(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169114
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】粉体塗料、塗装物品の製造方法、及び、塗装物品
(51)【国際特許分類】
C09D 127/12 20060101AFI20221101BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20221101BHJP
C09D 127/16 20060101ALI20221101BHJP
C09D 127/18 20060101ALI20221101BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221101BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D5/03
C09D127/16
C09D127/18
B05D7/24 301A
B05D3/02 Z
B05D7/24 302L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074955
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】セドリックチン ヤンシェン
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA09
4D075BB26Z
4D075BB29Z
4D075BB74X
4D075CA13
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4J038CD091
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4J038NA12
4J038PC02
4J038PC04
4J038PC07
(57)【要約】
【課題】基材密着性及び耐薬品性に優れた塗膜を形成できる粉体塗料、塗装物品の製造方法、並びに、塗装物品の提供。
【解決手段】本発明の粉体塗料は、非晶性フッ素樹脂と、結晶性フッ素樹脂と、を含む粉体塗料であって、非晶性フッ素樹脂の200℃における溶融粘度Aが、1,000Pa・s以下であり、溶融粘度Aと、結晶性フッ素樹脂の200℃における溶融粘度Bとが、下式(M1)を満たす。式(M1):溶融粘度A+50≦溶融粘度B[Pa・s]≦溶融粘度A+5,000
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性フッ素樹脂と、結晶性フッ素樹脂と、を含む粉体塗料であって、
前記非晶性フッ素樹脂の200℃における溶融粘度Aが、1,000Pa・s以下であり、
前記溶融粘度Aと、前記結晶性フッ素樹脂の200℃における溶融粘度Bとが、下式(M1)を満たすことを特徴とする、粉体塗料。
溶融粘度A+50[Pa・s]≦溶融粘度B[Pa・s]≦溶融粘度A+5,000[Pa・s] 式(M1)
【請求項2】
前記結晶性フッ素樹脂が、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体及びテトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の粉体塗料。
【請求項3】
前記非晶性フッ素樹脂が、フルオロオレフィンに基づく単位と、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、(メタ)アクリル酸エステル又はアリルアルコールに基づく単位と、を含む、請求項1又は2に記載の粉体塗料。
【請求項4】
前記非晶性フッ素樹脂が、架橋性基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項5】
前記非晶性フッ素樹脂が有する架橋性基と反応しうる硬化剤を更に含む、請求項4に記載の粉体塗料。
【請求項6】
結晶性フッ素樹脂の含有量に対する、非晶性フッ素樹脂の含有量の質量比が、10/90~90/10である、請求項1~5のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項7】
前記非晶性フッ素樹脂及び前記結晶性フッ素樹脂を含む粒子を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の粉体塗料を基材の表面に塗装して塗装層を形成し、前記塗装層を溶融硬化させて塗膜を形成する、塗装物品の製造方法。
【請求項9】
基材と、前記基材の表面上に配置された請求項1~7のいずれか1項に記載の粉体塗料から形成されてなる塗膜とを有する、塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料、塗装物品の製造方法、及び、塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料分野において、環境保全の点から、揮発性有機化合物(VOC)を含まない粉体塗料が注目されている。中でも、耐候性等を向上させる塗料として、含フッ素重合体を含む粉体塗料の開発がなされている。
特許文献1には、含フッ素重合体としてポリフッ化ビニリデンを含む粉体塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、粉体塗料を用いて形成される塗膜の基材密着性及び耐薬品性について、更なる向上が求められている。
本発明者は、特許文献1に記載のポリフッ化ビニリデンを含む粉体塗料を用いて形成した塗膜を評価したところ、塗膜の基材密着性及び耐薬品性の少なくとも一方に改善の余地があることを知見した。
【0005】
本発明は、基材密着性及び耐薬品性に優れた塗膜を形成できる粉体塗料、塗装物品の製造方法、並びに、塗装物品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
[1]非晶性フッ素樹脂と、結晶性フッ素樹脂と、を含む粉体塗料であって、上記非晶性フッ素樹脂の200℃における溶融粘度Aが、1,000Pa・s以下であり、上記溶融粘度Aと、上記結晶性フッ素樹脂の200℃における溶融粘度Bとが、下式(M1)を満たすことを特徴とする、粉体塗料。
溶融粘度A+50[Pa・s]≦溶融粘度B[Pa・s]≦溶融粘度A+5,000[Pa・s] 式(M1)
[2]上記結晶性フッ素樹脂が、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体及びテトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]の粉体塗料。
[3]上記非晶性フッ素樹脂が、フルオロオレフィンに基づく単位と、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、(メタ)アクリル酸エステル又はアリルアルコールに基づく単位と、を含む、[1]又は[2]の粉体塗料。
[4]上記非晶性フッ素樹脂が、架橋性基を有する、[1]~[3]のいずれかの粉体塗料。
[5]上記非晶性フッ素樹脂が有する架橋性基と反応しうる硬化剤を更に含む、[4]の粉体塗料。
[6]結晶性フッ素樹脂の含有量に対する、非晶性フッ素樹脂の含有量の質量比が、10/90~90/10である、[1]~[5]のいずれかの粉体塗料。
[7]上記非晶性フッ素樹脂及び上記結晶性フッ素樹脂を含む粒子を含む、[1]~[6]のいずれかの粉体塗料。
[8][1]~[7]のいずれかの粉体塗料を基材の表面に塗装して塗装層を形成し、上記塗装層を溶融硬化させて塗膜を形成する、塗装物品の製造方法。
[9]基材と、上記基材の表面上に配置された[1]~[7]のいずれかの粉体塗料から形成されてなる塗膜とを有する、塗装物品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基材密着性及び耐薬品性に優れた塗膜を形成できる粉体塗料、塗装物品の製造方法、並びに、塗装物品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの総称であり、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの総称である。
反応性シリル基とは、加水分解性シリル基及びシラノール基(-Si-OH)の総称である。加水分解性シリル基とは、加水分解反応してシラノール基を形成し得る基を意味する。
単位とは、単量体の重合により直接形成された、上記単量体1分子に由来する原子団と、上記原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。重合体が含む全単位に対する、それぞれの単位の含有量(モル%)は、重合体を核磁気共鳴スペクトル法により分析して求められる。
粒子の平均粒子径は、レーザー回折法を測定原理とした公知の粒度分布測定装置(Sympatec社商品名Helos-Rodos等)を用いて測定される粒度分布より体積平均を算出して求められる50%径の値である。
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定される中間点ガラス転移温度である。
融点(Tm)は、示差走査熱量測定(DSC)法によって、ASTM D3418に従って測定される値である。
溶融粘度は、回転式レオメータを用いて、昇温速度:10℃/分の条件にて50℃から300℃まで昇温測定する際の、試料の200℃における溶融粘度の値である。
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ポリスチレンを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される値である。
酸価及び水酸基価は、それぞれ、JIS K 0070-3(1992)の方法に準じて測定される値である。
膜厚は、渦電流式膜厚計(サンコウ電子社商品名EDY-5000等)を用いて測定される値である。
【0009】
本発明の粉体塗料(以下、本塗料ともいう。)は、非晶性フッ素樹脂と、結晶性フッ素樹脂と、を含む粉体塗料であって、上記非晶性フッ素樹脂の200℃における溶融粘度Aが1,000Pa・s以下であり、溶融粘度Aと、上記結晶性フッ素樹脂の200℃における溶融粘度Bとが後述の式(M1)を満たす。
本塗料を用いて得られる塗膜(以下、本塗膜ともいう。)は、基材密着性及び耐薬品性に優れる。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。
本塗料に含まれる非晶性フッ素樹脂は、本塗料に含まれる結晶性フッ素樹脂よりも溶融粘度が低い。そのため、本塗料を溶融硬化させて本塗膜を形成する際において、非晶性フッ素樹脂の流動性が、本塗料に含まれる結晶性フッ素樹脂の流動性よりも高くなる。これにより、基材との密着性に優れる非晶性フッ素樹脂が基材側に偏在し、耐薬品性に優れる結晶性フッ素樹脂が空気側に偏在する結果、基材密着性及び耐薬品性に優れた塗膜が得られたと考えられる。
【0010】
本発明において、非晶性フッ素樹脂とは、フッ素原子を含む重合体であり、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したときに、ガラス転移温度のただ一つのピークが観測される樹脂を意味する。
【0011】
非晶性フッ素樹脂は、フッ素原子を含む重合体であり、フルオロオレフィンに基づく単位(以下、単位F1ともいう。)を含む重合体であることが好ましい。
フルオロオレフィンは、水素原子の1個以上がフッ素原子で置換されたオレフィンである。フルオロオレフィンは、フッ素原子で置換されていない水素原子の1個以上が塩素原子で置換されていてもよい。フルオロオレフィンの炭素数としては、2~8が好ましく、2~6がより好ましく、2~4が特に好ましい。
【0012】
フルオロオレフィンの具体例としては、CF2=CF2、CF2=CFCl、CF2=CHF、CH2=CF2、CF2=CFCF3、CF2=CHCF3、CF3CH=CHF、CF3CF=CH2、式CH2=CXf1(CF2)n1Yf1(式中、Xf1及びYf1は、独立に水素原子又はフッ素原子であり、n1は2~10の整数である。)で表される単量体が挙げられる。
フルオロオレフィンとしては、本塗膜の耐候性の点から、CF2=CF2、CH2=CF2、CF2=CFCl、CF3CH=CHF、及び、CF3CF=CH2が好ましく、CF2=CF2、CH2=CF2及びCF2=CFClがより好ましく、CF2=CFClが特に好ましい。
フルオロオレフィンは、2種以上を併用してもよい。
【0013】
非晶性フッ素樹脂は、フッ素原子を有する単位として、単位F1のみを含んでいてもよく、フルオロオレフィン以外のフッ素原子を含む単量体に基づく単位を含んでいてもよく、フルオロオレフィン以外のフッ素原子を含む単量体に基づく単位と単位F1との両方を含んでいてもよい。
【0014】
非晶性フッ素樹脂が単位F1を含む場合の含有量は、本塗膜の耐候性の点から、非晶性フッ素樹脂が含む全単位に対して、20~80モル%が好ましく、30~70モル%がより好ましく、40~60モル%が特に好ましい。
【0015】
非晶性フッ素樹脂は、フッ素原子を含まない単量体(以下、単量体C1ともいう。)に基づく単位(以下、単位C1ともいう。)を含むことが好ましい。
単量体C1としては、アルケン、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、(メタ)アクリル酸エステル、アリルアルコールが挙げられ、重合安定性の点から、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、(メタ)アクリル酸エステル、アリルアルコールが好ましく、ビニルテール、ビニルエステルがより好ましく、フルオロオレフィンとの交互共重合性の点から、ビニルエーテルが特に好ましい。
単量体C1は、2種以上を併用してもよい。
非晶性フッ素樹脂が単位C1を含む場合の含有量は、非晶性フッ素樹脂が含む全単位に対して、1~70モル%が好ましく、5~60モル%がより好ましく、10~55モル%が特に好ましい。
【0016】
非晶性フッ素樹脂は、本塗膜の基材密着性がより優れる点から、架橋性基を有することが好ましい。該架橋性基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基、オキセタニル基、反応性シリル基等が挙げられ、ヒドロキシ基又はカルボキシ基が好ましく、ヒドロキシ基が特に好ましい。
架橋性基は、単位C1に含まれることが好ましい。架橋性基を有する単位C1は、架橋性基を有する単量体(以下、単量体C11ともいう。)に基づく単位(以下、単位C11ともいう。)であってもよく、架橋性基に変換可能な基を有する単位を含む非晶性フッ素樹脂において、該基を架橋性基に変換させて得られる単位であってもよい。
【0017】
単量体C11は、ヒドロキシ基を有する単量体であるのが好ましい。
ヒドロキシ基を有する単量体としては、ヒドロキシ基を有する、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、(メタ)アクリル酸エステル、アリルアルコール等が挙げられる。ヒドロキシ基を有する単量体は、フルオロオレフィンとの重合性の点から、ビニルエーテルが好ましい。
ヒドロキシ基を有する単量体の具体例としては、CH2=CHO-CH2-cycloC6H10-CH2OH、CH2=CHCH2O-CH2-cycloC6H10-CH2OH、CH2=CHOCH2CH2OH、CH2=CHCH2OCH2CH2OH、CH2=CHOCH2CH2CH2CH2OH、CH2=CHCH2OCH2CH2CH2CH2OHが挙げられる。ヒドロキシ基を有する単量体としては、フルオロオレフィンとの共重合性の点から、CH2=CHCH2OCH2CH2OH、及び、CH2=CHOCH2CH2CH2CH2OHが好ましい。
なお、「-cycloC6H10-」はシクロへキシレン基を表し、「-cycloC6H10-」の結合部位は、通常1,4-である。
ヒドロキシ基を有する単量体は、2種以上を併用してもよい。
【0018】
単量体C11は、カルボキシ基を有する単量体であってもよい。
カルボキシ基を有する単量体としては、不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸、上記ヒドロキシ基を有する単量体のヒドロキシ基にカルボン酸無水物を反応させて得られる単量体等が挙げられる。
カルボキシ基を有する単量体の具体例としては、CH2=CHCOOH、CH(CH3)=CHCOOH、CH2=C(CH3)COOH、HOOCCH=CHCOOH、CH2=CH(CH2)n11COOHで表される単量体(ただし、n11は1~10の整数を示す。)、及びCH2=CHO(CH2)n12OC(O)CH2CH2COOHで表される単量体(ただし、n12は1~10の整数を示す。)が挙げられる。カルボキシ基を有する単量体としては、フルオロオレフィンとの共重合性の点から、CH2=CH(CH2)n11COOHで表される単量体及びCH2=CHO(CH2)n12OC(O)CH2CH2COOHで表される単量体が好ましい。
カルボキシ基を有する単量体は、2種以上を併用してもよい。
【0019】
非晶性フッ素樹脂が単位C11を含む場合の含有量は、非晶性フッ素樹脂が含む全単位に対して、1~40モル%が好ましく、3~25モル%がより好ましく、5~15モル%が特に好ましい。
【0020】
フッ素原子を含まない単量体に基づく単位は、本塗膜の塗膜物性を調節するために、架橋性基を有しない単位(以下、単位C12ともいう。)を含んでいてもよい。
単位C12は、架橋性基を有さず、かつフッ素原子を有さない単量体(以下、単量体C12ともいう。)に基づく単位が好ましい。
【0021】
単量体C12の具体例としては、アルケン、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
単量体C12としては、フルオロオレフィンとの重合性の点から、ビニルエーテル及びビニルエステルが好ましく、ビニルエーテルが特に好ましい。
【0022】
単量体C12の具体例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、エチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ネオデカン酸ビニルが挙げられる。
単量体C12は、2種以上を併用してもよい。
【0023】
単量体C12は、式X1-Z1で表される単量体C13であることが好ましい。
【0024】
X1は、CH2=CHC(O)O-、CH2=C(CH3)C(O)O-、CH2=CHOC(O)-、CH2=CHCH2OC(O)-、CH2=CHO-、又は、CH2=CHCH2O-である。
X1は、フッ素原子を有する単量体との重合性の点から、CH2=CHOC(O)-、CH2=CHCH2OC(O)-、CH2=CHO-、及び、CH2=CHCH2O-が好ましく、CH2=CHOC(O)-、CH2=CHO-、及び、CH2=CHCH2OC(O)-が特に好ましい。
【0025】
Z1は、式-C(ZR1)3で表される炭素数4~8のアルキル基(ただし、3個のZR1はそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基である。)、炭素数6~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のシクロアルキルアルキル基、炭素数6~10のアリール基、又は、炭素数7~12のアラルキル基である。中でも、本塗膜の耐候性の点から、式-C(ZR1)3で表される炭素数4~8のアルキル基及び炭素数6~10のシクロアルキル基が好ましい。
【0026】
式-C(ZR1)3で表される基は、この式で明示された「C(炭素原子)」に3個の式ZR1で表される基が結合した3級炭素原子を有する構造を有しており、上記基が式X1で表される基に直接結合している。3個のZR1は、3個ともにメチル基であるか、1個がメチル基であり、残りの2個がそれぞれ独立に炭素数2~5のアルキル基であるか、2個がメチル基であり、1個が炭素数3~5のアルキル基であるのが好ましい。1個がメチル基であり、残りの2個がそれぞれ独立に炭素数2~5のアルキル基である場合、3個のZ1のうちの残りの2個の炭素原子の総数は、4~6が好ましい。式-C(ZR1)3で表される基は、tert-ブチル基、及び、ZR1で表される基の2個がメチル基でありかつ1個が炭素数3~5のアルキル基である3級アルキル基が特に好ましい。
シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が好ましい。
シクロアルキルアルキル基としては、シクロヘキシルメチル基が好ましい。
アラルキル基としては、ベンジル基が好ましい。
アリール基としては、フェニル基及びナフチル基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
なお、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アリール基、アラルキル基の水素原子は、アルキル基で置換されていてもよい。この場合、置換基としてのアルキル基の炭素数は、シクロアルキル基、アリール基の炭素数には含めない。
【0027】
単量体C13の具体例としては、シクロヘキシルビニルエーテル、ピバル酸ビニル、ネオノナン酸ビニル、安息香酸ビニル、tert-ブチルビニルエーテル、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
単量体C13は、2種以上を併用してもよい。
【0028】
非晶性フッ素樹脂が単位C12を含む場合の単位C12の含有量は、非晶性フッ素樹脂が含む全単位に対して、5~60モル%が好ましく、20~50モル%がより好ましく、30~45モル%が特に好ましい。非晶性フッ素樹脂が、単位C12の中でも、単量体C13に基づく単位を含む場合の、単量体C13に基づく単位の含有量は、非晶性フッ素樹脂のTgが向上する点から、非晶性フッ素樹脂が含む全単位に対して、5~60モル%が好ましく、20~50モル%がより好ましく、30~45モル%が特に好ましい。
【0029】
非晶性フッ素樹脂は、非晶性フッ素樹脂が含む全単位に対して、単位F1と単位C11と単位C12とを、この順に20~80モル%、1~40モル%、5~60モル%含むのが好ましく、40~60モル%、5~15モル%、30~45モル%含むのが特に好ましい。
【0030】
非晶性フッ素樹脂のTgは、40~120℃が好ましく、45~100℃がより好ましく、50~80℃が特に好ましい。
【0031】
非晶性フッ素樹脂のMnは、8,000~50,000が好ましく、8,000~20,000が特に好ましい。
【0032】
非晶性フッ素樹脂は水酸基価を有することが好ましい。水酸基価としては、0超200mgKOH/g未満が好ましく、15~70mgKOH/gがより好ましく、30~60mgKOH/gが特に好ましい。
非晶性フッ素樹脂は酸価を有してもよく、この場合の非晶性フッ素樹脂の酸価は、50mgKOH/g以下が好ましく、1mgKOH/g以下がより好ましく、0.1mgKOH/g以下が特に好ましい。
【0033】
非晶性フッ素樹脂の200℃における溶融粘度Aは、1,000Pa・s以下であり、本塗膜の基材密着性がより優れる点から、500Pa・s以下が好ましく、300Pa・s以下が更に好ましく、100Pa・s以下が特に好ましい。
溶融粘度Aは、非晶性フッ素樹脂を含む層と結晶性フッ素樹脂を含む層との層分離の点から、10Pa・s以上が好ましく、30Pa・s以上が特に好ましい。
【0034】
非晶性フッ素樹脂は、2種以上を併用してもよい。
非晶性フッ素樹脂の含有量は、本塗料の全質量に対して、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~70質量%が特に好ましい。非晶性フッ素樹脂の含有量が下限値以上であれば、本塗膜の基材密着性がより優れる。非晶性フッ素樹脂の含有量が上限値以下であれば、本塗膜の耐薬品性がより優れる。
【0035】
非晶性フッ素樹脂は、公知の方法で製造できる。非晶性フッ素樹脂の製造方法としては、溶媒とラジカル重合開始剤の存在下、各単量体を共重合させる方法が挙げられ、具体例としては、溶液重合、乳化重合、懸濁重合が挙げられる。製造における反応温度、反応圧力及び反応時間は、適宜調整されればよい。
【0036】
本発明において、結晶性フッ素樹脂とは、フッ素原子を含む重合体であり、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したときに、ガラス転移温度のただ一つのピークが観測されない樹脂を意味する。
【0037】
結晶性フッ素樹脂は、フッ素原子を含む重合体であり、フルオロオレフィンに基づく単位(以下、単位F2ともいう。)を含む重合体であることが好ましい。
フルオロオレフィンの具体例としては、単位F1において説明したフルオロオレフィンと同様であるが、耐薬品性の点から、CF2=CF2、CH2=CF2が特に好ましい。
フルオロオレフィンは、2種以上を併用してもよい。
結晶性フッ素樹脂が単位F2を含む場合の含有量は、本塗膜の耐薬品性がより優れる点から、結晶性フッ素樹脂が含む全単位に対して、30~100モル%が好ましく、60~100モル%がより好ましく、90~100モル%が特に好ましい。
【0038】
結晶性フッ素樹脂は、フッ素原子を有する単位として、単位F1のみを含んでいてもよく、フルオロオレフィン以外のフッ素原子を含む単量体に基づく単位を含んでいてもよく、フルオロオレフィン以外のフッ素原子を含む単量体に基づく単位と単位F1との両方を含んでいてもよい。
【0039】
フルオロオレフィン以外のフッ素原子を含む単量体に基づく単位としては、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位が挙げられる。
パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の具体例としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が挙げられる。
フルオロオレフィン以外のフッ素原子を含む単量体は、2種以上を併用してもよい。
【0040】
結晶性フッ素樹脂は、フッ素原子を含まない単量体(以下、単量体C2ともいう。)に基づく単位(以下、単位C2ともいう。)を含んでいてもよい。単位C2は、上述の架橋性基を有しないことが好ましい。
単量体C2としては、アルケン、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、(メタ)アクリル酸エステル、アリルアルコールが挙げられ、結晶性フッ素樹脂が得られやすい点から、アルケンが好ましく、エチレンが特に好ましい。
単量体C2は、2種以上を併用してもよい。
結晶性フッ素樹脂が単位C2を含む場合の含有量は、結晶性フッ素樹脂が含む全単位に対して、60モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、0モル%超10モル%以下が特に好ましい。
【0041】
結晶性フッ素樹脂は、耐薬品性により優れた塗膜が得られる点から、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体及びテトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0042】
結晶性フッ素樹脂のTmは、100~250℃が好ましく、120~220℃がより好ましく、150~190℃が特に好ましい。
【0043】
結晶性フッ素樹脂のMwは、100,000~500,000が好ましく、150,000~450,000がより好ましい。
【0044】
結晶性フッ素樹脂の200℃における溶融粘度Bは、6,000Pa・s以下であり、本発明の効果がより優れる点から、5,000Pa・s以下が好ましく、4,500Pa・s以下が特に好ましい。
溶融粘度Bは、非晶性フッ素樹脂を含む層と結晶性フッ素樹脂を含む層との層分離の点から、2,000Pa・s以上が好ましく、3,000Pa・s以上がより好ましく、4,000Pa・s以上が特に好ましい。
【0045】
溶融粘度A及び溶融粘度Bは、下式(M1)の関係を満たし、本発明の効果がより優れる点から、下式(M2)の関係を満たすのが特に好ましい。
溶融粘度A+50≦溶融粘度B[Pa・s]≦溶融粘度A+5,000 式(M1)
溶融粘度A+4,000≦溶融粘度B[Pa・s]≦溶融粘度A+4,500 式(M2)
【0046】
結晶性フッ素樹脂は、2種以上を併用してもよい。
結晶性フッ素樹脂の含有量は、本塗料の全質量に対して、5~90質量%が好ましく、10~60質量%がより好ましく、15~50質量%が特に好ましい。結晶性フッ素樹脂の含有量が下限値以上であれば、本塗膜の耐薬品性がより優れる。結晶性フッ素樹脂の含有量が上限値以下であれば、本塗膜の基材密着性がより優れる。
【0047】
結晶性フッ素樹脂の含有量に対する、非晶性フッ素樹脂の含有量の質量比(非晶性フッ素樹脂の含有量/結晶性フッ素樹脂の含有量)は、10/90~90/10が好ましく、25/75~85/15がより好ましく、45/55~80/20が更に好ましく、45/55~60/40が特に好ましい。上記質量比が上記範囲内であれば、本塗膜の耐薬品性及び基材密着性の少なくとも一方がより優れる。
【0048】
結晶性フッ素樹脂は、公知の方法で製造できる。結晶性フッ素樹脂の製造方法の具体例は、非晶性フッ素樹脂の製造方法で挙げた具体例と同様である。
【0049】
本塗料は、硬化剤を含んでいてもよい。
硬化剤は、樹脂成分(例えば、非晶性フッ素樹脂、結晶性フッ素樹脂等、後述の非フッ素樹脂等)が有する架橋性基と反応し得る反応性基を1分子中に2個以上有することが好ましく、2~30個有することが特に好ましい。
樹脂成分が架橋性基を有する場合、硬化剤が有する反応性基と、樹脂成分が有する架橋性基とが反応すると、樹脂成分が硬化剤によって架橋し、架橋した樹脂成分が形成される。
【0050】
硬化剤が有する反応性基の具体例としては、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、エポキシ基、オキサゾリン基、β-ヒドロキシアルキルアミド基が挙げられる。
特に、架橋性基がヒドロキシ基である場合、硬化剤が有する反応性基としては、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基が好ましい。この場合、硬化剤としては、イソシアネート基又はブロック化イソシアネート基を1分子中に2以上有する硬化剤であるポリイソシアネートが好ましい。
ポリイソシアネートとしては、ポリイソシアネート単量体、ポリイソシアネート誘導体が好ましい。
ポリイソシアネート単量体としては、脂環族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートが好ましい。ポリイソシアネート誘導体としては、ポリイソシアネート単量体の多量体又は変性体(アダクト体、アロファネート体、ビウレット体、イソシアヌレート体等)が好ましい。
【0051】
脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ジイソシアナトヘキサン、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、リジントリイソシアネート、4-イソシアナトメチル-1,8-オクタメチレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)2-イソシアナトグルタレートが挙げられる。
脂環族ポリイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)-シクロヘキサン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートが挙げられる。
芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0052】
ポリイソシアネートは、上述したポリイソシアネート単量体又はポリイソシアネート誘導体が有する2以上のイソシアネート基が、ブロック化剤によってブロックされている化合物であってもよい。
ブロック化剤は、活性水素を有する化合物であり、具体例としては、アルコール、フェノール、活性メチレン、アミン、イミン、酸アミド、ラクタム、オキシム、ピラゾール、イミダゾール、イミダゾリン、ピリミジン、グアニジンが挙げられる。
【0053】
樹脂成分のいずれか1種以上が酸価を有する場合等に、カルボキシ基と反応し得る基(エポキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、β-ヒドロキシアルキルアミド基等)を1分子中に2以上有する硬化剤を使用してもよい。
【0054】
硬化剤は、2種以上を併用してもよい。
本塗料における硬化剤の含有量は、本塗料中の樹脂成分の合計含有量100質量部に対して、1~80質量部が好ましく、15~75質量部が特に好ましい。
【0055】
本塗料は、更に添加剤を含んでよい。添加剤としては、非フッ素樹脂((メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等)、顔料、触媒(硬化触媒等)、フィラー(樹脂ビーズ等)、光安定剤、紫外線吸収剤、つや消し剤、表面調整剤、脱ガス剤、流動剤、熱安定剤、帯電防止剤、防錆剤、シランカップリング剤、低汚染化処理剤、可塑剤、接着剤等が挙げられる。
【0056】
本塗料は、溶媒(水、有機溶媒等)を含んでも含まなくてもよく、溶媒を含まないのが好ましい。本塗料が溶媒を含む場合は、本塗料の全質量に対して1質量%未満であることが好ましい。
【0057】
本塗料は、非晶性フッ素樹脂、結晶性フッ素樹脂、必要に応じて硬化剤及び/又は添加剤を混合して製造できる。混合する非晶性フッ素樹脂、結晶性フッ素樹脂、硬化剤、添加剤等は、それぞれ独立した粉体状又はペレット状であってよい。
【0058】
本塗料の製造方法の一態様としては、非晶性フッ素樹脂を含む粉体Aと、結晶性フッ素樹脂を含む粉体Bとを混合して粉体塗料を得る方法が挙げられる。この方法はドライブレンドとも称され、混合に際して溶融混練を行わない方法である。この場合、粉体A、及び、粉体Bの少なくともいずれかは硬化剤を含むのが好ましい。
【0059】
また、本塗料の製造方法の一態様としては、非晶性フッ素樹脂、結晶性フッ素樹脂、必要に応じて硬化剤及び/又は添加剤を、溶融混練し、冷却し、次いで粉砕して粉体塗料を得る方法が挙げられる。この場合、非晶性フッ素樹脂及び結晶性フッ素樹脂が同一粒子内に含まれる。本塗料は、本発明の効果がより発揮される点から、溶融混練により製造されるのが好ましい。溶融混練の温度としては、80~160℃が好ましい。
【0060】
粉砕は、ピンミル、ハンマーミル、ジェットミル等の粉砕機を用いて行えばよい。粉砕を行った後は、粉砕物を分級して、得られる粉体塗料の粒子径を揃えるのが好ましい。粉体塗料の平均粒子径は、1~100μmが好ましく、10~80μmがより好ましく、25~50μmが特に好ましい。
【0061】
本塗膜は、本塗料を基材上に付与して形成される。
また、本発明の塗装物品は、基材と、基材上に配置された本塗料から形成されてなる塗膜と有する。
基材の材質の具体例としては、無機物、有機物、有機無機複合材が挙げられる。
無機物の具体例としては、コンクリート、自然石、ガラス、金属(鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮、チタン等)が挙げられる。
有機物の具体例としては、プラスチック、ゴム、接着剤、木材が挙げられる。
有機無機複合材の具体例としては、繊維強化プラスチック、樹脂強化コンクリート、繊維強化コンクリートが挙げられる。
また、基材は、公知の表面処理(化成処理等)が施されていてもよい。また、基材の表面には、プライマー等を塗布して形成される樹脂層(ポリエステル樹脂層、アクリル樹脂層、シリコーン樹脂層等)等をあらかじめ有していてもよい。
【0062】
上記の中でも、基材の材質は、金属が好ましく、アルミニウムが特に好ましい。アルミニウム製の基材は、防食性に優れ、軽量で、外装部材等の建築材料用途に適している。
基材の形状、サイズ等は、特に限定されない。
基材の具体例としては、コンポジットパネル、カーテンウォール用パネル、カーテンウォール用フレーム、ウィンドウフレーム等の建築用の外装部材、タイヤホイール、ワイパーブレード、自動車外装等の自動車部材、建機、自動2輪のフレームが挙げられる。
【0063】
本塗膜の膜厚としては、20~1,000μmが好ましく、20~500μmが特に好ましい。アルミニウムカーテンウォール等の高層ビル用の部材等の用途では、20~90μmが好ましい。海岸沿いに設置されたエアコンの室外機、信号機のポール、標識等の耐候性の要求が高い用途では、100~200μmが好ましい。
【0064】
本発明の塗装物品は、本塗料を基材の表面に付与(塗装)して塗装層を形成し、得られた塗装層を加熱処理、次いで冷却して得るのが好ましい。
塗装層の形成方法としては、静電塗装法、静電吹付法、静電浸漬法、流動浸漬法、吹付法等の塗装法等が挙げられ、粉体塗装ガンを用いた静電塗装が好ましい。
粉体塗装ガンの具体例としては、コロナ帯電型塗装ガン、摩擦帯電型塗装ガンが挙げられる。コロナ帯電型塗装ガンは、粉体塗料をコロナ放電処理して吹き付ける塗装ガンである。摩擦帯電型塗装ガンは、粉体塗料を摩擦帯電処理して吹き付ける塗装ガンである。
加熱処理時の加熱温度は、120~200℃が好ましい。加熱維持時間は、通常2~60分間である。加熱処理後は、20~25℃まで冷却するのが好ましい。加熱処理及び冷却によって塗装層が溶融及び硬化(溶融硬化)し、本塗膜が形成される。
【実施例0065】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれらの例に限定されない。なお、例1~5は実施例であり、例6は比較例である。
【0066】
(使用した成分の名称及び略称)
CTFE:クロロトリフルオロエチレン
EVE:エチルビニルエーテル
CHVE:シクロヘキシルビニルエーテル
HBVE:4-ヒドロキシブチルビニルエーテル
F1-1:後述の製造方法で製造された非晶性フッ素樹脂
F1-2:後述の製造方法で製造された非晶性フッ素樹脂
F2:Kynar500(Arkema社商品ポリフッ化ビニリデン、結晶性フッ素樹脂、200℃における溶融粘度:4093[Pa・s])
アクリル樹脂:Palaloid B44(Dow社商品)
硬化剤:B1530(イソシアネート系硬化剤、EVONIK社商品)
レベリング剤:Modaflow Powder3(Allnex社商品)
脱ガス剤:Benzoin
UVA:Tinuvin 928(紫外線吸収剤、BASF社商品)
HALS:Tinuvin 144(光安定化剤、BASF社商品)
硬化触媒:ジブチルチンジラウレートの100倍希釈キシレン溶液
【0067】
(F1-1の製造)
オートクレーブに、炭酸カリウム(12.3g)及びキョーワード KW500SH(協和化学工業社商品名。以下、吸着剤ともいう。)(4.5g)を仕込み、真空脱気した。次に、キシレン(503g)、エタノール(142g)、CTFE(387g)、CHVE(326g)及びHBVE(84.9g)をオートクレーブ内に導入して昇温し、重合開始剤としてtert-ブチルペルオキシピバレートの50質量%キシレン溶液(20mL)を連続的に添加して、重合を行った。11時間後にオートクレーブを水冷して重合を停止し、オートクレーブ内溶液をろ過して、非晶性フッ素樹脂であるF1-1を含む溶液を得た。
得られた溶液を、65℃にて24時間真空乾燥して溶媒を除去し、更に130℃にて20分間真空乾燥して、ブロック状のF1-1を得た。
F1-1は、F1-1が含む全単位に対して、CTFEに基づく単位、CHVEに基づく単位、HBVEに基づく単位を、この順にそれぞれ、50モル%、39モル%、11モル%含む重合体であった。F1-1のTgは52℃であり、Mnは10,000であり、水酸基価は50mgKOH/gであり、200℃における溶融粘度は42[Pa・s]であった。
【0068】
(F1-2の製造)
F1-1の製造において、使用する単量体の種類及び量を変更する以外は同様にして、非晶性フッ素樹脂であるブロック状のF1-2を得た。
F1-2は、F1-2が含む全単位に対して、CTFEに基づく単位、EVEに基づく単位、CHVEに基づく単位、HBVEに基づく単位を、この順にそれぞれ、50モル%、5モル%、43モル%、2モル%含む重合体であった。F1のTgは48℃であり、Mnは10,000であり、水酸基価は9mgKOH/gであり、200℃における溶融粘度は196[Pa・s]であった。
【0069】
(粉体塗料の製造)
各塗料成分を表1に示す配合で高速ミキサ(佑崎有限公司社製)を用いて混合し、粉体状の混合物を得た。得られた混合物を、2軸押出機(サーモプリズム社製、16mm押出機)を用いて、120~150℃のバレル設定温度で溶融混練して、ペレットを得た。得られたペレットを粉砕機(FRITSCH社製、製品名:ロータースピードミルP14)を用いて25℃で粉砕した。得られた粉体を、150メッシュの網を用いて分級して、平均粒子径が約40μmである各例の粉体塗料を得た。
【0070】
(試験片の作製と評価)
各粉体塗料を用いて、クロメート処理を行ったアルミニウム基材の一面に、静電塗装機(小野田セメント社商品名、GX3600C)を用いて静電塗装を行い、基材上に粉体塗料層を形成した。得られた粉体塗料層付き基材を、加熱処理として200℃の雰囲気中で20分間保持して溶融硬化させた後、25℃まで冷却し、厚さ55~65μmの各塗膜付き基材を得た。得られた塗膜付き基材を試験片として、それぞれ評価した。評価結果を表1に示す。
【0071】
(評価)
<基材密着性>
各例で得られた試験片を、JIS K 5600-5-1に準拠して直径2mmの円筒形マンドレルに巻き付け、塗膜に割れや剥離が生じるかを目視で確認し、下記基準で評価した。
A:塗膜に割れや剥離が生じていない。
B:塗膜の端部に割れが生じている。
C:塗膜の全面に割れや剥離が生じている。
【0072】
<耐薬品性>
各例で得られた試験片の塗膜上に、内径40mm、高さ15mmの円筒形のポリリングを固定した。また、イオン交換水および試薬特級の塩酸により10質量%塩酸水溶液を作製した。
次いで、上記塩酸水溶液を、上記ポリリングの内側に5mL滴下し、蓋をして4時間保持した。次いで、上記ポリリングの内側を水洗し、上記ポリリングの内側における塗膜の状態を目視で確認し、下記基準で評価した。
S:塗膜の外観に異変がない。
A:塗膜面積の0%超5%以下に、白化やフクレが見られる。
B:塗膜面積の5%超10%以下に、白化やフクレが見られる。
C:塗膜面積の10%超に、白化やフクレが見られる。
【0073】
【0074】
表1に示す通り、非晶性フッ素樹脂と、結晶性フッ素樹脂と、を含む粉体塗料であって、上記非晶性フッ素樹脂の200℃における溶融粘度Aが、1,000Pa・s以下であり、溶融粘度Aと結晶性フッ素樹脂の200℃における溶融粘度Bとが上記式(M1)を満たしている場合、基材密着性及び耐薬品性に優れることが確認できた。