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特開2022-169149α-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169149
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】α-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/263 20060101AFI20221101BHJP
   C07C 22/08 20060101ALI20221101BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20221101BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221101BHJP
【FI】
C07C17/263
C07C22/08
B01J31/22 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074999
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】阪口 博信
(72)【発明者】
【氏名】三宅 徳顕
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼平 祐介
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC70A
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC75A
4G169BE01B
4G169BE13A
4G169BE13B
4G169BE26A
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169BE46B
4G169CB25
4G169CB63
4G169CB66
4G169DA02
4H006AA02
4H006AC22
4H006BA25
4H006BA48
4H006BB25
4H006BC10
4H006BC11
4H006EA21
4H039CA99
4H039CL25
(57)【要約】
【課題】工業的生産に適した方法でα-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物(2)を製造できる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムおよびコバルトから選択される遷移金属を含む有機遷移金属触媒の存在下、かつ酸化剤の非存在下で、芳香族有機金属化合物(1)と2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンとを反応させる工程を含む、α-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物(2)の製造方法に関する。

[式中の各記号は、明細書に記載の通りである。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムおよびコバルトから選択される遷移金属を含む有機遷移金属触媒の存在下、かつ酸化剤の非存在下で、芳香族有機金属化合物(1)と2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンとを反応させる工程を含む、α-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物(2)の製造方法。
【化1】

[式中、
Mは、ボロノ基(-B(OH))、そのエステル基もしくはそのアミド基、-BF(式中、Mは、アルカリ金属を表す。)、-B(OR(式中、Rは、C1-6アルキル基を表し、Mは、アルカリ金属を表す。)、-MgX(式中、Xは、ハロゲン原子を表す)、-SiX (式中、Xは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基またはArを表す。)、-ZnX(式中、Xは、ハロゲン原子またはArを表す。)、または-SnX (式中、Xは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子、C1-4アルキル基またはArを表す。)を表し;
Arは、置換されていてもよい芳香族基を表す。]
【請求項2】
有機遷移金属触媒が、有機パラジウム錯体または有機ニッケル錯体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
有機遷移金属触媒が、トリアルキルホスフィン配位子またはN-ヘテロ環状カルベン配位子を含む錯体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
有機遷移金属触媒が、N-ヘテロ環状カルベン配位子を含む有機パラジウム錯体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
有機遷移金属触媒が、反応系に添加されるかまたは反応系で調製される、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
芳香族有機金属化合物(1)が、芳香族マグネシウムハライドである、請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
芳香族有機金属化合物(1)が、ベンゼン環上にハロゲン原子およびシアノ基から選択される置換基を有していてもよい、有機金属フェニル化合物である、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
反応が、0.01MPa~10MPaの加圧下で行われる、請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
反応が、0℃~150℃の範囲内で行われる、請求項1~8のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α-トリフルオロメチルスチレン化合物に代表されるα-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物は、医薬、農薬等の合成中間体として有用な化合物である(特許文献1)。
α-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物の製造法としては、例えば、特許文献1には、3,5-ジクロロフェニルボロン酸と2-ブロモ-3,3,3-トリフルオロメチル-1-プロペンとを、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)および炭酸カリウムの存在下で反応させて、1,3-ジクロロ-5-(1-トリフルオロメチルビニル)ベンゼンを合成することが開示されている。
また、特許文献2には、3,5-ジクロロ-1-ブロモベンゼンとマグネシウムから調製したグリニア試薬を、エチルトリフルオロアセテートと反応させて、3’,5’-ジクロロ-2,2,2-トリフルオロアセトフェノンを得、次いで当該化合物をtert-ブトキシカリウム存在下でメチルトリフェニルホスホニウムヨージドと反応させて、1,3-ジクロロ-5-(1-トリフルオロメチルビニル)ベンゼンを合成することが開示されている。
【0003】
さらに、非特許文献1には、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンと種々の置換フェニルボロン酸とを、種々のパラジウム触媒の存在下で反応させて、α-トリフルオロメチルスチレン化合物を合成することが開示されている。中でも、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)と以下に示す配位子(1-(2-メトキシフェニル)-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)ピロール)の存在下で反応させると比較的収率よく製造できることが開示されている。
【0004】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2005/085216
【特許文献2】WO2010/125130
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tetrahydron,72(2016),5684-5690
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法では、原料である2-ブロモ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンは危険有害性の物質(H341:遺伝性疾患のおそれの疑い)であるため、当該方法は安全な製造法ではない。
また、特許文献2の方法では、上記のWittig反応では、目的物と共にトリフェニルホスフィンオキシドも副生するが、このトリフェニルホスフィンオキシドの除去が困難である。さらに、2工程での製造であるため、簡便な方法とは言い難い。
さらに、非特許文献1の方法では、原料である2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンは危険有害性の物質(H315:皮膚刺激、H319:強い眼刺激、H335:呼吸器への刺激のおそれ)であるため、当該方法は安全な製造法ではない。また上記配位子は入手し難くかつ高価であるため、当該方法はコストおよび原料入手の点で満足できる方法ではない。
このように、いずれの方法も工業的に適した方法とは言い難い。
なお、非特許文献1には、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを用いた酸化的Heck反応も開示されている。
【0008】
本発明は、工業的生産に適した方法でα-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、毒性が低い2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを原料として使用し、有機遷移金属触媒の存在下で、芳香族有機金属化合物と反応させる方法により、安全で、安価でかつ簡便な方法で、除去が困難な副生物が生じることなくα-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムおよびコバルトから選択される遷移金属を含む有機遷移金属触媒の存在下、かつ酸化剤の非存在下で、芳香族有機金属化合物(1)と2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンとを反応させる工程を含む、α-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物(2)の製造方法。
【0011】
【化2】

【0012】
[式中、
Mは、ボロノ基(-B(OH))、そのエステル基もしくはそのアミド基、-BF(式中、Mは、アルカリ金属を表す。)、-B(OR(式中、Rは、C1-6アルキル基を表し、Mは、アルカリ金属を表す。)、-MgX(式中、Xは、ハロゲン原子を表す)、-SiX (式中、Xは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基またはArを表す。)、-ZnX(式中、Xは、ハロゲン原子またはArを表す。)、または-SnX (式中、Xは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子、C1-4アルキル基またはArを表す。)を表し;
Arは、置換されていてもよい芳香族基を表す。]
【0013】
[2] 有機遷移金属触媒が、有機パラジウム錯体または有機ニッケル錯体である、上記[1]に記載の製造方法。
[3] 有機遷移金属触媒が、トリアルキルホスフィン配位子またはN-ヘテロ環状カルベン配位子を含む錯体である、上記[1]に記載の製造方法。
[4] 有機遷移金属触媒が、N-ヘテロ環状カルベン配位子を含む有機パラジウム錯体である、上記[1]に記載の製造方法。
[5] 有機遷移金属触媒が、反応系に添加されるかまたは反応系で調製される、上記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
[6] 芳香族有機金属化合物(1)が、芳香族マグネシウムハライドである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 芳香族有機金属化合物(1)が、ベンゼン環上にハロゲン原子およびシアノ基から選択される置換基を有していてもよい、有機金属フェニル化合物である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 反応が、0.01MPa~10MPaの加圧下で行われる、上記[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 反応が、0℃~150℃の範囲内で行われる、上記[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、安全で、安価でかつ簡便な方法で、除去が困難な副生物が生じることなく、α-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物(2)を製造できるので、当該方法は、工業的生産に適した、非常に有用な方法である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本明細書中で用いられる基の定義について詳述する。特記しない限り基は、以下の定義を有する。
【0017】
本明細書中、式で表される化合物を、「化合物」に式の番号を付して示す。例えば、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」と示す。
本明細書中「~」または「-」で表される数値範囲は、「~」または「-」の前後の数字を下限値または上限値とする数値範囲を意味する。
本明細書中、元素記号「C」に「-」の前後の数字で数値範囲を付したものを任意の基の名称に付して示す場合には、「-」の前後の数字を下限値または上限値とする整数個の炭素数である任意の基をそれぞれ示している。例えば、炭素数が1~3個であるアルキル基を「C1-3アルキル基」と示すことがあるが、これは、-CH、-C、-C等のそれぞれを示している。他の基についても同様である。
【0018】
本明細書中、「アルカリ金属」とは、リチウム、ナトリウム、カリウムを意味する。
【0019】
本明細書中、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を意味する。
【0020】
本明細書中、「C1-4アルキル基」とは、炭素数1~4の、直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素基を意味する。「C1-4アルキル基」としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルが挙げられ、C1-2アルキル基が好ましい。
【0021】
本明細書中、「C1-4アルコキシ基」とは、式R11O-(ここで、R11は、C1-4アルキル基を表す。)で表される基を意味する。「C1-4アルコキシ基」としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブチルオキシ、イソブチルオキシ、sec-ブチルオキシ、tert-ブチルオキシが挙げられる。
【0022】
本明細書中、「C1-4ハロアルキル基」とは、「C1-4アルキル基」中の水素原子の1個以上が、ハロゲン原子で置換された基を意味する。「C1-4ハロアルキル基」としては、例えば、フルオロメチル、2-フルオロエチル、3-フルオロプロピル、4-フルオロブチル、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、クロロメチル、2-クロロエチル、ブロモメチル、2-ブロモエチル、ヨードメチル、2-ヨードエチル等が挙げられ、トリフルオロメチルが好ましい。
【0023】
本明細書中、「C1-4ハロアルコキシ基」とは、「C1-4アルコキシ基」中の水素原子の1個以上が、ハロゲン原子で置換された基を意味する。「C1-4ハロアルコキシ基」としては、例えば、ブロモメトキシ、2-ブロモエトキシ、3-ブロモプロポキシ、4-ブロモブトキシ、ヨードメトキシ、2-ヨードエトキシ、3-ヨードプロポキシ、4-ヨードブトキシ、フルオロメトキシ、2-フルオロエトキシ、3-フルオロプロポキシ、4-フルオロブトキシ、トリブロモメトキシ、トリクロロメトキシ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、ペルフルオロエトキシ、ペルフルオロプロポキシ、ペルフルオロイソプロポキシ、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエトキシが挙げられる。
【0024】
本明細書中、「C3-8シクロアルキル基」とは、炭素数3~8の環状の飽和炭化水素基を意味する。「C3-8シクロアルキル基」としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルが挙げられる。
【0025】
本明細書中、「C6-10アリール基」とは、炭素数6~10の、芳香族性を有する炭化水素基を意味する。「C6-10アリール基」としては、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチルが挙げられ、フェニルが好ましい。
【0026】
本明細書中、「C7-14アラルキル基」とは、「C6-10アリール基」で置換された「C1-4アルキル基」を意味する。「C7-14アラルキル基」としては、ベンジル、1-フェニルエチル、2-フェニルエチル、3-フェニルプロピル、4-フェニルブチル、(1-ナフチル)メチル、(2-ナフチル)メチル等が挙げられ、ベンジルが好ましい。
【0027】
本明細書中、「C3-8シクロアルキルオキシ基」とは、式R12O-(ここで、R12は、C3-8シクロアルキル基を表す。)で表される基を意味する。「C3-8シクロアルキルオキシ基」としては、シクロプロピルオキシ、シクロブチルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ、シクロヘプチルオキシ、シクロオクチルオキシが挙げられる。
【0028】
本明細書中、「C6-10アリールオキシ基」とは、式R13O-(ここで、R13は、C6-10アリール基を表す。)で表される基を意味する。「C6-10アリールオキシ基」としては、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、2-ナフチルオキシが挙げられ、フェノキシ好ましい。
【0029】
本明細書中、「C7-14アラルキルオキシ基」とは、式R14O-(ここで、R14は、C7-14アラルキル基を表す。)で表される基を意味する。「C7-14アラルキルオキシ基」としては、ベンジルオキシ、1-フェニルエチルオキシ、2-フェニルエチルオキシ、3-フェニルプロピルオキシ、4-フェニルブチルオキシ、(1-ナフチル)メチルオキシ、(2-ナフチル)メチルオキシ等が挙げられ、ベンジルオキシが好ましい。
【0030】
本明細書中、「C1-4アルキル-カルボニル基」とは、式R15C(O)-(ここで、R15は、C1-4アルキル基を表す。)で表される基を意味する。「C1-4アルキル-カルボニル基」としては、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、2-メチルプロパノイル、ペンタノイル、3-メチルブタノイル、2-メチルブタノイル、2,2-ジメチルプロパノイルが挙げられる。
【0031】
本明細書中、「C1-4アルコキシ-カルボニル基」とは、式R16OC(O)-(ここで、R16は、C1-4アルキル基を表す。)で表される基を意味する。「C1-4アルコキシ-カルボニル基」としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル、イソブチルオキシカルボニル、sec-ブチルオキシカルボニル、tert-ブチルオキシカルボニルが挙げられる。
【0032】
本明細書中、「芳香族基」とは芳香族性を有する基を意味し、アリール基およびヘテロアリール基が挙げられる。
【0033】
本明細書中、「アリール基」としては、C6-10アリール基が挙げられる。
【0034】
本明細書中、「ヘテロアリール基」とは、芳香族性を有し、環構成原子として炭素原子以外に窒素原子、硫黄原子および酸素原子から選ばれる1ないし4個のヘテロ原子を含有する5ないし10員の基を意味する。
「ヘテロアリール基」としては、チエニル、フリル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、1,2,4-オキサジアゾリル、1,3,4-オキサジアゾリル、1,2,4-チアジアゾリル、1,3,4-チアジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、トリアジニルなどの5ないし6員ヘテロアリール基;
ベンゾチオフェニル、ベンゾフラニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾトリアゾリル、イミダゾピリジニル、チエノピリジニル、フロピリジニル、ピロロピリジニル、ピラゾロピリジニル、オキサゾロピリジニル、チアゾロピリジニル、イミダゾピラジニル、イミダゾピリミジニル、チエノピリミジニル、フロピリミジニル、ピロロピリミジニル、ピラゾロピリミジニル、オキサゾロピリミジニル、チアゾロピリミジニル、ピラゾロトリアジニル、ナフト[2,3-b]チエニル、フェノキサチイニル、インドリル、イソインドリル、1H-インダゾリル、プリニル、イソキノリル、キノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シンノリニル、カルバゾリル、β-カルボリニル、フェナントリジニル、アクリジニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニルなどの8ないし14員縮合多環式(好ましくは2または3環式)ヘテロアリール基が挙げられる。
【0035】
以下、本発明の製造方法を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムおよびコバルトから選択される遷移金属を含む有機遷移金属触媒の存在下、かつ酸化剤の非存在下で、芳香族有機金属化合物(1)と2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンとを反応させる工程を含む。
【0036】
【化3】
【0037】
[式中、
Mは、ボロノ基(-B(OH))、そのエステル基もしくはそのアミド基、-BF(式中、Mは、アルカリ金属を表す。)、-B(OR(式中、Rは、C1-6アルキル基を表し、Mは、アルカリ金属を表す。)、-MgX(式中、Xは、ハロゲン原子を表す)、-SiX (式中、Xは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基またはArを表す。)、-ZnX(式中、Xは、ハロゲン原子またはArを表す。)、または-SnX (式中、Xは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子、C1-4アルキル基またはArを表す。)を表し;
Arは、置換されていてもよい芳香族基を表す。]
【0038】
上記式中、Xは、好ましくは、臭素原子、塩素原子またはヨウ素原子であり、より好ましくは、臭素原子または塩素原子であり、特に好ましくは、臭素原子である。
上記式中、Xは、好ましくは、メトキシ基、エトキシ基またはフルオロ基である。
上記式中、Xは、好ましくは、クロロ基またはArである。
上記式中、Xは、好ましくは、アルキル基であり、特に好ましくはブチル基である。
Mで表される「ボロノ基のエステル基」としては、以下の基が挙げられる。
【0039】
【化4】
【0040】
【化5】
【0041】
[式中、*は、Arとの結合位置を表し、Rは、C1-6アルキル基(好ましくはメチルまたはエチル)を表す。]
Mで表される「ボロノ基のアミド基」としては、以下の基が挙げられる。
【0042】
【化6】
【0043】
[式中、*は前記と同義である。]
Mで表される「-B(OR」は、具体的には以下のように表される。
【0044】
【化7】
【0045】
[式中の各記号は、前記と同義である。]
は、好ましくは、メチル、エチルまたはイソプロピルである。
「-B(OR」は、3つのRが結合したような以下の基であってもよい。
【0046】
【化8】
【0047】
[式中の各記号は、前記と同義である。]
Mがボロノ基であるとき、以下のような3量体であってもよい。
【0048】
【化9】
【0049】
[式中、*は前記と同義である。]
Mは、好ましくは、MgX(式中、Xは前記と同義である)であり、より好ましくは、MgBr、MgClまたはMgIであり、より好ましくは、MgBrまたはMgClであり、特に好ましくはMgBrである。
【0050】
Arで表される「置換されていてもよい芳香族基」の「芳香族基」は、好ましくは、C6-10アリール基または5ないし6員ヘテロアリール基であり、特に好ましくは、フェニルである。
Arで表される「置換されていてもよい芳香族基」の「置換基」としては、ハロゲン原子、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、C1-4ハロアルキル基、C1-4ハロアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、C3-8シクロアルキル基、C6-10アリール基、C7-14アラルキル基、C3-8シクロアルキルオキシ基、C6-10アリールオキシ基、C7-14アラルキルオキシ基、C1-4アルキル-カルボニル基、C1-4アルコキシ-カルボニル基等から1~3個選択される。好ましくは、ハロゲン原子およびシアノ基から1~3個選択される。
【0051】
本発明で使用される芳香族有機金属化合物(1)としては、芳香族マグネシウムハライド(Ar-MgX(式中、Xは前記と同義である。))がより好ましい。芳香族マグネシウムハライドとしては、芳香族マグネシウムクロリド、芳香族マグネシウムブロミド、芳香族マグネシウムヨージドが挙げられ、中でも、芳香族マグネシウムクロリド、芳香族マグネシウムブロミドが好ましく、芳香族マグネシウムブロミドが特に好ましい。
【0052】
また、芳香族有機金属化合物(1)としては、有機金属アリール化合物および有機金属ヘテロアリール化合物が挙げられる。中でも、有機金属C6-10アリール化合物、有機金属5ないし6員ヘテロアリール化合物が好ましく、有機金属フェニル化合物が特に好ましい。有機金属フェニル化合物としては、フェニルボロン酸、フェニルマグネシウムハライドが好ましく、フェニルマグネシウムハライドがより好ましい。フェニルマグネシウムハライドとしては、フェニルマグネシウムクロリド、フェニルマグネシウムブロミド、フェニルマグネシウムヨージドが挙げられ、中でも、フェニルマグネシウムクロリド、フェニルマグネシウムブロミドが好ましく、フェニルマグネシウムブロミドが特に好ましい。芳香族有機金属化合物(1)は置換基を有していてもよい。
好適な有機金属フェニル化合物としては、ベンゼン環上にハロゲン原子(好ましくはフッ素原子、塩素原子)およびシアノ基から選択される置換基を有していてもよい有機金属フェニル化合物であり、その具体例としては、
フェニルマグネシウムクロリド、3-クロロマグネシウムクロリド、3,5-ジクロロマグネシウムクロリド、3-クロロ-4-フルオロマグネシウムクロリド、3,5-ジクロロ-4-フルオロマグネシウムクロリド、3,4,5-トリクロロマグネシウムクロリド、4-シアノ-3,5-ジクロロフルオロマグネシウムクロリドなどのフェニルマグネシウムクロリド化合物;
フェニルマグネシウムブロミド、3-クロロマグネシウムブロミド、3,5-ジクロロマグネシウムブロミド、3-クロロ-4-フルオロマグネシウムブロミド、3,5-ジクロロ-4-フルオロマグネシウムブロミド、3,4,5-トリクロロマグネシウムブロミド、4-シアノ-3,5-ジクロロフルオロマグネシウムブロミドなどのフェニルマグネシウムブロミド化合物;
フェニルマグネシウムヨージド、3-クロロマグネシウムヨージド、3,5-ジクロロマグネシウムヨージド、3-クロロ-4-フルオロマグネシウムヨージド、3,5-ジクロロ-4-フルオロマグネシウムヨージド、3,4,5-トリクロロマグネシウムヨージド、4-シアノ-3,5-ジクロロフルオロマグネシウムヨージドなどのフェニルマグネシウムヨージド化合物;
フェニルボロン酸、3-クロロボロン酸、3,5-ジクロロボロン酸、3-クロロ-4-フルオロボロン酸、3,5-ジクロロ-4-フルオロボロン酸、3,4,5-トリクロロボロン酸、4-シアノ-3,5-ジクロロフルオロボロン酸などのフェニルボロン酸化合物;
等が挙げられる。中でも、
フェニルマグネシウムクロリド、3-クロロマグネシウムクロリド、3,5-ジクロロマグネシウムクロリド、3-クロロ-4-フルオロマグネシウムクロリド、3,5-ジクロロ-4-フルオロマグネシウムクロリド、3,4,5-トリクロロマグネシウムクロリド、4-シアノ-3,5-ジクロロフルオロマグネシウムクロリドなどのフェニルマグネシウムクロリド化合物;
フェニルマグネシウムブロミド、3-クロロマグネシウムブロミド、3,5-ジクロロマグネシウムブロミド、3-クロロ-4-フルオロマグネシウムブロミド、3,5-ジクロロ-4-フルオロマグネシウムブロミド、3,4,5-トリクロロマグネシウムブロミド、4-シアノ-3,5-ジクロロフルオロマグネシウムブロミドなどのフェニルマグネシウムブロミド化合物;
が好ましく、
フェニルマグネシウムブロミド、3-クロロマグネシウムブロミド、3,5-ジクロロマグネシウムブロミド、3-クロロ-4-フルオロマグネシウムブロミド、3,5-ジクロロ-4-フルオロマグネシウムブロミド、3,4,5-トリクロロマグネシウムブロミド、4-シアノ-3,5-ジクロロフルオロマグネシウムブロミドなどのフェニルマグネシウムブロミド化合物が特に好ましい。
【0053】
芳香族有機金属化合物(1)は、市販品を使用してもよく、あるいは自体公知の方法で製造することもできる。
【0054】
本発明で使用される2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンは、沸点が約-28℃の気体であり、毒性が低く、市販品として入手可能である。
2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンの使用量は、芳香族有機金属化合物(1)1モルに対して、通常、0.1~100モル、好ましくは0.5~10モルである。
【0055】
芳香族有機金属化合物(1)と2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンとの反応は、有機遷移金属触媒の存在下で行われる。
本発明で使用される有機遷移金属触媒は、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムおよびコバルトから選択される遷移金属を含有する有機遷移金属触媒である。当該遷移金属は、好ましくは、ニッケルおよびパラジウムから選択される。
好適な有機遷移金属触媒としては、有機ニッケル錯体および有機パラジウム錯体が挙げられる。
有機ニッケル錯体および有機パラジウム錯体は、試薬として反応系に添加しても、反応系中で調製されてもよい。
【0056】
有機パラジウム錯体としては、0価パラジウム錯体;II価パラジウム錯体から反応系中で生成する0価パラジウム錯体;またはこれらと、ジケトン、ホスフィン、ジアミン、ビピリジルおよびN-ヘテロ環状カルベンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(配位子)とを混合して得られる錯体が挙げられる。
【0057】
0価パラジウム錯体としては、例えば、Pd(dba)(dbaはジベンジリデンアセトン)、Pd(dba)クロロホルム錯体、Pd(dba)ベンゼン錯体、Pd(dba)、Pd(COD)(CODはシクロオクタ-1,5-ジエン)、Pd(DPPE)(DPPEは1,2-ビスジフェニルホスフィノエタン)、Pd(PCy(Cyはシクロヘキシル基)、Pd(Pt-Bu(t-Buはt-ブチル基)、Pd(PPh(Phはフェニル基)等が挙げられる。
【0058】
II価パラジウム錯体としては、例えば、塩化パラジウム、臭化パラジウム、酢酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジクロロ(η-1,5-シクロオクタジエン)パラジウム(II)、またはこれらに、トリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子や1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン等のN-ヘテロ環状カルベン配位子が配位した錯体等が挙げられる。これらのII価パラジウム錯体は、例えば、反応系中に共存する還元種(ホスフィン、亜鉛、有機金属試薬等)により還元されて0価パラジウム錯体に変換される。
【0059】
上記の0価パラジウム錯体、またはII価パラジウム錯体から反応系中で還元により生成する0価パラジウム錯体は、反応系中で、必要に応じ添加されるジケトン、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル、N-ヘテロ環状カルベン等の化合物(配位子)と作用して、反応に関与する0価パラジウム錯体に変換することもできる。なお、反応系中において、0価パラジウム錯体にこれらの配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明らかではない。反応系中で生成する0価パラジウム錯体は安定性が高いものが望ましく、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル、N-ヘテロ環状カルベン等の配位子を有しているものが好ましい。
【0060】
ジケトンとしては、アセチルアセトン、1-フェニル-1,3-ブタンジオン、1,3-ジフェニルプロパンジオン等のβ-ジケトン等が挙げられる。
ホスフィンとしては、トリアルキルホスフィンが好ましい。トリアルキルホスフィンとしては、具体的には、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリt-ブチルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、ジt-ブチルメチルホスフィン、トリビシクロ[2,2,2]オクチルホスフィン、トリノルボルニルホスフィン等のトリ(C3-20アルキル)ホスフィンが挙げられる。またこれ以外にも、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタンのような二座配位子も有効である。
ジアミンとしては、テトラメチルエチレンジアミン、1,2-ジフェニルエチレンジアミン等が挙げられる。
N-ヘテロ環状カルベンとしては、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン、1,3-ジメシチルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ジシクロヘキシルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ジイソプロピルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾリジン-2-イリデン、1,3-ジメシチルイミダゾリジン-2-イリデン等が挙げられる。
これらの配位子のうち、ホスフィン、N-ヘテロ環状カルベンが好ましく、トリアルキルホスフィン、N-ヘテロ環状カルベンが好ましく、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデンが特に好ましい。2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンは他のフッ素含有オレフィンと比較しても反応性が低いため、N-ヘテロ環状カルベンのように嵩高く電子供与能の高い配位子を有するパラジウム錯体を用いることにより、より収率良く、目的のα-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物(2)を得ることができる。
このようなN-ヘテロ環状カルベン配位子を有するパラジウム錯体としては、[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン](3-クロロピリジル)パラジウム(II)ジクロリドが好ましい。
【0061】
有機ニッケル錯体としては、0価ニッケル錯体;II価ニッケル錯体から反応系中で生成する0価ニッケル錯体;またはこれらと、ジケトン、ホスフィン、ジアミン、ビピリジルおよびN-ヘテロ環状カルベンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(配位子)とを混合して得られる錯体が挙げられる。
【0062】
0価ニッケル錯体としては、例えば、Ni(COD)、Ni(CDD)(CDDはシクロデカ-1,5-ジエン)、Ni(CDT)(CDTはシクロデカ-1,5,9-トリエン)、Ni(VCH)(VCHは4-ビニルシクロヘキセン)、Ni(CO)、(PCyNi-N≡N-Ni(PCy、Ni(PPh等が挙げられる。
【0063】
II価ニッケル錯体としては、例えば、水分子や溶媒配位していても良い塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)、またはこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子や1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン等のN-ヘテロ環状カルベン配位子が配位した錯体等が挙げられる。これらのII価ニッケル錯体は、例えば、反応系中に共存する還元種(ホスフィン、亜鉛、有機金属試薬等)により還元されて0価ニッケル錯体に変換される。
【0064】
上記の0価ニッケル錯体またはII価ニッケル錯体から反応系中で還元により生成する0価ニッケル錯体は、反応系中で、必要に応じ添加される配位子と作用して、反応に関与する0価ニッケル錯体に変換することもできる。なお、反応系中において、0価ニッケル錯体にこれらの配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明らかではない。反応系中で生成する0価ニッケル錯体は安定性が高いものが望ましく、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル、N-ヘテロ環状カルベン等の配位子を有しているものが好ましい。
【0065】
ジケトンとしては、アセチルアセトン、1-フェニル-1,3-ブタンジオン、1,3-ジフェニルプロパンジオン等のβ-ジケトン等が挙げられる。
ホスフィンとしては、トリアルキルホスフィンまたはトリアリールホスフィンが好ましい。トリアルキルホスフィンとしては、具体的には、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリt-ブチルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、ジt-ブチルメチルホスフィン、トリビシクロ[2,2,2]オクチルホスフィン、トリノルボルニルホスフィン等のトリ(C3-20アルキル)ホスフィンが挙げられる。トリアリールホスフィンとしては、具体的には、トリフェニルホスフィン、トリメシチルホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィン等のトリ(単環アリール)ホスフィンが挙げられる。またこれ以外にも、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンのような二座配位子も有効である。これらの中でも、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリt-ブチルホスフィンおよびトリイソプロピルホスフィンが好ましい。
ジアミンとしては、テトラメチルエチレンジアミン、1,2-ジフェニルエチレンジアミン等が挙げられる。
N-ヘテロ環状カルベンとしては、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン、1,3-ジメシチルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ジシクロヘキシルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ジイソプロピルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾリジン-2-イリデン、1,3-ジメシチルイミダゾリジン-2-イリデン等が挙げられる。
これらの配位子のうち、ホスフィン、N-ヘテロ環状カルベンが好ましく、トリアルキルホスフィン、N-ヘテロ環状カルベンが好ましく、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデンが特に好ましい。2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンは他のフッ素含有オレフィンと比較しても反応性が低いため、N-ヘテロ環状カルベンのように嵩高く電子供与能の高い配位子を有するニッケル錯体を用いることにより、より収率良く、目的のα-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物(2)を得ることができる。
【0066】
有機遷移金属触媒は、収率、選択性および触媒耐久性観点から、好ましくは、有機パラジウム錯体または有機ニッケル錯体であり、より好ましくは、有機パラジウム錯体であり、さらに好ましくは、N-ヘテロ環状カルベン配位子を含む有機パラジウム錯体である。
有機遷移金属触媒の使用量は、特に制限されないが、芳香族有機金属化合物(1)1モルに対して、通常、0.0001~1モル程度、より好ましくは0.001~0.2モル程度、更に好ましくは0.01~0.2モル程度である。
【0067】
配位子を反応系に添加する場合には、配位子の使用量は、芳香族有機金属化合物(1)1モルに対して、通常、0.0002~2モル程度、好ましくは0.02~0.4モル程度である。また、添加する配位子と有機遷移金属触媒のモル比は、通常0.5/1~10/1であり、好ましくは1/1~4/1である。
【0068】
芳香族有機金属化合物(1)が芳香族ボロン酸化合物、芳香族ケイ素化合物、芳香族スズ化合物である場合、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンとの反応は、塩基の存在下で行ってもよい。
ここで使用される塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化化合物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸セシウム等の炭酸塩化合物;リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸塩化合物;酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等の酢酸塩化合物;リチウムメトキシド、リチウム-t-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウム-t-ブトキシド、カリウム-t-ブトキシド等のアルコキシド、フッ化セシウム、フッ化カリウム、テトラブチルアンモニウムフルオリド等のフッ化物塩等が挙げられる。塩基の使用量は、芳香族有機金属化合物(1)1モルに対して、通常、0.01~10モル程度、より好ましくは1~3モル程度である。
有機遷移金属触媒が有機パラジウム錯体である場合は、塩基が存在しなくとも該反応は進行する。
【0069】
芳香族有機金属化合物(1)と2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンとの反応は、通常、溶媒下で行われる。
本発明で使用される溶媒としては、反応に悪影響を与えない溶媒であれば特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒等;アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルシアナミド、t-ブチルニトリル等のニトリル系溶媒;および水を使用することができる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。中でも、ジオキサン、THF等のエーテル系溶媒が好ましい。
溶媒の使用量は、芳香族有機金属化合物(1)に対して、通常0.1~100倍容量である。
【0070】
芳香族有機金属化合物(1)と2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンとの反応は、酸化剤の非存在下で行われる。
酸化剤が反応系に存在すると、酸化的Heck反応が進行し、β-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物を与えるため、目的のα-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物(2)が得られない。
【0071】
反応は、芳香族有機金属化合物(1)、有機遷移金属触媒および溶媒の混合物(必要により塩基も)に、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを添加する(吹き込む)ことにより行うことが好ましい。
反応は、通常-50℃~200℃の範囲、好ましくは0~150℃の範囲で行われる。
また、反応は、加圧下で行うことが好ましく、好ましくは0.01MPa~10MPa、より好ましくは0.01MPa~0.2MPで反応が行われる。
反応時間は、反応温度や反応圧力にもよるが、通常0.1~36時間、好ましくは0.5~2時間である。
反応の終了は、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、NMR等により確認することができる。
【0072】
反応終了後、常法に従って、反応混合物から濃縮、晶出、再結晶、蒸留、溶媒抽出、分溜、クロマトグラフィー等の分離手段により、目的のα-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物(2)を単離および/または精製できる。
【0073】
芳香族有機金属化合物(1)と2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンとを反応させる容器としては、反応に悪影響を与えない範囲で特に制限はなく、例えば金属製容器等を用いることができる。なお、本発明は反応条件下、気体状態の2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを扱うので、気密が可能な耐圧容器が好ましい。また反応進行と共に生成する化合物が、反応容器の金属と反応することで反応阻害剤となるおそれがあるため、PFAなどで樹脂ライニング、もしくはグラスライニングされている容器が好ましい。
【0074】
このようにして得られたα-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物(2)は、以下に示すように、例えば、WO2005/085216に記載の方法に従って、化合物(3)と反応させて、化合物(4)を得、次いで、殺虫剤として有用な化合物(5)に導くことができる。
【0075】
【化10】
【0076】
[式中、Rは、アルキル基、ハロゲン原子等を表し、Rは、置換されていてもよいアルキル基等を表し、Xはハロゲン原子を表し、nは0~4の整数を表し、その他の記号は前記と同義である。]
【実施例0077】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。
核磁気共鳴スペクトル(NMR)は、日本電子社製JNM-AL300を用いて測定した。H-NMRは、テトラメチルシランを基準として300MHzで、19F-NMRは、CClFを基準として283MHzで測定した。質量分析(GC-MS)は、株式会社島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP5000V2)を用いて、電子イオン化法(EI)により求めた。
【0078】
実施例1
窒素雰囲気下にて[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン](3-クロロピリジル)パラジウム(II)ジクロリド(34.0mg、0.05mmol)と1Mフェニルマグネシウムブロミド THF溶液(1mL、1mmol)をオートクレーブ(容量5ml)に加えた。その後、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(342mg、3mmol)を加えた。この反応溶液を100℃で24時間攪拌した。加熱攪拌後、19F-NMRの内部標準として、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(214mg、1mmol)を加え、カップリング生成物が48%の収率で得られたことを確認した。
1H-NMR (CDCl3) δ[ppm]: 7.52 (m, 2 H, HAr), 7.44 (m, 3 H, HAr), 6.01 (m, 1 H, C=CH2), 5.81 (m, 1 H, C=CH2).
19F-NMR (CDCl3) δ[ppm]: -64,8 (s, 3F, CF3).
GC-MS (EI): [M]+ 172
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の製造方法によれば、安全で、安価でかつ簡便な方法で、除去が困難な副生物が生じることなく、α-トリフルオロメチルビニル基含有芳香族化合物(2)を製造できるので、当該方法は、工業的生産に適した、非常に有用な方法である。