(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168237
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】クロマトグラフデータ処理装置及び液体クロマトグラフ装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/02 20060101AFI20221027BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
G01N30/02 Z
G01N30/86 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145071
(22)【出願日】2022-09-13
(62)【分割の表示】P 2018225924の分割
【原出願日】2018-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2017219707
(32)【優先日】2017-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】清水 克敏
(57)【要約】
【課題】ΔP、t
0及びNからなる3次元グラフからそれらの性能を得る分離条件を容易に得ることができるクロマトグラフデータ処理装置を提供する。
【解決手段】送液部と、試料注入部と、試料を分離するカラムと、検出部と、結果を処理する制御部と、送液部と前記分離カラムと前記検出部の動作及び測定条件を検討及び設定するデータ処理部とを有する液体クロマトグラフ装置において、データ処理部は、理論段数と流量の関係を示すデータまたは変数、および圧力と流量の関係を示すデータまたは変数を入力として、圧力、時間、理論段数に関連する3つの軸の3次元グラフを出力することを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフの分析条件および検出結果等のデータを解析及び処理するクロマトグラフデータ処理装置において、
理論段数と流量の関係を示すデータまたは変数、および圧力と流量の関係を示すデータまたは変数を入力として、圧力、時間、理論段数に関連する3つの軸の3次元グラフを出力し前記出力した3次元グラフから分離条件を解析することができること、を特徴とするクロマトグラフデータ処理装置。
【請求項2】
圧力または時間の少なくとも一方を、流量または長さの少なくとも一方に軸変換することを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフデータ処理装置。
【請求項3】
少なくとも一つの軸を、対数を用いて出力することを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフデータ処理装置。
【請求項4】
対数表現の軸を真数表現の軸に変換することを特徴とする請求項3に記載のクロマトグラフデータ処理装置。
【請求項5】
圧力、時間、理論段数に関連する3つの軸の3次元グラフから流量、長さ、理論段数に関連する3つの軸の3次元グラフに変換することを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフデータ処理装置。
【請求項6】
圧力、時間に関連する2つの軸の2次元グラフから流量、長さに関連する2つの軸の2次元グラフに変換することを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフデータ処理装置。
【請求項7】
圧力、時間、流量、長さに関連する4つの変数から任意の2つを選択し、その選択された2つの軸の2次元グラフから、選択されなかった変数に関連する2つの軸の2次元グラフに変換することを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフデータ処理装置。
【請求項8】
流量、長さ、圧力と、時間の4つの変数から2つの変数を選び、その選ばれた2つを変数とする理論段数の関数において、その偏微分係数を出力することを特徴とする請求項7に記載のクロマトグラフデータ処理装置。
【請求項9】
偏微分係数に基づき、偏微分する当該変数を用いて規格化された無次元効率を出力することを特徴とする請求項8に記載のクロマトグラフデータ処理装置。
【請求項10】
出力される無次元効率を2種類以上用いて、乗除計算により、新たな効率を出力することを特徴とする請求項9に記載のクロマトグラフデータ処理装置。
【請求項11】
流量は線速度、長さはカラム長さ、圧力はカラム圧力損失、速長積、または圧力駆動強度、時間はホールドアップタイムまたは保持時間、理論段数は理論段相当高さ、セパレーションインピーダンス、インピーダンスタイム、またはプレートタイム、およびそれらの逆数それぞれへ変換することを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載のクロマトグラフデータ処理装置。
【請求項12】
クロマトグラフの分析条件および検出結果等のデータを解析及び処理するクロマトグラフデータ処理装置において、
線速度、長さ、圧力、時間に関する4つの変数の中から2軸とする変数を選択して分離条件を解析する過程において、前記選択した変数を選択しなかった2つの変数の軸に変換することを特徴とするクロマトグラフデータ処理装置。
【請求項13】
移動相を送液する送液部と、
前記送液された移動相流路中に試料を注入する試料注入部と、
前記注入された試料を分離するカラムと、
前記分離された分析対象成分を検出する検出部と、
前記検出された結果を処理する制御部と、
前記送液部と前記カラムと前記検出部の動作及び測定条件を検討及び設定するデータ処理部と、
を有する液体クロマトグラフ装置において、
前記データ処理部は、請求項1に記載のクロマトグラフデータ処理装置であること、を特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項14】
移動相を送液する送液部と、
前記送液された移動相流路中に試料を注入する試料注入部と、
前記注入された試料を分離するカラムと、
前記分離された分析対象成分を検出する検出部と、
前記検出された結果を処理する制御部と、
前記送液部と前記カラムと前記検出部の動作及び測定条件を検討及び設定するデータ処理部と、
を有する液体クロマトグラフ装置において、
前記データ処理部は、請求項12に記載のクロマトグラフデータ処理装置であることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフデータ処理装置に関し、特に液体クロマトグラフの分離条件の探索における定量的な解析装置に関わる。
【背景技術】
【0002】
HPLCの分析時間と分離性能の関係を理解するために特許文献1に基づく非特許文献1が挙げられる。圧力損失ΔP(Pa)とホールドアップタイムt0(s)をふたつの独立変数として入力し、理論段数Nをひとつの関数N(ΔP,t0)またはN(Π,t0)として出力する。本質的にΔPは次の速長積Π(m2/s)に対応づけられている(特許文献1ではCfと表記)。
【数1】
ここでKV(m2)はカラムパーミアビリティ(カラム通液性)、η(Pa・s)は粘度、u0(m/s)は非保持成分の線速度、L(m)はカラム長さである。
【0003】
ところで同様の目的の非特許文献2がある。これは
図1に示すように前述のz軸の関数Nを別の座標底面によりN(u0,L)として表す。
図1は長さLのカラムに線速度u0、即ち流量Fの移動相を送液するときに得られる理論段数Nをプロットした素朴な3次元グラフである。例えば、L=50mmのカラムの場合、破線で示すようなN-u0カーブを描く。このカーブの極大点が所謂、極小の理論段相当高さHminに相当する。また、このHminが得られる最適な線速度がu0,optであり、u0,optは充填剤等の分離条件を一定にすれば、固有の値である。このため
図1では、Lによらず極大点をむすぶ縦の破線として、u0,opt=3.5mm/sの直線が描かれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2014/030537号公報
【特許文献2】特開2009-281897号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.Ito,K.Shimizu,K.Nakatani,Anal.Sci.,33,in press
【非特許文献2】Anal.Chem.2016,88,11742-11749
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HPLCユーザーは、一般的にカラム長さLを決めてから流量Fを変化させる操作により、分離条件を探索している。探索した分離条件のFとLを反映させた測定結果として、圧力損失ΔP及びホールドアップタイムt0が得られる。この分離条件FとLが原因系であると考えられる。FとLの分離条件と比較すれば、ΔPとt0はそれから得られる結果的な指標と考えられる。特許文献1が示すように、例えば、分析操作者は、まず上述の結果的な指標ΔPとt0およびその時に得られる理論段数Nの関係を把握したい。言い換えると高速性t0と高分離性を示すNが、どの程度のΔPで得られるかを解析したい。
あるいは例えばHPLCの特性として、分離した各成分を同定する場合は、分離条件を確定した上での保持時間を用いることから、分離条件の実際の検討時には、t0及び各成分の保持時間を検証することになる。
【0007】
一方、ΔP、t0及びNを3次元グラフ化して条件探索する方法が提案されている(特許文献1)。分離条件探索のファクターとして、上述のようにΔP、t0は直接的な判断要因となりえるが、従来の条件検討方法として、カラム長さL及び流量Fに馴染んだHPLCユーザーには定量的な解析が困難となっている。なおFは前述のu0に比例する速度関連指標であり、ΔPは前述の速長積Πに比例する強度関連の潜在能力指標である。
【0008】
特許文献2では、HPLCからUHPLCへ、あるいはその逆方向の移行方法の記載がある。LとFの最適化法でΔPだけは考慮しているが、t0が十分考慮されておらずNも計算されていない課題があった。
【0009】
また、ΔP、t0及びNを3次元グラフの地形学的プロファイルを定量的に把握できない課題があった。
【0010】
上述の課題を解決するために、カラム長さLと線速度u0及び理論段数Nを表す3次元空間の傾きに関する新たな無次元の指標である効率を導入し、最適な線速度u0,optに基づく規格化を適用し、ΔP、t0及びNの定量的な解析が可能となる、言い換えると、ΔP、t0及びNからなる3次元グラフからそれらの性能を得る分離条件を容易に得ることができるクロマトグラフデータ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のクロマトグラフデータ処理装置は、理論段数と流量の関係を示すデータまたは変数、および圧力と流量の関係を示すデータまたは変数を入力として、圧力、時間、理論段数に関連する3つの軸の3次元グラフを出力し前記出力した3次元グラフから分離条件を解析することができることを特徴とする。
また、移動相を送液する送液部と、送液された移動相流路中に試料を注入する試料注入部と、注入された試料を分離するカラムと、分離された試料(分析対象成分)を検出する検出部と、検出された結果を処理する制御部と、送液部と前記カラムと前記検出部の動作及び測定条件を検討及び設定するデータ処理部とを有する液体クロマトグラフ装置において、データ処理部は、理論段数と流量の関係を示すデータまたは変数、および圧力と流量の関係を示すデータまたは変数を入力として、圧力、時間、理論段数に関連する3つの軸の3次元グラフを出力することを特徴とする。
【0012】
前記クロマトグラフデータ処理装置は、圧力または時間の少なくとも一方を、流量または長さの少なくとも一方に軸変換する。
【0013】
前記クロマトグラフデータ処理装置は、少なくとも一つの軸を、対数を用いて出力する。
【0014】
前記クロマトグラフデータ処理装置は、対数表現の軸を真数表現の軸に変換する。
【0015】
前記クロマトグラフデータ処理装置は、圧力、時間、理論段数に関連する3つの軸の3次元グラフから流量、長さ、理論段数に関連する3つの軸の3次元グラフに変換する。
【0016】
前記クロマトグラフデータ処理装置は、圧力、時間に関連する2つの軸の2次元グラフから流量、長さに関連する2つの軸の2次元グラフに変換する。
【0017】
前記クロマトグラフデータ処理装置は、圧力、時間、流量、長さに関連する4つの変数から任意の2つを選択し、その選択された2つの軸の2次元グラフから、他方の2つの軸の2次元グラフに変換する。
【0018】
前記クロマトグラフデータ処理装置は、流量、長さ、圧力と、時間の4つの変数から2つの変数を選び、その選ばれた2つを変数とする理論段数などの関数において、その偏微分係数を出力する。
【0019】
前記クロマトグラフデータ処理装置は、偏微分係数に基づき、偏微分する当該変数を用いて規格化された無次元効率を出力する。
【0020】
前記クロマトグラフデータ処理装置は、出力される無次元効率を2種類以上用いて、乗除計算により、新たな効率を出力する。
【0021】
前記クロマトグラフデータ処理装置は、流量は線速度、長さはカラム長さ、圧力はカラム圧力損失、速長積、または圧力駆動強度、時間はホールドアップタイムまたは保持時間、理論段数は理論段相当高さ、セパレーションインピーダンス、インピーダンスタイム、またはプレートタイム、およびそれらの逆数それぞれへ変換する。
前記クロマトグラフデータ処理装置は、線速度、長さ、圧力、時間に関する4つの変数の中から2軸とする変数を選択して分離条件を解析する過程において、前記選択した変数を選択しなかった2つの変数の軸に変換する。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、ユーザーが性能として要求する結果を表現する3次元グラフT2(Π,t0,N)から、分離条件として探索すべき原因的な3次元グラフT1(u0,L,N)の表現形式へ、容易に変換する装置および方法を提供する。これが先ず底面座標(x,y)の(Π,t0)から(u0,L)へのLRT(対数的な回転変換の意:Logarithmically Rotational Transformation)変換である。T1及びT2は3次元部分空間を表し、T1は(u0,L,N)で表現されるベクトル空間、T2は(Π,t0,N)で表現されるベクトル空間を表す。
【0023】
次に得られるべき性能が圧力を印加することに相当する性能なのか、非効率的な圧力上昇なのかを定量的にユーザーが把握できる指標PAE(圧力印加効率:Pressure-Application Efficienc)を出力する。この圧力印加効率μN/Π(Π,t0)は、線速度が最適なu0,optのところで1に規格化されている。μt/Π(Π,t0)は、μN/Π(Π,t0)をμN/t(Π,t0)で除するt0のためのPAEである。u0,optの線より高圧側の斜面、即ち高流量側は効率が1以下ではあるものの、緩やかに傾斜(変化)しているだけで大きく効率が低下しているわけでもない。すなわち、理想的なu0,optとおおむね同等の良い効率で圧力当たりの理論段数の増加が見込める。理想にとらわれない高速な分析時間領域での一定の分離性能を許容するのであれば、例えば、ひとつのガイドラインとして、μN/Πが0.5以上は実用範囲として分離条件を探索することも可能である。これは底面座標(Π,t0)上のすべての領域でμN/Πを定量的に俯瞰できることの利点である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】粒径2μmの3次元グラフN(u0,L)非特許文献2の概念に加えて、本発明の液体クロマトグラフ分離条件解析の出力事例を示す図である
【
図2】(u0,L)と(Π,t0)間の双方変換を示す図である
【
図3】LRTにおける軸回転と拡大縮小の変換を示す図である
【
図4】粒径2μmの3次元グラフN(Π,t0)KPLとの関係と本発明の液体クロマトグラフ分離条件解析の出力事例を示す図である
【
図5】μN/Πの3次元グラフ(粒径2μmの事例)と本発明の液体クロマトグラフ分離条件解析の出力事例を示す図である
【
図6】μt/Πの3次元グラフ(粒径2μmの事例)と本発明の液体クロマトグラフ分離条件解析の出力事例を示す図である
【
図7】クロマトグラフデータ処理装置の一例を示す図である(LRT機構図の事例)
【
図8】クロマトグラフデータ処理装置の一例を示す図である(PAE機構図の事例)
【
図12】液体クロマトグラフ装置の一事例を示す図である
【
図13】本発明のデータ処理装置を含む液体クロマトグラフ装置の一事例を示す図である
【
図15】N一定条件下でのt0高速化 (1)高Π域への拡張を示す図である
【
図16】N一定条件下でのt0高速化 (1)高Π域への拡張 N=5,000等高線に沿う圧力変化を示す図である
【
図17】N一定条件下でのt0高速化 (2)低Π域への移動を示す図である
【
図18】N一定条件下でのt0高速化 (2)低Π域への移動 N=5,000等高線に沿う圧力変化を示す図である
【
図19】t0一定条件下のN高分離化 (1)高Π域への拡張を示す図である
【
図20】t0一定条件下のN高分離化 (1)高Π域への拡張 t0=10sの水平線に沿う圧力変化を示す図である
【
図21】t0一定条件下のN高分離化 (2)低Π域への移動を示す図である
【
図22】t0一定条件下のN高分離化 (2)低Π域への移動 t0=10sの水平線に沿う圧力変化を示す図である
【
図23】Πmax上限圧力下での展開 (1)高速化を示す図である
【
図24】Πmax上限圧力下での展開 (1)高速化 ΔP=20Mpaの垂直線に沿う時間変化を示す図である
【
図25】Πmax上限圧力下での展開 (1)高分離化を示す図である
【
図26】Πmax上限圧力下での展開 (1)高分離化 ΔP=20Mpaの垂直線に沿う時間変化を示す図である
【
図27】PAC係数を伴いNを起点とする等高線を示す図である
【
図28】時間t0を起点とする等高線を示す図である
【
図29】2乗理論段数Λの3次元グラフを示す図である
【
図30】逆ホールドアップタイムν0の3次元グラフを示す図である
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に非特許文献1と非特許文献2を数学的に統一し、その理解から考案される発明を示す。
【0026】
(I)双方向の変換方法LRT
まずその発明のひとつとしてlogΠなど対数軸表記に基づく対数的な回転変換(LRT:Logarithmically Rotational Transformation)を述べる。
なお前述の前述のt0は数1の変数u0とLとを用いて数2で表される。
【数2】
数1と数2は対数表記で数3と数4になる。
【数3】
【数4】
数3と数4は行列で表せて、一種の軸の回転変換であるとみなせる(数5)。
【数5】
これはN(u0,L)が対数を通してN(Π,t0)へ回転できる、即ち座標変換できることを意味している。対数は真数に戻すこともできるため、座標底面(u0,L)から座標底面(Π,t0)への1対1写像であり、逆も可能である。正確には回転変換にスカラー倍率√2を乗じる全単射の線形変換である。N(u0,L)の3次元グラフはN(Π,t0)の3次元グラフと表現する軸が異なるだけで、表現する内容は等価であるとみなされる。但し、この関係は対数軸で表わして初めて直感的表現になる。数学的にはu0とLの積と商の関係を対数表記の和と差の関係に結びつけた発想から、理解しやすい表現にできる。非特許文献1では、対象とすべきは5次元空間V(u0,L,Π,t0,N)であると考えられていたが、本発明により
図2に示すようにT1(u0,L,N)とT2(Π,t0,N)の3次元部分空間ふたつに分割された。またそれぞれの部分空間が
図3に示すようにT1⇔T2のLRT変換が示す通り、容易に移行可能であることが判明した。
【0027】
クロマトグラフィーでの見方は、T1(u0,L,N)は、先ず任意のカラム充填剤が前提条件の下、移動相、分析種や、カラム温度など一定の分離条件を固定した上で、u0とLを自由に可変することにより得られるNを示す3次元グラフで表される空間である。これを受けて、T2(Π,t0,N)はu0とLの底面座標からΠとt0の底面座標への変換先である。即ち、u0とLの2次元の自由度がΠとt0の自由度に全て引き継がれている。あるカラムがあれば、Lは固定であるが、u0が可変である。u0を動かせば、t0のみならず、それに連動しΠが変化するので、u0とLのセットが全てΠとt0のセットに対応していることがわかる。
【0028】
特許文献1にはKPA(Kinetic Plot Analysis)、即ちKPL(Kinetic Performance Limit)関連の記載がある。KPLとは特定のΠでT2(Π,t0,N)を切断したその特定のΠにおける断面(t0,N)を表したものであるとみなすことができる。あるLのカラムを用いてu0を変化させると、その特定のLでのN(u0)曲線が特定のLの(u0,N)平面に描かれる。さらにLを掃引することによりT1(u0,L,N)空間が得られる。T1(u0,L,N)からT2(Π,t0,N)へは全射なので、(u0,L)のセットから(Π,t0)のセットへ1対1対応で一義的に決まる。つまりKPLが示す2次元グラフ(t0,N)は、T2(Π,t0,N)空間の中で特定のΠの断面(t0,N)であり、KPLで表現する特定のΠの曲線N(t0)またはt0(N)で示す各点は、必ず元のT1(u0,L,N)空間のどこかの座標にそれぞれ遡れると言うことである。T2(Π,t0,N)空間の写像の先がT1(u0,L,N)空間の外に出ることはなく、且つ重複することもない。KPLは、T2(Π,t0,N)空間の特定Πでの断面であり、その元々の要素は必ずT1(u0,L,N)空間に予め備えられている。
【0029】
図4では、N(Π,t0)の3次元グラフがプロットされている。これはLRTにより
図1から変換されたものであるが、この3次元グラフ上に先ずu0,opt一定の直線を破線で描く。次に例えばΔP=60MPaの即ちΠ一定でt0-Nの断面が切り取られる。これがKPLで得られる高速t0と高分離性Nの性能特性図である。換言すれば、N(Π,t0)の3次元グラフは特許文献1にも述べているようにKPLの拡張表現であるとみなせる。
【0030】
図4の3次元グラフ上に示した○印は、カラム充填材の粒径が2μmの際の測定を効率
よく進めるための測定条件の候補例を表している。
【0031】
このことは、性能として要求する結果的なT2の表現形式から、分離条件として回答されるべき原因的なT1の表現形式へ、またはその逆方向の移行をも示す往復の関係であると理解できる。LRTは、原因となる設定変数u0とLを見ただけでは分析操作者が直ちには推定できない結果として得られるようなΠとt0の底面座標を容易に提供できる。ここで言う底面座標とは、3次元グラフの底面にあたる。縦軸のzはNとして、底面座標(x,y)は(u0,L)または(Π,t0)のことを指す。
【0032】
さらに一般ユーザーが入手できるカラム長さLは50,100,150mmと離散的であるため、原因入力的なT1のLを離散的に表現し、且つu0は連続的に評価することができる利点がある。このT1をT2の3次元グラフにLRT変換することができるため、離散的表現が性能結果としてのT2グラフに1対1対応することも可能である。これは現実解としてとてもユーザーには便利な表現である。これらの3次元グラフに関するクロマトグラフデータシステム(CDS)の操作及び表示形式は、LRTの双方向変換は勿論、対数⇔真数の双方向変換や、Lの離散的表現も対応可能とする。加えて、3次元グラフ上の任意の1点をユーザーが指し示すときに、(u0,L,N)や(Π,t0,N)の3つの値のセットを示すことができる。任意の2点を指し示すときには、その3つの軸方向それぞれの差分も表示すことができる。例えば、Nの増分とか、Π,t0の増加分である。
【0033】
(II)一般化表現形式
対数回転変換LRTを一般化し拡張する。変数をxiで一般化し、i=1,2,3,4の4つの変数をx1=u0,x2=L,x3=Π,x4=t0のように導入する。この4つの変数間には数1と数2即ち数6と数7の従属関係があり、変数4個、方程式2個なので、独立な変数は2個である。4個から2個を選ぶ出す組合せの数は4C2の6通りある。
【数6】
【数7】
【0034】
また3次元グラフにする時は、第1次元軸と第2次元軸にそれぞれ底面座標(xi,xj)のように独立変数を2つ割り当てることができる。この時、第1次元軸と第2次元軸それぞれの順番を区別すれば、順列の数4P2の12通りになる。前述のように底面座標はlog x1など対数表記することも可能である。此処まではz軸はNの議論であったが、同様の座標底面アプローチとして他の関数も導入できる。tE-1やE-1に拡張するためにzkの表記k=1,2,3,4,…などを導入し、z1=N,z2=tE-1,z3=E-1,z4=tP-1のように定義できる。例えば、z1=N(x3,x4),z2=tE-1(x1,x2)のように表記する。逆数で表す指標があるのは、目的関数zkの軸上方を最大化する最適化問題として統一し印象付けるためである。他にzkとして単純にHやH2,H3…などのべき乗およびそれらの逆数であるH-1,H-2,H-3…なども採用できる。さらにそれらに底面座標の各xi,xj…などを乗除演算する任意の指標も採用できる。
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
数8からNが、また数1と数2からΠとt0も、それぞれLに比例する関数になる。つまり、3次元グラフ(Π,t0,N)においては、Lはひとつの示量変数とみなせる。
tEはt0をN2で除する時間でインピーダンスタイム、tPはt0をNで除する時間でプレートタイムを表す。
【0035】
(III)偏微分係数ベースの新指標
一方、N(Π,t0)を3次元グラフの曲面で表した時の底面座標軸各方向の傾き、即ち偏微分係数を特定の判定評価指数としてとらえることができる。
先ず単純には、3次元グラフN(Π,t0)でt0が一定の場合のΠの変化に対するNの傾きは偏微分係数cN/Π(数12)である。単純な傾きを示すcN/Π(Π,t0)は3次元グラフ中の曲面の傾きとし、偏微分係数でt0を固定し、Π当たりのN増分を指し、次元を持つ関数であり、底面座標全域で規定される。
【数12】
ところで偏微分係数の性質より数13のように一般的な数学的表現ができる。
【数13】
ここでx,y,zは変数、l,n,mは定数として、同様に、数14に拡張できる。
【数14】
【0036】
(IV)インピーダンスタイムの導入
非特許文献2などによるとインピーダンスタイムtEが導入でき、その逆数は、前述の数9で示した通り、数15としてここで改めて示す。
【数15】
一方、理論段相当高さH(u0)は、最適な線速度u0,optで極小最良の理論段相当高さHmin=H(u0,opt)が得られる。u0=u0,optの時、この定数Hminを用いて数16が得られる。
【数16】
数16と一般の公式(数14)を対比すると、係数n=2が現れ、数17の表現が得られる。係数n=2が特徴の数11は、u0=u0,optの時に限られ、Hminは計算の過程で相殺されている。
【数17】
ここでcN/Πは数12で規定されている偏微分係数の値である。cN/Π(Π,t0)
を底面座標により規定される関数として表現すると数18の形が得られる。
【数18】
但し、ここではu0,opt一定の条件が課せられているため、実はΠとt0は座標全域の底面を自由に動けず、数1、数2により媒介示量変数のLにより数19のルールにより拘束されている。
【数19】
ここまでは最適な条件u0,optの下での定数Hminの時に限定しているが、現実解に拡げるため底座標を(Π,t0)全域に拡張しなければならない。数12および数17から考案されるある種の新規調整ファクターとしてμN/Πを導入する(数20)。μN/Πは、最適な条件u0=u0,optでは1に等しいが、それ以外の底座標領域では1以外の値になるように規格化[s1]し、無次元であるとする。これらによりμN/Πが効率のような指標として利用できる。この結果、μN/Πは、無次元の規格化ファクターであり、またu0,optの時に限りHminを用いて得られる数17の値cN/Πになるように調整する能力を持つ。
【0037】
(V)PAE(圧力印加効率:Pressure-Application Efficiency)
次の関数μN/Π(Π,t0)を圧力印加効率(PAE)として定義する(数20)。数18と見比べることによりμN/Πの位置づけが理解できる。μN/Π(Π,t0)は底面座標により規定される関数である。
【数20】
数18はu0=u0,optの時にのみ成り立つ理想的な式である。つまり、u0,opt以外のu0では数18は成り立たないわけであるが、発想の転換として調整ファクターのμN/Πを導入することにより数18に近い形の方程式数21として表現することができた。
【数21】
実際のμN/Π(Π,t0)を求め方は、まず3次元グラフの傾きcN/Π(Π,t0)を底面座標(Π,t0)の各点で求め、それぞれに係数2を乗じる。次にその底面座標のΠを乗じ、その座標のN(Π,t0)で除して、μN/Π(Π,t0)が得られる(数21)。
同様に時間延長効率(TE2:Time-Extention Efficiency)もμN/t(Π,t0)として定義できる(数22)。
【数22】
【0038】
次にz軸は底面[s2]に対する特別な方向ととらえるように説明したが、見方を変えると、数学的には単に3次元グラフ内の曲面の傾きを表現しているだけなので、ホールドアップタイムt0のためのPAEもμt/Π(Π,t0)として定義可能である(数23)。言わば、前述のPAEは理論段数NのためのPAEであったと考えられる(数20)。
【数23】
ところでここで均等論的な記述を付け足す。圧力損失ΔPと速長積Π、あるいは一般的な用語としての圧力Pはそれぞれ比例するため、比率としてとらえているこの周辺の議論は全て均等的であるとみなせる。同様に保持時間tRとホールドアップタイムt0も同じような関係にあり、リテンションファクターやグラジエント溶離を注意深く配慮すれば[s3]均等的に使用できる。流量と線速度u0もカラムの空隙率や断面積を理解した上であれば[s4]、均等的に使用可能である。
【0039】
なお本発明の背景には、抽象的かつ理想的な議論のためのモデル化があり、本発明はH(u0)とKVのみで構成及び規定される数学的な圧力駆動方式HPLCモデルの上に構築されている。
【0040】
(VI)偏微分係数系の一般化
次のような一般化に基づく表現も可能である。数24はu0,optの時に成り立つ。
【数24】
ここでck/jは数25として予め定義しておく。
【数25】
次に前述と同様に数26として無次元の効率μk/iを定義する。u0,optの時にμk/iが1に規格化する。係数nは数14由来の次数である。
【数26】
ここで偏微分係数を求める時、添え字jの変数xjは固定されており、数27の表記もできる。
【数27】
また数28として底面座標全域でμk/iが求められる。
【数28】
全微分で考えると関数Nは、偏微分係数を用いて数29で表現できる。
【数29】
ここで数30のように表され、n=1/2、m=1/2である。
【数30】
μk/jは数学的には3次元グラフの中の曲面の傾き由来なので数31の関係がある。独立変数2個と関数zの3軸を数学的には区別なく取り扱えば、Nを固定して得られる傾き由来のμt/Πも計算できる。
【数31】
例えばμN/Πがローカルに一定と近似すれば、数32のように積分可能である。
【数32】
同様にμt/Πも指数的に表せる(数33)。
【数33】
さらにzkのk=5,6,7…シリーズとして偏微分係数系に展開し、z5にcN/Πや、z6にμN/Πなども3次元グラフとしても順次拡充可能である。
【0041】
(VII)van Deemterの式
van Deemterの式を用いて、具体的な計算をデモンストレートする(数34)。
【数34】
これはH-u0プロットの実験値数点をカーブフィッティングすることにより回帰係数A,B,Cを求める。物理学的な拡散などが要因となりH-u0プロファイルは生じているが、本発明ではKVおよび数34を3次元グラフ生成時の曲面プロファイル発生器として利用している。
【0042】
また、
図5に示すように数34を用いてNのためのPAEをA,B,Cで表現することができる。
【数35】
u0,optの時、確かにμN/Π=1になる。
【数36】
ここで、
【数37】
である。一方、t0のためのPAEは
図6に示す。
【数38】
u0,optの時、同様にμt/Π=1になる。
【数39】
【0043】
図4ないし6の3次元グラフはすべて、底面座標をzk(Π,t0)で表現しているが、LRT変換を利用すれば、zk(u0,L)の表現に変換することができる。また、逆にzk(u0,L)の表現グラフがLRTにより、zk(Π,t0)にも容易に変換可能である。
μN/Π(Π,t0)は、線速度が最適なu0,optのところで1になっている。それより高圧の斜面は1以下ではあるものの、緩やかに傾斜しているだけで大きく効率が低下しているわけでもない。すなわち、理想的なu0,optとおおむね同等の良い効率で圧力当たりの理論段数の増加が見込める。理想にとらわれず高速な分析時間領域での分離を許容するのであれば、例えば、ひとつのガイドラインとして、μN/Πが0.5以上は実用範囲として分離条件を探索することも可能である。これは底面座標(Π,t0)でμN/Πを用いて定量的に俯瞰できることが利点である。
【0044】
一方、μN/Π(Π,t0)=1の低圧側の斜面は1以上であり、一見効率が良さそうであるが、必ずしもそういうことではない。過剰な効率を示しているのは、もっと良いLとu0のセットを設定すれば、容易にμN/Π(Π,t0)=1に到達することを意味している。1以上の斜面の時は、少し圧力を上げるLとu0のセットにすれば、比較的容易にu0,optのところ以上にNを増加させられるということである。
μN/Πなどの指標は、u0,optの時の値を1に規格化する無次元の比率である。また、1を超える場合もあり、効率と呼ぶよりも圧力印加係数(PAC:Pressure-Application Coefficient)など呼称するほうがいいかもしれない。
【実施例0045】
以下に図を参照しながら、本発明の実施例を詳述する。
図12において、溶離液(移動相)1210Aを搬送するポンプ1220Aと、溶離液(移動相)1210Bを搬送するポンプ1210Bを備え、各ポンプによって送液された溶離液1210Aと溶離液1210Bはミキサ1230によって混合される。ポンプ1220Aとポンプ1220Bにより、グラジエント送液も可能である。ミキサ1230にて混合された溶離液は、オートサンプラ1240で注入された試料とともに分析カラム1260に送液される。分析カラム1260はカラムの温度を調節するカラムオーブン1250を備える。
分析カラム1260において試料は、成分ごとに分離され、検出器1270に送液される。検出器1270のセル1280において光を照射し、その信号強度からクロマトグラフの波形を得る。試料及び溶離液はその後廃液タンク1290に送液される。
【0046】
図13は、本発明の実施の形態に係る液体クロマトグラフシステムの構成図を示す。液体クロマトグラフ装置1は、
図12を用いて上述した構成に対応しており、ポンプ1220、オートサンプラ1240、カラムオーブン1250、検出器1270を備える。液体クロマトグラフ装置1における各モジュールは制御部1350と接続され、データのやり取りが行われる。制御部1350における処理結果は出力部1380で表示される。また、制御部1350はデータ処理部1360とデータのやり取りを行う。データ処理部1360は入力部1370から入力された条件に基づき処理することが可能である。なお、制
御部1350とデータ処理部1360は同一のコンピュータで処理を行っても良い。データ処理部1360では、以下本発明に係る液体クロマトグラフ分離条件解析処理が実行される。
データ処理部1360は、
図13に示すように液体クロマトグラフの各部と接続されており、
図12に記載の検出器1270からの信号および、オペレータの入力する測定条件等の情報が入力部1370を通して入力される。
また、データ処理部1360は制御部1350と接続されずに液体クロマトグラフから独立していても構わない。独立している場合は、入力部1370から入力された条件に基づき処理を行ってもよい。
このデータ処理部1360が請求項記載のクロマトグラフデータ処理装置に該当する。
【0047】
図13に示すクロマトグラフデータ処理装置(1360)の一例を
図7に示す。カラムパーミアビリティとH-uカーブに関するデータをEXCELファイル等で入力部(1370)からKVとH-uデータの記憶部(710)に入力する。入力部(1370)はキーボード等からKVとVan Deemterの式のフィッティングカーブの回帰係数A,B,Cを入力することもできる。第1~3軸設定部(750)からそれぞれの座標軸u0,L,Nを設定し、例えば
図1に示すN(u0,L)を3次元グラフ生成部で生成する(720)。その結果をディスプレイ等出力部(1380)に表示する。
【0048】
または、変換後の第1軸第2軸設定部(760)から例えば、それぞれの座標軸Π,t0を指定することにより、LRT変換部(730)で対数軸の回転、および拡大縮小変換を実行する。その結果を変換後の3次元グラフ生成部(740)を経由して、
図4に示すN(Π,t0)の3次元グラフをディスプレイ等出力部(1380)に表示する。必要に応じて印刷も可能である。
【0049】
クロマトグラフィックデータ処理装置(1360)の別の事例を
図8に示す。カラムパーミアビリティとH-uカーブに関するデータをEXCELファイル等で入力部(1370)からKVとH-uデータの記憶部(820)に入力する。入力部(1370)はキーボード等からKVとVan Deemterの式のフィッティングカーブの回帰係数A,B,Cを入力することもできる。第1~3軸設定部(860)から例えばそれぞれの座標軸Π,t0,Nを設定し、
図4に示すN(Π,t0)を3次元グラフ生成部(820)で生成する。その結果をディスプレイ等出力部(1380)から出力する。
【0050】
xi,zk設定部(870)から例えば、それぞれΠ,Nを指定することにより、偏微分係数ck/i計算部(830)で偏微分係数を求める。まずその結果を、必要に応じてcN/Π(Π,t0)の3次元グラフで出力部(1380)から表示できる。次に無次元効率μk/iのための規格化部(840)により
図5に示すμN/Π(Π,t0)の3次元グラフとして表示する。必要に応じて印刷も可能である。同様にxi,zk設定部(870)からt0,Nを指定すれば、
図6に示すμt/Π(Π,t0)の3次元グラフが出力できる。
【0051】
流量F(ml/min)は線速度u0(mm/s)に比例する。これらは変数x1に相当し、カラム内径の断面積(m2)と充填状態の空隙率が関係している。長さの次元(m)を持つ変数x2はカラム長さL(mm)である。圧力に相当する変数x3はカラム圧力損失ΔP(MPa)であり、それに比例するΠ(m2/s)でもある。Πは速長積、または圧力駆動強度と呼ぶ。時間の変数x4はホールドアップタイムt0(s)または保持時間tR(min)である。理論段数Nは変数または関数のz1であり、理論段相当高さH(μm)に反比例する。関数z2はインピーダンスタイムtEの逆数、関数z3はセパレーションインピーダンスEの逆数、また、関数z4はプレートタイムtPの逆数である。
【0052】
本発明のクロマトグラフデータ処理装置が行うクロマトグラフデータ処理工程の一事例のフローチャートを
図9に示す。クロマトグラフデータ処理工程を開始後、KVとH-uデータの呼び出しステップでKVとH-uデータを呼び出し(S910)、第1~3軸x,y,zの割り当て設定ステップで例えば、u0,L,Nを指定する(S920)。その結果を3次元グラフの表示ステップで
図1に示すグラフ及び/または分離条件解析を出力し(S930)、クロマトグラフデータ処理工程を終了する。
【0053】
クロマトグラフデータ処理工程の別の事例を
図10のフローチャートに示す。クロマトグラフデータ処理工程開始後、変換前の3次元グラフの呼び出しステップでN(u0,L)グラフを読み出す(S1010)。変換後の第1軸第2軸の設定ステップで例えば、それぞれΠ,t0を指定する(S1020)。その変数軸Π,t0に基づきLRT変換ステップでLRT変換を実行する(S1030)。変換後の3次元グラフの表示ステップで
図4に示すN(Π,t0)を出力し(S1040)、クロマトグラフデータ処理工程を終了する。
【0054】
クロマトグラフデータ処理工程の更に別の事例として、PAEの実施例を
図11のフローチャートに示す。クロマトグラフデータ処理工程開始後、3次元グラフ(xi,xj,zk)の呼び出しステップで例えば、N(Π,t0)グラフを読み出す(S1110)。ここで(xi,xj,zk)はそれぞれ(Π,t0,N)に対応している。xi,zkの選択ステップで例えば、それぞれN,Πを指定する(S1120)。xi,zkの選択ステップの指定に基づき偏微分係数cN/Πの計算ステップで偏微分係数cN/Πの計算を実行する(S1130)。次に無次元効率μk/iを得る規格化ステップで
図5に示すμN/Π(Π,t0)を算出し(S1140)、3次元グラフ(xi,xj,μ)の表示ステップでμN/Π(Π,t0)を3次元グラフ及び/または分離条件解析として出力(S1150)し、クロマトグラフデータ処理工程を終了する。あるいは同様の操作により
図6に示すμt/Π(Π,t0)も表示、印刷できる。
【0055】
3次元グラフは対数軸で表現することも可能である。例えば、底面座標を(log u0,log L)で表現された3次元グラフをLRT変換により(log Π,log u0)で表現する。さらにN(log Π,log u0)上での傾きに基づくPAEも規定可能である。
【0056】
あるいは関数N(log Π,log u0)のグラフから傾きを求めるか、またはある種の効率を定義しておいて、それをLRT変換することによりN(log Π,log u0)上でのPAEを算出することも可能である。
また、これらも一般化表記が可能である。
【0057】
次に、本発明のクロマトグラフデータ処理装置の3次元グラフ表示を用いた分離条件の解析事例の一例を示す。
図4の利用法の例として、3次元グラフを見て、先ずカラムとHPLCシステムの最大圧力あるいは耐圧ΔPを決める。次に時間t0を変化してみて、そのときに得られる理論段数Nを検討する。暫定的に決定するポイントをサークルで指す。
図4の例では、その座標が(45,8,7000)になっている。ΔPとt0がそれぞれ5MPaと8sであり、そして期待できるNが7,000段であることを意味する。
【0058】
次に、
図4から
図1へ変換すると、そのポイントに対応するサークルは(5,50,7000)と出力表示される。即ち、線速度u0=5mm/sで、カラム長さL=50mmが分離条件として容易に得られる。
この指定されたサークルは
図5にも変換され、3次元座標(45,8,0.84)が得られる。即ち、そのときの理論段数の圧力印加係数μN/Πが0.84と最適な線速度u0,optのときに得られる比率1に近く、高分離化には比較的良好な値が得られる。一
方、同様に
図6の時間の圧力印加係数μt/Πにも変換されるが、ここでは0.72とμN/Πに比較するとやや劣る圧力印加係数であることがわかる。つまりNには有効な圧力上昇条件だが、t0には比較的努力して圧力を上昇してもさほど高速化には効果がない分離条件であることが理解できる。
【0059】
μN/Πとμt/ΠをPAC(圧力印加係数)と呼ぶわけだが、μN/tをTEC(時間延長係数)と呼ぶ。数22が定義式になる。
ところで、PAC(圧力印加係数)とTEC(時間延長係数)の応用を6つのアプローチ法を事例として詳しく示す。
図14は最適な線速度u0,optで得られる高速高分離性能を示す直線を伴う粒径2μm充填剤のN(Π,t0)の等高線図である。教科書にもある通り、一般にNを向上するためにはu0,opt線に沿って丘陵を登る手法が推奨される(Opt法)。これは、u0,opt線上で最小の理論段相当高さHminが得られるためである。
N=5,000を超える辺りから圧力上限20MPaに差し掛かり、u0,opt線に沿って登れなくなる。ここからさらにNを向上するためには、上限圧力20MPa一定の条件下で丘陵を登る方法であるKPL法を採用する。しかしKPL法では、登り方が比較的緩やかでN=7,000程度しか得られず、Opt法よりN増加の効率が悪いことがわかる。この効率を定量的に示す係数としてPACとTECを導入する。
また
図14に示す通り、u0,opt線を境界にして2つの領域が存在する。一方はu0,opt線よりもΠが、すなわち圧力が高い高Π域であり、他方は反対に低Π域と呼べる。
Opt法では、最適な分離条件としてu0,opt線、またはその近傍を選択するわけであるが、このu0,opt線上では最小のHminが得られているので任意のLのカラムを装着すれば、そのLにおける最大のNが必然的に得られる。また同時にt0とΠが一義的に計算される。すなわち5次元空間(Π,t0,N,u0,opt,L)内で、一定のu0,optにより定まる所謂直線u0,opt線が示される。また例えばN=5,000を要請すれば、N=5,000の等高水平面、すなわち丘陵斜面上では等高線を見ることができる(
図15)。底平面(17.5MPa,10s)上にu0,opt線とN=5,000の等高線の交点が見出される。ここで圧力17.5MPaは、Πに比例し、Π=0.12x10-3m2/sに対応する。このようにN(Π,t0)の等高線図の見方を示したので、次に分離条件を定量的に最適化するために圧力印加係数PACおよび時間延長係数TECの導入が有効であることを示す。
以降、6つのアプローチ法を示す。
1.N一定条件下でのt0高速化
(1)高Π域への拡張
(2)低Π域(上限圧力Πmaxへ移動)
2.t0一定条件下でのN高分離化
(1)高Π域への拡張
(2)低Π域(上限圧力Πmaxへ移動)
3.Πmax上限圧力下での展開(Πmax一定:KPL)
(1)高速化(t0の減少)
(2)高分離化(Nの増加)
アプローチ1-(1)は、Nを一定に確保しながら高速化を図る最適化法である(
図15)。t0高速化のドライビングフォースは圧力であり、高П域に入っていく。まずN=5,000の等高線とu0,opt線の交点からスタートする(Opt法)。前述の通り、交点ではt0=10sが得られ、ΔP=17.5MPaである。すなわち等高線に沿い40MPa方向に圧力上昇する。PACμt/Пが示す係数値(効率)に基づき、どの程度圧力を上げることが有効であるか判断ができる。u0,opt線上はμt/П=1である。
図16の通り、40MPaの時、μt/Пが0.65と良くはないが許容可能である。6
0MPaの時、μt/Пが0.54と効率が悪化する。したがって、アプローチ1-(1)ではμt/Пを見ながら、40MPa辺りで圧力上昇を通常止めることになる。分離用途によってはμt/Пが0.54と圧力が高速化に有効に効かないとわかっていても、ホールドアップ時間t0を40MPaの5sから4sへと約20%低減できることに利点があれば、さらに圧力でプラス50%の60MPaまで上昇する場面も想定される。μt/Пが0.54しかないとは、圧力60MPaの時、圧力を1%上げても時間が0.54%低減にしか効果がない効率に相当している。
アプローチ1-(2)は任意のNを得たくとも、u0,opt線とそのNの等高線の交点が既に上限圧力を超えている場合である。そのNを得るためには圧力を下げざるをえず、すなわち低П域に入っていき、時間を延ばしながら等高線に沿ってNを確保する方法である(
図17)。
まずN=5,000の等高線とu0,opt線の交点からスタートする(Opt法)。上限圧力が10MPaの場合、N=5,000の等高線に沿って圧力を10MPaまで下げざるを得ない。μt/Пが1.39とは、10MPaと等高線の交点では、少し圧力を上げるだけで、すなわち少しのП増分でu0,opt線近傍より1.39倍高速化できることを意味している。逆に言うと、低П域は、分不相応な高分離性能を獲得しようとすると、高速性能を極端に犠牲にせざるを得ない領域である。(
図18)
アプローチ2-(1)はt0を一定に確保しながら高分離化を図る最適化法である(
図19)。N高分離化のドライビングフォースも圧力であり、高П域に入っていく。まずt0=10s一定の水平線とu0,opt線の交点からスタートする(Opt法)。交点ではN=5,000が得られ、ΔP=17.5MPaである。ここからさらにNを増加させるため40MPaや60MPaなど右方へ圧力上昇が可能である。KPL法は単純に上限まで圧力を上昇するわけだが、アプローチ2-(1)ではPACにより効率を見ながら判断できる。圧力上昇することにより、その圧力上昇に見合うNが得られるかを示す指標がμN/Пである。40MPaでμN/П=0.80、60MPaで0.71なので、60MPaでも許容可能な効率でNが得られるため、μN/П=1のu0,opt線に沿わなくとも高分離化が図れる有効なアプローチ法と考えられる。(
図20)
アプローチ2-(2)は任意のt0を得たくとも、そのt0一定の水平線とu0,opt線の交点が既に上限圧力を超えている場合である。そのt0を得るためには圧力を下げざるをえず、すなわち低П域に入っていき、Nを落としながらt0水平線に沿って上限圧力に到達する方法である(
図21)。
まずt0=10s一定の底平面上での投影水平線とu0,opt線の交点からスタートする(Opt法)。上限圧力が10MPaの場合、t0=10s一定の水平線に沿って圧力を下げざるを得ず、u0,opt線から10MPaまで左方向へ分離条件を移動することになる。
10MPaのとき、μN/Пが1.16であり、10MPaとt0=10sの水平線の交点では、少し圧力を上げるだけで、すなわち少しのП増分でu0,opt線近傍より1.16倍高分離化できることを意味している。逆に言うと、t0=10sの高速性能を得るために、圧力を下げながら、その圧力低減率にも増してNを悪化させるため、著しく分離性能を犠牲することとなる。アプローチ2-(2)は、アプローチ1-(2)と同様に不毛領域の低П域を利用するため、極端な高速性能を獲得しようとすると、分離性能を大幅に犠牲にせざるを得ないことになる。(
図22)
アプローチ3はいずれも圧力を一定に確保する所謂KPL法である。まずアプローチ3-(1)は高速化の方法である(
図23)。ここでは分離性能を犠牲にして、高速性能を獲得している。所謂高П域であるが、すなわち裏返せばu0,opt線を基準として見てt0が比較的短い領域、従って高速性能になる。
まずΔP=20MPaの垂直線とu0,opt線の交点からスタートする(Opt法)。交点ではt0=11sが得られ、N=5,620である(
図23)。u0,opt線上のスタート点から垂直下方に分離条件を移動させ、Nは低下するものの、t0を減少する高速化が可能である。時間延長係数TECμN/tにより時間変化に対する応答性(潜在能
力)を把握できる。他の係数同様にu0,opt線上で規格化しているため、11sはu0,opt線近傍のためμN/t=1.01である(
図24)。
t0を3sまで高速化する場合、N=2,760と著しく低下するが、μN/tは1.18にとどまり、Nの犠牲が許容できるのであれば、係数値は悪くなる、合理的な高速化法と言える。
一方、アプローチ3-(2)は高分離化の方法である(
図25)。このときのドライビングフォースは時間消費であり、低П域であることは、すなわちu0,opt線を基準とすればt0が比較的永い領域を利用していることに相当する。
ΔP=20MPaの垂直線とu0,opt線の交点からスタートする(Opt法)。交点ではt0=11sが得られ、N=5,620である。ここからさらにNを増加するために、u0,opt線から垂直に15sや20sの上方へ時間延長する。20sの場合にもμN/t=0.92であり、比較的効率よく時間を利用してNを増加できていると考えられ、有効なKPL法の事例である。(
図26)
【0060】
低П域とか高П域は、実はそれぞれ前者はu
0,
optより低いu
0の領域であり、後者は高いu
0の領域である。この等高線図上にはu
0,
opt線しか表現されず、陽にはu
0が表現されていないため低П域などの表現を便宜的に用いた。前述の通り高いu
0の領域では高速化に優れるが、μ
N/Пとμ
t/ПなどPACが1以下となる。反対に低П域ではPACは1を超える。例えば、低П域では少し圧力を上げるだけでその比率にも増して大幅にNが増加する。逆に言うと、Nを下げてもそれに見合うほど圧力を下げる効果がないことを意味する。
まずt
0一定変換効率η
tを定義する。
準備として、数20の分子分母をひっくり返して数101を得る。
【数101】
従ってμ
П/Nは数102に示す通りNに関するPACμ
N/Пと逆数の関係がある。
【数102】
ところでt一定変換効率η
tは効率の位置づけとするため、0から1の値を持つべきである。このため高П域ではμ
N/Пに対応し、低П域ではμ
П/Nに対応させ、u
0,
opt線上で最大の効率値1となるように要請する。そうすると、t一定変換効率η
tはNに関するPACμ
N/Пを用いて、一つの式で表わすことができる(数103)。
【数103】
以上はt
0一定変換効率η
tであったが、同様にN一定変換効率η
Nもt
0に関するPACμ
t/Пを用いて定義できる(数104)。
【数104】
またП一定変換効率η
Пも同様にTECμ
N/tを用いて定義できる(数105)。
【数105】
ここで各x一定変換効率であるη
N、η
t、およびη
Пがそれぞれ何を意味しているか振り返る。等高線図はП、t
0、Nの3つの変数を表現したグラフであり、各一定変換効率は、3つの変数のいずれかを一定にし、残りの2つの変数の偏微分係数に対応する。高П域では、圧力を印加することにより特定の変換効率の下、高速性能として短いt
0か、または高分離性能Nを得ることができる。
図15はNを一定に確保しながら、高П域で高速化を図る。すなわち高П域でПすなわち圧力ΔPを消費しながら高速性能短いt
0に変換する最適化である。このときのN一定変換効率をη
Nと呼んでいる。η
Nという指標を用いれば、ΔPを増加させれば、高速にはなるが効率η
Nは徐々に低下していく様子が定量的に把握できる(
図16)。
逆に
図17はN一定ではあるが、低П域でいわば時間を消費してПすなわちΔPを低下させる利点がある。一般的にさきに圧力上限が決まっているためこのアプローチはまれである。そうはいってもη
Nを用いれば、N一定で時間を消費してПを低減する効率は測定できる。
図18が示す通り、t
0を19sまで延ばしてもΔPは10MPaにしか下がらず効率η
Nは0.72とあまり良くないことがわかる。
t
0一定の
図19も同様に高П域では効率η
tを定量的な指標として見ながら、Пを消費してNを稼げる。一方、
図21は低П域であり、Nを消費してПを低下させることができるが、前述した通り一般的には上限圧力が先に決まっているためあまりこのアプローチは採用されないと考えられる。
П一定の
図23と
図25はη
Пを有効に利用できる事例である。
図23はNを消費して時間t
0に変換する効率η
Пを把握できる最適化アプローチである。一方、
図25はП一定の下、t
0を消費してNに変換するアプローチで効率η
Пを把握できる点が利点である。
ただし、効率η系は最大値1を探索するには理想的だが、u
0,
opt線等境界線近傍を解析するには、単調に増加減少しない指標になり、かえって不便でもある。以降、実用的なPAC、TECに戻る。
【0061】
図27から
図31を用いてPACやTECの用途を事例に基づき、本発明の考え方を説明する。
図27は圧力20MPaに上限がある。任意のNを得たいとき、まずu0,opt線上で点Aを見つけ、その分離条件を採用すればよい。ここで、圧力が10MPa程度であるため圧力を上昇することにより性能を向上できる2つの余地がある。ひとつはNを一定にして高速化を図ることができる。もうひとつは、点Aを起点にして、同時刻t0でさらにNを増加し高分離化することができる。前者のPACには、時間tに関するμt/Пを、後者のPACにはNに関するμN/Пを利用できる。圧力は必ずしもKPLの上限直線まで上昇させる必要はなく、各PACを指標にしながら、定量的に高速化、または高分離化を図ることができる。これが本発明のねらいである。u0,opt線とKPL上限直線に囲まれた三角領域とその近傍が圧力をドライビングフォースとすることによる高速化、また
は高分離化が有効なエリアである。その三角領域内の任意の点にそれぞれのPACμt/ПまたはμN/Пが存在し、定量的に有効性が把握できる。求めるNがこの三角領域を超える場合、すなわちu0,opt線とKPL上限直線の交点より高いNを望む場合はKPL直線に沿ってNを向上しなければならない。KPL直線上の定量的な最適化は後述する。
【0062】
次に任意のt0を得たい場合、まず
図28のu0,opt線上で点Bを見出す。例えば、これが
図27の点Aと同一点であったとすると、あとの議論はまったく一緒である。ここで、圧力が10MPa程度であるため圧力を上昇することにより性能を向上できる2つの余地がある。ひとつはt0を一定にして高分離化を図ることができる。もうひとつは、点Bを起点にして、同じ等高線Nでさらにt0を短縮し高速化することもできる。前述の三角領域内の任意の点で各PACが計算できるため、定量的に圧力上昇の有効性が理解可能である。指定のt0がこの三角領域を超えている場合は、KPL直線上のNが最大のNが計算され、そのNが十分であればさらに高速化することが検討可能となる。
【0063】
前述のKPL直線上、すなわち上限圧力での定量的な最適化を詳説する。
任意のNを指定して、先の三角領域の頂点(交点)より時間の長い点Cが見つかった場合、その分離条件を採用することになる。さらにここでNを増加させたいときにはさらにt
0を延ばすことになり、TECμ
N/tを参照して時間延長の有効性を測ることができる。t
0を加減して、TECμ
N/tの様子を見る場合も、当該交点より時間の長い区間であれば、TECは1以下の係数として有効性を把握することができる。
任意のt
0を指定して、先の三角領域の頂点(交点)より時間の長い点Cが見つかる場合、そのNが十分大きいと判断されれば、さらに高速化することも可能である。このKPL直線上を動く場合の時間短縮係数(Time Reduction Coefficient)、またはN消費係数をμ
N/tの逆数μ
t/Nとして定義可能ではあるが、Nが十分大きい場合には、まず指定のNをもって、あらためて当該等高線図を参照する。
ところで点Aなど同一点の係数であれば、その定義から次の関係が成り立つ。
【数106】
ここからもわかる通り、例えば点Aから少し高П域に入った点ではTECμ
N/tは1より大きいため、μ
N/Пがμ
t/Пより大きく、この高П域ではPACは1以下のため、t一定で高分離化するほうが、N一定の高速化より有効かつ容易だという結果となる。ちなみに三角領域上方の当該交点を含むu
0,
opt線上では、μ
N/П=μ
N/t=μ
t/П=1である。
【0064】
上記より、Nまたはt0を指定してu0,opt線上の点A(または点B)を見出す場合、圧力上限までの三角領域を分離条件探索する意義がある。その場合は各PACを用いて定量的に三角領域内の圧力有効性を理解できる。
点Cのように三角領域上方の圧力一定KPL直線上に分離条件が探索された場合、その分離条件を採用することになる。当該Nまたはt0を加減する余地があれば、TECを用いてt0がNに与える作用の有効性を定量的に吟味することが可能である。
【0065】
数式やグラフを理解しやすくするために二乗理論段数Λと逆ホールドアップタイムν
0を導入する。
【数107】
この式からわかる通り、ν
0で表現することによりПのパワーをΛとν
0の積の形で分け合う。H
2は定数ではないので、曲面に一種の綾を生ずる。3次元グラフの縦軸をNの代わりに二乗理論段数Λを用いることによりKPL曲面が概ね平面のように表現できる。一方、高速性能に関し、逆ホールドアップタイムν
0は数値の大きいほうが、高速性能が高いことを示す望大特性とすることができる。
3次元グラフは、それぞれΛ(П,t
0)が
図29、N(П,ν
0)が
図30、Λ(П,ν
0)が
図31、Rs(П,t
0)が
図32である。
図32のkは保持係数、αは分離係数である。
【0066】
市販カラムは50,100,150mmなど離散的なLを有している。本発明の変数は連続的な実数表現になっているが、実際は離散的なLをもって最適化させることになる。ただし、その実用化に際しても基本的な考え方は踏襲されることになる。
【0067】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。