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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169370
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】蓄電デバイス構造体
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/122 20210101AFI20221101BHJP
   H01M 50/126 20210101ALI20221101BHJP
   H01M 50/133 20210101ALI20221101BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20221101BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20221101BHJP
   H01G 11/78 20130101ALI20221101BHJP
   H01G 11/14 20130101ALN20221101BHJP
【FI】
H01M50/122
H01M50/126
H01M50/133
H01M10/058
H01G11/06
H01G11/78
H01G11/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075371
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】八木 稔
【テーマコード(参考)】
5E078
5H011
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AA11
5E078AB02
5E078AB06
5E078HA13
5E078HA27
5E078JA02
5H011AA13
5H011CC02
5H011CC05
5H011CC10
5H011KK01
5H011KK02
5H029AJ12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ27
5H029DJ02
5H029EJ03
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】 蓄電デバイス、特に複数の蓄電デバイスを積層した蓄電デバイススタックの破損時や過充電時などの異常時に発火するリスクを低減することが可能な蓄電デバイス構造体を提供する。
【解決手段】 蓄電デバイス構造体は、蓄電デバイスとこの蓄電デバイスを空隙を有して外包するケーシングとからなり、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に、アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体を配置した構造を有する。この成形体は、フィルム状、シート状、または板状であることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスと、該蓄電デバイスを空隙を有して外包するケーシングとからなる蓄電デバイス構造体であって、
前記蓄電デバイスとケーシングとの空隙に、アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体を配置した、蓄電デバイス構造体。
【請求項2】
前記蓄電デバイスが非水電解質を用いたものである、請求項1に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項3】
前記アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体において、アクリルポリマー部が全体の10重量%以上含まれる、請求項1または2に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項4】
前記アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上をモノマーとして合成されるアクリル系ポリマー(ホモポリマーまたはコポリマー)、または、アクリロニトリルをモノマーとして合成されるポリアクリロニトリル、さらには、これら(メタ)アクリル酸アルキルエステルまたはアクリロニトリルと、1種類以上の他のモノマーとのコポリマーである、請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項5】
前記アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体が、フィルム状、シート状または板状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項6】
前記フィルム状、シート状、または板状の成形体が、厚さ1μm~50000μmである、請求項5に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項7】
前記フィルム状、シート状、または板状の成形体の面積当たりの重量が、10g~20000g/m2である、請求項5又は6に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項8】
前記フィルム状、シート状、または板状の成形体が、アクリル系ポリマーと消火剤の2層構造、またはアクリル系ポリマーと消火剤とアクリル系ポリマーの3層構造、さらにはアクリル系ポリマーと消火剤の複数層で形成された、請求項5~7に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項9】
前記アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体が、電池ケース、蓄電デバイスの収納ケースや収納フィルム、蓄電デバイスを外包するケーシングとして使用された、請求項1~8のいずれか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項10】
前記蓄電デバイスが複数積層されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスを外包した蓄電デバイス構造体に関し、特に蓄電デバイスの破損時や過充電時などの異常時に発火するリスクを低減することが可能な蓄電デバイス構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力用途の携帯機器や電気自動車などの電源として、非水電解質を用いた蓄電デバイスをケーシングに収容してなる二次電池、リチウムイオンキャパシタおよび電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスが用いられている。
【0003】
このような蓄電デバイスは、通常、上限電圧が定められており、適切な保護回路と組み合わせることで上限電圧を超えないよう制御されている。しかしながら、保護回路が誤動作を起こし上限電圧を超えた場合、充放電を繰り返した場合、あるいは外的要因により短絡した場合などには、蓄電デバイスが過充電状態に陥り、電解液が電極材料などと反応してガスが発生し、この発生したガスによって内圧が上昇する。この発生するガスは、電解液、メタン、一酸化炭素、エチレン、エタン、プロパンなどの可燃性ガスを含むことがあり、蓄電デバイス外部に放出された際に、発火や爆発などを起こす危険性がある。
【0004】
そして、近年、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスにおいては、高出力および大容量化が求められてきており、蓄電デバイス単体や、複数の蓄電デバイスをスタックしたモジュール構成で大電流を使用する機会が増えてきている。例えば、複数の蓄電デバイスをスタックしたモジュールにおいて、1つの蓄電デバイスが過充電状態に陥った場合に、ガスが電解液と共に放出された後も、その他の蓄電デバイスが機能しているため、大電流を流し続けることがある。そのため、短絡により激しく過熱される場合があり、上述したような発火や爆発などを起こす危険性は大きくなる。
【0005】
このような蓄電デバイスの発火を防止する技術として、例えば、リチウムイオン電池の内部で発生したガスを可燃性ガス吸収材によって吸収し、電池の破裂を防止する方法が提案されている(特許文献1,2)。
【0006】
一方、リチウムイオン電池内部に消火剤を配置することにより、電池内部でのガスの発生による内圧上昇によって安全弁が開放した際に外部に放出されるガスの温度を低下させる方法も提案されている(特許文献3)。さらには、リチウムイオン電池内部に、不燃性ガス、水系溶媒、あるいは不燃性溶媒を細孔内及び表面に吸着させた多孔質素材を配置することにより、リチウムイオン電池からの発生するガスによる発火を防止する方法も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-155790号公報
【特許文献2】特開2003-077549号公報
【特許文献3】特開2010-287488号公報
【特許文献4】特開2013-187089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電気的異常時や熱暴走時には瞬間的に大量のガスが発生するため、特許文献1及び2に記載されているようなガス吸着材を蓄電デバイス内に配置する方法では、蓄電デバイスという限られた空間に対しては、ガス吸着量及びガス吸着速度ともに不十分であり、蓄電デバイスからのガスの噴出を抑制しきれない、という問題点があった。また、特許文献3及び4に記載されているように、リチウムイオン電池の内部の温度を低下させるために消火剤や、多孔質素材の細孔内および表面に不燃性ガスあるいは水系溶媒又は不燃性溶媒を吸着される材を蓄電デバイス内に配置する方法では、ガス吸着量が不十分だとその効果が十分に発揮されず、さらにガスの噴出を抑制しきれない、という問題点があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、蓄電デバイス、特に複数の蓄電デバイスを積層した蓄電デバイススタックの破損や過充電などの異常時に発火するリスクを低減することが可能な蓄電デバイス構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、蓄電デバイスと、該蓄電デバイスを空隙を有して外包するケーシングとからなる蓄電デバイス構造体であって、前記蓄電デバイスとケーシングとの空隙に、アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体を配置した、蓄電デバイス構造体を提供する(発明1)。
【0011】
かかる発明(発明1)によれば、蓄電デバイス内ではなく、蓄電デバイスを外包するケーシングの空間に、アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体を配置することにより、蓄電デバイス内で発火が生じた際のケーシング外まで延焼するリスクを大幅に低減することができる。
【0012】
上記発明(発明1)においては、前記蓄電デバイスが非水電解質を用いたものであることが好ましい(発明2)。
【0013】
上記発明(発明1,2)においては、前記アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体は、アクリル系ポリマーが全体の10重量%以上含まれることが好ましい(発明3)。
【0014】
かかる発明(発明3)によれば、蓄電デバイス内で発火が生じた際の外部への延焼防止効果を好適に発揮することができる。
【0015】
上記発明(発明1~3)においては、前記アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上をモノマーとして合成されるアクリル系ポリマー(ホモポリマーまたはコポリマー)、または、アクリロニトリルをモノマーとして合成されるポリアクリロニトリル、さらには、これら(メタ)アクリル酸アルキルエステルまたはアクリロニトリルと、1種類以上の他のモノマーとのコポリマーであることが好ましい(発明4)。
【0016】
上記発明(発明1~4)においては、前記アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体が、フィルム状、シート状または板状であることが好ましい(発明5)。
【0017】
かかる発明(発明5)によれば、フィルム状、シート状または板状とすることにより、ケーシング内に張り付けたり、隙間部に挿入したり、その設置バリエーションを豊富なものとすることができ、取扱い性に優れたものとすることができる。
【0018】
上記発明(発明5)においては、前記フィルム状、シート状、または板状の成形体が、厚さ1μm~50000μmであることが好ましい(発明6)。特に上記発明(発明5又は6)においては、前記フィルム状、シート状、または板状の成形体の面積当たりの重量が、10g~20000g/mであることが好ましい(発明7)。
【0019】
また、上記発明(発明5)においては、アクリル系ポリマーと消火剤の2層構造、またはアクリル系ポリマーと消火剤とアクリル系ポリマーの3層構造、さらにはアクリル系ポリマーと消火剤の複数層による成形体であっても良い(発明8)。
【0020】
かかる発明(発明6,7,8)によれば、所定の厚さ及び重量のフィルム状、シート状、または板状の成形体を、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に配置することにより、蓄電デバイス内で発火が生じた際の外部への延焼防止効果を好適に発揮することができる。
【0021】
さらには、前記アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体が、電池ケース、蓄電デバイスの収納ケースや収納フィルム、または蓄電デバイスを外包するケーシングとして使用された、蓄電デバイス構造体であっても良い(発明9)。
【0022】
上記発明(発明1~9)においては、前記蓄電デバイスが複数積層されていてもよい(発明10)。
【0023】
蓄電デバイスを複数積層した蓄電デバイススタックは、1つの蓄電デバイスが過充電状態に陥った場合であってもその他の蓄電デバイスが機能しているため大電流を流し続けるので、激しく過熱され、可燃性のガスが発火温度以上となりやすい。このとき、かかる発明(発明10)によれば、蓄電デバイスから可燃性ガスが噴出してケーシングの空間に流出したとしても、本件発明の素材が可燃性ガスに影響を与えることにより、ケーシング外にまで延焼するリスクを大幅に低減することができるので、蓄電デバイススタックに特に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、前記蓄電デバイスとケーシングとの空隙に、アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体を配置することで、蓄電デバイスの短絡時に蓄電デバイスから放出される高温の噴出物や噴出ガスにより、アクリル系ポリマーが熱分解して発生する成分が、蓄電デバイス構造体の発火リスクを大幅に低減するとともに、アクリル系ポリマーが蓄電デバイスから放出される高温の噴出物や噴出ガスにより溶融し発火した場合にも、封入されている消火剤が、発生した火炎を消火して、蓄電デバイス構造体の安全性を大幅に向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の本発明の蓄電デバイス構造体について、以下の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0026】
[蓄電デバイス構造体]
本実施形態の蓄電デバイス構造体は、蓄電デバイスと、この蓄電デバイスを空隙を有して外包するケーシングとからなり、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に、アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体を配置した構造を有する。
【0027】
(蓄電デバイス)
本実施形態において、蓄電デバイスとしては、特に制限はなく、一次電池、二次電池のいずれも用いることができるが、好ましくは二次電池である。この二次電池の種類については、特に制限されず、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、全固体電池、鉛畜電池、ニッケル・水素畜電池、ニッケル・カドミウム畜電池、ニッケル・鉄畜電池、ニッケル・亜鉛畜電池、酸化銀・亜鉛畜電池、金属空気電池、多価カチオン電池、コンデンサ、キャパシタ等を用いることができる。これらの中では、非水電解質を用いたものを好適に用いることができる。これらの二次電池の中でも、本実施形態の電池用材料の好適な適用対象として、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、リチウムイオンキャパシタ、全固体電池などを好適に用いることができる。
【0028】
上記非水電解質としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などの環状カーボネートと、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)などの鎖状カーボネートとの混合溶液などを用いることができる。また、上記非水電解質は、必要に応じて、電解質として六フッ化リン酸リチウムなどのリチウム塩が溶解したものであってもよい。例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及びジメチルカーボネート(DMC)を1:1:1の割合で混合した混合液、あるいはプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を1:1:1の割合で混合した混合液に、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウムを添加したものを用いることができる。
【0029】
上述したような蓄電デバイスは、複数が積層されてなる蓄電デバイススタックの形態であってもよい。蓄電デバイススタックは、1つの蓄電デバイスが過充電状態に陥った場合であっても、その他の蓄電デバイスが機能しているため大電流を流し続けるので、非水電解質に起因して可燃性ガスが発生した際に、発火温度以上となりやすいため特に好適である。
【0030】
(ケーシング)
本実施形態において、ケーシングとしては上述した蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)に対して空隙を有して外包しうるものであれば特に制限はなく、電池ケースなどの蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)の収納ケースや、蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)を使用する機器の筐体などがこれに該当する。このケーシングは、合成樹脂製、金属製などその素材については限定されない。
【0031】
(発火防止素材)
本実施形態において、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に設置する発火防止素材としては、アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体を配置する。消火剤を封入する素材としては、ポリマーであれば種々のオレフィン系ポリマーが挙げられるが、その中で、蓄電デバイスの発火防止効果が確認されているアクリル系ポリマーが有効である。
【0032】
(アクリル系ポリマー)
上記アクリル系ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上をモノマーとして合成されるアクリル系ポリマー(ホモポリマーまたはコポリマー)が挙げられる。また、アクリロニトリルをモノマーとして合成されるポリアクリロニトリルが挙げられる。さらには、これら(メタ)アクリル酸アルキルエステルまたはアクリロニトリルと、1種類以上の他のモノマーとのコポリマーが挙げられる。
【0033】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸イソブチルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
上記アクリル系ポリマーに使用するモノマーと共重合する他のモノマーとしては、他の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アクリロニトリル、アクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレンなどがあるが、これらに限定されるものではない。この他のモノマーは、アクリル系ポリマーに使用するモノマーと他のモノマーの合計100重量%に対して、90重量%以下、特に40重量%以下程度とすることが好ましい。他のモノマーがあまり多くなりすぎると、蓄電デバイス構造体の発火リスクの低減効果が十分でなくなる。
【0035】
上記アクリル系ポリマーには、本発明の効果を害しない範囲で、一般的に用いられる各種添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、架橋ゴム粒子、紫外線吸収剤、滑り剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤等が挙げられる。また、アクリル系ポリマーの表面には、本発明の効果を害しない範囲で、機能性を高めるための素材をコーティングしたものを使用しても良い。
【0036】
(消火剤)
本実施形態で使用される消火剤としては、発火を防ぐ難燃化機能を有していればよく、特に制限はされない。消火剤としては、冷却作用、窒息作用、抑制作用(燃焼の反応を抑えて消火する、負触媒効果ともいう)によるものが知られているが、電気火災に有効な消火剤が好ましい。冷却作用による消火剤としては水などが挙げられる。窒息作用による消火剤としては、窒素、アルゴン、二酸化炭素、ハロゲン化物などが挙げられるが、これら不活性ガスを生成することによって燃焼の連鎖反応を停止させる難燃化機能を有していても良い。また、事前に不活性ガスを吸蔵し、所定温度で放出可能な吸蔵合金等を用いることもできる。抑制作用による消火剤としては、熱分解反応や酸化反応等の発火した際に生じる燃焼の連鎖反応を停止する作用のものであっても良いし、そうでなくてもよい。
【0037】
抑制作用による消火剤として、ラジカルトラップ機能を有するラジカルトラップ消火剤の具体的な例としては、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸エステル、亜リン酸トリメチル、赤リン、ホスファゼン等のリン化合物;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カリウムと尿素の反応生成物、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムの水和物、炭酸カリウム、炭酸カリウムの水和物;酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウム等の有機カルボン酸カリウム塩、硫酸アンモニウム;臭素化合物、ハロゲン化物修飾ポリマー、ペルハロゲン化アルキルスルホン酸等のハロゲン化合物;ヒンダートアミン、フェノール付加ヒンダートアミン等のヒンダートアミン化合物;ブチルハイドロキノン等のアルキルハイドロキノン化合物;臭素化合物としては、ブロム化トリアジン、ブロム化エポキシ樹脂等の臭素化合物;ペルフルオロアルキルスルホン酸:等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
これら消火剤に、燃料成分(ジシアンジアミド、ニトログアニジン、硝酸グアニジン、尿素、メラミン、メラミンシアヌレート、アビセル、グアガム、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、カルボキシルメチルセルロースカリウム、カルボキシルメチルセルロースアンモニウム、ニトロセルロース、アルミニウム、ホウ素、マグネシウム、マグナリウム、ジルコニウム、チタン、水素化チタン、タングステン、ケイ素等である)、および酸化剤成分(塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、塩基性硝酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、三酸化モリブデン等である)を混合したものも挙げられる。また、前記のカリウム塩は、塩素酸カリウムと結合剤とを混合させてシート状に成形したものも挙げられる。
【0039】
支燃物遮断消火剤のうち、難燃性樹脂消火剤としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリイミド(PI)樹脂、ゴム系の樹脂(例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR))、等が挙げられる。
【0040】
支燃物遮断消火剤のうち、チャー形成消火剤としては、縮合リン酸エステル、シリコーンパウダー、ホウ酸亜鉛、有機ベントナイト、メラミン樹脂(MF)、膨張黒鉛、ポリカーボネート(PC)及びポリスチレンカーボネート等を挙げられる。
【0041】
吸熱・希釈消火剤としては、例えば;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム等の水酸化物;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等のアルカリ金属化合物;リン酸二水素アンモニウム;尿素;等が挙げられる。
【0042】
これら消火剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。
【0043】
本実施形態においては、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に配置する成形体の形状は特に制限はないが、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に設置する際の取扱い易さを考慮すると、フィルム状、シート状、または板状とすることが好ましい。発火防止素材をフィルム状、シート状、または板状とすることにより、ケーシング内に張り付けたり、隙間部に挿入したり、その設置バリエーションを豊富なものとすることができる。
【0044】
本実施形態での、アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体の成形方法としては、成形体がフィルム状、シート状の場合は、厚さ50~125μmのアクリル系ポリマーの2枚のフィルム製品の間に消火剤のシート製品をはさみ、アクリル系ポリマーの周囲をヒートシールしたものなどが挙げられる。また、板状製品の場合は、厚さ1000~5000μmのアクリル系ポリマーの1枚の板状製品の中央部に、消火剤のシートが入るスペースができるように削りだし、そのスペースに消火剤を入れて、その上にアクリル系ポリマーの板状製品を、接着剤または耐熱性テープで固定して成形するなどが挙げられるが、アクリル系ポリマー内に消火剤が入っていればよく、製法に限定されるものではない。
【0045】
また、本件発明においては、アクリル系ポリマーと消火剤の2層構造、またはアクリル系ポリマーと消火剤とアクリル系ポリマーの3層構造、さらにはアクリル系ポリマーと消火剤の複数層による成形体であっても良い。
【0046】
さらには、これらの発火防止素材は、蓄電デバイスからの噴出物および噴出ガスに対し、伝熱吸収による冷却効果、燃焼ラジカル反応を抑制する効果、吸着材表面での火炎が不安定となる消炎効果を発揮する素材を付与して使用することも可能である。
【0047】
上述したような発火防止素材は、単独で用いてもよいし2種類以上の素材を併用してもよい。
【0048】
さらには、前記アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体が、電池ケース、蓄電デバイスの収納ケースや収納フィルム、または蓄電デバイスを外包するケーシングとして使用された、蓄電デバイス構造体であっても良い。
【0049】
以上、本発明の蓄電デバイス構造体について前記実施形態に基づき説明してきたが、本発明は蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)とケーシングとの間の空隙に、アクリル系ポリマーに消火剤を封入した成形体を配置しさえすればよく、蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)の大きさ、形状などは特に制限されない。そのため、スマートフォンから車載用など幅広い大きさの蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)にまで適用可能である。
【実施例0050】
以下の具体的な実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[過充電試験]
【0051】
(比較例1)
蓄電デバイスの容器を想定したPP樹脂製容器(内径:横80mm×縦105mm×深さ34mm、樹脂厚さ2mm、アルミラミネートリチウムイオン電池の極側をこのPP樹脂製容器の横80mm側に配置し、PP樹脂製容器の横80mmの側に直径10mmの穴を5個開けた上面が開放した容器)を用意した。このPP樹脂製容器の内側に、正極三元系で1500mAhのアルミラミネートリチウムイオン電池(横35mm、縦75mm)を設置し、その上から樹脂厚さ4mmのPP樹脂製板で蓋をして蓋の周縁を耐熱性テープを使用して隙間がないように密閉し、過充電によるリチウムイオン電池からの噴出物は、5個開けた穴からだけ放出されるように構成した。
【0052】
この蓄電デバイスの容器を想定したPP樹脂製容器の外側に、ケーシングの容器を想定したPP樹脂製容器(内径:横98mm×縦148mm×深さ48mm、樹脂厚さ2mm、横98mm側に直径10mmの穴を5個開けた上面が開放した容器(上記の蓄電デバイスの容器を想定したPP樹脂製容器の穴あけ場所とは反対側に穴あけした容器))を配置し、電池を過充電できるように配線し、その上から厚さ4mmのPP樹脂製板で蓋をして、蓋の周縁を耐熱性テープを使用して隙間がないように密閉し、過充電での電池の噴出物は、5個開けた穴からだけから放出されるようにして、蓄電デバイス構造体とした。
【0053】
この蓄電デバイス構造体に、15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊され、ケーシングの外側で激しい発火が確認された。
【0054】
(比較例2)
比較例1で使用した蓄電デバイス構造体において、アクリル系ポリマー(ポリメタクリル酸メチルを主体とするポリマー94%以上、添加剤5%以下)のフィルム状成形体(厚さ50μm、面積当たりの重量60g/m)を、ケーシングを想定したPP樹脂製容器の上蓋のPP樹脂製板の内側の上面に0.011m、両面テープで貼り付けて蓄電デバイス構造体とした。
【0055】
この蓄電デバイス構造体に、比較例1と同じ条件、すなわち15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊されたが、ケーシングの外側での発火は認められなかった。
【0056】
(比較例3)
比較例1で使用した蓄電デバイス構造体において、アクリル系ポリマー(ポリメタクリル酸メチルを主体とするポリマー94%以上、添加剤5%以下)のフィルム状成形体(厚さ50μm、面積当たりの重量60g/m)を、ケーシングを想定したPP樹脂製容器の上蓋のPP樹脂製板の内側の上面に0.005m(比較例2の面積1/2)、両面テープで貼り付けて蓄電デバイス構造体とした。
【0057】
この蓄電デバイス構造体に、比較例1と同じ条件、すなわち15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊され、アクリル系ポリマーが溶解・破壊され、ケーシングの外側で発火が認められた。
【0058】
(比較例4)
比較例1で使用した蓄電デバイス構造体において、塩化ビニルポリマーのフィルム状成形体(厚さ300μm、面積当たりの重量420g/m)を、ケーシングを想定したPP樹脂製容器の上蓋のPP樹脂製板の内側の上面に0.011m、両面テープで貼り付けて蓄電デバイス構造体とした。
【0059】
この蓄電デバイス構造体に、比較例1と同じ条件、すなわち15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊され、ケーシングの外側で激しい発火が確認された。
【0060】
(実施例1)
比較例1で使用した蓄電デバイス構造体において、アクリル系ポリマー(ポリメタクリル酸メチルを主体とするポリマー94%以上、添加剤5%以下)のフィルム状成形体(厚さ50μm、面積当たりの重量60g/m)の2枚の間にカリウム塩のシート(重炭酸カリウム、塩素酸カリウム、結合剤の成分による厚さ100μmのシート)を配置し、周囲をヒートシールしたフィルム状成形体(厚さ200μm)を、ケーシングを想定したPP樹脂製容器の上蓋のPP樹脂製板の内側の上面に0.005m(比較例2の面積1/2)、両面テープで貼り付けて蓄電デバイス構造体とした。
【0061】
この蓄電デバイス構造体に、比較例1と同じ条件、すなわち15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊されたが、ケーシングの外側での発火は認められなかった。