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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167445
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】有価金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20221027BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20221027BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20221027BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B7/00 C
C22B5/10
H01M10/54
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073229
(22)【出願日】2021-04-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】矢部 貴之
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA15
4K001DA05
4K001HA01
4K001HA09
4K001HA11
4K001JA01
4K001KA06
5H031AA00
5H031BB00
5H031BB02
5H031EE01
5H031HH03
5H031HH06
(57)【要約】
【課題】廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を製造する方法において、リンの含有量を低減したメタルを効果的に得ることができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、リンを含有する廃リチウムイオン電池を含む原料からの有価金属の製造方法であって、原料を熔融して熔融物を得る熔融工程と、熔融物からスラグを分離し、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、原料からのコバルト回収率が95.0%以上99.6%以下であることを確認して合金を回収することによって、その合金のリン含有量を0.1質量%以下とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンを含有する廃リチウムイオン電池を含む原料からの有価金属の製造方法であって、
前記原料を熔融して熔融物を得る熔融工程と、
前記熔融物からスラグを分離し、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、
を有し、
前記原料からのコバルト回収率が95.0%以上99.6%以下であることを確認して前記合金を回収することによって、該合金のリン含有量を0.1質量%以下とする、
有価金属の製造方法。
【請求項2】
前記熔融工程において、生成したスラグ中のコバルト品位の分析結果から前記コバルト回収率を確認する、
請求項1に記載の有価金属の製造方法。
【請求項3】
前記コバルト回収率が95.0%以上98.0%以下であることを確認して前記合金を回収する、
請求項1又は2に記載の有価金属の製造方法。
【請求項4】
前記熔融工程では、1300℃以上1500℃以下の加熱温度で前記原料を熔融する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の有価金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の二次電池としてリチウムイオン電池が普及している。リチウムイオン電池としては、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶内に、銅箔からなる負極集電体に黒鉛等の負極活物質を固着した負極材、アルミニウム箔からなる正極集電体にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着した正極材、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなるセパレータ、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含む電解液等を封入したものが知られている。
【0003】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車があり、自動車のライフサイクルと共に、搭載されたリチウムイオン電池も将来大量に廃棄される見込みとなっている。このような使用済みの電池や製造中に生じた不良品(以下、「廃リチウムイオン電池」と称する。)を資源として再利用する提案が多くなされている。例えば、廃リチウムイオン電池の再利用法として、廃リチウムイオン電池を高温炉で全量熔解する乾式製錬プロセスが提案されている。
【0004】
廃リチウムイオン電池には、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)等の有価金属のほかに、炭素(C)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、リン(P)等の不純物成分が含まれる。そのため、廃リチウムイオン電池からの有価金属を回収するにあたっては、これらの不純物成分を除去する必要がある。
【0005】
これらの不純物成分の中で、炭素は、残留するとメタルとスラグの分離性を妨げてしまう。また、炭素は、還元剤として寄与するため、他の物質の適正な酸化除去を妨げることがある。特に、上述した不純物成分の中でも、リンは比較的還元されやすい性質を有するため、コバルト等の有価金属の回収率を上げるために還元度を強めに調整し過ぎると、リンが酸化除去されずにメタル中に残留する。他方で、還元度を弱めに調整し過ぎると、有価金属まで酸化されて回収率が低下する。
【0006】
このため、有価金属の回収及びリンの除去を安定的に行うためには、安定的に炭素量をコントロールする必要がある。また、有価金属の回収率を高く維持しつつ、リンのメタルへの残留を低減させるためには、リンを選択的に除去することが望ましい。
【0007】
例えば、特許文献1では、乾式法による廃リチウムイオン電池からのコバルトの回収方法として、廃リチウムイオン電池を熔融炉へ投入して酸素により酸化するプロセスが提案されている。このプロセスでは、コバルトを高い回収率で回収できるものの、リンの除去についての記述はなく、有価金属の回収及びリンの除去を安定的に行うことについて開示されていない。
【0008】
また、特許文献2では、廃リチウムイオン電池を熔融する際に、SiO及びCaOを添加してスラグの融点を下げることでメタルとスラグの分離を促進し、次いで、スラグを分離した後のメタルに酸素を吹き込みながらCaOを添加することでリンを除去する脱リン工程を行うプロセスが提案されている。このようなプロセスであってもリンの除去は可能であるが、生産コストをより低減させるには、脱リン工程が不要となるような効率的なプロセスが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2013-506048号公報
【特許文献2】特開2013-091826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を製造する方法において、リンの含有量を低減したメタルを効果的に得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔融処理して熔融物を得る工程において、原料からのコバルト回収率を算出し、そのコバルト回収率が特定の範囲であることを確認して合金(メタル)を回収することで、リン含有量が0.1質量%以下の高品質な合金が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、リンを含有する廃リチウムイオン電池を含む原料からの有価金属の製造方法であって、前記原料を熔融して熔融物を得る熔融工程と、前記熔融物からスラグを分離し、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、前記原料からのコバルト回収率が95.0%以上99.6%以下であることを確認して前記合金を回収することによって、該合金のリン含有量を0.1質量%以下とする、有価金属の製造方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記熔融工程において、生成したスラグ中のコバルト品位の分析結果から前記コバルト回収率を確認する、有価金属の製造方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記コバルト回収率が95.0%以上98.0%以下であることを確認して前記合金を回収する、有価金属の製造方法である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記熔融工程では、1300℃以上1500℃以下の加熱温度で前記原料を熔融する、有価金属の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を製造する方法において、リンの含有量を低減したメタルを効果的に得ることができる。
【0017】
これにより、メタルを回収したのちに、脱リン処理を行う工程を設ける必要がなくなり、より効率的な操業を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】コバルト回収率とメタル中のリン品位との関係を示すグラフ図である。
図2】有価金属の製造方法の流れの一例を示す工程図である。
図3】スラグ中のコバルト品位とコバルト回収率との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0020】
≪1.有価金属の製造方法≫
本実施の形態に係る有価金属の製造方法は、リンを含有する廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を分離回収する方法である。したがって、有価金属の回収方法とも言い換えることができる。本実施の形態係る方法は、主として乾式製錬プロセスによる方法であるが、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとから構成されていてもよい。
【0021】
廃リチウムイオン電池とは、使用済みのリチウムイオン電池のみならず、電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念である。そのため、廃リチウムイオン電池をリチウムイオン電池廃材と言うこともできる。
【0022】
また、有価金属とは、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、及びこれらの組み合わせからなるものであり、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金である。なお、廃リチウムイオン電池に含まれる各有価金属の含有量については、特に限定されない。例えば、銅が10質量%以上含まれるものであってもよい。
【0023】
具体的に、本実施の形態に係る有価金属の製造方法は、リンを含有する廃リチウムイオン電池を含む原料を熔融して熔融物を得る熔融工程と、熔融物からスラグを分離し、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、を少なくとも有する。そして、この方法では、原料からのコバルト回収率が特定の範囲内であることを確認したのちに合金を回収することによって、合金のリン含有量を0.1質量%以下とすることを特徴としている。
【0024】
ここで、「コバルト回収率」とは、廃リチウムイオン電池を含む原料中のコバルト量に対する、回収したメタル(合金)中のコバルト量の百分率をいう。
【0025】
本発明者らによる研究の結果、廃リチウムイオン電池を含む原料からのコバルト回収率と、回収した合金(メタル)に含まれるリン(P)の品位とに関係性があることを見出した。具体的に、図1は、コバルト回収率とメタル中のリン品位との関係を示すグラフ図である。図1のグラフ図に示すように、コバルト回収率が99.6%を超えると、回収されるメタル中のリン品位が急激に上昇することがわかる。なお、有価金属であるコバルトの回収率としては、95.0%以上となることが好ましい。
【0026】
このことから、本実施の形態に係る有価金属の製造方法では、原料からのコバルト回収率が95.0%以上99.6%以下の範囲内であることを確認したのちに合金を回収する。これにより、合金(メタル)中のリン含有量を0.1質量%以下とする。
【0027】
このような方法によれば、合金を回収した後に別途脱リン処理を行う工程を設けることなく、コバルトを高い回収率で回収しながら、効果的にかつ効率的にリンを除去することができ、リンの含有量を低減した合金を回収することができる。
【0028】
≪2.製造方法の各工程について≫
図2は、本実施の形態に係る有価金属の製造方法の流れの一例を示す工程図である。図2に示すように、有価金属の製造方法は、廃リチウムイオン電池の電解液及び外装缶を除去する廃電池前処理工程S1と、電池の内容物を粉砕して粉砕物とする粉砕工程S2と、粉砕物を必要に応じて予備加熱する予備加熱工程(「酸化焙焼工程」ともよぶ)S3と、粉砕物を熔融して熔融物を得る熔融工程(「還元熔融工程」ともよぶ)S4と、熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程S5と、を有する。
【0029】
[廃電池前処理工程]
廃電池前処理工程S1は、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収するにあたり、廃リチウムイオン電池の爆発防止又は無害化、外装缶除去等を目的として行われる。
【0030】
すなわち、例えば使用済みのリチウムイオン電池等の廃リチウムイオン電池は密閉系であり、内部に電解液等を有しているため、そのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがあり危険である。そのため、何らかの方法で放電処理や電解液の除去処理を施す必要がある。このように、廃電池前処理工程S1において、電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高め、また、銅、ニッケル、コバルト等の有価金属の回収生産性を高めることができる。
【0031】
前処理の具体的な方法としては、特に限定されないが、例えば、針状の刃先で電池を物理的に開孔することにより、内部の電解液を流し出して除去することができる。また、廃リチウムイオン電池をそのまま加熱し、電解液を燃焼させることで無害化してもよい。
【0032】
なお、電池を構成する外装缶は、金属のアルミニウムや鉄等で構成されている場合が多く、このような前処理を経ることで、金属製の外装缶をそのまま有価金属として比較的容易に回収することが可能である。例えば、外装缶に含まれるアルミニウムや鉄を回収する場合には、除去された外装缶を粉砕した後に篩振とう機を用いて篩分けを行うことができる。アルミニウムの場合、軽度の粉砕であっても容易に粉状となり、効率的に回収できる。また、磁力による選別によって外装缶に含まれている鉄の回収を行うこともできる。
【0033】
[粉砕工程]
粉砕工程S2では、廃電池前処理工程S1を経て得られた電池内容物を粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程S2における処理は、次工程以降の乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的として行われ、反応効率を高めることで、銅、ニッケル、コバルト等の有価金属の回収率を高めることができる。
【0034】
粉砕方法としては、特に限定されないが、カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて、電池の内容物を粉砕することができる。
【0035】
[予備加熱工程]
粉砕工程S2を経た廃リチウムイオン電池の粉砕物に対して、必要に応じて予備加熱工程S3を設けて加熱処理(酸化焙焼処理)を行うことができる。予備加熱工程S3において加熱処理を行うことで、電池の内容物に含まれる不純物を揮発させ、又は熱分解させて除去することができる。
【0036】
予備加熱工程S3では、例えば、700℃以上の温度(予備加熱温度)で加熱を行うことが好ましい。予備加熱温度を700℃以上とすることで、電池に含まれる不純物の除去効率を高めることができる。一方で、予備加熱温度の上限値としては、900℃以下とすることが好ましく、これにより、熱エネルギーコストを抑制することができ、処理効率を高めることができる。
【0037】
加熱処理は、酸化剤の存在下で行うことが好ましい。これにより、電池の内容物に含まれる不純物のうちの炭素を酸化除去することができ、また、アルミニウムを酸化することができる。特に、炭素を酸化除去することで、その後の熔融工程S4において局所的に発生する有価金属の熔融微粒子が、炭素による物理的な障害なく凝集することが可能となるため、熔融物として得られる合金を一体化して回収し易くすることができる。なお、一般的に、廃リチウムイオン電池を構成する主要元素は、酸素との親和力の差により、アルミニウム>リチウム>炭素>マンガン>リン>鉄>コバルト>ニッケル>銅、の順に酸化され易い。
【0038】
酸化剤としては、特に限定されないが、取り扱いが容易な点から、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体を用いることが好ましい。また、酸化剤の導入量としては、例えば、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度とすることができる。
【0039】
[熔融工程]
熔融工程(還元熔融工程)S4では、廃リチウムイオン電池の粉砕物を、フラックスと共に熔融して、有価金属を含む合金とスラグとからなる熔融物を得る。これにより、アルミニウム等の不純物元素は酸化物としてスラグに含まれるようになり、リンもフラックスに取り込まれてスラグに含まれるようになる。他方で、酸化物を形成し難い銅等の有価金属は熔融し、熔融物から一体化した合金として回収することができる。なお、熔融物から得られる熔融状態の合金を「熔融合金」ともいう。
【0040】
フラックスとしては、不純物元素を取り込んで融点の低い塩基性酸化物を形成する元素を含むものであることが好ましい。その中でも、安価で常温において安定である点で、カルシウム化合物を含むことがより好ましい。不純物元素であるリンは、酸化すると酸性酸化物になるため、熔融処理によって形成されるスラグが塩基性になるほどスラグに取り込まれ易くなる。
【0041】
カルシウム化合物としては、例えば、酸化カルシウムや炭酸カルシウムを添加することができる。また、添加するカルシウム量としては、スラグ系としてAl-CaO-LiO系を使用するため、試料中のアルミナを共晶化によって熔融するための適当量、すなわち重量比でCaO/(Al+CaO)=0.15以上となる量を添加することが好ましい。
【0042】
熔融工程S4では、廃リチウムイオン電池を熔融する際の酸化還元度を適切に調整するために、酸化剤や還元剤の存在下で行ってもよい。
【0043】
酸化剤としては、公知のものを用いることができ、固体の酸化剤を添加してもよく、炉内に気体状の酸化剤を導入してもよい。また、還元剤についても、公知のものを用いることができるが、炭素原子を含む還元剤であることが好ましい。炭素原子を含む還元剤を廃リチウムイオン電池に添加することで、廃リチウムイオン電池に含まれる、回収対象である有価金属の銅、ニッケル、コバルト等の酸化物を、容易に還元することができる。
【0044】
具体的に、炭素原子を含む還元剤の例としては、炭素1モルで銅酸化物やニッケル酸化物等の有価金属の酸化物2モルを還元することができる黒鉛が挙げられる。また、1モルあたり有価金属酸化物2モル~4モルを還元することができる炭化水素や、1モルあたり有価金属酸化物1モルを還元することができる一酸化炭素等を、炭素の供給源として添加することもできる。したがって、還元剤としての炭素の存在下で還元熔融処理を行うことで、有価金属を効率的に還元して、有価金属を含む合金をより効果的に得ることができる。また、炭素を用いた還元処理では、例えばアルミニウム等の金属粉を還元剤として還元するテルミット反応を利用する場合と比べて、極めて安全性が高いという利点もある。
【0045】
なお、炭素を還元剤として添加する場合、過剰量の炭素を添加してもよい。炭素の添加量が多すぎると、廃リチウムイオン電池にリンの化合物が含まれている場合に、その炭素によってリンも還元されて熔融合金相に含まれる可能性もあるが、必要に応じて酸化剤を添加しながら、フラックスの存在下で廃リチウムイオン電池を熔融することで、リンをフラックスに取り込んで除去することができる。
【0046】
熔融処理における加熱に際して、加熱温度に達した段階では熔融物の流動性が低く、熔け残りがあるため、例えば30分以上に亘って加熱温度を保持する必要がある。なお、最終的には、坩堝内を観察し、鉄製の検尺棒で完全に熔体になっているか確認することが好ましい。熔融後、流動性が高くなった熔融状態の合金(熔融合金)とスラグとは、坩堝内において、その比重によって、下層にメタル、上層にスラグというように分離する。このときも、鉄製の検尺棒を用いて上澄みのスラグを採取したのち、冷却、粉砕処理を行う。
【0047】
ここで、本実施の形態に係る有価金属の製造方法では、原料からのコバルト回収率が95.0%以上99.6%以下であることを確認して合金(メタル)を回収することによって、その合金のリン含有量を0.1質量%以下とすることを特徴としている。
【0048】
コバルト回収率の算出方法としては、特に限定されないが、例えば、熔融工程S4における熔融処理により生成したスラグ中のコバルト品位に基づいて算出することができる。具体的には、熔融処理により生成したスラグを用い、蛍光X線分析装置等の分析装置によって、そのスラグ中のコバルト品位を速やかに(例えば、8分以内に)分析する。
【0049】
図3は、スラグ中のコバルト品位とコバルト回収率との関係を示すグラフ図である。図3のグラフ図に示されるように、スラグ中のコバルト品位とコバルト回収率とは、比例関係にある。原料である廃リチウムイオン電池の組成に対して添加するフラックス、例えばカルシウム量は熔融するための適当量として決まっているため、原料の廃リチウムイオン電池の組成が決まれば生成するスラグ量が決まり、比例関係の傾きと切片も定まる。したがって、このような比例関係に基づいて、スラグ中のコバルト品位の分析結果から有効にコバルト回収率を算出することができる。
【0050】
あるいは、投入した原料の廃リチウムイオン電池中のコバルト量と、熔融処理により生成したスラグ中のコバルト品位と生成するスラグ量とから求めたスラグ中のコバルト量から、メタル中のコバルト量を求め、これによりコバルト回収率を算出することができる。なお、スラグ量は、投入した廃リチウムイオン電池の量からニッケル、コバルト、銅が全てメタルに分配されるとしてこれらを差し引き、残りの元素が酸化物となり、添加したフラックスは酸化カルシウムとしてスラグ量に加わるもの仮定として求める。
【0051】
このようにして、熔融工程S4において、生成したスラグの分析結果からコバルト回収率を確認する。具体的には、図1のグラフ図に示したように、そのコバルト回収率が95.0%以上99.6%以下の範囲であるか否かを確認する。そして、コバルト回収率が95.0%以上99.6%以下の範囲であることを確認したら熔融処理を終了し、次のスラグ分離工程S5において合金を回収することによって、回収した合金のリン含有量を0.1質量%以下にすることができる。
【0052】
ここで、コバルト回収率としては、95.0%以上98.0%以下の範囲であることがより好ましい。合金のコバルト回収率がこのような範囲であることを確認して熔融処理を終了し、合金を回収することによって、リン含有量が0.01質量%以下のより高品質な合金を回収することができる。
【0053】
スラグの分析結果に基づくコバルト回収率による操作にあたり、例えばスラグ中のコバルト品位の分析結果により算出されるコバルト回収率が95.0%以上99.6%以下の範囲から外れて、又は、95.0%以上99.6%以下の範囲内であっても、所定の目標値からずれが生じた場合、スラグ中のコバルト品位が低ければ必要に応じて酸化剤を投入することで、メタル中のコバルトの一部がスラグに分配されるものの、メタル中のリンをスラグに分配させることができる。
【0054】
また反対に、スラグ中のコバルト品位が高ければ還元剤を投入することで、スラグ中のリンの一部がメタルに分配されるものの、スラグ中のコバルトをメタルに分配させ回収率を高めることができる。
【0055】
このように、スラグの分析結果によるコバルト回収率の算出結果から、適切な還元度であるかどうかの判断を行うことができ、必要に応じて酸化剤、還元剤を投入して熔融処理を制御することができる。
【0056】
このときに用いる酸化剤としては、上述したように、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体を用いることが好ましい。また、その添加量(投入量)は、メタル中のコバルトの酸化反応もあることから、メタル中のリンに対して2P+5/2O→P(保持時間20分以上30分以下)の反応効率が50%以上90%以下となる量とすることが好ましい。また、還元剤としては、上述したように、炭素原子を含む還元剤を用いることが好ましい。また、その添加量(投入量)は、スラグ中のリンの還元反応もあることから、2CoO+C→2Co+COの反応効率が30%以上70%以下となる量とすることが好ましい。
【0057】
また、熔融処理における加熱温度(熔融温度)としては、特に限定されないが、1300℃以上とすることが好ましく、1350℃以上とすることがより好ましい。1300℃以上の温度で熔融処理を行うことにより、銅、コバルト、ニッケル等の有価金属が効率的に熔融し、流動性が十分に高められた状態で熔融合金が形成される。そのため、後述するスラグ分離工程S5における有価金属と不純物成分との分離効率を向上させることができる。なお、加熱温度が1300℃未満であると、有価金属と不純物との分離効率が不十分となる可能性がある。
【0058】
また、熔融処理における加熱温度の上限値としては、1500℃以下とすることが好ましい。加熱温度が1500℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費され、坩堝や炉壁等の耐火物の消耗も激しくなり、生産性が低下する可能性がある。
【0059】
熔融処理においては、粉塵や排ガス等が発生することがあるが、従来公知の排ガス処理を施すことによって無害化することができる。
【0060】
[スラグ分離工程]
スラグ分離工程S5では、熔融工程S4において得られる熔融物を固化した後、固化した熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収する。固化した熔融物に含まれるスラグと合金とは、その比重の違いにより分離しているため、スラグと合金とをそれぞれ回収することができる。
【0061】
本実施の形態に係る方法では、上述したように、熔融工程S4において、例えばスラグ中のコバルト品位からコバルト回収率を算出し、そのコバルト回収率が95.0%以上99.6%以下であることを確認したら熔融処理を終了し、その後、当該スラグ分離工程S5にてスラグと分離して合金(メタル)を回収する。これにより、リンの含有割合を効果的に低減した、具体的にはリン含有量が0.1質量%以下の合金を回収できる。
【0062】
ここで、有価金属を含む合金からそれぞれの有価金属を製造する際の製錬プロセスにおける処理は、中和処理や溶媒抽出処理等の公知の方法により行うことができ、特に限定されない。一例を挙げれば、コバルト、ニッケル、銅からなる合金の場合、硫酸等の酸で有価金属を浸出させた後(浸出工程)、溶媒抽出等により例えば銅を抽出し(抽出工程)、残存したニッケル及びコバルトの溶液は、電池製造プロセスにおける正極活物質製造工程等に払い出して利用することができる。
【0063】
本実施の形態に係る方法によれば、リンが有効に除去された有価金属を含む合金を得ることができるため、その有価金属を含む合金からそれぞれの有価金属を製造する際の製錬プロセスを単純化することができる。すなわち、得られた有価金属を含む合金に対して脱リン処理を行う工程を設ける必要がない。したがって、廃電池前処理工程S1からスラグ分離工程S5までのプロセスを広義の前処理として、得られた有価金属を含む合金からそれぞれの有価金属を製造する製錬プロセスを行うことで、有価金属をより高い回収率で効率的に得ることが可能となる。
【実施例0064】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0065】
[有価金属の回収処理]
(廃電池前処理工程)
先ず、廃リチウムイオン電池として、18650型円筒型電池、車載用の角形電池の使用済み電池、及び電池製造工程で回収した不良品を用意した。そして、この廃リチウムイオン電池をまとめて塩水中に浸漬して放電させた後、水分を飛ばし、260℃の温度で大気中にて焙焼して電解液及び外装缶を分解除去し、電池内容物を得た。電池内容物の主要元素組成は、以下の表1に示されるとおりであった。
【0066】
【表1】
【0067】
(粉砕工程)
次に、電池内容物を粉砕機(グッドカッター、株式会社氏家製作所製)により粉砕し、粉砕物を得た。
【0068】
(予備加熱工程)
次に、得られた粉砕物をロータリーキルンに投入し、大気中において、800℃の予備加熱温度で180分間の予備加熱を行った。
【0069】
(熔融工程)
実施例1~3では、予備加熱工程を経て得られた加熱処理後の粉砕物、それぞれ500gに対して、加熱温度(還元温度)をそれぞれ1350℃、1400℃、1450℃に設定し、以下の条件で熔融処理する試験を行った。
【0070】
熔融処理では、粉砕物に対して、フラックスとしての酸化カルシウムを重量比でCaO/(CaO+Al)=0.4となる127g、及び、粉砕物からニッケル、コバルト、銅を除いた総量に対してこの総量の全量が酸化した量をスラグ量とし、このスラグ量に対してスラグに含まれるマンガン量と同じ量の5%、すなわち20gの二酸化珪素を添加した。また、酸化還元度の調整のために、還元剤として黒鉛粉10gを添加してこれらを混合し、アルミナ製坩堝に装入した。
【0071】
熔融処理では、抵抗加熱炉によってそれぞれ加熱温度に加熱し、熔融状態となったことを検尺棒で確認した後、熔融状態で40分間保持した。その後、10分おきにスラグをサンプリングして蛍光X線分析装置を用いてスラグ中のコバルト品位を分析した。サンプリング方法は、鉄製の検尺棒を挿入してスラグを採取し、採取したスラグを小型振動ミルで粉砕して蛍光X線分析装置により分析を行い、スラグ中のコバルト品位を測定した。
【0072】
そして、スラグ中のコバルト品位とコバルト回収率との関係(図3)から、コバルト品位に基づいてメタルに分配されるコバルト回収率を算出し、コバルト回収率が95.0%以上であることを確認して、熔融処理を終了した。その後、坩堝を取り出してメタルを流し出し、冷却し、回収した(スラグ分離工程)。
【0073】
なお、実施例1~3では、サンプリングの結果に基づいて、コバルト回収率が95.0%未満であったときには還元剤を投入し還元度を調整して熔融処理を継続した。還元剤の投入量は、それぞれ、0.30g(実施例1の1回目サンプリング後)と0.24g(実施例1の2回目サンプリング後)、0.41g(実施例2の1回目サンプリング後)、0.52g(実施例3の1回目サンプリング後)であった。
【0074】
一方、比較例1では、熔融温度を1400℃、保持時間を25分とし、スラグのサンプリングは行わなかった。また、比較例2では、保持時間を80分とし、スラグのサンプリングは行わなかった。
【0075】
(スラグ分離工程)
熔融処理を行った後の熔融物について、比重の違いを利用して、鋳型に鋳込んだ後、メタルとスラグに分かれて固化した熔融物からスラグを分離し、合金を回収した。
【0076】
合金を回収した後のスラグについて、ICP分析装置(Agilent5100SUDV,アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて元素分析を行い、コバルトとリンの量を、スラグの全質量に対する割合(質量%)として求めた。
【0077】
また、スラグを分離した後の合金についても、ICP分析装置(Agilent5100SUDV,アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて元素分析を行い、コバルトとリンの量を測定し、電池内容物からのコバルト回収率と、合金中のリン品位を求めた。
【0078】
[結果]
下記表2に、スラグの全質量に対する、電池内容物からのコバルトの回収率と、合金中のリン品位の測定結果を示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2の結果から分かるように、実施例1~3で得られた合金は、電池に含まれる有価金属であるコバルトの回収率が95%以上であり、得られた合金中のリン品位が0.02質量%以下と良好な結果が得られた。このように、熔融処理に過程において、コバルト回収率を算出し、その結果に基づいて還元度を調整しながら熔融処理を行い、コバルト回収率が95%以上であることを確認して合金を回収することで、リン品位を低減したメタルを得ることができることがわかった。
【0081】
一方で、比較例1、2ではいずれも、得られたメタルのコバルト回収率が低いか、リン品位が高く、実施例1~3よりも悪い結果となった。
図1
図2
図3