年1月14日 ウェブサイトのアドレス :https://www.ieice.org/ken/paper/20210122cCbZ/ 「依頼講演」量子コンピューティングによる電波伝搬解析のためのモデリング 〔刊行物等〕 開催日:2021年1月21日~2021年1月22日 電子情報通信学会 無線電力伝送研究会(WPT)オンライン開催 ウェブサイトのアドレス:https://www.ieice.org/ken/program/index.php?tgs_regid=cc6175c5f90e53312e03548bab2d947d72a9aa3c1e604dab3a552e31fe6d7d34&tgid=IEICE-WPT
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 渉
(72)【発明者】
【氏名】猪又 稔
(72)【発明者】
【氏名】今井 哲朗
【テーマコード(参考)】
5B056
【Fターム(参考)】
5B056BB91
(57)【要約】
【課題】電波の伝搬経路を高速に探索することができる伝搬経路探索方法、伝搬経路探索システム、及びデータ構造を提供する。
【解決手段】送信点から出射されて受信点に到達する電波に対応する複数のレイそれぞれを伝搬経路として、伝搬経路をそれぞれ示すバイナリ変数を設定し、バイナリ変数それぞれ、レイそれぞれを散乱させる面及びエッジの数、レイそれぞれを散乱させる回数、面又は前記エッジによる散乱ごとに予め定められた重み、並びにレイに対する制約条件に基づく目的関数を設定し、目的関数を最小化させる処理を行い、目的関数を最小化させた結果に基づいて、伝搬経路を特定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信点から出射されて受信点に到達する電波に対応する複数のレイそれぞれを伝搬経路として、前記伝搬経路をそれぞれ示すバイナリ変数を設定するバイナリ変数設定工程と、
前記バイナリ変数それぞれ、前記レイそれぞれを散乱させる面及びエッジの数、前記レイそれぞれを散乱させる回数、前記面又は前記エッジによる散乱ごとに予め定められた重み、並びに前記レイに対する制約条件に基づく目的関数を設定する目的関数設定工程と、
前記目的関数を最小化させる処理を行う最小化処理工程と、
前記目的関数を最小化させた結果に基づいて、伝搬経路を特定する伝搬経路特定工程と
を含むことを特徴とする伝搬経路探索方法。
【請求項2】
前記目的関数設定工程では、
前記伝搬経路特定工程により特定された伝搬経路がある場合、当該特定された伝搬経路に基づいて、前記目的関数に対する制約条件を加算すること
を特徴とする請求項1に記載の伝搬経路探索方法。
【請求項3】
前記最小化処理工程では、
相互結合ニューラルネットワーク、又は量子アニーリングマシンによって前記目的関数を最小化させる処理を行うこと
を特徴とする請求項1又は2に記載の伝搬経路探索方法。
【請求項4】
送信点から出射されて受信点に到達する電波に対応する複数のレイそれぞれを伝搬経路として、前記伝搬経路をそれぞれ示すバイナリ変数を設定するバイナリ変数設定部と、
前記バイナリ変数それぞれ、前記レイそれぞれを散乱させる面及びエッジの数、前記レイそれぞれを散乱させる回数、前記面又は前記エッジによる散乱ごとに予め定められた重み、並びに前記レイに対する制約条件に基づく目的関数を設定する目的関数設定部と、
前記目的関数を最小化させる処理を行う最小化処理部と、
前記目的関数を最小化させた結果に基づいて、伝搬経路を特定する伝搬経路特定部と
を有することを特徴とする伝搬経路探索システム。
【請求項5】
前記目的関数設定部は、
前記伝搬経路特定部が特定した伝搬経路がある場合、当該特定した伝搬経路に基づいて、前記目的関数に対する制約条件を加算すること
を特徴とする請求項4に記載の伝搬経路探索システム。
【請求項6】
前記最小化処理部は、
相互結合ニューラルネットワーク、又は量子アニーリングマシンに構成されていること
を特徴とする請求項4又は5に記載の伝搬経路探索システム。
【請求項7】
電波の伝搬特性を伝搬経路ごとに演算する演算装置に用いられるデータのデータ構造であって、
送信点から出射されて受信点に到達する電波に対応する複数のレイそれぞれを伝搬経路として、前記伝搬経路をそれぞれ示すバイナリ変数と、
前記バイナリ変数それぞれ、前記レイそれぞれを散乱させる面及びエッジの数、前記レイそれぞれを散乱させる回数、前記面又は前記エッジによる散乱ごとに予め定められた重み、並びに前記レイに対する制約条件に基づく目的関数と
を含み、
前記演算装置が前記目的関数を最小化させる処理に用いられるデータ構造。
【請求項8】
前記目的関数は、
すでに特定された伝搬経路がある場合、当該特定された伝搬経路に基づいて、制約条件を加算されていること
を特徴とする請求項7に記載のデータ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝搬経路探索方法、伝搬経路探索システム、及びデータ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤレス通信のシステム設計では、サービスエリア内の電波の伝搬特性をシミュレーションによって把握することが重要である。また、電波の伝搬特性をシミュレーションするためには、最適化すべきシステムパラメータも多い。したがって、電波の伝搬特性のシミュレーションには、精度とともに高速性が要求される。
【0003】
電波の伝搬特性をシミュレーションする方法には、例えばレイトレーシング法がある。レイトレーシング法は、送信点から出射される電波をレイ(Ray)とみなし、反射・透過・回折などの散乱を経て受信点に到達するレイを探索し、受信点における受信電力、伝搬遅延、到来角度等の伝搬特性を求めるものである。
【0004】
また、レイトレーシング法には、送受信点及び反射面の組合せから幾何光学的に反射点を求めるイメージング法と、送信点から一定角度ごとに離散的にレイを発射し、その軌跡を追跡して受信点に到達するレイを探索するレイローンチング法がある。高精度にシミュレーションできる手法は、イメージング法である。
【0005】
また、電波の伝搬特性のシミュレーションを、演算精度を大きく損なうことなく高速化するために、生物が環境に合わせて進化する過程をモデル化した遺伝的アルゴリズムをレイトレーシング処理に適用するレイトレーシング法は公知である(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】今井哲朗、「電波伝搬推定のための遺伝的アルゴリズムを用いたレイトレーシング処理の高速化法」、電子情報通信学会、2006年、電子情報通信学会論文誌 B Vol.J89-B No.4 pp.560-575.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電波の伝搬特性のシミュレーションでは、伝搬特性に寄与するレイを高速に探索するための組み合わせが増加することによって計算量が爆発してしまうことを防止するさまざまな手法が求められている。また、上述したように、イメージング法は、受信点に到達するレイを精度よく求めることができる。
【0008】
しかしながら、レイを探索するためには構造物の面とエッジの組合せ演算が必要となるため、考慮すべき反射・透過・回折(以下、これらを単に散乱とする)の回数が増えると、演算量が指数関数的に増大する。
【0009】
例えば、演算範囲内における構造物の面及びエッジの数がMであり、考慮する反射等の数を最大Nとすると、演算量(組合せ数)は、下式(1)によって表される。
【0010】
【0011】
また、これらの組合せの中には、伝搬損失が大きく、伝搬特性に寄与しないレイが多く含まれており、演算量に対する効率がよくない。
【0012】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、電波の伝搬経路を高速に探索することができる伝搬経路探索方法、伝搬経路探索システム、及びデータ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態にかかる伝搬経路探索方法は、送信点から出射されて受信点に到達する電波に対応する複数のレイそれぞれを伝搬経路として、前記伝搬経路をそれぞれ示すバイナリ変数を設定するバイナリ変数設定工程と、前記バイナリ変数それぞれ、前記レイそれぞれを散乱させる面及びエッジの数、前記レイそれぞれを散乱させる回数、前記面又は前記エッジによる散乱ごとに予め定められた重み、並びに前記レイに対する制約条件に基づく目的関数を設定する目的関数設定工程と、前記目的関数を最小化させる処理を行う最小化処理工程と、前記目的関数を最小化させた結果に基づいて、伝搬経路を特定する伝搬経路特定工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一実施形態にかかる伝搬経路探索システムは、送信点から出射されて受信点に到達する電波に対応する複数のレイそれぞれを伝搬経路として、前記伝搬経路をそれぞれ示すバイナリ変数を設定するバイナリ変数設定部と、前記バイナリ変数それぞれ、前記レイそれぞれを散乱させる面及びエッジの数、前記レイそれぞれを散乱させる回数、前記面又は前記エッジによる散乱ごとに予め定められた重み、並びに前記レイに対する制約条件に基づく目的関数を設定する目的関数設定部と、前記目的関数を最小化させる処理を行う最小化処理部と、前記目的関数を最小化させた結果に基づいて、伝搬経路を特定する伝搬経路特定部とを有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一実施形態にかかるデータ構造は、電波の伝搬特性を伝搬経路ごとに演算する演算装置に用いられるデータのデータ構造であって、送信点から出射されて受信点に到達する電波に対応する複数のレイそれぞれを伝搬経路として、前記伝搬経路をそれぞれ示すバイナリ変数と、前記バイナリ変数それぞれ、前記レイそれぞれを散乱させる面及びエッジの数、前記レイそれぞれを散乱させる回数、前記面又は前記エッジによる散乱ごとに予め定められた重み、並びに前記レイに対する制約条件に基づく目的関数とを含み、前記演算装置が前記目的関数を最小化させる処理に用いられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電波の伝搬経路を高速に探索することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態にかかる伝搬経路探索システムのハードウェア構成例を示す図である。
【
図2】一実施形態にかかる伝搬経路探索システムが有する機能の概要を例示する機能ブロック図である。
【
図3】伝搬経路探索システムが電波の伝搬経路を探索する環境を模式的に例示する図である。
【
図4】(a)は、(M,N)=(6,4)とした場合の送信点から受信点までの伝搬経路を示す図である。(b)は、(M,N)=(6,4)とした場合のQUBO変数行列を示す図である。
【
図6】一実施形態にかかる伝搬経路探索システムの動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、一実施形態にかかる伝搬経路探索システム10について、図面を用いて説明する。
図1は、一実施形態にかかる伝搬経路探索システム10のハードウェア構成例を示す図である。
図1に示すように、伝搬経路探索システム10は、例えば情報処理装置20及び演算装置30を有する。
【0019】
情報処理装置20は、演算装置30に対してデータを送信し、演算装置30が演算した結果を取得するコンピュータであり、例えば組合せ最適化問題を演算装置30に対して入力する。
【0020】
例えば、情報処理装置20は、入力部200、出力部201、通信部202、CPU203、メモリ204及びHDD205がバス206を介して接続され、記憶媒体207との間でデータを入出力することができるようにされている。
【0021】
入力部200は、例えばキーボード及びマウス等である。出力部201は、例えばディスプレイなどの表示装置である。通信部202は、例えば有線又は無線のネットワークインターフェースであり、演算装置30との間でデータを送受信する。
【0022】
CPU203は、情報処理装置20を構成する各部を制御し、後述するデータ構造のデータの生成等の処理を行う。メモリ204及びHDD205は、データを記憶する記憶部を構成する。記憶媒体207は、情報処理装置20が有する機能を実行させるプログラムやデータ等を記憶可能にされている。
【0023】
演算装置30は、例えば電波の伝搬特性を伝搬経路ごとに演算する演算装置であり、例えば相互結合ニューラルネットワークによって演算処理を行うコンピュータ、又は量子アニーリング方式によって組合せ最適化問題を解く量子アニーリングマシンなどである。
【0024】
例えば、演算装置30は、通信部300、制御部302、及び演算処理部304を有する。通信部300は、例えば有線又は無線のネットワークインターフェースであり、情報処理装置20との間でデータを送受信する。
【0025】
制御部302は、演算装置30を構成する各部を制御する。演算処理部304は、演算装置30が量子アニーリングマシンである場合、図示しないQPU(Quantum Processing Unit)を含む。この場合、制御部302は、演算処理部304に対するパルス制御や演算結果の観測なども行う。また、演算処理部304は、半導体により組合せ最適化問題を解くコンピュータである場合、図示しないFPGA(Field Programmable Gate Array)、又はCPU及びGPU(Graphics Processing Unit)などを含む。
【0026】
なお、伝搬経路探索システム10を構成するアーキテクチャは、
図1に示した例に限定されることなく、例えば一体に構成されていてもよい。
【0027】
次に、伝搬経路探索システム10が有する機能について説明する。
図2は、一実施形態にかかる伝搬経路探索システム10が有する機能の概要を例示する機能ブロック図である。
図2に示すように、伝搬経路探索システム10は、例えばバイナリ変数設定部400、目的関数設定部402、最小化処理部404、及び伝搬経路特定部406を有する。
【0028】
バイナリ変数設定部400は、例えば情報処理装置20に構成され、入力部200(
図1)を介して入力された情報に基づいて、送信点から出射されて受信点に到達する電波に対応する複数のレイそれぞれを伝搬経路として、当該伝搬経路をそれぞれ示すバイナリ変数を設定し、設定したバイナリ変数を目的関数設定部402に対して出力する。
【0029】
目的関数設定部402は、例えば情報処理装置20に構成され、入力部200を介して入力された情報、及びバイナリ変数設定部400が出力したバイナリ変数を用いて、バイナリ変数それぞれ、レイそれぞれを散乱させる構造物等の面及びエッジの数、レイそれぞれを散乱させる回数、構造物等の面又はエッジによる散乱ごとに予め定められた重み、並びにレイに対する所定の制約条件に基づいて、組合せ最適化問題に対する目的関数を設定する。
【0030】
そして、目的関数設定部402は、設定した目的関数を最小化処理部404に対して出力する。また、目的関数設定部402は、伝搬経路特定部406が特定した伝搬経路がすでにある場合、当該特定した伝搬経路に基づいて、目的関数に対する制約条件をさらに加算する。
【0031】
最小化処理部404は、例えば演算装置30に構成され、目的関数設定部402が設定した目的関数を最小化させる処理を行い、組合せ最適化問題を解き、結果を伝搬経路特定部406に対して出力する。
【0032】
伝搬経路特定部406は、例えば情報処理装置20に構成され、最小化処理部404が目的関数を最小化させた結果に基づいて、伝搬経路を特定し、出力部201(
図1)を介して出力する。
【0033】
なお、情報処理装置20が演算装置30に対して送信するデータは、送信点Txから出射されて受信点Rxに到達する電波に対応する複数のレイそれぞれを伝搬経路として、伝搬経路をそれぞれ示すバイナリ変数と、バイナリ変数それぞれ、レイそれぞれを散乱させる構造物等の面及びエッジの数、レイそれぞれを散乱させる回数、構造物等の面又はエッジによる散乱ごとに予め定められた重み、並びにレイに対する制約条件に基づく目的関数とを含み、演算装置30が目的関数を最小化させる処理に用いられるデータ構造となっている。
【0034】
次に、伝搬経路探索システム10の具体的な動作例について説明する。
図3は、伝搬経路探索システム10が電波の伝搬経路を探索する環境を模式的に例示する図である。例えば、伝搬経路探索システム10は、送信点Txから出射されて受信点Rxに到達する電波に対応するレイをそれぞれ探索する。
【0035】
図3に示すように、例えば送信点Txと受信点Rxとの間には、構造物A~Dが存在しているとする。また、伝搬経路とみなされるレイの経路の1つとして、
図3に示したように、例えば送信点Tx→構造物A→構造物B→構造物D→構造物F→受信点Rxの伝搬経路がある。
【0036】
伝搬経路探索システム10において、バイナリ変数設定部400(
図2)は、探索エリア内の構造物数(面とエッジの数)をM、散乱回数(反射等の数)をNとし、伝搬経路を表すための変数として次の表現を用いる。
【0037】
qik∈{1,0}:バイナリ変数
k番目に構造物iに到達する場合を“1”とし、それ以外は“0”とする。
【0038】
dTi:送信点Txと構造物iとの間の重み(例えば距離等)
diR:受信点Rxと構造物iとの間の重み(例えば距離等)
dij:構造物iと構造物jとの間の重み(例えば距離等)
【0039】
図4は、(M,N)=(6,4)とした場合の伝搬経路を示す図である。
図4(a)は、(M,N)=(6,4)とした場合の送信点Txから受信点Rxまでの伝搬経路を示す図である。
図4(b)は、(M,N)=(6,4)とした場合のQUBO(Quadratic unconstrained binary optimization)変数行列を示す図である。なお、
図3に示した伝搬経路と、
図4に示した伝搬経路とは対応している。
【0040】
まず、伝搬経路探索システム10は、以下の<1>~<6>の処理を行い、最も伝搬損失が小さく、最も電波の伝搬に寄与するレイの経路を探索する。
【0041】
<1>:バイナリ変数設定部400は、下式(2)のdTi、diR、dijに具体的な値を入れて、送信点Txと受信点Rxとの間の伝搬経路の候補を設定する。
【0042】
【0043】
例えば、バイナリ変数設定部400は、
図3,
図4(a)に示したように、送信点Tx→構造物A→構造物B→構造物D→構造物F→受信点Rxの伝搬経路を設定する。このとき、バイナリ変数設定部400は、
図4(b)の太枠内に例示したように、電波の伝搬経路を示すQUBO変数行列をそれぞれ設定する。
【0044】
<2>:次に、目的関数設定部402は、下式(3)を用いて、k番目に電波(レイ)が到達する構造物は唯一であるとする制約条件を設定する。
【0045】
【0046】
<3>:また、目的関数設定部402は、下式(4)を用いて、構造物iの散乱は前後で連続しないとする制約条件を設定する。
【0047】
【0048】
<4>:また、目的関数設定部402は、正の整数であるA、Bにより重みづけをして下式(5)に示した目的関数Hを設定する。
【0049】
【0050】
<5>:そして、最小化処理部404は、上式(5)に示した目的関数Hの最小化を実行する。
【0051】
<6>:最後に、伝搬経路特定部406は、目的関数Hの最小化により得られたバイナリ変数の値を参照することにより、電波の伝搬に最も寄与する経路を特定する。
【0052】
このように、<1>~<6>の処理では、散乱回数Nにおいて、最も伝搬損失が少なく、電波の伝搬に最も寄与するレイの経路を特定する。
【0053】
次に、伝搬経路探索システム10は、2番目に伝搬損失が少なく、2番目に電波の伝搬に寄与するレイの経路を探索する。
【0054】
<7>:目的関数設定部402は、既に探索した伝搬経路を選択しないようにする制約条件を、下式(6)を用いて設定する。
【0055】
【0056】
【0057】
<8>:そして、目的関数設定部402は、正の整数であるCにより重みづけしたI1を加算して下式(7)に示した目的関数Hを設定する。
【0058】
【0059】
<9>:そして、最小化処理部404は、上式(7)に示した目的関数Hの最小化を実行する。
【0060】
<10>:最後に、伝搬経路特定部406は、目的関数Hの最小化により得られたバイナリ変数の値を参照することにより、2番目に電波の伝搬に寄与するレイの経路を特定する。
【0061】
<11>:さらに、伝搬経路探索システム10は、下式(8)に示したように、既に探索した伝搬経路を選択しないようにする制約条件を目的関数Hに順次加えることにより、電波の伝搬に寄与するNp本目の伝搬経路を探索することができる。
【0062】
【0063】
図6は、一実施形態にかかる伝搬経路探索システム10の動作例を示すフローチャートである。
図6に示したように、例えばバイナリ変数設定部400(
図2)は、送信点Txから出射されて受信点Rxに到達する電波に対応する複数のレイそれぞれを伝搬経路として、伝搬経路をそれぞれ示すバイナリ変数を設定する(S100)。
【0064】
ステップ102(S102)において、目的関数設定部402は、k番目に電波(レイ)が到達する構造物は唯一であるとする制約条件(第1制約条件)を設定する。
【0065】
ステップ104(S104)において、目的関数設定部402は、構造物iの散乱は前後で連続しないとする制約条件(第2制約条件)を設定する。
【0066】
ステップ106(S106)において、目的関数設定部402は、バイナリ変数それぞれ、レイそれぞれを散乱させる構造物等の面及びエッジの数、レイそれぞれを散乱させる回数、構造物等の面又はエッジによる散乱ごとに予め定められた重み、並びにレイに対する各制約条件に基づく目的関数Hを設定する。
【0067】
ステップ108(S108)において、最小化処理部404は、目的関数Hを最小化させる処理を行う。
【0068】
ステップ110(S110)において、伝搬経路特定部406は、目的関数Hを最小化させた結果に基づいて、伝搬経路を特定する。
【0069】
ステップ112(S112)において、伝搬経路探索システム10は、他の伝搬経路を特定するか否かを判定する。伝搬経路探索システム10は、他の伝搬経路をさらに特定する場合(S112:Yes)にはS114の処理に進み、他の伝搬経路を特定しない場合(S112:No)には処理を終了する。
【0070】
ステップ114(S114)において、目的関数設定部402は、伝搬経路特定部406特定した伝搬経路に基づいて、目的関数Hに対する制約条件を加算し、S106の処理に進む。
【0071】
なお、上述した目的関数Hは、一般的にイジングモデルと呼ばれるモデルに変換可能である。つまり、上述した目的関数Hは、組合せ最適化問題を解くために相互結合ニューラルネットワーク(ホップフィールドネット)や、量子アニーリングマシンに適用可能であり、極めて汎用性が高く、高速演算も可能となる。
【0072】
このように、伝搬経路探索システム10は、電波の伝搬経路の探索を組合せ最適化問題として好適にQUBOに落とし込み、制約条件の設定に応じて電波の伝搬経路を高速に探索することができる。
【符号の説明】
【0073】
10・・・伝搬経路探索システム、20・・・情報処理装置、30・・・演算装置、200・・・入力部、201・・・出力部、202・・・通信部、203・・・CPU、204・・・メモリ、205・・・HDD、206・・・バス、207・・・記憶媒体、300・・・通信部、302・・・制御部、304・・・演算処理部、400・・・バイナリ変数設定部、402・・・目的関数設定部、404・・・最小化処理部、406・・・伝搬経路特定部