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特開2022-168442硫化腐食部位の検知方法及び硫化腐食部位の検知装置並びに硫化腐食部位検知用蛍光体又は硫化腐食部位検知用燐光体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168442
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】硫化腐食部位の検知方法及び硫化腐食部位の検知装置並びに硫化腐食部位検知用蛍光体又は硫化腐食部位検知用燐光体
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20221031BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20221031BHJP
   C09K 11/59 20060101ALN20221031BHJP
   C09K 11/54 20060101ALN20221031BHJP
   C09K 11/55 20060101ALN20221031BHJP
   C09K 11/66 20060101ALN20221031BHJP
   C09K 11/64 20060101ALN20221031BHJP
   C09K 11/88 20060101ALN20221031BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N17/00
C09K11/59
C09K11/54
C09K11/55
C09K11/66
C09K11/64
C09K11/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073906
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 匡秀
(72)【発明者】
【氏名】森永 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】松井 陽平
(72)【発明者】
【氏名】松田 マリック 隆磨
【テーマコード(参考)】
2G043
2G050
4H001
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043CA05
2G043EA01
2G043EA02
2G043FA01
2G043JA01
2G043KA02
2G043KA03
2G043LA03
2G050AA01
2G050EB07
2G050EC01
4H001XA30
4H001YA12
4H001YA17
4H001YA24
4H001YA25
4H001YA26
4H001YA29
4H001YA47
4H001YA48
4H001YA52
4H001YA63
4H001YA65
4H001YA77
4H001YA79
4H001YA82
(57)【要約】
【課題】広範囲に亘って硫化腐食した部位を検知することができる硫化腐食部位の検知方法及び硫化腐食部位の検知装置並びに硫化腐食部位検知用蛍光体又は硫化腐食部位検知用燐光体を提供する。
【解決手段】ボイラの伝熱管10の表面の灰11に紫外光を照射し、灰11の発光部位12から発光された蛍光に500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長を含む場合、発光部位12に覆われた被覆部位13に硫化腐食が生じると判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる部材の表面に付着した付着物に紫外光を照射し、
前記付着物から発光された蛍光に500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長を含む場合、前記付着物の発光した部位に覆われた前記部材の被覆部位に硫化腐食が生じる、又は硫化腐食が生じていると判定する
ことを特徴とする硫化腐食部位の検知方法。
【請求項2】
請求項1に記載の硫化腐食部位の検知方法であって、
前記付着物から発光された蛍光に600nm以上700nm以下の波長帯に第2ピーク波長を含む場合、前記付着物の発光した部位に覆われた前記部材の被覆領域に硫化腐食が生じる、又は硫化腐食が生じていると判定する
ことを特徴とする硫化腐食部位の検知方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の硫化腐食部位の検知方法であって、
前記部材は、還元性雰囲気にて燃料を燃焼するボイラの伝熱管であり、
前記付着物は、前記伝熱管に付着した灰である
ことを特徴とする硫化腐食部位の検知方法。
【請求項4】
金属からなる部材の表面に付着した付着物に紫外光を照射する紫外光源と、
前記付着物から発せられた蛍光の分光スペクトルを計測する分光スペクトル計測部と、
前記分光スペクトルに500nm以上550以下の第1ピーク波長が含まれる場合、前記付着物の発光した部位に覆われた前記部材の被覆領域に硫化腐食が生じていると判定する判定部と、を備える
ことを特徴とする硫化腐食部位の検知装置。
【請求項5】
請求項4に記載の硫化腐食部位の検知装置であって、
前記判定部は、さらに前記分光スペクトルに600nm以上700nm以下の第2ピーク波長が含まれる場合、前記付着物の発光した部位に覆われた前記部材の被覆領域に硫化腐食が生じていると判定する
ことを特徴とする硫化腐食部位の検知装置。
【請求項6】
Znを主成分とする亜鉛化合物と、Mn,Cu,Cd,Ag,Au,Cl,Ir,Te,Fe,Pb,Tb,Eu,Mg及びCrからなる群より選択される少なくとも一種とを含み、
紫外光により励起されて500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長を含む蛍光を発し、
金属からなる部材の表面に形成された
ことを特徴とする硫化腐食部位検知用蛍光体又は硫化腐食部位検知用燐光体。
【請求項7】
Znを主成分とする亜鉛化合物としてZnAl2O4又はZnMgOを含み、
紫外光により励起されて500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長を含む蛍光を発し、
金属からなる部材の表面に形成された
ことを特徴とする硫化腐食部位検知用蛍光体又は硫化腐食部位検知用燐光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭を燃焼するボイラやガス化炉の伝熱管などに用いられる金属部材に硫化腐食が生じる部位、又は既に硫化腐食が生じた部位を検知する検知方法、及び検知装置に関する。また、本発明は、硫化腐食が生じる部位、又は既に硫化腐食が生じた部位を検知することができる硫化腐食部位検知用蛍光体又は硫化腐食部位検知用燐光体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微粉炭を燃焼する火力発電設備では、環境に対する配慮などの観点から低NOX運転を目的とした二段燃焼が行われている。低NOX運転を行うと、還元性の燃焼ガスによってボイラの伝熱管に硫化腐食が生じることが知られている。特許文献1には、硫化腐食した部位に付着した灰にZnS(硫化亜鉛)が濃縮していることが開示されている。
【0003】
EPMAやXRFなどの元素分析手法により、灰に含まれるZnやSの濃度を測定することができる。Zn及びSは、ZnSとして存在しているとは限らないものの(例えば、SはPbSとして存在することもある)、Znが相当の濃度であればZnSとして存在し、硫化腐食を引き起こしている可能性がある。したがって、ボイラから採取した灰、又はボイラに付着したままの灰に対してZnの濃度を計測することで、高濃度のZnを含む灰が付着していた伝熱管の部位は、硫化腐食が生じている部位であると判定することができる。
【0004】
元素分析手法は、伝熱管に広く付着した灰に対して計測点に適用するものであるため、広範囲に亘ってZnの濃度を計測するためには効率的ではない。また、その濃度が計測点の周囲の最大値であるのか、平均値であるのかが不明である。このような問題に対し、複数の計測点についてZnの濃度を計測することが考えられる。しかしながら、計測点ごとの測定であることにはかわりはなく、広範囲に亘って網羅的にZnの濃度を計測することを効率的に行えるとは言えない。他にも熟練者が硫化腐食していると思われる箇所を特定し、その箇所に対して計測を行うことも考えられるが、人の経験に依存するため、確実性に欠ける点もある。
【0005】
なお、このような問題は、硫化腐食した部位を検知する対象が微粉炭を燃焼する火力発電設備のボイラやガス化炉の伝熱管などである場合のみならず、表面に付着物が付着した金属からなる部材である場合についても同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-2551号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】森修二,柿谷悟,三宅寛,山口一裕,Zn2SiO2-Mn2Si04系における相変化と蛍光スペクトル,1994年,岡山理科大学紀要. A,自然科学,30,115-120(1994),http://id.nii.ac.jp/1182/00001100/
【非特許文献2】Wentao Zhang,Hong-Ro Lee,Synthesis and luminescence properties of Zn(Cu(0.01) Cd(0.02) Mg(0.02))S phosphor,2011年4月12日,The journal of biological and chemical luminescence,https://doi.org/10.1002/bio.1190
【非特許文献3】植田達也,溶液法を用いたMnドープZnSナノ粒子の合成およびEL素子の作製,2012年3月,群馬大学工学部 修士論文,http://hdl.handle.net/10087/8502
【非特許文献4】磯部 徹彦,シリカ表面修飾によるドープ型ナノクリスタルの高発光効率化,2011年7月19日,照明学会誌 2003年87巻4号p.256-261,https://doi.org/10.2150/jieij1980.87.4_256
【非特許文献5】磯部 徹彦,有機/無機複合型ZnS:Mnナノクリスタル蛍光体の発光機構と局所構造解析,2007年10月27日,表面科学 Vol.22,No.5,pp.315-322,2001,https://doi.org/10.1380/jsssj.22.315
【非特許文献6】足立 吟也, カラーテレビブラウン管に用いられている蛍光体(<特集>表示材料の進歩),1990年8月20日,化学と教育1990年38巻4号p.386-390,https://doi.org/10.20665/kakyoshi.38.4_386
【非特許文献7】Wageh, S., Ternary ZnS:Te nanoparticles capped with 3-mercaptopropionic acid prepared in aqueous media,2016年, Journal of Materials Science: Materials in Electronics; 27, 10; 10877-10887; 2016, https://doi.org/10.1007/s10854-016-5197-7
【非特許文献8】白田 雅史, "イリジウムおよびその周辺金属で付活した新規硫化亜鉛蛍光体の創製と発光特性に関する研究", 静岡大学, 博士論文, (2011). http://doi.org/10.14945/00006522
【非特許文献9】Kotera Yoshihide, Naraoka Kiyotaka,Electrophotoluminescence of Zinc Sulfide Phosphors,2006年4月12日, Bulletin of the Chemical Society of Japan Vol.33, Issue6, https://doi.org/10.1246/bcsj.33.721
【非特許文献10】Srinivasa Buddhudu, Hong Xi Zhang, Chan Hin Kam, Seng Lee Ng, Boon Siew Ooi, Yee Loy Lam, Yuen Chuen Chan, Yan Zhou, Wenxiu Que, Terence Kin Shun Wong,Green and red luminescence in Tb3+ and Eu3+:Zn2SiO4 powders,2000年4月13日, Proceedings Volume 3942, Rare-Earth-Doped Materials and Devices IV; (2000), https://doi.org/10.1117/12.382881
【非特許文献11】井上幸司,増田峰知, カチオンドープによるワイドバンドギャップ型ZnO蛍光体の薄膜化,2011年, 三重県工業研究所研究報告 (36), 1-4, 2011, https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000172058.pdf
【非特許文献12】Yang Li, Yiyang Li, Ruchun Chen, Kaniyarakkal Sharafudeen, Shifeng Zhou, Mindaugas Gecevicius, Haihui Wang, Guoping Dong, Yiling Wu, Xixi Qin and Jianrong Qiu, Tailoring of the trap distribution and crystal field in Cr3+-doped non-gallate phosphors with near-infrared long-persistence phosphorescence,2015年5月22日, NPG Asia Materials volume 7, page 180(2015), https://doi.org/10.1038/am.2015.38
【非特許文献13】Dongqiang Han, Low-temperature synthesis and photoluminescence properties of oriented ZnAl2O4 nanowire arrays,2017年8月4日, Superlattices and Microstructures Volume 111, November 2017, Pages 1093-1098, https://doi.org/10.1016/j.spmi.2017.08.012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、広範囲に亘って硫化腐食した部位を検知することができる硫化腐食部位の検知方法及び硫化腐食部位の検知装置を提供することを主な目的とする。また、本発明は、腐食部位を検知しうる硫化腐食部位検知用蛍光体又は硫化腐食部位検知用燐光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明において「付着物の発光した部位(以下、発光部位)に覆われた部材の一部(以下、被覆部位)に硫化腐食が生じる、又は硫化腐食が生じている」とは、被覆部位にまだ硫化腐食が生じていないが将来において硫化腐食が生じる可能性こと、又は既に硫化腐食が生じていることを意味する。
【0010】
本発明において発光部位から発せられる光は、蛍光又は燐光である。以後の説明では蛍光と記載するが、これは蛍光又は燐光を意味する。同様に、蛍光体は蛍光体又は燐光体を意味する。
【0011】
本発明は、硫化腐食部位を検知する対象として任意の金属からなる部材とすることができる。このような部材の一例としては、石炭を微粉炭として燃焼するボイラや、石炭をガス化して燃焼するガス化炉の伝熱管を挙げることができる。
【0012】
上記目的を達成するための本発明の態様は、金属からなる部材の表面に付着した付着物に紫外光を照射し、前記付着物から発光された蛍光に500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長を含む場合、前記付着物の発光した部位に覆われた前記部材の被覆部位に硫化腐食が生じる、又は硫化腐食が生じていると判定することを特徴とする硫化腐食部位の検知方法にある。
【0013】
上記目的を達成するための本発明の他の態様は、金属からなる部材の表面に付着した付着物に紫外光を照射する紫外光源と、前記付着物から発せられた蛍光の分光スペクトルを計測する分光スペクトル計測部と、前記分光スペクトルに500nm以上550nm以下の第1ピーク波長が含まれる場合、前記付着物の発光した部位に覆われた前記部材の被覆領域に硫化腐食が生じていると判定する判定部と、を備えることを特徴とする硫化腐食部位の検知装置にある。
【0014】
上記目的を達成するための本発明の他の態様は、Znを主成分とする亜鉛化合物と、Mn,Cu,Cd,Ag,Au,Cl,Ir,Te,Fe,Pb,Tb,Eu,Mg及びCrからなる群より選択される少なくとも一種と、を含み、紫外光により励起されて500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長を含む蛍光を発し、金属からなる部材の表面に形成されたことを特徴とする硫化腐食部位検知用蛍光体又は硫化腐食部位検知用燐光体にある。
【0015】
上記目的を達成するための本発明の他の態様は、Znを主成分とする亜鉛化合物としてZnAl2O4又はZnMgOを含み、紫外光により励起されて500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長を含む蛍光を発し、金属からなる部材の表面に形成されたことを特徴とする硫化腐食部位検知用蛍光体又は硫化腐食部位検知用燐光体にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、広範囲に亘って硫化腐食した部位を検知することができる硫化腐食部位の検知方法及び硫化腐食部位の検知装置が提供される。また、本発明によれば、腐食部位を検知しうる硫化腐食部位検知用蛍光体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】硫化腐食部位の検知装置の概略図である。
図2】伝熱管に付着した灰から発せられる光を説明するための平面図及び断面図である。
図3】EPMAの分析結果を示す図である。
図4】分光スペクトルを示す図である。
図5】オレンジ色の蛍光を発する試料を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を用いて、本発明の実施形態に係る硫化腐食部位の検知方法及び検知装置について説明する。また、色彩や発色の説明を補足するために、図3から図5に相当するカラーの図面を物件提出書に添付して提出する。
【0019】
本実施形態では、石炭を燃焼するボイラや石炭をガス化して燃焼するガス化炉の伝熱管において硫化腐食が生じる、又は生じていることを判定する場合について説明する。
【0020】
図1は硫化腐食部位の検知装置の概略図である。図2(a)は伝熱管に付着した灰から発せられる光を説明するための平面図であり、図2(b)はそのA-A線断面図である。
図1に示すように、検知装置1は、ボイラの伝熱管10(請求項に記載の部材の一例である)に生じた硫化腐食部位を検知するために用いられる。伝熱管10には、微粉炭の燃焼に伴い灰11(請求項に記載の付着物の一例である)が付着している。
【0021】
検知装置1は、紫外光源2、カメラ3、及び判定部4を備えている。紫外光源2は、紫外線を発光する紫外光LEDを備えた装置や、キセノン水銀ランプにバンドパスフィルタを適用して紫外線を抽出するように構成した装置である。紫外光の波長は、特に限定はないが、200nm以上430nm以下の波長帯域においてピークを有するものであればよい。200nm以上400nmは紫外光であり、430nm付近は紫光である。後述するように紫外光よりも長い波長の紫光でも蛍光を生じさせると推定できるので、紫外光から紫光を照射できる紫外光源を利用できる。以後、「紫外光」とは「200nm以上430nm以下の波長帯域においてピークを有する紫外光又は紫光」と定義する。カメラ3は、受光した光の分光スペクトルを計測するものであり、請求項に記載の分光スペクトル計測部の一例である。分光スペクトル計測部としては、他にも、分光器、バンドパスフィルタを備えたカメラ、バンドパスフィルタを備えたフォトディテクタなどを用いることができる。判定部4は、詳細は後述するが、分光スペクトルを分析して硫化腐食部位を検知する情報処理装置である。
【0022】
ボイラの伝熱管10について硫化腐食部位を検知する方法は次のように実行する。定期点検時などに紫外光源2をボイラ内に搬入し、図2に示すように、伝熱管10の任意の箇所に対して紫外光源2に紫外光を照射させる。伝熱管10に特に手を入れずに紫外光を照射してもよいし、ある程度、灰11を払拭してから紫外光を照射してもよい。紫外光が照射されると灰11の一部からオレンジ色の蛍光を視認できる。
【0023】
蛍光は、詳細は後述するが、500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長を含む。また、蛍光は、600nm以上700nm以下の波長帯に第2ピーク波長を含む。発光部位12からこのような波長の蛍光がオレンジ色として視認できる。なお、ここでいう「発光部位12から視認できる」とは、灰11が除去されて露出した発光部位12から蛍光を視認できる場合に限らず、発光部位12が灰11にある程度覆われており、その灰11の上からでも発光部位12から蛍光を視認できる場合も含む。
【0024】
このような発光部位12からの蛍光を視認できたら、その発光部位12に覆われた伝熱管10の一部(以下、被覆部位13)は、凹んだ形状の硫化腐食が生じている部位であると判定する。なお、発光部位12から発せられる光は、蛍光又は燐光であると考えられる。
【0025】
なお、本発明の検知方法は、伝熱管10に付着した灰11に紫外光を照射する場合に限らない。伝熱管10から灰11を採取し、採取した灰11に紫外線を照射してもよい。紫外線の照射により灰11に発光部位12が視認できたら、その灰11が付着していた伝熱管10の被覆部位13に硫化腐食が生じていると判定する。
【0026】
ここで、発光部位の組成について説明する。実際に運用されている石炭を燃焼するボイラの伝熱管に付着した灰に紫外光を照射し、灰から発光していることを視認した発光部位を採取して試料とした。試料に対して電子線マイクロアナライザーによる元素分析(以下、EPMAと称する)を実行した。この結果を図3に示す。同図には、元素ごとに濃度に応じた色分けがなされた画像が示されている。Zn及びSは、点線の楕円内に高濃度を示すピンク色で表示されている。つまり、EPMAの結果、発光部位には高濃度のZn及びSが存在することが判明した。
【0027】
石炭を燃焼するボイラの伝熱管に付着した灰を試料とした。この試料に紫外線を照射し、紫外線により発光した蛍光をカメラ3に受光させて分光スペクトルを得た。蛍光はオレンジ色として視認された。また、紫外線は、キセノン水銀ランプに紫外線を透過するバンドパスフィルターを適用して得られたものである。バンドパスフィルタ-は、HOYA製バンドパスフィルターU340である。この結果を図4に示す。
【0028】
図4(a)は励起光源(紫外光)の分光スペクトルを示し、図4(b)は試料から得られた蛍光の分光スペクトルである。横軸は波長、縦軸は発光強度である。
【0029】
図4(a)に示すように、紫外光のスペクトルUVは、200nm以上430nmの波長帯域にピークを有する。650nm以上800nm以下の波長帯域においてもピークが見られるが、これはおそらく試料に反射した結果得られたものと考えられる。
【0030】
図4(b)に示すように、試料から発せられたオレンジ色の蛍光についてのスペクトルFoは、500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピークを有し、460nm以上700nmの波長帯に亘って広がっていた。このことから第1ピークを有する蛍光を発するような物質が試料に含まれている可能性があると推定される。なお、第1ピークの前後にピークが見られるが、これは紫外光の分光スペクトルと近似していることから、紫外光の分光スペクトルと考えられた。
【0031】
また、スペクトルFoは、600nm以上700nm以下の波長帯で強度の傾斜が変化していた。このことから当該波長帯においてピーク(以下、第2ピーク)を有する蛍光を発するような物質が試料に含まれている可能性があると推定される。
【0032】
非特許文献1には(Zn-Mn)2SiO4図4に示したようなスペクトルFoと同様のスペクトルと同様の第1ピークを有する発光が開示されている。非特許文献2にはZn(Cu,Cd,Mg)Sが図4に示したようなスペクトルFoと同様の第1ピークを有する発光が開示されている。非特許文献3~5にはZnS:Mnが600nm付近でピークを有する蛍光を発することが記載されている。非特許文献6には、ZnS:Agが465nmにピークを有する蛍光を発し、ZnS:Au,Cu,Alが539nmにピークを有する蛍光を発することが記載されている。非特許文献7には、ZnS:Teが439nmにピークを有する蛍光を発することが記載されている。非特許文献8には、ZnS:ClとZnS:Cl,Irで440から450nmと515nmにピークを有する蛍光を発することが記載されている。非特許文献9には、ZnS:Ag,(Zn,Cd)S:Ag,ZnS:Cu,(ZnCd)S:Cu,ZnS:CuFe,ZnS:Cu,Pb,ZnS:Pb,Mn,ZnS:Mn,ZnS,ZnO:Mn,(Zn,Cd)S:Mn,Zn(S,Se):Cuが発光すると記載されている。非特許文献10には、Tb3+:Zn2SiO4が543nmにピークを有する蛍光を発し、Eu3+:Zn2SiO4が612nmにピークを有する蛍光を発すると記載されている。非特許文献11には、ZnMgOが400nmから500nmにピークを有する蛍光を発することが記載されている。Mgは10%以上含まれていることから微量元素ではなく主成分とした。非特許文献12には、Zn2SnO4:Cr及びZn(2-x)Al2xSn(1-x)O4:Crが650nmから1200nmの波長帯で800nmにピークを有する蛍光を発することが記載されている。非特許文献13には、ZnAl2O4が500nmを中心とする発光を示すことが記載されている。
【0033】
表1に上述した非特許文献に記載の発光物質とその主成分及び微量元素を示す。
【表1】
【0034】
以上の結果を纏めると、EPMAの結果によれば発光部位12を構成する物質は、Znが高濃度に含まれていることから、Znを主成分とする物質であると考えられた。また、特許文献1によればZnSは硫化腐食に影響を及ぼすことが記載されており、分光スペクトルと非特許文献1~13との対比を踏まえると、物質は、亜鉛化合物を主成分とすると考えられた。亜鉛化合物としては、ZnS,ZnCdS,Zn(S,Se)及び亜鉛酸化物からなる群より選択される少なくとも一種である。亜鉛酸化物とは、ZnSiO,ZnO,ZnMgO,Zn2SnO4,Zn(2-x)Al2xSn(1-x)O4及びZnAl2O4からなる群より選択される少なくとも一種である。また、非特許文献10に記載のTbやEuはZn2SiO4の微量物質として含まれている場合に発光するが、Zn2SiO4以外の主成分(例えば、ZnS)に含まれる場合にも発光するかについては各非特許文献からは明らかではないものの、その他の主成分に含まれていても発光するものと推定された。TbやEu以外の微量元素についても同様に表1に掲げた主成分に含まれる場合であっても発光すると推定された。
【0035】
分光スペクトル及び非特許文献1~13の対比を踏まえると、微量元素(例えば、Mn,Cu,Cd,Ag,Au,Cl,Ir,Te,Fe,Pb,Tb,Eu,Mg,Cr)は蛍光の発光に寄与している可能性があり、特にMn及びCuはその可能性が高いと考えられた。また、ZnAl2O4及びZnMgOについては微量元素を含まなくても発光する可能性があると考えられた。
【0036】
したがって、発光部位12(硫化腐食部位検出用蛍光体又は燐光体)は、亜鉛化合物と、微量元素としてMn,Cu,Cd,Ag,Au,Cl,Ir,Te,Fe,Pb,Tb,Eu,Mg及びCrからなる群より選択される少なくとも一つを含むと推定された。または、発光部位12は、亜鉛化合物の一つであるZnAl2O4又はZnMgOと推定された。
【0037】
一般に、励起波長を短波長にすると励起が強まることが知られている。例えば200nm付近の深紫外光にすると励起が強まり、発光の強度が高くなる。しかしながら、図4に示すように、深紫外光ではない400nm付近の紫外光や430nm付近の紫光であっても試料は十分に蛍光を発することが判明した。深紫外光は、キセノン水銀ランプなどを用いることで得られるが、装置構成が大がかりになりがちである。一方、400nm付近の紫外光や430nm付近の紫光は、紫外光LEDでも得ることができる。このため、試料を励起させるための紫外光源として、コスト面や可搬性に優れる紫外光LEDを用いることができる。
【0038】
図5に試料から発せられた蛍光を例示する。図5はオレンジ色の蛍光を発する試料を示す写真である。図5の試料はボイラ抜管材の表面に付着した灰である試料は伝熱管10に接していた面が図示されている。
【0039】
図5(a)は紫外光により発光する前の試料であり、図5(b)は紫外光により発光している試料である。写真中の楕円はオレンジ色に光る部分を示している。同図に示すように、紫外光を照射する前では、楕円に示す範囲はその範囲外の箇所と特段見分けがつかない。一方、紫外光を試料に照射すると、楕円に示す範囲では紫色の照射範囲の中にオレンジ色に発光する部位を視認できた。そして、このオレンジ色に発光した部位(図2でいう発光部位12)に覆われた母材(図2でいう伝熱管10)の一部(図2でいう被覆部位13)には硫化腐食が生じていた。
【0040】
以上に説明したように、本発明の硫化腐食部位の検知方法は、伝熱管10の表面に付着した灰11に紫外光を照射し、灰11から発光された蛍光がオレンジ色として視認される場合、すなわち蛍光が500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長を含む場合、灰11に覆われた被覆部位13に硫化腐食が生じる、又は生じていると判定する。
【0041】
これにより、伝熱管10を紫外光で照射し、灰11から発せられる蛍光を観察することで、硫化腐食が生じている、または将来において硫化腐食が進行する危険性の高い部位を検知することができる。従来では、計測点を対象として硫化腐食部位を特定していたが、本発明の検知方法は、紫外光は伝熱管10の表面の一定範囲に亘って照射されるので、面単位で硫化腐食部位を検知することができる。このため、従来方法と比較して効率的に硫化腐食部位を検知することができる。また、面単位で硫化腐食部位を検知するので、硫化腐食した部分に含まれるZnSの濃度が最大値であるのか、平均値であるのかが不明である、といった従来の問題点も解消できる。さらに、硫化腐食部位の検知は、灰11から発せられる蛍光の視認に基づくので、熟練者の経験に依存せず、確実に行うことができる。
【0042】
また、蛍光が500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長を含み、さらに600nm以上700nm以下の波長帯に第2ピーク波長を含む場合、灰11に覆われた被覆部位13に硫化腐食が生じていると判定する。これにより、灰11に覆われた被覆部位13に硫化腐食が生じる、又は生じていると判定することができる。
【0043】
上述した波長を有しオレンジ色の蛍光は、伝熱管10に付着したままの灰11、あるいは一部を払拭した灰11に対して紫外光を照射すれば視認可能である。したがって、灰11を完全に除去して伝熱管10の硫化腐食部位を直接確認する場合と比べて、灰11の除去に要する手間を省くことができ、その分、短時間で硫化腐食部位の判定を行える。
【0044】
また、蛍光を肉眼により視認して硫化腐食部位を検知する場合のみならず、分光スペクトルを分析して硫化腐食部位を検知してもよい。このような装置構成としては、図1で述べたように、紫外光源2、カメラ3及び判定部4を備えた検知装置1が挙げられる。判定部4は、カメラ3で計測された分光スペクトルの分析を行う情報処理装置である。具体的には、判定部4は、分光スペクトルに500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長が含まれる場合、灰11の発光した発光部位12に覆われた伝熱管10の被覆部位13に硫化腐食が生じていると判定する。さらに、判定部4は、分光スペクトルに600nm以上700nm以下の波長帯に第2ピーク波長が含まれる場合、灰11の発光した発光部位12に覆われた伝熱管10の被覆部位13に硫化腐食が生じていると判定する。このような検知装置1によれば上述した検知方法と同様の作用効果を奏する。
【0045】
また、発光部位12(以下、硫化腐食部位検知用蛍光体とも称する)は、Znを主成分とする亜鉛化合物と、Mn,Cu,Cd,Ag,Au,Cl,Ir,Te,Fe,Pb,Tb,Eu,Mg及びCrからなる群より選択される少なくとも一種と、を含み、紫外光により励起されて500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長を含む蛍光を発する。硫化腐食部位検知用蛍光体は、紫外光によって上記の蛍光を発するので、硫化腐食部位検知用蛍光体が形成された被覆部位13における硫化腐食部位の検知に用いることができる。また、Znを主成分とする亜鉛化合物の一つであるZnAl2O4又はZnMgOを含み、紫外光により励起されて500nm以上550nm以下の波長帯に第1ピーク波長を含む蛍光を発する硫化腐食部位検知用蛍光体についても同様に硫化腐食部位の検知に用いることができる。
【0046】
特に、後述するドローンに紫外光源2及びカメラ3を搭載した構成の検知装置においては、灰11を除去するための装置構成が不要となるのでコストを低減することができ、さらに、灰11の除去を伴う硫化腐食部位を判定する方式に比べて短時間で行える。
【0047】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、勿論、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0048】
上述の実施形態では、ボイラの伝熱管の硫化腐食部位を検知する場合について説明したが、このような例に限定されない。本発明は、任意の金属からなる部材と、その部材の表面に付着した付着物についても適用できる。
【0049】
また、紫外光源及びカメラなどの分光スペクトル計測部は、ドローンに搭載されてもよい。例えば、紫外光源及びカメラをドローンに搭載し、ドローンをボイラ内に飛行させながら紫外光を伝熱管に照射し、蛍光をカメラで撮影させる。得られた分光スペクトルは、ドローンに搭載した記憶装置に記憶するか、又はドローンに搭載した無線通信手段によりドローンとは別のモニターや判定部などに送信するようにしてもよい。もちろん、マイクロコンピュータなどで構成された判定部をドローンに搭載し、その場で硫化腐食部位の判定を行わせてもよい。このようなドローン形態の検知装置又はその検知装置を用いた検知方法によれば、ボイラの高所に位置する部位に対して紫外光の照射及び蛍光の測定を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0050】
1…検知装置、2…紫外光源、3…カメラ、4…判定部
図1
図2
図3
図4
図5