IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-銅製錬原料の調製方法 図1
  • 特開-銅製錬原料の調製方法 図2
  • 特開-銅製錬原料の調製方法 図3
  • 特開-銅製錬原料の調製方法 図4
  • 特開-銅製錬原料の調製方法 図5
  • 特開-銅製錬原料の調製方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169284
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】銅製錬原料の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 15/00 20060101AFI20221101BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C22B15/00
C22B1/00 601
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075219
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】本村 優貴
(72)【発明者】
【氏名】森 勝弘
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001BA03
4K001BA06
4K001BA12
4K001BA17
4K001CA09
(57)【要約】
【課題】 湿潤状態の雑原料の乾燥不良に起因して製錬炉の操業が不安定になるのを抑制可能な銅製錬原料の調製方法を提供する。
【解決手段】 銅精鉱と湿潤状態の雑原料とからなる銅製錬原料の調製方法であって、該湿潤状態の雑原料を面上に層状に拡げると共に、製錬炉の排ガスから回収した煙灰に代表される好ましくは銅を含有し且つ該湿潤状態の雑原料より粒度が小さい吸湿剤を該湿潤状態の雑原料の上から覆うように散布する工程と、これら雑原料と吸湿剤とを互いに接触させた状態で所定の時間保持する工程と、該保持することで水分率が低下した雑原料を解砕しながら該吸湿剤及び銅精鉱と混合する工程とからなる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅精鉱と湿潤状態の雑原料とからなる銅製錬原料の調製方法であって、該湿潤状態の雑原料を面上に層状に拡げると共に、その上から覆うように吸湿剤を散布する工程と、これら雑原料と吸湿剤とを互いに接触させた状態で所定の時間保持する工程と、該保持することで水分率が低下した雑原料を解砕しながら該吸湿剤及び銅精鉱と混合する工程とからなることを特徴とする銅製錬原料の調製方法。
【請求項2】
前記吸湿剤は、銅を含有し且つ前記湿潤状態の雑原料より粒度が小さいことを特徴とする、請求項1に記載の銅製錬原料の調製方法。
【請求項3】
前記吸湿剤が銅製錬炉の排ガスから回収した煙灰であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の銅製錬原料の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅精鉱と湿潤状態の雑原料とからなる銅製錬原料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾式銅製錬では、浮遊選鉱などの前処理により銅品位を30%程度に高めた主に黄銅鉱からなる銅精鉱を原料として自溶炉などの製錬炉に装入し、ここで燃焼等の処理を施すことで銅品位98%程度の高品位の粗銅を製造している。この粗銅を鋳造して作製したアノードを電解精製することにより電気銅が製造される。上記の製錬炉では、二酸化硫黄を多く含む高温の排ガスが発生するので、この排ガスは廃熱ボイラーで熱回収された後、硫酸の原料として硫酸工場に送られる。この硫酸工場では、上記製錬炉から排出される排ガスに含まれるダスト分の除去工程や、精製系プロセスで副生する廃酸の処理工程において、不純物が濃縮した泥状の澱物が発生する。また、上記の電解精製で使用した電解液の浄液工程においても、不純物が濃縮した泥状の澱物が発生する。
【0003】
上記の硫酸工場や電解精製において発生する泥状の澱物は銅を含んでいるので、通常はこれら澱物を回収して雑原料として上記銅精鉱と混合して製錬炉に装入している。その際、上記雑原料は組成や粒径等の性状が銅精鉱とは異なるので、単に混合して製錬炉に装入すると製錬炉の操業が不安定になることがあった。そこで、混合後の混合原料の性状がほぼ均一になるように調整しながらこれら雑原料と銅精鉱とを混合することが望ましい。
【0004】
例えば特許文献1には、原料の性状がほぼ均一になるように銅精鉱と雑原料とを混合する方法として、ベルトコンベアで搬送中の銅精鉱の上に雑原料を定量的に切り出して添加する技術が提案されている。また、特許文献2には、泥状の澱物を対象とするものではないが、複数のベルトコンベアのコンベア面上に種類の異なる固体粒子をそれぞれ展開させ、これらのベルトコンベアの各々の下流側の端部から同じ位置に向かってこれら固体粒子を落とす技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09-087760号公報
【特許文献2】特開2011-011105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の泥状の澱物のような湿潤原料は、時間が経過すると表面部において付着水が蒸発して硬化し、内部はこの硬化した表面部によって蒸発が妨げられるため高い水分率を保持したままの状態になる。このため、上記の湿潤原料は乾燥設備で予熱しても内部の水分を十分に蒸発させることができず、残留水分を含んだ乾燥不良の状態で乾燥設備から排出されることになる。その結果、この予熱した湿潤原料を製錬炉に装入すると、製錬炉内で該残留水分が蒸発して銅精鉱の反応を阻害したり、蒸発する水分量が経時変動したりすることで製錬炉の操業が不安定になる。更に、上記の湿潤原料は一般に質量が大きい塊状の形態を有しているため、粉粒体の形態を有する銅精鉱に対して、管内を流れる気体流を利用して搬送する方式の空気搬送設備において搬送不良が生じるおそれがある。
【0007】
上記の問題の対策として、湿潤原料に対してショベルローダーのバケットを押し付けて荷重を加えたり、該湿潤原料をバケットで掬い取って4~5m程度の高さから床面に落としたりすることで上記の硬化した殻状部分を割ることが行われている。これら対策を施すことにより銅精鉱との混合の際に水分率の高い湿潤原料の内部を分散させることができるので、気体流による空気搬送設備を用いて製錬炉内に装入することが可能になる。しかしながら、上記の作業は多大な労力を要するうえ、銅精鉱と湿潤原料との混合物の調製に2~3日程度かかっていた。また、作業の個人差によって混合後の混合物の性状に大きなばらつきが生じることがあった。本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、湿潤状態の雑原料の乾燥不良に起因して製錬炉の操業が不安定になるのを抑制可能な銅製錬原料の調製方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、湿潤状態の雑原料の塊が乾燥することで形成される表面の殻状部分は塊の表面を全面的に覆うものではなく、雑原料の成分のばらつきや、日当り、温度などの貯蔵場所の条件により湿潤部分が露出している箇所があると考えた。そこで山状に積み重ねた状態で貯蔵されている湿潤状態の雑原料から、該山状部分の内部の雑原料を抜き取り、吸湿剤と混ぜ合わせてしばらく保持させた後、これを銅精鉱と混合して乾燥設備や製錬設備に装入したところ、それら設備での運転を安定化できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る銅製錬原料の調製方法は、銅精鉱と湿潤状態の雑原料とからなる銅製錬原料の調製方法であって、該湿潤状態の雑原料を面上に層状に拡げると共に、その上から覆うように吸湿剤を散布する工程と、これら雑原料と吸湿剤とを互いに接触させた状態で所定の時間保持する工程と、該保持することで水分率が低下した雑原料を解砕しながら該吸湿剤及び銅精鉱と混合する工程とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、湿潤状態の雑原料の乾燥不良により製錬炉の操業が不安定になるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態の銅製錬原料の調製方法の工程フロー図である。
図2】本発明の実施形態の銅製錬原料の調製方法に含まれる混合工程の一具体例の構成図である。
図3】本発明の実施形態の銅製錬原料の調製方法に含まれる混合工程の他の具体例の構成図である。
図4】本発明の実施形態の銅製錬原料の調製方法に含まれる搬送工程の一具体例の構成図である。
図5】本発明の実施例で調製した湿潤状態の雑原料及び吸湿剤の水分率の経時変化を示すグラフである。
図6】本発明の実施例及び比較例で調製した混合原料を製錬炉に装入することでそれぞれ生成されるスラグ中のFeの品位の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る銅製錬原料の調製方法の実施形態について詳細に説明する。この本発明の実施形態の銅製錬原料の調製方法は、乾式銅製錬において処理される2種類の粒状原料を対象としており、それらのうちの一方は、水分を含んで湿潤状態にある雑原料であって、これは例えば硫酸工場から排出される廃酸に硫化剤を添加することで生成される析出物を挙げることができる。また、上記2種類の粒状原料のもう一方は、通常は乾燥状態にある主原料の銅精鉱である。なお、上記の湿潤状態の雑原料は、硫酸工場で生成される析出物に限定されるものではなく、電解精製工程や電解採取工程、電解液の浄液工程等で生じる脱銅スライムや銅滓等のように、銅製錬工場の他の工程から生じる銅含有物が含まれていてもよい。
【0013】
本発明の実施形態に係る銅製錬原料の調製方法は、図1に示すように、上記の湿潤状態の雑原料を床面等の面上に層状に拡げる分散工程S1と、この層状に拡げられた湿潤状態の雑原料の上から覆うように(必ずしも覆いつくさなくてもよく、隙間から雑原料が見える程度で十分である)吸湿剤を散布する接触工程S2と、これら湿潤状態の雑原料と吸湿剤とを互いに接触させた状態で所定の時間保持する保持工程S3と、該保持することで水分率が低下した雑原料を解砕しながら上記の吸湿剤及び別途用意した銅精鉱と混合する混合工程S4と、該混合した混合原料を搬送する搬送工程S5とを有している。以下、これら工程の各々について詳細に説明する。
【0014】
1.分散工程
分散工程S1は、一般的に原料貯蔵エリアに山状に積み重ねられている湿潤状態の雑原料を、ショベルローダーなどを用いて床面などの平坦な場所に、好ましくは厚み2~10cm程度の層状に拡げて分散させる工程である。これにより、上記の山状に積み重ねる場合に比べて露出面積を大きくすることができるので、該湿潤状態の雑原料の水分率の低下を促進させることができるうえ、次工程の接触工程S2において吸湿剤をより均質に湿潤状態の雑原料に接触させることが可能になる。なお、排水やショベルローダー運転の都合を勘案して、湿潤状態の雑原料は幾分傾斜した床面に広げて分散させるのが好ましい。また、他の原料の上や乾燥原料の上など、多少起伏のある場所に広げて分散させてもよい。
【0015】
2.接触工程
接触工程S2は、上記分散工程S1で平坦な場所に拡げられた湿潤状態の雑原料に対して、上方からショベルローダー等を用いて吸湿剤を散布することで接触させる工程である。その際、層状に拡げられている湿潤状態の雑原料をショベルローダー等を用いて上下反転させてもよく、これにより、湿潤状態の雑原料により均質に吸湿剤を接触させることができる。
【0016】
この接触工程S2に用いる吸湿剤としては、上記雑原料よりも粒度が細かく、かつ湿潤状態にある雑原料よりも水分率が低い吸湿性を有する材料であれば特に限定はないが、銅を含有していれば製錬炉において銅原料としても利用できるので特に有用である。なお、上記の粒度には、レーザー回折散乱法で測定した体積基準での累積50%の粒子径(D50)を指標とするのが好ましい。上記の吸湿剤としては、例えば銅滓粉などの銅粉や、自熔炉や転炉から排出される排ガスが導入される廃熱ボイラーや電気集塵機などで捕集される煙灰を挙げることができる。
【0017】
上記の吸湿剤の散布量は、上記の湿潤状態の雑原料の乾物基準100質量部に対して、乾物基準で30~300質量部程度が好ましい。この散布量が30質量部未満では吸湿の効果が得られにくくなり、逆に300質量部を超える量を散布しても、それ以上の吸湿の効果はあまり得られないのでコスト面から不利になる。
【0018】
3.保持工程
保持工程S3は、上記の吸湿剤と湿潤状態の雑原料とを互いに接触させた状態で所定の時間保持することで該湿潤状態の雑原料に含まれる水分率を低下させる工程である。この保持工程S3では、必要に応じて湿潤状態の雑原料に向けて送風したり、ショベルローダー等を用いて湿潤状態の雑原料をかき混ぜたりしてもよい。
【0019】
この保持工程S3の保持時間は特に限定はないが、本発明の実施形態の調製方法の対象となる湿潤状態の雑原料は、保持工程S3の保持時間が長ければ長いほど水分率が低下する傾向があり、開始から約8時間経過後でも水分率は顕著に低下する。しかしながら開始からの経過時間が約24時間を超えると、水分率の低下の速度が極めて遅くなるので、上記の所定の保持時間としては8~24時間程度が適切である。
【0020】
なお、吸湿剤による湿潤状態の雑原料の水分率の低下は、湿潤状態の雑原料と吸湿剤との接触部分において生じる毛細管現象により水分が移動することによって主に生じるものと考えられる。また、銅製錬炉で生じる煙灰は、通常は銅製錬炉から飛散した硫化銅やそれが燃焼した硫酸銅を含んでおり、これは加熱により乾燥しているので硫酸銅無水和物の形態を有している。この煙灰中の硫酸銅無水和物は湿潤状態の雑原料中に含まれる付着水との水和反応が生じて発熱するので、該付着水の蒸発促進を期待できる。更に、硫酸銅無水和物は上記付着水を結晶水として取り込んで硫酸銅五水和物となるため、これにより湿潤状態の雑原料の水分率が低下することも期待できる。
【0021】
4.混合工程
混合工程S4は、上記の保持工程S3で水分率が低下した雑原料を解砕しながら吸湿剤及び別途用意した銅精鉱と混合する工程である。この混合の際、吸湿剤を含んだ雑原料と銅精鉱との混合割合は、通常は乾物基準の銅精鉱100質量部に対して、雑原料を乾物基準で1~15質量部であるのが好ましい。この混合工程S4における混合方法には特に限定はなく、例えばショベルローダー等を用いてかき混ぜることで混合してもよいし、一般的な粉粒体の混合機を用いて混合してもよい。
【0022】
あるいは、図2に示すように、1又は複数基のベルトコンベア1の上流側の端部の上方に設けた銅精鉱ホッパー2からロータリーフィーダー等の第1定量切出装置3を介して銅精鉱を一定量で切り出してベルトコンベア1のコンベア面上に拡げると共に、このコンベア1における搬送方向において銅精鉱ホッパー2よりも下流側に設けた雑原料ホッパー4からロータリーフィーダー等の第2定量切出装置5を介して雑原料を一定量で切り出して該コンベア面上の銅精鉱の上に拡げることで混合してもよい。この図2の場合は、両ホッパー2、4からの切り出し量を制御することで銅精鉱と雑原料との混合割合が調整された混合原料を混合ホッパー6に受け入れることができる。また、ベルトコンベア1は直列に設ける基数が多いほど混合の度合いが増すので2~4基程度が好ましい。
【0023】
また、図3に示すように、第1ベルトコンベア11Aの上流側の端部の上方に設けた銅精鉱ホッパー12からロータリーフィーダー等の第1定量切出装置13を介して銅精鉱を一定量で切り出して第1ベルトコンベア11Aのコンベア面上に拡げると共に、第2ベルトコンベア11Bの上流側の端部の上方に設けた雑原料ホッパー14からロータリーフィーダー等の第2定量切出装置15を介して雑原料を一定量で切り出して第2ベルトコンベア11Bのコンベア面上に拡げ、これら第1及び第2ベルトコンベア11A、11Bの両方の下流側端部からそれぞれ銅精鉱及び雑原料を同じ混合ホッパー16に落下させることで混合してもよい。その際、第1定量切出装置13及び第2定量切出装置15のうちの少なくとも一方を間欠的に運転したり、これらを交互に運転したりしてもよい。この図3の場合は、両ホッパー12、14からの切り出し量を制御したり、両ベルトコンベア11A、11Bの走行速度を制御したりすることで銅精鉱と雑原料との混合割合が調整された混合原料を混合ホッパー16に受け入れることができる。
【0024】
なお、上記の図2及び図3のいずれの場合においても、ベルトコンベアのコンベア面上に向けて雑原料を落下させる時の落差、及びベルトコンベアの下流側端部から混合原料を落下させるときの落差を50cm以上確保するのが好ましい。これにより、雑原料の塊をほぐした状態で乾燥設備や製錬炉に装入することが可能になる。なお、脱水工程S3を経た雑原料は粒子同士の凝集力が低下しているため、上記のいずれの方法で混合する場合であっても塊状の雑原料を容易に解砕することができるうえ、雑原料は水分率が低下して粘着しにくくなっているので、銅精鉱と容易に混合させることができる。
【0025】
5.搬送工程
搬送工程S5は、上記の混合工程S4で得た混合原料を製錬炉やその前段の乾燥設備に搬送する工程である。この乾燥設備は混合原料を予熱により乾燥処理してから製錬炉に装入するものであり、例えば、中心軸を水平方向からわずかに傾けた状態で回転可能に据付けられた円筒体からなるロータリースチームドライヤーを挙げることができる。このドライヤーは、その片方の端部から装入された乾燥対象物を該円筒体の回転により撹拌しながら該中心軸方向に移動させる間に蒸気配管により乾燥処理するものである。
【0026】
上記の混合原料の搬送方法には特に限定はなく、ベルトコンベア、バケットコンベア等の一般的な機械的搬送方法によるものでもよいが、管内を流れる空気の気流を利用して搬送する空気搬送方式が好ましい。空気搬送方式は、高速の空気によって粉粒体を分散状態で搬送する低濃度搬送と、低速の気流によって粉粒体をプラグ状にして搬送する高濃度搬送とに大別することができる。これらのうち、銅製錬原料の場合は、輸送管の摩耗を抑えることができるうえ、混合原料を分離させることなく比較的少ない空気消費量で搬送することが可能な高濃度搬送が好ましい。
【0027】
上記の高濃度搬送の一般的な構成図を図4に示す。この図4に示す空気搬送設備は、前述した混合ホッパー6、16の底部に設けられている供給元タンク20と、供給元タンク20の底部に一端部が接続する輸送管21と、輸送管21の他端部に接続する供給先タンク22とから主に構成され、供給元タンク20に空気搬送用の圧縮空気が導入される。
【0028】
以上説明したように、本発明の実施形態の銅製錬原料の調製方法を採用することにより、湿潤状態の雑原料の内部の水分率を低下させることができるので、製錬炉の操業が乾燥不良によって不安定になるのを防ぐことができる。また、湿潤状態の雑原料の水分率が低下することで粒子同士の凝集力を低下させて容易に解砕可能な状態にできるので、ベルトコンベアからの落下時の衝撃や空気搬送時の輸送管との摩擦などの物理的な力がかかることで、適度にほぐれた状態となり、よって乾燥設備における乾燥効率を高めることができる。更に、水分率の低下後に解砕された雑原料には粒子同士が凝集した塊状物がほとんど含まれなくなるので、空気搬送を採用しても搬送不良が発生しにくくなる。
【実施例0029】
(実施例)
硫酸製造工場の精製系プロセスで副生する廃酸に硫化剤を添加することで生成される析出物を湿潤状態の雑原料として用意し、これを銅精鉱と混ぜ合わせて乾燥設備に装入した。この銅精鉱との混ぜ合わせの前に、該湿潤状態の雑原料を床面に約2cmの厚みで層状に拡げ、その上に吸湿剤として乾物基準で該雑原料と同じ質量の銅含有粉(銅滓粉)をショベルローダーを用いて均一に散布した。吸湿剤の散布後は、そのままの状態で24時間保持することで湿潤状態の雑原料の水分率を低下させた。
【0030】
床面に拡げる前の湿潤状態の雑原料の水分率と、該床面に拡げてから24時間経過後の雑原料の水分率とを各々雰囲気温度105℃で30分かけて乾燥させたときの質量変化から求めたところ、図5に示すように、銅含有粉に接触した状態で24時間保持することにより、水分率が23.8質量%から8.6質量%に低下した。一方、銅含有粉は3.5質量%から5.2質量%に増加した。なお、低下した水分率のうち銅含有粉に取り込まれなかった部分は蒸発したか、または滴り落ちたものと考えられる。
【0031】
上記の24時間の保持が完了した後、雑原料を銅含有粉と一緒にショベルローダーのバケットで掬い取って約50cmの高さから床面に落下させた。その際、落下前の雑原料の塊の大きさと落下後の雑原料の塊の大きさとを比較すると、落下後の塊は落下前の塊に比べて平均して4分の1~8分の1程度に細かく解砕されていた。
【0032】
このようにして落下させた雑原料及び銅含有粉を掬い取って粉体混合機に投入し、更に銅精鉱を投入して混合した。その際、該銅精鉱100質量部(乾物基準)に対して雑原料が5質量部(乾物基準)の混合割合となるようにした。得られた混合原料の一部をベルトコンベアを介して乾燥炉へ装入し、乾燥炉からチェーンコンベア及び気流搬送器を介して製錬炉へ装入した。その結果、特に問題なくこれら乾燥炉及び製錬炉を安定的に運転することができた。
【0033】
(比較例1)
実施例と同量の湿潤状態の雑原料と銅含有粉とを用意したが、これらを床面に拡げたり24時間かけて保持したりせずに、単にショベルローダーのバケットで約50cmの高さから床面に落下させた。その結果、落下前の雑原料の塊の大きさと落下後の塊の大きさとはほぼ同じであった。以降は実施例と同様に銅精鉱と混合して乾燥炉を経由して製錬炉に装入することを試みたところ、チェーンコンベアにおいて電流値上昇による設備保護停止が発生し、気流搬送器において小塊による閉塞が発生した。
【0034】
(比較例2)
湿潤状態の雑原料と銅含有粉を50cmの高さから落下させるのに代えて4~5mの高さから落下させたこと以外は上記の比較例1と同様にして銅製錬原料の調製を行ったところ、雑原料の塊の大きさは、落下前に比べて落下後は平均して2分の1程度に細かくなったが、落下前のものとほぼ同程度の大きさのものも多く含まれていた。
【0035】
(比較例3)
実施例において約50cmの高さから落下させたときに得られた雑原料の大きさとほぼ同程度の大きさになるまで上記の比較例2と同様の条件で繰り返し湿潤状態の雑原料と銅含有粉を落下させた。以降は実施例と同様に銅精鉱と混合して乾燥炉を経由して製錬炉に装入した。そして、製錬炉から産出されるスラグを製錬炉での処理開始時、処理開始から8時間後、及び処理開始から16時間後の3回サンプリングしてそれらの四酸化三鉄(Fe)品位を分析した。このようにFe品位を分析する理由は、製錬炉の操業が不安定になると、反応の進行にばらつきが生じてスラグのFe品位が上昇するため、Fe品位を指標とすることで操業の安定性を評価できるからである。
【0036】
その分析結果を上記実施例において同様に分析した結果と共に図6に示す。なお、図6において、処理開始前のFe品位を1.0とした。この図6の結果から分かるように、比較例3では処理開始から8時間後及び16時間後において製錬炉から抜き出されるスラグ中のFe品位が基準値の約1.04倍に増加したが、実施例では処理開始から16時間後に約0.95倍まで減少した。従って、実施例は比較例3に比べて製錬炉の操業が安定していることが分かる。ここで基準値とは、湿潤状態の雑原料を含まない乾燥状態の銅精鉱のみを原料として製錬炉に装入したときにおいて、操業が定常状態にあるときにサンプリングしたスラグを分析した値である。
【符号の説明】
【0037】
1 ベルトコンベア
2、12 銅精鉱ホッパー
3、13 第1定量切出装置
4、14 雑原料ホッパー
5、15 第2定量切出装置
6、16 混合ホッパー
11A 第1ベルトコンベア
11B 第2ベルトコンベア
20 供給元タンク
21 輸送管
22 供給先タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6