(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168438
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】マンガン回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 47/00 20060101AFI20221031BHJP
C22B 5/04 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C22B47/00
C22B5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073892
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519016181
【氏名又は名称】豊通スメルティングテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 琢真
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】日比 加瑞馬
(72)【発明者】
【氏名】川原 博
(72)【発明者】
【氏名】岩田 靖
(72)【発明者】
【氏名】石井 博行
(72)【発明者】
【氏名】加納 彰
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕生
(72)【発明者】
【氏名】伊東 享祐
(72)【発明者】
【氏名】中野 悟志
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001BA05
4K001BA22
4K001DA05
4K001HA02
4K001HA03
4K001KA13
(57)【要約】
【課題】マンガン酸化物を含むマンガン原料からMnを効率的に回収できる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、Al基溶湯上にあると共にClおよび/またはBrを含む溶融塩へ、マンガン酸化物を含むマンガン原料を加えて、溶融塩側からAl基溶湯側へMnを取り込んでMnを回収する方法である。溶融塩は、例えば、Mgを含むとよい。Al基溶湯は、例えば、Caを含むとよい。価数が3以上のMnの酸化物を含むマンガン原料を用いると、Mnの回収効率を高められる。マンガン原料には、例えば、廃乾電池から得られる電池滓等を用いることができる。Mnは、例えば、単体、Alを含むAl系合金またはAl系化合物として回収される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン酸化物を含むマンガン原料からMnを回収する方法であって、
アルミニウム基溶湯上にあると共にClおよび/またはBrを含む溶融塩へマンガン原料を加えて、該溶融塩側から該アルミニウム基溶湯側へMnを取り込んでMnを回収するマンガン回収方法。
【請求項2】
前記マンガン酸化物は、価数が3以上のMnの酸化物を含む請求項1に記載のマンガン回収方法。
【請求項3】
前記マンガン原料は、廃乾電池から得られる請求項1または2に記載のマンガン回収方法。
【請求項4】
Mnは、単体、Alを含むAl系合金またはAl系化合物として回収される請求項1~3のいずれかに記載のマンガン回収方法。
【請求項5】
前記溶融塩は、Mgを含む請求項1~4のいずれかに記載のマンガン回収方法。
【請求項6】
前記アルミニウム基溶湯は、Caおよび/またはMgを含む請求項1~5のいずれかに記載のマンガン回収方法。
【請求項7】
前記Caおよび/またはMgを、前記アルミニウム基溶湯から前記溶融塩へ取り込んで除去する金属除去方法を兼ねる請求項6に記載のマンガン回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン酸化物を含む原料からMnを回収する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
マンガンは、鉄鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の合金元素として重要であるのみならず、金属の精製時などに不純物(O、Fe等)除去材等としても多用されている。しかし、マンガンは、その産出地が限られており、国家備蓄が定められている重要な資源(レアメタル)の一種である。
【0003】
ところで、マンガンは酸化され易いため、その多くはマンガン酸化物(主に酸化マンガン)として産出される。また、正極用電極材として二酸化マンガンを多く含む乾電池(マンガン乾電池、アルカリ乾電池等の一次電池)の廃棄物(廃乾電池)も、貴重なマンガン酸化物を含むマンガン原料として着目されている。
【0004】
そこで、マンガン原料となる酸化マンガン(MnO2等)を廃乾電池から分離・抽出したり、その酸化マンガンからMnを回収する提案が多くなされており、例えば、下記の文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06-260175
【特許文献2】特開平07-85897
【特許文献3】特開平11-191439
【特許文献4】特開2007-12527
【特許文献5】特開2011-94207
【特許文献6】特開2018-87365
【特許文献7】特開2019-44265
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献では、酸等を用いた溶解処理、高温・長時間の加熱処理(還元処理)等により、酸化マンガンの分離、Mn回収等を行っている。
【0007】
本発明は、そのような従来とは異なる手法により、Mnを回収できる方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、アルミニウム基溶湯とその湯面上にある溶融塩とを利用して、マンガン酸化物を含むマンガン原料からMnを回収することに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《マンガン回収方法》
(1)本発明は、マンガン酸化物を含むマンガン原料からMnを回収する方法であって、アルミニウム基溶湯上にあると共にClおよび/またはBrを含む溶融塩へマンガン原料を加えて、該溶融塩側から該アルミニウム基溶湯側へMnを取り込んでMnを回収するマンガン回収方法である。
【0010】
(2)本発明のマンガン回収方法(単に「回収方法」ともいう。)によれば、Clおよび/またはBr(「特定ハロゲン元素」という。)を含む溶融塩側へ加えられたマンガン原料中のマンガン酸化物を還元して得られたMnを、アルミニウム基溶湯(「Al基溶湯」という。)側へ取り込むことにより、Mnを回収できる。これにより、Mn回収に要する工程や設備等の簡素化やコスト低減等を望める。
【0011】
(3)ちなみに、本明細書でいう「Mn」の回収は、マンガン原料中のマンガン酸化物とは異なる形態で、Mnを回収することを意味する。つまり、本発明の回収方法では、単体(金属マンガン)に限らず、例えば、Mnを含む合金(例えばMnとAlを含む合金)、Mnを含む化合物(例えばMnとAlを含む化合物)等として、Mnが回収されれば足る。Mn単体でなくても、例えば、Al-Mn系合金やAl-Mn系化合物等は、Al合金溶湯の調製や精製等に有効活用され得る。さらにいえば、マンガン原料中のマンガン酸化物と異なる価数のマンガン酸化物として、Mnを回収する場合も本発明の回収方法に含められる。
【0012】
マンガン原料、溶融塩またはAl基溶湯は、その由来や原料等を問わない。例えば、マンガン原料やAl基溶湯は、廃棄物(スクラップ等)、再生処理物等を用いて得られたものでもよい。
【0013】
《その他》
(1)本明細書でいうAl基溶湯または溶融塩は、固液共存状態(半溶融状態)を含む。Al基溶湯は、Alが主成分(溶湯全体に対してAl含有量が50質量%超、70質量%以上さらには85質量%以上)であれば、純Al溶湯(不純物は含まれ得る。)でも、Al合金溶湯(合金元素の種類や含有量は問わない。)でもよい。
【0014】
本明細書でいうマンガン酸化物は、MnとOを含む化合物であればよい。その代表例として酸化マンガンがある。Mnは価数変化により複数の価数をとり得るため、その酸化マンガンは、単種に限らず複数種でもよい。
【0015】
(2)本明細書でいう濃度や組成は、特に断らない限り、対象物(溶湯、組成物等)の全体に対する質量割合(質量%)で示す。適宜、質量%を単に「%」で示す。
【0016】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は、下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】金属酸化物と金属塩化物の660℃における標準生成自由エネルギ図である。
【
図2】溶融塩側からAl基溶湯側へMnが取り込まれる機序例を示すモデル図である。
【
図3B】実験1で得られた各マンガン酸化物の溶融塩への溶解性を比較した棒グラフである。
【
図4】実験2の概要と結果(回収されたMn濃度)を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、方法的な構成要素であっても物(例えば、Mn回収物、Al基合金(溶湯))に関する構成要素ともなり得る。
【0019】
《Mn回収原理》
本発明の回収方法により、溶融塩側にあるマンガン原料から、Al基溶湯側でMnが回収される原理について、主に酸化物と特定ハロゲン元素(X:ClまたはBr)の化合物(「特定ハロゲン化物」という。)の標準生成自由エネルギ(単に「自由エネルギ」ともいう。)に基づいて説明する。
【0020】
先ず、各種金属元素の酸化物と塩化物の各自由エネルギを
図1に重ねて示した。
図1は、660℃における各自由エネルギである(Knacke O., Kubaschwski O., Hesselmann K.,“Thermochemical Properties of Inorganic Substances"(1991),SPRlNGER-VERLAG)。少なくとも660~800℃における各自由エネルギは、
図1と同様な傾向(大小関係)となる。なお、臭化物の自由エネルギについても、塩化物と同様な傾向を示す。
【0021】
次に、本明細書では、酸化物の自由エネルギがMnよりも小さい(負側で安定な)か同程度な金属元素を第1金属元素(M1)といい、特定ハロゲン化物(例えば塩化物)の自由エネルギがMnよりも小さい(負側で安定な)か同程度な金属元素を第2金属元素(M2)という。M1、M2は、例えば、Al、Ti、Mg、Ca等であり、その代表例として MgとCaがある。なお、M1とM2は、同種の金属元素でも異種の金属元素でもよい。
【0022】
本明細書では、適宜、説明の便宜や反応式記載の便宜等を考慮して、X:Cl、M1、M2:Mg、Caとした場合を例示しつつ、Mnの回収原理を解説する。また、マンガン酸化物の代表例である酸化マンガンには、Mnの価数に応じて複数種ある(MnO、Mn
3O
4、Mn
2O
3、MnO
2、MnO
3、Mn
2O
7等)。なかでも、350℃以上では、Mnの価数が2価~4価まで変化し得る(電気化学 21.8 (1953) 367-375)。そこで、適宜、マンガン原料に含まれるマンガン酸化物として、代表的な酸化マンガン(特にMnO)を例示して説明する。なお、
図1に示したMnの酸化物の自由エネルギは、MnOの自由エネルギである。
【0023】
(1)前提
先ず、マンガン原料を溶融塩ではなくAl基溶湯へ直接加えた場合を考える。この場合、例えば、次のような反応式(1)が左辺から右辺に進行して、Mnが容易に回収されるようにみえる。
MnO + Ca → Mn+CaO (1)
【0024】
しかし、Al基溶湯に対する酸化物の濡れ性は小さいため、上記の反応速度は小さく、Mnの回収効率は低い。また、Al基溶湯中のAlがドロス中にトラップされ、大きなロスを生じ得る。なお、Ca(M1)を例示したが、それがAl、Ti、Mgの他、Ba、Sr、Li、Si等でも同様である。また、酸化マンガンとしてMnOを例示したが、酸化マンガンがMnO2等でも同様である。
【0025】
次に、Mnを回収する原料として、マンガン酸化物ではなく、マンガンハロゲン化物(例えばMnCl2)を用いることも考えられる。マンガンハロゲン化物をAl基溶湯へ直接加えると、例えば、次のような反応式(2)が、自由エネルギ差が負(ΔG<0)となる安定な方向である左辺から右辺へ進行して、やはり、Mnが回収されるようにもみえる。なお、Ca(M2)を例示したが、それがMg、Na、Li、Sr、K、Cs、Ba等でも同様である。
MnCl2 + Ca → Mn+CaCl2 (2)
【0026】
しかし、そもそも、マンガンハロゲン化物自体が高価であり、それをマンガン回収の原料とする利点がない。一方、マンガン酸化物の生成は容易であり、酸化マンガン自体は多用されている。このため、安価に調達できるマンガン酸化物(マンガン原料)からMnを回収することに大きな利点がある。
【0027】
(2)回収原理
本発明のように、溶融塩とAl基溶湯を組み合わせることにより、マンガン酸化物を含むマンガン原料から、Mnが効率的に回収される原理は、次のように考えられる。
【0028】
先ず、マンガン酸化物は溶融塩に対する濡れ性は良好であり、溶融塩内で、例えば、次のような反応式(3)の進行が考えられる。
MnO + MgCl2 → MnCl2+MgO (3)
【0029】
ここで、マンガンハロゲン化物(例えばMnCl
2)はマンガン酸化物(例えばMnO)よりも自由エネルギが小さい。また、MgOはMgCl
2よりも自由エネルギが小さい。従って、反応式(3)は、自由エネルギ差が負(ΔG<0)となる左辺から右辺へ安定的に進行し得る。これにより溶融塩中で、マンガンハロゲン化物(例えばMnCl
2)が生成される。なお、反応式(3)にあるMg(M1、M2)は、溶融塩に加えられたものでもよいし、Al基溶湯から溶融塩へ取り込まれたものでもよい。また、
図1から明らかなように、反応式(3)に例示したMgは、AlやTi等であっても同様である。
【0030】
次に、生成されたマンガンハロゲン化物(例えばMnCl2)、またはそのマンガンイオン(例えばMn2+)により、溶融塩中で上述した反応式(2)が進行し得る。これにより、マンガン酸化物からMnを回収できる。このMnは、溶融塩中または溶融塩とAl基溶湯の接触界面付近(Al基溶湯の湯面付近)で生成(析出)した後、Al基溶湯に取り込まれていくと考えられる。なお、反応式(2)にあるCa(M1、M2)も、溶融塩に加えられたものでもよいし、Al基溶湯から溶融塩へ取り込まれたものでもよい。また、既述したように、Caは、Al、Mg、Na、Li、Sr、K、Cs、Ba等でもよい。
【0031】
ちなみに、反応式(2)は、Mnが還元されるカソード反応(Mn
2++2e
-→Mn)と、Caが酸化されるアノード反応(Ca→Ca
2++2e
-)とからなる酸化還元反応(電気化学反応)を示している。このような酸化還元反応により、マンガン酸化物からMnが回収される様子を
図2に模式的に示した。
【0032】
《Al基溶湯の精製(金属除去方法)》
反応式(3)で生じるMgOは、MgCl2よりも自由エネルギが小さく、溶融塩中で安定である。このため、溶融塩にあるMgは、MgOとなって、溶融塩中に蓄積される。
【0033】
また、反応式(2)のCaをMgとした次のような反応式(21)も、
図1から明らかなように、左辺から右辺へ安定して進行しする。この場合も、Mnの回収が可能となる。
MnCl
2 + Mg → Mn+MgCl
2 (21)
【0034】
反応式(21)と反応式(3)を併せると、結局、全体として、反応式(1)と同様に、反応式(11)に示すような酸化還元反応が生じていることになる。
MnO + Mg → Mn+MgO (11)
【0035】
ここで、MgがAl基溶湯の除去元素(不純物元素)であって、そのMgがAl基溶湯から溶融塩へ取り込まれる場合を考える。この場合、Mn回収と、Al基溶湯からのMg除去とが併行してなされることになる。つまり、本発明のマンガン回収方法は、Mg等をAl基溶湯から溶融塩へ取り込んで除去する金属除去方法を兼ね得ることになる。
【0036】
このような事情は、Mgに限らず、Ti、Si等を除去元素とした場合も同様である。さらにいえば、反応式(21)に示すような反応を進行させる金属元素(Ca、Na、Li、Sr、K、Cs、Ba等)なら、除去元素となり得る。
【0037】
《特定金属元素と特定ハロゲン元素》
上述した各反応の進行によるMn回収には、特定金属元素(M:M1またはM2)またはそのハロゲン化物が必要となる。これらは、調製時または調製後の溶融塩に加えられたものでもよいし、Al基溶湯側から溶融塩へ取り込まれたものでもよい。
【0038】
ハロゲン元素として、Cl、Brの他にF、Iもあり得る。しかし、フッ化物(例えばMgF2)は、その自由エネルギが非常に小さくて安定であり、溶融塩中で反応し難い。逆に、ヨウ化物は自由エネルギが大きく、溶融塩中での安定した反応が難い。そこで特定ハロゲン元素(X)はClおよび/またはBrが好ましい。
【0039】
《導電体》
反応式(2)、(21)等に示す酸化還元反応は、溶融塩とAl基溶湯の接触界面近傍で生じ易い。そこで、Al基溶湯と溶融塩の間に、それらを架橋する導電体を配置してもよい。これにより、Al基溶湯側をアノード(極)側、溶融塩側をカソード(極)側とする回路(ガルバニ電池と同様な回路)ができる。その結果、上述したカソード反応(例えば、Mn2++2e-→Mn)とアノード反応(例えば、M→M2++2e-)が促進されて、Mnの回収効率の向上が望まれる。また、導電体の配置により、少なくとも一部のMnは、接触界面近傍(特に、溶融塩側にある導電体上)に析出し、その回収が容易になる。
【0040】
導電体は、電極棒(黒鉛棒等)の他、例えば、Al基溶湯内に設けた電極と、溶融塩内に設けた電極と、両電極を電気的に接続する導体(導線等)とからなってもよい。さらに、Al基溶湯と溶融塩を保持する容体が、導電体を兼ねてもよい。
【0041】
《溶融塩》
溶融塩は、例えば、安定な金属ハロゲン化物(特定ハロゲン元素/塩化物または臭化物)を基材とするとよい。例えば、
図1に示すように、Mgハロゲン化物またはそれよりも自由エネルギが小さい金属元素(Ca、Na、Li、Sr、K、Cs、Ba等の一種以上)のハロゲン化物を、溶融塩の基材(ベースハロゲン化物)とするとよい。特に、Naおよび/またはKのハロゲン化物は、安価で安定しているため、ベースハロゲン化物として好適である。
【0042】
溶湯と溶融塩の接触面積は広いほど反応効率が向上し得る。溶融塩は、必ずしも溶湯の表面全体を覆っていなくてもよい。溶融塩は、通常、Al基溶湯との密度差により、Al基溶湯の上層側に形成される。その厚さは、例えば、3mm以上あるとよい。
【0043】
《マンガン原料》
マンガン原料は、マンガン酸化物のみでもよいし、他の化合物等を含んでもよい。マンガン酸化物は、例えば、MnO、Mn3O4、Mn2O3、MnO2、MnO3、Mn2O7等の酸化マンガンである。Mnの価数が3以上である酸化物(Mn3O4、Mn2O3、MnO2等)ほど、Mn回収効率(投入Mn量に対する回収Mn量)が大きくなり得る。
【0044】
マンガン原料には、例えば、使用済等により廃棄される乾電池(廃乾電池)の処理物(電池滓:廃乾電池を破砕、焙焼等して得られた残渣)を用いることもできる。これにより、廃乾電池のリサイクル化が促進される。廃乾電池は、通常、マンガン乾電池、アルカリ乾電池等の一次電池である。電池滓には、亜鉛酸化物(例えばZnO)等が含まれてもよい。この場合、例えば、Al-Mn-Zn系の合金または化合物としてMnが回収されてもよい。なお、Znは、回収物やAl基溶湯から別途除去されてもよい。
【0045】
Mn回収の進捗(マンガン原料の処理)に応じて、特定金属元素またはその塩化物は、溶融塩またはAl基溶湯へ、継続的または断続的に補給されるとよい。導電体を設ける場合、マンガン原料や特定金属元素等は、その導電体の周囲(付近)に補給されるとよい。
【実施例0046】
溶融塩とAl基溶湯を用いて、マンガン酸化物(マンガン原料)から回収されたMn量を測定する実験を種々行った。このような具体例に基づいて本発明をより詳しく説明する。
【0047】
[実験1](溶融塩へのマンガン酸化物の溶解性/反応式(3)の検証)
(1)製作
図3Aに示すように、NaClとKClの混合塩(ベースハロゲン化物)を、タンマン管(株式会社ニッカトー製SSA-H-T6)に入れて、電気炉(丸炉)で約740℃まで加熱した。なお、NaClとKClの配合量は、
図3A中の表1に示した。これはモル比で、NaCl:KCl=1:1に相当する。なお、本実施例では、特に断らない限り、配合量を質量(g)で示す。
【0048】
加熱された混合塩は、全体が溶解した溶融塩となった。この溶融塩に、表1に示す量のMgCl2(特定ハロゲン化物)をさらに加えて、約740℃のまま、約10分間静置した。このときも、溶融塩は全体が溶解した状態であった。なお、MgCl2:2gは0.021モルに相当する。
【0049】
こうして調製された溶融塩へ、表1に示す各マンガン酸化物(適宜、「Mn酸化物」という。)を個別に添加して、いずれも約740℃のまま、約30分間静置した。なお、各マンガン酸化物には市販の試薬を用いた。また、各マンガン酸化物の添加量はいずれも、Mn量が1.55g(0.0282モル)となるようにした。
【0050】
各マンガン酸化物を添加した溶融塩をそれぞれ、ステンレス製の分析型(φ40mm×30mm)へ注入し、大気中で自然冷却して凝固させた。こうして、各マンガン酸化物について、円盤状の凝固物(塩)からなる試料を得た(
図3A参照)。
【0051】
(2)分析
各試料を水で溶解させた。水に未溶解な残留物を濾過し、得られた水溶液に含まれるMn濃度をICP(高周波誘導結合プラズマ)で発光分析した。MnOを添加して得られた試料のMn濃度(質量%)を1として、他のマンガン酸化物を添加して得られた試料のMn濃度を
図3Bに示した。
【0052】
なお、水に未溶解な残留物は、全て酸(塩酸と硝酸の混酸)に溶解した。各残留物は、未反応なマンガン酸化物、またはMgOと考えられる。
【0053】
(3)評価
図3Bから明らかなように、いずれの試料の水溶液からもMnが検出された。従って、いずれのマンガン酸化物を添加した場合でも、反応式(3)に示すような反応が進行して、MnCl
2が生成されたといえる。
【0054】
但し、
図3Bから明らかなように、溶融塩へのMn添加量は同じでも、価数の大きいMnの酸化物ほど、Mn濃度が高くなった。つまり、価数の大きいMnの酸化物ほど、溶融塩中の溶解量が多くなり、Mn回収率が大きくなることがわかった。
【0055】
[実験2](溶融塩からAl基溶湯へのMn溶解性/反応式(2)の検証)
(1)製作
NaClおよびKClの混合塩とAl基材とを、実験1と同様に、約740℃まで加熱した。これにより、
図4に示すように、全体が溶解して、Al基溶湯上に溶融塩が形成された。なお、Al基材には、Al合金(Al-5質量%Ca)または純Alを用いた。
【0056】
Al基溶湯上の溶融塩へMnCl
2をさらに加えて、約740℃のまま、約10分間静置した。これにより、MnCl
2を含む溶融塩全体が溶解した状態となった。混合塩、各Al基材およびMnCl
2の配合量は、
図4中の表2に示した。なお、MnCl
2:2gは0.016モルに相当する。
【0057】
各試料について、溶融塩とAl基溶湯をそれぞれ上述した分析型へ注入して、実験1と同様な凝固物を得た。
【0058】
(2)分析
Al基溶湯側の凝固物(単に「Al基合金」という。)について、その底面から高さ約5mmの水平断面を蛍光X線分析して、その位置におけるMn濃度を求めた。その結果を
図4中の表3にまとめて示した。
【0059】
(3)評価
表3から明らかなように、いずれの試料のAl基合金からもMnが検出された。このことから、溶融塩中のMnCl2はAl基溶湯側にあったCaまたはAlにより還元され、生成したMnがAl基溶湯側に取り込まれることがわかる。つまり、反応式(2)に示すような反応が進行したことが確認された。
【0060】
なお、表3から明らかなように、Al基溶湯が純AlよりもCaを含むAl合金からなるときに、Al基溶湯に取り込まれるMn濃度は高くなった。これは、AlよりもCaの方が塩化物の自由エネルギが小さく、Mnとの自由エネルギ差が大きくなることに起因していると考えられる。従って、純Al溶湯でもMn回収され得るが、Caを含むAl合金溶湯を用いることにより、Mnの回収を促進できることもわかった。
【0061】
[実験3](Mn酸化物から純Al溶湯へのMn回収/反応式(2)・(3)の検証)
(1)製作
NaClおよびKClの混合塩とAl基材(純Al)とを、実験2と同様に、約740℃まで加熱して、全体を溶解させた。さらに、純Al溶湯上にできた溶融塩へMgCl
2を加えて、約740℃のまま約10分間静置した。これにより、
図5に示すように、MgCl
2を含む溶融塩全体が純Al溶湯上に形成された。
【0062】
その溶融塩へ、マンガン酸化物(MnOまたはMnO
2)を添加して、いずれも約740℃のまま、約30分間静置した。この溶融塩は全体が溶解状態となった。混合塩、MgCl
2およびAl基材(純Al)の配合量と、各マンガン酸化物の添加量は
図5中の表4にまとめて示した。
【0063】
各試料について、溶融塩とAl基溶湯をそれぞれ上述した分析型へ注入して、実験2と同様な凝固物を得た。
【0064】
(2)分析
Al基溶湯側の各凝固物(Al基合金)について、その底面から高さ約5mmの水平断面を蛍光X線分析して、その位置におけるMn濃度を求めた。その結果を
図5中の表5にまとめて示した。
【0065】
(3)評価
表5から明らかなように、いずれの試料のAl基合金からもMnが検出された。このことから、純AlからなるAl基溶湯を用いたときでも、MnOまたはMnO2が還元されて、生成したMnがAl基溶湯側に取り込まれたことがわかった。つまり、反応式(2)、(3)に示すような反応が進行したことが確認された。
【0066】
なお、表5から明らかなように、実験1の場合と同様に、Mnの価数が大きいMnO2の方がMnOよりもMn濃度が高く、Mnが回収され易いこともわかった。
【0067】
[実験4](電池滓からのMn回収)
(1)製作
NaClおよびKClの混合塩とAl基材(Al-5質量%Ca)とを、実験3と同様に、約740℃まで加熱して、全体を溶解させた。さらに、Al基溶湯上の溶融塩へMgCl
2を加えて、約740℃のまま約10分間静置した。これにより、
図6に示すように、MgCl
2を含む溶融塩全体が純Al溶湯上に形成された。
【0068】
その溶融塩へ、電池滓(MnO
2とZnOが主成分)を添加して、いずれも約740℃のまま、約30分間静置した。この溶融塩は全体が溶解状態となった。混合塩、MgCl
2およびAl基材(Al-5質量%Ca)の配合量と、電池滓の添加量は、
図6中の表6にまとめて示した。
【0069】
各試料について、溶融塩とAl基溶湯をそれぞれ上述した分析型へ注入して、実験3と同様な凝固物を得た。
【0070】
(2)分析
Al基溶湯側の凝固物について、その底面から高さ約5mmの水平断面を蛍光X線分析して、その位置におけるMn濃度とZn濃度を求めた。その結果を
図6中の表7にまとめて示した。
【0071】
(3)評価
表7から明らかなように、電池滓をマンガン原料とするときでも、MnをAl基溶湯側に取り込んで回収できることがわかった。その際、ZnもAl基溶湯側に取り込まれて、Mnと併せて回収されることも確認された。
【0072】
以上のように、本発明のマンガン回収方法によれば、マンガン酸化物を含むマンガン原料からMnを回収することができる。