(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167817
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】ウェルアレイ、システム、及び方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/38 20060101AFI20221027BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20221027BHJP
C12M 1/18 20060101ALI20221027BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20221027BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20221027BHJP
B81B 7/02 20060101ALI20221027BHJP
F16K 31/70 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C12M1/38 Z
C12M1/34 A
C12M1/18
C12M1/26
B81B3/00
B81B7/02
F16K31/70 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067080
(22)【出願日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2021073263
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】池内 真志
(72)【発明者】
【氏名】宇都 甲一郎
【テーマコード(参考)】
3C081
3H057
4B029
【Fターム(参考)】
3C081AA18
3C081BA03
3C081BA23
3C081BA25
3C081BA27
3C081BA28
3C081BA33
3C081BA45
3C081BA48
3C081BA72
3C081BA80
3C081DA10
3C081DA21
3C081EA01
3C081EA39
3H057AA16
3H057BB49
3H057CC03
3H057DD13
3H057DD14
3H057EE05
3H057FA12
3H057FA17
3H057FA26
3H057FB15
3H057FC02
3H057FD19
3H057HH11
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029DG10
4B029FA15
4B029GA03
4B029HA02
(57)【要約】
【課題】対象物を効率よく選別できるウェルアレイ、システム、及び方法を提供する。
【解決手段】本開示に係るウェルアレイは、対象物を選別するためのウェルアレイであって、複数のウェルを備え、各ウェルは、少なくとも底部に開口及びバルブを有し、前記バルブは、光照射に応答して前記開口を閉鎖する閉状態と前記開口を開放する開状態との間で変形可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を選別するためのウェルアレイであって、
複数のウェルを備え、
各ウェルは、少なくとも底部に開口及びバルブを有し、前記バルブは、光照射に応答して前記開口を閉鎖する閉状態と前記開口を開放する開状態との間で変形可能である、
ウェルアレイ。
【請求項2】
前記バルブは、光が照射されたことに応答して熱を発生させる光熱変換材料と、所定温度以上の温度で所定形状に変形する熱応答変形材料と、を含む、
請求項1に記載のウェルアレイ。
【請求項3】
前記光熱変換材料が光照射ユニットからの光に応答して熱を発生させ、前記熱応答変形材料が前記熱に応答して前記所定形状に変形することにより前記バルブが閉状態から開状態に変形する、
請求項2に記載のウェルアレイ。
【請求項4】
前記熱応答変形材料は、状態遷移温度以上の温度で所定形状を回復する形状記憶材料であり、前記形状記憶材料は、状態遷移温度以上の温度に応答して、前記開口を閉鎖する形状から前記開口を開放する前記所定形状に変形する、
請求項2に記載のウェルアレイ。
【請求項5】
前記形状記憶材料は、生体適合性を有する形状記憶ポリマーであり、前記形状記憶材料の状態遷移温度が25℃~35℃である、
請求項4に記載のウェルアレイ。
【請求項6】
前記複数のウェルを形成する複数の孔を有する基部と、
前記複数の孔を覆うように設けられたバルブ膜であって、前記複数の孔の各々に対応する位置に前記バルブが形成されたバルブ膜と、
を備える、
請求項1~5のいずれか一項に記載のウェルアレイ。
【請求項7】
各ウェルは、生体分子である前記対象物を1分子だけ収容できる大きさである、
請求項1~5のいずれか一項に記載のウェルアレイ。
【請求項8】
前記対象物が精子である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のウェルアレイ。
【請求項9】
対象物を選別するためのシステムであって、
請求項1~5のいずれか一項に記載のウェルアレイと、
ウェルが前記対象物を含むか否かを判定する判定部と、判定結果に基づき複数のウェルの一部又は全部を選択する選択部と、を含む制御ユニットであって、前記選択されたウェルに光を照射するように光照射ユニットを制御する制御ユニットと、
を備える、システム。
【請求項10】
前記制御ユニットは、前記複数のウェルのうち前記対象物を含むと判定されたウェル及び前記対象物を含まないと判定されたウェルの一方に対応する位置に光が照射され、他方に対応する位置に光が照射されない光パターン情報を生成するパターン生成部と、前記光パターン情報に基づき前記光照射ユニットを制御する光照射制御部と、を含む、
請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記制御ユニットは、画像センサから前記複数のウェルの画像を取得し、
前記判定部は、画像認識により、前記取得した画像中の各ウェルに前記対象物が含まれるか否かを判定する、
請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記画像センサは、前記ウェルアレイに向けられた対物レンズを通して前記複数のウェルの画像を取得し、
前記光照射ユニットは、前記対物レンズを通して前記選択されたウェルに光を照射する、
請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記光照射ユニットは、光源と、前記光源からの光を光パターンに変換するように駆動される制御ミラーと、を含む、
請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
開状態の前記バルブにより開放された前記開口を通して前記対象物を回収する回収ユニットをさらに備える、
請求項9に記載のシステム。
【請求項15】
対象物を選別するための方法であって、
請求項1~5のいずれか一項に記載のウェルアレイに、前記対象物を含むサンプルを充填するステップと、
前記複数のウェルのうち前記対象物を含むウェルを判定するステップと、
判定結果に基づき複数のウェルの一部又は全部を選択するステップと、
前記選択されたウェルに光を照射するステップと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ウェルアレイ、システム、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不妊症の原因の一つとして、非閉塞性無精子症(NOA:non-obstructive azoospermia)などの無精子症が知られている。これは、男性の精液中に精子が観察されない病気であるが、精巣中の精細管には僅かに精子が観察される場合がある。このような場合に精細管から精子を採取する方法として、顕微鏡下精巣内精子採取術(Micro-TESE:microdissection testicular sperm extraction)が知られている。
【0003】
Micro-TESEは、高性能な顕微鏡を用いて、精子の存在可能性の高い男性の精細管組織を手術により選択的に切り出し、精子を回収する手法である。Micro-TESEでは、患者の陰嚢を切開して精細管組織を露出させ、顕微鏡で観察しながら、精子を含む可能性の高い精細管組織を採取する。次いで、胚培養士が、採取した組織を細かく破砕することにより細胞懸濁液を得て、顕微鏡下で細胞懸濁液中の精子を探す。精子が見つかった場合にはその精子を回収して体外受精に使用するが、精子が見つからなかった場合には、再び患者から精細管組織を採取し、精子の探索を繰り返す。
【0004】
しかしながら、現在のMicro-TESEにおける精子の探索及び回収作業は多くの困難性を伴う。例えば、細胞懸濁液には精子以外にも赤血球、白血球、精祖細胞など多数の細胞が含まれている。また、精細管組織中の精子は未熟で運動性が低い場合が多いので、運動能で精子を識別することも難しい。このため、精子を即座に発見することは容易ではなく、仮に精子を見つけても、全長10μmほどの精子を人がマイクロピペットで回収することには労力を要する。
【0005】
例えば、微小流体システムを利用して精子の採取を行う技術が開発されており(特許文献1)、こうした微小流体システムにおける流体制御のためのマイクロバルブ技術が知られている(特許文献2)。しかしながら、特許文献1の技術は運動性の高い精子を対象としたものであり、Micro-TESEの採取対象である未熟で比較的運動性の低い精子への適用は困難である。
【0006】
上記のような精子の探索及び回収作業の非効率性は、精子の回収成功率を低下させるだけでなく、手術の長時間化を引き起こし、患者及び胚培養士双方の負担となる。したがって、このような対象物の探索・選別作業や回収作業における効率性を向上させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-141081号公報
【特許文献2】国際公開第2016/136551号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、対象物を効率よく選別できるウェルアレイ、システム、及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]対象物を選別するためのウェルアレイであって、複数のウェルを備え、各ウェルは、少なくとも底部に開口及びバルブを有し、前記バルブは、光照射に応答して前記開口を閉鎖する閉状態と前記開口を開放する開状態との間で変形可能である、ウェルアレイ。
[2]前記バルブは、光が照射されたことに応答して熱を発生させる光熱変換材料と、所定温度以上の温度で所定形状に変形する熱応答変形材料と、を含む、[1]に記載のウェルアレイ。
[3]前記光熱変換材料が光照射ユニットからの光に応答して熱を発生させ、前記熱応答変形材料が前記熱に応答して前記所定形状に変形することにより前記バルブが閉状態から開状態に変形する、[2]に記載のウェルアレイ。
[4]前記熱応答変形材料は、状態遷移温度以上の温度で所定形状を回復する形状記憶材料であり、前記形状記憶材料は、状態遷移温度以上の温度に応答して、前記開口を閉鎖する形状から前記開口を開放する前記所定形状に変形する、[2]又は[3]に記載のウェルアレイ。
[5]前記形状記憶材料は、生体適合性を有する形状記憶ポリマーであり、前記形状記憶材料の状態遷移温度が25℃~35℃である、[4]に記載のウェルアレイ。
[6]前記複数のウェルを形成する複数の孔を有する基部と、前記複数の孔を覆うように設けられたバルブ膜であって、前記複数の孔の各々に対応する位置に前記バルブが形成されたバルブ膜と、を備える、[1]~[5]のいずれか一つに記載のウェルアレイ。
[7]各ウェルは、生体分子である前記対象物を1分子だけ収容できる大きさである、[1]~[6]のいずれか一つに記載のウェルアレイ。
[8]前記対象物が精子である、[1]~[7]のいずれか一つに記載のウェルアレイ。
[9]対象物を選別するためのシステムであって、[1]~[8]のいずれか一つに記載のウェルアレイと、ウェルが前記対象物を含むか否かを判定する判定部と、判定結果に基づき複数のウェルの一部又は全部を選択する選択部と、を含む制御ユニットであって、前記選択されたウェルに光を照射するように光照射ユニットを制御する制御ユニットと、
を備える、システム。
[10]前記制御ユニットは、前記複数のウェルのうち前記対象物を含むと判定されたウェル及び前記対象物を含まないと判定されたウェルの一方に対応する位置に光が照射され、他方に対応する位置に光が照射されない光パターン情報を生成するパターン生成部と、前記光パターン情報に基づき前記光照射ユニットを制御する光照射制御部と、を含む、[9]に記載のシステム。
[11]前記制御ユニットは、画像センサから前記複数のウェルの画像を取得し、前記判定部は、画像認識により、前記取得した画像中の各ウェルに前記対象物が含まれるか否かを判定する、[9]又は[10]に記載のシステム。
[12]前記画像センサは、前記ウェルアレイに向けられた対物レンズを通して前記複数のウェルの画像を取得し、前記光照射ユニットは、前記対物レンズを通して前記選択されたウェルに光を照射する、[11]に記載のシステム。
[13]前記光照射ユニットは、光源と、前記光源からの光を光パターンに変換するように駆動される制御ミラーと、を含む、[9]~[12]のいずれか一つに記載のシステム。
[14]開状態の前記バルブにより開放された前記開口を通して前記対象物を回収する回収ユニットをさらに備える、[9]~[13]のいずれか一つに記載のシステム。
[15]対象物を選別するための方法であって、[1]~[8]のいずれか一つに記載のウェルアレイに、前記対象物を含むサンプルを充填するステップと、前記複数のウェルのうち前記対象物を含むウェルを判定するステップと、判定結果に基づき複数のウェルの一部又は全部を選択するステップと、前記選択されたウェルに光を照射するステップと、を含む、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、対象物を効率よく選別できるウェルアレイ、システム、及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る選別システム1を示す模式図である。
【
図2】一実施形態に係るウェルアレイ10を示す斜視図である。
【
図3】一実施形態に係るバルブ膜14の開状態及び閉状態を示す斜視図である。
【
図4】一実施形態に係るウェル20の断面及び底面の遷移を示す模式図である。
【
図5】一実施形態に係る光照射ユニット50を示す模式図である。
【
図6】一実施形態に係る選別システム1の機能構成を示すブロック図である。
【
図7】一実施形態に係る選別システム1のウェルアレイ10の画像データCと光パターン情報Pとの対応関係を示す模式図である。
【
図8A】一実施形態に係る選別システム1の使用方法を示す模式図である。
【
図8B】一実施形態に係る選別システム1の使用方法を示す模式図である。
【
図8C】一実施形態に係る選別システム1の使用方法を示す模式図である。
【
図8D】一実施形態に係る選別システム1の使用方法を示す模式図である。
【
図9】一実施形態に係る選別システム1の動作フローを示すフローチャートである。
【
図10A】実施例1に係る光パターン情報を示す図である。
【
図10B】実施例1に係る光パターンを示す写真である。
【
図10C】実施例1に係る光パターンを示す写真である。
【
図11A】実施例2に係る光パターン情報を示す図である。
【
図11B】実施例2に係る光パターンを示す写真である。
【
図11C】実施例2に係る光パターンを示す写真である。
【
図12A】実施例3に係る形状記憶ポリマーシートの初期状態を示す写真である。
【
図12B】実施例3に係る形状記憶ポリマーシートの圧縮状態を示す写真である。
【
図12C】実施例3に係る形状記憶ポリマーシートの回復状態を示す写真である。
【
図13A】実施例3に係る形状記憶ポリマーシートの形状記憶能力を示すグラフである。
【
図13B】実施例3に係る形状記憶ポリマーシートの形状記憶能力を示すグラフである。
【
図13C】実施例3に係る形状記憶ポリマーシートの形状記憶能力を示すグラフである。
【
図13D】実施例3に係る形状記憶ポリマーシートの形状記憶能力を示すグラフである。
【
図14A】実施例4に係る光パターンを示す写真である。
【
図14B】実施例4に係る光応答性ポリマーシートの温度分布を示す図である。
【
図14C】実施例4に係る光パターンを示す写真である。
【
図14D】実施例4に係る光応答性ポリマーシートの温度分布を示す図である。
【
図15A】実施例5に係る光パターンを照射する前の光応答性ポリマーシートの写真である。
【
図15B】実施例5に係る光パターンを照射した後の光応答性ポリマーシートの写真である。
【
図15C】実施例5に係る光パターンを照射する前の光応答性ポリマーシートの写真である。
【
図15D】実施例5に係る光パターンを照射した後の光応答性ポリマーシートの写真である。
【
図16A】実施例6に係る光パターンを照射する前の光応答性ポリマーシートの写真である。
【
図16B】実施例6に係る光パターンを照射した後の光応答性ポリマーシートの写真である。
【
図17】実施例7におけるマイクロウェルアレイの分解模式図である。
【
図18】実施例7において作成したマイクロウェルアレイの写真である。
【
図19】実施例8において播種されたマイクロビーズを顕微鏡で観察した写真である。
【
図20】実施例9における第1部分(左)、第2部分(中央)、及び第3部分(右)の顕微鏡写真と、それに対応するサーモグラフィカメラで観察した光応答性ポリマーシートの面上の温度分布と、を示す図である。
【
図21A】実施例11における光パターンを照射する前のバルブ膜の顕微鏡写真(倍率4倍)である。
【
図21B】実施例11における光パターンを照射した後のバルブ膜の顕微鏡写真(倍率4倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態のウェルアレイ、システム、及び方法を、図面を参照して説明する。
なお、以下の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数などを異ならせている場合がある。
【0013】
説明のために、x軸、y軸、及びz軸から成る直交座標系を定義する。x軸及びy軸は水平面に平行であり、z軸は鉛直方向に平行である。ここで、+z方向を上向き(すなわち重力方向と反対方向)、-z方向を下向き(すなわち重力方向)と定義する。ただし、上記座標系は単に説明のために便宜上設定したものであり、発明を何ら限定するものではない。
【0014】
[選別システム1]
図1を参照して、本実施形態に係る選別システム1(「システム」の一例)について説明する。
図1は、一実施形態に係る選別システム1を示す模式図である。
【0015】
選別システム1は、対象物及びそれ以外の物質を含むサンプルから対象物を選別する。以下では、顕微鏡下精巣組織採取術(Micro-TESE)で採取された細胞懸濁液から精子を対象物として選別する場合を例にとって説明するが、選別システム1の用途及び対象物はこれに限定されない。選別システム1は、例えば任意の細胞、組織、細菌、オルガノイド、生物といった生物学的対象物の他、無生物を含む任意の対象物に対して適用可能である。
【0016】
図1に示すように、選別システム1は、ウェルアレイ10、顕微ユニット30、画像センサ40、光照射ユニット50、制御ユニット70、及び回収ユニット90を含む。
【0017】
(ウェルアレイ10)
図2は、一実施形態に係るウェルアレイ10を示す斜視図である。ウェルアレイ10は、窪み(ウェル)が平面上に縦横に敷き詰められた構造である。各ウェル中に細胞懸濁液などのサンプル液を流し込んで閉じ込めることにより、サンプルの観察、培養、回収などを行うことができる。ウェルアレイ10は、例えば、マイクロメートル(μm)スケールからサブミリメートル(mm)スケール程度の大きさのウェルの配列を有するマイクロウェルアレイである。
【0018】
図1に示すように、ウェルアレイ10は、基部12、バルブ膜14、回収流路16、及び回収口18を含む。
【0019】
基部12は、ウェルアレイ10の本体部である。
図2に示すように、基部12は、全体として平たい直方体形状を有する。
図1に示すように、基部12は、上部12a、下部12b、及び上部12aと下部12bとを連結する連結部12cを含む。上部12a、下部12b、及び連結部12cは、一体的に形成されてもよく、2以上の別体として形成されて組み立てられてもよい。基部12の上部12aには、Z方向に上部12aを貫通する複数の孔が設けられ、各孔がそれぞれウェル20を形成する。
【0020】
上部12a、下部12b、及び連結部12cは、基部12の内部空間である回収流路16を画定する。基部12の一側面には、回収流路16に連通する回収口18が設けられている。
【0021】
基部12の材質は、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)などの高分子材料であるが、これに限定されない。好ましくは、基部12の材質は、生体適合性を有する材料である。
【0022】
好ましくは、基部12の少なくとも下部12bは、可視領域の光に対して透明性又は半透明性を有する。例えば、基部12の少なくとも下部12bは、380nm~780nmに含まれる1以上の波長の光に対する透過率が10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は95%以上である。
【0023】
バルブ膜14は、ウェル20を形成する上部12aの複数の孔を下方から覆うように、上部12aの下面に設けられる。バルブ膜14は、ウェル20と回収流路16との連通状態(連通させるか連通させないか)をウェル20ごとに切り替える。
【0024】
図3は、一実施形態に係るバルブ膜14の開状態及び閉状態を示す斜視図である。
図3に示すように、バルブ膜14は、複数の孔(バルブ24)を有する膜である。初期状態において、バルブ膜14は、
図3の左側に示すように複数の孔が開放された開状態である。バルブ膜14は、
図3の右側に示すように複数の孔が閉鎖された閉状態に変形することができ、閉状態から再び開状態に変形することができる。
図1では、閉状態のバルブ膜14が下部12bの下面に設けられている。
【0025】
バルブ膜14は、好ましくは、可視領域の光に対して透明性又は半透明性を有する。例えば、バルブ膜14は、380nm~780nmに含まれる1以上の波長の光に対する透過率が10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は95%以上である。
【0026】
バルブ膜14は、光が照射されたことに応答して熱を発生させる光熱変換材料と、所定温度以上の温度で所定形状に変形する熱応答変形材料と、を含む。例えば、熱応答変形材料は、状態遷移温度以上の温度で所定形状を回復する形状記憶材料である。
【0027】
本明細書において「光熱変換材料」とは、光を吸収して熱を発生させる材料を意味する。バルブ膜14の光熱変換材料の例として、金属ナノ粒子(金ナノ粒子、銀ナノ粒子など)、黒色材料(一般的な黒色インクなど)などが挙げられる。例えば、光熱変換材料を含むバルブ膜14は、光熱変換材料の吸収波長のレーザ光を出力90mWで1秒間照射した場合に、少なくとも一部分において、例えば1℃以上、2℃以上、3℃以上、4℃以上、5℃以上、6℃以上、7℃以上、8℃以上、9℃以上、又は10℃以上の温度上昇をもたらすことができる。
【0028】
好ましくは、バルブ膜14の光熱変換材料は、近赤外領域の光に応答して発熱する。このような光熱変換材料を用いる場合、細胞や水分による吸収が小さい近赤外領域の光を利用することができるので、光照射によるサンプルへの影響を低減することができる。例えば、バルブ膜14の光熱変換材料は、780nm~2.5μmに含まれる1以上の波長の光に対する吸収率が10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は95%以上である。一方、バルブ膜14の光熱変換材料は、好ましくは、可視領域の光に対して透明性又は半透明性を有する。例えば、バルブ膜14の光熱変換材料は、380nm~780nmに含まれる1以上の波長の光に対する透過率が10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は95%以上である。
【0029】
本明細書において「熱応答変形材料」とは、一定の熱が印加されたことに応答して、固体の状態を保ったまま、所定形状に変形する材料を意味する。
【0030】
本明細書において「形状記憶材料」とは、所定形状から変形させた場合でも、所定温度以上の温度に加熱すれば所定形状を回復する材料を意味する。バルブ膜14の形状記憶材料の例として、生体適合性を有する形状記憶ポリマー(例えば、ポリ-(ε-カプロラクトン))、生体適合性を有する形状記憶合金などが挙げられる。形状記憶ポリマーは、状態遷移温度(例えば融点やガラス転移温度)を境にしてヤング率が急激に小さくなるポリマーである。このため、形状記憶ポリマーを一度加熱して変形させた後、変形した状態を保ちながら冷却すると、その形状が保持される。次いで、変形させた形状記憶ポリマーを状態遷移温度以上まで加熱すると、復元力が生じて、形状記憶ポリマーは変形前の元の形状を回復する。
【0031】
バルブ膜14の熱応答変形材料は、好ましくは、可視領域の光に対して透明性又は半透明性を有する。例えば、バルブ膜14の熱応答変形材料は、380nm~780nmに含まれる1以上の波長の光に対する透過率が10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は95%以上である。
【0032】
バルブ膜14の熱応答変形材料がそれ以上の温度で所定形状に変形する境界温度(例えば、形状記憶材料の状態遷移温度)は、好ましくは20℃~40℃であり、より好ましくは25℃~35℃である。
【0033】
なお、バルブ膜14は、光熱変換材料及び熱応答変形材料以外の材料をさらに含んでもよい。
【0034】
図3の左側に示す開状態のバルブ膜14を加熱しながら孔を塞ぐように圧縮することによって、
図3の右側に示すように、バルブ膜14を閉状態に変形させることができる。次いで、バルブ膜14を構成する形状記憶材料の状態遷移温度(変態点)以上の温度までバルブ膜14を加熱することによって、形状記憶材料が元の形状(
図3の左側に示す形状)を回復するので、閉状態のバルブ膜14が再び開状態に戻る。
図3ではバルブ膜14の全体の変形が示されているが、バルブ膜14の一部のみを局所的に加熱することによって、バルブ膜14の複数の孔のうち一部のみを閉状態から開状態に遷移させることも可能である。
【0035】
回収流路16は、
図1に示すように、基部12の内部に設けられ、上部12a、下部12b、及び連結部12cにより画定される。回収流路16は、ウェルアレイ10の各ウェル20に閉じ込められたサンプルを外部に回収する流路として機能する。
【0036】
回収流路16は、基部12の内部でXY平面に沿って広がる。回収流路16の上部と各ウェル20の下部との間にはバルブ膜14が介在している。すなわち、回収流路16は、バルブ膜14を挟んで各ウェル20に隣接する。バルブ膜14が開状態である場合には、回収流路16とウェル20とは連通する。
【0037】
回収口18は、
図1に示すように回収流路16の一端に設けられ、
図2に示すように基部12の一側面から外部に露出される。回収口18は、基部12の内部の回収流路16を外部に連通させる出口として機能する。
図1に示すように、後述の回収ユニット90が回収口18に接続され、サンプルの回収を行う。
【0038】
ウェルアレイ10は、使い捨て可能な単回使用品として構成されてよいが、繰り返し使用されてもよい。
【0039】
(ウェル20)
次いで、ウェルアレイ10の各ウェル20について説明する。上記のとおり、ウェル20は、基部12の上部12aを貫通する複数の孔の各々により形成される。ウェル20は、細胞懸濁液などのサンプル液を受け入れる貯留部として機能する。本実施形態では、
図1に示すように、各ウェル20に細胞懸濁液が流し込まれることによって、種々の細胞が各ウェル20に収容される。
図1には四つのウェル20が示されており、左から2番目及び4番目のウェル20には精子T1及び他の細胞T2が収容されているが、左から1番目及び3番目のウェル20には精子T1が含まれておらず、他の細胞T2のみが収容されている。選別システム1は、どのウェル20が精子T1を含むかを判定し、精子T1を回収するためにウェル20に含まれる細胞懸濁液全体から精子T1を含む部分(例えば、精子T1が存在するウェル20に収容された細胞懸濁液)を選別することができる。
【0040】
図1及び
図2では、ウェル20は円筒形の窪みとして形成されており、その幅が-Z方向に小さくなっている。ただし、ウェル20の形状は上記例に限定されず、XY平面視で円形でなく正方形などの多角形その他の任意の形状であってよい。また、ウェル20の幅がZ方向に一定であってもよく、Z方向に沿って任意に変化してもよい。
【0041】
ウェル20の最大幅は、対象物の大きさなどによって適宜決定され得る。ウェル20の最大幅は、例えば1μm~1mmであってよい。例えば、ウェル20の最大幅は、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、9μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上、40μm以上、50μm以上、80μm以上、100μm以上、200μm以上、300μm以上、400μm以上、又は500μm以上である。例えば、ウェル20の最大幅は、800μm以下、500μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下、80μm以下、50μm以下、40μm以下、30μm以下、20μm以下、15μm以下、又は10μm以下である。例えば、ウェル20は、対象物を1個だけ収容できる大きさである。対象物が生体分子である場合、ウェル20は、生体分子である対象物を1分子だけ収容できる大きさであってよい。生体分子としては、特に限定されず、細胞、タンパク質、核酸などが挙げられる。細胞としては、精子、卵、B細胞などが挙げられる。例えば、Micro-TESEで採取された細胞懸濁液に対して選別システム1を適用する場合、ウェル20の最大幅は、好ましくは5μm~30μmである。Micro-TESEで採取される細胞は大きくても30μm程度であるので、ウェルの大きさも30μm程度とすれば十分である。一方、対象物である精子の頭部の大きさは3μm~5μm程度であるので、最大幅は5μm以上であることが好ましい。
【0042】
隣接するウェル20の間隔は、用途に応じて適宜決定されてよいが、光の回折限界を考慮して、隣接するウェル20に大きな影響を及ぼさずに各ウェル20に個別に光を照射できる程度の間隔で各ウェル20が配置されることが好ましい。
【0043】
図1に示すように、各ウェル20は、底部に開口22及びバルブ24を有する。
【0044】
開口22は、ウェル20の下端に位置する。すなわち、ウェル20は下端の開口22において下方に開放されている。また、ウェル20は、上端の開口において上方にも開放されている。
【0045】
バルブ24は、バルブ膜14の一部として、開口22の下方に設けられる。バルブ24は、開口22を開放又は閉鎖する。バルブ24は、上記のバルブ膜14と同様に、光熱変換材料及び熱応答変形材料を含む。バルブ24は、光照射に応答して、開口22を閉鎖する閉状態と開口22を開放する開状態との間で変形することができる。
【0046】
このような開状態と閉状態との切り替えについて、
図4を参照してさらに説明する。
図4は、一実施形態に係るウェル20の断面及び底面の遷移を示す模式図である。
図4の左図は、ウェル20の初期状態を示す。初期状態のバルブ24は、開口22と同程度の大きさの孔を形成しており、開口22を開放することによりウェル20と回収流路16とを連通させている。
【0047】
初期状態のバルブ24を加熱した状態で圧縮して変形させ、変形した形状を保ったまま冷却すると、
図4の中央の図のようにバルブ24を閉状態にすることができる。この変形状態のバルブ24は、開口22を閉鎖することにより、ウェル20と回収流路16との間の連通を遮断している。
【0048】
変形状態のバルブ24を状態遷移温度まで加熱することにより、
図4の右図のように、バルブ24の熱応答変形材料(例えば形状記憶ポリマー)が初期状態の形状(「所定形状」の一例)を回復する。この回復状態のバルブ24は、再び開口22を開放し、ウェル20と回収流路16とを連通させている。
【0049】
なお、
図4では、説明のために開状態のバルブ24を「初期状態」として示しているが、実際に選別システム1を使用する際には、予めバルブ24が閉状態となるように加熱圧縮された「圧縮状態」のバルブ膜14を用いて選別システム1の使用を開始することができる。
【0050】
本実施形態では、バルブ24が光熱変換材料及び熱応答変形材料を含むので、光熱変換材料の吸収波長の光を照射することによってバルブ24を変形させることができる。すなわち、バルブ24に光を照射すると、光照射に応答してバルブ24の光熱変換材料が熱を発生させ、発生した熱に応答してバルブ24の熱応答変形材料が所定形状に変形する。したがって、特定のバルブ24に対して局所的に光照射すれば、複数のバルブ24のうち特定のバルブ24のみを選択的に変形させる(例えば、閉状態から開状態へ変形させる)ことができる。
【0051】
開状態のバルブ24の孔の最大幅は、対象物の大きさなどによって適宜決定され得る。開状態のバルブ24の孔の最大幅は、例えば1μm~1mmであってよい。例えば、開状態のバルブ24の孔の最大幅は、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、9μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上、40μm以上、50μm以上、80μm以上、100μm以上、200μm以上、300μm以上、400μm以上、又は500μm以上である。例えば、開状態のバルブ24の孔の最大幅は、800μm以下、500μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下、80μm以下、50μm以下、40μm以下、30μm以下、20μm以下、15μm以下、又は10μm以下である。
【0052】
ウェルアレイ10は、例えば、基部12及びバルブ膜14を別々に形成した後、バルブ膜14を基部12に取り付けることにより製造することができる。また、基部12とバルブ膜14とは、例えば3Dプリンタの多色印刷などにより、一体的に製造してもよい。基部12は、射出成形や3Dプリンタ成形など任意の方法で製造することができる。バルブ膜14も任意の方法で製造することができ、例えば、形状記憶ポリマーのシートに光熱変換材料を塗布することによって製造することができる。バルブ膜14は、形状記憶ポリマーと光熱変換材料との混合材料をシート状に成形することによって製造してもよい。バルブ膜14は、製造後、加熱した状態で圧縮することによって各バルブ24を閉状態に変形させた状態で基部12に取り付けることができる。
【0053】
(顕微ユニット30)
顕微ユニット30は、ウェルアレイ10の各ウェル20の様子を拡大して観察するとともに、光照射ユニット50からの光をウェルアレイ10上に集束させるために使用される。
図1に示すように、顕微ユニット30は、ウェルアレイ10の下面に対向するように配置される。例えば、顕微ユニット30は、明視野顕微鏡、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡といった光学顕微鏡など、既知の任意の顕微鏡である。顕微ユニット30は、デジタル式の顕微鏡であってもよい。顕微ユニット30は、対物レンズ32を含む。
【0054】
対物レンズ32は、ウェルアレイ10の下面に対向するように配置される。対物レンズ32は、ウェルアレイ10から対物レンズ32に入射した光からウェルアレイ10の拡大像を作る。また、対物レンズ32は、光照射ユニット50から対物レンズ32に入射した光をウェルアレイ10上に集束させる。対物レンズ32としては、既知の任意の対物レンズが使用可能である。
【0055】
(画像センサ40)
画像センサ40は、顕微ユニット30により形成されたウェルアレイ10の拡大像を画像データCとして取得するとともに、取得した画像データCを出力する。画像センサ40は、顕微ユニット30の内部に設けられてもよく、顕微ユニット30から拡大像の出力を受け付けるように顕微ユニット30の外部に配置されてもよい。例えば、顕微ユニット30は、画像センサ40を内蔵したデジタル顕微鏡であってもよい。画像センサ40としては、CMOSカメラやCCDカメラなど、既知の任意の画像センサが使用可能である。
【0056】
(光照射ユニット50)
光照射ユニット50は、ウェルアレイ10に光を照射する。
図5は、一実施形態に係る光照射ユニット50を示す模式図である。
図5に示すように、光照射ユニット50は、光源52、制御ミラー54、瞳投影レンズ56、結像レンズ58、及びダイクロイックミラー60を含む。
【0057】
光源52は、例えば、
図1に示すように、対物レンズ32の光学軸と平行な光を制御ミラー54に向けて放出するように配置される。光源52としては、レーザ装置など任意の光源が使用可能である。
【0058】
制御ミラー54は、1以上のミラーとミラーを駆動する駆動部とを有する。制御ミラー54は、ミラーの位置や傾きを高速で制御駆動することにより、反射光の光路を調整できる。制御ミラー54の例としては、ガルバノミラー、デジタルミラーデバイス(DMD)、MEMSミラーなどの電磁駆動ミラーが挙げられるが、これに限定されない。DMD及びMEMSミラーはいずれも安価性に優れ、小型である。また、MEMSミラーは、DMDに比べてエネルギー効率の点でも優れている。
【0059】
図5に示すように、制御ミラー54は、基準となる配置では、光源52からの光に対して略45度の角度をなすように配置され、光源52からの光を略直角に反射する。また、上記のとおり制御ミラー54は反射光の光路を制御できるので、
図5に示すように、光源52からの光を様々な方向に反射することもできる。したがって、制御ミラー54は、ウェルアレイ10に照射する光パターンを形成するように駆動され得る。この光パターンは、後述する制御ユニット70の光パターン情報生成部80により生成された光パターン情報Pに基づいて形成される。本明細書において「光パターン」とは、所定のパターンで構造化された光を意味する。本明細書において「光パターン情報」とは、光照射ユニット50に所定の光パターンを出力させるための情報である。
【0060】
光源52及び制御ミラー54は、制御ミラー54の駆動が光源52の発光動作と同期されるように制御される。これにより、光源52と制御ミラー54とが協働して、任意の強度及び波長の光パターンを形成することができる。
【0061】
瞳投影レンズ56は、
図5に示すように、制御ミラー54の反射光の光路上に配置される。瞳投影レンズ56は、制御ミラー54から放射状に広がる光パターンを平行光線に変換する。瞳投影レンズ56としては、一般的な凸レンズなど、上記機能を満足する限り任意のレンズが使用可能である。
【0062】
結像レンズ58は、制御ミラー54の反射光の光路上で、瞳投影レンズ56の下流に配置される。結像レンズ58は、瞳投影レンズ56によって平行光線に変換された光パターンを対物レンズ32の後焦点位置に集光する。結像レンズ58としては、一般的な凸レンズなど、上記機能を満足する限り任意のレンズが使用可能である。
【0063】
ダイクロイックミラー60は、対物レンズ32の下方に設けられ、制御ミラー54の反射光の光路上で、結像レンズ58の下流に配置される。ダイクロイックミラー60は、対物レンズ32の光学軸に対して略45度の角度をなすように配置される。ダイクロイックミラー60の傾きは、制御ミラー54の基準配置における傾きと略一致する。
【0064】
ダイクロイックミラー60は、特定の波長(例えば近赤外領域の波長)の光のみを反射し、その他の波長の光を透過させる。本実施形態では、ダイクロイックミラー60は、光源52が出力する波長の光を反射する。
図5に示すように、ダイクロイックミラー60は、光源52及び制御ミラー54により形成された光パターンを対物レンズ32に向けて反射する。
【0065】
ダイクロイックミラー60によって反射された光パターンは、対物レンズ32によって試料面S(例えばウェルアレイ10のバルブ膜14)上に集光される。このようにして、光照射ユニット50は、所定の光パターンをウェルアレイ10に投射することにより、選択されたウェル20に光を照射する。
【0066】
(制御ユニット70)
図6及び
図7を参照して、制御ユニット70について説明する。
図6は、一実施形態に係る選別システム1の機能構成を示すブロック図である。
図7は、一実施形態に係る選別システム1のウェルアレイ10の画像データCと光パターン情報Pとの対応関係を示す模式図である。
【0067】
制御ユニット70は、選別システム1を制御する。例えば、
図1に示すように、制御ユニット70は、画像センサ40及び光照射ユニット50に有線接続又は無線接続されて、画像センサ40及び光照射ユニット50の動作を制御する。
図1では、制御ユニット70が光源52に接続されているが、それに加えて又はそれに代えて、制御ミラー54などに接続されてもよい。
【0068】
図6に示すように、制御ユニット70は、画像センサ40及び光照射ユニット50に接続されるとともに、入力部72、処理部74、出力部84、及び記憶部86を含む。これらは、制御ユニット70として機能する1以上の情報処理装置が備えるプロセッサ、メモリ、ストレージ、入出力インタフェース、通信インタフェースなどのハードウェア構成との協働によって実現される機能部である。
【0069】
入力部72は、制御ユニット70への入力を受け付ける。例えば、入力部72は、画像センサ40からウェルアレイ10の画像データCを受け付ける。
【0070】
処理部74は、入力部72が受け付けた入力データの演算処理などを行う。処理部74は、判定部76、選択部78、光パターン情報生成部80、及び光照射制御部82を含む。
【0071】
判定部76は、画像センサ40が取得したウェルアレイ10の画像データCなどに基づき、各ウェル20が対象物である精子T1を含むか否かを判定する。例えば、
図7の左図は画像センサ40が取得したウェルアレイ10の画像データCの一例を示す。この画像データCは、6個のウェル20を示しており、精子T1は左上のウェル20及び右下のウェル20にのみ含まれている。判定部76は、例えば画像データCの画像認識を行うことにより、画像データCの左上のウェル20及び右下のウェル20が精子T1を含むと判定するとともに、それ以外のウェル20が精子T1を含まないと判定することができる。
【0072】
選択部78は、判定部76の判定結果に基づき、光照射ユニット50により光を照射すべきウェル20を選択する。例えば、選択部78は、判定部76により精子T1を含むと判定されたウェル20を、光を照射すべきウェル20として選択する。あるいは、選択部78は、判定部76により精子T1を含まないと判定されたウェル20を、光を照射すべきウェル20として選択してもよい。
【0073】
光パターン情報生成部80は、選択部78の選択結果に基づき、光を照射すべきウェル20として選択されたウェル20に対応する位置に光が照射され、光を照射すべきウェル20として選択されなかったウェル20に対応する位置に光が照射されないような光パターン情報Pを生成する。光パターン情報Pは、光を照射する位置が特定されていれば任意の形式で出力可能である。例えば、光パターン情報Pは、画像センサ40が取得したウェルアレイ10の画像データCと略同じ大きさの二次元画像データであって、光を照射すべきウェル20として選択されたウェル20に対応する位置を白色で示し、それ以外の位置を黒色で示した画像データであってもよい。例えば、
図7の右図は、
図7の左図に示す画像データCに基づいて生成される光パターン情報Pの一例を示す。選択部78が判定部76により精子T1を含むと判定されたウェル20を、光を照射すべきウェル20として選択した場合において、光パターン情報生成部80は、判定部76により精子T1を含むと判定された
図7の左図の左上のウェル20及び右下のウェル20に対応する位置を光照射位置として白色で示し、それ以外の位置を黒色(ドットで示す)で示した、
図7の右図のような光パターン情報Pを生成することができる。
【0074】
光照射制御部82は、光パターン情報生成部80により生成された光パターン情報Pに基づき、光照射ユニット50を制御する。例えば、光照射制御部82は、光パターン情報Pに対応する光パターンを形成するように光源52及び制御ミラー54を直接的又は間接的に制御する。光照射制御部82は、光源52や制御ミラー54に内蔵された制御装置などにより実現されてもよい。
【0075】
出力部84は、処理部74における演算処理の結果などを出力する。例えば、出力部84は、光パターン情報生成部80により生成された光パターン情報Pを光照射ユニット50に送信する。
【0076】
記憶部86は、コンピュータのプロセッサに動作を実行させるプログラム88などを記憶する。プログラム88は、制御ユニット70を構成するコンピュータのプロセッサに動作を実行させることができる。
【0077】
(回収ユニット90)
回収ユニット90は、
図1に示すように、ウェルアレイ10の回収口18に接続されて、回収流路16内のサンプル液を回収する。回収ユニット90は、回収したサンプル液を収容する収容部92と、サンプル液を回収流路16から収容部内に引き込む吸引部94と、を含む。回収ユニット90としては、例えばシリンジポンプなど既知の任意の回収手段が利用可能である。
【0078】
回収ユニット90は、ウェルアレイ10に着脱可能に取り付けられる部材として構成されてもよく、ウェルアレイ10と着脱不可能に結合されてもよい。
【0079】
[選別システム1の使用方法]
図8A~
図8Dを参照して、選別システム1の使用方法について説明する。
図8A~
図8Dは、一実施形態に係る選別システム1の使用方法を示す模式図である。
【0080】
まず
図8Aにおいて、画像センサ40は、対物レンズ32を通して、XY平面上のウェルアレイ10の拡大像を画像データCとして取得する。本実施形態では、基部12の少なくとも下部12b及びバルブ膜14が可視領域の光を少なくとも部分的に透過させるので、画像センサ40は、下部12b及びバルブ膜14を透過して対物レンズ32に入射したウェル20中のサンプル液からの光を検出し、画像データCとして取得する。
【0081】
制御ユニット70の入力部72は、画像センサ40から画像データCを受け付ける。判定部76は、画像データC中のウェル20が対象物である精子T1を含むか否かを各ウェル20について判定する。
図8Aの例では、判定部76は、図示された4個のウェル20のうち左から2番目及び4番目のウェル20に精子T1が含まれ、それ以外のウェル20には精子T1が含まれていないと判定する。選択部78は、精子T1を含むと判定されたウェル20を光照射対象として選択する。光パターン情報生成部80は、精子T1を含むと判定されたウェル20に光が照射され、それ以外のウェル20に光が照射されないような光パターン情報Pを生成する。
【0082】
図8Bにおいて、光照射制御部82は、生成された光パターン情報Pに基づく光パターンを形成するように光源52及び制御ミラー54を制御する。光源52からの光は、制御ミラー54に反射されて光パターン情報Pに対応する光パターンを形成し、瞳投影レンズ56により平行光線に変換され、結像レンズ58により集光され、ダイクロイックミラー60により反射され、対物レンズ32によりバルブ膜14の近傍に集光される。光パターン情報Pによれば、精子T1を含むと判定されたウェル20のみに光が照射され、精子T1を含まないと判定されたウェル20には光が照射されない。したがって、
図8Bの左から2番目及び4番目のウェル20のバルブ24のみに光が照射され、左から1番目及び3番目のウェル20のバルブ24には光が照射されない。
【0083】
図8Cにおいて、光が照射されたウェル20のバルブ24に含まれる光熱変換材料が光を吸収して熱を発生させ、発生した熱によりバルブ24が加熱される。バルブ24の温度がバルブ24に含まれる形状記憶材料(「熱応答変形材料」の一例)の状態遷移温度以上になると、開口22を閉鎖する形状に圧縮されていた形状記憶材料が、開口22を開放する元の形状を回復する。これにより、バルブ24が閉状態から開状態に変形するので、開口22が開放され、
図8Cに示すように、ウェル20内の精子T1を含むサンプル液が回収流路16へ流出する。
【0084】
図8Dにおいて、開状態のバルブ24により開放された開口22を通して回収流路16へ流出したサンプル液が、回収ユニット90により回収される。回収ユニット90は、吸引部94により回収流路16内のサンプル液を収容部92の内部に吸引することにより、サンプル液を回収する。
【0085】
このようにして、ウェルアレイ10の各ウェル20に収容されたサンプル液のうち精子T1を含むものを選別して、選択的に回収することができる。
【0086】
[選別システム1の動作フロー]
図9を参照して、選別システム1の動作フローについて説明する。
図9は、一実施形態に係る選別システム1の動作フローを示すフローチャートである。
【0087】
まずステップ901では、精子T1を含むサンプル液(細胞懸濁液)がウェルアレイ10の各ウェル20に流し込まれる。ステップ902では、画像センサ40がウェルアレイ10の拡大像の画像データCを取得する。
【0088】
ステップ903では、判定部76が、画像データCに基づき、各ウェル20が精子T1を含むか否かを判定する。例えば、判定部76の判定は、精子候補検出ステップ(904)と精子判定ステップ(905)とを含む。この判定手法は、精子が頭部と尻尾とを有する構造であることに基づく。
【0089】
精子候補検出ステップ904では、判定部76は、精子T1の頭部の候補を検出する。判定部76は、任意のエッジ検出処理により、画像データC中の細胞のエッジを検出する。例えば、微分干渉顕微鏡を用いる場合、判定部76は、微分干渉顕微鏡により得られた画像データCにおける輝度値の勾配が負の値となるピクセルを細胞のエッジとして検出することができる。判定部76は、検出されたエッジに囲まれた各領域の面積を計算し、一定値以上の面積を有する領域を精子頭部の候補と判定する。判定部76は、各領域の重心を精子頭部の位置に採用する。
【0090】
次いで、精子判定ステップ905では、判定部76は、精子候補検出ステップ904により得られた各候補点について周辺ピクセルを切り出し、その画像に対して、精子の尻尾の有無により精子か否かの判定を行う。判定部76は、任意の手法により、切り出した周辺ピクセルに細胞が存在するか否かを判定する。例えば、微分干渉顕微鏡を用いる場合、判定部76は、輝度値の勾配が正の値となるピクセルを細胞が存在するピクセルとみなすことができる。上記判定に基づき、判定部76は、精子頭部の候補に連なる尻尾が存在するかを判定する。次いで、判定部76は、尻尾が存在すると判定された精子細胞候補のピクセルの座標の分散共分散行列を求め、その固有値を計算する。この固有値は細胞の長径及び短径に相当する値である。したがって、判定部76は、小さい方の固有値が一定値以下である場合には、その精子細胞候補が精子であると判定し、そうでない場合には精子ではないと判定する。判定部76は、このような判定処理を各精子細胞候補に対して行うことにより、各ウェル20に精子T1が含まれているか否かを判定することができる。
【0091】
なお、ウェル20を特定及び識別するためのラベルが各ウェル20の任意の部分に付加されてもよい。例えば、ウェルアレイ10の製造時に、ウェル20ごとに異なる識別ラベルが各ウェル20のエッジ部分などに形成されてもよい。判定部76は、画像認識処理において画像データCからウェル20の識別ラベルを読み取ることにより、ウェル20を識別することができる。
【0092】
ステップ906では、選択部78が、ステップ903~905の判定部76の判定結果に基づき、光照射の対象とするウェル20を選択する。ステップ907では、光パターン情報生成部80が、ステップ906の選択結果に基づき、選択されたウェル20に光が照射され、選択されていないウェル20には光が照射されないような光パターン情報Pを生成する。
【0093】
ステップ908では、光照射制御部82が、光パターン情報Pに対応する光パターンを形成するように光源52及び制御ミラー54を制御する。ステップ909では、ステップ908の結果として、光照射ユニット50が、光パターン情報Pに対応する光パターンをウェルアレイ10上に照射する。これにより、選択部78により選択されたウェル20に光が照射される。
【0094】
ステップ910では、光が照射されたウェル20のバルブ24が閉状態から開状態に変形する。ステップ911では、光が照射されたウェル20内のサンプル液が、開状態のバルブ24により開放された開口22を通って回収流路16へ流出する。ステップ912では、回収ユニット90が、回収流路16内のサンプル液を回収する。
【0095】
このようにして、選別システム1は、ウェルアレイ10のサンプル液から精子T1を選別し、必要に応じて回収することができる。上記動作のうち少なくともステップ902~911は、コンピュータ制御により自動化することが可能である。必要に応じてウェルアレイ10及び/又は回収ユニット90をコンピュータで駆動制御することにより、ステップ901及び912を自動化してもよい。
【0096】
このような制御を行うプログラムは、コンピュータのプロセッサに動作を実行させるプログラムであって、プロセッサに、画像センサ40により取得されたウェルアレイ10の画像データCを受け付けるステップと、画像データCに基づき、各ウェル20が対象物を含むか否かを判定するステップと、判定結果に基づき、光照射の対象とするウェル20を選択するステップと、選択結果に基づき、光照射ユニット50に、光照射の対象として選択されたウェル20へ光を照射させるステップと、を実行させることができる。選択結果に基づき、光照射ユニット50に、光照射の対象として選択されたウェル20へ光を照射させるステップは、選択結果に基づき、選択されたウェル20に光が照射され、選択されていないウェル20に光が照射されないような光パターン情報Pを生成するステップと、光パターン情報Pに対応する光パターンを形成するように光源52及び制御ミラー54を制御するステップと、を含むことができる。
【0097】
このような制御を行う情報処理装置は、制御部を備え、制御部は、画像センサ40により取得されたウェルアレイ10の画像データCを受け付けるステップと、画像データCに基づき、各ウェル20が対象物を含むか否かを判定するステップと、判定結果に基づき、光照射の対象とするウェル20を選択するステップと、選択結果に基づき、光照射ユニット50に、光照射の対象として選択されたウェル20へ光を照射させるステップと、を実行することができる。
【0098】
[効果]
以上の実施形態によれば、対象物を選別するためのウェルアレイであって、複数のウェルを備え、各ウェルは、少なくとも底部に開口及びバルブを有し、バルブは、光照射に応答して開口を閉鎖する閉状態と開口を開放する開状態との間で変形可能である、ウェルアレイが提供される。また、対象物を選別するためのシステムであって、ウェルアレイと、ウェルが対象物を含むか否かを判定する判定部と、判定結果に基づき複数のウェルの一部又は全部を選択する選択部と、を含む制御ユニットであって、選択されたウェルに光を照射するように光照射ユニットを制御する制御ユニットと、を備えるシステムが提供される。また、対象物を選別するための方法であって、ウェルアレイに、対象物を含むサンプルを充填するステップと、複数のウェルのうち対象物を含むウェルを判定するステップと、判定結果に基づき複数のウェルの一部又は全部を選択するステップと、選択されたウェルに光を照射するステップと、を含む方法が提供される。
【0099】
このような構成によれば、ウェルアレイの各ウェルの開口を選択的に開放することができるので、選択したウェル内のサンプル液のみを選別し、回収することができる。また、複数のウェルを並列的に処理できるので、選別処理や回収処理を高速で行うことができ、手術時間の短縮、ひいては患者及び胚培養士の負荷の軽減に繋がる。また、光によるウェルのバルブ制御が可能であるので、高い空間分解能及び時間分解能でウェルを制御することができる。したがって、上記構成によれば、対象物を効率よく選別できる。
【0100】
また、上記構成によれば、高速の流れを利用して細胞選別を行うセルソーターなどの手法に比べて、細胞を高速の流れに曝さないことで対象物へのダメージを最小限に抑えられる。また、画像認識精度が十分である限り、選別エラーが生じにくく、対象物の選別及び回収の確実性が高い。さらに、選別システムが全体として比較的安価な構成で実現可能であるので、患者ごとの使い捨ても容易である。画像取得、画像認識による対象物の存在判定、及び光照射対象の選択がコンピュータ制御可能な一連の処理として実現可能であるので、全体処理の自動化も容易である。
【0101】
一実施形態によれば、バルブは、光が照射されたことに応答して熱を発生させる光熱変換材料と、所定温度以上の温度で所定形状に変形する熱応答変形材料と、を含む。光熱変換材料が光照射ユニットからの光に応答して熱を発生させ、熱応答変形材料が熱に応答して所定形状に変形することによりバルブが閉状態から開状態に変形する。熱応答変形材料は、状態遷移温度以上の温度で所定形状を回復する形状記憶材料であり、形状記憶材料は、状態遷移温度以上の温度に応答して、開口を閉鎖する形状から開口を開放する所定形状に変形する。このような構成によれば、簡易な構成で光応答性の開閉可能なバルブを実現することができる。一般に熱を局所的に加えるよりも光を局所的に照射する方が容易であるため、光照射に応答して変形するバルブを採用することにより、選別システムの操作性及び確実性を向上させることができる。
【0102】
一実施形態によれば、形状記憶材料は、生体適合性を有する形状記憶ポリマーであり、形状記憶材料の状態遷移温度が25℃~35℃である。このような構成によれば、生体由来の細胞に対するダメージを抑制することができる。特に、バルブを閉状態から開状態に変形させるためには状態遷移温度以上の温度に加熱する必要があるので、状態遷移温度が上記範囲内である形状記憶ポリマーを使用することにより、加熱時の細胞へのダメージを最小限に抑えることができる。
【0103】
一実施形態によれば、複数のウェルを形成する複数の孔を有する基部と、前記複数の孔を覆うように設けられたバルブ膜であって、複数の孔の各々に対応する位置にバルブが形成されたバルブ膜と、を備える。このような構成によれば、1枚のシート(バルブ膜)で各ウェルのバルブをまとめて形成することができるので、効率的である。
【0104】
一実施形態によれば、各ウェルは、生体分子である対象物を1分子だけ収容できる大きさである。このような構成によれば、一つのウェルに入る対象物(生体分子)の数を1分子に制限することで、サンプル液の純度を向上させることができる。
【0105】
一実施形態によれば、対象物が精子である。このような構成によれば、Micro-TESEにおける精子の探索及び回収の効率性を格段に向上させることができる。既知の細胞回収技術をMicro-TESEに適用した場合、低侵襲性(すなわち精子へのダメージが低いこと)、処理の高速性及び確実性、並びにシステムの安価性といった要求特性のうち少なくとも一つに難点がある。これに対し、本実施形態に係る選別システムによれば、これらの要求特性を十分に満足することができる。また、精子をウェルに閉じ込めることにより、精子の運動を制限することができ、回収の効率性を向上させることができる。
【0106】
一実施形態によれば、制御ユニットは、複数のウェルのうち対象物を含むと判定されたウェル及び対象物を含まないと判定されたウェルの一方に対応する位置に光が照射され、他方に対応する位置に光が照射されない光パターン情報を生成するパターン生成部と、光パターン情報に基づき光照射ユニットを制御する光照射制御部と、を含む。このような構成によれば、光パターン情報を生成することにより、複数のウェルに対して並列的に光照射を行うことができるので、高速処理が可能である。
【0107】
一実施形態によれば、制御ユニットは、画像センサから複数のウェルの画像を取得し、判定部は、画像認識により、取得した画像中の各ウェルに対象物が含まれるか否かを判定する。このような構成によれば、対象物を含むウェルの識別処理を自動化することができる。また、画像センサを使用することにより、対象物を観察しながら選別及び回収処理を行うことができる。
【0108】
一実施形態によれば、画像センサは、ウェルアレイに向けられた対物レンズを通して複数のウェルの画像を取得し、光照射ユニットは、対物レンズを通して選択されたウェルに光を照射する。光照射ユニットは、光源と、光源からの光を光パターンに変換するように駆動される制御ミラーと、を含む。このような構成によれば、共通の対物レンズを通して画像取得及び光パターンの照射が行われるので、処理の確実性が向上する。
【0109】
一実施形態によれば、開状態のバルブにより開放された開口を通して対象物を回収する回収ユニットをさらに備える。このような構成によれば、対象物の検出と回収処理とを同時に行うことができるので、効率的である。
【0110】
[変形例]
上記例では、基部12の上部12aの下面を覆うようにバルブ膜14を設けることによりバルブ24が形成されるが、本発明はこれに限定されない。例えば、各ウェル20に個別にバルブの機能を果たす光応答性開閉部材が設けられてもよい。例えば、基部12と各ウェル20の底部のバルブ24とを、例えば3Dプリンタの多色成型などにより、一体的に製造してもよい。
【0111】
上記例では、選択部78は、精子T1を含むと判定されたウェル20を光照射対象として選択しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、選択部78は、精子T1を含まないと判定されたウェル20を光照射対象として選択してもよい。この場合、精子T1を含まないと判定されたウェル20に光が照射されて、これらのウェル20のバルブ24が開状態となるので、これらのウェル20内のサンプル液は回収ユニット90により回収される。一方、精子T1を含むと判定されたウェル20のバルブ24は閉状態のままで維持される。したがって、精子T1を含むサンプル液のみがウェルアレイ10に残存するので、引き続き観察などを行うことができる。
【0112】
上記技術の応用例として、細胞塊など任意の材料から構造体(例えば3次元積層構造体)を製造する装置及び方法について説明する。
本態様に係る構造体製造装置は、複数の開口が形成されたピックアップ装置であって、光照射に応答して開口を閉鎖する閉状態と開口を開放する開状態との間で変形可能であるバルブが各開口に対応する位置に設けられたピックアップ装置と、ピックアップ装置に接続された陰圧源と、を備える。構造体製造装置は、ピックアップ装置と離間した、構造体を積層成形する基板をさらに備える。ピックアップ装置は、開口及び陰圧源との接続部を除き、外界から密閉可能に構成され得る。
【0113】
ピックアップ装置は、上記のように底部に開口及びバルブを有する複数のウェルが敷き詰められたウェルアレイを含んでもよい。一態様では、ピックアップ装置の底面には、各ウェルに対応する形状の突出部が下方に突出するように設けられ、その底部(突出部の下端)にバルブが設けられてもよい。あるいは、ピックアップ装置は、バルブが設けられた開口が敷き詰められたバルブアレイを含んでもよい。この場合、ピックアップ装置の底面は、複数のバルブが設けられた平坦面であってもよい。
【0114】
ピックアップ装置は、陰圧源によって陰圧を印加されることにより、バルブが開状態である開口を通じて吸引を行うことができる。これにより、ピックアップ装置は、縦横に並んだバルブのうち開状態のバルブの位置のみにおいて、開口よりも大きい材料(例えば、開口よりも大きな幅を有する細胞塊)を開口の周りに吸着させることができる。ピックアップ装置の各バルブは個別に光照射で開閉を制御できるので、ピックアップ装置は、任意のパターンで材料を吸着させることができる。材料を吸着させた状態で基板上へ運び、そこで陰圧を解除することにより、ピックアップ装置は、任意のパターンで材料を基板上に配置することができる。この操作を繰り返すことにより、1層ごとに異なる配置で材料を基板上に積層して、任意の形状の構造体を製造することができる。これにより、細胞塊などの材料を1個ずつ配置する場合と比較して、1層ごとの配置が可能であるので、構造体の製造スピードを格段に向上させることができる。なお、基板上で材料を固定するために、基板面に固定具(例えば、上向きの多数の針状部材)が設けられてもよい。
【0115】
ピックアップ装置により材料の吸着を行う際には、吸着前に材料の画像を画像センサで取得して画像認識を行い、ピックアップすべき材料の部分を判定・選別することもできる。例えば、ピックアップ対象である多数の細胞塊のうち、各細胞塊がピックアップに適しているか否かを画像認識によって個別に判定し、ピックアップに適した細胞塊に対応するバルブのみに光照射を行って開状態に変形させることができる。なお、ピックアップ装置は、構造体を製造するためだけでなく、基板上に配置された複数の細胞塊などの材料を選択的に採集する採集装置としても使用することができる。この場合も、画像認識により採集すべき材料を選別し、選択的にバルブを開状態に変形させることにより、採集に適した材料のみを選択的に採集することができる。
【0116】
本態様に係る構造体製造方法は、上記構造体製造装置を用意するステップと、ピックアップ装置のバルブの一部又は全部を選択するステップと、選択されたバルブに光を照射するステップと、陰圧源によりピックアップ装置に陰圧を印加するステップと、ピックアップ装置の開口に材料を吸着させるステップと、吸着させた材料を基板上に運ぶステップと、陰圧を解除することにより吸着させた材料を基板上に配置するステップと、を含むことができる。上記ステップを繰り返すことにより、3次元構造体を製造することができる。
【実施例0117】
以下、
図10A~
図16Bを参照して、実施例1~実施例6について説明する。これらの例は、本発明を限定するものではない。
【0118】
[実施例1]
市販のMEMSミラー装置とデジタル顕微鏡とを組み合わせて、マイクロ光パターンの形成実験を行った。
図10Aは、実施例1に係る光パターン情報を示す図である。
図10Aに示すような光パターン情報をテストパターンとして用意し、MEMSミラー装置及びデジタル顕微鏡を用いて、
図10Aの光パターン情報に対応する光パターンをカバーガラス上に投影した。
図10Aの光パターンは、様々な大きさの正方形を含み、左上の縦横200ピクセルの正方形から始まって、190ピクセル→180ピクセル→……と、縦横10ピクセルの正方形(最下段の左から3番目)まで10ピクセルずつ小さくなっている。縦横10ピクセルの正方形からは、1ピクセルずつ小さくなっている。
【0119】
図10Bは、5倍の対物レンズを用いてテストパターンを照射した場合の反射光を撮影した写真である。
図10Cは、20倍の対物レンズを用いてテストパターンを照射した場合の反射光を撮影した写真である。どの程度のサイズまで光パターンを照射できるかを確認すると、
図10Cの20ピクセルの正方形(最下段の左から2番目)までは鮮明に表示されていた。この正方形の大きさは20μm四方程度であるので、実施例1の構成によれば、少なくとも20μm程度の小さな光パターンを照射できることが確認された。
【0120】
[実施例2]
次いで、500μm四方の大きさのウェルが並んだマイクロウェルアレイに対して、マイクロ光パターンの形成実験を行った。
図11Aは、実施例2に係る光パターン情報を示す図である。
図11Aに示すような光パターン情報をテストパターンとして用意し、MEMSミラー装置及びデジタル顕微鏡を用いて、
図11Aの光パターン情報に対応する光パターンをマイクロウェルアレイ上に投影した。
【0121】
図11Bは、テストパターンが照射されたマイクロウェルアレイを撮影した写真である。
図11Aの光パターン情報に対応する位置に光が投影されていることが確認された。光が当たっている様子をより鮮明に示すため、暗視野で撮影した写真を
図11Cに示す。
【0122】
[実施例3]
400μm四方、600μm四方、及び800μm四方の窪みが形成された3種類の形状記憶ポリマー製シート(SMPシート)を用意した。
図12Aは、400μm四方の窪みが形成されたSMPシートの初期状態を示す写真であり、縦方向に9個の正方形の窪みが形成されている。このSMPシートを恒温装置で60℃まで加熱し、予め60℃に加熱しておいた2枚のアルミニウム板でSMPシートを挟み込み、万力で圧縮した。次いで、アルミニウム板を水で冷却することにより、SMPシートを状態遷移温度以下の温度まで冷却した。
図12Bは、
図12AのSMPシートの圧縮状態を示す写真である。
図12Bに示すように、加熱圧縮によって、SMPシートは、窪みが潰れるように変形した。次いで、アルミヒーターによってSMPシートの温度を45℃程度まで上昇させた。
図12Cは、
図12AのSMPシートの回復状態を示す写真である。
図12Cに示すように、再加熱によって、SMPシートは、窪みの形状を回復した。
【0123】
上記の経過観察と並行して、初期状態、圧縮状態、及び回復状態におけるSMPシートの窪みの入口の面積及び窪みの深さ(高さ)を、3D測定レーザ顕微鏡で撮影した3次元画像及び画像解析ソフトウェアで算出し、定量的な形状比較を行った。
【0124】
図13Aは、窪みの大きさが異なる3種類のSMPシートについて、初期状態と回復状態との窪みの入口の面積(ウェルの入口の面積に相当)の比を示す。
図13Aから、窪みの大きさに関係なく、面積比(回復状態/初期状態)が0.9~1.1の範囲内に収まっており、1に近い値を取ることが確認された。したがって、状態遷移温度以上の温度までの加熱によって90%程度の形状回復が生じたことが確認された。
【0125】
図13Bは、3種類のSMPシートについて、圧縮状態と回復状態との窪みの入口の面積の比を示す。
図13Bから、いずれのSMPシートにおいても面積比(回復状態/圧縮状態)が1より大きい値を取ることが確認された。特に400μm四方の窪みを有するSMPシートにおける面積比は約3.5倍であったことから、大きな形状変化が生じたことが確認された。
【0126】
図13Cは、3種類のSMPシートについて、初期状態と回復状態との窪みの高さの比を示す。
図13Cから、窪みの大きさに関係なく、高さ比(回復状態/初期状態)が0.9~1.2程度の範囲内に収まっており、1に近い値を取ることが確認された。したがって、窪みの高さに関しても、状態遷移温度以上の温度までの加熱によって形状回復が生じたことが確認された。
【0127】
図13Dは、3種類のSMPシートについて、圧縮状態と回復状態との窪みの高さの比を示す。
図13Dから、いずれのSMPシートにおいても高さ比(回復状態/圧縮状態)が少なくとも1.5倍の高さの変化が生じたことが確認された。
【0128】
[実施例4]
バルブ膜としての利用を想定した光応答性ポリマーシートを製造し、光パターンを照射して温度変化を測定した。光応答性ポリマーシートは、厚さ100μmのSMPシートの表面に油性マーカで黒色インクを塗布したものを使用した。光応答性ポリマーシートに、黒色インクを塗布した面と反対側から、出力90mWで直径800μmの円形又は直径400μmの円形の光パターンを照射し、黒色インクを塗布した面上の温度変化をサーモカメラで観察した。
【0129】
図14Aは、光応答性ポリマーシートに投影した直径800μmの円形の光パターンを示す図である。
図14Bは、
図14Aの光パターンが照射された後にサーモカメラで観察した光応答性ポリマーシートの面上の温度分布を示す図である。
図14Bにおいてaで示す円形の光パターンの中心部の温度が28.9℃程度まで上昇し、最大温度変化は約6.0℃であったことが確認された。
【0130】
図14Cは、光応答性ポリマーシートに投影した直径400μmの円形の光パターンを示す図である。
図14Dは、
図14Cの光パターンが照射された後にサーモカメラで観察した光応答性ポリマーシートの面上の温度分布を示す図である。
図14Dにおいてaで示す円形の光パターンの中心部の温度が24.9℃程度まで上昇し、最大温度変化は約1.9℃であったことが確認された。
【0131】
[実施例5]
閉状態の光応答性ポリマーシートに光パターンを照射することにより、閉状態から開状態に変形させることができるか否かの確認実験を行った。SMPシートに直径約200μmの孔を開け、加熱した状態でSMPシートを圧縮することにより孔を塞いだ。その状態のSMPシートの表面に黒インクを塗布することにより、光応答性ポリマーシートを製造した。サーモチャンバ内で温度を30℃に保ちながら、光応答性ポリマーシートの黒インクを塗布した面と反対側から、出力90mWで直径800μmの円形又は直径400μmの円形の光パターンを孔の位置に10秒間照射した。
【0132】
図15Aは、直径800μmの円形の光パターンを照射する前の光応答性ポリマーシートの写真である。
図15Bは、光パターンを照射した後の光応答性ポリマーシートの写真である。
図15Aでは光応答性ポリマーシートの孔が塞がって何も見えないのに対し、
図15Bでは光照射に応答して閉じていた孔が広がり、光応答性ポリマーシートが閉状態から開状態に変形したことが確認された。
【0133】
図15Cは、直径400μmの円形の光パターンを照射する前の光応答性ポリマーシートの写真である。
図15Dは、光パターンを照射した後の光応答性ポリマーシートの写真である。
図15A及び
図15Bと同様に、
図15Cでは光応答性ポリマーシートの孔が塞がって何も見えないのに対し、
図15Dでは光照射に応答して閉じていた孔が広がり、光応答性ポリマーシートが閉状態から開状態に変形したことが確認された。
【0134】
[実施例6]
閉状態の光応答性ポリマーシートに複数のスポットを含む光パターンを照射することにより、光応答性ポリマーシートの複数の孔を並列的に閉状態から開状態に変形させることができるか否かの確認実験を行った。複数の孔を格子状に形成した点を除き、実施例5と同様にして光応答性ポリマーシートを製造し、T字状に並んだ5個の円形スポットを含む光パターンを孔の位置に合わせて照射した。
【0135】
図16Aは、光パターンを照射する前の光応答性ポリマーシートの写真である。
図16Bは、光パターンを照射した後の光応答性ポリマーシートの写真である。
図16Aでは光応答性ポリマーシートの孔が塞がって何も見えないのに対し、
図16BではT字状に並んだ光パターンの照射に応答して、光が照射された各位置の5個の孔がそれぞれ広がり、光応答性ポリマーシートの複数の孔が並列的に閉状態から開状態に変形したことが確認された。
【0136】
以上のとおり、上記構成によって、光照射に応答して閉状態の1以上の孔を開状態に変形させることのできる光応答性ポリマーシートが得られた。また、このような光応答性ポリマーシートを用いることにより、複数の孔(バルブ)を選択的に閉状態から開状態に変形させることができることが確認された。
【0137】
次いで、
図17~
図21Bを参照して、実施例7~実施例11について説明する。これらの例は、本発明を限定するものではない。
【0138】
[実施例7]
本実施例では、実際にマイクロウェルアレイ100を作成した。
図17は、作成したマイクロウェルアレイ100の分解模式図である。
図17に示すように、PDMS製のウェルアレイ上部110(基部12の上部12aに対応)、ポリ-(ε-カプロラクトン)製のバルブ膜120(バルブ膜14に対応)、並びに、PDMS及びシクロオレフィンポリマー製のチャンバ130(基部12の下部12bに対応)を用意した。ウェルアレイ上部110は、光造形3次元プリンタで作成したマイクロスケールの鋳型に、成形材料を流し込んで硬化することにより作成した。チャンバ130は、まず鋳型を用いてPDMS製の外枠を作成した後、厚さ100μmのシクロオレフィンポリマーで底面を密閉することにより作成した。チャンバ130には、真空ポンプなどに接続可能な回収流路132(回収流路16に対応)を形成した。ウェルアレイ上部110、バルブ膜120、及びチャンバ130を組み立てることにより、マイクロウェルアレイ100を作成した。
図18は、作成したマイクロウェルアレイ100の写真である。
【0139】
[実施例8]
実施例7で作成したマイクロウェルアレイ100を用いて、実際に播種されたマイクロビーズが観察可能であることを確認した。まず、マイクロウェルアレイ100を、光学顕微鏡上に設置されたインキュベータ内に配置した。精子や小さめの細胞と同程度の大きさを有するφ11μmの透明マイクロビーズを、ウェルアレイ上部110のウェルに播種した。チャンバ130内を満たす媒質は、空気とした。顕微鏡で、チャンバ130側から、ウェルアレイ上部110に播種されたマイクロビーズの観察を試みた(倍率10倍)。
【0140】
図19は、播種されたマイクロビーズを顕微鏡で観察した写真である。
図19において矢印で示すように、マイクロウェルアレイ100の底面側から、ウェル内に播種したマイクロビーズが明瞭に観察された。これにより、マイクロウェルアレイ100の底面やバルブ膜120が、可視光領域でウェル内を観察するのに十分な透明性を有することが確認された。また、顕微鏡倍率10倍で11μmのビーズが観察できたので、マイクロウェルアレイ100が精子や胚様体などの観察に適することが確認された。
【0141】
上記の観察している状態において、マイクロウェルアレイ100の底面側から所定の光パターンでレーザを照射した。その結果、視野内のウェルの底面すべてに光照射が可能であることが確認された。
【0142】
[実施例9]
バルブ膜120としての利用を想定した光応答性ポリマーシートを製造し、光パターンを照射して温度変化を測定した。ポリ-(ε-カプロラクトン)製の光応答性ポリマーシート上に油性マーカで黒色インクを塗布するとともに、光応答性ポリマーシート上の黒色インクを塗布した部分とは別の部分に銀ナノ粒子(AgNP)を塗布した。銀ナノ粒子は、銀ナノ粒子の水溶液をポリマーシート上で自然乾燥させることによって塗布した。使用した銀ナノ粒子の吸収ピーク波長は、660nmであった。
【0143】
作成したチャンバ130に上記の光応答性ポリマーシートを載せた。何も塗布しなかった第1部分、黒色インクを塗布した第2部分、及び銀ナノ粒子を塗布した第3部分の3カ所について、同一照明条件における明視野画像を顕微鏡で観察した(倍率10倍)。次いで、出力設定110mW、顕微鏡倍率10倍で、直径200μmの光パターンをレーザ(波長660nm)で第1部分、第2部分、及び第3部分に照射し、サーモグラフィカメラを用いて各部分の温度変化を測定した。
【0144】
図20は、第1部分(左)、第2部分(中央)、及び第3部分(右)の顕微鏡写真と、それに対応するサーモグラフィカメラで観察した光応答性ポリマーシートの面上の温度分布と、を示す図である。顕微鏡写真を参照すると、黒色インクを塗布した第2部分の写真よりも銀ナノ粒子を塗布した第3部分の写真の方が、何も塗布しなかった第1部分の写真に近い状態で撮影された。すなわち、銀ナノ粒子の塗布が、黒色インクの塗布よりも可視光領域における透明性に優れていることが確認された。次いで、光照射による温度変化について、何も塗布しなかった第1部分では、実質的な温度変化が確認されなかった。黒色インク又は銀ナノ粒子を塗布した第2部分及び第3部分では、約1.5℃の温度上昇が確認された。したがって、銀ナノ粒子は黒色インクよりも可視光領域における透明性に優れていたにもかかわらず、黒色インクと同程度の温度変化を生じた。このことから、銀ナノ粒子は、波長660nm近傍で、黒色インクより優れた光熱変換効率を示すことが確認された。
【0145】
[実施例10]
光応答性ポリマーシートに形成されたマイクロバルブを液体が通過するのに必要な陰圧を調べることにより、マイクロバルブの性能を評価した。まず、3次元プリンタで作成したABS樹脂製のチャンバと、ポリ-(ε-カプロラクトン)製の光応答性ポリマーシートとを用意した。光応答性ポリマーシートとしては、直径100μmのマイクロバルブが形成された第1シートと、直径200μmのマイクロバルブが形成された第2シートと、の2種類を用意した。チャンバの回収流路の出口を真空レギュレータに接続し、真空レギュレータを真空ポンプに接続した。チャンバの上部には、光応答性ポリマーシートを貼り付けた。顔料で着色した水を用意し、光応答性ポリマーシート上に、マイクロバルブを覆うのに十分な量を垂らした。マイクロバルブが開いている状態及びマイクロバルブが閉じている状態の各々について、真空ポンプによる真空引きを行った。本実験系で実際に設定可能であった陰圧は、1.3kPa~45kPaであった。
【0146】
マイクロバルブが開状態である場合には、第1シート及び第2シートのいずれについても、レギュレータの最小陰圧付加時にマイクロバルブを通過して液体が流れた。したがって、測定されたバルブリーク圧は1.3kPa以下であった。一方、マイクロバルブが閉状態である場合には、第1シート及び第2シートのいずれについても、レギュレータの最大設定陰圧である45kPaを印加しても、液体はマイクロバルブを通過しなかった。したがって、液体に閉状態のマイクロバルブを通過させるために必要な陰圧は、45kPa以上であることが確認された。このように、開状態と閉状態とでリーク圧に大きな差があることが確認された。
【0147】
[実施例11]
マイクロウェルアレイ100にマイクロビーズを播種し、光パターンを照射してマイクロビーズを回収する実験を行った。バルブ膜120の光熱変換材料として銀ナノ粒子を使用し、銀ナノ粒子の水溶液をバルブ膜120全体に塗布して自然乾燥させた。播種するマイクロビーズとしては、直径90μmの無色透明のビーズを使用した。マイクロビーズが分散した水を、ウェルアレイ上部110の各ウェル内に滴下した。照射する光パターンは、出力設定110mW、顕微鏡倍率20倍で、一辺200μm程度の正方形とした。チャンバの設定温度は37.5℃とした。実施例10と同様に、真空ポンプ及びレギュレータを回収流路132の出口に接続し、バルブ膜120の面に45kPa程度の陰圧を印加した。
【0148】
図21Aは、光パターンを照射する前のバルブ膜120の顕微鏡写真(倍率4倍)である。画像中の矢印は、光パターンの照射予定位置(3カ所)を示す。各ウェルのマイクロバルブが閉状態であること、及び、各ウェルにマイクロビーズが播種されていることが確認された。
【0149】
図21Bは、光パターンを照射した後のバルブ膜120の顕微鏡写真(倍率4倍)である。画像中の矢印は、光パターンの照射位置(3カ所)を示す。光パターンが照射されたウェルに対応するマイクロバルブが閉状態から開状態に変形したこと、及び、当該ウェルに播種されたマイクロビーズが回収されたことが確認された。
【0150】
このように、作成したマイクロウェルアレイ100を使用して、光パターンを照射することによって、所望の位置のマイクロバルブのみを選択的に閉状態から開状態に変形させることに成功した。また、光照射の対象としたウェル内のマイクロビーズを回収することに成功した。一方、光照射の対象としなかったウェル内のマイクロビーズが残存していることも確認された。したがって、作成したマイクロウェルアレイ100を使用することにより、ウェルに播種した対象物を選択的に回収できることが確認された。
1…選別システム、10…ウェルアレイ、12…基部、12a…上部、12b…下部、12c…連結部、14…バルブ膜、16…回収流路、18…回収口、20…ウェル、22…開口、24…バルブ、30…顕微ユニット、32…対物レンズ、40…画像センサ、50…光照射ユニット、52…光源、54…制御ミラー、56…瞳投影レンズ、58…結像レンズ、60…ダイクロイックミラー、70…制御ユニット、72…入力部、74…処理部、76…判定部、78…選択部、80…光パターン情報生成部、82…光照射制御部、84…出力部、86…記憶部、88…プログラム、90…回収ユニット、92…収容部、94…吸引部、C…画像データ、P…光パターン情報、T1…精子、T2…他の細胞。