IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミツトヨの特許一覧

<>
  • 特開-テストインジケータ 図1
  • 特開-テストインジケータ 図2
  • 特開-テストインジケータ 図3
  • 特開-テストインジケータ 図4
  • 特開-テストインジケータ 図5
  • 特開-テストインジケータ 図6
  • 特開-テストインジケータ 図7
  • 特開-テストインジケータ 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169398
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】テストインジケータ
(51)【国際特許分類】
   G01B 3/22 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
G01B3/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075437
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】寺内 達志
【テーマコード(参考)】
2F061
【Fターム(参考)】
2F061AA01
2F061AA52
2F061FF22
2F061FF36
2F061FF72
2F061GG01
2F061HH73
2F061JJ71
2F061SS02
2F061SS03
2F061SS18
2F061SS28
(57)【要約】
【課題】長さの異なる測定子210に交換することを許容し、測定子210が届く範囲を長くできるようにしたテストインジケータ100を提供する。測定子210の回転角が大きくなることを許容し、広い測定範囲で正確な測定値を表示するテストインジケータ100を提供する。
【解決手段】テストインジケータ100の演算部400は、測定子210の長さを設定記憶する測定子長さ記憶部420と、エンコーダ340による検出値を測定値に換算する換算比を測定子210の長さに応じて変更して測定値の補正を行う測定子210長さ補正演算部400と、を備える。また、演算部400は、エンコーダ340による検出値に基づいて測定子210の回転角αs[rad]を求める回転角算出部410と、回転角算出部410で算出された回転角αsを引数とする正弦値を乗算することによって測定値の補正を行う弧弦誤差補正演算部400と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の表面に接触する接触子を先端に有する測定子と、
前記測定子を回動可能に枢支する本体ケースと、
前記測定子の回転変位量を検出するエンコーダと、
前記エンコーダによる検出値を前記接触子の変位量に換算して測定値を算出する演算部と、
前記測定値を表示する表示部と、を備えるテストインジケータにおいて、
前記演算部は、
前記測定子の長さを設定記憶する測定子長さ記憶部と、
前記エンコーダによる検出値を前記測定値に換算する換算比を前記測定子の長さに応じて変更して前記測定値の補正を行う測定子長さ補正演算部と、を備える
ことを特徴とするテストインジケータ。
【請求項2】
測定対象物の表面に接触する接触子を先端に有する測定子と、
前記測定子を回動可能に枢支する本体ケースと、
前記測定子の回転変位量を検出するエンコーダと、
前記エンコーダによる検出値を前記接触子の変位量に換算して測定値を算出する演算部と、
前記測定値を表示する表示部と、を備えるテストインジケータにおいて、
前記演算部は、
前記エンコーダによる検出値に基づいて前記測定子の回転角αs[rad]を求める回転角算出部と、
前記回転角算出部で算出された前記回転角αsを引数とする正弦値を乗算することによって前記測定値の補正を行う弧弦誤差補正演算部と、を備える
ことを特徴とするテストインジケータ。
【請求項3】
測定対象物の表面に接触する接触子を先端に有する測定子と、
前記測定子を回動可能に枢支する本体ケースと、
前記測定子の回転変位量を検出するエンコーダと、
前記エンコーダによる検出値を前記接触子の変位量に換算して測定値を算出する演算部と、
前記測定値を表示する表示部と、を備えるテストインジケータにおいて、
前記演算部は、
前記測定子の長さを設定記憶する測定子長さ記憶部と、
所定の基準長さGsを有する基準測定子のときに実測された基準測定子のたわみ誤差を基準たわみ誤差δsfとして記憶した基準たわみ誤差記憶部と、
前記基準たわみ誤差δsfを前記測定子の長さに応じて補正することで実際のたわみ誤差である実たわみ誤差δcfを算出するたわみ算出部と、
前記たわみ算出部で算出された実たわみ誤差δcfを加算することによって前記測定値の補正を行うたわみ誤差補正演算部と、を備える
ことを特徴とするテストインジケータ。
【請求項4】
測定対象物の表面に接触する接触子を先端に有する測定子と、
前記測定子を回動可能に枢支する本体ケースと、
前記測定子の回転変位量を検出するエンコーダと、
前記エンコーダによる検出値を前記接触子の変位量に換算して測定値を算出する演算部と、
前記測定値を表示する表示部と、を備えるテストインジケータにおいて、
前記演算部は、
前記測定子の長さを設定記憶する測定子長さ記憶部と、
所定の基準長さGsを有する基準測定子のときに、当該基準測定子の回転角が大きくなる方向に回転するときに実測された基準測定子のたわみ誤差を基準往路たわみ誤差δsfとして記憶した基準往路たわみ誤差記憶部と、
前記基準往路たわみ誤差δsfを前記測定子の長さに応じて補正することで実際のたわみ誤差である実往路たわみ誤差δcfを算出する往路たわみ算出部と、
所定の基準長さGsを有する基準測定子のときに、当該基準測定子の回転角が小さくなる方向に回転するときに実測された基準測定子のたわみ誤差を基準復路たわみ誤差δsbとして記憶した基準復路たわみ誤差記憶部と、
前記基準復路たわみ誤差δsbを前記測定子の長さに応じて補正することで実際のたわみ誤差である実復路たわみ誤差δcbを算出する復路たわみ算出部と、
前記エンコーダによる検出値が大きくなる方向に変化するときは、前記往路たわみ算出部で算出された実往路たわみ誤差δcfを加算することによって前記測定値の補正を行い、前記エンコーダによる検出値が小さくなる方向に変化するときは、前記復路たわみ算出部で算出された実復路たわみ誤差δcbを加算することによって前記測定値の補正を行うたわみ誤差補正演算部と、を備える
ことを特徴とするテストインジケータ。
【請求項5】
測定対象物の表面に接触する接触子を先端に有する測定子と、前記測定子を回動可能に枢支する本体ケースと、を備えるテストインジケータの制御方法であって、
前記測定子の回転変位量をエンコーダで検出する回転検出工程と、
前記エンコーダによる検出値を前記接触子の変位量に換算して測定値を算出する演算工程と、
前記測定値を表示する表示工程と、を備え、
前記演算工程は、
前記測定子の長さを設定記憶する測定子長さ記憶工程と、
前記エンコーダによる検出値を前記測定値に換算する換算比を前記測定子の長さに応じて変更して前記測定値の補正を行う測定子長さ補正演算工程と、を備える
ことを特徴とするテストインジケータの制御方法。
【請求項6】
測定対象物の表面に接触する接触子を先端に有する測定子と、前記測定子を回動可能に枢支する本体ケースと、を備えるテストインジケータの制御方法であって、
前記測定子の回転変位量をエンコーダで検出する回転変位量検出工程と、
前記エンコーダによる検出値を前記接触子の変位量に換算して測定値を算出する演算工程と、
前記測定値を表示する表示工程と、を備え、
前記演算工程は、
前記エンコーダによる検出値に基づいて前記測定子の回転角αs[rad]を求める回転角算出工程と、
前記回転角算出工程で算出された前記回転角αsを引数とする正弦値を乗算することによって前記測定値の補正を行う弧弦誤差補正演算工程と、を備える
ことを特徴とするテストインジケータの制御方法。
【請求項7】
測定対象物の表面に接触する接触子を先端に有する測定子と、前記測定子を回動可能に枢支する本体ケースと、を備えるテストインジケータの制御方法であって、
前記測定子の回転変位量をエンコーダで検出する回転変位量検出工程と、
前記エンコーダによる検出値を前記接触子の変位量に換算して測定値を算出する演算工程と、
前記測定値を表示する表示工程と、を備え、
前記演算工程は、
前記測定子の長さを設定記憶する測定子長さ記憶工程と、
所定の基準長さGsを有する基準測定子のときに実測された基準測定子のたわみ誤差を基準たわみ誤差δsfとして記憶する基準たわみ誤差記憶工程と、
前記基準たわみ誤差δsfを前記測定子の長さに応じて補正することで実際のたわみ誤差である実たわみ誤差δcfを算出するたわみ算出工程と、
前記たわみ算出工程で算出された実たわみ誤差δcfを加算することによって前記測定値の補正を行うたわみ誤差補正演算工程と、を備える
ことを特徴とするテストインジケータの制御方法。
【請求項8】
測定対象物の表面に接触する接触子を先端に有する測定子と、前記測定子を回動可能に枢支する本体ケースと、を備えるテストインジケータの制御方法であって、
前記測定子の回転変位量をエンコーダで検出する回転変位量検出工程と、
前記エンコーダによる検出値を前記接触子の変位量に換算して測定値を算出する演算工程と、
前記測定値を表示する表示工程と、を備え、
前記演算工程は、
前記測定子の長さを設定記憶する測定子長さ記憶工程と、
所定の基準長さGsを有する基準測定子のときに、当該基準測定子の回転角が大きくなる方向に回転するときに実測された基準測定子のたわみ誤差を基準往路たわみ誤差δsfとして記憶する基準往路たわみ誤差記憶工程と、
前記基準往路たわみ誤差δsfを前記測定子の長さに応じて補正することで実際のたわみ誤差である実往路たわみ誤差δcfを算出する往路たわみ算出工程と、
所定の基準長さGsを有する基準測定子のときに、当該基準測定子の回転角が小さくなる方向に回転するときに実測された基準測定子のたわみ誤差を基準復路たわみ誤差δsbとして記憶する基準復路たわみ誤差記憶工程と、
前記基準復路たわみ誤差δsbを前記測定子の長さに応じて補正することで実際のたわみ誤差である実復路たわみ誤差δcbを算出する復路たわみ算出工程と、
前記エンコーダによる検出値が大きくなる方向に変化するときは、前記往路たわみ算出工程で算出された実往路たわみ誤差δcfを加算することによって前記測定値の補正を行い、前記エンコーダによる検出値が小さくなる方向に変化するときは、前記復路たわみ算出工程で算出された実復路たわみ誤差δcbを加算することによって前記測定値の補正を行うたわみ誤差補正演算工程と、を備える
ことを特徴とするテストインジケータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テストインジケータに関する。
【背景技術】
【0002】
テストインジケータ(いわゆるてこ式ダイヤルゲージ)が知られている(例えば特許文献1)。
テストインジケータは、本体ケースに回転変位可能に軸支された測定子を有する。測定子は、その先端に接触子を有する。そして、テストインジケータは、接触子の変位をてこの原理で拡大する。これにより、テストインジケータは、高精度、高分解能の測定器となっている。
【0003】
テストインジケータは、円周振れ、全振れ、平面度、平行度といった微小変位測定や、マスターワーク(またはブロックゲージ)に対する加工製品の加工誤差といった精密比較検査に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-309687
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
テストインジケータの使用にあたって留意すべきことがある。それは、測定子を長さが異なるものに交換してはいけない、ということである。
回転軸を回転中心として回動する測定子の変位(回転変位)をてこの原理で拡大するという構造上の特徴から、測定子の長さが変わってしまうと拡大比が違ってきてしまうので、表示される測定値が接触子の変位とは全くずれたものになってしまうからである。したがって、測定対象物や測定条件によって測定子の長さを変更したい場合に備えて、測定子長さが異なる機種をそれぞれ用意しておかなければならない。
多くの測定対象物(ワーク)を同時に並行して検査するような工作現場を考えると、測定子長さが異なる機種をそれぞれ複数台用意しなければならない。
【0006】
また、テストインジケータは、高精度、高分解能であって、なおかつ簡易に測定できるという利便性の高い測定器であるが、測定子の長さは15mm~20mmであり、例えば、20mmを超えるような深さを有する孔の内面の深い箇所はテストインジケータでは測定できない。これは、20mmを超えるような長い測定子の場合、測定子にたわみが生じ、測定誤差が大きくなるためである。
【0007】
また、テストインジケータは極微小な形状検査には使えるが、測定範囲が2mmを超えるような場合にはテストインジケータでは測定できない。これは、測定子が回転運動するため、微小範囲であれば、接触子の円弧軌道と接触子の垂直方向変位とは同じと見なせるが、回転角が大きくなってくると、円弧の長さと垂直方向変位とのずれが大きくなってきてしまうからである。
測定子長さの制限と回転角の制限とにより、テストインジケータの測定範囲は大きくても2mmまでである。
【0008】
本発明の目的は、長さの異なる測定子に交換することを許容し、測定子が届く範囲を長くできるようにし、また、測定子の回転角が大きくなることを許容し、広い測定範囲で正確な測定値を表示するテストインジケータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のテストインジケータは、
測定対象物の表面に接触する接触子を先端に有する測定子と、
前記測定子を回動可能に枢支する本体ケースと、
前記測定子の回転変位量を検出するエンコーダと、
前記エンコーダによる検出値を前記接触子の変位量に換算して測定値を算出する演算部と、
前記測定値を表示する表示部と、を備えるテストインジケータにおいて、
前記演算部は、
前記測定子の長さを設定記憶する測定子長さ記憶部と、
前記エンコーダによる検出値を前記測定値に換算する換算比を前記測定子の長さに応じて変更して前記測定値の補正を行う測定子長さ補正演算部と、を備える
ことを特徴とする。
【0010】
本発明の一実施形態では、
前記演算部は、
前記エンコーダによる検出値に基づいて前記測定子の回転角αs[rad]を求める回転角算出部と、
前記回転角算出部で算出された前記回転角αsを引数とする正弦値を乗算することによって前記測定値の補正を行う弧弦誤差補正演算部と、を備える
ことが好ましい。
【0011】
本発明の一実施形態では、
前記演算部は、
前記測定子の長さを設定記憶する測定子長さ記憶部と、
所定の基準長さGsを有する基準測定子のときに実測された基準測定子のたわみ誤差を基準たわみ誤差δsfとして記憶した基準たわみ誤差記憶部と、
前記基準たわみ誤差δsfを前記測定子の長さに応じて補正することで実際のたわみ誤差である実たわみ誤差δcfを算出するたわみ算出部と、
前記たわみ算出部で算出された実たわみ誤差δcfを加算することによって前記測定値の補正を行うたわみ誤差補正演算部と、を備える
ことが好ましい。
【0012】
本発明の一実施形態では、
前記演算部は、
前記測定子の長さを設定記憶する測定子長さ記憶部と、
所定の基準長さGsを有する基準測定子のときに、当該基準測定子の回転角が大きくなる方向に回転するときに実測された基準測定子のたわみ誤差を基準往路たわみ誤差δsfとして記憶した基準往路たわみ誤差記憶部と、
前記基準往路たわみ誤差δsfを前記測定子の長さに応じて補正することで実際のたわみ誤差である実往路たわみ誤差δcfを算出する往路たわみ算出部と、
所定の基準長さGsを有する基準測定子のときに、当該基準測定子の回転角が小さくなる方向に回転するときに実測された基準測定子のたわみ誤差を基準復路たわみ誤差δsbとして記憶した基準復路たわみ誤差記憶部と、
前記基準復路たわみ誤差δsbを前記測定子の長さに応じて補正することで実際のたわみ誤差である実復路たわみ誤差δcbを算出する復路たわみ算出部と、
前記エンコーダによる検出値が大きくなる方向に変化するときは、前記往路たわみ算出部で算出された実往路たわみ誤差δcfを加算することによって前記測定値の補正を行い、前記エンコーダによる検出値が小さくなる方向に変化するときは、前記復路たわみ算出部で算出された実復路たわみ誤差δcbを加算することによって前記測定値の補正を行うたわみ誤差補正演算部と、を備える
ことが好ましい。
【0013】
本発明のテストインジケータの制御方法は、
測定対象物の表面に接触する接触子を先端に有する測定子と、前記測定子を回動可能に枢支する本体ケースと、を備えるテストインジケータの制御方法であって、
前記測定子の回転変位量をエンコーダで検出する回転検出工程と、
前記エンコーダによる検出値を前記接触子の変位量に換算して測定値を算出する演算工程と、
前記測定値を表示する表示工程と、を備え、
前記演算工程は、
前記測定子の長さを設定記憶する測定子長さ記憶工程と、
前記エンコーダによる検出値を前記測定値に換算する換算比を前記測定子の長さに応じて変更して前記測定値の補正を行う測定子長さ補正演算工程と、を備える
ことを特徴とする。
【0014】
本発明の一実施形態では、
前記演算工程は、
前記エンコーダによる検出値に基づいて前記測定子の回転角αs[rad]を求める回転角算出工程と、
前記回転角算出工程で算出された前記回転角αsを引数とする正弦値を乗算することによって前記測定値の補正を行う弧弦誤差補正演算工程と、を備える
ことが好ましい。
【0015】
本発明の一実施形態では、
前記演算工程は、
前記測定子の長さを設定記憶する測定子長さ記憶工程と、
所定の基準長さGsを有する基準測定子のときに実測された基準測定子のたわみ誤差を基準たわみ誤差δsfとして記憶する基準たわみ誤差記憶工程と、
前記基準たわみ誤差δsfを前記測定子の長さに応じて補正することで実際のたわみ誤差である実たわみ誤差δcfを算出するたわみ算出工程と、
前記たわみ算出工程で算出された実たわみ誤差δcfを加算することによって前記測定値の補正を行うたわみ誤差補正演算工程と、を備える
ことが好ましい。
【0016】
本発明の一実施形態では、
前記演算工程は、
前記測定子の長さを設定記憶する測定子長さ記憶工程と、
所定の基準長さGsを有する基準測定子のときに、当該基準測定子の回転角が大きくなる方向に回転するときに実測された基準測定子のたわみ誤差を基準往路たわみ誤差δsfとして記憶する基準往路たわみ誤差記憶工程と、
前記基準往路たわみ誤差δsfを前記測定子の長さに応じて補正することで実際のたわみ誤差である実往路たわみ誤差δcfを算出する往路たわみ算出工程と、
所定の基準長さGsを有する基準測定子のときに、当該基準測定子の回転角が小さくなる方向に回転するときに実測された基準測定子のたわみ誤差を基準復路たわみ誤差δsbとして記憶する基準復路たわみ誤差記憶工程と、
前記基準復路たわみ誤差δsbを前記測定子の長さに応じて補正することで実際のたわみ誤差である実復路たわみ誤差δcbを算出する復路たわみ算出工程と、
前記エンコーダによる検出値が大きくなる方向に変化するときは、前記往路たわみ算出工程で算出された実往路たわみ誤差δcfを加算することによって前記測定値の補正を行い、前記エンコーダによる検出値が小さくなる方向に変化するときは、前記復路たわみ算出工程で算出された実復路たわみ誤差δcbを加算することによって前記測定値の補正を行うたわみ誤差補正演算工程と、を備える
ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】テストインジケータの外観図である。
図2】テストインジケータの内部構造を部分的に示す斜視図である。
図3】制御回路の機能ブロック図である。
図4】測定子が回転したときの接触子の変位Lsを模式的に表した図である。
図5】測定子が回転したときの接触子の変位Lcを模式的に表した図である。
図6】弧ABと垂直変位Lcとの差を模式的に表した図である。
図7】たわみ補正部の機能ブロック図である。
図8】測定子のたわみによる誤差(たわみ誤差δ)を模式的に例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
テストインジケータ100の基本的な構成自体はよく知られたものであるが、簡単に説明しておく。
図1は、本実施形態のテストインジケータの外観図である。
テストインジケータ100は、本体ケース110と、本体ケース110に回動可能に支持された測定子210と、測定子210の回転変位量をデジタル表示する表示部120と、を備える。
【0019】
測定子210は、概略細長い棒状体であって、本体ケース110に形成された挿入穴112から露出した状態で、本体ケース110の軸受部113に設けられた軸受部材114によって軸支されている。測定子210は、その先端に接触子211を有する。
表示部120は、扁平な円盤状に形成され、本体ケース110に取り付けられている。表示部120には2つのスイッチ(入力手段)121が配設されている。これらスイッチ121は、電源オンオフや表示切り替えの他、各種コマンドや設定数値の入力に供される。
【0020】
本実施形態では、交換用の測定子220が複数本用意されていて、交換用の測定子220に交換できるようになっている。交換用の測定子220としては、素材が違うものであったり、接触子221の形状や大きさが違うものがあったりしてもよいが、ここでは、長さの異なる測定子220が複数本用意されているとする。
いま、テストインジケータ100にデフォルトで取り付けられている測定子210を「基準測定子210」と称することにする。そして、基準測定子210の長さを「基準長さ」と称し、基準長さをGsで表すことにする。
本実施形態では、基準長さGsを例えば10mmとするが、テストインジケータ100の機種に応じてデフォルトで付けられる基準測定子210の長さGsはそれぞれ異なっていてもよい。
【0021】
図2は、テストインジケータ100の内部構造を部分的に示す斜視図である。
本体ケース110の内部には、測定子210の回転軸を枢支するようにして測定子210と連結した第1アーム310と、第1アーム310に対して測定子210とは反対側に隣接され、端部にセクタギア321を有する第2アーム320と、セクタギア321と噛合するピニオン330と、ピニオン330の回転量を電気信号として検出可能なエンコーダ(ロータリーエンコーダ)340と、が配設されている。
【0022】
ロータリーエンコーダ340は、ロータ(可動体)341とステータ(固定体)342とを有し、ロータ341の回転角を検出する。エンコーダは、一回転以内の絶対角度を検出するABS(アブソリュート)型であってもよいし、インクリメント型であってもよい。
【0023】
測定子210の揺動がエンコーダ340に伝達される動作を簡単に説明する。
測定子210が図2中のU方向に揺動したとする。すると、第1アーム310は、第1軸部311を中心として、図2中、反時計回りに回動する。このとき、第1アーム310の移動面(遠位側移動面)312が図2中の下方に移動し、この遠位側移動面312の下方への移動によって、第2アーム320の伝達ピン(遠位側伝達ピン)323が図2中の下方に押し下げられる。これに伴い、第2アーム320は第2軸部322を中心として、反時計回りに回動する。そして、第2アーム320の下方への移動に伴って、セクタギア321を介して、ピニオン330が時計回りに回転する。ピニオン330の回転はエンコーダ340によって検出される。
【0024】
次に、測定子210がD方向に揺動したとする。すると、第1アーム310が第1軸部311を中心として、図2中、時計回りに回動する。このとき、第1アーム310の移動面(近位側移動面)313は、図2中の上方に移動し、第2アーム320の伝達ピン(近位側伝達ピン)324は図2中の上方に押し上げられる。これに伴い、第2アーム320は第2軸部322を中心として、反時計回りに回動する。すると、第2アーム320の下方への移動に伴って、セクタギア321を介して、ピニオン330が時計回りに回転する。
【0025】
すなわち、測定子210の揺動方向によらず、第2アーム320は反時計回りに回転し、ピニオン330は時計回りに回転する。
【0026】
測定子210がU方向に回動するときと測定子210がD方向に回動するときとで拡大倍率は同じになるようにレバー比が設計されている。これは、第1軸部311、第2軸部322、遠位側伝達ピン323、および、近位側伝達ピン324の互いの相対位置関係によって支点-作用点間距離が決まるので、正転と逆転とで同じだけピニオン330が回転するようにこれらの相対位置(相対距離)が決定されている。
内部伝達機構300のレバー比が固定されているのであるから、測定子210の回転量とピニオン330の回転量とは、回転の方向を無視すれば、一対一の関係であり、ピニオン330の回転量をエンコーダ340で検出し、それに所定の換算比を乗算すれば測定子210の回転量が求まる。そして、測定子210の長さが決まっていれば、測定子210の回転量から接触子211の変位が求まることになる。
【0027】
測定子210の変位(回転動作)に伴って第2アーム320は反時計回りに回転するのであるから、復帰力として、第2アーム320を時計回りに回転させる方向に付勢力を働かせる付勢手段350を設けている。この付勢手段(例えば線バネ)350は、測定子210を元の位置に復帰させる復帰力を付与するとともに、接触子211が測定対象物と接触するときの接触力(測定力)を付与するものである。復帰力により第2アーム320が戻されると、遠位側伝達ピン323が遠位側移動面312に接触するとともに、近位側伝達ピン324が近位側移動面312に接触する位置(初期位置)まで第2アーム320は戻る。
【0028】
ここで、「往路」と「復路」とについて説明しておく。
接触子211と測定対象物とが接触したときに、測定子210が前記付勢力(復帰力)に抗して回動する場合を「往路」とする。つまり、接触子211が反時計回り(U方向)でも時計回り(D方向)でも、測定子210が回動(接触子211が変位)するときにエンコーダ340の検出値が増加する方向を「往路」とする。
逆に、測定子210が前記付勢力(復帰力)に従って引き戻される方向に回転する場合を「復路」とする。つまり、接触子211が反時計回り(U方向)でも時計回り(D方向)でも、測定子210が回動(接触子211が変位)するときにエンコーダ340の検出値が減少する方向は「復路」である。
【0029】
測定対象物の表面の凹凸(あるいはうねり)を連続的に倣い測定するような場合、測定対象物の表面形状に応じて接触子211が上下することになるが、このとき、接触子211の変位方向は「往路」と「復路」の繰り返しということになる。
「往路」のとき、接触子211と測定対象物との間にほぼ規定通りの「測定力」が作用すると期待できる。
「復路」のとき、接触子211と測定対象物との間の測定力は規定の「測定力」よりも小さくなると予想される。
測定力の違いは、接触子211と測定対象物との間に働く力や内部伝達機構300内の摩擦力の違いを生み、同じ高さの凹凸を測定する場合でも、「往路」で測定した場合と「復路」で測定した場合とで測定値に違い(戻り誤差)が生じる要因となる。そして、測定子210、220の長さが長くなると、測定子210、220のたわみが大きくなることなどにより、戻り誤差も大きくなり、これらを無視できなくなる。
【0030】
次に、図3は、内部の制御回路の構成を説明するための機能ブロック図である。
制御回路は、本体ケース110や表示部120のなかに配置された回路基板、集積回路チップに設けられる。演算部400は、CPU(中央処理装置)、所定の制御プログラムを内蔵したROM、RAMによって構成され、所定のプログラムの実行によって図3に記載の各機能部としての機能を実現するものである。
【0031】
演算部400は、回転角算出部410と、測定子長さ記憶部420と、測定子長さ補正部430と、弧弦誤差補正部440と、たわみ補正部450と、測定値算出部460と、を備える。
【0032】
各機能部を順に説明する。
回転角算出部410は、エンコーダ340の検出値から測定子210の回転角(α[rad])を算出する(回転角算出工程)。内部伝達機構300のレバー比が固定されているので、エンコーダ340で検出されたピニオン330の回転量(αp)に所定の換算比(Rr)を乗算することで測定子210の回転角(αm[rad])が求まる。測定子210の回転角をαm[rad]で表すことにする。
【0033】
αm=Rr×αp
【0034】
測定子長さ記憶部420は、測定子210の長さ情報を格納するメモリである。
まず、製品の出荷段階において、基準測定子210長さ(基準長さ)Gsがデフォルト値として測定子長さ記憶部420に設定記憶される(測定子長さ記憶工程)。例えば、基準長さGsは10mmとする。
【0035】
もし、測定子210がデフォルトのままの基準測定子210であれば、接触子211の変位Lsは次のように求まる。
図4は、測定子が回転したときの接触子211の変位Lsを模式的に表した図である。
先に回転角算出部410において測定子210の回転角αm[rad]が求められている。したがって、測定子210がデフォルトのままの基準測定子210であれば、接触子211の変位Lsは、
Ls=Gs[mm]×αm[rad]
(=Gs[mm]×Rr×αp[rad])
で求められることになる。
【0036】
従来のテストインジケータ100でいえば、測定値算出部460は、回転角算出部410で得られた測定子210の回転角αm(=Rr×αp[rad])と、基準長さGsと、の乗算により接触子211の変位Lsを求め、このLsを測定値として出力する(表示部120に表示する)ことになる(表示工程)。
【0037】
本実施形態のテストインジケータ100は、テストインジケータ100の使用段階においてユーザが測定子210を交換することを許容する。
ユーザは、測定子210を交換する場合、使用する測定子220の長さGcを測定子長さ記憶部420に設定する(測定子長さ記憶工程)。
この場合、ユーザが測定子220の長さGcの数値を直接打ち込んでもよい。あるいは、交換可能な測定子220の種類とその長さGcを予め測定子長さ記憶部420に選択メニューとして設定しておいて、測定子を交換する際に選択メニューからユーザが測定子の種類(長さGc)を選べるようにしてもよい。例えば、測定子220の長さGcを基準長さGsの2倍である20mm、のように設定する。
【0038】
測定子長さ補正部430は、使用中の測定子220の長さGcに応じた測定値(接触子221の変位Lc)が得られるように補正比を求めておく。すなわち、使用中の測定子220が長さGcの測定子210に交換されている場合、補正比はGc/Gsである。また、測定子210がデフォルトの基準長さGsのままであれば、すなわち現在の測定子の長さGcは基準長さGsであるから(Gc=Gs)、補正比は「1」である。
【0039】
ここで、図5は、測定子220が回転したときの接触子221の変位Lcを模式的に表した図である。
もし、現在使用中の測定子220の長さがGcであれば、接触子221の変位Lcは、
Lc=(Gc/Gs)×Gs[mm]×αm[rad]
(=(Gc/Gs)×Gs[mm]×Rr×αp[rad])
で求められることになる。
【0040】
測定子長さの補正までであれば、測定値算出部460は、測定子220の回転角αm(=Rr×αp[rad])と、基準長さGsと、測定子長さ補正比(Gc/Gs)と、の乗算により接触子211の変位Lcを求め(測定子長さ補正演算工程)、このLcを測定値として出力する(表示部120に表示する)。
【0041】
ここに、測定子長さ補正部430と測定値算出部460とにより測定子長さ補正演算部(測定子長さ補正演算工程)が構成される。
【0042】
続いて、弧弦誤差補正部440を説明する。
本実施形態のテストインジケータ100は測定子長さが長いものに交換することを許容するので、それだけでも測定範囲は広くなるのであるが、さらに、測定子210、220の回転角が大きくなることを許容し、できる限り測定範囲を広くすることを目指す。
例えば、測定範囲を2mm以上に広くできれば、これまで測定できなかった対象物の形状検査もテストインジケータ100で簡易に行うことができるようになる。ただし、測定子210の回転角αmが小さいときには弧ABの円弧長と垂直変位Lcとは同じであると見なせるが、測定子210の回転角αmが大きくなってくると、両者のずれは無視できなくなってくる。図6は、弧ABと垂直変位Lcとの差を模式的に表した図である。そこで、本実施形態では、弧弦誤差の補正機能を実装する。
【0043】
弧弦誤差補正部440は、回転角算出部410で求められた測定子回転角αm[rad]を用いて、接触子211の円弧軌道を接触子211の垂直変位に補正するものである。
弧弦誤差補正部440は、測定子回転角αm[rad]の正弦値(=Sin(αm))を補正係数として時々刻々算出し、測定値算出部460に供給する。
測定値算出部460は、測定子210の回転角αm[rad]に代えて、この正弦値(=Sin(αm))を用いて接触子211の変位Lcを求める(弧弦誤差補正演算工程)。
Lc=(Gc/Gs)×Gs[mm]×Sin(αm)
(=(Gc/Gs)×Gs[mm]×Sin(Rr×αp))
【0044】
ここに、弧弦誤差補正部440と測定値算出部460とにより「弧弦誤差補正演算部(弧弦誤差補正演算工程)」が構成される。
【0045】
このように本実施形態では、正弦値(=Sin(αm))を用いた補正演算処理(弧弦誤差補正演算工程)を行うことにより、測定子210、220の回転角αmが大きくなることを許容しつつ正確な測定値を提供でき、テストインジケータ100の測定範囲を従来機種に比べて格段に広くできる。
【0046】
次に、たわみ補正部450について説明する。
測定子210、220は細長い棒状の形状であると見なせるので、測定対象物から接触子211、221に力(測定力の反力)が掛かると、測定子210、220にたわみが生じる。このたわみの分だけ測定子210、220の回転角αpは小さくなるから、その分だけ測定値(測定対象物の凹凸の高さ)にも誤差が生じる。この測定子たわみに起因する誤差は、測定子210、220が長くなるとそれだけ大きくなるのであり、長い測定子220への交換を許容する場合にはたわみ誤差の影響が無視できなくなってくる。そこで、本実施形態では、たわみ誤差の補正機能を装備する。
【0047】
図7は、たわみ補正部450の機能ブロック図である。
たわみ補正部450は、基準往路たわみ誤差記憶部451と、往路たわみ算出部452と、基準復路たわみ誤差記憶部453と、復路たわみ算出部454と、回転方向判断部455と、を備える。
【0048】
基準往路たわみ誤差記憶部451と基準復路たわみ誤差記憶部453とは、基準測定子210に対して実測されたたわみ量を記憶する記憶部である。
例えば、基準長さGs(例えば10mm)をもつ基準測定子210をテストインジケータ100に取り付けた状態で既知の高さゲージを測定することにより、高さゲージと実測値との誤差(たわみ誤差δs)が得られる。例えば図8は、測定子210のたわみによる誤差(たわみ誤差δ)を模式的に例示した図である。
【0049】
前述のように、「往路」で測定したときと「復路」で測定したときとではたわみ誤差に違いがある(戻り誤差)。そこで、ゲージを往路で測定したときに得られるたわみ誤差δsを基準往路たわみ誤差δsfとし、基準往路たわみ誤差δsfの値を基準往路たわみ誤差記憶部451に設定記憶しておく(基準往路たわみ誤差記憶工程)。
ゲージを復路で測定したときに得られるたわみ誤差δsを基準復路たわみ誤差δsbとし、基準復路たわみ誤差δsbの値を基準復路たわみ誤差記憶部453に設定記憶しておく(基準復路たわみ誤差記憶工程)。
(例えば、傾斜が既知のゆるやかな斜面を行ったり来たり往復して測定することで「往路」と「復路」との実測誤差が得られる。)
【0050】
次に、往路たわみ算出部452および復路たわみ算出部454による演算について説明する。
測定子210のたわみ量は測定子210の長さによって異なってくる。
本実施形態のテストインジケータ100は測定子210を交換することを許容するので、測定子長さに応じてたわみ量を補正する必要がある。
一般論として、棒のたわみは、先端の荷重に比例するとともに長さの3乗に比例する。
テストインジケータ100を考えた場合、テストインジケータ100の測定子210、220の先端に掛かる測定力は測定子210、220の長さに反比例するのであるから、測定子の長さと測定力(荷重)だけを考えた場合、テストインジケータ100の測定子210、220のたわみ量は、測定子210、220の長さの2乗に比例する。つまり、基準長さGsの測定子210に対して交換後の測定子220の長さがGcであるとすると、測定子220の長さGcに応じた実際のたわみ誤差δcは次のようになる。
【0051】
δc=δs×(Gc/Gs)
【0052】
ただし、測定子210、220は太さが均一な丸棒というわけではなく、先端に行くほど縮径するテーパを有しているなど形状の特徴を有する。したがって、たわみ量が長さの2乗に完全に比例するとはいえない。実際には、各測定子のたわみ量を実測し、測定子ごとにたわみの実測値を得たり、長さとたわみ量を関係づける補正多項式を求めたりしておくことが望ましい。
【0053】
往路たわみ算出部452は、測定子210が長さGcの測定子220に交換されたことを受けて、基準往路たわみ誤差記憶部451に設定記憶されている基準往路たわみ誤差δsfを測定子長さGcに応じて換算した往路たわみδcf(=δsf×(Gc/Gs))を求め(往路たわみ算出工程)、これを保持しておく。
復路たわみ算出部454は、測定子210が長さGcの測定子220に交換されたことを受けて、基準復路たわみ誤差記憶部453に設定記憶されている基準復路たわみ誤差δsbを測定子長さGcに応じて換算した復路たわみδcb(=δsb×(Gc/Gs))を求め(復路たわみ算出工程)、これを保持しておく。
【0054】
回転方向判断部455は、測定子210の回転方向(移動方向)が「往路」であるか「復路」であるかを判定して、往路たわみδcfと復路たわみδcbとのどちらをたわみ補正値として使用すべきか判断する。回転方向判断部455は、例えば、回転角算出部410で得られた測定子210、220の回転角の微分(単位時間ごとの差分)を求め、その値が正であれば測定子210、220の回転方向(移動方向)は「往路」であると判定する。逆に、回転方向判断部455は、回転角算出部410で得られた測定子210、220の回転角の微分(単位時間ごとの差分)が負であれば測定子210、220の回転方向(移動方向)は「復路」であると判定する。
なお、測定子210の回転角の微分(単位時間ごとの差分)がゼロである場合は、「往路」であるとする。
【0055】
回転方向判断部455は、時々刻々で測定子210、220の回転方向(移動方向)を判定するとともに、「往路」と「復路」に応じて、測定値算出部460に「往路たわみδcf」と「復路たわみδcb」とを切り替えてたわみ誤差δcを出力する。
【0056】
測定値算出部460は、基準長さGsと、測定子長さ補正比(Gc/Gs)、回転角αpの正弦値、に加え、さらに、前記たわみ誤差δcを加味して、補正された測定値を求める(たわみ誤差補正演算工程)。
【0057】
Lc=(Gc/Gs)×Gs[mm]×Sin(αm)+δc
【0058】
ここに、回転方向判断部455と測定値算出部460とにより、たわみ誤差補正演算部(たわみ誤差補正演算工程)が構成される。
【0059】
上記説明したように本実施形態のテストインジケータ100によれば、長さの異なる測定子210、220に交換することを許容する。
このとき、測定子長さが長くなることによって生じる誤差要因を補正演算することにより、精度および分解能を十分に高くたもつことができる。また、正弦値(=Sin(αm))を用いた補正演算処理を行うことにより、測定子210、220の回転角αmが大きくなることを許容しつつ正確な測定値を提供する。
したがって、例えば、20mmを超えるような深さを有する孔の内面の深い箇所に対して、測定子長さが20mmを超える長いものに交換し、拡大した測定範囲(例えば2mm以上)で形状検査ができるテストインジケータ100とすることができる。
また、ユーザとしては、1つのテストインジケータ100に対して複数本の測定子210、220を付け替えて使用できるのであるから、測定器の調達コストや測定器の保管コストを大きく削減することができる。
【0060】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
上記実施形態では、たわみ誤差の補正において、「往路」で測定したか「復路」で測定したかを区別し、それぞれの場合で適用する補正値を変えるという処理を行うようにした。これは、倣い測定のように対象物の形状を連続測定する場合には必要な処理と考えられる。
これに対し、離れた測定点を一つずつ測定するような場合や、倣い測定の場合でもゆっくりと測定するような場合には、規定の測定力が接触子と測定対象物との間にしっかり働くので、この場合「往路」と「復路」とを区別する必要はないと考えられる。この場合は、常に「往路」と考えて、基準復路たわみ誤差記憶部453、復路たわみ算出部454、回転方向判断部455は省略してもよい。
【符号の説明】
【0061】
100 テストインジケータ
110 本体ケース
112 挿入穴
113 軸受部
114 軸受部材
120 表示部
121 スイッチ(入力手段)
210、220 測定子
211、221 接触子
300 内部伝達機構
310 第1アーム
311 第1軸部
312 遠位側移動面
313 近位側移動面
320 第2アーム
321 セクタギア
322 第2軸部
323 遠位側伝達ピン
324 近位側伝達ピン
330 ピニオン
340 エンコーダ
341 ロータ(可動体)
342 ステータ(固定体)
350 付勢手段(バネ)
360 ストッパ(固定ピン)
400 演算部
400 弧弦誤差補正演算部
410 回転角算出部
420 測定子長さ記憶部
430 測定子長さ補正部
440 弧弦誤差補正部
450 たわみ補正部
451 基準往路たわみ誤差記憶部
452 往路たわみ算出部
453 基準復路たわみ誤差記憶部
454 復路たわみ算出部
455 回転方向判断部
460 測定値算出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8