(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168821
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】ダッチトッピング用組成物、及びそれを用いるダッチブレッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 10/00 20060101AFI20221031BHJP
A21D 10/02 20060101ALI20221031BHJP
A21D 8/00 20060101ALI20221031BHJP
A21D 13/11 20170101ALI20221031BHJP
【FI】
A21D10/00
A21D10/02
A21D8/00
A21D13/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022491
(22)【出願日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2021074420
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】長屋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】高崎 まり子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭太
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真帆
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB36
4B032DE05
4B032DG02
4B032DG08
4B032DG18
4B032DK02
4B032DK03
4B032DK07
4B032DK12
4B032DK17
4B032DK18
4B032DK22
4B032DK54
4B032DP08
4B032DP10
4B032DP25
4B032DP26
4B032DP33
4B032DP37
4B032DP40
4B032DP46
4B032DP55
4B032DP56
(57)【要約】
【課題】良好な表層部の割れを有するダッチブレッドを、容易に安定して製造することができるダッチトッピング用組成物及びダッチトッピング、並びにダッチブレッド生地、ダッチブレッド冷凍生地及びダッチブレッドの製造方法を提供する。
【解決手段】ダッチブレッドの製造に用いるダッチトッピングを調製するためのダッチトッピング用組成物であって、穀粉類、及びベーキングパウダーを含有することを特徴とするダッチトッピング用組成物、本発明のダッチトッピング用組成物を含むバッター状のダッチトッピング、パン生地に本発明のダッチトッピングを付着させる工程を含むダッチブレッド生地の製造方法、それを冷凍する工程を含むダッチブレッド冷凍生地の製造方法、及びそれらを焼成する工程を含むダッチブレッドの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッチブレッドの製造に用いるダッチトッピングを調製するためのダッチトッピング用組成物であって、
穀粉類、及びベーキングパウダーを含有することを特徴とするダッチトッピング用組成物。
【請求項2】
前記ベーキングパウダーが、酸性剤として、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、酒石酸、酒石酸水素カリウム、第一リン酸カルシウム、又はそれらの2種以上の混合物を前記ベーキングパウダーの総質量に基づいて11質量%以上含有する速効性ベーキングパウダーである、請求項1に記載のダッチトッピング用組成物。
【請求項3】
前記ベーキングパウダーの含有量が、前記穀粉類100質量部に対して、0.1~12質量部である請求項1又は2に記載のダッチトッピング用組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のダッチトッピング用組成物を含むバッター状のダッチトッピング。
【請求項5】
20℃における粘度が、2000~22000mPa・sである請求項4のバッター状のダッチトッピング。
【請求項6】
パン生地に請求項4又は5に記載のダッチトッピングを付着させる工程を含むダッチブレッド生地の製造方法。
【請求項7】
前記ダッチトッピングを塗布する工程が、最終発酵工程前のパン生地に対して行われる請求項6に記載のダッチブレッド生地の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の製造方法によって得られたダッチブレッド生地を冷凍する工程を含むダッチブレッド冷凍生地の製造方法。
【請求項9】
請求項6若しくは7に記載の製造方法によって得られたダッチブレッド生地、又は請求項8に記載の製造方法によって得られたダッチブレッド冷凍生地を焼成する工程を含むダッチブレッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダッチブレッドを製造するためのダッチトッピング用組成物、及びそれを用いるダッチブレッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダッチブレッドは、タイガーブレッドとも称され、トラ柄様の独特な模様で、カリカリとした食感の表層部を有するパンである。通常、ダッチブレッドの製造は、最終発酵工程(ホイロとも称する)後のパン生地に、バッター状の生地(一般に、米粉、小麦粉、砂糖、イースト、塩、油脂等を含む)であるダッチトッピングを発酵させ、塗布した後に焼成することで、表層部に網目状の割れを生じさせる方法で行われる(非特許文献1参照)。しかしながら、ダッチトッピングのイースト発酵具合によっては、焼成後の表層部の割れの状態が悪くなる場合があったり、最終発酵工程後のパン生地にダッチトッピングを塗布する際に、パン生地がダメージを受け易く、焼成時にパンの火ぶくれ(部分的に生じる大きな気泡)の発生やボリュームの低下により品質が低下する場合があったりするため、熟練の技術が必要であり、製品を安定して製造し難いという問題がある。
【0003】
特許文献1においては、生産性が改善されると同時に従来のバッター状のダッチトッピングを使用した場合と同様の優れた外観及び食感を有するダッチブレッドが得られるダッチブレッド用トッピング材を提供することを目的として、穀粉及び又は澱粉、流動状ショートニング、ゲル化剤、増粘剤及びイースト、を含むダッチブレッド用トッピング材であって、穀粉及び又は澱粉100質量部に対して、ゲル化剤1~10質量部及び増粘剤0.2~1質量部を含む前記トッピング材が開示されている。また、特許文献1のトッピング材は、ドウ状生地であるため成形が可能となり、メロンパンの外皮であるビスケット生地のようにパン生地の上に被せることが出来、メロンパン製造ラインなど既存の設備で大量生産が可能となり、生産性が格段に良くなると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】cookpad レシピID:6627997 公開2021年1月30日 インターネット<URL:https://cookpad.com/recipe/6627997>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、一般的なダッチブレッドの製造方法とは大きく異なり、トッピング材をシート状に成形する工程を必須とするため、従来の製造方法を行っているリテールベーカリー等のパン類製造業者では、採用し難い技術である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、ダッチブレッドの製造に用いるダッチトッピングを調製するためのダッチトッピング用組成物であって、良好な表層部の割れを有するダッチブレッドを、容易に安定して製造することができるダッチトッピング用組成物及びダッチトッピング、並びにダッチブレッド生地、ダッチブレッド冷凍生地及びダッチブレッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ダッチブレッドの良好な表層部の割れを安定して生じさせる方法を種々検討し、ベーキングパウダーを配合することで上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、上記目的は、ダッチブレッドの製造に用いるダッチトッピングを調製するためのダッチトッピング用組成物であって、穀粉類、及びベーキングパウダーを含有することを特徴とするダッチトッピング用組成物によって達成される。なお、本発明において、「ダッチトッピング」とは、ダッチブレッドの製造時に、パン生地に塗布するバッター状の生地であり、含有される穀粉類の総質量に基づいて、米粉を20質量%以上含有する生地を称する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ダッチトッピングを容易に調製することができ、良好な表層部の割れを有するダッチブレッドを容易に安定して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ダッチトッピング用組成物]
本発明のダッチトッピング用組成物は、ダッチブレッドの製造に用いるダッチトッピングを調製するためのダッチトッピング用組成物であって、穀粉類、及びベーキングパウダーを含有することを特徴とする。従来技術においては、パン生地の表面に塗布したダッチトッピングを、イースト発酵による膨化機構で焼成時に膨化させ、ダッチブレッドの表面層に網目状の割れを生じさせるため、ベーキングパウダーを添加していない。本発明においては、イースト発酵と併用して、又はイースト発酵の代わりにベーキングパウダーによる膨化機構を用いる。これにより、ダッチトッピングの発酵具合に係らず、良好な表面層の割れを生じさせることができる。また、本発明のダッチトッピング用組成物を用いて調製したダッチトッピングによれば、パン生地にダッチトッピングを塗布する工程を、最終発酵工程前のパン生地に対して行うことができるため、パン生地へのダメージを低減することができ、熟練の技術がなくても、パンの焼成時の火ぶくれの発生やボリュームの低下を防止することができ、ダッチブレッドを安定して製造することができる。さらに、ダッチトッピングを塗布したパン生地(本発明において「ダッチブレッド生地」と称する)を冷凍した冷凍パン生地(本発明において「ダッチブレッド冷凍生地」と称する)としても、良好な表面層の割れを有するダッチブレッドを製造することができる。
【0012】
本発明のダッチトッピング用組成物に含有される穀粉類は、上述の通り、穀粉類の総質量に基づいて、米粉を20質量%以上含有する。その他の穀粉類としては、穀粉、並びに植物から抽出した澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、物理的又は化学的(酵素処理を含む)に加工を施した加工澱粉等の澱粉類を含む。具体的には、穀粉としては、小麦粉(強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等)、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、トウモロコシ粉、ホワイトソルガム粉、大豆粉(きな粉)、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉等、及びそれらの穀粉を、常法に従って、例えば湿熱加熱機やパドルドライヤー等の加熱装置を用いて加熱処理した加熱穀粉(例えば加熱小麦粉)が挙げられる。加熱小麦粉は、小麦粉を乾燥、焙焼等の公知の方法で加熱処理することによって容易に得ることができる。例えば、小麦粉を含水率の低い状態(通常、25%以下)で、100~150℃にて30~60分、乾燥処理することなどによって得ることができる。澱粉類としては、馬鈴薯澱粉、餅種馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、トウモロコシ澱粉、餅種トウモロコシ澱粉、高アミローストウモロコシ澱粉、サゴ澱粉、小麦澱粉、米澱粉等、及びそれらの澱粉を原料としたα化澱粉;湿熱処理澱粉;酸化澱粉;酸処理澱粉;酢酸澱粉(アセチル化澱粉)等のエステル化澱粉;リン酸化澱粉;ヒドロキシプロピル化澱粉等のエーテル化澱粉;リン酸架橋澱粉、アジピン酸架橋澱粉等の架橋澱粉;アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉等の複数の加工を組み合わせた加工澱粉;それらの澱粉又は加工澱粉に対し、油脂加工を施したもの油脂加工澱粉等が挙げられる。
【0013】
ベーキングパウダーは、炭酸ガスやアンモニアガスによって生地の体積を膨張させる目的で用いられる添加物である。一般に、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム等のアルカリ性剤(ガス発生基剤)に、ガスの発生を促進させる酸性剤として、酒石酸、酒石酸水素カリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、第一リン酸カルシウム、第一リン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カルシウム、焼ミョウバン、焼アンモニウムミョウバン、グルコノデルタラクトン、塩化アンモニウム等と、澱粉等の食品素材を組み合わせて配合したものである。本発明のダッチトッピング用組成物に含有されるベーキングパウダーは、速効性ベーキングパウダーであることが好ましい。本発明において、「速効性ベーキングパウダー」は、水に対する溶解性が高く、アルカリ性剤及び、このアルカリ性剤と低温でも反応性が高い酸性剤とを組み合わせたものである。具体的には、本発明において、前記速効性ベーキングパウダーは、酸性剤として、速効性酸性剤である、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、酒石酸、酒石酸水素カリウム、第一リン酸カルシウム、又はそれらの2種以上の混合物を、前記ベーキングパウダーの総質量に基づいて11質量%以上含有する。一方、上記の規定を満たさないベーキングパウダー、即ち、前記速効性酸性剤の含有量が、前記ベーキングパウダーの総質量に基づいて11質量%未満であるベーキングパウダーを「遅効性ベーキングパウダー」と称する。本発明において、前記ベーキングパウダーの含有量は、前記穀粉類100質量部に対して、0.1~12質量部であることが好ましい。なお、後述する実施例に示すように、前記ベーキングパウダーの含有量は、ダッチブレッドを焼成する焼成装置の種類によって、さらに好ましい範囲がある。すなわち、トンネル型オーブン等のスチーム焼成機能を有しないオーブンまたは固定窯、コンベクションオーブン等のスチーム焼成機能を有するオーブンを用いて、スチーム注入をせずに焼成する場合、前記ベーキングパウダーの含有量は、前記穀粉類100質量部に対して、1.5~12質量部であることが好ましく、2.0~11質量部であることがより好ましく、2.5~10質量部であることがさらに好ましい。一方、固定窯、コンベクションオーブン等を用いて、スチーム注入をして焼成する場合、前記ベーキングパウダーの含有量は、前記穀粉類100質量部に対して、0.1~1.5質量部が好ましく、0.2~1.3質量部であることがより好ましく、0.3~1.0質量部であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明のダッチトッピング用組成物は、本発明の効果を阻害しない限り、一般にダッチトッピングに配合される材料を適宜配合することができる。例えば、砂糖、トレハロース、デキストリン、オリゴ糖、ぶどう糖、粉末水あめ、糖アルコール等の糖質;大豆油、ひまわり油、なたね油、胡麻油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、コーン油、米油、パーム油、又はこれらを用いたサラダ油等の液状油脂、ショートニング、バター、マーガリン、ラード、ヘット、カカオバター、パーム硬化油、水素添加硬化油脂等の固形油脂、これらの油脂と乳化剤等から調製された粉末油脂等の食用油脂;グアガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム等の増粘剤;脱脂粉乳等の乳製品、卵白粉、卵黄粉、全卵粉等の卵製品、グルテン、分離大豆たん白、濃縮大豆たん白等のたん白素材;グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;有機酸、有機酸塩等のpH調整剤;制菌剤;イースト(本発明において、インスタントドライイースト、生イーストのどちらでもよい)、その他、食塩、調味料、色素、香料、甘味料、ビタミンC、イーストフード等が挙げられる。なお、これらの材料は、ダッチトッピング用組成物に配合してもよく、後述するように、ダッチブレッドを製造する際に、ダッチトッピングを調製する工程において、水、牛乳、豆乳、液卵、液状油脂等の液状材料と一緒に添加してもよい。
【0015】
[ダッチトッピング]
本発明のダッチトッピングは、本発明のダッチトッピング用組成物を含むバッター状のダッチトッピングである。本発明のダッチトッピングは、本発明のダッチトッピング用組成物を用いることで、イースト発酵と併用して、又はイースト発酵の代わりにベーキングパウダーによる膨化機構を用いることができるので、ダッチトッピングの発酵具合に係らず、ダッチブレッドの焼成時に良好な表面層の割れを生じさせることができる。本発明の製造方法におけるダッチトッピングの調製は、常法に従って行うことができる。例えば、本発明のダッチトッピング用組成物、必要に応じて、上記その他の材料を、水、牛乳、豆乳、液卵、液状油脂等の液状材料とミキサー等で混合することで調製することができる。本発明の効果が良好に得られるように、ダッチトッピングに含まれる穀粉類とベーキングパウダーの含有量の割合は、上述の本発明のダッチトッピング用組成物の説明で記載した範囲であることが好ましい。液状材料の配合量は、適宜調整することができ、好ましくは穀粉類100質量部に対して65~120質量部、さらに好ましくは70~110質量部である。上述の通り、本発明においては、ダッチトッピングにイーストを配合して、ベーキングパウダーによる膨化機構とイースト発酵による膨化機構を併用してもよく、イーストを配合せず、ベーキングパウダーによる膨化機構のみを用いてもよい。イーストを配合する場合、イーストの配合量は、穀粉類100質量部に対して、生イーストの場合は1.5~15質量部が好ましく、2.0~10質量部がさらに好ましく、インスタントドライイーストの場合は、0.5~5質量部が好ましく、0.7~3.3質量部がさらに好ましい。また、ダッチトッピングにイーストを配合した場合、パン生地に塗布する前に、ダッチトッピングを所定の温度で発酵させてもよく、発酵させなくてもよい。ダッチトッピングを発酵させる場合は、25~40℃で30~100分間発酵させることが好ましい。また、本発明のダッチトッピングは、冷凍保存して、必要時に解凍して使用することも可能である。イーストを配合した場合は、発酵させる前に冷凍し、使用前に発酵させることが好ましい。
【0016】
本発明のダッチトッピングの粘度は、後述するダッチブレッド生地の製造方法、ダッチブレッド冷凍生地の製造方法及びダッチブレッドの製造方法に用いることができれば、特に制限はない。ダッチトッピングの粘度は、低過ぎるとパン生地に付着させる際、生地から垂れ落ちて付着量が少なくなり、高過ぎると、パン生地に付着し辛くなり、付着後に程よく広がっていかない。ダッチトッピングの粘度は、全ての製造方法の工程で良好に用いることができるように、20℃において、2000~22000mPa・sであることが好ましく、3000~15000mPa・sであることがさらに好ましく、4000~10000mPa・sが特に好ましい。本発明において、ダッチトッピングの粘度を調整するために、ダッチトッピングにグルテン、及び/又は増粘剤を配合してもよい。グルテン、及び/又は増粘剤は、前記ダッチトッピング用組成物に配合されていてもよく、ダッチトッピングの調製時に液状材料と共に混合してもよい。本発明のダッチトッピングにおいて、グルテン、及び/又は増粘剤の含有量は、上記粘度範囲に調整することができれば、特に制限はない。グルテンの場合は、穀粉類100質量部に対して、1~10質量部であることが好ましく、2~7質量部がさらに好ましく、増粘剤の場合は、穀粉類100質量部に対して、0.1~1質量部であることが好ましく、0.2~0.6質量部であることがさらに好ましい。なお、本発明において、ダッチトッピングの粘度は、B型粘度計「TVB-10M」(東機産業株式会社製)(プランジャーNo.23(SPINDLE No.M4/CORD No.23)使用)を用いて、回転数12rpm、温度20℃で測定した値である。
【0017】
[ダッチブレッド生地の製造方法]
本発明のダッチブレッド生地の製造方法は、パン生地に本発明のダッチトッピングを付着させる工程を含む。本発明の製造方法において、パン生地は、一般にダッチブレッドに用いられるパン生地を適宜調製して用いることができる。通常、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等の小麦粉、及びこれらを常法に従って、例えば湿熱加熱機やパドルドライヤー等の加熱装置を用いて加熱処理した加熱小麦粉;大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、トウモロコシ粉、ホワイトソルガム粉、大豆粉(きな粉)、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉、米粉等の小麦粉以外の穀粉、及びこれらを常法に従って、例えば湿熱加熱機やパドルドライヤー等の加熱装置を用いて加熱処理した加熱穀粉;上述の澱粉類;イースト;砂糖、ぶどう糖、麦芽糖、異性化糖、水あめ等、粉あめ、オリゴ糖、デキストリン、糖アルコール類等の糖質;バター、ラード、サラダ油、マーガリン、ショートニング等の油脂;グルテン、脱脂粉乳、乾燥卵等のたん白質;その他、増粘多糖類、ベーキングパウダー、食塩、カルシウム塩、調味料、香料、ビタミンC、乳化剤、イーストフード等を適宜配合した原材料を混捏機に投入し、水、牛乳、豆乳、液卵、液状油脂等の液状材料とともに混捏した生地を、必要に応じて、一次発酵、分割、成形して調製される。水の量は、原材料に応じて適宜調節することができる。なお、ダッチブレッドは、フィリングを有するものもあるので、前記パン生地は、チーズ類、クリーム類、ハム類等を包み込んだパン生地を用いてもよい。また、調製されたパン生地は、冷凍パン生地又は冷蔵パン生地として、使用時まで保存されていてもよい。
【0018】
本発明の製造方法におけるダッチトッピングを付着させる工程は、最終発酵工程前のパン生地に対して行われてもよく、最終発酵工程後のパン生地に対して行われてもよい。本発明の製造方法においては、前記ダッチトッピングを付着させる工程が、最終発酵工程前のパン生地に対して行われることが好ましい。上述の通り、従来技術においては、最終発酵工程後のパン生地にダッチトッピングを付着させる際に、パン生地がダメージを受け易いため、熟練の技術が必要であった。また、従来のダッチトッピングでは、最終発酵工程前に付着させると、最終発酵工程中にイースト発酵が進み過ぎて粘度が低下し、パン生地から流れ落ちて焼成時に良好な表面層の割れや食感が得られなかった。本発明の製造方法においては、ダッチトッピングが、イースト発酵具合に影響され難いので、最終発酵工程前のパン生地に付着させても、焼成時に良好な表面層の割れを生じさせることができるダッチブレッド生地とすることができる。これにより、ダメージを受け難い状態のパン生地に、ダッチトッピングを塗布する等により付着させることになるので、熟練の技術がなくても、大型製パンラインおける流れ作業や機械による作業であっても、パンの焼成時の火ぶくれの発生やボリュームの低下を防止することができ、ダッチブレッドを安定して製造することができる。本発明において、パン生地にダッチトッピングを付着させる工程は、どのような方法でもよく、前記ダッチトッピングを刷毛等でパン生地に塗布してもよく、ダッチトッピングをパン生地に直接上掛けしてもよく、ダッチトッピングにパン生地を全面に付着させてもよい。
【0019】
[ダッチブレッド冷凍生地の製造方法]
本発明のダッチブレッド冷凍生地の製造方法は、本発明の製造方法によって得られたダッチブレッド生地を冷凍する工程を含む。本発明のダッチトッピングは、イースト発酵と併用して、又はイースト発酵の代わりにベーキングパウダーによる膨化機構を用いることができ、冷凍・解凍の工程において、適度な粘度を保ち、生地から流れ落ち難いため、ダッチブレッド冷凍生地にしても、ダッチブレッドの焼成時に良好な表面層の割れを生じさせることができる。ダッチブレッド生地を冷凍する工程は、常法に従って行うことができる。冷凍は、緩慢冷凍でも急速冷凍でもよいが、急速冷凍が好ましい。パン生地を冷凍する場合は、最終発酵工程前が好ましいので、本発明のダッチブレッド冷凍生地の製造方法において、前記ダッチブレッド生地は、ダッチトッピングを塗布する工程が、最終発酵工程前のパン生地に対して行われるダッチブレッド生地の製造方法によって得られたものが好ましい。
【0020】
[ダッチブレッドの製造方法]
本発明のダッチブレッドの製造方法は、本発明の製造方法によって得られたダッチブレッド生地、又は本発明の製造方法によって得られたダッチブレッド冷凍生地を焼成する工程を含む。これにより、良好な表層部の割れを有するダッチブレッドを容易に安定して製造することができる。ダッチブレッド生地、又はダッチブレッド冷凍生地を焼成する工程は、常法に従って行うことができる。焼成装置の種類、焼成温度及び時間は適宜設定することができる。なお、本発明は、本発明のダッチトッピング用組成物を用いて製造されたダッチブレッドにも関連する。
【実施例0021】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.スチーム注入しないオーブンで焼成するダッチブレッドの製造
1-1.ダッチトッピングの調製
表1に示した通り、各実施例、及び比較例のダッチトッピングを調製した。具体的には、表1に示した各材料(穀粉は、米粉60質量%、及び小麦粉(又は加熱小麦粉)40質量%からなる)をボウルに入れ、混合してバッター状のダッチトッピングを調製し、発酵処理ありの場合は、パン生地への塗布のタイミングに合わせて、28℃で60分間発酵させた。なお、加水量は、焼成直前時に同様の物性になるように適宜調整した。
1-2.パン生地の調製
強力粉100質量部、生イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖4質量部、食塩2質量部、水63質量部をミキサーボウルに入れ、低速3分中速7分混合した後、ショートニング4質量部をさらに加え、低速2分中速5分混合してパン生地を調製した。温度28℃湿度80%下で20分発酵させ、50gに分割し、丸めて室温で20分休ませ、丸めなおした(※1)。温度38℃湿度85%下で最終発酵を60分間行った(※2)。
1-3.ダッチトッピングの塗布
各実施例、及び比較例のダッチトッピングを、刷毛を用いてパン生地の表面に塗布し、ダッチブレッド生地を調製した。
パン生地への塗布のタイミングについては、表1に示した通り、パン生地の最終発酵工程前(上記※1のタイミング)、又は最終発酵工程後(上記※2のタイミング)に行った。なお、この際の作業性について、以下の評価基準に従って評価した。各評価結果は、訓練を受けた専門パネル10名の評点の平均値を示した。結果を表1に示す。
作業性(パン生地への塗布のし易さ)
5:塗布工程でパン生地が全く潰れず、非常に良好
4:塗布工程でパン生地が潰れず、良好
3:塗布工程でパン生地がほとんど潰れず、概ね良好
2:塗布工程でパン生地が少し潰れ、不良
1:塗布工程でパン生地が潰れ、非常に不良
1-4.ダッチブレッドの焼成
ダッチブレッド生地を、オーブンでスチーム注入をせずに、230℃で11分間焼成し、ダッチブレッドを得た。
1-5.ダッチブレッドの評価
1-4.で得られたダッチブレッドについて、以下の評価基準に従って評価した。各評価結果は、訓練を受けた専門パネル10名の評点の平均値を示した。結果を表1に示す。
(1)外観(表面層の割れ)
5:割れが均一で、非常に良好
4:割れが概ね均一で、良好
3:割れにややムラがあるが、概ね良好
2:割れにムラがあり、不良
1:割れが少なく、非常に不良
(2)食感(表面層の食感の軽さ)
5:歯切れが非常に良く、非常に軽い食感で、非常に良好
4:歯切れが良く、軽い食感で、良好
3:歯切れがやや良く、やや軽い食感で、概ね良好
2:歯切れがやや悪く、ややヒキのある食感で、不良
1:歯切れが悪く、ヒキのある食感、非常に不良
【0022】
【0023】
表1に示した通り、穀粉類、及びベーキングパウダーを含有する材料から調製したダッチトッピングをパン生地に塗布してスチーム注入しないオーブンで焼成した実施例1~16のダッチブレッドは、外観(表面層の割れ)、及び食感(表面層の食感の軽さ)が良好であり、作業性(ダッチトッピングのパン生地への塗布のし易さ)も良好であった。一方、従来のイーストを含み、ベーキングパウダーを含まない材料から調製したダッチトッピングを用いた比較例1及び比較例2のダッチブレッドでは、外観、及び食感は良好であったが、イースト発酵が必要であり、且つダッチトッピングのパン生地への塗布のタイミングが最終発酵工程後であり、パン生地に塗布しにくく、またパン生地を傷めやすかったため、作業性は評価が低かった。なお、従来のダッチトッピングを用いて、最終発酵工程前に塗布した比較例3のダッチブレッドでは、外観、及び食感の評価が低かった。これは最終発酵工程中にイースト発酵が進み過ぎて粘度が低下し、ダッチトッピングがパン生地から流れ落ちたためと考えられた。また、実施例1、実施例7及び実施例8のように、ダッチトッピングがベーキングパウダーを含有すれば、イーストを含まない場合でも、良好な外観、及び食感のダッチブレッドを製造することができることが示された。さらに、ベーキングパウダーとイーストを併用する場合でも、発酵処理ありの実施例2と発酵処理なしの実施例3とを比較すると、発酵処理を行わなくても、良好な外観、及び食感のダッチブレッドを製造することができることが示された。ベーキングパウダーの種類については、速効性ベーキングパウダーを用いた実施例3及び実施例5と遅効性ベーキングパウダーを用いた実施例6とを比較すると、実施例3及び実施例5の方が、ダッチブレッドの外観及び食感の評価が高く、速効性ベーキングパウダーを用いた方が好ましいことが示唆された。ベーキングパウダーの配合量としては、実施例1、実施例7及び実施例8の結果、実施例3、実施例9及び実施例10の結果、並びに実施例11、実施例12及び実施例13の結果から、穀粉類100質量部に対して、2.5~10質量部であることが好ましいことが示唆された。なお、穀粉として米粉とともに加熱小麦粉を用いた実施例14、実施例15及び実施例16は、同じ条件で小麦粉を用いた実施例2、実施例3及び実施例4と比較すると、外観、及び食感の評価がやや高かった。
【0024】
また、ダッチトッピングのパン生地への塗布のタイミングとしては、最終発酵工程前に塗布した実施例3と最終発酵工程後に塗布した実施例4とを比較すると、実施例3の方が、作業性が良好であっただけでなく、ダッチブレッドの外観、及び食感の評価も高かった。したがって、本発明において、ダッチトッピングを塗布する工程は、最終発酵工程前のパン生地に対して行われることが好ましいことが示された。
【0025】
2.スチーム注入するオーブンで焼成するダッチブレッドの製造
2.1.ダッチトッピングの調製
表2に示した通り、各実施例、及び比較例のダッチトッピングを調製した。具体的には、表1に示した各材料(穀粉は、米粉38質量%、小麦粉26質量%、及び澱粉26質量%からなる)をボウルに入れ、混合してバッター状のダッチトッピングを調製し、パン生地への塗布のタイミングに合わせて、28℃で30分間発酵させた。なお、加水量は、焼成直前時に適度な粘度になるように調整した。
2-2.パン生地の調製
強力粉100質量部、生イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖4質量部、食塩2質量部、水63質量部をミキサーボウルに入れ、低速3分中速7分混合した後、ショートニング4質量部をさらに加え、低速2分中速5分混合してパン生地を調製した。温度28℃湿度80%下で20分発酵させ、50gに分割し、丸めて室温で20分休ませ、丸めなおしパン生地を得た。
2-3.ダッチトッピングの塗布
各実施例のダッチトッピングを、パン生地の表面に付着させ、ダッチブレッド生地を調製した。この際の作業性について、以下の評価基準に従って評価した。各評価結果は、訓練を受けた専門パネル10名の評点の平均値を示した。結果を表2に示す。
作業性(パン生地への塗布のし易さ)
5:非常に良好
4:良好
3:概ね良好
2:やや粘度が高く、又はやや粘度が低くて生地に付き難く、やや不良
1:粘度が高過ぎ、又は粘度が低過ぎて生地に付かず不良
2-4.ダッチブレッド生地の冷凍生地化
表2に示したように、ダッチブレッド生地を冷凍生地化する場合は、ダッチトッピングをパン生地に塗布した直後、-35℃で急速冷凍し、-25℃で保存した。
2-5.ダッチブレッドの焼成
ダッチブレッド生地を、冷凍生地化しない場合は、ダッチトッピングを塗布した後、温度38℃湿度85%下で最終発酵を60分間行った。また、冷凍生地化した場合は、温度20℃湿度80%下で150分間解凍し、温度38℃湿度85℃下で最終発酵を50分間行った 。その後、オーブンでスチーム注入をし、210℃で13分間焼成し、ダッチブレッドを得た。
2-6.ダッチブレッドの評価
2-5.で得られたダッチブレッドについて、1-5と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0026】
【0027】
表2に示した通り、穀粉類、及びベーキングパウダーを含有する材料から調製したダッチトッピングをパン生地に塗布してスチーム注入するオーブンで焼成した実施例17~28のダッチブレッドは、外観(表面層の割れ)、及び食感(表面層の食感の軽さ)が良好であり、作業性(ダッチトッピングのパン生地への塗布のし易さ)も良好であった。ダッチトッピングの粘度については、2900~20700mPa・sの範囲で良好であったが、同様な組成物で、加水量を変えて粘度を調整した場合、20700mPa・sの実施例25、及び2900mPa・sの実施例28と比較して、10700mPa・sの実施例26及び27の方が良好な評価であった。また、同様な加水量で、グルテンや増粘剤を配合して粘度を調整した場合、グルテンや増粘剤を配合していない実施例21及び22と比較して、配合した実施例17~20、23、及び24の方が良好な評価であった。これらの結果から、ダッチトッピングの粘度は、2000~22000mPa・sであることが好ましいことが示唆された。また、グルテンや増粘剤を配合することが好ましいことが示唆された。さらに、同様な配合でダッチトッピングを塗布した後、冷凍生地化しない実施例17、実施例21、及び実施例26と、冷凍生地化した実施例18、実施例22、及び実施例27をそれぞれ比較すると、何れも同等の評価結果であった。
【0028】
以上により、本発明のダッチトッピング用組成物を用いることで、ダッチトッピングを容易に調製することができ、良好な表面層の割れを有するダッチブレッドを容易に安定して製造可能であることが示された。また、本発明のダッチトッピングをパン生地に付着させたダッチブレッド生地を冷凍生地化しても良好なダッチブレッドが得られることが示された。
【0029】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
本発明により、ダッチトッピングを容易に調製することができ、良好な表面層の割れを有するダッチブレッドを容易に安定して製造することができるので、良好な品質のダッチブレッドを安定して提供することができる。さらに、良好な品質のダッチブレッドを容易に製造可能なダッチブレッド冷凍生地を提供することもできる。