(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169458
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】細胞培養基材及びその製造方法、並びに細胞培養キット
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20221101BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20221101BHJP
B32B 27/08 20060101ALN20221101BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M3/00 A
B32B27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069316
(22)【出願日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2021075263
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】久野 豪士
【テーマコード(参考)】
4B029
4F100
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029GA01
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4B029GB09
4F100AJ09B
4F100AK03A
4F100AK42A
4F100AK45A
4F100AL06B
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4F100EJ54A
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4F100EJ58A
4F100EJ58B
4F100GB90
4F100JC00A
4F100JC00B
(57)【要約】
【課題】短時間の培養でスフェロイドを形成可能であり、気泡抜きを行うことなく使用が可能な細胞培養基材を提供すること。
【解決手段】基材と、該基材の表面の一部を被覆する重合体とを備え、下記(A)領域及び下記(B)領域を有し、(A)領域の周囲に高さ2~50μmの隔壁が存在する、細胞培養基材。(A)細胞接着性及び細胞増殖性を有する面積0.001~5mm
2の島状の領域。(B)前記(A)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない領域。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面の一部を被覆する重合体とを備え、
下記(A)領域及び下記(B)領域を有し、
(A)細胞接着性及び細胞増殖性を有する面積0.001~5mm2の島状の領域
(B)前記(A)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない領域
前記(A)領域の周囲に高さ2~50μmの隔壁が存在する、細胞培養基材。
【請求項2】
前記重合体が、フッ素基を有する単量体単位を0.01~50重量%含有する、請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項3】
前記(A)領域が、下記一般式(1)で表される構造、下記一般式(2)で表される構造及び下記一般式(3)で表される構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を表面に有する、請求項1に記載の細胞培養基材。
【化1】
[一般式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を示し、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は各々独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基を示し、かつR
2、R
3、R
4、R
5及びR
6の少なくとも一つはヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基である。]
【化2】
[一般式(2)中、R
7、R
8、R
9及びR
10は各々独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基を示し、かつR
7、R
8、R
9及びR
10の少なくとも一つはヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基である。]
【化3】
[一般式(3)中、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16、R
17及びR
18は各々独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基を示し、かつR
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16、R
17及びR
18の少なくとも一つはヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基である。]
【請求項4】
前記(A)領域が、下記一般式(4)で表される温度応答性ブロック共重合体を表面に有する、請求項1に記載の細胞培養基材。
【化4】
[一般式(4)中、R
19及びR
21は各々独立して、水素原子又はメチル基を示し、R
20及びR
22は各々独立して、炭素数1~10のアルキル基を示し、a及びbは各々独立して、正の整数を示す。]
【請求項5】
前記(A)領域及び(B)領域が、それぞれ下記(A1)領域及び(B1)領域である、請求項1に記載の細胞培養基材。
(A1)細胞接着性及び細胞増殖性を有する直径0.1~2.0mmの円形の領域
(B1)前記(A1)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない領域
【請求項6】
前記基材の屈折率が1.4~1.6であり、且つ、前記基材の厚みが0.01~0.5mmである、請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項7】
励起波長350nm、488nm、及び647nmでそれぞれ励起された前記基材の蛍光強度が、同じ励起波長で励起された、厚み1.2mmのポリスチレン板の蛍光強度よりも小さい、請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項8】
前記基材がポリカーボネート又はシクロオレフィンポリマーから形成される、請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項9】
(1)原基材の表面に、プラズマ処理、コロナ処理及びUV処理からなる群より選択される少なくとも1種の表面改質処理を行うか、又は細胞接着性及び細胞増殖性を有する重合体を被覆することで、表面が細胞接着性及び細胞増殖性を有する基材を得る工程、及び
(2)前記基材の表面の少なくとも一部に、細胞接着性を有しない重合体、又は前記細胞接着性を有しない重合体の単量体を含有する溶液を印刷することで、(A’)前記重合体で被覆されていない面積0.001~5mm2の複数の領域と、(B’)前記重合体で被覆された領域とを形成する工程を備える、細胞培養基材の製造方法。
【請求項10】
(3)前記工程(1)及び工程(2)の後に、面内方向の断面積が0.05~100cm2の貫通孔を有する板を、前記基材の前記重合体で少なくとも一部が被覆された面側で前記基材と貼り合わせる工程を更に備える、請求項9に記載の細胞培養基材の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の細胞培養基材と、水不溶性ブロックセグメント及び温度応答性ブロックセグメントを含むブロック共重合体又は前記ブロック共重合体を含有するコーティング剤とを含む、細胞培養キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養基材及びその製造方法、並びに細胞培養キットに関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞は、生体の様々な組織に分化する能力(分化万能性)を持つ細胞であり、再生医療分野や創薬スクリーニングのための細胞ソースとして大きな注目が寄せられている。多能性幹細胞を再生医療や創薬スクリーニングに応用するには、多能性幹細胞から目的の細胞へと分化させる必要があるが、その際、多能性幹細胞のスフェロイドを形成する必要がある。また、多能性幹細胞は様々な細胞へと分化することができるが、分化後の細胞の種類によって最適なスフェロイドのサイズが異なることが知られており、サイズを制御し、さらにサイズの均一なスフェロイドを作成することが望ましい。
【0003】
スフェロイドを形成する方法として従来、多能性幹細胞が接着しない基材を用いることで多能性幹細胞に自発的に凝集体を形成させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この方法はスフェロイドの量産性に優れるものの、均一なサイズのスフェロイドを得ることができないという問題があった。
【0004】
サイズの均一なスフェロイドを形成する方法として、表面に微細凹凸を設けた細胞培養基材を使用する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-140673号公報
【特許文献2】特開2015-073520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示されるような微細凹凸を設けた細胞培養基材は量産性に乏しく、高コストであるという問題があった。また、微細凹凸を有する細胞培養基材に培地を接触させた際に、表面の微細凹凸に気泡が取り込まれやすく、培養を開始する前に気泡の除去作業が必要であるという課題があることを本発明者らは見出した。気泡を除去するためには通常、ピペッターを用いて培地の吸引と吐出を繰り返す必要があり、作業性に劣るという問題があった。
【0007】
本発明の課題は、短時間の培養でスフェロイドを形成可能であり、気泡抜きを行うことなく使用が可能な細胞培養基材、及び該細胞培養基材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材と、該基材の表面の一部を被覆する重合体とを備え、下記(A)領域及び下記(B)領域を有し、(A)領域の周囲に高さ2~50μmの隔壁が存在する、細胞培養基材に関する。
(A)細胞接着性及び細胞増殖性を有する面積0.001~5mm2の島状の領域
(B)前記(A)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない領域
【0009】
本発明はまた、(1)原基材の表面に、プラズマ処理、コロナ処理及びUV処理からなる群より選択される少なくとも1種の表面改質処理を行うか、又は細胞接着性及び細胞増殖性を有する重合体を被覆することで、表面が細胞接着性及び細胞増殖性を有する基材を得る工程、及び(2)基材の表面の少なくとも一部に、細胞接着性を有しない重合体、又は細胞接着性を有しない重合体の単量体を含有する溶液を印刷することで、(A’)重合体で被覆されていない面積0.001~5mm2の複数の領域と、(B’)重合体で被覆された領域とを形成する工程を備える、細胞培養基材の製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、短時間の培養でスフェロイドを形成可能であり、気泡抜きを行うことなく使用が可能な細胞培養基材、及び該細胞培養基材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る細胞培養基材の模式図(断面図)である。
【
図2】一実施形態に係る製造方法における工程(1)後の基材の模式図(斜視図)である。
【
図3】一実施形態に係る製造方法における工程(2)後の細胞培養基材の模式図(斜視図)である。
【
図4】一実施形態に係る製造方法における工程(3)後の細胞培養基材の模式図(斜視図)である。
【
図5】実施例1の細胞培養評価における位相差顕微鏡画像(培養4日目)である。
【
図6】比較例2の細胞培養評価における位相差顕微鏡画像(細胞播種後)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、上述した効果が得られる範囲内で以下の実施形態を変形して実施することができる。
【0013】
本明細書において、「スフェロイド」とは、複数の細胞が集まって形成される細胞の三次元凝集塊で、細胞が基材上に接着した状態で形成する細胞シート状のものを除く。三次元凝集塊の形状は、球状等の楕円体の形状であってもよく、半球状等の形状であってもよい。これらの形状は、シート状の細胞が折りたたまれることで形成される隙間のある形状であってもよく、中空の形状であってもよい。三次元凝集塊の形状は、好ましくは楕円体の形状であり、より好ましくは球状の形状である。
【0014】
本明細書において、「温度応答性」とは、温度変化によって親水性/疎水性の程度が変化することを示す。さらに、親水性/疎水性の程度が変化する境界温度を「応答温度」と表記する。
【0015】
本明細書において、「生体由来物質」とは、生物の体内に存在する物質、及び当該物質と同等の物質であって、化学的に合成した物質を意味する。生物の体内に存在する物質は、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよい。生体由来物質に特に限定はないが、例えば、生体を構成する基本材料である核酸、タンパク質及び多糖、及びこれらの構成要素であるヌクレオチド、ヌクレオシド、アミノ酸、及び各種の糖、並びに脂質、ビタミン及びホルモンが挙げられる。
【0016】
本明細書において、「細胞接着性」とは、培養温度における基材又は細胞培養基材への接着しやすさを示し、「細胞接着性を有する」とは、細胞が培養温度において基材又は細胞培養基材に直接又は生体由来物質を介して接着可能であることを示す。また、「細胞接着性を有しない」とは、培養温度において細胞が基材又は細胞培養基材に接着できないことを示す。
【0017】
本明細書において、「細胞増殖性」とは、培養温度における細胞の増殖しやすさを示し、「細胞増殖性を有する」とは、培養温度において細胞が増殖可能であることを示す。また、「細胞増殖性を有しない」とは、培養温度において細胞が増殖できないことを示す。「細胞増殖性が高い」とは、同一の培養期間で比較した際により多くの細胞へと増殖することを示す。
【0018】
本実施形態に係る細胞培養基材は、基材と、基材の表面の一部を被覆する重合体とを備える。本実施形態に係る細胞培養基材は、下記(A)領域及び下記(B)領域を有し、かつ(A)領域の周囲に高さ2~50μmの隔壁が存在する。
(A)細胞接着性及び細胞増殖性を有する面積0.001~5mm2の島状の領域
(B)(A)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない領域
【0019】
図1は、一実施形態に係る細胞培養基材の模式図(断面図)である。
図1に示す細胞培養基材10は、原基材4と細胞接着性及び細胞増殖性を有する表面3とを含む基材1、並びに基材1の表面の一部を被覆する重合体2を備える。
図1中、A及びBは、それぞれ(A)領域及び(B)領域を示す。また、
図1中、Hは隔壁の高さを示す。
【0020】
基材は、培養細胞の足場として機能するものである。基材の表面は、細胞接着性及び細胞増殖性を有することが好ましい。表面が細胞接着性を有する基材は、例えば、原基材の表面に、プラズマ処理、コロナ処理及びUV処理からなる群より選択される少なくとも1種の表面改質処理を行うか、又は細胞接着性を有する重合体を被覆することで得ることができる。表面が細胞増殖性を有する基材は、細胞接着性を有する基材において、原基材及び/又は原基材の表面を被覆する重合体として細胞の増殖を阻害しない材料を選択することで得ることができる。
【0021】
本実施形態に係る細胞培養基材に好適に用いられる原基材としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、セルロースアセテート、ニトロセルロース及びポリフッ化ビニリデンからなる群から選択される少なくとも1種の材料から形成されたものであることが好ましく、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート及びシクロオレフィンポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の材料から形成されたものであることがより好ましく、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリカーボネートから選択される少なくとも1種の材料から形成されたものであることが更に好ましく、ポリカーボネート又はシクロオレフィンポリマーで形成されたものであることが特に好ましく、ポリカーボネートで形成されたものであることが最も好ましい。
【0022】
シクロオレフィンポリマーの市販品としては、ZEONEX(日本ゼオン(株)製)、ZEONOR(日本ゼオン(株)製)、ARTON(JSR(株)製)を挙げることができる。
【0023】
細胞培養基材上で培養した細胞を高倍率の位相差顕微鏡で観察するのに好適であることから、D線(波長589nm)で測定した基材の屈折率は1.4~1.6が好ましく、1.45~1.6がさらに好ましく、1.5~1.55が特に好ましい。基材の屈折率がこれらの範囲にあることで細胞の位相差顕微鏡観察における球面収差を小さくすることができ、明瞭な位相差像を得ることができる。また、球面収差を小さくするため、基材の厚みは0.5mm以下が好ましく、0.4mm以下がさらに好ましく、0.3mm以下が特に好ましく、0.2mm以下が最も好ましい。一方、顕微鏡観察時に基材がたわむことで観察範囲全体にピントが合わなくなることを抑制するのに好適であることから、基材の厚みは0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がさらに好ましく、0.1mm以上が特に好ましく、0.15mm以上が最も好ましい。
【0024】
D線(波長589nm)で測定した基材の屈折率及び厚さは、それぞれ1.4~1.6及び0.01mm以上0.5mm以下であることが好ましく、それぞれ1.45~1.6及び0.05mm以上0.4mm以下であることがより好ましく、それぞれ1.45~1.55及び0.1mm以上0.3mm以下であることが更に好ましく、1.5~1.55及び0.15mm以上0.2mm以下であることが特に好ましい。基材の屈折率及び厚さがこれらの範囲にあると、細胞の位相差像がより明瞭になる。
【0025】
細胞培養基材上で培養した細胞を高倍率の蛍光顕微鏡で観察するのに好適であることから、励起波長350nm、488nm、及び647nmにおける(これらの波長を有する励起光をそれぞれ照射した場合の)基材の蛍光強度(自家蛍光強度)が、同じ励起波長を有する光で励起された厚み1.2mmのポリスチレン板の蛍光強度(自家蛍光強度)よりも小さなものであることが好ましく、厚み1.2mmのポリスチレン板の蛍光強度の80%以下がさらに好ましく、厚み1.2mmのポリスチレン板の蛍光強度の50%以下が特に好ましく、厚み1.2mmのポリスチレン板の蛍光強度の10%以下が最も好ましい。励起波長350nm、488nm、及び647nmで励起される蛍光色素は細胞の蛍光観察において頻用される。これらの波長における基材の自家蛍光強度が一定値以下であることで、細胞の明瞭な蛍光像を得ることができる。
【0026】
基材の自家蛍光強度は、本明細書においては次の方法で測定する。基材に対し露光時間0.4秒で、350nm、488nm、及び647nmの励起波長をそれぞれ有する光を照射し、蛍光画像を撮影する。これらの画像のRGB値を求め、励起波長350nmではR値、励起波長488nmではG値、励起波長647nmではB値を蛍光強度(自家蛍光強度)とする。厚み1.2mmのポリスチレン板についても、同じ方法で蛍光強度(自家蛍光強度)を測定することができる。
【0027】
原基材の形状としては、特に制限はなく、板、フィルムのような平面形状であってもよいし、ファイバー、多孔質粒子、多孔質膜、中空糸等の形状であってもよい。また、原基材の形状は、一般に細胞培養等に用いられる容器(ペトリ皿等の細胞培養皿、フラスコ、プレート、バッグ等)の形状であってもよい。培養操作の容易性から、原基材の形状は、板、フィルムのような平面形状、又は平膜の多孔質膜の形状であることが好ましい。
【0028】
原基材の表面を被覆する重合体としては、細胞接着性及び細胞増殖性を有する重合体であることが好ましく、具体的には、例えば、下記一般式(1)、下記一般式(2)及び下記一般式(3)で表される構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を有する重合体が挙げられる。
【0029】
【化1】
[一般式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を示し、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は各々独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基を示し、かつR
2、R
3、R
4、R
5及びR
6の少なくとも一つはヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基である。]
【化2】
[一般式(2)中、R
7、R
8、R
9及びR
10は各々独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基を示し、かつR
7、R
8、R
9及びR
10の少なくとも一つはヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基である。]
【化3】
[一般式(3)中、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16、R
17及びR
18は各々独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基を示し、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16、R
17及びR
18の少なくとも一つはヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基である。]
【0030】
本実施形態に係る細胞培養基材は、基材の表面の一部を被覆する重合体を有する。(A)領域及び(B)領域の形成が容易になることから、当該重合体は、細胞接着性を有しない重合体であることが好ましい。細胞接着性を有しない重合体としては、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、ポリエチレングリコール基、カルボキシル基等の極性基を有する重合体、ベタイン構造、ホスホリルコリン基等の両性イオン構造を有する重合体、フッ素基を有する重合体等が挙げられる。(B)領域を細胞接着性及び細胞増殖性を有しない領域とするのに好適であるため、重合体としては、ヒドロキシル基、ホスホリルコリン基、又はポリエチレングリコール基を有する重合体であることが好ましく、ヒドロキシ基又はホスホリルコリン基を有する重合体であることがより好ましく、ホスホリルコリン基を有する重合体であることが更に好ましい。細胞接着性を有しない重合体は市販品を入手して使用してもよい。市販品としては例えば、Lipidure(R)CM5206(日油(株)製)、BIOSURFINE(R)-AWP(東洋合成工業(株)製)等を挙げることができる。
【0031】
重合体の強度を高めつつ、細胞接着性を有しない重合体を得るのに好適であることから、基材の表面の一部を被覆する重合体として、フッ素基を有する重合体が好ましい。フッ素基を有する重合体は、例えば、フッ素基を有する単量体を含む単量体組成物を重合させることにより、フッ素基を有する単量体単位を含む重合体として得ることができる。フッ素基を有する単量体は表面エネルギーが低いことから、塗膜の表面に偏在しやすく、少量の添加で重合体を細胞接着性を有しないものとすることが可能である。そのため、アクリル樹脂やエポキシ樹脂などの高強度の重合体を形成する単量体を主剤として、フッ素基を有する単量体を少量添加した単量体組成物を重合させることで、細胞接着性を有しない重合体としつつ、重合体の強度を高めることが可能である。フッ素基を有する単量体としては、市販品を入手して使用してもよい。市販品としては、例えば、SHIN-ETSU SUBERYN(R)KY-1203(信越化学工業(株)製)を挙げることができる。
【0032】
フッ素基を有する単量体単位を含む重合体中のフッ素基を有する単量体単位の含有量としては、重合体が細胞接着性を有しないものとするのに好適であるため、0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、1重量%以上が更に好ましく、10重量%以上が最も好ましい。また、重合体の強度を高めるのに好適であるため、フッ素基を有する単量体単位の含有量としては、50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、10重量%以下が更に好ましく、5重量%以下が最も好ましい。
【0033】
本実施形態に係る細胞培養基材において、(A)領域は、細胞接着性及び細胞増殖性を有する面積0.001~5mm2の島状の領域である。
【0034】
(A)領域は、上述した一般式(1)、一般式(2)及び一般式(3)で表される構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を表面に有することが好ましい。(A)領域が、一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表されるいずれかの構造を表面に有することで、細胞増殖性を高めることができ、短時間の培養でスフェロイドを形成しやすい。
【0035】
一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表されるいずれかの構造を(A)領域の表面に形成する方法としては、一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表されるいずれかの構造を構成単位として含む重合体を、原基材表面又は(A)領域の表面に塗布する方法、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等で形成された原基材の表面にプラズマ処理、コロナ処理及びUV処理からなる群より選択される少なくとも1種の表面改質処理を行うことで、一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表されるいずれかの構造を形成した基材を使用する方法が挙げられる。
【0036】
(A)領域は、面積0.001~5mm2の島状の領域である。面積0.001~5mm2の島状の領域であることにより、細胞を培養した際に、均一粒径のスフェロイドを形成可能である。また、多能性幹細胞の分化誘導等の用途に適したスフェロイドを形成するのに好適であることから、(A)領域の面積は、0.005~1mm2が好ましく、0.01~0.5mm2がより好ましく、0.015~0.25mm2が更に好ましく、0.02~0.2mm2が最も好ましい。
【0037】
(A)領域が島状の領域であるとは、(A)領域が(A)領域以外の領域から独立した状態で存在していることを示す。(A)領域が細胞接着性及び細胞増殖性を有する島状であることにより、(A)領域に生細胞が集中して存在するようになるため、スフェロイドを製造することができる。(A)領域が島状ではない場合、例えば、ストライプ構造等の場合、スフェロイドが製造できない。島状の形状としては特に限定はなく、目的とするスフェロイドの形状に応じて適宜設定可能であるが、例えば、円、楕円、多角形、又は直線及び曲線で形成される閉じた形状等を挙げることができる。また、球に近い形状のスフェロイドを製造するのに好適であることから、島状の形状として、円、楕円又は多角形が好ましく、円、楕円又は長方形がより好ましく、円、楕円又は正方形が更に好ましく、円又は楕円が最も好ましい。
【0038】
(A)領域が、円の形状(円形)である場合(本明細書において、特に(A1)領域と呼ぶ。また、(A1)領域に隣接する(B)領域を特に(B1)領域と呼ぶ。)、その面積は上述した範囲内であるのが好ましいが、円の直径は、例えば、0.1~2.0mmであるのが好ましく、0.15~1.5mmであるのがより好ましく、0.2~1.0mmであるのが更に好ましく、0.2~0.5mmであるのが最も好ましい。
【0039】
均一なサイズ及び形状のスフェロイドを製造するのに好適であることから、(A)領域の面積の標準偏差/平均面積が80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、20%以下であることが更に好ましく、5%以下であることが最も好ましい。
【0040】
球に近い形状のスフェロイドを製造するのに好適であることから、島状の形状のアスペクト比としては5以下が好ましく、2以下がより好ましく、1.5以下が更に好ましく、1.1以下が最も好ましい。ここで、本発明において「アスペクト比」とは、形状の最大径(長径)と最小径(短径)の比である長径/短径を示す。
【0041】
(A)領域は、培養したスフェロイドを剥離するために好適であることから、温度応答性を有していてもよい。(A)領域が温度応答性を有する場合、細胞培養基材上で細胞を培養する際に、体温に近い温度で細胞を培養可能であることから、応答温度50℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましい。また、培養中に培地交換等の作業を行う際に細胞が剥離してしまうことを抑制するのに好適であることから、応答温度は、25℃以下が特に好ましい。さらに、細胞にダメージを与えない温度での冷却操作によってスフェロイドを形成することが可能であることから、応答温度は、4℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、15℃以上が更に好ましい。
【0042】
例えば、(A)領域の表面上に、温度応答性高分子を含有する層を更に備えさせることにより、(A)領域に温度応答性を付与することができる。この場合、温度応答性高分子を含有する層の層厚は、1~100nmが好ましく、3~50nmがより好ましく、5~40nmが更に好ましく、10~35nmが最も好ましい。細胞増殖性を損なうことなく、さらに培養後に細胞を温度応答性によって剥離して回収可能な好適な温度応答性高分子の層厚は、培養する細胞によっても変化し、上で例示した層厚の範囲で適宜調整することが可能である。
【0043】
温度応答性高分子は、下記一般式(4)で表される温度応答性ブロック共重合体であることが好ましい。
【化4】
[一般式(4)中、R
19及びR
21は各々独立して水素原子又はメチル基を示し、R
20及びR
22は各々独立して炭素数1~10のアルキル基を示し、a及びbは各々独立して正の整数を示す。]
【0044】
温度応答性高分子が上記一般式(4)で表されるブロック共重合体であることにより、細胞培養基材の表面に温度応答性高分子を含有する溶液を滴下して乾燥するという簡便な手法で、細胞培養基材の表面に温度応答性を付与できる。また、この時形成した層が前述の好ましい温度応答性高分子の層厚であることにより、親水性高分子を含有する層の表面全体に温度応答性高分子を被覆しても、上記(A)領域及び(B)領域のそれぞれの特性を損なうことがより少なくなる。本発明の細胞培養基材と、ブロック共重合体である温度応答性高分子若しくは上記ブロック共重合体を含有するコーティング剤とを有する細胞培養キットを用いる場合は、培養を実施する研究者が細胞の種類に応じて、簡便に温度応答性高分子の層厚を調整可能である。
【0045】
コーティング剤は、溶媒を含有していてよい。コーティング剤に含まれ得る溶媒としては、例えば、水、有機溶媒又はこれらの混合液を挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルエチルケトン等を挙げることができる。コーティングの膜厚を均一にするのに好適であることから、水とアルコール類の混合溶媒を用いることが好ましい。コーティング剤の全質量を基準とした上記一般式(4)で表されるブロック共重合体の含有量は、0.1~50重量%、0.2~10重量%、又は0.5~5重量%とすることができる。
【0046】
コーティング剤は、上記一般式(4)で表されるブロック共重合体及び溶媒以外の、その他の成分を含有していてよい。その他の成分としては、細胞接着性を高めるための成分が挙げられ、例えば、水不溶性ブロックセグメントのみからなる高分子を挙げることができる。
【0047】
一般式(4)で表される共重合体は、水不溶性のブロックセグメントと、温度応答性のブロックセグメントとの共重合体であることが好ましい。水不溶性ブロックセグメントを構成する単量体単位としては、例えば、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルアクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-ヘキシルアクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、n-オクチルアクリレート、n-オクチルメタクリレート、n-デシルアクリレート、n-デシルメタクリレート、n-ドデシルアクリレート、n-ドデシルメタクリレート、n-テトラデシルアクリレート、n-テトラデシルメタクリレート等を挙げることができる。
【0048】
温度応答性ブロックセグメントを構成する単量体単位としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;N,N-ジエチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-エトキシエチルメタクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等のN-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等のN,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体;1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-プロペニル)-モルホリン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)- ピペリジン、4-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-モルホリン等の環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル等のビニルエーテル;N-プロリンメチルエステルアクリルアミド等のプロリン誘導体を挙げることができる。
【0049】
(B)領域は、(A)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない領域である。(B)領域が、(A)領域に隣接し、細胞増殖性を有しない領域であると、細胞を培養した際に、(A)領域のみにスフェロイドを形成し、(A)の一部又は全部の周囲に細胞が存在しない状態を形成することが可能である。また、製造されるスフェロイドのサイズ及び形状を均一化するのに好適であることから、(B)領域が細胞増殖性だけでなく細胞接着性も有しないものであることが好ましい。
【0050】
(B)領域の形状としては、(A)に隣接すること以外に限定はないが、均一なサイズ及び形状のスフェロイドを製造するのに好適であることから、(A)領域の周囲の20%以上の長さに(B)領域が隣接していることが好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましく、(A)領域の周囲が全て(B)領域であることが最も好ましい。また、細胞培養基材の量産性を高めるのに好適であることから、(A)領域が島状で(B)領域が海状の海島構造であることが好ましい。
【0051】
(A)領域及び(B)領域の面積比としては、特に限定はないが、細胞培養基材の単位面積当たりに製造可能なスフェロイドの数量を高めるのに好適であることから、(A)領域の面積が、(A)領域及び(B)領域の面積の合計に対して、10%以上であることが好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましく、70%以上が最も好ましい。また、複数の(A)領域の間に十分な距離を設け、複数の(A)領域のスフェロイドが融合して不均一な形状となることを抑制するのに好適であることから、(B)領域の面積が、(A)領域及び(B)領域の面積の合計に対して、20%以上であることが好ましく、40%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましく、80%以上が最も好ましい。
【0052】
(A)領域の周囲には、高さ2~50μmの隔壁が存在する。この隔壁の一部又は全部が(B)領域に接続している。高さ2μm以上の隔壁が存在することで、多くの播種細胞を(A)領域内に集めることができ、短時間の培養でスフェロイドを形成することができる。スフェロイド形成に要する時間を短縮するのに好適であることから、隔壁の高さは、5μm以上がより好ましく、10μm以上が最も好ましい。また、隔壁の高さが50μm以下であることで、細胞培養基材と培地を接触させた際に、(A)領域に気泡が付着しづらく、気泡抜き作業を行うことなく培養を実施可能である。気泡の付着を抑制するのに好適であることから、隔壁の高さは、30μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましく、5μm以下が最も好ましい。
【0053】
(A)領域の周囲の隔壁は、例えば、基材の表面の一部を被覆する重合体からなる層を形成することにより、形成することができる。この場合、基材の表面の一部を被覆する重合体からなる層の層厚を調整することで、隔壁の高さを調整することができる。
【0054】
細胞培養基材は、必要に応じて生体由来物質を含有する層を表面に含有していてもよい。生体由来物質を含有する層は、細胞培養基材の表面全体に存在していてもよく、(A)領域の表面のみに存在していてもよい。生体由来物質としては特に限定はないが、例えば、マトリゲル、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン等を挙げることができる。
【0055】
これら生体由来物質は、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、制限酵素等で切断した断片や、これら生体由来物質と同等の物質を化学的に合成した合成タンパク質又は合成ペプチド等であってもよい。
【0056】
マトリゲルとしては、入手容易性から、市販品としては例えば、Matrigel(Corning Incorporated製)やGeltrex(Thermo Fisher Scientific製)を好適に用いることができる。
【0057】
ラミニンの種類は特に限定されるものではないが、例えば、ヒトiPS細胞の表面に発現しているα6β1インテグリンに対して高活性を示すことが報告されているラミニン511、ラミニン521又はラミニン511-E8フラグメントを用いることができる。ラミニンは、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、ラミニンと同等の物質を化学的に合成した合成タンパク質又は合成ペプチドであってもよい。入手容易性から、市販品としては例えば、iMatrix-511((株)ニッピ製)を好適に用いることができる。
【0058】
ビトロネクチンは、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、ビトロネクチンと同等の物質を化学的に合成した合成タンパク質又は合成ペプチドであってもよい。入手容易性から、市販品としては例えば、ビトロネクチン,ヒト血漿由来(和光純薬工業(株)製)やsynthemax(Corning Incorporated製)、Vitronectin(VTN-N)(Thermo Fisher Scientific製)を好適に用いることができる。
【0059】
フィブロネクチンは、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、フィブロネクチンと同等の物質を化学的に合成した合成タンパク質又は合成ペプチドであってもよい。入手容易性から、市販品としては例えば、フィブロネクチン溶液、ヒト血漿由来(和光純薬工業(株)製)やRetronectin(タカラバイオ(株)製)を好適に用いることができる。
【0060】
コラーゲンの種類は特に限定されるものではないが、例えば、typeIコラーゲンやtypeIVコラーゲンを用いることができる。コラーゲンは、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、コラーゲンと同等の物質を化学的に合成した合成ペプチドであってもよい。入手容易性から、市販品としては例えば、コラーゲンI,ヒト(Corning Incorporated製)やコラーゲンIV,ヒト(Corning Incorporated製)を好適に用いることができる。
【0061】
生体由来物質の固定化方法は特に限定されるものではないが、例えば、細胞培養基材に生体由来物質の溶液を所定時間塗布することで固定化させる方法や、細胞を培養する際に培養液中に生体由来物質を添加することで生体由来物質を細胞培養基材に吸着させ固定化する方法を好適に用いることができる。
【0062】
本実施形態に係る細胞培養基材は、必要に応じて、基材上に仕切り板(例えば、面内方向の断面積が0.05~100cm2の貫通孔を有する板)を設ける等により、各スフェロイドを区分するための構造を設けてもよい。
【0063】
本実施形態に係る細胞培養基材は、滅菌を施してあってもよい。滅菌の方法に特に限定はないが、高圧蒸気滅菌、UV滅菌、γ線滅菌、エチレンオキシドガス滅菌等を用いることができる。ブロック共重合体の変性を抑制する観点からは、高圧蒸気滅菌、UV滅菌、エチレンオキシドガス滅菌が好ましい。基材の変形を抑制する観点からは、UV滅菌又はエチレンオキシドガス滅菌が好ましい。量産性に優れるという観点からは、エチレンオキシドガス滅菌が好ましい。
【0064】
本実施形態に係る細胞培養基材を用いて培養される細胞としては、特に限定されるものではないが、例えばチャイニーズハムスター卵巣由来CHO細胞やマウス結合組織L929、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞やヒト子宮頸部癌由来HeLa細胞等の種々の株化細胞に加え、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン細胞、グリア細胞、繊維芽細胞、生体の代謝に関与する肝実質細胞、肝非実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、間葉系幹細胞、骨髄細胞、Muse細胞のように種々の組織に存在する幹細胞、さらにはES細胞、iPS細胞等の分化多能性を有する幹細胞(多能性幹細胞)、それらから分化誘導した細胞等が挙げられる。本実施形態に係る細胞培養基材における細胞の増殖性及び剥離性の観点から、幹細胞又は多能性幹細胞が好ましく、間葉系幹細胞又は多能性幹細胞がより好ましく、多能性幹細胞が更に好ましく、iPS細胞が最も好ましい。
【0065】
本実施形態に係る細胞培養基材は、例えば、下記工程(1)及び工程(2)を備える製造方法により製造することができる。
工程(1)原基材の表面に、プラズマ処理、コロナ処理及びUV処理からなる群より選択される少なくとも1種の表面改質処理を行うか、又は細胞接着性及び細胞増殖性を有する重合体を被覆することで、表面が細胞接着性及び細胞増殖性を有する基材を得る工程。
工程(2)基材の表面の少なくとも一部に、細胞接着性を有しない重合体、又は細胞接着性を有しない重合体の単量体を含有する溶液を印刷することで、(A’)細胞接着性を有しない重合体が被覆されていない面積0.001~5mm2の複数の領域と、(B’)細胞接着性を有しない重合体で被覆された領域とを形成する工程。
【0066】
本実施形態に係る製造方法は、上記工程(1)及び工程(2)に加えて、必要に応じて下記工程(3)を更に備えるものであってもよい。
工程(3)工程(1)及び工程(2)の後に、面内方向の断面積が5~2000mm2の複数の貫通孔を有する板を、細胞接着性を有しない重合体で少なくとも一部が被覆された基材の面側で基材と貼り合わせる工程。
【0067】
工程(1)では、原基材の表面に、プラズマ処理等を行うか、又は細胞接着性及び細胞増殖性を有する重合体を被覆することで、表面が細胞接着性及び細胞増殖性を有する基材を得る。
図2は、一実施形態に係る製造方法における工程(1)後の基材の模式図(斜視図)である。
図2に示す基材1は、原基材の表面に上述の処理を施すことにより、表面が細胞接着性及び細胞増殖性を有する。
【0068】
工程(1)では、細胞培養基材の量産性を高めるのに好適であることから、原基材の表面に、プラズマ処理、コロナ処理及びUV処理からなる群より選択される少なくとも1種の表面改質処理を行うか、又は上述した一般式(1)~(3)で表される構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を有する重合体を被覆するのが好ましく、プラズマ処理、コロナ処理及びUV処理からなる群より選択される少なくとも1種の表面改質処理を行うのがより好ましく、プラズマ処理を行うのが最も好ましい。
【0069】
プラズマ処理、コロナ処理及びUV処理等の表面改質処理は、細胞培養基材の表面が細胞接着性及び細胞増殖性を有するように処理する際に常用されている条件を適用して実施することができる。プラズマ処理の場合、導入ガスとして酸素及び窒素を含む気体を使用することが好ましい。
【0070】
細胞接着性及び細胞増殖性を有する重合体を原基材の表面に被覆する方法としては、特に限定はないが、塗布、はけ塗り、ディップコーティング、スピンコーティング、バーコーディング、流し塗り、スプレー塗装、ロール塗装、エアーナイフコーティング、ブレードコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、スロットダイコーティングなど通常知られている各種の方法を用いることが可能である。
【0071】
工程(2)は、工程(1)で得られた基材の表面の少なくとも一部に、細胞接着性を有しない重合体、又は細胞接着性を有しない重合体の単量体を含有する溶液を印刷する。これにより、(A’)細胞接着性を有しない重合体で被覆されていない面積0.001~5mm2の複数の領域と、(B’)細胞接着性を有しない重合体で被覆された領域とを形成する。(A’)領域及び(B’)領域は、それぞれ上述した(A)領域及び(B)領域に該当することになる。
【0072】
上記重合体又は溶液の印刷方法としては、インクジェット印刷やオンデマンド印刷等の射出印刷、フレキソ印刷や活版印刷等の凸版印刷、グラビア印刷やパッド印刷等の凹版印刷、オフセット印刷等の平板印刷、(シルク)スクリーン印刷等の孔版印刷が利用可能である。量産性に優れることから、(シルク)スクリーン印刷が好ましい。
【0073】
また、印刷を行った後に、印刷した重合体、又は単量体を架橋反応等により硬化させるための工程(硬化工程)を有していてもよい。硬化工程は、例えば、印刷面にUVを照射するUV処理を行う工程であってよい。
【0074】
図3は、工程(2)後の細胞培養基材の模式図(斜視図)である。
図3に示す細胞培養基材10では、等間隔に配置された円の形状の領域(例えば、当該領域の面積は0.001~5mm
2である。)を除き、細胞接着性を有しない重合体2で基材1の表面が被覆されている。
図3に示す細胞培養基材10では、(A’)細胞接着性を有しない重合体2で被覆されていない面積0.001~5mm
2の複数の円の形状の領域は、表面が細胞接着性及び細胞増殖性を有する基材1となっているため、(A)領域に該当することになる。また、(B’)細胞接着性を有しない重合体で被覆された領域は、(A’)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない領域であるため、(B)領域に該当することになる。また、細胞接着性を有しない重合体2の層の厚み部分(例えば、厚みは2~50μmである。)が、(A’)領域の周囲の隔壁を構成することになる。
【0075】
工程(3)は、工程(1)及び工程(2)の後に、面内方向の断面積が0.05~100cm
2の貫通孔を有する板を、基材の細胞接着性を有しない重合体で少なくとも一部が被覆された面側で基材と貼り合わせる。面内方向の断面積が0.05~100cm
2の貫通孔を有する板を貼り合わせることにより、培地を入れるための空間を有するプレートを高い量産性で作製可能である。
図4は、工程(3)後の細胞培養基材の模式図(斜視図)である。
図4に示す細胞培養基材11は、例えば、
図3に示す細胞培養基材10等に仕切り板20(面内方向の断面積が0.05~100cm
2の貫通孔を有する板)を貼り合わせたものである。
【実施例0076】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。
【0077】
<(A)領域の面積の測定>
レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、製品名VK-X200)を用いて、細胞培養基材の表面の画像を取得した。得られた画像を使用して、解析ソフト(VK-X Viewer)上で20点の(A)領域の面積を求め、それらの面積を平均して(A)領域の面積とした。
【0078】
<重合体の組成の分析>
核磁気共鳴測定装置(日本電子(株)製、商品名JNM-GSX400)を用いたプロトン核磁気共鳴分光(1H-NMR)スペクトル分析、又は核磁気共鳴測定装置(ブルカー製、商品名AVANCEIIIHD500)を用いたカーボン核磁気共鳴分光(13C-NMR)スペクトル分析より求めた。
【0079】
<重合体の分子量、分子量分布の測定>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置は東ソー(株)製 HLC-8320GPCを用い、カラムは東ソー(株)製 TSKgel Super AWM-Hを2本用い、カラム温度を40℃に設定し、溶離液は10mMトリフルオロ酢酸ナトリウムを含む1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロー2-イソプロパノール、又は10mM臭化リチウムを含むN,N-ジメチルホルムアミドを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mLで調製して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリメタクリル酸メチル(Polymer Laboratories Ltd.製)を用いた。
【0080】
<細胞培養評価>
細胞培養による細胞培養基材の評価は次のように行った。
StemFitAK02N(味の素(株)製)をウェルに0.2mL/cm2加え、さらにヒトiPS細胞201B7株を3900個/cm2、iMatrix-511溶液((株)ニッピ製)を2.5μL/mLの濃度で加えた。37℃、CO2濃度5%の環境下で培養した。また、細胞播種から1日後までは、培地にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を添加した。培養1日目、3日目、6日目に新しい培地に培地交換を行い、細胞播種から1週間培養を行った。
【0081】
[実施例1]
原基材としてポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、ルミラー(R)T60)を用い、プラズマ照射装置((株)真空デバイス製、プラズマイオンボンバーダPIB-20)を用いて表面にプラズマ処理(20Paガス圧下、導電電流20mA、照射時間30秒間)を行うことで表面改質を行った。表面改質を行ったPETフィルム(基材)の表面にウレタンアクリレート系インキ((株)セイコーアドバンス製、HF HSD 800 メジューム)を用いて、直径0.2mmの円形ホールを複数有するベタ印刷パターンでシルクスクリーン印刷した。印刷膜厚は5μmで行った。印刷後のPETフィルムの印刷面と、直径3.4cmの円形の貫通孔を6個有するPET板とを貼り合わせることで、培地を入れるための空間(ウェル)を6個有するプレート(細胞培養基材)を作製した。
【0082】
レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製)を用いて細胞培養基材を観察し、作製した細胞培養基材は、表面がプラズマ処理により改質された直径0.2mmの円形領域((A1)領域)と、(A1)領域に隣接したウレタンアクリレート系インキが印刷された領域((B1)領域)とを有し、かつ(A1)領域を囲む高さ5μmの隔壁を有していることを確認した。
【0083】
この細胞培養基材のウェル内でヒトiPS細胞の培養を行った。
図5は、実施例1の細胞培養評価における位相差顕微鏡画像(培養4日目)である。
図5に示すとおり、直径0.2mmの円形領域内のみに細胞が接着し、細胞播種から4日後にスフェロイドが形成されていることを確認した。目視判定では、形成されたスフェロイドのサイズは均一であった。また、培地を加えた際に気泡は付着していなかった。
【0084】
[実施例2]
印刷膜厚を2μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして細胞培養基材を作製した。
【0085】
レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製)を用いて細胞培養基材を観察し、作製した細胞培養基材は、表面がプラズマ処理により改質された直径0.2mmの円形領域((A1)領域)と、(A1)領域に隣接したウレタンアクリレート系インキが印刷された領域((B1)領域)とを有し、かつ(A1)領域を囲む高さ2μmの隔壁を有していることを確認した。
【0086】
この細胞培養基材のウェル内でヒトiPS細胞の培養を行った。直径0.2mmの円形領域内のみに細胞が接着し、細胞播種から4日後にスフェロイドが形成されていることを確認した。目視判定では、形成されたスフェロイドのサイズは均一であった。また、培地を加えた際に気泡は付着していなかった。
【0087】
[実施例3]
印刷膜厚を30μmに変更したこと、印刷パターンとして直径0.5mmの円形ホールを複数有するベタ印刷パターンで行ったこと以外は、実施例1と同様にして細胞培養基材を作製した。
【0088】
レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製)を用いて細胞培養基材を観察し、作製した細胞培養基材は、表面がプラズマ処理により改質された直径0.5mmの円形領域((A1)領域)と、(A1)領域に隣接したウレタンアクリレート系インキが印刷された領域((B1)領域)とを有し、かつ(A1)領域を囲む高さ30μmの隔壁を有していることを確認した。
【0089】
この細胞培養基材のウェル内でヒトiPS細胞の培養を行った。直径0.5mmの円形領域内のみに細胞が接着し、細胞播種から1日後にスフェロイドが形成されていることを確認した。目視判定では、形成されたスフェロイドのサイズは均一であった。また、培地を加えた際に気泡は付着していなかった。
【0090】
[実施例4]
試験管に、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノイックアシッド0.40g(0.1mmol)、n-ブチルメタクリレート7.11g(50mmol)、アゾビス(イソブチロニトリル)33mg(0.2mmol)を加え、1,4-ジオキサン50mLに溶解した。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、70℃で24時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をロータリーエバポレーターにて減圧留去し、反応溶液を濃縮した。濃縮液をメタノール250mLに注ぎ、析出した黄色油状物質を回収して減圧乾燥し、n-ブチルメタクリレート重合体を得た。次に、試験管に、前記n-ブチルメタクリレート重合体0.9g(0.3mmol)、N-イソプロピルアクリルアミド8.14g(72mmol)、アゾビスイソブチロニトリル5mg(0.03mmol)を加え、1,4-ジオキサン15mLに溶解させた。窒素バブリングにより30分脱気を行った後、65℃で17時間反応させた。反応終了後、反応溶媒をアセトンで希釈し、ヘキサン500mLに注ぎ、析出した固体を回収して減圧乾燥した。また、アセトンに再度溶解させ、純水500mLに注ぎ、析出した固体を回収して減圧乾燥し、N-イソプロピルアクリルアミドとn-ブチルメタクリレートのブロック共重合体(温度応答性高分子、応答温度32℃)を得た。ブロック共重合体の構成単位比率はn-ブチルメタクリレート4wt%、N-イソプロピルアクリルアミド96wt%、数平均分子量(Mn)は、7.7万であった。
【0091】
実施例1と同様の手順で作製した細胞培養基材のウェル内に、上記ブロック共重合体を膜厚約30nmでドロップキャスト法によりコーティングした。
【0092】
レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製)を用いて細胞培養基材を観察し、作製した細胞培養基材は、表面がプラズマ処理により改質され、さらに温度応答性のブロック共重合体が被覆された直径0.2mmの円形領域((A1)領域)と、(A1)領域に隣接したウレタンアクリレート系インキが印刷された領域((B1)領域)とを有し、かつ(A1)領域を囲む高さ5μmの隔壁を有していることを確認した。
【0093】
この細胞培養基材のウェル内でヒトiPS細胞の培養を行った。直径0.2mmの円形領域内のみに細胞が接着し、細胞播種から4日後にスフェロイドが形成されていることを確認した。さらに、1週間培養後、4℃に冷却した培地を加えて10分間静置し、ピペッティングを行うことで、培養したスフェロイドが基材から剥離した。目視判定では、細胞播種から4日後及び更に1週間培養後のスフェロイドのサイズは均一であった。また、培地を加えた際に気泡は付着していなかった。
【0094】
[実施例5]
表面にプラズマ処理することに代えて、4-カルボキシスチレン重合体を膜厚100nmでスピンコートにより表面に塗布したこと以外は、実施例1と同様にして細胞培養基材を作製した。
【0095】
レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製)を用いて細胞培養基材を観察し、作製した細胞培養基材は、表面が4-カルボキシスチレン重合体により被覆された直径0.2mmの円形領域((A1)領域)と、(A1)領域に隣接したウレタンアクリレート系インキが印刷された領域((B1)領域)とを有し、かつ(A1)領域を囲む高さ5μmの隔壁を有していることを確認した。
【0096】
この細胞培養基材のウェル内でヒトiPS細胞の培養を行った。直径0.2mmの円形領域内のみに細胞が接着し、細胞播種から4日後にスフェロイドが形成されていることを確認した。目視判定では、形成されたスフェロイドのサイズは均一であった。また、培地を加えた際に気泡は付着していなかった。
【0097】
[実施例6]
ウレタンアクリレート系インキに代えて、フッ素系単量体(SHIN-ETSU SUBERYN(R)KY-1203,信越化学工業(株)製)をインキ全量に対して5重量%となるように添加したUV硬化性のアクリレート系インキを用いたこと以外は、実施例1と同様にして細胞培養基材を作製した。
【0098】
レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製)を用いて細胞培養基材を観察し、作製した細胞培養基材は、表面がプラズマ処理により改質された直径0.2mmの円形領域((A1)領域)と、(A1)領域に隣接した上記アクリレート系インキが印刷された領域((B1)領域)とを有し、かつ(A1)領域を囲む高さ5μmの隔壁を有していることを確認した。
【0099】
この細胞培養基材のウェル内でヒトiPS細胞の培養を行った。直径0.2mmの円形領域内のみに細胞が接着し、細胞播種から4日後にスフェロイドが形成されていることを確認した。目視判定では、形成されたスフェロイドのサイズは均一であった。また、培地を加えた際に気泡は付着していなかった。
【0100】
[比較例1]
原基材としてポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、ルミラー(R)T60)を用い、プラズマ照射装置((株)真空デバイス製、プラズマイオンボンバーダPIB-20)を用いて表面にプラズマ処理(20Paガス圧下、導電電流20mA、照射時間30秒間)を行うことで表面改質を行った。表面改質を行ったPETフィルム(基材)の表面にLipidure(登録商標)CM5206(日油(株)製)をエタノールに溶解させた溶液をスピンコートで塗布し、膜厚0.5μmの層を形成した。レーザー加工により直径0.2mmの円形の貫通孔を複数形成したメタルマスクを、上記溶液を塗布したPETフィルムの塗布面上に置いて、メタルマスクの上からプラズマ処理(13.3Paガス圧下、導電電流30mA、照射時間5分間)を行い、細胞培養基材を作製した。
【0101】
レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製)を用いて細胞培養基材を観察し、作製した細胞培養基材は、表面がプラズマ処理により改質された直径0.2mmの円形領域((A1)領域)と、(A1)領域に隣接したLipidure(登録商標)CM5206で被覆された領域((B1)領域)とを有し、かつ(A1)領域を囲む高さ0.5μmの隔壁を有していることを確認した。
【0102】
この細胞培養基材のウェル内でヒトiPS細胞の培養を行った。スフェロイドは形成されたものの、スフェロイドの形成に細胞播種から6日を要した。
【0103】
[比較例2]
原基材としてポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、ルミラー(R)T60)を用い、プラズマ照射装置((株)真空デバイス製、プラズマイオンボンバーダPIB-20)を用いて表面にプラズマ処理(20Paガス圧下、導電電流20mA、照射時間30秒間)を行うことで表面改質を行った。表面保護フィルム(日東電工(株)製、E-MASK)にレーザー加工により直径0.5mmの円形の穴を複数形成した。レーザー加工後の表面保護フィルムを表面改質を行ったPETフィルムの表面に貼り付けて、細胞培養基材を作製した。
【0104】
レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製)を用いて細胞培養基材を観察し、作製した細胞培養基材は、表面がプラズマ処理により改質された直径0.5mmの円形領域((A1)領域)と、(A1)領域に隣接した表面保護フィルムで被覆された領域((B1)領域)とを有し、かつ(A1)領域を囲む高さ58μmの隔壁を有していることを確認した。
【0105】
この細胞培養基材のウェル内でヒトiPS細胞の培養を行った。
図6は、比較例2の細胞培養評価における位相差顕微鏡画像(細胞播種後)である。培地を加えた際に直径0.5mmの円形ホールパターン内に気泡が付着しており、気泡を除去する必要があった。
【0106】
【0107】
本発明の好適な実施形態を次に示す。
[1]基材と、上記基材の表面の一部を被覆する重合体とを備え、下記(A)領域及び下記(B)領域を有し、上記(A)領域の周囲に高さ2~50μmの隔壁が存在する、細胞培養基材。
(A)細胞接着性及び細胞増殖性を有する面積0.001~5mm
2の島状の領域
(B)上記(A)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない領域
[2]上記重合体が、フッ素基を有する単量体単位を0.01~50重量%含有する、[1]に記載の細胞培養基材。
[3]上記(A)領域が、下記一般式(1)で表される構造、下記一般式(2)で表される構造及び下記一般式(3)で表される構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を表面に有する、[1]又は[2]に記載の細胞培養基材。
【化5】
[一般式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を示し、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は各々独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基を示し、かつR
2、R
3、R
4、R
5及びR
6の少なくとも一つはヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基である。]
【化6】
[一般式(2)中、R
7、R
8、R
9及びR
10は各々独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基を示し、かつR
7、R
8、R
9及びR
10の少なくとも一つはヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基である。]
【化7】
[一般式(3)中、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16、R
17及びR
18は各々独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基を示し、かつR
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16、R
17及びR
18の少なくとも一つはヒドロキシル基、アルデヒド基又はカルボキシル基である。]
[4]上記(A)領域が、下記一般式(4)で表される温度応答性ブロック共重合体を表面に有する、[1]~[3]のいずれかに記載の細胞培養基材。
【化8】
[一般式(4)中、R
19及びR
21は各々独立して、水素原子又はメチル基を示し、R
20及びR
22は各々独立して、炭素数1~10のアルキル基を示し、a及びbは各々独立して、正の整数を示す。]
[5]上記(A)領域及び(B)領域が、それぞれ下記(A1)領域及び(B1)領域である、[1]~[4]のいずれかに記載の細胞培養基材。
(A1)細胞接着性及び細胞増殖性を有する直径0.1~2.0mmの円形の領域
(B1)上記(A1)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない領域
[6]上記基材の屈折率が1.4~1.6であり、且つ、上記基材の厚みが0.01~0.5mmである、[1]~[5]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[7]励起波長350nm、488nm、及び647nmでそれぞれ励起された上記基材の蛍光強度が、同じ励起波長で励起された、厚み1.2mmのポリスチレン板の蛍光強度よりも小さい、[1]~[6]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[8]上記基材がポリカーボネート又はシクロオレフィンポリマーから形成される、[1]~[7]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[9](1)原基材の表面に、プラズマ処理、コロナ処理及びUV処理からなる群より選択される少なくとも1種の表面改質処理を行うか、又は細胞接着性及び細胞増殖性を有する重合体を被覆することで、表面が細胞接着性及び細胞増殖性を有する基材を得る工程、及び
(2)上記基材の表面の少なくとも一部に、細胞接着性を有しない重合体、又は上記細胞接着性を有しない重合体の単量体を含有する溶液を印刷することで、(A’)上記重合体で被覆されていない面積0.001~5mm
2の複数の領域と、(B’)上記重合体で被覆された領域とを形成する工程を備える、細胞培養基材の製造方法。
[10](3)上記工程(1)及び工程(2)の後に、面内方向の断面積が0.05~100cm
2の貫通孔を有する板を、上記基材の上記重合体で少なくとも一部が被覆された面側で上記基材と貼り合わせる工程を更に備える、[9]に記載の細胞培養基材の製造方法。
[11][1]~[8]のいずれかに記載の細胞培養基材と、水不溶性ブロックセグメント及び温度応答性ブロックセグメントを含むブロック共重合体又は上記ブロック共重合体を含有するコーティング剤とを含む、細胞培養キット。
A…(A)領域、B…(B)領域、H…隔壁の高さ、1…基材、2…細胞接着性を有しない重合体、3…細胞接着性及び細胞増殖性を有する表面、4…原基材、10,11…細胞培養基材、20…仕切り板。