(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168352
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】免疫グロブリン結合性タンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 14/31 20060101AFI20221031BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20221031BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20221031BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221031BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20221031BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20221031BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20221031BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20221031BHJP
【FI】
C07K14/31 ZNA
C07K16/00
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12P21/02 C
C07K17/00
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073728
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長谷見 崇俊
(72)【発明者】
【氏名】山中 直紀
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AD53
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B064DA20
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA62
4H045CA11
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA65
4H045FA71
4H045FA74
4H045FA81
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】 アルカリに対する安定性が向上し、かつ温和な抗体溶出特性を持つ免疫グロブリン結合性タンパク質を提供すること。
【解決手段】 ブドウ球菌属細菌由来Protein Aの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列を4以上8以下含み、ただし当該アミノ酸配列において、3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基のイソロイシンへの置換と、15番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基のアラニンへの置換を少なくとも有する、免疫グロブリン結合性タンパク質により、前記課題を解決する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウ球菌属細菌由来Protein Aの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列を複数含み、ただし当該アミノ酸配列において、以下の(1)および(2)に示すアミノ酸置換を少なくとも有し、かつ前記アミノ酸配列の数が4以上8以下である、免疫グロブリン結合性タンパク質:
(1)配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がイソロイシンに置換
(2)配列番号1の15番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がアラニンに置換。
【請求項2】
ブドウ球菌属細菌由来Protein Aの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、以下の(1)および(2)に示すアミノ酸置換を少なくとも有する配列である、請求項1に記載のタンパク質:
(1)配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がイソロイシンに置換
(2)配列番号1の15番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がアラニンに置換。
【請求項3】
ブドウ球菌属細菌由来Protein Aの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列において、さらに以下の(3)および(4)に示すアミノ酸置換を少なくとも有する、請求項1または2に記載のタンパク質;
(3)配列番号1の40番目のバリンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(4)配列番号1の58番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアスパラギン酸に置換。
【請求項4】
ブドウ球菌属細菌由来Protein Aの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列が、配列番号20または36に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載のタンパク質。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項5に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項7】
請求項5に記載のポリヌクレオチドまたは請求項6に記載の発現ベクターを含む、遺伝子組換え宿主。
【請求項8】
宿主が大腸菌である、請求項7に記載の遺伝子組換え宿主。
【請求項9】
請求項7または8に記載の遺伝子組換え宿主を培養し請求項1から4のいずれかに記載のタンパク質を発現させる工程と、発現した前記タンパク質を回収する工程とを含む、免疫グロブリン結合性タンパク質の製造方法。
【請求項10】
不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化した請求項1から4のいずれかに記載のタンパク質とを含む、免疫グロブリン吸着剤。
【請求項11】
請求項10に記載の吸着剤を充填したカラムに免疫グロブリンを含む溶液を添加し当該免疫グロブリンを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出させる工程とを含む、前記溶液中に含まれる免疫グロブリンの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫グロブリンに特異的に結合するタンパク質に関する。より詳しくは、本発明は、アルカリに対する安定性が向上し、かつ温和な抗体溶出特性を有する前記タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬は生体内の免疫機能を担う分子である抗体(免疫グロブリン)を利用した医薬である。抗体医薬は抗体が有する可変領域の多様性により標的分子に対し高い特異性と親和性をもって結合する。そのため抗体医薬は副作用が少なく、また、近年では適応疾患が広がってきていることもあり市場が急速に拡大している。
【0003】
抗体医薬の製造は培養工程と精製工程を含み、培養工程では生産性を向上させるために抗体産生細胞の改質や培養条件の最適化が図られている。また、精製工程では粗精製としてアフィニティークロマトグラフィーが採用され、その後の中間精製、最終精製、およびウイルス除去を経て製剤化される。
【0004】
精製工程では、抗体分子を特異的に認識するタンパク質(リガンド)を結合した不溶性担体からなる、アフィニティー吸着剤も用いられている。前記リガンドとして、ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌由来Protein A(以下、SpAと略)や連鎖球菌(Streptococcus)属細菌由来のProtein Gなどが多く用いられている。SpAのうち黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のSpAは、N末端側からドメインE、ドメインD、ドメインA、ドメインB/Z、ドメインCと、免疫グロブリン結合ドメインを五つ有していることが知られており、このうちドメインCのアミノ酸配列を利用したアルカリ安定性を有したリガンド(特許文献1)や、ドメインB/ZおよびドメインCのうち、いずれかのドメインの一部のアミノ酸残基が欠失したポリペプチドを含むリガンド(特許文献2)が開示されている。
【0005】
抗体生産コストを低く保つため、前述したアフィニティー吸着剤は複数回使用され、使用後は当該吸着剤に残存した不純物を除去する工程を行なう。前記不純物を除去する工程では、通常、水酸化ナトリウムを用いた定置洗浄を行ない、アフィニティー吸着剤を再生させる。従って前記リガンドは、前記再生工程を行なっても、抗体への結合性が維持されるだけの化学的安定性を有する必要がある。
【0006】
また精製工程を、アフィニティー吸着剤を用いて行なう場合、中性pH条件下で抗体分子を吸着剤に吸着させた後、酸性pH条件下で抗体分子を吸着剤から溶出させる工程を含むが、酸性pH条件は抗体分子にダメージを与え、凝集の原因となるため、溶出時のpHは高い(つまり中性に近い)ほうが好ましい。
【0007】
抗体溶出pHを高める方法としてはフレキシブルなアミノ酸配列の挿入や特定のアミノ酸のヒスチジン残基への置換などが実施されている(非特許文献1)。しかしながら、これらの方法では化学的安定性が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2010-504754号公報
【特許文献2】特開2012-254981号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Susanne Gulich他,Journal of Biotechnology,76,233-244,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、アルカリに対する安定性が向上し、かつ温和な抗体溶出特性を持つ免疫グロブリン結合性タンパク質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌由来Protein A(SpA)の免疫グロブリン結合ドメインにおける化学安定性と抗体溶出特性に関連するアミノ酸残基を特定し、当該アミノ酸残基を他の特定のアミノ酸残基に置換することで、前記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する:
[1]SpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列を複数含み、ただし当該アミノ酸配列において、以下の(1)および(2)に示すアミノ酸置換を少なくとも有し、かつ前記アミノ酸配列の数が4以上8以下である、免疫グロブリン結合性タンパク質;
(1)配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がイソロイシンに置換
(2)配列番号1の15番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がアラニンに置換。
【0013】
[2]SpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、以下の(1)および(2)に示すアミノ酸置換を少なくとも有する配列である、請求項1に記載のタンパク質;
(1)配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がイソロイシンに置換
(2)配列番号1の15番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がアラニンに置換。
【0014】
[3]SpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列において、さらに以下の(3)および(4)に示すアミノ酸置換を少なくとも有する、[1]または[2]に記載のタンパク質;
(3)配列番号1の40番目のバリンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(4)配列番号1の58番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアスパラギン酸に置換。
【0015】
[4]SpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列が、配列番号20または36に記載のアミノ酸配列を含む、[1]または[2]に記載のタンパク質。
【0016】
[5][1]から[4]のいずれかに記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0017】
[6][5]に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【0018】
[7][5]に記載のポリヌクレオチドまたは[6]に記載の発現ベクターを含む、遺伝子組換え宿主。
【0019】
[8]宿主が大腸菌である、[7]に記載の遺伝子組換え宿主。
【0020】
[9][7]または[8]に記載の遺伝子組換え宿主を培養し[1]から[4]のいずれかに記載のタンパク質を発現させる工程と、発現した前記タンパク質を回収する工程とを含む、免疫グロブリン結合性タンパク質の製造方法。
【0021】
[10]不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化した[1]から[4]のいずれかに記載のタンパク質とを含む、免疫グロブリン吸着剤。
【0022】
[11][10]に記載の吸着剤を充填したカラムに免疫グロブリンを含む溶液を添加し当該免疫グロブリンを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出させる工程とを含む、前記溶液中に含まれる免疫グロブリンの分離方法。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明のタンパク質は、SpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列を複数含み、ただし当該アミノ酸配列において、特定位置におけるアミノ酸置換を有したタンパク質である。以降本明細書において、SpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列であって、特定位置におけるアミノ酸置換を有さないものを「非改変型アミノ酸配列」ともいい、SpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列であって、特定位置におけるアミノ酸置換を有するものを「改変型アミノ酸配列」ともいう。すなわち、改変型アミノ酸配列は、特定位置におけるアミノ酸置換を有すること以外は非改変型アミノ酸配列と同一のアミノ酸配列であってよく、特定位置におけるアミノ酸置換以外のアミノ酸置換を有していてもよい。
【0025】
本明細書における非改変型アミノ酸配列は、
(I)SpAの免疫グロブリン結合ドメインの全アミノ酸配列であってもよく、
(II)免疫グロブリンへの結合活性を有している限り、前記ドメインの部分アミノ酸配列を含む配列であってもよい。
【0026】
なお前記(II)に関して、前記ドメインは三つのαヘリックスとそれらをつなぐループ部分で構成されている。三つのヘリックスのうちN末端側の二つのヘリックスが抗体結合部位であり、抗体結合部位以外のヘリックスやループを除いた場合でも抗体結合能を有していることが知られている(James S.Huston他,Biophysical Journal,62,87-91,1992)。すなわち、前記(II)における部分アミノ酸配列は、少なくとも前記抗体結合部位のアミノ酸配列を含んでいればよいといえる。
【0027】
SpAが黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のProtein A(GenBank No.AAA26676)である場合、非改変型アミノ酸配列の具体例として、ドメインE(GenBank No.AAA26676の37番目から92番目までのアミノ酸残基)、ドメインD(GenBank No.AAA26676の93番目から153番目までのアミノ酸残基)、ドメインA(GenBank No.AAA26676の154番目から211番目までのアミノ酸残基)、ドメインB/Z(GenBank No.AAA26676の212番目から269番目までのアミノ酸残基)およびドメインC(GenBank No.AAA26676の270番目から327番目までのアミノ酸残基、配列番号1)のうち少なくともいずれか一つのドメインの全配列、または前記ドメインの部分配列を含むアミノ酸配列があげられる。
【0028】
本明細書における改変型アミノ酸配列は、免疫グロブリンへの結合活性を有している限り、
(III)前記(I)または(II)に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数箇所での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失および/または付加を含む配列であってもよく、
(IV)前記(I)または(II)に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む配列であってもよい(以降、(III)および(IV)に記載のアミノ酸配列をまとめて「改変体」とも表記する)。
【0029】
つまり免疫グロブリンへの結合活性を有している限り、前述した五つのドメインのうち、いずれか一つのドメイン(例えば、ドメインC)の全配列もしくは部分配列を含むアミノ酸配列、またはその改変体でもよいし、隣接した複数のドメインの全配列(例えば、ドメインB/ZとドメインC)もしくは部分配列(例えば、ドメインB/ZのC末端側からドメインCのN末端側までのアミノ酸残基)、またはその改変体であってもよいし、前述した五つのドメインのうち任意の複数のドメインの全配列(例えば、ドメインAとドメインC)もしくは部分配列(例えば、ドメインAの部分アミノ酸配列とドメインCの部分アミノ酸配列)、またはその改変体であってもよい。
【0030】
改変型アミノ酸配列が、黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインC(配列番号1)の改変体である場合の好ましい態様として、以下(i)から(iv)に示すアミノ酸配列が例示できる。
【0031】
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、Asn3Ile(この表記は、配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がイソロイシンに置換されていることを表す、以下同じ)およびGlu15Alaのアミノ酸置換を少なくとも有する配列
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、前記(i)に記載の2箇所のアミノ酸置換を少なくとも有し、さらに前記アミノ酸置換の位置以外の1もしくは数箇所での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および/または付加を含み、かつ免疫グロブリン結合活性を有する配列
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、前記(i)に記載の2箇所のアミノ酸置換を少なくとも有したアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有し、前記2箇所のアミノ酸置換が少なくとも残存したアミノ酸配列を含み、かつ免疫グロブリン結合活性を有する配列
(iv)前記(i)から(iii)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、さらに、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換を少なくとも有する配列
なお本明細書において「1もしくは数個(数箇所)」とは、アミノ酸残基のポリペプチドの立体構造における位置やアミノ酸残基の種類でも異なるが、具体的には、例えば、1から30個、1から20個、1から10個、1から9個、1から8個、1から7個、1から6個、1から5個、1から4個、1から3個、1から2個、1個のいずれかを意味する。前述したアミノ酸残基の置換以外の、アミノ酸残基の置換の一例としては、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸間で置換が生じる保守的置換が挙げられる。保守的置換の場合、一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間での置換が挙げられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社,9,2005)。また、上記のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加には、例えば、タンパク質またはそれをコードする遺伝子が由来する微生物の個体差や種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutantまたはvariant)で生じるものも含まれる。
【0032】
また本明細書において「相同性」とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味してよい。「相同性」とは、特に、同一性(identity)を意味してもよい。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等のアラインメント(alignment)プログラムを利用して決定できる。例えば、アミノ酸配列の同一性とは、blastpを用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してよく、具体的には、blastpをデフォルトのパラメータで用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してもよい。
【0033】
また本明細書において「配列番号1に記載のアミノ酸配列におけるX番目のアミノ酸残基」とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列のN末端から数えてX位の位置に存在するアミノ酸残基を意味する。特定のアミノ酸配列における「配列番号1に記載のアミノ酸配列におけるX番目のアミノ酸に相当するアミノ酸残基」とは、当該特定のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基であって、当該特定のアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列とのアラインメントにおいて配列番号1に示すアミノ酸配列におけるX番目のアミノ酸と同一の位置に配列されるアミノ酸残基を意味する。例えば、Asn3Ileのアミノ酸置換の場合、特定のアミノ酸配列における「配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基」とは、当該特定のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基であって、当該特定のアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列とのアラインメントにおいて配列番号1に示すアミノ酸配列における3番目のアスパラギンと同一の位置に配列されるアミノ酸残基を意味する。なお、配列番号1に記載のアミノ酸配列における「配列番号1に記載のアミノ酸配列におけるX番目のアミノ酸に相当するアミノ酸残基」とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列におけるX番目のアミノ酸そのものを意味する。すなわち、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意で他のアミノ酸置換)の位置は、必ずしも本発明のSpAの免疫グロブリン結合ドメインにおける絶対的な位置を示すものではなく、配列番号1に記載のアミノ酸配列に基づく相対的な位置を示すものである。すなわち、例えば、SpAの免疫グロブリン結合ドメインが、上記例示したアミノ酸置換の位置よりもN末端側にアミノ酸残基の挿入、欠失、または付加を含む場合、それに応じて当該アミノ酸置換の絶対的な位置は変動し得る。SpAの免疫グロブリン結合ドメインにおける上記例示したアミノ酸置換の位置は、例えば、前記ドメインのアミノ酸配列と配列番号1に記載のアミノ酸配列とのアラインメントで特定できる。アラインメントは、例えば、BLAST等のアラインメントプログラムを利用して実施できる。配列番号1に記載のアミノ酸配列のバリアント配列等の任意のアミノ酸配列における上記例示したアミノ酸置換の位置についても同様である。また、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意で他のアミノ酸置換)の置換前のアミノ酸残基は、配列番号1に記載のアミノ酸配列における置換前のアミノ酸残基の種類を示すものであって、配列番号1に記載のアミノ酸配列以外の非改変型アミノ酸配列においては保存されていてもよく、保存されていなくてもよい。
【0034】
改変型アミノ酸配列の一例として、以下の(A)および(B)に示す配列があげられる。これら配列は、アルカリに対する安定性が高く、かつ温和な免疫グロブリン溶出特性を有する点で好ましい。
(A)配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29AlaおよびLys58Gluのアミノ酸置換を有した配列(配列番号20に記載のアミノ酸配列)
(B)配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有した配列(配列番号36に記載のアミノ酸配列)
本発明のタンパク質は、SpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列を4以上8以下含んだ態様である。なお5以上7以下であると好ましく、6であるとより好ましい。前記態様は、例えば、SpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列を直接連結(直結)させた態様であってもよいし、リンカー(例えば、5から25アミノ酸残基からなるオリゴペプチド)を介して連結させた態様であってもよい。またSpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列は、そのN末端側またはC末端側に、前記リンカー以外の他のオリゴペプチドをさらに含んでもよい。前記他のオリゴペプチドは、免疫グロブリン結合活性を損なわない限り、特に制限されない。
【0035】
本発明のタンパク質を製造するには、直接製造してもよいし、オリゴペプチドを付加していないSpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列に別途作製したオリゴペプチドを付加し製造してもよい。前者の方法で製造する場合、例えば、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド(以下、単に「本発明のポリヌクレオチド」ともいう)を含む遺伝子組換え宿主より発現させることで製造できる。前記ポリヌクレオチドの作製方法の一例として、本発明のポリヌクレオチドを直接合成し作成する方法や、オリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドと、前記オリゴペプチドを含まないSpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドとを別途作製後、前記オリゴペプチドがSpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列のN末端側および/またはC末端側に付加されるように連結し作製する方法があげられる。
【0036】
本発明のポリヌクレオチドは、例えば、化学合成法やPCR法等によるDNA増幅法で取得できる。DNA増幅法は、例えば、本発明のタンパク質をコードするヌクレオチド配列といった、増幅すべきヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを鋳型とし実施できる。鋳型とするポリヌクレオチドは、本発明のタンパク質を発現する生物のゲノムDNA、本発明のタンパク質のcDNA、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターが例示できる。
【0037】
本発明のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、例えば、本発明のタンパク質のアミノ酸配列からの変換で設計できる。アミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換する際には、標準のコドンテーブルを使用できるが、本発明のポリヌクレオチドで形質転換する宿主におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。一例として、宿主がEscherichia coli(大腸菌)の場合は、アルギニン(Arg)ではAGA/AGG/CGG/CGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないため(いわゆるレアコドンであるため)、それらのコドンを避けるように変換してよい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のウェブサイトにあるCodon Usage Databaseなど)を利用することでも可能である。
【0038】
本発明のポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの全長を一括取得してもよく、当該ポリヌクレオチドの部分配列からなるポリヌクレオチドを取得後連結することで取得してもよい。上記のような本発明のポリヌクレオチドを取得する手法についての説明は、その全長配列を一括して取得する場合に限られず、その部分配列を取得する場合にも準用できる。
【0039】
なお本発明のポリヌクレオチドと任意のポリペプチドのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドとを連結し、融合型アミノ酸配列をコードするように設計してもよい。
【0040】
本発明のタンパク質は、例えば、本発明のポリヌクレオチドを含む遺伝子組換え宿主(以下、単に「本発明の遺伝子組換え宿主」ともいう)を培養し前記タンパク質を発現させることで製造できる。本発明の遺伝子組換え宿主は、例えば、本発明のポリヌクレオチドを用いて宿主を形質転換することで得られる。宿主は、本発明のポリヌクレオチドで形質転換されることで本発明のタンパク質を発現可能なものであれば特に制限されない。宿主の例として、動物細胞、昆虫細胞、微生物が挙げられる。このうち動物細胞としては、COS細胞、CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、Hela細胞、NIH3T3細胞、HEK293細胞が、昆虫細胞としては、Sf9細胞、BTI-TN-5B1-4細胞が、微生物としては、酵母や細菌が、それぞれ例示できる。さらに酵母としては、Saccharomyces cerevisiae等のSaccharomyces属酵母、Pichia Pastoris等のPichia属酵母、Schizosaccharomyces pombe等のSchizosaccharomyces属酵母が、細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)等のEscherichia属細菌が挙げられる。大腸菌としては、JM109株、BL21(DE3)株が挙げられる。なお、酵母や大腸菌を宿主として用いると生産性の面で好ましく、大腸菌を宿主として用いるとさらに好ましい。
【0041】
本発明の遺伝子組換え宿主において、本発明のポリヌクレオチドは、発現可能に保持されていればよい。具体的には、本発明のポリヌクレオチドは、前記宿主で機能するプロモーターの制御下で発現するように保持されていればよい。前記宿主が大腸菌の場合、宿主で機能するプロモーターの一例として、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、recAプロモーター、lppプロモーターが挙げられる。
【0042】
また本発明の遺伝子組換え宿主において、本発明のポリヌクレオチドは、ゲノムDNA外で自律複製するベクター上に存在していてよい。すなわち、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクター(以下、単に「本発明の発現ベクター」ともいう)で宿主を形質転換して本発明の遺伝子組換え宿主を作製してもよい。本発明の発現ベクターは、例えば、発現ベクターの適切な位置に本発明のポリヌクレオチドを挿入して得られる。なお、発現ベクターは、形質転換する宿主内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限されない。前記宿主が大腸菌の場合、発現ベクターとしては、pETプラスミドベクター、pUCプラスミドベクター、pTrcプラスミドベクターが例示できる。なお本発明の発現ベクターに、抗生物質耐性遺伝子等の選択マーカーを備えていてよい。また、前記適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、選択マーカー、伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。前記発現ベクターに本発明のポリヌクレオチドを挿入する際は、発現に必要なプロモーター等の機能性ポリヌクレオチドに連結された状態で挿入すると好ましい。
【0043】
また本発明の遺伝子組換え宿主において、本発明のポリヌクレオチドは、ゲノムDNA上に導入されてもよい。ゲノムDNAへの本発明のポリヌクレオチドの導入は、例えば、相同組み換えによる遺伝子導入法を利用して実施できる。相同組み換えによる遺伝子導入法としては、Red-driven integration法(Datsenko,K.A,and Wanner,B.L.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,97:6640-6645(2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むベクターを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が例示できる。
【0044】
本発明の発現ベクター等のポリヌクレオチドを用いた宿主の形質転換は、例えば、当業者が通常用いる方法で実施できる。例えば、宿主として大腸菌を選択した場合は、コンピテントセル法、ヒートショック法、エレクトロポレーション法等で形質転換すればよい。形質転換後に適切な方法で、本発明のポリヌクレオチドを含む宿主をスクリーニングすることで、本発明の遺伝子組換え宿主を取得できる。
【0045】
なお各種微生物において利用可能な発現ベクターやプロモーター等の遺伝子工学的手法に関する情報は、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」などの公知文献を利用し、取得すればよい。
【0046】
本発明の遺伝子組換え宿主が本発明の発現ベクターを含む場合、本発明の遺伝子組換え宿主から本発明の発現ベクターを調製できる。例えば、本発明の遺伝子組換え宿主を培養して得られる培養物からアルカリ抽出法またはQIAprep Spin Miniprep kit(QIAGEN社製)等の市販の抽出キットを用いて本発明の発現ベクターを調製できる。
【0047】
本発明の遺伝子組換え宿主を培養することで、本発明のタンパク質を発現できる。また、本発明の遺伝子組換え宿主を培養することで、本発明のタンパク質を発現させ、発現した前記タンパク質を回収することで、本発明のタンパク質を製造できる。すなわち、本発明の遺伝子組換え宿主を培養することで本発明のタンパク質を発現させる工程と、発現された前記タンパク質を回収する工程とを含む、本発明のタンパク質の製造方法を提供する。培地組成や培養条件は、宿主の種類や本発明のタンパク質の特性等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。培地組成や培養条件は、例えば、宿主が増殖でき、かつ、本発明のタンパク質を発現可能な条件に設定すればよい。培地は、例えば、炭素源、窒素源、無機塩、その他の各種有機成分や無機成分を適宜含む培地を使用できる。具体的には、宿主が大腸菌の場合、必要な栄養源を補ったLB(Luria-Bertani)培地(トリプトン1%(w/v)、酵母エキス0.5%(w/v)、1%(w/v)NaCl)が好ましい培地の一例として挙げられる。なお、本発明の発現ベクターの導入の有無により、本発明の遺伝子組換え宿主を選択的に増殖させるために、培地に当該発現ベクターに含まれる抗生物質耐性遺伝子に対応した抗生物質を添加して培養すると好ましい。例えば、当該発現ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は培地にカナマイシンを添加すればよい。本発明のポリヌクレオチドがゲノムDNA上に導入されている場合も同様である。また、培地は、グルタチオン、システイン、シスタチン、チオグリコレートおよびジチオスレイトールからなる群から選択される一種類以上の還元剤を含有していてもよい。また培地は、グリシン等の前記形質転換体から培養液へのタンパク質分泌を促す試薬を含有していてもよい。例えば、宿主が大腸菌の場合、培地に対してグリシンを2%(w/v)以下で添加すると好ましい。培養温度は、例えば、宿主が大腸菌の場合、一般に10℃以上40℃以下、好ましくは20℃以上37℃以下、より好ましくは25℃前後である。培地のpHは、例えば、宿主が大腸菌の場合、pH6.8以上pH7.4以下、好ましくはpH7.0前後である。また、本発明のタンパク質を誘導性のプロモーターの制御下で発現する場合は、本発明のタンパク質が良好に発現できるように誘導をかけると好ましい。発現誘導には、例えば、プロモーターの種類に応じた誘導剤を用いることができる。誘導剤としては、IPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を例示できる。宿主が大腸菌の場合、例えば、培養液の濁度(600nmにおける吸光度)が約0.5から1.0となったときに適当量のIPTGを添加し、引き続き培養することで、本発明のタンパク質の発現を誘導できる。IPTGの添加濃度は、例えば、0.005mM以上1.0mM以下、好ましくは0.01mM以上0.5mM以下である。IPTG誘導等の発現誘導は、例えば、当該技術分野において周知の条件で行なえる。
【0048】
本発明のタンパク質は、その発現形態に適した方法で培養物から分離し回収すればよい。なお、本明細書において「培養物」とは、培養で得られた培養液の全体またはその一部を意味する。当該一部は、本発明のタンパク質を含有する部分であれば特に制限されない。当該一部としては、培養された本発明の形質転換体の細胞や培養後の培地(すなわち培養上清)などが挙げられる。例えば、本発明のタンパク質が培養上清に蓄積する場合、細胞を遠心分離操作で分離し、得られる培養上清から本発明のタンパク質を回収すればよい。また、本発明のタンパク質が細胞内(ペリプラズムを含む)に蓄積する場合、細胞を遠心分離操作で回収後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加して細胞を破砕し、当該破砕物から本発明のタンパク質を回収すればよい。前述した培養上清や細胞破砕物からの、本発明のタンパク質の回収は、例えば、タンパク質の分離精製に用いられる公知の方法で実施できる。前記回収方法の一例として、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、等電点沈殿が挙げられる。
【0049】
本発明のタンパク質は、例えば、免疫グロブリン(抗体)の分離または分析に使用できる。前記目的で使用する際は、例えば、不溶性担体と当該不溶性担体に固定化した本発明のタンパク質とを含む免疫グロブリン吸着剤(以下、単に「本発明の免疫グロブリン吸着剤」ともいう)の態様で使用できる。なお本明細書において、「免疫グロブリンの分離」とは、夾雑物質共存下の溶液からの免疫グロブリンの分離に限らず、構造、性質、または活性等に基づく免疫グロブリン間の分離も含む。不溶性担体は、水溶液に対して不溶性の担体であれば特に制限されない。不溶性担体としては、アガロース、アルギネート(アルギン酸塩)、カラゲナン、キチン、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプン等の多糖質を原料とした担体や、ポリビニルアルコール、ポリメタクレート、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリウレタン等の合成高分子を原料とした担体や、シリカ等のセラミックスを原料とした担体が例示できる。中でも、多糖質を原料とした担体や合成高分子を原料とした担体が不溶性担体として好ましい。前記好ましい担体の一例として、トヨパール(東ソー社製)等のヒドロキシ基を導入したポリメタクリレートゲル、Sepharose(Cytiva社製)等のアガロースゲル、セルファイン(JNC社製)等のセルロースゲルが挙げられる。不溶性担体の形状は特に制限されない。不溶性担体は、例えば、カラムに充填できる形状であってよい。不溶性担体は、例えば、粒状物または非粒状物であってよい。また、不溶性担体は、例えば、多孔性または非多孔性であってもよい。
【0050】
本発明のタンパク質は、例えば、共有結合により不溶性担体に固定化してもよい。具体例として、不溶性担体が有する活性基を介して、本発明のタンパク質と不溶性担体とを共有結合させることで、不溶性担体に前記タンパク質を固定化できる。すなわち、前記不溶性担体には、その表面などに活性基を有していてよい。前記活性基の一例として、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)活性化エステル基、エポキシ基、カルボキシ基、マレイミド基、ハロアセチル基、トレシル基、ホルミル基、ハロアセトアミドが挙げられる。活性基を有する不溶性担体としては、例えば、活性基を有する市販の不溶性担体をそのまま用いてもよいし、不溶性担体に活性基を導入して用いてもよい。活性基を有する市販の担体としては、TOYOPEARL AF-Epoxy-650M、TOYOPEARL AF-Tresyl-650M(いずれも東ソー社製)、HiTrap NHS-activated HP Columns、NHS-activated Sepharose 4 Fast Flow、Epoxy-activated Sepharose 6B(いずれもCytiva社製)、SulfoLink Coupling Resin(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)が例示できる。
【0051】
担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基等に対して2個以上の活性部位を有する化合物の一方を反応させる方法が例示できる。
【0052】
担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にエポキシ基を導入する化合物としては、エピクロロヒドリン、エタンジオールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを例示できる。
【0053】
また、担体表面に存在するエポキシ基にカルボキシ基を導入する化合物としては、2-メルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸、6-メルカプト酪酸、グリシン、3-アミノプロピオン酸、4-アミノ酪酸、6-アミノヘキサン酸を例示できる。
【0054】
また、担体表面に存在するヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基にマレイミド基を導入する化合物としては、N-(ε-マレイミドカプロン酸)ヒドラジド、N-(ε-マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド、4-(4-N-マレイミドフェニル)酢酸ヒドラジド、2-アミノマレイミド、3-アミノマレイミド、4-アミノマレイミド、6-アミノマレイミド、1-(4-アミノフェニル)マレイミド、1-(3-アミノフェニル)マレイミド、4-(マレイミド)フェニルイソシアナート、2-マレイミド酢酸、3-マレイミドプロピオン酸、4-マレイミド酪酸、6-マレイミドヘキサン酸、N-(α-マレイミドアセトキシ)スクシンイミドエステル、(m-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スクシンイミジル-4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボニル-(6-アミノヘキサン酸)、スクシンイミジル-4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸、(p-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、(m-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。
【0055】
また、担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にハロアセチル基を導入する化合物としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、クロロ酢酸クロリド、ブロモ酢酸クロリド、ブロモ酢酸ブロミド、クロロ酢酸無水物、ブロモ酢酸無水物、ヨード酢酸無水物、2-(ヨードアセトアミド)酢酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、3-(ブロモアセトアミド)プロピオン酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、4-(ヨードアセチル)アミノ安息香酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。
【0056】
また、担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にω-アルケニルアルカングリシジルエーテルを反応させた後、ハロゲン化剤でω-アルケニル部位をハロゲン化することで活性化する方法も例示できる。ω-アルケニルアルカングリシジルエーテルとしては、アリルグリシジルエーテル、3-ブテニルグリシジルエーテル、4-ペンテニルグリシジルエーテルを例示できる。ハロゲン化剤としては、N-クロロスクシンイミド、N-ブロモスクシンイミド、N-ヨードスクシンイミドを例示できる。
【0057】
また、担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するカルボキシ基に対して縮合剤と添加剤を用いて活性基を導入する方法も例示できる。縮合剤としては、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジアミド、カルボニルジイミダゾールを例示できる。添加剤としては、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、4-ニトロフェノール、1-ヒドロキシベンズトリアゾールを例示できる。
【0058】
本発明のタンパク質の不溶性担体への固定化は、例えば、緩衝液中で実施できる。緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)緩衝液、HEPES(4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液を例示できる。固定化させるときの反応温度は、例えば、活性基の反応性や本発明のタンパク質の安定性等の諸条件に応じて適宜設定できる。固定化させるときの反応温度は、例えば、5℃以上50℃以下であってよく、好ましくは10℃以上35℃以下である。
【0059】
本発明の免疫グロブリン吸着剤は、例えば、前記吸着剤を充填したカラムの態様にすることで、免疫グロブリン(抗体)の分離に使用できる。例えば、本発明の免疫グロブリン吸着剤を充填したカラムに免疫グロブリンを含む溶液を添加して当該免疫グロブリンを前記吸着剤に吸着させ、前記吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出させることで、免疫グロブリンを分離できる。免疫グロブリンを含む溶液は、例えば、ポンプ等の送液手段を用いてカラムに添加できる。なお、免疫グロブリンを含む溶液は、カラムに添加する前に予め適切な緩衝液を用いて溶媒置換してよい。また、免疫グロブリンを含む溶液をカラムに添加する前に、適切な緩衝液を用いてカラムを平衡化してよい。カラムの平衡化により、例えば、免疫グロブリンをより高純度に分離できると期待される。溶媒置換や平衡化に用いる緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、MES緩衝液が例示できる。そのような緩衝液には、例えば、さらに、1mM以上1000mM以下の塩化ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。溶媒置換に用いる緩衝液と平衡化に用いる緩衝液は、同一であってもよく、同一でなくてもよい。また、免疫グロブリンを含む溶液のカラムへの通液後に夾雑物質等の免疫グロブリン以外の成分がカラムに残存している場合、免疫グロブリン吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出する前に、そのような成分をカラムから除去してよい。免疫グロブリン以外の成分は、例えば、適切な緩衝液を用いてカラムから除去できる。免疫グロブリン以外の成分の除去に用いる緩衝液については、例えば、溶媒置換や平衡化に用いる緩衝液についての記載を準用できる。免疫グロブリン吸着剤に吸着した免疫グロブリンは、例えば、免疫グロブリンとリガンド(本発明のタンパク質)との相互作用を弱めることで溶出できる。免疫グロブリンとリガンド(本発明のタンパク質)との相互作用を弱める手段としては、緩衝液によるpHの低下、カウンターペプチドの添加、温度上昇、塩濃度変化が例示できる。免疫グロブリン吸着剤に吸着した免疫グロブリンは、具体的には、例えば、適切な溶出液を用いて溶出できる。溶出液としては、溶媒置換や平衡化に用いる緩衝液よりも酸性側の緩衝液が挙げられる。前記酸性側の緩衝液としては、クエン酸緩衝液、グリシン塩酸緩衝液、酢酸緩衝液を例示できる。溶出液のpHは、例えば、免疫グロブリンの機能(抗原への結合性等)を損なわない範囲で設定できる。
【0060】
前述した方法で免疫グロブリン(抗体)を分離することで、分離された免疫グロブリンが得られる。すなわち、免疫グロブリンの分離方法は、その一態様において、免疫グロブリンの製造方法であってよく、具体的には、分離された免疫グロブリンの製造方法であってよい。免疫グロブリンは、例えば、免疫グロブリンを含有する溶出画分として得られる。すなわち、溶出された免疫グロブリンを含む画分を分取できる。画分の分取は、例えば、常法により行なえばよい。画分を分取する方法としては、一定の時間ごとや、一定の容量ごとに回収容器を交換する方法や、溶出液のクロマトグラムの形状に合わせて回収容器を換える方法や、オートサンプラー等の自動フラクションコレクター等で画分を分取する方法が挙げられる。さらに、免疫グロブリンを含有する画分から免疫グロブリンを回収することもできる。免疫グロブリンを含有する画分からの免疫グロブリンの回収は、例えば、タンパク質の分離精製に用いられる公知の方法により行なえばよい。
【発明の効果】
【0061】
本発明のタンパク質は、ブドウ球菌属細菌由来Protein Aの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列を4以上8以下含み、ただし当該アミノ酸配列において、前記ドメインの3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基のイソロイシンへの置換、および15番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基のアラニンへの置換を少なくとも有することを特徴としている。
【0062】
不溶性担体と当該不溶性担体に固定化した本発明のタンパク質とを含む本発明の免疫グロブリン吸着剤は、従来の免疫グロブリン吸着剤と比較し、アルカリ安定性が約10%以上向上しており、かつ免疫グロブリンの溶出pHが中性側に改善することから、温和な条件で免疫グロブリン(抗体)が溶出でき、高品質の免疫グロブリンが得られる。
【実施例0063】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0064】
比較例1
(1)免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質発現ベクターの作製
(1-1)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌由来Protein A(以下、SpA)の免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列(以下「SpA6」とも表記する)を6つ直結した配列を含むポリペプチドを設計した(配列番号3、以下「SpA6_6」とも表記する)。なお配列番号2に記載のSpA6は、天然型SpAのドメインC(GenBank No.AAA26676の270番目から327番目までのアミノ酸残基、配列番号1)に対し、化学的安定性の向上を目的としたアミノ酸置換を6箇所導入した配列である。具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる天然型SpAドメインCに対し、Lys4Arg(この表記は配列番号1の4番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアルギニンに置換されていることを表す、以下同じ)、Lys7Glu、Asn11Lys、Asn21Tyr、Gly29AlaおよびLys58Gluのアミノ酸置換を有した配列である。なお配列番号3のC末端側3リジン残基(配列番号3の349番目から351番目まで)は、不溶性担体へ固定化するために付加したオリゴペプチドである。
【0065】
(1-2)(1-1)で設計した配列番号3に記載のSpA6_6をコードするポリヌクレオチドを設計した(配列番号4)。なお配列番号4に記載のヌクレオチド配列は、配列番号3に記載のSpA6_6から大腸菌(Escherichia coli)型コドンを用いて変換したヌクレオチド配列を基に、クローニングのしやすさから、SpA6の特定箇所のアミノ酸残基を異なるコドンを用いて変換した配列である。
【0066】
(1-3)配列番号4に記載の配列からなるポリヌクレオチドを合成するためのプライマー(オリゴヌクレオチド)を設計した(配列番号6から17)。具体的には、配列番号4の1番目から174番目までの配列からなるポリヌクレオチド断片を作製するために配列番号6および7に記載の配列からなるプライマーを、配列番号4の148番目から375番目までの配列からなるポリヌクレオチド断片を作製するために配列番号8および9に記載の配列からなるプライマーを、配列番号4の349番目から522番目までの配列からなるポリヌクレオチド断片を作製するために配列番号10および11に記載の配列からなるプライマーを、配列番号4の496番目から723番目までの配列からなるポリヌクレオチド断片を作製するために配列番号12および13に記載の配列からなるプライマーを、配列番号4の697番目から870番目までの配列からなるポリヌクレオチド断片を作製するために配列番号14および15に記載の配列からなるプライマーを、配列番号4の844番目から1053番目までの配列からなるポリヌクレオチド断片を作製するために配列番号16および17に記載の配列からなるプライマーを、それぞれ設計し、合成した。なお前述した各断片のうち、重複した領域(すなわち、配列番号4の148番目から174番目まで、349番目から375番目まで、496番目から522番目まで、697番目から723番目まで、および844番目から870番目まで)は、クローニングの際に複数のポリヌクレオチドを連結させるのりしろとしての役割をもつ。さらに制限酵素NcoIおよびXhoIで切断したプラスミドpET28aと連結できるよう、配列番号4に記載の配列からなるプライマーにはNcoIの制限酵素サイト(配列番号6の20番目から25番目までの領域)を、配列番号17に記載の配列からなるプライマーにはXhoIの制限酵素サイト(配列番号17の20番目から25番目までの領域)を、それぞれ付加している。
【0067】
(1-4)配列番号2に記載のSpA6をコードするポリヌクレオチド(配列番号5)を鋳型DNAとし、配列番号6および7に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号8および9に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号10および11に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号12および13に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号14および15に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、ならびに配列番号16および17に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、のうちいずれか一組をPCRプライマーセット(Forward primerおよびReverse primer)とし、表1に示す組成からなる反応液を前記PCRプライマーセットごとに調製後、当該反応液を98℃で10秒間の第1ステップ、58℃で30秒間の第2ステップを1サイクルとする反応を30サイクル繰り返すことでPCRを実施した。
【0068】
【0069】
(1-5)(1-4)のPCRで得られた6種類のポリヌクレオチドをそれぞれ精製後、当該精製ポリヌクレオチドをそれぞれ0.05pmol含む混合溶液を調製した。当該混合溶液に、予め制限酵素NcoIとXhoIで消化したプラスミドpET-28aを0.05pmol加えた後、NEB Builder HiFi DNA Assembly Master Mix(ニュー・イングランド・バイオラボ社製)を用いたギブソンアッセンブリ反応により、6種のポリヌクレオチドの連結およびプラスミドpET28aへのライゲーションを行なった。当該ライゲーション産物を用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、50μg/mLのカナマイシンを含むLB(Luria-Bertani)プレート培地で培養(37℃、16時間)した。
【0070】
(1-6)表2に示す組成からなる反応液を調製後、(1-5)で得られた形質転換体のコロニーPCRを行なった。1000から1200塩基対程度のPCR産物の増幅が確認できた形質転換体(遺伝子組換え大腸菌)を選択し、50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地にて培養後、QIAprep Spin Miniprep kit(QIAGEN社製)による精製で、配列番号3に記載のSpA6_6を発現可能なベクター(pET-SpA6_6と命名)を取得した。なお、配列番号18(5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’)および配列番号19(5’-TATGCTAGTTATTGCTCAG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを、コロニーPCR用プライマーとして使用した。
【0071】
【0072】
(1-7)(1-6)で取得した発現ベクターpET-SpA6_6のうち、配列番号3に記載のSpA6_6をコードするポリヌクレオチドおよびその周辺領域について、チェーンターミネータ法に基づくBig Dye Terminator Cycle Sequencing ready Reaction kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 3700 DNA analyzer(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にてヌクレオチド配列を解析した。なお当該解析の際、配列番号18または19に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをシークエンス用プライマーとして使用した。配列解析の結果、発現ベクターpET-SpA6_6に、配列番号4に記載の配列からなるポリヌクレオチドが挿入されていることを確認した。
【0073】
(2)免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質の調製
(2-1)50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地(トリプトン1.6%(w/v)、酵母エキス1%(w/v)、0.5%(w/v)NaCl)20mLに、(1)で作製したpET-SpA6_6を含む遺伝子組換え大腸菌を接種し、前培養した(30℃、16時間)
(2-2)前培養後の培養液10mLを、50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地1Lに接種し、37℃で2から3時間培養後、0.5MのIPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を200μL加えて、さらに20℃で終夜振とう培養した。
【0074】
(2-3)培養後の培養液を遠心分離し、湿重量8gの培養菌体を回収した。当該培養菌体のうち2gをBugBuster Protein Extraction Reagent(メルクミリポア社製)を用いて溶菌し、遠心分離で取得した上清をフィルターに通し、清澄化した。
【0075】
(2-4)あらかじめ0.15MのNaClを含む0.05Mトリス緩衝液(pH7.6)(以下、洗浄緩衝液と表記)で平衡化したIgG Sepharose 6 Fast Flow(Cytiva社製)を充填したカラムに、(2-3)で清澄化した上清を添加し、前記カラムに充填した担体の10倍量の洗浄緩衝液で洗浄後、0.1Mグリシン-塩酸緩衝液(pH 3.0)(以降、酸性溶液と表記)を通液することで、SpA6_6に相当する画分を回収した。
【0076】
(2-5)回収した画分の吸光度を分光光度計で測定し、当該画分に含まれるSpA6_6を定量した。またSDS-PAGEも実施し、SpA6_6が純度よく精製されていることを確認した。
【0077】
(3)免疫グロブリン吸着剤の作製
(3-1)(2)で調製した、精製SpA6_6を含む画分を、Amicon Ultra(メルクミリポア社製)で元の体積の10分の1量まで濃縮後、当該濃縮溶液の10倍量のリン酸ナトリウム緩衝液を加え、再度Amicon Ultra(メルクミリポア社製)で元の体積の10分の1量まで濃縮することで、SpA6_6溶液の濃縮および緩衝液置換を行なった。
【0078】
(3-2)活性基としてホルミル基を有した不溶性担体である、TOYOPEARL AF-Formyl-650(東ソー社製)を純水に置換後、吸引ろ過で乾燥した。吸引濾過後のサクションドライゲルの含水率を含水率計(メトラートレド社製)で測定後、共栓付き三角フラスコに、乾燥ゲルとして0.5から3.0g加えた。
【0079】
(3-3)サクションドライゲルが入った共栓付き三角フラスコに、1.0MのNaClを含む緩衝液(ホウ酸またはリン酸緩衝液)を加え、サクションドライゲルを膨潤させた。
【0080】
(3-4)(3-1)で調製したSpA6_6濃縮液を、終濃度が10g/Lとなるよう共栓付き三角フラスコに加え、室温で振とうすることで、当該フラスコ内に入っているゲルとポリペプチドとをシッフ塩基形成により結合した。15分から4時間後に共栓付き三角フラスコの上清を一部回収し、結合していないSpA6_6の割合から、SpA6_6のゲルへの固定化量を算出した。
【0081】
(3-5)1MのNaBH4水溶液を適量加え、室温で15分から2時間振とうすることで、残存シッフ塩基を還元し、免疫グロブリン吸着剤を作製した。作製した吸着剤は水洗後、20%(v/v)エタノール水溶液に置換し保存した。
【0082】
(4)免疫グロブリン吸着剤のアルカリ安定性評価
(4-1)(3)で作製した免疫グロブリン吸着剤を50%(w/v)スラリーに調製し、当該スラリー100μLをミニバイオスピンカラム(BIORAD社製)に充填した。
【0083】
(4-2)酸性溶液および洗浄緩衝液を通液して洗浄後、洗浄緩衝液で希釈した免疫グロブリン溶液(日本血液製剤機構社製)(43mg/mL)を添加し、恒温振とう培養機(TAITEC社製)を用いて25℃、1000rpmで2時間振とうすることで、免疫グロブリンを不溶性担体に吸着させた。
【0084】
(4-3)洗浄緩衝液を通液することで未吸着の免疫グロブリンを洗浄後、酸性溶液を用いて吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出した。溶出液の吸光度(波長280nm)を分光光度計で測定し、当該溶出液に含まれる免疫グロブリンの量から、吸着剤の静的吸着量を算出した。また前記吸着量を本評価における100%の残存活性とした。
【0085】
(4-4)(4-1)で作製した、免疫グロブリン吸着剤を充填したカラムを、洗浄緩衝液で中和後、1M NaOHで液置換した。
【0086】
(4-5)液置換したカラムに150μLの1M NaOHを添加し、カラムを密閉することで吸着剤をアルカリ溶液に浸漬した(25℃で15時間)。
【0087】
(4-6)浸漬後のカラムを洗浄緩衝液で中和し、(4-2)から(4-3)と同様な方法で静的吸着量を算出した。(4-3)で算出したアルカリ溶液浸漬前の静的吸着量を100%として、浸漬前後の静的吸着量の比から残存活性を求めた。
【0088】
(5)免疫グロブリン吸着剤の免疫グロブリン溶出pHの評価
(5-1)(3)で作製した免疫グロブリン吸着剤2.0gを28%(w/v)スラリーに調製し、ステンレス製カラム(内径6mm×長さ40mm、体積1.13mL)にポンプで純水を送液して充填した。
【0089】
(5-2)(5-1)で作製した免疫グロブリン吸着剤充填カラムをAKTA AVANT25(Cytiva社製)に設置し、pH7.2に調製した0.1Mリン酸-クエン酸緩衝液(以下A液)による平衡化後、pH2.8に調製した0.1Mリン酸-クエン酸緩衝液(以下B液)で免疫グロブリン吸着剤充填カラムを洗浄し、A液で再度平衡化した。
【0090】
(5-3)A液で1g/Lに調製したリツキサン溶液(全薬工業社製)100μLを免疫グロブリン吸着剤充填カラムへアプライし、A液を5カラム体積分送液後、20分間でB液が0%から100%となるリニアグラジエント溶出でリツキサンを溶出させた。得られたクロマトグラムを解析し、最も吸光度が高くなる溶出位置でのpHを免疫グロブリン吸着剤充填カラムの溶出pHとした。
【0091】
実施例1
(1)配列番号20に示すSpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列(以下「SpA8」とも表記する)を6つ直結したポリペプチドを設計した(配列番号21、以下「SpA8_6」とも表記する)。なおSpA8は、天然型SpAのドメインC(GenBank No.AAA26676の270番目から327番目までのアミノ酸残基、配列番号1)に対し、化学的安定性の向上を目的としたアミノ酸置換を8箇所導入した配列である。具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる天然型SpAドメインCに対し、Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29AlaおよびLys58Gluのアミノ酸置換を有した配列である。なお配列番号21のC末端側3リジン残基(配列番号21の349番目から351番目まで)は、不溶性担体へ固定化するために付加したオリゴペプチドである。
【0092】
(2)(1)で設計した配列番号21に記載のSpA8_6をコードするポリヌクレオチドを、比較例1(1-2)と同様の思想で設計した(配列番号22)。なお配列番号22に記載のヌクレオチド配列は、配列番号20に記載のSpA8から大腸菌(Escherichia coli)型コドンを用いて変換したヌクレオチド配列を基に、クローニングのしやすさから、SpA8の特定箇所のアミノ酸残基を異なるコドンを用いて変換した配列である。
【0093】
(3)配列番号22に記載の配列からなるポリヌクレオチドを合成するためのプライマー(オリゴヌクレオチド)を比較例1(1-3)と同様の思想で設計し、合成した(配列番号24から35)。
【0094】
(4)配列番号20記載のSpA8をコードするポリヌクレオチド(配列番号23)を鋳型DNAとした他は、比較例1(1-4)と同様な方法でPCRを実施した。
【0095】
(5)比較例1(1-5)と同様な方法で、ポリヌクレオチドの連結およびプラスミドpET28aへのライゲーションを行ない、形質転換体(遺伝子組み換え大腸菌)を得た。
【0096】
(6)比較例1(1-6)と同様な方法で、(1-5)で得られた形質転換体のコロニーPCRを行ない、配列番号21に記載のSpA8_6を発現可能なベクター(pET-SpA8_6と命名)を取得した。
【0097】
(7)(6)で取得した発現ベクターpET-SpA8_6について比較例1(1-7)と同様な方法でヌクレオチド配列を解析した。配列解析の結果、発現ベクターpET-SpA8_6に、配列番号22に記載の配列からなるポリヌクレオチドが挿入されていることを確認した。
【0098】
(8)比較例1(2)と同様な方法で、(7)で作製したpET-SpA8_6を含む遺伝子組換え大腸菌からSpA8_6を調製し、比較例1(3)と同様な方法で、SpA9_6を不溶性担体に固定化した免疫グロブリン吸着剤を作製し、比較例1(4)と同様な方法で前記吸着剤のアルカリ安定性を評価し、比較例1(5)と同様の方法で前記吸着剤の溶出pHを評価した。
【0099】
実施例2
(1)配列番号36に記載のアミノ酸配列からなるSpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列(以下「SpA9」とも表記する)を6つ直結したタンパク質を設計した(配列番号37、以下「SpA9_6」とも表記する)。SpA9は、天然型SpAのドメインC(GenBank No.AAA26676の270番目から327番目までのアミノ酸残基、配列番号1)に対し、化学的安定性の向上を目的としたアミノ酸置換を9箇所導入したポリペプチドである。具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる天然型SpAドメインCに対し、Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換を導入した配列である。なお配列番号37のC末端側3リジン残基(配列番号37の349番目から351番目まで)は、不溶性担体へ固定化するために付加したオリゴペプチドである。
【0100】
(2)(1)で設計した配列番号37に記載のSpA9_6をコードするポリヌクレオチドを、比較例1(1-2)と同様の思想で設計した(配列番号38)。なお配列番号39に記載のヌクレオチド配列は、配列番号36に記載のSpA9から大腸菌(Escherichia coli)型コドンを用いて変換したヌクレオチド配列を基に、クローニングのしやすさから、SpA9の特定箇所のアミノ酸残基を異なるコドンを用いて変換した配列である。
【0101】
(3)配列番号38に記載の配列からなるポリヌクレオチドを合成するためのプライマー(オリゴヌクレオチド)を比較例1(1-2)と同様の思想で設計し、合成した(配列番号40から51)。
【0102】
(4)配列番号36記載のSpA9をコードするポリヌクレオチド(配列番号39)を鋳型DNAとした他は、比較例1(1-4)と同様な方法でPCRを実施した。
【0103】
(5)比較例1(1-5)と同様な方法で、ポリヌクレオチドの連結およびプラスミドpET28aへのライゲーションを行ない、形質転換体(遺伝子組み換え大腸菌)を得た。
【0104】
(6)比較例1(1-6)と同様な方法で、(1-5)で得られた形質転換体のコロニーPCRを行ない、配列番号37に記載のSpA9_6を発現可能なベクター(pET-SpA9_6と命名)を取得した。
【0105】
(7)(6)で取得した発現ベクターpET-SpA9_6について比較例1(1-7)と同様な方法でヌクレオチド配列を解析した。配列解析の結果、発現ベクターpET-SpA9_6に、配列番号38に記載の配列からなるポリヌクレオチドが挿入されていることを確認した。
【0106】
(8)比較例1(2)と同様な方法で、(7)で作製したpET-SpA9_6を含む遺伝子組換え大腸菌からSpA9_6を調製し、比較例1(3)と同様な方法で、SpA9_6を不溶性担体に固定化した免疫グロブリン吸着剤を作製し、比較例1(4)と同様な方法で前記吸着剤のアルカリ安定性を評価し、比較例1(5)と同様の方法で前記吸着剤の溶出pHを評価した。
【0107】
参考例1
市販品(TOYOPEARL HC-650F AF rProtein A、東ソー社製)について、比較例1(4)と同様な方法でアルカリ安定性を評価し、比較例1(5)と同様な方法で溶出pHを評価した。
【0108】
比較例1、実施例1および2、ならびに参考例1の免疫グロブリン吸着剤における、アルカリ安定性と溶出pHを比較した結果をまとめて表3に示す。
【0109】
【0110】
比較例1ならびに実施例1および2で作製した免疫グロブリン吸着剤は、いずれも市販品である参考例1と比較し、アルカリ安定性が顕著に向上した。特に、免疫グロブリン結合性タンパク質として、Asn3IleおよびGlu15Alaのアミノ酸置換を有しているSpA8またはSpA9を、6つ直結したタンパク質(SpA8_6(実施例1)またはSpA9_6(実施例2))を用いることで、これらアミノ酸置換を有していないSpA6を6つ直結したタンパク質(SpA6_6、比較例1)を用いたときと比較し、アルカリ安定性がさらに向上し、かつ溶出pHも中性側に改善した。さらにAsn3IleおよびGlu15Alaのアミノ酸置換に、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換をさらに有したSpA9を、6つ直結したタンパク質(SpA9_6、実施例2)を免疫グロブリン結合性タンパク質として用いると、SpA8を6つ直結したタンパク質(SpA8_6、実施例1)を用いたときと比較し、アルカリ安定性がさらに向上した。
【0111】
以上の結果から、免疫グロブリン吸着剤のリガンド(不溶性担体に固定化させるタンパク質)として、ブドウ球菌属細菌由来Protein Aの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列を6つ含み、ただし当該アミノ酸配列において、Asn3IleおよびGlu15Alaのアミノ酸置換を少なくとも有するタンパク質を用いることで、アルカリ安定性が向上し、かつ免疫グロブリンの溶出pHが改善することがわかる。また前記アミノ酸置換に加え、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換をさらに有すると、アルカリ安定性がさらに向上することがわかる。