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特開2022-168581希土類錯体、発光材料、発光体、及び、ホスフィンオキシド基を有する化合物
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  • 特開-希土類錯体、発光材料、発光体、及び、ホスフィンオキシド基を有する化合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168581
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】希土類錯体、発光材料、発光体、及び、ホスフィンオキシド基を有する化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/53 20060101AFI20221031BHJP
   C07C 49/92 20060101ALI20221031BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20221031BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20221031BHJP
【FI】
C07F9/53 CSP
C07C49/92
C09K11/06
C07F5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074135
(22)【出願日】2021-04-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日 令和2年9月2日 刊行物(刊行物名、巻数、号数、該当ページ、発行所/発行元等) 第69回高分子討論会予稿集(該当ページ:819ページ、発行元:公益社団法人高分子学会) 開催日 令和2年9月16日(開催期間:令和2年9月16日~令和2年9月18日) 集会名、開催場所 第69回高分子討論会(オンライン開催) 発行日 令和3年1月21日 刊行物(刊行物名、巻数、号数、該当ページ、発行所/発行元等) 高分子支部会プログラム(該当ページ:2ページ、発行元:公益社団法人高分子学会) 開催日 令和3年1月28日 集会名、開催場所 第55回高分子学会北海道支部研究発表会(オンライン開催)
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖哉
(72)【発明者】
【氏名】林 穣
(72)【発明者】
【氏名】北川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】庄司 淳
(72)【発明者】
【氏名】伏見 公志
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
4H050
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB82
4H006AB92
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB92
4H048VB10
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB82
4H050AB92
(57)【要約】
【課題】本開示の一側面は、高い透明性を有する発光体を容易に形成することのできる希土類錯体に関する。
【解決手段】三価の希土類イオンと、希土類イオンと配位結合を形成するホスフィンオキシド基、及び水素結合性官能基を有するホスフィンオキシド配位子と、を含む、希土類錯体が開示される。ホスフィンオキシド配位子が2以上のホスフィンオキシド基を有していてもよい。複数の希土類イオンと複数のホスフィンオキシド配位子とが交互に配列することによって繰り返し構造が形成されていてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三価の希土類イオンと、
前記希土類イオンと配位結合を形成するホスフィンオキシド基、及び水素結合性官能基を有するホスフィンオキシド配位子と、
を含む、希土類錯体。
【請求項2】
前記ホスフィンオキシド配位子が複数のホスフィンオキシド基を有し、
複数の前記希土類イオンと複数の前記ホスフィンオキシド配位子とが交互に配列することによって繰り返し構造が形成されている、請求項1に記載の希土類錯体。
【請求項3】
前記水素結合性官能基が、-C(=O)NH-、-C(=S)NH-、-S(=O)NH-、及び>P(=O)NH-から選ばれる少なくとも1種のアミド結合を含む基である、請求項1又は2に記載の希土類錯体。
【請求項4】
前記希土類イオンが、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種の希土類元素のイオンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の希土類錯体。
【請求項5】
前記ホスフィンオキシド配位子が、
下記式(1):
【化1】

で表される化合物であり、nが1以上の整数を示し、Ar及びArがそれぞれ独立に1価の基を示し、Xがn価の基を示し、X、Ar又はArのうち1つ以上の基が前記水素結合性官能基を含み、XがAr、Ar又はこれらの両方と結合していてもよい、請求項1~4のいずれか一項に記載の希土類錯体。
【請求項6】
前記ホスフィンオキシド配位子が、下記式(2):
【化2】

で表される基を有し、Zが前記水素結合性官能基を示し、Rが2価の脂肪族基、又はアリーレン基を示す、請求項1~5のいずれか一項に記載の希土類錯体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の希土類錯体を含む、発光材料。
【請求項8】
キラルアミノ酸を更に含む、請求項7に記載の発光材料。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の発光材料を含む発光体。
【請求項10】
ガラス転移温度を示す、請求項9に記載の発光体。
【請求項11】
下記式(1):
【化3】

で表され、nが1以上の整数を示し、Ar及びArがそれぞれ独立に1価の基を示し、Xがn価の基を示し、X、Ar又はArのうち1つ以上の基が水素結合性官能基を含み、XがAr、Ar又はこれらの両方と結合していてもよく、
前記水素結合性官能基が、-C(=O)NH-、-C(=S)NH-、-S(=O)NH-、及び>P(=O)NH-から選ばれる少なくとも1種のアミド結合を含む基である、化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、希土類錯体、発光材料、発光体、及び、ホスフィンオキシド基を有する化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
透明性の向上、及び、溶媒又は他の材料との相溶性の向上等の観点から、アモルファス状態の成形体を形成できる発光性の希土類錯体が提案されている(例えば特許文献1、非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/002282号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Inorg. Chem. 2015, 54, pp. 4364-4370
【非特許文献2】Chemistry Select, 2021, 6, pp. 1-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の一側面は、高い透明性を有する発光体を容易に形成することのできる希土類錯体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、三価の希土類イオンと、前記希土類イオンと配位結合を形成するホスフィンオキシド基、及び水素結合性官能基を有するホスフィンオキシド配位子と、を含む、希土類錯体に関する。本開示はまた、上記希土類錯体を含む発光材料、及びこの発光材料を含む発光体に関する。
【0007】
本開示の別の一側面は、下記式(1):
【化1】

で表される化合物に関する。nが1以上の整数を示し、Ar及びArがそれぞれ独立に1価の基を示し、Xがn価の基を示し、X、Ar又はArのうち1つ以上の基が水素結合性官能基を含み、XがAr、Ar又はこれらの両方と結合していてもよい。前記水素結合性官能基は、-C(=O)NH-、-C(=S)NH-、-S(=O)NH-、及び>P(=O)NH-から選ばれる少なくとも1種のアミド結合を含む基である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一側面に係る希土類錯体は、高い透明性を有する発光体を容易に形成し得る。本開示の一側面に係る希土類錯体を含む発光体は、高い透明性を長期間維持し得る。アモルファス状態の希土類錯体を含む発光体は、高い透明性を特に長期間維持し易い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】熱処理後の希土類錯体の膜のSEM像である。
図2】希土類錯体のDSCサーモグラムである。
図3】希土類錯体の赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は以下に説明される例に限定されるものではない。
【0011】
希土類錯体の一例は、三価の希土類イオンと、希土類イオンと配位結合を形成するホスフィンオキシド基、及び水素結合性官能基を有するホスフィンオキシド配位子とを含む。
【0012】
希土類イオンは、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種の希土類元素のイオンを含んでもよい。希土類錯体が2以上の希土類イオンを含む場合、それらは互いに同一でも異なってもよい。
【0013】
希土類錯体は1以上の水素結合性官能基を含む。水素結合性官能基は、例えば、-C(=O)NH-、-C(=S)NH-、-S(=O)NH-、及び>P(=O)NH-から選ばれる少なくとも1種のアミド結合を含む基であってもよい。-C(=O)NH-を含む水素結合性官能基の例は、カルボン酸アミド基(-C(=O)NH-自体)の他、-OC(=O)NH-、-NHC(=O)NH-、-(C=O)NH(C=O)-、及び-NHC(=O)S-を含む。-C(=S)NH-を含む水素結合性官能基の例は、チオカルボン酸アミド基(-C(=S)NH-自体)の他、-NHC(=S)NH-を含む。-S(=O)NH-を含む水素結合性官能基の例は、スルホン酸アミド基(-S(=O)NH-自体)の他、-S(=O)NHS(=O)-を含む。水素結合性官能基が、例えば-S(=O)NHC(=O)-のように、-C(=O)NH-及び-S(=O)NH-を含んでいてもよい。
【0014】
希土類錯体が、水素結合性官能基を含む、下記式(2)で表される基を有していてもよい。式(2)中、Zは水素結合性官能基を示し、Rは2価の脂肪族基、又はアリーレン基(例えばフェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、トリフェニレン基、フリレン基、チエニレン基、及びピロリレン基)を示す。前記脂肪族基は、炭素原子及び水素原子以外の原子(例えば酸素原子、窒素原子及び硫黄原子)を含み得る。Rが炭素数1~10、又は炭素数2~8のアルキレン基であってもよい。Rが脂肪族基又はアルキレン基であると、希土類錯体がアモルファス状態の発光体を特に形成し易い。
【0015】
【化2】
【0016】
ホスフィンオキシド配位子は、例えば下記式(1):
【化3】

で表される化合物であることができる。式(1)中、nが1以上の整数を示し、Ar及びArがそれぞれ独立に1価の基を示し、Xがn価の基を示す。X、Ar又はArのうち1つ以上の基が水素結合性官能基を含む。XがAr、Ar又はこれらの両方と結合していてもよい。nは1~3の整数であってもよく、2であってもよい。X、Ar又はArのうち1つ以上の基が、式(2)で表される基を含んでいてもよい。
【0017】
Ar及びArは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基であってもよい。アリール基の具体例としては、置換又は無置換のベンゼン、置換又は無置換のナフタレン、置換又は無置換のアントラセン、又は置換又は無置換のフェナントレンから1個の水素原子を除いた残基が挙げられる。特に、Ar及びArが置換又は無置換のフェニル基であってもよい。アリール基が有し得る置換基の例として、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6ぺルフルオロアルキル基、アルコキシ基、シロキシ基、及びジアルキルアミノ基が挙げられる。C1-6アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、及びヘキシルが挙げられる。C1-6ぺルフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、及びトリデカフルオロヘキシルが挙げられる。アルコキシ基は、例えばC1-6アルコキシ基であってもよい。C1-6アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、及びヘキシルオキシ基が挙げられる。シロキシ基としては、例えば、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、及びtert-ブチルジメチルシロキシが挙げられる。ジアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ、及びジエチルアミノが挙げられる。置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0018】
Xが、ホスフィンオキシド基に結合したアリーレン基と、水素結合性官能基とを有していてもよい。その場合のホスフィンオキシド配位子は、例えば下記式(1A):
【化4】

で表される。式(1A)中のAr、Ar及びnは、式(1)中のAr、Ar及びnと同義である。Arは置換基を有していてもよいアリーレン基(例えばフェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、トリフェニレン基、フリレン基、チエニレン基、及びピロリレン基)を示す。X’は水素結合性官能基を含むn価の基を示す。X’が式(2)で表される基を有していてもよい。
【0019】
ホスフィンオキシド配位子のより具体的な一例は、下記式(3):
【化5】

で表される化合物である。式(3)中のAr、Ar、Ar、Z及びRは、式(1)、(1A)又は(2)中のAr、Ar、Ar、Z及びRと同義である。
【0020】
希土類錯体は、ホスフィンオキシド配位子以外の配位子を更に有していてもよい。例えば、希土類錯体が、下記式(4)で表されるジケトン配位子を更に有してもよい。式(4)で表されるジケトン配位子を含む希土類錯体は、強発光等の観点でより一層優れた特性を有し得る。
【化6】

式(4)中、R11、R12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基(例えばトリフルオロメチル基)、アリール基、又はヘテロアリール基を示す。
【0021】
ホスフィンオキシド配位子が2以上のホスフィンオキシド基を有し、複数の希土類イオンと複数のホスフィンオキシド配位子とが交互に配列することによって繰り返し構造が形成されていてもよい。繰り返し構造を有する希土類錯体(希土類錯体高分子ともいう)は、アモルファス状態の発光体を特に形成し易い。
【0022】
希土類錯体高分子は、例えば下記式(5)で表される。式(5)中のAr、Ar、Ar、Z、R、R11、R12及びR13は、式(3)又は(4)中のAr、Ar、Ar、Z、R、R11、R12及びR13と同義である。Ln(III)は希土類イオンを示す。nは繰り返し数を示す。
【0023】
【化7】
【0024】
<希土類錯体の製造方法>
希土類錯体は、例えば、ホスフィンオキシド配位子としての上記化合物(以下「ホスフィンオキシド化合物」ともいう。)と希土類元素含有化合物とを溶媒中で混合し、前記ホスフィンオキシド化合物と前記希土類元素との反応によって希土類錯体を形成することを含む方法で製造することができる。ホスフィンオキシド化合物と希土類元素含有化合物中の希土類元素との混合比(ホスフィンオキシド化合物のモル数/希土類元素のモル数)は、例えば、0.2~5、0.5~3、又は0.8~2の範囲であってもよい。前記混合比は等モル量であってもよく、どちらかが過剰量であってもよい。ホスフィンオキシド化合物及び希土類元素含有化合物の両者を溶解する溶媒が用いられる。溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ピリジン、DMSO(ジメチルスルホキシド)、又はDMF(ジメチルホルムアミド)であってもよいが、これらに限定されない。溶媒の温度は、例えば、室温(例えば、20℃)~120℃の範囲で、溶媒の沸点も考慮して適宜選択できる。
【0025】
上記希土類元素含有化合物は、希土類元素を含有する化合物であれば、特に限定はない。希土類元素含有化合物は、例えば、希土類イオンと、希土類イオンと配位結合を形成する配位化合物とを含む化合物であることができる。希土類元素含有化合物中の配位化合物の一部が、形成される希土類錯体中に配位子として残ってもよい。複数の配位化合物のうち一部が、ホスフィンオキシド化合物の希土類イオンに対する配位力より弱い配位力を有する配位子であると、希土類錯体を特に容易に合成できる。ホスフィンオキシド化合物の希土類イオンに対する配位力より弱い配位力を有する配位子の例としては、水(HO)、メタノール、及びエタノールが挙げられる。生成した希土類錯体は、常法により精製することができる。
【0026】
以上例示された希土類錯体は、加熱処理などによって、アモルファス状態の発光体を形成することができる。希土類錯体を含む発光材料も、ガラス転移温度を示す発光体を容易に形成することができる。ガラス転移温度を示す、すなわちアモルファス状態の発光体は、長期間、高い透明性を維持し得る。希土類錯体及び発光体がガラス転移温度を示すことは、希土類錯体及び発光体の示差走査熱量測定において、ガラス転移に伴う吸熱ピーク、すなわちガラス転移点が観測されることによって確認することができる。発光体は、任意の形状を有することができ、例えばフィルム又はその他の形状の成形物であってもよい。
【0027】
発光体は、例えば、発光材料を加熱することを含む方法によって、形成することができる。フィルム状の発光体は、例えば、発光材料及び溶媒を含む溶液の膜を形成することと、膜から溶媒を除去することによって発光材料の膜を形成することと、発光材料の膜を加熱することとを含む方法によって製造することができる。加熱によって、アモルファス状態の発光体を容易に形成することができる。発光体を形成するための加熱温度は、アモルファス状態の発光体が形成されるように調整される。加熱温度は、例えば50~250℃であってもよい。
【0028】
発光材料は、ポリマー材料を含んでもよい。本開示に係る希土類錯体は、容易に種々のポリマー材料と高い親和性を有することができる。ポリマー材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、及びポリアミドイミド樹脂が挙げられる。希土類錯体及びポリマー材料を含む発光材料を成形加工することにより、各種の成形体(発光体)を得ることができる。発光材料を成形加工する方法の例としては、、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、押出成形、反応成形、中空成形、熱成形、及びFRP成形が挙げられる。
【0029】
発光材料は、キラルアミノ酸を含んでもよい。キラルアミノ酸を含む発光材料は、キラルアミノ酸と希土類錯体の水素結合性官能基とが相互作用することにより、円偏光発光する発光体を容易に形成することができる。本開示に係る希土類錯体は、結晶性が低く、単独で透明性の高い膜を形成できるため、これを高濃度で含む発光体は、高い精度での円偏光発光の検出を可能にする。円偏光発光する発光体は、円偏光板などの円偏光フィルタと同じ役割を果たすことから、円偏光フィルタに適用することが可能である。この円偏光フィルタは光多重通信やセキュリティ用途など、広範な用途への適用が可能である。本開示に係る希土類錯体を含む発光体をセキュリティ用途へ適用することにより、励起による発光及び円偏光による変色など複数の情報を保持することができるので、簡便により高度なセキュリティを実現することができる。
【0030】
キラルアミノ酸は、例えば、アラニルアラニン、アラニルグルタミン、アラニルメチオニン、アラニルフェニルアラニン、アラニルグリシン、アラニルバリン、グリシルアラニン、グリシルバリン、グリシルフェニルアラニン、グリシルロイシン、グリシルトリプトファン、バリルアラニン、バリルグリシン、バリルバリン、プロリルグリシン、セリルチロシン、ロイシルトリプトファン、及びフェニルアラニルフェニルアラニンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることができる。
【実施例0031】
本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
1.希土類錯体の合成
ホスフィンオキシド配位子dpba
市販のジフェニル(p-トリル)ホスフィン1を、KMnOを用いた酸化反応により酸化して、カルボキシル基を有するホスフィンオキシド化合物2を得ること、及び、ホスフィンオキシド化合物2を塩化チオニル及びエチレンジアミンと反応させることとを含む、下記反応式で示される通常の方法により、アミド基を有する二座配位子であるホスフィンオキシド配位子dpbaを得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d 8.18(2H, s), 7.83-7.80 (4H, dd, J = 8 Hz), 7.54-7.45 (16H, m), 7.42-7.38 (8H, m)ppm;
IR(ATR): 3266 (st, N-H), 1645 (st, C=O), 1114 (st, P=O) cm-1;
MS(ESI) found: m/z 619.2. Calcd. for C40H34N2NaO4P2:[M+Na]+, 619.19.
【0033】
【化8】
【0034】
希土類錯体[Eu(hfa)dpba]
Dpba(66.9mg,0.10mmol)及びEu(hfa)(HO)(80.9mg,0.10mmol)をクロロホルム(10mL)に溶解させた。得られた溶液を室温で3時間撹拌した。その後、溶媒を減圧下で留去し、残渣をメタノールから再結晶させて、繰り返し構造を含む希土類錯体(希土類錯体高分子)[Eu(hfa)dpba](白色粉末,364mg,25.3μmol,収率25%)を得た。
IR (KBr) = 3269 (st, N-H), 1649 (st, C=O), 1251 (st, C-F), 1140 (st,P=O) cm-1;
MS(ESI) found : m/z 1235.09. Calcd. for C55H37EuF18N2O10P2:[M-hfa]+, 1235.10.
【0035】
【化9】
【0036】
ホスフィンオキシド配位子pdpb
市販のジフェニル(p-トリル)ホスフィン1を、KMnOを用いた酸化反応により酸化して、カルボキシル基が導入されたホスフィンオキシド化合物2を得ること、及び、ホスフィンオキシド化合物2を塩化チオニル及びp-フェニレンジアミンと反応させることとを含む、下記反応式で示される通常の方法により、アミド基を有する二座配位子であるホスフィンオキシド配位子pdpbを得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d 8.07-8.04(4H, dd, J = 8 Hz), 7.81-7.76 (4H, dd, J = 12 Hz), 7.70-7.64 (16H, m), 7.58-7.54(8H, m) ppm;
IR(ATR): 3253 (st, N-H), 1660 (st, C=O), 1117 (st, P=O) cm-1;
MS(ESI) found: m/z 739.2. Calcd. for C44H34N2NaO4P2:[M+Na]+, 739.19.
【0037】
【化10】
【0038】
希土類錯体[Eu(hfa)pdpb]
Dpbaに代えてpdpbを用いたこと以外は[Eu(hfa)dpba]の合成と同様の手順により、繰り返し構造を含む希土類錯体[Eu(hfa)pdpb]を得た。
IR (KBr): 3291 (st, N-H), 1651 (st, C=O), 1254 (st, C-F), 1139 (st,P=O) cm-1;
MS(ESI) found: m/z 1283.11. Calcd. for C54H36EuF12N2O8P2: [M-hfa]+, 1283.10.
【0039】
【化11】
【0040】
希土類錯体[Eu(hfa)dph]
Dpbaに代えて、市販の1,6-ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘキサンから合成したdphを用いたこと以外は[Eu(hfa)dpba]の合成と同様の手順により、繰り返し構造を含む希土類錯体[Eu(hfa)pdf]を得た。
IR (KBr): 1250 (st, C-F), 1136 (st, P=O) cm-1;
MS(ESI) found: m/z 1283.06. Calcd. for C45H35EuF18NaO8P2: [M+Na]+, 1283.06.
【0041】
【化12】
【0042】
2.評価
(1)希土類錯体膜の形成及びその熱処理
[Eu(hfa)dpba]又は[Eu(hfa)dph]をメタノールに溶解し、それぞれの溶液をガラスシャーレに滴下した。滴下された溶液を乾燥することにより、それぞれの希土類錯体を含む、白濁した膜(発光体)が形成された。膜は紫外線照射によって赤色に発光した。膜を200℃で15分加熱し、室温まで冷却したところ、膜の白濁が薄くなり、透明性の高い膜になった。このことから、熱処理によってアモルファス状態の希土類錯体を含む膜が形成されたことが示唆された。特に[Eu(hfa)dpba]の膜は、熱処理によってほぼ完全に透明に変化した。熱処理後の膜(発光体)も紫外線照射によって赤色に発光した。
【0043】
[Eu(hfa)dpba]の膜の表面を走査電子顕微鏡(SEM)によって観察したところ、熱処理前によって粗い表面から滑らかな表面への変化が認められた。図1は熱処理後の[Eu(hfa)dpba]の膜のSEM像である。
【0044】
熱処理前後の[Eu(hfa)dpba]の赤外吸収スペクトルも測定した。その結果、N-H伸縮振動及びC=O伸縮振動に帰属される吸収ピークの形状及び位置が熱処理によって大きく変化することが確認され、このことから、アミド結合同士の水素結合を介した架橋構造の変化が、安定したアモルファス状態の形成に関与していることが示唆された。図3は熱処理前後の[Eu(hfa)dpba]の赤外吸収スペクトルである。
【0045】
(2)熱重量分析及び示差走査熱量測定
希土類錯体(希土類錯体高分子)を熱重量分析(TGA,昇温速度:5℃/分)によって評価し、熱分解温度を求めた。
希土類錯体を示差走査熱量測定(DSC)によって分析した。DSCは、30℃から200℃まで5℃/分の速度で昇温し、その後200℃から30℃まで5℃/分の速度で降温する1回目の熱処理の後、30℃から200℃まで5℃/分の速度で昇温する条件で測定された。図2は、[Eu(hfa)dpba]及び[Eu(hfa)dph]のDSCサーモグラムである。[Eu(hfa)dph]の膜はガラス転移に伴う吸熱を示さなかったのに対して、[Eu(hfa)dpba]の膜は128℃付近にガラス転移に伴う吸熱を示した。[Eu(hfa)pdpb]の膜のDSCも同様に測定したところ、152℃付近にガラス転移に伴う吸熱が示された。2回目の昇温でガラス転移に伴う吸熱が発現したことは、すなわち、1回目の熱処理によってアモルファス状態が形成されたことを示唆する。表1に熱分解温度及び吸熱ピークが示される。
【0046】
【表1】
【0047】
(3)光物性
[Eu(hfa)dpba]及び[Eu(hfa)dph]の発光スペクトルを測定した。いずれも613nm付近の強い発光バンドを示した。[Eu(hfa)dpba]及び[Eu(hfa)dph]の発光スペクトルは、200℃での熱処理によってもほとんど変化することなく、これら希土類錯体が熱安定性に優れた化合物であることを示した。発光減衰プロファイルから求められた、発光寿命τobs、発光量子収率Φffが表2に示される。
【0048】
【表2】
図1
図2
図3