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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167755
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】有価金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20221027BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B7/00 C
C22B7/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164950
(22)【出願日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2021073230
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄
(72)【発明者】
【氏名】永倉 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】矢部 貴之
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA15
4K001DA05
4K001EA07
4K001JA02
(57)【要約】
【課題】ニッケルとコバルトとを含有する酸化物を含む原料からそのニッケルとコバルトを含む有価金属を製造する方法において、熔融処理を経て得られる合金の還元度を適切にかつ効率的に調整することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料からの有価金属の製造方法であって、原料に対して熔融処理を施して熔融物を得る熔融工程と、熔融物からスラグを分離し、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、熔融工程では、前記原料中のコバルト量に対する、生成する前記合金中のコバルト量の比率(コバルト回収率)に基づいて熔融処理における還元度を判断し、還元度が過剰であると判断した場合には、ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料を酸化剤として添加する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料からの有価金属の製造方法であって、
前記原料に対して熔融処理を施して熔融物を得る熔融工程と、
前記熔融物からスラグを分離し、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、
を有し、
前記熔融工程では、前記原料中のコバルト量に対する、生成する前記合金中のコバルト量の比率(コバルト回収率)に基づいて前記熔融処理における還元度を判断し、
前記還元度が過剰であると判断した場合には、ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む前記原料を酸化剤として添加する、
有価金属の製造方法。
【請求項2】
前記熔融工程では、前記スラグ中のコバルト品位の分析結果に基づいて前記コバルト回収率を算出する、
請求項1に記載の有価金属の製造方法。
【請求項3】
前記熔融工程では、熔融処理により生成する熔体中の酸素分圧の測定結果に基づいて前記コバルト回収率を算出する、
請求項1に記載の有価金属の製造方法。
【請求項4】
前記熔融工程では、前記コバルト回収率が98%以上である場合を、前記熔融処理における還元度が過剰であると判断する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の有価金属の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料は、廃リチウムイオン電池を含む原料である、
請求項1乃至4のいずれかに記載の有価金属の製造方法。
【請求項6】
前記原料は、リンを含有するものであり、
前記スラグ分離工程を経て回収される合金のリン含有量が0.1質量%以下である、
請求項1乃至5のいずれかに記載の有価金属の製造方法。
【請求項7】
前記熔融工程では、1300℃以上1600℃以下の加熱温度で前記原料を熔融する、
請求項1乃至6のいずれかに記載の有価金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池等のニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料から有価金属を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の二次電池としてリチウムイオン電池が普及している。リチウムイオン電池としては、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶内に、銅箔からなる負極集電体に黒鉛等の負極活物質を固着した負極材、アルミニウム箔からなる正極集電体にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着した正極材、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなるセパレータ、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含む電解液等を封入したものが知られている。
【0003】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車があり、自動車のライフサイクルと共に、搭載されたリチウムイオン電池も将来大量に廃棄される見込みとなっている。このような使用済みの電池や製造中に生じた不良品(以下、「廃リチウムイオン電池」と称する。)を資源として再利用する提案が多くなされている。例えば、廃リチウムイオン電池の再利用法として、廃リチウムイオン電池を高温炉で全量熔解する乾式製錬プロセスが提案されている。
【0004】
廃リチウムイオン電池には、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)等の有価金属のほかに、炭素(C)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、リン(P)等の不純物成分が含まれる。そのため、廃リチウムイオン電池からの有価金属を回収するにあたっては、これらの不純物成分を除去する必要がある。
【0005】
乾式製錬プロセスにおいては、廃リチウムイオン電池を含む原料を約1500℃の温度で熔融した後、メタルとスラグに分離する処理が行われる。この処理において、原料に含まれる有価物について還元してメタルとして回収し、不純物について酸化してスラグに分離することで除去することができる。
【0006】
ところが、コバルト等の有価金属の回収率を上げるために還元度を強めに調整し過ぎると、不純物のうち例えばリンが酸化除去されずにメタル中に残留する。他方で、還元度を弱めに調整し過ぎると、有価金属まで酸化されて回収率が低下する。また、例えば過還元の場合、酸素等の気体を吹き込んで酸化することで還元度を調整することが考えられるが、融体に気体を吹き込む設備が必要になりコストがかかる。
【0007】
そのため、熔融処理において、不純物を有効に除去しながら、有価金属を高い回収率で回収するために、得られる合金(メタル)の還元度を適切にかつ経済的にも効率的に調整できるようにすることが望まれている。
【0008】
なお、特許文献1には、廃リチウムイオン電池等からニッケル、コバルトを含む有価金属を回収する有価金属の回収プロセスにおいて、有価金属の回収率に悪影響を与えることなく脱リン処理を行うことにより、高い回収率で有価金属を回収する技術が開示されている。しかしながら、得られる合金の還元度の調整については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-091826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、上述したような廃リチウムイオン電池等のニッケルとコバルトとを含有する酸化物を含む原料からそのニッケルとコバルトを含む有価金属を製造する方法において、熔融処理を経て得られる合金の還元度を適切にかつ効率的に調整することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、廃リチウムイオン電池等のニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料を熔融処理して熔融物を得る工程において、コバルト回収率に基づいて熔融処理における還元度を判断し、還元度が過剰であると判断した場合に、ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料を酸化剤として添加することで、その還元度を適切にかつ効率的に調整できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料からの有価金属の製造方法であって、前記原料に対して熔融処理を施して熔融物を得る熔融工程と、前記熔融物からスラグを分離し、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、前記熔融工程では、前記原料中のコバルト量に対する、生成する前記合金中のコバルト量の比率(コバルト回収率)に基づいて前記熔融処理における還元度を判断し、前記還元度が過剰であると判断した場合には、ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む前記原料を酸化剤として添加する、有価金属の製造方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記熔融工程では、前記スラグ中のコバルト品位の分析結果に基づいて前記コバルト回収率を算出する、有価金属の製造方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1の発明において、前記熔融工程では、熔融処理により生成する熔体中の酸素分圧の測定結果に基づいて前記コバルト回収率を算出する、有価金属の製造方法である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記熔融工程では、前記コバルト回収率が98%以上である場合を、前記熔融処理における還元度が過剰であると判断する、有価金属の製造方法である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料は、廃リチウムイオン電池を含む原料である、有価金属の製造方法である。
【0017】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記原料は、リンを含有するものであり、前記スラグ分離工程を経て回収される合金のリン含有量が0.1質量%以下である、有価金属の製造方法である。
【0018】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、前記熔融工程では、1300℃以上1600℃以下の加熱温度で前記原料を熔融する、有価金属の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熔融処理を経て得られる合金の還元度を適切にかつ効率的に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】有価金属の製造方法の流れの一例を示す工程図である。
図2】スラグ中のコバルト品位とコバルト回収率との関係を示すグラフ図である。
図3】熔体中の酸素分圧とコバルト回収率との関係を示すグラフ図である。
図4】コバルト回収率とメタル中のリン品位との関係を示すグラフ図であり、熔融処理の還元度の調整について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0022】
≪1.有価金属の製造方法≫
本実施の形態に係る有価金属の製造方法は、少なくともニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料から有価金属を分離回収する方法である。したがって、有価金属の回収方法とも言い換えることができる。本実施の形態に係る方法は、主として乾式製錬プロセスによる方法であるが、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとから構成されていてもよい。
【0023】
「ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料」としては、例えば、廃リチウムイオン電池を含む原料が挙げられる。リチウムイオン電池を構成する正極材には、ニッケル及びコバルトの酸化物が含まれている。なお、「廃リチウムイオン電池」とは、使用済みのリチウムイオン電池のみならず、電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念である。そのため、廃リチウムイオン電池をリチウムイオン電池廃材と言うこともできる。
【0024】
また、ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料から回収できる「有価金属」とは、少なくとも、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)をいう。例えば、その原料が廃リチウムイオン電池を含む原料である場合、有価金属としては、ニッケルやコバルトのほか、銅(Cu)等も挙げられ、さらに、ニッケル、コバルト、銅の組み合わせからなる合金が挙げられる。なお、廃リチウムイオン電池に含まれる各有価金属の含有量については、特に限定されない。例えば、銅が10質量%以上含まれるものであってもよい。
【0025】
具体的に、本実施の形態に係る有価金属の製造方法は、ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料に対して熔融処理を施し熔融物を得る熔融工程と、熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、を少なくとも有する。そして、この方法では、熔融工程にて、コバルト回収率に基づいて熔融処理における還元度を判断し、還元度が過剰であると判断した場合には、ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料を、酸化剤として添加することを特徴としている。ここで、「コバルト回収率」とは、原料中のコバルト量に対する、処理により生成して回収した合金中のコバルト量の比率(百分率)をいう。
【0026】
コバルト回収率は、例えば、スラグ中のコバルト品位の分析結果に基づいて算出することができる。あるいは、原料を熔融して生成する熔体中の酸素分圧の測定結果に基づいて算出することもできる。
【0027】
このように、本実施の形態に係る方法では、熔融処理により得られるスラグや合金、あるいはそれらを含む熔体からコバルト回収率を算出し、そのコバルト回収率に基づいて還元度を判断するようにしている。
【0028】
そして、この方法では、スラグ中のコバルト品位に基づいて判断できる還元度が過剰な状態、つまり過還元であると判断した場合には、酸化剤を添加して還元度を調整するが、このときに添加する還元剤として、処理対象の原料であるニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料を用いる。具体的に、例えば原料として廃リチウムイオン電池を含む原料を用いて熔融処理を行う場合、過還元であると判断したときに添加する酸化剤として、その廃リチウムイオン電池を含む原料を用いる。
【0029】
このような方法によれば、熔融処理において還元度を適切に把握することができ、その還元度に基づいて適宜酸化剤を添加することで、還元度を調整することができる。これにより、有価金属を高い回収率で回収できるとともに、リン等の不純物の含有量を有効に低減したメタルを得ることができる。また、還元度の調整に際して添加する酸化剤として、ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料(例えば廃リチウムイオン電池を含む原料)を添加するようにしているため、効果的に還元度の調整ができるだけでなく、回収対象の有価金属を含む酸化剤であるため、メタルの回収量を増加させることができる。
【0030】
以下では、有価金属の製造方法について、ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料として、廃リチウムイオン電池を含む原料を用いる場合を例に挙げて、より具体的に説明する。
【0031】
≪2.製造方法の各工程について≫
図1は、本実施の形態に係る有価金属の製造方法の流れの一例を示す工程図である。図1に示すように、有価金属の製造方法は、廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を製造する方法であって、廃リチウムイオン電池の電解液及び外装缶を除去する廃電池前処理工程S1と、電池の内容物を粉砕して粉砕物とする粉砕工程S2と、粉砕物を必要に応じて予備加熱する予備加熱工程(「酸化焙焼工程」ともよぶ)S3と、粉砕物を熔融して熔融物を得る熔融工程(「還元熔融工程」ともよぶ)S4と、熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程S5と、を有する。
【0032】
[廃電池前処理工程]
廃電池前処理工程S1は、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収するにあたり、廃リチウムイオン電池の爆発防止又は無害化、外装缶除去等を目的として行われる。
【0033】
すなわち、例えば使用済みのリチウムイオン電池等の廃リチウムイオン電池は密閉系であり、内部に電解液等を有しているため、そのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがあり危険である。そのため、何らかの方法で放電処理や電解液の除去処理を施す必要がある。このように、廃電池前処理工程S1において、電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高め、また、銅、ニッケル、コバルト等の有価金属の回収生産性を高めることができる。
【0034】
前処理の具体的な方法としては、特に限定されないが、例えば、針状の刃先で電池を物理的に開孔することにより、内部の電解液を流し出して除去することができる。また、廃リチウムイオン電池をそのまま加熱し、電解液を燃焼させることで無害化してもよい。
【0035】
なお、電池を構成する外装缶は、金属のアルミニウムや鉄等で構成されている場合が多く、このような前処理を経ることで、金属製の外装缶をそのまま有価金属として比較的容易に回収することが可能である。例えば、外装缶に含まれるアルミニウムや鉄を回収する場合には、除去された外装缶を粉砕した後に篩振とう機を用いて篩分けを行うことができる。アルミニウムの場合、軽度の粉砕であっても容易に粉状となり、効率的に回収できる。また、磁力による選別によって外装缶に含まれている鉄の回収を行うこともできる。
【0036】
[粉砕工程]
粉砕工程S2では、廃電池前処理工程S1を経て得られた電池内容物を粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程S2における処理は、次工程以降の乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的として行われ、反応効率を高めることで、銅、ニッケル、コバルト等の有価金属の回収率を高めることができる。
【0037】
粉砕方法としては、特に限定されないが、カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて、電池の内容物を粉砕することができる。
【0038】
[予備加熱工程]
粉砕工程S2を経た廃リチウムイオン電池の粉砕物に対して、必要に応じて予備加熱工程S3を設けて加熱処理(酸化焙焼処理)を行うことができる。予備加熱工程S3において加熱処理を行うことで、電池の内容物に含まれる不純物を揮発させ、又は熱分解させて除去することができる。
【0039】
予備加熱工程S3では、例えば、700℃以上の温度(予備加熱温度)で加熱を行うことが好ましい。予備加熱温度を700℃以上とすることで、電池に含まれる不純物の除去効率を高めることができる。一方で、予備加熱温度の上限値としては、900℃以下とすることが好ましく、これにより、熱エネルギーコストを抑制することができ、処理効率を高めることができる。
【0040】
加熱処理は、酸化剤の存在下で行うことが好ましい。これにより、電池の内容物に含まれる不純物のうちの炭素を酸化除去することができ、また、アルミニウムを酸化することができる。特に、炭素を酸化除去することで、その後の熔融工程S4において局所的に発生する有価金属の熔融微粒子が、炭素による物理的な障害なく凝集することが可能となるため、熔融物として得られる合金を一体化して回収し易くすることができる。なお、一般的に、廃リチウムイオン電池を構成する主要元素は、酸素との親和力の差により、アルミニウム>リチウム>炭素>マンガン>リン>鉄>コバルト>ニッケル>銅、の順に酸化され易い。
【0041】
酸化剤としては、特に限定されないが、取り扱いが容易な点から、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体を用いることが好ましい。また、酸化剤の導入量としては、例えば、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度とすることができる。
【0042】
[熔融工程]
熔融工程(還元熔融工程)S4では、廃リチウムイオン電池の粉砕物を、フラックスと共に熔融して、有価金属を含む合金とスラグとからなる熔融物を得る。これにより、アルミニウム等の不純物元素は酸化物としてスラグに含まれるようになり、リンもフラックスに取り込まれてスラグに含まれるようになる。他方で、酸化物を形成し難い銅等の有価金属は熔融し、熔融物から一体化した合金として回収することができる。
【0043】
フラックスとしては、不純物元素を取り込んで融点の低い塩基性酸化物を形成する元素を含むものであることが好ましい。その中でも、安価で常温において安定である点で、カルシウム化合物を含むことがより好ましい。不純物元素であるリンは、酸化すると酸性酸化物になるため、熔融処理によって形成されるスラグが塩基性になるほどスラグに取り込まれ易くなる。
【0044】
カルシウム化合物としては、例えば、酸化カルシウムや炭酸カルシウムを添加することができる。また、添加するカルシウム量としては、スラグ系としてAl-CaO-LiO系を使用するため、試料中のアルミナを共晶化によって熔融するための適当量、すなわち重量比でCaO/(Al+CaO)=0.15以上となる量を添加することが好ましい。
【0045】
熔融工程S4では、廃リチウムイオン電池を熔融する際の酸化還元度を適切に調整するために、酸化剤や還元剤の存在下で行ってもよい。
【0046】
酸化剤としては、公知のものを用いることができ、固体の酸化剤を添加してもよく、炉内に気体状の酸化剤を導入してもよい。また、還元剤についても、公知のものを用いることができるが、炭素原子を含む還元剤であることが好ましい。炭素原子を含む還元剤を廃リチウムイオン電池に添加することで、廃リチウムイオン電池に含まれる、回収対象である有価金属の銅、ニッケル、コバルト等の酸化物を、容易に還元することができる。
【0047】
具体的に、炭素原子を含む還元剤の例としては、炭素1モルで銅酸化物やニッケル酸化物等の有価金属の酸化物2モルを還元することができる黒鉛が挙げられる。また、1モルあたり有価金属酸化物2モル~4モルを還元することができる炭化水素や、1モルあたり有価金属酸化物1モルを還元することができる一酸化炭素等を、炭素の供給源として添加することもできる。このように、還元剤としての炭素の存在下で還元熔融処理を行うことで、有価金属を効率的に還元して、有価金属を含む合金をより効果的に得ることができる。また、炭素を用いた還元処理では、例えばアルミニウム等の金属粉を還元剤として還元するテルミット反応を利用する場合と比べて、極めて安全性が高いという利点もある。
【0048】
なお、炭素を還元剤として添加する場合、過剰量の炭素を添加してもよい。炭素の添加量が多すぎると、廃リチウムイオン電池にリンの化合物が含まれている場合に、その炭素によってリンも還元されて合金相に含まれる可能性もあるが、必要に応じて酸化剤を添加しながら、フラックスの存在下で廃リチウムイオン電池を熔融することで、リンをフラックスに取り込んで除去することができる。
【0049】
熔融処理における加熱に際して、加熱温度に達した段階では熔融物の流動性が低く、熔け残りがあるため、例えば30分以上に亘って加熱温度を保持する必要がある。なお、最終的には、坩堝内を観察し、鉄製の検尺棒で完全に熔体になっているか確認することが好ましい。熔融後、流動性が高くなった熔融状態の合金とスラグとは、坩堝内において、その比重によって、下層にメタル、上層にスラグというように分離する。このときも、鉄製の検尺棒を用いて上澄みのスラグを採取したのち、冷却、粉砕処理を行う。
【0050】
ここで、本実施の形態に係る有価金属の製造方法では、原料中のコバルト量に対する、処理により生成して回収した合金中のコバルト量の比率、すなわちコバルト回収率に基づいて、熔融処理における還元度を判断する。そして、例えば、そのコバルト回収率が98%以上である場合には、熔融処理における還元度が過剰であると判断することができる。
【0051】
(コバルト回収率の算出に関する第1の態様)
コバルト回収率については、第1の態様として、生成するスラグ中のコバルト品位の分析結果に基づいて算出することができる。
【0052】
図2は、スラグ中のコバルト品位とコバルト回収率との関係を示すグラフ図である。図2のグラフ図に示されるように、スラグ中のコバルト品位とコバルト回収率とは、比例関係にある。原料である廃リチウムイオン電池の組成に対して添加するフラックス、例えばカルシウムの量は、熔融するための適当量として決まっているため、原料の廃リチウムイオン電池の組成が決まれば生成するスラグ量が決まり、比例関係の傾きと切片も定まる。したがって、このような比例関係に基づいて、スラグ中のコバルト品位の分析結果から有効にコバルト回収率を算出することができる。
【0053】
このようにして、熔融処理により生成したスラグを用い、蛍光X線分析装置等の分析装置によって、そのスラグ中のコバルト品位を速やかに(例えば、8分以内に)分析する。これにより、コバルト回収率を算出することができる。
【0054】
あるいは、投入した原料の廃リチウムイオン電池中のコバルト量と、熔融処理により生成したスラグ中のコバルト品位と生成するスラグ量とから求めたスラグ中のコバルト量から、メタル中のコバルト量を求め、これによりコバルト回収率を算出することもできる。なお、スラグ量は、投入した廃リチウムイオン電池の量からニッケル、コバルト、銅が全てメタルに分配されるとしてこれらを差し引き、残りの元素が酸化物となり、添加したフラックスは酸化カルシウムとしてスラグ量に加わるものと仮定して求める。
【0055】
(コバルト回収率の算出に関する第2の態様)
コバルト回収率については、第2の態様として、熔融処理により生成する熔体(熔融物)の酸素分圧の測定結果に基づいて算出することができる。
【0056】
図3は、熔体中の酸素分圧とコバルト回収率との関係を示すグラフ図である。本発明者らによる研究の結果、熔体中の酸素分圧とコバルト回収率との間には、図3に示すように、一対一に対応する関係があることが見出され、熔体中の酸素分圧を測定することにより、その酸素分圧に対応するコバルト回収率を求めることができることがわかった。
【0057】
熔体中の酸素分圧を測定する手法は、熔体中の酸素分圧を直接測定できる手法であれば、特に限定されない。例えば、酸素センサー(酸素プローブ)に備えた酸素分析計を用い、この酸素センサーの先端が熔体に浸かるようにセンサーを差し込んで測定する手法が挙げられる。なお、酸素センサーとしては、ジルコニア固体電解式センサー等の公知のセンサーを用いることができる。
【0058】
例えば、図3を参照すると、熔体中の酸素分圧が10-14atm以下である場合はコバルト回収率が98%を超え、熔体中の酸素分圧が10-12atm以上である場合はコバルト回収率が95%未満となる。
【0059】
このことから、熔体中の酸素分圧が10-12atmを超え、10-14atm未満となる範囲に酸素分圧が制御されるように、コバルト回収率に基づいて還元度を調整することで、後述する図4に示す関係にもあるように、コバルトを高い回収率で回収しながら、効果的にかつ効率的にリンを除去することができ、リンの含有量を低減した高品質な合金を回収することができる。なお、上述したような関係から、熔体中の酸素分圧を制御することによっても、目的とするメタルを効果的に得ることができる。
【0060】
(算出したコバルト回収率に基づく還元度の判断及び制御)
このようにして、スラグ中のコバルト品位の測定結果や、熔体の酸素分圧の測定結果によりコバルト回収率を算出すると、そのコバルト回収率に基づいて、熔融処理における還元度の判断を行う。具体的には、例えば、そのコバルト回収率が、95%以上98%以下の範囲であるか否かを確認して還元度の判断を行う。
【0061】
本発明者らによる研究の結果、廃リチウムイオン電池を含む原料からのコバルト回収率と、回収した合金(メタル)に含まれる不純物のリン(P)の品位とに関係性があることが見出された。具体的に、図4は、コバルト回収率とメタル(合金)中のリン品位との関係を示すグラフ図である。図4のグラフ図に示すように、コバルト回収率が98%を超えると、回収されるメタル中のリン品位が急激に上昇することがわかる。なお、有価金属であるコバルトの回収率としては、95%以上となることが好ましい。
【0062】
このことから、算出されるコバルト回収率が95%以上98%以下の範囲であるか否かを確認し、その範囲内であることを確認して熔融処理を終了することで、その後に回収される合金(メタル)中のリン含有量を0.1質量%以下とすることができる。これにより、合金を回収した後に別途脱リン処理を行う工程を設けることなく、コバルトを高い回収率で回収しながら、効果的にかつ効率的にリンを除去することができ、リンの含有量を低減した高品質な合金を回収することができる。
【0063】
一方で、算出されるコバルト回収率が98%以上である場合には、熔融処理における還元度が過剰である状態、つまり過還元であると判断することができる。コバルト回収率が98%以上である場合、その数値のとおりコバルトの回収の点では良好であるものの、リン等の不純物のメタルへの分配割合も多くなる。
【0064】
本実施の形態に係る方法では、このように、得られるコバルト回収率に基づいて熔融処理における還元度を判断することが重要となる。そして、例えば、算出されるコバルト回収率が98%以上である場合に、還元度が過剰であると判断することができ、その判断に基づいて熔融処理の還元度を適切に調整することが可能となる。
【0065】
具体的には、算出されるコバルト回収率が95%以上98%以下の範囲から外れて、又は、95%以上98%以下の範囲内であっても、所定の目標値からずれが生じた場合、スラグ中のコバルト品位が低ければ必要に応じて酸化剤を投入することで、メタル中のコバルトの一部がスラグに分配されるものの、メタル中のリンをスラグに分配させることができる。また反対に、スラグ中のコバルト品位が高ければ還元剤を投入することで、スラグ中のリンの一部がメタルに分配されるものの、スラグ中のコバルトをメタルに分配させ回収率を高めることができる。
【0066】
このように、コバルト回収率から、適切な還元度であるかどうかの判断を有効に行うことができ、必要に応じて酸化剤、還元剤を投入して熔融処理を制御することができる。
【0067】
ここで、算出されるコバルト回収率が98%以上である場合には、還元度が過剰、つまり得られるメタルは過還元となっており、メタル中のリン含有量が多くなる。そのため、酸化剤を投入して還元度を調整する必要がある。このとき、本実施の形態に係る方法では、その酸化剤として、ニッケル及びコバルトの酸化物を含む原料を酸化剤として用いる。具体的には、ニッケル及びコバルトの酸化物を含む原料として、廃リチウムイオン電池を含む原料を酸化剤として用いる。
【0068】
これにより、還元度を適切に調整してメタル中のリン等の不純物を効果的にスラグに酸化除去することができるとともに、酸化剤として使用した原料(廃リチウムイオン電池を含む原料)中のニッケル及びコバルトについてはメタルの形態に還元して回収できる。
【0069】
一般的に、熔融処理においては、上述したように過剰量の炭素を添加するようにしていることから、還元度の調整にあたっては酸化剤を添加する頻度が多くなる。このときに、酸化剤として、ニッケル及びコバルトの酸化物を含む原料を用いることで、適切な還元度の調整が可能になるとともに、その酸化剤に含まれるニッケル及びコバルトについても併せて回収することができ、メタルの回収量を増加させることができる。
【0070】
還元度の調整に際して用いる酸化剤の量としては、例えば、スラグ中のコバルト品位から算出されるコバルト回収率からメタル中のリン品位を予測し、そのメタル中のリンを全量酸化させるのに必要な量に設定して投入すればよい。
【0071】
具体的には、例えばメタル量が100gでリン品位が0.2質量%と推定される場合、メタル中のリンの物量としては0.2gであり、仮に酸化剤をNiとし酸化効率を100%とした場合、P+5/6Ni=1/2P+5/3Niの反応式が成り立つため、酸化剤Niの添加量は0.89gとなる。また、仮に酸化剤をCoとし酸化効率を100%とした場合では、P+5/6Co=1/2P+5/3Coの反応式が成り立つため、酸化剤Coの添加量は0.89gとなる。例示した添加量については、反応効率を100%とした場合の物量であるが、メタル中のコバルトの酸化反応もあるため、メタル中のリンに対して2P+5/2O⇒Pの反応効率を30%以上90%以下として求め保持時間が5分以上30分以下として、実添加量を設定することが好ましい。また、還元剤の添加量については、炭素原子を含む還元剤を使用したとき、スラグ中のリンの還元反応もあるため、2CoO+C⇒2Co+COの反応効率を30%以上70%以下として求めることが好ましい。
【0072】
上述したように、還元度の調整に際して用いる酸化剤としては、ニッケル及びコバルトの酸化物を含む原料、すなわち廃リチウムイオン電池を含む原料を用いる。この場合、廃リチウムイオン電池を700℃~900℃で酸化焙焼して得られる酸化物(廃リチウムイオン電池由来の酸化物)を使用する。なお、廃リチウムイオン電池由来の酸化物に含まれるNiは0%以上85%以下であり、Coは0%以上85%以下であり、実際には、酸化物に含まれるNi及びCoの分析値から酸化物の添加量を設定することが好ましい。
【0073】
また、酸化剤としては、廃リチウムイオン電池ではなく、廃リチウムイオン電池を分別して得られた正極材(例えば、NCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム系リチウムイオン電池)スクラップ)を使用することもできる。正極材に含まれるNiは0%以上85%以下であり、Coは0%以上85%以下である。この場合、正極材以外の原料から混入するアルミニウムやリン等の不純物の量を抑えることができ、好ましい。
【0074】
なお、還元度の調整に際しては、上述したように酸化剤を用いて調整することのみに限られず、還元剤の添加を併用することを妨げない。具体的に、還元剤として、炭素品位の高い材料(黒鉛粉、黒鉛粒、石炭、コークス等)や一酸化炭素を用いて調整することができる。また、還元剤として、原料のうちの炭素品位の高い成分を用いることもできる。
【0075】
熔融処理における加熱温度(熔融温度)としては、特に限定されないが、1300℃以上とすることが好ましく、1350℃以上とすることがより好ましい。1300℃以上の温度で熔融処理を行うことにより、銅、コバルト、ニッケル等の有価金属が効率的に熔融し、流動性が十分に高められた状態で合金が形成される。そのため、後述するスラグ分離工程S5における有価金属と不純物成分との分離効率を向上させることができる。なお、加熱温度が1300℃未満であると、有価金属と不純物との分離効率が不十分となる可能性がある。
【0076】
また、熔融処理における加熱温度の上限値としては、1600℃以下とすることが好ましい。加熱温度が1600℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費され、坩堝や炉壁等の耐火物の消耗も激しくなり、生産性が低下する可能性がある。
【0077】
熔融処理においては、粉塵や排ガス等が発生することがあるが、従来公知の排ガス処理を施すことによって無害化することができる。
【0078】
[スラグ分離工程]
スラグ分離工程S5では、熔融工程S4において得られる熔融物を固化した後、固化した熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収する。固化した熔融物に含まれるスラグと合金とは、その比重の違いにより分離しているため、スラグと合金とをそれぞれ回収することができる。
【0079】
ここで、有価金属を含む合金からそれぞれの有価金属を製造する際の製錬プロセスにおける処理は、中和処理や溶媒抽出処理等の公知の方法により行うことができ、特に限定されない。一例を挙げれば、コバルト、ニッケル、銅からなる合金の場合、硫酸等の酸で有価金属を浸出させた後(浸出工程)、溶媒抽出等により例えば銅を抽出し(抽出工程)、残存したニッケル及びコバルトの溶液は、電池製造プロセスにおける正極活物質製造工程等に払い出して利用することができる。
【0080】
本実施の形態に係る方法では、上述したように、熔融工程S4において、原料中のコバルト量に対する、生成する前記合金中のコバルト量の比率(コバルト回収率)に基づいてその熔融処理の還元度を確認する。そして、例えばその算出されるコバルト回収率が95%以上98%以下であることを確認したら熔融処理を終了し、その後、当該スラグ分離工程S5にてスラグと分離して合金(メタル)を回収する。これにより、リンの含有割合を効果的に低減した、具体的にはリン含有量が0.1質量%以下の合金を回収できる。
【0081】
一方で、スラグ中のコバルト品位に基づいて熔融処理が過還元であると判断される場合、例えば、コバルト品位から算出されるコバルト回収率が98%以上であって過還元であると判断される場合には、ニッケルとコバルトを含有する酸化物を含む原料(廃リチウムイオン電池を含む原料)を、酸化剤として添加して還元度を調整する。
【0082】
コバルト回収率については、スラグ中のコバルト品位の分析結果に基づいて算出することができる。また、熔融処理により生成する熔体中の酸素分圧の測定結果に基づいてコバルト回収率を算出することもできる。
【0083】
このような本実施の形態に係る方法によれば、廃リチウムイオン電池を熔融する工程において、リンが除去された有価金属を含む合金を効率良く得ることができ、その有価金属を含む合金からそれぞれの有価金属を製造する際の製錬プロセスを単純化することができる。すなわち、得られた有価金属を含む合金に対して脱リン処理を行う工程を設ける必要がない。それに加えて、還元度が過剰な場合に添加する酸化剤として原料を使用するため、この原料に含まれる有価金属も併せて回収することができる。すなわち、より高い効率で有価金属を回収することができる。
【実施例0084】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0085】
[有価金属の回収処理]
(廃電池前処理工程)
先ず、廃リチウムイオン電池として、18650型円筒型電池、車載用の角形電池の使用済み電池、及び電池製造工程で回収した不良品を用意した。そして、この廃リチウムイオン電池をまとめて塩水中に浸漬して放電させた後、水分を飛ばし、260℃の温度で大気中にて焙焼して電解液及び外装缶を分解除去し、電池内容物を得た。電池内容物の主要元素組成は、以下の表1に示されるとおりであった。
【0086】
【表1】
【0087】
(粉砕工程)
次に、電池内容物を粉砕機(グッドカッター、株式会社氏家製作所製)により粉砕し、粉砕物を得た。
【0088】
(予備加熱工程)
次に、得られた粉砕物をロータリーキルンに投入し、大気中において、800℃の予備加熱温度で180分間の予備加熱を行った。
【0089】
(熔融工程)
得られた廃リチウムイオン電池の酸化物を、下記表2に示す条件で熔解する熔融処理を行った。そして、第1回目で得られたスラグ中のコバルト品位0.01質量%から、コバルト回収率99.9%を推定し、その推定されたコバルト回収率からメタル中のリン品位0.6質量%を推定した。
【0090】
また、このときの熔体中の酸素分圧を測定した。その結果、素分圧の測定値は10-15atmであり、その酸素分圧の結果からもコバルト回収率99.9%を推定することができた。なお、酸素分圧の測定においては、酸素プローブ(川惣電機工業株式会社製,OXT-O)を先端に備えた酸素分析計を用い、酸素プローブの先端が直接熔体に浸かるようにプローブを差し込み、測定値が落ち着くのを待ってから、その測定値を読み取った。酸素プローブは、ジルコニア固体電解式センサーを備えているものであった。
【0091】
推定されたメタル中のリン品位から、メタル100gにつき、リン品位0.2質量%毎に酸化剤としてのNiは0.89g、Coは0.89g必要となるため、メタル量2120gに対して、NCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム系リチウムイオン電池)スクラップ由来の酸化物に含まれるNiは77質量%、Coは8質量%であることから、リンの酸化効率を100%とした場合に必要なNCAスクラップ由来の酸化物の物量は66.6gとなる。ここで、実際の還元度の調整に際しては、酸化効率を考慮し、確実にリン除去するために、2.4倍量、すなわち反応効率を42%として160gのNCAスクラップ由来の酸化物を酸化剤として添加して還元度を調整した。
【0092】
(スラグ分離工程)
熔融処理を行った後の熔融物について、比重の違いを利用して鋳型に鋳込んだ後、メタルとスラグに分かれて固化した熔融物からスラグを分離し、合金を回収した。
【0093】
合金を回収した後のスラグについて、ICP分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製、Agilent5100SUDV)を用いて元素分析を行い、コバルトとリンの量を、スラグの全質量に対する割合(質量%)として求めた。
【0094】
また、スラグを分離した後の合金についても、ICP分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製、Agilent5100SUDV)を用いて元素分析を行い、コバルトとリンの量を測定し、電池からのコバルトの回収率と、合金中のリン品位を求めた。
【0095】
[結果]
下記表2に、スラグの全質量に対する、廃リチウムイオン電池からのコバルトの回収率と、合金中のリン品位の測定結果を示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示す結果から分かるように、実施例で得られた合金は、電池に含まれる有価金属であるコバルトの回収率が95%以上であり、且つ、得られた合金中のリン品位が0.01質量%以下と良好な結果が得られた。つまり、熔融状態の廃リチウムイオン電池のスラグ中のコバルト品位の結果から算出されるコバルト回収率に基づいて還元熔融時の還元度を適切に調整することができ、目的のメタルを得ることができた。
【0098】
また、酸素分圧が10-15atmである場合には、コバルト回収率は99.9%となり、酸素分圧が10-12.8atmである場合には、コバルト回収率は96.4%となって酸素分圧とコバルト回収率に関係性があることが示された。しかも、この結果は、図3に示すグラフに整合するものとなっていた。したがって、熔体の酸素分圧に基づいてコバルト回収率を求めることができ、そのコバルト回収率に基づいて、目的のメタルを得ることができることが明らかになった。なお、このような結果から、酸素分圧を制御することによっても、目的のメタルを得ることができることがわかった。
【0099】
またこのとき、還元度の調整に際して用いた酸化剤としてNCAスクラップを用いたことから、メタルの回収量も増加させることができた。
図1
図2
図3
図4